(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152503
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】エンジンのオイル冷却構造
(51)【国際特許分類】
F01M 5/00 20060101AFI20231010BHJP
F01P 3/02 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
F01M5/00 E
F01P3/02 G
F01M5/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062556
(22)【出願日】2022-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】外薗 徹
(72)【発明者】
【氏名】小池 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】山賀 勇真
【テーマコード(参考)】
3G313
【Fターム(参考)】
3G313AA07
3G313AB02
3G313BA01
3G313BB14
3G313BC11
3G313BD11
3G313DA06
3G313DA19
3G313EA06
3G313EA25
3G313FA02
(57)【要約】
【課題】オイルの温度上昇を抑制可能なエンジンのオイル冷却構造を提供する。
【解決手段】エンジン本体10のシリンダブロック3の下方に配置されたオイルパン30に貯留されたオイルを、オイルポンプ31によって輸送して被潤滑部17,18に供給した後にオイルパン30に戻って循環するエンジンのオイル冷却構造は、エンジン本体10のシリンダヘッド4に設けられて、被潤滑部17,18を潤滑した後のオイルが滴下されるシリンダヘッド凹部4Aを備え、シリンダヘッド凹部4Aは、シリンダヘッド4を冷却する冷却部14の上方を含んだ位置に設けられ、シリンダヘッド4に回転可能に取り付けられたカムシャフト17,18の回転を利用して、シリンダヘッド凹部4Aに溜まったオイルを攪拌する攪拌機構60,70を備える。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン本体のシリンダブロックの下方に配置されたオイルパンに貯留されたオイルを、オイルポンプによって輸送して被潤滑部に供給した後に前記オイルパンに戻って循環するエンジンのオイル冷却構造であって、
前記エンジン本体のシリンダヘッドに設けられて、前記被潤滑部を潤滑した後のオイルが滴下されるシリンダヘッド凹部を備え、
前記シリンダヘッド凹部は、前記シリンダヘッドを冷却する冷却部の上方を含んだ位置に設けられ、
前記シリンダヘッドに回転可能に取り付けられたカムシャフトの回転を利用して、前記シリンダヘッド凹部に溜まったオイルを攪拌する攪拌機構を備えるエンジンのオイル冷却構造。
【請求項2】
前記エンジンのオイル温度が所定の温度以上となる運転状態となった時に、前記攪拌機構を前記カムシャフトに接続する断接機構を備えている
請求項1に記載のエンジンのオイル冷却構造。
【請求項3】
前記攪拌機構は、前記エンジンのクランク軸を中心として、一方側の吸気側と他方側の排気側のうち、吸気側にのみ設けられている
請求項1に記載のエンジンのオイル冷却構造。
【請求項4】
前記攪拌機構は、前記エンジンのクランク軸を中心として、一方側の吸気側と他方側の排気側のうち、排気側にのみ設けられている
請求項1に記載のエンジンのオイル冷却構造。
【請求項5】
前記攪拌機構は、前記シリンダヘッド凹部に溜まったオイルを吸気側に導くように回転する
請求項1に記載のエンジンのオイル冷却構造。
【請求項6】
前記攪拌機構は、
前記カムシャフトの第1回転軸上に設けられた駆動ギヤと、
前記駆動ギヤによって駆動される被駆動ギヤと、
前記被駆動ギヤの第2回転軸上に配置され、前記第2回転軸の中心部から径方向外側に向けて放射状に延びる複数のフィンを有する攪拌部材と、を備える
請求項1に記載のエンジンのオイル冷却構造。
【請求項7】
前記複数のフィンは、外端部が前記シリンダヘッド凹部の底面近傍まで延びている
請求項6に記載のエンジンのオイル冷却構造。
【請求項8】
前記シリンダヘッド凹部は、前記エンジンの気筒列方向に延び、
前記攪拌部材は、前記気筒列方向に複数配置されている
請求項6に記載のエンジンのオイル冷却構造。
【請求項9】
前記シリンダヘッドには、ウォータポンプからの冷却水を流すウォータジャケットが設けられ、
前記冷却部は、前記ウォータジャケットで構成される
請求項1に記載のエンジンのオイル冷却構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載されるエンジンのオイル冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるエンジンは、一般に、エンジンのシリンダブロックの下側に設けられたオイルパン内に貯留されているオイルが、オイルポンプによって吸い出され、エンジンの被潤滑部(例えば、シリンダ、ピストン、カムシャフト等)に供給されるように構成されている。
【0003】
エンジン上部に設けられたカムシャフト等の被潤滑部に供給されたオイルは、シリンダブロックの上面に配置されてピストンと共に燃焼室を形成するシリンダヘッドに滴下され、シリンダヘッド及びシリンダブロックに設けられたオイルリターン通路を介してオイルパンに戻される。
【0004】
被潤滑部に供給されたオイルは、被潤滑部の温度によっては被潤滑部から受熱して温度が上昇する場合がある。この場合、オイルの温度上昇によってオイルの粘度が下がって潤滑性が低下するため、オイルを冷却することが好ましい。
【0005】
一般に、シリンダヘッドは、燃焼室と、燃焼室に開口する吸気ポート及び排気ポートと、燃焼室を冷却するための冷却水が流れる冷却部としてのウォータジャケットとを備える。シリンダヘッドには、ウォータジャケットの上方でクランク軸に直交する幅方向(吸気側及び排気側)に延びる底面と、底面の両端から上方に向かって幅方向外側にそれぞれ傾斜する傾斜面とからなるシリンダヘッド凹部が設けられている。シリンダヘッドの上端には、カムシャフト等が配置され、カムシャフト等の被潤滑部に供給されたオイルは、前記シリンダヘッド凹部の底面に滴下されるようになっている。
【0006】
