(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152389
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】導電性シール用アクリルゴム組成物、及び密封装置
(51)【国際特許分類】
C09K 3/10 20060101AFI20231010BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20231010BHJP
C08L 33/08 20060101ALI20231010BHJP
F16J 15/3284 20160101ALI20231010BHJP
【FI】
C09K3/10 E
C08K3/04
C08L33/08
F16J15/3284
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062364
(22)【出願日】2022-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000167196
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトシーリングテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楠 克彦
【テーマコード(参考)】
3J043
4H017
4J002
【Fターム(参考)】
3J043AA15
3J043CA02
3J043CB13
3J043CB18
3J043DA20
4H017AA03
4H017AB01
4H017AC10
4H017AD03
4H017AE05
4J002BG041
4J002DA026
4J002DA037
4J002EF050
4J002FD030
4J002FD117
4J002FD140
4J002FD150
4J002FD176
4J002GJ02
4J002GQ02
(57)【要約】
【課題】 未加硫物の調製時の加工性、並びに加硫物の導電性、シール性及び摺動特性に優れる、導電性シール用アクリルゴム組成物、及びその導電性シール用アクリルゴム組成物の加硫物からなるシール部を有する密封装置を提供すること。
【解決手段】 アクリルゴム、導電性カーボンブラック、及び人造黒鉛を含み、前記人造黒鉛の平均粒子径が、1~10μmであり、前記導電性カーボンブラックの含有量が、前記アクリルゴム100質量部に対して20~50質量部であり、前記人造黒鉛の含有量が、前記アクリルゴム100質量部に対して15~90質量部である、導電性シール用アクリルゴム組成物、及びその加硫物からなるシール部を有する密封装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルゴム、導電性カーボンブラック、及び人造黒鉛を含み、
前記人造黒鉛の平均粒子径が、1~10μmであり、
前記導電性カーボンブラックの含有量が、前記アクリルゴム100質量部に対して20~50質量部であり、
前記人造黒鉛の含有量が、前記アクリルゴム100質量部に対して15~90質量部である、導電性シール用アクリルゴム組成物。
【請求項2】
前記導電性カーボンブラックは、平均粒子径が15~35nmの導電性カーボンブラックである、請求項1に記載の導電性シール用アクリルゴム組成物。
【請求項3】
前記人造黒鉛の含有量は、前記アクリルゴム100質量部に対して25~90質量部である、請求項1に記載の導電性シール用アクリルゴム組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性シール用アクリルゴム組成物の加硫物は、体積抵抗率が、1000Ω・cm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性シール用アクリルゴム組成物。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性シール用アクリルゴム組成物の加硫物は、摩擦係数μが、1.5以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性シール用アクリルゴム組成物。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性シール用アクリルゴム組成物の加硫物は、デュロメータ硬さタイプAが、60~85である、請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性シール用アクリルゴム組成物。