(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152339
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
B24B 7/04 20060101AFI20231010BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20231010BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20231010BHJP
B24B 41/06 20120101ALI20231010BHJP
B24B 49/04 20060101ALI20231010BHJP
B24B 49/02 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
B24B7/04 A
H01L21/304 631
H01L21/304 622R
H01L21/304 622K
H01L21/68 P
B24B41/06 L
B24B49/04 Z
B24B49/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062267
(22)【出願日】2022-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100121843
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 賢郎
(72)【発明者】
【氏名】野村 和史
【テーマコード(参考)】
3C034
3C043
5F057
5F131
【Fターム(参考)】
3C034AA08
3C034BB73
3C034BB93
3C034CA02
3C034CA03
3C034CA22
3C034CB08
3C034DD10
3C043BA03
3C043BA09
3C043BA14
3C043BA15
3C043BA16
3C043CC04
3C043CC13
3C043DD02
3C043DD04
3C043DD06
3C043EE04
5F057AA01
5F057AA31
5F057BA19
5F057BB03
5F057CA14
5F057DA03
5F057DA11
5F057EB16
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5F057FA13
5F057FA19
5F057FA46
5F057GA13
5F057GA16
5F057GB02
5F057GB13
5F131AA02
5F131BA32
5F131BA33
5F131CA06
5F131EB03
5F131EB04
(57)【要約】
【課題】半導体ウエハ等の円盤状に形成された被切削物の表面を、厚さのばらつきが小さくなるように研削することが可能となる、製造装置及び製造方法を提供する。
【解決手段】本開示に係る製造装置は、円盤状の被切削物の第1表面を切削するための砥石を回転させるための回転体と、前記被切削物の第2表面を保持可能に構成される保持手段と、前記被切削物の第2表面の少なくとも一部を、前記回転の回転軸方向に変位可能に構成される変位手段とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤状の被切削物の第1表面を切削するための砥石を回転させるための回転体と、
前記被切削物の第2表面を保持可能に構成される保持手段と、
前記被切削物の第2表面の少なくとも一部を、前記回転の回転軸方向に変位可能に構成される変位手段と
を備える製造装置。
【請求項2】
前記変位手段は、前記第2表面の中心部を前記回転軸方向に変位可能に構成される中心変位手段を備える請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
前記中心変位手段は、前記第2表面の中心を前記砥石から離間する方向に変位可能に構成される請求項2に記載の製造装置。
【請求項4】
前記変位手段は、前記第2表面の外周側の領域を前記回転軸方向に変位可能に構成される外周変位手段を備える請求項1乃至3の何れか一項に記載の製造装置。
【請求項5】