特許文献1には、オイルの冷却を促進させることを企図して、ウォータジャケットの上方に位置する底面に、底面から上方に突出する複数のフィンが設けることで、底面に滴下されて底面を流れるオイルと冷却水との熱交換を促進させるシリンダヘッド構造を備えたエンジンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
燃費の向上を目的に通常の粘度を備えたオイルよりも上限温度が低い低粘度オイルを採用する場合や、コスト及び部品点数の削減を目的にオイルクーラを廃止する場合、オイル自体の温度上昇の抑制がさらに求められている。
【0009】
本発明は、オイルの温度上昇を抑制可能なエンジンのオイル冷却構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、エンジン本体のシリンダブロックの下方に配置されたオイルパンに貯留されたオイルを、オイルポンプによって輸送して被潤滑部に供給した後に前記オイルパンに戻って循環するエンジンのオイル冷却構造であって、前記エンジン本体のシリンダヘッドに設けられて、前記被潤滑部を潤滑した後のオイルが滴下されるシリンダヘッド凹部を備え、前記シリンダヘッド凹部は、前記シリンダヘッドを冷却する冷却部の上方を含んだ位置に設けられ、前記シリンダヘッドに回転可能に取り付けられたカムシャフトの回転を利用して、前記シリンダヘッド凹部に溜まったオイルを攪拌する攪拌機構を備えるエンジンのオイル冷却構造を提供する。
【0011】
本発明によれば、攪拌機構によってシリンダヘッド凹部に溜まったオイルが攪拌されることで、オイルが攪拌されない場合に比べて、シリンダヘッド凹部に溜まったオイルの冷却を促進することで、オイルの温度上昇を抑制できる。その結果、エンジンの信頼性を向上できる。
【0012】
シリンダヘッド凹部の底面は、冷却部近傍に位置するので、シリンダヘッド凹部に溜まったオイルは、底面近傍のオイルと底面との間で熱交換されて低温となり易い。一方、冷却部と反対側で上側に位置するオイルは、底面近傍のオイルに比べて高温となり易い。
【0013】
これに対して、攪拌機構によって、底面近傍の低温のオイルと、上側の高温のオイルとを混合すると、底面近傍のオイル温度は、低温のオイルと高温のオイルとを混合する前の状態のオイル温度よりも上昇するので、底面と底面近傍のオイルの温度差を拡大することができ、底面近傍のオイルのみが冷却されて、底面の温度に近づいた状態が維持される場合に比べて、底面と底面近傍のオイルとの間の熱交換が促進される。
【0014】
したがって、シリンダヘッド凹部に溜まったオイル全体のオイル温度が下げられ、シリンダヘッド凹部からリターン通路に流入する際のオイルの温度上昇を抑制できる。
【0015】
前記エンジンのオイル温度が所定の温度以上となる運転状態となった時に、前記攪拌機構を前記カムシャフトに接続する断接機構を備えていることが好ましい。
【0016】
本構成によれば、オイルの冷却が必要となる場合にのみ攪拌機構を作動させることができるので、攪拌機構を作動させることによって生じ得る機械抵抗の増大を抑制しつつ、オイル温度の上昇を抑制できる。オイルの特性上、高温になると粘性が低下し、被潤滑部に焼付きが発生するため、オイルの温度上昇を抑制する必要がある。これに対して、オイルが所定の温度以上の高温となる運転状態となった時、ないし、オイルが高温となり易いエンジンの高回転時等に攪拌機構を作動させることでオイルの冷却の促進が図られる。攪拌機構の作動は、オイル温度が所定の温度以上となるエンジンの負荷と回転数の関係によって決定してもよい。
【0017】
前記攪拌機構は、前記エンジンのクランク軸を中心として、一方側の吸気側と他方側の排気側のうち、吸気側にのみ設けられていてもよい。
【0018】
本構成によれば、排気側に比べて低温となりやすく、シリンダヘッド凹部の底面との温度差が近づきやすい吸気側のオイルを攪拌することで、シリンダヘッド凹部に溜まったオイルの冷却が促進されて、オイルの温度上昇が抑制される。
【0019】
前記攪拌機構は、前記エンジンのクランク軸を中心として、一方側の吸気側と他方側の排気側のうち、排気側にのみ設けられていてもよい。
【0020】
本構成によれば、シリンダヘッド凹部の排気側に滴下するオイルが、攪拌機構によって攪拌されることで、例えば、排気側に設けられたリターン通路に直接流入することを抑制できる。被潤滑部から滴下するオイルがリターン通路に直接流入する場合に比べて、冷却部によってオイルを冷却できるので、オイルの温度上昇が抑制される。
【0021】
前記攪拌機構は、前記シリンダヘッド凹部に溜まったオイルを吸気側に導くように回転してもよい。
【0022】
本構成によれば、シリンダヘッド凹部に溜まったオイルを、排気側に比べて低温となる吸気側に導くことで、オイルが排気側のみを通過してリターン通路に流入する場合に比べて、冷却部によってオイルを冷却できるので、オイルの温度上昇が抑制される。
【0023】
前記攪拌機構は、前記カムシャフトの回転軸上に設けられた駆動ギヤと、前記駆動ギヤによって駆動される被駆動ギヤと、前記被駆動ギヤの回転軸上に配置され、前記回転軸の中心部から径方向外側に向けて放射状に延びる複数のフィンを有する攪拌部材と、を備えてもよい。
【0024】
本構成によれば、カムシャフトの回転を利用することで攪拌部材によるオイルの攪拌を実現することができるので、攪拌機構用の回転機構を設ける必要がなく、部品点数の増大や組付け工数の増大を抑制しつつ、オイルの冷却を促進できる。シリンダヘッド凹部内の限られた領域に、攪拌機構を配置できる。
【0025】
前記複数のフィンは、外端部が前記シリンダヘッド凹部の底面近傍まで延びていることが好ましい。
【0026】
本構成によれば、複数のフィンによって、シリンダヘッド凹部の底面近傍のより低温のオイルと上側の高温のオイルとを混合できるので、より効果的にオイルの冷却が促進される。
【0027】
前記シリンダヘッド凹部は、前記エンジンの気筒列方向に延び、前記攪拌部材は、前記気筒列方向に複数配置されることが好ましい。
【0028】
本構成によれば、複数の攪拌部材によって、シリンダヘッド凹部に溜まったオイル全体を広範囲に亘って混合しやすい。シリンダヘッド凹部における熱交換が促進される面積を増大できるので、より効果的にオイルの冷却が促進される。
【0029】
前記シリンダヘッドには、ウォータポンプからの冷却水を流すウォータジャケットが設けられ、
前記冷却部は、前記ウォータジャケットで構成されてもよい。
【0030】
