(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152612
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】ホース結合用差し金具
(51)【国際特許分類】
F16L 37/138 20060101AFI20231005BHJP
A62C 33/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
F16L37/138
A62C33/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172470
(22)【出願日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2022057128
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000117135
【氏名又は名称】芦森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】本間 毅
(72)【発明者】
【氏名】神原 健吾
【テーマコード(参考)】
2E189
3J106
【Fターム(参考)】
2E189LA02
3J106AA01
3J106BA01
3J106BB01
3J106BD01
3J106BE21
3J106BE26
3J106CA02
(57)【要約】
【課題】押し輪の操作性が低下することを抑制しつつも、押し輪に対して受け金具側に移動するような外力が不意に加わることを抑制する。
【解決手段】ホースHの端部に設けられ、他のホースの端部に設けられた受け金具と組み合わせて用いられるホース結合用差し金具1において、前記ホースHの端部を保持する保持部21を有する筒状の差し金具本体2と、前記差し金具本体2の外周に軸方向に移動可能に設けられる押し輪3と、前記押し輪が前記保持部21側に抜けることを当接により防止する押し輪抜け防止部4と、を備え、前記押し輪3が有する筒状部31の内径寸法は、前記差し金具本体2の外径寸法を基準として、101%~109%に設定されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホースの端部に設けられ、他のホースの端部に設けられた受け金具と組み合わせて用いられるホース結合用差し金具において、
前記ホースの端部を保持する保持部を有する筒状の差し金具本体と、前記差し金具本体の外周に軸方向に移動可能に設けられる押し輪と、前記押し輪が前記保持部側に抜けることを当接により防止する押し輪抜け防止部と、を備え、
前記押し輪は、前記差し金具本体の外周面に沿って軸方向に移動可能な筒状部と、前記筒状部から径外方向に延び、前記他のホースとの結合を解除するため前記受け金具に向かって操作者に操作される鍔部と、を備え、
前記筒状部の内径寸法は、前記差し金具本体のうち前記筒状部が軸方向に移動する範囲での外径寸法を基準として、101%~109%に設定されている
ことを特徴とする、ホース結合用差し金具。
【請求項2】
前記鍔部の前記保持部側には、径内側が前記保持部側に位置し、径外側が前記受け金具側に位置するように傾斜した鍔部テーパ面が形成されている、請求項1に記載のホース結合用差し金具。
【請求項3】
前記鍔部テーパ面は、軸方向に直交する仮想面を基準とした傾斜角度が、0度を超え25度以下とされている、請求項2に記載のホース結合用差し金具。
【請求項4】
前記押し輪抜け防止部は、前記差し金具本体に一部が埋め込まれた止め輪を有する、請求項1に記載のホース結合用差し金具。
【請求項5】
前記止め輪は、前記差し金具本体に沿う本体部と、前記本体部から径外方向に突出する凸部とを有する、請求項4に記載のホース結合用差し金具。
【請求項6】
前記凸部は、前記止め輪の前記本体部と異なる曲率半径の曲線部を有する、請求項5に記載のホース結合用差し金具。
【請求項7】
前記凸部は、屈曲部を有する、請求項5に記載のホース結合用差し金具。
【請求項8】
前記止め輪の径方向断面形状は、径方向に細長い形状とされた部分を有する形状である、請求項4に記載のホース結合用差し金具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消防用ホース等に用いられるホース結合用差し金具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば消防ホースは、消火現場で迅速にホース同士を接続する必要があることから、端部にホース結合金具が設けられている。このホース結合金具は、「町野式」と呼ばれる構成が広く用いられており、差し金具と受け金具とで一対を構成している。差し金具の基本的構成は特許文献1に示されている。受け金具には径内方向へと付勢された爪部が内蔵されている。受け金具に差し金具を差し込むと、差し金具の先端部に形成された段差に受け金具の爪部が引っ掛かる。これにより、差し金具と受け金具とが結合状態となる。
