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  • 特開-構造物保護シートの施工方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152559
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】構造物保護シートの施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04D 3/00 20060101AFI20231010BHJP
   E04G 23/03 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
E04D3/00 M
E04G23/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062678
(22)【出願日】2022-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000165088
【氏名又は名称】恵和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】二宮 晃
(72)【発明者】
【氏名】北里 辰範
(72)【発明者】
【氏名】西村 康男
【テーマコード(参考)】
2E108
2E176
【Fターム(参考)】
2E108BN01
2E108CC01
2E108CC15
2E108CV01
2E108ER05
2E108GG20
2E176AA23
2E176BB25
(57)【要約】
【課題】複数の略平行な段差を備えた構造物の表面であっても容易に隙間なく構造物保護シートの施工ができる構造物保護シートの施工方法を提供する。
【解決手段】接着層、ポリマーセメント硬化層、ヤング率調整層及び樹脂層を有する構造物保護シートを構造物の表面に貼り付ける構造物保護シートの施工方法であって、前記構造物の表面には直線状の複数の段差が略平行に形成されており、前記構造物保護シートの幅は、隣接する前記段差の間隔よりも広く、前記構造物保護シートを前記構造物の表面に、前記接着層側から前記段差に平行な方向に貼り付けることを特徴とする構造物保護シートの施工方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着層、ポリマーセメント硬化層、ヤング率調整層及び樹脂層を有する構造物保護シートを構造物の表面に貼り付ける構造物保護シートの施工方法であって、
前記構造物の表面には直線状の複数の段差が略平行に形成されており、
前記構造物保護シートの幅は、隣接する前記段差の間隔よりも広く、
前記構造物保護シートを前記構造物の表面に、前記接着層側から前記段差に平行な方向に貼り付ける
ことを特徴とする構造物保護シートの施工方法。
【請求項2】
隣接する前記段差の間の領域と前記隣接する段差の一方の段差とを覆った状態で前記構造物保護シートを貼り付ける請求項1記載の構造物保護シートの施工方法。
【請求項3】
前記構造物保護シートは、応力が2.0MPa以下、伸度が5%以下の範囲におけるヤング率が10~300MPaである請求項1又は2記載の構造物保護シートの施工方法。
【請求項4】
前記構造物保護シートの幅は、隣接する前記段差の間隔よりも30~60mm大きい請求項1又は2記載の構造物保護シートの施工方法。
【請求項5】
前記ヤング率調整層は、不織布層、弾性層、金属繊維層、粒子分散体層、針状及び棒状物分散体層、網目状構造物層からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は2記載の構造物保護シートの施工方法。
【請求項6】
前記ポリマーセメント硬化層は、セメント成分及び樹脂を含有する層であって、前記樹脂が10重量%以上、40重量%以下含有されている請求項1又は2記載の構造物保護シートの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物保護シートの施工方法に関する。さらに詳しくは、段差を有するコンクリート等の構造物の表面に保護シートを設ける際の工期を大幅に削減できるとともに、構造物を長期にわたって保護することができ、構造物へ貼り付ける際に隙間が形成されることを好適に防止できる構造物保護シートの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般住宅や商業ビルなどの構造物の屋根は、長期間風雨に曝されることによる劣化や台風等の災害による破損が生じると雨漏りの原因となることがあった。
構造物の屋根の劣化や破損が生じたときには応急処置が必要となるが、現在構造物の屋根の応急処置としては、例えば、図4に示したように、屋根30の破損個所を被うようにブルーシート31を置き、重りとして複数の土嚢32をブルーシート31の上に配置する方法が一般的である。
また、土嚢32のような重りを用いてブルーシート31を配置する方法以外に、例えば、特許文献1や特許文献2等には、水を入れた袋を用いてブルーシートを固定する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3225057号公報
【特許文献2】実用新案登録第3116572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、建物の屋根としてスレート屋根が広く普及しているが、スレート屋根は互いに略平行な段差が複数設けられた表面を有する非平坦面であり、このような屋根に対し、従来のブルーシート31を用いた屋根の補修では、ブルーシート31のシワを防ぐことは難しく、また、ブルーシート31と屋根との間に隙間存在し、この隙間からの水の侵入を防止できないという問題があった。
また、通常、ブルーシートの耐候性は余り高くないため1年ほどで劣化して張り替えをする必要があった。
【0005】
