(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152457
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】二次電池の内部ガス推定装置および内部ガス推定方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20231010BHJP
B60L 1/00 20060101ALI20231010BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20231010BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20231010BHJP
B60L 58/10 20190101ALI20231010BHJP
B60K 6/28 20071001ALI20231010BHJP
B60K 6/40 20071001ALI20231010BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20231010BHJP
【FI】
H01M10/48 301
H01M10/48 P
B60L1/00 L
B60L3/00 S
B60L50/60
B60L58/10
B60K6/28 ZHV
B60K6/40
B60W20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062485
(22)【出願日】2022-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植木 貴大
(72)【発明者】
【氏名】中村 滉太郎
【テーマコード(参考)】
3D202
5H030
5H125
【Fターム(参考)】
3D202BB18
3D202CC60
3D202DD44
3D202EE03
3D202EE20
5H030AA06
5H030AA09
5H030AS08
5H030FF31
5H030FF43
5H030FF44
5H125AA01
5H125AC12
5H125BC25
5H125EE23
5H125EE25
5H125EE30
5H125FF04
(57)【要約】
【課題】よりコストを低減しつつ二次電池の内部で発生したガスの成分と量を推定する。
【解決手段】本開示の一形態における二次電池の内部ガス推定装置は、充放電可能な二次電池の内部で発生する内部ガスの量および成分を推定する内部ガス推定装置であって、1又は複数のプロセッサと、前記プロセッサと電気的に接続された1又は複数のメモリと、を含み、前記プロセッサは、少なくとも適正使用上限を超えた前記二次電池の過充電状態と、前記適正使用上限を超えた前記二次電池の高温状態と、に前記二次電池が置かれたガス発生期間の有無を検出し、前記ガス発生期間における前記二次電池の電圧値の積分結果に基づいて前記内部ガスの量および成分を推定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充放電可能な二次電池の内部で発生する内部ガスの量および成分を推定する内部ガス推定装置であって、
1又は複数のプロセッサと、
前記プロセッサと電気的に接続された1又は複数のメモリと、を含み、
前記プロセッサは、
少なくとも適正使用上限を超えた前記二次電池の過充電状態と、前記適正使用上限を超えた前記二次電池の高温状態と、に前記二次電池が置かれたガス発生期間の有無を検出し、
前記ガス発生期間における前記二次電池の電圧値の積分結果に基づいて前記内部ガスの量および成分を推定する、
二次電池の内部ガス推定装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、
前記適正使用上限を超えた過充電状態の時間を横軸としつつ前記二次電池の電圧値を縦軸としたグラフにおける、前記適正使用上限の電圧を超えた範囲の面積を積分し、
前記積分した面積と、前記二次電池の前記適正使用上限を超えた電圧値と、を、予め保持した前記電圧値と前記面積から導出される前記内部ガスの参照量および参照成分と対比することで、前記二次電池で発生した前記内部ガスの量と成分を推定する、
請求項1に記載の二次電池の内部ガス推定装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、
前記推定した前記内部ガスの量と成分に基づいて、その成分毎に区分けして累積ガス量を積算して保持する、