【0003】
差し金具には軸方向に移動できる押し輪が設けられている。この押し輪を受け金具に向かう方向に移動させることで、受け金具の爪部を径外方向に押し上げて、差し金具の段差を乗り越えさせることができる。これにより、差し金具と受け金具とを結合解除状態とできる。
【0004】
ここで、前述した町野式の金具では、押し輪が受け金具側に移動するような外力が加わると、前記段差と前記爪部との係合状態が不意に(消防士等のホースを扱う者が意図しないで)解除されるおそれがある。前記外力の生じる原因としては、例えば、消防用ホースを取り回す際における、階段での引きずりによる段への引っ掛かり、屋根の廂部分との衝突、建物入口や扉における枠部への引っ掛かり等が挙げられる。一方、消防ホースの場合、ホースの接続解除も迅速に行えることが望ましい。このため、意図的に押し輪を操作する際の操作性の低下はできるだけ小さくしたい。
【0005】
ここで、特許文献1には、大きな角度範囲で傾斜可能となるように押し輪を構成することが記載されていて、この構成により、押し輪に外力が加わった場合に、この外力が押し輪の軸線方向の先端側への原動力とならず、差し具の基端側外周部に対する力のモーメントに変換されるため、意図しない結合解除を防止できるとされている。
【0006】
しかし、特許文献1に記載の押し輪は、内周面に段差やテーパ面を形成した構成である。このため、製造時の機械加工工数が大きくなる。また、使用中に押し輪と差し金具の本体との間に異物が混入すると、段差やテーパ面に引っ掛かるため除去しにくい。また、異物を除去しないと、押し輪を移動させにくいため結合解除状態にしにくい。このように、特許文献1に記載の継手保護具は、改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、押し輪に対して受け金具側に移動するような外力が不意に加わっても、即座に結合解除状態となりにくく、かつ、意図的な操作によっては結合解除状態とできるホース結合用差し金具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ホースの端部に設けられ、他のホースの端部に設けられた受け金具と組み合わせて用いられるホース結合用差し金具において、前記ホースの端部を保持する保持部を有する筒状の差し金具本体と、前記差し金具本体の外周に軸方向に移動可能に設けられる押し輪と、前記押し輪が前記保持部側に抜けることを当接により防止する押し輪抜け防止部と、を備え、前記押し輪は、前記差し金具本体の外周面に沿って軸方向に移動可能な筒状部と、前記筒状部から径外方向に延び、前記他のホースとの結合を解除するため前記受け金具に向かって操作者に操作される鍔部と、を備え、前記筒状部の内径寸法は、前記差し金具本体のうち前記筒状部が軸方向に移動する範囲での外径寸法を基準として、101%~109%に設定されていることを特徴とする、ホース結合用差し金具である。
【0010】
この構成によれば、筒状部の内径寸法が前記範囲に設定されたことで、階段への引っ掛かり等、鍔部に対し、軸方向視における局所的な領域に偏るように外力がかかった場合、差し金具本体の軸心に対して筒状部の軸心が傾くように変化する。この傾きにより、押し輪が引っ掛かり、それ以上受け金具に向かって移動しない。このため、ホース結合用差し金具と受け金具とが結合解除状態になりにくい。一方、通常の差し金具と受け金具の結合解除作業として、鍔部に対し、軸方向視における全体の領域に偏りの小さい状態、例えば差し金具本体の軸心を基準として径方向に略180度対向する2ヵ所に指を掛けて操作を行った場合には、押し輪の前記引っ掛かりが生じないため、容易に結合解除状態とできる。
【0011】
また、前記鍔部の前記保持部側には、径内側が前記保持部側に位置し、径外側が前記受け金具側に位置するように傾斜した鍔部テーパ面が形成されているものとできる。
【0012】
この構成によれば、鍔部に外力を与える可能性のある物体を傾斜している鍔部テーパ面に対して滑らせるようにすることで、物体が鍔部に当たったことによる外力の全てが、押し輪が軸方向に移動させる力にならないようにできる。さらに、外力のうち少なくとも一部の力の方向が鍔部テーパ面によって変換されることにより、変換された力を、差し金具本体の軸心に対して筒状部の軸心が傾くように変化することに対し、積極的に作用させることができる。
【0013】