本構成によれば、シリンダヘッド凹部がウォータジャケットに隣接して配置されているので、ウォータジャケット内を流れる冷却水によってシリンダヘッド凹部の底面を冷却することができる。これにより、オイルの放熱が促進されて、オイルの温度上昇が抑制できる。
【0031】
本発明にかかるエンジンのオイル冷却構造によれば、オイルの温度上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の実施形態に係るエンジンの構成を示す概略図である。
【
図2】
図1におけるII-II線に沿ったシリンダヘッドの断面図である。
【
図3】
図1におけるIII-III線に沿ったシリンダブロックの断面図である。
【
図4】
図2におけるIV-IV線に沿ったエンジンのオイル通路を示す断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るエンジンのオイル供給通路を示す概略図である。
【
図6】管路内を流れるオイルの温度分布の解析モデルを示す断面図である。
【
図7】管路内壁面W近傍を流れるオイルの温度と管路中心を流れるオイルの温度を示すグラフである。
【
図8】シリンダヘッド凹部に溜まったオイルの混合の解析モデルの説明図である。
【
図9】シリンダヘッド凹部に溜まったオイルを混合しない場合、及び混合した場合における底面近傍のオイル温度と、シリンダヘッド凹部に溜まったオイル全体の平均温度を示すグラフである。
【
図10】
図1における矢印Xから見た攪拌機構とシリンダヘッドの平面図である。
【
図11】
図10におけるXI-XI線に沿った攪拌機構とシリンダヘッドの断面図である。
【
図12】オイル冷却構造の断接機構を切断した状態を模式的に示す断面図である。
【
図13】オイル冷却構造の断接機構を締結した状態を模式的に示す断面図である。
【
図14】
図11における攪拌機構が作動した時のオイルの流れを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0034】
本発明の実施形態に係るオイル冷却構造は、エンジン1に適用されている。
図1に示すように、本発明の実施形態に係るエンジン1は、自動車等の車両に搭載され、例えば、クランク軸6aが前後方向に延びるいわゆる縦置き式のエンジン1である。エンジン1は、エンジン本体10を備え、エンジン本体10は、シリンダ2が形成されたシリンダブロック3と、シリンダ2上に配設されるシリンダヘッド4とを備える。シリンダブロック3及びシリンダヘッド4は、例えばアルミニウム合金等の金属材料で形成されている。
【0035】
シリンダ2内には、ピストン5が往復動可能に配置されている。ピストン5は、シリンダブロック3の下部に回転自在に支持されたクランクシャフト6にコンロッド7を介して連結され、ピストン5の往復運動がクランクシャフト6の回転運動に変換されるようになっている。
【0036】
シリンダヘッド4には、吸気ポート15及び排気ポート16が形成されている。各シリンダ2に2つの吸気ポート15及び排気ポート16が設けられ、2つの吸気ポート15及び排気ポート16はそれぞれ、シリンダ2の中心軸2aと直交するクランク軸6aの軸方向に離間して設けられている。
【0037】
吸気ポート15には、空気を燃焼室8に供給する吸気通路(図示せず)が接続され、排気ポート16には、燃焼室8から燃焼ガスである排気ガスを排出する排気通路(図示せず)が接続されている。排気通路には、排気装置としての排気ガスを浄化する触媒を備えた触媒装置11及び排気管12が接続されている。触媒装置11とエンジン1は、車体幅方向に並んで配置されている。
【0038】
シリンダヘッド4の上部には、仮想線で示すように、吸気ポート15及び排気ポート16をそれぞれ開閉する吸気弁及び排気弁が配設されている。吸気弁は、クランクシャフト6に駆動連結された吸気カムシャフト17によって所定のタイミングで吸気ポート15を開閉し、吸気行程において空気を燃焼室8に供給するようになっている。排気弁は、クランクシャフト6に駆動連結された排気カムシャフト18によって所定のタイミングで排気ポート16を開閉し、排気行程において燃焼室8から排気ガスを排出するようになっている。
【0039】
シリンダヘッド4の内部には、シリンダヘッド4、特に燃焼室8を冷却するための冷却水が循環する冷却部としてのヘッド側ウォータジャケット14が形成されている。ヘッド側ウォータジャケット14は、燃焼室8の上方で、
図1に示されている断面では、吸気ポート15と排気ポート16の間に設けられている。ヘッド側ウォータジャケット14は、各燃焼室8の上方に設けられて、点火プラグ(図示せず)を装着するためのボス部51(
図2参照)を取り囲むように形成されている。本実施形態においては、点火プラグは、シリンダ2の中心軸2aに沿ってシリンダ2の中心に設けられているため、ヘッド側ウォータジャケット14のクランク軸6aに直交する幅方向の中央部が、シリンダ2の中心軸2a近傍に位置するようになっている。
【0040】
図1に示すように、シリンダヘッド4には、シリンダヘッド4の上端に設けられたカムシャフト17,18等の被潤滑部を潤滑した後のオイルが滴下されるシリンダヘッド凹部4Aが設けられている。シリンダヘッド凹部4Aは、シリンダヘッド4の上下方向のほぼ中央付近でヘッド側ウォータジャケット14の上方に位置してクランク軸6aに直交する幅方向に延びる底面4aと、底面4aの幅方向の両端部から幅方向外側に向かって上方に傾斜する傾斜面4b,4cとを有する。底面4aは、ヘッド側ウォータジャケット14の上面を構成する。
【0041】
底面4aの幅方向中央部は、シリンダ2の中心軸2aに概ね一致するように配置されている。したがって、底面4aの幅方向中央部とヘッド側ウォータジャケット14の幅方向中央部とは、幅方向において概ね一致している。傾斜面4b,4cは、底面4aの幅方向一方側に位置する吸気側傾斜面4bと、クランク軸6aを挟んで幅方向他方側に位置する排気側傾斜面4cとを備える。
【0042】
排気側傾斜面4cは、底面4aの触媒装置11側の端部からさらに触媒装置11側に向かって上方に傾斜している。排気側傾斜面4cは、シリンダヘッド4の側壁部の内面の一部を構成し、排気側に位置するため、排気ガスによって底面4aに比べて高温となる。また、排気側傾斜面4cの幅方向外側には、触媒装置11が隣接して配置されているため、触媒装置11の排気ガスによって排気側傾斜面4cがより高温となりやすい。
【0043】
