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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152600
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】耐熱性集電フィルム
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20231005BHJP
   C08L 77/10 20060101ALI20231005BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20231005BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20231005BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20231005BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H01M4/66 A
C08L77/10
C08K3/08
C08K3/22
C08K3/04
C08J5/18 CFG
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162952
(22)【出願日】2022-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2022059712
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163120
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 嘉弘
(72)【発明者】
【氏名】湯川 優一
(72)【発明者】
【氏名】大道 高弘
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
5H017
【Fターム(参考)】
4F071AA56
4F071AB03
4F071AD01
4F071AE15
4F071AF15Y
4F071AF21Y
4F071AF37Y
4F071AF61Y
4F071AH15
4F071BA02
4F071BB02
4F071BB03
4F071BC01
4F071BC12
4J002CL061
4J002DA026
4J002DA036
4J002DA076
4J002DA086
4J002DA106
4J002DA116
4J002DB016
4J002DE076
4J002DE086
4J002DE096
4J002DE106
4J002DE116
4J002DE136
4J002DE146
4J002FA046
4J002FA086
4J002FD116
4J002GQ02
4J002HA08
5H017AA03
5H017CC01
5H017EE01
5H017EE04
5H017EE05
5H017EE06
5H017EE07
5H017HH00
5H017HH01
5H017HH03
5H017HH04
5H017HH10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】導電性を有し、かつ、高い耐熱性を有する集電フィルムを提供する。
【解決手段】アラミド樹脂、導電性フィラー、及び有機溶媒を含む耐熱性集電フィルムであって、前記導電性フィラーの体積含有率が前記耐熱性集電フィルムに対して5~45体積%であり、前記耐熱性集電フィルム1g(水分を除いた質量)当たりに前記導電性フィラーをその総表面積が0.8~22.0mとなる量で含んでおり、かつ、前記耐熱性集電フィルムの厚み方向の体積抵抗率が、1.0×10Ω・cm以上5.0×10Ω・cm以下であることを特徴とする耐熱性集電フィルムが提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミド樹脂、導電性フィラー、及び有機溶媒を含む耐熱性集電フィルムであって、
前記導電性フィラーの体積含有率が前記耐熱性集電フィルムに対して5~45体積%であり、
前記耐熱性集電フィルム1g(水分を除いた質量)当たりに前記導電性フィラーをその総表面積が0.8~22.0mとなる量で含んでおり、
かつ、前記耐熱性集電フィルムの厚み方向の体積抵抗率が、1.0×10Ω・cm以上5.0×10Ω・cm以下であることを特徴とする耐熱性集電フィルム。
【請求項2】
前記耐熱性集電フィルム(水分を除く)における前記有機溶媒の含有量が0.1~16質量%である、請求項1に記載の耐熱性集電フィルム。
【請求項3】
前記アラミド樹脂がポリ-m-フェニレンイソフタルアミドである、請求項1又は2に記載の耐熱性集電フィルム。
【請求項4】
150℃で30分間加熱後の面積熱収縮率が10%以下である、請求項1又は2に記載の耐熱性集電フィルム。
【請求項5】
引張破断強度が25MPa以上である、請求項1又は2に記載の耐熱性集電フィルム。
【請求項6】
引張破断伸度が1.0%以上である、請求項1又は2に記載の耐熱性集電フィルム。
【請求項7】
前記導電性フィラーが炭素系フィラー及び無機物フィラーからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の耐熱性集電フィルム。
【請求項8】
前記耐熱性集電フィルムの膜厚が10~100μmである、請求項1又は2に記載の耐熱性集電フィルム。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性集電フィルムに関する。詳しくは、アラミド樹脂、導電性フィラー、及び有機溶媒を含んで成る耐熱性集電フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許第7010653号公報(特許文献1)や特許第6901542号公報(特許文献2)は、樹脂製の集電体を開示する。この集電体は、リチウムイオン二次電池用の集電フィルムであり、ポリオレフィン樹脂と、導電性炭素フィラーとを含んでいる。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、二次電池の中でもエネルギー密度が高い特徴を持つことから、携帯電話などの小型機器から、電気自動車などの大型機器まで、応用範囲が広がってきている。その中でも、エンジンルームに搭載する自動車用の電源、大型産業機械のモーター用電源、滅菌のため加熱を必要とする医療用機器電源などの用途を想定した場合、耐熱性が要求される。しかし、前述の特許文献1のような集電体では、ポリオレフィンを使用するため、高温環境での使用が困難であるという課題がある。特許第5380993号公報(特許文献3)は、ポリオレフィンに限定されない樹脂製の集電体であるが、実施例や比較例にはポリオレフィンを用いたもののみが提供され、いずれも高温環境での使用に適したものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7010653号公報