また、前記鍔部テーパ面は、軸方向に直交する仮想面を基準とした傾斜角度が、0度を超え25度以下とされることができる。
【0014】
この構成によれば、鍔部の径外側が鋭利な形状になることを避けることができ、危険を防止できる。
【0015】
また、前記押し輪抜け防止部は、前記差し金具本体に一部が埋め込まれた止め輪を有するものとできる。
【0016】
この構成によれば、止め輪を差し金具本体に取り付けるだけで、筒状部の内径寸法を拡大した押し輪であっても、保持部側に抜けることを防止できる。
【0017】
また、前記止め輪は、前記差し金具本体に沿う本体部と、前記本体部から径外方向に突出する凸部とを有する形状であるものとできる。
【0018】
この構成によれば、凸部によって止め輪を径外方向に突出させられるため、止め輪全体の形状を大きくすることなく、筒状部の内径寸法を拡大した押し輪であっても、保持部側に抜けることを防止できる。
【0019】
また、前記凸部は、前記止め輪の前記本体部と異なる曲率半径の曲線部を有するものとできる。
【0020】
この構成によれば、簡単な曲げ加工を行うだけで、容易に止め輪に凸部を設けることができる。
【0021】
また、前記凸部は、屈曲部を有するものとできる。
【0022】
この構成によれば、簡単な曲げ加工を行うだけで、容易に止め輪に凸部を設けることができる。
【0023】
また、前記止め輪の径方向断面形状は、径方向に細長い形状とされた部分を有する形状であるものとできる。
【0024】
この構成によれば、径方向に細長い形状とされた部分が押し輪に当たることで、筒状部の内径寸法を拡大した押し輪であっても、保持部側に抜けることを防止できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、不意に外力が加わった場合には、差し金具本体の軸心に対して筒状部の軸心が傾くように変化することで、差し金具と受け金具とが結合解除状態になりにくい。よって、押し輪に対して受け金具側に移動するような外力が不意に加わっても、即座に結合解除状態となりにくく、かつ、意図的な操作によっては結合解除状態とできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態に係るホース結合用差し金具を示す半断面図、及び要部拡大図である。
【
図2】前記ホース結合用差し金具の作用を示す半断面図である。
【
図3】
図1、
図2に示したホース結合用差し金具で用いられている止め輪を示す正面図である。
【
図4】本発明の他の実施形態に係る止め輪を示す正面図である。
【
図5】本発明の他の実施形態に係る止め輪を示す正面図である。
【
図6】本発明の他の実施形態に係るホース結合用差し金具を示す半断面図である。
【
図7】本発明の他の実施形態に係るホース結合用差し金具を示す半断面図である。
【
図8】本発明の他の実施形態に係るホース結合用差し金具を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明につき、一実施形態を取り上げて説明を行う。なお、本実施形態のホース結合用差し金具1において、ホースHが取り付けられる側の端部を基端部とし、受け金具に差し込まれる側の端部を先端部として説明する。そして、基端部と先端部とを結ぶ方向を軸方向とする。また、ホース結合用差し金具1の軸心(仮想の軸)を基準とした内外方向を径方向とする。前記軸心の延びる方向が軸方向である。
【0028】
本実施形態のホース結合用差し金具1は、繊維材料等の軟質材料から形成されたホースH(
図1に二点鎖線で示す)の端部に設けられ、他のホース(図示しない)の端部に設けられた、図示しない受け金具と組み合わせて用いられる。この組み合わせが有する構成は、前述したように「町野式」と呼ばれていて、この構成の基本部分は公知である。本実施形態のホース結合用差し金具1は、前記「町野式」の構成に対し、良好な操作性を保ちつつ、受け金具との結合が不意に解除されない工夫を施した点が特徴である。下記では、前記特徴に係る構成について主に説明し、従来から公知の構成に関しては必要な範囲で説明する。
【0029】
ホース結合用差し金具1は、
図1に示すように、差し金具本体2、押し輪3、押し輪抜け防止部4を備える。差し金具本体2は、ホースHの端部を保持する略円筒状の部分である。差し金具本体2の基端側領域に位置する保持部21は図示のように、外周面に軸方向に連続する複数の段差が形成された、いわゆる「タケノコ」形状とされている。この保持部21にホースHの端部を重ねた上で、金属製の筒体PをホースHに重ね、筒体Pを径方向に圧縮するようにかしめることにより、差し金具本体2からホースHの端部が抜けないように固定できる。なお、この筒体Pは、差し金具本体2にホースHを固定するための固定具の構成の一例に過ぎず、固定具の他の構成として、リング状やワイヤー状の部材を用いることもできる。また、かしめ以外に、巻き締め力、ねじ力や熱収縮等を利用した縮径により固定を行うこともできる。
