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特開2023-152408複合酸化物固体酸触媒、固体酸触媒、それらを用いた化学反応の実行方法、及び複合酸化物固体酸触媒の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152408
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】複合酸化物固体酸触媒、固体酸触媒、それらを用いた化学反応の実行方法、及び複合酸化物固体酸触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/053 20060101AFI20231010BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20231010BHJP
   B01J 37/10 20060101ALI20231010BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20231010BHJP
   C07C 5/00 20060101ALI20231010BHJP
   C07C 11/06 20060101ALI20231010BHJP
   C07C 41/09 20060101ALI20231010BHJP
   C07C 43/04 20060101ALI20231010BHJP
   C07C 5/27 20060101ALI20231010BHJP
   C07C 9/12 20060101ALI20231010BHJP
   C07C 67/08 20060101ALI20231010BHJP
   C07C 69/003 20060101ALI20231010BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20231010BHJP
【FI】
B01J27/053 Z
B01J37/04 102
B01J37/10
B01J37/08
C07C5/00
C07C11/06
C07C41/09
C07C43/04 B
C07C5/27
C07C9/12
C07C67/08
C07C69/003 B
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062413
(22)【出願日】2022-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】石川 理史
(72)【発明者】
【氏名】陶 美林
(72)【発明者】
【氏名】上田 渉
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA45A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB08C
4G169BB10A
4G169BB10B
4G169BB12C
4G169BB16C
4G169BC31A
4G169BC32A
4G169BC33A
4G169BC51A
4G169BC51B
4G169BC68A
4G169BC71A
4G169BC72A
4G169BC74A
4G169BC75A
4G169CB21
4G169CB25
4G169CB41
4G169CB63
4G169CB75
4G169DA06
4G169EC02Y
4G169FB06
4G169FB10
4G169FB30
4G169FC07
4H006AA02
4H006AB93
4H006AC48
4H006BC10
4H006BC19
4H006GN05
4H006GP01
4H006KA06
4H006KC12
4H039CA20
4H039CA61
4H039CA66
4H039CJ10
(57)【要約】
【課題】高い触媒活性を示す固体酸触媒を提供すること。
【解決手段】本発明の固体酸触媒は、一般式Zr・nHO(左記一般式中、xは0.95~1であり、yは7~9であり、nは0~2である。)の組成を備えた層状結晶である硫酸根ジルコニアである。この硫酸根ジルコニアは、これまで知られてきた結晶性を示さない硫酸根ジルコニアとは異なって結晶性を示すものであり、その酸触媒活性もこれまで知られてきた硫酸根ジルコニアよりも著しく高いという特徴を備える。本発明の硫酸根ジルコニアは、ジルコニア源を硫酸水溶液に溶解させて得た溶液を水熱反応に付すことで調製される。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Zr・nHOの組成を備え、層状結晶であることを特徴とする複合酸化物固体酸触媒。
(上記一般式中、xは0.95~1であり、yは7~9であり、nは0~2である。)
【請求項2】
請求項1記載の複合酸化物固体酸触媒の表面に金、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、銀、ニッケル及び銅からなる群より選択される少なくとも1つの金属が担持されてなる固体酸触媒。
【請求項3】
硫酸水溶液中にジルコニア源を溶解させて溶液を調製する溶解工程と、
前記溶解工程で得た溶液を230~250℃にて水熱反応させて一般式Zr・nHOの組成を備えた固体を析出させる水熱工程と、
