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特開2023-152254純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物及びその製造方法、並びにホイップドコンパウンドクリーム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152254
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物及びその製造方法、並びにホイップドコンパウンドクリーム
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/005 20060101AFI20231005BHJP
   A23L 9/20 20160101ALI20231005BHJP
   A23C 13/14 20060101ALI20231005BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20231005BHJP
   A23L 29/269 20160101ALN20231005BHJP
   A23L 29/238 20160101ALN20231005BHJP
   A23L 29/30 20160101ALN20231005BHJP
【FI】
A23D7/005
A23L9/20
A23C13/14
A23D7/00 508
A23L29/269
A23L29/238
A23L29/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110267
(22)【出願日】2022-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2022060700
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯部 敏秀
(72)【発明者】
【氏名】柿原 晃太郎
【テーマコード(参考)】
4B001
4B025
4B026
4B041
【Fターム(参考)】
4B001AC02
4B001AC03
4B001AC07
4B001AC16
4B001AC40
4B001AC43
4B001AC99
4B001BC03
4B001BC07
4B001BC08
4B001BC99
4B001EC04
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4B025LB21
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4B041LK50
4B041LP01
4B041LP04
4B041LP16
4B041LP17
4B041LP25
(57)【要約】
【課題】 生クリームと同等のホイップ時間で、且つホイップの終点幅が広いコンパウンドクリームを作製するための純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物であって、前記純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、植物性油脂を28~38重量%、水を42~69重量%、乳蛋白質を0.4~1.5重量%、構成脂肪酸全体中の飽和脂肪酸含量が80重量%以上の乳化剤を0.05~0.5重量%、構成脂肪酸全体中の不飽和脂肪酸含量が75重量%以上の乳化剤を0.03~0.3重量%含有するように混合され予備乳化された混合物が、1段目10~25MPa/2段目3~5MPaの圧力で均質化され、殺菌され、冷却された後に、再度1段目10~25MPa/2段目3~5MPaの圧力で均質化され、前記純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物に含まれる脂肪球のメジアン径が0.7~1.9μmであり、且つ前記脂肪球の粒度分布の標準偏差が0.35~0.9μmであり、前記脂肪球の表面のゼータ電位が-26~-51mVである、コンパウンドクリームを作製するための純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物であって、
前記純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、植物性油脂を28~38重量%、水を42~69重量%、乳蛋白質を0.4~1.5重量%、構成脂肪酸全体中の飽和脂肪酸含量が80重量%以上の乳化剤を0.05~0.5重量%、構成脂肪酸全体中の不飽和脂肪酸含量が75重量%以上の乳化剤を0.03~0.3重量%含有するように混合され予備乳化された混合物が、1段目10~25MPa/2段目3~5MPaの圧力で均質化され、殺菌され、冷却された後に、再度1段目10~25MPa/2段目3~5MPaの圧力で均質化され、
前記純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物に含まれる脂肪球のメジアン径が0.7~1.9μmであり、且つ前記脂肪球の粒度分布の標準偏差が0.35~0.9μmであり、
前記脂肪球の表面のゼータ電位が-26~-51mVである、コンパウンドクリームを作製するための純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物と、生クリームとが、前記純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物/前記生クリーム=10/90~90/10(重量比)で混合された、コンパウンドクリーム。
【請求項3】
請求項2に記載のコンパウンドクリームがホイップされた、ホイップドコンパウンドクリーム。
【請求項4】
請求項3に記載のホイップドコンパウンドクリームを含む食品。
【請求項5】
純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、植物性油脂を28~38重量%、水を42~69重量%、乳蛋白質を0.4~1.5重量%、構成脂肪酸全体中の飽和脂肪酸含量が80重量%以上の乳化剤を0.05~0.5重量%、構成脂肪酸全体中の不飽和脂肪酸含量が75重量%以上の乳化剤を0.03~0.3重量%含有するように混合し予備乳化した混合物を、1段目10~25MPa/2段目3~5MPaの圧力で均質化し、殺菌し、冷却した後に、再度1段目10~25MPa/2段目3~5MPaの圧力で均質化する純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物の製造方法であり、
前記純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物に含まれる脂肪球のメジアン径が0.7~1.9μmであり、且つ前記脂肪球の粒度分布の標準偏差が0.35~0.9μmであり、
前記脂肪球の表面のゼータ電位が-26~-51mVである、コンパウンドクリームを作製するための純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物、コンパウンドクリーム、ホイップドコンパウンドクリーム、食品、及び純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品の製造において、人手不足に起因して生産性の向上がますます重要になっている。菓子パンやケーキ等の大量生産においては、よく生クリームのホイップドクリームが使用されるが、ホイップの終点幅が狭く作業性が悪いので、生クリームに純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物を混合してコンパウンドクリームにしてから、ホイップすることが多い。