本発明は、このような従来の現状に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数の略平行な段差を備えた構造物の表面であっても容易に隙間なく構造物保護シートの施工ができる構造物保護シートの施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、略平行な段差が設けられた構造物の表面に対する補修方法について鋭意検討した結果、構造物の表面にブルーシートに代えて特定の構成及び幅を有する構造物保護シートを段差に沿って貼り付けることで構造物の表面との間の隙間を無くすことができ、更に該構造物保護シートに構造物の表面の特性に応じた性能を付与すること、具体的には、スレート屋根等に生じたひび割れや膨張に追従できる追従性、水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させない防水性、遮塩性、中性化阻止性、及び、屋根中の水分を水蒸気として排出できる水蒸気透過性等をさらに備えるとともに、構造物保護シート自身の強度を担保する層を設けることを実現し、本発明を完成させた。そして、この技術思想は、構造物の屋根以外の部材、例えば、構造物の壁、軒、塀、門柱、門扉、門屋根等に対しても構造物保護シートの施工方法として応用可能である。
【0007】
本発明に係る構造物保護シートの施工方法は、接着層、ポリマーセメント硬化層、ヤング率調整層及び樹脂層を有する構造物保護シートを構造物の表面に貼り付ける構造物保護シートの施工方法であって、前記構造物の表面には直線状の複数の段差が略平行に形成されており、前記構造物保護シートの幅は、隣接する前記段差の間隔よりも広く、前記構造物保護シートを前記構造物の表面に、前記接着層側から前記段差に平行な方向に貼り付けることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、段差のある構造物の表面であっても該段差を覆いつつ隙間なく構造物保護シートの施工が可能となる。
また、ヤング率調整層による構造物保護シートの弾性の制御ができ、本発明に係る構造物保護シートの構造物への貼り付け時の位置決め後の引っ張りによる破れや永久変形といった問題を好適に防止できる。
また、構造物保護シートは工場の生産ラインでの塗工工程と乾燥工程により量産できるので、低コスト化、現場での作業工期の大幅削減、構造物の長期保護を実現することができる。
【0009】
本発明において、隣接する前記段差の間の領域と前記隣接する段差の一方の段差とを覆った状態で前記構造物保護シートを貼り付けることが好ましい。
【0010】
この発明によると、段差のある構造物の表面であっても該段差を覆いつつ隙間なく構造物保護シートの施工が可能となる。
【0011】
本発明において、前記構造物保護シートは、応力が2.0MPa以下、伸度が5%以下の範囲におけるヤング率が10~300MPaであることが好ましい。
【0012】
この発明によれば、構造物保護シートを構造物の表面へ施工する際の位置決め後の引っ張り時に十分な弾性を示すこととなる。
【0013】
本発明において、前記ヤング率調整層は、不織布層、弾性層、金属繊維層、粒子分散体層、針状及び棒状物分散体層、網目状構造物層からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
この発明によれば、本発明に係る構造物保護シートに所望の範囲のヤング率を好適に付与できる。
【0015】
本発明において、前記ポリマーセメント硬化層は、セメント成分及び樹脂を含有する層であって、樹脂が10重量%以上、40重量%以下含有されていてもよい。さらに好ましくは樹脂が20重量%以上、30重量%以下であることが好ましい。
【0016】
この発明によれば、セメント成分と樹脂成分との比率を制御することでポリマーセメント硬化層を形成しやすくなると共に、ポリマーセメント硬化層は追従性に優れた相溶性のよい層となりやすいので、層自体の密着性が改善される傾向となる。さらに、構造物側のポリマーセメント硬化層が含有するセメント成分はコンクリート等の構造物との密着性を高めるように作用する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、段差のある構造物の表面の補修を隙間なく容易に、かつ、長期間可能な構造物保護シートの施工方法を提供することができる。特に、構造物保護シートに構造物の表面の特性に応じた性能を付与し、構造物の表面に生じたひび割れや膨張に追従させること、構造物の表面に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させないようにすること、構造物中の水分や劣化因子を排出できる透過性を持たせること、強度を向上させること等を実現できる構造物保護シートを用いた施工方法を提供することができる。さらに、施工現場において、雨漏れ修理用の塗料にて、手塗りで層を複数積層する方法と比較して品質の安定性、均一性を改善できる利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)は、本発明の構造物保護シートの施工方法の一例を示す模式図であり、(b)は、断面拡大図である。
図2】(a)、(b)は、構造物保護シートの断面構成図である。
図3】従来の屋根の補修方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の施工方法及びそれに用いる構造物保護シートについて図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、その技術的特徴を有する限り各種の変形が可能であり、以下の説明及び図面の形態に限定されない。
【0020】
[構造物保護シート]
本発明において、構造物保護シート10は、図2に示すように、接着層11、ポリマーセメント硬化層12及び樹脂層13がこの順に設けられている。このポリマーセメント硬化層21と樹脂層13の両層が、図2(a)に示したように、それぞれ単層で形成されてもよいし、図2(b)に示したように積層として形成されてもよい。また、求められる性能によっては、ポリマーセメント硬化層12と樹脂層13との間に別の層を設けてもよい。
【0021】
本発明において、構造物保護シート10は、その幅が後述する貼付け対象である構造物の表面に設けられた隣接する段差の間隔よりも広いものである。