前記水熱工程で析出させた固体を分取する分取工程と、を備えた複合酸化物固体酸触媒の製造方法。
(上記一般式中、xは0.95~1であり、yは7~9であり、nは0~2である。)
【請求項4】
前記ジルコニア源が、結晶水を有してもよいZrOCl、ZrOCO及びZrO(NOからなる群より選択される少なくとも1つである請求項3記載の複合酸化物固体酸触媒の製造方法。
【請求項5】
さらに、前記分取工程で得た固体を200~600℃で焼成する焼成工程を備えた請求項3又は4記載の複合酸化物固体酸触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項1記載の複合酸化物固体酸触媒又は請求項2記載の固体酸触媒を用いることを特徴とする、酸により触媒される化学反応の実行方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合酸化物固体酸触媒、固体酸触媒、それらを用いた化学反応の実行方法、及び複合酸化物固体酸触媒の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように各種の酸触媒が化学工業で広く用いられており、こうした酸触媒の中でも、固体酸触媒は、生成物との分離が容易である、反応装置を腐食しない、触媒の再利用が可能である、等の利点を備えることから環境調和性に優れるとされており広く用いられている。
【0003】
こうした固体酸触媒としては、ゼオライト、アルミナ-シリカ複合酸化物、タングステン酸ジルコニア触媒(WO-ZrO)等が知られている。これら固体酸触媒の中には超強酸に相当するような酸性度を示すものも知られており、そうした固体酸触媒は、例えば石油化学工業におけるクラッキング、異性化反応、アルキル化反応、脱水反応等の触媒として利用される。このような固体酸触媒の一つとして、硫酸根ジルコニア触媒が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
この硫酸根ジルコニア触媒は、オキシ硝酸ジルコニウム・二水和物等のジルコニウム源に塩基を作用させて水酸化ジルコニウムとした上で硫酸や硫酸塩を作用させ、これを焼成することで調製される。この焼成により、ジルコニウムの酸化物であるジルコニアに弱く吸着する硫酸根が揮発し、ジルコニアに強く吸着する硫酸根が反応活性点として残ることで硫酸根ジルコニア触媒となると考えられている。しかし、このようにして得られた硫酸根ジルコニア触媒は、ジルコニア表面の硫酸根の状態が不明であり、またその組成も焼成条件等により変化することから、硫酸根の状態の均質性が悪く触媒活性種の理解も進んでいなかったのが現状である。
【0005】
一方、非特許文献1にて、炭酸ジルコニル・一水和物のようなジルコニア源を硫酸水溶液に溶解させて溶液を調製し、この溶液を高温高圧下で水熱反応させることで結晶性のよい硫酸根ジルコニアが得られることが報告されている。この結晶を乾燥させた試料を化学分析するとZrSO・HOの組成を備えていたとされ(非特許文献1、第981頁)、アルカリ金属イオンのイオン交換材やセラミックコーティングの原料としての応用が可能であるとされる。しかし、この結晶に関する触媒活性については全く調査されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第3032599号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Chunting LI, Iwao YAMAI and Etsuro KATO,日本セラミックス協会学術論文誌,1988,96,980-984
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、高い触媒活性を示す固体酸触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、一般式Zr・nHO(左記一般式中、xは0.95~1であり、yは7~9であり、nは0~2である。)の組成を備えた層状結晶である硫酸根ジルコニアが優れた固体酸触媒活性を備えることを見出し、本発明を完成するに至った。なお、この硫酸根ジルコニアは、非特許文献1に記載された硫酸根ジルコニアと同等のものであるが、非特許文献1には当該硫酸根ジルコニアが酸触媒活性を示すことについて記載はなく、また、特許文献1に記載されたようなこれまで知られてきた硫酸根ジルコニア固体酸触媒よりも著しく高い触媒活性を示すものである。具体的には、本発明は次のようなものを提供する。
【0010】
(1)本発明は、一般式Zr・nHOの組成を備え、層状結晶であることを特徴とする複合酸化物固体酸触媒である。
(上記一般式中、xは0.95~1であり、yは7~9であり、nは0~2である。)
【0011】
(2)本発明は、(1)項記載の複合酸化物固体酸触媒の表面に金、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、銀、ニッケル及び銅からなる群より選択される少なくとも1つの金属が担持されてなる固体酸触媒でもある。
【0012】
(3)本発明は、硫酸水溶液中にジルコニア源を溶解させて溶液を調製する溶解工程と、上記溶解工程で得た溶液を230~250℃にて水熱反応させて一般式Zr・nHOの組成を備えた固体を析出させる水熱工程と、上記水熱工程で析出させた固体を分取する分取工程と、を備えた複合酸化物固体酸触媒の製造方法でもある。