【特許文献2】特許第6901542号公報
【特許文献3】特許第5380993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は、導電性を有し、かつ、高い耐熱性を有する集電フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の従来技術に鑑みて鋭意検討を重ねた結果、アラミド樹脂及び有機溶媒を含むフィルムに所定量の導電性フィラーを含有させることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の集電フィルムは、アラミド樹脂をマトリクスとした集電フィルムであり、高温環境での使用であっても形状が安定することを特徴とする。
【0007】
上記課題を解決する本発明は、以下に記載されるとおりである。
【0008】
〔1〕 アラミド樹脂、導電性フィラー、及び有機溶媒を含む耐熱性集電フィルムであって、
前記導電性フィラーの体積含有率が前記耐熱性集電フィルムに対して5~45体積%であり、
前記耐熱性集電フィルム1g(水分を除いた質量)当たりに前記導電性フィラーをその総表面積が0.8~22.0mとなる量で含んでおり、
かつ、前記耐熱性集電フィルムの厚み方向の体積抵抗率が、1.0×10Ω・cm以上5.0×10Ω・cm以下であることを特徴とする耐熱性集電フィルム。
【0009】
〔2〕 前記耐熱性集電フィルム(水分を除く)における前記有機溶媒の含有量が0.1~16質量%である、〔1〕に記載の耐熱性集電フィルム。
【0010】
〔3〕 前記アラミド樹脂がポリ-m-フェニレンイソフタルアミドである、〔1〕又は〔2〕に記載の耐熱性集電フィルム。
【0011】
〔4〕 150℃で30分間加熱後の面積熱収縮率が10%以下である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の耐熱性集電フィルム。
【0012】
〔5〕 引張破断強度が25MPa以上である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の耐熱性集電フィルム。
【0013】
〔6〕 引張破断伸度が1.0%以上である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の耐熱性集電フィルム。
【0014】
〔7〕 前記導電性フィラーが炭素系フィラー及び無機物フィラーからなる群から選ばれる少なくとも1種である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の耐熱性集電フィルム。
【0015】
〔8〕 前記耐熱性集電フィルムの膜厚が10~100μmである、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の耐熱性集電フィルム。
【0016】
上記〔1〕に記載の発明は、アラミド樹脂と有機溶媒とを含有して成るフィルム中に導電性フィラーが分散して成る耐熱性集電フィルムである。耐熱性集電フィルムに含まれる導電性フィラーの量は、耐熱性集電フィルムの体積に対して5~45体積%であり、且つ耐熱性集電フィルム1g(水分を除いた質量)当たりに導電性フィラーの総表面積が0.8~22.0mとなる量である。この耐熱性集電フィルムの厚み方向の体積抵抗率は、1.0Ω・cm以上5.0×10Ω・cm以下である。
水分を除外した耐熱性集電フィルムにおける有機溶媒の含有量は、0.1~16質量%であることが好ましい(上記〔2〕)。
アラミド樹脂としては、ポリ-m-フェニレンイソフタルアミドであることが好ましい(上記〔3〕)。
後述の方法で測定される150℃で30分間加熱された後の面積熱収縮率は10%以下であることが好ましい(上記〔4〕)。
引張破断強度は25MPa以上、引張破断伸度は1.0%以上であることが好ましい(上記〔5〕、〔6〕)。
導電性フィラーは、炭素系フィラー及び/又は無機物フィラー(炭素系フィラーに分類される物を除く)であることが好ましい(上記〔7〕)。
耐熱性集電フィルムの膜厚は10~100μmであることが好ましい(上記〔8〕)。
【発明の効果】
【0017】
本発明の集電フィルムは、マトリクス樹脂として単に耐熱性が高いアラミド樹脂を用いただけでなく、アラミド樹脂に適度な柔軟性を付与する高沸点の有機溶媒と、導電性を付与するとともにアラミド樹脂内で相互作用する導電性フィラーと、が共存しているため、表面抵抗及び厚み方向の抵抗を小さくすることができ、且つフィルムの熱収縮率を小さくできる。そのため、高温環境であっても優れた集電性及び導電性を維持できる。さらに、本発明の集電フィルムは、高沸点の有機溶媒によってフィルムの構造安定性が向上しており、導電性フィラーによってフィルムが強化され、高い引張破断強度及び引張破断伸度を有するので、膜厚が小さくても十分な強度を有する。そのため、リチウムイオン電池に使用した際に、体積エネルギー密度の向上に資すると期待される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の耐熱性集電フィルムについて説明する。なお、本明細書において、特に示した場合を除き、体積は25℃における体積である。また、各種物性値が温度によって変動する値である場合、当該値は特に示した場合を除き、25℃における値である。
【0019】
(1) 耐熱性集電フィルム
本発明の耐熱性集電フィルム(以下、単に集電フィルムということがある)は、アラミド樹脂と、導電性フィラーと、有機溶媒と、を少なくとも含有する。この集電フィルムは、アラミド樹脂と有機溶媒とから成るマトリクス樹脂中に、導電性フィラーが好ましくは分散して成る。有機溶媒は、アラミド樹脂の分子(高分子鎖)と強く相互作用することにより、集電フィルムの構造安定性を向上させる。その結果、本集電フィルムは膜厚を小さくしても高い機械的強度を有する。また、有機溶媒は、アラミド樹脂の分子間相互作用の強化に資するだけでなく、マトリクス樹脂の可塑化剤としても機能する。そのため、加熱乾燥時にフィルム中の分子(アラミド樹脂の高分子鎖)が動き易い状態となり、フィラーのパーコレーション形成、及びアラミド分子間の相互作用形成がより促進される。
【0020】
本発明の集電フィルムの厚み方向の体積抵抗率は、1.0×10Ω・cm(即ち、1.0Ω・cm)以上5.0×10Ω・cm以下である。体積抵抗率の上限は、4.5×10Ω・cm以下であることが好ましく、4.0×10Ω・cm以下、3.5×10Ω・cm以下、3.0×10Ω・cm以下、2.5×10Ω・cm以下、2.0×10Ω・cm以下、1.5×10Ω・cm以下、1.0×10Ω・cm以下、0.5×10Ω・cm以下、1.0×10Ω・cm以下であることがこの順で好ましい。5.0×10Ω・cmを超える場合、集電フィルムでの損失が大きく、エネルギー効率が低下してしまう。
