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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152282
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】鉗子
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/28 20060101AFI20231005BHJP
   A61B 17/29 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A61B17/28
A61B17/29
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145143
(22)【出願日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】17/709,594
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】304050923
【氏名又は名称】オリンパスメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 遼佑
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 光一郎
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160GG06
4C160GG26
4C160GG29
4C160GG32
4C160MM32
4C160NN02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】側方に腫瘍が配置される場合でも組織を採取することができる鉗子を提供する。
【解決手段】鉗子1は、シャフト2と、シャフト2内において長手方向に移動可能であるワイヤ3と、第1ジョー6および第2ジョー7をそれぞれ有し第3ジョイントJ3によって相互に揺動可能に連結された第1アーム4および第2アーム5とを備える。第1アーム4は、シャフト2の遠位端に第1ジョイントJ1によって揺動可能に連結され、第2アーム5は、ワイヤ3の遠位端に第2ジョイントJ2によって揺動可能に連結される。第3ジョイントJ3は、第1ジョー6と第1ジョイントJ1との間かつ第2ジョー7と第2ジョイントJ2との間に設けられ、第1および第2ジョー6、7が開いた状態においてワイヤの横に配置される。第3ジョイントJ3がシャフト2に対して横方向の外方へ移動しながら第1および第2ジョー6、7が閉じる。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺のシャフトと、
該シャフト内に配置され該シャフトの長手方向に移動可能である長尺のワイヤと、
前記シャフトの遠位側に配置され第1ジョーを有する第1アームであって、前記シャフトの遠位端に第1ジョイントによって揺動可能に連結された、第1アームと、
前記シャフトの遠位側に配置され第2ジョーを有する第2アームであって、前記ワイヤの遠位端に第2ジョイントによって揺動可能に連結された、第2アームと、
を備え、
前記第1アームおよび前記第2アームが、第3ジョイントによって相互に揺動可能に連結され、前記第3ジョイントが、前記第1ジョーと前記第1ジョイントとの間かつ前記第2ジョーと前記第2ジョイントとの間に設けられ、
前記ワイヤの移動によって前記第2ジョイントが前記第1ジョイントに対して前記長手方向に移動することにより、前記第1ジョーおよび前記第2ジョーが相互に開閉し、
前記第3ジョイントは、前記第1ジョーおよび前記第2ジョーが開いた状態において前記ワイヤの横に配置され、
前記第3ジョイントが前記シャフトに対して該シャフトの横方向の外方へ移動しながら前記第1ジョーおよび前記第2ジョーが閉じる、鉗子。
【請求項2】
