(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152293
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】制動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/1755 20060101AFI20231005BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20231005BHJP
B60T 8/26 20060101ALI20231005BHJP
B60L 7/18 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B60T8/1755 C
B60T8/17 C
B60T8/26 H
B60L7/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156804
(22)【出願日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2022058581
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和晃
【テーマコード(参考)】
3D246
5H125
【Fターム(参考)】
3D246AA08
3D246AA09
3D246DA01
3D246EA05
3D246GB04
3D246GB12
3D246GB39
3D246HA02A
3D246HA94A
3D246HC01
3D246HC03
3D246JA03
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3D246JB22
3D246JB51
3D246JB53
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA01
5H125CA15
5H125CB02
5H125CB07
5H125DD16
5H125EE51
(57)【要約】
【課題】車両の制動制御装置に関して、制動中の車両の姿勢を制御する。
【解決手段】制動制御装置10は、回生制動装置および摩擦制動装置を作動させて車両の制動力を制御する。制動制御装置10は、車両の減速度の目標に基づいて、車両のピッチング姿勢の目標および車両の沈み込み姿勢の目標を算出する姿勢目標算出部12を備えている。制動制御装置10は、ピッチング姿勢の目標および沈み込み姿勢の目標が示す姿勢に車両の姿勢を追従させるように、前後配分比および摩擦回生比を算出する配分比算出部13を備えている。制動制御装置10は、車両の制動力の目標である要求制動力、前後配分比および摩擦回生比に基づいて、摩擦制動装置および回生制動装置を作動させる指示値を算出する指示値算出部を備えている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両における車輪のうち前輪および後輪の少なくとも一方の車輪に付与する回生制動力を発生させる回生制動装置と、前記前輪に付与する摩擦制動力および前記後輪に付与する摩擦制動力を発生させる摩擦制動装置と、を備える車両に適用され、
前記回生制動装置および前記摩擦制動装置を作動させて前記車両の制動力を制御する制動制御装置であって、
前記前輪に付与する制動力と前記後輪に付与する制動力との和を車両制動力として、該車両制動力に対する前記前輪に付与する制動力の比を前後配分比として、前記前輪および前記後輪のうち回生制動力を付与できる車輪について当該車輪に付与する制動力に対する当該車輪に付与する摩擦制動力の比を摩擦回生比として、
前記車両の減速度の目標に基づいて、前記車両のピッチング姿勢の目標および前記車両の沈み込み姿勢の目標を算出する姿勢目標算出部と、
前記ピッチング姿勢の目標および前記沈み込み姿勢の目標が示す姿勢に前記車両の姿勢を追従させるように、前記前後配分比および前記摩擦回生比を算出する配分比算出部と、
前記車両制動力の目標である要求制動力、前記前後配分比および前記摩擦回生比に基づいて、前記摩擦制動装置および前記回生制動装置を作動させる指示値を算出する指示値算出部と、を備える
制動制御装置。
【請求項2】
前記姿勢目標算出部は、前記減速度の目標が前記車両を減速させる方向に大きいほど前記車両のピッチング運動が大きくなるように前記ピッチング姿勢の目標を算出し、且つ、前記減速度の目標が前記車両を減速させる方向に大きいほど前記車両のバウンス運動が大きくなるように前記沈み込み姿勢の目標を算出する
請求項1に記載の制動制御装置。
【請求項3】
前記回生制動装置が前記前輪に付与する回生制動力および前記後輪に付与する回生制動力を発生させるものである車両に適用され、
前記摩擦回生比は、前記前輪に付与する制動力に対する当該前輪に付与する摩擦制動力の比としての前輪摩擦回生比であり、
前記後輪に付与する制動力に対する当該後輪に付与する摩擦制動力の比を後輪摩擦回生比として、
前記指示値算出部は、前記要求制動力、前記前後配分比、前記前輪摩擦回生比および前記後輪摩擦回生比に基づいて、前記摩擦制動装置および前記回生制動装置の作動を指示するものであり、
前記配分比算出部は、
前記車両の姿勢に関する運動方程式に基づいた前記前輪摩擦回生比を示す関数および前記運動方程式に基づいた前記後輪摩擦回生比を示す関数の解として、前記前後配分比、前記前輪摩擦回生比および前記後輪摩擦回生比を算出するものであり、
第1軸に前後配分比をとり第2軸に前記前輪摩擦回生比および前記後輪摩擦回生比をとった直交座標系において、前記前輪摩擦回生比を示す関数と前記後輪摩擦回生比を示す関数との交点における第1軸座標値を前記前後配分比として算出する
請求項1または2に記載の制動制御装置。
【請求項4】
前記減速度の目標の前記車両を減速させる方向への増加に対して前記ピッチング姿勢の目標が前記車両のピッチング運動が大きくなる方向へ変化する割合をピッチ増加割合として、
前記減速度の目標の前記車両を減速させる方向への増加に対して前記沈み込み姿勢の目標が前記車両のバウンス運動が大きくなる方向へ変化する割合をバウンス増加割合として、
前記姿勢目標算出部は、
前記減速度の目標が小さい場合における前記ピッチ増加割合を前記減速度の目標が大きい場合における前記ピッチ増加割合よりも大きくするように、前記ピッチング姿勢の目標を算出するものであり、
前記減速度の目標が小さい場合における前記バウンス増加割合を前記減速度の目標が大きい場合における前記バウンス増加割合よりも小さくするように、前記沈み込み姿勢の目標を算出する
請求項1に記載の制動制御装置。
【請求項5】
前記前輪に付与する摩擦制動力の大きさに対応する押圧力と、前記後輪に付与する摩擦制動力の大きさに対応する押圧力と、を等しくして前記車両に摩擦制動力を発生させた場合の、前記車両を減速させる方向への前記減速度の増加に対して前記車両のピッチング運動が大きくなる方向へ前記ピッチング姿勢が変化する割合を基準ピッチ割合として、
前記前輪に付与する摩擦制動力の大きさに対応する押圧力と、前記後輪に付与する摩擦制動力の大きさに対応する押圧力と、を等しくして前記車両に摩擦制動力を発生させた場合の、前記車両を減速させる方向への前記減速度の増加に対して前記車両のバウンス運動が大きくなる方向へ前記沈み込み姿勢が変化する割合を基準バウンス割合として、
前記姿勢目標算出部は、
前記減速度の目標が小さい場合には前記ピッチ増加割合を前記基準ピッチ割合よりも大きくする一方で、前記減速度の目標が大きい場合には前記ピッチ増加割合を前記基準ピッチ割合以下にするように、前記ピッチング姿勢の目標を算出するものであり、
前記減速度の目標が小さい場合には前記バウンス増加割合を前記基準バウンス割合よりも小さくする一方で、前記減速度の目標が大きい場合には前記バウンス増加割合を前記基準バウンス割合以上にするように、前記沈み込み姿勢の目標を算出する
請求項4に記載の制動制御装置。
【請求項6】
前記前輪および前記後輪のうちいずれか一方の車輪でスリップが発生しており、且つ、他方の車輪でスリップが発生していない場合には、
前記ピッチング姿勢の目標が示す姿勢に前記車両の姿勢を追従させるように、前記他方の車輪に付与する制動力に関して当該制動力の勾配を調整する
請求項1に記載の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両を制動する際に、ノーズダイブ側に車両がピッチング運動することがある。車両では、ピッチング運動を抑制する方向に作用する力が制動力の付与によって生じる。詳しくは、前輪に付与する制動力を前輪制動力として後輪に付与する制動力を後輪制動力とした場合に、前輪制動力に応じたアンチダイブ力が車両の車体に作用するとともに、後輪制動力に応じたアンチリフト力が車体に作用する。アンチダイブ力およびアンチリフト力が作用する際に車両全体の制動力が同じであっても前輪制動力と後輪制動力との配分比率が変わると、車体に作用するアンチダイブ力およびアンチリフト力の大きさが変わることがある。これによって、車両のピッチング姿勢が変わることがある。
【0003】
特許文献1に開示されている車両の制動制御装置は、摩擦制動装置と回生制動装置とを備える車両に適用されている。この制動制御装置では、回生制動力を変動させつつ、前輪制動力と後輪制動力との配分比率を可変させる場合には、回生制動力の変化速度に対して制限を設けるようにしている。これによって、前輪制動力と後輪制動力との配分比率を緩やかに変化させるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車輪に摩擦制動力が付与されるに際して当該車輪に制動力が作用する点と、車輪に回生制動力が付与されるに際して当該車輪に制動力が作用する点とは互いに異なる。このため、車輪全体の制動力の大きさが同じであっても、車輪に摩擦制動力を付与する場合と、車輪に回生制動力を付与する場合とで、車体に作用するアンチダイブ力およびアンチリフト力が相違する。
【0006】
たとえば、回生制動力の配分が大きい場合には制動力の変化に対する車体のピッチング姿勢の変化速度が速くなる。一方で、回生制動力の配分が小さい場合には制動力の変化に対する車体のピッチング姿勢の変化速度が遅くなる。また、後輪に付与する制動力について回生制動力の配分が大きい場合にはアンチリフト力が小さくなることで車両の沈み込みが小さくなる。
【0007】
