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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152359
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】リニアモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 41/03 20060101AFI20231010BHJP
【FI】
H02K41/03 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062302
(22)【出願日】2022-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横地 孝典
(72)【発明者】
【氏名】志津 達哉
【テーマコード(参考)】
5H641
【Fターム(参考)】
5H641BB06
5H641GG03
5H641GG04
5H641GG08
5H641HH03
5H641HH10
5H641HH12
5H641JA05
(57)【要約】
【課題】モータ体積を変えずに推力の向上または発熱の減少を達成する、もしくは推力を低下させず、かつ発熱を増加させずにモータを小型化する。
【解決手段】
延設方向に一定間隔で配列される複数の突極12を有するステータ10と、ステータ10に対向して配置され、ステータ10の延設方向に沿って移動するスライダ20と、を有するリニアモータ100であって、スライダ20のU相巻線コア30は、ヨーク31と、複数のティース32と、各ティース間の各磁石用空隙部33にそれぞれ配置された永久磁石34と、ティース組32Sの外側に形成される巻線用空隙部35と、巻線用空隙部35に巻回されるU相巻線36と、を備え、複数のティース32は、ヨーク31からステータ10に向かって放射状に突出し、各ティース32のヨーク側の幅がステータ側の幅よりも狭い。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
延設方向に一定間隔で配列される複数の突極を有するステータと、
前記ステータに対向して配置され、前記ステータの前記延設方向に沿って移動するスライダと、を有するリニアモータであって、
前記スライダは、
ヨークと、
前記ヨークから前記ステータに向かって突出すると共に移動方向に並べて配置された複数のティースと、
各前記ティース間の各磁石用空隙部にそれぞれ配置された永久磁石と、
複数の前記ティースで構成されるティース組の外側に形成される巻線用空隙部と、
前記巻線用空隙部に巻回される巻線と、を備え、
複数の前記ティースは、前記ヨークから前記ステータに向かって放射状に突出し、各前記ティースのヨーク側の幅がステータ側の幅よりも狭いこと、
を特徴とするリニアモータ。
【請求項2】
請求項1に記載のリニアモータであって、
複数の前記ティースは、前記ヨークから前記ステータに向かって等角度で放射状に突出し、各前記ティースの各ヨーク側端の幅が全て等しいこと、
を特徴とするリニアモータ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のリニアモータであって、
前記ティース組の前方側の各ティースは各先端が前記移動方向と直交する対向方向に対して前方に傾斜しており、
前記ティース組の後方側の各ティースは各先端が前記対向方向に対して後方に傾斜しており、
前記ティース組の前記移動方向の前端の前端ティースの前方側の空間と、前記ティース組の前記移動方向の後端の後端ティースの後方側の空間とはそれぞれ前記巻線用空隙部を構成すること、
を特徴とするリニアモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライダに永久磁石が内挿されたリニアモータの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
リニアモータは、駆動部分であるスライダと固定部分であるステータから成るが、その構造には様々なものがある。その中で、スライダ内に永久磁石と巻線を備えているリニアモータの構造について以下に説明する。
【0003】