集電フィルムの厚み方向の体積抵抗率は、導電性の観点からはできるだけ低いことが好ましい。しかし、集電フィルムの機械的強度を考慮すれば、体積抵抗率を1.0×10Ω・cm以上として、十分な導電性と高い機械特性とを両立することが必要である。集電フィルムの厚み方向の体積抵抗率の下限は、1.0×10Ω・cm以上であることが好ましい。集電フィルムの機械的強度をより高くするためには、集電フィルムの厚み方向の体積抵抗率の下限は、1.0×10Ω・cm以上であることが好ましい場合がある。
本発明における集電フィルムの厚み方向の体積抵抗率は、これらの上限及び下限の任意の組み合わせからなる範囲内であることが好ましい。
【0021】
本発明の集電フィルムは、熱収縮が小さいことが特徴である。具体的には、150℃環境に30分間さらされることによる面積熱収縮率(150℃で30分間加熱後の面積熱収縮率)が10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましい。面積熱収縮率が10%を超える場合、耐熱性が低く、高温下で使用できなくなる。本発明の集電フィルムは、極めて高い湿熱環境下で使用する観点から、250℃環境に30分間さらされることによる面積熱収縮率(250℃で30分間加熱後の面積熱収縮率)が10%以下であることが好ましい。なお、面積熱収縮率は、実施例に記載の(フィルムの熱収縮率)に則り算出した。
【0022】
本発明の集電フィルムは、150℃環境に30分間さらされることによるフィルム面内の一方向及びそれと直交するフィルム面内の一方向の熱収縮率がいずれも10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。10%以下であることにより、高温下でも安定した電池材料となりうる。
熱収縮率は、例えば、アラミド樹脂や導電性フィラーの配合率を調整したり、後述するように、集電フィルムに熱セット(加熱処理)を行うことにより調整することができる。
【0023】
本発明の集電フィルムの引張破断強度は、25MPa以上であることが好ましく、30MPa以上、35MPa以上、40MPa以上、45MPa以上、50MPa以上、55MPa以上、60MPa以上、65MPa以上であることがこの順で好ましい。25MPa以上であると、例えば電極層に積層するときの取り扱い時に破断し難いため好ましい。40MPa以上であると、活物質の膨張等による多少の体積変化が生じても破損し難くなるのでより好ましい。
【0024】
本発明の集電フィルムの引張破断伸度は、1.0%以上であることが好ましく、1.5%以上、2.0%以上、2.5%以上、3.0%以上、3.5%以上、4.0%以上であることがこの順で好ましい。1.0%未満であると、集電フィルムが破損し易く取り扱いが困難になる。1.5%以上であると、例えば電極層に積層する時の取り扱い性が良好である。
【0025】
本発明の集電フィルムの表面抵抗率は、1.0×10Ω/sq.~5.0×10Ω/sq.であることが好ましく、1.0×10Ω/sq.~1.0×10Ω/sq.であることがより好ましい。この範囲であると、電池を構成した際に隣接する電極又は集電フィルムとの界面で、仮に部分的に接触不良が生じても、膜厚方向への通電が十分に確保されるという点で好ましい。
【0026】
本発明の集電フィルムは、正極、負極のいずれに適用してもよい。水分量を差し引いた集電フィルム1g中に含まれる導電性フィラーの含有量は、当該導電性フィラーの総表面積が、0.8~22.0mとなる量で含まれていることが必要であり、1.0~22.0mとなる量で含まれていることが好ましく、1.0~21.0mとなる量で含まれていることがより好ましく、1.5~21.0mとなる量で含まれていることがより好ましい。
特に、本発明の集電フィルムを正極に用いる場合には、水分を除く集電フィルム1g中に含まれる導電性フィラーの含有量は、当該導電性フィラーの総表面積が、0.8~22.0mとなる量で含まれていることが必要であり、1.0~22.0mとなる量で含まれていることが好ましく、1.0~21.0mとなる量で含まれていることがより好ましく、1.5~21.0mとなる量で含まれていることがより好ましい。本発明の集電フィルムを負極に用いる場合には、0.8~20.0mとなる量で含まれていることが好ましく、1.0~20.0mとなる量で含まれていることが好ましく、1.0~20.0mとなる量で含まれていることがより好ましく、1.5~20.0mとなる量で含まれていることがより好ましい。
【0027】
集電フィルムの引張破断強度、引張破断伸度、表面抵抗率、体積抵抗率及び導電性フィラーの総表面積は、用いるアラミド樹脂のほか、導電性フィラーの材質、大きさ、含有量を制御することによって調整することができる。
【0028】
本発明の集電フィルムの膜厚は、10~100μmであることが好ましい。厚みが100μm以下であれば、集電フィルムの厚みとしては十分に薄いといえる。一方、厚みが10μm以上であると、集電フィルムの強度が十分に確保される。集電フィルムの膜厚の下限は、12μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましい。集電フィルムの膜厚の上限は、80μm以下であることが好ましく、60μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましく、45μm以下であることがよりさらに好ましく、40μm以下であることが特に好ましく、35μm以下であることが最も好ましい。
【0029】
本発明の集電フィルムは、後述のアラミド樹脂、導電性フィラー、及び有機溶媒の体積含有率が合計で60~100体積%であることが好ましく、70~100体積%であることがより好ましく、80~100体積%であることがより好ましく、90~100体積%であることが特に好ましい。また、実質的に後述のアラミド樹脂、導電性フィラー、有機溶媒、及び水のみから成ることも好ましい態様の一つである。ここで、実質的に後述のアラミド樹脂、導電性フィラー、有機溶媒、及び水のみから成るとは、後述のアラミド樹脂、導電性フィラー、有機溶媒、及び水以外の任意成分がそれぞれ5体積%以上で含まれないことを意味する。
【0030】
(1-1) アラミド樹脂
本発明の集電フィルムに含まれるアラミド樹脂としては、実質的にアミド結合(-NH-CO-)が芳香環に直接結合してなる重合体である。本発明では、アラミド樹脂として、m-フェニレンイソフタルアミドからなる重合体、p-フェニレンテレフタルアミドからなる重合体、及び/又は、p-フェニレンテレフタルアミドと3,4’-ジフェニルエーテルテレフタルアミドとからなる共重合体等が好ましく使用される。これらの重合体及び/又は共重合体における繰返し単位の80モル%以上、特に90モル%以上が上記の単量体に由来することが好ましい。勿論、これらの重合体及び/又は共重合体の基本物性を大きく損なわない範囲で少量の他の共重合成分を導入することは差支えない。最も好ましくは、100モル%のm-フェニレンイソフタルアミドからなる重合体(ポリ-m-フェニレンイソフタルアミド)である。
【0031】
