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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152410
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】SPM形回転電機の回転子
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/2753 20220101AFI20231010BHJP
   H02K 1/22 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
H02K1/2753
H02K1/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062419
(22)【出願日】2022-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 弘明
(72)【発明者】
【氏名】川上 正行
(72)【発明者】
【氏名】葛山 久巳
(72)【発明者】
【氏名】平手 利昌
(72)【発明者】
【氏名】新居 健太郎
【テーマコード(参考)】
5H601
5H622
【Fターム(参考)】
5H601AA22
5H601AA25
5H601BB10
5H601CC01
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD11
5H601DD18
5H601DD25
5H601EE18
5H601EE34
5H601GA38
5H601GA39
5H601GA40
5H601GC02
5H601GC12
5H601KK08
5H601KK14
5H601KK21
5H622AA03
5H622CA02
5H622CA07
5H622CB03
5H622PP10
5H622PP19
(57)【要約】      (修正有)
【課題】永久磁石の固定の信頼性を高めることができ、しかもトルクリップルの抑制を図る。
【解決手段】SPM形回転電機の回転子4は、回転子鉄心13の外周部に、外周側に開口する複数のスロット16を有し、それら各スロット内に、永久磁石14を該回転子鉄心の外周面から突出した形態に配置して構成される。回転子鉄心の外周部には、円周方向に隣り合うスロット間に位置する部分に、該スロットの内側面を構成する係合部17が設けられ、その係合部の永久磁石の側面を受ける面が該スロットの底面に対し鋭角的に立ち上がって該永久磁石の外周方向への抜止めを図る傾斜面18とされていると共に、係合部には、外周で開口するトルクリップル抑制用の切込み19が設けられている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子鉄心の外周部に、外周側に開口する複数のスロットを有し、それら各スロット内に、永久磁石を該回転子鉄心の外周面から突出した形態に配置して構成されるSPM形回転電機の回転子であって、
前記回転子鉄心の外周部には、円周方向に隣り合う前記スロット間に位置する部分に、該スロットの内側面を構成する係合部が設けられ、その係合部の前記永久磁石の側面を受ける面が該スロットの底面に対し鋭角的に立ち上がって該永久磁石の外周方向への抜止めを図る傾斜面とされていると共に、
前記係合部には、外周で開口するトルクリップル抑制用の切込みが設けられているSPM形回転電機の回転子。
【請求項2】
前記切込みは、V字状に形成され、前記切込み部分を含んだ前記係合部全体の面積S1に対する、前記切込み部分を除いた前記係合部の面積S2の面積比S2/S1の値が、0.5以上とされており、
且つ、前記切込みの開口部の幅寸法Aと一つの斜辺の長さ寸法Bとの比A/Bが、1、0~1.3の範囲内とされている請求項1記載のSPM形回転電機の回転子。
【請求項3】
前記切込みは、逆台形形状に形成され、前記切込み部分を含んだ前記係合部全体の面積S1に対する、前記切込み部分を除いた前記係合部の面積S2の面積比S2/S1の値が、0.5以上とされており、
且つ、前記切込みの開口部の幅寸法Aと一つの斜辺の長さ寸法Bとの比A/Bが、1.1~2.0の範囲内とされている請求項1記載のSPM形回転電機の回転子。
【請求項4】
前記切込みは、その両斜辺の開き角度θが、35°以上、50°以下とされている請求項2又は3記載のSPM形回転電機の回転子。
【請求項5】
前記係合部は、前記切込みの両側部分において、先端側に比べて根元側の方が幅寸法が大きく構成されている請求項2又は3記載のSPM形回転電機の回転子。
【請求項6】