(上記一般式中、xは0.95~1であり、yは7~9であり、nは0~2である。)
【0013】
(4)また本発明は、上記ジルコニア源が、結晶水を有してもよいZrOCl、ZrOCO及びZrO(NOからなる群より選択される少なくとも1つである(3)項記載の複合酸化物固体酸触媒の製造方法でもある。
【0014】
(5)また本発明は、さらに、前記分取工程で得た固体を200~600℃で焼成する焼成工程を備えた(3)項又は(4)項記載の複合酸化物固体酸触媒の製造方法である。
【0015】
(6)本発明は、(1)項記載の複合酸化物固体酸触媒又は(2)項記載の固体酸触媒を用いることを特徴とする、酸により触媒される化学反応の実行方法でもある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い触媒活性を示す固体酸触媒が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の硫酸根ジルコニアの結晶の断面を高角度暗視野捜査透過型電子顕微鏡(HAADF-STEM)で観察した際の画像である。
図2図2は、固体酸触媒によるイソプロパノールの転換反応を行った際の結果を表し、(a)は、各酸触媒における、反応温度に対するイソプロパノールの転化率を表すプロットであり、(b)は、各酸触媒における、反応温度に対するプロピレン又はイソプロピルエーテルの選択率を表すプロットである。
図3図3は、本発明の固体酸触媒であるZrSO-AC500を用いてn-ブタンの異性化反応を行った際の結果を表し、(a)は、パルス回数に対するn-ブタンの転化率を表すプロットであり、(b)は、パルス回数に対するイソブタン又はプロパンの選択率を表すプロットである。
図4図4は、本発明の固体酸触媒であるZrSO-AC500と他の固体酸触媒を用いた場合のn-ブタンの異性化反応を行った際の結果を表し、(a)は、パルス回数に対するn-ブタンの転化率を表すプロットであり、(b)は、パルス回数に対するイソブタンの生成量を表すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の複合酸化物固体酸触媒の一実施形態、本発明の固体酸触媒の一実施形態、本発明の複合酸化物固体触媒の製造方法の一実施態様、及び酸により触媒される化学反応の実行方法の一実施態様のそれぞれについて説明する。なお、本発明は、以下の実施形態及び実施態様に限定されるものではなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施をすることができる。
【0019】
<複合酸化物固体酸触媒>
まずは、本発明の複合酸化物固体触媒の一実施形態について説明する。本発明の複合酸化物固体酸触媒は、一般式Zr・nHOの組成を備えた硫酸根ジルコニアであり、層状結晶であることを特徴とする。この複合酸化物は、一般的な固体酸触媒と同様の化学反応で使用することができ、その化学反応の一例としては、石油化学工業におけるクラッキング反応、各種の異性化反応、アルキル化反応、脱水縮合反応、水和反応等を挙げることができる。
【0020】
本発明の複合酸化物固体酸触媒は、上記のように硫酸根ジルコニアであるが、これまで固体酸触媒として用いられてきた硫酸根ジルコニアと異なり、上記一般式において、xが0.95~1となり、yが7~9となり、nが0~2となる組成を備え、層状結晶である特徴を備える。これまで用いられてきた硫酸根ジルコニアは、水酸化ジルコニウムに硫酸を作用させて焼成することで調製されたものであり、焼成の過程で硫酸が揮発するため組成が安定しないものだった。このため、これまでの硫酸根ジルコニアは、良好な結晶を呈するものでなく、また触媒活性も必ずしも高いものでなかった。
【0021】
一方、本発明の複合酸化物固体酸触媒である硫酸根ジルコニアは、Zr:S:Oの組成比がほぼ3:1:9となり、典型的には1分子の水を結晶水として有するものとなる。この硫酸根ジルコニアは、六角形形状の層状(板状)結晶となり、その結晶の断面を高角度暗視野捜査透過型電子顕微鏡(HAADF-STEM)で観察すると、図1に示すように、原子が六角形状に整然と配置された構造が確認でき、その六角形の各頂点にジルコニウムが配置され、六角形の中心に硫酸根が配置された状態になっている。本発明の複合酸化物固体酸触媒がこのような整然とした原子配置を備えることにより、十分な数の酸点を備えることになり、高い酸触媒活性を呈するものと推察される。なお、結晶水として含まれる水分子は、硫黄原子に配位してブレンステッド酸として機能すると考えられ、加熱によりこの結晶水を失った場合には、硫黄原子がルイス酸として機能すると考えられる。
【0022】
上記一般式におけるxは、0.95~1であり、好ましくは1である。また、上記一般式におけるyは、7~9であり、好ましくは9である。このため、好ましい態様においては、上記のようにZr:S:Oの組成比が3:1:9となる。また、上記一般式におけるnは、0~2であり、好ましくは0~1である。nが1の場合には、各硫黄原子に水分子が1つずつ配位した状態になっていると考えられ、複合酸化物固体酸触媒の反応点がブレンステッド酸として機能すると考えられる。また、加熱等により結晶水を失ってnが0よりも大きく1よりも小さい状態では、ブレンステッド酸の反応点とルイス酸の反応点とが共存した状態となり、nが0の状態では、ルイス酸の反応点で構成されることになると考えられる。
