(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152599
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】ガスセンサおよびガスセンサによる濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/416 311J
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161650
(22)【出願日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2022058985
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100134991
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 和樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148507
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 弘行
(72)【発明者】
【氏名】近藤 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】中曽根 修
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
(57)【要約】
【課題】CO
2とH
2Oに加え酸素の濃度を測定可能なガスセンサを提供する。
【解決手段】ガスセンサのセンサ素子が、相異なる拡散律速部を介してガス導入口から順次に連通してなる、副調整空室、第1空室、第2空室、および第3空室を備え、副調整ポンプセルは、被測定ガスに含まれるH
2OとCO
2が分解されない範囲で、副調整空室に導入された被測定ガスから酸素を汲み出し、第1ポンプセルは、副調整空室から第1空室に導入された被測定ガスに含まれるH
2OとCO
2が全て分解されるように、第1空室から酸素を汲み出し、分解により生じたH
2とCOとを第2空室および第3空室で酸化させる際の汲み入れ電流からH
2OとCO
2の濃度をそれぞれ特定し、副調整ポンプセルによって副調整空室から酸素を汲み出す際に副調整用内側電極と外側電極との間を流れる電流の大きさに基づいて、被測定ガスの酸素濃度を特定する、ようにした。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水蒸気と二酸化炭素とを含む被測定ガスに含まれる、複数の検知対象ガス成分の濃度を測定可能なガスセンサであって、
酸素イオン伝導性の固体電解質にて構成された構造体を有するセンサ素子と、
前記ガスセンサの動作を制御するコントローラと、
を備え、
前記センサ素子が、
前記被測定ガスが導入されるガス導入口と、
相異なる拡散律速部を介して前記ガス導入口から順次に連通してなる、副調整空室、主調整空室である第1空室、第2空室、および第3空室と、
前記副調整空室に面して形成された副調整用内側電極と、前記センサ素子の外面に形成された外側電極と、前記副調整用内側電極と前記外側電極の間に存在する前記固体電解質とから構成された副調整ポンプセルと、
前記第1空室に面して形成された第1内側電極と、前記外側電極と、前記第1内側電極と前記外側電極との間に存在する前記固体電解質とから構成された第1ポンプセルと、
前記第2空室に面して形成された第2内側電極と、前記外側電極と、前記第2内側電極と前記外側電極との間に存在する前記固体電解質とから構成された第2ポンプセルと、
前記第3空室に面して形成された第3内側電極と、前記外側電極と、前記第3内側電極と前記外側電極との間に存在する前記固体電解質とから構成された第3ポンプセルと、
を備え、
前記副調整ポンプセルは、前記被測定ガスに含まれる水蒸気および二酸化炭素が分解されない範囲で、前記ガス導入口から前記副調整空室に導入された前記被測定ガスから酸素を汲み出し、
前記第1ポンプセルは、前記副調整空室から前記第1空室に導入された前記被測定ガスに含まれる水蒸気および二酸化炭素が実質的に全て分解されるように、前記第1空室から酸素を汲み出し、
前記第2ポンプセルは、前記第2空室に酸素を汲み入れることによって、前記第1空室から前記第2空室へと導入された前記被測定ガスに含まれている、水蒸気の分解によって生成した水素を前記第2空室において選択的に酸化させ、
前記第3ポンプセルは、前記第3空室に酸素を汲み入れることによって、前記第2空室から前記第3空室へと導入された前記被測定ガスに含まれている、二酸化炭素の分解によって生成した一酸化炭素を前記第3空室において酸化させ、
前記コントローラは、
前記第2ポンプセルによって前記第2空室に酸素を汲み入れる際に前記第2内側電極と前記外側電極との間を流れる電流の大きさに基づいて、前記被測定ガスに含まれる水蒸気の濃度を特定する水蒸気濃度特定手段と、
前記第3ポンプセルによって前記第3空室に酸素を汲み入れる際に前記第3内側電極と前記外側電極との間を流れる電流の大きさに基づいて、前記被測定ガスに含まれる二酸化炭素の濃度を特定する二酸化炭素濃度特定手段と、
前記副調整ポンプセルによって前記副調整空室から酸素を汲み出す際に前記副調整用内側電極と前記外側電極との間を流れる電流の大きさに基づいて、前記被測定ガスに含まれる酸素の濃度を特定する酸素濃度特定手段と、
を備えることを特徴とする、ガスセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサであって、
前記センサ素子が、
基準ガスと接触してなる基準電極と、
前記副調整用内側電極と、前記基準電極と、前記副調整用内側電極と前記基準電極との間に存在する前記固体電解質とから構成され、前記副調整用内側電極と前記基準電極との間に、前記副調整空室の酸素濃度に応じた起電力V0が生じる副調整空室用センサセルと、
前記第1内側電極と、前記基準電極と、前記第1内側電極と前記基準電極との間に存在する前記固体電解質とから構成され、前記第1内側電極と前記基準電極との間に、前記第1空室の酸素濃度に応じた起電力V1が生じる第1空室用センサセルと、
前記第2内側電極と、前記基準電極と、前記第2内側電極と前記基準電極との間に存在する前記固体電解質とから構成され、前記第2内側電極と前記基準電極との間に、前記第2空室の酸素濃度に応じた起電力V2が生じる第2空室用センサセルと、
前記第3内側電極と、前記基準電極と、前記第3内側電極と前記基準電極との間に存在する前記固体電解質とから構成され、前記第3内側電極と前記基準電極との間に、前記第3空室の酸素濃度に応じた起電力V3が生じる第3空室用センサセルと、
をさらに備え、
前記コントローラが、
前記副調整空室用センサセルにおける起電力V0が、400mV~700mVなる範囲内の所定の目標値に保たれるように、前記副調整ポンプセルにおいて前記副調整用内側電極と前記外側電極との間に印加される電圧を制御する副調整ポンプセル制御手段と、
前記第1空室用センサセルにおける起電力V1が、1000mV~1500mVなる範囲内の所定の目標値に保たれるように、前記第1ポンプセルにおいて前記第1内側電極と前記外側電極との間に印加される電圧を制御する第1ポンプセル制御手段と、
前記第2空室用センサセルにおける起電力V2が、250mV~450mVなる範囲内の所定の目標値に保たれるように、前記第2ポンプセルにおいて前記第2内側電極と前記外側電極との間に印加される電圧を制御する第2ポンプセル制御手段と、
前記第3空室用センサセルにおける起電力V3が、100mV~300mVなる範囲内の所定の目標値に保たれるように、前記第3ポンプセルにおいて前記第3内側電極と前記外側電極との間に印加される電圧を制御する第3ポンプセル制御手段と、
を備えることを特徴とする、ガスセンサ。
【請求項3】
請求項2に記載のガスセンサであって、
前記副調整ポンプセル制御手段は、前記起電力V0が400mVに保たれるように、前記副調整ポンプセルにおいて前記副調整用内側電極と前記外側電極との間に印加される電圧を制御する、
ことを特徴とする、ガスセンサ。
【請求項4】
少なくとも水蒸気と二酸化炭素とを含む被測定ガスに含まれる、複数の検知対象ガス成分の濃度を、ガスセンサにより測定する方法であって、
前記ガスセンサが、酸素イオン伝導性の固体電解質にて構成された長尺板状の構造体を有するセンサ素子を備えるものであり、
前記センサ素子が、
前記被測定ガスが導入されるガス導入口と、
相異なる拡散律速部を介して前記ガス導入口から順次に連通してなる、副調整空室、主調整空室である第1空室、第2空室、および第3空室と、
前記副調整空室に面して形成された副調整用内側電極と、前記センサ素子の外面に形成された外側電極と、前記副調整用内側電極と前記外側電極の間に存在する前記固体電解質とから構成された副調整ポンプセルと、
前記第1空室に面して形成された第1内側電極と、前記外側電極と、前記第1内側電極と前記外側電極との間に存在する前記固体電解質とから構成された第1ポンプセルと、
前記第2空室に面して形成された第2内側電極と、前記外側電極と、前記第2内側電極と前記外側電極との間に存在する前記固体電解質とから構成された第2ポンプセルと、
前記第3空室に面して形成された第3内側電極と、前記外側電極と、前記第3内側電極と前記外側電極との間に存在する前記固体電解質とから構成された第3ポンプセルと、
を備えるものであり、
a)前記副調整ポンプセルによって、前記被測定ガスに含まれる水蒸気および二酸化炭素が分解されない範囲で、前記ガス導入口から前記副調整空室に導入された前記被測定ガスから酸素を汲み出す工程と、
b)前記第1ポンプセルによって、前記副調整空室から前記第1空室に導入された前記被測定ガスに含まれる水蒸気および二酸化炭素が実質的に全て分解されるように、前記第1空室から酸素を汲み出す工程と、
c)前記第2ポンプセルによって、前記第2空室に酸素を汲み入れることによって、前記第1空室から前記第2空室へと導入された前記被測定ガスに含まれている、水蒸気の分解によって生成した水素を前記第2空室において選択的に酸化させる工程と、
d)前記第3ポンプセルによって、前記第3空室に酸素を汲み入れることによって、前記第2空室から前記第3空室へと導入された前記被測定ガスに含まれている、二酸化炭素の分解によって生成した一酸化炭素を前記第3空室において酸化させる工程と、
e)前記第2ポンプセルによって前記第2空室に酸素を汲み入れる際に前記第2内側電極と前記外側電極との間を流れる電流の大きさに基づいて、前記被測定ガスに含まれる水蒸気の濃度を特定する工程と、
f)前記第3ポンプセルによって前記第3空室に酸素を汲み入れる際に前記第3内側電極と前記外側電極との間を流れる電流の大きさに基づいて、前記被測定ガスに含まれる二酸化炭素の濃度を特定する工程と、
g)前記副調整ポンプセルによって前記副調整空室から酸素を汲み出す際に前記副調整用内側電極と前記外側電極との間を流れる電流の大きさに基づいて、前記被測定ガスに含まれる酸素の濃度を特定する工程と、
を備えることを特徴とする、ガスセンサによる濃度測定方法。
【請求項5】
請求項4に記載のガスセンサによる濃度測定方法であって、