前記切込みは、角部が丸みを帯びて形成されている請求項1記載のSPM形回転電機の回転子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、SPM形回転電機の回転子に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばエレベータの巻上機の駆動源に使用されるモータとして、SPM(Surface Permanent Magnet)形のモータが知られている。この種のSPM形のモータの回転子は、回転子鉄心の外周部に、円周方向に並んで、複数個のスロットを外周面で開口するように設け、それら各スロット内に夫々永久磁石を収容し、接着剤により接着固定して構成される(例えば特許文献1参照)。この場合、永久磁石の表面即ち外周面が露出して、固定子に近接配置されることにより、駆動トルク、或いはダイナミックブレーキ時のブレーキトルクを大きく発生させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-157143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなSPM形モータの回転子にあっては、長期間の使用に伴う接着剤の劣化により永久磁石の固定強度が低下し、回転時の遠心力の作用や非常制動時の磁気アンバランス等により、永久磁石の一部がスロットから外周方向に離脱する虞が考えらえる。そのため、永久磁石の固定に関する信頼性を高めることが要望される。そこで、スロット及び永久磁石の形状を、軸方向に見て台形状、いわゆるダブテール形状として、永久磁石の抜け止めを図ることが考えられている。
【0005】
しかし、上記のように、永久磁石の抜止めを図るためのいわば係合しろを確保するために、スロット同士間の係合部の外周方向への高さ寸法をあまり小さくすることができない事情がある。そのため、隣り合う永久磁石間でのもれ磁束のバスが生じやすくなり、ひいてはトルクリップルが大きくなりモータの振動要因になる問題点があった。モータの振動がエレベータの乗り心地を悪くすることになる。
【0006】
そこで、回転子鉄心の外周のスロットに永久磁石を設けるものにあって、永久磁石の固定の信頼性を高めることができ、しかもトルクリップルの抑制を図ることができるSPM形回転電機の回転子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係るSPM形回転電機の回転子は、回転子鉄心の外周部に、外周側に開口する複数のスロットを有し、それら各スロット内に、永久磁石を該回転子鉄心の外周面から突出した形態に配置して構成されるものであって、前記回転子鉄心の外周部には、円周方向に隣り合う前記スロット間に位置する部分に、該スロットの内側面を構成する係合部が設けられ、その係合部の前記永久磁石の側面を受ける面が該スロットの底面に対し鋭角的に立ち上がって該永久磁石の外周方向への抜止めを図る傾斜面とされていると共に、前記係合部には、外周で開口するトルクリップル抑制用の切込みが設けられている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態を示すもので、回転子の縦断面図
図2】SPM形モータの全体構成を概略的に示す断面図
図3】回転子の1個のスロット部分の拡大断面図
図4】回転子の1個の係合部部分の拡大断面図
図5】係合部が永久磁石から応力を受ける様子を示す図
図6】面積S1及び面積S2を示す図
図7】面積比S2/S1と応力との関係を示す図
図8】寸法比A/Bと応力との関係を示す図
図9】他の実施形態を示すもので、回転子の1個の係合部部分の拡大断面図
図10】寸法比A/Bと応力との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、例えばエレベータの巻上機の駆動源として用いられるSPM形モータに適用した一実施形態について、図1から図8を参照しながら説明する。尚、便宜上、図1図3図4におけるハッチングを省略している。図2は、SPM形回転電機としてのSPM形モータ1の全体構成を概略的に示している。このSPM形モータ1は、全体として円筒状をなすフレーム2内に、固定子3及び回転子4を備えて構成される。前記回転子4には、回転軸5が固定されている。回転子4の詳細については後述する。
【0010】
前記フレーム2は、円筒状の胴部2aの両端にモータブラケット6、7を備えて構成されている。前記固定子3は、固定子鉄心8に巻線9を巻装して構成され、前記胴部2aの内周面に取付けられている。また、前記モータブラケット6、7には、夫々軸受10、11が取付けられている。これら軸受10、11により、前記回転軸5が回転自在に支持されている。図示はしないが、回転軸5の先端部(図で左側)には、シーブと称される滑車が取付けられる。また、フレーム2の後端側には、前記回転軸5にブレーキ力を付与する周知のディスクブレーキ装置12が設けられている。