【0023】
このように、本発明の複合酸化物固体酸触媒は、各原子の組成比が良く制御された硫酸根ジルコニアである点に特徴があり、従来固体酸触媒として用いられてきた硫酸根ジルコニアとは異なるものである。本発明の複合酸化物固体酸触媒である硫酸根ジルコニアは、後述する製造方法により調製されることで、このように各原子の組成比が良く制御されたものとなる。
【0024】
<固体酸触媒>
硫酸根ジルコニアである本発明の複合酸化物固体酸触媒は、上記のように層状結晶を呈し、そのままの状態で固体酸触媒として用いることができる。しかし、より高い触媒活性を得ることを目的として、固体酸触媒の分野でこれまで行われてきたように、本発明の複合酸化物固体酸触媒を貴金属等の金属と複合化した固体酸触媒として用いることもできる。このような固体酸触媒もまた本発明の一つである。このような固体酸触媒は、上記本発明の複合酸化物固体酸触媒の表面に金、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、銀、ニッケル及び銅からなる群より選択される少なくとも1つの金属が担持された構造となる。
【0025】
<複合酸化物固体酸触媒の製造方法>
上記複合酸化物固体酸触媒の製造方法も本発明の一つである。本発明の製造方法は、硫酸水溶液中にジルコニア源を溶解させて溶液を調製する溶解工程と、この溶解工程で得た溶液を230~250℃にて水熱反応させて一般式Zr・nHOの組成を備えた固体を析出させる水熱工程と、この水熱工程で析出させた固体を分取する分取工程と、を備える。以下、各工程について説明する。
【0026】
[溶解工程]
溶解工程は、硫酸水溶液中にジルコニア源を溶解させて溶液を調製する工程である。この工程では、硫酸根ジルコニアの原料となるジルコニア源を溶解させて反応溶液が調製される。
【0027】
この工程で用いられるジルコニア源は、ジルコニウムを含む化合物であり、ZrOCl、ZrOCO及びZrO(NO等が例示される。これらのジルコニア源は、結晶水を有してもよい。これらの中でも、塩化ジルコニルが好ましく挙げられる。
【0028】
ジルコニア源を溶解させる硫酸水溶液は、上記ジルコニア源に含まれるジルコニウムのモル数に応じて決定されるモル数の硫酸を含む。硫酸水溶液中に含まれる硫酸のモル数とジルコニア源に含まれるジルコニウムのモル数との比は、硫酸:ジルコニウムの比として、1:1から3:1程度を好ましく挙げることができ、1:1から2:1程度をより好ましく挙げることができ、2:1程度をさらに好ましく挙げることができる。硫酸とジルコニウムの比が上記の範囲であることにより、硫酸が不足することによりジルコニア源が十分に溶解しないことを抑制でき、また、硫酸が過剰になることにより最終的に調製される複合酸化物の結晶の状態が悪くなることを抑制できるので好ましい。
【0029】
硫酸水溶液中にジルコニア源を添加した後、これらを撹拌して溶解させる。このとき、水溶液中に十分な量の硫酸が含まれていれば、比較的速やかにジルコニア源が溶解する。撹拌時の溶液温度は室温程度でよく、必ずしも加熱を必要としない。ジルコニア源が溶解して透明となった溶液は、水熱工程に付される。
【0030】
[水熱工程]
水熱工程は、溶解工程で得た溶液を230~250℃にて水熱反応させて一般式Zr・nHOの組成を備えた固体を析出させる工程である。水熱反応とは、高圧反応容器内で水溶液である上記溶液を加熱することでこの溶液を高温及び高圧下に曝し、化学反応を進行させるものである。このような反応を行うのに適した装置としてはオートクレーブ等が知られている。
【0031】
上記一般式において、xは0.95~1となり、yは7~9となり、nは0~2となる。これらの数値は、上記本発明の複合酸化物固体酸触媒におけるものと同様である。好ましくは、x=1であり、y=9であり、nが0~1であることを挙げることができる。
【0032】
水熱反応における反応温度は、上記のように230~250℃である。目的物である一般式Zr・nHOの組成を備えた固体、すなわち本発明の複合酸化物固体酸触媒として機能する層状結晶である固体は、熱力学的には準安定状態になるので、250℃を超える高温では適切に合成するのが難しい。また、230℃よりも低い温度では、得られる固体が無定型固体となって、やはり本発明の複合酸化物固体酸触媒としては不適切なものになる。水熱反応におけるより好ましい反応温度としては、240℃程度を挙げることができる。
【0033】
上記溶液を高圧反応容器内で230~250℃とすると、徐々に目的物が白い固体として析出し沈殿する。この沈殿の生成が停止した時点で反応終了となる。したがって、水熱反応を行う時間としては、沈殿の生成が終了するまでの時間を挙げることができるが、一例として48~96時間程度を好ましく挙げられ、72~96時間程度をより好ましく挙げることができる。
【0034】
水熱工程を経て白い沈殿を生じた溶液は、分取工程に付される。
【0035】
[分取工程]
分取工程は、水熱工程で析出させた固体を溶液中から分取する工程である。この工程を経ることで、目的物である固体が回収される。得られた固体は、層状結晶を呈し、複合酸化物固体酸触媒としての活性を備える。