【0003】
しかし、コンパウンドクリームにしてもまだまだ終点幅が広いとは言えず、また前記純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物のホイップ時間が長いと、生クリームのホイップ時間が短いため、先に少しだけ純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物をホイップしてから生クリームを混ぜて、更にホイップする必要があり、作業効率が悪い。また、純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物をホイップせずに生クリームと混ぜ、一気にホイップすると、生クリームがホイップ過多になり、油っぽく且つ風味が低下してしまう。
【0004】
これまで、ホイップ時間に言及されたコンパウンドクリームとして、全ての実施例で、乳化剤としては、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物由来のリン脂質のみが使用されたコンパウンドクリームがあるが(特許文献1)、均質化圧力も30MPaと高いため、処理後の脂肪球のメジアン径はやや小さくなり、且つ凝集体が増えるので、前記脂肪球の粒度分布の標準偏差は広くなり、ホイップの終点幅が狭くなって作業性が悪いものだった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-223176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
我々は、起泡性水中油型乳化油脂組成物製造時の均質化工程に着目し、乳化安定性と高い解乳化性を両立させる検討を行ってきた。そこで本発明の目的は、生クリームと同等のホイップ時間で、且つホイップの終点幅が広いコンパウンドクリームを作製するための純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、植物性油脂、水、乳蛋白質、飽和脂肪酸が主体の乳化剤、不飽和脂肪酸が主体の乳化剤をそれぞれ特定量含有するように混合され予備乳化された混合物が、特定の条件で均質化され、並びにメジアン径、粒度分布の標準偏差、及び表面のゼータ電位がそれぞれ特定範囲である脂肪球を有する純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物と、生クリームとが混合されたコンパウンドクリームは、ホイップ時間が生クリームと同等であり、且つホイップの終点幅が広いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の第一は、純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物であって、前記純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、植物性油脂を28~38重量%、水を42~69重量%、乳蛋白質を0.4~1.5重量%、構成脂肪酸全体中の飽和脂肪酸含量が80重量%以上の乳化剤を0.05~0.5重量%、構成脂肪酸全体中の不飽和脂肪酸含量が75重量%以上の乳化剤を0.03~0.3重量%含有するように混合され予備乳化された混合物が、1段目10~25MPa/2段目3~5MPaの圧力で均質化され、殺菌され、冷却された後に、再度1段目10~25MPa/2段目3~5MPaの圧力で均質化され、前記純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物に含まれる脂肪球のメジアン径が0.7~1.9μmであり、且つ前記脂肪球の粒度分布の標準偏差が0.35~0.9μmであり、前記脂肪球の表面のゼータ電位が-26~-51mVである、コンパウンドクリームを作製するための純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物に関する。本発明の第二は、前記記載の純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物と、生クリームとが、前記純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物/前記生クリーム=10/90~90/10(重量比)で混合された、コンパウンドクリームに関する。本発明の第三は、前記記載のコンパウンドクリームがホイップされた、ホイップドコンパウンドクリームに関する。本発明の第四は、前記記載のホイップドコンパウンドクリームを含む食品に関する。本発明の第五は、水中油型乳化油脂組成物全体中、植物性油脂を28~38重量%、水を42~69重量%、乳蛋白質を0.4~1.5重量%、構成脂肪酸全体中の飽和脂肪酸含量が80重量%以上の乳化剤を0.05~0.5重量%、構成脂肪酸全体中の不飽和脂肪酸含量が75重量%以上の乳化剤を0.03~0.3重量%含有するように混合し予備乳化した混合物を、1段目10~25MPa/2段目3~5MPaの圧力で均質化し、殺菌し、冷却した後に、再度1段目10~25MPa/2段目3~5MPaの圧力で均質化する純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物の製造方法であり、前記純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物に含まれる脂肪球のメジアン径が0.7~1.9μmであり、且つ前記脂肪球の粒度分布の標準偏差が0.35~0.9μmであり、前記脂肪球の表面のゼータ電位が-26~-51mVである、コンパウンドクリームを作製するための純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に従えば、生クリームと同等のホイップ時間で、且つホイップの終点幅が広いコンパウンドクリームを作製するための純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明につき、更に詳細に説明する。本発明の純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物は、植物性油脂、水、乳蛋白質、特定の乳化剤をそれぞれ特定量含有するように混合され予備乳化された混合物が、特定の条件で均質化され、並びにメジアン径、粒度分布の標準偏差、及び表面のゼータ電位がそれぞれ特定範囲である脂肪球を有する。そして該純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物は、生クリームと共に混合して、コンパウンドクリームの作製に用いられる。該コンパウンドクリームは起泡性を有し、空気を抱き込むように攪拌することで起泡でき、起泡後は保形性を有するホイップドコンパウンドクリームとなる。
【0011】
ここで、コンパウンドクリームとは、純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物と生クリームを混合したものをいい、純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物の植物性油脂の一部を乳脂肪に置き換えたものとは区別される。