請求項2に記載の二次電池の内部ガス推定装置。
【請求項4】
前記プロセッサは、
前記成分毎の累積量に基づいて前記二次電池に貯留された内部ガスの排出形態を判別し、
判別した前記排出形態に基づいて前記内部ガスを燃焼補助ガスとしてエンジンへの吸気経路に導入する処理を実行する、
請求項3に記載の二次電池の内部ガス推定装置。
【請求項5】
車両を駆動するエンジンと、
前記車両に搭載される車載機器への給電に少なくとも用いられる二次電池と、
前記エンジンへの吸気経路と前記二次電池とをつなぐ気体導入配管と、
前記気体導入配管の開閉を制御する第1開閉弁と、
請求項1~4のいずれか一項に記載の前記二次電池の内部ガス推定装置と、
を含んで構成される車両。
【請求項6】
前記二次電池と車外とをつなぐ気体排出配管と、
前記気体排出配管の開閉を制御する第2開閉弁と、を含み、
前記内部ガス推定装置は、
前記内部ガスの成分に基づいて前記第1開閉弁と前記第2開閉弁の開閉を制御する、
請求項5に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えばリチウムイオン二次電池などの二次電池の内部ガス推定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会において移動手段として例えば自動車は不可欠であり、日常において様々な車両が路上を移動している。近年では枯渇する資源を持続可能とすべく、鉛蓄電池やリチウムイオン二次電池など充放電可能な二次電池と駆動モータを搭載した電動車両も主流になりつつある。
【0003】
二次電池は、過充電や過昇温などの異常環境に置かれることで内部にガスが充満することがある。かような問題に対し、例えば特許文献1では、二次電池で構成されたバッテリの異常時に生じたガスを、車載された触媒装置を通して安全に車外へ放出する構造が提案されている。同様に特許文献2においても、バッテリ内部で発生したガスが車室内に侵入しないように車両状態やガスの濃度に応じて遮断、排出及び換気を組み合わせて対応する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-198738号公報
【特許文献2】特開2010-6153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上述した各特許文献に限らず現在の技術では市場のニーズを適切に満たしているとは言えず以下に述べる課題が存在する。
例えば上記した特許文献1は、バッテリの内部で充満するガスの成分に応じた対処までは至っておらず、バッテリから放出されるガスの成分に応じた細かな対応が出来ない。一方で特許文献2では、バッテリ内で発生したガスの濃度を検知するために濃度センサを用いており、車両に搭載する部品点数がその分だけ増えてしまい、センサの故障時の対策やそのメンテナンスも必要となってしまうという課題がある。
【0006】
本開示は、上記した課題を一例に鑑みて為されたものであり、よりコストを低減しつつ二次電池の内部で発生したガスの成分と量を推定可能な二次電池の内部ガス推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本開示の二次電池の内部ガス推定装置は、充放電可能な二次電池の内部で発生する内部ガスの量および成分を推定する内部ガス推定装置であって、1又は複数のプロセッサと、前記プロセッサと電気的に接続された1又は複数のメモリと、を含み、前記プロセッサは、少なくとも適正使用上限を超えた前記二次電池の過充電状態と、前記適正使用上限を超えた前記二次電池の高温状態と、に前記二次電池が置かれたガス発生期間の有無を検出し、前記ガス発生期間における前記二次電池の電圧値の積分結果に基づいて前記内部ガスの量および成分を推定する。
【0008】
また上記課題を解決するため、本開示の車両は、車両を駆動するエンジンと、前記車両に搭載される車載機器への給電に少なくとも用いられる二次電池と、前記エンジンへの吸気経路と前記二次電池とをつなぐ気体導入配管と、前記気体導入配管の開閉を制御する第1開閉弁と、本開示の内部ガス推定装置と、を含んで構成される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、よりコストを低減しつつ二次電池の内部で発生したガスの成分と量を推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】実施形態に係る二次電池の内部ガス推定装置を含む機能ブロック図である。
【