底面4aは、ヘッド側ウォータジャケット14の上方を含む位置に配置されているので、排気側傾斜面4cよりも低温となる。さらに、前述のように、底面4aの幅方向の中央部は、ヘッド側ウォータジャケット14の幅方向中央部と概ね一致しているので、底面4aの中央部が底面4aの幅方向の両側部に比べて冷却された状態となっている。
【0044】
シリンダヘッド凹部4Aのクランク軸6a方向の一端側と他端側は、底面4aのクランク軸6aの一端側と他端側から立ち上がる前面部4dと後面部4eとによって閉じられている(
図2参照)。前面部4d及び後面部4eには、吸気カムシャフト17及び排気カムシャフト18を配置するための凹部が設けられている。
【0045】
図2に示すように、シリンダヘッド4は、気筒方向に延びて平面視で矩形状を有する。底面4aには、シリンダ2毎に点火プラグ(図示せず)を装着するためのボス部51が設けられている。底面4aには、ボス部51を挟んだ吸気側及び排気側に、それぞれ吸気用ボス部52と排気用ボス部53が設けられている。吸気用ボス部52には吸気弁が配置され、排気用ボス部53には排気弁が配置されている。
【0046】
底面4aには、シリンダヘッド4をシリンダブロック3に取り付けるためのヘッドボルト(図示せず)を挿通するヘッドボルト挿通穴54aが気筒ごとにシリンダ2を囲むように複数設けられている。底面4aには、後述のヘッド側リターン通路42,46が、ヘッドボルト挿通穴54aの反クランク軸側の側壁側に設けられている。
【0047】
図3に示すように、シリンダブロック3の上側には、冷却水が流通する冷却部としてのシリンダ側ウォータジャケット13がシリンダ2の径方向外側でシリンダ2を取り囲むように設けられている。シリンダ側ウォータジャケット13は、シリンダ列のシリンダ2の径方向外側を囲う閉ループ構造を有している。シリンダ側ウォータジャケット13は、上向きに開口するように形成されている。
【0048】
シリンダ側ウォータジャケット13のうちクランク軸6aの軸線方向を挟んで両側に位置した部分は、シリンダ2を部分的に囲う複数の弧状部13aと、シリンダ2間に向かって入り込んだ複数の凹部13bを有する。シリンダ側ウォータジャケット13は、気筒列の軸方向の両側の部分では、弧状部13aと凹部13bとが交互に連続して配置されている。気筒列の前後の端部においては、弧状部13a同士を連結すると共にシリンダ2の前後端部を囲う前端部13c及び後端部13cがそれぞれ配置されている。
【0049】
シリンダブロック3の気筒列を挟んだ両側には、シリンダヘッド4を固定するためのヘッドボルトをねじ込むための複数のねじ穴54bが設けられている。各ねじ穴54bは、平面視でシリンダ側ウォータジャケット13の凹部13b、前端部13c、及び、後端部13cの外側に配置されている。
【0050】
本実施形態において、シリンダブロック3の下端には、ピストン5、クランクシャフト6、カムシャフト17,18等の被潤滑部を潤滑するためのオイルを貯留するためのオイルパン30が配置されている。
【0051】
本実施形態では、エンジン1は、
図1に示すように、シリンダ2の中心軸2aが垂直方向から10度などの所定角度θ1排気側に傾斜した方向に延びるように配置された状態で車体フレームに支持されて車両に搭載されている。
【0052】
図1、
図4及び
図5に示すように、エンジン1には、被潤滑部(ピストン5、クランクシャフト6、カムシャフト17,18等)を潤滑するオイルをエンジン1内で循環させて、オイル冷却構造の一部を構成するオイル通路20が備えられている。オイル通路20は、被潤滑部にオイルを供給するオイル供給通路21と、被潤滑部に供給したオイルをオイルパンに戻すためのオイルリターン通路22とを有する。
【0053】
図5に示すように、オイル供給通路21は、オイルパン30に貯留されているオイルを吸い上げるオイルポンプ31と、オイルポンプ31から吐出されるオイルを濾過するオイルフィルタ32と、オイルポンプ31から吐出されるオイルを冷却するオイルクーラ33と、エンジン本体10に設けられた供給油路35とを備える。
【0054】
供給油路35は、オイルパン30側に設けられた第1供給油路36と、シリンダブロック3に設けられた第2供給油路37と、シリンダヘッド4に設けられた第3供給油路38と、第1供給油路36と第2供給油路37とを連通させる第1連通油路39と、第2供給油路37と第3供給油路38とを連通させる第2連通油路40とを備える。
【0055】
図1及び
図5に示すように、オイルポンプ31は、クランクシャフト6により駆動され、オイルポンプ31から吐出されたオイルは、第1供給油路36を通ってオイルフィルタ32へ流入して濾過された後、オイルクーラ33へ流入して冷却される。オイルクーラ33で冷却されたオイルは、第1連通油路39を通ってシリンダブロック3の第2供給油路37に供給される。
【0056】
図1、
図4及び
図5に示すように、第1供給油路36は、オイルパン30内に設けられると共にオイルポンプ31とオイルフィルタ32とを接続する油路36aと、オイルパン30の排気側の側面に隣接して設けられると共にオイルフィルタ32とオイルクーラ33とを接続する油路36bと、オイルクーラ33から上方に延びると共にシリンダブロック3に設けられた第1連通油路39に接続される36cとを備える。
【0057】
図4及び
図5に示すように、第1連通油路39は、シリンダブロック3に設けられると共に排気側に開口してシリンダ2の径方向(エンジン本体10の幅方向)に延びる油路39aと、油路39aの径方向内側の端部から上方に延びる油路39bとを備える。
【0058】
第2供給油路37は、油路39cが接続されると共に気筒列方向に延びるメインギャラリ37aと、メインギャラリ37aから分岐してクランク軸6a側に向かって下方に延びてクランクシャフト6の被潤滑部にオイルを供給するための複数の分岐油路37bとを備える。
【0059】
メインギャラリ37aは、シリンダブロック3の気筒列方向に直交する幅方向においてシリンダブロック3の排気側の位置であってシリンダ2の下端部近傍に位置している。複数の分岐油路37bのそれぞれの下流端は、シリンダブロック3のクランク軸6aに向かって開口している。
【0060】
図5に示すように、第2供給油路37は、メインギャラリ37aの一方側の端部から分岐して幅方向に延びて第2連通油路40に連通する油路37cをさらに備える。
【0061】