【0012】
前記植物性油脂は、植物を原料とする油脂であり、特に限定されないが、パーム系油脂、ラウリン系油脂(パーム核油、ヤシ油)、菜種油、コーン油、大豆油、綿実油、ひまわり油、サフラワー油、及び、オリーブ油等の植物性油脂とこれら全ての植物性油脂の分別油、硬化油、エステル交換油等が例示でき、それらの群より選ばれる少なくとも1種が用いられる。中でも、パーム系油脂、ラウリン系油脂(パーム核油、ヤシ油)とこれら植物性油脂の分別油、硬化油、エステル交換油が好ましい。前記植物性油脂は、純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物の油相に含まれる。
【0013】
前記植物性油脂の含有量は、純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、28~38重量%が好ましく、29~35重量%がより好ましく、30~33重量%が更に好ましい。28重量%より少ないと、コンパウンドクリームのホイップ時間が長くなったり、ホイップドコンパウンドクリームの保形性が低下する場合があり、38重量%より多いと、コンパウンドクリームの輸送時の乳化安定性が低下する場合がある。
【0014】
前記純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物には、本発明の効果を阻害しない限り、前記植物性油脂以外の油脂を含んでも良い。前記植物性油脂以外の油脂としては、例えば、乳脂肪が挙げられる。前記植物性油脂以外の油脂の含有量は、コストの観点からは少ないほど良く、純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、3重量%未満が好ましく、2重量%未満がより好ましく、1重量%未満が更に好ましく、全く含まないことが最も好ましい。
【0015】
前記水の含有量は、純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、42~69重量%が好ましく、47~64重量%がより好ましく、52~60重量%が更に好ましい。42重量%より少ないと、コンパウンドクリームの輸送時の乳化安定性が低下する場合があり、69重量%より多いと、コンパウンドクリームのホイップ時間が長くなる場合がある。
【0016】
前記乳蛋白質は、乳に由来する蛋白質の総称であり、生乳、牛乳、及び乳製品に多く含まれている。前記乳蛋白質としては、例えばカゼイン、トータルミルクプロテイン、ホエイ蛋白質、又は、これらの塩類もしくは濃縮物である、カゼインカルシウム、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインマグネシウム、ホエイプロテインコンセントレート、ミルクプロテインコンセントレート等が挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも1種を使用することができる。そして、乳蛋白質源としては、前記乳蛋白質そのものでもよいし、前記乳蛋白質を含有する生乳、牛乳、又は乳製品を使用することもできる。前記乳蛋白質又は前記乳蛋白質を含有する生乳、牛乳、若しくは乳製品は、純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物の水相に含まれる。そして、コンパウンドクリームのホイップ時間の短さの観点からは、ホエイ蛋白質やカゼインカリウムの使用が好ましい。
【0017】
前記乳製品としては、例えば、脱脂粉乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳、バターミルク、バターミルクパウダー、全脂粉乳、全脂濃縮乳、加糖練乳、無糖練乳、チーズ、ホエイパウダー等が挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも1種を使用することができる。
【0018】
前記乳蛋白質の含有量は、純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、0.4~1.5重量%が好ましく、0.5~1.2重量%がより好ましく、0.6~1重量%が更に好ましい。0.4重量%より少ないか1.5重量%より多いと、コンパウンドクリームのホイップの終点幅が狭くなる場合がある。
【0019】
前記純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物は、前記乳化剤として、構成脂肪酸全体中の飽和脂肪酸含量が好ましくは80重量%以上の乳化剤、及び、構成脂肪酸全体中の不飽和脂肪酸含量が好ましくは75重量%以上の乳化剤を含有する。前記飽和脂肪酸含量は、90重量%以上がより好ましく、95重量%以上が更に好ましい。前記不飽和脂肪酸含量は、80重量%以上がより好ましく、85重量%以上が更に好ましい。
【0020】
前記構成脂肪酸全体中の飽和脂肪酸含量が80重量%以上の乳化剤の含有量は、前記純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、0.05~0.5重量%が好ましく、0.1~0.45重量%がより好ましく、0.15~0.4重量%が更に好ましい。0.05重量%より少ないと、コンパウンドクリームのホイップの終点幅が狭くなる場合があり、0.5重量%より多いと、コンパウンドクリームのホイップ時間が長くなる場合がある。
【0021】
前記構成脂肪酸全体中の不飽和脂肪酸含量が75重量%以上の乳化剤の含有量は、純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、0.03~0.3重量%が好ましく、0.1~0.27重量%がより好ましく、0.15~0.25重量%が更に好ましい。0.03重量%より少ないと、コンパウンドクリームのホイップ時間が長くなる場合があり、0.3重量%より多いと、コンパウンドクリームの輸送時の乳化安定性が低下する場合がある。
【0022】
なお、ホイップ時間とホイップの終点幅のバランスの観点から、前記構成脂肪酸全体中の不飽和脂肪酸含量が75重量%以上の乳化剤/前記構成脂肪酸全体中の飽和脂肪酸含量が80重量%以上の乳化剤(重量比)は、0.2~2が好ましく、0.3~1.5がより好ましく、0.5~1が更に好ましい。上記範囲にあると、より良好なホイップ時間の短さとホイップの終点幅を得ることができる。
【0023】
本発明の純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物の油相には、前記植物性油脂や前記乳化剤以外にも、油溶性の着色料、油溶性の香料、油溶性の酸化防止剤等の油溶性成分を含むことができる。
【0024】
前記油溶性の着色料としては、天然成分や人工成分に関わらず、食品用途であれば特に制限はなく、例えば、パプリカ色素、アナトー色素(ノルビキシン、ビキシン等)、トマト色素、マリーゴールド色素、ウコン色素、ヘマトコッカス藻色素、デュナリエラカロチン、ニンジンカロチン、パーム油カロチン、α-カロチン、β-カロチン、アスタキサンチン、カンタキサンチン、リコピン、ルテイン、アポカロテナール、クルクミン、フコキサンチン、クリプトキサンチン、ゼアキサンチン、カプサンチン、カプソルビン、ノルビキシン、ビキシン、シフォナキサンチン、及びクロロフィル等が挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも1種を使用することができる。