前記センサ素子が、
基準ガスと接触してなる基準電極、
をさらに備えるものであり、
前記工程a)においては、前記副調整用内側電極と前記基準電極との間に前記副調整空室の酸素濃度に応じて生じる起電力V0が、400mV~700mVなる範囲内の所定の目標値に保たれるように、前記副調整ポンプセルにおいて前記副調整用内側電極と前記外側電極との間に印加される電圧を制御し、
前記工程b)においては、前記第1内側電極と前記基準電極との間に前記第1空室の酸素濃度に応じて生じる起電力V1が、1000mV~1500mVなる範囲内の所定の目標値に保たれるように、前記第1ポンプセルにおいて前記第1内側電極と前記外側電極との間に印加される電圧を制御し、
前記工程c)においては、前記第2内側電極と前記基準電極との間に前記第2空室の酸素濃度に応じて生じる起電力V2が、250mV~450mVなる範囲内の所定の目標値に保たれるように、前記第2ポンプセルにおいて前記第2内側電極と前記外側電極との間に印加される電圧を制御し、
前記工程d)においては、前記第3内側電極と前記基準電極との間に前記第3空室の酸素濃度に応じて生じる起電力V3が、100mV~300mVなる範囲内の所定の目標値に保たれるように、前記第3ポンプセルにおいて前記第3内側電極と前記外側電極との間に印加される電圧を制御する、
ことを特徴とする、ガスセンサによる濃度測定方法。
【請求項6】
請求項5に記載のガスセンサによる濃度測定方法であって、
前記工程a)においては、前記起電力V0が400mVに保たれるように、前記副調整ポンプセルにおいて前記副調整用内側電極と前記外側電極との間に印加される電圧を制御する、
ことを特徴とする、ガスセンサによる濃度測定方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のガスセンサであって、
前記第1ポンプセルが、前記副調整空室から前記第1空室に導入された前記被測定ガスに含まれる水蒸気および二酸化炭素が実質的に全て分解されるように前記第1空室から酸素を汲み出す第1の汲み出し動作の途中において所定時間、前記第1の汲み出し動作を停止させるか、あるいは、前記被測定ガスに含まれる水蒸気および二酸化炭素が分解されない範囲で前記第1空室から酸素を汲み出す第2の汲み出し動作を行うことによって、前記第1空室における水蒸気および二酸化炭素の還元が中断されることにより、前記第2空室にて生成した水蒸気と前記第3空室にて生成した二酸化炭素とが前記第1空室および前記副調整空室を経て前記センサ素子の外部へと排出される、
ことを特徴とする、ガスセンサ。
【請求項8】
請求項7に記載のガスセンサであって、
前記第1ポンプセルは、前記第1の汲み出し動作と、前記第1の汲み出し動作の停止あるいは前記第2の汲み出し動作とを、交互にかつ周期的に行い、
前記第2ポンプセルによる前記第2空室への酸素の汲み入れと前記第3ポンプセルによる前記第3空室への酸素の汲み入れとが、前記第1ポンプセルの動作に応じて周期的に行われる、
ことを特徴とする、ガスセンサ。
【請求項9】
請求項8に記載のガスセンサであって、
前記第2ポンプセルによる前記第2空室への酸素の汲み入れと前記第3ポンプセルによる前記第3空室への酸素の汲み入れとを、前記第1ポンプセルによる前記第1の汲み出し動作の停止あるいは前記第2の汲み出し動作と同期させて行う、
ことを特徴とする、ガスセンサ。
【請求項10】
請求項8に記載のガスセンサであって、
前記第2ポンプセルによる前記第2空室への酸素の汲み入れと前記第3ポンプセルによる前記第3空室への酸素の汲み入れとを、前記第1ポンプセルによる前記第1の汲み出し動作の途中から前記第1の汲み出し動作の停止の途中あるいは前記第2の汲み出し動作の途中まで行う、
ことを特徴とする、ガスセンサ。
【請求項11】
請求項4ないし請求項6のいずれかに記載のガスセンサによる濃度測定方法であって、
前記工程b)の途中において、前記第1ポンプセルが、前記副調整空室から前記第1空室に導入された前記被測定ガスに含まれる水蒸気および二酸化炭素が実質的に全て分解されるように前記第1空室から酸素を汲み出す第1の汲み出し動作を所定時間停止させるか、あるいは、前記被測定ガスに含まれる水蒸気および二酸化炭素が分解されない範囲で前記第1空室から酸素を汲み出す第2の汲み出し動作を行うことによって、前記第1空室における水蒸気および二酸化炭素の還元を中断することにより、前記第2空室にて生成した水蒸気と前記第3空室にて生成した二酸化炭素とを前記第1空室および前記副調整空室を経て前記センサ素子の外部へと排出させる、
ことを特徴とする、ガスセンサによる濃度測定方法。
【請求項12】
請求項11に記載のガスセンサによる濃度測定方法であって、
前記工程b)においては、前記第1ポンプセルが、前記第1の汲み出し動作と、前記第1の汲み出し動作の停止あるいは前記第2の汲み出し動作とを、交互にかつ周期的に行い、
前記工程c)における前記第2ポンプセルによる前記第2空室への酸素の汲み入れと前記工程d)における前記第3ポンプセルによる前記第3空室への酸素の汲み入れとを、前記工程b)における前記第1ポンプセルの動作に応じて周期的に行う、
ことを特徴とする、ガスセンサによる濃度測定方法。
【請求項13】
請求項12に記載のガスセンサによる濃度測定方法であって、
前記工程c)における前記第2ポンプセルによる前記第2空室への酸素の汲み入れと前記工程d)における前記第3ポンプセルによる前記第3空室への酸素の汲み入れとを、前記工程b)における前記第1ポンプセルによる前記第1の汲み出し動作の停止あるいは前記第2の汲み出し動作と同期させて行う、
ことを特徴とする、ガスセンサによる濃度測定方法。
【請求項14】
請求項12に記載のガスセンサによる濃度測定方法であって、
前記工程c)における前記第2ポンプセルによる前記第2空室への酸素の汲み入れと前記工程d)における前記第3ポンプセルによる前記第3空室への酸素の汲み入れとを、前記工程b)における前記第1ポンプセルによる前記第1の汲み出し動作の途中から前記第1の汲み出し動作の停止の途中あるいは前記第2の汲み出し動作の途中まで行う、
ことを特徴とする、ガスセンサによる濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種類の検知対象ガス成分を検知し、それらの濃度を測定可能なマルチガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排ガスからの排出量を管理するための計測において、二酸化炭素(CO2)の濃度を計測する技術が既に公知である(例えば特許文献1および特許文献2参照)。特許文献1および特許文献2に開示されたガスセンサにおいては、二酸化炭素(CO2)成分に加え、水蒸気(H2O)成分についても並行して測定することが可能となっている。
【0003】
また、自動車の排ガスのセンサでは、低コスト・省スペース化のため、ひとつのセンサで複数のガス種を測定できることが必要とされている。4つの内部空所を有したセンサ素子を備え、アンモニア(NH3)と一酸化窒素(NO)とを並行して可能なガスセンサも公知である(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5918177号公報
【特許文献2】特許第6469464号公報
【特許文献3】特開2020-91283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、CO2とH2Oに加え、酸素(O2)の濃度についても、複数の検出電流値(ポンプセルにおけるポンプ電流値)を用いて間接的に求めることができることが示されている。しかしながら、係る手法は、複数の検出電流値を組み合わせるために誤差が大きく、精度に劣るという問題がある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、CO2とH2Oの濃度を測定可能であり、かつ、酸素の濃度についても好適に測定可能なガスセンサを提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、少なくとも水蒸気と二酸化炭素とを含む被測定ガスに含まれる、複数の検知対象ガス成分の濃度を測定可能なガスセンサであって、酸素イオン伝導性の固体電解質にて構成された構造体を有するセンサ素子と、前記ガスセンサの動作を制御するコントローラと、を備え、前記センサ素子が、前記被測定ガスが導入されるガス導入口と、相異なる拡散律速部を介して前記ガス導入口から順次に連通してなる、副調整空室、主調整空室である第1空室、第2空室、および第3空室と、前記副調整空室に面して形成された副調整用内側電極と、前記センサ素子の外面に形成された外側電極と、前記副調整用内側電極と前記外側電極の間に存在する前記固体電解質とから構成された副調整ポンプセルと、前記第1空室に面して形成された第1内側電極と、前記外側電極と、前記第1内側電極と前記外側電極との間に存在する前記固体電解質とから構成された第1ポンプセルと、前記第2空室に面して形成された第2内側電極と、前記外側電極と、前記第2内側電極と前記外側電極との間に存在する前記固体電解質とから構成された第2ポンプセルと、前記第3空室に面して形成された第3内側電極と、前記外側電極と、前記第3内側電極と前記外側電極との間に存在する前記固体電解質とから構成された第3ポンプセルと、を備え、前記副調整ポンプセルは、前記被測定ガスに含まれる水蒸気および二酸化炭素が分解されない範囲で、前記ガス導入口から前記副調整空室に導入された前記被測定ガスから酸素を汲み出し、前記第1ポンプセルは、前記副調整空室から前記第1空室に導入された前記被測定ガスに含まれる水蒸気および二酸化炭素が実質的に全て分解されるように、前記第1空室から酸素を汲み出し、前記第2ポンプセルは、前記第2空室に酸素を汲み入れることによって、前記第1空室から前記第2空室へと導入された前記被測定ガスに含まれている、水蒸気の分解によって生成した水素を前記第2空室において選択的に酸化させ、前記第3ポンプセルは、前記第3空室に酸素を汲み入れることによって、前記第2空室から前記第3空室へと導入された前記被測定ガスに含まれている、二酸化炭素の分解によって生成した一酸化炭素を前記第3空室において酸化させ、前記コントローラは、前記第2ポンプセルによって前記第2空室に酸素を汲み入れる際に前記第2内側電極と前記外側電極との間を流れる電流の大きさに基づいて、前記被測定ガスに含まれる水蒸気の濃度を特定する水蒸気濃度特定手段と、前記第3ポンプセルによって前記第3空室に酸素を汲み入れる際に前記第3内側電極と前記外側電極との間を流れる電流の大きさに基づいて、前記被測定ガスに含まれる二酸化炭素の濃度を特定する二酸化炭素濃度特定手段と、前記副調整ポンプセルによって前記副調整空室から酸素を汲み出す際に前記副調整用内側電極と前記外側電極との間を流れる電流の大きさに基づいて、前記被測定ガスに含まれる酸素の濃度を特定する酸素濃度特定手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係るガスセンサであって、前記センサ素子が、基準ガスと接触してなる基準電極と、前記副調整用内側電極と、前記基準電極と、前記副調整用内側電極と前記基準電極との間に存在する前記固体電解質とから構成され、前記副調