前記変位手段は、前記第2表面の外周側の領域を前記砥石から離間する方向に変位可能に構成される請求項4に記載の製造装置。
【請求項6】
前記被切削物は、シリコンウエハを含む、請求項1に記載の製造装置。
【請求項7】
円盤状の被切削物の第2表面を保持した状態で、砥石を回転させることにより、前記被切削物の第1表面を切削し、
切削された前記第1表面上の複数位置における切削量を示す情報を取得し、
取得された前記情報に基づいて、前記被切削物の前記第2表面、又は、円盤状の第2被切削物の第2表面の少なくとも一部を、前記回転の回転軸方向に変位させ、
変位された前記被切削物の前記第2表面を保持した状態で、又は、変位された前記第2被切削物の前記第2表面を保持した状態で、砥石を回転させることにより、前記被切削物の前記第1表面、又は、前記第2被切削物の第1表面を切削する
製造方法。
【請求項8】
前記変位させることは、前記第2表面の中心を前記回転軸方向に変位させることを含む請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記変位させることは、前記第2表面の外周側の領域を前記回転軸方向に変位させることを含む請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
さらに前記第2表面を切削し、
切削された前記第2表面上の複数位置における切削量を示す情報を取得し、
前記第2表面の少なくとも一部を前記回転の回転軸方向に変位させることは、
切削された前記第1表面上の複数位置における切削量を示す情報及び切削された前記第2表面上の複数位置における切削量を示す情報に基づいて、前記第2表面の少なくとも一部を前記回転の回転軸方向に変位させることを含む
請求項7に記載の製造方法。
【請求項11】
前記被切削物は、シリコンウエハを含む、請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC等の半導体素子が表面に形成されたシリコンウエハ等の半導体ウエハの裏面を研削して所定の厚さに加工することが行われている。シリコンウエハ等が均一の厚さを持つように裏面を研削する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-030884号公報
【特許文献2】特開2019-111634号公報
【特許文献3】特開2021-109297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本実施形態によれば、半導体ウエハ等の円盤状に形成された被切削物の表面を、厚さのばらつきが小さくなるように研削(切削)することが可能となる、製造装置及び製造方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態は、円盤状の被切削物の第1表面を切削するための砥石を回転させるための回転体と、前記被切削物の第2表面を保持可能に構成される保持手段と、前記被切削物の第2表面の少なくとも一部を、前記回転の回転軸方向に変位可能に構成される変位手段とを備える製造装置を開示する。この製造装置は、半導体装置の製造装置を含む。
【0006】
さらに、円盤状の被切削物の第1表面を回転しながら切削可能に構成される砥石と、前記被切削物の第2表面を保持可能に構成される保持手段と、前記被切削物の第2表面の少なくとも一部を、前記回転の回転軸方向に変位可能に構成される変位手段とを備える製造装置を開示する。この製造装置は、半導体装置の製造装置を含む。
【0007】
本実施形態は、円盤状の被切削物の第2表面を保持した状態で、砥石を回転させることにより、前記被切削物の第1表面を切削し、切削された前記第1表面上の複数位置における切削量を示す情報を取得し、取得された前記情報に基づいて、前記被切削物の前記第2表面、又は、円盤状の第2被切削物の第2表面の少なくとも一部を、前記回転の回転軸方向に変位させ、変位された前記被切削物の前記第2表面を保持した状態で、又は、変位された前記第2被切削物の前記第2表面を保持した状態で、砥石を回転させることにより、前記被切削物の前記第1表面、又は、前記第2被切削物の第1表面を切削する製造方法を開示する。この製造方法は、半導体装置を製造するための製造方法を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る研削装置の主要部を示す模式図及び研削装置の砥石が通過する経路とウエハとの関係を示す平面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る研削装置の保持部を示す模式図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係る研削装置のエア吸込管によるウエハの変位を示す模式図である。
