(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152597
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】エアフィルタ用濾材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 39/16 20060101AFI20231010BHJP
B01D 39/20 20060101ALI20231010BHJP
D21H 13/40 20060101ALI20231010BHJP
D21H 19/20 20060101ALI20231010BHJP
D04H 1/4218 20120101ALI20231010BHJP
【FI】
B01D39/16 A
B01D39/20 B
D21H13/40
D21H19/20 A
D04H1/4218
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160771
(22)【出願日】2022-10-05
(62)【分割の表示】P 2022062263の分割
【原出願日】2022-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】田代 希
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正
【テーマコード(参考)】
4D019
4L047
4L055
【Fターム(参考)】
4D019AA01
4D019BA04
4D019BA12
4D019BA13
4D019BA17
4D019BB05
4D019BC13
4L047AA05
4L047BA21
4L047BC07
4L047CC12
4L055AF04
4L055AG71
4L055AH23
4L055AH37
4L055EA32
4L055FA20
4L055FA30
4L055GA31
(57)【要約】
【課題】本開示の課題は、PFAS及びシロキサン化合物を含まず、更に、PF値、撥水性及び強度の物性バランスが良いエアフィルタ用濾材を提供することである。
【解決手段】本開示に係るエアフィルタ用濾材は、湿式不織布からなるエアフィルタ用濾材において、バインダー樹脂と、撥水剤とを含み、バインダー樹脂はアクリル系バインダー樹脂であり、湿式不織布の繊維同士を接着させ、前記撥水剤は分子中にフッ素及び珪素を含まないアクリルポリマーを主成分とし、湿式不織布の繊維に付着し、バインダー樹脂と撥水剤とが架橋剤を介さずに架橋していることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式不織布からなるエアフィルタ用濾材において、
バインダー樹脂と、撥水剤とを含み、
前記バインダー樹脂はアクリル系バインダー樹脂であり、前記湿式不織布の繊維同士を接着させ、
前記撥水剤は分子中にフッ素及び珪素を含まないアクリルポリマーを主成分とし、前記湿式不織布の繊維に付着し、
前記バインダー樹脂と前記撥水剤とが架橋剤を介さずに架橋していることを特徴とするエアフィルタ用濾材。
【請求項2】
前記バインダー樹脂と前記撥水剤の固形分質量比率が、前記バインダー樹脂100質量部に対して前記撥水剤が30~90質量部であることを特徴とする請求項1に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項3】
前記バインダー樹脂と前記撥水剤の固形分質量比率が、前記バインダー樹脂100質量部に対して前記撥水剤が40~90質量部であることを特徴とする請求項1に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項4】
前記バインダー樹脂と前記撥水剤の固形分質量比率が、前記バインダー樹脂100質量部に対して前記撥水剤が40~70質量部であることを特徴とする請求項1に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項5】
前記湿式不織布が、ガラス繊維を含むことを特徴とする請求項1に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項6】
前記撥水剤がカチオン性撥水剤であることを特徴とする請求項1に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項7】
濾材中における前記バインダー樹脂及び前記撥水剤の合計の固形分質量含有率が、濾材全体に対して3~12質量%であることを特徴とする請求項1に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項8】
繊維のスラリーを湿式抄紙法によりシート化して、湿潤状態のシートを形成する工程と、
前記湿潤状態のシートを、アクリル系バインダー樹脂と、分子中にフッ素及び珪素を含まないアクリルポリマーを主成分とする撥水剤とを含む水性分散液に含浸する工程と、
前記水性分散液に含浸した湿潤状態のシートを加熱して乾燥させて、乾燥シートを得る工程と、を有し、
前記バインダー樹脂は、前記乾燥シートの繊維同士を接着し、