整用内側電極と前記基準電極との間に、前記副調整空室の酸素濃度に応じた起電力V0が生じる副調整空室用センサセルと、前記第1内側電極と、前記基準電極と、前記第1内側電極と前記基準電極との間に存在する前記固体電解質とから構成され、前記第1内側電極と前記基準電極との間に、前記第1空室の酸素濃度に応じた起電力V1が生じる第1空室用センサセルと、前記第2内側電極と、前記基準電極と、前記第2内側電極と前記基準電極との間に存在する前記固体電解質とから構成され、前記第2内側電極と前記基準電極との間に、前記第2空室の酸素濃度に応じた起電力V2が生じる第2空室用センサセルと、前記第3内側電極と、前記基準電極と、前記第3内側電極と前記基準電極との間に存在する前記固体電解質とから構成され、前記第3内側電極と前記基準電極との間に、前記第3空室の酸素濃度に応じた起電力V3が生じる第3空室用センサセルと、をさらに備え、前記コントローラが、前記副調整空室用センサセルにおける起電力V0が、400mV~700mVなる範囲内の所定の目標値に保たれるように、前記副調整ポンプセルにおいて前記副調整用内側電極と前記外側電極との間に印加される電圧を制御する副調整ポンプセル制御手段と、前記第1空室用センサセルにおける起電力V1が、1000mV~1500mVなる範囲内の所定の目標値に保たれるように、前記第1ポンプセルにおいて前記第1内側電極と前記外側電極との間に印加される電圧を制御する第1ポンプセル制御手段と、前記第2空室用センサセルにおける起電力V2が、250mV~450mVなる範囲内の所定の目標値に保たれるように、前記第2ポンプセルにおいて前記第2内側電極と前記外側電極との間に印加される電圧を制御する第2ポンプセル制御手段と、前記第3空室用センサセルにおける起電力V3が、100mV~300mVなる範囲内の所定の目標値に保たれるように、前記第3ポンプセルにおいて前記第3内側電極と前記外側電極との間に印加される電圧を制御する第3ポンプセル制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の第3の態様は、第2の態様に係るガスセンサであって、前記副調整ポンプセル制御手段は、前記起電力V0が400mVに保たれるように、前記副調整ポンプセルにおいて前記副調整用内側電極と前記外側電極との間に印加される電圧を制御する、ことを特徴とする。
【0010】
本発明の第4の態様は、少なくとも水蒸気と二酸化炭素とを含む被測定ガスに含まれる、複数の検知対象ガス成分の濃度を、ガスセンサにより測定する方法であって、前記ガスセンサが、酸素イオン伝導性の固体電解質にて構成された長尺板状の構造体を有するセンサ素子を備えるものであり、前記センサ素子が、前記被測定ガスが導入されるガス導入口と、相異なる拡散律速部を介して前記ガス導入口から順次に連通してなる、副調整空室、主調整空室である第1空室、第2空室、および第3空室と、前記副調整空室に面して形成された副調整用内側電極と、前記センサ素子の外面に形成された外側電極と、前記副調整用内側電極と前記外側電極の間に存在する前記固体電解質とから構成された副調整ポンプセルと、前記第1空室に面して形成された第1内側電極と、前記外側電極と、前記第1内側電極と前記外側電極との間に存在する前記固体電解質とから構成された第1ポンプセルと、前記第2空室に面して形成された第2内側電極と、前記外側電極と、前記第2内側電極と前記外側電極との間に存在する前記固体電解質とから構成された第2ポンプセルと、前記第3空室に面して形成された第3内側電極と、前記外側電極と、前記第3内側電極と前記外側電極との間に存在する前記固体電解質とから構成された第3ポンプセルと、を備えるものであり、a)前記副調整ポンプセルによって、前記被測定ガスに含まれる水蒸気および二酸化炭素が分解されない範囲で、前記ガス導入口から前記副調整空室に導入された前記被測定ガスから酸素を汲み出す工程と、b)前記第1ポンプセルによって、前記副調整空室から前記第1空室に導入された前記被測定ガスに含まれる水蒸気および二酸化炭素が実質的に全て分解されるように、前記第1空室から酸素を汲み出す工程と、c)前記第2ポンプセルによって、前記第2空室に酸素を汲み入れることによって、前記第1空室から前記第2空室へと導入された前記被測定ガスに含まれている、水蒸気の分解によって生成した水素を前記第2空室において選択的に酸化させる工程と、d)前記第3ポンプセルによって、前記第3空室に酸素を汲み入れることによって、前記第2空室から前記第3空室へと導入された前記被測定ガスに含まれている、二酸化炭素の分解によって生成した一酸化炭素を前記第3空室において酸化させる工程と、e)前記第2ポンプセルによって前記第2空室に酸素を汲み入れる際に前記第2内側電極と前記外側電極との間を流れる電流の大きさに基づいて、前記被測定ガスに含まれる水蒸気の濃度を特定する工程と、f)前記第3ポンプセルによって前記第3空室に酸素を汲み入れる際に前記第3内側電極と前記外側電極との間を流れる電流の大きさに基づいて、前記被測定ガスに含まれる二酸化炭素の濃度を特定する工程と、g)前記副調整ポンプセルによって前記副調整空室から酸素を汲み出す際に前記副調整用内側電極と前記外側電極との間を流れる電流の大きさに基づいて、前記被測定ガスに含まれる酸素の濃度を特定する工程と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の第5の態様は、第4の態様に係るガスセンサによる濃度測定方法であって、前記センサ素子が、基準ガスと接触してなる基準電極、をさらに備えるものであり、前記工程a)においては、前記副調整用内側電極と前記基準電極との間に前記副調整空室の酸素濃度に応じて生じる起電力V0が、400mV~700mVなる範囲内の所定の目標値に保たれるように、前記副調整ポンプセルにおいて前記副調整用内側電極と前記外側電極との間に印加される電圧を制御し、前記工程b)においては、前記第1内側電極と前記基準電極との間に前記第1空室の酸素濃度に応じて生じる起電力V1が、1000mV~1500mVなる範囲内の所定の目標値に保たれるように、前記第1ポンプセルにおいて前記第1内側電極と前記外側電極との間に印加される電圧を制御し、前記工程c)においては、前記第2内側電極と前記基準電極との間に前記第2空室の酸素濃度に応じて生じる起電力V2が、250mV~450mVなる範囲内の所定の目標値に保たれるように、前記第2ポンプセルにおいて前記第2内側電極と前記外側電極との間に印加される電圧を制御し、前記工程d)においては、前記第3内側電極と前記基準電極との間に前記第3空室の酸素濃度に応じて生じる起電力V3が、100mV~300mVなる範囲内の所定の目標値に保たれるように、前記第3ポンプセルにおいて前記第3内側電極と前記外側電極との間に印加される電圧を制御する、ことを特徴とする。
【0012】
本発明の第6の態様は、第5の態様に係るガスセンサによる濃度測定方法であって、前記工程a)においては、前記起電力V0が400mVに保たれるように、前記副調整ポンプセルにおいて前記副調整用内側電極と前記外側電極との間に印加される電圧を制御する、ことを特徴とする。
【0013】
本発明の第7の態様は、第1ないし第3の態様のいずれかに係るガスセンサであって、前記第1ポンプセルが、前記副調整空室から前記第1空室に導入された前記被測定ガスに含まれる水蒸気および二酸化炭素が実質的に全て分解されるように前記第1空室から酸素を汲み出す第1の汲み出し動作の途中において所定時間、前記第1の汲み出し動作を停止させるか、あるいは、前記被測定ガスに含まれる水蒸気および二酸化炭素が分解されない範囲で前記第1空室から酸素を汲み出す第2の汲み出し動作を行うことによって、前記第1空室における水蒸気および二酸化炭素の還元が中断されることにより、前記第2空室にて生成した水蒸気と前記第3空室にて生成した二酸化炭素とが前記第1空室および前記副調整空室を経て前記センサ素子の外部へと排出される、ことを特徴とする。
【0014】
本発明の第8の態様は、第7の態様に係るガスセンサであって、前記第1ポンプセルは、前記第1の汲み出し動作と、前記第1の汲み出し動作の停止あるいは前記第2の汲み出し動作とを、交互にかつ周期的に行い、前記第2ポンプセルによる前記第2空室への酸素の汲み入れと前記第3ポンプセルによる前記第3空室への酸素の汲み入れとが、前記第1ポンプセルの動作に応じて周期的に行われる、ことを特徴とする。
【0015】
本発明の第9の態様は、第8の態様に係るガスセンサであって、前記第2ポンプセルによる前記第2空室への酸素の汲み入れと前記第3ポンプセルによる前記第3空室への酸素の汲み入れとを、前記第1ポンプセルによる前記第1の汲み出し動作の停止あるいは前記第2の汲み出し動作と同期させて行う、ことを特徴とする。
【0016】
本発明の第10の態様は、第8の態様に係るガスセンサであって、前記第2ポンプセルによる前記第2空室への酸素の汲み入れと前記第3ポンプセルによる前記第3空室への酸素の汲み入れとを、前記第1ポンプセルによる前記第1の汲み出し動作の途中から前記第1の汲み出し動作の停止の途中あるいは前記第2の汲み出し動作の途中まで行う、ことを特徴とする。
【0017】
本発明の第11の態様は、第4ないし第6の態様のいずれかに係るガスセンサによる濃度測定方法であって、前記工程b)の途中において、前記第1ポンプセルが、前記副調整空室から前記第1空室に導入された前記被測定ガスに含まれる水蒸気および二酸化炭素が実質的に全て分解されるように前記第1空室から酸素を汲み出す第1の汲み出し動作を所定時間停止させるか、あるいは、前記被測定ガスに含まれる水蒸気および二酸化炭素が分解されない範囲で前記第1空室から酸素を汲み出す第2の汲み出し動作を行うことによって、前記第1空室における水蒸気および二酸化炭素の還元を中断することにより、前記第2空室にて生成した水蒸気と前記第3空室にて生成した二酸化炭素とを前記第1空室および前記副調整空室を経て前記センサ素子の外部へと排出させる、ことを特徴とする。
【0018】
本発明の第12の態様は、第11の態様に係るガスセンサによる濃度測定方法であって、前記工程b)においては、前記第1ポンプセルが、前記第1の汲み出し動作と、前記第1の汲み出し動作の停止あるいは前記第2の汲み出し動作とを、交互にかつ周期的に行い、前記工程c)における前記第2ポンプセルによる前記第2空室への酸素の汲み入れと前記工程d)における前記第3ポンプセルによる前記第3空室への酸素の汲み入れとを、前記工程b)における前記第1ポンプセルの動作に応じて周期的に行う、ことを特徴とする。
【0019】
本発明の第13の態様は、第12の態様に係るガスセンサによる濃度測定方法であって、前記工程c)における前記第2ポンプセルによる前記第2空室への酸素の汲み入れと前記工程d)における前記第3ポンプセルによる前記第3空室への酸素の汲み入れとを、前記工程b)における前記第1ポンプセルによる前記第1の汲み出し動作の停止あるいは前記第2の汲み出し動作と同期させて行う、ことを特徴とする。
【0020】