【0025】
前記油溶性の香料としては、天然成分や人工成分に関わらず、食品用途であれば特に制限はなく、例えば、油溶性のミルクフレーバー(ミルク香料)、油溶性のバターフレーバー(バター香料)、油溶性のクリームフレーバー等が挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも1種を使用することができる。
【0026】
前記油溶性の酸化防止剤としては、例えば、トコフェロ-ル類、アスコルビン酸パルミテ-ト、カテキン、ローズマリー抽出物等の抗酸化成分を主成分とする食品用途として使用できるもの等が挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも1種を使用することができる。
【0027】
また本発明の純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物の水相には、前記水、前記乳蛋白質、前記乳化剤以外にも、増粘剤、糖類、呈味剤、水溶性の着色料、水溶性の香料、水溶性の酸化防止剤、塩類、ビタミン類、ミネラル類等の水溶性成分を含むことができる。
【0028】
前記増粘剤としては、例えば、キサンタンガム、グアーガム、ジェランガム、寒天、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、ローカストビーンガム、アラビアガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、結晶セルロース、微結晶セルロース、澱粉、デキストリン等が挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも1種を使用することができる。
【0029】
前記糖類としては、例えば、ラクトース、グラニュー糖や上白糖等の砂糖、ブドウ糖、果糖、異性化糖、澱粉糖化物、澱粉又は糖アルコール等が挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも1種を使用することができる。
【0030】
前記呈味剤としては、例えば、前記生乳、牛乳、及び乳製品を酵素分解、加熱、分離、分画等をしたもの等が挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも1種を使用することができる。
【0031】
前記水溶性の着色料としては、天然成分や人工成分に関わらず、食品用途であれば特に制限はなく、例えば、水溶性のβ-カロテン、カラメル、紅麹色素、ウコン色素等が挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも1種を使用することができる。
【0032】
前記水溶性の香料としては、天然成分や人工成分に関わらず、食品用途であれば特に制限はなく、例えば、水溶性のミルクフレーバー(ミルク香料)、水溶性のバターフレーバー(バター香料)、水溶性のクリームフレーバー等が挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも1種を使用することができる。
【0033】
前記水溶性の酸化防止剤としては、ビタミンC、カテキン、アミノ酸、ヤマモモ抽出物、クエン酸、クエン酸塩、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、クロロゲン酸及びその誘導体、糖アミノ反応物、プロアントシアニジン、フラボン誘導体、茶抽出物、ブドウ種子抽出物及びルチン等の抗酸化成分が挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも1種を使用することができる。
【0034】
前記塩類としては、一般に食品に用いられている塩類であれば特に制限はなく、例えば、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、乳酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リン酸3ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム等が挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも1種を使用することができる。
【0035】
前記ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKを主成分とする食品用途として使用できるもの等が挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも1種を使用することができる。
【0036】
前記ミネラル類としては、例えば、亜鉛、カリウム、カルシウム、クロム、セレン、鉄、銅、ナトリウム、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ヨウ素、リン等が挙げられ、これらの成分を含む食品及び食品添加物に分類されるものを少なくとも1種を使用することができる。
【0037】
本発明の純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物に含まれる脂肪球のメジアン径は、0.7~1.9μmが好ましく、0.9~1.7μmがより好ましく、1.0~1.5μmが更に好ましい。0.7μmより小さいと、コンパウンドクリームのホイップ時間が長くなる場合があり、1.9μmより大きいと、コンパウンドクリームのホイップの終点幅が狭くなる場合がある。なお、該脂肪球には脂肪球の凝集体も含まれる。
【0038】
また前記脂肪球の粒度分布の標準偏差は、0.35~0.9μmが好ましく、0.45~0.7μmがより好ましく、0.5~0.65μmが更に好ましい。0.35μmより小さいと、均質すぎて解乳化性が不十分でコンパウンドクリームのホイップ時間が長くなる場合があり、0.9μmより大きいと、解乳化しやすくてコンパウンドクリームのホイップの終点幅が狭くなる場合がある。
【0039】
前記メジアン径、及び、粒度分布の標準偏差は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置「LA-960V2」((株)堀場製作所製)を用いて測定することができる。即ち、起泡性水中油型乳化油脂組成物を攪拌して均一にした後、約0.1gを採取し、水が約250ml入った測定容器に投入し、1.7s-1で撹拌し均一に分散してから測定することができる。
【0040】
前記脂肪球の表面のゼータ電位は、-26~-51mVが好ましく、-28~-46mVがより好ましく、-31~-43mVが更に好ましい。ゼータ電位が-26mVより高いと、コンパウンドクリームのホイップの終点幅が狭くなる場合がある。また、-51mVより低いと、コンパウンドクリームのホイップ時間が長くなる場合がある。
【0041】
ゼータ電位とは、溶液中の微粒子の周りに形成される電気二重層中の滑り面と、界面から充分に離れた部分との間の電位差のことである。ここで、界面とは溶液と微粒子との界面である。ゼータ電位がゼロに近づくと、微粒子の相互の反発力が弱まり、やがて凝集する。前記ゼータ電位は、起泡性水中油型乳化油脂組成物を攪拌して均一にした後、イオン交換水で100倍希釈し0.75mlを専用のセルに注入し、動的光散乱式ゼータ電位測定装置「ゼータサイザーナノZSP」(Malvern Panalytical(株)社製)を用いて測定することができる。