【
図4】
図4は、一実施形態及び変形例に係る研削装置のチャックテーブル及びエアバックを砥石が配置される上方から見た平面図である。
【
図5】
図5は、研削後及びCMP研磨後のウエハの厚さを示す表面プロファイルである。
【
図6】
図6は、他の実施形態に係る研削装置の保持部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0010】
[第1実施形態]
以下、本実施形態に係る研削装置及び研削方法(「切削」の一例)について説明する。本実施形態における被研削物は、2枚以上のシリコンウエハが貼合されることにより、円盤状(円形で平たい形状)に形成されている(以下、被研削物を単に「ウエハW」と呼ぶ場合がある)。ウエハWは、本実施形態における研削方法により研削された後、CMPにより研磨(「切削」の一例)され、その後ダイシングにより複数の半導体デバイスに分割される。したがって、本実施形態に係る研削装置及び研削方法は、半導体デバイスその他の装置を製造するための製造装置及び製造方法である。
【0011】
ただし本発明は、シリコンウエハその他の半導体ウエハの後工程に適用することも可能である。この場合、半導体ウエハの一方の表面には半導体素子が形成される。この場合、本実施形態に係る研削装置は、半導体ウエハの他方の表面を研削可能に構成されてもよい。
【0012】
図1(A)は、本実施形態に係る研削装置10の主要部を示す模式図であり、
図1(B)は、研削装置10の砥石26の経路TRとウエハWとの関係を示す平面図である。
図2は、本実施形態に係る研削装置10の保持部30を模式的に示す断面図である。
【0013】
研削装置10は、ウエハWを研削するための研削部20とウエハWを保持するための保持部30とウエハWを変位させるための変位部40(
図2)とウエハWの研削量を計測するための計測部50とを備える。
【0014】
研削部20は、砥石26を回転させるためのスピンドル22と、スピンドル22と一体的に回転可能に設けられるホイール24(「回転体」の一例)と、ホイール24に取り付けられ、スピンドル22によって回転しながらウエハWの第1表面WS1を研削可能に構成された砥石26とを備える。
【0015】
保持部30は、ウエハWの第1表面WS1と対向する第2表面WS2を保持するためのチャックテーブル32(「保持手段」の一例)と、チャックテーブル32を回転させるためのベルト34とを備える。
【0016】
変位部40は、ウエハWの第2表面WS2の中心部を第2表面WS2の法線方向に変位させるためのエア吸込管42及び調整軸44(「中心変位手段」)と、第2表面WS2の外周側の領域を第2表面WS2の法線方向に変位可能に構成されるエアバック46(「外周変位手段」の一例)とを備える。
【0017】
計測部50は、例えば反射光との干渉を検出することによりウエハWの厚みを計測可能に構成された非接触式ゲージを備える。ウエハWの研削中又は研削後にウエハWの膜厚を測定することにより、研削量を反映した情報を取得可能に構成されている。
【0018】
なお後述するように、ホイール24及びホイール24に保持される砥石26の回転軸AX1と、ウエハWの第1表面WS1及び第2表面WS2の法線とは、略平行である。したがって、ウエハWを第1表面WS1又は第2表面WS2の法線方向に変位させることは、ウエハWを砥石26の回転軸AX1方向に変位させることに相当する。以下研削装置10の各構成を詳述する。
【0019】
研削部20のスピンドル22は、回転軸AX1を中心に回転可能に構成されている。スピンドル22は例えば、数千rpmで回転することができる。またスピンドル22は、回転軸AX1方向に移動可能に構成されている。例えば、スピンドル22を回転軸AX1方向にチャックテーブル32に接近する方向に移動した状態でスピンドル22を回転させることにより、ウエハWの研削速度及び研削量を増加させることが可能である。