本発明の第14の態様は、第12の態様に係るガスセンサによる濃度測定方法であって、前記工程c)における前記第2ポンプセルによる前記第2空室への酸素の汲み入れと前記工程d)における前記第3ポンプセルによる前記第3空室への酸素の汲み入れとを、前記工程b)における前記第1ポンプセルによる前記第1の汲み出し動作の途中から前記第1の汲み出し動作の停止の途中あるいは前記第2の汲み出し動作の途中まで行う、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の第1ないし第14の態様によれば、水蒸気および二酸化炭素の濃度を測定可能なガスセンサにおいてさらに、従来よりも優れた精度で酸素の濃度を求めることができる。
【0022】
また、本発明の第7ないし第14の態様によれば、水素および一酸化炭素の酸化により生成される水蒸気および二酸化炭素が再還元されることに起因した、ガスセンサの測定精度の低下が、好適に抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】ガスセンサ100の構成の一例を概略的に示す図である。
【
図2】コントローラ110において実現される機能的構成要素を示すブロック図である。
【
図3】センサ素子10における、4つの空室(内部空所)におけるガスの出入りの様子を示す模式図である。
【
図4】センサ素子10βにおける、3つの空室(内部空所)におけるガスの出入りの様子を示す模式図である。
【
図5】相異なる3種類のモデルガスを流したときの、副調整空室用センサセル84における起電力V0の目標値(制御電圧)と、副調整ポンプセル80に流れる酸素ポンプ電流Ip0との関係を示すグラフである。
【
図6】ガスセンサ100が基本動作に基づく測定を継続的に行った場合に生じる不具合について説明するための図である。
【
図7】ガスセンサ100が基本動作に基づく測定を継続的に行った場合に生じる不具合について説明するための図である。
【
図8】生成ガス排出動作における起電力V1、V2、およびV3の目標値の時間変化を示す図である。
【
図9】生成ガス排出動作の際の4つの空室におけるガスの出入りの様子を示す模式図である。
【
図10】生成ガス排出動作のさらに別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<第1の実施の形態>
<ガスセンサの構成>
図1は、本実施の形態に係るガスセンサ100の構成の一例を概略的に示す図である。ガスセンサ100は、センサ素子10によって複数種類のガス成分を検知し、その濃度を測定するマルチガスセンサである。本実施の形態においては、少なくとも水蒸気(H
2O)および二酸化炭素(CO
2)が、ガスセンサ100における主たる検知対象ガス成分であるとする。ガスセンサ100は、例えば、自動車のエンジンなどの内燃機関の排気経路に取り付けられ、係る排気経路を流れる排ガスを被測定ガスとする態様にて使用される。
図1は、センサ素子10の長手方向に沿った垂直断面図を含んでいる。
【0025】
センサ素子10は、酸素イオン伝導性の固体電解質からなる長尺板状の構造体(基体部)14と、該構造体14の一方端部(図面視左端部)に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入口16と、構造体14内に形成され、ガス導入口16から順次に連通する副調整空室18、第1空室(主調整空室)19、第2空室20、および第3空室21を有する。副調整空室18は第1拡散律速部30を介してガス導入口16と連通している。第1(主調整)空室19は、第2拡散律速部32を介して副調整空室18と連通している。第2空室20は、第3拡散律速部34を介して第1(主調整)空室19と連通している。第3空室21は、第4拡散律速部36を介して第2空室20と連通している。
【0026】
構造体14は、例えば、セラミックスよりなる複数層の基板を積層して構成される。具体的には、構造体14は、第1基板22aと、第2基板22bと、第3基板22cと、第1固体電解質層24と、スペーサ層26と、第2固体電解質層28とよりなる6つの層が、下から順に積層された構成を有する。各層は、例えばジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性の固体電解質によって構成される。
【0027】
ガス導入口16、第1拡散律速部30、副調整空室18、第2拡散律速部32、第1(主調整)空室19、第3拡散律速部34、第2空室20、第4拡散律速部36、および第3空室21は、構造体14の一方端部側であって、第2固体電解質層28の下面28bと第1固体電解質層24の上面24aとの間に、この順に形成されている。ガス導入口16から第3空室21に至る部位を、ガス流通部とも称する。
【0028】
ガス導入口16と、副調整空室18と、第1(主調整)空室19と、第2空室20と、第3空室21とは、スペーサ層26を厚み方向に貫通するようにして形成されている。4つの空室の図面視上部においては、第2固体電解質層28の下面28bが露出し、図面視下部においては第1固体電解質層24の上面24aが露出している。それら4つの空室の側部は、スペーサ層26あるいはいずれかの拡散律速部にて区画されている。
【0029】
第1拡散律速部30、第2拡散律速部32、第3拡散律速部34、および、第4拡散律速部36は、いずれも2本の横長なスリットを備えている。すなわち、図面に垂直な方向に長く伸びた開口を図面視上部および下部に有している。
【0030】
また、センサ素子10においてガス導入口16が設けられた一方端部とは反対側の他方端部(図面視右端部)には、基準ガス導入空間38が設けられている。基準ガス導入空間38は、第3基板22cの上面22c1と、スペーサ層26の下面26bとの間に形成されている。また、基準ガス導入空間38の側部は第1固体電解質層24の側面で区画されている。基準ガス導入空間38には、基準ガスとして、例えば酸素(O2)や大気が導入される。
【0031】
ガス導入口16は、外部空間に対して開口している部位であり、該ガス導入口16を通じて外部空間からセンサ素子10内に被測定ガスが取り込まれる。
【0032】
第1拡散律速部30は、ガス導入口16から副調整空室18に導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0033】
副調整空室18は、ガス導入口16から副調整空室18へと導入された被測定ガスから酸素を汲み出すための空間として設けられている。係る酸素の汲み出しは、副調整ポンプセル80が作動することによって実現される。
【0034】
なお、副調整空室18は、緩衝空間としても機能する。すなわち、副調整空室18は、外部空間における被測定ガスの圧力変動によって生じる被測定ガスの濃度変動を打ち消す機能も有している。このような被測定ガスの圧力変動としては、例えば自動車の排ガスの排気圧の脈動等が挙げられる。
【0035】
副調整ポンプセル80は、第2固体電解質層28の下面28bの副調整空室18に面する略全域に設けられた副調整用内側ポンプ電極82と、第2固体電解質層28の一方主面(図面視上面)に外部空間に露出する態様に設けられた外側ポンプ電極44と、両電極に挟まれた第2固体電解質層28とによって構成される、電気化学的ポンプセルである。
【0036】
副調整ポンプセル80においては、副調整用内側ポンプ電極82と外側ポンプ電極44との間に、センサ素子10の外部に備わる可変電源86によって電圧Vp0が印加されることにより、酸素ポンプ電流(酸素イオン電流)Ip0が生じる。これにより、副調整空室18内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出すことが、可能となっている。
【0037】
副調整用内側ポンプ電極82および外側ポンプ電極44は、白金(Pt)または白金と金(Au)との合金(Pt-Au合金)を金属成分として、例えば、PtまたはPt-Au合金とジルコニア(ZrO2)とを含む平面視矩形状の多孔質サーメット電極として、設けられてなる。
【0038】
また、センサ素子10は、副調整空室18内における雰囲気中の酸素分圧を把握するための電気化学的センサセルである副調整空室用センサセル84を有する。副調整空室用センサセル84は、副調整用内側ポンプ電極82と、基準電極48と、構造体14において両電極に挟まれた部分に存在する固体電解質とによって構成される。
【0039】
基準電極48は、第1固体電解質層24と第3基板22cとの間に形成された電極であり、例えば、外側ポンプ電極44と同様の、白金とジルコニアとを含む平面視矩形状の多孔質サーメット電極として、設けられてなる。
【0040】
基準電極48の周囲には、多孔質アルミナからなり、且つ、基準ガス導入空間38につながる基準ガス導入層52が設けられている。基準電極48の表面には、基準ガス導入空間38の基準ガスが基準ガス導入層52を介して導入されるようになっている。すなわち、基準電極48は常に基準ガスと接触した状態となっている。
【0041】
副調整空室用センサセル84においては、副調整用内側ポンプ電極82と基準電極48との間に、副調整空室18における酸素濃度(酸素分圧)と基準ガスの酸素濃度(酸素分圧)との差に応じた起電力V0が発生する。基準ガスの酸素濃度(酸素分圧)は基本的に一定であるので、起電力V0は副調整空室18における酸素濃度(酸素分圧)に応じた値となる。
【0042】
第2拡散律速部32は、副調整空室18から第1(主調整)空室19に導入される、酸素が汲み出された被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0043】
第1(主調整)空室19は、第2拡散律速部32を通じて導入される被測定ガスに検知対象ガス成分として含まれているH2OおよびCO2を還元(分解)して水素(H2)および一酸化炭素(CO)を生成させ、被測定ガスが酸素のみならずH2O、CO2についても実質的に含まないようにするための空間として設けられている。係るH2OとCO2の還元(分解)は、第1(主調整)ポンプセル40が作動することによって実現される。
【0044】
第1(主調整)ポンプセル40は、第1(主調整)内側ポンプ電極42と、外側ポンプ電極44と、構造体14において両電極に挟まれた部分に存在する固体電解質とによって構成される、電気化学的ポンプセルである。
【0045】
第1(主調整)ポンプセル40においては、第1(主調整)内側ポンプ電極42と外側ポンプ電極44との間に、センサ素子10の外部に備わる可変電源46によって電圧Vp1が印加されることにより、酸素ポンプ電流(酸素イオン電流)Ip1が生じる。これにより、第1(主調整)空室19内の酸素を外部に汲み出すことが、可能となっている。
【0046】
第1(主調整)内側ポンプ電極42は、第1(主調整)空室19を区画する第1固体電解質層24の上面24a、第2固体電解質層28の下面28b、およびスペーサ層26の側面のそれぞれの略全面に設けられている。これらの部位に設けられた第1(主調整)内側ポンプ電極42は、互いに電気的に接続されてなる。また、第2固体電解質層28の下面28bに設けられる第1(主調整)内側ポンプ電極42は、第2固体電解質層28を挟んで外側ポンプ電極44と対向配置されるのが好適である。
【0047】
第1(主調整)内側ポンプ電極42は、白金を金属成分として、例えば、白金とジルコニアとを含む平面視矩形状の多孔質サーメット電極として、設けられてなる。
【0048】