第2連通油路40は、シリンダブロック3に設けられると共に油路37cのメインギャラリ37a側の端部から上方に延びる油路40aと、シリンダヘッド4に設けられて油路40aに連通すると共に上方に延びる油路40bとを備える。
【0062】
第3供給油路38は、油路40bの上端から幅方向両側に延びる油路38aと、油路38aの排気側と吸気側から上方に延びる一対の油路38bと、油路38bから気筒列方向に延びるヘッド側ギャラリ38cとを備える。ヘッド側ギャラリ38cは、ヘッド側ギャラリ38cからカムシャフト17,18の吸気側及び排気側それぞれのカムジャーナル等にオイルを供給するように形成された複数の分岐油路38dを備える。
【0063】
なお、オイル供給通路21は、上述の構成以外にも、例えば、ピストンを冷却するためのオイルジェット等にオイルを供給するように形成されている。
【0064】
図4に示すように、オイル供給通路21を介してエンジン1の被潤滑部としてのカムシャフト17,18に供給されたオイルは、シリンダヘッド4の吸気側及び排気側傾斜面4b,4c及び底面4aに滴下され(矢印a)、底面4aに設けられたオイルリターン通路22を構成するヘッド側リターン通路42,46を通ってオイルパン30に戻される。
【0065】
エンジン1の車体搭載状態において、底面4aは、水平面2bに対して排気側が吸気側よりも下方となるように傾斜している。よって、底面4aに滴下したオイルは、排気側のヘッド側リターン通路42に案内されやすくなっている。
【0066】
オイルリターン通路22は、被潤滑部としてのカムシャフト17,18に供給されたオイルが排気ポート16側と吸気ポート15側に分かれて流れる複数の排気側リターン通路41及び吸気側リターン通路45とを備える。排気側リターン通路41及び吸気側リターン通路45は、シリンダブロック3に設けられたリターン通路43,47に連通すると共に、オイルパン30に開口するように形成されている。
【0067】
エンジン1の運転が開始されると、クランクシャフト6の回転に伴ってオイルポンプ31が駆動される。そして、
図5に矢印で示すように、オイルポンプ31は、オイルパン30に貯留されているオイルをオイルポンプ31の吸込口31aから吸入し、吸入されたオイルを、第1供給油路36、第1連通油路39、第2供給油路37、第2連通油路40、第3供給油路38を順次経由して、エンジン本体10内の被潤滑部に供給する。
【0068】
このようにして被潤滑部に供給されたオイルは、オイル供給通路21を介して被潤滑部を潤滑すると共に、被潤滑部の動作時に生じる摩擦熱等の熱を吸収した後にオイルリターン通路22を介してオイルパン30に戻される。
【0069】
オイルリターン通路22に流入するオイルは、被潤滑部の動作時に生じる摩擦熱等の熱を吸収することで温められているため、ヘッド側ウォータジャケット14の上方を含む位置に設けられた底面4a、及び、シリンダ側ウォータジャケット13に隣接して設けられたリターン通路43でオイルの熱を放熱することで冷却されて、オイルパン30に戻される。
【0070】
前述のように、排気側傾斜面4cは、エンジン本体10の側壁部の内面の一部を構成し、排気側に位置しているため、排気ガスによって底面4aに比べて高温となる。このため、排気側傾斜面4cを伝って底面4aに流入するオイルは、排気側傾斜面4cからの受熱によって昇温しやすい。シリンダヘッド凹部4Aに溜まったオイルは、ウォータジャケット14内を流れる冷却水によって冷却された底面4aとの間で熱交換されて冷却されて、排気側リターン通路41に流出する。
【0071】
ここで、
図6及び
図7を参照しながら、冷却された管路内壁面Wと、管路内を流れるオイル100との間の熱交換によるオイル100の冷却について説明する。
図6は、管路内を流れるオイル100の油温挙動の解析モデルを示す(a)流路方向に沿った断面図、及び(b)
図6(a)のVI-VI線に沿った流路方向に直交する断面図である。
図7は、管路内壁面W近傍を流れるオイル101の温度T1と管路中心を流れるオイル102の温度T2を比較したグラフである。
【0072】
解析モデルでは、管路内壁面Wの壁面温度Twallを80度とし、管路内に流入するオイル100の入口での温度Toilを120度としたときの管路入口側から出口側に至るまでの間の管路内壁面W近傍を流れるオイル101の温度T1と管路中心を流れるオイル102の温度T2をシミュレーションによって算出した。
【0073】
図7に示されるシミュレーション結果によると、管路内を流れるオイル100は、管路内壁面W近傍(内壁面Wから0.5mmの層)のオイル101の温度T1は低下し、管路中心部(例えば、管路中心から1mmの層)のオイル102の温度Toli2は低下していない。
【0074】
放熱量Qは、オイルの熱伝達係数をh、管路内壁面積をS、壁面近傍のオイル温度をT1、壁面温度をTwallとすると、Q=hS(T1-Twall)となる。したがって、放熱量Qは、オイル温度T1と管路内壁面Twallの温度差に比例するため、管路内を流れるオイル100のうち管路内壁面W近傍のオイル101が冷却されて、管路内壁面Wとの温度差が小さくなと、オイル101と管路内壁面Wとの間の熱交換が生じにくくなる。
【0075】
上述の現象は、本実施形態のシリンダヘッド凹部4Aに溜まったオイルと、底面4aとの間においても生じ得る。具体的には、
図8に模式的に示すように、シリンダヘッド凹部4Aに滴下されて溜まったオイル110は、底面4a上を吸気側から排気側に向かって、流れてリターン通路41側に流出する。したがって、シリンダヘッド凹部4Aに溜まったオイルは、底面4aとの間で底面4a近傍のオイル111のみが熱交換するだけで、シリンダヘッド凹部4Aの上側に溜まったオイル111~120は、オイルの温度が低下することなくリターン通路41側に流出し、オイル全体の温度の低下が促進されにくい。
【0076】
これに対して、底面4aの温度Twallと、底面4a近傍のオイル111の温度T11との間の温度差を維持ないし拡大することで、放熱量Qを増大させるため、本実施形態では、
図8に矢印で示されるように、底面4a近傍のオイル111と、シリンダヘッド凹部4Aの上側(底面4aと反対側)のオイル111~120とを混合する攪拌機構60,70を有する。攪拌機構60,70は、オイル冷却構造の一部を構成する。
【0077】
図8は、シリンダヘッド凹部に溜まったオイルの混合の解析モデルの説明図である。
図9は、シリンダヘッド凹部に溜まったオイルを混合しない場合、及び混合した場合における底面近傍のオイル温度と、シリンダヘッド凹部に溜まったオイル全体の平均温度を示すグラフである。