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性シール用アクリルゴム組成物の加硫物からなるシール部を有する密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性シール用アクリルゴム組成物、及び、この導電性シール用アクリルゴム組成物の加硫物からなるシール部を有する密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車やハイブリッド車の開発の進展により、一台の自動車に搭載される高電圧部品の数が増加し、部品同士の電磁気的干渉に伴う電磁ノイズへの対策が要望されている。例えば、特許文献1には、設置対象由来の電磁ノイズを常時低減可能な、導電性を有する、アクリルゴム等の樹脂材料から形成されるシールを備える軸受が開示されている。
【0003】
アクリルゴム組成物は、耐熱性、耐油性、及びコスト面に優れ、軸受等に用いられる密封装置のシール部に適用するゴム組成物として知られている。例えば、特許文献2には、アクリルゴム、人造黒鉛、およびカップリング剤を含むシール用ゴム組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-106145号公報
【特許文献2】特開2017-39822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アクリルゴム組成物の加硫物を用い、導電性のシール部を作成する手法として、アクリルゴム組成物に、導電性材料であるカーボンファイバーやカーボンナノチューブを、配合する手法が考えられる。しかし、カーボンファイバーやカーボンナノチューブは、高価であり、シール部のコストが増加してしまう。
【0006】
アクリルゴム組成物の加硫物を用い、導電性のシール部を作成する別手法として、アクリルゴム組成物に、導電性カーボンブラックを、配合する手法が考えられる。しかし、本発明者は、アクリルゴム組成物に、単に導電性カーボンブラックを配合しただけでは、上述の電磁ノイズの低減に十分な導電性を有するシール部が、得られない場合があることを見出した。さらに、本発明者は、アクリルゴム組成物への導電性カーボンブラックの配合により、上記電磁ノイズの低減に十分な導電性を有するシール部が得られても、アクリルゴム組成物の調製時の加工性や、アクリルゴム組成物の加硫物のシール性や摺動特性が、低下する場合があることを見出した。
【0007】
本発明は、このような状況を鑑み、未加硫物の調製時の加工性、並びに加硫物の導電性、シール性、及び摺動特性に優れる、導電性シール用アクリルゴム組成物、及びその導電性シール用アクリルゴム組成物の加硫物からなるシール部を有する密封装置を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の導電性シール用アクリルゴム組成物は、アクリルゴム、導電性カーボンブラック、及び人造黒鉛を含み、
上記人造黒鉛の平均粒子径が、1~10μmであり、
上記導電性カーボンブラックの含有量が、上記アクリルゴム100質量部に対して20~50質量部であり、
上記人造黒鉛の含有量が、上記アクリルゴム100質量部に対して15~90質量部である。
【0009】
本発明の導電性シール用アクリルゴム組成物は、上述の組成を有する。これにより、上記導電性シール用アクリルゴム組成物は、ロール粘着が抑制され、調製時の加工性に優れている。また、上記導電性シール用アクリルゴム組成物の加硫物は、上述の電磁ノイズの低減に十分な導電性を有すると共に、適度な硬さ、及び低い摩擦係数を有し、シール性、及び摺動特性に優れている。よって、上記導電性シール用アクリルゴム組成物の加硫物を密封装置のシール部に用いることで、導電性、シール性、及び摺動特性に優れた密封装置を提供することができる。
【0010】
上述の導電性シール用アクリルゴム組成物において、導電性カーボンブラックは、平均粒子径が15~35nmの導電性カーボンブラックであることが好ましい。
この場合、上記導電性シール用アクリルゴム組成物の加硫物は、より導電性に優れている。
【0011】
上述の導電性シール用アクリルゴム組成物において、上述の人造黒鉛の含有量は、上述のアクリルゴム100質量部に対して25~90質量部であることが好ましい。
この場合、上記導電性シール用アクリルゴム組成物は、ロール粘着がさらに抑制され、調製時の加工性がさらに向上する。また、上記導電性シール用アクリルゴム組成物の加硫物は、導電性、及び摺動特性がさらに向上する。
【0012】
上述の導電性シール用アクリルゴム組成物において、その加硫物は、体積抵抗率が、1000Ω・cm以下であることが好ましい。
