(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152619
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】カルシウム過負荷媒介ニューロン死のマーカー及び応用
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/48 20060101AFI20231005BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20231005BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20231005BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20231005BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20231005BHJP
A61P 21/02 20060101ALI20231005BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231005BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231005BHJP
A61K 31/454 20060101ALI20231005BHJP
A61K 31/5415 20060101ALI20231005BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20231005BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C12Q1/48 Z
C12N15/113 Z ZNA
A61P25/28
A61P25/16
A61P27/06
A61P21/02
A61K45/00
A61K48/00
A61K31/454
A61K31/5415
A61K31/7088
A61K31/7105
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174533
(22)【出願日】2022-10-31
(31)【優先権主張番号】202210351580.3
(32)【優先日】2022-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PLURONIC
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】522426548
【氏名又は名称】首都医科大学
【氏名又は名称原語表記】CAPITAL MEDICAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.10,Xitoutiao,You’anmenwai,Fengtai District,Beijing 100069,China
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】劉 ▲レイ▼
(72)【発明者】
【氏名】▲ゴン▼ 芳燕
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ27
4B063QS36
4C084AA13
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA16
4C084ZA33
4C084ZA94
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC39
4C086BC89
4C086GA07
4C086GA10
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA16
4C086ZA33
4C086ZA94
(57)【要約】 (修正有)
【課題】カルシウム過負荷媒介ニューロン死のマーカー及び応用を提供する。
【解決手段】一態様において、高齢関連神経変性疾患の治療用薬物の調製及び疾患検出方法におけるカルシウム過負荷媒介ニューロン死のマーカーの応用であって、該マーカーが過剰リン酸化TLK2であることを特徴とするマーカーであり、TLK2阻害薬物、TLK2のRNA干渉因子、TLK2ノックアウト因子又はTLK2がノックアウトされたRNA干渉因子を更に含む、カルシウム過負荷媒介ニューロン死のマーカーの応用を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
様々な高齢関連神経変性疾患の治療用薬物の調製及び疾患検出方法におけるカルシウム過負荷媒介ニューロン死のマーカーの応用。
【請求項2】
疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症又は緑内障を含むが、これらに限定されないことを特徴とする請求項1に記載の応用。
【請求項3】
マーカーは、過剰リン酸化TLK2であることを特徴とするカルシウム過負荷媒介ニューロン死のマーカー。
【請求項4】
TLK2阻害薬物、TLK2のRNA干渉因子、TLK2ノックアウト因子又はTLK2がノックアウトされたRNA干渉因子を更に含むことを特徴とする請求項3に記載のカルシウム過負荷媒介ニューロン死のマーカー。
【請求項5】
TLK2阻害薬物は、ピモジド、チオリダジン又はトリフルオペラジンを含むが、これらに限定されないことを特徴とする請求項4に記載のカルシウム過負荷媒介ニューロン死のマーカー。
【請求項6】
TLK2のRNA干渉因子は、低分子干渉核酸、アンチセンスRNA又はTLK2 mRNAの転写及びタンパク質の翻訳を阻害する他の因子であることを特徴とする請求項4に記載のカルシウム過負荷媒介ニューロン死のマーカー。
【請求項7】
TLK2のRNA干渉配列は、SEQ ID NO.1~33に示されるヌクレオチド配列を有することを特徴とする請求項6に記載のカルシウム過負荷媒介ニューロン死のマーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマーカーの技術分野に関し、特にカルシウム過負荷媒介ニューロン死のマーカー及び応用に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)やパーキンソン病(PD)は、高齢者で最もよく見られる神経変性疾患である。現在、中国でアルツハイマー病患者は、500万人と多く、世界の全症例数の25%を占め、毎年の新規症例が30万に近く、明らかに増加する傾向を呈する。75歳以上の人の発症率が8%に達し、80歳以上の人は11%に達する。アルツハイマー病の患者のうち女性が男性よりも多く、60歳以上の人ではアルツハイマー病に罹患する女性が男性よりも2~3倍高い。60歳以上の人では、パーキンソン病の発症率が1~2%であり、80歳以上の人では、発症率が4%に達することができ、ADに次いで2番目に大きな神経変性疾患である。
【0003】
筋萎縮性側索硬化症は希少疾患に属し、発症率が十万分の一であり、全世界で毎年6千人近くの患者が新規に増加している。中国には20万人近くの患者がいる。緑内障は、45歳以上の場合に発症率が2%である。全世界に7000万の緑内障患者がいて、中国に1000万近くの緑内障患者がいる。
【0004】
従来の研究により、カルシウム過負荷が関連する神経変性疾患で一定の役割を果たし、特にニューロンでは、カルシウムイオンは、神経伝達物質の放出、ニューロンの可塑性及び遺伝子発現などを調節可能であることを見出した。アルツハイマー病では、βアミロイドの細胞内での濃縮によってカルシウムイオンの恒常性不全を直接引き起こす可能性があり、ミクログリア細胞と星状膠細胞に影響を与えてカルシウム過負荷を間接発生させる可能性もある。ニューロンカルシウム過負荷による細胞損傷は、ADの発生と発展に密接に関連している。筋萎縮性側索硬化症(ALS)では、カルシウム透過性AMPA型グルタミン酸受容体媒介の慢性興奮毒性によって細胞内のカルシウムイオンの不均衡を招き、小胞体のカルシウムイオンの枯渇及びミトコンドリアのカルシウムイオンの過負荷が伴われる可能性がある。脳幹と脊髄のような運動ニューロン亜集団は、少量のカルシウム結合タンパク質のみを発現し、カルシウム過負荷により極めて傷害されやすい。
【0005】
緑内障患者の篩板細胞(lamina cribrosa cells)及び線維柱帯細胞(trabecular meshwork cells)には、カルシウム過負荷及びカルシウムイオン恒常性を調節するチャネルの発現の変化が発生する。ラット緑内障モデルにおいて、網膜神経節細胞(Retinal ganglion cells)にカルシウム過負荷が発生する。
【0006】
パーキンソン病では、ドーパミン作動性ニューロンの異常放電は、その独特のCav1.3 L型カルシウムイオンチャネルにより維持される。Cav1.3 L型カルシウムイオンチャネルは、過分極電位に対して開き、カルシウムイオンが細胞に入るようにする必要があり、それによりドーパミン作動性ニューロンにカルシウム過負荷が発生し、最終的にカルシウム依存性ニューロン細胞死を招く。パーキンソン病患者の脳では、α-シヌクレインの異常堆積によってレビー小体(Lewy bodies,LBs)が形成され、α-シヌクレインの凝集は、細胞膜と相互作用して孔を形成し、カルシウムイオン恒常性が不均衡になり、カルシウム依存性細胞死を招く。
【0007】