【0036】
溶液中から目的の固体を分取する手段としては特に限定されない。このような手段としては、濾過、遠心分離、デカンテーション等を挙げることができ、中でも遠心分離を好ましく挙げることができる。これらの手段により分取された固体は、さらに水洗されることが好ましい。
【0037】
[焼成工程]
上記のように、分取工程で得られた固体は、それ自体が既に複合酸化物固体触媒としての活性を備えるものだが、これをさらに焼成してもよい。焼成を行うことにより、結晶構造から結晶水が脱離するため、ルイス酸点を形成できる。このため、焼成温度を制御することで触媒中のブレンステッド酸点とルイス酸点の量を調整できると期待できる。
【0038】
焼成を行う際の温度としては、200~600℃程度を好ましく例示できる。既に述べたように、水熱工程で析出した固体は、熱力学的に準安定状態となるので、あまり高温で焼成を行うのは好ましくない。焼成温度が600℃以下であれば、固体酸触媒としての活性を損なうこと無く焼成を行うことができるので好ましい。
【0039】
<酸により触媒される化学反応の実行方法>
本発明の複合酸化物固体酸触媒や、それに貴金属を担持されてなる固体酸触媒を用いることを特徴とする、酸により触媒される化学反応の実行方法もまた本発明の一つである。これについては既に説明した通りなので、ここでの説明を省略する。
【実施例0040】
以下、実施例を挙げることで本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
[結晶性層状硫酸根ジルコニアの調製(ZrSO-AC500)]
7.5mmolの塩化ジルコニル(ZrOCl・nHO)を14.2mLの超純水に分散し、ここへ4M硫酸溶液をHSOが15mmolとなるように加え、10分間撹拌した。ZrOCl・nHOが完全に溶解して溶液となった後、この溶液を用いて240℃で72時間水熱合成を行うことで、白色固体を沈殿させた。この白色固体を遠心分離により回収し、回収した固体を真空乾燥オーブンにより80℃で一晩乾燥させることで、目的物の結晶性層状硫酸根ジルコニアを得た。収率は、ZrO基準で94.4%だった。同様の手順で、塩化ジルコニルに代えて、炭酸ジルコニル(ZrOCO・HO)、硝酸ジルコニル(ZrO(NO・2HO)を用いた場合でも同様の物質が得られた。なお、塩化ジルコニルに代えて、ZrO(SO)を用いた場合には収率が低かった。次いで、得られた結晶性層状硫酸根ジルコニアをマッフル炉により500℃で2時間焼成して実施例の結晶性層状硫酸根ジルコニアZrSO-AC500を得た。焼成後に分析を行ったところ、元素組成はS/Zr比=0.33であり、BET表面積は52.3m-1だった。
【0042】
[比較用触媒の調製]
(1)既報に従った従来型の硫酸根ジルコニア触媒の調製(SZ(0.5M HSO)-AC575)
既報(Sekiyu Gakkaishi 1996,39,185-193)に従って従来型の硫酸根ジルコニア触媒を調製した。まず、ZrO(NO・2HOの10.69g(40mmol)を超純水150mLに加え、完全に溶解させた後、溶液のpHが8.0となるまで28%アンモニア水を滴下した。溶液のpHが8.0となってから30分間撹拌を続け、生成した沈殿を遠心分離により回収した。回収した固体を150mLの超純水に加え、30分間撹拌した後、再度遠心分離を行った。この洗浄プロセスを3回繰り返し、洗浄後の固体を真空乾燥オーブンにより80℃で一晩乾燥させた。この操作により、水酸化ジルコニア(Zr(OH))を得た。得られたZr(OH)のうち2.0gを30mLの0.5M硫酸水溶液に分散し、室温で2時間撹拌した。撹拌後の固体を吸引濾過により回収し、真空乾燥オーブンにより80℃で一晩乾燥させた。乾燥後の固体をマッフル炉により575℃で3時間焼成してSZ(0.5M HSO)-AC575を得た。焼成後に分析を行ったところ、元素組成はS/Zr比=0.07であり、BET表面積は80.0m-1だった。
【0043】
(2)参照触媒学会で提供されていた物質の合成法を参考にした硫酸根ジルコニア触媒の調製(SZ{(NHSO)}-AC575)
(1)の操作で得たZr(OH)の1.0gを0.2gの(NHSOと混合し、遊星ボールミルを用いて2時間混合した。得られた固体をマッフル炉により575℃で3時間焼成してSZ{(NHSO)}-AC575を得た。焼成後に分析を行ったところ、元素組成はS/Zr比=0.24であり、BET表面積は30.3m-1だった。
【0044】
(3)ゼオライト触媒の調製1(H-ZSM-5-AC550)
参照触媒学会が提供するJRC-Z5-30NH4(報告値:元素組成Si/Al比=16.5;BET表面積339m-1)を入手し、これをマッフル炉により550℃で6時間焼成してH-ZSM-5-AC550を得た。焼成後に分析を行ったところ、元素組成はSi/Al比=16.5であり、BET表面積は354m-1だった。
【0045】
(4)ゼオライト触媒の調製2(H-Moedenite-AC550)
参照触媒学会が提供するJRC-Z-HM20(報告値:元素組成Si/Al比=9.2;BET表面積360m-1)を入手し、これをマッフル炉により550℃で6時間焼成してH-Moedenite-AC550を得た。焼成後に分析を行ったところ、元素組成はSi/Al比=9.2であり、BET表面積は437m-1だった。
