(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152598
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】被覆粒状肥料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C05G 5/30 20200101AFI20231005BHJP
B01J 13/12 20060101ALI20231005BHJP
C08F 8/42 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C05G5/30 ZBP
B01J13/12
C08F8/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161098
(22)【出願日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2022/016961
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】WO
(71)【出願人】
【識別番号】390021544
【氏名又は名称】ジェイカムアグリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】是兼 由李子
(72)【発明者】
【氏名】谷川 裕一
(72)【発明者】
【氏名】足立 浩一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 有宏
(72)【発明者】
【氏名】青嵜 義宗
(72)【発明者】
【氏名】山松 千恵
【テーマコード(参考)】
4G005
4H061
4J100
【Fターム(参考)】
4G005BA14
4G005BB12
4G005DA05Z
4G005DC48X
4G005DD12Z
4G005DD57Z
4G005DD59Z
4G005EA02
4H061AA01
4H061AA02
4H061BB15
4H061EE31
4H061EE35
4H061EE37
4H061EE61
4H061EE62
4H061FF08
4H061FF15
4H061HH03
4J100AD02P
4J100HA61
4J100HC28
4J100HC78
4J100HD08
4J100HE05
4J100HE07
4J100HE13
4J100HG28
4J100JA01
4J100JA64
(57)【要約】
【課題】溶出後の被膜殻残渣による環境負荷が小さい緩効性の被覆粒状肥料、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】被覆材料からなる膜で肥料が被覆された被覆粒状肥料であって、前記肥料と前記膜との間に、生分解性樹脂を含むプレコート層が設けられている、被覆粒状肥料。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆材料からなる膜で肥料が被覆された被覆粒状肥料であって、
前記肥料と前記膜との間に、生分解性樹脂を含むプレコート層が設けられている、被覆粒状肥料。
【請求項2】
前記肥料及び前記プレコート層の合計100重量%に対するプレコート層の含有量が1重量%以上、15重量%以下である、請求項1に記載の被覆粒状肥料。
【請求項3】
前記生分解性樹脂が、ポリビニルアルコール樹脂、スターチ、セルロース、リグニン、キチン、キトサン、PBS(ポリブチレンサクシネート)、PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート)、PBAT(ポリブチレンアジテートテレフタレート)、PCL(ポリカプロラクトン)、デンプンポリエステル、酢酸セルロース、PHB(ポリヒドロキシブチレート)、PHBH(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート))、PHBV(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート))、PLA(ポリ乳酸)PDO(ポリジオキサノン)及びそれらの共重合体からなる群より選択される生分解性樹脂である、請求項1又は2に記載の被覆粒状肥料。
【請求項4】
前記プレコート層が、PBS、PBAT、PLA(ポリ乳酸)及びそれらの共重合体からなる群より選択される生分解性樹脂を含む、請求項3に記載の被覆粒状肥料。
【請求項5】
前記生分解性樹脂のメルトフローレート(MFR)が1~6g/10分である、請求項1又は2に記載の被覆粒状肥料。
【請求項6】
初期浮上粒率が30%以下である、請求項1又は2に記載の被覆粒状肥料。
【請求項7】
前記被覆材料が、OH基を有する樹脂とアルコキシシラン縮合物との脱水縮合物を含有する、請求項1又は2に記載の被覆粒状肥料。
【請求項8】
前記OH基を有する樹脂が、生分解性樹脂である、請求項7に記載の被覆粒状肥料。
【請求項9】
前記OH基を有する樹脂が、アルコール性水酸基又はカルボキシル基を有する樹脂である、請求項7に記載の被覆粒状肥料。
【請求項10】
前記被覆材料がSi-O-C結合を有する、請求項7に記載の被覆粒状肥料。
【請求項11】
前記肥料用被覆材料中のSi含有量が、SiO2換算で20重量%以上、95重量%未満である、請求項7に記載の被覆粒状肥料。
【請求項12】
前記OH基を有する樹脂が、ポリビニルアルコール樹脂、スターチ、セルロース、リグニン、キチン、キトサン、PBS(ポリブチレンサクシネート)、PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート)、PBAT(ポリブチレンアジテートテレフタレート)、PCL(ポリカプロラクトン)、デンプンポリエステル、酢酸セルロース、PHB(ポリヒドロキシブチレート)、PHBH(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート))、PHBV(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート))、PLA(ポリ乳酸)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリジオキサノン(PDO)及びそれらの共重合体からなる群より選択される、請求項7に記載の被覆粒状肥料。
【請求項13】
前記OH基を有する樹脂が、ポリビニルアルコール樹脂である、請求項7に記載の被覆
粒状肥料。
【請求項14】
前記被覆材料がアルコキシシラン縮合物に由来する三次元シロキサン架橋構造を有する、請求項7に記載の被覆粒状肥料。
【請求項15】
前記アルコキシシラン縮合物が、2種類以上のアルコキシシランを含む、請求項7に記載の被覆粒状肥料。
【請求項16】
前記アルコキシシラン縮合物として、少なくとも下記式(1)で表される化合物を含む、請求項7に記載の被覆粒状肥料。
【化1】
式(1)において、複数のR
1は、それぞれ独立して、炭素鎖1~10のアルキル基又は炭素数6~15の芳香族を表し、R
2は水素原子、ハロゲン原子、又は一価の有機基を表す。
【請求項17】
前記式(1)で表される化合物が、メチルトリメトキシシランである、請求項16に記載の被覆粒状肥料。
【請求項18】
前記被覆粒状肥料100重量%中、前記被覆材料からなる膜の含有量が1重量%以上、20重量%以下である、請求項1又は2に記載の被覆粒状肥料。
【請求項19】
生分解性樹脂を含む溶液を準備し、得られた溶液を肥料へ吹き付け、乾燥してプレコート被覆肥料を得るプレコーティング工程、及び
前記プレコート被覆肥料に被覆材料からなる膜を設けるコーティング工程、
を含む、被覆粒状肥料の製造方法。
【請求項20】
前記コーティング工程が、アルコキシシラン縮合物を含む溶液とOH基を有する樹脂とを含む溶液とを混合し、得られた被覆液を肥料へ吹き付け、乾燥する工程、である、請求項19に記載の被覆粒状肥料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被覆粒状肥料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂等の被膜材料によって粒状肥料の表面を被覆してカプセル化させることにより、肥料成分を持続的に供給する機能を持った被覆粒状肥料は、肥料成分の溶出コントロール性に優れ、農作業の省力化の達成や環境負荷低減等の効果が認められており、近年その発展が著しい。
すなわち、被覆粒状肥料が、過剰施肥を防止して作物への肥料成分の利用効率を高め、かつ、河川等への肥料成分の流失を低減させ、さらに、施肥回数の低減を図れる等の顕著な効果を発揮し、施肥の省力化及び効率化、また、環境保全に対して著しい成果を挙げているのは周知の事実である。
【0003】
しかしながら近年、被膜材料としての樹脂が非分解性であるため、被覆粒状肥料が投入された圃場で被膜殻が蓄積し、さらにはこの殻が圃場域外へ流出し、その結果、生態系に蓄積するなどの環境負荷が懸念されている。そのため、優れた溶出制御性と被膜の分解性を併せ持った被覆粒状肥料の早期開発が望まれている。
【0004】
これに対して、被膜の分解性を高めるため、様々な研究がおこなわれている。例えば特許文献1には、被膜中にエチレンと炭素数が3以上のオレフィンのコポリマーおよび/または撥水化澱粉と金属酸化物を含む被膜で肥料を被覆することにより、土壌中における溶出後の被膜の崩壊性および分解性に優れた技術を報告している。
【0005】
また、特許文献2では、特定の重量平均分子量を有する低分子量域ポリエチレン及び/または石油ワックス、特定のエチレン-α-オレフィンエラストマー、特定のα-オレフィン重合体、及び、糖重合体もしくはその誘導体を主成分とする粉体を、各々特定量組み合わせた被膜を用いることにより、土壌中での分解性の優れた被覆粒状肥料が提案されている。
しかしながら、これらの方法では被膜主成分に非生分解性の樹脂を使用するため、使用後に被膜殻の一部が環境中に残存してしまい、環境負荷の低減には不十分なものであった。また、水田用に使用した場合には、疎水性樹脂成分が水に浮きやすく、土壌中にとどまらずに水田から流失するという課題もあった。
【0006】
これに対して、生分解性を有する樹脂を被覆粒状肥料の被膜に用いる技術も提唱されてきた。例えば特許文献3では、水溶性のポリビニルアルコールを、加熱架橋することにより水不溶化し、土壌中への溶出速度を制御する技術が開示されている。しかしながら特許文献3に記載の加熱によりポリビニルアルコールを水不溶化する方法は、実際には粒状肥料として用いられる尿素が130~140℃程度で熱分解してしまうため、実質的には使用することは難しかった。
また、その他にも様々な生分解性樹脂組成物を被覆粒状肥料の被膜に用いる技術は提唱されているが、親水性であるが故に耐水性に劣り、膜の安定性や溶出制御性、経済性等の点で不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-75479号公報
【特許文献2】特許第4804632号公報
【特許文献3】特開平8-277191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、特許文献1~3では、環境負荷を十分に低減した被覆粒状肥料を得ることは困難であった。そこで、本発明においては、溶出後の被膜殻残渣による環境負荷が小さい緩効性を有する被覆粒状肥料、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者らは鋭意検討の結果、被覆材料からなる膜を肥料に被覆し、さらに、該肥料と該膜との間に特定の層を設けることにより、肥料成分の溶出が少ないことにより環境負荷が小さい緩効性を有する被覆粒状肥料を提供できること、を見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明は以下を要旨とする。
[1] 被覆材料からなる膜で肥料が被覆された被覆粒状肥料であって、
前記肥料と前記膜との間に、生分解性樹脂を含むプレコート層が設けられている、被覆粒状肥料。
[2] 前記肥料及び前記プレコート層の合計100重量%に対するプレコート層の含有量が1重量%以上、15重量%以下である、[1]に記載の被覆粒状肥料。
[3] 前記生分解性樹脂が、ポリビニルアルコール樹脂、スターチ、セルロース、リグニン、キチン、キトサン、PBS(ポリブチレンサクシネート)、PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート)、PBAT(ポリブチレンアジテートテレフタレート)、PCL(ポリカプロラクトン)、デンプンポリエステル、酢酸セルロース、PHB(ポリヒドロキシブチレート)、PHBH(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート))、PHBV(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート))、PLA(ポリ乳酸)PDO(ポリジオキサノン)及びそれらの共重合体からなる群より選択される生分解性樹脂である、[1]又は[2]に記載の被覆粒状肥料。[4] 前記プレコート層が、PBS、PBAT、PLA及びそれらの共重合体からなる群より選択される生分解性樹脂を含む、[3]に記載の被覆粒状肥料。
[5] 前記生分解性樹脂のメルトフローレート(MFR)が1~6g/10分である、[1]~[4]のいずれかに記載の被覆粒状肥料。
[6] 初期浮上粒率が30%以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の被覆粒状肥料。
[7] 前記被覆材料が、OH基を有する樹脂とアルコキシシラン縮合物との脱水縮合物を含有する、[1]~[6]のいずれかに記載の被覆粒状肥料。
[8] 前記OH基を有する樹脂が、生分解性樹脂である、[7]に記載の被覆粒状肥料。
[9] 前記OH基を有する樹脂が、アルコール性水酸基又はカルボキシル基を有する樹脂である、[7]又は[8]に記載の被覆粒状肥料。
[10] 前記被覆材料がSi-O-C結合を有する、[7]~[9]のいずれかに記載の被覆粒状肥料。
[11] 前記肥料用被覆材料中のSi含有量が、SiO
2換算で20重量%以上、95重量%未満である、[7]~[10]のいずれかに記載の被覆粒状肥料。
[12] 前記OH基を有する樹脂が、ポリビニルアルコール樹脂、スターチ、セルロース、リグニン、キチン、キトサン、PBS(ポリブチレンサクシネート)、PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート)、PBAT(ポリブチレンアジテートテレフタレート)、PCL(ポリカプロラクトン)、デンプンポリエステル、酢酸セルロース、PHB(ポリヒドロキシブチレート)、PHBH(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート))、PHBV(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート))、PLA(ポリ乳酸)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリジオキサノン(PDO)及びそれらの共重合体からなる群より選択される、[7]~[11]のいずれかに記載の被覆粒状肥料。
[13] 前記OH基を有する樹脂が、ポリビニルアルコール樹脂である、[7]~[12]のいずれかに記載の被覆粒状肥料。
[14] 前記被覆材料がアルコキシシラン縮合物に由来する三次元シロキサン架橋構造を有する、[7]~[13]のいずれかに記載の被覆粒状肥料。
[15] 前記アルコキシシラン縮合物が、2種類以上のアルコキシシランを含む、[7]~[14]のいずれかに記載の被覆粒状肥料。
[16] 前記アルコキシシラン縮合物として、少なくとも下記式(1)で表される化合物を含む、[7]~[15]のいずれかに記載の被覆粒状肥料。
【化1】
式(1)において、複数のR
1は、それぞれ独立して、炭素鎖1~10のアルキル基又は炭素数6~15の芳香族を表し、R
2は水素原子、ハロゲン原子、又は一価の有機基を表す。
[17] 前記式(1)で表される化合物が、メチルトリメトキシシランである、[16]に記載の被覆粒状肥料。
[18] 前記被覆粒状肥料100重量%中、前記被覆材料からなる膜の含有量が1重量%以上、20重量%以下である、[1]~[17]のいずれかに記載の被覆粒状肥料。
[19] 生分解性樹脂を含む溶液を準備し、得られた溶液を肥料へ吹き付け、乾燥してプレコート被覆肥料を得るプレコーティング工程、及び
前記プレコート被覆肥料に被覆材料からなる膜を設けるコーティング工程、
を含む、被覆粒状肥料の製造方法。
[20] 前記コーティング工程が、アルコキシシラン縮合物を含む溶液とOH基を有する樹脂とを含む溶液とを混合し、得られた被覆液を肥料へ吹き付け、乾燥する工程、である、[19]に記載の被覆粒状肥料の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば溶出後の被膜殻残渣による環境負荷が小さい緩効性を有する被覆粒状肥料、およびその製造方法を提供することができる。
また、水田等に使用する場合には、浮上性が抑えられる効果も得ることができる。