【0042】
前記生クリームは、乳等省令で定義される「生乳、牛乳または特別牛乳から乳脂肪分以外の成分を除去し、乳脂肪分が18.0%以上にしたもの」をいい、本発明においては、乳脂肪分が30~48%のものを用いればよい。
【0043】
本発明のコンパウンドクリームにおいて、前記純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物と前記生クリームとの混合比は、前記純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物/前記生クリーム=10/90~90/10(重量比)が好ましく、20/80~80/20(重量比)がより好ましく、30/70~70/30(重量比)が更に好ましい。上記範囲にあると、より広いホイップの終点幅を得ることができる。
【0044】
本発明の純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物の製造方法を以下に例示する。まず、50~70℃に加温溶融した前記植物性油脂に、油溶性の前記構成脂肪酸全体中の飽和脂肪酸含量が好ましくは80重量%以上の乳化剤、油溶性の前記構成脂肪酸全体中の不飽和脂肪酸含量が好ましくは75重量%以上の乳化剤、及び必要に応じてそれら以外の前記油溶性成分を混合し、該混合物を50~70℃に維持しながら攪拌して油相を得る。
【0045】
一方、50~70℃に加温した前記水と、前記乳蛋白質、水溶性の前記構成脂肪酸全体中の飽和脂肪酸含量が好ましくは80重量%以上の乳化剤、水溶性の前記構成脂肪酸全体中の不飽和脂肪酸含量が好ましくは75重量%以上の乳化剤、及び必要に応じてそれら以外の前記水溶性成分を混合し、50~70℃に維持しながら攪拌して水相を得る。
【0046】
前記水相を撹拌しながらそこへ前記油相を添加し、予備乳化した混合物を、好適には1段目10~25MPa/2段目3~5MPaの圧力で均質化し、次いで殺菌し、冷却した後に、再度、好適には1段目10~25MPa/2段目3~5MPaの圧力で均質化することで本発明の純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物が得られる。
【0047】
殺菌前の均質化においては、1段目12~25MPa/2段目4~5MPaの圧力がより好ましく、1段目15~25MPa/2段目4~5MPaの圧力が更に好ましい。
【0048】
また殺菌、冷却後の均質化においては、1段目12~25MPa/2段目4~5MPaの圧力がより好ましく、1段目15~25MPa/2段目4~5MPaの圧力が更に好ましい。
【0049】
前記均質化の条件が上記範囲内であれば、得られる純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物の脂肪球のメジアン径、該脂肪球の粒度分布の標準偏差、及び該脂肪球の表面のゼータ電位の各数値が前記範囲に入るように容易に調整することができる。
【0050】
次いで、前記純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物と、生クリームとを10/90~90/10(重量比)で混合することで、本発明のコンパウンドクリームを得ることができる。
【0051】
そして、得られたコンパウンドクリームを、オープン式ホイッパーや密閉式連続ホイップマシン等のミキサーを用いて、トッピング、ナッペ、サンド等の使用目的に沿った適度な硬さに到達するまでホイップすることで、本発明のコンパウンドクリームがホイップされた、ホイップドコンパウンドクリームが得られる。
【0052】
本発明のホイップドクリームのオーバーランは、食感に優れるため、100~250%が好ましく、100~210%がより好ましく、140~200%が更に好ましく、150~190%が特に好ましい。ホイップドクリームのオーバーランは、下記式により求められる。
オーバーラン(%)=[(単位体積あたりの起泡性水中油型乳化油脂組成物の重量)-(単位体積あたりのホイップドクリームの重量)]/(単位体積あたりのホイップドクリームの重量)×100
【0053】
本発明のコンパウンドクリームがホイップされたホイップドコンパウンドクリームは、スポンジケーキ、ブッセ、クッキー、ビスケット等の菓子類に代表される食品のナッペ用、サンド用、又はトッピング用等のホイップドコンパウンドクリームとして、好適に使用することができる。
【実施例0054】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0055】
また、実施例及び比較例で使用した原料は以下の通りである。
1)(株)カネカ製「パーム核油」
2)(株)カネカ製「パーム中融点部」
3)(株)カネカ製「パーム軟質部」
4)(株)カネカ製「パーム核極度硬化油」
5)(株)カネカ製「ハイエルシン菜種極度硬化油」
6)ADM(株)製「Yelkin TS」(構成脂肪酸全体中の不飽和脂肪酸含量:79重量%)
7)阪本薬品工業(株)製「SYグリスター PS-3S」(構成脂肪酸全体中の飽和脂肪酸含量:99.9重量%、HLB:2.6)
8)阪本薬品工業(株)製「SYグリスター MS-3S」(構成脂肪酸全体中の飽和脂肪酸含量:99.9重量%、HLB:8.4)
9)HILMAR社製「ラクトースHILMAR FINE GRAIND」(水分含量:0.2重量%)
10)よつ葉乳業(株)製「ホエイパウダー」(蛋白質含量:12重量%、水分含量:2.3重量%)
11)FrieslandCampina DMV社製「カゼインカリウムSPRAY」(蛋白質含量:89重量%、水分含量:5.7重量%)
12)阪本薬品工業(株)製「SYグリスター MS-5S」(構成脂肪酸全体中の飽和脂肪酸含量:99.9重量%、HLB:11.6)
13)阪本薬品工業(株)製「SYグリスター MO-5S」(構成脂肪酸全体中の不飽和脂肪酸:90重量%、HLB:11.6)
14)Archer Daniels Midland社製「ノヴァザン200メッシュ」(水分含量:7重量%)
15)星和(株)製「グアーガムXS-5000」(水分含量:14重量%)
16)昭和産業(株)製「VIANDEX B-H(DE9)」(水分含量:3.7重量%)
17)(株)明治製「フレッシュクリーム45」
18)三菱化学フーズ(株)製「リョートーシュガーエステル S-570」(構成脂肪酸全体中の飽和脂肪酸含量:99.9重量%、HLB:5)
19)三菱化学フーズ(株)製「リョートーシュガーエステル P-1670」(構成脂肪酸全体中の飽和脂肪酸含量:99.9重量%、HLB:16)
【0056】
<起泡性水中油型乳化油脂組成物の評価>
(脂肪球のメジアン径、及び、脂肪球の粒度分布の標準偏差の測定)
起泡性水中油型乳化油脂組成物中の脂肪球のメジアン径、及び、脂肪球の粒度分布の標準偏差は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置「LA-960V2」((株)堀場製作所製)を用いて測定した。具体的には、起泡性水中油型乳化油脂組成物を攪拌して均一にした後、約0.1gを採取し、水が約250ml入った測定容器に投入し、1.7s-1で撹拌し均一に分散してから測定した。
【0057】
(脂肪球のゼータ電位の測定)