この場合、上記導電性シール用アクリルゴム組成物の加硫物は、上述の電磁ノイズの低減にさらに適している。
【0013】
上述の導電性シール用アクリルゴム組成物において、その加硫物は、摩擦係数μが、1.5以下であることが好ましい。
この場合、上記導電性シール用アクリルゴム組成物の加硫物は、軸受の密封装置等、摺動特性が要求される装置のシール部としての適用にさらに適している。
【0014】
上述の導電性シール用アクリルゴム組成物において、その加硫物は、デュロメータ硬さタイプAが、60~85であることが好ましい。
この場合、上記導電性シール用アクリルゴム組成物の加硫物は、軸受の密封装置等、シール性が要求される装置のシール部としての適用にさらに適している。
【0015】
本発明の密封装置は、上述の導電性シール用アクリルゴム組成物の加硫物からなるシール部を有する。
上記密封装置は、導電性、シール性、及び摺動特性に優れ、電気自動車やハイブリッド車等を含む機械類の電磁ノイズ対策に適している。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、未加硫物の調製時の加工性、並びに加硫物の導電性、シール性及び摺動特性に優れる、導電性シール用アクリルゴム組成物、及びその導電性シール用アクリルゴム組成物の加硫物からなるシール部を有する密封装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る密封装置を有する、転がり軸受を示す断面図である。
【
図2】摩擦摩耗試験に用いた試験装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る導電性シール用アクリルゴム組成物(以下、単に「導電性ゴム組成物」という場合がある)、及び、この導電性ゴム組成物を用いた本発明の実施形態に係る密封装置を有する、転がり軸受について説明する。まず、上記転がり軸受について、
図1を参照しながら説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る密封装置130を有する、転がり軸受100を示す断面図である。転がり軸受100は、内輪110、外輪120、複数の転動体、環状の保持器150、及び密封装置130を備えている。上記転動体は玉140であり、転がり軸受100は玉軸受である。また、密封装置130は、内輪110と外輪120との間に形成されている環状空間の軸方向両側の端部に設けられている。
図1に示す転がり軸受100では、内輪110が、図示していない軸と一体回転する回転輪となり、外輪120が、図示していないハウジングに取り付けられる固定輪となる。
【0020】
本発明の実施形態に係る密封装置130は、シール部131、及び芯金132を有している。シール部131は、上述の導電性ゴム組成物の加硫物からなり、芯金132に加硫接着されている。密封装置130のシール部131の外輪120側の端部は、外輪120の取り付け溝に嵌め込まれ、密封装置130が、外輪120に固定される。密封装置130は、そのシール部131の内輪110側の端部が、内輪110と接触することで、軸受外部からの異物の侵入、及び軸受内部のグリースの流出を防止する機能を有している。
【0021】
上述のように、密封装置130のシール部131は、内輪110と外輪120の両方に接触している。また、シール部131は、上述の導電性ゴム組成物の加硫物からなる。これにより、密封装置130は、シール部131を介して、内輪110と外輪120を通る導電回路として機能することができる。上記導電性ゴム組成物の加硫物は、導電性、シール性及び摺動特性に優れている。そのため、密封装置130を有する転がり軸受100は、密封性、及び摺動性に優れ、且つ電気自動車やハイブリッド車等を含む機械類の電磁ノイズ対策に適している。
【0022】
次に、本発明の実施形態に係る導電性シール用アクリルゴム組成物について説明する。上記導電性ゴム組成物は、アクリルゴム、導電性カーボンブラック、及び人造黒鉛を含む。
【0023】
上述のアクリルゴムは、特に限定されず、例えば、カルボキシル基含有アクリルゴム、エポキシ基含有アクリルゴム、活性塩素基含有アクリルゴム等の種々のアクリルゴムが使用可能である。上記アクリルゴムとしては、市販品を用いることができる。上記アクリルゴムの市販品としては、例えば、日本ゼオン社製のNipol AR-14、Nipol AR12、Nipol AR51、Nipol AR72LSや、ユニマテック社製のNOXTITE PA-521、NOXTITE PA-522HF、NOXTITE PA-526、NOXTITE PA-524、NOXTITE PA-312、NOXTITE PA401-Lや、大阪ソーダ社製のラクレスター CH、ラクレスター CT、ラクレスター CUC、ラクレスター EC、ラクレスター AUC、ラクレスター AC、ラクレスター AS、ラクレスター ASL等が挙げられる。上述の導電性ゴム組成物は、上記アクリルゴムを含むため、耐熱性、耐油性、及びコスト面に優れている。