【0078】
図8の示す解析モデルでは、シリンダヘッド凹部4Aに溜まったオイルを上下方向に10層に分割し、シリンダヘッド凹部4Aの底面4aに接触している一番下の層となる1層目111の温度と、シリンダヘッド凹部4A全体のオイルの温度とを、オイルの混合状態毎に算出した。オイルの混合状態は、オイルを混合しない場合の底面4a近傍のオイルの温度T3及びシリンダヘッド凹部4A内のオイル全体の温度T30と、オイルを1層目111~4層目114までを混合した場合の底面4a近傍のオイルの温度T4及びシリンダヘッド凹部4A内のオイル全体の温度T40とを比較した。ここで、底面4a近傍のオイルの温度T3、T4は、
図8に示す1層目111の温度である。解析モデルでは、底面4aの壁面温度Twallを80度とし、シリンダヘッド凹部4A内に流入するオイル110の入口(吸気側)での温度T0を120度とした。
【0079】
図9には、底面4a近傍の1層目のオイル111と、2層目以上のオイル112~120とが混合されていない状態での底面4a近傍のオイル温度T3及びシリンダヘッド凹部4A内オイル全体の温度T30が二点鎖線で示され、底面4a近傍の1層目のオイル111から4層目のオイル114までが混合された状態での底面4a近傍のオイル温度T4及びシリンダヘッド凹部4A内オイル全体の温度T40が実線で示されている。
【0080】
図9に示されるシミュレーション結果によると、混合状態の底面4a近傍のオイルの温度T4は、混合されていない状態の底面4a近傍のオイルの温度T3に比べてオイル温度の低下量が少なかったが、混合状態のオイル全体の温度T40は、混合されていない状態のオイル全体の温度T30に比べてオイル温度が低下した。
【0081】
図9の矢印で示すように、混合されていない状態での底面4a近傍のオイル温度T3に比べて、混合状態では底面4a近傍のオイルの温度T4と底面4aとの間の温度差ΔTが拡大されているので、オイルと底面4aとの間の熱交換が促進されて、オイルの放熱量Qを増大できる。
【0082】
次に、
図10~
図14を参照しながら、攪拌機構60,70の構成について説明する。
【0083】
図10及び
図11に示すように、シリンダヘッド凹部4Aの排気側には排気側攪拌機構60が設けられ、シリンダヘッド凹部4Aの吸気側には吸気側攪拌機構70が設けられている。排気側攪拌機構60及び吸気側攪拌機構70は、それぞれ排気カムシャフト18と吸気カムシャフト17の回転を利用して回転される。
【0084】
図11に示すように、吸気カムシャフト17及び排気カムシャフト18は、ロッカアーム17c,18cを所定のタイミングで揺動させることで、吸気弁15a及び排気弁16aを開閉駆動させる。ロッカアーム17c,18cの一端は、それぞれ吸気弁15a及び排気弁16aの上端に上方から当接される。ロッカアーム17c,18cの他端には、吸気弁15a及び排気弁16aのバルブクリアランスを調整するためのラッシュアジャスタ17d,18dが下方から当接されている。
【0085】
図10に示すように、吸気カムシャフト17及び排気カムシャフト18は、気筒列方向に延び、シリンダヘッド4に設けられた複数の軸受部17a、18aによって回転可能に支持されている。吸気カムシャフト17及び排気カムシャフト18には、複数のカム17b,18bが形成されている。複数のカム17b,18b、ロッカアーム17c,18c、及びラッシュアジャスタ17d,18dは、それぞれ、各気筒に対応するように気筒列方向に所定の間隔で並べて配置されている。
【0086】
図11に示すように、排気側攪拌機構60及び吸気側攪拌機構70は、それぞれ、駆動ギヤ61,71、中間ギヤ62,72、被駆動ギヤ63,73、回転軸(第2回転軸)64,74、攪拌部材65,75、断接機構66,76、及び油圧供給部67,77を有する。排気側攪拌機構60と吸気側攪拌機構70とは、同様の構成を有しているので、排気側攪拌機構60のみについて説明する。
【0087】
図10に示すように、駆動ギヤ61は、排気カムシャフト18の回転軸(第1回転軸)18e上に一体的に設けられている。駆動ギヤ61は、排気カムシャフト18の気筒方向一方側の端部に設けられている。
図11に示すように、駆動ギヤ61は、排気カムシャフト18の回転と共に時計回り(
図11における右回り)に回転する。駆動ギヤ61には、中間ギヤ62が噛合っている。
【0088】
中間ギヤ62は、駆動ギヤ61よりも下方(シリンダヘッド凹部4Aの底面4a側)かつ、シリンダ径方向内側に配置されている。中間ギヤ62は、例えば、シリンダヘッド4に設けられた複数の軸受部等によって回転可能に支持されている。中間ギヤ62は、駆動ギヤ61の回転に伴って反時計回り(
図11における左回り)に回転する。中間ギヤ62には、被駆動ギヤ63が噛合っている。
【0089】
被駆動ギヤ63は、中間ギヤ62よりも下方(底面4a側)かつ、シリンダ径方向内側に配置されている。被駆動ギヤ63は、シリンダヘッド4の幅方向において、ロッカアーム18cの一端部と他端部との間に位置する。言い換えると、被駆動ギヤ63は、排気弁16aとラッシュアジャスタ18dとの間に配置されている。被駆動ギヤ63は、例えば、シリンダヘッド4に設けられた複数の軸受部等によって回転可能に支持されている。被駆動ギヤ63は、駆動ギヤ61の回転に伴って、中間ギヤ62を介して時計回りに回転する。被駆動ギヤ63の回転軸63aには、被駆動ギヤ63の回転を攪拌部材65の回転軸64への伝達状態と非伝達状態を切り換える断接機構66が設けられている。
【0090】
図12に示すように、断接機構66は、ドラム66aと、ハブ66bと、ドラム側摩擦板66cと、ハブ側摩擦板66dと、ピストン66eと、油圧室66hと、リターンスプリング66iとを備える。ドラム66aは、円筒状を有し、底部において被駆動ギヤ63の回転軸63aが固定されている。ドラム66aは、回転軸63aと一体回転する。ハブ66bは、ドラム66aの径方向内側に対向配置されている。ハブ66bは、回転軸63aと同軸上に配置された攪拌部材65の回転軸64の外周に固定されている。ハブ66bは、回転軸64と一体回転する。
【0091】
ドラム66aには、ドラム側摩擦板66cが軸方向に摺動可能にスプライン嵌合され、ハブ66bにはハブ側摩擦板66dが軸方向に摺動可能にスプライン嵌合されている。ドラム側摩擦板66cとハブ側摩擦板66dとは、軸方向に交互に並べて配置されている。
【0092】