回生制動力の配分と車両の姿勢との関係が考慮されていない特許文献1に記載されているような制動制御装置は、車両の姿勢を制御するうえで改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための制動制御装置は、車両における車輪のうち前輪および後輪の少なくとも一方の車輪に付与する回生制動力を発生させる回生制動装置と、前記前輪に付与する摩擦制動力および前記後輪に付与する摩擦制動力を発生させる摩擦制動装置と、を備える車両に適用され、前記回生制動装置および前記摩擦制動装置を作動させて前記車両の制動力を制御する制動制御装置であって、前記前輪および前記後輪のうち回生制動力を付与できる車輪について当該車輪に付与する制動力に対する当該車輪に付与する摩擦制動力の比を摩擦回生比として、前記車両の減速度の目標に基づいて、前記車両のピッチング姿勢の目標および前記車両の沈み込み姿勢の目標を算出する姿勢目標算出部と、前記ピッチング姿勢の目標および前記沈み込み姿勢の目標が示す姿勢に前記車両の姿勢を追従させるように、前記前後配分比および前記摩擦回生比を算出する配分比算出部と、前記車両制動力の目標である要求制動力、前記前後配分比および前記摩擦回生比に基づいて、前記摩擦制動装置および前記回生制動装置を作動させる指示値を算出する指示値算出部と、を備えることをその要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、車両の姿勢が減速度の目標に応じた姿勢の目標に追従するように算出した前後配分比および摩擦回生比に従って摩擦制動力および回生制動力を制御することができる。これによって、減速度の目標に対してピッチング姿勢および沈み込み姿勢に相関を持たせることができる。減速度に対応して車両の姿勢が制御されることで、車両の搭乗者が減速度から推定する車両の姿勢と、実際の車両の姿勢とが乖離することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第1実施形態の制動制御装置と、同制動制御装置の制御対象である車両と、を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、制動力によって車両に作用する力を説明する模式図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態の制動制御装置が実行する機能を説明するブロック図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態の制動制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、第1実施形態の制動制御装置が算出する前後配分比および摩擦回生比の例を示す図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態の制動制御装置によって制御されるピッチ角とバウンス量との関係を例示する図である。
【
図8】
図8は、変更例の制動制御装置が算出する前後配分比および摩擦回生比の例を示す図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態の制動制御装置が実行する機能を説明するブロック図である。
【
図10】
図10は、前輪制動力および後輪制動力の理想制動力配分比率を例示して、第2実施形態の制動制御装置における制御の考え方を説明する図である。
【
図11】
図11は、第2実施形態の制動制御装置によって制御されるピッチ角の平均変化率を示す図である。
【
図12】
図12は、第2実施形態の制動制御装置によって制御されるバウンス量の平均変化率を示す図である。
【
図13】
図13は、第2実施形態の制動制御装置によって制御されるピッチ角速度、ピッチ角および制動力の推移を示すタイミングチャートである。
【
図14】
図14は、車輪にスリップが発生した場合のピッチレートの推移を例示する図である。
【
図15】
図15は、第3実施形態の制動制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【
図16】
図16は、第3実施形態の制動制御装置が算出する摩擦回生比について説明する図である。
【
図17】
図17は、第3実施形態の制動制御装置によって制御される制動力およびピッチレートの推移を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、制動制御装置の第1実施形態について、
図1~
図7を参照して説明する。
図1は、制動制御装置10と、制動制御装置10を搭載する車両90と、を示す。
【0012】
<車両>
車両90は、たとえば、車輪として二つの前輪と二つの後輪とを備えている四輪の車両である。車両90は、車輪を懸架するサスペンション装置を備えている。車両90は、左前輪および右前輪に取り付けられている前輪用のサスペンション装置を備えている。車両90は、左後輪および右後輪に取り付けられている後輪用のサスペンション装置を備えている。
【0013】
図1に示すように、車両90は、摩擦制動装置70および回生制動装置80を備えている。摩擦制動装置70および回生制動装置80は、車輪に制動力を付与する制動装置である。制動制御装置10は、摩擦制動装置70を作動させる機能を備えている。車両90は、回生制動装置80を作動させる機能を有する回生制御装置20を備えている。
【0014】
車両90は、車載ネットワークを備えている。車両90は、車載ネットワークに接続されている複数の処理回路を備えている。制動制御装置10および回生制御装置20は、処理回路の一例である。車載ネットワークに接続されている各処理回路は、車載ネットワークを介して相互に通信が可能である。
【0015】
車両90は、制動操作部材92を備えている。制動操作部材92は、車両90の運転者が操作できる位置に取り付けられている。制動操作部材92は、たとえばブレーキペダルである。
【0016】
車両90は、各種センサを備えている。
図1には、各種センサの一例として、ブレーキセンサSE1を示している。各種センサからの検出信号は、車載ネットワークを介して制動制御装置10に入力される。
【0017】
ブレーキセンサSE1は、制動操作部材92の操作量Bpを検出することができる。制動操作部材92の操作量Bpは、車両90に付与する制動力の目標値を算出する際に参照することができる。ブレーキセンサSE1は、制動操作部材92を操作するために制動操作部材92に加えられる圧力を検出するセンサでもよい。
【0018】
<制動装置>
摩擦制動装置70は、車輪に付与する摩擦制動力を発生させることができる。摩擦制動装置70の一例は、液圧制動装置である。摩擦制動装置70は、各車輪に対応した制動機構を備えている。制動機構は、車輪と一体回転する回転体と、回転体に対して押し付けることができる摩擦材と、液圧に応じて摩擦材を回転体に押し付けるホイールシリンダと、によって構成されている。制動機構の一例は、ディスクブレーキである。制動機構は、ドラムブレーキであってもよい。摩擦制動装置70の他の例は、電動モータの駆動力を機械的に伝達して回転体に摩擦材を押し付ける電動制動装置である。
【0019】
回生制動装置80は、車輪に付与する回生制動力を発生させることができる。回生制動装置80は、車両90が備えるバッテリに接続されている。回生制動装置80の一例は、モータジェネレータである。モータジェネレータを発電機として機能させることによって、車輪に回生制動力を作用させることができる。回生制動装置80の他の例は、インホイールモータである。回生制動力の付与に伴って発生する電力は、バッテリに充電される。
【0020】
車両90では、摩擦制動装置70は、前輪に付与する摩擦制動力である前輪摩擦制動力Fxfbおよび後輪に付与する摩擦制動力である後輪摩擦制動力Fxrbを各別に調整することができる。
【0021】
車両90では、回生制動装置80は、前輪に付与する回生制動力である前輪回生制動力Fxfdおよび後輪に付与する回生制動力である後輪回生制動力Fxrdを各別に調整することができる。
【0022】
<回生制御装置>
回生制御装置20は、回生制動力の要求値に基づいて回生制動装置80を作動させる。詳細は後述するが、回生制動力の要求値は、制動制御装置10によって回生制動力要求値FxdRとして算出される。回生制御装置20は、車両90に実際に付与する回生制動力の大きさを表す回生制動力実行値Fxdを制動制御装置10に送信することができる。
【0023】
回生制動装置80が発生させることのできる回生制動力の最大値が回生制動力要求値FxdRよりも小さい場合には、回生制動力実行値Fxdが回生制動力要求値FxdRよりも小さくなることがある。たとえば、車両90に搭載されているバッテリの残量がしきい値よりも多い場合には、回生制動力の付与に伴って発生する電力を少なくするために回生制御装置20によって回生制動力の最大値が小さく制限されることがある。
【0024】
<制動力>
各制動力について説明する。
前輪摩擦制動力Fxfbと前輪回生制動力Fxfdとの和のことを前輪制動力Fxfという。後輪摩擦制動力Fxrbと後輪回生制動力Fxrdとの和のことを後輪制動力Fxrという。車両90に付与される制動力である車両制動力Fxは、前輪制動力Fxfと後輪制動力Fxrとの和である。回生制動力実行値Fxdは、前輪回生制動力Fxfdと後輪回生制動力Fxrdとの和に対応する。
【0025】
前輪制動力Fxfおよび後輪制動力Fxrは、車両制動力Fxと前後配分比nとを用いて表すことができる。前輪摩擦制動力Fxfbおよび前輪回生制動力Fxfdは、前輪制動力Fxfと前輪摩擦回生比nfとを用いて表すことができる。後輪摩擦制動力Fxrbおよび後輪回生制動力Fxrdは、後輪制動力Fxrと後輪摩擦回生比nrとを用いて表すことができる。
【0026】
図2を用いて、前後配分比n、前輪摩擦回生比nf、後輪摩擦回生比nr、および車輪に付与される制動力について説明する。
図2は、前輪摩擦制動力Fxfb、前輪回生制動力Fxfd、後輪摩擦制動力Fxrbおよび後輪回生制動力Fxrdが付与されている例を示している。
図2に示すように、前後配分比nは、前輪制動力Fxfと後輪制動力Fxrとの和、すなわち車両制動力Fxに対する前輪制動力Fxfの比である。前後配分比nは、「0」以上「1」以下の値である。前輪摩擦回生比nfは、前輪制動力Fxfに対する前輪摩擦制動力Fxfbの比である。前輪摩擦回生比nfは、「0」以上「1」以下の値である。後輪摩擦回生比nrは、後輪制動力Fxrに対する後輪摩擦制動力Fxrbの比である。後輪摩擦回生比nrは、「0」以上「1」以下の値である。
【0027】
詳しくは後述するが、制動制御装置10は、各車輪に付与する制動力を調整するために前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrを算出することができる。制動制御装置10は、前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrの算出値に従って配分した制動力が車輪に付与されるように摩擦制動装置70および回生制動装置80を作動させることができる。
【0028】
<車両運動>
図3を用いて、車両90を制動する際に車両90に作用する力を例示するとともに、車両90におけるばね上の運動について説明する。
【0029】
図3は、側方から見た車両90を示している。
図3には、車輪における前輪のうち左前輪FLおよび車輪における後輪のうち左後輪RLを図示している。
図3には、車両90の車両重心GCを表示している。
【0030】
以下、
図3を参照する説明では、左前輪FLに関して説明して、左前輪FLに対して対称な右前輪に関する説明を省略することがある。同様に、左後輪RLに関して説明して、左後輪RLに対して対称な右後輪に関する説明を省略することがある。
【0031】