このような幅の構造物保護シート10は、構造物の表面の隣接する段差の間へ貼り付けることで少なくとも一方の段差を覆った状態とすることができ、構造物と構造物保護シート10との間にシワや隙間を形成することなく好適な外観で構造物保護シートの施工が可能となる。
本発明において、構造物保護シート10の幅は、隣接する段差の間隔よりも30~300mm大きいことが好ましい。このような幅の構造物保護シート10であることで構造物の表面に貼り付けた際に隣接する段差の少なくとも一方を確実に覆った状態とすることができる。構造物保護シート10の幅は、隣接する段差の間隔よりも30~60mm大きいことがより好ましい。
【0022】
本発明において、構造物保護シート10は、ヤング率が10~300MPaであることが好ましい。ヤング率が10MPa未満であると、構造物保護シート10を構造物に貼り付ける際、位置決め後シワを伸ばす目的等で引っ張ったときに破れたり永久変形したりすることがある。ヤング率が300MPaを超えると構造物保護シート10が強直に過ぎ、構造物保護シート10を構造物に貼り付ける際、位置決め後に十分に引っ張りができないことがある。構造物保護シート10のヤング率のより好ましい下限は30MPa、より好ましい上限は280MPaである。
上記ヤング率は、例えば、公知の引張試験機を用いて測定することができる。
【0023】
このようなヤング率は、構造物保護シート10を構成するポリマーセメント硬化層12と樹脂層13と間に設けられたヤング率調整層(図示せず)を有する構成とすることにより調整が可能となる。なお、ヤング率調整層については後述する。
【0024】
本発明において、構造物保護シート10は、構造物に貼り付ける際の位置決め後の引っ張り時に弾性変形することが好ましい。構造物保護シート10が弾性変形することで引っ張りによる破れや永久変形を防止できる。
具体的には、構造物保護シート10は、応力が2.0MPa以下、伸度が5%以下の範囲で弾性変形することが好ましく、この範囲におけるヤング率が10~300MPaであることが好ましい。
【0025】
本発明において、構造物保護シート10は、水蒸気透過率が10~50g/m.dayであることが好ましい。ポリマーセメント硬化層12はセメント成分を含有しているので、一定程度の水蒸気透過率を有することが期待できるが、ポリマーセメント硬化層12上に設けられる樹脂層13は水蒸気透過率が劣る結果になると推測されるところ、構造物保護シート10全体で水蒸気透過率が所定の範囲にあることで、コンクリート等の構造物に貼り付けた後内部の水蒸気を好適に透過させて外部に排出できるため、膨れの発生を好適に防止でき、更には接着性の低下も防止できる。水蒸気透過率が所定の範囲にあるメリットは、蒸気を逃がしやすい構造ゆえ、構造物中の金属(例えば鉄筋)の腐食の抑制ができる傾向になることが挙げられる。また、雨の日に構造物保護シート10を構造物に施工する場合には、構造物の表面が濡れると共に、構造物自体が水分を含んだ状態での施工となるが、構造物保護シート10が上記水蒸気透過率を有することで、施工後(補強された構造物の製造後)に構造物にしみこんだ水分が外部へと抜けやすくなる。さらに、硬化直後のコンクリートは内部に多くの水分を含むが、このようなコンクリートに対しても構造物保護シート10は好適に使用できる。
本発明において、構造物保護シート10のもう一つの利点は、その水蒸気透過率を制御できるので、例えば構造物のセメントが硬化していないような状態でも当該構造物の表面に貼り付けることができる点にある。すなわち、セメントを成型して硬化させる際に急激に水分が抜けるとセメントがポーラスになって構造物の強度が落ちる傾向となるが、構造物保護シート10を硬化前のセメントに貼り付けることで、セメントの硬化時の水分除去のスピード等をコントロールでき、上記ポーラス構造になるのを避けやすくなるメリットもある。
上記水蒸気透過率が10g/m.day未満であると、構造物保護シート10が十分に水蒸気を透過させることができず、構造物に貼り付けたあとの膨れ現象等を防止できず接着性が不十分となることがある。50g/m.dayを超えると、セメントの硬化時の水分除去のスピードが過剰に早くなり、セメントの硬化物がポーラスになる不具合が生じる可能性がある。上記水蒸気透過率の好ましい範囲は20~50g/m.dayである。
このような水蒸気透過率を有する構造物保護シート10は、例えば、後述するポリマーセメント硬化層12と、所定の水蒸気透過率を有する樹脂を樹脂層13に用いることにより得ることができる。
本発明における水蒸気透過率は、後述する方法で測定することができる。
【0026】
本発明において、構造物保護シート10は、厚さ分布が±100μm以内であることが好ましい。この構造物保護シート10は、厚さ分布が上記範囲内であることで、熟練した作業者でなくても厚さバラツキの小さい層を構造物の表面に安定して設けることができる。また、厚さ分布を上記範囲内に制御することによって、構造物の補強を均一に行いやすくなる。
構造物側に設けられたポリマーセメント硬化層12は、構造物との密着性等に優れ、ポリマーセメント硬化層12上に設けられた樹脂層13は、防水性、遮塩性、中性化阻止性等に優れた性質を容易に付与できる。
また、構造物保護シート10は、工場の生産ラインでの塗工工程と乾燥工程により量産できるので低コスト化、現場での作業工期の大幅削減、構造物の長期保護を実現することができる。
また、本発明において、構造物保護シート10は、接着層11が設けられているので、作業現場で接着剤を塗布して接着剤層を形成する必要がなく、熟練の職人でなくても均一な厚さの接着層を介して構造物の表面への貼り付けが容易となる。その結果、構造物の表面に貼り合わせる際の工期を大幅に削減できるとともに構造物を長期にわたって保護することができる。
【0027】
本発明は、構造物保護シートを構造物の表面に貼り付ける構造物保護シートの施工方法(以下、本発明の施工方法ともいう)である。
図1は、本発明の施工方法の説明図であるが、図1(a)に示したように、本発明では、複数の段差3が略平行に形成された構造物1の表面に構造物保護シート10を貼り付ける工程を有する。