図3】実施形態に係る二次電池の内部ガス推定方法のうちメインフローを示すフローチャートである。
【
図4】実施形態に係る二次電池の内部ガス推定方法のうちガス推定記憶処理を示すフローチャートである。
【
図5】実施形態に係る二次電池の内部ガス推定方法のうち積分処理を説明するための模式図である。
【
図6】実施形態に係る二次電池の内部ガス推定方法で用いられるガス成分毎の累積ガス量を示すテーブルデータの模式図である。
【
図7】実施形態に係る二次電池の内部ガス推定方法のうちガス排出処理を示すフローチャートである。
【
図8】変形例に係るガス成分毎の累積ガス量を示すテーブルデータの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に本開示を実施するための好適な実施形態について説明する。また、以下で詳述する以外の構成については、上記した特許文献を含む公知の二次電池システムを搭載した車両に関する要素技術や構成を適宜補完して実施することができる。
【0012】
<車両100>
まず本開示の好適な実施形態における車両100の構成について、
図1を参照しながら説明する。本実施形態における車両100は、それぞれ後述する、制御装置10、二次電池20、エンジン30、負荷40、配管系50及びセンサ類SRなどを含んで構成されている。かような車両100としては、例えば負荷40としての公知のインバータや電動モータを搭載した公知の種々のハイブリッド車が例示できる。
【0013】
[制御装置10]
次に、
図2も参照しつつ、本実施形態の車両100における制御装置10の構成について説明する。
本実施形態の制御装置10は、公知の1又は複数のプロセッサと、このプロセッサと電気的に接続された公知の1又は複数のメモリとで構成されたECUであり、充放電可能な二次電池20の内部で発生する内部ガスの量および成分を推定する内部ガス推定装置として機能する。以下、この制御装置10を内部ガス推定装置10として説明する。
【0014】
図2に示すとおり、本実施形態の内部ガス推定装置10は、それぞれ所望の機能を実現するプログラムで構成された、電流計測部11、電圧計測部12、電池温度計測部13、内部ガス推定部14、排出制御部15及び報知制御部16を含んで構成されている。なお内部ガス推定装置10は、車両100に搭載されるハイブリッド制御ECUやエンジン制御ECUなど公知の他の車載ECUと情報通信可能に構成されている。あるいは、内部ガス推定装置10は、上記したハイブリッド制御ECUや充電制御ECU内における1つの機能として組み込まれていてもよい。
【0015】
また同図に示すとおり、本実施形態の内部ガス推定装置10は、公知の通信装置CDを介してインターネットなど公知の外部ネットワークNETと接続可能に構成されていてもよい。なお外部ネットワークNETとしては、上記したインターネットに限られず、例えば無線通信を介して各種情報を車車間で送受信可能な公知の情報通信ネットワークなども含まれる。
【0016】
また、内部ガス推定装置10は、車両100に搭載されたセンサ類SRから各種の検出信号を受信可能に構成されている。かようなセンサ類SRの例としては、
図1に示すように、二次電池20の電池温度を計測可能な公知の電池温度センサSR
1、二次電池20と負荷40との間に設けられた公知の電流センサSR
2と電圧センサSR
3などが例示できる。なおセンサ類SRとしては、上記した各センサの他にも、車両100に通常搭載される外気温センサや車速センサなど公知の種々の車載センサが含まれていてもよい。
【0017】
また、内部ガス推定装置10は、車両100にそれぞれ搭載された公知の報知装置DDと電気的に接続されており、この報知装置DDを介して乗員に対して二次電池20の状態などを情報提示することができる。かような報知装置DDとしては、例えば車両100に搭載された公知の車載スピーカSPおよび車載ディスプレイDPが例示できる。
【0018】
また、内部ガス推定装置10は、ハードディスクやSSD(ソリッドステートドライブ)など公知の記憶装置MRと情報通信可能に構成されていてもよい。本実施形態の記憶装置MRには、後述する内部ガス推定方法を実行可能な各種のプログラムが格納されていてもよい。なお記憶装置MRは、車両100に搭載されていてもよいし、車両外の外部サーバ(クラウドサーバなど)として設けられて上記した外部ネットワークNETを介してアクセス可能とされていてもよい。
【0019】
電流計測部11は、二次電池20を流れる電流値を計測する機能を有している。より具体的に電流計測部11は、上記した電流センサSR2を介して負荷40に接続された二次電池20の電流値を計測する。