図3には、車両90の前後方向における車両重心GCと前輪の車軸との間の水平距離を第1距離Lfと表示している。
図3には、車両90の前後方向における車両重心GCと後輪の車軸との間の水平距離を第2距離Lrと表示している。第1距離Lfと第2距離Lrとの和は、車両90のホイールベースLに相当する。
【0032】
図3には、車両90を制動する際に車両重心GCの周りに発生するピッチングモーメントMを例示する矢印を表示している。ピッチングモーメントMは、車両重心GCに作用する慣性力、路面から車両重心GCまでの高さ、第1距離Lfおよび第2距離Lrに基づいて算出することができる。車両90を制動する際には、車両重心GCに前向きの慣性力が作用する。このため、ピッチングモーメントMは、車体91における前輪側の部分である車体前部を下方に変位させる力となる。ピッチングモーメントMは、車体91における後輪側の部分である車体後部を上方に変位させる力でもある。すなわち、ピッチングモーメントMは、車体91を前傾させる力である。
【0033】
車両90が前傾する度合いをピッチ角として表す。本実施形態では、ピッチ角は、車両90が水平である場合よりも車両前部が下方に位置するほど、大きい値をとる。すなわち、ピッチ角が大きいほど、車両90が大きく前傾した姿勢であることを示す。ピッチ角が「0」に近いほど、前傾の度合いが小さいことを示す。言い換えれば、ピッチ角が「0」に近いほど、車両90が水平に近い姿勢であることを示す。
【0034】
車体91を上下に浮き沈みさせる運動のことをバウンス運動という。本実施形態では、バウンス運動によって車両重心GCが沈み込む量のことをバウンス量という。本実施形態では、バウンス量は、車体91が沈み込む時には「0」以上の値をとる。すなわち、車体91が沈み込むほどバウンス量はより大きい値となる。
図3には、車両重心GCが沈み込む方向を示す矢印をバウンス方向Zとして表示している。
【0035】
摩擦制動力は車輪と路面との接地点に作用する。一方で、回生制動力は車輪が車軸に取り付けられている点に作用する。
図3には、前輪摩擦制動力Fxfbが作用する第1作用点PA1、前輪回生制動力Fxfdが作用する第2作用点PA2、後輪摩擦制動力Fxrbが作用する第3作用点PA3および後輪回生制動力Fxrdが作用する第4作用点PA4を示している。
【0036】
図3には、車輪の瞬間回転中心を表示している。車両90を制動する際における左前輪FLの瞬間回転中心を前輪回転中心Cfと表示している。第1作用点PA1と前輪回転中心Cfとを繋ぐ直線と、路面とがなす角度を第1角度θfbと表示している。第2作用点PA2と前輪回転中心Cfとを繋ぐ直線と、路面とがなす角度を第2角度θfdと表示している。前輪回転中心Cfに対する第1作用点PA1と第2作用点PA2との位置関係から、第1角度θfbの方が第2角度θfdよりも大きい。また、車両90を制動する際における左後輪RLの瞬間回転中心を後輪回転中心Crと表示している。第3作用点PA3と後輪回転中心Crとを繋ぐ直線と、路面とがなす角度を第3角度θrbと表示している。第4作用点PA4と後輪回転中心Crとを繋ぐ直線と、路面とがなす角度を第4角度θrdと表示している。後輪回転中心Crに対する第3作用点PA3と第4作用点PA4との位置関係から、第3角度θrbの方が第4角度θrdよりも大きい。
【0037】
なお、各瞬間回転中心の位置は、サスペンション装置の特性によって定まる。
図3に示した各瞬間回転中心の位置は、一例であり、実際の瞬間回転中心の位置を表すものではない。このため、第1角度θfb、第2角度θfd、第3角度θrbおよび第4角度θrdの大きさについても、実際の角度の大きさを示すものではない。
【0038】
図3を用いて、車両90の姿勢を変化させる力について説明する。
図3には、前輪用のサスペンション装置によって車両90に作用する力として、アンチダイブ力FADを白抜き矢印で表示している。
図3には、後輪用のサスペンション装置によって車両90に作用する力として、アンチリフト力FALを白抜き矢印で表示している。なお、白抜き矢印は、力の方向を示すものであり、実際の力の大きさを表すものではない。
【0039】
アンチダイブ力FADについて説明する。アンチダイブ力FADは、前輪に制動力が付与されることによって作用する力である。アンチダイブ力FADは、車体前部が沈み込むことを抑制する力である。アンチダイブ力FADが作用する方向は、車両前部を路面から離すように変位させる方向である。
【0040】
アンチリフト力FALについて説明する。アンチリフト力FALは、後輪に制動力が付与されることによって作用する力である。アンチリフト力FALは、車体後部が浮き上がることを抑制する力である。アンチリフト力FALが作用する方向は、車両後部を路面に近づけるように変位させる方向である。
【0041】
アンチダイブ力FADは、下記の関係式(式1)として表すことができる。アンチリフト力FALは、下記の関係式(式2)として表すことができる。
【0042】
【数1】
関係式(式1)に示すように、アンチダイブ力FADは、前後配分比nが同一の場合には、車両制動力Fxが大きいほど大きな力となる。アンチダイブ力FADは、車両制動力Fxが同一の場合には、前後配分比nが大きいほど大きな力となる。すなわち、アンチダイブ力FADは、前輪制動力Fxfが大きいほど大きな力となる。
【0043】
図3に示すように、第1角度θfbが第2角度θfdよりも大きいため、前輪摩擦制動力Fxfbの方が前輪回生制動力Fxfdよりもアンチダイブ力FADに対する寄与が大きい。つまり、前輪制動力Fxfに占める前輪回生制動力Fxfdの割合よりも前輪制動力Fxfに占める前輪摩擦制動力Fxfbの割合を大きくする場合、言い換えれば、前輪摩擦回生比nfを大きくする場合には、アンチダイブ力FADが大きくなる。一方、前輪制動力Fxfに占める前輪摩擦制動力Fxfbの割合よりも前輪制動力Fxfに占める前輪回生制動力Fxfdの割合を大きくする場合、言い換えれば、前輪摩擦回生比nfを小さくする場合には、アンチダイブ力FADが小さくなる。
【0044】
関係式(式2)に示すように、アンチリフト力FALは、前後配分比nが同一の場合には、車両制動力Fxが大きいほど大きな力となる。アンチリフト力FALは、車両制動力Fxが同一の場合には、前後配分比nが小さいほど大きな力となる。すなわち、アンチリフト力FALは、後輪制動力Fxrが大きいほど大きな力となる。
【0045】
図3に示すように、第3角度θrbが第4角度θrdよりも大きいため、後輪摩擦制動力Fxrbの方が後輪回生制動力Fxrdよりもアンチリフト力FALに対する寄与が大きい。つまり、後輪制動力Fxrに占める後輪回生制動力Fxrdの割合よりも後輪制動力Fxrに占める後輪摩擦制動力Fxrbの割合を大きくする場合、言い換えれば、後輪摩擦回生比nrを大きくする場合には、アンチリフト力FALが大きくなる。一方、後輪制動力Fxrに占める後輪摩擦制動力Fxrbの割合よりも後輪制動力Fxrに占める後輪回生制動力Fxrdの割合を大きくする場合、言い換えれば、後輪摩擦回生比nrを小さくする場合には、アンチリフト力FALが小さくなる。
【0046】
<制動制御装置>
制動制御装置10は、車両90を制御対象とする処理回路によって構成される。制動制御装置10は、車両90の減速度の目標に応じて、回生制動装置80および摩擦制動装置70を作動させて車両90の制動力を制御する。
【0047】
制動制御装置10は、各種の制御を実行する複数の機能部によって構成されている。
図1には、機能部の一例として、目標減速度算出部11、姿勢目標算出部12、配分比算出部13、指示値算出部14および摩擦制御部15を示している。制動制御装置10が備える各機能部は、互いに情報の送受信が可能である。
【0048】
<目標減速度算出部>
目標減速度算出部11は、車両90の減速度の目標として目標減速度DVTを算出することができる。減速度は、車両90の速度の変化率を示す。本実施形態では、減速度は、車両90が減速している際に正の値をとる。減速度は、車両90の速度が減速方向に大きく変化しているほど大きい値をとる。
【0049】
目標減速度算出部11は、操作量Bpに基づいて目標減速度DVTを算出する。目標減速度算出部11は、操作量Bpが大きいほど目標減速度DVTを大きく算出する。
また、目標減速度算出部11は、車両90の減速度を目標減速度DVTに追従させるための車両制動力Fxの目標として操作量Bpに基づいて要求制動力FxRを算出することもできる。
【0050】
<姿勢目標算出部>
姿勢目標算出部12は、目標減速度DVTに基づいて、車両90のピッチング姿勢の目標および車両90の沈み込み姿勢の目標を算出する。ピッチング姿勢の目標としては、たとえば、ピッチ角の目標値を挙げることができる。ピッチング姿勢の目標は、ピッチ角の目標値を達成するピッチモーメントの目標値でもよい。沈み込み姿勢の目標としては、たとえば、バウンス量の目標値を挙げることができる。沈み込み姿勢の目標は、バウンス量の目標値を達成するバウンス力の目標値でもよい。
【0051】
図4を用いて、姿勢目標算出部12の機能を詳細に説明する。
姿勢目標算出部12は、目標減速度算出部11によって算出された目標減速度DVTを取得する。姿勢目標算出部12は、ピッチ角の目標値として目標ピッチ角Θreqを算出する。姿勢目標算出部12は、目標ピッチ角Θreqを達成するための目標ピッチモーメントMreqを算出する。ここで、前輪のアンチダイブ力FADおよび後輪のアンチリフト力FALが作用することによって発生される後転方向のモーメントを制御可能モーメントMaとする。制御可能モーメントMaは、ピッチングモーメントMを抑制する方向に働くモーメントである。目標ピッチモーメントMreqは、ピッチングモーメントMを制御可能モーメントMaによって抑制したモーメントの目標値といえる。姿勢目標算出部12は、バウンス量の目標値として目標バウンス量DZreqを算出する。姿勢目標算出部12は、目標バウンス量DZreqを達成するための目標バウンス力Zreqを算出する。
【0052】
姿勢目標算出部12は、目標減速度DVTが大きいほど車両90のピッチング運動が大きくなるように目標ピッチ角Θreqを算出する。姿勢目標算出部12は、目標ピッチ角Θreqに基づいて、目標減速度DVTが大きいほど大きくなるように目標ピッチモーメントMreqを算出する。姿勢目標算出部12は、目標減速度DVTが大きいほど車両90のバウンス運動が大きくなるように目標バウンス量DZreqを算出する。姿勢目標算出部12は、目標バウンス量DZreqに基づいて、目標減速度DVTが大きいほど大きくなるように目標バウンス力Zreqを算出する。
【0053】
なお、姿勢目標算出部12は、目標ピッチ角Θreqと目標ピッチモーメントMreqとの関係に基づいた目標減速度DVTに対応する関数を用いて、目標減速度DVTを入力として目標ピッチモーメントMreqを算出してもよい。同様に、姿勢目標算出部12は、目標バウンス量DZreqと目標バウンス力Zreqとの関係に基づいた目標減速度DVTに対応する関数を用いて、目標減速度DVTを入力として目標バウンス力Zreqを算出してもよい。
【0054】