構造物1の表面への構造物保護シート10の貼り付け方法としては、図1(a)に示したように構造物保護シート10を構造物1の表面に、接着層11側から段差3に平行な方向に貼り付ける。構造物保護シート10と構造物1の表面との隙間は段差3で最も形成されやすいが、構造物保護シート10の貼り付け方向を段差3と平行にすることで構造物1の表面において形成される隙間が最小とすることができる。
【0028】
図1(b)は、貼り付け状態を示す拡大断面図であるが、構造物保護シート10は一の平坦部分2上に貼り付けると共に段差3を介して隣接する他の平坦部分2’の一部にまで貼り付けることが好ましい。このように構造物保護シート10を貼り付けることで、段差3に隙間を形成することなく構造物1の表面に構造物保護シート10を貼り付けることができる。
なお、他の平坦部分2’に構造物保護シート10を貼り付ける場合、上記一の平坦部2から段差3を介して貼り付けられた構造物保護シート10に重ねるようにして貼り付けることが好ましい。このように構造物保護シート10を貼り付けることで構造物保護シート10同士の隙間を無くすことができる。
【0029】
(構造物)
上記構造物は、構造物保護シート10が適用される相手部材である。
構造物としては、コンクリートからなる構造物を挙げることができる。
上記コンクリートは、一般的には、セメント系無機物質と骨材と混和剤と水とを少なくとも含有するセメント組成物を打設し、養生して得られる。こうしたコンクリートは、道路橋、トンネル、水門等河川管理施設、下水道管渠、港湾岸壁等の土木構造物として広く使用される。本発明では、コンクリートからなる構造物に構造物保護シート1を適用することで、コンクリートに生じたひび割れや膨張に追従でき、コンクリート内に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させず、コンクリート中の水分を水蒸気として排出できる、という格別の利点がある。
【0030】
本発明において、構造物1は表面に直線状の複数の段差3が略平行に形成されている。このような表面を有する構造物としては、例えば、スレート屋根、ガルバリウム鋼板(登録商標)製の屋根が好適に挙げられる。なお、上記「略平行」とは、構造物1の表面に形成された段差が完全に平行である場合の他、厳密には平行ではないが従来公知のスレート屋根やガルバリウム鋼板(登録商標)製の屋根等において現れる直線状の段差を含むことを意味する。
【0031】
(ポリマーセメント硬化層)
ポリマーセメント硬化層12は、構造物1側に配置される層である。このポリマーセメント硬化層12は、図2(a)に示したように単層であっても図2(b)に示したように積層であってもよいが、単層とするか積層とするかは、全体厚さ、付与機能(追従性、構造物への接着性等)、工場の製造ライン、生産コスト等を考慮して任意に設定され、例えば製造ラインが短くて単層では所定の厚さにならない場合は、2層以上重ね塗りして形成することができる。なお、例えば2層の重ね塗りは、1層目の層を乾燥した後に2層目の層を形成する。
また、ポリマーセメント硬化層12は、性質の異なるもの同士が積層された構成であってもよい。例えば、樹脂層13側に樹脂成分の割合をより高めた層とすることで、樹脂成分の高い層が樹脂層と接着し、セメント成分の高い層がコンクリート構造物と接着することとなり両者に対する接着性が極めて優れたものとなる。
【0032】
ポリマーセメント硬化層12は、セメント成分を含有する樹脂(樹脂成分)を塗料状にした、この塗料を塗工して得られる。
上記セメント成分としては、各種のセメント、酸化カルシウムからなる成分を含む石灰石類、二酸化ケイ素を含む粘土類等を挙げることができる。なかでもセメントが好ましく、例えば、ポルトランドセメント、アルミナセメント、早強セメント、フライアッシュセメント等を挙げることができる。いずれのセメントを選択するかは、ポリマーセメント硬化層12が備えるべき特性に応じて選択され、例えば、コンクリート製の構造物1への追従性の程度を考慮して選択される。特に、JIS R5210に規定されるポルトランドセメントを好ましく挙げることができる。
【0033】
上記樹脂成分としては、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、柔軟エポキシ樹脂系、ポリブタジエンゴム系、ゴム特性を示すアクリル系樹脂(例えばアクリル酸エステルを主成分に持つ合成ゴム)等を挙げることができる。こうした樹脂成分は、後述の樹脂層13を構成する樹脂の成分と同じものであることが、ポリマーセメント硬化層12と樹脂層13との密着性を高める観点から好ましい。
また、上記樹脂成分は熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂のいずれを使用してもよい。ポリマーセメント硬化層12の「硬化」の文言は、樹脂成分を熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂等、硬化して重合する樹脂に限定されるという意味ではなく、最終的な層となった場合に硬化するような材料を用いればよいという意味で用いている。
【0034】
上記樹脂成分の含有量としては、使用する材料等に応じて適宜調整されるが、好ましくはセメント成分と樹脂成分との合計量に対して10以上、40質量%以下とする。10重量%未満であると、樹脂層13に対する接着性の低下やポリマーセメント硬化層12を層として維持することが難しくなる傾向となることがあり、40重量%を超えると、構造物1に対する接着性が不十分となることがある。上記観点から上記樹脂成分の含有量のより好ましい範囲は15重量%以上、35重量%以下であるが、さらに好ましくは20重量%以上、30重量%以下である。
【0035】
ポリマーセメント硬化層12を形成するための塗料は、セメント成分と樹脂成分とを溶媒で混合した塗工液である。樹脂成分については、エマルションであることが好ましい。例えば、アクリル系エマルションは、アクリル酸エステル等のモノマーを乳化剤を使用して乳化重合したポリマー微粒子であり、一例としては、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの一種以上を含有する単量体又は単量体混合物を、界面活性剤を配合した水中で重合してなるアクリル酸系重合物エマルジョンを好ましく挙げることができる。