また、前記被膜材料に、OH基を有する樹脂とアルコキシシラン縮合物の加水分解物との脱水縮合物を調製した材料を用いることにより、緩効性肥料として使用可能となり、かつ、肥料としての役目を終えた後には、分解され、土壌中にはシリカ、つまり砂しか残らない、環境にやさしい肥料が得られる効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】肥料への肥料用被覆材料の被覆を行うための装置の模式図である。
【
図2】肥料への肥料用被覆材料の被覆を行うための装置の模式図である。
【
図3】比較例1に係る被覆粒状肥料の走査型電子顕微鏡写真である(図面代用写真)。
【
図4】実施例1に係る被覆粒状肥料の走査型電子顕微鏡写真である(図面代用写真)。
【
図5】実施例2に係る被覆粒状肥料の溶出速度曲線のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0014】
<被覆粒状肥料>
本発明の一実施形態は、被覆材料からなる膜で肥料が被覆された被覆粒状肥料であって、前記肥料と前記膜との間に、生分解性樹脂を含むプレコート層が設けられている、被覆粒状肥料である。
【0015】
[プレコート]
本実施形態に係る被覆粒状肥料は、肥料と被覆材料との間に、生分解性樹脂を含むプレコート層が設けられており、このプレコートの材料としては、環境負荷を小さくすることができる観点から、生分解性樹脂が含まれていればよく、その他の材料が含まれていてもよい。その他の材料としては、例えば、ワックス、硝化抑制剤、ウレアーゼ阻害剤、固結防止機能のある無機質粒子、界面活性剤、又はホルムアルデヒドなどが挙げられる。
また、プレコートを行うと、その上に設けられる被覆材料の被覆時に肥料の溶解、固着などを抑えられ、安定した被覆が可能となる。
【0016】
プレコートに含まれる生分解性樹脂は特に制限はないが、ポリビニルアルコール樹脂、スターチ、セルロース、リグニン、キチン、キトサン、PBS(ポリブチレンサクシネート)、PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート)、PBAT(ポリブチレンアジテートテレフタレート)、PCL(ポリカプロラクトン)、デンプンポリエステル、酢酸セルロース、PHB(ポリヒドロキシブチレート)、PHBH(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート))、PHBV(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート))、PLA(ポリ乳酸)、PGA(ポリグリコール酸)、PDO(ポリジオキサノン)、又はそれらの共重合体等が挙げられ、肥料成分の溶出を少なくすることにより環境負荷を小さくすることができる観点から、ポリビニルアルコール樹脂、スターチ、セルロース、リグニン、キチン、キトサン、PBS、PBSA、PBAT、PCL、デンプンポリエステル、酢酸セルロース、PHB、PHBH、PHBV、PLA、PDO、及びそれらの共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の生分解性樹脂であることが好ましく、PBS、PBAT、PLA及びそれらの共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の生分解性樹脂を含むことがより好ましい。これらの樹脂は、単独で使用することも2種以上混合して使用することも可能である。
【0017】
生分解性樹脂のメルトフローレート(MFR)は特段制限されないが、通常0.1~30g/10分である。膜強度の観点からは0.1~25g/10分であることがより好ましく、製造時の被覆液の粘度が高いことにより成膜がしにくくなることへ影響の観点からは1~10g/10分であることがさらに好ましく、1~6g/10分であることが特に好ましい。特にこのMFRは、生分解性樹脂がPBSである場合に満たされることが好ましい。生分解性樹脂のMFRは、MFRが既知の材料を選定することにより調製することができる。本明細書における生分解性樹脂のMFRは、ISO1133に準拠して190℃、荷重2.16kgの条件での値を意味する。
また、生分解性樹脂の密度は特段制限されないが、通常1.1~1.4g/cm3であり、1.15~1.35g/cm3であることが好ましく、1.2~1.3g/cm3であることがより好ましい。
【0018】
プレコート層の厚みは特段制限されないが、溶出を抑制するために5μm以上、100μm以下であることが好ましく、成膜時の膜欠陥を抑制する観点では、10μm以上、肥料成分の割合を高くするという観点では80μm以下であることがより好ましく、20μm以上、70μm以下であることがさらに好ましい。
【0019】
プレコート100重量%中の生分解性樹脂の含有量は特段制限されないが、オーバーコート層成膜時の被覆液のスプレーで起こる尿素の溶解影響を抑制する観点から、10重量%以上、100重量%以下であることが好ましく、20重量%以上、100重量%以下であることがより好ましく、30重量%以上、100重量%以下であることがさらに好ましい。
上記の含有量は、例えば、被覆粒状肥料をすりつぶした後、水で肥料成分を溶解し、ろ過した残渣を乾燥後に、生分解性樹脂を可溶な溶媒に浸漬し、再び濾過後の濾液を乾固させることで、生分解性樹脂の含有量を測定することができる。
【0020】
プレコートに含まれ得るワックスは特に制限はないが、ひまし油のような植物ワックスや動物ワックス、鉱物ワックス、もしくは石油ワックス等の天然ワックス、ポリエチレンワックス、又はフィッシャ-トロプシュワックス等の合成ワックス、さらにこれらのワックスを加工した配合ワックス、酸化ワックス、又はカスターワックスなどの水素化ワックス等が挙げられる。これらのワックスは単独でも、2種以上の混合物として用いることも可能である。
【0021】
プレコートの材料に含まれ得る無機質粒子は特に制限されず、例えば、後述する被覆材料に含まれ得るフィラーに記載の無機質粒子を使用することができる。
【0022】
下記の式から算出されるプレコート層の量(被覆率)は特段制限されないが、プレコート済み芯材(プレコート済み肥料)100重量%(肥料およびプレコートの合計重量100重量%)に対するプレコート層の含有量は、通常0.1重量%以上、20重量%以下であり、プレコート層の欠陥の発生を抑える観点では1重量%以上、20重量%以下であることが好ましく、肥料の有効成分の観点からは膜の量は小さい方がよく、1重量%以上、15重量%以下であることが好ましく、2重量%以上、15重量%以下であることが好ましく、2重量%以上、10重量%以下がことさら好ましい。このプレコート層の含有量は、プレコート層の厚みを間接的に評価するパラメーターとして扱うことができる。
プレコート層[重量%]=(プレコート材料重量/プレコート済み芯材重量)×100
【0023】
[被覆材料]
肥料を被覆する被覆材料の膜の態様は特段制限されず、本発明の効果が得られる限り、任意に設計することができる。肥料からの肥料成分の溶出を低減させることができればよいため、プレコート済みの肥料の表面の少なくとも一部、肥料の表面全体がプレコートで被覆されておらず肥料の表面が露出している場合には、好ましくは該露出部分の少なくとも一部が被覆されるように構成されていれば、被覆材料を構成する材料の種類は特段制限されない。
肥料からの肥料成分の溶出をより低減させることができる観点から好ましい被覆材料の態様を以下に説明する。
【0024】
被覆材料(肥料用被覆材料)は、OH基を有する樹脂とアルコキシシラン縮合物との脱水縮合物を含有することが好ましい。本明細書において、OH基を有する樹脂とアルコキシシラン縮合物との脱水縮合物とは、OH基を有する樹脂とアルコキシシラン縮合物との反応物(具体的には脱水縮合反応により得られる化合物)であり、OH基を有する樹脂に由来する構造とアルコキシシラン縮合物に由来する構造とを有する化合物である。
OH基を有する樹脂とアルコキシシラン縮合物の加水分解物との脱水縮合物を調製することにより、また、この材料で肥料を被覆することにより、アルコキシシラン縮合物由来のシラノール性OH基とOH基を有する樹脂が縮合し、その結果、単に混合したものより優れた耐水性を有するために、緩効性肥料として使用可能であること、かつ、肥料としての役目を終えた後には、分解され、土壌中にはシリカ、つまり砂しか残らない、環境にやさしい肥料が得られること、を本発明者らは見出した。
【0025】
(OH基を有する樹脂)
OH基を有する樹脂は、アルコキシシラン縮合物の加水分解縮合物に存在するOH基と反応して、Si-O-C結合を形成し、ケイ素と樹脂とが化学的に結合している状態となる樹脂であることが好ましい。従ってOH基としては、カルボキシル基又はアルコール性水酸基が好ましく、特に好ましくはアルコール性水酸基である。
【0026】
具体的な樹脂としては、生分解性を有するものが好ましい。具体的な生分解性の定義に関しては、1989年の生分解性プラスチック研究会により、「自然界において微生物が関与して環境に悪影響を与えない低分子化合物に分解されるプラスチックである」と定義された。この表現は曖昧であり、1993年のアナポリスサミットにおいて、「生分解性材料とは、微生物によって完全に消費され自然的副産物(炭酸ガス、メタン、水、バイオマスなど)のみを生じるもの」とされている。本明細書においては、生分解性とはこの定義を用いる。具体的に好ましい樹脂としては、ポリビニルアルコール樹脂、スターチ、セルロース、リグニン、キチン、キトサン、PBS(ポリブチレンサクシネート)、PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート)、PBAT(ポリブチレンアジテートテレフタレート)、PCL(ポリカプロラクトン)、デンプンポリエステル、酢酸セルロース、PHB(ポリヒドロキシブチレート)、PHBH(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート))、PHBV(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート))PLA(ポリ乳酸)、PGA(ポリグリコール酸)、PDO(ポリジオキサノン)及びそれらの共重合体からなる群より選択されるものがあげられる。このうちバイオマス原料からの製法が確立されているため、環境面を重視すればPBS(ポリブチレンサクシネート)、PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート)、PHB(ポリヒドロキシブチレート)、PHBH(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート))、PHBV(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート))などが好ましく、成膜のし易さの観点からはPBS(ポリブチレンサクシネート)、PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート)が好ましく、加熱融解して液として被覆する場合には低融点である点からPCL(ポリカプロラクトン)が好ましく、また自然物を利用できるという観点からは、スターチ、セルロース、リグニン、キチン、キトサンなどが好ましく、力がかかったときに壊れにくいという点からは、物理的特性に優れるPLA(ポリ乳酸)などが好ましいが、水酸基が多く、複合化(Si-O-C結合)のレベルの調節などが容易で特性の自由度が大きい点から最も好ましくはポリビニルアルコール樹脂である。これらの樹脂は変性品を用いてもよい。生分解性樹脂は単独で使用してもよく、2種類以上混合して使用してもよい。また、上記ポリマーを架橋して使用する事も可能である。
【0027】
ポリビニルアルコール樹脂(以下PVA系樹脂と記載することもある)は、ビニルアルコール構造単位を有する樹脂であれば、その具体的な構造は特に限定されず、典型的には酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステルモノマーを重合したポリカルボン酸ビニルエステルをケン化して得られるが、これに限られない。
前記PVA系樹脂としては、未変性PVA、変性PVA系樹脂が挙げられる。変性PVA系樹脂としては、PVA構造単位を供与するビニルエステル系モノマー以外のモノマーを共重合することにより合成される共重合変性PVA系樹脂であってもよいし、未変性PVAを合成した後に主鎖または側鎖を適宜化合物で変性した後変性PVA系樹脂であって
もよい。例えば、三菱ケミカル社製のゴーセノール(R)、ゴーセネックス(R)、ニチゴーGポリマー、クラレ社のクラレポバール、又はエルバノールが挙げられる。
【0028】
共重合変性PVA系樹脂に用いることができる共重合モノマー(不飽和単量体)としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、もしくはα-オクタデセン等のオレフィン類;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、もしくは5-ヘキセン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類もしくはそのアシル化物などの誘導体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、もしくはウンデシレン酸等の不飽和酸類もしくはその塩;モノエステル、もしくはジアルキルエステル;ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、もしくはメタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、もしくはメタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩;ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、もしくはジアリルジエチルアンモニウムブロマイド等の4級アンモニウム塩;酢酸イソプロペニル、もしくは1-メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類;又は、ポリエチレングリコールアリルエーテル、メトキシポリエチレングリコールアリルエーテル、ポリプロピレングリコールアリルエーテル、もしくはポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールアリルエーテル等のポリ(オキシアルキレン)基を有するアリルエーテル;等が挙げられる。
【0029】
また、共重合変性PVA系樹脂として、側鎖に一級水酸基を有するPVA系樹脂が挙げられる。かかるPVA系樹脂としては、例えば3,4-ジアセトキシ-1-ブテン、ビニルエチレンカーボネート、もしくはグリセリンモノアリルエーテル等を共重合して得られる側鎖1,2-ジオール変性PVA系樹脂;又は、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、もしくは1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシメチルビニリデンジアセテート;等を共重合し、ケン化して得られる側鎖にヒドロキシメチル基を有するPVA系樹脂が挙げられる。
後変性PVA系樹脂の後変性の方法としては、未変性PVAあるいは上記変性PVA系樹脂をアセト酢酸エステル化、アセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化、又はオキシアルキレン化する方法等が挙げられる。
【0030】
本実施形態では上記の未変性PVA、又は変性PVA系樹脂のいずれも使用できるが、未変性PVAの場合は完全ケン化品、変性PVA系樹脂の場合は側鎖に親水性に優れた官能基、例えばカルボン酸基やスルホン酸基などを有するアニオン変性基含有PVA、4級アンモニウム塩基などを有するカチオン変性基含有PVA、又はヒドロキシアルキル基やオキシエチレン基などを有するノニオン変性基含有PVAが好ましい。
【0031】
シラノール基と反応するOH基量を重視する場合には、後述するシリケートとの反応の高さから、未変性PVAが特に好ましい。シリケートとPVA溶液の相溶性を重視する場合には部分ケン化品を使用することが好ましく、又シリケートとPVAの結合性、すなわちSi-O-C結合を重視する場合には完全ケン化品が好ましい。
【0032】
通常PVA系樹脂のケン化度は70モル%以上であり、80モル%以上であることが好ましく、98モル%以上であることがより好ましい。また上限は通常100モル%以下であり、好ましくは99.8モル%以下である。ケン化度は、JIS K6726の滴定法で測定した値である。
PVA系樹脂の平均重合度は特段限定されないが、通常200以上、3000以下、好ましくは250以上、2800以下、特に好ましくは300以上、2600以下である。この範囲にすることにより、被覆された肥料の溶出が小さくなりすぎることを防ぎ、又被膜する膜が割れることを防ぎやすくなる。かかる平均重合度は水溶液粘度測定法(JIS
K 6726)で測定した値である。
【0033】