【0020】
ホイール24は、砥石26を保持して回転させるために、スピンドル22と一体的に回転可能に構成されている。本実施形態に係るホイール24は円環状(リング状)に形成されており、周方向に沿って溝が形成されている。この溝に複数の砥石26を互いに離間させてはめ込むことにより、ホイール24は、複数の砥石26を保持可能に構成されている。
【0021】
砥石26は、例えば、人造ダイヤモンドを使用した板状に形成されており、ホイール24に形成された溝にはめ込まれるために湾曲して形成されている。なお、スピンドル22、ホイール24及び砥石26等の研削部20の各構成は、被研削物の組成及び加工目的等に応じて適宜変更可能である。
【0022】
保持部30のチャックテーブル32は、ウエハWの少なくとも第2表面WS2を保持可能に構成されている。またチャックテーブル32は、例えば数百rpmで回転可能に構成されている。
図1(A)に示されるように、ウエハWの第2表面WS2と対向するチャックテーブル32の表面は、チャックテーブル32の回転軸AX2を軸とし、回転軸AX2を含む軸線上に頂点を有する極めて小さな勾配の円錐面を含む円錐状に形成されている。例えば300mmのウエハWを保持するためのチャックテーブル32の円錐面を含む円錐は、300mm以上の直径を有する底面と、10~20μmの高さを有する。このため円錐の母線と底面がなす傾斜角は例えば0.1度未満であり、円錐の頂角は例えば179.9度より大きい。また、チャックテーブル32の回転軸AX2を含む中心には、エア吸込管42を挿入するために回転軸AX2方向に延伸する貫通孔が形成されている。
【0023】
図1(A)に示されるように、側面視において、チャックテーブル32のわずかに傾斜する円錐面の母線の一方がホイール24の回転軸AX1と略直交するように、チャックテーブル32の回転軸AX2をホイール24の回転軸AX1に対して僅かに傾斜させて研削が実行される。このため、チャックテーブル32の回転軸AX2とホイール24の回転軸AX1とは、略平行である(ただし
図1(A)においては、傾斜を強調している)。なお、保持部30は、ホイール24の回転軸AX1に対するチャックテーブル32の回転軸AX2を変更可能に構成される知られた角度調整手段を備えている。
【0024】
チャックテーブル32は、上述した円錐面を含む表面が形成された、例えば、顔料を含有するポーラスセラミックから構成される。
【0025】
保持部30はさらに、内部にチャックテーブル32の底面に連通する通気管36CHが形成され、チャックテーブル32を支持してチャックテーブル32と一体的に回転可能に構成された支持基台36と、支持基台36に係合することにより、支持基台36及びチャックテーブル32を回転軸AX2に従って回転させるためのベルト34と、通気管36CH内に負圧を発生させるためのエジェクタ(不図示)と、チャックテーブル32を回転させるためのモータ等から構成される回転駆動部(不図示)とを備える。
図2に示されるように支持基台36の回転軸AX2を含む中心には、調整軸44(後述)を挿入するために回転軸AX2方向に延伸する貫通孔が形成されている。
【0026】
このような構成のチャックテーブル32によれば、通気管36CH内に負圧を発生させることにより、この通気管36CH内に連通するポーラス(多孔質体)内の気孔を介してウエハWを吸引(ポーラスチャック)することが可能となる。
【0027】
変位部40は、被研削物であるウエハWの第2表面WS2の少なくとも一部を、ホイール24の回転軸AX1及び回転軸AX2方向に変位する。本実施形態に係る研削装置10は、変位手段として、ウエハWの中心部をウエハWの表面の法線方向に変位させるためのエア吸込管42及び調整軸44と、ウエハWの外周側の領域をウエハWの表面の法線方向に変位させるためのエアバック46とを備える。
【0028】
図3(A)及び(B)は、エア吸込管42によるウエハWの変位を示す模式図である。エア吸込管42(
図2及び