前記第1ジョーおよび前記第2ジョーが開いた状態において、前記第1ジョイントおよび前記第2ジョイントが前記長手方向に配列し、前記第3ジョイントが前記横方向において前記ワイヤから前記第1および前記第2ジョー側に離れた位置に配置され、
前記ワイヤの移動によって、前記第2ジョイントが前記長手方向に直線移動する、請求項1に記載の鉗子。
【請求項3】
前記第1ジョーおよび前記第2ジョーが閉じた状態において、前記第2ジョイントの位置が、前記第1ジョイントの位置と前記長手方向において一致する、請求項1に記載の鉗子。
【請求項4】
前記ワイヤの前記第1ジョイントと前記第2ジョイントとの間に配置される部分が、硬質である、請求項1に記載の鉗子。
【請求項5】
前記第2アームが、第1終端および第2終端を有し、該第1終端と第2終端との間で前記第2ジョイントをスライド可能に支持するスロットを有し、
前記第1ジョーおよび前記第2ジョーが開いた状態において、前記第1終端が、前記第3ジョイントに対して前記横方向にオフセットし、かつ、前記第2終端よりも近位側の位置に配置され、
前記第1ジョーおよび前記第2ジョーが閉じ前記第1アームおよび前記第2アームが前記長手方向に配置された状態において、前記第2終端が、前記第3ジョイントに対して前記横方向にオフセットし、かつ、前記第1終端よりも近位側の位置に配置される、請求項1に記載の鉗子。
【請求項6】
前記第1ジョーおよび前記第2ジョーが閉じたときに該第1アームおよび前記第2アームをロックするロック機構を備え、
該ロック機構が、
前記第1アームおよび前記第2アームの一方に設けられた被係合部と、
前記第1アームおよび前記第2アームの他方に設けられた係合部と、を有し、
前記第1ジョーおよび前記第2ジョーが閉じたときに、前記係合部が前記被係合部に係合する、請求項1に記載の鉗子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉗子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物を把持する一対のジョーを遠位端に有する手術用の鉗子が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1のような従来の鉗子は、一対のジョーが鉗子の長手方向に交差する方向に開閉するように構成されており、鉗子の前方の対象物を把持するのに適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平10-501704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図12Aおよび図12Bは、気管支腔B内に挿入された鉗子1’を使用して腫瘍Cの組織を採取する方法を説明している。図12Aに示されるように、腫瘍Cが鉗子1’の前方に配置される場合、従来の鉗子1’によって組織を採取することができる。一方、図12Bに示されるように、鉗子1’の側方に腫瘍Cが配置される場合、従来の鉗子1’によって組織を採取することが難しい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、長尺のシャフトと、該シャフト内に配置され該シャフトの長手方向に移動可能である長尺のワイヤと、前記シャフトの遠位側に配置され第1ジョーを有する第1アームであって、前記シャフトの遠位端に第1ジョイントによって揺動可能に連結された、第1アームと、前記シャフトの遠位側に配置され第2ジョーを有する第2アームであって、前記ワイヤの遠位端に第2ジョイントによって揺動可能に連結された、第2アームと、を備え、前記第1アームおよび前記第2アームが、第3ジョイントによって相互に揺動可能に連結され、前記第3ジョイントが、前記第1ジョーと前記第1ジョイントとの間かつ前記第2ジョーと前記第2ジョイントとの間に設けられ、前記ワイヤの移動によって前記第2ジョイントが前記第1ジョイントに対して前記長手方向に移動することにより、前記第1ジョーおよび前記第2ジョーが相互に開閉し、前記第3ジョイントは、前記第1ジョーおよび前記第2ジョーが開いた状態において前記ワイヤの横に配置され、前記第3ジョイントが前記シャフトに対して該シャフトの横方向の外方へ移動しながら前記第1ジョーおよび前記第2ジョーが閉じる、鉗子である。