本発明の集電フィルムに含まれるマトリクスとしては、ポリ-m-フェニレンイソフタルアミド単独でもよく、上記重合体及び/又は共重合体を組み合わせて用いることもできる。例えば、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド、コポリ-p-フェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタルアミドなどを併用してもよい。
【0032】
本発明の集電フィルムにおけるアラミド樹脂の含有量としては、水分量を差し引いた集電フィルムの質量を基準として、20~90質量%が好ましく、25~90質量%、20~85質量%、25~85質量%、20~80質量%、25~80質量%、20~75質量%、25~75質量%、20~70質量%、25~70質量%であることがこの順でより好ましい。20質量%未満である場合、フィルムの強度が低下し易い。90質量%を超える場合、導電性フィラーの含有率が低くなり、導電性フィラーの形状によっては集電体として機能し難くなる場合がある。
【0033】
(1-2) 有機溶媒
本発明の集電フィルムは、有機溶媒を含有している。この有機溶媒は、上述のように、一種の可塑剤としての機能を有する。また、アラミド樹脂、有機溶媒、及び導電性フィラーの間における分子間相互作用を促進する機能を有する。この有機溶媒は、水分量を差し引いた集電フィルム中に、0.1~16質量%含まれていることが好ましく、0.1~14質量%含まれていることがより好ましく、0.1~12質量%含まれていることがより好ましく、0.3~12質量%含まれていることがより好ましく、0.5~12質量%含まれていることが特に好ましく、1~12質量%含まれていることがさらに好ましく、5~12質量%含まれていることがよりさらに特に好ましい。この範囲で含まれることで、集電フィルム中のアラミド樹脂同士、アラミド樹脂と有機溶媒、又はアラミド樹脂と導電フィラーとの分子間相互作用により高温時の熱収縮率が低くなると考える。
【0034】
上記有機溶媒としては、アラミド樹脂を溶解又は膨潤させる有機溶媒であることが好ましく、アラミド樹脂との強い分子間相互作用を形成可能であるアミド系溶媒であることがより好ましい。有機溶媒の沸点としては、130℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。このような有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)が挙げられる。
【0035】
(1-3) 導電性フィラー
本発明の集電フィルムに含まれる導電性フィラーとしては、添加することにより樹脂単体と比較して高い導電性を付与できる物質の中から、任意のものを1種又は2種以上適宜選択して用いることができる。この導電性を有する物質としては、炭素系フィラー、無機物フィラーなどからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
具体的には、Au、Ag、Cu、Al、Zn、Ni、Fe、Sn、Pb、Ti、TiC、ZnO、CdO、BaO、CaO、BeO、SrO、MgO、SnO、GeO、CsO、CuO、SnO、CeO、TiO、ZrO、ThO、GeO、V、In、Ga、Fe、Al、U、WO、天然黒鉛、石油系又は石炭系コークスを熱処理することで製造される人造黒鉛、樹脂を炭素化したハードカーボン、メソフェーズピッチ系炭素材料、繊維状炭素、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック及びサーマルランプブラック等)からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0036】
人造黒鉛とは、広く人工的な手法で作られた黒鉛及び黒鉛の完全結晶に近い黒鉛質材料をいう。代表的な例としては、石炭の乾留、原油の蒸留による残渣などから得られるタールやコークスを原料にして、500~1000℃程度の焼成工程、2000℃以上の黒鉛化工程を経て得たものが挙げられる。また、溶解鉄から炭素を再析出させることで得られるキッシュグラファイトも人造黒鉛の一種である。
また、天然黒鉛又は天然黒鉛を原料として製造した粒子に熱処理を施して用いてもよい。
これらの導電性フィラーの産地や性状、種類は特に制限されない。
【0037】
前述のとおり、水分量を差し引いた集電フィルム1g中に含まれる導電性フィラーの含有量は、当該導電性フィラーの総表面積が、0.8~22.0mとなる量で含まれていることが必要である。
集電フィルム中の導電性フィラーの含有量(体積百分率)は、5~45体積%であり、6~40体積%であることが好ましく、6~30体積%であることがより好ましい。特に、集電フィルムを正極として用いる場合、5~30体積%であることが好ましく、負極として用いる場合、19~45体積%であることが好ましい。
【0038】
上記導電性フィラーは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、いずれの導電性フィラーも形状に制限はなく、球状であっても、繊維状であっても良い。特に、球状フィラーと繊維状フィラーとを組み合わせて用いることが好ましい。繊維状フィラーを少量添加することで、三次元の導電性ネットワークが形成され易くなる。また、繊維状フィラーを添加することで、集電フィルムの熱収縮がより高度に抑制される。
【0039】
三次元的な導電ネットワークを形成する点から、繊維状炭素等の繊維状フィラーと、カーボン粒子等の球状フィラーと、を含むことが好ましい。この場合、繊維状フィラーと球状フィラーとの割合としては、1:1~1:20(体積比)であることが好ましく、1:1~1:15(体積比)であることがより好ましい。
【0040】
繊維状フィラーを使用する場合、特に制限されるものではないが、繊維長は5~100μmの範囲が好ましく、5~90μmであることがより好ましく、8~80μmであることがさらに好ましく、10~50μmであることが最も好ましい。5μm未満である場合、長距離の導電性パスが形成され難くなる。100μm超の場合、集電フィルムの膜厚以上となり、膜厚方向への貫通が発生する可能性がある。その場合、電解液の浸透パスとなり得るため、好ましくない。
【0041】
球状フィラーを使用する場合、特に制限されるものではないが、平均粒子径(一次粒子径)は10~200nmであることが好ましく、20~100nmであることがより好ましい。これらの球状フィラーのアスペクト比は、10以下であることが好ましく、1~5であることがより好ましく、1~3であることがさらに好ましい。
【0042】
繊維状炭素は、実質的に炭素のみから構成され、繊維形状を有しており、代表的なものとしては炭素繊維が挙げられる。ここで、繊維状炭素は、通常の炭素繊維のほか、例えば、黒鉛、グラフェン、フラーレン、カーボンブラック、活性炭のような球状炭素が数珠状に連なって繊維形状を有しているものや、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンのような繊維状炭素が融着等により結合して繊維形状を有しているものなどを含む概念である。