細胞内カルシウム過負荷は、細胞の酸化ストレスの増加、細胞核の透過性の変化、加水分解酵素の活性の変化、ATPレベルの低下、ミトコンドリア機能損傷、DNAエンドヌクレアーゼの活性の増加、オートファジー機能の低下などを含む様々な細胞機能障害を招き、最終的に細胞死を招く。更に、α-シヌクレインの凝集によってもカルシウム過負荷及びオートファジー機能の低下を招く。オートファジー機能の損傷は、AD、PDなどの神経変性疾患を招く要因にもなっている。大量の研究により示されたように、パーキンソン病に関連する遺伝因子(例えば、LRRK2、GBA、SMPD1、SNCA、PARK2、PINK1、PARK7、SCARB2)、及びアルツハイマー病に関連する遺伝因子(例えば、ApoE)は、いずれもオートファジー-リソソーム経路(Autophagy-lysosome pathway)に関与している。これらの遺伝子は、リソソーム酵素のコード、リソソームの輸送やミトコンドリアのオートファジーなどに関連する機能に関与する。オートファジー機能が損なわれると、α-シヌクレインやβアミロイドなどの異常堆積を直接招く可能性がある。従って、細胞オートファジー機能の維持は、カルシウム過負荷の関与する神経変性疾患の共通標的でもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、カルシウム過負荷媒介ニューロン死のマーカー及び応用を提供することを目的とする。応用とは、TLK2阻害剤、TLK2 RNA干渉薬物などのTLK2を干渉するポリシーを提供することを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を実現するために、本発明は、様々な高齢関連神経変性疾患の治療用薬物の調製及び疾患検出方法におけるカルシウム過負荷媒介ニューロン死のマーカーの応用を提供する。
【0010】
好ましくは、疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症又は緑内障を含むが、これらに限定されない。
【0011】
マーカーは、過剰リン酸化TLK2であるカルシウム過負荷媒介ニューロン死のマーカーである。
【0012】
好ましくは、TLK2阻害薬物、TLK2のRNA干渉因子、TLK2ノックアウト因子又はTLK2がノックアウトされたRNA干渉因子を更に含む。
【0013】
好ましくは、TLK2阻害薬物は、ピモジド、チオリダジン又はトリフルオペラジンを含むが、これらに限定されない。
【0014】
好ましくは、TLK2のRNA干渉因子は、低分子干渉核酸、アンチセンスRNA又はTLK2 mRNA転写及びタンパク質の翻訳を阻害する他の因子である。
【0015】
好ましくは、TLK2のRNA干渉配列は、SEQ ID NO.1~33に示されるヌクレオチド配列を有する。
【0016】
従って、本発明は、上記カルシウム過負荷媒介ニューロン死のマーカー及び応用を採用し、カルシウム過負荷及びTLK2過剰リン酸化は、新規な分子マーカーとして疾患の進展を予測するか又は治療効果を検定し、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症及び緑内障に対して迅速な早期警報の作用を有し、且つ、上記病症の治療用薬物の調製過程で主な治療効果を奏する。
【0017】
ニューロン及び非ニューロン細胞では、カルシウム過負荷は、酸素不足の条件により誘発され、TLK2過剰リン酸化に繋がる。細胞にカルシウム過負荷が発生した場合、TLK2が過剰リン酸化(hyperphospherylation)し、そのホスファターゼの活性が高くなる。TLK2のリン酸化基質は、CREBRF(転写因子であり、リソソーム遺伝子の転写を調節する機能を有する)及びミトコンドリアの断片化に繋がる未知のタンパク質を含む。TLK2遺伝子ノックアウト、RNAによるTLK2転写及びタンパク質の翻訳の干渉、低分子阻害剤は、いずれもカルシウム過負荷による下流の損傷を阻害することができる。
【0018】
以下、図面及び実施例により、本発明の技術的解決手段を更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ショウジョウバエの翅の表現型の模式図である。
【
図2】MC16ショウジョウバエの筋線維における蛍光タンパク質の分布の模式図である。
【
図3】MC16ショウジョウバエのカルシウム過負荷現象の模式図である。
【
図4】TLK RNAiがカルシウム過負荷による筋肉損傷を阻害することを示す模式図である。
【
図5】TLK RNAiがMC16ショウジョウバエの筋肉損傷をレスキューすることを示す模式図である。
【
図6】TLK RNAiがカルシウム過負荷による細胞死をレスキューすることを示す模式図である。
【
図7】TLK RNAiがMC16ショウジョウバエのミトコンドリアの機能欠陥をレスキューすることを示す模式図である。
【
図8】TLK RNAiがMC16ショウジョウバエにおけるカルシウム過負荷のレベルに影響を与えないことを示す模式図である。
【
図9】TLK RNAiがカルシウム過負荷によるオートファジー-リソソーム機能を高めることを示す模式図である。
【
図10】TLK RNAiがα-シヌクレイン過剰発現によるドーパミンニューロンをレスキューすることを示す模式図である。
【
図11】TLK RNAiがDaGS>SNCAショウジョウバエにおけるミトコンドリア機能を回復することを示す模式図である。
【
図12】TLK RNAiがα-シヌクレイン過剰発現によるオートファジー-リソソーム機能を回復することを示す模式図である。
【
図13】TLK2遺伝子ノックアウトによるオートファジーフラックスの活性化の模式図である。
【
図14】TLK2遺伝子ノックアウトによるマーカータンパク質のオートファジーの模式図である。
【
図15】TLK2阻害剤(PMZ)がα-シヌクレイン過剰発現によるオートファジーをレスキューすることを示す模式図である。
【
図16】既知のTLK阻害剤の化学構造模式図である。
【
図17】TLK2阻害剤(PMZ)がα-シヌクレイン過剰発現によるオートファジーをレスキューすることを示す模式図である。
【
図18】TLK2タンパク質がカルシウム過負荷細胞溶解液により処理された後の模式図である。
【
図19】TLK2タンパク質がカルシウム過負荷細胞溶解液により処理された後の過剰リン酸化の模式図である。
【
図20】カルシウム過負荷がTLK2キナーゼの活性を増加させることを示す模式図である。
【
図21】カルシウム過負荷誘導モデルによるマウスの実験フローチャートの模式図である。
【
図22】TLK2ノックアウトによりカルシウム過負荷を緩和する場合のマウス死亡時間の模式図である。
【
図23】TLK2遺伝子ノックアウトによりカルシウム過負荷によるドーパミンニューロン死をレスキューすることを示す模式図である。
【
図24】TLK2遺伝子ノックアウトによりカルシウム過負荷によるオートファジー機能の低下を改善することを示す模式図である。
【
図25】TLK2遺伝子ノックアウトによりα-シヌクレイン過剰発現モデルマウスをレスキューするフローの模式図である。
【
図26】TLK2遺伝子ノックアウトによりα-シヌクレイン過剰発現による行動異常をレスキューすることができることを示す模式図である。
【
図27】TLK2遺伝子ノックアウトによりα-シヌクレイン過剰発現によるオートファジーの低下を改善することができることを示す模式図である。
【
図28】TLK2遺伝子ノックアウトによりα-シヌクレイン過剰発現によるドーパミンニューロン死を減少させることができることを示す模式図である。
【
図29】α-シヌクレイン過剰発現及びカルシウム過負荷の病理学的条件下でのTLK2の過剰リン酸化の模式図である。
【
図30】低酸素条件下でのヒト網膜上皮細胞のカルシウム過負荷の模式図である。
【
図31】新規な低分子がカルシウム過負荷による損傷を阻害する活性を有することを示す模式図である。
【
図32】マウスTLK2遺伝子ノックアウトが緑内障損傷に拮抗する作用を有することを示す模式図である。
【
図33】PMZが緑内障損傷に拮抗する作用を有することを示す模式図である。
【
図34】複数のヒトTLK2 RNAi配列がTLK2タンパク質レベルを低下させることができることを示す模式図である。
【
図35】TLK2(shRNA)ノックダウンが細胞内tauタンパク質レベルを低下させることができることを示す模式図である。
【
図36】TLK2(shRNA)ノックダウンが細胞内FUSタンパク質レベルを低下させ、細胞オートファジーレベルを高めることができることを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面及び実施例により、本発明の技術的解決手段を更に説明する。
【0021】
別途定義されていない限り、本発明において使用される技術用語又は科学用語は、本発明の属する分野における当業者に理解されている通常の意味を有するものとする。
【0022】
当業者にとって明らかなように、本発明は、上記例示的な実施例の細部に限定されず、且つ本発明の主旨又は実質的な特徴から逸脱しない限り、他の具体的な形態により本発明を実現することができる。従って、どの点においても、実施例が限定的なものではなく例示的なものであると見なすべきである。本発明の範囲は、上記説明に限定されるものではなく、下記請求項によって限定されるものであるため、請求項の同等要件の意味及び範囲内にある全ての変化が本発明内に網羅されることを意図し、請求項におけるいかなる図面符号を、係る請求項を制限するものとして見なしてはいけない。
【0023】
更に、実施形態に従って本明細書を説明するが、各実施形態が1つの独立した技術的解決手段のみを含むわけではなく、明細書のこのような記述方法は明瞭にするためであり、当業者が明細書を全体として見なすべきであり、各実施例における技術的解決手段は、適切に組み合わせられ、当業者が理解できる他の実施形態を形成することもできることを理解すべきである。これらの他の実施形態も本発明の保護範囲内に含まれる。
【0024】
以上に記載の具体的な実施例は、本発明を解釈するためのみに用いられ、本発明の保護範囲はこれに限定されず、本技術分野に熟知する任意の技術者が本発明に開示されている技術範囲内で本発明の技術的解決手段及びその発明思想に基づいて同等置換又は変更を加えたものは、全て本発明/発明の保護範囲内に含まれることを更に理解すべきである。
【0025】