【0024】
上述の導電性カーボンブラックは、特に限定されず、例えば、ガスファーネスブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、及びケッチェンブラック等、種々の導電性カーボンブラックが使用可能である。上記導電性カーボンブラックとしては、市販品を用いることができる。上記導電性カーボンブラックの市販品としては、例えば、キャボット社製のVulcan XC-72、Vulcan 9A32、BlackPearls 2000や、三菱化学社製の#3230、#3400や、東海カーボン社製のトーカブラック #5500や、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製のケッチェンブラック ED600JD等が挙げられる。
【0025】
上述の導電性カーボンブラックは、平均粒子径が15~35nm、特に20~30nmであることが好ましい。平均粒子径が15~35nm、特に20~30nmの導電性カーボンブラックを含む導電性ゴム組成物の加硫物は、導電性が向上する。なお、平均粒子径は、JIS K 6217-6:2019の算術平均径を用い測定すればよい。
【0026】
また、上記導電性カーボンブラックは、DBP吸収量が100~500ml/100gであることが好ましい。DBP吸収量が100~500ml/100gの導電性カーボンブラックを含む導電性ゴム組成物の加硫物は、導電性が向上する。なお、DBP吸収量は、JIS K 6217-4:2017に準拠した手法で測定すればよい。
【0027】
上述の導電性ゴム組成物は、上述のアクリルゴム100質量部に対して、上述の導電性カーボンブラックを20~50質量部含有している。上記導電性カーボンブラックを、上記の含有量とすることで、上記導電性ゴム組成物の加硫物は、導電性、及びシール性が向上する。
【0028】
上述の導電性ゴム組成物は、人造黒鉛を含む。上記人造黒鉛は、例えば、石油、石炭等を原料とするコークスを焼成し、さらに高温で黒鉛化して製造されたものである。黒鉛は、ゴム組成物に配合することで、ゴム組成物の加硫物において、固体潤滑剤として機能することが知られている。人造黒鉛は、天然黒鉛に比べ硬度が高い。そのため、人造黒鉛を含む導電性ゴム組成物の加硫物は、摩擦係数(μ)が低下し、摺動特性が向上する。
【0029】
上述の導電性ゴム組成物に含まれる、上述の人造黒鉛の平均粒子径は、1~10μmである。導電性ゴム組成物に含まれる、上記人造黒鉛の平均粒子径が、10μm以下の場合、導電性ゴム組成物の加硫物の体積抵抗率が、小さくなる。そのため、平均粒子径が10μm以下の上記人造黒鉛を含む導電性ゴム組成物の加硫物は、導電性が向上する。さらに、平均粒子径が1μm以上の人造黒鉛は、入手が容易で、平均粒子径が1μm未満の人造黒鉛に比べ、安価である。そのため、平均粒子径が1μm以上の上記人造黒鉛を含む導電性ゴム組成物の加硫物は、コスト面に優れている。
【0030】
上述の導電性ゴム組成物は、上述のアクリルゴム100質量部に対して、上述の人造黒鉛を15~90質量部含有している。上記人造黒鉛を、上記の含有量とすることで、上記導電性ゴム組成物は、ロール粘着が抑制され、調製時の加工性が向上し、上記導電性ゴム組成物の加硫物は、導電性、及びシール性が向上する。また、上記人造黒鉛の含有量を、上記アクリルゴム100質量部に対して25質量部以上とすることで、上記導電性ゴム組成物は、ロール粘着がさらに抑制され、調製時の加工性がより向上すると共に、導電性、及び摺動特性がさらに向上する。
【0031】
上述の導電性ゴム組成物は、上述のアクリルゴム、導電性カーボンブラック、及び人造黒鉛の他に、公知のゴム組成物の添加剤を含むことができる。上記添加剤としては、例えば、加工助剤、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤、及び加硫遅延剤等が挙げられる。上記添加剤は、市販品を用いることができる。
【0032】