本発明では、導電性のネットワーク構造を形成する効果が高い炭素繊維を用いることが好ましい。炭素繊維としては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノリボンなどの気相成長炭素材料も含まれる。炭素繊維の分散性を向上させるためには、直線性が高い形状である方が好ましいため、結晶性ピッチ系炭素繊維が好ましい。
【0043】
上記繊維状炭素は特に限定されるものではないが、実質的に分岐を有さない直線構造であることが好ましい。分岐とは、繊維状炭素の主軸が中途で枝分かれしていることや、繊維状炭素の主軸が枝状の副軸を有することをいう。実質的に分岐を有さない直線構造とは、繊維状炭素の分岐度が0.01個/μm以下であることを意味する。分岐を有する繊維状炭素としては、例えば、触媒として鉄などの金属の存在下、高温雰囲気中でベンゼン等の炭化水素を気化させる気相法によって製造した気相成長(気相法)炭素繊維(例えば昭和電工社製VGCF(登録商標))が知られている。繊維状炭素は実質的に直線構造であるので、分岐を有する繊維状炭素に比べて分散性が良好であり、長距離の導電パスを形成しやすい。また、分散性がよいので、例えば引張破断強度など機械的強度の面で優れている。
【0044】
本発明に用いることができる繊維状炭素の一例として、以下に説明する極細炭素繊維が挙げられる。
極細炭素繊維の平均繊維径は、50~900nmの範囲であることが好ましい。平均繊維径は、600nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、400nm以下であることがさらに好ましい。平均繊維径は、100nm以上であることが好ましく、200nm以上であることがより好ましい。極細炭素繊維の平均繊維径が50~900nmの範囲であると、集電フィルム中に均一に分散した状態となりやすく、かつ、当該極細炭素繊維同士が適度に接触するため導電性ネットワークが形成されやすい。50nm未満であると、極細炭素繊維が直線構造を形成し難くなる。また、嵩密度が非常に小さいためハンドリング性が劣る上、極細炭素繊維を分散させることが困難となる。900nm超である場合、集電フィルムにおいて極細炭素繊維同士の隙間が生じ易くなり、十分な導電性パスを形成することが困難となる場合がある。
【0045】
極細炭素繊維の平均繊維長は、5~100μmであることが好ましく、5~90μmであることがより好ましく、8~80μmであることがさらに好ましく、10~50μmであることが最も好ましい。5μm未満である場合、長距離の導電性パスが形成され難い。100μm超の場合、極細炭素繊維の分散性が損なわれることや、本発明の集電フィルムの膜厚を越えてしまい、凝集物として該集電フィルム表面に現れる可能性があることから好ましくない。
【0046】
極細炭素繊維の平均アスペクト比、すなわち、平均繊維長(L)と平均繊維径(D)との比(L/D)は、30以上であることが好ましく、35以上であることがより好ましく、40以上であることがさらに好ましい。アスペクト比が30未満である場合、長距離の導電パスが形成され難く、機械特性を向上させる効果も低くなる場合がある。その結果、導電性フィラーの添加量を増やす必要が生じる場合がある。アスペクト比は800以下であることが好ましく、500以下であることがより好ましい。
【0047】
極細炭素繊維のX線回折法により測定した隣接するグラファイトシート間の距離(d002)は、0.342~0.348nmであることが好ましく、0.342~0.346nmであることがより好ましい。d002が0.342nm以上の場合、極細炭素繊維が脆くなり難く、集電フィルムの作製に伴う加工時に繊維長が保たれやすく、その結果、長距離の導電パスを形成しやすくなる。
【0048】
極細炭素繊維のX線回折法で測定したグラフェン(網平面群)の厚さ(Lc)は、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましい。下限値は、水への親和性の観点から3nm以上であることが好ましい。
本発明において、X線回折法で測定した結晶子サイズ(Lc)とは、日本工業規格JIS R 7651(2007年度版)「炭素材料の格子定数及び結晶子の大きさ測定方法」により測定される値をいう。
結晶性の指標である上記d002及びLcの値は、通常は、炭素化/黒鉛化工程における焼成温度を変えることによって調整することができる。
【0049】
極細炭素繊維は金属元素を実質的に含有しないことが好ましい。実質的にとは、金属元素の含有率が合計で50ppm以下であることを意味する。本発明において、金属元素の含有率とは、Li、Na、Ti、Mn、Fe、Ni及びCoの合計含有率を意味する。特に、Feの含有率は5ppm以下であることが好ましく、3ppm以下であることがより好ましく、1ppm以下であることがさらに好ましい。このような金属元素を実質的に含有しない極細炭素繊維は、用途にもよるが、微量の金属が存在することによる影響を及ぼすことがない点は好都合である。上述の気相成長(気相法)炭素繊維(例えば昭和電工社製VGCF(登録商標))は、触媒として鉄などの金属を含んでいるが、後述のメソフェーズピッチを繊維化して樹脂複合繊維を得る繊維化工程を経て得られる繊維状炭素は金属触媒を実質的に含まないため好ましい。
【0050】
繊維状炭素の比表面積は1.0m/g以上50.0m/g以下が好ましい。上限は40.0m/g以下が好ましく、30.0m/g以下がより好ましく、25.0m/g以下がさらに好ましく、20.0m/g以下が特に好ましい。下限は1.0m/g以上が好ましく、2.0m/g以上がより好ましく、3.0m/g以上がさらに好ましく、5.0m/g以上がさらにより好ましく、6.5m/g以上が特に好ましい。
【0051】
極細炭素繊維は、繊維中の水素、窒素、灰分の何れもが0.5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましい。炭素繊維中の水素、窒素、灰分の何れもが0.5質量%以下である場合、グラファイト層の構造欠陥が一段と抑制され、電池中での副反応抑制できるため好ましい。
【0052】
本発明に用いられる極細炭素繊維は、例えば次に記載する(1)~(4)の工程を経ることにより製造することができる。
(1) 熱可塑性樹脂と、該熱可塑性樹脂100質量部に対して1~150質量部のメソフェーズピッチと、からなる樹脂組成物を溶融状態で成形することにより、前記メソフェーズピッチを繊維化して樹脂複合繊維を得る繊維化工程であって、必要に応じて前記メソフェーズピッチの分子配向性を高める配向制御操作を有する繊維化工程と、
(2) 前記樹脂複合繊維を安定化し、樹脂複合安定化繊維を得る安定化工程と、
(3) 前記樹脂複合安定化繊維から前記熱可塑性樹脂を除去して安定化繊維を得る熱可塑性樹脂除去工程と、
(4) 前記安定化繊維を不活性雰囲気下で加熱して炭素化および黒鉛化し、極細炭素繊維を得る炭化焼成工程。