本発明において使用される「含む」又は「包含」などの類似する単語は、一番前の主語である要素がこの単語の前に列挙された要素を含み、他の要素をも含む可能性を排除しないことを意味する。「内」、「外」、「上」、「下」などの用語により指示される方位又は位置関係は、図面に示される方位又は位置関係に基づくものであり、本発明を説明しやすく説明を簡略化するためのものに過ぎず、係る装置又は素子が必ず特定の方位を有したり、特定の方位で構成・操作したりしなければならないことを指示又は示唆するわけではないため、本発明を制限するものとして理解してはいけず、説明される対象の絶対的位置が変更された場合、その相対的位置関係もそれに応じて変更する可能性がある。本発明において、別途明確に規定・限定されていない限り、「付着」などの用語は、広い意味で理解されるべきであり、例えば、固定接続であってもよいし、取り外し可能な接続、又は一体的であってもよく、直接接続であってもよいし、中間媒体を介する間接接続であってもよく、2つの素子内部の連通又は2つの素子の相互作用関係であってもよい。当業者であれば、具体的な状況に応じて本発明における上記用語の具体的な意味を理解することができる。本発明において使用される「約」という用語は、当業者に公知の意味を有し、当該用語により修飾される数値がその±50%、±40%、±30%、±20%、±10%、±5%又は±1%の範囲内にある意味であることが好ましい。
【0026】
別途特に定義されていない限り、本開示において使用される全ての用語(技術用語又は科学用語を含む)は、本開示の属する分野における当業者に理解されている意味と同じである。更に、本明細書において明確に定義されていない限り、例えば汎用辞書で定義された用語は、それらの関連技術の文脈における意味に合致する意味を有すると理解されるべきであり、理想的又は高度に形式的な意味で解釈すべきではないことを理解されたい。
【0027】
関連分野の当業者に既知の技術、方法及び機器について詳細に検討しない場合があるが、適切な場合、前記技術、方法及び機器は、明細書の一部として見なすべきである。
【0028】
本発明の明細書に援用される従来の技術文献に開示された内容は、全体として援用により本発明に組み込まれ、それによって本発明の開示内容の一部となる。
【0029】
以下の内容では、特に説明されていない限り、採用される薬物及び計器は、全て当分野における通常の選択である。また、表1及び表2には、本実施例に係る抗体及び化学試薬の情報が列挙されている。
【0030】
【0031】
【0032】
以下の内容では、本発明のデータの平均値を比較する時、t検定及び分散検定は、サンプル全体が正規分布に従い、サンプル間の分散が均一であるという仮設に基づくものである。2つのグループの間の比較について、対応のないt検定を使用して統計的分析を行う。3つ以上のグループの比較について、one-way ANOVA with Tukey’s post hoc検定を使用して有意性を決定する。Log-rankアルゴリズムでは、Kaplan-Meier検定を使用して生存分析を行う。GraphPad Prismソフトウェアを使用して統計的分析を行う。P<0.05であれば、統計的意味を有すると考えられる(*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****p<0.0001)。
【0033】
試験テスト1
一、ショウジョウバエ慢性カルシウム過負荷モデルの構築
ショウジョウバエに、ヒトBNC1aの第430位のグリシンがシステインに突然変異した突然変異体をトランスジェニック発現させ、当該突然変異の発現によって細胞質におけるカルシウムイオン濃度が徐々に上昇し、このトランスジェニックショウジョウバエをUAS-C16(G430C突然変異体を発現したトランスジェニックショウジョウバエ第16号を意味する)と称する。
【0034】
パーキンソン病の場合にも、筋肉組織にカルシウム過負荷の現象が発生する。また、筋肉組織は、ニューロンと同じく興奮性組織であり、分子経路が実質的に一致しており、且つショウジョウバエの筋肉組織が非常に大きく、表現型を観察して遺伝子スクリーニングを行うことに役立つ。そのうち、最大の筋肉組織は、ショウジョウバエの翅が飛行するように制御する飛行筋である。飛行筋が損傷されると、翅には対応する表現型が現れる。従って、筋プロモーターMyosin heavy chain(Mhc) Promoterを採用してGal4タンパク質の発現を媒介する(Mhc-Gal4は、hBNC1 G430CをUASの下流に接続する)。Gal4は、転写活性化タンパク質として、UASのDNA配列に結合し、UAS配列の下流の遺伝子フラグメントの発現を強く活性化することができる。
【0035】
本発明は、ショウジョウバエ組織特異的プロモーターにより駆動されるGal4発現系統及びUASに連結されるトランスジェニックフラグメントのショウジョウバエ系統を構築し、この2つのショウジョウバエ系統を交配することで、子孫ショウジョウバエが組織特異的細胞内においてUASの後に連結される遺伝子を発現することができる。ショウジョウバエGal4/UAS系を利用し、ショウジョウバエ筋肉慢性カルシウム過負荷モデルを構築し、その遺伝子型は、Mhc-gal4>UAS-C16であり、以下、このショウジョウバエをMC16と略称する。
【0036】
二、MC16ショウジョウバエの表現型
使用されるショウジョウバエは、全てショウジョウバエの標準的なトウモロコシ粉餌で25℃の恒温インキュベータにおいて飼育された。インキュベータの湿度は、60%に維持され、昼9:00~21:00、2000~3000lux、夜21:00~翌日9:00、0luxという昼夜交替モードに設定された。ショウジョウバエが7日間程度になった時点で、ショウジョウバエの翅の表現型を直接観察した。
【0037】
図1のように、正常Mhc-Gal4ショウジョウバエの翅は、地面に平行するように表現し、且つ正常に飛行することができる。MC16カルシウム過負荷ショウジョウバエの翅は、持続的に下へ垂れ下がるか又は上へ立ち上がるという異常な筋肉状態を表現し、且つ飛行能力が失われ、筋肉内に損傷が存在することが示唆された。7日目のMC16カルシウム過負荷ショウジョウバエの翅の表現型を統計したところ、約80%のショウジョウバエの翅は、持続的に下へ垂れ下がるか又は上へ立ち上がるように表現することを見出し、MC16ショウジョウバエには対応する表現型が発生可能であることが説明された。
【0038】
図1において、図aは、正常対照Mhc-gal4ショウジョウバエの翅が平行に並んでいる場合であり、図bは、カルシウム過負荷ショウジョウバエの翅の位置が上又は下へ向かう場合であり、翅を制御する筋肉に損傷が発生したことが説明された。
【0039】
三、飛行筋の筋線維
ショウジョウバエの飛行筋(IFM)をHL3バッファに入れて解剖し、ショウジョウバエが緑色蛍光タンパク質(GFP)を持っているため、ライカSP8共焦点顕微鏡を直接利用して結像させることができる。
【0040】
ショウジョウバエの翅の飛行を制御する筋線維が第2胸節の部位に成長するため、胸節部位の飛行筋を選択して筋線維の形態を観察した。且つ、緑色蛍光タンパク質(GFP)は、正常に細胞質に均一に分布することができる。
【0041】
緑色蛍光タンパク質を発現するショウジョウバエをそれぞれMhc-Gal4ショウジョウバエ及びMC16カルシウム過負荷ショウジョウバエと交配し、雑種第一代のショウジョウバエにおいて筋線維組織の形態変化を観察できた。
図2のように、図aは、正常対照Mhc-gal4ショウジョウバエの筋線維であり、平行に並んでおり、緑色蛍光タンパク質シグナルが均一且つ規則的に分布しており、図bにおけるMC16ショウジョウバエの筋線維が乱雑に分布しており、緑色蛍光タンパク質のシグナルが非常に不規則に分布しており、MC16ショウジョウバエに筋肉損傷が発生したことが示された。
【0042】
四、MC16ショウジョウバエにカルシウム過負荷が発生したか否かの検出
HL3バッファにおいてショウジョウバエの飛行筋を解剖し、室温で5μMのFluo4-AM及び0.02%のPluronic F-127において暗所で30分間インキュベートした。続いてHL3バッファで3回洗浄し、毎回10分間とした。ライカSP8共焦点顕微鏡により結像させて蛍光強度を測定した。
【0043】
Fluo4は、カルシウムイオン指示薬であり、その蛍光強度は、カルシウムイオン濃度の上昇に伴って増加する。本試験では、Fluo4を利用してカルシウムイオンのレベルを検証し、
図3において、Fは蛍光強度を表し、F/F0で相対蛍光強度を分析した。2つのグループの間は対応のないt検定を採用し、統計学的有意差があった。結果により、MC16ショウジョウバエにおけるFluo4の蛍光強度が正常対照Mhc-Gal4ショウジョウバエの蛍光強度よりも明らかに高いことが示され、MC16ショウジョウバエにカルシウム過負荷の現象が確かに発生したことが明らかである。また、MC16ショウジョウバエのカルシウム過負荷シグナルがミトコンドリアに集中しており、ミトコンドリアがカルシウムイオンを代謝する主な細胞小器官の1つであるため、ミトコンドリアにカルシウム過負荷の現象が発生した。
【0044】
五、TLK RNAiがMC16ショウジョウバエの翅の表現型を明らかにレスキューすることができる
UAS-RNAiショウジョウバエ系統をMC16ショウジョウバエと交配し、雑種第一代ショウジョウバエを使用した。ショウジョウバエが7日間程度になった時点で、ショウジョウバエの翅の表現型を直接観察した。毎回の試験には約100匹のショウジョウバエが使用され、3回繰り返した。
【0045】
図4のように、aは、MC16ショウジョウバエの遺伝子スクリーニングの模式図であり、MC16ショウジョウバエをUAS-RNAiショウジョウバエ系統と交配し、MC16ショウジョウバエの翅の表現型を観察し、TLK RNAiがMC16ショウジョウバエの翅の表現型をレスキューすることができることを見出した。bは、MC16/+及びMC16/TLK RNAiショウジョウバエの翅の正常率であり、それぞれ5~7日間の雄ショウジョウバエ及び雌ショウジョウバエを比較した。MC16/TLK RNAiショウジョウバエの翅の正常率がMC16/+ショウジョウバエよりも高かった。