【0030】
押し輪3は、差し金具本体2における先端側領域の外周に軸方向に移動可能に設けられた部分である。この押し輪3は、筒状部31と鍔部32とを備える。筒状部31は、差し金具本体2の外周面に沿う円筒状の部分である。筒状部31の内径は、差し金具本体2のうち、筒状部31が配置される部分の外径よりも大きく設定されており、これにより筒状部31は差し金具本体2に対して軸方向に摺動可能である。筒状部31の内径の詳細については後述する。なお、差し金具本体2の先端に位置する拡大部22の外径は筒状部31の内径よりも大きく形成されている。このため、筒状部31は差し金具本体2の先端部から抜けることがない。
【0031】
鍔部32は、筒状部31の基端部に、筒状部31から径外方向に延びるように一体に形成された円環状の部分である。つまり、鍔部32は差し金具本体2から径方向に延びるように設けられる。本実施形態の鍔部32は平板状であって、基端側(径内側)及び先端側(径外側)が平坦面となっている。鍔部32は、他のホースとの結合を解除するため受け金具に向かって操作者(消防士等)に操作される。鍔部32が先端方向に押されると、筒状部31も連動する。ここで、ホース結合用差し金具1が受け金具に結合した状態であった場合、拡大部22における基端である段差23よりも更に基端側の位置に、受け金具の爪部(図示しない)が嵌合しており、ホース結合用差し金具1と受け金具とが分離できない状態となっている。鍔部32が先端方向に押されると、筒状部31は受け金具に挿入される。挿入された筒状部31の先端部は、受け金具の爪部を径外方向に押し上げる。これにより、爪部が段差23に引っ掛からなくなり、ホース結合用差し金具1と受け金具との結合を解除して、双方を分離させることができる。
【0032】
押し輪抜け防止部4は、押し輪3が前記保持部21側(ホース結合用差し金具1の基端側)に抜けることを当接により防止する部分である。
【0033】
押し輪3における筒状部31は、差し金具本体2に対してあえて「がたつき」や「ぐらつき」が生じるような寸法で形成されている。具体的に、筒状部31の内径寸法は、差し金具本体2のうち筒状部31が軸方向に移動する範囲での外径寸法(当該範囲での平均値)2Dを基準として、101%~109%、より好ましくは103%~107%に設定されている。この設定値は、ホース結合用差し金具1のサイズが65Aの場合では、差し金具本体2の軸心2Cに対する筒状部31の軸心31Cが、前者の設定値では、大体2度~10度に対応しており、後者の設定値では大体4度~8度に対応している。
【0034】
ホース結合用差し金具1において一般的に用いられているサイズは、65A、50A、40Aの3種である。前記筒状部31の設定寸法は、これら3種のサイズに適用できる。ちなみに、本願の発明者が確認した、筒状部31の内径寸法の好ましい範囲をサイズ別に記すと、サイズが65Aの場合、103.5%~106%である。また、50Aの場合、103.5%~106%である。また、40Aの場合、104.6%~107.1%である。
【0035】
このように設定された内径の筒状部31を有する押し輪3では、鍔部32に対し、ホースHを取り回す際において例えば建物の一部との衝突により、周方向の一部にだけ外力がかかった際のように、当該鍔部32の軸方向視における局部的な領域に偏るように、先端方向への外力がかかった場合、当該外力が押し輪3にモーメントとして働く。このため
図2に示すように、差し金具本体2の軸心2Cに対して筒状部31の軸心31Cが傾くように変化する(
図2では筒状部31のうち図示上部が右側に傾く)。
【0036】
この筒状部31の軸心31Cの傾きにより、差し金具本体2のうち筒状部31が軸方向に移動する範囲の途中で押し輪3が引っ掛かり、それ以上受け金具に向かって移動しない。このため、ホース結合用差し金具1と受け金具とが結合解除状態になりにくい。一方、鍔部32に対し、軸方向視における全体の領域に偏りの小さい状態(略均等な状態)で操作を行った場合には、差し金具本体2の軸心2Cに対して筒状部31の軸心31Cが一致するか傾きの小さい状態のまま筒状部31が軸方向に移動することにより、押し輪3の前記引っ掛かりが生じないため、容易に結合解除状態とできる。以上、本実施形態のホース結合用差し金具1では、押し輪3に対して受け金具側に移動するような外力が不意に加わっても、即座に結合解除状態となりにくく、かつ、意図的な操作によっては結合解除状態とできる。つまり、不意の外れ防止と操作性の両構成を両立できる。また、本実施形態の筒状部31の内周面は、基端側から先端側まで一定径である、一つの連続した湾曲面とできる。このため、従来のように内周面に段差やテーパ面等の、面の連続性を失わせる部分を形成した構成に比べると製造時の機械加工工数を小さくできる。また、使用中に押し輪と差し金具の本体との間に異物が混入したとしても、内周面に異物が引っ掛かってしまう部分がないため、異物除去が容易である。