【0053】
本発明の集電フィルムにおける導電性フィラーの質量含有率は、当該集電フィルム1g(水分を除いた質量)当たりに導電性フィラーの総表面積が0.8~22.0mとなる量で含んでいる限りにおいて特に制限されるものではない。その質量含有率は、導電性フィラーの材質や形状によって異なる。例えば、導電性フィラーが上記で説明した炭素系フィラーである場合、水分量を差し引いた集電フィルムの質量を基準として、4~50質量%であることが好ましく、4~45質量%、6~45質量%、6~40質量%、8~40質量%、8~38質量%であることがこの順で好ましい。4質量%未満である場合、導電性が著しく低下し、集電フィルムとしての機能を失ってしまう場合がある。50質量%を超える場合、マトリクス樹脂が少なすぎて機械特性の低下や、耐膨潤性の低下が懸念され、集電フィルムとしての機能を損なう恐れがある。
【0054】
(1-4) その他
本発明の集電フィルムに粒子径の細かい、例えば粒径が50nm以下の導電性フィラーを用いる場合、凝集を解消するために分散剤を添加しても良い。
【0055】
(2) 集電フィルムの製造方法
本発明の集電フィルムは、例えば、上記アラミド樹脂を溶解させる有機溶剤(例えばN-メチル-2-ピロリドン)中にアラミド樹脂を溶解し、導電性フィラーを分散させることでスラリーを調製する。次に、このスラリーを、離型フィルムなどの基材上に流し、ドクターブレード等により所定の厚みになるように成形する。続いて、減圧及び/又は加熱により溶剤を除去し、基材から剥がしてフィルムが製造される。
【0056】
上記方法により得られたフィルムは、加熱、減圧等により乾燥され、集電フィルムが得られる。なお、必要に応じて延伸してもよい。延伸は、フィルムの縦方向又は横方向のみに行っても良いし、縦横両方向へ二軸延伸を行っても良い。
【0057】
本発明の集電フィルムは、熱収縮の抑制、及び電解液に対する耐膨潤性を向上させるために熱セットを行うことがより好ましい。熱セットすることにより、脱溶媒だけでなく、アラミド樹脂間等の分子間相互作用を高めて熱収縮率を低くすることができる。熱セットの方法としては、加圧しながら加熱する方法であり、例えば平板プレス、ロールプレス、その他方法であってもよい。熱セット温度は特に限定されないが、可塑化溶剤(例えばN-メチル-2-ピロリドン)を含有した状態の集電フィルムを、その含有量に応じて100~300℃の間で熱セットすることが好ましい。加圧時の圧力としては、例えば、1~100MPaで行うことができる。一例として、アラミド樹脂としてポリ-m-フェニレンイソフタルアミドを用いる場合、温度200℃、圧力10MPaで30分間加熱することにより、機械特性を概ね維持したまま、熱収縮率を低下させることができる。この効果は、フィラー添加量が少ない場合により顕著である。
【0058】
集電フィルムの引張破断強度、引張破断伸度は、用いるアラミド樹脂や導電性フィラーの種類や形状、配合率を制御する他にも、上記製造条件を制御することによっても調整することができる。
【実施例0059】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。実施例中の各種測定や分析は、それぞれ以下の方法に従って行った。特に温度を記載していない場合、体積比や密度は25℃における値である。
【0060】
(集電フィルムの膜厚)
集電フィルムを作製後、デジタルゲージ(株式会社ミツトヨ製、型式ID-C112CXB)を用いて、面内の10点の膜厚を測定した。
【0061】
(集電フィルムの表面抵抗率)
低抵抗率計(株式会社三菱化学アナリティック製、型式MCP-T610)を用い、四探針法により、集電フィルムの表面抵抗率を測定した。
【0062】
(集電フィルムの体積抵抗率)
1cm幅に裁断した集電フィルムを、径が4mmの銅電極で挟み、1Vの電圧を印加した際にフィルムの膜厚方向に流れる電流値を、ポテンショスタット/ガルバノスタット(北斗電工株式会社製、型式HA-151B)を用いて測定し、計測した数値よりフィルムの厚み方向の体積抵抗率を算出した。
【0063】
(集電フィルムの引張破断強度、引張破断伸度)
集電フィルムを幅1cm、長さ7cmに裁断し、テンシロン万能材料試験機(株式会社オリエンテック製、型式RTC-1225A)を用いて、両端1cmずつを挟み、5.0mm/minの試験速度で引張試験を実施することで、破断点強度および破断点伸度を測定した。
【0064】
(フィルムの熱収縮率)
フィルムを幅1cm、長さ7cmに裁断し、長さ方向に1cmと6cmの位置にマーカーで印をつけ、フィルムの両端をそれぞれ、印にかぶらないように、2.8~3.0gのクリップで挟んだ。所定の温度に加熱した恒温器(エスペック株式会社製、型式PHH-101)内に吊るし、30分間加熱後取り出し、徐冷後に印間の寸法(長辺及び短辺)を計測することで、フィルムの熱収縮率を算出した。また、長辺及び短辺の寸法を乗じることで面積を算出し、元の面積に対する収縮率を算出した値をフィルムの面積熱収縮率とした。
【0065】
(極細炭素繊維の形状確認)
卓上電子顕微鏡(日本電子株式会社製、型式NeoScope JCM-6000)を用いて観察及び写真撮影を行った。繊維状炭素等の平均繊維径は、得られた電子顕微鏡写真から無作為に300箇所を選択して繊維径を測定し、それらすべての測定結果(n=300)の平均値とした。平均実効繊維長についても同様に算出した。
【0066】
(極細炭素繊維のX線回折測定)
X線回折測定はリガク社製RINT-2100を用いてJIS R7651に定められた方法に準拠し、格子面間隔(d002)、結晶子大きさ(La、Lc)を測定した。
【0067】
(比表面積測定)
比表面積測定は、島津製作所社製の比表面積測定装置(トライスターII 3020)を用いて、JIS Z8830に定められた方法に準拠し、BETの式により比表面積を算出した。
【0068】
(フィルム中のフィラー径の測定)
卓上電子顕微鏡(日本電子株式会社製、型式NeoScope JCM-6000)を用いて、フィルムの断面の観察を行い、フィラーを無作為に10個選択し、粒子径又は繊維径を計測し、それらの平均値を算出した。
【0069】
(フィルム1g中のフィラー総表面積)
下記(フィルム中の溶媒含有量の測定)で得た溶媒含有量と、材料の配合量より、フィルム1g(水分を除く質量)に含まれるフィラーの質量を算出し、各フィラーの比表面積を乗じることで、フィルム1g中のフィラー総表面積を算出した。なお、各フィラーの比表面積は、前述の比表面積測定のとおり測定した。
このようにして算出した値は、以下の方法によって実測されるフィラー総表面積と一致する。
フィルム1gのマトリクス樹脂部を、N-メチル-2-ピロリドン等の溶媒を用いて完全に溶解させることで、フィラー分散液を作製した。フィラー分散液からフィラー部のみを、減圧濾過により分離回収し、乾燥させた。乾燥させたフィラーのBET比表面積を、上記(極細炭素繊維の比表面積測定)に則り計測後、得られた値および、下記(フィルム中の溶媒含有量の測定)により水分量を測定し計算上除外したフィルム質量より、(水分を除く)フィルム1g中のフィラーの総表面積を算出した。