上述の導電性ゴム組成物を調製する方法は特に限定されず、従来公知の手法で調製すればよい。例えば、上述のアクリルゴム、導電性カーボンブラック、及び人造黒鉛と、必要に応じて配合する上述の各種添加剤等とを、ゴム混練ロールやバンバリーミキサー等の従来公知のゴム用混練り装置を用いて均一に混練することによって調製すればよい。混練条件は特に限定されないが、例えば、30~80℃の温度で、5~60分間混練りすればよい。ここで、上記導電性ゴム組成物に含まれる上記人造黒鉛の含有量を、上記アクリルゴム100質量部に対して、15質量部以上、好ましくは25質量部以上とすることで、混練時のロール粘着が抑制され、調製時の加工性が向上する。
【0033】
本発明の導電性シール用アクリルゴム組成物は、加硫剤との共存下で加熱することにより、上記導電性ゴム組成物に含まれるアクリルゴムが架橋し、加硫物となる。上記導電性ゴム組成物の加硫物は、導電性、シール性及び摺動特性に優れている。そのため、上記導電性ゴム組成物の加硫物は、電気自動車やハイブリッド車等を含む機械類で使用される転がり軸受の、密封装置におけるシール部に適用でき、且つ上記機械類の電磁ノイズ対策を可能とする。
【0034】
本発明の実施形態に係る導電性シール用アクリルゴム組成物は、転がり軸受の密封装置における、シール部への適用に限定されない。上記導電性ゴム組成物は、各種機械類における、上記機械類の外部への、ガスやオイル等の流体の漏洩や、上記機械類の外部への、異物の侵入等を防ぐための、運動用シールや固定用シールの材料として、広く適用できる。
【0035】
上述の導電性ゴム組成物の加硫物は、機械類の電磁ノイズ対策の観点から、体積抵抗率が、1000Ω・cm以下、特に600Ω・cm以下であることが好ましい。体積抵抗率が1000Ω・cm以下の上記導電性ゴム組成物の加硫物を、シール部として有する密封装置は、上記機械類の電磁ノイズを十分に低減できる。体積抵抗率が600Ω・cm以下の上記導電性ゴム組成物の加硫物を、シール部として有する密封装置は、上記機械類の電磁ノイズをさらに低減できるため、上記機械類のより効果的な電磁ノイズ対策を可能とする。なお、体積抵抗率は、JIS K 6271-2:2015に準拠した手法で測定すればよい。
【0036】
上述の導電性ゴム組成物の加硫物は、摺動特性の観点から、摩擦係数μが、1.5以下、特に1.2以下であることが好ましい。摩擦係数μが1.5以下の上記導電性ゴム組成物の加硫物を、シール部として有する密封装置は、上記機械類のトルクの負荷を十分に低減できる。摩擦係数μが1.2以下の上記導電性ゴム組成物の加硫物を、シール部として有する密封装置は、上記機械類のトルクの負荷をさらに低減できるため、上記機械類のより効果的な省エネルギー化を可能とする。
【0037】
上述の摩擦係数μは、
図2に示される、摩擦摩耗試験装置40を用いて測定される値である。摩擦摩耗試験装置40は、上記試験片と環状の測定治具とを一定の荷重で押圧した状態で相対回転させ、そのときの摩擦係数を測定することができる。摩擦摩耗試験装置40は、測定治具41を保持する保持部42と、試験片43を支持するステージ44とを備えている。
【0038】
保持部42は、測定治具41の下面41aを試験片43の上面43aに当接させた状態で、予め設定された値で垂直荷重を加えることができるように構成されている。ステージ44の上面44aには、試験片43が一体回転可能に固定される。ステージ44は、測定治具41の中心軸S回りに回転可能であり、互いに当接した試験片43と測定治具41とを相対回転させる。これによって、試験片43と測定治具41とは、互いに摺動する。
【0039】
摩擦摩耗試験装置40は、試験片43と測定治具41とが摺動しているときに両者の間に生じる摩擦力を測定することができるように構成されている。摩擦摩耗試験装置40は、この測定して得た摩擦力を摩擦係数に換算して出力する。摩擦係数は、試験終了時の値が採用される。
【0040】
上述の導電性ゴム組成物の加硫物は、シール性の観点から、デュロメータ硬さタイプA(以下、「デュロメータ硬さ(A)」という場合がある)が、60~85であることが好ましい。デュロメータ硬さタイプAが60以上の上記導電性ゴム組成物の加硫物を、シール部として有する密封装置は、上記シール部が十分なゴム弾性を有するため、シール性が向上する。デュロメータ硬さタイプAが85以下の上記導電性ゴム組成物の加硫物を、シール部として有する密封装置は、上記シール部が相手部材に対し十分な追従性を有するため、シール性が向上する。なお、上記デュロメータ硬さ(A)は、JIS K 6253-3:2012に準拠した方法で測定すればよい。
【0041】
なお、本発明の実施形態に係る密封装置130は、下記の工程を経て製造することができる。
【0042】
(1)まず、未加硫のアクリルゴム、導電性カーボンブラック、人造黒鉛、及び加硫剤、更には、必要に応じて配合する加硫促進剤や加工助剤等の各種添加剤を含有する導電性ゴム組成物を調製する。この導電性ゴム組成物は、予め各配合成分を計量し、ロール、ニーダ等の混錬機で混練することによって調製すればよい。
