(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152357
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】既設コンクリート構造物の補強構造および既設コンクリート構造物の補強方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20231010BHJP
【FI】
E04G23/02 F
E04G23/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062299
(22)【出願日】2022-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村 圭亮
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176AA04
2E176BB29
(57)【要約】
【課題】施工および維持管理のコストを抑えるとともに、既設コンクリート構造物の外観を損なうことなく、既設コンクリート構造物のせん断耐力を向上させることができる既設コンクリート構造物の補強構造を提供する。
【解決手段】既設コンクリート構造物1の補強構造10Aであって、梁2の下面2a(第一面)から、梁2の軸方向に交差する鉛直方向(第一方向)に第一孔部25が削孔されるとともに、梁2の右側面2b(第二面)から、梁2の軸方向および鉛直方向に交差する水平方向(第二方向)に第二孔部35が削孔されている。そして、第一孔部25内および第二孔部35内に、充填材Fがそれぞれ充填されるとともに、第一補強鉄筋21および第二補強鉄筋31がそれぞれ挿入されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設コンクリート構造物の補強構造であって、
前記既設コンクリート構造物の第一面から、前記既設コンクリート構造物の軸方向に交差する第一方向に第一孔部が削孔されるとともに、
前記既設コンクリート構造物の第二面から、前記既設コンクリート構造物の軸方向および前記第一方向に交差する第二方向に第二孔部が削孔されており、
前記第一孔部内および前記第二孔部内に、充填材がそれぞれ充填されるとともに、補強鉄筋がそれぞれ挿入されていることを特徴とする既設コンクリート構造物の補強構造。
【請求項2】
前記既設コンクリート構造物の軸方向に複数の前記補強鉄筋が設けられており、
前記第一孔部内に挿入された前記補強鉄筋と、前記第二孔部内に挿入された前記補強鉄筋とが交互に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の既設コンクリート構造物の補強構造。
【請求項3】
前記補強鉄筋の端部は、前記既設コンクリート構造物の主鉄筋と同等のかぶりコンクリート厚を確保した状態で配置されていることを特徴とする請求項1に記載の既設コンクリート構造物の補強構造。
【請求項4】
前記第一孔部は、前記第一面側の端部が拡径されているとともに、
前記第二孔部は、前記第二面側の端部が拡径されていることを特徴とする請求項1に記載の既設コンクリート構造物の補強構造。
【請求項5】
前記既設コンクリート構造物の前記第二面および前記第二面の反対側に配置された第三面には、それぞれ板部材が重ねられており、
前記第二孔部内に挿入された前記補強鉄筋の両端部は、それぞれ前記両板部材に接合されていることを特徴とする請求項1に記載の既設コンクリート構造物の補強構造。
【請求項6】
既設コンクリート構造物の補強方法であって、
前記既設コンクリート構造物の第一面から、前記既設コンクリート構造物の軸方向に交差する第一方向に向けて第一孔部を削孔する工程と、
前記第一孔部内に充填材を充填するとともに、前記第一孔部内に第一補強鉄筋を挿入する工程と、
前記第一孔部に対して前記既設コンクリート構造物の軸方向に間隔を空けた位置で、前記既設コンクリート構造物の第二面から、前記既設コンクリート構造物の軸方向および前記第一方向に交差する第二方向に向けて第二孔部を削孔する工程と、
前記第二孔部内に充填材を充填するとともに、前記第二孔部内に第二補強鉄筋を挿入する工程と、