上記アクリル系エマルションを構成するアクリル酸エステル等の含有量は特に限定されないが、20~100質量%の範囲内から選択される。また、界面活性剤も必要に応じた量が配合され量も特に限定されないが、エマルションとなる程度の界面活性剤が配合される。
【0036】
ポリマーセメント硬化層12は、その塗工液を離型シート上に塗布し、その後に溶媒(好ましくは水)を乾燥除去することで形成される。例えば、セメント成分とアクリル系エマルジョンとの混合組成物を塗工液として使用し、ポリマーセメント硬化層12を形成する。なお、上記離型シート上には、ポリマーセメント硬化層12を形成した後に樹脂層13を形成してもよいが、離型シート上に樹脂層13を形成した後にポリマーセメント硬化層12を形成してもよい。
具体的には、例えば、離型シートとしての工程紙上に樹脂層をコーティングし、乾燥後ポリマーセメント用の塗工液を塗工、乾燥前のウエットの状態でヤング率調整層を貼り合わせた後乾燥させる。
しかる後ヤング率調整層を貼り合わせた面に更にポリマーセメント用の塗工液を塗工し、乾燥させることで本発明に係るポリマーセメント硬化層にヤング率調整層が存在する構造物保護シートを得ることができる。
また、離型シートとしての工程紙上に樹脂層をコーティングし、乾燥後ポリマーセメント用の塗工液を塗工、乾燥前のウエットの状態でヤング率調整層を貼り合わせた後、乾燥させるステップを経ずにヤング率調整層を貼り合わせた面に更にポリマーセメント用の塗工液を塗工し、しかる後全体を乾燥させることでポリマーセメント硬化層にヤング率調整層が存在する構造物保護シートを得ることも可能である。
【0037】
ポリマーセメント硬化層12の厚さは特に限定されず、構造物1の使用形態、経年度合い、形状等によって任意に設定される。具体的なポリマーセメント硬化層12の厚さとしては、例えば、0.5mm~1.5mmの範囲とすることができる。一例として1mmの厚さとした場合は、その厚さバラツキは、±100μm以内となることが好ましい。こうした精度の厚さは、現場での塗工では到底実現できないものであり、工場の製造ラインで安定して塗工されることにより実現することができる。なお、1mmより厚い場合でも、厚さバラツキを±100μm以内とすることができる。また、1mmよりも薄い場合は、厚さバラツキをさらに小さくすることができる。
【0038】
このポリマーセメント硬化層12は、セメント成分の存在により、後述の樹脂層13に比べて水蒸気が容易に透過する。このときの水蒸気透過率は、例えば20~60g/m.day程度である。さらに、セメント成分は、例えばコンクリートを構成するセメント成分との相溶性がよく、コンクリート表面との密着性に優れたものとすることができる。また、図2に示すように、構造物保護シート10は接着層11を有するが、セメント成分を含有するポリマーセメント硬化層12が接着層11に密着性よく接着する。また、このポリマーセメント硬化層12は、延伸性があるので、構造物1にひび割れや膨張が生じた場合であっても、コンクリートの変化に追従することができる。
【0039】
(ヤング率調整層)
ヤング率調整層(図示せず)は、ポリマーセメント硬化層と樹脂層との間に設けられており、構造物保護シート1のヤング率を上述した範囲に調整することができる。
具体的には例えば、ヤング率調整層は、ポリマーセメント硬化層の表面(ポリマーセメント硬化層と樹脂層とが接する面)に配設されていている。
【0040】
本発明において、ヤング率調整層にポリマーセメント硬化層を構成する材料(例えばセメント成分又は樹脂成分)が含侵されていることが好ましい。
ヤング率調整層にポリマーセメント硬化層を構成する材料が含侵されている状態とは、ヤング率調整層を構成する繊維等の材料間にポリマーセメント硬化層を構成する材料が充填された状態にあることを意味し、このような含侵状態にあることで、ヤング率調整層とポリマーセメント硬化層との接着強度が極めて優れたものとしやすくなる。また、ヤング率調整層とポリマーセメント硬化層の材料との相互作用がより強固となりやすく、構造物保護シート10の強度をより良好にしやすくなる。
【0041】
ヤング率調整層は、不織布層、弾性層、金属繊維層、粒子分散体層、針状及び棒状物分散体層、網目状構造物層からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、一例として不織布層を用い得る。
上記不織布層を構成する不織布としては、繊維を織らずにシート状に形成した不織布であれば特に限定されるものではない。また、不織布を構成する繊維としては天然繊維及び化学繊維を用いることができる。上記化学繊維としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂からなる繊維、及びこれら樹脂の共重合物、変性物及びこれらの組み合わせからなる合成繊維等をあげることができる。これらの中でも耐水性、耐熱性、寸法安定性、耐候性等に優れるポリエステル繊維が好ましい。
【0042】
上記不織布の坪量としては、上述したヤング率を満たすことができる範囲であれば特に限定されないが、例えば、5g/m以上100g/m以下が好ましく、10g/m以上50g/m以下がより好ましい。不織布の坪量が上記範囲未満の場合、不織布が薄くなって上述したヤング率の範囲を満たさないことがあり、逆に、不織布の坪量が上記範囲を超える場合、構造物保護シートの通気性が低下するおそれがある。
【0043】
ヤング率調整層は、ポリマーセメント硬化層の上面側から見たときに、ポリマーセメント硬化層の全面をカバーする大きさであってもよく、ポリマーセメント硬化層よりも小さくてもよい。すなわち、ヤング率調整層の平面視したときの面積は、ポリマーセメント硬化層の平面視したときの面積と同じであってもよく、小さくてもよいが、ヤング率調整層の平面視面積は、ポリマーセメント硬化層の平面視面積に対し60%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。60%未満であると構造物保護シートの強度が不十分となることがあり、また、強度のバラツキが生じることもある。なお、上記ヤング率調整層等の平面視面積は、公知の方法で測定できる。
【0044】