起泡性水中油型乳化油脂組成物の脂肪球の表面のゼータ電位は、動的光散乱式ゼータ電位測定装置(Malvern Panalytical社製「ゼータサイザーナノZSP」)を用いて測定した。即ち、起泡性水中油型乳化油脂組成物を攪拌して均一にした後、イオン交換水で100倍希釈し0.75mlを専用のセルに注入して測定した。
【0058】
<コンパウンドクリームの評価>
(ホイップ時間の測定)
実施例・比較例で得られたコンパウンドクリーム:3kgとグラニュー糖(東洋精糖(株)製「グラニュー糖」):0.24kgを、カントーミキサー(関東混合機工業株式会社製「HPi-20M」)を用いて、高速撹拌条件(6.55s-1)でホイップし、トッピングするのに適度な硬さに到達するまでの時間を測定した。
【0059】
(オーバーランの測定)
実施例・比較例で得られたコンパウンドクリーム:3kgとグラニュー糖(東洋精糖(株)製「グラニュー糖」):0.24kgを、カントーミキサー(関東混合機工業株式会社製「HPi-20M」)を用いて、高速撹拌条件(6.55s-1)でホイップし、トッピングするのに適度な硬さに到達するまでホイップした時のホイップドコンパウンドクリームの体積あたりの含気率の計算値をオーバーラン(%)とした。ホイップドコンパウンドクリームのオーバーラン(%)は上記式により求めた。
【0060】
ホイップ時間の測定及びオーバーランの測定における、前記トッピングするのに適度な硬さとは、ホイップ直後のサンプルを容器に入れた後、クリープメーター(「RE2-33005S」、株式会社山電製)を用いて直径16mmの円柱状のプランジャーにて、速度5mm/sの速さで1cm貫入時の最大荷重が0.25~0.35Nになる硬さのことである。
【0061】
(ホイップ時間の短さ)
参考例の生クリームと比較し、以下の基準で評価して評価点とした。
5点:参考例のホイップ時間の100%未満で、ホイップ時間が非常に短い
4点:参考例のホイップ時間の100%以上110%未満で、ホイップ時間が短い
3点:参考例のホイップ時間の110%以上130%未満で、ホイップ時間が比較的短い
2点:参考例のホイップ時間の130%以上150%未満で、ホイップ時間が長い
1点:参考例のホイップ時間の150%以上で、ホイップ時間が非常に長い
【0062】
(ホイップの終点幅)
実施例・比較例で得られたコンパウンドクリーム:800gとグラニュー糖(東洋精糖(株)製「グラニュー糖」):64gを、卓上ホバートミキサー(HOBART社製「ミキサーN50」)を用いて、2速攪拌条件(4.75s―1)でホイップし、硬さが0.25Nに到達するまでホイップした。0.25Nに到達した時間(X)と、更にホイップを継続して硬さが0.35Nになるまでの時間(Y)を測定し、その差{(Y)-(X)}をホイップの終点幅とし、以下の基準で評価して評価点とした。なお、前記硬さとは、ホイップ直後のサンプルを容器に入れた後、クリープメーター(「RE2-33005S」、株式会社山電製)を用いて直径16mmの円柱状のプランジャーにて、速度5mm/sの速さで1cm貫入時の最大荷重のことである。
5点:ホイップの終点幅が40秒以上
4点:ホイップの終点幅が35秒以上40秒未満
3点:ホイップの終点幅が20秒以上35秒未満
2点:ホイップの終点幅が15秒以上20秒未満
1点:ホイップの終点幅が15秒未満
【0063】
(総合評価)
ホイップ時間の短さ、及び、ホイップの終点幅の評価結果を基に、総合評価を行った。その際の評価基準は以下の通りである。
A:ホイップ時間の短さ、及び、ホイップの終点幅の評価が、どちらも5点であるもの
B:ホイップ時間の短さ、及び、ホイップの終点幅の評価がどちらも4点以上5点以下であって、且つ4点が少なくとも一つあるもの
C:ホイップ時間の短さ、及び、ホイップの終点幅の評価がどちらも3点以上5点以下であって、且つ3点が少なくとも一つあるもの
D:ホイップ時間の短さ、及び、ホイップの終点幅の評価がどちらも2点以上5点以下であって、且つ2点が少なくとも一つあるもの
E:ホイップ時間の短さ、及び、ホイップの終点幅の評価において、少なくともどちらか一方が1点であるもの
【0064】
(実施例1) 起泡性水中油型乳化油脂組成物の作製
表1の配合や製造条件に従って、起泡性水中油型乳化油脂組成物を作製した。即ち、パーム核油:19.0重量部、パーム中融点部:5.5重量部、パーム軟質部:3.5重量部、パーム核極度硬化油:5.0重量部、ハイエルシン菜種極度硬化油:0.1重量部を配合した油脂混合物を65℃で溶融したところに、バター香料:0.015重量部、大豆レシチン:0.18重量部、テトラグリセリンペンタステアリン酸エステル:0.10重量部、テトラグリセリンモノステアリン酸エステル:0.25重量部を添加し、65℃で溶解して油相を作製した。
【0065】
一方、ラクトース:3.0重量部、ホエイパウダー:3.0重量部、カゼインカリウム:0.3重量部、ヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル:0.075重量部、ヘキサグリセリンモノオレイン酸エステル:0.035重量部、キサンタンガム:0.01重量部、グアーガム:0.04重量部、デキストリン:2.5重量部、ミルク香料:0.05重量部を表1の配合と最終的に同じになるようにスチームインジェクション(蒸気加熱工程)での水分増加量を考慮した量の60℃の温水に溶解して水相を作製した。
【0066】
前記油相と前記水相を混合して得られた混合物を20分間予備乳化後、高周速回転式乳化機(エム・テクニック(株)製「クレアミックス」)を用いて周速31.4m/sの回転速度で微細化した後、高圧ホモジナイザーを用いて1段目25.0MPa/2段目5.0MPaの圧力で均質化処理した後に、プレート式加熱機を用いて90℃まで予備加熱した後、UHT殺菌機(スチームインジェクション)を用いて140℃で4秒間殺菌処理し、蒸発冷却せずにその後プレート式冷却機を用いて60℃まで冷却し、再び高圧ホモジナイザーを用いて1段目25.0MPa/2段目5.0MPaの圧力で均質化処理した。
【0067】
その後、プレート式冷却機で5℃まで冷却したものを容器に充填し、起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。得られた起泡性水中油型乳化油脂組成物の成分組成、脂肪球のメジアン径、脂肪球の粒度分布の標準偏差、及び、脂肪球の表面のゼータ電位の測定値を表1に示した。
【0068】
【表1】
【0069】
(実施例2~3) 起泡性水中油型乳化油脂組成物の作製
表1の配合に従って、使用した5種類の油脂の混合比率は同じで、その油脂混合物の添加量:33.1重量部を、37.8重量部(実施例2)、又は、28.0重量部(実施例3)に変更し、添加した水量で全体量を調整した以外は、実施例1と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0070】
得られた起泡性水中油型乳化油脂組成物の成分組成、脂肪球のメジアン径、脂肪球の粒度分布の標準偏差、及び、脂肪球の表面のゼータ電位の測定値を表1に示した。
【0071】
(比較例1) 起泡性水中油型乳化油脂組成物の作製