を備えていることを特徴とする既設コンクリート構造物の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設コンクリート構造物の補強構造および補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スラブと梁とが一体化された既設コンクリート構造物において、梁のせん断耐力をあと施工で補強する補強構造としては、梁の両側面および下面に亘って、繊維ロープや繊維シートなどの補強部材を巻き付けているものがある(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
このような補強構造では、梁に生じたせん断力の一部を補強部材に負担させることで、梁のせん断耐力を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-088877号公報
【特許文献2】特開2016-166460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した従来の補強構造では、補強部材の両端部を、梁の両側面にアンカー部材を用いて定着させる必要があるため、施工コストが高くなるという問題がある。
また、前記した従来の補強構造では、補強部材が梁の三面に露出するため、既設コンクリート構造物の外観を大きく損ねるとともに、補強部材のメンテナンスの頻度が多くなるという問題がある。
本発明は、前記した問題を解決し、施工および維持管理のコストを抑えるとともに、既設コンクリート構造物の外観を損なうことなく、既設コンクリート構造物のせん断耐力を向上させることができる既設コンクリート構造物の補強構造および補強方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、第一の発明は、既設コンクリート構造物の補強構造であって、前記既設コンクリート構造物の第一面から、前記既設コンクリート構造物の軸方向に交差する第一方向に第一孔部が削孔されるとともに、前記既設コンクリート構造物の第二面から、前記既設コンクリート構造物の軸方向および前記第一方向に交差する第二方向に第二孔部が削孔されている。そして、前記第一孔部内および前記第二孔部内に、充填材がそれぞれ充填されるとともに、補強鉄筋がそれぞれ挿入されている。
本発明者は、既設コンクリート構造物の補強構造について鋭意検討する中で、例えば、梁や柱を有する既設コンクリート構造物に対して第一方向の補強鉄筋を配置すると、既設コンクリート構造物に第一方向のひび割れが生じる場合があり、第一方向のひび割れによって既設コンクリート構造物の第二方向への変位が大きくなると、既設コンクリート構造物のせん断耐力が低下する虞があることを見出し、本願発明を創案するに至った。
本発明の補強構造では、第一方向に交差する第二方向にも補強鉄筋が配置されているため、軸方向の長さに比して幅が小さい既設コンクリート構造物であっても、第一方向のひび割れを抑えることができる。このようにして、既設コンクリート構造物の第二方向への変位を抑えることで、既設コンクリート構造物のせん断耐力を向上させることができる。
また、本発明の補強構造では、既設コンクリート構造物に補強鉄筋を埋め込んでいるため、既設コンクリート構造物への補強鉄筋の定着が容易であるとともに、補強鉄筋が外部に露出しない。したがって、本発明の補強構造では、施工および維持管理のコストを抑えるとともに、既設コンクリート構造物の外観を損なうことがない。
【0006】
前記した補強構造において、前記既設コンクリート構造物の軸方向に複数の前記補強鉄筋を設ける場合には、前記第一孔部内に挿入された前記補強鉄筋と、前記第二孔部内に挿入された前記補強鉄筋とを交互に配置することで、既設コンクリート構造物全体のせん断耐力を向上させることが好ましい。
【0007】
前記した補強構造において、前記補強鉄筋の端部を、前記既設コンクリート構造物の主鉄筋と同等のかぶりコンクリート厚を確保した状態で配置して、補強鉄筋の腐食を防ぐことが好ましい。
前記した補強構造において、前記第一孔部の前記第一面側の端部を拡径するとともに、前記第二孔部の前記第二面側の端部を拡径することが好ましい。
この構成では、孔部の拡径部に充填された充填材によって、既存コンクリート構造物への補強鉄筋の端部の定着性を高めることができる。
【0008】