前記撥水剤は、前記乾燥シートの繊維に付着し、かつ、
前記バインダー樹脂と前記撥水剤とが架橋剤を介さずに架橋していることを特徴とするエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項9】
前記の繊維のスラリーが、ガラス繊維を含むことを特徴とする請求項8に記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体、液晶、食品工業向けのクリーンルーム、ビル空調又は空気清浄機などに設置されるエアフィルタに用いられるエアフィルタ用濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中のサブミクロン又はミクロン単位の粒子を捕集除去するためには、一般的に、エアフィルタ用濾材を備えたエアフィルタが用いられる。エアフィルタは、捕集可能な粒子径、及びその捕集効率に応じて、粗塵用フィルタ、中高性能フィルタ、HEPAフィルタ、ULPAフィルタ等に分類される。後者になる程、粒子径の小さい粒子を捕集可能であり、且つ捕集効率が高いフィルタである。
【0003】
エアフィルタ用濾材には、必要とする粒子の捕集効率を有することとともに、送風エネルギーを上げないように、圧力損失が低いことが求められる。捕集効率と圧力損失の指標値としては、数1に示すPF値があり、この値が高い程、捕集効率が高く圧力損失が低い、優れた濾材であることを示す。
【0004】
【数1】
ここで、透過率[%]=100-捕集効率[%]
【0005】
また、エアフィルタ用濾材には、加工時及び通風使用時に割れや裂けを生じないために、十分な強度を有することが求められる。
【0006】
更に、エアフィルタ用濾材に求められる物性として、撥水性がある。十分な撥水性を有することで、気温の変化による結露や湿度の高い空気が通風した際に、水滴により濾材の孔を塞ぐ問題の発生を防ぐことができる。又、海に近い場所においては、濾材に捕集された海塩粒子が空気中の水分により液化して流出する、潮解現象を防ぐことができる。一方で、撥水性が低いと、濾材をエアフィルタユニットに加工する際に用いるシール剤やホットメルト等が染み込む問題がある。
【0007】
濾材に撥水性を付与するためには、フッ素系撥水剤及び/又はシリコーン系撥水剤を付着させる方法(例えば、特許文献1又は特許文献2を参照。)が広く用いられている。
【0008】
フッ素系及びシリコーン系以外の撥水剤を用いた濾材の例として、合成パラフィンを用いる方法(例えば、特許文献3を参照。)、アルキルケテンダイマーを用いる方法(例えば、特許文献4を参照。)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2-175997号公報
【特許文献2】特開平9-225226号公報
【特許文献3】WO97/04851号公報
【特許文献4】WO02/016005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1又は特許文献2に開示される技術において、フッ素系撥水剤を構成するパーフルオロアルキル化合物(以下、PFASと略す。)は、難分解性で且つ生物蓄積性が高いため、世界的にその使用を規制する動きがある。また、シリコーン系撥水剤を構成するシロキサン化合物及びその縮合物である環状シロキサンは、半導体基板やガラス基板の表面に付着して製品歩留の低下やハジキ発生の原因となる問題を有している。更に、環状シロキサンは、PFASと同様に難分解性で且つ生物蓄積性が高いため、その使用を規制する動きがある。
【0011】
また、特許文献3又は特許文献4に開示される技術において、どちらの方法も、濾材のPF値、強度及び撥水性の物性バランスを取ることが難しかった。
【0012】
前記の通り、PFAS及びシロキサン化合物を含まないエアフィルタ用濾材が求められているが、従来の技術では、PF値、撥水性及び強度の物性バランスが良い濾材を得ることが難しかった。従って、本開示の課題は、PFAS及びシロキサン化合物を含まず、更に、PF値、撥水性及び強度の物性バランスが良いエアフィルタ用濾材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、バインダー樹脂と、分子中にフッ素及び珪素を含まないアクリルポリマーを主成分とする撥水剤とを用いることにより上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明に係るエアフィルタ用濾材は、湿式不織布からなるエアフィルタ用濾材において、バインダー樹脂と、撥水剤とを含み、前記バインダー樹脂はアクリル系バインダー樹脂であり、前記湿式不織布の繊維同士を接着させ、前記撥水剤は分子中にフッ素及び珪素を含まないアクリルポリマーを主成分とし、前記湿式不織布の繊維に付着し、前記バインダー樹脂と前記撥水剤とが架橋剤を介さずに架橋していることを特徴とする。
【0014】
本発明に係るエアフィルタ用濾材では、前記バインダー樹脂と前記撥水剤の固形分質量比率が、前記バインダー樹脂100質量部に対して前記撥水剤が30~90質量部であることが好ましく、より好ましくは40~90質量部であり、更に好ましくは40~70質量部である。この比率であることで、PF値、撥水性及び強度の物性バランスが良い濾材が得られる。