【0020】
電圧計測部12は、二次電池20における端子間の電圧値を計測する機能を有している。より具体的に電圧計測部12は、上記した電圧センサSR3を介して負荷40に接続された二次電池20の電圧値を計測する。
【0021】
電池温度計測部13は、二次電池20の温度を計測する機能を有している。より具体的に電池温度計測部13は、上記した電池温度センサSR1を介して負荷40に接続された二次電池20の温度を計測する。
【0022】
内部ガス推定部14は、二次電池20の内部で発生した内部ガスの成分および量を推定する機能を有している。後述するとおり内部ガス推定部14は、二次電池20における過充電状態と高温状態のいずれかの期間において二次電池20内部に発生したガスの成分と量を推定する。
【0023】
そして上記したガスの成分と量は、例えば次に示す手法によって実験またはシミュレーションによって予め得ることができる。
すなわち、例えば平成12年6月に財団法人電力中央研究所が発行した「リチウムイオン電池の劣化メカニズムの解明 研究報告:T99040」などの公知文献によれば、電圧もしくは温度によりリチウムイオン電池における電解液分解の化学反応が異なることが示されている。そしてこの「リチウムイオン電池の劣化メカニズムの解明 研究報告:T99040」では、表2として通常作動電圧、過充電および過放電試験で発生したガス組成の例も示されている。これらの文献によれば、リチウムイオン電池の電圧値によって内部で発生するガス組成が異なることが示されていると言える。
【0024】
従って、用いるリチウムイオン二次電池の電解液成分、過充電状態の発生有無、高温状態の発生有無、およびこれらの状態における二次電池の電圧値をそれぞれ把握することで、電解液の分解は電池電圧及び経過時間と密接に関連することから、事前の実験やシミュレーションを通してその二次電池において発生するガスの成分が特定できる。さらにその際に発生するガスの量についても、上記した実験やシミュレーションによって電圧値毎にどの程度のガスが発生するかは事前に求めておくことができる。
【0025】
なお本実施形態における「過充電状態」とは、製造者などによって予め定めされた二次電池を安定して適正に使用可能な上限電圧(定格電圧など)を超過した状態を言う。なお本実施形態では過充電状態として電圧値に基づいて判断するが、過充電状態の判定に用いるパラメータとしては、上記電圧値に代えて二次電池の充電率(SOC)や二次電池の容量(Ah)に置き換えてもよい。
【0026】
同様に、本実施形態における「高温状態」とは、製造者などによって予め定めされた二次電池を安定して適正に使用可能な上限温度を超過した状態を言う。なお本実施形態では高温状態として安全に動作できる温度に基づいて判断するが、高温状態の判定に用いる基準としては、上記安全に動作できる温度に代えて電解液の分解が始まる温度を適用してもよい。
【0027】
このように予め実験またはシミュレーションで求めた過充電状態における二次電池内部で発生する内部ガスの成分と量を電圧値毎に規定した過充電時におけるガス成分テーブルデータが、上記した記憶装置MRで保持される。同様に予め実験またはシミュレーションで求めた高温状態における二次電池内部で発生する内部ガスの成と量分を電圧値毎に規定した高温状態におけるガス成分テーブルデータが、上記した記憶装置MRで保持される。
これにより内部ガス推定部14は、過充電状態と高温状態のいずれかの期間における後述する単位時間当たりの積分量とその際の電圧値(平均電圧)を、予め保持した上記ガス成分テーブルデータと対比することで、二次電池で発生した内部ガスの量と成分を推定することが可能となっている。
【0028】
また本実施形態の内部ガス推定部14は、二次電池20の内部で発生したガスの成分および量を積算して保持する機能を有している。後述するとおり、内部ガス推定部14は、適正使用上限を超えた過充電状態の時間を横軸としつつ二次電池20の電圧値を縦軸としたグラフにおける、適正使用上限の電圧を超えた範囲の面積を積分処理する。
このとき内部ガス推定部14は、
図6などに例示するように、推定した二次電池20における内部ガスの量と成分に基づいて、その成分毎に区分けして累積量を積算して保持することが好ましい。
【0029】
排出制御部15は、上記で推定した成分毎の累積量に基づいて二次電池20に貯留された内部ガスの排出形態を判別する機能を有する。