PVA系樹脂は、1種の樹脂のみを用いてもよく、2種以上の樹脂をブレンドして用いてもよい。この場合、構造単位が異なるものであってよく、ケン化度が異なるものであってよく、平均重合度が異なるものであってもよい。ブレンドして用いる場合のケン化度、平均重合度などは、全てのPVA系樹脂の平均値が上記の範囲内であればよい。
【0034】
また、PVA系樹脂は部分的に変性されていてもよい。変性されている場合、PVA系樹脂の変性率は、当該樹脂粒子10gを20℃の水100gと混合し、撹拌により分散させた後、撹拌下1℃/分で90℃まで昇温し、60分以内に90重量%以上溶解する範囲が好ましい。
変性の種類はOH基を有する限り特段限定されないが、水中で強い酸又は塩基性有する基を導入する場合には、シリケートとの複合の過程で触媒的な影響を示さない範囲の変性量とすることが好ましい。
【0035】
肥料用被覆材料(又は、脱水縮合物)の全重量に対するOH基を有する樹脂に由来する成分(構造)の重量の割合は、膜の透湿度が低い肥料用被覆材料が得られやすい観点から、通常1重量%以上であり、4重量%以上であることが好ましく、6重量%以上であることが好ましく、35重量%以上であることがより好ましく、45重量%以上であることがさらに好ましく、また、通常85重量%以下であり、82重量%以下であることが好ましく、75重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましく、65重量%以下であることがさらに好ましい。
【0036】
(アルコキシシラン縮合物の加水分解縮合物)
アルコキシシラン縮合物の加水分解縮合物は、OH基を有する樹脂と結合して、Si-O-C結合を生成する。
アルコキシシラン縮合物とは、アルコキシシランを加水分解縮合した化合物を示す。
アルコキシシランは、アルコキシ基を有するシランであれば特段限定されず、アルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、もしくはブトキシ基等の炭素数1~10の脂肪族アルコキシ基、又はフェノキシ基、もしくはアリールオキシ基等の炭素数6~15の芳香族アルコキシ基が挙げられる。加水分解反応制御がしやすい点から、炭素数1~4の脂肪族アルコキシ基が望ましい。
アルコキシシランとしては、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、又はテトラアルコキシシランが挙げられる。加水分解及び縮合を行った際に水蒸気を透過しにくいシロキサン結合が多く含まれるテトラアルコキシシランが好ましい。テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、又はテトラキス(2-エチルヘキシロキシシラン)等が挙げられ、アルコキシシラン縮合物が含むアルコキシシランは、1種類であっても、2種類以上であってもよいが、2種類以上であることが好ましい。
これらアルコキシシラン単量体を原料に用いる場合、加水分解反応は縮合反応の制御が困難であるため、予め加水分解縮合反応をさせたアルコキシシラン縮合物を用いることが好ましい。
アルコキシシラン縮合物は、例えば、以下の式(2)に記載の構造式を有する、シロキサン結合鎖とアルコキシ基を有する物質となっている。
【0037】
【0038】
ここで、式(2)において、複数のRは、それぞれ独立して、炭素鎖1~10のアルキル基又は炭素数6~15の芳香族を表す。この中でも触媒種等によって反応を制御しやすい炭素数1~4のアルキル基が好ましく、加水分解反応速度が速く、より制御しやすいメチル基が特に好ましい。nは繰り返し構造単位であり、特に制限はないが、2以上、10以下であることが好ましく、2以上、8以下であってもよく、2以上、5以下であってもよい。この範囲であることによって加水分解重縮合物を生成し、OH基を有する樹脂の溶液と混合したときに相溶性が向上する。ОH基を有する樹脂との反応性制御の観点から、原料として使用するアルコキシシラン縮合物そのものにOH基は殆ど存在しない方が好ましい。アルコキシシラン縮合物中のОHについては、1H NMR等で分析できる。例えば、繰り返し構造単位が3~5のメトキシシランの縮合物の場合、重ジメチルスルホキシド溶媒(以下、DMSO-d6)を用いて1H NMR分析を行うと、δ=3.4ppm付近にメトキシ基のピークが現れ、OH基を有していればδ=8.0~6.0ppm付近にブロードピークが現れる。このアルコキシ基のピークに対するOH基のピークの積分比が小さいほどOH基量は少ないことが分かる。アルコキシ基の積分値100に対して、OH基の積分値が(0.1)以下であれば、アルコキシシランの縮合物は自己縮合せず安定に存在し、反応性も変化しない。
このようなアルコキシシラン縮合物としては、例えば三菱ケミカル株式会社製MKC(登録商標)シリケート等を用いることができる。
本実施形態ではこのアルコキシシラン縮合物の加水分解物を、OH基を有する樹脂を含む溶液と組み合わせ混合し、被覆し、乾燥することで性能を発揮する。加水分解前のアルコキシシランを、OH基を有する樹脂を含む溶液に加え、OH基を有する樹脂の存在下で加水分解縮合する方法もあるが、OH基を有する樹脂がアルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応を阻害し、OH基を有する樹脂とSi-O-C結合を生成するためのシラノール基が十分に生成されない恐れがある。また、OH基を有する樹脂を含む溶液が水を多く含む場合、アルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応の制御が困難であり、且つ加水分解反応に水が消費されることでOH基を有する樹脂が析出する恐れがある。本発明では安全性が高く、加水分解反応及び縮合反応の制御がしやすいアルコキシシラン縮合物を触媒存在下で加水分解及び縮合した加水分解重縮合物と、OH基を有する樹脂を含む溶液と、をそれぞれ用意し、混合することによって、より反応性に富んだ複合液を作ることが出来る。
【0039】
膜の柔軟性や強度等を付与するために膜を構成するアルコキシシラン縮合物の加水分解物と、OH基を有する樹脂の他に第三成分を加えることができる。第3成分はアルコキシシランの縮合物を加水分解する際にアルコキシシラン縮合物の加水物と加水分解・縮合反応によって結合することができるアルコキシシランを用いることが好ましい。アルコキシシランとしては、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、又はモノアルコキシシランが挙げられるが、加水分解縮合物のシロキサン結合の欠陥が少なく、柔軟性を付与する観点からトリアルコキシシランが最も好ましく、特に下記の式(1)で表される構造を有することが好ましい。つまり、被覆材料が、前記アルコキシシラン縮合物として、少なくとも式(1)で表される構造を有する化合物を含むことが好ましい。
【0040】
【0041】
ここで、式(1)において、複数のR1は、それぞれ独立して、炭素鎖1~10のアルキル基又は炭素数6~15の芳香族を表す。R2は、水素原子、ハロゲン原子、又は1価の有機基を表す。1価の有機基は特段制限されず、例えば、炭素鎖1~10のアルキル基、炭素数6~15の芳香族、イソシアネート基、ハロゲン化アルキル基、ウレア基、アミノ基、ビニル基、グリシジル基、エポキシ基、アリル基、アリール基、メタクリレート基、シクロヘキシル基、アジド基、メルカプト基、カルバミン酸、アンモニウム塩、コハク酸無水物、ホスフィン誘導体、ナフタレン誘導体、ピリジン誘導体等が挙げられ、目的とする性能に応じて選択できる。炭素鎖は、直鎖構造又は分岐鎖構造を有してもよい。これらの官能基は、ルボルネンのような架橋構造を有してもよい。この中でも、式(1)で示される化合物は、環境への負荷が少ない官能基が好ましく、膜の柔軟性や入手し易さから、メチルトリメトキシシランであることが好ましい。
【0042】
肥料用被覆材料で被覆することによる肥料の早期の溶出を抑制することにある観点から、低架橋性成分であるモノアルコキシシラン、又はジアルコキシシランは機能性付与のための添加剤として使用し、複合体粒子中のOH基を有する樹脂成分の膨潤や溶解を助長しない最小限の量とすることが好ましい。
【0043】
アルコキシシラン縮合物は溶媒中では加水分解し、加水分解重縮合物として三次元シロキサン架橋構造を形成することが好ましく、また、アルコキシシランの縮合物は低縮合物であってもよい。ここでいう低縮合物とは、アルコキシシランの2~10量体程度のオリゴマーを意味し、2~8量体程度のオリゴマーであってよく、2~5量体程度のオリゴマーであってよい。溶媒としては、通常メタノール、エタノール、又はプロパノール等の炭素数1~4の低級アルコールや、これらと水との混和物などが用いられる。
【0044】
肥料用被覆材料に含有されるアルコキシシランの加水分解重縮合物を有する成分(構造)は、肥料用被覆材料の全重量に対するSi含有量として、SiO2換算で、通常20重量%以上であり、40重量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは50重量%以上であり、また通常95重量%未満であり、93重量%以下であることが好ましい。ここでいうSiO2換算とは、下記式(3)のとおり、アルコキシシラン縮合物の分子量と使用量、アルコキシシラン縮合物の加水分解物の分子量と生成量、アルコキシシラン縮合物の加水分解物が全て縮合しSiO2となったときのSiO2分子量からSiO2換算の重量が求められる。これらのSi含有量は、肥料用被覆材料の全重量に対するSi含有量として採用することもできる。
【0045】
【0046】
肥料用被覆材料の全重量に対するSiO2含有量は後述するFT-IRの分析に用いる抽出膜の処理を経て、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置などで定量することが可能である。
【0047】
得られた肥料用被覆材料はSi-O-C構造(結合)を有する。このSi-O-C構造は、フーリエ変換赤外分光法により確認することが可能である。
フーリエ変換赤外分光法(以下、FT-IR)において、Si-O-C構造を有していることの確認方法は、以下のとおりである。FT-IR測定を行うと、1500~1200cm-1の領域に各原子団の振動モードが現れる。日立評論、第43巻、第5号、90-94(S36.5)によれば1430cm-1±30cm-1及び1326cm-1±25cm-1にはPVA中のOH基の変角振動と他の振動のカップリングが現れる。シリケートには2000cm-1から1300cm-1の間の領域にピークはない。このことから複合膜において、Si-O-C構造ができるとOH基が減り、他の振動とのカップリングが減少するので、このピークが減少または消失することがわかる。
【0048】
測定方法は透過法、又は反射法があるが、反射法が好ましく、反射法の中でも測定する試料の形状等に影響されないATR法が特に好ましい。ATR法で測定する場合、使用するプリズムに測定可能な波数範囲の点から、ダイヤモンドプリズムが最も好ましい。
FT-IRで分析するとき、1回の測定で積算しデータを得ることが出来る。積算を行うことで得られるスペクトルの精度が向上し、信頼性の高い値を得ることが出来る。積算の回数は2のn乗で行われる。回数に特に制限はないが、好ましくは64回以上、特に好ましくは128回以上である。
【0049】
また、測定するスペクトルの分解能を設定することが好ましい。分解能は設定する値が小さいほどスペクトルの精度が向上し、信頼の高い値を得ることが出来る。分解能の設定値は4cm-1以下である。
FT-IRは測定対象物を測定する時にバックグラウンド測定を行うことが好ましい。バックグラウンド測定とは空気中の水蒸気や二酸化炭素などの吸収成分を差し引くための補正のことを言う。これにより空気中の水分や二酸化炭素による測定誤差をなくすことができる。バックグラウンド測定は測定前に行う。
FT-IRで得られるスペクトルは位相補正する。位相補正は測定時にFT-IRのソフトウェアによって自動的に補正される。位相補正の方法は特に制限されないが、絶対値法、掛け算法、コンボルーション法、マニュアル法などが挙げられ、測定するサンプルの特徴に合わせて方法を選択することが出来る。例えば、Thermo Fisher Scientific社の装置iN10MXであれば、Mertz法もしくはPower Spectrum法を選択することが出来る。明らかにおかしい結果が出ていない限り、通常はMertz法を用いる。
【0050】
FT-IRで得られるスペクトルの強度は吸光度で表示する。
FT-IRで得られたスペクトルが吸光度で現れる場合、ベースライン補正を行う。これは得られたスペクトルのベースラインが乱れている場合、正確なピーク強度比や面積値が得られなくなるためである。ベースライン補正の方法は特に制限はなく、得られたスペクトルに応じて適切な方法が用いられる。例えばThermo Fisher Scientific社のソフトウェアOMNIC(Versionsion.8.3以降)であれば、得られたスペクトルを解析し、最も好ましい補正方法が自動で選択される。該当ソフトウェアでは線形(一次)補間法、3次スプライン補間法(スプライン)、多項式補間法が選択できる。
【0051】
FT-IRで得られたスペクトルはスムージング(平滑化)を行う。これは後述するピーク分離を実施する際、スペクトルの微小な乱れをピークと検知しないようにするためである。スムージングを行うことで微小な乱れを整えることができ、より精度の高いピーク分離計算を行うことが出来る。スムージングの方法は特に制限はなく、単純移動平均法、Sacutzkey-Golay法などが挙げられ、得られたスペクトルや、自動化の場合は使用するソフトウェアに応じて適切な方法が用いられる。例えばThermo Fisher Scientific社のソフトウェアOMNIC(Version.8.3以降)であれば、得られたスペクトルを解析し、最も好ましい範囲が自動で選択される。また、該当ソフトウェアではスムージングを行う際の波数の間隔を指定することが出来る。指定する波数の間隔が小さいと元のスペクトルの形状を維持したスムージングが行われるが、スペクトルラインが十分に平滑化されない。逆に指定する波数の間隔が大きいとスペクトルラインがより平滑になるが、元のスペクトルの形状から変化してしまう。このため、適切な間隔を指定してスムージングを行うことが重要である。指定する間隔は9.642cm-1以上、48.212cm-1以下が好ましいが、ノイズや不純物等の影響が大きいとみられる場合には13.499cm-1以上、28.927cm-1以下の範囲とすることでスペクトルピークを損なうことなく平滑化できる。
【0052】
FT-IRで得られたスペクトルのピークはピーク分離を行う。これはピークの重なりによって実際のピーク強度が高くなり正確な評価が出来なくなることを防ぐことができ、また後述する分離したピークの面積比からSi-O-C結合を算出することが出来るためである。ピーク分離の方法や手法は様々であり、ソフトウェアを用いて自動で算出することも可能である。本明細書ではThermo Fisher Scientific社のソフトウェアOMNIC(Version.8.3以降)を使用してピーク分離を行った。
【0053】
該当ソフトウェアでピークを検出する際、分離する波数を指定する。指定範囲はベースラインを引くために用いた範囲を使用すればよく、4000cm-1から400cm-1の範囲が使用される。この範囲でのベースラインが不適切と思われる場合には、2000cm-1から800cm-1の範囲を用いる。また、指定した範囲でピークを検出する際、検出するピークの初期値を設定する。通常半値幅3.857に設定し指定した範囲でピーク検出を行う。この時、ベースラインの乱れが原因で検出されたピークについては取り除いてもよい。
【0054】
ピーク検出に用いる分布関数は通常Voigtを使用するが、状況によってGaussian、Lorentzian、Gaussian・Lorentzian、Log Normalが使用される。また、設定された半値幅でピークを検出する感度を設定することが出来る。通常、余分なピーク検出を防ぐために感度は装置に付帯したプログラムを用いて低感度に設定して行うが、ピークが検出されない場合、中感度、高感度を設定することが出来る。検出されたピークを用いてピークフィッティングを行う。この時、元のスペクトルと得られる合成スペクトルの標準偏差値の許容範囲をあらかじめ設定して計算する
ことが出来る。この許容範囲をノイズとして扱う。ノイズは1から10まで設定することが出来、値が大きいと標準偏差値が大きい、すなわち得られるスペクトルと元のスペクトルの相違が大きくなり、値が小さいと標準偏差値が小さい、すなわち得られるスペクトルと元のスペクトルが一致したスペクトルを得やすくなる。ノイズの設定値は通常10であるが、標準偏差値が大きいときは値を小さくしてもよい。
【0055】
また、ピークフィッティングの際にベースラインの補正を行うこともできる。通常1次(線形)補正を行うが、得られるスペクトルによって2次補正、3次補正を行うことが出来る。使用するソフトウェアでは計算の繰り返しを行い計算するので、計算1回目で得られた合成スペクトルの標準偏差値が基準より大きい場合でも同じ条件で再度計算を行うことで、より元のスペクトルに近い合成スペクトルを算出する。ここで合成スペクトルとは計算された単離スペクトルの合算によって得られるIRスペクトルのことを指す。繰り返し計算を行っても標準偏差値が基準を上回る場合、検出するピークの半値幅が異なっている場合があるので、半値幅の値を変更し、再度ピーク検出を行い、ピークフィッティングを繰り返し行い標準偏差値が基準値以下になるまでこの作業と計算を繰り返す。標準偏差値は1.5以下が好ましいが、可能な範囲で小さい値にした方がよいため、1.0以下、0.7以下と試し、分離したピークがベースラインを乱すような状況が表れない範囲で下げ、最も好ましいのは0.5以下である。