【0046】
六、TLK RNAi作用の検証
(1)TLK RNAiがMC16ショウジョウバエの筋肉損傷及びミトコンドリアの欠陥をレスキューすることができる
ショウジョウバエ筋肉を2.5%のグルタルアルデヒド(0.1MのPBバッファで希釈)において4℃で4時間固定化した。0.1MのPBバッファで3回洗い流し、毎回10分間とした。続いて標準レジメンに従ってサンプルを調製して結像させ、透過型電子顕微鏡(HT7700)により観察した。
【0047】
図5のように、透過型電子顕微鏡によりMC16カルシウム過負荷ショウジョウバエの筋線維及びミトコンドリアの損傷を観察し、透過型電子顕微鏡の結果により示されたように、正常のMhc-Gal4ショウジョウバエでは、筋線維が長尺緻密状を呈し、ミトコンドリアが円形緻密状を呈するが、MC16カルシウム過負荷ショウジョウバエでは、筋線維が溶けており、ミトコンドリアが空胞状を呈し、MC16カルシウム過負荷ショウジョウバエの筋線維及びミトコンドリアが損傷され、TLK RNAiがMC16ショウジョウバエの筋肉損傷及びミトコンドリアの欠陥をレスキューすることができることが示された。
【0048】
(2)TLK RNAiがTUNEL染色シグナルを明らかに減少させることができる
ショウジョウバエの飛行筋(IFM)をHL3バッファにおいて解剖し、4%のPFAにより室温で15分間固定化し、続いて0.2%のPBSTで3回パンチングし、毎回5分間とした。10g/mLのプロテアーゼK(PBS溶液で希釈)により56℃で10分間インキュベートした。0.2%のPBSTで3回洗い流し、毎回5分間とした。ロシュ(Roche)のTUNEL反応混合液を仕様書に従って配合し、37℃で、暗所で2時間インキュベートした。0.2%のPBSTで3回洗い流し、毎回5分間とした。F-actin粉末をDMSOに溶かして1000倍の原液とし、原液を1:1000でPBSにおいて希釈し、室温で、暗所で1時間染色し、PBSで3回洗い流し、毎回5分間とした。ライカSP8共焦点顕微鏡を利用して画像を得た。
【0049】
MC16カルシウム過負荷ショウジョウバエの筋線維及びミトコンドリアのいずれにも損傷が発生し、これらの損傷は細胞死に繋がる。in situターミナルトランスフェラーゼを介したdUTPニックエンドラベリング技術(TUNEL)及びヨウ化プロピジウム(PI)染色によってそれぞれ細胞アポトーシス及びネクローシスを検出することで、MC16ショウジョウバエの細胞死の方式を決定した。
図6のように、結果により、対照ショウジョウバエには明らかなTUNEL染色シグナルがなく、MC16ショウジョウバエには明らかなTUNELシグナルがあり、TLK RNAiがTUNEL染色シグナルを明らかに減少させ、MC16ショウジョウバエの細胞死をレスキューすることができることが示された。
【0050】
(3)TLK RNAiがカルシウム過負荷によるミトコンドリアの機能欠陥を回復することができる
ショウジョウバエの飛行筋(IFM)をHL3バッファにおいて解剖し、1μMのTMRMで染色し、室温で、暗所で10分間インキュベートした。続いてHL3バッファで3回洗浄し、毎回10分間とした。
【0051】
TMRM(Tetramethylrhodamin)は、生細胞のミトコンドリアを標識する染料であり、よくミトコンドリアの膜電位を測定するために用いられる。
図7において、赤色は、テトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)を表し、Mhc-gal4/+、MC16及びMC16/TLK RNAiショウジョウバエの飛行筋にTMRM蛍光染色を行い、Mhc-gal4/+ショウジョウバエと比べ、MC16ショウジョウバエのTMRM蛍光強度が顕著に低下したが、TLK RNAiがTMRMの蛍光強度を明らかに回復し、カルシウム過負荷によるミトコンドリアの機能欠陥を回復することができた。
【0052】
(4)TLK RNAiがカルシウム過負荷のレベルに影響を与えない
HL3バッファにおいてショウジョウバエの脳又は筋肉を解剖し、且つ室温で5μMのFluo4-AM及び0.02%のPluronic F-127において暗所で30分間インキュベートした。続いてHL3バッファで3回洗浄し、毎回10分間とした。ライカSP8共焦点顕微鏡により結像させ、蛍光強度を測定した。
【0053】
図8のように、Fluo4-AMカルシウムイオン指示薬により染色し、その蛍光強度がカルシウムイオン濃度の上昇につれて増加する。MC16/TLK RNAiショウジョウバエのFluo4-AMの蛍光強度は、MC16/+ショウジョウバエと比べ、統計学的有意差がなく、TLK RNAiがカルシウム過負荷のレベルに影響を与えないことが示された。
【0054】
(5)TLK RNAiがMC16ショウジョウバエにおける上昇したRef(2)Pタンパク質のレベルを低下させることができる
ショウジョウバエの飛行筋を収集し、プロテアーゼ阻害剤及びPMSFが添加されたRIPA溶解液(50mMのTris、150mMのNaCl、1%のTriton X-100、1%のsodium deoxycholate及び0.1%のSDS)において、氷上で30分間溶解した。その後、氷上で、40w 3sec on/3sec offで1分間超音波処理し、4℃で遠心分離機において12000rpmで15分間遠心分離し、上清液を収集し、SDSローディングバッファで希釈し、95℃で5分間煮た。20~30μgのタンパク質をローディングし、80Vの定電圧でゲルを泳動した。ブロモフェノールブルーが底部に流れてから、130mAの定電流で一晩転写し、タンパク質をゲルからPVDF膜に転写した。5%のスキムミルクを室温で1時間ブロッキングし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。適切に希釈した一次抗体を4℃で一晩インキュベートし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。HRP二次抗体を1:10000で希釈し、室温で1時間インキュベートし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。ECL化学発光によりウェスタンブロットを現像させた。
【0055】
リソソームは、細胞内の消化器官であり、細胞内の殆どの物質を分解することができる。オートファジーは、主な細胞質タンパク質の分解経路の1つであり、オートファゴソームは、リソソームと融合してオートファジーリソソームを形成することができる。リソソームの機能が損なわれると、オートファジー過程も影響される。LC3タンパク質複合体は、オートファジーのマーカーであり、オートファジー膜の伸長過程に関与し、GABARAPタンパク質は、LC3タンパク質の機能と類似し、オートファゴソームの成熟に必要なものである。
【0056】
更に、Ref(2)Pは、哺乳動物P62のショウジョウバエ相同体であり、オートファジーの基質として、ユビキチン化タンパク質をオートファゴソームに伝達する。P62の蓄積は、一般的にオートファジー活性の低下を表す。Mhc-gal4/+とMhc-gal4/TLK RNAiショウジョウバエのタンパク質レベルには有意差がなかった。
図9のように、Mhc-gal4/+ショウジョウバエと比べ、MC16/+ショウジョウバエは、Ref(2)Pタンパク質レベルが上昇し、GABARAPレベルが明らかに変化しておらず、オートファゴソームの過程が正常であるが、オートファジーリソソームの機能が低下する可能性があることが示された。重要なのは、TLK RNAiがMC16ショウジョウバエにおける上昇したRef(2)Pタンパク質レベルを低下させることができることである。
【0057】
以上から分かるように、TLK RNAiは、カルシウム過負荷により誘導された細胞死、ミトコンドリア損傷及びオートファジー-リソソームの低下をレスキューすることができ、カルシウム過負荷媒介細胞損傷に対して肝心な分子である。
【0058】
試験テスト2
一、α-synucleinを過剰発現するショウジョウバエの構築
Gaughterless-Gal4(DaGS)プロモーターによりUAS-SNCAの発現を誘導し、このショウジョウバエをDaGS>SNCAと略称する。ミフェプリストン(RU486、Mifepristone)により、DaGS>SNCAショウジョウバエがα-synucleinを全身的に広く発現するように駆動することができる。RU486がショウジョウバエの健康に影響しないため、RU486が投与されたDaGS>SNCAショウジョウバエと投与されていないショウジョウバエを比較した。同様に、Fluo4-AM染色によりカルシウム過負荷のレベルを検出し、結果により、α-synucleinの過剰発現によってショウジョウバエの脳及び筋肉細胞内におけるカルシウムイオンのレベルが増加し、α-synucleinの過剰発現がカルシウム過負荷に繋がることが検証された。
【0059】
二、TLKはα-シヌクレインの堆積による損傷に対して肝心なタンパク質である
ショウジョウバエの全身組織を収集し、プロテアーゼ阻害剤及びPMSFが添加されたRIPA溶解液(50mMのTris、150mMのNaCl、1%のTriton X-100、1%のsodium deoxycholate及び0.1%のSDS)において、氷上で30分間溶解した。その後、氷上で40w 3sec on/3sec offで1分間超音波処理し、4℃で遠心分離機において12000rpmで15分間遠心分離し、上清液を収集し、SDSローディングバッファで希釈し、95℃で5分間煮た。20~30μgのタンパク質をローディングし、80Vの定電圧でゲルを泳動した。ブロモフェノールブルーが底部に流れてから、130mAの定電流で一晩転写し、タンパク質をゲルからPVDF膜に転写した。5%のスキムミルクを室温で1時間ブロッキングし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。適切に希釈した一次抗体を4℃で一晩インキュベートし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。HRP二次抗体を1:10000で希釈し、室温で1時間インキュベートし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。ECL化学発光によりウェスタンブロットを現像させた。毎回の試験には約20匹のショウジョウバエが使用され、3回繰り返して類似した結果が得られた。