目標ピッチモーメントMreqおよび目標バウンス力Zreqを算出する態様の一例を説明する。たとえば、姿勢目標算出部12には、目標減速度DVTに対応する目標ピッチモーメントMreqおよび目標バウンス力Zreqを算出する演算マップ12aが記憶されている。演算マップ12aには、目標減速度DVTと目標ピッチモーメントMreqと目標バウンス力Zreqとの関係として予め実験等によって算出された関係が設定されている。
図4には、当該演算マップ12aが示す目標減速度DVTと目標ピッチモーメントMreqと目標バウンス力Zreqとの関係を例示している。
【0055】
姿勢目標算出部12は、演算マップ12aに基づいて、目標減速度DVTが大きいほど目標ピッチモーメントMreqを大きく算出することができる。
図4には、目標減速度DVTと目標ピッチモーメントMreqとの関係として、目標減速度DVTが大きくなるほど目標ピッチモーメントMreqが一次関数的に大きくなる例を示している。目標減速度DVTと目標ピッチモーメントMreqとの関係は、
図4に示す例に限らない。
【0056】
姿勢目標算出部12は、演算マップ12aに基づいて、目標減速度DVTが大きいほど目標バウンス力Zreqを大きく算出することができる。
図4には、目標減速度DVTと目標バウンス力Zreqとの関係として、目標減速度DVTが大きくなるほど目標バウンス力Zreqが一次関数的に大きくなる例を示している。目標減速度DVTと目標バウンス力Zreqとの関係は、
図4に示す例に限らない。
【0057】
<配分比算出部>
配分比算出部13は、配分比算出処理を実行する。配分比算出部13は、配分比算出処理では、ピッチング姿勢の目標および沈み込み姿勢の目標が示す姿勢に車両90の姿勢を追従させるように、前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrを算出する。すなわち、配分比算出部13は、車両90のピッチ角が目標ピッチ角Θreqに追従するとともに、車両90のバウンス量が目標バウンス量DZreqに追従するように、前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrを算出する。配分比算出部13が実行する処理の詳細は、後述する。
【0058】
<指示値算出部および摩擦制御部>
指示値算出部14は、要求制動力FxR、前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrを取得する。指示値算出部14は、要求制動力FxR、前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrに基づいて、摩擦制動装置70および回生制動装置80を作動させる指示値を算出する。
【0059】
指示値算出部14は、摩擦制動装置を作動させる指示値として摩擦制動力要求値FxbRを算出する。摩擦制動力要求値FxbRは、前輪摩擦制動力Fxfbに対応する指示値と、後輪摩擦制動力Fxrbに対応する指示値と、を含む。摩擦制御部15は、摩擦制動力要求値FxbRに従って摩擦制動装置70を作動させる。
【0060】
指示値算出部14は、回生制動装置を作動させる指示値として回生制動力要求値FxdRを算出する。回生制動力要求値FxdRは、前輪回生制動力Fxfdに対応する指示値と、後輪回生制動力Fxrdに対応する指示値と、を含む。回生制動力要求値FxdRは、回生制御装置20に送信される。回生制動力要求値FxdRに従って、回生制御装置20によって回生制動装置80が作動される。
【0061】
<配分比算出処理>
配分比算出部13が前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrを算出する態様の一例を説明する。
【0062】
図5は、配分比算出部13が配分比算出処理を実行する際の処理の流れを示す。本処理ルーチンは、車両90の制動中に所定の周期毎に繰り返し実行される。
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS101では、配分比算出部13は、目標ピッチ角Θreqに対応する目標ピッチモーメントMreqおよび目標バウンス量DZreqに対応する目標バウンス力Zreqを取得する。配分比算出部13は、姿勢目標算出部12によって算出された目標ピッチモーメントMreqおよび目標バウンス力Zreqに基づいて、前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrを算出する。
【0063】
ステップS101において配分比算出部13が行う処理の一例を説明する。
前輪摩擦回生比nfは、車両90の運動方程式に基づいて、下記の関係式(式3)として表すことができる。後輪摩擦回生比nrは、車両90の運動方程式に基づいて、下記の関係式(式4)として表すことができる。
【0064】
【数2】
関係式(式3)および関係式(式4)において、「M´」は、下記の関係式(式5)に示すように目標ピッチモーメントMreqを要求制動力FxRで除した値である。関係式(式3)および関係式(式4)において、「Z´」は、下記の関係式(式6)に示すように目標バウンス力Zreqを要求制動力FxRで除した値である。関係式(式3)および関係式(式4)において、「a」、「b」、「c」、「d」は、順に、下記の関係式(式7)、関係式(式8)、関係式(式9)、関係式(式10)に示す通りである。すなわち、「a」、「b」、「c」、「d」は、順に、第1角度θfbの正接、第2角度θfdの正接、第3角度θrbの正接、第4角度θrdの正接である。
【0065】
【数3】
配分比算出部13は、関係式(式3)および関係式(式4)の連立方程式の解として、前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrを算出する。
図6を用いて一例を説明する。
【0066】
図6は、第1軸として横軸に前後配分比nをとり第2軸として縦軸に前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrをとった直交座標系を示す。
図6には、関係式(式3)の関数を実線で示している。
図6には、関係式(式4)の関数を破線で示している。配分比算出部13は、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrを等しい値として解を求める。すなわち、
図6に示す実線と破線との交点(X,Y)の横軸座標値「X」を前後配分比nとして、当該交点の縦軸座標値「Y」を前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrとして算出する。
【0067】
図5に戻り、ステップS101の処理では上記に例示したように、配分比算出部13によって前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrが算出される。この結果として、指示値算出部14によって摩擦制動力要求値FxbRおよび回生制動力要求値FxdRが算出される。摩擦制動力要求値FxbRに基づいて、摩擦制御部15によって摩擦制動装置70が作動される。また、回生制動力要求値FxdRに基づいて、回生制御装置20によって回生制動装置80が作動される。
【0068】
ステップS101の処理で前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrを算出すると、配分比算出部13は、処理をステップS102に移行する。
ステップS102では、配分比算出部13は、回生制動力実行値Fxdを取得する。配分比算出部13は、回生制御装置20から回生制動力実行値Fxdを取得すると、処理をステップS103に移行する。
【0069】
ステップS103では、配分比算出部13は、前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrを再算出する。たとえば、配分比算出部13は、回生制動力要求値FxdRが回生制動力実行値Fxd以下の値となるように、関係式(式3)および関係式(式4)の連立方程式を解く。配分比算出部13は、再び算出した値によって前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrを更新する。この結果として、指示値算出部14は、再算出された値に基づいて摩擦制動力要求値FxbRおよび回生制動力要求値FxdRを算出する。ステップS103の処理において前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrを再算出すると、配分比算出部13は、本処理ルーチンを終了する。
【0070】
<第1実施形態の作用および効果>
第1実施形態の作用および効果について説明する。
アンチダイブ力FADおよびアンチリフト力FALは、上記関係式(式1)および(式2)に示したように、前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrによって変化する値である。前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrを調整することによって、車両90に発生するアンチダイブ力FADおよびアンチリフト力FALを調整できる。すなわち、前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrを設定することによって、車両90の姿勢を制御できる。
【0071】
制動制御装置10によって制御される車両90の試走によって、以下のことを確認できた。減速度に応じてピッチ角を変動させることができた。減速度に応じてバウンス量を変動させることができた。ピッチ角とバウンス量とに所定の規則的な関係を持たせることができた。車両90における実際の減速度、ピッチ角およびバウンス量等は、たとえば加速度センサおよびジャイロセンサ等のセンサを用いることによって検出できる。
図7を用いて一例を説明する。
【0072】
図7は、第1実施形態の制動制御装置10を適用した場合のピッチ角とバウンス量との関係を実線で例示している。
図7には、比較例として、目標ピッチモーメントMreqおよび目標バウンス力Zreqに基づく本実施形態の制御を行わない場合の例を二点鎖線で示している。
【0073】
比較例の場合には、
図7に二点鎖線で示すように、ピッチ角に対してバウンス量が不規則に変動することがある。たとえば、ピッチ角が増大してもバウンス量が減少するような場合がある。
【0074】
これに対して、制動制御装置10によれば、減速度に比例してピッチ角を変動させることができる。減速度に比例してバウンス量を変動させることができる。これによって、
図7に実線で示すように、ピッチ角とバウンス量との間に比例関係を持たせることができる。
【0075】
制動制御装置10によれば、目標減速度DVTに応じた目標ピッチ角Θreqおよび目標バウンス量DZreqに車両90の姿勢が追従するように前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrが算出される。前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrは、目標ピッチモーメントMreqおよび目標バウンス力Zreqに基づいて算出される。算出した前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrに従って摩擦制動力および回生制動力を制御することができる。これによって、目標減速度DVTに対してピッチ角およびバウンス量に相関を持たせることができる。減速度に対応して車両90の姿勢が制御されることで、車両90の搭乗者が減速度から推定する車両90の姿勢と、実際の車両90の姿勢とが乖離することを抑制できる。