【0015】
本発明に係るエアフィルタ用濾材では、前記湿式不織布が、ガラス繊維を含むことが好ましい。このような構成によれば、より高いPF値を有するエアフィルタ用濾材を得ることができる。
【0016】
本発明に係るエアフィルタ用濾材では、前記撥水剤がカチオン性撥水剤であることが好ましい。
【0017】
本発明に係るエアフィルタ用濾材では、濾材中における前記バインダー樹脂及び前記撥水剤の合計の固形分質量含有率が、濾材全体に対して3~12質量%であることが好ましい。この比率であることで、PF値と強度の物性バランスが特に良い濾材が得られる。
【0018】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法は、繊維のスラリーを湿式抄紙法によりシート化して、湿潤状態のシートを形成する工程と、前記湿潤状態のシートを、アクリル系バインダー樹脂と、分子中にフッ素及び珪素を含まないアクリルポリマーを主成分とする撥水剤とを含む水性分散液に含浸する工程と、前記水性分散液に含浸した湿潤状態のシートを加熱して乾燥させて、乾燥シートを得る工程と、を有し、前記バインダー樹脂は、前記乾燥シートの繊維同士を接着し、前記撥水剤は、前記乾燥シートの繊維に付着し、かつ、前記バインダー樹脂と前記撥水剤とが架橋剤を介さずに架橋していることを特徴とする。この製造方法により、PFAS及びシロキサン化合物を含まず、更に、PF値、撥水性及び強度の物性バランスが良いエアフィルタ用濾材を得ることができる。
【0019】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記の繊維のスラリーが、ガラス繊維を含むことが好ましい。このような製造方法であれば、より高いPF値を有するエアフィルタ用濾材を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本開示により、PFAS及びシロキサン化合物を含まず、更に、PF値、撥水性及び強度の物性バランスが良いエアフィルタ用濾材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0022】
本実施形態に係るバインダー樹脂は、不織布の繊維同士を接着させ、エアフィルタ用濾材に必要とされる強度を付与するために用いられる。バインダー樹脂の成分は、例えば、ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール等の中から選択される。ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂などのアクリル系バインダー樹脂であることが好ましい。
【0023】
本実施形態に係る撥水剤は、不織布の繊維に付着し、エアフィルタ用濾材に必要とされる撥水性を付与するために用いられる。撥水剤の主成分は、分子中にフッ素及び珪素を含まないアクリルポリマー(以降、単に、アクリルポリマーということがある。)からなる。撥水剤は、アクリルポリマーを50質量%以上、好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上含む。アクリルポリマーとは、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルを主な原料モノマーとして重合されたポリマーである。アクリルポリマーは、前記原料モノマーを50質量%以上、好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上含んで合成される。このような撥水剤の例としては、アクリルポリマーからなるユニダインXFシリーズ(ダイキン工業(株)製)等が挙げられ、これらの市販品の中から選択してもよい。撥水剤は、添加剤として50~150ppm程度の微量のシリコーンを含んでいてもよい。
【0024】
撥水剤はカチオン性撥水剤であることが好ましい。カチオン性であることにより撥水性が更に向上する。特に湿式不織布がガラス繊維を含むとき、撥水剤のガラス繊維への定着性が向上しやすいため、撥水剤が濾材中に残りやすい。このため、撥水性が向上しやすい。
【0025】
バインダー樹脂と撥水剤とが共にアクリル系樹脂化合物である場合、本実施形態におけるバインダー樹脂は、ポリアクリル酸エステルの原料モノマーである、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルについて、エステル部分の炭素数が8以下のものが主(アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルの中で好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上)のアクリル系樹脂化合物であることが好ましい。エステル部分の炭素数が8を超えると、接着強度が得られにくい恐れがある。
【0026】