図4は、従来技術における磁石を埋め込んだ形のリニアモータ200のU相巻線コア1aの断面構造の一例を示す図である。後で図6を参照して説明するように従来技術のリニアモータ200は、ステータ2と、スライダ1とで構成されており、スライダ1は、X方向に連なったU相巻線コア1a、W相巻線コア1bと、V相巻線コア1cで構成されている。スライダ1のX方向の長さはSLLT0でY方向の高さはSLH0である。図4に示すように、U相巻線コア1aのX方向の長さは長さSLL0である。W相巻線コア1b、V相巻線コア1cの構成は、U相巻線コア1aと同一であるから、以下、U相巻線コア1aの構成について説明する。尚、各図において、X方向はスライダ1の移動方向を示し、Y方向はX方向に直交する方向を示す。
【0004】
図4に示すように、U相巻線コア1aはステータ2に対向して配置され、ステータ2と一定の距離を保ったまま、X方向に移動する。U相巻線コア1a、ステータ2ともに図と垂直方向に珪素鋼板が積層された構造となっており、U相巻線コア1a内でステータ2に向かって伸び、一定の幅TW0を持った部分をティース5と呼ぶ。また、U相巻線コア1a内には磁石用空隙部7と巻線用空隙部8が配備されている。磁石用空隙部7は幅Eのスリットでその内には、幅Eの長方形断面の永久磁石3が図中で横向きに磁極が向くように配置される。この時、永久磁石3の磁極は、隣同士で同極が対向している。例えば一番左の永久磁石が磁極のN極が左でS極が右を向いていたとすると、一つ右隣の永久磁石はS極が左でN極が右、というように磁極の方向が隣同士で逆方向を向き、磁極が同極で対向した構造になっている。これにより、ティース5には図中二点鎖線で示されるように磁束が流れる。例えば、N極から出た磁束は、ステータ2の方向に向かっていく磁束とステータ2とは逆方向に向かっていく磁束とに分かれる。そのうち、ステータ2と逆方向に向かっていく磁束は、磁石用空隙部7を回り込みS極に入る。一方、ステータ2に向かっていく磁束は、そのままステータ2の突極6を通ってステータ2内に入っていく。この時、ステータ2から見ると、ティース5の先端でN極、S極、N極、S極というように磁極が順に並んだ構造になる。
【0005】
U相巻線コア1aにおけるティース5は、一定のピッチSLPで配置されている。このピッチSLPは、永久磁石3の幅Eとティース5の幅TWOを加えたものになる。また、ステータ2ではU相巻線コア1aと対向する部分が突極の形状をしている。この突極6も一定のピッチSTPで配置されている。ここで、STPとSLPの関係は、
STP=SLP×2 ・・・式1
で表され、突極6のピッチSTPは、ティース5のピッチSLPの2倍になっている。これにより、ティース5の同極が全てステータ2の突極6と同じ位置関係になる。
【0006】
複数のティース5の外側には巻線用空隙部8が形成されている。巻線用空隙部8のX方向の幅は幅D0である。巻線用空隙部8にはU相の巻線4が配置される。巻線4は、図中に示されている二カ所の巻線用空隙部8の間で巻回される。巻線4に電流が通電されると、右ネジの法則に従ってティース5と平行方向に磁束が形成される。この磁束により、もともと永久磁石3によりティース5内に発生している磁束が、強められたり弱められたりする。例えば、図5に示すように図中左側の巻線4に奥から手前に、右側の巻線4に手前から奥に電流が通電された場合、巻線4に囲まれた各ティース5内では下から上方向に磁束が流れる。すると、これまで永久磁石3によって形成されていた磁束のうち、下から上方向の磁束は強められ、上から下方向の磁束は弱められる。巻線4に電流が通電されることによって形成される磁界の強さは、巻線4に通電される電流の大きさに比例するため、弱められた磁束は、キャンセルされてゼロになる場合もある。弱められた磁束がキャンセルされてゼロになった場合は、図に示されるような磁束の流れになる。すなわち、永久磁石3のN極から出ていた磁束のうち、ステータ2に向かっていた磁束はキャンセルされてゼロになり、ステータ2と逆方向に向かっていた磁束は巻線4によって発生した磁束によって強められる。一方、永久磁石3のS極側では、ステータ2と逆方向から入ってきていた磁束はキャンセルされてゼロになり、ステータ2から入ってきていた磁束は強められている。これにより、ステータ2から見た場合、これまでN極だったティース5の磁極が無くなり、一つおきのティース5にS極のみが存在する形になる。
【0007】