表1の条件に従って、テトラグリセリンペンタステアリン酸エステル:0.10重量部を0.16重量部、ヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル:0.075重量部を0.100重量部に変更して添加した水量で全体量を調整し、予備乳化後の均質化圧力:1段目25.0MPa/2段目5.0MPaを1段目4.0MPa/2段目2.0MPa、殺菌冷却後の均質化圧力:1段目25.0MPa/2段目5.0MPaを1段目9.0MPa/2段目2.5MPaに変更した以外は、実施例1と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。得られた起泡性水中油型乳化油脂組成物の成分組成、脂肪球のメジアン径、脂肪球の粒度分布の標準偏差、及び、脂肪球の表面のゼータ電位の測定値を表1に示した。
【0072】
(実施例4) コンパウンドクリームの作製
表2の配合に従って、実施例1の起泡性水中油型乳化油脂組成物:50重量部と、生クリーム:50重量部を混合してコンパウンドクリームを得た。更に、このコンパウンドクリームを用い、上記に記載した方法に沿って評価したホイップ時間、オーバーラン、ホイップ時間の短さ、及び、ホイップの終点幅の評価結果を表2に示した。
【0073】
【表2】
【0074】
(実施例5~6、比較例2) コンパウンドクリームの作製
表2の配合に従って、実施例1の起泡性水中油型乳化油脂組成物を、実施例2(実施例5)、実施例3(実施例6)、又は、比較例1(比較例2)の起泡性水中油型乳化油脂組成物に変更した以外は、実施例4と同様にしてコンパウンドクリームを得た。更に、得られたコンパウンドクリームを用い、上記に記載した方法に沿って評価したホイップ時間、オーバーラン、ホイップ時間の短さ、及び、ホイップの終点幅の評価結果を表2に示した。
【0075】
(参考例) ホイップした生クリームの作製
表2の配合に従って、生クリーム100重量部にグラニュー糖8重量部を添加し、実施例4のコンパウンドクリームと同様の方法でホイップして評価した生クリームのホイップ時間、オーバーランの評価結果を参考例として表2に示し、実施例4~6及び比較例2と比較検討した。
【0076】
表1及び表2から明らかなように、純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、植物性油脂を28~38重量%、構成脂肪酸全体中の飽和脂肪酸含量が80重量%以上の乳化剤を0.05~0.5重量%の範囲で含有し、脂肪球の粒度分布の標準偏差が0.35~0.9μmの範囲にある純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物(実施例1~3)と、生クリームとが50/50(重量比)で混合されたコンパウンドクリーム(実施例4~6)は、いずれもホイップ時間の短さ、及び、ホイップの終点幅の評価が良好であった。
【0077】
一方、純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、構成脂肪酸全体中の飽和脂肪酸含量が80重量%以上の乳化剤が0.510重量%と多く、脂肪球の粒度分布の標準偏差が0.33μmと小さい純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物(比較例1)と、生クリームとが50/50(重量比)で混合されたコンパウンドクリーム(比較例2)は、ホイップ時間の短さの評価が悪く、総合評価はEであった。
【0078】
(実施例7~9、比較例3~4) 起泡性水中油型乳化油脂組成物の作製
表3の条件に従って、予備乳化後の均質化圧力、及び、殺菌冷却後の均質化圧力を変更した以外は、実施例1と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。得られた起泡性水中油型乳化油脂組成物の成分組成、脂肪球のメジアン径、脂肪球の粒度分布の標準偏差、及び、脂肪球の表面のゼータ電位の測定値を表3に示した。
【0079】
【表3】
【0080】
(実施例10) 起泡性水中油型乳化油脂組成物の作製
表3の条件に従って、パーム核油:19.0重量部を17.5重量部に、テトラグリセリンモノステアリン酸エステル:0.25重量部を0.20重量部に、ホエイパウダー:3.0重量部を4.5重量部に変更して添加した水量で全体量を調整し、更に殺菌冷却後の均質化圧力:1段目25.0MPa/2段目5.0MPaを1段目12.0MPa/2段目4.0MPaに変更した以外は、実施例1と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。得られた起泡性水中油型乳化油脂組成物の成分組成、脂肪球のメジアン径、脂肪球の粒度分布の標準偏差、及び、脂肪球の表面のゼータ電位の測定値を表3に示した。
【0081】
(実施例11~14、比較例5~6) コンパウンドクリームの作製
表4の配合に従って、実施例4で使用した実施例1の起泡性水中油型乳化油脂組成物を、実施例7(実施例11)、実施例8(実施例12)、実施例9(実施例13)、実施例10(実施例14)、比較例3(比較例5)、又は、比較例4(比較例6)に変更した以外は、実施例4と同様にしてコンパウンドクリームを得た。更に、得られたコンパウンドクリームを用い、上記に記載した方法に沿って評価したホイップ時間、オーバーラン、ホイップ時間の短さ、及び、ホイップの終点幅の評価結果を表4に示した。
【0082】
【表4】
【0083】
表3及び表4から明らかなように、予備乳化後の均質化圧力が1段目10~25MPa/2段目3~5MPa、殺菌冷却後の均質化圧力が1段目10~25MPa/2段目3~5MPaの範囲で製造され、脂肪球のメジアン径が0.7~1.9μm、脂肪球の粒度分布の標準偏差が0.35~0.9μm、脂肪球の表面のゼータ電位が-26~-51mVの範囲にある純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物(実施例1、7~10)と、生クリームとが50/50(重量比)で混合されたコンパウンドクリーム(実施例4、11~14)は、いずれもホイップ時間の短さ、及び、ホイップの終点幅の評価が良好であった。
【0084】
一方、予備乳化後の均質化圧力が1段目8.0MPa/2段目2.0MPa、殺菌冷却後の均質化圧力が1段目8.0MPa/2段目2.0MPaと低い圧力で製造され、脂肪球の粒度分布の標準偏差が0.32μmと小さい純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物(比較例3)と、生クリームとが50/50(重量比)で混合されたコンパウンドクリーム(比較例5)は、ホイップ時間の短さの評価が悪く、総合評価はEであった。
【0085】
また、予備乳化後の均質化圧力が1段目30.0MPa/2段目5.0MPa、殺菌冷却後の均質化圧力が1段目30.0MPa/2段目5.0MPaと高い圧力で製造され、脂肪球のメジアン径が2.09μmと大きく、脂肪球の粒度分布の標準偏差が0.95μmと大きく、脂肪球の表面のゼータ電位が-24mVと高い純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物(比較例4)と、生クリームとが50/50(重量比)で混合されたコンパウンドクリーム(比較例6)は、ホイップの終点幅の評価が悪く、総合評価はEであった。
【0086】
(実施例15~17、比較例7~8) 起泡性水中油型乳化油脂組成物の作製
表5の配合に従って、乳化剤の配合量(実施例15~16、比較例7~8)、又は、乳化剤の種類と配合量(実施例17)を変更し、添加した水量で全体量を調整した以外は、実施例1と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。得られた起泡性水中油型乳化油脂組成物の成分組成、脂肪球のメジアン径、脂肪球の粒度分布の標準偏差、及び、脂肪球の表面のゼータ電位の測定値を表5に示した。