また、排出制御部15は、上記で判別した排出形態に基づいて、内部ガスの排出方法を決定する。より具体的に排出制御部15は、二次電池内で発生した内部ガスを燃焼補助ガスとしてエンジンへの吸気経路に導入する処理を実行することができる。また、排出制御部15は、上記内部ガスをエンジンへの吸気経路に導入せずに車外へ排出する処理を実行することができる。
【0030】
報知制御部16は、上記した車載スピーカSPおよび車載ディスプレイDPを介した報知を制御する機能を有している。例えば報知制御部16は、例えば内部ガス推定部14の判定結果に基づいて、車載スピーカSP又は車載ディスプレイDPを介して車両100の状態を報知することができる。これにより、例えば車両100の乗員などは、二次電池20の状態を迅速に把握することが可能となる。
【0031】
なお本実施形態の二次電池20は、車両100に搭載される車載機器への給電に少なくとも用いられる。本実施形態の二次電池20は、後述する負荷40に電力を供給すると共に、必要に応じて負荷40で発生した電力を充電する機能を有する。かような二次電池20としては、例えばリチウムイオン二次電池、鉛蓄電池、ニッケル水素電池など公知の種々の二次電池を適用してもよい。
【0032】
エンジン30は、車両100を駆動する。本実施形態のエンジン30は、例えばガソリンを燃焼して動力を発生するレシプロエンジンやガスを燃焼して動力を発生するガスタービンエンジンなど気体を用いた燃焼によって動力を得る公知の種々のエンジンが例示できる。
【0033】
負荷40は、例えば車両100を駆動可能な電気モータやインバータなど車載されて二次電池の電力で駆動可能な公知の種々の負荷が例示できる。本実施形態では、負荷40の一例としてハイブリッド車に搭載可能な公知の電気モータが適用されている。
【0034】
配管系50は、前記したエンジン30への公知の吸気経路(不図示)と二次電池20とをつなぐ気体導入配管51と、この二次電池20と車外とをつなぐ気体排出配管52と、を含んで構成されている。また、本実施形態の配管系50は、気体導入配管51に設けられて当該気体導入配管51の開閉を制御する第1開閉弁Vaと、気体排出配管52に設けられて当該気体排出配管52の開閉を制御する第2開閉弁Vbと、を含んでいることが好ましい。かような第1開閉弁Vaおよび第2開閉弁Vbは、気体の流入を制御可能なソレノイドバルブなどの公知の種々のバルブが適用できる。
【0035】
<二次電池における内部ガスの処理方法>
次に
図3~
図7も適宜参照しつつ、本実施形態の内部ガス推定装置10によって実行される二次電池20の内部ガス処理方法について説明する。
【0036】
まず車両100のシステム電源が起動された後のステップ10では、車両100に搭載された二次電池20の異常の有無が検出される。より具体的に本実施形態では、二次電池20が上記した過充電状態か高温状態の少なくともいずれかに該当する場合に異常であると判定する。そしてステップ10で二次電池20に上記した異常が発生していない場合には後述するステップ40のガス排出処理ルーチンへ移行する。
【0037】
一方、ステップ10で車両100の二次電池20において上記した異常が検出された場合には、続くステップ20においてガス推定記録処理が実行される。
以下、
図4~
図6を参照しつつ本実施形態のガス推定記録処理を説明する。
すなわちまずステップ21では、二次電池20の電池電圧(電圧値)が上限電圧を超過しているか否かが判定される。具体的には内部ガス推定装置10の電圧計測部12は、上記した電圧センサSR
3を介して二次電池20の電圧値を計測し、この電圧値が上限電圧を超過しているか否かを判定する。
【0038】
そしてステップ21で二次電池20の電圧値が上限電圧を超過していない場合には、続くステップ22で二次電池20の電池温度が上限温度を超過しているか否かが判定される。具体的には内部ガス推定装置10の電池温度計測部13は、上記した電池温度センサSR1を介して二次電池20の温度を計測し、この計測した温度が上限温度を超過しているか否かを判定する。なお、ステップ22で二次電池20の温度が上限温度を超過していない場合には、後述するとおりステップ26に移行する。
【0039】
そしてステップ21で二次電池20の電圧値が上限電圧を超過した場合やステップ22で二次電池20の温度が上限温度を超過した場合には、ステップ23では以下に示す積分処理が実行される。すなわちステップ21及びステップ22では、少なくとも適正使用上限を超えた二次電池20の過充電状態と、適正使用上限を超えた二次電池20の高温状態と、に二次電池20が置かれたガス発生期間の有無が検出される。
【0040】