【0056】
通常、本実施形態で使用するソフトウェアはVersion.8.3以降のOMINICであるが、半値幅を設定することでピーク検出し計算できるソフトウェアであれば用いることが出来る。
【0057】
FT-IRで測定するサンプルは測定する方法によって異なるが、被覆粒状肥料の状態か、摘出した膜のみの状態(又は、肥料用被覆材料の状態)か、被覆粒状肥料を製造したときと同条件で作製した単独膜を使用して測定することが出来る。早急に測定する必要がある場合は被覆粒状肥料の状態で測定し、精度高く分析する必要がある場合は摘出した膜のみの状態もしくは単独膜で測定することが好ましい。被覆粒状肥料の状態で測定する時は、そのまま測定しても、測定前に乾燥処理を施してもよい。乾燥する温度は特に定めていないが、膜中のSi-O-C結合量に影響を与えないことが好ましく、120℃以下が好ましい。
【0058】
乾燥時間は乾燥温度によって適宜変えることが出来る。抽出した膜のみを測定する場合、膜を抽出する方法は特に制限はないが、削り出しもしくは水中に被覆肥料を入れ、肥料成分を溶解させた後、洗浄および乾燥する方法がある。削り出しは鋭利な刃物等で被覆粒状肥料の表面を削り、膜を取り出す方法である。もう一方は被覆粒状肥料を水中に入れ、肥料成分を溶解させて膜のみを取り出す方法である。この時、溶解の効率を高めるため、水を加温してもよい。尿素を溶解する水の温度は、膜中のSi-O-C結合量に影響を与えない温度であればよく、効率性および作業性の観点から20~60℃程度が好ましい。
【0059】
抽出した膜は残った肥料成分を除去するために水で洗浄されることが好ましい。通常は水で洗浄するが、有機溶媒を用いて洗浄することが出来る。有機溶媒はアルコールやアセトン、またはヘプタンなどの脂肪族炭化水素などが挙げられるが肥料成分を洗い出すことが出来れば特に制限はない。また、これらの溶媒を混合して使用することもできる。洗浄に使用する溶媒の量に制限はなく、測定時に肥料成分由来のスペクトルが検出されない程度が好ましい。洗浄後、膜中の水分を除去するために乾燥を行うことが好ましい。乾燥温度は膜中のSi-O-C結合量に影響を与えず、且つ膜中の水分を除去できる温度であればよく、特に限定はされないが、80~60℃程度が好ましい。
【0060】
複合膜において1050cm-1±25cm-1に現れるSi-O-Si結合の伸縮振
動のピーク面積と1430cm-1±30cm-1または1326±25cm-1付近のピーク面積を比較することでSi-O-C結合を確認することが出来る。この時、各ピークトップの波数は測定条件やサンプルの状態によってずれることがある。使用するピーク面積は標準偏差値1.0以下の合成スペクトルより計算した単離ピークの面積値で比較することが出来る。スペクトルピークの比をPVA/Si-O-Siとしたとき、用いるPVAのピークは通常1430cm-1のピークを用いるが、ピーク面積は変わらないので1326cm-1のピークを用いても問題ない。PVA/Si-O-Siの値が小さいほどSi-O-C結合が多く生成されていることを意味し、その値は0.9以下が好ましく、0.7以下がより好ましく、0.3以下が特に好ましく、0.1以下が最も好ましい。
【0061】
FT-IRにおいて、1430cm-1±30cm-1または1326cm-1±25cm-1のピークが検出されない場合や、ベースラインの乱れやスペクトルのノイズの影響が大きく、正確な値を得ることが出来ない場合は、1H核磁気共鳴分光法(以下、1H
NMR)を用いることで、この問題を解決することが出来る。
通常、溶液1H NMRでは溶解した化学種に起因するピークが観測され、不溶な成分のピークは観測されない。また、PVAのOHとSi-OHが共有結合を介して結合した場合、三次元網目構造を形成するためあらゆる溶媒に不溶となる。従って、PVAのOHとSi-OHが共有結合を介して結合した場合、溶液1H NMRにおいてPVA中の1Hに起因するピークが観測されなくなる、または複合膜中のPVAの量から期待されるピーク強度よりも弱く観測される。
【0062】
測定を行うための測定対象物の形態は、測定形態が溶液であることから、あらかじめ被覆粒状肥料から肥料成分を抜き出した状態、すなわち膜を抽出することまたは被覆粒状肥料を製造したときと同条件で作製した単独膜が望ましい。膜の抽出方法及び単独膜の作製方法はFT-IRでの記載と同様で、膜を抽出する方法は特に制限はないが、削り出しもしくは水中に被覆肥料を入れ、肥料成分を溶出させた後、洗浄および乾燥する方法がある。削り出しは鋭利な刃物等で被覆粒状肥料の表面を削り、膜を取り出す方法である。もう一方は被覆粒状肥料を水中に入れ、肥料成分を溶解させて膜のみを取り出す方法である。この時、溶出の効率を高めるため、水を加温してもよい。尿素を溶解する水の温度は膜中のSi-O-C結合量に影響を与えない温度であればよく、効率性・作業性の観点から20~60℃程度が好ましい。
【0063】
この範囲にすることで膜中のSi-O-C結合量に与える影響を小さくすることが出来る。抽出した膜は残った肥料成分を除去するために水で洗浄されることが好ましい。通常は水で洗浄するが、有機溶媒を用いて洗浄することが出来る。有機溶媒はアルコールやアセトン、またはヘプタンなどの脂肪族炭化水素などが挙げられるが肥料成分を洗い出すことが出来れば特に制限はない。また、これらの溶媒を混合して使用することもできる。洗浄に使用する溶媒の量に制限はなく、測定時に肥料成分由来のスペクトルが検出されない程度が好ましい。
【0064】
洗浄後、膜中の水分を除去するために乾燥を行うことが好ましい。乾燥温度は膜中のSi-O-C結合量に影響を与えず、且つ膜中の水分を除去できる温度であればよく、特に限定はされないが、60~80℃程度が好ましい。
【0065】
1H NMRで測定する際に使用する重溶媒は、複合膜が可溶であれば特に制限はないが、通常は非プロトン供与性である重ジメチルスルホキシド溶媒を使用する。この溶媒を使用することで膜由来のスペクトルピークと重なることがなく、測定を行うことが出来る。測定対象物と重溶媒の比は複合膜100重量%に対し、重溶媒1900重量%である。後に積分規格化を行うため、このサンプリングで得られる重量は重要であり、重量は可能な限り統一されることが好ましい。
【0066】
1H NMRで測定する際は、得られるスペクトルは積算されていることが好ましい。これは積算を行うことでスペクトル上のノイズを減少させ、より平滑で精度の高いスペクトルを得ることが出来るためである。積算は通常2のn乗の数値で実施される。積算回数に制限は特になく、回数を重ねるほどより精度の高いスペクトルを得ることが出来る一方で、測定に時間がかかるという問題も発生するので、状況に応じて適切な回数を指定することが重要である。好ましくは2回以上、128回以下で、より好ましくは4回以上、128回以下、最も好ましいのは8回以上、128回以下である。
【0067】
1H NMRで測定する際は、測定精度を上げるため,次パルスを照射するための待ち時間(Relaxation Delay、以下、RD)を設定する必要がある。これは磁化が励起後、熱平衡状態に戻る必要があり、早いと十分に熱平衡状態に戻らないまま次の測定が始まってしまうため、適切な時間を設定することが望ましい。通常5秒であるが、より精度の高いスペクトルを得る場合はこれより長い時間かけてもよい。
【0068】
PVAのOHに起因するピークの積分規格化を行うために、測定サンプルを作製するときに基準物質を添加する必要がある。基準物質は複合膜や複合膜の原料のスペクトルに重複せず、使用する重溶媒に溶解する必要があり、不揮発性であればより好ましい。例えばN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ベンゼン、ベンズアルデヒド、アセトニトリル、クロロホルム、ジエチルエーテル、メチルエチルケトン(MEK)、ヘプタン、ヘキサン、2-プロパノール、ピロール、トルエン、トリエチルアミン(TEA)、ジメチルアセトアミド、グリース、ヘキサメチルベンゼン(HMB)、イミダゾール、ヘキサメチルリン酸トリアミド、又はピリジンなどが挙げられる。
【0069】
複合膜に含まれるPVA中のOH基に起因するシグナルの積分値が、複合膜中に含まれるPVAと同じ質量のPVA単独のOH基に起因するシグナルの積分値に対し、50%以下になっていることが好ましく、40%以下がより好ましく、30%以下が特に好ましく、20%以下が最も好ましい。この値になることで被覆粒状肥料の水中での急激な溶出を抑えることが出来る。
【0070】
また、Si-O-C結合が生成しているか確認する方法として、膜を溶媒に浸漬し、一定時間後に膜を取出し、浸漬に使用した溶媒を蒸発する方法がある。溶媒はアルコキシシラン縮合物の加水分解物と反応していない樹脂(以下、未反応のOH基を有する樹脂)が溶解すれば制限はなく、例えばPVAを用いた場合、未反応のPVAは水に溶解する。一方で、アルコキシシラン縮合物の加水分解物とPVAが反応し、Si-O-C結合ができると膜を水に浸漬しても膜は水に溶解しない。このことから、膜を浸漬した溶媒を取出し、予め重量を測定した蒸発皿等に移し、温度をかけて蒸発乾固させた後の重量差を見ることで未反応のOH基を有する樹脂の存在を確認できる。
未反応のOH基を有する樹脂を確認する方法として、基材上に製膜した材料を基材ごと水に浸漬させる方法、シャーレなどを用いて基材上に製膜した材料と同じ乾燥条件で作製した単独膜を水に浸漬させる方法、または、被覆材料を用いて作製した被覆粒状肥料の場合は、肥料成分のコンタミを避けるために肥料成分を取り除く等をして膜のみを摘出した状態で確認する方法がある。
膜を浸漬するときに使用する溶媒はOH基を有する樹脂が溶解すれば特に制限はないが、PVAの場合は容易に溶解することから水が好ましい。膜が完全に溶媒中に浸漬し、且つ膜中の未反応のOH基を有する樹脂が溶出すれば、使用する溶媒の量について特に指定はない。溶媒中に膜を浸漬させる時間は特に指定はないが、浸漬時間が短いと未反応のOH基を有する樹脂が十分溶媒中に溶出しない可能性があるので、30分以上浸漬することが好ましい。この時、作業の効率性のために溶液を攪拌したり、加温したりしてもよい。膜中の、未反応のOH基を有する樹脂を溶解させる温度は使用する溶媒の沸点以下、且つ膜中のSi-O-C結合生成に影響を与えない温度であればよく、作業性および効率性の観点から20~60℃が好ましい。
膜中の未反応のOH基を有する樹脂を溶媒中に溶解させたら、溶媒に溶解しなかった膜を取り出す。膜の取り出し方は、溶媒に溶解しなかった膜が溶媒中に残っていなければよく、ピンセット等で取り出す方法でも、溶液をシリンジで抽出した後、シリンジフィルターを接続して溶液と残存膜を分ける方法でも、吸引濾過を用いて未反応のOH基を有する樹脂が溶解している溶媒と膜を分ける方法でもよい。
未反応のOH基を有する樹脂が溶解した溶媒を蒸発乾固し、蒸発乾固後の、未反応のOH基を有する樹脂と容器の総重量から、容器の重量を除き未反応のOH基を有する樹脂の重量を得る。この時、蒸発乾固に用いる容器に特に指定はないが、効率性から時計皿や磁性るつぼ等が挙げられる。未反応のOH基を有する樹脂が溶解した溶媒を入れた容器から、溶媒を完全に除去するために熱をかける必要があるが、容器に熱をかけることが出来れば特に方法について指定はない。温度は溶媒が蒸発し、且つOH基を有する樹脂が分解しない温度が好ましい。作業性・効率性の観点から120℃以下が好ましい。水を蒸発乾固することで得られるアルコキシシランの縮合物加水分解物と反応しなかったOH基を有する樹脂は、最初に浸漬した膜の重量100質量部に対して50質量部以下であることが好ましい。この範囲であることによって、Si-O-C結合が膜中に十分存在していることが分かる。
【0071】
肥料用被覆材料の全重量に対する上記の脱水縮合物の重量の割合は、膜の透湿度が低い肥料用被覆材料が得られやすい観点から、通常50重量%以上であり、55重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることが好ましく、65重量%以上であることがより好ましく、70重量%以上であることがさらに好ましく、また、100重量%であってもよく、100重量%以下であってもよく、95重量%以下であってもよく、90重量%以下であってもよく、80重量%以下であってもよい。
【0072】
被覆粒状肥料における肥料用被覆材料膜(プレコート層は含まれない)の量(被覆率)は、芯材の形状や大きさによって異なるが、被覆粒状肥料100重量%に対する肥料用被覆材料膜の含有量は、1重量%以上、20重量%以下であることが好ましく、膜の欠陥の抑制の観点と肥料の有効成分を大きくする観点から特に2重量%以上、15重量%以下であることが好ましく、さらに2重量%以上、10重量%以下であることが好ましい。上記の被覆率は、下記算式により算出される。この被覆材料膜の含有量は、被覆材料膜の厚みを間接的に評価するパラメーターとして扱うことができる。
被覆率[重量%]=(被膜材料重量/被覆粒状肥料重量)×100
また、被覆材料は、プレコート層の欠陥部分(プレコート層が覆われておらず、肥料が露出している部分)に被覆されていることが好ましく、プレコート層被覆肥料の表面全部を覆うように被覆されることがより好ましい。被覆粒状肥料全体としてみれば、肥料の表面について、プレコート層および被覆材料からなる膜のいずれにも被覆されていない部分が存在しないことが好ましい。
【0073】
被覆粒状肥料における肥料用被覆材料膜(プレコート層は含まれない)の厚みは特段制限されないが、溶出を抑制するために2μm以上、100μm以下であることが好ましく、成膜時の膜欠陥を抑制する観点では、3μm以上、肥料成分の割合を高くするという観点では80μm以下であることがより好ましく、5μm以上、50μm以下であることがさらに好ましい。
【0074】
また、本発明の効果を損なわない範囲において、無機物や有機物のフィラー等のその他の成分が膜中に含まれていてもよい。例えば、前記フィラーとしては、タルク、マイカ、もしくはハイドロタルサイト等の板状フィラー、炭酸カルシウム、シリカ、クレー、各種鉱石粉砕品、又は硫黄等が挙げられる。本段落以降、単に「膜」という場合には、特段の
断りがない限り、肥料用被覆材料膜およびプレコート層(膜)のいずれをも対象とする。
【0075】
また、フィラー以外のその他の成分としては例えば、界面活性剤や多糖類およびその誘導体等の有機物質が挙げられる。これらは上記反応に影響しない範囲で添加することができる。界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、もしくはエチレングリコールとプロピレングリコールの共重合によるポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール等の水溶性物質、ポリエチレングリコール-アルキルエーテル、もしくはポリエチレングリコール-分岐アルキルエーテル等のエーテル型ノニオン系界面活性剤、ポリエチレングリコール-アルキルエステル、もしくはポリエチレングリコール-分岐アルキルエステル等のエステル型ノニオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤、又はこれらの混合物等が挙げられる。多糖類またはその誘導体としては、例えばセルロース、寒天、デンプン、キチンとその誘導体、およびキトサンとその誘導体が挙げられ、これらの中でもデンプンは安値で好ましい材料である。デンプンとしては、トウモロコシ、タピオカ、小麦、馬鈴薯、米、甘藷など由来のものが使用できる。また、これらのデンプンは加工したα化デンプン等の加工デンプンを用いてもかまわない。また、デンプン表面をシリコーン樹脂等で処理して、分散性や流動性を改良したデンプン等も使用できる。これらの界面活性剤、多糖類またはその誘導体は、単独でも使用できるし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0076】
上記フィラーの粒径は、100μm以下が好ましく、1μm以上、50μm以下がより好ましい。粒径が上記の範囲であると、粒径が大きすぎて製膜時に被膜が剥離したり、被膜材料溶液が噴霧ノズル等に詰まる等の問題も起きにくい。フィラーは、粒径が被膜の厚みより大きくて被膜表面から一部分が突出する場合でも、被膜に一部分が取り込まれて接着している状であれば、所期の目的は達成される。粒径の測定は、例えば前記レーザー回折式粒度分布測定装置等の公知の方法を用いればよい。被膜材料が上記フィラー等を含む場合、その割合は特に限定されるものではないが、被膜材料100重量%に対して、0.1~70重量%が好ましく、1~60重量%がより好ましい。被膜材料が上記界面活性剤や多糖類およびその誘導体等のフィラー以外のその他の成分を含む場合、その割合は特に限定されるものではないが、被膜材料100重量%に対して、0.01~60重量%が好ましく、0.1~50重量%がより好ましい。
【0077】