【0076】
制動制御装置10では、目標ピッチ角Θreq、目標ピッチモーメントMreq、目標バウンス量DZreqおよび目標バウンス力Zreqは、目標減速度DVTに基づいて算出される。目標減速度DVTは、操作量Bpに基づいて算出される。このため、制動制御装置10によれば、車両90の運転者が行う操作に対する車両90の姿勢の追従性を向上させることができる。これによって、運転者が操作した結果としての車両90の挙動に運転者が違和感を覚えることを抑制できる。
【0077】
(第2実施形態)
第2実施形態の制動制御装置について、
図9~
図13を参照して説明する。
第2実施形態の制動制御装置は、第1実施形態の姿勢目標算出部12に替えて姿勢目標算出部112を備えている。すなわち、第2実施形態は、姿勢目標算出部112によって目標ピッチモーメントMreqおよび目標バウンス力Zreqを算出する点で、第1実施形態と異なる。第2実施形態における他の構成は、第1実施形態と共通である。第1実施形態と共通の構成については適宜説明を省略する。
【0078】
第2実施形態では、車両90の運転者が車両90の減速を感じ取りやすいように車両90の姿勢を制御することを目的とする。具体的には、制動し始めではピッチ角加速度を大きくすることでピッチ角速度を大きくする。制動中における減速度の増大に応じてピッチ角速度を徐々に小さくする。また、減速度の増大に応じてピッチ角の変化を小さくする。さらに、制動中における減速度の増大に応じてバウンス量をより大きくする。
【0079】
図9に示すように、姿勢目標算出部112は、ピッチングゲイン算出部112aと、沈み込みゲイン算出部112bと、を備えている。
姿勢目標算出部112は、目標減速度算出部11によって算出された目標減速度DVTを取得する。目標減速度DVTは、ピッチングゲイン算出部112aおよび沈み込みゲイン算出部112bに入力される。
【0080】
ピッチングゲイン算出部112aは、目標減速度DVTに基づいてピッチ角ゲインKtΘを算出する。姿勢目標算出部112は、ピッチ角ゲインKtΘとピッチ角ベースΘbaseとを乗算することで目標ピッチ角Θreqを算出する。
【0081】
ピッチ角ゲインKtΘは、目標減速度DVTに応じて目標ピッチ角Θreqを調整するための値である。
ピッチ角ベースΘbaseは、目標ピッチ角Θreqを算出する基準となる。ピッチ角ベースΘbaseは、ピッチ角ゲインKtΘが「1」である場合における、目標減速度DVTに対する目標ピッチ角Θreqの関係といえる。ピッチ角ベースΘbaseは、予め算出された値として姿勢目標算出部112に記憶されている。たとえば、ピッチ角ベースΘbaseは、前後等圧配分で車両90に制動力を発生させた場合の、減速度に対するピッチ角の関係とすることができる。前後等圧配分で制動力を発生させるとは、前輪回生制動力Fxfdおよび後輪回生制動力Fxrdを「0」として、且つ、前輪および後輪の各ホイールシリンダ内の液圧を等しくするように前輪摩擦制動力Fxfbと後輪摩擦制動力Fxrbを発生させることをいう。前輪のホイールシリンダ内の液圧は、前輪に付与する摩擦制動力の大きさに対応する押圧力の一例である。後輪のホイールシリンダ内の液圧は、後輪に付与する摩擦制動力の大きさに対応する押圧力の一例である。
【0082】
沈み込みゲイン算出部112bは、目標減速度DVTに基づいてバウンス量ゲインKtZを算出する。姿勢目標算出部112は、バウンス量ゲインKtZとバウンス量ベースDZbaseとを乗算することで目標バウンス量DZreqを算出する。
【0083】
バウンス量ゲインKtZは、目標減速度DVTに応じて目標バウンス量DZreqを調整するための値である。
バウンス量ベースDZbaseは、目標バウンス量DZreqを算出する基準となる。バウンス量ベースDZbaseは、バウンス量ゲインKtZが「1」である場合における、目標減速度DVTに対する目標バウンス量DZreqの関係といえる。バウンス量ベースDZbaseは、予め算出された値として姿勢目標算出部112に記憶されている。たとえば、バウンス量ベースDZbaseは、前後等圧配分で車両90に制動力を発生させた場合の、減速度に対するバウンス量の関係とすることができる。
【0084】
姿勢目標算出部112は、目標ピッチ角Θreqに基づいて、目標ピッチモーメントMreqを算出する。姿勢目標算出部112は、目標バウンス量DZreqに基づいて、目標バウンス力Zreqを算出する。
【0085】
図9を用いて、姿勢目標算出部112の機能を詳細に説明する。
姿勢目標算出部112は、目標減速度DVTが小さい場合におけるピッチ増加割合を目標減速度DVTが大きい場合におけるピッチ増加割合よりも大きくするように、目標ピッチ角Θreqを算出する。ここで、上記ピッチ増加割合は、目標減速度DVTの増加に対して車両90のピッチング運動が大きくなる方向へ目標ピッチ角Θreqが変化する割合をいう。言い換えれば、同じ速度で車両90の減速度が増加した場合、減速度が小さい領域ではピッチ角の変化速度が高く、減速度が大きい領域ではピッチ角の変化速度が低くなる。
【0086】
より詳しくは、姿勢目標算出部112は、目標減速度DVTが小さい場合にはピッチ増加割合を基準ピッチ割合よりも大きくするように、目標ピッチ角Θreqを算出する。姿勢目標算出部112は、一方で、目標減速度DVTが大きい場合にはピッチ増加割合を基準ピッチ割合以下にするように、目標ピッチ角Θreqを算出する。ここで、上記基準ピッチ割合は、前後等圧配分で車両90に制動力を発生させた場合の、減速度の増加に対して車両90のピッチング運動が大きくなる方向へピッチ角が変化する割合をいう。
【0087】
姿勢目標算出部112は、目標減速度DVTが小さい場合におけるバウンス増加割合を目標減速度DVTが大きい場合におけるバウンス増加割合よりも小さくするように、目標バウンス量DZreqを算出する。ここで、上記バウンス増加割合は、目標減速度DVTの増加に対して車両90のバウンス運動が大きくなる方向へ目標バウンス量DZreqが変化する割合をいう。
【0088】
より詳しくは、姿勢目標算出部112は、目標減速度DVTが小さい場合にはバウンス増加割合を基準バウンス割合よりも小さくするように、目標バウンス量DZreqを算出する。姿勢目標算出部112は、一方で、目標減速度DVTが大きい場合にはバウンス増加割合を基準バウンス割合以上にするように、目標バウンス量DZreqを算出する。ここで、上記基準バウンス割合は、前後等圧配分で車両90に制動力を発生させた場合の、減速度の増加に対して車両90のバウンス運動が大きくなる方向へバウンス量が変化する割合をいう。
【0089】
<ピッチ角ゲイン>
ピッチングゲイン算出部112aがピッチ角ゲインKtΘを算出する態様の一例を説明する。たとえば、ピッチングゲイン算出部112aには、目標減速度DVTに対応するピッチ角ゲインKtΘを算出する演算マップが記憶されている。演算マップには、目標減速度DVTとピッチ角ゲインKtΘとの関係として予め実験等によって算出された関係が設定されている。
図9には、当該演算マップが示す目標減速度DVTとピッチ角ゲインKtΘとの関係を例示している。
【0090】
図9に例示する目標減速度DVTとピッチ角ゲインKtΘとの関係について説明する。
目標減速度DVTが第1減速度dv1よりも小さい範囲では、ピッチ角ゲインKtΘは、「1」よりも大きい一定の値である。
【0091】
目標減速度DVTが第1減速度dv1以上の範囲では、ピッチ角ゲインKtΘは、目標減速度DVTが大きくなるほど減少している。
詳しくは、目標減速度DVTが第1減速度dv1以上であり第2減速度dv2よりも小さい範囲では、ピッチ角ゲインKtΘは、一定の勾配で減少している。第2減速度dv2に対応するピッチ角ゲインKtΘは、「1」よりも小さくなっている。目標減速度DVTが第2減速度dv2以上である範囲では、ピッチ角ゲインKtΘは、上記所定の勾配と比較して、目標減速度DVTの増加に対してピッチ角ゲインKtΘが減少する割合が小さくなるように減少している。すなわち、第2減速度dv2を境界にして、目標減速度DVTが第2減速度dv2よりも小さい範囲と目標減速度DVTが第2減速度dv2以上である範囲とで、目標減速度DVTの増加に対してピッチ角ゲインKtΘが減少する割合を変更している。
【0092】
なお、第1減速度dv1は、第2減速度dv2よりも小さい値であり、たとえば、「0」よりも僅かに大きい程度に小さい値である。第2減速度dv2については後述する。
目標減速度DVTとピッチ角ゲインKtΘとの関係は、
図9に示す例に限らない。たとえば、目標減速度DVTが「0」から第2減速度dv2までの範囲において所定の勾配でピッチ角ゲインKtΘが減少するようにしてもよい。
【0093】
図11を用いて、姿勢目標算出部112が算出する目標ピッチ角Θreqによって実現する姿勢制御を説明する。
図11は、目標減速度DVTに対するピッチ角の平均変化率(ΔΘ/ΔDV)の関係を示す。
図11における実線は、姿勢目標算出部112が算出する目標ピッチ角Θreqに車両90の姿勢を追従させるように制動力を発生させた場合の関係を示す。
図11における二点鎖線は、前後等圧配分で車両90に制動力を発生させた場合の関係を比較例として示す。ピッチ角の平均変化率は、ピッチ増加割合に対応する。二点鎖線で示すピッチ角の平均変化率は、基準ピッチ割合に対応する。
【0094】
図11に実線で示すように、姿勢目標算出部112は、目標減速度DVTが第1減速度dv1よりも小さい範囲では、二点鎖線で示す比較例の場合よりも、ピッチ角の平均変化率を大きく増加させるように目標ピッチ角Θreqを算出する。目標減速度DVTが第1減速度dv1以上であり第2減速度dv2よりも小さい範囲では、姿勢目標算出部112は、ピッチ角の平均変化率を徐々に小さくするように目標ピッチ角Θreqを算出する。これによって、目標減速度DVTが大きい範囲では実線で示すピッチ増加割合が二点鎖線で示す基準ピッチ割合以下になっている。目標減速度DVTが第2減速度dv2以上の範囲では、姿勢目標算出部112は、ピッチ角の平均変化率が一定になるように目標ピッチ角Θreqを算出する。言い換えれば、目標減速度DVTが第2減速度dv2以上の範囲において、ピッチ角の平均変化率の変化を止めるように、ピッチ角ゲインKtΘが算出されている。
【0095】
図10を用いて、第2減速度dv2の設定に関する考え方を説明する。
図10には、制動時に前輪と後輪とが同時にロックするような前後配分比を理想制動力配分比率として破線で例示している。さらに、
図9に示した目標減速度DVTが第1減速度dv1以上であり第2減速度dv2よりも小さい範囲でピッチ角ゲインKtΘを減少させる勾配を仮に全ての目標減速度の領域に適用した場合における制動力の推移を実線で例示している。