また、ヤング率調整層は、均一な層であってもよく、例えば、碁盤目状、千鳥状、縞状、島状、又は、不規則に圧着部分を設けた層であってもよい。上記圧着部分を設けると、ヤング率調整層が不織布層である場合の積層加工工程中に繊維の集合体が解けることを防止できる。
なお、上記のようなヤング率調整層を用いることで、施工時にシートに掛かる引っ張り力に対する『伸び』の量が大きすぎ、かえって取り扱いに不都合な場合は、ヤング率調整層に代えて、寒冷紗といわれる、粗く平織りに織り込んだ布を用いることで『伸び』の量を大幅に減らすことができる。
【0045】
(樹脂層)
樹脂層13は、構造物1とは反対側に配置されて、表面に現れる層である。この樹脂層13は、例えば、図2(a)に示すように単層であってもよいし、図2(b)に示すように少なくとも2層からなる積層であってもよい。単層とするか多層とするかは、全体厚さ、付与機能(防水性、遮塩性、中性化阻止性、水蒸気透過性等)、工場の製造ラインの長さ、生産コスト等を考慮に設定され、例えば製造ラインが短くて単層では所定の厚さにならない場合は、2層以上重ね塗りして形成することができる。なお、重ね塗りは、1層目の層を乾燥した後に2層目の層を塗工する。2層目の層は、その後乾燥される。
【0046】
樹脂層13は、柔軟性を有し、コンクリートに発生したひび割れや亀裂に追従できるとともに防水性、遮塩性、中性化阻止性及び水蒸気透過性に優れた樹脂層を形成できる塗料を塗工して得られる。樹脂層2を構成する樹脂としては、ゴム特性を示すアクリル系樹脂(例えばアクリル酸エステルを主成分に持つ合成ゴム)、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、柔軟エポキシ樹脂、ポリブタジエンゴム等を挙げることができる。この樹脂材料は、前記したポリマーセメント層2を構成する樹脂成分と同じものであること好ましい。特にゴム等の弾性膜形成成分を含有する樹脂であることが好ましい。
【0047】
これらのうち、ゴム特性を示すアクリル系樹脂は、安全性と塗工性に優れている点で、アクリルゴム系共重合体の水性エマルションからなることが好ましい。なお、エマルション中のアクリルゴム系共重合体の割合は例えば30~70質量%である。アクリルゴム系共重合体エマルションは、例えば界面活性剤の存在下で単量体を乳化重合することにより得られる。界面活性剤は、アニオン系、ノニオン系、カチオン系のいずれもが使用できる。
【0048】
樹脂層13を形成するための塗料は、樹脂組成物と溶媒との混合塗工液を作製し、その塗工液を離型シート上に塗布し、その後に溶媒を乾燥除去することで、樹脂層13を形成する。溶媒は、水又は水系溶媒であってもよいし、キシレン・ミネラルスピリット等の有機系溶媒であってもよい。後述の実施例では、水系溶媒を用いており、アクリル系ゴム組成物で樹脂層2を作製している。なお、離型シート上に形成される層の順番は制限されず、例えば、上記のとおり樹脂層13、ポリマーセメント硬化層12の順番であってもよいし、ポリマーセメント硬化層12、樹脂層13の順番であってもよい。
【0049】
樹脂層13の厚さは、構造物1の使用形態、経年度合い、形状等によって任意に設定される。一例としては、50~150μmの範囲内のいずれかの厚さとし、その厚さバラツキは、±50μm以内とすることが好ましい。こうした精度の厚さは、現場での塗工ではとうてい実現できないものであり、工場の製造ラインで安定して実現することができる。
【0050】
この樹脂層13は、高い防水性、遮塩性、中性化阻止性を有するが、水蒸気は透過することが好ましい。このときの水蒸気透過率としては、例えば、10~50g/m.day程度とすることが望ましい。こうすることにより、構造物保護シート10に高い防水性、遮塩性、中性化阻止性と所定の水蒸気透過性を持たせることができる。さらに、ポリマーセメント硬化層12と同種の樹脂成分で構成されることにより、ポリマーセメント硬化層12との相溶性がよく、密着性に優れたものとすることができる。水蒸気透過性は、JIS Z0208「防湿包装材料の透湿度試験方法」に準拠して測定した。
【0051】
また、樹脂層13は、構造物保護シート10のカラーバリエーションを豊富にできる観点から顔料を含有していてもよい。
また、樹脂層13は、無機物を含有していてもよい。無機物を含有することで樹脂層13に耐擦傷性を付与することができる。上記無機物としては特に限定されず、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア等の金属酸化物粒子等従来公知の材料が挙げられる。
更に、樹脂層13は、公知の防汚剤を含有していてもよい。構造物保護シート10は、通常屋外に設置されるコンクリート構造物の補修に用いられるため、樹脂層13は汚染されることが多いが、防汚剤を含有することで構造物保護シート10が汚染されることを好適に防止できる。上記防汚剤としては特に限定されず従来公知の材料が挙げられる。
また、樹脂層13は様々な機能を付与できる添加剤を含有していてもよい。このような添加剤としては、例えば、セルロールナノファイバー等が挙げられる。
【0052】
(接着層)
本発明において、構造物保護シート10は、ポリマーセメント硬化層12の樹脂層13と反対側面(構造物1側の面)に接着層11が設けられている。
接着層11がポリマーセメント硬化層12の表面に設けられていることで、構造物保護シート10を構造物1に貼り付ける際に、作業現場で接着剤を塗布して接着剤層を形成する必要がないため極めて作業効率に優れ、また、熟練の職人によらずに均一な厚みの接着層11を介して構造物保護シート10を構造物1に貼り付けることができる。また、接着層11が設けられていることで、構造物1の表面に形成された直線状の段差3に粘着層11を沿わせて構造物保護シート10の密着性を高めることができる。
【0053】
接着層11は、粘着剤を用いてなる粘着層であってもよく、接着剤を用いてなる接着層であってもよいが、接着層11のポットライフを考慮すると粘着層が好ましい。
上記粘着剤としては特に限定されず、例えば、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤等公知のものが挙げられるが、本発明において接着層11は、アクリル系粘着剤から構成されていることが好ましい。アクリル系粘着剤は、構造物1に対する粘着力の調整が容易で材料設計の自由度が高く、また、透明性、耐候性及び耐熱性にも優れているため、構造物保護シート10による構造物1の保護をより好適に行うことができる。