【0043】
(2)次に、金型内に、上述の導電性ゴム組成物を注型し、所定の条件で加硫成形する。この工程では、上記導電性ゴム組成物を加硫成形する際に、芯金132を、金型内に予め設けておくことが好ましい。これにより、上記導電性ゴム組成物の加硫物からなるシール部131と、芯金132と、を加硫接着させることができる。そのため、製造工数の低減が、可能となる。
【0044】
(3)その後、成形品を金型から取り出し、密封装置130が完成する。
【0045】
(他の実施形態)
本発明の実施形態に係る導電性シール用アクリルゴム組成物は、転がり軸受の密封装置における、シール部への適用に限定されない。上記導電性ゴム組成物は、各種機械類における、上記機械類の外部への、ガスやオイル等の流体の漏洩や、上記機械類の外部への、異物の侵入等を防ぐための、運動用シールや固定用シールの材料として、広く適用できる。
【実施例0046】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の実施形態は、以下の実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例のそれぞれでは、ゴム組成物の調製時におけるロール粘着性の評価、並びに各ゴム組成物の加硫物の、体積抵抗率、摩擦係数μ、及びデュロメータ硬さタイプAの測定が、実施された。各ゴム組成物の配合組成、及び上記の各種物性は表1に示した。
【0047】
実施例及び比較例で、ゴム組成物の調製に用いた配合薬品は、下記の通りである。
1)アクリルゴム
Nipol AR-14(日本ゼオン社製)
2)加工助剤
・ステアリン酸(TST)(ミヨシ油脂社製)
・サンタイトS(精工化学社製)
3)老化防止剤
ノンフレックス LAS-P(精工化学社製)
4)導電性カーボンブラック
Vulcan XC-72(キャボット社製)
5)固体潤滑剤
(1)人造黒鉛 平均粒子径 6μm(SECカーボン社製)
(2)人造黒鉛 平均粒子径 35μm(SECカーボン社製)
(3)ケイ酸カルシウム(NYAD 400)(NYCO Minerals社製)
6)加硫剤
レノキュア HMDC(LANXESS社製)
7)加硫促進剤+加硫遅延剤
レノグラン XLA-60(LANXESS社製)
【0048】
<基本組成物>
アクリルゴム 100重量部、ステアリン酸(TST) 2重量部、ノンフレックス LAS-P 2重量部、サンタイトS 2重量部、レノキュア HMDC 0.6重量部、及びレノグラン XLA-60 2重量部を含む組成物を、基本組成物とした。実施例及び比較例は、上述の導電性カーボンブラックの含有量や、上述の固体潤滑剤の種類、及び含有量を変化させた、ゴム組成物である。
【0049】
(実施例1)
(1)上述の基本組成物に、導電性カーボンブラックとしてVulcan XC-72を35重量部、及び固体潤滑剤として人造黒鉛 平均粒子径 6μm 65重量部を配合し、ロールで混練し、ゴム組成物を得た。
(2)金型に上記(1)で得たゴム組成物を注型した後、170℃、3分間の条件で一次加硫を行い、更に、190℃、1時間の条件で二次加硫を行い、上記ゴム組成物の加硫物からなるシートを作製した。なお、デュロメータ硬さタイプA、及び摩擦係数μの測定用に、厚さ2.0mmのシートを作製した。また、体積抵抗率の測定用に、厚さ1.0mmのシートを作製した。
【0050】
(実施例2)
人造黒鉛 平均粒子径 6μmの配合量を15重量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてシートを作製した。
【0051】
(実施例3)
人造黒鉛 平均粒子径 6μmの配合量を25重量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてシートを作製した。
【0052】
(実施例4)
Vulcan XC-72の配合量を45重量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてシートを作製した。
【0053】
(比較例1)
固体潤滑剤を配合しなかった以外は、実施例1と同様にしてシートとを作製した。
【0054】
(比較例2)
固体潤滑剤として人造黒鉛 平均粒子径 35μm 15重量部を配合した以外は、実施例1と同様にしてシートとを作製した。
【0055】
(比較例3)
固体潤滑剤としてケイ酸カルシウム(NYAD 400) 15重量部を配合した以外は、実施例1と同様にしてシートとを作製した。
【0056】
(比較例4)