【0046】
(5)ゼオライト触媒の調製3(H-BEA-AC550)
参照触媒学会が提供するJRC-Z-B25(報告値:元素組成Si/Al比=12.5;BET表面積>500m-1)を入手し、これをマッフル炉により550℃で6時間焼成してH-BEA-AC550を得た。焼成後に分析を行ったところ、元素組成はSi/Al比=12.5であり、BET表面積は582m-1だった。
【0047】
(6)シリカアルミナ触媒の調製1(Al(13wt%)/SiO
参照触媒学会提供が提供するJRC-SAL-6(報告値:元素組成Si/Al比=6.9;BET表面積>500m-1)を入手し、これをそのままAl(13wt%)/SiOとして用いた。分析を行ったところ、元素組成はSi/Al比=5.1であり、BET表面積は580m-1だった。
【0048】
(7)シリカアルミナ触媒の調製2(Al(28wt%)/SiO
参照触媒学会提供が提供するJRC-SAL-7(報告値:元素組成Si/Al比=3.2;BET表面積>500m-1)を入手し、これをそのままAl(28wt%)/SiOとして用いた。分析を行ったところ、元素組成はSi/Al比=3.4であり、BET表面積は543m-1だった。
【0049】
(8)タングステン酸ジルコニア触媒の調製(WO/ZrO
参照触媒学会提供が提供するJRC-WZ-1(報告値:元素組成W/Zr比=0.07;BET表面積52.5m-1)を入手し、これをそのままWO/ZrOとして用いた。分析を行ったところ、元素組成はW/Zr比=0.07であり、BET表面積は56.4m-1だった。
【0050】
(9)酸化ニオブ触媒の調製1(HDS-NbO-AC400)
既報(Inorg.Chem.2020,59,9086-9094)に従って酸化ニオブ触媒を調製した。シュウ酸ニオビウムアンモニウム2.55g(6mmol)を超純水40mLに加え、これを完全に溶解させた後、175℃で72時間水熱合成を行い、白色の固体を得た。固体を吸引ろ過により回収した後、得られた固体を真空乾燥オーブンにより80℃で一晩乾燥した。乾燥後の固体をマッフル炉により400℃で2時間焼成してHDS-NbO-AC400を得た。分析を行ったところ、BET表面積は233m-1だった。
【0051】
(10)酸化ニオブ触媒の調製2(Nb-AC250)
CBMM社から購入した含水ニオブ酸をマッフル炉により250℃で2時間焼成してNb-AC250を得た。分析を行ったところ、BET表面積は141m-1だった。なお、焼成前の含水ニオブ酸をTG-DTA測定により組成決定を行ったところ、その組成はNb・2.1HOだった。
【0052】
[イソプロパノール転換反応]
固体酸触媒としての性能の確認として、上記の手順で得た各固体酸触媒のそれぞれについてイソプロパノールの転換反応における転換能を調べた。イソプロパノールは、固体酸触媒の作用によりプロピレン又はイソプロピルエーテルに転換されることが知られるが、原料であるイソプロパノールがどの程度これらの化学種に転換されるのかを調べることで、固体酸触媒としての性能を評価した。この実験は、固定床流通式反応装置を用い、オンラインガスクロマトグラフィーシステムで行った。その手順は次の通りである。
【0053】
まず、触媒10mgと希釈材としてのSiCを耐熱ガラス製の反応管に収容し、セラミック製の反応炉に取り付けた。希釈材の量は、反応管体積(1.0mL)を満たす量とした。次いで、20mLmin-1の窒素ガス気流下、10℃min-1の昇温速度で反応管の内容物である触媒層の温度を200℃まで昇温した。なお、触媒層の温度は反応管に差し込んだ熱電対を用いて測定した。触媒層の温度が200℃に達したことを確認した後、4方バルブを用いて室温に保持したイソプロパノールに20mLmin-1の窒素ガスをバブリングし、触媒層へイソプロパノールを流通した。イソプロパノールの流量を安定化させるため、この状態を10分間保持した。流量安定化後のイソプロパノール/窒素ガス流速は1.0/20mLmin-1だった。その後、200℃で3回、反応ガスおよび生成物ガスをGC-TCD(熱伝導度検出器を備えたガスクロマトグラフ)及びGC-FID(水素炎イオン化検出器を備えたガスクロマトグラフ)へ流通させ、イソプロパノール転化率及び生成物選択率を計算した。200℃で3回測定を行った後、温度を180℃に下げ、同様に3回測定を行った。その後、温度を160℃、140℃及び120℃に下げ、同様に反応を実施した。
【0054】
なお、イソプロパノール転化率、プロピレン選択率、及びイソプロピルエーテル選択率は次の式に従って算出した。これらにより算出したイソプロパノール転化率、プロピレン選択率、及びイソプロピルエーテル選択率をプロットした結果を図2に示す。図2は、固体酸触媒によるイソプロパノールの転換反応を行った際の結果を表し、(a)は、各酸触媒における、反応温度に対するイソプロパノールの転化率を表すプロットであり、(b)は、各酸触媒における、反応温度に対するプロピレン又はイソプロピルエーテルの選択率を表すプロットである。
イソプロパノール転化率(%)=(B/A)×100
プロピレン選択率(%)=(C/(C+2×D))×100
イソプロピルエーテル選択率(%)=(2×D/(C+2×D))×100