前記した補強構造において、前記既設コンクリート構造物の前記第二面および前記第二面の反対側に配置された第三面に、それぞれ板部材を重ねて、前記第二孔部内に挿入された前記補強鉄筋の両端部を、それぞれ前記両板部材に接合することが好ましい。
この構成では、両板部材によって既設コンクリート構造物が第二方向から挟み込まれることで、既設コンクリート構造物の第二方向への変位が抑えられるため、既設コンクリート構造物のせん断耐力を向上させることができる。
また、前記した構成では、補強鉄筋および板部材は既設コンクリート構造物の第一面に露出しないため、既設コンクリート構造物の外観を大きく損なうことがない。
【0009】
前記課題を解決するため、第二の発明は、既設コンクリート構造物の補強方法であって、まず、前記既設コンクリート構造物の第一面から、前記既設コンクリート構造物の軸方向に交差する第一方向に向けて第一孔部を削孔する。その後、前記第一孔部内に充填材を充填するとともに、前記第一孔部内に第一補強鉄筋を挿入する。さらに、前記第一孔部に対して前記既設コンクリート構造物の軸方向に間隔を空けた位置で、前記既設コンクリート構造物の第二面から、前記既設コンクリート構造物の軸方向および前記第一方向に交差する第二方向に向けて第二孔部を削孔する。その後、前記第二孔部内に充填材を充填するとともに、前記第二孔部内に第二補強鉄筋を挿入する。
本発明の補強方法では、第一方向に交差する第二方向にも補強鉄筋を配置するため、既設コンクリート構造物に生じる第一方向のひび割れを抑えることができる。このようにして、既設コンクリート構造物の第二方向への変位を抑えることで、既設コンクリート構造物のせん断耐力を向上させることができる。
また、本発明の補強方法では、既設コンクリート構造物に補強鉄筋を埋め込むため、既設コンクリート構造物への補強鉄筋の定着が容易であるとともに、補強鉄筋が外部に露出しない。したがって、本発明の補強方法では、施工および維持管理のコストを抑えるとともに、既設コンクリート構造物の外観を損なうことがない。
【発明の効果】
【0010】
本発明の既設コンクリート構造物の補強構造および補強方法では、異なる二方向に補強鉄筋を配置することで、施工および維持管理のコストを抑えるとともに、既設コンクリート構造物の外観を損なうことなく、既設コンクリート構造物のせん断耐力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る補強構造を示した側面図である。
【
図2】本発明の第一実施形態に係る補強構造を示した
図1のII-II断面図である。
【
図3】本発明の第一実施形態に係る補強構造を示した
図1のIII-III断面図である。
【
図4】本発明の第一実施形態に係る補強構造の変形例を示した断面図である。
【
図5】本発明の第二実施形態に係る補強構造を示した断面図である。
【
図6】本発明の第二実施形態に係る補強構造を用いた既設コンクリート構造物における荷重と変位との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、各実施形態の説明において、同一の構成要素に関しては同一の符号を付し、重複した説明は省略するものとする。
[第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態に係る補強構造を示した側面図である。
図2は、本発明の第一実施形態に係る補強構造を示した
図1のII-II断面図である。
第一実施形態では、
図1に示す既設コンクリート構造物1の梁2のせん断耐力をあと施工で補強する補強構造10Aおよび補強方法について説明する。
第一実施形態の既設コンクリート構造物1は、スラブ3と、スラブ3の下面に設けられた梁2と、が一体化された鉄筋コンクリート製の構造物である。梁2の下部には、
図2に示すように、梁2の軸方向(第一実施形態では水平方向)に延びている二本の主鉄筋2d,2dが左右方向に間隔を空けて配筋されている(
図1参照)。
第一実施形態の梁2は、軸断面が四角形に形成されている。梁2は下面2a(特許請求の範囲における「第一面」)と、右側面2b(特許請求の範囲における「第二面」)と、左側面2c(特許請求の範囲における「第三面」)と、の三面が外部に露出している。
梁2の下面2aは、梁2の軸方向に直交する鉛直方向を法線とする外面である。右側面2bおよび左側面2cは、梁2の軸方向に直交する水平方向を法線とする外面である。