上記アクリル系粘着剤としては特に限定されず市販品を使用するとことができ、例えば、オリバイン(登録商標)6574(トーヨーケム社製)等が挙げられる。
【0054】
上記アクリル系粘着剤からなる接着層11(以下、粘着層ともいう)の積層量としては、コンクリート等の構造物21表面への十分な付着力を発揮できることから、20g/m以上250g/m以下が好ましい。
また、上記粘着層を介して構造物1の表面に貼り付けた時の付着力が0.5N/mm以上あることが好ましい。0.5N/mm未満であると構造物保護シート10の構造物1表面に対する密着性が不十分となることがある。
【0055】
構造物保護シート10における接着層11が接着剤から構成される接着層である場合、上記接着剤としては特に限定されず、紫外線硬化型接着剤、熱硬化型接着剤等公知の接着剤が挙げられる。
このような接着剤としては、例えば、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、ゴム特性を示すアクリル系樹脂(例えばアクリル酸エステルを主成分に持つ合成ゴム)を用いた接着剤等が挙げられる。なかでも、構造物保護シート10のポリマーセメント硬化層12を構成する樹脂成分と同種の樹脂成分からなる接着剤は、ポリマーセメント硬化層12との接着強度が高くなるのでより好ましい。
【0056】
構造物保護シート10において、接着層11は、硬化剤を含むことが好ましい。記硬化剤を含むことで構造物1に対するより優れた付着力を有するものとなり、また、構造物保護シート10の押し抜き強度も優れたものとなる。
構造物保護シート10は、JSCE-K-533に規定の押し抜き試験による押し抜き強度が1.5kN以上であることが好ましい。上記押し抜き強度が1.5kN以上であることで、構造物保護シート10により構造物の表面からコンクリート等の剥落といった問題を好適に防止できる。
【0057】
上記硬化剤としては特に限定されず、イソシアネート系硬化剤、アミン系硬化剤、エポキシ系硬化剤、金属キレート系硬化剤等公知の硬化剤を使用できる。
【0058】
構造物保護シート10において、構造物1に対する付着力及び構造物保護シート10の押し抜き強度に優れることから、接着層11はゲル分率が30%~70%であることが好ましく、より好ましい下限は40%、より好ましい上限は65%である。
【0059】
構造物保護シート10において、接着層11の厚さとしては50~500μmであることが好ましい。50μm未満であると構造物保護シート10の構造物1に対する付着力が不十分となることがあり、500μmを超えると、厚みにバラツキが生じやすく、また、施工時に平滑な施工面を得るためにローラー等で馴らした時に、端部から余分な接着剤がはみ出てしまうことがある。接着層11の厚みのより好ましい下限は90μm、より好ましい上限は200μmである。
【0060】
構造物保護シート10は、接着層11の表面保護のために、接着層11のポリマーセメント硬化層12と反対側面に離型フィルムが貼り付けられていることが好ましい。離型フィルムとしては特に限定されず、例えば、基材層と離型層とを有するフィルムが挙げられる。
上記基材層を構成する材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ナイロン6等のポリアミド、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、セルロースアセテート等のセルロース樹脂、ポリカーボネートなどの合成樹脂が挙げられる。また、上記基材層は、紙を主成分として形成されてもよい。さらに、上記基材層は、2層以上の積層体であってもよい。
【0061】
上記離型層を構成する材料としては、例えば、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、フッ素化重合体等が挙げられる。上記離型層は、上記離型層を構成する材料及び有機溶剤を含む塗工液を上記基材層上にグラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、リップコート法等の公知の方法によって塗布し、乾燥及び硬化させる塗工法によって形成することができる。また、上記離型層の形成に当たっては、基材層の積層面にコロナ処理や易接着処理を施してもよい。
【0062】
以上説明した構造物保護シート10は、本発明に係る施工方法によると直線状の複数の段差が略平行に形成された構造物の表面に隙間及びシワを生じることなく好適に貼り付けることができ、また、コンクリート等の構造物中の水分も排出でき、コンクリート製の構造物1を長期にわたって保護することができる。特に、構造物保護シート10に構造物1の特性に応じた性能を付与し、構造物1に生じたひび割れや膨張に追従させること、構造物1に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させないようにすること、構造物1中の劣化因子を排出できる透過性を持たせることができる。そして、こうした構造物保護シート10は、工場で製造できるので、特性の安定した高品質のものを量産することができる。その結果、職人の技術に寄らずに施工でき、工期の短縮と労務費の削減を実現できる。
【実施例0063】
実施例と比較例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0064】
(実施例1)
PPラミネート紙からなる厚さ130μmの離型シートを用いた。その離型シート上に、ポリマーセメント硬化層形成用組成物を塗工し、坪量が12g/mのポリエステル不織布からなるヤング率調整層を配設した後、ポリマーセメント硬化層形成用組成物を乾燥して単層からなる厚さ1.00mmのポリマーセメント硬化層を形成した。なお、ヤング率調整層はポリマーセメント硬化層に含浸していた。その後、ポリマーセメント硬化層の含浸したヤング率調整層上に、アクリル系樹脂を含む樹脂層形成用組成物を塗工し乾燥して単層からなる厚さ100μmの樹脂層を形成した。