U相巻線コア1aとステータ2の間に発生する力は、ティース5と突極6が真正面に対向している場合は、図中上下方向に引き合う磁気吸引力のみであり、U相巻線コア1aを左右に移動させる推力はゼロである。しかし、ここからU相巻線コア1aとステータ2の位置が左右にずれていくと、磁気吸引力は次第に減少していき、一方で推力は増加していく。また、これらの力の大きさは、位置関係だけでなくティース5における磁界の強さにも比例する。したがって、ティース5と突極6の位置関係と、ティース5における磁界の強さをコントロールすれば、所望の推力を得ることができる。巻線4に電流を通電するのは、ティース5と突極6との位置によって、ティース5における磁界の強さをコントロールして、所望の推力を得ることが目的である。
【0008】
図6に示すように、スライダ1は、X方向に連なったU相巻線コア1a、W相巻線コア1bと、V相巻線コア1cで構成されている。先に説明したように、W相巻線コア1b、V相巻線コア1cの構造はU相巻線コア1aと同一構造であり、W相巻線コア1bにはW相巻線が巻回され、V相巻線コア1cにはV相巻線が巻回されている。図中では、UとXで示された部分にU相巻線、VとYで示された部分にV相巻線、WとZで示された部分にW相巻線が、それぞれ巻回されている。公知の通り、三相巻線に通電される電流は電気角で120°ずつ位相がずれている。したがって、それに合わせてティース5の位置も配置する必要がある。ここでの電気角360°は、突極6のピッチSTPと等しいため、巻線4が入る部分を挟んだティースの間隔SLPWは、突極6に対して電気角で120°または240°、ピッチでSTP×1/3またはSTP×2/3ずれていることになる。式で表すと、nを整数として
SLPW=SLP×n+STP×1/3 ・・・式2
SLPW=SLP×n+STP×2/3 ・・・式3
と表すことができる。以上のようにティース5の位置を配置することによって、三相交流を巻線に流して、スライダ1とステータ2の間に効率よく推力を発生させることができている。
【0009】
また、図5では巻線4に電流を通電した場合、ステータ2から見た場合、一つおきのティース5に同極のみが存在する形になると述べたが、図6のように三相巻線が巻回されてU相巻線コア1aとW相巻線コア1bとV相巻線コア1cとが連なっている場合、例えばU相巻線に図5の場合と同じ電流を通電したとすると、V相巻線には120度、W相巻線には240度ずれた位相の電流が通電される。U相に電流のピーク値が通電されたとすると、V相とW相にはU相電流値の半分で方向が反対の電流が通電される。したがって、図6に示すように、U相とは異なりV相及びW相にはステータ2から見て強められたN極が並ぶ構成になる。図5における説明では、N極のティースからステータ2と反対方向に磁束が発生していたが、隣のティースでは磁束がキャンセルされているので、この磁束は永久磁石3のS極に入ることができず、行き場を失った状態になっている。しかし、図6のように3組の巻線が連なっていると、行き場を失ったU相の磁束はV相及びW相で逆方向に発生している磁束とつながり、永久磁石3に入ることができる。この際、磁束が通過していく部分をヨークと呼ぶ。ヨークのうち、磁束の方向と直交する幅寸法が最も小さくなる部分、すなわち図6においてLY0で示されているY方向の寸法をヨーク高さと呼ぶ。このヨーク高さLY0は、巻線4へ通電時に磁束が飽和しない範囲の最小値に設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006-109639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
スライダ1を設計するために各部の寸法を決定していく際、まず永久磁石3の幅が磁石の減磁耐量をもとに決められ、さらにティース5の幅が永久磁石3による磁束が巻線4に電流が通電されて強められてもティース5内で磁束飽和しない範囲の最小値に設定される。この二つの幅を足し合わせたものがティース5のピッチSLPになることは前述した。また、巻線4が入る部分を挟んだティース5の間隔SLPWは、前述の式2または式3のいずれかで決まってくる。一方、ヨーク高さLY0と巻線用空隙部8の高さSLTH0を加えたものが、スライダ1の高さSLH0になる。巻線用空隙部8の幅D0は、中に入る巻線量で決まる。巻線量というのは、ターン数と呼ばれる巻線の巻き数と1ターンあたりの巻線の断面積の積から求めることができ、モータが発生する推力はターン数と通電電流に比例し、通電時の発熱は巻線の断面積に反比例する。したがって、必要な推力と通電電流からターン数を求め、求めたターン数から通電時に消耗の発熱量に抑えるための巻線抵抗を計算し、そこから巻線の断面積を求める。以上より必要な巻線量が求められ、それをもとに巻線用空隙部8の大きさを決めることができる。巻線用空隙部8の大きさが決まると、幅D0は式2または式3から求められるティースの間隔SLPWからティースの幅TWOを引いた長さの半分、つまり、D0=(SLPW-TWO)/2、となるので、これから巻線用空隙部8の高さSLTHが決まる。