また、センサ素子10は、第1(主調整)空室19内における雰囲気中の酸素分圧を把握するための電気化学的センサセルである第1(主調整)空室用センサセル50を有する。この第1(主調整)空室用センサセル50は、第1(主調整)内側ポンプ電極42と、基準電極48と、構造体14において両電極に挟まれた部分に存在する固体電解質とによって構成される。
【0049】
第1(主調整)空室用センサセル50においては、第1(主調整)内側ポンプ電極42と基準電極48との間に、第1(主調整)空室19における酸素濃度(酸素分圧)と基準ガスの酸素濃度(酸素分圧)との差に応じた起電力V1が発生する。起電力V1は第1(主調整)空室19における酸素濃度(酸素分圧)に応じた値となる。
【0050】
第3拡散律速部34は、第1(主調整)空室19から第2空室20に導入される、H2およびCOを含みかつH2O、CO2、および酸素を実質的に含まない被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0051】
第2空室20は、第3拡散律速部34を通じて導入される被測定ガスに含まれているH2およびCOのうちH2のみを選択的に全て酸化して再びH2Oを生成させるための空間として設けられている。係るH2の酸化によるH2Oの生成は、第2ポンプセル54が作動することによって実現される。
【0052】
第2ポンプセル54は、第2内側ポンプ電極56と、外側ポンプ電極44と、構造体14において両電極に挟まれた部分に存在する固体電解質とによって構成される、電気化学的ポンプセルである。
【0053】
第2ポンプセル54においては、第2内側ポンプ電極56と外側ポンプ電極44との間に、センサ素子10の外部に備わる可変電源60によって電圧Vp2が印加されることにより、酸素ポンプ電流(酸素イオン電流)Ip2が生じる。これにより、外部空間から第2空室20内に酸素を汲み入れることが、可能となっている。
【0054】
第2内側ポンプ電極56は、第2空室20を区画する第1固体電解質層24の上面24a、第2固体電解質層28の下面28b、およびスペーサ層26の側面のそれぞれの略全面に設けられている。これらの部位に設けられた第2内側ポンプ電極56は、互いに電気的に接続されてなる。
【0055】
第2内側ポンプ電極56は、Pt-Au合金を金属成分として、例えば、係るPt-Au合金とジルコニアとを含む平面視矩形状の多孔質サーメット電極として、設けられてなる。
【0056】
また、センサ素子10は、第2空室20内における雰囲気中の酸素分圧を把握するための電気化学的センサセルである第2空室用センサセル58を有する。第2空室用センサセル58は、第2内側ポンプ電極56と、基準電極48と、構造体14において両電極に挟まれた部分に存在する固体電解質とによって構成される。
【0057】
第2空室用センサセル58においては、第2内側ポンプ電極56と基準電極48との間に、第2空室20における酸素濃度(酸素分圧)と基準ガスの酸素濃度(酸素分圧)との差に応じた起電力V2が発生する。起電力V2は第2空室20における酸素濃度(酸素分圧)に応じた値となる。
【0058】
第4拡散律速部36は、第2空室20から第3空室21に導入される、H2OおよびCOを含みかつCO2および酸素を実質的に含まない被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0059】
第3空室21は、第4拡散律速部36を通じて導入される被測定ガスに含まれているCOを全て酸化して再びCO2を生成させるための空間として設けられている。係るCOの酸化によるCO2の生成は、第3ポンプセル61が作動することによって実現される。
【0060】
第3ポンプセル61は、第3内側ポンプ電極62と、外側ポンプ電極44と、構造体14において両電極に挟まれた部分に存在する固体電解質とによって構成される、電気化学的ポンプセルである。
【0061】
第3ポンプセル61においては、第3内側ポンプ電極62と外側ポンプ電極44との間に、センサ素子10の外部に備わる可変電源68によって電圧Vp3が印加されることにより、酸素ポンプ電流(酸素イオン電流)Ip3が生じる。これにより、外部空間から第3空室21内に酸素を汲み入れることが、可能となっている。
【0062】
第3内側ポンプ電極62は、第3空室21を区画する第1固体電解質層24の上面24aの略全面に設けられている。
【0063】
第3内側ポンプ電極62は、白金を金属成分として、例えば、白金とジルコニアとを含む平面視矩形状の多孔質サーメット電極として、設けられてなる。
【0064】
また、センサ素子10は、第3空室21内における雰囲気中の酸素分圧を把握するための電気化学的センサセルである第3空室用センサセル66を有する。第3空室用センサセル66は、第3内側ポンプ電極62と、基準電極48と、構造体14において両電極に挟まれた部分に存在する固体電解質とによって構成される。
【0065】
第3空室用センサセル66においては、第3内側ポンプ電極62と基準電極48との間に、第3空室21における酸素濃度(酸素分圧)と基準ガスの酸素濃度(酸素分圧)との差に応じた起電力V3が発生する。起電力V3は第3空室21における酸素濃度(酸素分圧)に応じた値となる。
【0066】
また、センサ素子10はさらに、外側ポンプ電極44と、基準電極48と、構造体14において両電極に挟まれた部分に存在する固体電解質とによって構成される、電気化学的センサセル70を有する。このセンサセル70において外側ポンプ電極44と基準電極48の間に起電力Vrefは、センサ素子10の外部に存在する被測定ガスの酸素分圧に応じた値となる。
【0067】
以上に加えて、センサ素子10は、第2基板22bと第3基板22cとに上下から挟まれた態様にて、ヒータ72を備える。ヒータ72は、第1基板22aの下面22a2に設けられた図示しないヒータ電極を介して外部から給電されることにより発熱する。ヒータ72は、副調整空室18から第3空室21に至る範囲の全域に亘って埋設されており、センサ素子10を所定の温度に加熱しさらには保温することができるようになっている。ヒータ72が発熱することによって、センサ素子10を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性が高められる。
【0068】
ヒータ72の上下には、第2基板22bおよび第3基板22cとの電気的絶縁性を得る目的で、アルミナ等からなるヒータ絶縁層74が形成されている。以下、ヒータ72、ヒータ電極、ヒータ絶縁層74をまとめてヒータ部とも称する。
【0069】
ガスセンサ100はまた、センサ素子10の動作を制御するとともに、センサ素子10を流れる電流に基づいて検知対象ガス成分の濃度を特定する処理を担うコントローラ110をさらに備える。
【0070】
図2は、コントローラ110において実現される機能的構成要素を示すブロック図である。コントローラ110は、例えば1つまたは複数のCPU(中央処理ユニット)と記憶装置等を有する1以上の電子回路により構成される。電子回路は、例えば記憶装置に記憶されている所定のプログラムをCPUが実行することにより、所定の機能的構成要素が実現されるソフトウェア機能部でもある。もちろん、複数の電子回路を機能に合わせて接続したFPGA(Field-Programmable Gate Array)等の集積回路等で構成してもよい。
【0071】
なお、ガスセンサ100が自動車のエンジンの排気経路に取り付けられ、排気経路を流れる排ガスを被測定ガスとして使用される場合、コントローラ110の機能の一部または全部が、自動車のECU(電子制御装置)にて実現されるであってもよい。
【0072】
コントローラ110は、CPUにおいて所定のプログラムが実行されることにより実現される機能的構成要素として、上述したセンサ素子10の各部の動作を制御する素子動作制御部111と、被測定ガスに含まれる検知対象ガス成分の濃度を特定する処理を担う濃度特定部112とを備える。
【0073】
素子動作制御部111は、副調整ポンプセル80の動作を制御する副調整ポンプセル制御部111Aと、第1(主調整)ポンプセル40の動作を制御する第1(主調整)ポンプセル制御部111Bと、第2ポンプセル54の動作を制御する第2ポンプセル制御部111Cと、第3ポンプセル61の動作を制御する第3ポンプセル制御部111Dと、ヒータ72の動作を制御するヒータ制御部111Eとを、主として備える。
【0074】
一方、濃度特定部112は、ガスセンサ100における主たる検知対象ガス成分であるH2OおよびCO2の濃度をそれぞれ特定する水蒸気濃度特定部112Cおよび二酸化炭素濃度特定部112Dを、主として備えるほか、被測定ガスに含まれる酸素の濃度を特定する酸素濃度特定部112Aをさらに備える。すなわち、本実施の形態に係るガスセンサ100においては、主たる検知対象ガス成分であるH2OおよびCO2に加え、酸素についても、付随的な検知対象ガス成分として検知され、その濃度が特定される。その詳細については次述する。
【0075】
<マルチガス検知と濃度特定>
次に、上述のような構成を有するガスセンサ100において実現される、複数のガス種の検知(マルチガス検知)と、検知されたガスの濃度の特定の仕方について説明する。以降においては、被測定ガスが酸素、H2O、およびCO2を含む排ガスであるとする。
【0076】
図3は、ガスセンサ100のセンサ素子10における、4つの空室(内部空所)におけるガスの出入りの様子を示す模式図である。また、
図4は、比較のために示す、副調整空室18および第2拡散律速部32を有さないセンサ素子10βにおける、3つの空室(内部空所)におけるガスの出入りの様子を示す模式図である。センサ素子10βでは、ガス導入口16と第1空室19とが第1拡散律速部30を介して連通している。また、センサ素子10βは、副調整空室18に対応する副調整ポンプセル80および副調整空室用センサセル84も有してはおらず、当然ながら、センサ素子10βを備えるガスセンサにおいては、副調整ポンプセル制御部111Aおよび可変電源86も不要である。係るセンサ素子10βは概略、特許文献1に開示されたような、3つの内部空所を有する従来のガスセンサのセンサ素子に相当する。
【0077】
まず、本実施の形態に係るガスセンサ100が備えるセンサ素子10においては、上述のように、ガス導入口16から副調整空室18へと被測定ガスが導入される。副調整空室18においては、副調整ポンプセル80が作動することにより、導入された被測定ガスから酸素が汲み出される。
【0078】
係る酸素の汲み出しは、コントローラ110の副調整ポンプセル制御部111Aが、副調整空室用センサセル84における起電力V0の目標値(制御電圧)を400mV~700mVなる範囲内の値(好ましくは400mV)に設定し、起電力V0が係る目標値に保たれるよう、可変電源86が副調整ポンプセル80に印加する電圧Vp0を実際の起電力V0の値と目標値との差異に応じてフィードバック制御することにより、行われる。例えば酸素を多く含む被測定ガスが副調整空室18に到達すると起電力V0の値が目標値から大きく変位するので、副調整ポンプセル制御部111Aは、係る変位が減少するように、可変電源86が副調整ポンプセル80に印加するポンプ電圧Vp0を制御する。
【0079】