【0011】
ここで、図1図3図4も参照して、本実施形態に係る回転子4について説明する。本実施形態では、図2に示すように、回転子4は、回転子鉄心13の外周部に複数個例えば20個の永久磁石14を露出状態に備えて構成される回転子ブロック15を、軸方向に4段に重ねた状態で結合して構成される。4つの回転子ブロック15は、同等の構成を備えており、以下、1個の回転子ブロック15について述べる。
【0012】
図1に示すように、回転子鉄心13は、例えば電磁鋼板を所定の形状即ちほぼ円板状に打抜いて単位鉄心板を得、その打抜いた単位鉄心板を複数枚積層して構成されている。回転子鉄心13の中心部には、前記回転軸5が挿入される中心孔13aが形成されている。そして、回転子鉄心13の外周部には、各永久磁石14が夫々取付けられるスロット16が、隣同士で僅かな一定の間隔を置きながら円周方向に並んで複数個この場合20個が設けられている。回転子鉄心13の外周部のうち、隣り合う前記スロット16間に位置する部分を、係合部17と称する。
【0013】
図3図4にも示すように、前記スロット16は、外周側に開口し、比較的浅い深さで、底面ほどやや拡がるようなほぼ台形の凹状つまりダブテール状をなし、回転子鉄心13の軸方向全体に延びて設けられている。各スロット16は、永久磁石14が軸方向に挿入可能な大きさ、つまり、永久磁石14の外形よりもわずかに大きく形成されている。このとき、スロット16内の円周方向両側の面つまり前記係合部17の両側の永久磁石14の側面を受ける面は、該スロット16の底面に対し鋭角的に立ち上がって該永久磁石14の外周方向への抜止めを図る傾斜面18とされている。
【0014】
具体的には、図3に示すように、スロット16の底面に対する傾斜面18の立ち上がり角度φが、例えば65°以上、75°以下の範囲内とされ、ここでは例えば70°とされている。また、本実施形態では、図3に示すように、前記係合部17の外周方向への突出寸法言い換えればスロット16の深さ寸法である図で高さ寸法Cは、前記永久磁石14の厚み寸法つまり図3で高さ寸法Dより小さく、例えば寸法Dの50%以上、60%以下に構成されている。これにて、スロット16内に取付けられた各永久磁石14は、回転子鉄心13の外周面、つまり係合部17の外周端部よりも外周側に突出している。
【0015】
尚、本実施形態では、各スロット16には、底面の両端角部に位置して、永久磁石14を接着する接着剤の余剰分が溜まる逃げ凹部16a、16aが、回転子鉄心13の軸方向全体に延びて形成されている。この逃げ凹部16a、16aは、丸みを帯びた状態で、内周側つまり図3図4で下方に膨らむように形成されている。単位鉄心板の段階で、逃げ凹部16aを含むスロット16及び後述する切込み19部分が、例えば単位鉄心板の打抜きと同時に形成され、その単位鉄心板を積層することにより、スロット16及び係合部17を有する回転子鉄心13が得られるようになっている。
【0016】
前記永久磁石14は、例えばネオジム磁石からなり、図3図4に示すように、矩形の薄板状をなすと共に、上面即ち外周側を向く面が、外周側に凸となる緩やかな曲面状とされている。永久磁石14は、例えば矩形ブロック状のものを切削して製作される。図1に示すように、この永久磁石14は、外周面側をS極に磁化したものと、N極に磁化したものとの2種類が、前記各スロット16内に円周方向に沿って交互に配置される。永久磁石14は、前記スロット16に対して軸方向から挿入され、図示しない接着剤により接着される。
【0017】
さて、図3図4に示すように、回転子鉄心13の外周部のうち、前記隣り合うスロット16間の各係合部17には、外周で開口するトルクリップル抑制用の切込み19が設けられている。本実施形態では、図4等に示すように、この切込み19は、例えばV字状言い換えれば逆三角形状に形成され、回転子鉄心13の軸方向全体に延びて設けられている。本実施形態では、V字状の切込み19の両斜辺の開き角度θが、35°以上、50°以下、例えば40°とされている。さらに、この切込み19は、その角部即ちV字の底部が丸みを帯び、いわゆるrが例えば0.1~0.2mmφとなるように形成されている。
【0018】
そして、本実施形態では、前記切込み19は、図6に示すように、切込み19部分を含んだ係合部17全体の面積S1に対する、前記切込み19部分を除いた係合部17の面積S2の面積比S2/S1の値が、0.5以上とされている。且つ、図4に示すように、切込み19の開口部の幅寸法Aと一つの斜辺の長さ寸法Bとの比A/Bが、1.0~1.3の範囲内とされている。また、図6に示すように、切込み19の両側部分における係合部17の幅寸法は、先端側(W1)に比べて根元側(W2)の方が大きく構成されている。