【0006】
本発明の参考態様は、上記の鉗子を使用した組織採取方法であって、前記第1ジョーおよび前記第2ジョーが開いた前記鉗子を体腔内に配置されたシース内に挿入し、前記シースの遠位端から前記第1アームおよび前記第2アームを突出させ、前記ワイヤを前記長手方向に移動させることによって、前記第1ジョーおよび前記第2ジョーを閉じて組織を採取し、前記シャフトを引くことによって、前記第1ジョーおよび前記第2ジョーが閉じている前記第1アームおよび第2アームを前記シース内に収容し、前記シースの外に前記鉗子を引き抜き、前記第1ジョーおよび前記第2ジョーを開き前記第1ジョーおよび前記第2ジョーから組織を取り出す、組織採取方法である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】本発明の一実施形態に係る鉗子の側面図であり、一対のアームの開状態を示している。
図1B図1Aの鉗子の動作を説明する側面図であり、一対のアームの中間状態を示している。
図1C図1Aの鉗子の動作を説明する側面図であり、一対のアームの閉状態を示している。
図2】本発明の一実施形態に係る組織採取方法のフローチャートである。
図3A図1Aの鉗子を使用した組織採取方法を説明する図である。
図3B図1Aの鉗子を使用した組織採取方法を説明する図である。
図3C図1Aの鉗子を使用した組織採取方法を説明する図である。
図3D図1Aの鉗子を使用した組織採取方法を説明する図である。
図3E図1Aの鉗子を使用した組織採取方法を説明する図である。
図4A図1Aの鉗子において、一対のアームに設けられたリンク機構の模式図である。
図4B】従来の鉗子において、一対のアームに設けられたリンク機構の模式図である。
図5A図1Aの鉗子の一変形例を使用した組織採取方法を説明する図である。
図5B図1Aの鉗子の一変形例を使用した組織採取方法を説明する図である。
図6A図1Aの鉗子の他の変形例の側面図である。
図6B図6Aの鉗子の上面図である。
図7A図1Aの鉗子の他の変形例の側面図であり、一対のアームの開状態を示している。
図7B図7Aの鉗子の動作を説明する側面図であり、一対のアームの中間状態を示している。
図7C図7Aの鉗子の動作を説明する側面図であり、一対のアームの閉状態を示している。
図7D図7Aの鉗子の動作を説明する側面図であり、一対のアームの水平状態を示している。
図8A図7Aの鉗子に設けられるストッパ構造を説明する側面図である。
図8B図7Aの鉗子に設けられるストッパ構造を説明する側面図である。
図8C図8Bの鉗子の上側から見た上面図である。
図9A図1Aの鉗子の他の変形例における一対のアームの側面図であり、一対のアームの開状態を示している。
図9B図9Aの一対のアームを近位側から見た背面図である。
図10A図9Aの鉗子の閉状態を示している。
図10B図10Aの一対のアームの近位側から見た背面図である。
図10C図10Aの一対のアームの下側から見た下面図である。
図11A】一対のジョーの変形例の斜視図である。
図11B】閉状態の図11Aの一対のジョーの断面図である。
図12A】気管支腔内の鉗子によって腫瘍の組織を採取する方法における、鉗子と腫瘍との位置関係を説明する図である。
図12B】気管支腔内の鉗子によって腫瘍の組織を採取する方法における、鉗子と腫瘍との他の位置関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態に係る鉗子および組織採取方法について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る鉗子1は、体腔内に挿入され組織を採取する生検鉗子である。図1Aから図1Cに示されるように、鉗子1は、長尺かつ管状のシャフト2と、シャフト2内に配置された長尺のワイヤ3と、シャフト2の遠位端に配置された第1アーム4および第2アーム5と、を備える。
【0009】