また、本実施形態における撥水剤は、ポリアクリル酸エステルの原料モノマーである、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルについて、エステル部分の炭素数が8を超えるものが主(アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルの中で好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上)のアクリル系樹脂化合物であることが好ましい。ここで撥水剤において、エステル部分は炭化水素基であることが好ましい。この炭化水素基は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、飽和炭化水素であっても不飽和炭化水素であってもよく、更には脂環式又は芳香族の環状を有していてもよい。これらの中でも、直鎖状であるものが好ましく、直鎖状のアルキル基であるものがより好ましい。上記エステル部分の炭素数は、9以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましい。炭素数が8以下であると、撥水処理剤として十分な撥水性を発揮できない恐れがある。
【0027】
本実施形態において、バインダー樹脂と撥水剤の固形分質量比率(バインダー樹脂/撥水剤)は、バインダー樹脂を100質量部としたときに撥水剤が30~90質量部であることが好ましく、より好ましくは40~90質量部であり、更に好ましくは40~70質量部である。この比率であることで、PF値、撥水性及び強度の物性バランスが良い濾材が得られる。撥水剤の質量比率が30質量部よりも低いと、十分な撥水性が得られない恐れがある。一方で、撥水剤の質量比率が90質量部よりも高いと、十分な強度が得られない恐れがあり、又、十分なPF値が得られない恐れがある。
【0028】
本実施形態において、濾材中におけるバインダー樹脂及び撥水剤の合計の固形分質量含有率は、濾材全体に対して3~12質量%であることが好ましい。より好ましくは4~10質量%である。これらの成分の合計の含有率が3質量%よりも低いと、十分な撥水性及び強度が得られない恐れがある。一方で、合計の含有率が12質量%よりも高いと、十分なPF値が得られない恐れがある。
【0029】
本実施形態に係るエアフィルタ用濾材では、撥水性は300mm水柱高以上であることが好ましく、508mm水柱高以上であることがより好ましい。
【0030】
本実施形態に係るエアフィルタ用濾材では、濾材単体での引張強度は0.30kN/m以上であることが好ましく、0.40kN/m以上であることがより好ましい。
【0031】
本実施形態において、バインダー樹脂及び撥水剤は、各成分が混合し合った水性分散液として、湿潤状態にある湿式不織布に含浸付与され、その後に、湿式不織布を加熱することで乾燥及び架橋される。このときの加熱方法は、抄紙機においては、多筒式ドライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥機等が用いられ、手抄装置においては、ロータリードライヤー、循環乾燥機等が用いられる。加熱温度は、80~180℃、より好ましくは100~160℃である。
【0032】
本実施形態においては、含浸に用いる水性分散液に、本発明の効果を妨げない範囲で、消泡剤等の添加剤を適宜添加することができる。
【0033】
本実施形態に係る湿式不織布は、ガラス繊維を含むことが好ましい。ガラス繊維は高い剛性を有しているため、濾材内において、空気が通過するために必要な空隙を十分に維持することができ、高いPF値を得ることができる。ガラス繊維としては、ガラスウール繊維、チョップドガラス繊維等を用いることができる。
【0034】
本実施形態において、ガラス繊維の平均繊維径は、特に限定するものではないが、0.1~10μmであることが好ましく、0.2~7μmであることがより好ましい。この範囲であることで、圧力損失と捕集効率のバランスが良い、則ちPF値の高い濾材となる。また、平均繊維径の異なる2種以上のガラス繊維を含ませてもよい。更に高い捕集効率を得るためには、ガラス繊維の少なくとも一部が繊維径1μm未満のガラス繊維であることが好ましい。
【0035】
本実施形態においては、湿式不織布を構成する繊維として、ガラス繊維以外の繊維を用いてもよい。これらの繊維としては、木材パルプ等の天然繊維;レーヨン繊維等の再生繊維;ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維、ビニロン繊維等の合成繊維が挙げられる。これらの繊維の配合量は、ガラス繊維が有するPF値を高める効果を妨げない範囲とすることが好ましい。例えば、繊維全体の30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0036】
本実施形態に係るエアフィルタ用濾材の製造工程においては、原料繊維を水中で分散して原料スラリーを得て、これを湿式抄紙法によりシート化して、湿潤状態のシートを得る。原料繊維としてガラス繊維を多く用いる場合は、分散及び抄紙に用いる水が酸性であることが好ましく、pH2~4であることがより好ましい。酸性下で分散及び抄紙を行うことにより、ガラス繊維同士が接着しやすくなり、強度を高くすることができる。