【0012】
一般的にモータの特性として求められるのは、決められたモータ体積内で所望の力を発生しつつ、発熱を規定値内に抑えることである。しかし、所望の力が得られない場合、通常、通電電流の大きさには制限があるので、ターン数を増やして対応する。しかし、ターン数を増やすと巻線の抵抗値が上昇するので発熱も比例して増加する。そこで、ターン数が増えても巻線の抵抗値を減らして発熱を減少するために、巻線の断面積を増やしている。巻線の断面積を増やす方法として、径の太い巻線を用いて断面積を大きくする方法があるが、太い巻線は固く、自由に曲げることができないため、巻線を巻回することが難しくなる。そこで、一般的には細い電線を複数束ねて1本の電線として使用する。この時の束ねた本数をパラ数と呼ぶ。巻線抵抗及び発熱はパラ数に反比例するため、所望の推力を得られるだけターン数を増やしておいて、パラ数を増やしていけば、大きな力が発生できて発熱が少ないモータを設計することができる。しかし、パラ数を増やしていくと巻線量が増え、結果的に巻線用空隙部8の断面積が非常に大きくなってしまう。
【0013】
仮に、現状のティース5のピッチSLP及び巻線4が入る部分を挟んだティース5の間隔SLPWのまま巻線用空隙部8の断面積を増やしていくと、図7に示す他のリニアモータ300のようにスロット部の高さSLTH1を大きくしなければならない。ヨーク高さLY0は変えることができないので、結果的にスライダ1の高さSLH1が、これまでよりも大きくなってしまう。では、図8の従来技術のリニアモータ400のように、式2または式3にしたがって、ティースの間隔をSLPW1に広げて巻線用空隙部8の幅D0を大きくしても結果的にスライダ1のX方向長さが長さSLLT9のように長くなってしまう。このように推力を増加させて発熱を減少させるという相反なことを達成しようとすると、モータが大きくなってしまい、決められた体積内で設計できなくなる。
【0014】
そこで、本発明は、モータ体積を増加させずに推力を増加させて発熱を減少させるということを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のリニアモータは、延設方向に一定間隔で配列される複数の突極を有するステータと、前記ステータに対向して配置され、前記ステータの前記延設方向に沿って移動するスライダと、を有するリニアモータであって、前記スライダは、ヨークと、前記ヨークから前記ステータに向かって突出すると共に移動方向に並べて配置された複数のティースと、各前記ティース間の各磁石用空隙部にそれぞれ配置された永久磁石と、複数の前記ティースで構成されるティース組の外側に形成される巻線用空隙部と、前記巻線用空隙部に巻回される巻線と、を備え、複数の前記ティースは、前記ヨークから前記ステータに向かって放射状に突出し、各前記ティースのヨーク側の幅がステータ側の幅よりも狭いこと、を特徴とする。
【0016】
このように、複数のティースがヨークからステータに向かって放射状に突出し、各ティースのヨーク側の幅がステータ側の幅よりも狭くなるように構成するので、ティース組のヨーク側の移動方向の幅を短くし、ティース組の外側に形成される巻線用空隙部のヨーク側の幅を広くすることができる。また、ティースのヨーク側の幅を狭くすることによりヨークを通過する磁束を減少させることができるのでヨーク高さを低くして巻線用空隙部の高さを高くすることができる。このため、モータ体積を増加させずに巻線用空隙部の断面積を大きくして巻線量を増加させて推力の増加と発熱の減少を図ることができる。
【0017】
本発明のリニアモータにおいて、複数の前記ティースは、前記ヨークから前記ステータに向かって等角度で放射状に突出し、各前記ティースの各ヨーク側端の幅が全て等しくてもよい。
【0018】
これにより、各ティースに流れる磁束の流れをスムーズにして発熱を減少させることができる。
【0019】