図1Aに示されるように、鉗子1は、長手方向Z、上下方向Yおよび左右方向Xを有する。長手方向Zは、シャフト2の中心軸(長手軸)Aに沿う方向である。上下方向Yおよび左右方向Xは、シャフト2の中心軸Aにそれぞれ直交する横方向であり、相互に直交する。
【0010】
シャフト2は、可撓性を有し、体腔内に該体腔の形状に沿って湾曲しながら挿入可能である。
ワイヤ3は、可撓性を有し、シャフト2内において長手方向Zに配置され、シャフト2に対して長手方向Zに移動可能である。ワイヤ3の近位端は、シャフト2の近位側に配置された図示しないハンドルに接続されている。操作者によるハンドルの操作によって、ワイヤ3が長手方向Zに押圧および牽引され、後述するように一対のジョー6,7が開閉する。
【0011】
各アーム4,5は、第1側と、第1側とは反対側である第2側とを有する。第1アーム4は、第1ジョー6を第1側に有し、第1リンク8を第2側に有する。第2アーム5は、第2ジョー7を第1側に有し、第2リンク9を第2側に有する。
ジョー6,7は、凹面6a,7aをそれぞれ有する椀型のカップである。後述する閉状態(図1C参照。)において、凹面6a,7aは、相互に対向し、組織を収容する空間を一対のジョー6,7の内側に形成する。
【0012】
第1アーム4は、第1ジョイントJ1によって、シャフト2の遠位端に第1軸P1回りに揺動可能に連結されている。第1軸P1は、左右方向Xに延びている。第1ジョイントJ1は、第1リンク8の第2側の端部に設けられ、シャフト2に対して不動である。
【0013】
第2アーム5は、第2ジョイントJ2によって、ワイヤ3の遠位端に第2軸P2回りに揺動可能に連結されている。第2軸P2は、左右方向Xに延び、第1軸P1と平行または略平行である。第2ジョイントJ2は、第2リンク9の第2側の端部に設けられ、ワイヤ3の遠位端と一緒にシャフト2に対して長手方向Zおよび上下方向Yに移動可能である。
【0014】
第1アーム4および第2アーム5は、第3ジョイントJ3によって、第3軸P3回りに相互に揺動可能に連結されている。第3軸P3は、左右方向Xに延び、軸P1,P2と平行または略平行である。第3ジョイントJ3は、第1ジョー6と第1ジョイントJ1との間かつ第2ジョー7と第2ジョイントJ2との間に設けられている。より具体的には、第3ジョイントJ3は、各リンク8,9の第1側の端部に設けられ、左右方向Xに配列するリンク8,9を相互に揺動可能に連結する。第3ジョイントJ3は、シャフト2およびワイヤ3に対して、長手方向Zおよび上下方向Yに移動可能である。
【0015】
図1Aは、一対のジョー6,7が最も開いた開状態を示し、図1Cは、一対のジョー6,7が相互に接触する位置まで閉じた閉状態を示し、図1Bは、開状態と閉状態との間の中間状態を示している。
第2ジョイントJ2は、シャフト2に対して、開位置(図1A参照。)と閉位置(図1C参照。)との間で移動可能である。開位置は、シャフト2の遠位端から遠位側に離れた位置であり、一対のジョー6,7が開状態に配置される位置である。閉位置は、開位置から近位側に離れた位置であり、一対のジョー6,7が閉状態に配置される位置である。
ワイヤ3の移動によって第2ジョイントJ2が開位置と閉位置との間で長手方向Zに移動することにより、一対のアーム4,5が第3軸P3回りに揺動し一対のジョー6,7が開閉する。
【0016】
具体的には、押圧されたワイヤ3が遠位側へ前進することによって、第2ジョイントJ2は、開位置へ向かって第1ジョイントJ1から離れる方向に移動する。これにより、一対のジョー6,7が相互に離れる開方向に揺動して開く。
【0017】
開状態において、ワイヤ3の遠位端はシャフト2の遠位端から突出し、第2ジョイントJ2は、第1ジョイントJ1に対して遠位側に配置され、2つのジョイントJ1,J2は長手方向Zに配列する。軸P1,P2,P3に平行な左右方向Xに見た側面視において、開状態における2つのジョイントJ1,J2は、ワイヤ3の長手軸上に配列する。
また、開状態において、第3ジョイントJ3は、上下方向Yにおいてワイヤ3の横に配置され、ワイヤ3から一対のジョー6,7側(上側)に離れた位置に配置される。したがって、一対のジョー6,7は、凹面6a,7aを上方に向けて配置される。