【0070】
(フィルム中のフィラーの体積含有率)
下記(フィルム中の溶媒含有量の測定)より得た溶媒含有量(体積%)、材料の密度、配合量から算出した。
このようにして算出した値は、以下の方法によって実測される体積含有率と一致する。
卓上電子顕微鏡(日本電子株式会社製、型式NeoScope JCM-6000)を用いて、フィルム中の断面の観察を行い、全断面積に対するフィラーの面積比を算出し、この操作を無作為に30ヵ所で実施し、その平均面積比をフィラーの体積含有率とする。
【0071】
(フィルム中の溶媒含有量の測定)
5mgのフィルムをアルミニウムパンに入れ、熱重量分析計(株式会社リガク製、TG8120)にセットし、100mL/分で窒素を流入し、室温から400℃まで10℃/分で昇温し、その間の熱重量変化を測定した。溶媒としてNMP又はDMAcを用いたため、340~360℃における重量減少量から、80~150℃付近で見られる水分の重量減少量を差し引くことで、NMP又はDMAcの重量減少量を算出し、さらに水分を除くフィルム重量中の質量%に換算することで、フィルム中の溶媒含有量を算出した。
【0072】
(メソフェーズピッチの製造方法)
キノリン不溶分を除去した軟化点80℃のコールタールピッチを、Ni-Mo系触媒存在下、圧力13MPa、温度340℃で水添し、水素化コールタールピッチを得た。この水素化コールタールピッチを常圧下、480℃で熱処理した後、減圧して低沸点分を除き、メソフェーズピッチを得た。このメソフェーズピッチを、フィルターを用いて温度340℃でろ過を行い、ピッチ中の異物を取り除き、精製されたメソフェーズピッチを得た。
【0073】
(極細炭素繊維の製造方法)
熱可塑性樹脂として直鎖状低密度ポリエチレン(EXCEED(登録商標)1018HA、ExxonMobil社製、MFR=1g/10min)60質量部、及び(メソフェーズピッチの製造方法)で得られたメソフェーズピッチ(メソフェーズ率90.9%、軟化点303.5℃)40質量部を同方向二軸押出機(東芝機械(株)製「TEM-26SS」、バレル温度300℃、窒素気流下)で溶融混練してメソフェーズピッチ組成物を調製した。
次いで、このメソフェーズピッチ組成物を、口金温度を360℃として溶融紡糸することにより、繊維径90μmの長繊維に成形した。
上記操作で得られたメソフェーズピッチ含有繊維束を、空気中において215℃で3時間保持することにより、メソフェーズピッチを安定化させ、安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を得た。上記安定化メソフェーズピッチ含有繊維束を、真空ガス置換炉中で窒素置換を行った後に1kPaまで減圧し、該減圧状態下で、500℃で1時間保持することにより、熱可塑性樹脂を除去して安定化繊維を得た。
ついで、この安定化繊維を窒素雰囲気下、1000℃で30分間保持して炭素化し、さらにアルゴンの雰囲気下、1500℃に加熱し30分間保持して黒鉛化した。
ついで、この黒鉛化した炭素繊維集合体を粉砕し、粉体状の極細炭素繊維の集合体を得た。極細炭素繊維は分岐のない直線構造であった。極細炭素繊維の平均粒子径は300nm、平均繊維長は15μm、平均アスペクト比は50、グラファイトシート間の距離(d002)は0.344nm、グラフェン(網平面群)の厚さ(Lc)は5.3nm、比表面積は9m/gであった。金属は含んでいなかった(20ppm以下であった)。
【0074】
(実施例1)
アラミド樹脂として、特公昭47―10863号公報の方法に基づいて界面重合法で製造したポリ(m-フェニレンイソフタルアミド)(以下、「コーネックス」ということがある)を10質量部と、N-メチル-2-ピロリドンを90質量部とを、氷浴にて冷却しながら、攪拌混合し、完全に溶解させ、溶液(A液)を調製した。N-メチル-2-ピロリドンを93質量部と、導電性フィラーとしてアセチレンブラック(以下、「AB」と略記する場合がある。「デンカブラック」(登録商標)デンカ株式会社製、75%プレス品、平均粒子径:0.036μm、比表面積:65m/g)7質量部とを、分散攪拌装置(プライミクス株式会社、型式フィルミックス30-30型)により22000rpmで1分間処理することで分散液を調製し、N-メチル-2-ピロリドンで希釈することで分散液(B液)を調製した。B液を、目開きが20μmのメッシュフィルターを用いて濾過することで、凝集体を除いた。固体材料のうち、コーネックスが70質量部となる量のA液と、アセチレンブラックが25質量部となる量の濾過後のB液、および5質量部となる量の極細炭素繊維を、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製、型式ARE-310)を用いて2000rpm、2分間混合し、ドープを調製した。アルミ板上にPETフィルム(東レ株式会社、「ルミラー」(登録商標)、型式100-S10)を敷き、その上にドープを流し、500μmの厚みで、アプリケーターを用いて成膜した。80℃の防爆定温乾燥器(株式会社大同工業所製、型式DTI-1A-230H)で60分間乾燥した後、PETフィルムから乾燥フィルムを剥離し、金枠に入れ、150℃の恒温器(エスペック株式会社製、型式PHH-101)で120分間乾燥させることで、集電フィルムを作製した。得られた集電フィルムは(水を除いて)9.8質量%(=13.8体積%)のNMPを含有しており、コーネックス、及びフィラーの体積分率は、フィラーの真密度、成膜時の樹脂とフィラーの質量比率より算出した。厚みは21.7μmであり、引張破断強度は1.0×10MPaであり、引張破断伸度は3.0%であった。また、集電フィルムの表面抵抗率は、上下面でそれぞれ、9.1×10Ω/sq.、8.3×10Ω/sq.であり上下面のムラはほとんどなかった。厚み方向の体積抵抗率は、1.2×10Ω・cmであった。また、上記のフィルムの熱収縮率測定方法の通り、150℃の温度条件で実施した際の、長辺方向の熱収縮率は2%、短辺方向の熱収縮率は5%、面積熱収縮率は7%であった。これらの値を表1に記載する。なお、表面抵抗率は、上下面の平均値を表に記載することとする。
【0075】
(実施例2)
実施例1で作製した集電フィルムを、成形プレス機(北川精機株式会社製、型式VH1-2294)を用いて190℃で30分間、10MPaの条件で熱セットを実施し、集電フィルムを作製した。得られた集電フィルムの物性を表1に示す。
【0076】
(実施例3)
実施例1で用いたアラミド樹脂と、アセチレンブラックと、極細炭素繊維と、の混合割合をそれぞれ90質量部、5質量部、5質量部とした他は実施例2と同様にして、集電フィルムを作製した。得られた集電フィルムの物性を表1に示す。
【0077】
(実施例4)
実施例1で用いたアラミド樹脂と、アセチレンブラックと、極細炭素繊維と、の混合割合をそれぞれ70質量部、30質量部、0質量部とした他は実施例2と同様にして、集電フィルムを作製した。得られた集電フィルムの物性を表1に示す。