ピストン66eは、ドラム側摩擦板66cとハブ側摩擦板66dの軸方向における被駆動ギヤ63側に配置されている。ピストン66eは、軸方向に移動することで、ドラム側摩擦板66cとハブ側摩擦板66dとを押圧し、ドラム側摩擦板66cとハブ側摩擦板66dとが互いに締結される。ピストン66eは、油圧室を形成する円盤部66fと、ドラム側摩擦板66cとハブ側摩擦板66dを押圧する押圧部66gとを有する。
【0093】
ピストン66eの軸方向における被駆動ギヤ63側には、油圧室66hが設けられている。油圧室66hは、回転軸63aの内周に設けられた中空部63bに連続するように設けられている。油圧室66hには、油圧供給部67から油圧が給排されるようになっている。断接機構66の油圧室66hへの油圧の給排は、ECU(Engin controll unit)等の制御部によって制御される。オイルの温度が所定値以上になった時に、油圧室66hに油圧を供給するように油圧供給部67へ信号を出力する。オイルの温度が所定値未満になった時に油圧室66hの油圧をドレンするようになっている。
【0094】
ドラム66aの径方向中央には、回転軸63aの中空部63bに連続するドラム軸中空部66kを有するドラム軸部66jが設けられている。油圧供給部67から供給される油圧は、回転軸中空部63bとドラム軸中空部66kを介して油圧室66hに供給されるようになっている。
【0095】
ドラム軸部66jの外周には、径方向外側に突出するスプリング受け部66mが設けられている。ドラム軸部66jの外周には、ピストン66eを解放方向に付勢するリターンスプリング66iが装着されている。リターンスプリング66iは、スプリング受け部66mとピストン66eの円盤部66fとの間に配置されている。
【0096】
図13に示すように、断接機構66が接続状態においては、油圧供給部67から油圧室66hに油圧が供給され、ピストン66eがドラム側摩擦板66cとハブ側摩擦板66dとを押圧し、ドラム66aとハブ66bが締結され、被駆動ギヤ63の回転が回転軸64に伝達される。一方、
図12に示すように、断接機構66が切断状態においては、油圧供給部67から油圧室66hへの油圧の供給が停止されて油圧室66hのオイルがドレンされ、ピストン66eの円盤部66fがリターンスプリング66iの付勢力によって、被駆動ギヤ63側に押し戻され、ドラム側摩擦板66cとハブ側摩擦板66dが解放状態となる。
【0097】
断接機構66は、オイル温度が所定の温度未満である場合は、
図12に示すように切断された状態を維持する。オイル温度が所定の温度以上となって、オイルの冷却が必要となる運転状態を検出すると、例えば、制御部から信号が油圧供給部67に送信され、油圧室66hに油圧が供給されることで、攪拌部材65,75の回転軸64,74が、カムシャフト17,18の回転に連動して回転するようになっている。本実施形態において、オイルの冷却が必要となる運転状態とは、オイルの温度を検出するための温度センサを、例えばオイルパン内に配置し、温度センサによって検出されたオイルの温度が所定の温度(例えば100~120度)以上の高温となった時点である。また、オイルの冷却が必要となる運転状態は、エンジンの回転数が所定の回転数以上となった時点であってもよいし、エンジンのトルクが所定値以上の高負荷となった時点であってもよい。攪拌機構60,70の作動は、エンジンの負荷と回転数の関係(例えば、高負荷かつ高回転時等)によって決定してもよい。所定の回転数、トルクの所定値、及びエンジンの負荷と回転数は、例えば、オイルの温度が所定の温度以上となる運転状態に対応する値を用いればよい。
【0098】
図10に示すように、回転軸64は、被駆動ギヤ63の回転軸63aと一致するように設けられている。回転軸64は、気筒方向に延び、シリンダヘッド4に設けられた複数の軸受部等を介して回転可能に支持されている。回転軸64は、吸気カムシャフト17及び排気カムシャフト18と平行に配置されている。回転軸64には、複数の攪拌部材65が配置されている。複数の攪拌部材65は、複数のカム17b,18bと気筒方向位置を異ならせて、気筒列方向に所定の間隔で並べて配置されている。なお、複数の攪拌部材65は、平面視において、シリンダヘッド凹部4Aの底面4aの下方配置されたウォータジャケット14に対応する部位に設けられている。
【0099】
図11及び
図12に示すように、各攪拌部材65は、回転軸64に回転不能に固定される円筒状のベース部65aと、ベース部65aの外周から径方向外側に向かって放射状に延びる複数のフィン65bとを備える。
図14を参照すると、フィン65bは、例えば、樹脂で形成されている。フィン65bは、回転軸64の中心側から径方向外側に向かって延びている。フィン65bは、排気側に膨出するように湾曲している。本実施形態においては、攪拌部材65が時計回りに回転するので、フィン65bは、回転方向後方側に向かって膨出するように湾曲している。フィン65bは、外端部がシリンダヘッド凹部4Aの底面4a近傍(例えば、
図8における1層目111)まで延びている。
【0100】
上記実施形態に係る、エンジンのオイル冷却構造によれば、次の作用効果を奏する。
【0101】
図14に示すように、攪拌機構60,70によってシリンダヘッド凹部4Aに溜まったオイルが攪拌されることで、オイルが攪拌されない場合に比べて、シリンダヘッド凹部4Aに溜まったオイルの冷却を促進することで、オイルの温度上昇を抑制できる。その結果、エンジンの信頼性を向上できる。
【0102】
シリンダヘッド凹部4Aの底面4aは、ウォータジャケット14近傍に位置するので、シリンダヘッド凹部4Aに溜まったオイルは、底面4a近傍のオイルと底面4aとの間で熱交換されて低温となり易い。一方、ウォータジャケット14と反対側で上側に位置するオイルは、底面4a近傍のオイルに比べて高温となり易い。
【0103】
これに対して、攪拌機構60,70によって、底面4a近傍の低温のオイルと、上側の高温のオイルとを混合すると、前述の
図9に示されたシミュレーション結果より、底面4a近傍のオイル温度は、低温のオイルと高温のオイルとを混合する前の状態のオイル温度よりも上昇するので、底面4aと底面4a近傍のオイルの温度差ΔTを拡大することができ、底面4a近傍のオイルのみが冷却されて、底面4aの温度に近づいた状態が維持される場合に比べて、底面4aと底面4a近傍のオイルとの間の熱交換が促進される。
【0104】
したがって、シリンダヘッド凹部4Aに溜まったオイル全体のオイル温度が下げられ、シリンダヘッド凹部4Aからリターン通路42に流入する際のオイルの温度上昇を抑制できる。