【0018】
一方、牽引されたワイヤ3が近位側へ後退することによって、第2ジョイントJ2が第1ジョイントJ1に近付く方向に移動する。これにより、一対のジョー6,7が相互に近付く閉方向に揺動して閉じる。
【0019】
閉状態において、一対のアーム4,5は、シャフト2から上方に向かって延びる。
また、閉状態において、第2ジョイントJ2は、第1ジョイントJ1と左右方向に重なり合い、第2ジョイントJ2の位置は、長手方向Zにおいて第1ジョイントJ1の位置と一致する。つまり、閉状態において軸P1,P2が相互に一致するので、閉状態の一対のアーム4,5は、図1Cにおいて二点鎖線で示されるように、軸P1,P2回りに回転することができる。
【0020】
ここで、第3ジョイントJ3は、シャフト2およびワイヤ3に対して移動可能であるので、第2ジョイントJ2が第1ジョイントJ1に近付くにつれて、第3ジョイントJ3は、シャフト2およびワイヤ3に対して、上方(横方向外方)へ移動する。これにより、一対のジョー6,7は、第3ジョイントJ3と一緒に上方へ移動しながら、閉じる。
【0021】
次に、鉗子1を使用した組織採取方法について説明する。
本実施形態に係る鉗子1は、図12Bに示されるように、体腔Bに隣接する病変部Cの組織の採取に使用される。以下、気管支に隣接する腫瘍のような病変部Cの組織を気管支腔(体腔)Bの内側から採取する場合について説明する。
【0022】
図2に示されるように、本実施形態に係る組織採取方法は、一対のアーム4,5が開状態の鉗子1をシース20内に挿入するステップS1と、シース20の遠位端から一対のアーム4,5を突出させるステップS2と、一対のジョー6,7を閉じて組織を採取するステップS3と、閉状態の一対のアーム4,5をシース20内に収容するステップS4と、鉗子1をシース20の外に引き抜くステップS5と、一対のジョー6,7から組織を取り出すステップS6と、を含む。
【0023】
シース20は、口等の開口部から気管支腔B内に挿入され、シース20の遠位端が病変部Cに隣接する位置に配置される。シース20の病変部Cへの位置合わせは、例えば、シース20内を経由して気管支腔B内に挿入された超音波プローブ等を使用して行われる。
ステップS1において、医師等の操作者は、一対のジョー6,7が開いた開状態に一対のアーム4,5を配置し、続いて鉗子1をシース20内に挿入する。
次に、ステップS2において、操作者は、シース20内において鉗子1を前進させ、図3Aに示されるように、一対のアーム4,5をシース20の遠位端から突出させる。突出した一対のアーム4,5は病変部Cに隣接した位置に配置され、開いた一対のジョー6,7は病変部Cに向けて配置される。
【0024】
次に、ステップS3において、図3Bおよび図3Cに示されるように、操作者は、ワイヤ3を牽引することによって一対のジョー6,7を閉じ、それにより病変部Cの組織を一対のジョー6,7内に採取する。このとき、一対のジョー6,7は、病変部Cに向かって前進し病変部Cを押し込みながら閉じる。したがって、病変部Cを一対のジョー6,7でしっかりと掴み、たくさんの量の組織を確実にかつ効率的に閉じた一対のジョー6,7内に採取することができる。
【0025】
次に、ステップS4において、図3Dおよび図3Eに示されるように、操作者は、鉗子1のシャフト2を引くことによって、閉状態の一対のアーム4,5を遠位端からシース20内に収容する。このとき、閉状態の一対のアーム4,5は、シース20の遠位端との接触により、軸P1,P2回り回転し倒れながらシース20内に収容される。これにより、シース20内に収容された一対のアーム4,5は、長手方向Zに配置される。
【0026】
次に、ステップS5において、操作者は、シャフト2を近位側へ引っ張ることによって鉗子1をシース20の外へ引き抜き、鉗子1を取り出す。
次に、ステップS6において、操作者は、体外において一対のジョー6,7を開き、採取された組織をジョー6,7から取り出す。
【0027】