このほかに、被膜材料として、被膜中の樹脂を分解するなどの目的のために、種々の有機金属化合物や金属酸化物を用いてもよい。用いることのできる有機金属化合物としては、例えば有機金属錯体や有機酸金属塩等が挙げられる。光分解性の優れた金属としては、コバルト、鉄、マンガン、又はセリウムなどが挙げられる。入手の面では、鉄錯体やカルボン酸鉄が好ましい。例えば、鉄錯体としては、鉄アセチルアセトナート、鉄アセトニルアセトネート、もしくは鉄のジアルキルジチオカルバメート、ジチオホスフェート、キサンテート、又はベンズチアゾール等が挙げられる。また、カルボン酸鉄としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、又はリノレイン酸等の鉄化合物が挙げられる。金属酸化物としては、酸化チタン、又は酸化亜鉛などが挙げられる。これらは単独で添加してもよいし、2種以上を組み合わせて添加してもよい。被膜材料中の有機金属化合物の含有率は、好ましくは0.0001~1重量%、より好ましくは0.001~0.5重量%である。含有率が上記の範囲であると、製品保管中に被膜の崩壊または分解が起きにくく、施用時には所期の効果が得られやすい。また、その他生分解促進剤や抑制剤を添加することもできる。
【0078】
本実施形態に係る被覆粒状肥料における被膜は、本発明の効果を阻害しない範囲において、さらに他の被覆層(前述したプレコート層を除く)を含んでもよい。例えば、最表層
に微量要素等の肥料成分や肥効増進剤、農薬成分等を含有させた被膜、耐機械性を付与した被膜、水田等の湛水条件下における浮上を抑制するための被膜、又は被膜全体の分解性を制御する被膜等のような層を形成させることができる。
【0079】
[肥料]
被覆粒状肥料において、芯材として用いることのできる粒状肥料としては、通常は肥料成分として窒素、リン酸、又は加里を1種以上含むものであり、具体的には窒素質肥料、リン酸質肥料、加里質肥料のほか、必要によって植物必須要素のカルシウム、マグネシウム、硫黄、鉄、マンガン、モリブデン、銅、亜鉛、もしくはほう素等の微量要素、又はケイ素等を含有する肥料を挙げることができる。また、硝化抑制剤、ウレアーゼ阻害剤、又は農薬成分等を含む肥料でもよい。これらの中でも、水溶解度が大きく環境流出しやすい硫酸アンモニア、尿素、もしくは硝酸アンモニア等を含む窒素質肥料や硫酸加里、塩化加里等を含む加里質肥料、尿素、アンモニア性窒素、又は硝酸性窒素を含む化成肥料等が好ましく、肥料成分当たりの単価が安い尿素がより好ましい。
【0080】
粒状肥料は、上記の通り、窒素、リン酸、又は加里等の肥料成分を1種以上含有するものであればよいが、本発明の効果を損なわない範囲であれば上記以外の成分として、クレー、カオリン、タルク、ベントナイト、又は炭酸カルシウム等の担体や、カルボキシメチルセルロースナトリウム、又は澱粉類等の結合剤を含有するものであっても構わない。また必要に応じ、例えばポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等の界面活性剤や廃糖蜜、動物油、植物油、水素添加油、脂肪酸、脂肪酸金属塩、パラフィン、ワックス、又はグリセリン等を含有したものであっても構わない。
【0081】
<被覆粒状肥料の製造方法>
上記の被覆粒状肥料を製造する方法は、特段限定されないが、例えば、生分解性樹脂を含む溶液を準備し、得られた溶液を肥料へ吹き付け、乾燥してプレコート被覆肥料を得るプレコーティング工程、及び前記プレコート被覆肥料に被覆材料からなる膜を設けるコーティング工程、を含む、方法により製造することができ、前記コーティング工程は、アルコキシシラン縮合物を含む溶液とOH基を有する樹脂とを含む溶液とを混合し、得られた被覆液を肥料へ吹き付け、乾燥する工程、であることが好ましい。
被覆粒状肥料の製造方法の一例を以下に示す。なお、以下では、被覆材料としてOH基を有する樹脂とアルコキシシラン縮合物との脱水縮合物を含有する肥料用被覆材料を用い、該OH基を有する樹脂としてPVA系樹脂を用いた場合について説明する。
【0082】
[プレコーティング]
プレコーティングを実施する方法は特段制限されず、後述するコーティングの工程の前に、上述したプレコートの材料を粒状肥料表面にコーティングし、プレコート被覆肥料を得る。例えば、プレコーティングは
図2に示すコーター20を用いて行うことができる。具体的には、
図2に示すコーター20において、流動層21に粒状の肥料(芯材、粒子)23を投入し、ブロワー24により発生させたヒーター25を通過させて送風された熱風を26用いて吹き上げガスを流動層21に流通させ、流動層21内を所望の温度に設定し、温度が目標値に達したことを確認した後、プレコート(プレコート膜)の材料を溶媒に溶解させた噴霧液29を入れた溶解槽28から噴霧液29を送液し、2流体スプレーノズル22から溶液を芯材23にスプレーし、プレコーティングを行う。上記の吹き上げガスは、ブロワー24により気流を発生させ、ヒーター25を通して加熱された熱風26を流動層21に送り込む意ことで発生させる。この吹き上げガスは、排気27から排出される。その後、送液を停止し、送液停止後温度一定のままで乾燥させ、流動層内の温度を下げた後、吹き上げガスを停止し、プレコーティングされた肥料を取り出す。
【0083】
プレコーティング後の乾燥温度は特段制限されないが、乾燥効率の観点から、通常30
℃以上であり、60℃以上であることが好ましい。また、通常140℃以下であり、尿素の融点の観点から130℃以下であることが好ましい。
【0084】
[コーティング]
プレコーティング工程後に実施するコーティング工程は特段制限されないが、例えば、アルコキシシラン縮合物を含む溶液とOH基を有する樹脂とを含む溶液とを混合し、得られた被覆液をプレコート被覆肥料へ吹き付け、乾燥する工程、を含む方法で実施することができる。
【0085】
コーティングに用いる被覆材料に含まれるPVA系樹脂はOH基を有する樹脂として最も好適なものの一例であるが、OH基を有する樹脂であれば特に限定されない例えばスターチ、キトサン、又はセルロース誘導体等であっても適用が可能である。また、被覆する肥料は以下では尿素粒とする。尿素は本実施形態において最も適切あるが、尿素に限られるものではなく、公知の粒状化学肥料を用いることができる。具体例を挙げるならば、尿素、ホルムアルデヒド縮合尿素、もしくはイソブチルアルデヒド縮合尿素等のアルデヒド縮合尿素類、硫酸グアニル尿素類、石灰窒素、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、もしくはリン酸二水素アンモニウム等のアンモニウム化合物、過リン酸石灰、熔成リン肥、もしくは焼成リン肥料等のリン酸質肥料、硝酸カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、ケイ酸カリウムなどのカリウム塩、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウムなどのカルシウム塩、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、もしくはリン酸マグネシウム等のマグネシウム塩、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄、リン酸第一鉄、リン酸第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩酸第一鉄、もしくは塩酸第二鉄等の鉄塩、又はこれらの複塩、ないしはこれらを二つ以上複合したものなどが挙げられる。
【0086】
肥料用被覆材料中のOH基を有する樹脂に由来する構造の種類やその重量、アルコキシシラン縮合物に由来する構造の種類やその重量、及びその他の成分に由来する構造の種類やその重量は、例えば、1H-NMR、GPC、又はIRにより分析することができるが、原料の種類や仕込み量から特定してもよい。
【0087】
アルコキシシラン縮合物を含む溶液とOH基を有する樹脂とを含む溶液とを混合する方法は、後述する「1)アルコキシシラン縮合物の加水分解溶液(A)の調製」から「3)(A)と(B)との混合」までの工程を同様に適用することができる。よって、この混合により得られる被覆液としては、上記の透湿度測定の評価に用いた複合液を用いることができる。
【0088】
得られた被覆液をプレコート被覆肥料へ吹き付ける方法は特段制限されず、例えば、溶液(A)と、溶液(B)とを混合して得られた被膜液を、該粒子表面に噴霧する(吹き付ける)方法、被覆液に該粒子を浸漬する方法などが挙げられる。また、溶液(A)、及び溶液(B)を、直接該粒子に同時または別々に噴霧し、該粒子表面上で混合してもよい。瞬時に溶剤を乾燥させると被覆均一性がより高くなるので、噴霧する方法が好ましい。
【0089】
噴霧には一流体もしくは二流体スプレーを用いるが、中でも噴霧粒子径が細かく、より均一に成膜できる二流体スプレーノズルが好ましい。また装置としては、装置自体の運動に付随して粒状物質を撹拌する回転ドラム式、通気回転ドラム式、回転パン式、回転落下式、気流で粒状物質を撹拌する噴流式、又は流動式等の各方の被覆装置などを用いることができる。
このうち、
図1に示す小型の流動式スプレーコーター10を使用する方法を用いて説明する。
【0090】
ここでは被覆対象として尿素を使用する。スプレーコーター10に尿素粒3を入れる。適当量の尿素を入れることで、コーティング液が投入した尿素に均一にコーティングされやすくなり、また団粒が発生しにくくなる。
次に装置下部から吹き上げガス4を導入し、尿素を吹き上げる。ガス量が少ないと尿素の流動状態が維持できなくなり、団粒が発生しやすくなる。ガス量が多いと尿素がコーター外部に排出される。そしてコーター内が所定の温度になったところで上部にあるスプレーガン1から噴霧ガスとコーティング液を、ノズル2をとおして噴霧することで、尿素3にコーティング液がコーティングされる。装置下部からの吹き上げガス4によるコーティングされた尿素の乾燥を早めるために、コーター内は通常40~130℃で加温される。また吹き上げに使用されるガスは空気、窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム等が挙げられる。
【0091】
コーティング液の導入は送液ポンプを用いて行われる。送液速度は速すぎると被膜が乾燥する前にコーティング液が導入されるので尿素粒同士が固着し、団粒が発生しやすく、送液速度が遅すぎるとコーティング液が尿素にコーティングする前にコーター内で乾燥してしまい、被覆肥料が得られない。コーティング液と一緒に噴霧するガスは空気、窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム等が挙げられる。コーティング液に有機溶剤が含まれている場合に、引火の恐れがあることから、好ましくは窒素、ヘリウムのような不活性ガス等が好適に使用される。噴霧時間は本発明の効果を損なわない範囲であれば制限はないが、通常5~120分である。
【0092】
プレコート被覆肥料へ吹き付けた被覆液を乾燥する方法は特段制限されず、例えば、乾燥処理に供し、具体的には自然乾燥させてもよく、又は熱をかけて乾燥させてもよい。また、加熱処理を適用する場合、この乾燥処理として実施してもよく、また、乾燥した後に別の処理として実施してもよい。
加熱処理の条件は特段制限されず、例えば、上述した「5)加熱乾燥」の条件を適用することができる。ただし、膜の厚みや形状が評価したコーティング膜とプレコート被覆肥料に被覆した膜で異なるため、温度等の加熱条件を必ずしも統一するべきというわけではない。通常、加熱処理は、140℃以下で行われる。コーティングされる肥料成分の融点以下で加熱されることが好ましく、尿素にコーティングした場合、130℃以下で加熱されることが好ましく、90℃以下が更に好ましい。また、異なる温度で2段階以上の加熱処理を行ってもよく、例えば、1段目を90℃以下、2段階目の乾燥を91℃以上、130℃以下で加熱して行ってもよい。
【0093】
また、肥料用被覆材料膜中のSi含有量が、SiO2換算で20重量%以上であることが好ましく、40重量%以上であることがより好ましく、50重量%以上であることが更に好ましく、95重量%未満であることがより好ましく、93重量%以下であることが更に好ましい。この範囲であることで、被膜が割れにくく、より肥料の溶出が抑えることができる。
【0094】
上記被覆粒状肥料の形態は、粒状であればよく、被覆粒状肥料の平均粒径は1.0mm以上、10.0mm以下、好ましくは1.0mm以上、5.0mm以下である。これらは篩いを用いることにより、前記範囲内で任意の粒径範囲を選択することもできる。
また、放出速度を安定的にコントロールするという点から、球状に近いことがより好ましい。具体的には下記式で求められた円形度係数が、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.75以上、更に好ましくは0.8以上の球状である。円形度係数の最大値は1であり、1に近づくほど粒子は真円に近づき、粒子形状が真円から崩れるに従って円形度係数は小さくなる。
円形度係数={(4π×粒子の投影面積)/(粒子投影図の輪郭の長さ)2}
【0095】
被覆粒状肥料は好ましい徐放性を有し、30℃水中に浸漬した場合、24時間後の肥料成分の溶出率が60%以下に抑制されており、緩効性肥料の公定規格を満たす50重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましい。
また、被覆粒状肥料を水中に浸漬した場合の、初期浮上粒数が30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、17%以下であることがさらに好ましく、10%以下であることが好ましい。なお、溶出試験及び初期浮上粒数は、以下のとおり求めることができる。
【0096】
[溶出率の測定]
250mL容器に被覆尿素(被覆粒状肥料)1gと200mLの純水を入れ、一定温度(30℃)のインキュベーターで静置し、24時間後の水中の尿素体窒素濃度を測定する。尿素の濃度測定は以下のように行う。塩酸50mL、エタノール250mL、純水700mLを混合し、p-ジメチルアミノベンズアルデヒド2.5gを溶解させ、反応液を調製する。反応液6mLと尿素の溶出液0.5mLを混合し、30分間静置後、分光光度計で420nmにおける吸光度を測定する。濃度既知の尿素水溶液を使用して検量線を作成し、吸光度から尿素の濃度を求める。
【0097】
<被覆材料の透湿度測定の評価>
以下の説明に従い、被覆材料の透湿度を測定することができる。
次の1)~5)の工程を経て透湿度を測定するためのサンプルを作製する。尚、OH基を有する樹脂として、ここではPVAを挙げているが一例であり、OH基を有する樹脂であればこの限りではない。
1)アルコキシシラン縮合物の加水分解溶液(A)の調製
2)OH基を有する樹脂(例えば、PVA系樹脂)溶液(B)の調製
3)(A)と(B)との混合
4)自立膜又は基材へのコーティング
5)加熱乾燥
【0098】
1)アルコキシシラン縮合物の加水分解溶液(A)の調製
この工程ではアルコキシシラン縮合物を溶媒存在下あるいは不存在下で触媒及び水と混合して加水分解し、任意に水又は有機溶媒で希釈可能な液状加水分解組成物とする。
溶媒としては、通常メタノール、エタノール、又はプロパノール等の炭素数1~4の脂肪族低級アルコール類が用いられるが、水との相溶性が高く、PVA系樹脂水溶液と混合してもPVAの析出が起こりにくいメタノール、エタノールが特に好ましい。無溶媒下でアルコキシシランの縮合物と加水分解用の水を混合しても相溶しないが、加水分解の進行と共に添加した水が消費され対応するアルコールが生成するため、水の添加量が少ない場合は無溶媒でも最終的に均一透明な組成物となる場合もある。溶媒の使用量は、(A)に含まれる加水分解されたアルコキシシランのSiO2換算重量で20重量部に対して0.25~250重量部であることが好ましい。固形分濃度、溶媒種類、溶媒比率に応じて適宜変更することが出来る。この後、必要に応じて目的の濃度になるように水またはアルコールなどの有機溶媒で希釈を行ってもよい。
【0099】
水溶液(A)の調製時に、アルコキシシラン縮合物を加水分解させるためには、触媒及び水を用いる。
かかる触媒とは、通常、塩酸、硫酸、硝酸、もしくはフッ酸等の無機酸触媒、ギ酸、酢酸、マレイン酸、フマル酸、もしくはパラトルエンスルホン酸などの有機酸触媒、アンモニア等の塩基触媒が、有機金属、金属アルコキシド、有機スズ化合物、もしくはアルミニウムやチタン・ジルコニウム等何れかの金属を含む金属キレート化合物、又はホウ素化合物等が挙げられる。得られる加水分解体がシラノール基を多く有し、PVA系樹脂と親和性が高く、水溶液(A)が短時間でゲル化しにくく保存安定性に優れる点から、好ましく
は酸触媒、有機金属、金属アルコキシド、金属キレート化合物、又はホウ素化合物等である。
【0100】
かかる触媒の量は、アルコキシシランの縮合物のアルコキシ基の総モル量に対して通常0.0001モル%以上、0.1モル%以下、好ましくは0.0002モル%以上、0.09モル%以下、特に好ましくは0.0003モル%以上、0.8モル%以下である。かかる量を使用することにより加水分解反応が適切な速度で進行し、かつ水溶液(A)の保存安定性が高くなる。