【0013】
第一実施形態の補強構造10Aは、
図1に示すように、梁2の内部に配置された複数の第一補強鉄筋21および複数の第二補強鉄筋31を備えている。各第一補強鉄筋21および各第二補強鉄筋31は、梁2の軸方向に間隔を空けて配置されている。また、第一補強鉄筋21と第二補強鉄筋31とは、梁2の軸方向に間隔を空けて交互に配置されている。
第一補強鉄筋21は、梁2に形成された第一孔部25内に挿入され、第二補強鉄筋31は、梁2に形成された第二孔部35内に挿入されている。
【0014】
第一孔部25は、
図2に示すように、梁2の下面2aから上方に向けて削孔された円形断面の有底の孔部である。第一孔部25には、梁2の軸方向に直交する鉛直方向(特許請求の範囲における「第一方向」)に延びている。第一孔部25は、梁2の左右方向の中央部に形成されている。
第一孔部25は、スラブ3側の端部に底部28が形成され、梁2の下面2aに開口している。第一孔部25の内径は、後記する第一補強鉄筋21の最大外径(本実施形態では定着部22の外径)よりも僅かに大きく形成されている。
【0015】
第一孔部25内には、充填材Fが充填されるとともに、第一補強鉄筋21が挿入されている。第一実施形態の充填材Fは、第一孔部25内で硬化したモルタルである。
第一補強鉄筋21は、円形断面の直線状の部材であり、両端部に拡径された定着部22,22が形成されている。
第一実施形態では、第一孔部25に充填材Fを充填し、充填材Fが硬化する前に、第一孔部25内に第一補強鉄筋21を挿入している。このようにして、既設の梁2の内部に第一補強鉄筋21が配置されている。第一補強鉄筋21の上端部の定着部22は、第一孔部25の底部28内に配置されている。なお、第一孔部25内に第一補強鉄筋21を挿入した後に、第一孔部25に充填材Fを充填してもよい。
第一補強鉄筋21の下端部の定着部22は、梁2の主鉄筋2dと同等のかぶりコンクリート厚を確保した状態に配置されている。
【0016】
第一実施形態の補強構造10Aでは、
図1に示すように、複数の第一孔部25が梁2の軸方向に間隔を空けて形成されている。また、各第一孔部25には、充填材Fがそれぞれ充填されるとともに、第一補強鉄筋21がそれぞれ挿入されている。これにより、梁2の内部には、複数の第一補強鉄筋21が梁2の軸方向に間隔を空けて配置されている。
【0017】
図3は、本発明の第一実施形態に係る補強構造を示した
図1のIII-III断面図である。
第二孔部35は、
図3に示すように、梁2の右側面2bから左方に向けて削孔された円形断面の有底の孔部である。第二孔部35は、梁2の軸方向および鉛直方向に直交する水平方向(特許請求の範囲における「第二方向」)に延びている。
第二孔部35は、
図1に示すように、梁2の軸方向に隣り合う第一孔部25,25の間に配置されている。また、第一実施形態では、梁2の軸方向の同じ位置に、二つの第二孔部35,35が、上下方向に間隔を空けて配置されている。
第二孔部35の内径は、
図3に示すように、後記する第二補強鉄筋31の最大外径(本実施形態では定着部32の外径)よりも僅かに大きく形成されている。第二孔部35の内径は、梁2の右側面2bに開口している。
第二孔部35の左側面2c側の端部に底部38が形成されている。第二孔部35の底部38は、梁2の主鉄筋2dと同等のかぶりコンクリート厚を確保するように配置されている。
【0018】
第二孔部35内には、充填材Fが充填されるとともに、第二補強鉄筋31が挿入されている。第二補強鉄筋31は、第一補強鉄筋21と同様な鉄筋であり、両端部に定着部32,32が形成されている。第二補強鉄筋31も、第二孔部35に充填した充填材Fが硬化する前に、第二孔部35内に挿入することで、既設の梁2の内部に配置されている。なお、第二孔部35内に第二補強鉄筋31を挿入した後に、第二孔部35に充填材Fを充填してもよい。
第二補強鉄筋31の左端部の定着部32は、第二孔部35の底部38内に配置されている。第二補強鉄筋31の左右の端部の両定着部32,32は、梁2の主鉄筋2dと同等のかぶりコンクリート厚を確保した状態に配置されている。
【0019】
第一実施形態の補強構造10Aでは、