【0019】
このような本実施形態のSPM形モータ1の回転子4によれば、次のような作用、効果を得ることができる。即ち、回転子鉄心13の外周部の円周方向に隣り合うスロット16間に位置する部分に係合部17が設けられ、その係合部17の永久磁石14の側面を受ける面が該スロット16の底面に対し、鋭角的つまり立ち上がり角度φが、65°以上、75°以下とされた傾斜面18とされている。これにより、接着剤の劣化により接着強度が低下した場合でも、傾斜面18によって永久磁石14の外周方向への抜止めが図られるようになる。
【0020】
このとき、係合部17は、永久磁石14の抜止めを図るためのいわば係合しろを確保するために、外周方向への高さ寸法Cがある程度必要となる。しかし、その高さ寸法Cが大きくなり過ぎると、隣り合う永久磁石14同士間の磁気的な短絡により漏れ磁束が大きくなり、磁気的な特性の悪化ひいてはトルクリップルの増大を招いてしまう。本実施形態では、高さ寸法Cを、永久磁石14の高さ寸法Dの50%以上、60%以下に構成した。これにより、傾斜面18の係合しろを確保することができ、接着剤の接着力の低下があっても永久磁石14がスロット16から外れることを効果的に防止することができる。
【0021】
しかし、係合部17の高さ寸法Cを比較的小さくしただけでは、漏れ磁束の抑制を十分に図ることができず、必ずしも、トルクリップル抑制の観点から十分ではない。そこで、本実施形態では、係合部17に切込み19を設けたことにより、その切込み19が磁気的なギャップとなり、フラックスバリアとなって永久磁石14の漏れ磁束が大きくなることを抑制することができる。
【0022】
この結果、本実施形態によれば、回転子鉄心13の外周のスロット16に永久磁石14を設けるものにあって、永久磁石14の固定の信頼性を高めることができ、しかもトルクリップルの抑制を図ることができる。ひいては、トルクリップルを小さく済ませてSPM形モータ1としての振動を抑えることがで、エレベータの乗り心地を良好にすることができる。
【0023】
ところで、上記した切込み19は、より大きく形成することが、漏れ磁束の抑制効果には優れることになるが、あまりに大きくなると、係合部17としての機械的強度が確保できず、永久磁石14の外れを招いてしまう虞が生ずる。そこで、本発明者らは、切込み19の最適形状を求めるべく、様々な試作、研究、シミュレーションを行った。その結果を、図5図8も参照して述べる。最適形状を求める際の考え方は、次のようになる。即ち、図5に示すように、回転子4の回転方向が矢印Rの場合、急制動によって永久磁石14が、係合部17の傾斜面18を矢印R方向に押圧する。その押圧力により、係合部17の根元部分(図5にEで示す部分)に応力が集中する。応力により係合部17がスロット16を拡げるように変形すると、遠心力で永久磁石14が矢印J方向に持ち上がり、スロット16から外れる虞が生ずる。
【0024】
具体的数値で考えると、永久磁石14の形状、寸法から、係合部17の変形が0.6mm以上になると、永久磁石14の飛び出しが発生するので、安全率を6(静的2×衝撃係数3)を鑑み、係合部17の変形最大値を0.1mmとする。回転子鉄心13を構成する電磁鋼板については、引張り強度が概ね450(MPa)なので、衝撃を考慮して応力最大値を75(MPa)とする。
【0025】
本発明者らの研究の結果、まず、切込み19の形状としては、V字状(逆三角形状)又は逆台形状とすることがより好ましいことが判明した。次に、切込み19をV字状又は逆台形状とした際に、最適形状を示すパラメータとして、図6に示すように、切込み19部分を含んだ係合部17全体の面積S1に対する、切込み19部分を除いた前記係合部17の面積S2の面積比S2/S1が極めて重要になることが明らかとなった。図7は、本発明者らが求めた、切込み19をV字状とした場合の、面積比S2/S1と応力との関係を示している。この結果から、面積比S2/S1の値を0.5以上とすることにより、応力値を75(MPa)以下とすることができる。
【0026】
但し、面積比S2/S1を規定しただけでは、図4に示した切込み19の開口部の幅寸法Aと一つの斜辺の長さ寸法Bとが変化すると、応力も変化するので、寸法A及び寸法Bについても、重要なパラメータとなる。本発明者らの研究によれば、図8に示すように、切込み19をV字状とした場合、切込み19の開口部の幅寸法Aと一つの斜辺の長さ寸法Bとの比A/Bを、1.0~1.3の範囲内とすることにより、応力を小さく(75MPa以下)することができた。
【0027】