図3)は、ウエハWの第2表面WS2の中心を含む領域を砥石26から離間する方向に変位可能に構成されている。本実施形態に係るエア吸込管42は、チャックテーブル32の回転軸AX2上に形成される貫通孔内の領域に挿入されており、先端面42TSがウエハWの第2表面WS2に近接対向した状態で、内部に形成される通気管42CH内に負圧を発生させてウエハWを吸引することにより、ウエハWの第2表面WS2の中心を含む領域を砥石26から離間する方向に変位可能に構成されている。ウエハWの第2表面WS2の中心を含む領域が砥石26から離間する方向に変位するとき、第1表面WS1の中心を含む領域も同じ方向に変位する(
図3(A))。このため、エア吸込管42を用いてウエハWを吸引することにより、研削されるウエハWの第1表面WS1の中心を含む領域を砥石26から離間させ、この領域の研削量を低減させることが可能となる。
【0029】
なお、エア吸込管42の周囲にはウエハWの第2表面WS2を吸引して保持するチャックテーブル32が設けられているため、ウエハWの変位が妨げられる。このため、エア吸込管42を用いることにより、所定領域(本実施形態においてはウエハWの中心を含む領域)の研削量を局所的に低減させることが可能となる。
【0030】
本実施形態に係るエア吸込管42の内部には通気管42CHとして機能する貫通孔が形成されているから、この通気管42CH内をエジェクタ等の知られた構成により負圧にすることで、ウエハWを変位させることが可能となる。なおエア吸込管42に形成される貫通孔は、チャックテーブル32の底面に連通する通気管36CHとは独立に(連通されることなく)形成されている。このような構成により、チャックテーブル32によりウエハWを吸引するための吸引力と、エア吸込管42によりウエハWを変位させるための吸引力を異ならせることが可能となる。
【0031】
本実施形態に係るエア吸込管42の、ウエハWの第2表面WS2に対向する先端面42TSは、滑らかに湾曲する凸面を有する。しかしながら先端面42TSは凸面に限られるものではない。
図3(C)は変形例に係るエア吸込管43を示している。この図に示されるように、エア吸込管43の先端面43TSは、通気管(中心)に向かって窪む凹面を有するように形成されてもよい。このような構成とすることにより、エア吸込管43による吸引力を高めることが可能となる。
【0032】
調整軸44は、調整軸44に対してエア吸込管42を砥石26に接近する方向に移動させることにより、ウエハWの第2表面WS2の中心を含む領域を、砥石26に接近する方向に変位可能に構成されている。具体的には調整軸44は、内部にエア吸込管42を回転軸方向に移動させるためのサーボモータ又はエアシリンダ等のアクチュエータ(不図示)を備え、このアクチュエータを用いてエア吸込管42を回転軸方向に移動可能に構成されている。また、調整軸44の内部には、エア吸込管42の通気管42CHに連通し、通気管42CH内を負圧にするエジェクタ等に接続される通気管が形成されている。
【0033】
図3(B)に示されるように、調整軸44のアクチュエータがエア吸込管42を砥石26に接近する方向に移動させることにより、エア吸込管42の先端面42TSを第2表面WS2の中心を含む領域に当接させると、ウエハWの第2表面WS2の中心を含む領域は、砥石26に接近する方向に変位する。ウエハWの第2表面WS2の中心を含む領域が砥石26に接近する方向に変位するとき、第1表面WS1の中心を含む領域も同じ方向に変位するため、ウエハWの第1表面WS1の中心部における研削量を増加させることが可能となる。
【0034】
なお後述するように、通常の場合、ウエハWを1μm以下変位させることにより、ウエハWの厚さのばらつきを小さくすることが可能となる。従って、エア吸込管42によるウエハWの法線方向の変位量は、1μm以下である。
【0035】
本実施形態に係る変位手段は、さらに、ウエハWの外周側の領域をウエハW表面の法線方向に変位させるためのエアバック46を備える。
【0036】
図4(A)は、チャックテーブル32及びエアバック46を上方から見た平面図である。