アクリル系粘着剤(オリバイン(登録商標)6574(トーヨーケム社製))100質量部に対してイソシアネート系硬化剤(BHS8515(トーヨーケム社製)6質量部を混合し、ゲル分率が57%の粘着剤用混合液を調製した。この粘着剤用混合液を樹脂層の表面に塗布、乾燥させて厚さ200μmの接着層(粘着層)を形成した。
得られた構造物保護シートの合計厚みは1300μmであった。
この構造物保護シートは、約25℃に管理された工場内で連続生産され、離型シートを含んだ態様でロール状に巻き取った。
【0065】
ポリマーセメント硬化層形成用組成物は、セメント混合物を45質量部含む水系のアクリルエマルジョンである。セメント混合物は、ポルトランドセメント70±5質量部、二酸化ケイ素10±5質量部、酸化アルミニウム2±1質量部、酸化チタン1~2質量部を少なくとも含むものであり、アクリルエマルジョンは、アクリル酸エステルモノマーを乳化剤を使用して乳化重合したアクリル酸系重合物53±2質量部、水43±2質量部を少なくとも含むものである。これらを混合したポリマーセメント硬化層形成用組成物を塗布乾燥して得られたポリマーセメント硬化層2は、ポルトランドセメントをアクリル樹脂中に50質量%含有する複合層である。一方、樹脂層形成用組成物は、アクリルシリコーン系樹脂である。このアクリルシリコーン系樹脂は、アクリルシリコーン樹脂60質量部と、二酸化チタン25質量部と、酸化第二鉄10質量部と、カーボンブラック5質量部とを含有するエマルジョン組成物である。
【0066】
[ヤング率の測定]
実施例1で得られた構造物保護シート1のヤング率を、引張試験機(株式会社島津製作所製、AGX-V)を用いて測定した。
実施例1のヤング率は100MPaであった。
実施例1に係る構造物保護シートは強度に優れ構造物に貼り付ける際に適切な弾性を保つため施工作業の都合がよく、破れたり永久変形したりすることがないものであった。
[厚さバラツキの測定]
実施例1について、ロール状に巻き取った構造物保護シートから、A4サイズ程度(200mm×300mm)を切り出し、各部で14箇所の厚さを測定し、その厚さバラツキを計算した。実施例1では、厚さバラツキが26μmであった。
[構造物の表面への施工]
実施例1に係る構造物保護シートをスレート屋根の平坦部分に横方向(段差に平行な方向)に接着層側から貼り付けた。
なお、スレート幅(隣接する段差の間隔)は300mmであり、実施例1に係る構造物保護シートの幅は50mm広いものであった。
その結果、スレート屋根の平坦部分と段差とに隙間は形成されず均一な表面を有する構造物保護シートを効率よく施工できた。
【0067】
(実施例2、3)
ヤング率調整層として、坪量20g/mのポリエステルからなる不織布から構成されるヤング率調整層(実施例2)、坪量50g/mのポリエステルからなる不織布から構成され、表面温度80℃の金属ロールでプレスして圧着部分を設けたヤング率調整層(実施例3)を用いた以外は、実施例1と同様にして構造物保護シートを作製した。
実施例2、3に係る構造物保護シートを用いて実施例1と同様にヤング率の測定をしたところ実施例2は150MPa、実施例3は200MPaであり、厚みバラツキは実施例1と同様であった。また、実施例1と同様にして構造物であるスレート屋根の表面への施工を行ったところ、ヤング率が最も高い実施例3に係る構造物保護シートの施工が変形させ難く隙間なく施工するのに最も時間を要したがいずれも隙間なく均一な表面を有する構造物保護シートを効率よく施工できた。
【0068】
(比較例1)
構造物保護シートの幅を25mmとした以外は実施例1と同様にして構造物保護シートを得た。
得られた構造物保護シートを用いて実施例1と同様にして構造物であるスレート屋根の表面への施工を行ったところ、平坦面に貼り付けた構造物保護シートが段差を覆うことができず隙間なく施工することができなかった。
【0069】
(比較例2)
実施例1と同様の構造物保護シートを用い、構造物であるスレート屋根の段差に垂直な方向に貼り付けることで施工を行った。その結果、段差部分での隙間は形成されなかったが、垂直に張り合わせた隣りあわせの構造物保護シートの端部を互いに30mm程度重ね合わせるように施工したにも関わらず、その重ね合わせ部分から雨水が家屋へ侵入することを防ぐことができなかった。
【0070】
本開示(1)は、接着層、ポリマーセメント硬化層、ヤング率調整層及び樹脂層を有する構造物保護シートを構造物の表面に貼り付ける構造物保護シートの施工方法であって、
前記構造物の表面には直線状の複数の段差が略平行に形成されており、
前記構造物保護シートの幅は、隣接する前記段差の間隔よりも広く、
前記構造物保護シートを前記構造物の表面に、前記接着層側から前記段差に平行な方向に貼り付ける
ことを特徴とする構造物保護シートの施工方法である。
本開示(2)は、隣接する前記段差の間の領域と前記隣接する段差の一方の段差とを覆った状態で前記構造物保護シートを貼り付ける本開示(1)記載の構造物保護シートの施工方法である。
本開示(3)は、前記構造物保護シートは、応力が2.0MPa以下、伸度が5%以下の範囲におけるヤング率が10~300MPaである本開示(1)又は(2)記載の構造物保護シートの施工方法である。
本開示(4)は、前記構造物保護シートの幅は、隣接する前記段差の間隔よりも30~60mm大きい本開示(1)、(2)又は(3)記載の構造物保護シートの施工方法である。
本開示(5)は、前記ヤング率調整層は、不織布層、弾性層、金属繊維層、粒子分散体層、針状及び棒状物分散体層、網目状構造物層からなる群より選択される少なくとも1種である本開示(1)、(2)、(3)又は(4)記載の構造物保護シートの施工方法である。
本開示(6)は、前記ポリマーセメント硬化層は、セメント成分及び樹脂を含有する層であって、前記樹脂が10重量%以上、40重量%以下含有されている本開示(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)記載の構造物保護シートの施工方法である。
【符号の説明】
【0071】
1 構造物
2、2’ 平坦部分
3 段差
10 構造物保護シート
11 接着層
12 ポリマーセメント硬化層
13 樹脂層
図1
図2
図3