次に本実施形態における積分処理の一例として、
図5を用いて二次電池20の電圧値が上限電圧を超過した場合の積分処理を例示する。
図5は、二次電池20の時刻tを横軸としつつ電圧値を縦軸としたグラフである。
同図から明らかなとり、時刻t1において二次電池20の電圧値は過充電状態となる上限電圧V1を超え、その後に最大電圧値V3を経てから再び時刻t2において上限電圧V1を過ぎて非異常状態に至ったことが示されている。換言すれば、時刻t1から時刻t2までの期間は、二次電池20に異常が発生(過充電発生1回目)した期間であり、二次電池内でガスが発生した状態(ガス発生期間)にあることが分かる。
【0041】
このとき内部ガス推定部14は、上述の手法に従って、上記した時刻t1から時刻t2までの期間(ガス発生期間)内で二次電池20の内部で発生した内部ガスの成分および量を推定する。
具体的に内部ガス推定部14は、上記グラフで過充電状態となる上限電圧V1を超えた範囲において、まずステップ23で単位時間当たりでの積分処理を行う。なおこの「単位時間」については任意の時間を設定可能であるが、例えば電解液の反応速度に合わせた時間間隔であってもよい。
【0042】
次いでステップ24では、内部ガス推定部14は、ステップ23で求めた単位時間当たりの積分結果と、この積分した範囲における電圧値(平均電圧)と、に基づいて、予め実験またはシミュレーションで求めた過充電状態における上記ガス成分テーブルデータを参照して、二次電池20の内部で発生した内部ガスの成分および量を推定(算出)する。
【0043】
すなわち二次電池20で発生する内部ガスの成分とその量は、具体的に複数の過電圧値ごとに予め実験またはシミュレーションで求められていることから、内部ガス推定部14は、ガス成分テーブルデータを参照(予め保持した電圧値と面積から導出される内部ガスの参照量および参照成分と対比)することで、最も今条件に合致するデータを内部ガスの成分および量として推定(算出)できる。
【0044】
次いでステップ25において、内部ガス推定部14は、
図6(a)の累積ガスデータで示すように、推定した内部ガスの量と成分に基づいて、その成分毎に区分けして累積ガス量を積算して上記した記憶装置MRなどで保持する。
ステップ25が終了したら、再びステップ21に戻って電池電圧が上限電圧を超過したか否かが判定される。
図5に示すように、本実施例では時刻t1から時刻t2までの期間が上限電圧を超過したガス発生期間であることから、内部ガス推定部14は、時刻t1から時刻t2まで上記したステップ23~ステップ25の処理を繰り返す。また、内部ガス推定部14は、時刻t1から時刻t2までの間は、都度、ステップ25を経ることで上記した累積ガスデータを更新する。これにより、
図5に示す時刻t1から時刻t2までの斜線で示す区間では、ステップ23~ステップ25を経て単位時間当たりの面積が繰り返し計算されて、そのときのガス成分と量が累積ガスデータへ順次反映されることになる。
【0045】
このように本実施形態では、上記した過充電状態が二次電池20において発生するたびに上記した内部ガスの成分と量を算出し、従前の累積ガス量に加算して更新することで累積ガスデータを記憶装置MRなどで保持することが好ましい。
【0046】
一方で
図5に示すように、時刻t2が経過した後の時刻t3において、二次電池20の電圧値は再び過充電状態となる上限電圧V1を超えて、その後に最大電圧値V2を経てから時刻t4において上限電圧V1を過ぎて再び非異常状態に至ったことが示されている。換言すれば、時刻t3から時刻t4までが、二次電池20に異常が発生(過充電発生2回目)した期間であり、二次電池内でガスが発生した状態(2回目のガス発生期間)にあることが分かる。
【0047】
このとき内部ガス推定部14は、上述の手法に従って、上記した時刻t1から時刻t2までのときと同様にして、この期間内で二次電池20の内部で発生した内部ガスの成分および量を推定する。具体的に内部ガス推定部14は、前記過充電状態となる上限電圧V1を超えた範囲について単位時間当たりの面積をそれぞれ積分して、
図5における時刻t3から時刻t4までの期間(ガス発生期間)で上記したステップ23~ステップ25の処理を繰り返す。
【0048】
そして内部ガス推定部14は、ステップ23で求めた単位時間当たりの積分結果と、この積分した範囲における電圧値(平均電圧)と、に基づいて、予め実験またはシミュレーションで求めた過充電状態における上記ガス成分テーブルデータを参照して、二次電池20の内部で発生した内部ガスの成分および量を推定(算出)する。
【0049】