図1に示すように、上下二つの第二孔部35,35が、梁2の軸方向に間隔を空けて複数配置されている。また、第一孔部25と第二孔部35とは、梁2の軸方向に交互に配置されている。そして、各第二孔部35には、充填材Fがそれぞれ充填されるとともに、第二補強鉄筋31がそれぞれ挿入されている。
これにより、梁2の内部には、第一補強鉄筋21と第二補強鉄筋31とが、梁2の軸方向に間隔を空けて交互に配置されている。また、第一補強鉄筋21と第二補強鉄筋31とは、
図2に示すように、梁2の軸方向から見たときに直交している。
【0020】
次に、第一実施形態の補強構造10Aを用いた既設コンクリート構造物の補強方法について説明する。
まず、
図2に示す梁2の下面2aから上方に向けてドリルで削孔して、梁2に第一孔部25を形成する。続いて、第一孔部25内に充填材Fを充填し、充填材Fが硬化する前に、第一孔部25内に第一補強鉄筋21を挿入する。
そして、
図1に示すように、複数の第一孔部25を梁2の軸方向に間隔を空けて順次に形成し、各第一孔部25内に充填材Fを充填するとともに、第一補強鉄筋21を挿入していく。
【0021】
続いて、
図3に示す梁2の軸方向に隣り合う第一孔部25,25の間となる位置で、梁2の右側面2bから左方に向けてドリルで削孔して、梁2に上下二つの第二孔部35,35を形成する。続いて、第二孔部35内に充填材Fを充填し、充填材Fが硬化する前に、第二孔部35内に第二補強鉄筋31を挿入する。
そして、
図1に示すように、複数の第二孔部35を梁2の軸方向に間隔を空けて順次に形成し、各第二孔部35内に充填材Fを充填するとともに、第二補強鉄筋31を挿入していく。
これにより、鉛直方向に配置された第一補強鉄筋21と、水平方向に配置された第二補強鉄筋31と、が梁2の軸方向に交互に配置された補強構造10Aが形成される。
【0022】
以上のような第一実施形態の補強構造10Aおよび補強方法では、
図2に示すように、鉛直方向(第一方向)に第一補強鉄筋21を配置するとともに、鉛直方向に交差する水平方向(第二方向)にも第二補強鉄筋31が配置されている。
そのため、第一実施形態の補強構造10Aおよび補強方法では、軸方向の長さに比して幅が小さい梁2であっても、鉛直方向のひび割れを抑えることができる。このようにして、梁2の水平方向への変位を抑えることで、既設コンクリート構造物1のせん断耐力を向上させることができる。
さらに、第一実施形態の補強構造10Aおよび補強方法では、
図1に示すように、第一補強鉄筋21と第二補強鉄筋31とを、梁2の軸方向全体に亘って交互に配置することで、梁2全体のせん断耐力を向上させることができる。
【0023】
また、第一実施形態の補強構造10Aおよび補強方法では、
図2および
図3に示すように、梁2に第一補強鉄筋21および第二補強鉄筋31を埋め込んでいるため、梁2への第一補強鉄筋21および第二補強鉄筋31の定着が容易であるとともに、第一補強鉄筋21および第二補強鉄筋31が外部に露出しない。
したがって、第一実施形態の補強構造10Aおよび補強方法では、施工および維持管理のコストを抑えるとともに、既設コンクリート構造物1の外観を損なうことがない。
【0024】
また、第一実施形態の補強構造10Aでは、第一補強鉄筋21の端部および第二補強鉄筋31の端部が、梁2の主鉄筋2dと同等のかぶりコンクリート厚を確保しているため、第一補強鉄筋21および第二補強鉄筋31の腐食を防ぐことができる。
【0025】
以上、本発明の第一実施形態について説明したが、本発明は前記第一実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
第一実施形態の補強構造10Aでは、
図2に示すように、一本の第一補強鉄筋21と上下二本の第二補強鉄筋31,31とを、梁2の軸方向に交互に配置しているが、第一補強鉄筋21および第二補強鉄筋31の本数や配置は限定されるものではない。
例えば、第一補強鉄筋21と第二補強鉄筋31とを一本ずつ交互に配置してもよい。また、複数の第一補強鉄筋21と複数の第二補強鉄筋31とを交互に配置してもよい。
また、梁2の軸方向に連続して配置した複数の第一補強鉄筋21群と、梁2の軸方向に連続して配置した複数の第二補強鉄筋31群と、を交互に配置してもよい。
また、第一実施形態の補強構造10Aでは、鉛直方向に配置された第一補強鉄筋21と、水平方向に配置された第二補強鉄筋31とが直交しているが、第一補強鉄筋21および第二補強鉄筋31の角度は限定されるものではない。また、第一補強鉄筋21と第二補強鉄筋31とを直交以外の角度で交差させてもよい。