図4Aは、本実施形態の鉗子1における一対のアーム4,5のリンク機構を示し、図4Bは、従来の一般的な鉗子1’における一対のアーム41,51のリンク機構を示している。図4Aおよび図4Bに示されるように、本実施形態の鉗子1は、ジョイントJ1,J2,J3の配置および動きと一対のジョー6,7の開閉方向とにおいて、従来の鉗子1’と相違する。矢印Fは、ワイヤ3からジョイントJ2,j2に加えられる力を示している。
【0028】
具体的には、従来の鉗子1’において、ジョイントj3は、シャフト2の中心軸Aの延長線(長手方向Z)上に固定されている。一対のジョー61,71はシャフト2の中心軸Aの前方に向かって開き、第2ジョイントj2が第1ジョイントj1に対して中心軸Aに交差する横方向(図4Bにおいて上下方向)に移動することによって、一対のジョー61,71が横方向に開閉し前方に閉じる。
これに対し、本実施形態の鉗子1において、第3ジョイントJ3は、シャフト2の中心軸Aに対して横(図4Aにおいて軸Aの上方)に配置され、シャフト2に対して移動可能である。一対のジョー6,7は、横方向外方(上方)に向かって開き、第2ジョイントJ2が第1ジョイントJ1に対して長手方向に移動することによって、一対のジョー6,7が長手方向Zに開閉し横方向に閉じる。
【0029】
上記のような従来の鉗子1’の場合、気管支腔B内の一対のジョー6,7を気管支腔Bに隣接する病変部Cに向けて開閉することができない。したがって、隣接する病変部Cの十分な量の組織を従来の鉗子1’によって採取することは難しい。
これに対し、本実施形態によれば、一対のジョー6,7がシャフト2に対して横方向外方に向かって開き、横方向外方に移動しながら閉じる。したがって、ジョー6,7を隣接する病変部Cへ押し込みながら、閉じるジョー6,7によって病変部Cの組織を効率的に採取することができる。
【0030】
本実施形態の鉗子1の構成において、ワイヤ3が全長にわたって可撓性を有する場合、第2ジョイントJ2の位置が不安定になり得る。例えば、ワイヤ3が長手方向Zに移動したときに、第2ジョイントJ2が必ずしも長手方向Zに直線移動するとは限らず、第2ジョイントJ2が横方向X,Yにも変位し得る。一対のジョー6,7の安定的な開閉動作のためには、第2ジョイントJ2が長手方向Zに直線移動することが好ましい。
したがって、鉗子1は、図1Aから図1Cおよび図5Aから図6Bに示されるように、第2ジョイントJ2をシャフト2の長手方向Zに直線移動させる直線移動機構を備えていてもよい。
【0031】
図1Aから図1Cにおいて、直線移動機構は、ジョイントJ1,J2間に配置されるワイヤ3の硬質な遠位側部分3aからなる。すなわち、ワイヤ3は、硬質部3aと、可撓性の他の部分からなる軟性部3bとを有する。硬質部3aおよび軟性部3bは、連結部3cによって相互に連結されている。
【0032】
図5Aおよび図5Bにおいて、直線移動機構は、アーム4,5のジョー6,7とは反対側に設けられ、リンク8,9間を連結するリンク10,11を有する。例えば、4つのリンク8,9,10,11は、第2ジョイントJ2を直線移動させる菱形のリンク機構を形成する。
この構成によれば、図5Aに示されるように、一対のジョー6,7が閉じるときに、リンク10,11が、病変部Cとは反対側において体腔Bの内壁を押す。これにより、より強い力で一対のジョー6,7を病変部Cへ押し込むことができる。
【0033】
図6Aおよび図6Bにおいて、直線移動機構は、第2ジョイントJ2を長手方向Zに案内する剛性のレール12を有する。レール12は、シャフト2から遠位側へ長手方向Zに延び、シャフト2に固定されている。レール12は、第2リンク9から突出する第2ジョイントJ2の端部を長手方向Zに移動可能に支持する。図6Bにおいて、第1アーム4の図示が省略されている。
図5Aから図6Bの直線移動機構を備える場合、ワイヤ3の遠位側部分は可撓性であってもよい。
【0034】
上記実施形態において、第2ジョイントJ2が、第2アーム5に対して不動であることとしたが、これに代えて、第2ジョイントJ2が、第2アーム5に対して移動可能であってもよい。具体的には、図7Aから図7Dに示されるように、第2アーム5が、第2ジョイントJ2をスライド可能に支持するスロット13を有していてもよい。図7Aから図7Dにおいて、シャフト2の図示が省略されている。