なおこのとき、過充電状態が繰り返されると電池の劣化が進むことから、2回目以降の過充電状態では電解液中の反応できる成分が相対的に減少する。従って、内部ガス推定部14は、二次電池20の劣化度合い応じて、発生するガス量に劣化係数を掛けて内部ガスの成分および量を計算してもよい。かような劣化係数は、電池の劣化度合いに応じて決定されるものであり、公知技術あるいは実験又はシミュレーションによって決定できる。
【0050】
そして内部ガス推定部14は、時刻t3から時刻t4までの期間内で二次電池20の内部で発生した内部ガスの成分および量を、上記した累積ガスデータに積算して更新することが好ましい。すなわち
図6(b)に示すように、時刻t4を経過した後は、2度目の異常で二次電池20に発生した内部ガスの成分と量が累積ガスデータに都度加算されて最新の積算ガス量に更新される。
このように本実施形態の内部ガス推定部14は、上記したガス発生期間での滞在時間と電池電圧の積分結果とに基づいて、二次電池20で発生した内部ガスの量および成分を推定する。
【0051】
上記したステップ22に続くステップ26では、上記した累積ガス量が第1所定量に到達したか否かが判定される。ここで「第1所定量」とは、二次電池20に設けられた公知の排出弁(安全弁)の許容を超えない(すなわち電池外にガスが排出されない)程度の量を言う。そしてステップ26で累積ガス量が第1所定量に到達していない場合には、ふたたびステップ21へ戻って上記した処理が繰り返される。
なお本実施形態の例示では
図5を用いて二次電池20の電圧値が上限電圧を超過した場合の積分処理を説明したが、二次電池20の電池温度が上限温度を超過した場合も上記と同様に処理できる。すなわち二次電池20の電池温度が上限温度を超過した場合、ステップ24では、内部ガス推定部14は、単位時間当たりの積分結果と電池温度とによって二次電池20の内部で生じたガスの成分と量を推定することになる。
【0052】
一方で、ステップ26で累積ガス量が第1所定量に到達した場合には、次に説明するステップ40のガス排出処理が内部ガス推定装置10によって実行される。
すなわち
図7に示すように、本実施形態のガス排出処理では、まずステップ41Aにおいて累積ガス量が上記した第1所定量を超過したか否かが判定される。そしてステップ41Aで累積ガス量が上記した第1所定量を超過していない場合には、本実施形態のガス排出処理は終了する。
他方でステップ41Bにおいては、上記した累積ガス量が第2所定値を超過したか否かが判定される。ここで「第2所定量」とは、二次電池20に設けられた公知の排出弁(安全弁)の許容を超えて電池外にガスが漏れ出してガス漏れが検出される程度の量を言う。なおステップ41Bの判定においては、公知のガス検出センサを併設して第2所定値の超過有無を判定してもよい。
【0053】
そしてステップ41Bにおいて上記した累積ガス量が第2所定値を超過したと判定された場合には、ステップ44Cにおいて二次電池20から漏れ出すガスの遮断や安全な排気、あるいは乗員空間の換気を行って処理を完了する。なお上記漏出ガスの遮断や排気あるいは換気の具体的手段については、上記した特許文献を含む公知の手法を採用してもよい。
【0054】
一方で、ステップ41Bにおいて上記した累積ガス量が第2所定値を超過していないと判定された場合には、続くステップ42において車両100は停止中か否かが判定される。具体的に内部ガス推定装置10は、例えば車両100に搭載される公知の車速センサや加速度センサなどのセンサ類SRからの信号に基づいて車両100の停車を判定してもよい。そしてステップ42において車両100が停車中でないと判定された場合には、車両100が移動中であることから上記ステップ44Cに移行して上記した緊急避難的処理を実行する。
【0055】
そしてステップ42において車両100が停車中であると判定された場合には、続くステップ43においては、二次電池20内部に充満するガス成分は可燃性割合が高いか否かが判定される。より具体的に排出制御部15は、上記の累積ガスデータを参照して、例えばメタン(CH4)の累積ガス量が所定値以上であること、又は、ガス成分全体に対するメタンの割合が所定値以上であることなど予め定めた所定の条件を満たすか否かで、上記した可燃性割合が高いか否かを判定してもよい。
【0056】
そしてステップ43において二次電池20内部に充満するガス成分は可燃性割合が高くないと判定された場合に、排出制御部15は、ステップ44Bに移行して二次電池20内のガスを外部へ排出する処理を実行する。より具体的に排出制御部15は、