【0060】
チロシンヒドロキシラーゼ(TH)は、ドーパミン作動性ニューロンのマーカーであり、THレベルの減少は、一般的にドーパミン作動性ニューロンの死を表す。対照ショウジョウバエと比べ、DaGS>SNCAショウジョウバエは、α-synucleinタンパク質レベルが明らかに上昇し、THタンパク質レベルが明らかに低下した。TLKは、DaGS>SNCAショウジョウバエにおけるα-synucleinタンパク質のレベルを低下させ、一部のTHタンパク質レベルを回復することができた。TLK RNAiがα-synucleinを過剰発現したショウジョウバエに対しても保護作用を有することが説明された。
【0061】
三、TLKがα-synuclein過剰発現又はカルシウム過負荷により誘導された細胞死において肝心な役割を果たす
ショウジョウバエの脳組織をHL3バッファにおいて解剖し、1μMのTMRMで染色し、室温で、暗所で10分間インキュベートした。続いてHL3バッファで3回洗浄し、毎回10分間とした。
【0062】
図11のように、赤色は、テトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)を表し、TMRMを通じてミトコンドリアの膜電位を測定し、対照ショウジョウバエと比べ、DaGS>SNCAショウジョウバエのTMRM蛍光強度が顕著に低下したが、TLK RNAiがTMRMの蛍光強度を明らかに回復することができた。TLK RNAiがDaGS>SNCAショウジョウバエにおけるミトコンドリアの機能欠陥を回復することができることが検証され、TLKがα-synuclein過剰発現又はカルシウム過負荷により誘導された細胞死において肝心な役割を果たすことが説明された。
【0063】
四、TLK RNAiがショウジョウバエカルシウム過負荷又はα-synuclein過剰発現によるオートファジー-リソソームの機能障害をレスキューすることができる
ショウジョウバエの全身組織を収集し、プロテアーゼ阻害剤及びPMSFが添加されたRIPA溶解液(50mMのTris、150mMのNaCl、1%のTriton X-100、1%のsodium deoxycholate及び0.1%のSDS)において、氷上で30分間溶解した。その後、氷上で40w 3sec on/3sec offで1分間超音波処理し、4℃で遠心分離機において12000rpmで15分間遠心分離し、上清液を収集し、SDSローディングバッファで希釈し、95℃で5分間煮た。20~30μgのタンパク質をローディングし、80Vの定電圧でゲルを泳動した。ブロモフェノールブルーが底部に流れてから、130mAの定電流で一晩転写し、タンパク質をゲルからPVDF膜に転写した。5%のスキムミルクを室温で1時間ブロッキングし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。適切に希釈した一次抗体を4℃で一晩インキュベートし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。HRP二次抗体を1:10000で希釈し、室温で1時間インキュベートし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。ECL化学発光によりウェスタンブロットを現像させた。
【0064】
正常対照ショウジョウバエと比べ、RU486が投与されたDaGS>SNCAショウジョウバエは、GABARAPレベルが明らかに変化しておらず、Ref(2)Pタンパク質レベルが上昇したが、TLK RNAiがα-synuclein過剰発現ショウジョウバエにおいて上昇したRef(2)Pタンパク質レベルを低下させることができた。
【0065】
試験テスト3 TLK2のカルシウム過負荷損傷に対する媒介作用
(一)TLK2遺伝子ノックアウトによりオートファジーを活性化することができる
Hela細胞を10%のウシ胎児血清、1%のストレプトマイシン及びペニシリンが添加されたDMEM培地において培養した。5万個程度の細胞を共焦点培養皿に播種し、細胞密度が50%~70%の間になると、1mLの培地にLC3-mRFP-GFPアデノウイルス(漢恒生物)を添加し、MOI=10の標準に従う量のアデノウイルスを加えた。6~8時間トランスフェクトした後、培地を交換し、更に24時間培養した後、ライカSP8共焦点顕微鏡により生細胞を結像させた。
【0066】
TLK2 KOのオートファジーに対する影響を検出し、通常のオートファジーフラックスの評価方法は、LC3-mRFP-GFPアデノウイルスを利用してオートファゴソーム及びオートファジーリソソームを標識することである。リソソーム内の低pH値によってLC3-mRFP-GFPアデノウイルス中のGFP蛍光シグナルを消光させることができ、逆に、RFPが酸性pHでより安定的な蛍光シグナルを示す。オートファジーフラックスが妨げられていなければ、黄色及び赤色の斑点がいずれも増加し、それぞれオートファゴソーム及びオートファジーリソソームの数の増加を表す。
図13において、LC3-mRFP-GFPアデノウイルスをトランスフェクトしてから48時間後、Hela WT及びTLK2 KOの生細胞を結像させた。黄色の斑点がオートファゴソームを表し、赤色の斑点がオートファジーリソソームを表す。野生型細胞と比べ、TLK2 KO細胞における黄色及び赤色の斑点がいずれも増加し、即ちTLK2 KOによってオートファゴソーム及びオートファジーリソソームの数が増加した。
【0067】
(二)TLK2 KO細胞におけるオートファジー状況の分析
Hela細胞を収集し、プロテアーゼ阻害剤及びPMSFが添加されたRIPA溶解液(50mMのTris、150mMのNaCl、1%のTriton X-100、1%のsodium deoxycholate及び0.1%のSDS)において、氷上で30分間溶解した。その後、氷上で40w 3sec on/3sec offで1分間超音波処理し、4℃で遠心分離機において12000rpmで15分間遠心分離し、上清液を収集し、SDSローディングバッファで希釈し、95℃で5分間煮た。20~30μgのタンパク質をローディングし、80Vの定電圧でゲルを泳動した。ブロモフェノールブルーが底部に流れてから、130mAの定電流で一晩転写し、タンパク質をゲルからPVDF膜に転写した。5%のスキムミルクを室温で1時間ブロッキングし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。適切に希釈した一次抗体を4℃で一晩インキュベートし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。HRP二次抗体を1:10000で希釈し、室温で1時間インキュベートし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。ECL化学発光によりウェスタンブロットを現像させた。
【0068】
TLK2 KO細胞において、LC3-II/LC3-Iの値が増加し、P62タンパク質レベルが低下した(
図14)。TLK2 KOによりオートファジーを活性化することができることが説明された。オートファジーは動的過程であり、より正確な方法は、オートファジーフラックスの過程を検出することで、オートファジーのレベルを評価することである。薬物でオートファジー経路を活性化又は遮断することにより、オートファジーフラックスが妨げられているか否かを評価することができる。
【0069】
ラパマイシン(Rapa)によりオートファジーを活性化し、バフィロマイシンA1(Baf A1)によりオートファジーを阻害する。ラパマイシン(Rapa、40nM)及びバフィロマイシンA1(BafA1、100nM)によりそれぞれ細胞を6時間処理した。Western blot結果により示されたように、野生型Hela細胞において、Rapa処理によって、LC3-II/LC3-Iの値が上昇し、P62タンパク質レベルが低下し、Baf A1処理によって、LC3-II/LC3-Iの値及びP62タンパク質レベルが上昇した。TLK2 KO細胞において、Rapa処理よってP62タンパク質レベルを更に低下させることができ、Baf A1処理によってTLK2 KOで活性化されたオートファジーを遮断した。TLK2 KO細胞において、オートファジーフラックスが妨げられていないことが説明された。
【0070】
(三)TLK2阻害剤がα-シヌクレイン過剰発現のオートファジーに対する阻害作用を改善することができる
SKN細胞を収集し、プロテアーゼ阻害剤及びPMSFが添加されたRIPA溶解液(50mMのTris、150mMのNaCl、1%のTriton X-100、1%のsodium deoxycholate及び0.1%のSDS)において、氷上で30分間溶解した。その後、氷上で40w 3sec on/3sec offで1分間超音波処理し、4℃で遠心分離機において12000rpmで15分間遠心分離し、上清液を収集し、SDSローディングバッファで希釈し、95℃で5分間煮た。20~30μgのタンパク質をローディングし、80Vの定電圧でゲルを泳動した。ブロモフェノールブルーが底部に流れてから、130mAの定電流で一晩転写し、タンパク質をゲルからPVDF膜に転写した。5%のスキムミルクを室温で1時間ブロッキングし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。適切に希釈した一次抗体を4℃で一晩インキュベートし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。HRP二次抗体を1:10000で希釈し、室温で1時間インキュベートし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。ECL化学発光によりウェスタンブロットを現像させた。