このような態様にて副調整ポンプセル80により副調整空室18から酸素が汲み出されることで、副調整空室18における酸素分圧は、被測定ガスに含まれるH2OおよびCO2の還元が生じない範囲で十分に低い値に保たれる。例えば、V0=400mVの場合であれば、10-8atm程度となる。
【0080】
図5は、起電力V0の目標値が400mV~700mVなる範囲内の値に設定されることで、H
2OおよびCO
2の還元が生じない範囲で酸素の汲み出しが行われる理由を説明するための図である。具体的には、
図5は、相異なる3種類のモデルガスを流したときの、副調整空室用センサセル84における起電力V0の目標値(制御電圧)と、副調整ポンプセル80に流れる酸素ポンプ電流Ip0との関係を示すグラフである。3種類のモデルガスは、具体的には、酸素を10%含む第1のガスと、酸素とCO
2を10%ずつ含む第2のガスと、酸素とH
2Oを10%ずつ含む第3のガスである。いずれのガスも、残余は窒素(N
2)とした。また、センサ素子10の温度は800℃とし、モデルガスの温度は150℃とした。
【0081】
図5からは、第1のガスの場合、制御電圧が0.4V以上の範囲で酸素ポンプ電流Ip0が略一定となっているのに対し、第2のガスおよび第3のガスの場合、制御電圧が0.7V以下の範囲では第1のガスと略同じプロファイルとなっているものの、制御電圧が0.7Vを超えると、酸素ポンプ電流Ip0が再び増大していることが確認される。係る増大は、被測定ガスに含まれているH
2OまたはCO
2が還元(分解)されて酸素が発生することにより流れる、H
2OまたはCO
2の還元電流が重畳していることにより生じている。
【0082】
これを踏まえ、本実施の形態においては、起電力V0の目標値を400mV~700mVなる範囲内の値に設定している。なお、電極の耐久性を確保するという観点からは、起電力V0をなるべく低くする方が好ましいため、起電力V0の目標値は400mVとすることが好ましいと判断される。
【0083】
副調整空室18において酸素が汲み出された被測定ガスは、第1(主調整)空室19に導入される。第1(主調整)空室19においては、第1(主調整)ポンプセル40が作動することにより、副調整空室18において酸素が汲み出されたうえで導入された被測定ガスからさらに酸素が汲み出される。これにより、被測定ガスに含まれているH2OおよびCO2の還元(分解)反応(2H2O→2H2+O2、2CO2→2CO+O2)が進行し、H2OおよびCO2は実質的に全て、水素(H2)および一酸化炭素(CO)と酸素とに分解され、これにより生じた酸素も汲み出される。
【0084】
係るH
2OおよびCO
2の分解と生じた酸素の汲み出しとは、コントローラ110の第1(主調整)ポンプセル制御部111Bが、第1(主調整)空室用センサセル50における起電力V1の目標値(制御電圧)を1000mV~1500mVなる範囲内の値(好ましくは1000mV)に設定し、起電力V1が係る目標値に保たれるよう、可変電源46が第1(主調整)ポンプセル40に印加する電圧Vp1を実際の起電力V1の値と目標値との差異に応じてフィードバック制御することにより、行われる。なお、起電力V1の目標値を1000mV~1500mVなる範囲内の値とすることが好適であるのは、
図5に示すグラフからも示唆される。
【0085】
係る態様にて第1(主調整)ポンプセル40が作動することで、第1(主調整)空室19における酸素分圧は、副調整空室18における酸素分圧よりもさらに低い値に保たれる。例えば、V1=1000mVの場合であれば、10-20atm程度となる。これにより、被測定ガスはH2O、CO2、および酸素を実質的に含まなくなる。
【0086】
H2およびCOを含む一方でH2O、CO2、および酸素を実質的に含まない被測定ガスは、第2空室20に導入される。
【0087】
一方、
図4に示すセンサ素子10βの場合、ガス導入口16から素子内部へと取り込まれた被測定ガスは、第1空室19へと導入される。そして、係る第1空室19においては、第1ポンプセル40が作動することにより、導入された被測定ガスに含まれているH
2OおよびCO
2の水素(H
2)および一酸化炭素(CO)と酸素への分解と、酸素の汲み出しとが、併せて行われる。
【0088】
これは、第1ポンプセル制御部111Bが、第1空室用センサセル50における起電力V1の目標値(制御電圧)を1000mV~1500mVなる範囲内の値に設定し、係る目標値が達成されるよう、可変電源46が第1ポンプセル40に印加する電圧Vp1を実際の起電力V1の値と目標値との差異に応じてフィードバック制御することにより、行われる。それゆえ、結果的に得られるのも、センサ素子10の場合と同様、H2およびCOを含む一方でH2O、CO2、および酸素を実質的に含まない被測定ガスである。係る被測定ガスは、第2空室20に導入される。
【0089】
以降の処理は、センサ素子10とセンサ素子10βにおいて共通している。まず、第2空室20においては、第2ポンプセル54が作動することにより酸素が汲み入れられ、導入された被測定ガスに含まれているH2のみが酸化される。
【0090】
係る酸素の汲み入れは、コントローラ110の第2ポンプセル制御部111Cが、第2空室用センサセル58における起電力V2の目標値(制御電圧)を250mV~450mVなる範囲内の値(好ましくは350mV)に設定し、起電力V2が係る目標値に保たれるよう、可変電源60が第2ポンプセル54に印加する電圧Vp2を実際の起電力V2の値と目標値との差異に応じてフィードバック制御することにより、行われる。
【0091】
係る態様にて第2ポンプセル54が作動することで、第2空室20内においては、2H2+O2→2H2Oなる酸化(燃焼)反応が促進されて、ガス導入口16から導入されたH2Oの量と相関性を有する量のH2Oが再び生成される。なお本実施の形態において、H2OあるいはCO2の量が相関性を有するとは、ガス導入口16から導入されたH2OあるいはCO2の量と、それらの分解によって生じたH2およびCOが酸化させられることによって再び生成するH2OあるいはCO2の量とが、同量または測定精度の点から許容される一定の誤差範囲内にある、ということである。
【0092】
起電力V2の目標値が250mV~450mVなる範囲内の値に設定されることにより、第2空室20の酸素分圧は、H2はほぼ全て酸化されるもののCOは酸化されない範囲の値に保たれる。例えば、V2=350mVの場合であれば、10-7atm程度となる。
【0093】
このとき、第2ポンプセル54を流れる酸素ポンプ電流Ip2(以下、水蒸気検出電流Ip2とも称する)は、第2空室20におけるH2の燃焼によって生成するH2Oの濃度に略比例する(水蒸気検出電流Ip2と生成するH2Oの濃度とが線型関係にある)。係る燃焼によって生成するH2Oの量は、ガス導入口16から導入された後、第1(主調整)空室19においていったん分解された、被測定ガス中のH2Oの量と相関性を有する。よって、第2ポンプセル制御部111Cにおいて水蒸気検出電流Ip2が検出されることで、被測定ガス中のH2Oが検知されたことになる。
【0094】
また、水蒸気検出電流Ip2と被測定ガスにおける水蒸気濃度の間には、線型関係が成立する。係る線型関係を示すデータ(水蒸気特性データ)は、水蒸気濃度が既知のモデルガスを用いてあらかじめ特定され、水蒸気濃度特定部112Cに保持されている。本実施の形態に係るガスセンサ100においては、第2ポンプセル制御部111Cにおいて検出される水蒸気検出電流Ip2の値を、水蒸気濃度特定部112Cが取得する。水蒸気濃度特定部112Cは、水蒸気特性データを参照し、取得した水蒸気検出電流Ip2に対応する水蒸気濃度の値を特定する。これにより、被測定ガスにおける水蒸気濃度が特定される。
【0095】
なお、仮に、ガス導入口16から導入された被測定ガス中にH2Oが存在していなかった場合には、当然ながら第1(主調整)空室19におけるH2Oの分解は生じず、それゆえ第2空室20にH2が導入されることはないので、水蒸気検出電流Ip2はほぼゼロとなる。
【0096】
H2が酸化されてH2Oとなることで、被測定ガスは、H2OおよびCOを含みかつCO2および酸素を実質的に含まないものとなる。係る被測定ガスが第3空室21に導入される。第3空室21においては、第3ポンプセル61が作動することにより酸素が汲み入れられ、導入された被測定ガスに含まれているCOが酸化される。
【0097】
係る酸素の汲み入れは、コントローラ110の第3ポンプセル制御部111Dが、第3空室用センサセル66における起電力V3の目標値(制御電圧)を100mV~300mVなる範囲内の値(好ましくは200mV)に設定し、起電力V3が係る目標値に保たれるよう、可変電源68が第3ポンプセル61に印加する電圧Vp3を実際の起電力V3の値と目標値との差異に応じてフィードバック制御することにより、行われる。
【0098】
係る態様にて第3ポンプセル61が作動することで、第3空室21内においては、2CO+O2→2CO2なる酸化(燃焼)反応が促進されて、ガス導入口16から導入されたCO2の量と相関性を有する量のCO2が再び生成される。
【0099】
起電力V3の目標値が100mV~300mVなる範囲内の値に設定されることにより、第3空室21の酸素分圧は、COがほぼ全て酸化される範囲の値に保たれる。例えば、V3=200mVの場合であれば、10-4atm程度となる。
【0100】
このとき、第3ポンプセル61を流れる酸素ポンプ電流Ip3(以下、二酸化炭素検出電流Ip3とも称する)は、第3空室21におけるCOの燃焼によって生成するCO2の濃度に略比例する(二酸化炭素検出電流Ip3と生成するCO2の濃度とが線型関係にある)。係る燃焼によって生成するCO2の量は、ガス導入口16から導入された後、第1(主調整)空室19においていったん分解された、被測定ガス中のCO2の量と相関性を有する。よって、第3ポンプセル制御部111Dにおいて二酸化炭素検出電流Ip3が検出されることで、被測定ガス中のCO2が検知されたことになる。
【0101】
また、二酸化炭素検出電流Ip3と被測定ガスにおける二酸化炭素濃度の間には、線型関係が成立する。係る線型関係を示すデータ(二酸化炭素特性データ)は、二酸化炭素濃度が既知のモデルガスを用いてあらかじめ特定され、二酸化炭素濃度特定部112Dに保持されている。本実施の形態に係るガスセンサ100においては、第3ポンプセル制御部111Dにおいて検出される二酸化炭素検出電流Ip3の値を、二酸化炭素濃度特定部112Dが取得する。二酸化炭素濃度特定部112Dは、二酸化炭素特性データを参照し、取得した二酸化炭素検出電流Ip3に対応する二酸化炭素濃度の値を特定する。これにより、被測定ガスにおける二酸化炭素濃度が特定される。
【0102】
なお、仮に、ガス導入口16から導入された被測定ガス中にCO2が存在していなかった場合には、当然ながら第1(主調整)空室19におけるCO2の分解は生じず、それゆえ第3空室21にCOが導入されることはないので、二酸化炭素検出電流Ip3はほぼゼロとなる。
【0103】
以上のように、センサ素子10およびセンサ素子10βのいずれを備えるガスセンサであっても、水蒸気濃度および二酸化炭素濃度を好適に特定することが可能である。
【0104】