本発明のリニアモータにおいて、前記ティース組の前方側の各ティースは各先端が前記移動方向と直交する対向方向に対して前方に傾斜しており、前記ティース組の後方側の各ティースは各先端が前記対向方向に対して後方に傾斜しており、前記ティース組の前記移動方向の前端の前端ティースの前方側の空間と、前記ティース組の前記移動方向の後端の後端ティースの後方側の空間とはそれぞれ前記巻線用空隙部を構成してもよい。
【0020】
これにより、巻線用空隙部のヨーク側の移動方向の幅を短くすることができ、巻線用空隙部の断面積を大きくしてモータ体積を増加させずに推力の増加と発熱の減少を図ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明を用いることにより、モータ体積を増やさずに、発熱を減らしつつ推力を向上できるリニアモータを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態におけるリニアモータの概略構成を示す断面図である。
図2】実施形態におけるリニアモータのU相巻線コアを示す断面図である。
図3】実施形態におけるリニアモータのU相巻線コアのU相巻線に電流が流れた場合の磁束の流れを示す説明図である。
図4】従来技術におけるリニアモータのU相巻線コアの断面図である。
図5】従来技術におけるリニアモータのU相巻線コアのU相巻線に電流が流れた場合の磁束の流れを示す説明図である。
図6】従来技術におけるリニアモータの断面構造の一例を示す図である。
図7】従来技術における他のリニアモータの断面構造の一例を示す図である。
図8】従来技術における他のリニアモータの断面構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら実施形態のリニアモータ100について説明する。図1に示すように、リニアモータ100は、ステータ10と、スライダ20とで構成されている。尚、各図において、X方向は、ステータ10の延設方向、又は、スライダ20の移動方向を示す。Y方向は移動方向であるX方向に直交する対向方向を示す。尚、以下の説明では、X方向マイナス側をスライダ20の前方、X方向プラス側をスライダ20の後方、として説明する。
【0024】
ステータ10は、例えば、珪素鋼板を積層して形成される。ステータ10は、X方向に延設される長尺なステータヨーク11と、ステータヨーク11のY方向端面からY方向プラス側に突出する複数の突極12とで構成されている。複数の突極12は、一定間隔であるピッチSTPでX方向に並んでいる。
【0025】
スライダ20は、例えば、珪素鋼板を積層して形成されて、Y方向においてステータ10と対向している。スライダ20は、X方向に連なったU相巻線コア30と、W相巻線コア40と、V相巻線コア50とで構成されている。スライダ20のX方向の長さはSLLT1でY方向の高さはSLHである。また、U相巻線コア30、W相巻線コア40と、V相巻線コア50のX方向の長さは全て長さSLL1である。
【0026】
U相巻線コア30は、Y方向の高さLYのヨーク31と、ヨーク31からステータ10に向かってY方向マイナス側に突出すると共にX方向に並べて配置された複数のティース32a~32fとを備えている。各ティース32a~32fの間の磁石用空隙部33にはそれぞれ永久磁石34a~34eが取り付けられている。また、複数のティース32a~32fは一組のティース組32Sを構成しており、ティース組32Sの外側には、巻線用空隙部35が形成されている。ティース組32Sのヨーク側のX方向の長さはTWAであり、巻線用空隙部35のヨーク側のX方向の幅はDでY方向の高さはSLTHである。巻線用空隙部35のUとXで示された部分にU相巻線36が巻回されている。尚、各ティース32a~32f、各永久磁石34a~34eを区別しない場合には、ティース32、永久磁石34という。
【0027】
W相巻線コア40、V相巻線コア50はU相巻線コア30と同一構造で、それぞれ、ヨーク41、51、複数のティース42、52を備え、各ティース42、52の間の各磁石用空隙部43、53にはそれぞれ永久磁石44、54が取り付けられている。また、一組となった複数のティース42、52の外側の巻線用空隙部45、55には、W相巻線46、V相巻線56が巻回されている。W相巻線46は図1中のWとZで示された部分に巻回されており、V相巻線56は図1中のVとYで示された部分に巻回されている。
【0028】