(式中、Aは反応前のイソプロパノールのモル数であり、Bは反応したイソプロパノールのモル数であり、Cは生成したプロピレンのモル数であり、Dは生成したイソプロピルエーテルのモル数である。)
【0055】
図2に示すように、本発明の固体酸触媒であるZrSO-AC500は、180℃以上の反応温度でほぼ100%の転化率を示し、それよりも低い温度体においても、比較用として用いた各種の固体酸触媒よりも高い転化率を示した。特に、本発明の固体酸触媒であるZrSO-AC500が、従来硫酸根ジルコニア固体酸触媒として知られてきたSZ(0.5M HSO)-AC575やSZ{(NHSO}}-AC575よりも高い転化率を示した点は注目に値する。なお、反応の選択率については、いずれの固体酸触媒についても、反応温度が高くなるに従ってプロピレンの生成率が高くなる傾向だった。
【0056】
[n-ブタン異性化反応]
固体酸触媒としての性能の確認として、本発明の固体酸触媒であるZrSO-AC500について、n-ブタンの異性化反応を調べた。n-ブタンは、固体酸触媒の作用によりイソブタン又はプロパンに転換されることが知られるが、原料であるn-ブタンがどの程度これらの化学種に転換されるのかを調べることで、固体酸触媒としての性能を評価した。この実験は、固定床パルス反応装置を用い、オンラインガスクロマトグラフィーシステムで行った。その手順は次の通りである。
【0057】
まず、触媒100mgを耐熱ガラス製の反応管に収容し、この反応管をセラミック製の反応炉に取り付けた。なお、本実験において希釈材は用いなかった。触媒の温度は、外部から反応管側面部に熱電対を接触させて測定した。15mLmin-1のヘリウムガス気流下、10℃min-1の昇温速度で300℃まで昇温した。300℃に達した後、15mLmin-1のヘリウムガス気流下、30回以上反応ガスをパルスした。反応ガスは40mLmin-1のヘリウムガスと1.9mLmin-1のn-ブタンの混合ガスとした。この混合ガスをサンプリングループ(体積0.14mL)に流通させ、定期的に同ループに流通しているガスを触媒へパルスした。1パルス当たりのn-ブタン導入量は0.29mmolとした。生成物ガスは、GC-TCD(熱伝導度検出器を備えたガスクロマトグラフ)及びGC-FID(水素炎イオン化検出器を備えたガスクロマトグラフ)へ流通させ、n-ブタン転化率及び生成物選択率を計算した。その後、温度を250℃及び200℃に下げ、それぞれの温度で同様の測定を行った。なお、温度を250℃又は200℃に変えて測定を行う際は、上記の手順で新たに触媒を反応管に詰め直してから実験を行った。
【0058】
なお、n-ブタン転化率、イソブタン選択率、及びプロパン選択率は以下の式に従って算出した。これらにより算出したn-ブタン転化率、プロパン選択率、及びイソブタン選択率をプロットした結果を図3に示す。図3は、本発明の固体酸触媒であるZrSO-AC500を用いてn-ブタンの異性化反応を行った際の結果を表し、(a)は、パルス回数に対するn-ブタンの転化率を表すプロットであり、(b)は、パルス回数に対するイソブタン又はプロパンの選択率を表すプロットである。また、各固体酸触媒を用いてn-ブタンの異性化反応を行った際のn-ブタン転化率やイソブタン生成量をプロットした結果を図4に示す。図4は、本発明の固体酸触媒であるZrSO-AC500と他の固体酸触媒を用いた場合のn-ブタンの異性化反応を行った際の結果を表し、(a)は、パルス回数に対するn-ブタンの転化率を表すプロットであり、(b)は、パルス回数に対するイソブタンの生成量を表すプロットである。
n-ブタン転化率(%)=(B/A)×100
i-ブタン選択率(%)=(C/(C+3/4×D))×100
プロパン選択率(%)=(3/4×D/(C+3/4×D))×100
(式中、Aは反応前のn-ブタンのモル数であり、Bは反応したn-ブタンのモル数であり、Cは生成したi-ブタンのモル数であり、Dは生成したプロパンのモル数である。)
【0059】
一般に、固体酸触媒を用いてn-ブタンの異性化反応を行うのは難しいとされるが、図3に示すように、本発明の固体酸触媒は、200℃にて5%、250℃にて15%、300℃にて25%の転化率をそれぞれ示し、高い活性を示すことがわかった。なお、本発明の固体酸触媒は、300℃にて20回目程度のパルスまではn-ブタンの二量化を伴う反応経路によるものと思われる高い転化率を示したが、これはn-ブタンをイソプロパノールやプロパンに異性化させる通常のルートとは異なるものであり、30回目程度のパルスで転化率の変化が落ち着いたことから、そのルートの反応を実行する反応部位の寿命はそれほど高くないと思われる。なお、この試験に用いたZrSO-AC500は、その反応前、300℃での反応後、250℃での反応後及び200℃での反応後のいずれにおいてもX線回折パターン及び赤外線吸収スペクトルにおける変化はなく、高い化学的安定性をもつものと思われる。また、図4に示すように、本発明の固体酸触媒であるZrSO-AC500は、他のどの固体酸触媒よりも著しく高い触媒活性を示し、特に、従来硫酸根ジルコニア固体酸触媒として知られてきたSZ(0.5M HSO)-AC575よりも2倍以上の活性を示したことは注目に値する。
【0060】
[エステル化反応]