本実施形態においては、切込み19は、V字状に形成され、切込み19部分を含んだ係合部17全体の面積S1に対する、前記切込み19部分を除いた係合部17の面積S2の面積比S2/S1の値が、0.5以上とされており、且つ、切込み19の開口部の幅寸法Aと一つの斜辺の長さ寸法Bとの比A/Bが、1.0~1.3の範囲内とされている。これによれば、漏れ磁束の抑制効果に優れ、且つ、機械的強度とのバランスの良いものとすることができた。斜辺の長さ寸法Bが、幅寸法Aよりも小さくなると、フラックスバリア(ギャップ)としての機能が十分に得られず、漏れ磁束が比較的大きいものとなってしまう。一方、長さ寸法Bが、幅寸法Aの1.3倍を超えて大きくなると、機械的強度が低下すると共に、回転子鉄心13の本来の磁束の流れを阻害してしまう虞もある。
【0028】
また、本発明者の研究によれば、V字状の切込み19の開き角度θを、35°以上、50°以下とすることにより、漏れ磁束の抑制効果に優れ、且つ、機械的強度とのバランスの良いものとすることができた。開き角度θが35°よりも小さいと、フラックスバリアとしての機能が十分に得られず、漏れ磁束が比較的大きいものとなってしまう。一方、開き角度θが50°より大きくなると、係合部17の肉厚が薄くなって強度に劣るものとなり、変形等の虞が生ずるものとなる。
【0029】
このことは、言い換えると、切込み19の両側部分において、その幅寸法を、先端側(W1)に比べて根元側(W2)の方を大きく構成することが好ましい。これにより、係合部17の根元側の強度を確保することができる。更に、本実施形態においては、V字状の切込み19を、角部が丸みを帯びて形成するようにした。これにより、角部の応力集中を抑制することができるので、角部を起点として亀裂が発生し、強度低下を招くといった不具合を解消することができる。
【0030】
図9及び図10は、他の実施形態を示すものである。この実施形態が上記一実施形態と異なるところは、図9に示すように、回転子鉄心13の係合部21に形成される切込み22の形状を、逆台形状に構成した点にある。このとき、やはり切込み22部分を含んだ係合部21全体の面積S1に対する、前記切込み22部分を除いた係合部21の面積S2の面積比S2/S1の値が、0.5以上とされている。そして、切込み22の開口部の幅寸法Aと一つの斜辺の長さ寸法Bとの比A/Bが、1.1~2.0の範囲内とされている。
【0031】
さらに、本実施形態でも、逆台形状の切込み22の両斜辺の開き角度θが、35°以上、50°以下、例えば40°とされている。この切込み22の底部の両角部が丸みを帯び、いわゆるrが例えば0.1~0.2mmφとなるように形成されている。このように、切込み22を逆台形状とした実施形態でも、図10に示したように、面積比S2/S1の値を、0.5以上とし、且つ、切込み22の開口部の幅寸法Aと一つの斜辺の長さ寸法Bとの比A/Bを、1.1~2.0の範囲内としたことにより、上記実施形態と同様に、応力を小さく(75MPa以下)することができた。
【0032】
この結果、本実施形態においても、回転子鉄心13の外周のスロット16に永久磁石14を設けるものにあって、永久磁石14の固定の信頼性を高めることができ、しかもトルクリップルの抑制を図ることができる。ひいては、トルクリップルを小さく済ませてSPM形モータ1としての振動を抑えることがで、エレベータの乗り心地を良好にすることができる。そして、漏れ磁束の抑制効果に優れ、且つ、機械的強度とのバランスの良いものとすることができる。
【0033】
尚、上記実施形態では、切込み19をV字状又は逆台形状に形成したが、それらに限らず、底部に丸みを帯びたU字状であったり、コ字状であったりしても良い。切込みや係合部に関する各部の具体的な数値などについても、適宜変更が可能であることは勿論である。また、上記実施形態においては、永久磁石を、回転子鉄心の軸方向に平行に延びるように配置したが、永久磁石を、回転子鉄心の軸方向に対して傾けて配置するいわゆるスキュー配置を行う構成としても良い。回転子鉄心としては、回転子ブロックを複数組合せた形態に限られず、一つの鉄心で構成するものでも良い。スロットや永久磁石の個数等についても、様々な変更が可能である。
【0034】
その他、SPM形回転電機の用途としても、エレベータ用に限らず、発電機を含んで様々な用途に適用することができる。以上説明した実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0035】
図面中、1はSPM形モータ(SPM形回転電機)、3は固定子、4は回転子、5は回転軸、13は回転子鉄心、14は永久磁石、15は回転子ブロック、16はスロット、17、21は係合部、18は傾斜面、19、22は切込みを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10