また、水溶液(A)調製時の水の量はアルコキシシラン及び/又はその縮合物のアルコキシ基の総モル量に対して通常0.01モル%以上、0.05モル%以上、好ましくは80モル%以下である。かかる量とすることで加水分解反応が進行しやすくなり、(A)を水希釈した場合に水と均一に相溶しやすい。また目的の膜を作製する際に多孔質となることを避けやすいほか、乾燥に無駄な熱量を使うことがない。通常は触媒と水を混合した混合物をアルコキシシランの縮合物に一括して配合するが、別々に加えてもよい。
【0101】
溶液(A)調製時のアルコキシシラン縮合物の加水分解反応は、通常10~80℃である。かかる温度が高すぎた場合、加水分解反応速度が大きくなり(A)がゲル化しやすく、低すぎた場合反応が進行しにくくなるという傾向がある。反応は通常攪拌しながら行う。
また、反応時間はスケールにより異なるが、通常5分~24時間、好ましくは10分~8時間である。かかる時間とすることにより、水溶液(A)が高粘度化あるいはゲル化しにくく、また反応が不十分となることを防ぎ、水溶液(B)と容易に透明相溶する。
溶液(A)中のアルコキシシラン縮合物の加水分解物の濃度は、溶液(A)の保存安定性や、後述する溶液(B)との相溶性に応じて適宜選択することが出来る。溶液(A)中のアルコキシシラン縮合物の加水分解物の濃度は、SiO2換算値を用い固形分濃度として表され、通常0.1重量%以上、40重量%以下であり、好ましくは1重量%以上、30重量%以下、より好ましくは5重量%以上、25重量%以下である。
【0102】
2)OH基を有する樹脂の溶液(B)の調製
この工程では水、水と水溶性有機溶媒の混合溶液、非水溶性有機溶媒、または2種類以上の混合有機溶媒、またはこれらを必要に応じて加温した状態において、攪拌下でOH基を有する樹脂を投入することにより、前記樹脂を溶媒に溶解しOH基を有する樹脂の溶液(B)とする。樹脂の必要な固形分濃度や、それに応じた溶媒の物性によるが、例えばPVA樹脂を水で溶解する場合、水の温度は10℃以上、100℃以下、特に好ましくは25℃以上、90℃以下である。この範囲は使用する溶媒の溶解特性に応じて適宜選択される。OH基を有する樹脂の投入は一括投入でも分割投入でもよい。継粉を防ぎ完全に溶解させるために、必要に応じて投入終了後、溶液を加熱してもよい。投入後すぐに加熱してもよいが、室温で一定時間攪拌してから加熱すると、継粉をより防ぎやすくなる。ここでいう室温とは25±5℃の範囲をいう。室温で攪拌する時間は特に定められていないが、通常は1時間以上、3時間以下、より好ましくは20分以上、40分以下、特に好ましくは10分以上、15分以下であり、使用するOH基を有する樹脂の特性に応じて適宜選択される。また、加熱しながら投入してもよい。
【0103】
溶液(B)の濃度は、溶液(B)の粘度や使用樹脂の溶解特性、溶液(A)との相溶性に応じて適宜選択することが出来、通常1重量%以上、30重量%以下、好ましくは2重量%以上、25重量%以下である。溶液(B)の溶媒はOH基を有する樹脂が溶解し、且つアルコキシシラン縮合物の加水分解物と混合したときにOH基を有する樹脂が析出せず、アルコキシシラン縮合物の加水分解物が溶解すれば特に指定はない。各材料の溶解特性によって水以外にも、炭素数1~3の低級アルコールや、アセトン等の有機溶媒を用いてもよく、または2種類以上の溶媒を組み合わせてもよい。これにより2つの溶液を混合した時にOH基を有する樹脂が析出せず、またアルコキシシラン縮合物の加水分解物が溶解した状態で複合液が得られる。
【0104】
3)(A)と(B)との混合
この工程では上記の方法にて調製した溶液(A)および溶液(B)を混合し、均一な溶液とする。混合の仕方は滴下でも一括添加でもよい。
ここで、溶液(B)に水を使用し、且つ溶液(A)のアルコキシシラン縮合物が部分加水分解状態である場合には、(B)中の水の一部が溶液(A)と水溶液(B)との混合時にシリケート成分の加水分解用の水として利用され、更なる加水分解重縮合が進行する。水溶液(A)と水溶液(B)との混合後、室温もしくは混合液の沸点以下の加温下で、必要に応じ10分~24時間の間熟成して均一な水溶液を得る。これにより、アルコキシシランの縮合物の加水分解重縮合物が過剰に縮合反応を起こし分子量が大きくなりOH基を有する樹脂と溶媒と、の相溶性が悪化することを防ぐ。
【0105】
4)自立膜の作製又は基材へのコーティング
この工程では、前工程で得られた溶液を被覆液とし、自立膜又はプラスチックフィルム等の基材へのコーティングを行う。被膜の形成方法に特に制限はなく、従来公知技術のうち、任意のものを適宜選択すればよい。
例えば、自立膜の作製は評価に必要な面積のシャーレ等に、溶液(A)と溶液(B)とを混合して得られた被覆液を、シャーレ上に均一に伸ばし、任意の温度と湿度条件下で一定時間乾燥した後シャーレから剥がして得る方法や、離型剤がコーティングされたプラスチックフィルム等にコーティングを行い、任意の温度と湿度条件下で一定時間乾燥した後プラスチックフィルムから剥がして得る方法などがある。コーティング方法についてはプラスチックフィルム等の基材へのコーティングにて説明する。
【0106】
自立膜の作製が困難な場合、プラスチックフィルムを基材にして膜を作製してもよい。複合液は固形分が低いため、コーティング方法によって乾燥しても割れが発生しない良好な膜を得ることができる。複合膜は主に湿式製膜法を用いて製膜する。具体的には、スプレー法、ローラーコート法、バーコート法、スピンコート法、グラビアコート法、ダイコート法、インクジェット法、ディスペンサー法、コンマコート法、カーテンコート法、ディップコート法、シルクスクリーン印刷、又はフレキソ印刷等の各種手段を用いた方法が挙げられる。得られる膜の厚み、及び塗工液の粘度や固形分に応じて、上記方法から適宜選択することが出来る。本明細書では使用する基材の特性によってスピンコート法及びバーコート法を採用している。
【0107】
スピンコート法とは回転処理工程によってコーティング液を塗布する基板の表面にコートする方法である。スピンコーターのステージ上に塗布する基板を真空チャック等で固定し、対象物中心部に塗工液を添加した後、一定の回転速度で一定時間回転させることでコーティングする。基板上にコーティングされる膜の厚みは塗工液の動粘度や表面張力といったパラメーターだけでなく、スピンコーターの回転速度に依存するので目的に応じて幅広い厚さで成膜することが出来る。よって、評価する組成液の特性によって、回転速度は決定される。回転時間は塗工液が基板全体に広がる時間を定めればよい。塗工液の広がり速度は回転速度や塗工液の動粘度や基板への濡れ性等に影響されるので、評価する塗工液の特性と回転速度によって決定される。
基板を構成する樹脂によっては樹脂そのものの柔軟性等によって、スピンコーターのステージに固定できないなどスピンコート法を用いることが困難な場合がある。また、成膜後の膜厚が回転速度や塗工液の組成を考慮しても目的の厚みにならないことがある。そういった場合、バーコート法を用いることが出来る。
【0108】
バーコート法とはバーコーターと呼ばれるシャフトを用いてコーティングする方法であ
る。一般的なバーコーターはシャフトにワイヤーが巻かれている所謂ワイヤーバーが挙げられる。ワイヤーバーの塗工原理は、ワイヤーバーに塗工液を纏わせた状態で引くと、ワイヤーとワイヤーの隙間に入った塗工液が基材上に残ることでコーティングされるようになっている。基板上にコーティングされた液は流動し平らになり、均一に成膜される。成膜時の膜の厚みは塗工液の動粘度等だけでなくシャフトに巻かれているワイヤーの太さによってコントロールできる。スピンコート法よりも厚みのある膜も成膜できるため、評価する塗工液の特性や評価項目によって適切なシャフトが選ばれる。なお、近年ではシャフトにワイヤーを巻かずシャフトそのものに均一な凹凸加工をしたノンワイヤーバーも用いられるようになった。ワイヤーが使われていないことによりワイヤー切れやワイヤーずれもなく、コーティング後にバーを洗浄しやすいといった利点がある。
【0109】
基材としては、特に制限はないが、紙、不織布、又はポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリブチレンサクシネート、もしくはセルローストリアセテートなどの材料からなるプラスチックフィルムを用いることが出来る。これらの中から乾燥後の膜との密着性が良いものが選択される。また、膜との密着性を向上させるために基材の表面を処理してもよい。処理方法に指定はないが、従来の技術であればUV照射、エッチング加工、蒸着法、スパッタ法、コロナ処理、又はプラズマ処理などが挙げられ、膜との密着性が向上する方法が利用される。
【0110】
5)加熱乾燥
自立膜又は基材上に作成したコーティング膜は熱をかけて乾燥させてもよい。熱をかけることによりコーティング膜中の溶媒が蒸発し、被膜が形成される。また、その過程でアルコキシシラン縮合物の加水分解物中のOH基とOH基を有する樹脂が反応しSi-O-C結合が生成される。熱をかける装置はコーティング膜中の溶媒を除去し、膜を硬化できるのであればなんでもよい。例えば強制循環式乾燥機、自然対流式乾燥機、送風定温恒温乾燥機などがある。必要な温度は、膜の分解温度や使用する基材にダメージを与えなければよく、通常140℃以下に設定される。この時、異なる温度で2段階以上の乾燥工程を入れてもよい。これにより、急激な温度変化でコーティング膜が割れることを防止することが出来る。温度をかける時間はコーティング膜中の溶媒が十分に除去できればよく、溶媒によってある温度に対する蒸発速度は異なるので特に指定はないが、最低でも1工程につき15分以上行うことが好ましい。
また、シャーレ上で自立膜を作製するときなどは、急激な乾燥条件下で乾燥すると膜の変形や膜割れを起こすことがある為、一定の湿度条件を加えることも可能である。必要な湿度は、かかる温度や膜の溶媒組成によって適宜設定され、通常90%湿度以下である。
【0111】
(透湿度測定)
得られた膜は好ましい水蒸気バリア性を有し、25℃90%湿度の環境下において透過する水蒸気量すなわち透湿度が1000g/m2・day以下の範囲が好ましく、500g/m2・day以下の範囲がより好ましく、200g/m2・day以下がさらに好ましい。この範囲であることで、肥料に複合液をコーティングした際に目的に見合った徐放性を与えることが出来る。
【0112】
徐放性被覆肥料が水中で成分を徐放するメカニズムとして、水が水蒸気となり被膜を通過して肥料と接触し、肥料を溶解させる。肥料が溶解した水はその後浸透圧の影響により膜の外、すなわち水中に放出されるとされている。このことから、膜の透湿度を測定することは徐放性被覆肥料の溶出率と密接な関係にある。そのため、膜の透湿度を確認することで徐放性被覆肥料を作製する前に、その溶出率を見積もることが出来る。透湿度は、上記の方法で製造された被覆材料の膜を用いて、JIS Z 0208に定められた方法により評価することが出来、その中でも実使用条件に合わせて25℃90%RHで評価を行
う。
【0113】
<初期浮上粒率の測定>
被覆尿素(被覆粒状肥料)を20粒シャーレに入れ、純水をシャーレの壁に沿わせて10mL/分で注水し、50mL注水後水面に浮上している粒数を測定することができる。この浮上した粒数から、以下の式を用いて、初期浮上粒率を評価することができる。
初期浮上粒率(%)=浮上した粒数 / 試験に供した粒数 × 100
上記の初期浮上粒率は特段制限されないが、水田での被覆肥料の浮上防止の観点から、30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、17%以下であることがさらに好ましく、10%以下であることが特に好ましい。
【0114】
<被覆層全体の被覆率の測定方法>
被覆粒状肥料中の肥料(芯材)以外の全ての材料、つまり被覆層全体(プレコート層および被覆材料膜を含む)の量(被覆率)は、以下の方法により測定することができる。
被覆尿素5gを乳鉢で粉砕し、500mL容のメスフラスコに入れた。純水を標線まで加え、尿素が完全に溶解するまで30℃のインキュベーターで静置した。静置後の液をメッシュサイズ45μmのフィルターでろ過し、尿素態窒素の濃度を上記の<溶出率の測定>に記載の方法で測定する。被覆尿素5g中の尿素重量から、下記計算式により被覆層全体の被覆率を算出する。
被覆率[重量%]=((被覆粒状肥料重量-尿素重量)/被覆粒状肥料重量)×100
この(被覆粒状肥料重量-尿素重量)は、被覆層全体の重量を意味する。
【実施例0115】
以下本発明を、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例に限定されるものではない。
【0116】
<比較例1>
[プレコート層の作成]
図1の流動層に粒状の尿素400.0g(粒子径2~4mm、平均粒子径3m)を入れた。吹き上げガス(空気)を1000NL/min流通させ、流動層内の温度を60℃に設定した。温度が目標値に達したことを確認した後、BioPBS
TM FZ71(三菱ケミカル製;MFR22g/10分、密度1.26g/cm
3、融点115℃)を3重量%の濃度で溶解したトリクロロエチレン溶液50g/minで送液し、プレコーティングを行った。16分経過後複合液の送液を停止した。送液停止後温度一定のまま15分間流動層内で乾燥した。流動層内温度を40℃以下に下げた後、吹き上げガス、噴霧ガスを停止後、取り出した。恒温送風乾燥機(ADVANTEC社製)にて、105℃で48時間加熱し、粒子径2~4mmのプレコート尿素を得た。なお、以降の全ての実施例、比較例、参考実施例、および参考比較例のいずれにおいても、粒状の尿素としては、粒子径2~4mm、平均粒子径3mmのものを用い、プレコートした尿素、および被覆粒状肥料は、粒子径2~4mmであるものを得た。また、本願実施例では、プレコート尿素も被覆粒状肥料と称する。
上記のPBSのMFRは、ISO1133の方法に準拠してメルトフローレート(MFR)の測定を行った。その際、溶融温度は190℃、測定装置のピストン荷重は2.16kg、押出し時間は10分間で実施した。
【0117】
<実施例1>
[シリケート加水分解液の作製]
MKCシリケートMS-51(三菱ケミカル製)を13.0g、メタノール28.5g、メチルトリメトキシシラン(以下、MeTMOS東京化成工業製)3.6g、純水5.88g、マレイン酸を0.16g加え1時間攪拌した後、一晩静置してSiO2換算固形分濃度20%のシリケート加水分解液を得た。
[PVA水溶液の作製]
純水95.0gに攪拌しながらポリビニルアルコール(ゴーセノール NL-05(三菱ケミカル社製))を5.0g加えた。室温で15分攪拌した後、90℃に昇温し1時間攪拌してPVAを溶解させ、固形分濃度5%のPVA水溶液を得た。
【0118】
[被覆液の作製]
PVA水溶液11.2gにシリケート加水分解液4.2gを混合した。SiO
2固形分濃度とPVA固形分濃度の比は60重量%/40重量%とした。
[コーティング]
小型流動層コーター(
図2)に比較例1で得られたプレコートした尿素を20.0g入れた。吹き上げガス(空気)を170NL/min流通させ、コーター内の温度を90℃に設定した。温度が目標値に達したことを確認した後、噴霧ガス(窒素)を7.0NL/min流通させ、複合液を0.23g/min送液しコーティングを行った。68分経過後複合液の送液を停止した。送液停止後温度一定のまま15分間コーター内で乾燥した。コーター内温度を40℃以下に下げた後、吹き上げガス、噴霧ガスを停止し、被覆した粒状の尿素を取り出した。
[熱処理]
被覆尿素を恒温送風乾燥機(ADVANTEC社製)で、105℃で48時間加熱し、被覆粒状肥料を得た。
【0119】
[溶出率の測定]
250mL容器に被覆尿素(被覆粒状肥料)1gと200mLの純水を入れ、一定温度(30℃)のインキュベーターで静置し、24時間後の水中の尿素体窒素濃度を測定した。尿素の濃度測定は以下のように行った。塩酸50mL、エタノール250mL、純水700mLを混合し、p-ジメチルアミノベンズアルデヒド2.5gを溶解させ、反応液を調製した。反応液6mLと尿素の溶出液0.5mLを混合し、30分間静置後、分光光度計で420nmにおける吸光度を測定した。濃度既知の尿素水溶液を使用して検量線を作成し、吸光度から尿素の濃度を求めた。
【0120】
[初期浮上粒数の測定]
被覆尿素を20粒シャーレに入れ、純水をシャーレの壁に沿わせて10mL/分で注水した。50mL注水後水面に浮上している粒数を測定した。
【0121】
[膜の量(被覆率)]
下記の式に基づき、プレコート膜及び肥料用被覆材料膜の量(被覆率)は、使用原料の配合割合から以下の式を用いて算出した。
プレコート膜[重量%]=(プレコート材料重量/プレコート済み芯材重量)×100
肥料用被覆材料膜[重量%]=(被膜材料重量/被覆粒状肥料重量)×100
【0122】
【0123】
PBSをプレコートした尿素に、被覆材料膜をオーバーコートすると、肥料成分である尿素の放出が効果的に抑制されることが分かる。
図3は比較例1のPBSをコーティングした尿素の走査型電子顕微鏡(SEM写真)であるが、膜表面に欠陥が観察された。
図4の実施例1のSEM写真では、肥料用被覆材料膜により、欠陥が埋められていることが分かる。比較例1では全く溶出が抑制できなかったにも関わらず、プレコートした尿素に被覆材料からなる膜をオーバーコートする事で、被覆材料膜単独よりも更に溶出期間は遅延し、溶出制御が効果的に現れることが分かった。このように、プレコート膜に被覆材料膜のオーバーコートを組み合わせると、溶出抑制が更に効果的に得られ、且つ浮上抑制効果も良好となる。
【0124】
<ポリブチレンサクシネートを用いた検討>