図1に示す第2開閉弁Vbを開放すると共に第1開閉弁Vaを閉塞し、二次電池20の排出弁(安全弁)および気体排出配管52を介して、二次電池20内のガスを車外へ排出する処理を実行する。
【0057】
さらにステップ44Bに続くステップ45Bにおいて、排出制御部15は、この後に二次電池20で発生するガス成分が引き続き可燃性割合の高いガスとならないように、予め実験やシミュレーション等で策定した運転条件に基づいて停車中の車両100における二次電池20の充放電を制御する。
【0058】
ステップ45Bに続くステップ46において、排出制御部15は、二次電池20内の累積ガス量が上記した第2所定量を超過したか否かを判定する。そしてステップ46において二次電池20内の累積ガス量が第2所定量を超過していない場合には、再びステップ42に戻って本実施形態のガス排出処理を継続することで、強制的に二次電池20からガスを排出する。すなわち本実施形態では、二次電池20の内部に生じたガスが第1所定量を超えた時点(安全弁は開いていないが内部でガスが充満している状態)で電池としての要求仕様を満足できない可能性が高いことから、この後は強制的に充放電を行ってガスを排出させることで上記した第2所定量を超過させる処理が実行される。
【0059】
一方で、ステップ43において二次電池20内部に充満するガス成分は可燃性割合が高いと判定された場合に、排出制御部15は、ステップ44Aに移行して二次電池20内のガスをエンジン30へ補助ガスとして送出するガス再利用処理を実行する。より具体的に排出制御部15は、
図1に示す第1開閉弁Vaを開放すると共に第2開閉弁Vbを閉塞し、二次電池20の排出弁(安全弁)および気体導入配管51を介して、二次電池20内のガスをエンジン30へ供給する処理を実行する。
これにより、二次電池20から燃焼補助ガスとして可燃性の高いガスがエンジン30の吸気経路に導入されることで、エンジン30を介した発電処理を省エネルギーで高効率に実行することが可能となる。
【0060】
さらにステップ44Aに続くステップ45Aにおいて、排出制御部15は、この後に二次電池20で発生するガス成分が引き続き可燃性割合の高いガスとなるように、予め実験やシミュレーション等で策定した運転条件に基づいて停車中の車両100における二次電池20の充放電を制御する。
【0061】
このように本実施形態の排出制御部15は、上記で推定したガスの成分毎の累積量に基づいて二次電池20に貯留された内部ガスの排出形態を判別し、この判別結果に基づいて第1開閉弁Vaと第2開閉弁Vbの開閉を制御する。
これにより二次電池20の異常によって内部で生成されたガスを有効に活用したり安全に車外へ排出したりすることが可能となる。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示はかかる例に限定されない。
例えば上記した実施形態では、ステップ43において可燃性割合の高さといった1つのパラメータに基づいてガスの排出処理を選択していたが複数のパラメータに基づいてガスの排出処理を選択してもよい。
【0063】
すなわち、
図8に示すように、累積ガスデータに対してガス成分毎に可燃性であることを示す第1フラグと有毒性であることを示す第2フラグを設定してもよい。同図の例では、酸素成分に対しては可燃性があることを示す「1」が設定されると共に、有毒性はないことを示す「0」が設定される。同様に
図8に示す窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン等についても、同様にして可燃性の有無や有毒性の有無が「1」又は「0」で設定される。
【0064】
そして可燃性の割合は、例えば可燃性フラグが「1」の成分を分子とし、全体のガス量を分母として百分率で算出してもよい。また、同様にして有毒性の割合は、例えば有毒性フラグが「1」の成分を分子とし、全体のガス量を分母として百分率で算出してもよい。
これにより、例えばある時点において累積したガスについて、可燃性と有毒性のいずれが高いのかが容易に判定することが可能となる。
【0065】
このように本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、これら実施形態や変形例に対して更なる修正を試みることは明らかであり、これらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0066】
100 車両
10 内部ガス推定装置
20 二次電池
30 エンジン
40 負荷
50 配管系
SR センサ類