【0035】
閉じた一対のジョー6,7内に組織を採取した後、一対のジョー6,7が意図せずに開き組織がジョー6,7からこぼれることを防止するために、閉状態の一対のジョー6,7に閉方向のさらなるトルクTを作用させて一対のジョー6,7を堅く閉じることが好ましい。
図1Aの鉗子1の構成の場合、閉状態の一対のアーム4,5が倒れた状態(図3E参照。)において、第3ジョイントJ3が、ワイヤ3から第2ジョイントJ2に作用する牽引力Fの作用線の延長線上に配置される。したがって、この状態でワイヤ3を牽引し続けたとしても、第2ジョー7にさらなるトルクTを作用させることができない。スロット13は、この不都合を解消するために設けられる。
【0036】
スロット13は、該スロット13が終端する第1終端13aおよび第2終端13bを有し、終端13a,13b間で延びる。スロット13は、第2ジョイントJ2を終端13a,13b間においてスライド可能に支持する。第1終端13aおよび第2終端13bは、下記の条件を満たす位置に設けられる。
【0037】
すなわち、図7Aに示されるように、開状態において、第1終端13aは、第3ジョイントJ3に対して上下方向に(具体的には下側に)オフセットし、かつ、第2終端13bよりも近位側の位置に配置される。図7Dに示されるように、閉状態の一対のアーム4,5が長手方向Zに配置される水平状態において、第2終端13bは、第3ジョイントJ3に対して上下方向に(具体的には下側に)オフセットし、かつ、第1終端13aよりも近位側の位置に配置される。
【0038】
図7Aから図7Cに示されるように、ワイヤ3の遠位端に接続された第2ジョイントJ2が開位置から閉位置へ移動するとき、第2ジョイントJ2はスロット13内の第1終端13aに配置される。本変形例の閉状態において、第2ジョイントJ2は、第1ジョイントJ1とは異なる位置に配置され、閉状態の一対のアーム4,5は、第1軸P1回りに回転可能である。
【0039】
その後、図7Dに示されるように、閉状態の一対のアーム4,5が倒れる過程において、第2ジョイントJ2は、ワイヤ3から作用する牽引力Fに従って、スロット13内を第1終端13aから第2終端13bへ向かってスライドする。閉状態の一対のアーム4,5が長手方向Zに配置される水平状態において、第2終端13bに位置する第2ジョイントJ2は、第3ジョイントJ3よりも下側に配置される。したがって、牽引力Fによって、第3ジョイントJ3回りの閉方向のトルクTを第2アーム5に作用させ、一対のジョー6,7を堅く閉じることができる。
【0040】
トルクTによって一対のジョー6,7を堅く閉じるためには、第1アーム4が、トルクTに抵抗し回転しないことが必要である。したがって、図8Aから図8Cに示されるように、閉状態の一対のアーム4,5が水平位置まで回転したときに第1アーム4のそれ以上の回転を阻止するストッパ構造が設けられていることが好ましい。水平位置は、アーム4,5が長手方向Zに配置される位置である。図8Aから図8Cにおいて、ワイヤ3および第2アーム5の図示が省略されている。
【0041】
一構成例において、ストッパ構造は、シャフト2に設けられたストッパ14を有する。図8Aから図8Cにおいて、ストッパ14は、シャフト2の遠位端面からなる。図8Bおよび図8Cに示されるように、第1アーム4が閉位置まで回転したとき、第1アーム4の第2側の端面がストッパ14に突き当たることによって閉状態の一対のアーム4,5の回転が阻止される。これにより、牽引力Fが作用している間、閉状態の一対のアーム4,5を水平位置に維持し、一対のジョー6,7を堅く閉じ続けることができる。
【0042】
図7Aから図7Dにおいて、スロット13は、直線状であるが、牽引力Fに従って第2ジョイントが第1終端13aから第2終端13bへスムーズにスライドすることができる限りにおいて、スロット13は、直線以外の形状であってもよく、例えば円弧状であってもよい。
【0043】