<比較例2>
図1の流動層に粒状の尿素400.0gを入れた。吹き上げガス(空気)を1000NL/min流通させ、流動層内の温度を60℃に設定した。温度が目標値に達したことを確認した後、BioPBS
TM FZ91(三菱ケミカル製;MFR5g/10分、密度1.26g/cm
3、融点115℃)を3重量%の濃度で溶解したトリクロロエチレン溶液50g/minで送液し、プレコーティングを行った。24.5分経過後複合液の送液を停止し、プレコート尿素を得た。
【0125】
<実施例2~3>
比較例2に記載のプレコート尿素を用いたこと、および被覆材料の種類および条件を表2-1に記載のものに変更し、コーティングにおける吹き上げガス(空気)を135NL/minに変更したことを除き、実施例1と同様の方法で実施例2~3の被覆粒状肥料を製造した。なお、実施例2~3において、被覆粒状肥料中のプレコート層の含有量は、8.4重量%となる。このプレコート層の含有量は、後述する実施例4~9においても同様である。
【0126】
<実施例4>
純水90.0gに攪拌しながらポリビニルアルコール(ゴーセノール NK-05R(三菱ケミカル社製))を10.0g加えた。室温で15分攪拌した後、90℃に昇温し1時間攪拌してPVAを溶解させ、固形分濃度10%のPVA水溶液を得た。PVA水溶液4.2gに、実施例1と同様の方法で得られたシリケート加水分解液4.9gを混合し、被覆液を得た。この際、SiO2固形分濃度とPVA固形分濃度の比は60重量%/40重量%とした。被覆液として該被覆液を用い、被覆液の送液時間を39.6分に変更したことを除き、実施例2と同様の方法で粒状被覆肥料を得た。
【0127】
<実施例5>
MKCシリケートMS-51(三菱ケミカル製)を13.0g、メタノール23.0g、メチルトリメトキシシラン(以下、MeTMOS3.6g東京化成工業製)、純水6.15g、マレイン酸を0.16g加え2時間攪拌した後、メタノール42.0gを加え、一晩静置してSiO2換算固形分濃度10%のシリケート加水分解液を得た。PVAをNK05R(ゴーセノールNK-05R(三菱ケミカル社製))に変更し、PVA水溶液11.2gにシリケート加水分解液8.4gを混合し、SiO2固形分濃度とPVA固形分濃度の比が60重量%/40重量%の被覆液を得た。被覆液として該被覆液を用い、被覆液の送液時間を85.2分にしたこと以外は、実施例2と同様の方法で粒状被覆肥料を得た。
【0128】
[使用材料]
表2-1に示す材料は、以下に記載のものを用いた。
・PBS:BioPBSTM FZ91(三菱ケミカル製;MFR5g/10分(ISO
1133)、密度1.26g/cm3、融点115℃(ISO3146))
・NL05:ゴーセノールNL-05(三菱ケミカル株式会社製;平均重合度500、ケン化度98.5mol%以上)
・GL03:ゴーセノールGL-05(三菱ケミカル株式会社製;平均重合度400、ケン化度86.5~89.0mol%)
・NK05R:ゴーセノールNK-05R(三菱ケミカル株式会社製;平均重合度500、ケン化度71~75mol%)
上記のPBSのMFRは、ISO1133の方法に準拠してメルトフローレート(MFR)の測定を行った。その際、溶融温度は190℃、測定装置のピストン荷重は2.16kg、押出し時間は10分間で実施した。
【0129】
被覆粒状肥料の溶出率は、上述した方法と同様の方法で評価した。
溶出率は、測定開始時点から24時間経過後の時点および48時間経過後の時点での溶出率を測定した。
溶出率について、24時間後の段階では、いずれの比較例および実施例で大きな差は見られなかったが、48時間後の段階では、比較例2と比較して実施例2~5の方が少なくなっていることが確認された。
【0130】
【0131】
表1及び表2-1より、MFRの低いPBSを用いた方が、溶出の抑制に優れていることが分かる。
【0132】
<ポリ乳酸を用いた検討>
<比較例3>
トリクロロエチレン溶液として、ポリ乳酸(PLA)を40重量部と、タルク(富士タルク工業製、MS310)60重量部と、被覆液の溶媒としてのトリクロロエチレン1900重量部とを80℃で加熱撹拌した溶液を用いたことを除き、比較例2と同様の方法で被覆粒状肥料を製造した。
【0133】
<実施例6>
プレコート層および被覆材料の種類および条件を表2-2に記載のものに変更したこと、および、生分解性樹脂を含む溶液中の原料として、さらにポリ乳酸40重量部に対してタルク(富士タルク工業製、MS310)60重量部を加えたことを除き、実施例2と同様の方法で被覆粒状肥料を製造した。
[使用材料]
表2-2に示す材料は、以下に記載のものを用いた。
・PLA:IngeoTM Biopolymer 4060D(NatureWorks製;密度1.24g/cm3(ASTM D1505))
・PVA:ゴーセノールNL-05(三菱ケミカル株式会社製;平均重合度500、ケン化度98.5mol%以上)
【0134】
被覆粒状肥料の溶出率および初期浮上粒数は、上述した方法と同様の方法で評価した。
溶出率は、測定開始時点から24時間経過後の時点および48時間経過後の時点での溶出率を測定した。
【0135】
【0136】
<ポリブチレンアジテートテレフタレートを用いた検討>
<比較例4>
トリクロロエチレン溶液として、ポリブチレンアジテートテレフタレート(PBAT)を40重量部と、タルク(富士タルク工業製、MS310)60重量部と、被覆液の溶媒としてのトリクロロエチレン1900重量部とを80℃で加熱撹拌した溶液を用いたことを除き、比較例2と同様の方法で被覆粒状肥料を製造した。
【0137】
<実施例7>
プレコート層および被覆材料の種類および条件を表2-3に記載のものに変更したこと、および、生分解性樹脂を含む溶液中の原料として、さらにポリブチレンアジテートテレフタレート40重量部に対してタルク(富士タルク工業製、MS310)60重量部を加えたことを除き、実施例2と同様の方法で被覆粒状肥料を製造した。
[使用材料]
表2-3に示す材料は、以下に記載のものを用いた。
・PBAT:ECOFLEX(BASF社製)
・NL05:ゴーセノールNL-05(三菱ケミカル株式会社製;平均重合度500、ケン化度98.5mol%以上)
【0138】
被覆粒状肥料の溶出率および初期浮上粒数は、上述した方法と同様の方法で評価した。
溶出率は、測定開始時点から24時間経過後の時点および48時間経過後の時点での溶出率を測定した。
【0139】
【0140】
<ポリブチレンアジテートテレフタレートおよびポリブチレンサクシネートの混合物を用いた検討>
<比較例5>
トリクロロエチレン溶液として、ポリブチレンアジテートテレフタレート(PBAT)およびポリブチレンサクシネート(PBS)の混合物(重量比率で、PBAT:PBS=2:1)を40重量部と、タルク(富士タルク工業製、MS310)60重量部と、被覆液の溶媒としてのトリクロロエチレン1900重量部とを80℃で加熱撹拌した溶液を用いたことを除き、比較例2と同様の方法で被覆粒状肥料を製造した。
【0141】
<実施例8>
プレコート層および被覆材料の種類および条件を表2-4に記載のものに変更したこと、および、生分解性樹脂を含む溶液中の原料として、さらにポリブチレンアジテートテレフタレート40重量部に対してタルク(富士タルク工業製、MS310)60重量部を加えたことを除き、実施例2と同様の方法で被覆粒状肥料を製造した。
【0142】
[使用材料]
表2-4に示す材料は、以下に記載のものを用いた。
・PBAT:ECOFLEX(BASF社製)
・PBS:BioPBSTM FZ91(三菱ケミカル製;MFR5g/10分、密度1.26g/cm3(ISO1133)、融点115℃(ISO3146))
・NL05:ゴーセノールNL-05(三菱ケミカル株式会社製;平均重合度500、ケン化度98.5mol%以上)
【0143】
被覆粒状肥料の溶出率および初期浮上粒数は、上述した方法と同様の方法で評価した。
溶出率は、測定開始時点から24時間経過後の時点および48時間経過後の時点での溶出率を測定した。
【0144】
【0145】
次いで、実施例2で得られた粒状被覆肥料を用いて、25℃での溶出挙動を以下に記載の方法に従い評価した。
[被覆粒状肥料の溶出の測定]
被覆粒状肥料を10gとあらかじめ25℃に調整をしておいた蒸留水200mlとを250mlの蓋付きポリ容器に投入し、25℃設定のインキュベーターに静置した。経過日数毎に該容器から水を全て抜き取り、抜き取った水に含まれる尿素量(尿素溶出量)を定量分析(ジメチルアミノベンズアルデヒド法「詳解肥料 分析法 第二改訂版」養賢堂)により求めた。水を抜き取った後のサンプルは再度該容器に入れ、該容器に再度蒸留水を200ml投入し同様に静置し、この操作を繰り返した。
その後該被覆粒状肥料を乳鉢ですりつぶし、該肥料の内容物を水200mlに溶解後上記と同様の方法で尿素残量を定量分析した。積算尿素溶出量と尿素残量を加えた量を尿素全量とし、水中に溶出した尿素の溶出累計と日数の関係をグラフ化して溶出速度曲線を作成した。この溶出速度曲線を
図5に示す。
【0146】
表2-1~2-4及び
図5から、生分解性樹脂をプレコートした尿素に、被覆材料膜をオーバーコートすると、肥料成分である尿素の放出が効果的に抑制されることが分かる。一方、生分解性樹脂のプレコートのみでは初期浮上し易く、特に水田では、水田からの流出や圃場内で移動による肥料の偏在の原因となってしまう。このように、プレコート膜に被覆材料膜のオーバーコートを組み合わせると、溶出抑制が更に効果的に得られ、且つ浮上抑制効果も良好となる。
【0147】
以下、本発明者らが行った被覆材料の検討を目的に行った実験について説明する。
【0148】
<装置>
肥料への被覆は、
図1に示す小型流動層コーターを使用してスプレーコーティングを行った。
【0149】
<原料>
参考実施例、参考比較例で使用した原料について説明する。
(アルコキシシラン縮合物)
MS-51(三菱ケミカル製):化学式(2)においてRがメチル基であり、重量平均分子量が800~1,000である平均5量体の化合物である。
(OH基を有する樹脂)
PVA:PVAは変性PVA及び未変性PVAを用いた。平均重合度は400~500、ケン化度は39.0mol%以上100mol%以下となる範囲のPVAを用いた。
未変性PVAとして、ケン化度71.0~75.0mol%、推定平均重合度500のNK-05R(三菱ケミカル製)、ケン化度86.5~89.0mol%、推定平均重合度400のGL-03(三菱ケミカル製)、及びケン化度98.5mol以上、推定平均重合度500のNL-05(三菱ケミカル製)を用いた。
また、変性PVAとして、ポリ(オキシエチレン)変性PVAを用いた。ケン化度は39.0~46.0mol%であり、平均重合度は公表されていないLW-100(三菱ケミカル製)を用いた。通常水溶液形態で販売されているものをメタノール溶媒に置換したものを用いた。置換方法はロータリーエバポレーター(日本ビュッヒ株式会社製)を用い、90℃の湯浴中で減圧留去を行い水分を除去し、冷却後残存する固形分に、目的の固形分濃度となるようにメタノール(富士フイルム和光株式会社製)で溶解、希釈した。
ヒドロキシプロピルセルロース(以下、HPC):日本曹達株式会社製のNISSO HPC SSLの通常粒子品(平均粒径150~190μm)を使用した。GPCで求められる分子量は40,000である。
ペノンPKW:変性デンプンとして、日澱化學株式会社製のヒドロキシプロピル酵素変
性デキストリンを用いた。
(第3成分)
メチルトリメトキシシラン(東京化成工業株式会社製):化学式(1)より、R1、R2がメチル基となる構造を有する。
【0150】
<参考実施例1>
[アルコキシシラン縮合物の加水分解液の調液]
MKCシリケートMS-51(三菱ケミカル製)を15.4g、メタノール14g、純水5.27g、マレイン酸を0.16g加え5時間攪拌した後、メタノールを46g追加し、一晩静置してSiO2換算固形分濃度10%のアルコキシシラン縮合物の加水分解物を得た。
[PVA溶液の作製]
純水19.0gにメタノール76.0gを加え攪拌しながらポリビニルアルコールNK-05R(三菱ケミカル製)を5g加えた。室温で15分攪拌した後、60℃に昇温し1時間攪拌してPVAを溶解させ、固形分濃度5%のPVAメタノール水溶液を得た。
[複合液の作製]
PVAメタノール溶液6.0gが入っている容器の中にアルコキシシラン縮合物の加水分解物7.0gを滴下し、1時間攪拌した。これにより複合液に含まれるSiO2固形分濃度とPVA固形分濃度の比(SiO2/PVA)を70重量部/30重量部とした。
【0151】
<参考実施例2>
[アルコキシシラン縮合物の加水分解液の調液]
MKCシリケートMS-51(三菱ケミカル製)を13.0g、メチルトリメトキシシラン(以下、MeTMOS、東京化成工業製)を3.6g、メタノール23g、純水6.15g、マレイン酸を0.16g加え2時間攪拌した後、メタノールを42g追加し、一晩静置してSiO2換算固形分濃度10%の第三成分を有するアルコキシシラン縮合物の加水分解物を得た。
[複合液の作製]
参考実施例1で作製したPVAメタノール溶液6.0gが入っている容器の中に第三成分を有するアルコキシシラン縮合物の加水分解物7.0gを滴下し、1時間攪拌した。これにより複合液に含まれるSiO2固形分濃度とPVA固形分濃度の比を70重量部/30重量部とした。
【0152】
<参考実施例5>
[アルコキシシラン縮合物の加水分解液の調液]
MKCシリケートMS-51(三菱ケミカル製)を15.4g、メタノール31.2g、純水3.25g、マレイン酸を0.16g加え1時間攪拌した後、一晩静置してSiO2換算固形分濃度20%のアルコキシシラン縮合物の加水分解物を得た。
[PVA溶液の作製]
純水47.5gにメタノール47.5gを加え攪拌しながらポリビニルアルコールGL-03(三菱ケミカル製)を5g加えた。室温で15分攪拌した後、60℃に昇温し1時間攪拌してPVAを溶解させ、固形分濃度5%のPVAメタノール水溶液を得た。
[複合液の作製]
PVAメタノール溶液12.0gが入っている容器の中にアルコキシシラン縮合物の加水分解物7.0gを滴下し、1時間攪拌した。これにより複合液に含まれるSiO2固形分濃度とPVA固形分濃度の比を70重量部/30重量部とした。
【0153】
<参考実施例6>
[アルコキシシラン縮合物の加水分解液の調液]
MKCシリケートMS-51(三菱ケミカル製)を13.0g、MeTMOS3.6g
、メタノール28.5g、純水5.88g、マレイン酸を0.16g加え1時間攪拌した後、一晩静置してSiO2換算固形分濃度20%のアルコキシシラン縮合物の加水分解物を得た。
[PVA溶液の作製]
純水47.5gにメタノール47.5gを加え攪拌しながらポリビニルアルコールGL-03(三菱ケミカル製)を5g加えた。室温で15分攪拌した後、60℃に昇温し1時間攪拌してPVAを溶解させ、固形分濃度5%のPVAメタノール水溶液を得た。
[複合液の作製]
PVAメタノール溶液12.0gが入っている容器の中にアルコキシシラン縮合物の加水分解物7.0gを滴下し、1時間攪拌した。これにより複合液に含まれるSiO2固形分濃度とPVA固形分濃度の比を70重量部/30重量部とした。
【0154】
<参考実施例11>
[アルコキシシラン縮合物の加水分解液の調液]
MKCシリケートMS-51(三菱ケミカル製)を15.4g、メタノール31.2g、純水3.25g、マレイン酸を0.16g加え1時間攪拌した後、一晩静置してSiO2換算固形分濃度20%のアルコキシシラン縮合物の加水分解物を得た。
[ヒドロキシプロピルセルロース溶液の調液]
NISSO HPC SSL(日本曹達製)10.0gが入った容器に、メタノールを90g加え室温で攪拌してヒドロキシプロピルセルロース(以下、HPC)を溶解させ、固形分濃度10%のHPCメタノール溶液を得た。
[複合液の作製]
HPCメタノール溶液6.0gが入っている容器に、アルコキシシラン縮合物の加水分解物を7.0g滴下し、1時間攪拌した。これにより複合液に含まれるSiO2固形分濃度とHPC固形分濃度の比を70重量部/30重量部とした。
【0155】
<参考実施例13>
[アルコキシシラン縮合物の加水分解液の調液]
MKCシリケートMS-51(三菱ケミカル製)を15.4g、メタノール31.2g、純水3.25g、マレイン酸を0.16g加え1時間攪拌した後、一晩静置してSiO2換算固形分濃度20%のアルコキシシラン縮合物の加水分解物を得た。
[変性デンプン溶液の作製]
ペノンPKW(日澱化學製)5.0gが入った容器に純水95.0gを加え60℃に昇温し1時間攪拌し変性デンプンを溶解させ、固形分濃度5%の変性デンプン水溶液を得た。
[複合液の作製]
変性デンプン水溶液12.0gが入っている容器に、アルコキシシラン縮合物の加水分解物を7.0g滴下し、1時間攪拌した。これにより複合液に含まれるSiO2固形分濃度とHPC固形分濃度の比を70重量部/30重量部とした。
【0156】
<参考比較例1>
<アルコキシシラン縮合物の加水分解液の調液>
MKCシリケートMS-51(三菱ケミカル製)を15.4g、メタノール31.2g、純水3.25g、マレイン酸を0.16g加え1時間攪拌した後、一晩静置してSiO2換算固形分濃度20%のアルコキシシラン縮合物の加水分解物を得た。
【0157】
<参考比較例2>
[PVA溶液の作製]
純水27.0gにメタノール63.0gを加え攪拌しながらポリビニルアルコールNK-05R(三菱ケミカル製)を10g加えた。室温で15分攪拌した後、60℃に昇温し