図4(B)は、変形例に係るエアバック47を示す平面図である。同図(A)に示されるようにエアバック46は、円盤状に形成されるチャックテーブル32の外側面を包囲する環状に形成されている。エアバック46の内部には、チャックテーブル32内に設けられるバキュームラインBLと連通し、周方向に延伸する通気管46CHが形成されている。またエアバック46の、ウエハWの第2表面WS2に対向する面には、周方向に離間して設けられ通気管46CHに連通する複数の開口孔46OPが形成される。例えば同図(A)に示されるように、エアバック46には周方向に45度ごとに離間して設けられ通気管46CHに連通する8個の開口孔46OPが形成される。この開口孔46OPがウエハWの第2表面WS2の外周側の領域に近接した状態で、バキュームラインBLを介して通気管46CH内に負圧を発生させることにより、ウエハWの第2表面WS2の外周側の領域を砥石26から離間する方向に変位可能に構成されている。
【0037】
さらにエアバック46は、回転軸方向に伸縮自在に設けられている。エアバック46の内部空間は、チャック用の通気管36CH及びバキュームラインBLと独立してチャックテーブル32内に設けられるエアーラインALと連通している。エアーラインALを介して気体(例えば空気)をエアバック46内に送り込み、エアバック46内の気圧を高めるとエアバック46は回転軸AX2方向に伸長し、ウエハWの第2表面WS2の外周部に当接して外周部を押し上げることにより、ウエハWの外周部を砥石26に接近する方向に変位させるように構成されている。一方でエアーラインALを介して気体をエアバック46内から排出させ、エアバック46内の気圧を低下させるとエアバック46は回転軸AX2方向に収縮し、ウエハWの第2表面WS2から離間するように構成されている。
【0038】
したがってエアバック46を伸長させることにより、ウエハWの外周側の領域を砥石26に接近する方向に変位させることが可能となるから、ウエハWの外周側の領域の研削量を増加させることが可能となる。一方でエアバック46を収縮させ、開口孔がウエハWの第2表面WS2の外周側の領域に近接した状態で通気管46CH内に負圧を発生させてウエハWを吸引することにより、ウエハWの外周側の領域を砥石26から離間する方向に変位可能に構成されている。このため、ウエハWの外周側の領域の研削量を低減させることも可能となる。
【0039】
図4(B)は、エアバック47及び通気管47CHが周方向に4分割された変形例を示している。この変形例によれば、ウエハWの外周側の領域のうち4分割された領域を独立に変位させることが可能となる。このため、周方向に研削量が変動する場合であっても、厚さのばらつきを小さくすることが可能となる。
【0040】
[研削方法]
以上のような構成を備える研削装置10を用いた研削方法の一例を以下に説明する。
まず、チャックテーブル32の円錐面上にウエハWの第2表面WS2を対向して載置した状態でチャックテーブル32の底面に連通する通気管36CHを負圧にすることにより、チャックテーブル32はウエハWを吸引して保持する。
【0041】
この状態で回転駆動部を駆動させることにより、チャックテーブル32及びチャックテーブル32に保持されたウエハWは、例えば数百rpm(例えば100~900rpm)で回転を開始する。
【0042】
一方で、スピンドル22は、例えば、数千rpm(例えば1000~9000rpm)で回転を開始する。これに伴いホイール24及びホイール24に取り付けられている砥石26も回転を開始する。そしてスピンドル22は、チャックテーブル32に接近する方向に移動する。このとき
図1(A)に示される側面視において、チャックテーブル32のわずかに傾斜する円錐面の一方の母線がホイール24の回転軸AX1と略直交するようにホイール24の回転軸AX1に対するチャックテーブル32の回転軸AX2は、予め調整されている。また
図1(B)に示されるように、砥石26がウエハWの第1表面WS1の中心部を通過するように、チャックテーブル32に対するホイール位置は、予め調整されている。
【0043】
砥石26がウエハWの第1表面WS1に接触すると、砥石26はウエハWの第1表面WS1の研削を開始する。このときウエハWも回転しているから、砥石26は、第1表面WS1の全面を研削する。
図1(B)に示されるように、砥石26は常にウエハWの第1表面WS1の中心部を通過し、かつ、砥石26の経路においてウエハWの第1表面WS1の中心部が最も砥石26に接近する位置に相当するため、ウエハWの第1表面WS1の中心部の研削量は、他の領域と比較して大きくなる場合がある。
【0044】