【0026】
第一実施形態の補強方向では、梁2内に複数の第一補強鉄筋21を配置した後に、梁2内に複数の第二補強鉄筋31を配置しているが、第一補強鉄筋21および第二補強鉄筋31を配置する順番は限定されるものではない。
例えば、梁2内に複数の第二補強鉄筋31を配置した後に、梁2内に複数の第一補強鉄筋21を配置してもよい。
【0027】
図4は、本発明の第一実施形態に係る補強構造の変形例を示した断面図である。
図4に示す補強構造1Aの変形例では、第一補強鉄筋21の下端部の定着部22を上端側の定着部22よりも大きく矩形の板状に形成するとともに、第一孔部25の下面2a側の端部に拡径部27を形成し、第一補強鉄筋21の下端部の定着部22を拡径部27内に配置している。また、第二補強鉄筋31の右端部の定着部32を左端側の定着部32よりも大きく矩形の板状に形成するとともに、第二孔部35の右側面2b側の端部に拡径部37を形成し、第二補強鉄筋31の右端部の定着部32を拡径部37内に配置している。この構成では、梁2への第一補強鉄筋21の端部および第二補強鉄筋31の端部の定着性を高めることができる。
【0028】
第一実施形態の補強構造10Aおよび補強方法は、スラブ3と梁2とが一体化された既設コンクリート構造物1の梁2を補強しているが、本発明の補強構造および補強方法を適用可能な既設コンクリート構造物は限定されるものではない。例えば、一方向に延びている壁や柱などの各種の既設コンクリート構造物に適用可能である。
【0029】
[第二実施形態]
図5は、本発明の第二実施形態に係る補強構造を示した断面図である。
第二実施形態の補強構造10Bは、
図5に示すように、第一実施形態の補強構造10A(
図2参照)と略同様な構成であり、左右の板部材40,40を設けている点が異なる。
第二実施形態の補強構造10Bでは、梁2の右側面2bおよび左側面2cにそれぞれ板部材40,40が重ね合わされている。第二実施形態の板部材40は、平板状の鋼板である。
両板部材40,40には、第二補強鉄筋31の両端部がそれぞれ溶接やボルトジョイントなどの接合手段によって接合されている。
なお、板部材40を梁2の軸方向に延びている帯状に形成し、梁2の軸方向に配置された複数の第二補強鉄筋31を一枚の板部材40に接合してもよい。また、複数の板部材40を梁2の軸方向に間隔を空けて配置し、一枚の板部材40に一本の第二補強鉄筋31を接合してもよい。
第二実施形態の補強構造10Bでは、左右の板部材40,40によって梁2が左右方向から挟み込まれる。これにより、第二補強鉄筋31とともに、両板部材40,40によって、梁2の水平方向への変位が抑えられるため、梁2のせん断耐力を向上させることができる。
また、第二実施形態の補強構造10Bでは、第一補強鉄筋21、第二補強鉄筋31および板部材40が梁2の下面2aに露出しないため、既設コンクリート構造物1の外観を大きく損なうことがない。
【0030】
図6は、本発明の第二実施形態に係る補強構造を用いた既設コンクリート構造物における荷重と変位との関係を示したグラフである。
第二実施形態の補強構造10Bを用いた梁2におけるせん断耐力と、従来の閉合型の補強構造を用いた鉄筋コンクリート製の梁におけるせん断耐力とを比較すると、
図6のグラフに示すように、補強構造10Bを用いた梁2は、せん断耐力の低下が抑えられている。これにより、従来の閉合型の補強構造を用いた梁に対して、本発明の補強構造および補強方法を用いた梁2のせん断耐力が向上していることが分かった。
【0031】
以上、本発明の第二実施形態について説明したが、本発明は前記第二実施形態に限定されることなく、前記第一実施形態と同様に、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 既設コンクリート構造物
2 梁
2a 下面
2b 右側面
2c 左側面
2d 主鉄筋
3 スラブ
10A 補強構造(第一実施形態)
10B 補強構造(第二実施形態)
21 第一補強鉄筋
22 定着部
25 第一孔部
27 拡径部
28 底部
31 第二補強鉄筋
32 定着部
35 第二孔部
36 一般部
37 拡径部
38 底部
40 板部材
F 充填材