U相巻線コア30の各ティース32と、W相巻線コア40の各ティース42と、V相巻線コア50の各ティース52は、それぞれがステータ10の突極12に対してX方向に電気角で120度に相当するピッチSTP/3だけずらして配置されている。巻線用空隙部35、45を挟んだティース32、42の間隔と、巻線用空隙部45、55を挟んだティース42とティース52との間隔は、それぞれ、図6に示す従来技術と同じSLPWであり、式2で規定される。
【0029】
次に図2を参照しながら、U相巻線コア30の詳細構造について説明する。図2に示すように、各ティース32a~32fはY方向に対して傾斜するようにステータ10に対して突出している。図2に示すように、U相巻線コア30のX方向の中央でY方向マイナス側に向かう軸をY1軸とすると、U相巻線コア30の中央の2つのティース32c、32dはY1軸に対して前方及び後方に角度θ1だけ傾斜している。また、その外側の2つのティース32b,32eは、中央の各ティース32c、32dに対して前方及び後方に角度2θ1だけ傾斜している。そして、一番外側の前端ティース32aと後端ティース32fは、ティース32b、32eに対して前方及び後方に角度2θ1だけ傾斜している。このように、ティース組32Sの前方側の各ティース32a~32cは各先端がY1軸に対して前方に傾斜しており、後方側の各ティース32d~32fは各先端がY1軸に対して後方に傾斜している。
【0030】
ここで、中央の2つのティース32c、32dの間の角度は2θ1であるから、各ティース32a~32fは、それぞれ隣接するティースに対し角度2θ1をなして配置されており、各ティース32a~32fは、ヨーク31からステータ10に向かって角度2θ1で等角度で放射状に突出している。そして、ティース組32SのX方向の前端のティース32aの前方側の空間と、ティース組32SのX方向の後端のティース32fの後方側の空間とはそれぞれ巻線用空隙部35を構成する。
【0031】
各ティース32a~32fの間の中央には磁石用空隙部33が設けられている。磁石用空隙部33は、図2に示すように長方形断面の永久磁石34を取り付ける一定の幅Eのスリットである。各ティース32a~32fは、それぞれ隣接するティースに対し角度2θ1をなして配置されているが、磁石用空隙部33は長方形断面で対向する2面が平行となっている。このため、各ティース32a~32fの前方の面と後方の面とは平行になっておらず、ステータ10からヨーク31に向かうにつれて幅が狭くなっている。図2に示すように、各ティース32a~32fのヨーク側の幅TW1はステータ側の幅TW2よりも狭くなっている。
【0032】
また、各ティース32a~32fの先端の辺の中点を各ティース32a~32fの中心と呼ぶことにすると、各ティース32a~32fの中心同士のX方向のピッチSLPは、従来技術と同様にステータ10の突極12のピッチSTPに対して式1を満たし、全て等しい寸法となっている。また、ステータ10の突極12の幅は従来技術と同等である。
【0033】
各磁石用空隙部33は、各ティース32a~32fの間の中央に設けられているので、各ティース32a~32fと同様、各磁石用空隙部33は、それぞれ隣接する磁石用空隙部33に対し角度2θ1をなして配置されており、各磁石用空隙部33は、ヨーク31からステータ10に向かって角度2θ1で等角度で放射状に延びている。
【0034】
各磁石用空隙部33には、それぞれ永久磁石34a~34eが取り付けられている。永久磁石34a~34eは幅Eの長方形断面を有している。各永久磁石34a~34eは、従来技術と同様に磁極の方向が各永久磁石34a~34eの長辺に対して垂直方向を向いており、各ティース32a~32eを挟んで同極が向かい合うように取り付けられている。
【0035】
各永久磁石34a~34eは、各磁石用空隙部33に取り付けられているので、それぞれ隣接する永久磁石に対し角度2θ1をなして配置されており、各永久磁石34a~34eは、長辺の方向がヨーク31からステータ10に向かって角度2θ1で等角度で放射状となるように配置されている。
【0036】
上記のように構成されているので、ティース組32Sのステータ側のX方向の長さTWBは、
TWB≒TW2×6+5×E ・・・ 式4
ここで、ティース32a、32fのステータ側の幅TW2は、図4に示す従来技術のティース5の幅TW0とほぼ等しく、各永久磁石の幅Eも従来技術の永久磁石3の幅Eとほぼ等しいので、TWBは従来技術によるティース組のX方向長さTWA0とほぼ等しくなる。尚、式4では各ティース32a~32f、各永久磁石34a~34eの傾斜角度の影響は小さいので無視している。