1時間攪拌してPVAを溶解させ、固形分濃度10%のPVAメタノール水溶液を得た。
【0158】
<参考比較例3>
[トリメトキシシランモノマーの加水分解液の調液]
MeTMOSを15.4g、メタノール23.1g、純水6.3g、マレイン酸を0.16g加え1時間攪拌した後、一晩静置してSiO2換算固形分濃度20%のメチルトリメトキシシランの加水分解物を得た。
[複合液の作製]
参考実施例1で調液したPVAメタノール溶液12.0gが入っている容器の中に、MeTMOSの加水分解縮合物7.0gを滴下し、1時間攪拌した。これにより複合液に含まれるSiO2固形分濃度とPVA固形分濃度の比を70重量部/30重量部とした。
【0159】
<参考比較例4>
[PVA溶液の調製]
容器に0.1mol硝酸(富士フイルム和光純薬製)5mL、純水20.2gを加え、攪拌しながらPVA(富士フイルム和光純薬製、平均重合度500、ケン化度86~90mol%)を3.4g加えた。15分ほど室温で攪拌した後、60℃に昇温し1時間加熱した。
[アルコキシシラン溶液の調製]
テトラエトキシシラン(多摩化学製、以下、TEOS。化学式(2)においてRがエチル基であり、繰り返し構造を有さない、すなわちn=1となる化合物である。)7.8g、メチルトリエトキシシラン(キシダ化学製、以下、MeTEOS)2.3g、メタノール3.2gを加え、室温で一時間攪拌した。これによりアルコキシシラン混合溶液を調製した。
[アルコキシシラン/PVA混合溶液の調液]
作製したPVA溶液が全量入っている容器に、PVA溶液を攪拌しながら作製したアルコキシシラン混合溶液を全量滴下した。滴下終了後3時間攪拌した後、室温でさらに一晩攪拌した。これによりSiO2換算固形分濃度とPVA固形分濃度の比が50重量部/50重量部のアルコキシシラン/PVA混合溶液を作製した。
【0160】
他の参考実施例及び参考比較例は表3に示す組成で作製した。
参考実施例3、参考実施例4、及び参考実施例7は、表3の組成及び参考実施例1の作製の手順に従い実施した。
参考実施例8~参考実施例10、及び参考実施例14は、表3の組成及び参考実施例5の作製の手順に従い実施した。
参考実施例12は、表3の組成及び参考実施例11の作製の手順に従い実施した。
【0161】
【0162】
参考実施例1~参考実施例14及び参考比較例1~参考比較例4で調製した調製液を用い、下記手法にて透湿度試験用の被膜を形成し、膜厚を確認し、透湿度試験を実施した。
【0163】
[透湿度試験用膜形成]
使用する基板によってコーティング方法はスピンコート法とバーコート法を使い分けた。PET(東レ製、ルミラーT60、25μm厚)を用いるときはスピンコート法を、PBS基板(三菱ケミカル製、30μm厚)を使用するときはバーコート法を採用した。
【0164】
[スピンコーティング]
スピンコーター(ミカサ製、MS-150)の土台に10cm角にカットした基板を固定し、基板中心部に溶液を5mL添加した。蓋を閉め750rpmの速度で45秒間回転させた。終了後基板を土台から外し、耐熱用紙に載せ耐熱テープで角を固定し、80℃に設定した送風定温恒温器(ヤマト科学製、DKN―400)に入れ1時間加熱した後、105℃に設定した送風定温乾燥器(東京理化器械製、WFO-510)で所定時間加熱した。
参考比較例4においては、80℃加熱後、電子レンジ(山善、YRB-177、60Hz)を用い、500Wで10分間加熱した。
【0165】
[バーコーティング]
縦15cm、横10.5cmにカットした基板を耐熱用紙の上にセロハンテープで固定した。水平台の上に置き、基板の最上部に複合液をのせた。ワイヤーバー(三井電気精機株式会社製、No.18)を複合液の上に置き、バー全体を液になじませた後基板の最下部までバーを引いてコーティングした。耐熱紙ごと80℃に設定した送風定温恒温器に入れて1時間加熱した後、105℃に設定した送風定温乾燥器で所定時間加熱した。
【0166】
[膜厚測定]
得られたコーティング基板上の、コーティング膜厚を確認した。バーコート法を実施したものはレーザー顕微鏡(キーエンス製)を用い、基板を固定していたセロハンテープを剥がして未コーティング部分とコーティング部分の段差を測定し膜厚を確認した。スピンコート法を実施したものは膜厚測定システム(フィルメトリクス製、F20)を用い膜厚測定した。
作製したコーティング基板の実施条件とコーティング膜の膜厚を表4に示す。
【0167】
【0168】
[透湿度試験]
得られたコーティング基材を用い、JIS Z 0208に準拠して透湿カップ(安田精機製)を作製し、25℃90%RHに設定した環境試験機(SH-641、エスペック)内に入れ試験を実施した。試験の詳細はJIS Z 0208に準拠する。
【0169】
透湿度はJIS Z 0208に準拠し算出した後、以下に示す式を用いて膜単体の透湿度を算出した。
【数2】
ここで、Lは膜と基板の総膜厚、L
1は複合膜の膜厚、L
2は基板の膜厚である。また、Pは全体の湿気透過係数(透湿試験から得られた数値)、P
1は複合膜の湿気透過係数、P
2は基板の湿気透過係数である。
【0170】
透湿度試験の結果を表5に示す。各表における透湿度の記号は、以下の評価結果を意味
する。
A:透湿度200g/m2・day未満
B:透湿度200g/m2・day以上500g/m2・day未満
C:透湿度500g/m2・day以上1,000g/m2・day未満
D:透湿度1,000g/m2・day以上
【0171】
【0172】
参考実施例より、OH基を有する樹脂と、アルコキシシラン縮合物の加水分解物で構成される肥料用被覆材料は低い透湿度を示した。参考比較例1および参考比較例2から、アルコキシシラン縮合物の加水分解物のみ、又はOH基を有する樹脂のみでは透湿度は高く、参考比較例3及び参考比較例4からアルコキシシランの加水分解物とでは透湿度の低い肥料用被覆材料が得られないことが分かる。
【0173】
<参考実施例15>
[シリケート加水分解液の作製]
MKCシリケートMS-51(三菱ケミカル製)を15.4g、メタノール31.2g、純水3.25g、マレイン酸を0.16g加え1時間攪拌した後、一晩静置してSiO
2換算固形分濃度20%のシリケート加水分解液を得た。
[PVA水溶液の作製]
純水47.5gにメタノール47.5gを加え攪拌しながらポリビニルアルコールGL-03(三菱ケミカル製、平均重合度400、ケン化度86.5~89.0mol%)を5.0g加えた。室温で15分攪拌した後、60℃に昇温し1時間攪拌してPVAを溶解させ、固形分濃度5%のPVAメタノール水溶液を得た。
[複合液の作製]
PVAメタノール水溶液24.0gにシリケート加水分解液14.0gを混合した。SiO
2固形分濃度とPVA固形分濃度の比は70重量%/30重量%とした。
[コーティング]
小型流動層コーター(
図1)に尿素を20.0g入れた。吹き上げガス(空気)を170NL/min流通させ、コーター内の温度を80℃に設定した。温度が目標値に達したことを確認した後、噴霧ガス(窒素)を7.0NL/min流通させ、複合液を0.28g/min送液しコーティングを行った。48分経過後複合液の送液を停止した。送液停止後温度一定のまま15分間コーター内で乾燥した。コーター内温度を40℃以下に下げた後、吹き上げガス、噴霧ガスを停止し、被覆した尿素を取り出した。
[被膜の加熱(乾燥)]
被覆尿素を恒温送風乾燥機(ADVANTEC社製)で、90℃で96時間加熱し、被覆粒状肥料を得た。
【0174】
<参考実施例16>
PVAメタノール水溶液32gにシリケート加水分解液12gを混合した以外は参考実施例15と同様にして複合液を得た。SiO2固形分濃度とPVA固形分濃度の比は60重量%/40重量%の複合液であった。
複合液15.4gを0.28g/minで55分送液した以外は、参考実施例15と同様の方法で、複合液にて尿素へのコーティング及び被覆尿素の加熱を行い、被覆粒状肥料を得た。
【0175】
<参考実施例17>
純水27gにメタノール63gを加え攪拌しながらポリビニルアルコールNK05R(三菱ケミカル製)を10g加えた。室温で15分攪拌した後、60℃に昇温し1時間攪拌してPVAを溶解させ、固形分濃度10%のPVAメタノール水溶液を得た。
PVAメタノール水溶液16.0gにシリケート加水分解液12.0gを混合し複合液を得た。SiO2固形分濃度とPVA固形分濃度の比は60重量%/40重量%とした。
複合液9.8gを0.28g/minで35分送液した以外は、参考実施例15と同様の方法で、複合液にて尿素へのコーティング及び被覆尿素の加熱を行い、被覆粒状肥料を得た。
【0176】
<参考比較例5>
[PVA水溶液の調製]
純水63.0gにメタノール27.0gを加え攪拌しながらポリビニルアルコールNK-05R(三菱ケミカル製、平均重合度500、ケン化度71.0~75.0mol%)を10.0g加えた。室温で15分攪拌した後、60℃に昇温し1時間攪拌してPVAを溶解させ、固形分濃度10%のPVAメタノール水溶液を得た。このPVAメタノール水溶液40.0gに蒸留水30.0gを混合し、5.7%のPVAメタノール水溶液に希釈した。
【0177】
[コーティング]
小型流動層コーター(
図1)に尿素を20.0g入れた。乾燥ガス(計空)を170NL/min流通させ、コーター内の温度を80℃に設定した。温度が目標値に達したことを確認した後、噴霧ガス(窒素)を7.0NL/min流通させ、PVAメタノール水溶液を0.28g/min送液しコーティングを行った。89分経過後複合液の送液を停止した。送液停止後温度一定のまま15分間コーター内で乾燥した。コーター内温度を40℃以下に下げた後、乾燥ガス、噴霧ガスを停止し尿素を取り出した。
[被膜の加熱乾燥]
被覆した尿素は恒温送風乾燥機(ADVANTEC社製)にて、90℃で96時間加熱し、被覆粒状肥料を得た。
【0178】
<参考比較例6>
[PVA/シリカ水溶液の調製]
純水63.0gにメタノール27.0gを加え攪拌しながらポリビニルアルコールNK-05R(平均重合度500、ケン化度71.0~75.0mol%)を10.0g加えた。室温で15分攪拌した後、60℃に昇温し1時間攪拌してPVAを溶解させ、固形分濃度10%のPVAメタノール水溶液を得た。このPVAメタノール水溶液21.0gに二酸化ケイ素(関東化学株式会社: 沈降性、非晶質、粉末)を4.9g、蒸留水25.0gを混合し、SiO2固形分濃度とPVA固形分濃度の比が70質量%/30質量%とした。
【0179】
[3Dコーティング]
小型流動層コーター(
図1)に尿素を20.0g入れた。乾燥ガス(空気)を170NL/min流通させ、コーター内の温度を80℃に設定した。温度が目標値に達したことを確認した後、噴霧ガス(窒素)を7.0NL/min流通させ、PVAメタノール水溶液を0.28g/min送液しコーティングを行った。37分経過後複合液の送液を停止した。送液停止後温度一定のまま15分間コーター内で乾燥した。コーター内温度を40℃以下に下げた後、乾燥ガス、噴霧ガスを停止し尿素を取り出した。
【0180】
[溶出試験]
250mL容器に被覆尿素1gと200mLの純水を入れ、一定温度(30℃)のインキュベーターで静置し、24時間後の水中の尿素体窒素濃度を測定した。尿素の濃度測定は以下のように行った。塩酸50mL、エタノール250mL、純水700mLを混合し、p-ジメチルアミノベンズアルデヒド2.5gを溶解させ、反応液を調製した。反応液6mLと尿素の溶出液0.5mLを混合し、30分間静置後、分光光度計で420nmにおける吸光度を測定した。濃度既知の尿素水溶液を使用して検量線を作成し、吸光度から尿素の濃度を求めた。
【0181】
[初期浮上粒数の測定]
被覆尿素を20粒シャーレに入れ、純水をシャーレの壁に沿わせて10mL/分で注水した。50mL注水後水面に浮上している粒数を測定した。
【0182】
得られた被覆粒状肥料は、上記の溶出試験、浮上粒数の測定に準じて分析を行った。結果を表6に示す。
【0183】
【0184】
[溶出試験]
被覆粒状肥料の参考実施例15~参考実施例17は、参考比較例5及び参考比較例6と比べて、溶出が抑えられていた。参考比較例5及び参考比較例6は溶出試験開始後、被膜が溶解消失し、これに伴い尿素も溶解し、試験開始5分後には完全溶解して肥料の形状が消失した。
【0185】
[初期浮上粒数]
初期浮上粒数の測定では、参考実施例15~参考実施例17に初期浮上する粒状肥料はなかった。参考比較例5及び参考比較例6は測定中に溶解し、測定不可であった。
【0186】
[被覆率の測定]
被覆率の測定では、参考実施例15~参考実施例17は被覆率6.5%であった。参考比較例5及び参考比較例6は被膜が水溶解し、被覆率の測定不可であった。
【0187】
このように、参考実施例に係る被覆粒状肥料は、被膜は水中でも膜形状を維持し、被覆肥料の肥料成分の溶出を抑制していることは明らかである。また被膜は初期浮上も問題にならず、使用後の被膜殻は圃場から流亡し難く、さらには被膜殻残渣が生分解性樹脂と環境負荷のないシリカ成分で構成されるので、マイクロプラスチックの残留等、残存被膜による環境負荷が無い被覆粒状肥料として使用できる。
【0188】
[FT-IRによるSi-O-C結合の確認]
得られた参考実施例16、参考比較例5の被覆尿素をFT-IRで測定した。FT-IR装置iN10MX及び(Thermo Fisher Scientific社製)にて、以下の通り測定し、得られたスペクトルは同社の解析ソフトウェアOMINIC(Version.8.3.103)を用い、以下の条件に従い解析およびピーク分離を行った。
測定法)ATR法
測定サンプルの形状)被覆尿素
プリズム)ダイヤモンドプリズム
積算回数)64回
分解能)4cm-1
バックグラウンド補正)サンプル測定前
位相補正)Mertz法
スペクトル強度)吸光度
ベースライン補正)オートベースライン補正
スムージング)オートスムージング
ピーク検出:分布関数)Voigt関数
ピーク検出:ピーク検出感度)低感度
ピーク検出:半値幅)3.857~10
ピークフィッティング:ノイズ)5
ピークフィッティング:ベースライン補正)1次(線形)補間
ピークフィッティング:繰り返し計算)標準偏差値が1.0以下になるまで計算
【0189】
[溶液1H NMR測定]
得られた参考実施例16の被覆尿素を溶液1H NMRで測定した。参考実施例16で作製した被覆尿素を水中に入れ、室温で3日間放置した。なお、参考比較例5は水中に膜が溶出したのでサンプルが得られなかったので、1H NMR測定まで至ることが出来なかった。尿素が溶出したサンプルを取り出し、吸引濾過及び蒸留水で洗浄を行った。100℃5分で乾燥を行った後、再び蒸留水で洗浄し、洗浄液を吸引濾過し、蒸留水で洗浄した。100℃5分乾燥を行った後、9mLスクリュー管内に得られた被覆膜0.050gを加え、さらに基準物質としてDMFを1滴加えた後、DMSO-d6溶媒で全量が1.0gになるように希釈した。スクリュー管をよく降り混ぜ膜中の未反応PVAを溶出させた後、NMRチューブに、チューブ底から4cm高に液面がくるまでサンプルを入れた。作製したサンプルはNMR装置ECZ-400(日本電子社製)で測定を行った。測定条件は以下のとおりである。
磁界強度)9.425T
プロトン共鳴周波数)400MHz
積算回数)8回
RD)20sec
【0190】
得られたスペクトルは同社ソフトウェアDelta(Version.5.3.1以降)を使用し、ベースラインの高さ補正及び位相補正を行った後、DMF(基準物質)のシグナル(δ=7.95ppm)の積分値を100として、PVAのOH基に起因するピークの規格化積分値を算出した。
【0191】
いくつかの参考実施例及び参考比較例に使用した複合液をそれぞれ用い、膜の水への溶出率を確認した。
[単独膜の作製]
直径5cmのPTFEシャーレ(アズワン製)に複合液を複合液の粘度に合わせて5~10g添加し、シャーレ全体に伸ばした。参考実施例18、参考実施例19、参考比較例7については、表7に従い、送風定温恒温器を用いて所定温度で一定時間加熱処理した。得られた膜を取り出して容器に入れ、膜が浸漬するまで水を加え、室温で3日以上放置した。作製したサンプルは表7に示す。
【0192】
【0193】
10mLプラスチックディスポシリンジ(アズワン製)で溶液を10mL吸い出し、5μm孔のシリンジフィルター(アズワン製)を通して、15mL容量の磁性るつぼ(アズワン製)に入れた。120℃に設定した送風定温恒温器を用いて4時間かけ溶媒を蒸発させた。室温に冷却後、磁性るつぼの重量を測定した。
得られた参考実施例16及び参考比較例5のFT-IR測定及び溶液1H NMRの結果を表8に示す。
【0194】
【0195】
このように、参考実施例16ではSi-O-C結合が形成され、参考比較例5ではSi-O-C結合が形成されていないことが分かる。
【0196】
得られた参考実施例18、参考実施例19及び参考比較例7の膜溶出率を表9に示す。膜の溶出率は、蒸発させて得た溶出PVAの濃度から、使用した溶液全量の溶出PVA重量を算出し、試験に使用した膜の重量に対する溶出量として計算している。
【0197】
【0198】
参考実施例18及び参考実施例19から所定時間加熱工程を入れることにより膜の溶出率がなくなっている一方で、参考比較例7から、Si-O-C結合を有していないPVA膜が溶出していることが分かる。これによりアルコキシシラン縮合物の加水分解物中のO
H基とOH基を有する樹脂が反応しSi-O-C結合が生成されていると考えられる。