【0037】
(実施例)
以下に本発明について具体的な実施例を示して説明するが、本発明はこれらの記載に限定されるものではない。尚、例中の「部」は、原料スラリー中の繊維の固形分質量比率、又は含浸液中の成分の固形分質量比率を示し、原料スラリーにおいては全ての繊維の合計量を100部とし、含浸液においてはバインダー樹脂を100部とした。又、例中の「%」は、濾材中の成分の固形分質量含有率を示す。
【0038】
<実施例1>
平均繊維径0.65μmのガラスウール(B-06-F、Unifrax Co.製)を60部、平均繊維径2.44μmのガラスウール(B-26-R、Unifrax Co.製)を30部、平均繊維径6μm、カット長6mmのチョップドガラス繊維(EC-6-6-SP、Unifrax Co.製)10部をテーブル離解機にてpH3.0の酸性水を用いて離解し、原料スラリーを得た。次に、原料スラリーを抄紙し、湿式不織布を得た。更に、アクリル系バインダー樹脂(ボンコートAN-1190S、DIC(株)製)100部、分子中にフッ素及び珪素を含まないアクリルポリマーを主成分とするカチオン性アクリル系撥水剤(ユニダインXF-4001、ダイキン工業(株)製)20部及び水を混合して調製した含浸液を前記湿式不織布に含浸付与させ、130℃のロータリードライヤーで乾燥させたのち(乾燥時間は2分間)、更に160℃の乾燥機で2分間加熱をおこない、坪量70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は5.1%であった。
【0039】
<実施例2>
アクリル系バインダー樹脂(ボンコートAN-1190S、DIC(株)製)100部、分子中にフッ素及び珪素を含まないアクリルポリマーを主成分とするカチオン性アクリル系撥水剤(ユニダインXF-4001、ダイキン工業(株)製)30部及び水を混合して調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は5.2%であった。
【0040】
<実施例3>
アクリル系バインダー樹脂(ボンコートAN-1190S、DIC(株)製)100部、分子中にフッ素及び珪素を含まないアクリルポリマーを主成分とするカチオン性アクリル系撥水剤(ユニダインXF-4001、ダイキン工業(株)製)40部及び水を混合して調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は5.1%であった。
【0041】
<実施例4>
アクリル系バインダー樹脂(ボンコートAN-1190S、DIC(株)製)100部、分子中にフッ素及び珪素を含まないアクリルポリマーを主成分とするカチオン性アクリル系撥水剤(ユニダインXF-4001、ダイキン工業(株)製)50部及び水を混合して調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は5.4%であった。
【0042】
<実施例5>
アクリル系バインダー樹脂(ボンコートAN-1190S、DIC(株)製)100部、分子中にフッ素及び珪素を含まないアクリルポリマーを主成分とするカチオン性アクリル系撥水剤(ユニダインXF-4001、ダイキン工業(株)製)70部及び水を混合して調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は5.3%であった。
【0043】
<実施例6>
アクリル系バインダー樹脂(ボンコートAN-1190S、DIC(株)製)100部、分子中にフッ素及び珪素を含まないアクリルポリマーを主成分とするカチオン性アクリル系撥水剤(ユニダインXF-4001、ダイキン工業(株)製)90部及び水を混合して調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は5.2%であった。
【0044】
<実施例7>
アクリル系バインダー樹脂(ボンコートAN-1190S、DIC(株)製)100部、分子中にフッ素及び珪素を含まないアクリルポリマーを主成分とするカチオン性アクリル系撥水剤(ユニダインXF-4001、ダイキン工業(株)製)100部及び水を混合して調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は5.2%であった。
【0045】
<実施例8>
アクリル系バインダー樹脂(ボンコートAN-1190S、DIC(株)製)100部、分子中にフッ素及び珪素を含まないアクリルポリマーを主成分とするカチオン性アクリル系撥水剤(ユニダインXF-4001、ダイキン工業(株)製)40部及び水を混合して調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、含浸液の湿紙への含浸付与条件を調整したので、濾材中の含浸成分の含有率は3.0%であった。
【0046】
<実施例9>
アクリル系バインダー樹脂(ボンコートAN-1190S、DIC(株)製)100部、分子中にフッ素及び珪素を含まないアクリルポリマーを主成分とするカチオン性アクリル系撥水剤(ユニダインXF-4001、ダイキン工業(株)製)40部及び水を混合して調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、含浸液の湿紙への含浸付与条件を調整したので、濾材中の含浸成分の含有率は12.1%であった。