【0096】
ここで、車両90において、摩擦制動力によるアンチダイブ係数Adは、下記の関係式(式11)として表すことができる。摩擦制動力によるアンチリフト係数Alは、下記の関係式(式12)として表すことができる。また、回生制動力によるアンチダイブ係数Adrは、下記の関係式(式13)として表すことができる。回生制動力によるアンチリフト係数Alrは、下記の関係式(式14)として表すことができる。
【0097】
【数4】
第2実施形態では、車両90として、アンチリフト係数Alがアンチダイブ係数Ad以上である車両を対象としている。このため、車両90のピッチ角の変化を小さく制御するように制動力を増大させていくには、制動力が増大するほど後輪制動力の割合が大きくなる。こうした傾向によれば、
図10に示す理想制動力配分比率に基づいて、実線と破線との交点よりも後輪制動力が大きい範囲では制動力を大きくするほど後輪がロックしやすいため制動力の増大が車両の姿勢制御に寄与しないといえる。言い換えれば、実線と破線との交点よりも制動力が大きい範囲では、制動力を積極的に大きくしてもピッチ角の変化を小さくすることを実現できない。そこで、第2実施形態では、実線と破線との交点よりも制動力が大きい範囲においては、あえてピッチ角の変化を小さくすることをしないように目標ピッチ角Θreqを算出するように構成する。第2実施形態では、上記交点での制動力に対応する目標減速度DVTが第2減速度dv2に相当している。
【0098】
<バウンス量ゲイン>
図9に戻り、沈み込みゲイン算出部112bがバウンス量ゲインKtZを算出する態様の一例を説明する。たとえば、沈み込みゲイン算出部112bには、目標減速度DVTに対応するバウンス量ゲインKtZを算出する演算マップが記憶されている。演算マップには、目標減速度DVTとバウンス量ゲインKtZとの関係として予め実験等によって算出された関係が設定されている。
図9には、当該演算マップが示す目標減速度DVTとバウンス量ゲインKtZとの関係を例示している。
【0099】
図9に例示する目標減速度DVTとバウンス量ゲインKtZとの関係について説明する。
目標減速度DVTが第1減速度dv1よりも小さい範囲では、バウンス量ゲインKtZは、「1」よりも小さい一定の値である。
【0100】
目標減速度DVTが第1減速度dv1以上の範囲では、バウンス量ゲインKtZは、目標減速度DVTが大きくなるほど増加している。
詳しくは、目標減速度DVTが第1減速度dv1以上であり第2減速度dv2よりも小さい範囲では、バウンス量ゲインKtZは、一定の勾配で増加している。第2減速度dv2に対応するバウンス量ゲインKtZは、「1」よりも大きくなっている。目標減速度DVTが第2減速度dv2以上である範囲では、バウンス量ゲインKtZは、上記所定の勾配と比較して、目標減速度DVTの増加に対してバウンス量ゲインKtZが増加する割合が小さくなるように増加している。すなわち、第2減速度dv2を境界にして、目標減速度DVTが第2減速度dv2よりも小さい範囲と目標減速度DVTが第2減速度dv2以上である範囲とで、目標減速度DVTの増加に対してバウンス量ゲインKtZが増加する割合を変更している。
【0101】
目標減速度DVTとバウンス量ゲインKtZとの関係は、
図9に示す例に限らない。たとえば、目標減速度DVTが「0」から第2減速度dv2までの範囲において所定の勾配でバウンス量ゲインKtZが増加するようにしてもよい。
【0102】
図12を用いて、姿勢目標算出部112が算出する目標バウンス量DZreqによって実現する姿勢制御を説明する。
図12は、目標減速度DVTに対するバウンス量の平均変化率(ΔDZ/ΔDV)の関係を示す。
図12における実線は、姿勢目標算出部112が算出する目標バウンス量DZreqに車両90の姿勢を追従させるように制動力を発生させた場合の関係を示す。
図12における二点鎖線は、前後等圧配分で車両90に制動力を発生させた場合の関係を比較例として示す。バウンス量の平均変化率は、バウンス増加割合に対応する。二点鎖線で示すバウンス量の平均変化率は、基準バウンス割合に対応する。
【0103】
図12に実線で示すように、姿勢目標算出部112は、目標減速度DVTが小さい範囲では、二点鎖線で示す比較例の場合よりも、バウンス量の平均変化率を小さくするように目標バウンス量DZreqを算出する。姿勢目標算出部112は、目標減速度DVTが第1減速度dv1よりも小さい範囲では、バウンス量が「0」よりも減少する方向に変化すること、すなわち車両90が浮き上がる方向にバウンス量が変化することを許容している。目標減速度DVTが第1減速度dv1以上であり第2減速度dv2よりも小さい範囲では、姿勢目標算出部112は、バウンス量の平均変化率を徐々に大きくするように目標バウンス量DZreqを算出する。これによって、目標減速度DVTが大きい範囲では実線で示すバウンス増加割合が二点鎖線で示す基準バウンス割合以上になっている。目標減速度DVTが第2減速度dv2以上の範囲では、姿勢目標算出部112は、バウンス量の平均変化率が一定になるように目標バウンス量DZreqを算出する。言い換えれば、目標減速度DVTが第2減速度dv2以上の範囲において、バウンス量の平均変化率の変化を止めるように、バウンス量ゲインKtZが算出されている。
【0104】
<第2実施形態の作用および効果>
図13を用いて、第2実施形態の作用および効果について説明する。
図13に示す例では、タイミングt11から制動が開始されている。すなわち、タイミングt11から姿勢目標算出部112が算出する目標ピッチモーメントMreqおよび目標バウンス量DZreqに基づいて、車両90の姿勢が制御されている。
【0105】
図13の(a)および(b)には、第2実施形態における制御を適用した場合の例を実線で示している。
図13の(a)および(b)には、比較例として、車両90の姿勢制御を行わない場合の例を二点鎖線で示している。
【0106】
図13の(c)には、車両制動力Fxを破線で示す。回生制動力実行値Fxdを実線で示す。比較例としての回生制動力実行値Fxdを二点鎖線で示す。
図13の(c)に破線で示すように、タイミングt11から車両制動力Fxが徐々に増大している。すなわち、目標減速度DVTが増大している。
【0107】
目標減速度DVTが比較的小さい制動初期では、
図13の(a)に示すように、ピッチ角加速度が大きいことで、比較例に比してピッチ角速度がより早い時期から大きくなっている。このため、
図13の(b)に示すように、ピッチ角がより早い時期から大きくなっている。このように第2実施形態によれば、制動初期、すなわち車両90の運転者が制動操作部材92を操作し始めたタイミングから、ピッチ角速度が大きくされる。そして、ピッチ角が大きくされる。
【0108】
図13の(a)に示すように、制動初期に大きくされたピッチ角速度は、徐々に小さくされている。このため、
図13の(b)に示すように、ピッチ角の変化量が徐々に小さくなっている。このように第2実施形態によれば、制動中期、すなわち目標減速度DVTが徐々に増大している間は、目標減速度DVTの増大に応じてピッチ角速度が小さくされる。
【0109】
第2実施形態によれば、
図13の(c)における特にタイミングt12以降のように、摩擦制動力実行値Fxbが占める割合を大きくして回生制動力実行値Fxdが占める割合を小さくしている。これによって、車両90に発生するアンチダイブ力FADおよびアンチリフト力FALを調整して、
図13の(a)および(b)に示すような姿勢制御が実現されている。
【0110】
第2実施形態の姿勢目標算出部112によって算出される目標値に追従するように車両90が制御されることで、車両90の運転者に対して、制動初期および制動中期において次のような感覚を提供することができる。
【0111】
制動初期では、車両90のピッチ角が大きく変動することによって、車両90の運転者の視界に入る情報が変化する。たとえば、車両90のダッシュボードが下方に移動するように見える。運転者は、視覚から得られる情報が変化することによって、車両90の減速を感じ取ることができる。さらに、車両90のピッチ角が大きく変動することによって、座席によって上半身が押される形になり、運転者の上半身が前傾することを促すことができる。
【0112】
制動中期では、車両90のピッチ角速度が徐々に小さくなることによって、運転者の頭部が揺動することを抑制できる。たとえば耳石器が受ける刺激を軽減することができる。これによって、運転者の平衡感覚が乱れることを抑制できる。このため、運転者が車両90の減速度を錯誤することを抑制できる。さらに、車両90のピッチ角速度が徐々に小さくなることによって、運転者の上半身を座席によって前傾させる加速度を小さくすることができる。これによって、運転者は、車両90の座席との一体感を感じることができる。また、減速度の増大に応じて車両90のバウンス量が大きくなることによって、運転者は車体91の沈み込みから減速度が大きくなっていることを感じ取ることができる。また、運転者は車体91の沈み込みから安定感を感じることができる。
【0113】
(第3実施形態)
車両の制動中に、車輪に対して実際に作用する制動力が制限されることがある。たとえば、優先度の高い制御が実行中である場合には、他の制御によって制動力を調整できないことがある。優先度の高い制御としては、たとえば、アンチロックブレーキ制御および制動力配分制御等が挙げられる。アンチロックブレーキ制御、所謂ABS制御は、車輪のロックを抑制するために制動力を調整する制御である。制動力配分制御、所謂EBD制御は、前輪および後輪のうち一方の車輪が先行してロックすることを抑制するために一方の車輪の制動力を制限する制御である。たとえば、
図1に示した制動制御装置10は、ABS制御を実行する機能を備えている。たとえば、制動制御装置10は、EBD制御を実行する機能を備えている。
【0114】
車輪に作用する制動力が制限されていると、ピッチング姿勢の目標および沈み込み姿勢の目標が示す姿勢に車両90の姿勢を追従させることができないことがある。
図14を用いて一例を説明する。
【0115】
図14は、タイミングt21において後輪に対してABS制御およびEBD制御の実行が開始されている例を示す。タイミングt21よりも前では、単位時間当たりのピッチ角の変化率を示すピッチレートが徐々に減少するように車両90の姿勢が制御されている。しかし、タイミングt21以降では、前後配分比nの自由度が失われていることでピッチレートの減少を実現することができず、ピッチレートが過度に増加している。
【0116】
そこで、第3実施形態では、前輪および後輪のうちいずれか一方の車輪で制動力が制限されており、且つ、他方の車輪で制動力が制限されていない場合に配分比算出部13が制限時再算出処理を実行する機能をさらに備えている点で、上記各実施形態と異なる。制限時再算出処理は、制動力が制限されていない車輪の制動力を制御することによって車両90の姿勢を制御することを目的とする。制限時再算出処理は、第1実施形態に適用してもよいし第2実施形態に適用することもできる。以下の説明では、第1実施形態または第2実施形態と共通の構成については適宜説明を省略する。
【0117】