【0037】
押し輪抜け防止部4は、差し金具本体2に一部が埋め込まれた止め輪41を有する。埋め込みは、差し金具本体2の外周面に周方向に形成された溝に対してなされる。止め輪41を差し金具本体2に取り付けるだけで、前述のように筒状部31の内径寸法を拡大した押し輪3であっても、保持部21側に抜けることを防止できる。
【0038】
止め輪41は、差し金具本体2に沿うように取り付けられる本体部から、その一部が径方向に突出する凸部を有する形状とできる。本実施形態では、周方向に4箇所、径方向に細長い形状となる前記凸部としての突起部411を設けた形態とされている。本実施形態に用いられる止め輪41の正面視形状を
図3に示す。4箇所の突起部411は周方向に均等な間隔で設けられている。突起部411は、止め輪41の本体部と異なる曲率半径の曲線部を有するような、略半円形の突起とされている。このように凸部(突起部411)を設けることによって、止め輪41における周方向の一部を径外方向に突出させられるため、止め輪41全体の形状を大きくすることなく、筒状部31の内径寸法を拡大した押し輪3であっても、保持部21側に抜けることを防止できる。また、周方向に1箇所、止め輪41の本体部が分断されていて、差し金具本体2に取り付ける際に広がるスリット412が形成されている。また、突起部411の径内位置にもスリット413が形成されており、止め輪41を一時的に拡径させ、差し金具本体2に埋め込む作業を行いやすいようにされている。
【0039】
止め輪41は
図3に示す形状に限定されず、種々の形状とできる。例えば、
図4、
図5に示す形状とできる。
図4に示す止め輪41は、差し金具本体2に形成された溝に嵌め込まれる前記本体部としての湾曲部414と、周方向に一定間隔で4箇所、前記凸部としての角部415が湾曲部414から径方向に突出して設けられている。
図4に示した角部415は、略直角に曲げられた屈曲部を有する。また、差し金具本体2への取り付け用に、周方向に分断されたスリット416が設けられている。
図5に示す止め輪41は、基本的な形状は
図4に示したものと同じであるが、湾曲部414の形成範囲が小さく、その分、角部415の径方向への突出度合が大きいものである。また、図示はしないが、角部415に代えて、本体部(湾曲部414)よりも大きな曲率半径の曲線部を設けることもできる。角部415や曲線部を設けた形状の止め輪41とすることにより、簡単な曲げ加工を行うだけで、容易に止め輪41に径外方向への凸部を設けることができる。
【0040】
止め輪41をこれらの形状とすることにより、断面形状で径方向に細長い形状とされた部分が押し輪3に当たることで、筒状部31の内径寸法を拡大した押し輪3であっても、保持部21側に抜けることを防止できる。
【0041】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0042】
例えば、前記実施形態の押し輪3において、鍔部32の基端側は
図1等に示すように平坦面となっていた。しかしこれに限定されず、別実施形態として
図8に示すように、鍔部32における基端側(径内側)に鍔部テーパ面322を設けることもできる。この別実施形態について以下に説明する。
【0043】
この別実施形態における、鍔部32の保持部21側(ホース結合用差し金具1における軸方向での基端側)には、径内側が保持部21側に位置し、径外側が受け金具側(ホース結合用差し金具1における軸方向での先端側)に位置するように傾斜した鍔部テーパ面322が形成されている。鍔部テーパ面322は、この実施形態では径方向断面形状が直線状の面である。ただし、径方向断面形状が曲線状の面(凹面や凸面)とすることもできる。鍔部テーパ面322は、押し輪3の周方向において全周に設けられている。なお、周方向で間欠的に設けることもできる。
【0044】
鍔部テーパ面322の径内側には、前記実施形態と同様に平坦面321が形成されている。