【0078】
(実施例5)
実施例1で用いたアラミド樹脂を10質量部と、N-メチル-2-ピロリドンを90質量部とを、氷浴にて冷却しながら、攪拌混合し、完全に溶解させ、溶液(A液)を調製した。N-メチル-2-ピロリドンを93質量部と、導電性フィラーとして極細炭素繊維7質量部とを、分散攪拌装置(プライミクス株式会社、型式フィルミックス30-30型)により22000rpmで1分間処理することで分散液を調製し、N-メチル-2-ピロリドンで希釈することで分散液(B液)を調製した。固体材料のうち、アラミド樹脂が70質量部となる量のA液と、極細炭素繊維が30質量部となる量の濾過後のB液を、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製、型式ARE-310)を用いて2000rpm、2分間混合し、ドープを調製した。アルミ板上にPETフィルム(東レ株式会社、「ルミラー」(登録商標)、型式100-S10)を敷き、その上にドープを流し、500μmの厚みで、アプリケーターを用いて成膜した。80℃の防爆定温乾燥器(株式会社大同工業所製、型式DTI-1A-230H)で60分間乾燥した後、PETフィルムから乾燥フィルムを剥離し、金枠に入れ、150℃の恒温器(エスペック株式会社製、型式PHH-101)で120分間乾燥した。徐冷後、金枠から集電フィルムを取り外し、成形プレス機(北川精機株式会社製、型式VH1-2294)を用いて190℃で30分間、10MPaの条件で熱セットを実施し、集電フィルムを作製した。得られた集電フィルムの物性を表1に示す。
【0079】
(実施例6)
アラミド樹脂として、コーネックスを10質量部と、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を90質量部とを、氷浴にて冷却しながら、攪拌混合し、完全に溶解させ、溶液(A液)を調製した。N,N-ジメチルアセトアミドを93質量部と、導電性フィラーとしてABを7質量部とを、分散攪拌装置(プライミクス株式会社、型式フィルミックス30-30型)により22000rpmで1分間処理することで分散液(B液)を調製した。B液を、目開きが20μmのメッシュフィルターを用いて濾過することで、凝集体を除いた。固体材料のうち、コーネックスが70質量部となる量のA液と、アセチレンブラックが25質量部となる量の濾過後のB液および、5質量部となる量の極細炭素繊維を、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製、型式ARE-310)を用いて2000rpm、2分間混合し、ドープを調製した。アルミ板上にPETフィルム(東レ株式会社、「ルミラー」(登録商標)、型式100-S10)を敷き、その上にドープを流し、300μmの厚みで、アプリケーターを用いて成膜した。80℃の防爆定温乾燥器(株式会社大同工業所製、型式DTI-1A-230H)で60分間乾燥した後、PETフィルムから乾燥フィルムを剥離し、金枠に入れ、150℃の恒温器(エスペック株式会社製、型式PHH-101)で120分間乾燥させた後に、成形プレス機(北川精機株式会社製、型式VH1-2294)を用いて190℃で30分間、10MPaの条件で熱セットを実施し、集電フィルムを作製した。得られた集電フィルムは6.2質量%(=9.8体積%)のDMAcを含有していた。得られた集電フィルムの物性を表1に示す。
【0080】
(実施例7)
実施例6のアプリケーターによる成膜厚みを300μmから500μmに変更した他は実施例6と同様にして、集電フィルムを作製した。得られた集電フィルムの物性を表1に示す。
【0081】
(実施例8)
実施例6で用いたアラミド樹脂と、アセチレンブラックと、極細炭素繊維と、の混合割合をそれぞれ80質量部、18質量部、2質量部とした他は実施例6と同様にしてドープを調製し、アプリケーターによる成膜厚みを120μmに変更し、実施例6と同様にして成膜した。80℃の防爆定温乾燥器(株式会社大同工業所製、型式DTI-1A-230H)で60分間乾燥した後、PETフィルムから乾燥フィルムを剥離し、金枠に入れ、250℃の恒温器(エスペック株式会社製、型式PHH-101)で24時間乾燥させ、集電フィルムを作製した。得られた集電フィルムは0.55質量%(=0.86体積%)のDMAcを含有していた。得られた集電フィルムの物性を表1に示す。
【0082】
(比較例1)
実施例1で用いたアラミド樹脂と、アセチレンブラックと、極細炭素繊維との混合割合をそれぞれ96質量部、2質量部、2質量部とした他は実施例2と同様にして、集電フィルムを作製した。得られた集電フィルムの物性を表1に示す。
【0083】
(参考例1)
実施例1で用いたアラミド樹脂を10質量部と、N-メチル-2-ピロリドンを90質量部とを、氷浴にて冷却しながら、攪拌混合し、完全に溶解させ、溶液(A液)を調製した。アルミ板上にPETフィルム(東レ株式会社、「ルミラー」(登録商標)、型式100-S10)を敷き、その上にA液を流し、500μmの厚みで、アプリケーターを用いて成膜した。80℃の防爆定温乾燥器(株式会社大同工業所製、型式DTI-1A-230H)で60分間乾燥した後、PETフィルムから乾燥フィルムを剥離し、金枠に入れ、150℃の恒温器(エスペック株式会社製、型式PHH-101)で120分間乾燥させることで、フィルムを作製した。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0084】
(参考例2)
参考例1と同様にして作製したアラミドフィルムを、成形プレス機(北川精機株式会社製、型式VH1-2294)を用いて190℃で30分間、10MPaの条件で熱セットを実施し、熱セットアラミドフィルムを作製した。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
実施例1は熱セットを行っていないため、面積収縮率はやや高いが、体積抵抗値は十分に低い値となった。
実施例2は熱セットを行ったため、面積収縮率が低い。
実施例3は熱セットを行ったため、面積収縮率が低い。導電性フィラーの配合率が低いため体積抵抗率は大幅に高い値となった。
実施例4は熱セットを行ったため、面積収縮率が低い。導電性フィラーが球状フィラーのみであるため、体積抵抗率は実施例1よりも高くなった。
実施例5は熱セットを行ったため、面積収縮率が低い。導電性フィラーが繊維状フィラーのみであるため、フィラー総表面積が低いにもかかわらず、体積抵抗率が十分に低くなった。
実施例6はDMAcを用いているが、NMPを用いた場合と同等の特性が確認された。熱セットを行ったため、面積収縮率が低い。
実施例7は膜厚が大きいが実施例6と同等の特性が確認された。熱セットを行ったため、面積収縮率が低い。
実施例8は高温、長時間乾燥することにより、溶媒含有量が低く、面積収縮率が低い。
比較例1は熱セットを行ったが、フィラー総表面積が低いため、面積収縮率がやや高い。フィラー総表面積が低く、体積抵抗率が十分に低くならなかった。