ところで、ABS制御が開始されると、ABS制御の対象とする車輪に対して回生制動力を作用させることを終了することがある。このような場合には、たとえば、
図5を用いて説明したステップS102の処理によって回生制動力実行値Fxdが取得されることで、続くステップS103の処理によって、ABS制御の対象である車輪の摩擦回生比を「1」として再算出するようにしてもよい。
【0118】
<制限時再算出処理>
図15は、配分比算出部13が制限時再算出処理を実行する際の処理の流れを示す。本処理ルーチンは、たとえば
図5に示す処理によって前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrが算出されている場合に、所定の周期毎に繰り返し実行される。
【0119】
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS201では、配分比算出部13は、後輪制動力に制限があるか否かを判定する。
後輪制動力に制限があると判定する例について説明する。後輪に対してABS制御およびEBD制御が実行されている場合には、配分比算出部13は、後輪制動力に制限があると判定することができる。後輪にスリップが発生している場合には、配分比算出部13は、後輪に制限があると判定することができる。後輪の車輪速度と車体速度との差が規定のスリップ判定値よりも大きい場合には、配分比算出部13は、後輪に制限があると判定することができる。理想制動力配分比率と比較して後輪制動力の比率が大きい場合には、配分比算出部13は、後輪に制限があると判定することができる。配分比算出部13は、ABS制御が実行中であるか否かを示す情報、EBD制御が実行中であるか否かを示す情報、スリップが発生している車輪を示す情報、車輪速度および車体速度等の要素を取得することができる。
【0120】
ステップS201において、後輪制動力に制限がある場合には(S201:YES)、配分比算出部13は、処理をステップS202に移行する。ステップS202では、配分比算出部13は、前輪制動力に制限があるか否かを判定する。
【0121】
前輪制動力に制限があると判定する例について説明する。前輪に対してABS制御およびEBD制御が実行されている場合には、配分比算出部13は、前輪制動力に制限があると判定することができる。前輪にスリップが発生している場合には、配分比算出部13は、前輪に制限があると判定することができる。前輪の車輪速度と車体速度との差が規定のスリップ判定値よりも大きい場合には、配分比算出部13は、前輪に制限があると判定することができる。
【0122】
ステップS202において、前輪制動力に制限がある場合には(S202:YES)、配分比算出部13は、本処理ルーチンを一旦終了する。すなわち、前輪制動力および後輪制動力の両方に制限がある場合には、配分比算出部13は、本処理ルーチンを終了する。
【0123】
一方で、前輪制動力に制限がない場合には(S202:NO)、配分比算出部13は、処理をステップS203に移行する。すなわち、後輪制動力に制限がある一方で前輪制動力に制限がない場合には、配分比算出部13は、処理をステップS203に移行する。
【0124】
ステップS203では、配分比算出部13は、前輪摩擦回生比nfおよび前後配分比nを再算出する。たとえば、配分比算出部13は、前輪制動力Fxfの増大を抑制することでピッチング姿勢の目標に車両90の姿勢を追従させるように前輪摩擦回生比nfおよび前後配分比nを算出する。本処理の詳細は後述する。配分比算出部13は、前輪摩擦回生比nfおよび前後配分比nを再算出すると、本処理ルーチンを終了する。
【0125】
ステップS201において、後輪制動力に制限がない場合には(S201:NO)、配分比算出部13は、処理をステップS204に移行する。ステップS204では、配分比算出部13は、前輪制動力に制限があるか否かを判定する。
【0126】
ステップS204において、前輪制動力に制限がない場合には(S204:NO)、配分比算出部13は、本処理ルーチンを一旦終了する。すなわち、前輪制動力および後輪制動力の両方に制限がない場合には、配分比算出部13は、本処理ルーチンを終了する。
【0127】
一方で、前輪制動力に制限がある場合には(S204:YES)、配分比算出部13は、処理をステップS205に移行する。すなわち、前輪制動力に制限がある一方で後輪制動力に制限がない場合には、配分比算出部13は、処理をステップS205に移行する。
【0128】
ステップS205では、配分比算出部13は、後輪摩擦回生比nrおよび前後配分比nを再算出する。たとえば、配分比算出部13は、後輪制動力Fxrの増大を抑制することでピッチング姿勢の目標に車両90の姿勢を追従させるように後輪摩擦回生比nrおよび前後配分比nを算出する。本処理の詳細は後述する。配分比算出部13は、後輪摩擦回生比nrおよび前後配分比nを再算出すると、本処理ルーチンを終了する。
【0129】
<S203およびS205の詳細>
ステップS203の処理およびステップS205の処理について一例を説明する。なお、ステップS203の処理およびステップS205の処理が制限時再算出処理に対応する。
【0130】
ステップS203の処理では、前輪の制動力勾配ΔFxfを調整してピッチング姿勢の目標に車両90の姿勢を追従させることを目的とする。ステップS205の処理では、後輪の制動力勾配ΔFxrを調整してピッチング姿勢の目標に車両90の姿勢を追従させることを目的とする。ここで、ピッチング姿勢の目標に関して、目標ピッチモーメントMreqの変化量を目標ピッチモーメント変化量ΔMとする。
【0131】
前輪の制動力勾配ΔFxfおよび後輪の制動力勾配ΔFxrは、下記の関係式(式15)として表すことができる。関係式(式15)において、「*」は、「f」または「r」に対応する。これによって、「n*」は、「nf」または「nr」に対応する。関係式(式15)において、「A**」は、「*」が「f」である場合には、「Ad」に対応する。「A**」は、「*」が「r」である場合には、「Al」に対応する。以降に示す「*」および「A**」についても上記と同様の意味を表す。関係式(式15)において、「h」は、
図3に示す車両重心GCまでの路面からの距離である重心高さを示す。重心高さhは、車両90のピッチング運動に関してモーメントアームに相当する。
【0132】
【数5】
図16は、関係式(式15)について、目標ピッチモーメント変化量ΔMを達成する「n*」と「ΔFx*」との解を示す。
図16に示す一点鎖線は、実線で示す関係式(式15)の解における漸近線に対応する。当該漸近線の横軸座標値を「n*ay」として、当該漸近線は、上記関係式(式16)として表すことができる。
【0133】
以下では、重心高さhとアンチダイブ係数Adとの関係、または重心高さhとアンチリフト係数Alとの関係に応じて、[A]と[B]とに場合分けをして説明する。
[A]重心高さhがアンチダイブ係数Ad以上である場合、または重心高さhがアンチリフト係数Al以上である場合(h≧A**)。
【0134】
この場合には、関係式(式16)に基づいて、「n*ay」が「1」以上となる(n*ay≧1)。すなわち、「n*ay」の最小値が「1」である。
このため、ステップS203の処理としては、前輪摩擦回生比nfを「1」として再算出することができる。これによって、ステップS203の処理の結果としては、前輪回生制動力Fxfdを「0」として(Fxfd=(1-nf)Fxf)、前輪摩擦制動力Fxfbのみが前輪に作用する。すなわち、前輪摩擦制動力Fxfbの調整によって前輪の制動力勾配ΔFxfを制御することで目標ピッチモーメント変化量ΔMを達成する。
【0135】
一方、ステップS205の処理としては、後輪摩擦回生比nrを「1」として再算出することができる。これによって、ステップS205の処理の結果としては、後輪回生制動力Fxrdを「0」として(Fxrd=(1-nr)Fxr)、後輪摩擦制動力Fxrbのみが後輪に作用する。すなわち、後輪摩擦制動力Fxrbの調整によって後輪の制動力勾配ΔFxrを制御することで目標ピッチモーメント変化量ΔMを達成する。
【0136】
【数6】
「n*=1」である場合における前輪の制動力勾配ΔFxfおよび後輪の制動力勾配ΔFxrは、上記の関係式(式15)から、上記の関係式(式17)として表すことができる。
【0137】
次に、前後配分比nを再算出する流れについて説明する。
前後配分比nは、前後系統輪どちらか一方の制動力が制限された時点以降における前輪の制動力勾配ΔFxfと前後系統輪どちらか一方の制動力が制限された時点における前輪の制動力Fxflimとによって表すことができる。前後配分比nを表す式を、関係式(式15)に基づいて変形することによって、下記の関係式(式18)を導くことができる。なお、関係式(式18)での前輪の制動力勾配ΔFxfは前後系統輪どちらか一方の制動力が制限された時点以降における前輪の制動力の増加量を表す。また、前後配分比nは、前後系統輪どちらか一方の制動力が制限された時点以降における後輪の制動力勾配ΔFxrと前後系統輪どちらか一方の制動力が制限された時点における後輪の制動力Fxrlimとによって表すことができる。前後配分比nを表す式を変形することによって、下記の関係式(式19)を導くことができる。なお、関係式(式19)での後輪の制動力勾配ΔFxrは前後系統輪どちらか一方の制動力が制限された時点以降における後輪の制動力の増加量を表す。
【0138】
【数7】
ステップS203の処理では、関係式(式18)に基づいて前後配分比nを算出することができる。詳しくは、目標ピッチモーメント変化量ΔM、前輪摩擦回生比nf、重心高さh、およびアンチダイブ係数Ad,Adrに基づいて、前後配分比nを算出することができる。
【0139】
ステップS205の処理では、関係式(式19)に基づいて前後配分比nを算出することができる。詳しくは、目標ピッチモーメント変化量ΔM、後輪摩擦回生比nr、重心高さh、およびアンチリフト係数Al,Alrに基づいて、前後配分比nを算出することができる。
【0140】
[B]重心高さhがアンチダイブ係数Adよりも小さい場合、または重心高さhがアンチリフト係数Alよりも小さい場合(h<A**)。
この場合には、関係式(式16)に基づいて、「n*ay」が「1」よりも小さくなる(n*ay<1)。すなわち、目標ピッチモーメント変化量ΔMの達成するためには、制動力勾配ΔFx*の調整だけでは十分ではなく、摩擦回生比n*を調整して回生制動力を発生させる必要が生じる。
【0141】
このため、ステップS203およびステップS205の処理としては、可能な限り漸近線に近い値として摩擦回生比n*を設定する。「n*ay」以下の範囲で可能な限り「n*」を大きな値として、上記の関係式(式15)に基づいて、制動力勾配ΔFx*を調整する。
【0142】
前後配分比nについては、上記[A]の場合と同様に再算出することができる。すなわち、ステップS203の処理では、関係式(式18)に基づいて前後配分比nを算出することができる。ステップS205の処理では、関係式(式19)に基づいて前後配分比nを算出することができる。
【0143】
<第3実施形態の作用および効果>
図17を用いて、第3実施形態の作用および効果について説明する。