図9に示すように、鍔部テーパ面322の開始位置322Pにおける径寸法D322は、ホースHを保持部21に固定するためにかしめられる金属製の筒体Pの外径DP(詳しくはかしめ加工後の外径であって最大寸法)以下に設定されている。なお、鍔部テーパ面322の開始位置322Pにおける径寸法D322は、筒体Pの外径DPとほぼ同じに設定することが好ましい。それは、筒体Pよりも内径側の位置では、筒体Pが邪魔になることによって、当該位置に外部の物体が衝突する可能性が極めて小さいからである。また、鍔部32の厚みや鍔部テーパ面322の傾斜角度を変更しない場合、鍔部テーパ面322の開始位置322Pが径内側に寄っていると、径外側で鍔部32の厚みを確保できずに鋭利な形状になってしまい、消防士等の作業者に危険を与える可能性があるからである。このような理由により、平坦面321と鍔部テーパ面322とが共に形成されている。
【0045】
このように鍔部32に鍔部テーパ面322を形成することにより、鍔部32に外力を与える可能性のある物体を傾斜している鍔部テーパ面322に対して滑らせるようにすることで、前記物体を受け流すことができ、従って、物体が鍔部32に当たることによる外力を減少させられる。さらに、外力のうち少なくとも一部の力の方向が鍔部テーパ面322によって、鍔部テーパ面322の法線方向(軸方向に対して傾斜した方向)に変換されることにより、この変換された力を、前記実施形態で説明したような、差し金具本体2の軸心2Cに対して筒状部31の軸心31Cが傾くように変化させるため、積極的に作用させることができる。
【0046】
鍔部テーパ面322は、軸方向に直交する仮想面(図示していないが、
図8、
図9にて上下方向に延びる仮想面)を基準とした傾斜角度θが、0度を超え25度以下とされている。傾斜角度θは、好ましくは5度以上20度以下に設定できる。傾斜角度が大きい方が前述の作用に関して効果的であるものの、鍔部32の径外側が鋭利な形状になってしまうため、危険防止の観点で、角度範囲を前記範囲に制限している。
【0047】
ここで、本願の発明者がこの別実施形態の押し輪3を試作して実験を行ったので簡単に説明する。口径65A用:傾斜角度13度、同50A用:傾斜角度5度、同40A用:傾斜角度10度の鍔部テーパ面322を設けた押し輪3をそれぞれ試作し、これらにつき、消火活動や救出活動の際に、外部から建築物の中へ入るための進入口を模したものであり、直交させた鋼材(例えばH鋼やアングル材)から構成された治具を用い、差し金具と受け金具とが結合状態となっていて、ホースが装着されたものを前記治具の屈曲部分に当てつつ通過させてみた。その結果、口径65用で、外力が不意に加わった際の結合解除状態を防止する100%の「不意離脱防止効果」を示し、また口径50A用、口径40A用もほぼ同等の「不意離脱防止効果」を示した。このように、今回の実験条件の範囲内では、鍔部テーパ面322の形成が有効であることを確認できた。以上が別実施形態の説明である。
【0048】
前記別実施形態の他に考えられる変更形態として、例えば、
図7に示すように、押し輪抜け防止部4が、差し金具本体2において径外方向に突出し、周方向に延びる突条42を有するものとしてもよい。この場合、止め輪41は、この突条42に一部が埋め込まれる。このように突条42と止め輪41とを組み合わせることで、突条42によって止め輪41を径外方向に突出させられるため、止め輪41を特殊な形状にしなくてもよい。この場合の止め輪41は、径方向断面形状が円形であって(
図7の囲み部分参照)、嵌め込みを行うために周方向の一か所が切断された形状のリングを用いることができる。
【0049】
突条42のうち、押し輪3に近い側にはテーパ面421を形成できる。このようなテーパ面421により、押し輪3が基端側に移動した際、筒状部31の軸心31Cを差し金具本体2の軸心2Cに揃えることができ、押し輪3の傾きを解消できる。
【0050】
さらに、突条42のうち、押し輪3とは反対側にもテーパ面422を形成できる。このようなテーパ面422により、ホース結合用差し金具1の製造時において、突条42に止め輪41を取り付ける際、テーパ面422によって止め輪41を順次拡径させつつ、埋め込み位置へ簡単に誘導できる。
【0051】
また、止め輪41の径方向断面形状は円形でなくてもよく、径方向に細長い形状とされた部分を有する形状とできる。例えば
図6に示したように、平板状体をリング形状としたものであって、周方向に一定の断面形状(具体的には長方形)とされた形態とできる。
【0052】
なお、前述した突条42では、軸方向の両側にテーパ面421,422が形成されていた。しかし、軸方向の一方にのみ設けた形態とすることもできる。
【符号の説明】
【0053】
1 ホース結合用差し金具
2 差し金具本体
2C 差し金具本体の軸心
2D 差し金具本体の外径寸法
21 保持部
22 拡大部
23 段差
3 押し輪
31 筒状部
31C 筒状部の軸心
32 鍔部
321 平坦面
322 鍔部テーパ面
4 押し輪抜け防止部
41 止め輪
42 突条
H ホース
P かしめ用の筒体
θ 鍔部テーパ面の傾斜角度