【0105】
断接機構66,76は、エンジンのオイル温度が所定の温度以上となる運転状態となった時に、攪拌機構60,70を作動させるので、攪拌機構を作動させることによって生じ得る機械抵抗の増大を抑制しつつ、オイル温度の上昇を抑制できる。換言すると、オイルの冷却が必要となる場合にのみ攪拌機構を作動させることができる。オイルの特性上、高温になると粘性が低下し、被潤滑部に焼付きが発生するため、オイルの温度上昇を抑制する必要がある。これに対して、オイルが所定の温度以上の高温となる運転状態となった時、ないし、オイルが高温となり易いエンジンの高回転時等に攪拌機構を作動させることでオイルの冷却の促進が図られる。攪拌機構の作動は、オイル温度が所定の温度以上となるエンジンの負荷と回転数の関係によって決定してもよい。
【0106】
図14の矢印で示されるように、カムシャフト17,18の時計回りに回転すると、カムシャフト17,18の回転軸上に設けられた駆動ギヤ61が時計回りに回転し、駆動ギヤ61に噛合う中間ギヤ62が反時計回りに回転し、中間ギヤ62に噛合う被駆動ギヤ63が時計回りに回転し、断接機構66によって被駆動ギヤ63に接続された回転軸64及び攪拌部材65,75は、被駆動ギヤ63と一体的に時計回りに回転する。
【0107】
これにより、シリンダヘッド凹部4Aに溜まったオイルは、排気側の攪拌部材65及び吸気側の攪拌部材75によって、吸気側から排気側に導かれる。この流れは、シリンダヘッド凹部4Aに溜まったオイルが、吸気側から排気側のリターン通路42に流出する流れと一致するので、攪拌構造60,70によってシリンダヘッド凹部4A内のオイルの流れを妨げることを回避できる。
【0108】
エンジンのクランク軸6aを中心として、他方側の排気側に排気側攪拌機構60が設けられているので、
図14に示すように、シリンダヘッド凹部4Aの排気側に滴下するオイルが、排気側攪拌機構60によって攪拌されることで、排気側に設けられたリターン通路42に直接流入することを抑制できる。また、被潤滑部から滴下するオイルがリターン通路42に直接流入する場合に比べて、冷却部14によってオイルを冷却できるので、オイルの温度上昇が抑制される。
【0109】
エンジンのクランク軸6aを中心として、一方側の吸気側に吸気攪拌機構70が設けられているので、排気側に比べて低温となりやすく、シリンダヘッド凹部4Aの底面4aとの温度差が近づきやすい吸気側のオイルを攪拌することができる。これにより、シリンダヘッド凹部4Aに溜まったオイルの冷却が促進される。
【0110】
攪拌機構60,70は、カムシャフト17,18の回転を利用することで攪拌部材65,75によるオイルの攪拌を実現することができるので、攪拌機構用の回転機構を別途設ける必要がなく、部品点数の増大や組付け工数の増大を抑制しつつ、オイルの冷却を促進できる。シリンダヘッド凹部の内の限られた領域に、攪拌機構60,70を配置しやすい。
【0111】
図14に示すように、複数のフィン65b,75bは、外端部がシリンダヘッド凹部4Aの底面4a近傍まで延びているので、複数のフィン65b,75bによって、シリンダヘッド凹部4Aの底面4a近傍のより低温のオイルと上側の高温のオイルとを混合でき、より効果的にオイルの冷却が促進される。
【0112】
図10に示すように、攪拌部材60,70は、気筒列方向に複数配置されているので、シリンダヘッド凹部4Aに溜まったオイル全体を広範囲に亘って混合しやすい。シリンダヘッド凹部4Aにおける熱交換が促進される面積を増大できるので、より効果的にオイルの冷却が促進される。
【0113】
シリンダヘッド凹部4Aがウォータジャケット14に隣接して配置されているので、ウォータジャケット14内を流れる冷却水によってシリンダヘッド凹部4Aの底面4aを冷却することができる。
【0114】
上述の実施形態においては、攪拌機構60,70がシリンダヘッド凹部4Aに溜まったオイルを排気側に導くように構成されていることを説明したが、
図15に示すように攪拌機構60,70がシリンダヘッド凹部4Aに溜まったオイルを吸気側に導くように構成されてもよい。
【0115】
より詳しくは、
図15に示される攪拌機構60,70では、カムシャフト17,18と共に回転する駆動ギヤ61,71の回転を、中間ギヤ62,72を介さずに被駆動ギヤ63,73に伝達することで、被駆動ギヤ63,73を反時計回りに回転させると、断接機構66によって被駆動ギヤ63に接続された回転軸64及び攪拌部材65,75は、被駆動ギヤ63と一体的に反時計回りに回転する。
【0116】
これにより、シリンダヘッド凹部4Aに溜まったオイルは、排気側の攪拌部材65によって排気側から吸気側に導かれる。吸気側に導かれたオイルは、吸気側の攪拌部材75によって排気側から吸気側に流動し、リターン通路42に流出する。その結果、シリンダヘッド凹部4Aに溜まったオイルを、排気側に比べて低温となる吸気側に導くことで、オイルが排気側のみを通過してリターン通路42に流入する場合に比べて、冷却部14によってオイルを冷却できるので、オイルの温度上昇が抑制される。
【0117】
上述の実施形態においては、攪拌機構が吸気側攪拌機構70及び排気側攪拌機構60を備える構成について説明したが、攪拌機構は、吸気側攪拌機構70及び排気側攪拌機構60の一方のみ設けられていてもよい。
【0118】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0119】
以上のように、本発明によれば、オイルの温度上昇を抑制可能なエンジンのオイル冷却構造を提供することができるので、エンジンの製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0120】
1 エンジン
10 エンジン本体
3 シリンダブロック
4 シリンダヘッド
4A シリンダヘッド凹部
4a 底面
4c 傾斜面
6a クランク軸
11 排気装置
14 ヘッド側ウォータジャケット(冷却部)
17 吸気側カムシャフト(カムシャフト)
17e 回転軸(第1回転軸)
18 排気側カムシャフト(カムシャフト)
18e 回転軸(第1回転軸)
20 オイル通路
30 オイルパン
31 オイルポンプ
60 排気側攪拌機構(攪拌機構)
61 駆動ギヤ
63 被駆動ギヤ
64 回転軸(第2回転軸)
65 攪拌部材
65b フィン
66 断接機構
70 吸気側攪拌機構(攪拌機構)
76 断接機構