図17には、後輪制動力に制限があり、前輪制動力に制限がない場合の例を示す。
図17に示す例では、前輪摩擦回生比nfが「1」である。
【0144】
図17に示す例では、タイミングt31から制動が開始されている。タイミングt32以降では、後輪制動力が制限されている例を示している。たとえばタイミングt32において後輪がスリップした場合である。
【0145】
図17の(a)には、前輪摩擦制動力Fxfbを実線で示す。後輪摩擦制動力Fxrbを破線で示す。
図17の(b)には、ピッチレートの推移を示す。
図17には、第2実施形態の姿勢目標算出部112が算出するピッチング姿勢の目標に準じて車両90の姿勢を制御する例を示す。
【0146】
図17の(a)に破線で示すように、タイミングt32以降では後輪摩擦制動力Fxrbが制限されて前後配分比nの自由度が失われる。このとき、第3実施形態によれば、制限時再算出処理が実行されることによって、前輪摩擦回生比nfおよび前後配分比nが再算出される(S203)。これによって、
図17の(a)に実線で示すように、タイミングt32以降では前輪摩擦制動力Fxfbの増大が抑制される。これによって、
図17の(b)に示すように、タイミングt32以降においてもピッチレートを小さく抑えることができる。このように第3実施形態によれば、前輪および後輪のうちいずれか一方の車輪で制動力が制限されている場合でも、ピッチレートが過度に増加することを抑制できる。
【0147】
第3実施形態によれば、前輪および後輪のうちいずれか一方の車輪で制動力が制限されている場合でも、他方の車輪の制動力勾配を調整することによって車両90の姿勢をピッチング姿勢の目標に追従させることができる。
【0148】
(変更例)
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記各実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0149】
・上記各実施形態では、車輪のうち前輪および後輪に付与する回生制動力を発生させる回生制動装置80を備える車両90に適用される制動制御装置10を例示した。車両は、車輪のうち前輪および後輪の少なくとも一方の車輪に付与する回生制動力を発生させる回生制動装置を備えていればよい。なお、「前輪および後輪の少なくとも一方の車輪」とは、「前輪のみ」、「後輪のみ」、または「前輪および後輪の両方」を意味する。
【0150】
たとえば、車輪のうち後輪に付与する回生制動力を発生させる回生制動装置を備えている車両に制動制御装置10を適用することができる。この場合に配分比算出部13が前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrを算出する例を、
図8を用いて説明する。
【0151】
図8は、第1軸として横軸に前後配分比nをとり第2軸として縦軸に前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrをとった直交座標系を示す。
図8には、関係式(式3)の関数を実線で示している。
図8には、関係式(式4)の関数を破線で示している。ここで、前輪に付与する回生制動力を発生させる回生制動装置を車両が備えていないことから、前輪制動力Fxfは、前輪摩擦制動力Fxfbに等しい。すなわち、前輪摩擦回生比nfは「1」である。配分比算出部13は、前輪摩擦回生比nfを「1」として前後配分比nを求める。すなわち、
図8に示す実線上における座標(X,1)の横軸座標値「X」を前後配分比nとして算出する。配分比算出部13は、算出した前後配分比nに基づいて後輪摩擦回生比nrを算出する。
【0152】
上記のように、制動制御装置10は、車輪のうち前輪および後輪の一方の車輪に付与する回生制動力を発生させる回生制動装置を備えている車両にも適用することができる。この場合でも上記実施形態と同様に、目標減速度DVTに基づいて車両のピッチ角およびバウンス量を制御することができる。減速度に対応して車両の姿勢を制御する効果が得られる。
【0153】
・上記各実施形態では、配分比算出部13による配分比算出処理として、回生制動力実行値Fxdを取得して前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrを再算出する例を示した。回生制動力実行値Fxdと回生制動力要求値FxdRとが乖離していない場合には、配分比算出部13は、前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrを再算出しないようにしてもよい。回生制動力実行値Fxdと回生制動力要求値FxdRとの乖離幅が規定の判定値よりも小さい場合には、配分比算出部13は、前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrを再算出しないようにしてもよい。
【0154】
・配分比算出部13は、回生制動力の最大値を取得してもよい。配分比算出部13は、回生制動力の最大値を用いて、回生制動力要求値FxdRが回生制動力の最大値以下となるように、前後配分比n、前輪摩擦回生比nfおよび後輪摩擦回生比nrを算出することもできる。
【0155】
・姿勢目標算出部12は、特性の異なる複数の演算マップを有していてもよい。姿勢目標算出部12は、使用する演算マップを切り替えて、減速度、ピッチング姿勢および沈み込み姿勢の関係を変更してもよい。
【0156】
一例として、第1モードと第2モードとを切り替えることができる場合について説明する。第1モードの演算マップは、
図4に例示した上記実施形態における演算マップ12aとする。
【0157】
第2モードの演算マップは、たとえば、演算マップ12aと比較して、目標ピッチモーメントMreqの傾きを小さくしている。すなわち、目標減速度DVTに対する目標ピッチモーメントMreqの変化量を小さくしている。さらに、第2モードの演算マップは、たとえば、演算マップ12aと比較して、目標バウンス力Zreqの傾きを小さくしている。すなわち、目標減速度DVTに対する目標バウンス力Zreqの変化量を大きくしている。
【0158】
言い換えれば、第1モードの演算マップは、第2モードの演算マップと比較して、回生制動力の付与に伴う発電量をより多く得られるように設定されている。第1モードから第2モードに切り替えることによって、たとえば、車両90を操作する楽しさを運転者に感じさせることができる。第1モードと第2モードとの切り替えは、運転者によって選択できることが好ましい。
【0159】
・減速度、ピッチング姿勢および沈み込み姿勢の関係は、上記第1モードのように、車両の制動に伴って回生エネルギーをより多く回収できるように設定してもよい。減速度、ピッチング姿勢および沈み込み姿勢の関係は、上記第2モードのように、車両の挙動が運転者の好むものとなるように設定してもよい。
【0160】
・上記第2実施形態におけるピッチングゲイン算出部112aは、特性の異なる複数の演算マップを有していてもよい。ピッチングゲイン算出部112aは、使用する演算マップを切り替えて、目標減速度DVTに対するピッチ角ゲインKtΘの関係を変更してもよい。同様に、沈み込みゲイン算出部112bは、特性の異なる複数の演算マップを有していてもよい。沈み込みゲイン算出部112bは、使用する演算マップを切り替えて、目標減速度DVTに対するバウンス量ゲインKtZの関係を変更してもよい。
【0161】
・上記各実施形態において姿勢目標算出部12、112は、車両90のピッチング姿勢の目標として目標ピッチ角Θreqと、目標ピッチ角Θreqを達成するための目標ピッチモーメントMreqを算出するように構成した。ピッチング姿勢の目標は、目標ピッチ角Θreqおよび目標ピッチモーメントMreqに限らない。たとえば、ピッチング姿勢の目標として、ピッチ角速度の目標を採用することもできる。ピッチング姿勢の目標として、ピッチ角加速度の目標を採用することもできる。ピッチ角速度は、単位時間当たりのピッチ角の変化率である。ピッチ角加速度は、単位時間当たりのピッチ角速度の変化率である。
【0162】
・上記各実施形態において姿勢目標算出部12、112は、車両90の沈み込み姿勢の目標として目標バウンス量DZreqと、目標バウンス量DZreqを達成するための目標バウンス力Zreqを算出するように構成した。沈み込み姿勢の目標は、目標バウンス量DZreqおよび目標バウンス力Zreqに限らない。たとえば、沈み込み姿勢の目標として、バウンス速度の目標を採用することもできる。沈み込み姿勢の目標として、バウンス加速度の目標を採用することもできる。バウンス速度は、単位時間当たりのバウンス量の変化率である。バウンス加速度は、単位時間当たりのバウンス速度の変化率である。
【0163】
・上記各実施形態における処理回路である制動制御装置10および回生制御装置20は、以下[a]~[c]のいずれかの構成であればよい。[a]コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備える回路。プロセッサは、処理装置を備える。処理装置の例は、CPU、DSPおよびGPU等である。プロセッサは、メモリを備える。メモリの例は、RAM、ROMおよびフラッシュメモリ等である。メモリは、処理を処理装置に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる媒体を含む。[b]各種処理を実行する一つ以上のハードウェア回路を備える回路。ハードウェア回路の例は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)およびFPGA(Field Programmable Gate Array)等である。[c]各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうち残りの処理を実行するハードウェア回路と、を備える回路。
【0164】
・回生制御装置20が実現する機能の一部または全部は、制動制御装置10によって実現されてもよい。
・制動制御装置10が実現する機能の一部は、制動制御装置10と接続されている他の処理回路によって実現されてもよい。
【0165】
・上記第3実施形態では、前輪および後輪のうちいずれか一方の車輪の制動力が制限されている場合には、制動力が制限されていない他方の車輪における制動力勾配を調整することによって車両90の姿勢を制御するように構成した例を示した。上記第3実施形態の構成に替えて、以下のように車両90の姿勢を制御するようにしてもよい。
【0166】
たとえば、車両90がアクティブサスペンションを備えている場合には、前輪および後輪のうちいずれか一方の車輪の制動力が制限されている場合にアクティブサスペンションを作動させることによって車両90の姿勢を制御するようにしてもよい。この場合には、姿勢目標算出部が算出する姿勢の目標に基づいて前後配分比nおよび摩擦回生比n*を調整する制御を終了してもよい。
【符号の説明】
【0167】
10…制動制御装置
12、112…姿勢目標算出部
12a…演算マップ
13…配分比算出部
14…指示値算出部
20…回生制御装置
70…摩擦制動装置
80…回生制動装置
90…車両
91…車体