【0071】
図15のように、神経芽細胞腫(SKN-SH)細胞においてα-synucleinのレンチウイルスを過剰発現し、正常対照細胞と比べ、α-synucleinを過剰発現した細胞のLC3-IIレベルが低く、P62レベルが高く、α-synucleinの過剰発現によってオートファジー機能を低下させたことが示された。既知のTLK2キナーゼ阻害剤(Pimozide又はPMZ)が加えられた場合、LC3-IIタンパク質レベルをアップレギュレートし、P62タンパク質レベルをダウンレギュレートすることができる。
【0072】
(四)TLK2キナーゼ阻害剤が、ダウン発現TLKに類似し、α-synuclein過剰発現によるオートファジー-リソソームの欠陥をレスキューすることができる
SKN細胞をPBSで3回洗浄し、1μMのLysoTrackerを加え、室温で、暗所で10分間インキュベートした。続いて再びPBSバッファで3回洗浄し、毎回10分間とした。ライカSP8共焦点顕微鏡により画像を取得した。
【0073】
図17のように、赤色は、LysoTrackerシグナルを表し、神経芽細胞腫(SKN-SH)細胞においてα-synucleinのレンチウイルスを48時間過剰発現し、正常対照細胞と比べ、α-synucleinを過剰発現した細胞のLysoTrackerシグナルが低下したが、PMZがLysoTrackerシグナルを回復することができた。TLK2キナーゼ阻害剤は、ダウン発現TLKに類似し、α-synuclein過剰発現によるオートファジー-リソソームの欠陥をレスキューすることができ、PMZは、α-シヌクレイン過剰発現によって低下したオートファジーレベルを回復することができることが示された。これらの結果により、α-シヌクレイン過剰発現又はカルシウム過負荷の状況で、TLK2が活性化される可能性があり、オートファジー-リソソームの機能低下を招いたことが示唆された。従って、TLK2をノックアウトした場合又はTLK2キナーゼ阻害剤が加えられた場合、オートファジー-リソソームの機能を活性化することができる。
【0074】
(五)カルシウム過負荷によるTLK2過剰リン酸化、そのキナーゼ活性の活性化
TLK2 cDNAをGSTタグ付きPGEX-6P-1ベクターにクローニングし、組換えプラスミドをBL21化学的コンピテントセルにおいて発現し、誘導条件としては、0.5mMのIPTGにより、20℃で、180rpmで20時間発現を誘導する。GST-TLK2は、碧云天GSTタグ付きタンパク質精製キットの標準手順に従って精製された。17μMのionomycinでHela細胞を3時間処理し、細胞密度が70%に達した時、細胞を収集した。溶解バッファ(10mMのTris、150mMのNaCl、2mMのEDTA、0.5%のTriton X-100)において溶解した。4℃で、12000rpmで15分間遠心分離し、上清を収集した。3μgのGST-TLK2精製タンパク質と200μgの細胞溶解液を混合し、4℃で一晩垂直に振盪した。その後、Glutathione Sepharose 4Bビーズを加え、室温で1時間回転し続けた。WB及びIP溶解液で6回洗浄し、毎回4℃で遠心分離機において2000rpmで5分間遠心分離した。SDSローディングバッファで希釈し、95℃で5分間煮るか、又はTLK2タンパク質をPreScission Proteaseにより4℃で一晩切断する。最終結果はクマシー染色により得られた。
【0075】
図18のように、カルシウム過負荷時にTLK2が活性化されたか否かを検出するために、GST-TLK2プラスミドを構築し、且つGST pull downによりTLK2タンパク質を精製した。精製されたTLK2タンパク質をイオノマイシン(ionomycin)により処理された細胞溶解液(カルシウム過負荷を誘導)又は正常細胞溶解液と共にインキュベートした。クマシーブリリアントブルー染色により、GST-TLK2をイオノマイシンにより処理された細胞溶解液と共にインキュベートした後、タンパク質バンドがシフトアップしたことを見出し、TLK2タンパク質が修飾されている可能性があることが示された。イオノマイシンにより処理されたTLK2 KO細胞溶解液と共にインキュベートした後にも、類似する変化が発生した。
【0076】
(六)イオノマイシンにより処理された後、正常細胞溶解液及びTLK2 KO細胞溶解液がいずれもTLK2のリン酸化を増加させることができる
TLK2 cDNAをGSTタグ付きPGEX-6P-1ベクターにクローニングし、組換えプラスミドをBL21化学的コンピテントセルにおいて発現し、誘導条件としては、0.5mMのIPTGにより、20℃で、180rpmで20時間発現を誘導する。GST-TLK2は、碧云天GSTタグ付きタンパク質精製キットの標準手順に従って精製された。17μMのionomycinでHela細胞を3時間処理し、細胞密度が70%に達した時、細胞を収集した。溶解バッファ(10mMのTris、150mMのNaCl、2mMのEDTA、0.5%のTriton X-100)において溶解した。4℃で、12000rpmで15分間遠心分離し、上清を収集した。3μgのGST-TLK2精製タンパク質と200μgの細胞溶解液を混合し、4℃で一晩垂直に振盪した。その後、Glutathione Sepharose 4Bビーズを加え、室温で1時間回転し続けた。WB及びIP溶解液で6回洗浄し、毎回4℃で遠心分離機において2000rpmで5分間遠心分離した。SDSローディングバッファで希釈し、95℃で5分間煮るか、又はTLK2タンパク質をPreScission Proteaseにより4℃で一晩切断する。最終結果はphos-tag SDS-PAGEにより得られた。
【0077】
図19のように、phos-tag SDS-PAGE方法により、更にGST-TLK2タンパク質バンドのシフトアップがリン酸化修飾によるものであるか否かを検出した。Phos-tagは、リン酸イオンと特異的に結合できる機能性分子であり、リン酸化タンパク質の分離に使用可能である。正常のウェスタンブロットには、Mn
2+及びPhos-tagを加えれば、非リン酸タンパク質化抗体で検出することができる。Phos-tag SDS-PAGEでは、非リン酸化タンパク質の移動速度が速く、リン酸化タンパク質の移動速度が遅くなる。移動度の変化により、リン酸化タンパク質の含有量を分析することができる。精製されたTLK2タンパク質とイオノマイシンにより処理された細胞溶解液(カルシウム過負荷を誘導)又は正常細胞溶解液をインキュベートした。結果により、イオノマイシンにより処理された後、正常細胞溶解液及びTLK2 KO細胞溶解液がいずれもTLK2のリン酸化を増加させることができることが示された。
【0078】
(七)カルシウム過負荷がTLK2のリン酸化を増加させることができる
TLK2 cDNAをGSTタグ付きPGEX-6P-1ベクターにクローニングし、組換えプラスミドをBL21化学的コンピテントセルにおいて発現し、誘導条件としては、0.5mMのIPTGにより、20℃で、180rpmで20時間発現を誘導する。GST-TLK2は、碧云天GSTタグ付きタンパク質精製キットの標準手順に従って精製された。17μMのionomycinでHela細胞を3時間処理し、細胞密度が70%に達した時、細胞を収集した。溶解バッファ(10mMのTris、150mMのNaCl、2mMのEDTA、0.5%のTriton X-100)において溶解した。4℃で、12000rpmで15分間遠心分離し、上清を収集した。3μgのGST-TLK2精製タンパク質と200μgの細胞溶解液を混合し、4℃で一晩垂直に振盪した。その後、Glutathione Sepharose 4Bビーズを加え、室温で1時間回転し続けた。WB及びIP溶解液で6回洗浄し、毎回4℃で遠心分離機において2000rpmで5分間遠心分離した。SDSローディングバッファで希釈し、95℃で5分間煮るか、又はTLK2タンパク質をPreScission Proteaseにより4℃で一晩切断する。最終結果は質量分析により得られた。
【0079】
質量分析によりTLK2の全てのセリン/トレオニンのリン酸化部位を同定した。正常の場合(イオノマイシンにより処理されていない)、12個の部位がリン酸化され、対照グループとイオノマイシン処理グループには、合計で10個の同じリン酸化部位(S102、S114、S116、S133、T160、S222、S329、S375、S392及びS449)があり、対照グループには、2つの独特のリン酸化部位(S225及びS376)がある。対照グループと比べ、イオノマイシン処理グループには、15個のリン酸化部位(S25、S72、S109、S110、T207、S209、T212、S217、S277、T299、T300、T366、S616、S751及びS752)が多く含まれ、2つのリン酸化部位(S225及びS376)が少なく含まれる(表3を参照)、カルシウム過負荷がTLK2のリン酸化を増加させることができることが示された。
【0080】
【0081】
(八)カルシウム過負荷がTLK2のリン酸化を増加させることでTLK2を活性化することができる
50μLの反応体系に1μLのATP(0.2mM)、1μgのTLK2精製タンパク質及び20μgの基質を加え、残りの容量がキナーゼバッファ(10mMのTris pH 7.5、50mMのKCl、10mMのMgCl2、1mMのDTT)で満たされ、室温で15分間反応させた。MBPタンパク質を陽性対照基質とし、PGK1タンパク質を陰性対照基質とした。50ulの超強力型の化学発光法によるキナーゼ検出試薬Kinase-LumiTMを加え、均一に混合し、室温で、暗所で10分間反応させた。続いて多機能マイクロプレートリーダーにより化学発光検出を行った。
【0082】