固体酸触媒としての性能の確認として、上記の手順で得た各固体酸触媒のそれぞれについてエタノール及び酢酸のエステル化反応における転換能を調べた。この実験は、オートクレーブ型の反応容器(30mL)を用いて行い、その容器に固体酸触媒、酢酸、エタノール及び内部標準としてのアセトニトリルを収容して加熱することで行った。その手順は次の通りである。
【0061】
ガラス製の反応容器に、触媒20mg、酢酸5mmol、エタノール150mmol、及び内部標準としてのアセトニトリル0.5mmolを加え、オートクレーブ型反応容器にセットした。オートクレーブを8つのスロットを備えた加熱撹拌装置にセットし、100℃まで昇温した。なお、同装置には触媒を加えていないオートクレーブもセットした。このオートクレーブ内溶液温度を熱電対により測定し、これを反応温度とした。反応温度が100℃に達した時点で触媒の撹拌を開始した。このときの撹拌速度は500rpmとし、反応を8時間継続して行った。反応終了後、溶液を遠心分離することで固体と分離し、キャピラリーカラムを備えたGC-FIDに打ち込み分析することで基質転化率および生成物選択率を算出した。その結果を表1に示す。なお、ガスクロマトグラフィー(GC)の分析条件は次の通りである。
【0062】
装置:Shimadzu GC-2014
検出器:水素炎イオン検出器(FID)
カラム:GL・Sciences社、InertCap(登録商標)WAX(カラム長さ30m、内径0.53mm、膜厚1.0μm)
インジェクション:ダイレクトインジェクション(全量導入)
ガス流量:キャリアーガス 窒素ガス25.0ml/min
検出器 水素ガス30ml/min、空気400ml/min
分析条件:インジェクション部温度250℃、ディテクター部温度250℃、定温(100℃)、サンプル0.2μL注入
【0063】
また、原料である酢酸の転化率、及び生成物である酢酸エチルの収率は、以下の式に従って算出した。
酢酸転化率(%)=(B/A)×100
酢酸エチル収率(%)=(C/A)×100
(式中、Aは反応に用いた酢酸のモル数であり、Bは反応した酢酸のモル数であり、Cは生成した酢酸エチルのモル数である。)
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示すように、本発明の固体酸触媒であるZrSO-AC500は、他の触媒群と比べて最も高い触媒活性を示した。特に、本発明の固体酸触媒であるZrSO-AC500が、従来知られていた従来硫酸根ジルコニア固体酸触媒として知られてきたSZ(0.5M HSO)-AC575やSZ{(NHSO}}-AC575よりも高い触媒活性を示した点は注目に値する。
【0066】
[水和反応]
固体酸触媒としての性能の確認として、上記の手順で得た各固体酸触媒のそれぞれについて酢酸エチルの水和反応(加水分解反応)における転換能を調べた。この実験は、オートクレーブ型の反応容器(30mL)を用いて行い、その容器に固体酸触媒、酢酸エチル、水及び内部標準としてのアセトニトリルを収容して加熱することで行った。その手順は次の通りである。
【0067】
ガラス製の反応容器に触媒40mg、酢酸エチル3mmol、水278mol(5mL)、及び内部標準としてのアセトニトリル0.1mmolを加え、オートクレーブ型反応容器にセットした。オートクレーブを8つのスロットを備えた加熱撹拌装置にセットし、80℃まで昇温した。なお、同装置には触媒を加えていないオートクレーブもセットした。このオートクレーブ内溶液温度を熱電対により測定し、これを反応温度とした。反応温度が80℃に達した時点で触媒の撹拌を開始した。このときの撹拌速度は500rpmとし、反応を8時間継続して行った。反応終了後、溶液を遠心分離することで固体と分離し、キャピラリーカラムを備えたGC-FIDに打ち込み分析することで基質転化率および生成物選択率を算出した。その結果を表2に示す。なお、なお、ガスクロマトグラフィー(GC)の分析条件は次の通りである。
【0068】
装置:Shimadzu GC-2014
検出器:水素炎イオン検出器(FID)
カラム:GL・Sciences社、InertCap(登録商標)WAX(カラム長さ30m、内径0.53mm、膜厚1.0μm)
インジェクション:ダイレクトインジェクション(全量導入)
ガス流量:キャリアーガス 窒素ガス25.0ml/min
検出器 水素ガス30ml/min、空気400ml/min
分析条件:インジェクション部温度250℃、ディテクター部温度250℃、定温(100℃)、サンプル0.2μl注入
【0069】
また、原料である酢酸エチルの転化率、並びに生成物であるエタノール及び酢酸の収率は、以下の式に従って算出した。
酢酸エチル転化率(%)=(B/A)×100
酢酸収率(%)=(C/A)×100
エタノール収率(%)=(C/A)×100
(式中、Aは反応に用いた酢酸エチルのモル数であり、Bは反応した酢酸エチルのモル数であり、Cは生成した酢酸のモル数であり、D生成したエタノールのモル数である。)
【0070】
【表2】
【0071】
表2に示すように、本発明の固体酸触媒であるZrSO-AC500は、ゼオライト触媒(H-ZSM-5)に次いで高い触媒活性を示した。特に、本発明の固体酸触媒であるZrSO-AC500が、従来知られていた従来硫酸根ジルコニア固体酸触媒として知られてきたSZ(0.5M HSO)-AC575やSZ{(NHSO}}-AC575よりも高い触媒活性を示した点は注目に値する。
図1
図2
図3
図4