研削が完了すると、計測部50の非接触式ゲージは、ウエハWの第1表面WS1に光を照射することによりウエハWの厚みを計測する。非接触式ゲージは、例えば、
図1(B)に示される位置L1(ウエハWの中心部)、位置L2(位置L1よりも外径方向に移動したウエハWの内周側の領域)、位置L3(ウエハWの径方向中間部)、位置L4(位置L3よりも外径方向に移動したウエハWの外周側の領域)及び位置L5(ウエハWの外周部)という、径方向において異なる5つの位置におけるウエハWの厚みを計測する。ウエハWの厚みは、ウエハWの研削量を示す情報に相当する。
【0045】
図5(A)の線X1は、研削後のウエハWの表面プロファイルの一例である。線X1に示されるように、ウエハWの中心部が過研削されて、例えば1μm以下の範囲で中心部が他の領域よりも薄くなることがある。反対に、例えば1μm以下の範囲でウエハWの中心部が他の領域よりも厚くなることもある。
その後ウエハの第1表面WS1は、CMP研磨(シリコンCMP)される。研磨が完了すると、CMP研磨装置が備える膜厚測定器の光学式ゲージ(又は研削装置10の計測部50の非接触式ゲージ)は、ウエハWの第1表面WS1に光を照射することにより、位置L1乃至位置L5の5つの位置を通る直径方向のウエハWの厚みを計測する。
【0046】
図5(B)の線X2は、CMP後のウエハWの表面プロファイルの一例である。線X2に示されるように、CMP研磨において、ウエハWの外周部が研磨されにくいために、例えば1μm以下の範囲で外周部が他の領域よりも厚くなる場合がある。反対に、ウエハWの外周部が過研磨された結果、例えば1μm以下の範囲で外周部が他の領域よりも薄くなることもある。
【0047】
次いで、研削後の位置L1乃至位置L5のウエハWの厚さを示す情報(「切削量を示す情報」の一例)及び/又はCMP研磨後の位置L1乃至位置L5のウエハWの厚さを示す情報(「切削量を示す情報」の一例)に基づいて、中心変位手段であるエア吸込管42及び調整軸44によるウエハWの第2表面WS2の中心部の変位量ならびに外周変位手段であるエアバック46によるウエハWの第2表面WS2の外周部の変位量が決定される。例えば研削装置10は、研削後及び研磨後の位置L1乃至位置L5のウエハWの厚さに関連付けて、中心変位手段及び外周変位手段による変位量を決定するアルゴリズム乃至テーブルを格納する記憶措置を有し、このアルゴリズム乃至テーブルに基づいてエア吸込管42、調整軸44及びエアバック46の制御パラメータを決定可能に構成されてもよい。
【0048】
例えば研削後の位置L1乃至位置L5のウエハWの厚さを示す情報に基づいて、位置L1(ウエハWの中心部)の厚さが他の領域と比較して薄く、その傾向が、CMP研磨後においても維持されている場合、中心変位手段がウエハWの第2表面WS2の中心を含む領域を砥石26から離間する方向に変位させた状態で、研削部20が2枚目以降のウエハWを研削するように構成される。
【0049】
また、CMP研磨後の位置L1乃至位置L5のウエハWの厚さを示す情報に基づいて、位置L5(ウエハWの外周部)の厚さが他の領域と比較して薄い場合、たとえ、研削後の位置L5の厚さが他の領域と同様の厚さであったとしても、外周変位手段であるエアバック46がウエハWの第2表面WS2の外周側の領域を砥石26から離間する方向に変位させた状態で、研削部20が2枚目以降のウエハWを研削するように構成される。このように、研削後に実行されるCMP研磨後の厚さ情報を考慮してCMP研磨前に実行される研削においてウエハWを変位させることにより、CMP研磨後の厚さのばらつきを小さくすることが可能となる。
【0050】
図5(A)の線Y1は2枚目のウエハWの研削後のプロファイルの一例であり、
図5(B)の線Y2は2枚目のウエハWの研磨後のプロファイルの一例である。線Y1及び線Y2に示されるように、ウエハWの中心部及び外周部の過研削が緩和され、厚さのばらつきを小さくすることが可能となる。
【0051】
従来は、ホイール24の回転軸に対するチャックテーブル32の回転軸を変更可能に構成される角度調整手段等の手段により切削量のばらつきを抑える試みがなされていた。しかしながらこれら手段は、被切削物の表面全体を変位させるため、表面内のある領域の切削量を調整すると、必然的に他の領域の切削量まで変動してしまう。