【0087】
【表5】
【0088】
(実施例18~20、比較例9~10) コンパウンドクリームの作製
表6の配合に従って、実施例1の起泡性水中油型乳化油脂組成物を、実施例15(実施例18)、実施例16(実施例19)、実施例17(実施例20)、比較例7(比較例9)、又は、比較例8(比較例10)の起泡性水中油型乳化油脂組成物に変更した以外は、実施例4と同様にしてコンパウンドクリームを得た。更に、得られたコンパウンドクリームを用い、上記に記載した方法に沿って評価したホイップ時間、オーバーラン、ホイップ時間の短さ、及び、ホイップの終点幅の評価結果を表6に示した。
【0089】
【表6】
【0090】
表5及び表6から明らかなように、純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、構成脂肪酸全体中の飽和脂肪酸含量が80重量%以上の乳化剤を0.05~0.5重量%、構成脂肪酸全体中の不飽和脂肪酸含量が75重量%以上の乳化剤を0.03~0.3重量%の範囲で含有する純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物(実施例1、15~17)と、生クリームとが50/50(重量比)で混合されたコンパウンドクリーム(実施例18~20)は、いずれもホイップ時間の短さ、及び、ホイップの終点幅の評価が良好であった。
【0091】
一方、純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、構成脂肪酸全体中の不飽和脂肪酸含量が75重量%以上の乳化剤が0.020重量%と少ない純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物(比較例7)と、生クリームとが50/50(重量比)で混合されたコンパウンドクリーム(比較例9)は、ホイップ時間の短さの評価が悪く、総合評価はEであった。
【0092】
また、純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、構成脂肪酸全体中の飽和脂肪酸含量が80重量%以上の乳化剤が0.040重量%と少ない純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物(比較例8)と、生クリームとが50/50(重量比)で混合されたコンパウンドクリーム(比較例10)は、ホイップの終点幅の評価が悪く、総合評価はEであった。
【0093】
(実施例21~22、比較例11~12) 起泡性水中油型乳化油脂組成物の作製
表7の配合に従って、ホエイパウダー、及び/又は、カゼインカリウムの配合量を変更し、添加した水量で全体量を調整した以外は、実施例1と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。得られた起泡性水中油型乳化油脂組成物の成分組成、脂肪球のメジアン径、脂肪球の粒度分布の標準偏差、及び、脂肪球の表面のゼータ電位の測定値を表7に示した。
【0094】
【表7】
【0095】
(実施例23~24、比較例13~14) コンパウンドクリームの作製
表8の配合に従って、実施例1の起泡性水中油型乳化油脂組成物を、実施例21(実施例23)、実施例22(実施例24)、比較例11(比較例13)、又は、比較例12(比較例14)の起泡性水中油型乳化油脂組成物に変更した以外は、実施例4と同様にしてコンパウンドクリームを得た。更に、得られたコンパウンドクリームを用い、上記に記載した方法に沿って評価したホイップ時間、オーバーラン、ホイップ時間の短さ、及び、ホイップの終点幅の評価結果を表8に示した。
【0096】
【表8】
【0097】
表7及び表8から明らかなように、純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、乳蛋白質が0.4~1.5重量%の範囲で、脂肪球のメジアン径が0.7~1.9μmで、脂肪球の粒度分布の標準偏差が0.35~0.9μmで、脂肪球の表面のゼータ電位が-26~-51mVの範囲にある純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物(実施例1、21~22)と、生クリームとが50/50(重量比)で混合されたコンパウンドクリームは、いずれもホイップ時間の短さ、及び、ホイップの終点幅の評価が良好であった。
【0098】
一方、純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、乳蛋白質が0.36重量%と少なく、脂肪球のメジアン径が2.14μmと大きく、脂肪球の粒度分布の標準偏差が0.95μmと大きく、脂肪球表面のゼータ電位が-23mVと高い純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物(比較例11)と、生クリームとが50/50(重量比)で混合されたコンパウンドクリーム(比較例13)は、ホイップの終点幅の評価が悪く、総合評価はEであった。
【0099】
また、純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、乳蛋白質が1.63重量%と多く、脂肪球のメジアン径が1.95μmと大きく、脂肪球の粒度分布の標準偏差が0.92μmと大きい純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物(比較例12)と、生クリームとが50/50(重量比)で混合されたコンパウンドクリーム(比較例14)は、ホイップの終点幅の評価が悪く、総合評価はEであった。
【0100】
(実施例25~28) コンパウンドクリームの作製
表9の配合に従って、実施例1の純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物と生クリームの混合比率:50/50(重量比)を、10/90(実施例25)、30/70(実施例26)、70/30(実施例27)、又は、90/10(実施例28)に変更した以外は、実施例4と同様にしてコンパウンドクリームを得た。更に、得られたコンパウンドクリームを用い、上記に記載した方法に沿って評価したホイップ時間、オーバーラン、ホイップ時間の短さ、及び、ホイップの終点幅の評価結果を表9に示した。
【0101】
【表9】
【0102】
表9から明らかなように、純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、植物性油脂を28~38重量%、水を42~69重量%、乳蛋白質を0.4~1.5重量%、構成脂肪酸全体中の飽和脂肪酸含量が80重量%以上の乳化剤を0.05~0.5重量%、構成脂肪酸全体中の不飽和脂肪酸が75重量%以上の乳化剤を0.03~0.3重量%の範囲で含有し、脂肪球のメジアン径が0.7~1.9μmで、脂肪球の粒度分布の標準偏差が0.35~0.9μmで、脂肪球の表面のゼータ電位が-26~-51mVの範囲にある純植物性起泡性水中油型乳化油脂組成物(実施例1)と、生クリームとが10/90~90/10(重量比)で混合されたコンパウンドクリーム(実施例4、25~28)は、いずれもホイップ時間の短さ、及び、ホイップの終点幅の評価が良好であった。