上記実施形態において、鉗子1は、一対のジョー6,7が閉じたときに、一対のジョー6,7が再び開かないように一対のアーム4,5をロックするロック機構をさらに備えていてもよい。ロック機構を設けることによって、採取された組織がジョー6,7からこぼれてしまうことを防ぎ、ジョー6,7内に一度採取された組織の全てを体外に確実に取り出すことができる。
【0044】
図9Aから図10Cに示されるように、ロック機構は、一対のアーム4,5の一方に設けられた被係合部15Aと、一対のアーム4,5の他方に設けられた係合部15Bとを有する。この例において、被係合部15Aは第1アーム4に設けられ、係合部15Bは第2アーム5に設けられている。
【0045】
開状態において、係合部15Bは、第2リンク9の近位側の側面に固定され、左右方向Xにおいて第1リンク8側に向かって突出している。図9Bは、図9Aのアーム4,5を近位側から見た図である。係合部15Bは、例えば、弾性材料から形成される。開状態において、リンク8,9間には左右方向Xの隙間が存在し、係合部15Bは、第1リンク8に接触している。一対のアーム4,5には、相互に近付く方向の力が第3ジョイントJ3によって加えられている。したがって、係合部15Bが第1リンク8の表面上を摺動しながら一対のジョー6,7は閉じる。
【0046】
図10Aから図10Cに示されるように、一対のジョー6,7が閉状態まで閉じたとき、係合部15Bが第1リンク8を通り過ぎることによって、リンク8,9が左右方向Xに相互に近付き、係合部15Bが、被係合部15Aである第1リンク8の近位側の面に係合する。これにより、一対のジョー6,7が開かないように一対のアーム4,5がロックされる。図10Bは、図10Aのアーム4,5を近位側から見た図であり、図10Cは、図10Aのアーム4,5を下側から見た図である。
なお、図9Aから図10Cの被係合部15Aおよび係合部15Bは一例であり、一対のジョー6,7が閉じたときに被係合部15Aおよび係合部15Bが相互に係合する限りにおいて、被係合部15Aおよび係合部15Bは他の形態であってもよい。
【0047】
上記実施形態において、図11Aおよび図11Bに示されるように、ジョー6,7の少なくとも一方が、歯16を有していてもよい。
図11Aおよび図11Bにおいて、歯16は、ジョー7の第1側の端部において、凹面7aの外縁に沿って設けられている。閉状態において、歯16は、ジョー6に向かって突出し、凹面6aと噛み合う。このような歯16によって、組織がジョー6,7からこぼれること防ぐことができると共に、鋭い歯16によって組織を容易に切離することができる。図11Aおよび図11Bに示される歯16の形状は一例であり、歯16は、他の任意の形状を有していてもよい。
【0048】
上記実施形態において、鉗子1が、ジョー6,7としてカップを有する生検鉗子であることとしたが、これに代えて、把持鉗子または止血鉗子等の他の種類の鉗子であってもよい。鉗子の種類に応じて、ジョー6,7は適切に設計される。また、鉗子1の用途に応じて、シャフト2およびワイヤ3は硬性であってもよい。
また、本発明は、鉗子に限らず、相互に開閉する一対のジョーを有する任意の種類の処置具、例えば、鋏等に適用されてもよい。
【0049】
上記実施形態において、鉗子1がシース20と組み合わせて使用されることとしたが、シース20は必ずしも必要ではない。例えば、シース20の代わりに内視鏡を使用し、内視鏡の処置具用のチャネルを経由して鉗子1を体腔内に挿入してもよい。あるいは、鉗子1単体で体腔内に挿入してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 鉗子
2 シャフト
3 ワイヤ
3a 硬質部
4 第1アーム
5 第2アーム
6 第1ジョー
7 第2ジョー
13 スロット
13a 第1終端
13b 第2終端
15A 被係合部、ロック機構
15B 係合部、ロック機構
20 シース
B 気管支腔、体腔
J1 第1ジョイント
J2 第2ジョイント
J3 第3ジョイント
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図12A
図12B