【0052】
本実施形態の切削装置及び切削方法によれば、被切削物の表面内の一部の領域を変位させたときの他の領域の変位が抑制されるため、他の領域の切削量の変動を抑制することが可能となる。したがって、切削後(研削後又は研磨後)の厚さのばらつきが小さくなるように被切削物を切削することが可能となる。
【0053】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。
【0054】
例えば、ウエハWの研削途中に、位置L1乃至位置L5のウエハWの厚さを示す情報(研削量を示す情報)を取得し、取得された情報に基づいてウエハWの第2表面WS2をホイール24の回転の回転軸方向に変位させた状態で、このウエハWの第1表面WS1を切削するように変形してもよい。
【0055】
また上述したように、被切削物は第2表面WS2に半導体素子が形成される半導体ウエハであってもよい。この場合、本実施形態に開示される研削方法を後工程プロセスに適用してもよい。
【0056】
さらに変位手段は、ウエハWの中心部以外の領域を変位可能に構成されてもよい。くわえて変位手段は、ウエハWを一方向のみ(例えばウエハWを砥石26から離間する方向のみ)に変位可能に構成されてもよい。
【0057】
さらに本実施形態に係る研削装置10及び研削方法は、知られた他の研削装置10及び研削方法と組み合わせて用いることが可能である。例えば、チャックテーブル32及びウエハWの回転軸と、ホイール24及び砥石26の回転軸とがねじれの関係を有するようにチャックテーブル32又はホイール24を傾斜させる研削装置10及び研削方法が知られている。本実施形態に係る研削装置10及び研削方法は、このような知られた他の研削装置に採用されている他の手段及び他の研削方法と組み合わせて用いることが可能である。
【0058】
[第2実施形態]
以下、本実施形態に係る研削装置及び研削方法について説明する。ただし、他の実施形態と同一乃至同様の機能又は構成を有すると理解される構成要素については、同一乃至同様の符号を付して説明を省略乃至簡略化し、異なる部分を中心に説明する。
【0059】
図6は、本実施形態に係る研削装置100の保持部を模式的に示す断面図である。同図に示されるように本実施形態に係る研削装置100の変位部は、エア吸込管42及び調整軸44(「中心変位手段」)を備えるものの、外周変位手段に相当する構成を備えない点で、研削装置10と異なる。
【0060】
研削装置100によれば、エア吸込管42を用いることにより、被切削物の中心を含む領域を砥石から離間する方向又は接近する方向に変位させることが可能となるから、中心を含む領域の研削量を局所的に低減又は増加させることが可能となる。
【0061】
なお本実施形態においては被切削物であるウエハWの中心を含む領域に近接してエア吸込管42を設けたがこれに限られるものではない。例えば、過切削される領域が径方向中間部の切削プロセスにおいては、径方向中間部に近接してエア吸込管その他の変位手段を設けてもよい。
【0062】
[第3実施形態]
以下、本実施形態に係る研削装置及び研削方法について説明する。
本実施形態に係る研削装置の変位部は、外周変位手段を備えるものの、中心変位手段に相当する構成を備えない点で、研削装置10と異なる。
【0063】
この研削装置によれば、被切削物の外周側の領域を砥石から離間する方向又は接近する方向に変位させることが可能となるから、外周側の領域の研削量を局所的に低減又は増加させることが可能となる。
【0064】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0065】
AL (エアバック用)エアーライン
AX1 ホイール及び砥石の回転軸
AX2 チャックテーブル及びウエハの回転軸
BL (外周吸引用)バキュームライン
TR 経路
W ウエハ
WS1 第1表面
WS2 第2表面
10 研削装置
20 研削部
22 スピンドル
24 ホイール
26 砥石
30 保持部
32 チャックテーブル(保持手段)
34 ベルト
36 支持基台
36CH (チャック用)通気管
40 変位部
42 エア吸込管(エア吸込チューブ)
42CH (中心変位用)通気管
42TS 先端面
44 調整軸44
46 エアバック
46OP 開口孔
50 計測部