インビトロキナーゼアッセイによりTLK2キナーゼの活性を検証した。インビトロキナーゼアッセイでは、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)は、複数種のキナーゼの基質とすることができ、TLK2(No TLK2)が加えられていないタンパク質を対照とし、正常処理グループ(TLK2+Control)及びイオノマイシン処理グループ(TLK2+Ionomycin)では、同じ量のTLK2タンパク質と同じ量のMBPタンパク質を反応させた。減少したATPレベルによりTLK2キナーゼの活性を反映する。正常対照と比べ、正常処理グループ及びイオノマイシン処理グループはいずれもATPを消費する。正常処理グループと比べ、イオノマイシン処理グループは、より多くのATPを消費することができる。カルシウム過負荷がTLK2キナーゼ活性を増加させることができることが示された。以上の結果により、カルシウム過負荷がTLK2のリン酸化を増加させることでTLK2を活性化することができることが示された。
【0083】
試験テスト4
一、TLK2遺伝子ノックアウトによりカルシウム過負荷をレスキューできるモデルマウスの構築
グルタミン酸受容体1 Lurcher突然変異体(GluR1Lc)は、構成的に開放したカチオンチャネルを形成することができる。GluR1Lcを条件的に発現するトランスジェニックマウス(GluR1Lc m/m、「m」はGluR1Lcを表す)を構築した。ドキシサイクリン(dox)により誘導されたプロモーター(rtTA)と交配した後、GluR1Lc m/+;rtTA+/-マウスは、ドキシサイクリンを提供する時にGluR1Lcを全身的に広く発現することができる。マウスの飲み水に正常濃度(2mg/mL)のドキシサイクリンを提供すれば、1日内にマウスの死を誘導できるが、ドキシサイクリンを200倍(0.01mg/mL)希釈した後、GluR1Lcマウスが3日間以上生存できることを見出した。従って、マウスの飲み水に0.01mg/mLのドキシサイクリンを提供してGluR1Lcの発現を徐々に誘導した。また、条件的TLK2ノックアウトマウス(TLK2flox/flox;UBC-CreERT2/+)をも構築した。GluR1Lcを条件的に発現するトランスジェニックマウスと条件的TLK2ノックアウトマウスを交配し、必要とされる遺伝子型(GluR1Lc m/+;rtTA+/-;TLK2flox/-;UBC-CreERT2/+)が得られた。
【0084】
全てのマウスが首都医科大学動物センターで飼育されていた。動物実験は、首都医科大学動物論理委員会に承認された(承認番号:AEEI-2015-156)。GluR1Lcマウスは、上海南方模式生物科学技術有限会社から購入された。本プロジェクトは、相同組換えの原理を利用し、ES細胞ターゲティングの手段を採用し、Rosa26(ENSMUSG00000086429)の遺伝子部位にSA-polyA-Insulator-Insulator-TRE-miniCMVpromoter-Gria1(Mut)-wpre-pA-Insulator-Insulator-FRT-PGK-Neo-pA-FRT発現カセットを部位特異的に挿入した。
【0085】
簡単な過程は以下の通りである。In-Fusion cloningの方法によりES細胞ターゲティングベクターを構築し、当該ベクターは、3.3kb 5’相同アーム、SA-polyA-Insulator-Insulator-TRE-miniCMVpromoter-Gria1(Mut)-wpre-pA-Insulator -Insulator-FRT-PGK-Neo-pA-FRT、3.2kb 3’相同アーム及びMC1-TK-polyAネガティブセレクション標識を含む。当該ベクターに対して線形化を行った後、電気的形質移入法によりC57BL/6 ES細胞をトランスフェクトした。G418及びGanc薬物によりスクリーニングした後、合計で144個の耐性ES細胞クローンを得た。ロングフラグメントPCRにより同定したところ、合計で9個の相同組換えが正確になされた陽性クローンを得た。陽性ES細胞クローンを増幅した後、C57BL/6Jマウスの胞胚内に注射し、キメラマウスを得た。高割合のキメラマウスとflpマウスを交配してflp遺伝子が陽性であるF1世代の陽性脱Neoマウスを3匹得た。GluR1Lc m/m(ENSG00000155511)トランスジェニックマウスとrtTA+/+マウスを交配し、マウスが8~10週齢程度になった時、飲み水にドキシサイクリンを加えてGluR1Lcの発現を誘導した。
【0086】
試験設計は、
図21の通りであり、8~10週齢のマウスにタモキシフェン(コーン油を対照とする)を5日間連続的に腹腔内注射することで、TLK2ノックアウトを誘導した。1ヶ月後、飲み水にドキシサイクリン(0.01mg/mL)を加えることでGluR1
Lcの発現を誘導し、カルシウム過負荷の発生を誘導した。
【0087】
TLK2遺伝子ノックアウトマウスは、上海南方模式生物科学技術有限会社から購入された。TLK2遺伝子(ENSG00000146872)の削除は、Cre-loxシステムを採用して行われる。相同組換えの原理を利用し、胚細胞を用いた相同組換えの手段を採用し、TLK2遺伝子にflox修飾を行った。簡単な過程は以下の通りである。インビトロ転写により、Cas9 mRNA及びgRNAを得て、In-Fusion cloningの方法により相同組換えベクター(donor vector)を構築し、当該ベクターは、2kb 5’相同アーム、0.7kb flox領域及び2.8kb 3’相同アームを含む。Cas9 mRNA、gRNA及びdonor vectorをC57BL/6Jマウスの胚細胞に微量注射し、F0世代のマウスを得た。ロングフラグメントPCRにより同定したところ、合計で1匹の相同組換えが正確になされたF0世代のマウスを得た。F0世代のマウスとC57BL/6Jマウスを交配して4匹の陽性のF1世代のマウスを得た。TLK2flox/floxマウスには、エクソン4を標的としたCRISPR-Cas9技術が採用された。それをUBC-CreERT2/+マウスとペアリングした後、マウスが8~10週齢程度になった時、タモキシフェン(75mg/kg)を1日に1回腹腔内注射し始め、連続的に5日間注射し、全身組織のTLK2遺伝子のノックアウトを招いた。
【0088】
図21のように、8~10週齢のGluR1
Lcm/+;rtTA
+/-;TLK2
flox/-;UBC-Cre
ERT2/+マウスに、タモキシフェン(コーン油を対照とする)を連続的に5日間腹腔内注射することで、TLK2ノックアウトを誘導した。1ヶ月後、飲み水にドキシサイクリン(0.01mg/mL)を加えてマウスが死亡するまでGluR1
Lcの発現を誘導した。
【0089】
TLK2 KOがなくGluR1
Lcのみを発現するマウスは、ドキシサイクリンにより処理されてから3日後に死亡し始めたが、ヘテロ接合体TLK2 KOのあるGluR1
Lcマウスは、生存時間がより長い(
図21)ことが分かり、TLK2 KOによりカルシウム過負荷マウスの寿命を延長することができることが示された。
【0090】
二、TLK2 KOによりカルシウム過負荷マウスの寿命を延長することができる
ペントバルビタールナトリウム(80mg/kg)でマウスを麻酔してから、マウスの腹部と胸腔を解剖し、注射器を左心室に挿入し、右心耳を切断し、肝臓が完全に白くなるまで0.9%の生理食塩水で迅速に灌流し、組織を固定化するように、4%のパラホルムアルデヒド(PFA)で徐々に灌流した。脳組織を取り出して4%のPFAに入れて一晩静置し、続いて10%、20%及び30%の勾配のショ糖で脱水した。その後、OCTで包み、-80℃の冷蔵庫で冷凍した。凍結ミクロトームにより脳組織を厚み10μmの冠状切片に切断した。脳組織切片を4%のPFAに入れて室温で15分間固定化し、続いて0.2%のPBST(PBSは0.2%のTriton X-100を含む)で3回パンチングし、毎回5分間とし、続いて5%のBSAにより室温で30分間ブロッキングした。ブロッキング溶液で一次抗体を適切な濃度に希釈し、4℃で一晩インキュベートした。PBSで3回洗浄し、毎回5分間とした。二次抗体を1:200で希釈し、室温で、暗所で1時間インキュベートし、PBSで3回洗浄し、毎回5分間とした。DAPI希釈液で5分間染色し、PBSで3回洗浄し、毎回5分間とした。ライカSP8共焦点顕微鏡により画像を取得した。
【0091】
図22のように、ドキシサイクリンにより誘導されていないControlマウスのうち、死亡したマウスがいなく、ドキシサイクリンのみにより誘導されてタモキシフェンにより誘導されていないGluR1マウスは、3日目から死亡し始め、最も長くて6日間生存でき、ドキシサイクリンとタモキシフェンの両方により誘導されたGluR1+ TLK2 CKOマウスは、4日目から死亡し始め、最も長くて9日間生存できた。
【0092】
図23のように、赤色は、TH陽性ニューロンを表し、青色は、細胞核(DAPI)を表す。免疫蛍光染色の結果により、GluR1マウスのTH陽性ニューロンの数が減少し、TLK2 CKOによりTH陽性ニューロンの数を部分的に回復することができることが示された。
【0093】
三、TLK2 KOのカルシウム過負荷マウスモデルにおける保護作用
マウスの脳組織をプロテアーゼ阻害剤及びPMSFが添加されたRIPA溶解液(50mMのTris、150mMのNaCl、1%のTriton X-100、1%のsodium deoxycholate及び0.1%のSDS)においてホモジネートし、氷上で30分間溶解した。その後、氷上で40w 3 sec on/3 sec offで1分間超音波処理し、4℃で遠心分離機において12000rpmで15分間遠心分離し、上清液を収集し、SDSローディングバッファで希釈し、95℃で5分間煮た。20~30μgのタンパク質をローディングし、80Vの定電圧でゲルを泳動した。ブロモフェノールブルーが底部に流れてから、130mAの定電流で一晩転写し、タンパク質をゲルからPVDF膜に転写した。5%のスキムミルクを室温で1時間ブロッキングし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。適切に希釈した一次抗体を4℃で一晩インキュベートし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。HRP二次抗体を1:10000で希釈し、室温で1時間インキュベートし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。ECL化学発光によりウェスタンブロットを現像させた。