【0047】
<比較例1>
含浸の工程を除いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。
【0048】
<比較例2>
アクリル系バインダー樹脂(ボンコートAN-1190S、DIC(株)製)100部及び水を混合して調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は5.4%であった。
【0049】
<比較例3>
アクリル系バインダー樹脂(ボンコートAN-1190S、DIC(株)製)100部、アルキルケテンダイマー(SE2380、星光PMC(株)製)20部及び水を混合して調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は5.3%であった。
【0050】
<比較例4>
アクリル系バインダー樹脂(ボンコートAN-1190S、DIC(株)製)100部、パラフィンワックス系撥水剤(ペトロックスP-200、明成化学工業(株)製)20部及び水を混合して調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は5.4%であった。
【0051】
<比較例5>
アクリル系バインダー樹脂(ボンコートAN-1190S、DIC(株)製)100部、フッ素系撥水剤(アサヒガードAG-E300、AGC(株)製)20部及び水を混合して調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は5.4%であった。
【0052】
<比較例6>
分子中にフッ素及び珪素を含まないアクリルポリマーを主成分とするカチオン性アクリル系撥水剤(ユニダインXF-4001、ダイキン工業(株)製)100部及び水を混合して調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は2.5%であった。
【0053】
実施例及び比較例において得られたエアフィルタ用濾材の評価は、以下に示す方法を用いて行った。
【0054】
<圧力損失>
圧力損失は、有効面積100cm2のエアフィルタ用濾材に面風速5.3cm/秒で通風した際の差圧として、マノメーター(マノスターゲージWO81、(株)山本電機製作所製)を用いて測定した。
【0055】
<透過率>
透過率は、ラスキンノズルで発生させた多分散ポリアルファオレフィン(PAO)粒子を含む空気が有効面積100cm2のエアフィルタ用濾材に面風速5.3cm/秒で通風した際の上流及び下流のPAO粒子の個数をレーザーパーティクルカウンター(KC-22B、リオン(株)製)を用いて測定し、上流と下流の粒子数の比から求めた。対象粒子径は0.10~0.15μm及び0.30μmとした。
【0056】
<PF値>
PF値は、圧力損失及び粒子透過率の値から、数1に示す式を用いて計算した。対象粒子径は0.10~0.15μm及び0.30μmとした。
【0057】
<引張強度>
引張強度は、オートグラフAGX-S((株)島津製作所製)を用いて試験幅1inch、試験長100mm、引張速度15mm/minの条件で測定を行った。
【0058】
<撥水性>
撥水性は、MIL-STD-282に準拠して測定を行った。
【0059】
前記の方法で行ったエアフィルタ用濾材の評価結果を表1~表2に示した。
【0060】
【0061】
【0062】
実施例1~実施例9では、0.10~0.15μmのPF値が8.80以上であり、0.30μmのPF値が12.47以上を満たしていた。また、実施例1~実施例9では、撥水性の値が290mm水柱高以上を満たしていた。
【0063】
実施例1~実施例9と比較例2とを比較すると、撥水剤を使用することにより、撥水性が付与され、実施例1では実用上問題のない撥水性の値(290mm水柱高以上)を示し、実施例2及び実施例8では実用上好ましい撥水性の値(300mm水柱高以上)を示し、実施例3~実施例7及び実施例9では実用上更に好ましい撥水性の値(508mm水柱高以上)を満たすことが確かめられた。
【0064】
実施例1~実施例9と比較例1及び比較例6とを比較すると、バインダー樹脂を使用することにより、引張強度が付与され、実施例7では実用上問題のない引張強度の値(0.27kN/m以上)を示し、実施例6では実用上好ましい引張強度の値(0.30kN/m以上)を示し、実施例1~実施例5、実施例8及び実施例9では実用上更に好ましい引張強度の値(0.40kN/m以上)を満たすことが確かめられた。
【0065】
実施例1~実施例7と比較例3及び比較例4とを比較すると、本発明により、他の非フッ素系撥水剤を使用した場合に比べて、PF値と撥水性の物性バランスが良い濾材が得られることが確かめられた。即ち、実施例1~実施例7では0.10~0.15μmのPF値が9.55以上であり、0.30μmのPF値が12.99以上を満たし、かつ、撥水性の値が290mm水柱高以上を満たしており、物性バランスが良い濾材が得られた。