これに加え、本実施の形態に係るガスセンサ100の場合、センサ素子10が副調整空室18をさらに備え、センサ素子10βでは第1(主調整)空室19に導入された被測定ガスを対象に併せて行われる酸素の汲み出しとH2OおよびCO2の分解とを、副調整空室18と第1(主調整)空室19との2箇所に分けて段階的に行うことを利用して、被測定ガスに含まれる酸素の濃度についても、特定することができるようになっている。
【0105】
具体的にいえば、本実施の形態に係るガスセンサ100においては、上述のように、副調整空室18において、ガス導入口16から導入された被測定ガスからの酸素の汲み出しが行われる。係る酸素の汲み出しは、副調整ポンプセル80が作動することにより、H2OおよびCO2の還元が生じない範囲で行われるものではあるが、その際に副調整ポンプセル80を流れる酸素ポンプ電流Ip0(以下、酸素検出電流Ip0とも称する)はガス導入口16から導入された被測定ガスに含まれる酸素の濃度に略比例する。すなわち、酸素検出電流Ip0と被測定ガスにおける酸素濃度の間には、線型関係が成立する。係る線型関係を示すデータ(酸素特性データ)は、酸素濃度が既知のモデルガスを用いてあらかじめ特定され、酸素濃度特定部112Aに保持されている。本実施の形態に係るガスセンサ100においては、副調整ポンプセル制御部111Aにおいて検出される酸素検出電流Ip0の値を、酸素濃度特定部112Aが取得する。酸素濃度特定部112Aは、酸素特性データを参照し、取得した酸素検出電流Ip0に対応する酸素濃度の値を特定する。これにより、被測定ガスにおける酸素濃度が特定される。
【0106】
確認的にいえば、
図4に示すセンサ素子10βの場合、第1空室用センサセル50における起電力V1の目標値(制御電圧)を1000mV~1500mVなる範囲内の値に設定することで、第1ポンプセル40による第1空室19からの酸素の汲み出しとH
2OおよびCO
2の還元とを行っているが、係る起電力V1の目標値の範囲は、
図5に示したグラフにおいてH
2OおよびCO
2の還元が生じる範囲に属しているので、このときに第1ポンプセル40を流れるポンプ電流Ip1の値に基づいて、ガス導入口16から導入された被測定ガスに含まれていた酸素の濃度を特定することはできない。
【0107】
なお、センサ素子10βを備えるガスセンサの場合も、間接的ではあるが、被測定ガスに含まれる酸素の濃度を求めることが可能ではある。概略的にいえば、第1空室19から汲み出される酸素の濃度(これをC1とする)と、第2空室20および第3空室21へと汲み入れられる酸素の濃度(それぞれ、C2、C3とする)との差分値
C=C1-C2-C3 ・・・・(1)
が、ガス導入口16から導入された被測定ガス中の酸素の濃度に相当する。C1、C2、C3はそれぞれ、酸素ポンプ電流Ip1、Ip2、Ip3に略比例する値であるので、あらかじめC1とIp1、C2とIp2、C3とIp3との関係(比例定数)を特定しておけば、酸素ポンプ電流Ip1、Ip2、Ip3の検出値から被測定ガス中の酸素の濃度を求めることが可能ではある。以下、係る手法を差分法と称する。
【0108】
しかしながら、それぞれの酸素ポンプ電流Ip1、Ip2、Ip3の検出値には独立に測定誤差があるので、誤差伝播の法則により式(1)における最大誤差はより大きくなる。
【0109】
これに対し、本実施の形態に係るガスセンサ100の場合、酸素検出電流Ip0と酸素濃度とが略比例することに基づき、あらかじめ比例定数を実験的に特定しておけば、酸素検出電流Ip0の値から直接に酸素濃度を求めることができる。以下、本実施の形態に係るガスセンサ100において行うことができる酸素濃度の導出手法を直接法と称する。係る直接法によれば、上述した差分法により濃度値を求める場合よりも、精度の優れた値を得ることができる。
【0110】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、H2OおよびCO2の濃度を測定可能なガスセンサにおいてさらに、従来よりも優れた精度で酸素の濃度を求めることができる。
【0111】
<第1の実施の形態の実施例>
差分法と直接法とのそれぞれにおける酸素濃度の測定誤差を評価した。
【0112】
(差分法)
まず、酸素濃度C1、C2、C3と酸素ポンプ電流Ip1、Ip2、Ip3について、C1とIp1の間、C2とIp2の間、C3とIp3の間にはそれぞれ、以下の比例関係が成り立つものとする。なお、酸素濃度C1、C2、C3の単位は%であり、酸素ポンプ電流Ip1、Ip2、Ip3の単位はmAであり、酸素ポンプ電流Ip1、Ip2、Ip3は酸素が汲み出される向きを正としている。
【0113】
C1=19.69Ip1;
C2=-21.65Ip2;
C3=-29.53Ip3。
【0114】
これにより、式(1)は以下のように表される。
【0115】
C=19.69Ip1+21.65Ip2+29.53Ip3 ・・・・(2)
被測定ガスとして、酸素とCO2とH2Oとを10%ずつ含み、残余が窒素であるモデルガスを用い、センサ素子10βを備えるガスセンサにおいて酸素ポンプ電流Ip1、Ip2、Ip3を測定した。センサ素子の温度は800℃とし、モデルガスの温度は150℃とした。
【0116】
その結果、以下の値が得られた。
【0117】
Ip1=2.27mA;
Ip2=-1.37mA;
Ip3=-0.17mA。
【0118】
なお、Ip2、Ip3の値が負であるのは、酸素ポンプ電流は汲み出す向きを正としているためである。
【0119】
ここで、それぞれの酸素ポンプ電流Ip1、Ip2、Ip3における測定誤差を±1%であるとすると、係る測定誤差を考慮した酸素ポンプ電流Ip1、Ip2、Ip3の範囲は以下の通りとなる。
【0120】
Ip1=2.27±0.0227mA;
Ip2=-1.37±0.0137mA;
Ip3=-0.17±0.0017mA。
【0121】
これらの範囲を踏まえると、式(2)から得られる、誤差を含めた濃度値Cの範囲は、
C=10±0.8(%)
となる。すなわち、差分法にて得られる濃度値Cには、最大で中央値に対し±8/100程度の誤差があり得るということになる。
【0122】
(直接法)
まず、酸素濃度Cと酸素ポンプ電流(酸素検出電流)Ip0の間には、以下の比例関係が成り立つものとする。なお、酸素濃度Cの単位は%であり、酸素ポンプ電流Ip0の単位はmAである。
【0123】
C=37.04Ip0 ・・・・(3)
被測定ガスとして、差分法の場合と同じく、酸素とCO2とH2Oとを10%ずつ含み、残余が窒素であるモデルガスを用い、センサ素子10βを備えるガスセンサにおいて酸素ポンプ電流Ip0、Ip1、Ip2、Ip3を測定した。センサ素子の温度は800℃とし、モデルガスの温度は150℃とした。その結果、以下の値が得られた。
【0124】
Ip0=0.27mA;
Ip1=1.85mA;
Ip2=-1.24mA;
Ip3=-0.15mA。
【0125】
ここで、それぞれの酸素ポンプ電流Ip0における測定誤差を±1%であるとすると、係る測定誤差を考慮した酸素ポンプ電流Ip0の範囲は以下の通りとなる。
【0126】
Ip0=0.27±0.0027mA。
【0127】
係る範囲を踏まえると、式(3)から得られる、誤差を含めた濃度値Cの範囲は、
C=10±0.1(%)
となる。すなわち、直接法にて得られる濃度値Cには、最大で中央値に対し±1/100程度の誤差があり得るということになる。
【0128】
係る結果と差分法による結果とを対比すると、直接法では、差分法の1/8にまで測定誤差が抑制されていることがわかる。係る結果は、差分法よりも直接法の方が、酸素濃度の特定手法として優れていることを示している。
【0129】
<第2の実施の形態>
<継続的使用を考慮した濃度特定>
以降においては、
図3に基づき説明した、センサ素子10を備えるガスセンサ100の動作態様を、基本動作とも称する。
図6および
図7は、ガスセンサ100が係る基本動作に基づく測定を継続的に行った場合に生じ得る不具合について説明するための図である。
【0130】
ガスセンサ100が上述の基本動作に従い、被測定ガス中のH2OおよびCO2の濃度さらには酸素の濃度を測定する場合、第2空室20で生成したH2Oは基本的に、第3空室21に導入されるかあるいは第2空室20に滞留する。また、第3空室21で生成したCO2は基本的に、第3空室21に滞留する。そのため、測定が継続的に行われるにつれ、これら第2空室20および第3空室21におけるH2OおよびCO2の生成量が増大していくことになる。
【0131】
すると、第1拡散律速部30(ガス導入口16)から新たに導入される被測定ガスの濃度が比較的小さい場合、
図6に示すように、ガス導入口16から第3空室21に至るガス流通部において、ガス導入口16から最奥の内部空所である第3空室21に向かうほど、H
2OおよびCO
2の濃度が高くなるような濃度勾配が形成され得る。
【0132】
そして、このような濃度勾配が生じた結果として、第3空室21あるいは第2空室20に存在しているH2OおよびCO2の第3空室21および第2空室20から第1空室19への拡散移動が生じ得る。つまりは、H2OおよびCO2の第1空室19への逆流が起こり得る。
【0133】
上述のように、第1空室19においては、第1ポンプセル40が作動することによりH
2OおよびCO
2の還元が継続的に行われている。そのため、
図7に示すように、第3空室21および第2空室20からH
2OおよびCO
2が逆流した場合、それらは、ガス導入口16から導入された被測定ガスに含まれる、その時点における本来の測定対象であるH
2OおよびCO
2と区別されることなく、H
2およびCOへと(再)還元されてしまうことになる。
【0134】
このような再還元が生じてしまうと、第2ポンプセル54が第2空室20に酸素を汲み入れることにより酸化されるH2には再還元により生じたH2が含まれ、第3ポンプセル61が第3空室21に酸素を汲み入れることにより酸化されるCOには再還元により生じたCOが含まれることになるため、第2ポンプセル54を流れる水蒸気検出電流Ip2と第3ポンプセル61を流れる二酸化炭素検出電流Ip3には、再還元されるH2OおよびCO2に由来する電流が重畳してしまうことになる。すなわち、水蒸気検出電流Ip2と二酸化炭素検出電流Ip3の値が、被測定ガスに本来的に含まれるH2OおよびCO2の濃度に対応しなくなってしまい、結果として測定精度が低下することになる。
【0135】
本実施の形態に係るガスセンサ100においては、このような、H2OおよびCO2の逆流に起因した測定精度の低下が生じないように、各ポンプセルの動作が制御されるようになっている。概略的にいえば、第2空室20および第3空室21において生成されるH2OおよびCO2の逆流の発生を抑制するのではなく、第1空室19あるいはさらに副調整空室18へと逆流したH2OおよびCO2をセンサ素子10の外部へと排出させるような動作を行うことで、測定精度が確保されるようになっている。係る動作態様を、生成ガス排出動作とも称する。
【0136】
図8は、生成ガス排出動作における起電力V1、V2、およびV3の目標値の時間変化を示す図である。また、
図9は、生成ガス排出動作の際の4つの空室(内部空所)におけるガスの出入りの様子を示す模式図である。
【0137】
上述したように、基本動作においては、第1空室用センサセル50における起電力V1の目標値は1000mV~1500mVなる範囲内の値に設定され、起電力V0が係る目標値に保たれるよう、第1ポンプセル40に印加する電圧Vp1がフィードバック制御される。