【0037】
一方、ティース組32Sのヨーク側のX方向の長さTWAは、
TWA≒TW1×6+E×5 ・・・ 式5
となる。式5も式4と同様、各ティース32a~32f、各永久磁石34a~34eの傾斜角度の影響は無視している。
先に述べたように、TW1<TW2であるから、
TWA<TWB≒従来技術によるティース組のX方向長さTWA0 ・・ 式6
となる。
【0038】
従って、実施形態のリニアモータ100のU相巻線コア30では、ティース組32Sのヨーク側のX方向の長さTWAが図4に示す従来技術によるティース組のX方向の長さTWA0よりも短くなる。従って、U相巻線コア30のX方向の長さSLL1を従来技術のU相巻線コア1aのX方向長さSLL0と同一とした場合に、ティース組32Sの外側に形成される巻線用空隙部35のヨーク側のX方向の幅Dを従来技術の巻線用空隙部8の幅D0よりも広くすることができる。
【0039】
尚、図1を参照して説明したように、巻線用空隙部35、45を挟んだティース32、42の間隔は、図6に示す従来技術と同じSLPWであり、ティース32の先端の幅TW2は図4に示す従来技術のティース5の幅TW0とほぼ等しいので、巻線用空隙部35のステータ側の幅Dsは、
Ds=(SLPW-TW2)/2≒(SLPW-TW0)/2=D0 ・・ 式7
となり、図4に示す従来技術のU相巻線コア1aの巻線用空隙部8の幅D0とほぼ同一幅となる。
【0040】
次に図3を参照しながら巻線36に電流を流した場合のティース32a~32fに発生する磁束の流れについて説明する。巻線36に電流を通電すると、従来技術と同様、右ネジの法則に従って発生する磁束がティース32a~32fの磁束を強めたり弱めたりする。図3に示すように、一番左の永久磁石34aで左側がN極、右側がS極とし、そこから同極が向かい合うように各永久磁石34b~34eが順に配置されている。この時、左側の巻線36には奥から手前方向に、右側の巻線36には手前から奥方向に電流を通電したとすると、右ネジの法則により巻線36間にY方向のプラス側に向かって磁束が発生するため、永久磁石34a~34eのN極から発生しステータ10に向かってY方向のマイナス側に向かう磁束は弱められ、ステータ10と逆方向のY方向のプラス側に向かっていく磁束は強められる。また、永久磁石34a~34eのS極に入り、ステータ10から永久磁石34a~34eに向かってY方向のプラス側に向かっていく磁束は強められ、ヨーク31からY方向のマイナス側に向かって永久磁石34a~34eに入ってくる磁束は弱められる。
【0041】
実施形態のリニアモータ100では、各ティース32a~32fのヨーク側のX方向の幅TW1がステータ側のX方向の幅TW2よりも狭くなっているため、従来の構造と比べると各ティース32a~32fのヨーク側端で磁気抵抗が大きくなって磁束が相対的に通過し難くなる。各ティース32a~32fのヨーク側の幅TW1は従来技術におけるティース5の幅TW0に対して狭く、磁気抵抗は(TW0/TW1)倍になっているため、その割合で磁束が通過し難くなっている。
【0042】
一般的に、磁束は磁気抵抗が少なく流れやすい方向に多く流れ、磁気抵抗が大きくなるとその部分を通過する磁束が減少する。このため、各ティース32a~32fのヨーク側の磁気抵抗が大きくなると、各ティース32a~32fからステータ10と逆方向にヨーク31に向かう磁束が減少するため、ヨーク31を通過して隣の相との間を結ぶ磁束が減少する。そのため、従来技術のスライダ1よりもヨーク31で磁束が飽和し難くなり、ヨーク31のY方向の高さLYを図4に示す従来技術におけるヨーク高さLY0よりも小さくできる。スライダ20の高さSLHを一定にする場合、ヨーク31のY方向の高さLYを小さくするとその分だけ巻線用空隙部35のY方向の高さSLTHを従来技術の巻線用空隙部8のY方向の高さSLTH0より高くすることができる。
【0043】