人造黒鉛 平均粒子径 6μmの配合量を10重量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてシートを作製した。
【0057】
(比較例5)
人造黒鉛 平均粒子径 6μmの配合量を95重量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてシートを作製した。
【0058】
(比較例6)
Vulcan XC-72の配合量を15重量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてシートを作製した。
(比較例7)
Vulcan XC-72の配合量を55重量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてシートを作製した。
【0059】
実施例及び比較例のそれぞれの未加硫物のロール粘着性の判定、並びに作製したシートの、体積抵抗率、摩擦係数μ、及びデュロメータ硬さタイプAの測定は、下記の手法で行った。
【0060】
(1)未加硫ゴムのロール粘着性:
実施例及び比較例のそれぞれのゴム組成物(未加硫ゴム)のロールでの混練の際、ロールへの非粘着性を、以下の3段階の基準で評価した。
◎:生地厚みによらず、ロールへの粘着がなく、問題なく混練(切り返し、丸め通し、分出しなど)できる。
〇:生地厚みが厚くなければ、ロールへの粘着がなく、問題なく混練できる。
×:生地がロールに粘着し、通常の方法では混練が、困難である。
【0061】
(2)デュロメータ硬さ(A):
30×50mmの寸法で切り出した、厚さ2.0mmのシートを試験片とした。タイプAデュロメータを使用して「JIS K 6253-3:2012」に準拠した方法で、デュロメータ硬さAタイプを測定した。測定は、試験片を3枚重ねて行った。
【0062】
(3)摩擦摩耗試験:
直径46mmの円板状に切り出した、厚さ2.0mmのシートを試験片とした。この試験片を用い、上述の摩擦摩耗試験装置40により、10分間の摩擦摩耗試験で測定された摩擦係数μを、測定値として採用した。以下に摩擦摩耗試験の試験条件を示す。
【0063】
試験条件
試験装置:摩擦摩耗試験機EFM-III-F(株式会社オリエンテック社製)
測定治具:外径25.6mm、内径20.0mm、厚み15.0mm、材質S45C、表面粗さRa=0.8μm
垂直荷重:5kg
面圧:0.25MPa
回転速度:500rpm
周速:0.6m/s
試験時間:10min
室温:25℃
【0064】
(4)体積抵抗率:
JIS K 6271-2:2015に準拠して手法で測定した。このとき、幅20mm、長さ80mmに切り出した、厚さ1.0mmのシートを試験片とした。測定温度は23℃とし、測定湿度は65%とした。
【0065】
【0066】
表1から、実施例1~4のゴム組成物は、未加硫ゴムのロール粘着性の評価が、「◎」又は「〇」であること、並びに作製したシートのデュロメータ硬さ(A)が、60~85の範囲内であること、摩擦係数μが、1.5以下であること、及び体積抵抗率が、1000Ω・cm以下であることが分かる。このことから、実施例1~4のゴム組成物は、導電性シール用アクリルゴム組成物の調製時の加工性、並びにその加硫物の導電性、シール性、及び摺動特性に優れた性質を有していることが明らかとなった。
【0067】
実施例1、3、及び4は、未加硫ゴムのロール粘着性の評価が「◎」、摩擦係数μが1.2以下、体積抵抗率が600Ω・cm以下であることが分かる。実施例2と、実施例1、3、及び4とは、人造黒鉛の配合量が異なる。このことから、人造黒鉛の含有量を、上記アクリルゴム100質量部に対して、25質量部以上とすることで、導電性シール用アクリルゴム組成物の調製時の加工性、並びにその加硫物の導電性、及び摺動特性がさらに向上することが明らかとなった。
【0068】
また、表1から、比較例1~7のゴム組成物は、実施例1~4のゴム組成物と比べ、ロール粘着性、デュロメータ硬さ(A)、摩擦係数μ、及び体積抵抗率の少なくとも一つが低下していることが明らかとなった。より具体的には、アクリルゴム組成物の加硫物に導電性を付与すべく、導電性カーボンブラックを配合しても、固体潤滑剤として、人造黒鉛 平均粒子径 6μmを配合していない、比較例1~3は、十分な導電性が得られていないことが分かる。また、人造黒鉛 平均粒子径 6μmを配合しても、導電性カーボンブラックの配合量が少ない、比較例6は、十分な導電性が得られていないことが分かる。さらに、十分な導電性が得られた場合でも、導電性カーボンブラックや、人造黒鉛 平均粒子径 6μmの配合量により、比較例5、及び7は、十分なシール性が得られていないことが分かる。