【0138】
これに対し、生成ガス排出動作においては、第1ポンプセル40の動作が一時的に停止されることにより、
図8(a)に示すように、第1空室用センサセル50における起電力V1の目標値を所定の値V1aに保つフィードバック制御が一時的に停止される。
【0139】
ここで、値V1aは、基本動作における起電力V1の目標値と同様、1000mV~1500mVなる範囲内の値である。値V1aは、基本動作の際の起電力V1の目標値と同じ値に設定されてよい。
【0140】
起電力V1の目標値が係る値V1aに設定されている間、第1ポンプセル40は、基本動作のとき同じく、被測定ガスに含まれるH2OおよびCO2が実質的に全て還元されるように、第1空室19から外部へと酸素を汲み出す。
【0141】
これに対し、第1ポンプセル40の動作が停止されると、第1空室19におけるH2OおよびCO2の還元は一時的に中断される。
【0142】
すなわち、生成ガス排出動作において、第1ポンプセル40は、被測定ガスに含まれる水蒸気および二酸化炭素が実質的に全て還元されるように第1空室19から酸素を汲み出す汲み出し動作の途中で、その動作を一時的に停止する。
【0143】
一方、起電力V2と起電力V3の目標値は、基本動作と同様に設定される。具体的には、起電力V2の目標値は250mV~450mVなる範囲内の値(好ましくは350mV)に設定され、起電力V3の目標値は100mV~300mVなる範囲内の値(好ましくは200mV)に設定される。
【0144】
係る場合、起電力V1の目標値が値V1aに設定されている間のガスセンサ100の動作は、基本動作のときと同じであるが、第1ポンプセル40の動作が停止されると、第1空室19においては導入された被測定ガスに含まれるH
2OおよびCO
2は還元されなくる。そのため、第2空室20および第3空室21にて生成されたH
2OおよびCO
2が滞留した結果として、
図6に示したような濃度勾配が生じ、H
2OおよびCO
2が第1空室19へと逆流している場合であっても、
図9に示すように、係る逆流したH
2OおよびCO
2は第1空室19にて再還元されることなくそのまま副調整空室18を経て素子外部へと排出される。これにより、濃度勾配は弱められるため、結果として、起電力V1の目標値が再び値V1aに設定された以降における、逆流したH
2OおよびCO
2の再還元が、起こりにくくなる。すなわち、本実施の形態に係るガスセンサ100においては、第1ポンプセル40による第1空室19からの汲み出し動作が一時的に停止されることにより、センサ素子10内部のガス流通部に生じている濃度勾配に応じて、H
2およびCOの選択的酸化により生成されたH
2OおよびCO
2が第1空室19さらには副調整空室18を経て素子外部へと好適に排出されるようになっている。
【0145】
第1ポンプセル40の動作の停止は、任意のタイミングで行われてもよいし、あらかじめ定められたタイミングで行われる態様であってもよい。あるいは、所定の条件がみたされた場合に行われる態様であってもよい。例えば、ガスセンサ100におけるH2OおよびCO2の測定値が大きい状況が長く続くほど、第2空室20および第3空室21にて生成されるH2OおよびCO2の量も多くなることから、係る測定値の積分値に基づいて、第1ポンプセル40の動作が停止される態様などが例示される。
【0146】
第1ポンプセル40の動作が停止される時間は、1ms~1sの範囲内であることが好ましい。係る設定時間が1msよりも短い場合、H2OおよびCO2の第2空室20あるいは第3空室21からの拡散が十分に進行しないために、濃度勾配が十分に弱まらず依然として測定精度が低下する状況が続くおそれがあるため、好ましくない。また、係る設定時間が1sよりも長い場合、新たに導入される被測定ガスに含まれるH2OおよびCO2を還元できない時間が長くなるために、つまりは、濃度測定を行えない時間が長くなってしまうために、応答性が低下することになり、好ましくない。
【0147】
あるいは、第1ポンプセル40において汲み出し動作とその停止とを交互にかつ周期的に行うことによって、H
2OおよびCO
2の還元の一時的な停止を周期的に行うとともに、第2空室用センサセル58における起電力V2と第3空室用センサセル66における起電力V3の目標値(設定値)についても、
図8(b)に示すように、第1ポンプセル40の動作の周期的変化に同期させる態様にて、周期的に変化させるようにしてもよい。つまりは、第2ポンプセル54および第3ポンプセル61による酸素の汲み入れを、第1ポンプセル40の動作の停止と同期させて行うようにしてもよい。
【0148】
起電力V2と起電力V3の目標値については、起電力V1の目標値が値V1aに設定され第1ポンプセル40の動作している間は0とし、第1ポンプセル40が動作を停止している間のみ、基本動作のときと同じ範囲内の値に設定される。なお、
図8(b)においては図示の簡単のため、両者を一のグラフにて示しているが、実際には起電力V2と起電力V3は相異なる値に設定される。
【0149】
この場合、第1空室19におけるH
2OおよびCO
2の還元と、第2空室20および第3空室21のそれぞれにおけるH
2およびCOの選択的酸化とが相異なるタイミングで行われる。すなわち、第2空室20および第3空室21においてH
2およびCOが再酸化される間は、第1空室19においては導入された被測定ガスに含まれるH
2OおよびCO
2は還元されない。係る場合も、第2空室20および第3空室21にて生成されたH
2OおよびCO
2が滞留し、
図6に示したような濃度勾配が生じたとしても、第1空室19へと逆流したH
2OおよびCO
2は第1空室19にて再還元されることなくそのまま素子外部へと排出されるようになる。
【0150】
なお、この場合は、起電力V1の目標値が値V1aに設定される時間も、1ms~1sの範囲内であることが好ましい。
【0151】
また、
図10は、生成ガス排出動作のさらに別の例を示す図である。係る場合においては、
図10(a)に示すように、第1ポンプセル40の動作の周期的な変化については
図8(a)の場合と同様としつつも、
図10(b)に示すように、起電力V2と起電力V3の目標値の周期変化の位相(タイミング)を
図8(b)に示す場合からずらしている。より具体的には、第2空室20および第3空室21のそれぞれに対する酸素の汲み入れの開始を、第1ポンプセル40の汲み入れ動作の途中にまで早め、第1ポンプセル40が動作を停止している途中で係る汲み入れを終了している。ただし、開始時間を早める程度は、第1ポンプセル40が汲み入れ動作を行っている時間(起電力V01の目標値を値V1aに設定している時間)Δtの50%以下とされる。
【0152】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、第1の実施の形態に係るガスセンサのように、ガス導入口から順次に連通する4つの空室を備えるガスセンサにおいて、第1空室におけるH2OおよびCO2の還元を一時的にあるいは周期的に停止させることにより、H2およびCOの酸化により生成されるH2OおよびCO2をその濃度勾配を利用して第1空室からセンサ素子の外部へと排出させるようにしている。これにより、H2およびCOの酸化により生成されるH2OおよびCO2が再還元されることに起因した測定精度の低下が、好適に抑制される。
【0153】
<第2の実施の形態の変形例>
生成ガス排出動作の際に第1ポンプセル40の動作を停止させることに代えて、第1空室用センサセル50における起電力V1の目標値を、副調整空室用センサセル84における起電力V0の目標値として設定されている値以下の値とした、フィードバック制御が行われてもよい。係る場合、第1ポンプセル40は、副調整ポンプセル80と同様に、被測定ガスに含まれるH2OおよびCO2の還元を生じさせない範囲で、第1空室19に存在する酸素の外部への汲み出し動作を行う。この場合も、第2空室20および第3空室21にて滞留し第1空室19へと逆流したH2OおよびCO2は、第1空室19にて再還元されることなくそのまま副調整空室18を経て素子外部へと排出される。
【符号の説明】
【0154】
10、10β センサ素子
14 構造体
16 ガス導入口
18 副調整空室
19 第1(主調整)空室
20 第2空室
21 第3空室
30 第1拡散律速部
32 第2拡散律速部
34 第3拡散律速部
36 第4拡散律速部
38 基準ガス導入空間
40 第1(主調整)ポンプセル
42 第1(主調整)内側ポンプ電極
44 外側ポンプ電極
46、60、68、86 可変電源
48 基準電極
50 第1(主調整)空室用センサセル
54 第2ポンプセル
56 第2内側ポンプ電極
58 第2空室用センサセル
61 第3ポンプセル
62 第3内側ポンプ電極
66 第3空室用センサセル
72 ヒータ
80 副調整ポンプセル
82 副調整用内側ポンプ電極
84 副調整空室用センサセル
【手続補正書】
【提出日】2023-04-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0123
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0123】
C=37.04Ip0 ・・・・(3)
被測定ガスとして、差分法の場合と同じく、酸素とCO2とH2Oとを10%ずつ含み、残余が窒素であるモデルガスを用い、センサ素子10を備えるガスセンサにおいて酸素ポンプ電流Ip0、Ip1、Ip2、Ip3を測定した。センサ素子の温度は800℃とし、モデルガスの温度は150℃とした。その結果、以下の値が得られた。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0137
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0137】
上述したように、基本動作においては、第1空室用センサセル50における起電力V1の目標値は1000mV~1500mVなる範囲内の値に設定され、起電力V1が係る目標値に保たれるよう、第1ポンプセル40に印加する電圧Vp1がフィードバック制御される。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0151
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0151】
また、
図10は、生成ガス排出動作のさらに別の例を示す図である。係る場合においては、
図10(a)に示すように、第1ポンプセル40の動作の周期的な変化については
図8(a)の場合と同様としつつも、
図10(b)に示すように、起電力V2と起電力V3の目標値の周期変化の位相(タイミング)を
図8(b)に示す場合からずらしている。より具体的には、第2空室20および第3空室21のそれぞれに対する酸素の汲み入れの開始を、第1ポンプセル40の汲み
出し動作の途中にまで早め、第1ポンプセル40が動作を停止している途中で係る汲み入れを終了している。ただし、開始時間を早める程度は、第1ポンプセル40が汲み
出し動作を行っている時間(起電力
V1の目標値を値V1aに設定している時間)Δtの50%以下とされる。