以上、説明したように、実施形態のリニアモータ100のU相巻線コア30では、複数のティース32a~32fがヨーク31からステータ10に向かって放射状に突出し、各ティース32a~32fのヨーク側の幅TW1がステータ側の幅TW2よりも狭くする構成により、U相巻線コア30のX方向の長さSLL1と高さSLHとを図4に示す従来技術のU相巻線コア1aの長さSLL0と高さSLH0と同一とした場合に、巻線用空隙部35のヨーク側のX方向の幅DとY方向の高さSLTHとを、従来技術の巻線用空隙部8のX方向の幅D0とY方向の高さSLTH0よりもそれぞれ大きくすることができ、巻線用空隙部35の断面積を従来技術の巻線用空隙部8の断面積よりも大きくすることができる。これにより、U相巻線コア30の体積を増加させずに巻線36の量を従来技術のU相巻線コア1aの巻線4の量よりも増加させてU相巻線コア30の推力の増加と発熱の減少を図ることができる。
【0044】
以上、U相巻線コア30の構造の詳細について説明したが、W相巻線コア40、V相巻線コア50の構造は、U相巻線コア30と同一の構造であり、W相巻線コア40、V相巻線コア50のX方向の長さSLL1と高さSLHとを図4に示す従来技術のW相巻線コア1b、V相巻線コア1cの長さSLL0と高さSLH0と同一とした場合に、巻線用空隙部45、55のヨーク側のX方向の幅DとY方向の高さSLTHとを、従来技術の巻線用空隙部8のX方向の幅D0とY方向の高さSLTH0よりもそれぞれ大きくすることができ、巻線用空隙部45、55の断面積を従来技術の巻線用空隙部8の断面積よりも大きくすることができる。
【0045】
従って、U相巻線コア30と、W相巻線コア40と、V相巻線コア50とをX方向につなげて構成したスライダ20は、スライダ20のX方向の長さSLLT1とY方向の高さSLHを図6に示す従来技術のスライダ1のX方向の長さSLLT0とY方向の高さSLH0と同一とした場合に、巻線用空隙部35、45、55のヨーク側のX方向の幅DとY方向の高さSLTHとを、従来技術の巻線用空隙部8のX方向の幅D0とY方向の高さSLTH0よりもそれぞれ大きくすることができ、巻線用空隙部35、45、55の断面積を従来技術の各巻線用空隙部8の断面積よりも大きくすることができる。このため、実施形態のリニアモータ100は、モータ体積を増加させずに各相の巻線36の量を従来技術の各相の巻線4の量よりも増加させてスライダ20推力の増加と発熱の減少を図ることができる。
【0046】
なお、特性の向上が特に必要ない場合は、モータ体積を減らして小型化を図っても良い。具体的には、ヨーク31の高さLYや巻線用空隙部の高さSLTHを小さくしてスライダ20の高さSLHを小さくしても良いし、同一推力を発生するための通電電流を減らせるので、永久磁石34a~34eの減磁リスクが減少するため、永久磁石34a~34eの幅Eを小さくしてスライダ20の全長を短くしても良い。
【0047】
以上の説明では、U相巻線コア30の各ティース32a~32f、各磁石用空隙部33、各永久磁石34a~34eは互いに角度2θ1ずつ傾斜していることとして説明したがこれに限らず、互いの傾斜角度が異なっていてもよい。また、各ティース32a~32f、各磁石用空隙部33、各永久磁石34a~34eは、すべて放射状に突出していなくてもよい。例えば、ティース組32Sの中央部分のティース32c~32d、磁石用空隙部33、永久磁石34cは、傾斜せずにY方向にステータ10に向かって延び、ティース組32Sの前方側の各ティース32a~32b、各磁石用空隙部33、各永久磁石34a~34bは各先端がY方向に対して前方に傾斜しており、ティース組32Sの後方側の各ティース32e~32f、各磁石用空隙部33、各永久磁石34d~34eは各先端がY方向に対して後方に傾斜するように構成してもよい。W相巻線コア40、V相巻線コア50においても同様である。
【0048】
また、ステータ10の突極12のピッチSTPがティース32のピッチSLPの2倍として説明をしたが、特に2倍である必要はなく、リニアモータ100の制御方法や各ティース32の数によって任意に変更しても良い。
【符号の説明】
【0049】
1、20 スライダ、1a、30 U相巻線コア、1b、40 W相巻線コア、1c、50 V相巻線コア、2、10 ステータ、3、34、44、54 永久磁石、4 巻線、5、32、32a~32f、42、52 ティース、6、12 突極、7、33、43、53 磁石用空隙部、8、35、45、55 巻線用空隙部、11 ステータヨーク、31、41、51 ヨーク、32S ティース組、36 U相巻線、46 W相巻線、56 V相巻線、100、200,300,400 リニアモータ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8