【0094】
図24のように、Western blotの結果により、カルシウム過負荷マウスのTHタンパク質レベル及びTH陽性ニューロンの数がいずれも低下したが、TLK2 KOによりTHのタンパク質レベル及びTH陽性ニューロンの数を部分的に回復することができ、カルシウム過負荷ショウジョウバエと類似するように、GluR1LcマウスのP62タンパク質レベルも上昇し、LC3-II/Iの値が明らかに変化しておらず、TLK2 KOにより上昇したP62タンパク質レベルを低下させることができることが分かった。
【0095】
四、TLK2遺伝子ノックアウトによりα-シヌクレイン過剰発現モデルマウスをレスキューすることができる
8~10週齢程度のC57BL/6雄マウスを、ペントバルビタールナトリウム(80mg/kg)で麻酔してから、マウス脳定位固定装置に対称的に固定した。AAV9-CMV-h-α-synuclein(漢恒生物)ウイルスを右側黒質部位に注射した(AP:-3.0mm;ML:-1.3mm;DV:-4.5mm)。10μLのHamilton注射器により0.1μL/minの速度で1μLのAAV9-CMV-h-α-synuclein(1.5×1012vg/mL)ウイルス又はPBSを注射した。注射後に針を5分間保持した後、徐々に針を抜き出した。手術後に、マウスを電気毛布に置いて回復した。
【0096】
図25のように、8~10週齢のホモ接合型TLK2 KOマウス(TLK2
flox/flox;UBC-Cre
ERT2/+)にタモキシフェン(コーン油を対照とする)を連続的に5日間腹腔内注射し、1週間後に、マウスの右側黒質緻密部(SNc)にAAV9-CMV-human-α-synucleinウイルス又はPBSを注射し、1ヶ月後に、マウスに行動検出を行ってから殺処分した。
【0097】
五、TLK2 KOマウスがα-synuclein過剰発現マウスの行動異常を回復することができる
オープンフィールド試験では、マウスを飼育箱に置いて実験室の環境に約30分間適応させ、続いて、マウスを50×50×50cmのフィールドに置いた。1分間適応させた後、マウスにオープンフィールドにおいて5分間探索させ続けた。SMART 3.0ソフトウェア(RWD、china)により5分間の自由探索を記録した後、マウスを飼育箱に戻し、70%のエタノールでフィールドを清潔にした。
【0098】
ロータロッド試験では、マウスを飼育箱に置いて実験室の環境に約30分間適応させ、続いて回転数が5~45rpm/minの加速回転ロッドに置き、最も長くて5分間持続した。毎日2回、連続的に3日間試験し、マウスがロータロッドから落ちた時間を記録し、且つ3日目の最後の2回の試験に対して運動能力分析を行った。
【0099】
図26のように、左の図がロータロッド実験結果であり、真ん中及び右の図がオープンフィールド実験結果である。ロータロッド実験では、control(PBS注射グループ)、AAV-syn(α-synucleinウイルス注射グループ)及びAAV-syn-TLK2 CKO(TLK2 CKOマウスにα-synucleinウイルスを注射したグループ)マウスがロータロッドから落ちた時間を比較した。オープンフィールド実験では、control(PBS注射グループ)、AAV-syn(α-synucleinウイルス注射グループ)及びAAV-syn-TLK2 CKO(TLK2 CKOマウスにα-synucleinウイルスを注射したグループ)マウスが5分間自由移動した総距離及び平均速度を比較した。PBSが注射された対照グループと比べ、α-synuclein過剰発現マウスの行動のパフォーマンスが悪かった。TLK2 KOマウスがα-synuclein過剰発現マウスの行動異常を回復することができた。
【0100】
六、TLK2 KOによりこれらの欠陥を軽減することができる
マウス脳組織をプロテアーゼ阻害剤及びPMSFが添加されたRIPA溶解液(50mMのTris、150mMのNaCl、1%のTriton X-100、1%のsodium deoxycholate及び0.1%のSDS)においてホモジネートし、氷上で30分間溶解した。その後、氷上で40w 3 sec on/3 sec offで1分間超音波処理し、4℃で遠心分離機において12000rpmで15分間遠心分離し、上清液を収集し、SDSローディングバッファで希釈し、95℃で5分間煮た。20~30μgのタンパク質をローディングし、80Vの定電圧でゲルを泳動した。ブロモフェノールブルーが底部に流れてから、130mAの定電流で一晩転写し、タンパク質をゲルからPVDF膜に転写した。5%のスキムミルクを室温で1時間ブロッキングし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。適切に希釈した一次抗体を4℃で一晩インキュベートし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。HRP二次抗体を1:10000で希釈し、室温で1時間インキュベートし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。ECL化学発光によりウェスタンブロットを現像させた。
【0101】
図27のように、Western blot結果により、左脳(対照グループ)と比べ、右脳のTHタンパク質レベルが低下し、且つα-synucleinタンパク質レベルが上昇したが、TLK2 KOによりα-synuclein過剰発現マウスにおける減少したTHタンパク質レベルを回復し、上昇したα-synucleinタンパク質レベルを低下させることができ、更に、α-synuclein過剰発現マウスのP62タンパク質レベルも上昇し、LC3-II/Iの値が明らかに変化していなかったが、TLK2 KOにより上昇したP62タンパク質レベルを低下させることができ、TLK2遺伝子ノックアウトによりα-シヌクレイン過剰発現によるオートファジーの低下を改善することができることが分かった。
【0102】
七、TLK2 KOによりα-synuclein過剰発現によるTH陽性ニューロンの数の減少をレスキューすることができる
ペントバルビタールナトリウム(80mg/kg)でマウスを麻酔してから、マウスの腹部と胸腔を解剖し、注射器を左心室に挿入し、右心耳を切断し、肝臓が完全に白くなるまで0.9%の生理食塩水で迅速に灌流し、組織を固定化するように、4%のパラホルムアルデヒド(PFA)で徐々に灌流した。脳組織を取り出して4%のPFAに入れて一晩静置し、続いて10%、20%及び30%の勾配のショ糖で脱水した。その後、OCTで包み、-80℃の冷蔵庫で冷凍した。凍結ミクロトームにより脳組織を厚み10μmの冠状切片に切断した。
【0103】
脳組織切片を4%のPFAに入れて室温で15分間固定化し、続いて0.2%のPBST(PBSは0.2%のTriton X-100を含む)で3回パンチングし、毎回5分間とし、続いて5%のBSAにより室温で30分間ブロッキングした。ブロッキング溶液で一次抗体を適切な濃度に希釈し、4℃で一晩インキュベートした。PBSで3回洗浄し、毎回5分間とした。二次抗体を1:200で希釈し、室温で、暗所で1時間インキュベートし、PBSで3回洗浄し、毎回5分間とした。DAPI希釈液で5分間染色し、PBSで3回洗浄し、毎回5分間とした。ライカSP8共焦点顕微鏡により画像を取得した。
【0104】
図28のように、赤色は、TH陽性ニューロンを表し、緑色は、α-synucleinを表し、青色は、細胞核(DAPI)を表す。左の白色破線ボックスを更に拡大したものは、右側の画像となる。マウス脳の冠状切片の免疫蛍光染色により、病変側のα-synucleinの堆積が増加し、TH陽性ニューロンの数が減少したが、TLK2 KOによりα-synuclein過剰発現によるTH陽性ニューロンの数の減少をレスキューすることができることが分かった。
【0105】
八、TLK2がこれらの病理学的条件下で活性化される
マウス脳組織をプロテアーゼ阻害剤、PMSF及びホスファターゼ阻害剤が添加されたRIPA溶解液において迅速にホモジネートし、氷上で30分間溶解した。4℃で、12000rpmで15分間遠心分離し、上清を収集し、一部の上清液をアルカリホスファターゼにより処理し、SDSローディングバッファで希釈し、95℃で5分間煮た。8%のSDS-PAGEゲルに40μmol/LのMnCl2及び20μmol/Lのphos-tagを加えた。電気泳動後、5mMのEDTAを含有する転写バッファでゲルを20分間/回で2回洗浄することにより、二価カチオンを除去した。更に、正常の転写バッファで10分間洗い流した。続いてタンパク質をゲルからPVDF膜に転写した。残りのステップは、正常のwestern blotの手順と同じである。
【0106】
図29のように、α-シヌクレイン過剰発現及びカルシウム過負荷の病理学的条件下で、TLK2に過剰リン酸化が発生した。phos-tag SDS-PAGE方法によりTLK2のリン酸化を検出した。アルカリホスファターゼ(ALP)によりセリン、トレオニン及びチロシン残基に脱リン酸化処理を行った。GluR1Lc及びα-synuclein過剰発現マウスの脳においてTLK2リン酸化が増加したことを検出した。これは、TLK2がこれらの病理学的条件下で活性化されたことが示された。
【0107】
九、TLK2遺伝子ノックアウトにより緑内障をレスキューできる細胞モデル及び動物モデル
PBSでRGC-5細胞を3回洗浄し、室温で5μMのFluo4-AM及び0.02%のPluronic F-127において暗所で30分間インキュベートした。続いてPBSで3回洗浄し、毎回10分間とした。ライカSP8共焦点顕微鏡により結像させて蛍光強度を測定した。
【0108】
緑内障に関連する複数のタイプの細胞には全てカルシウム過負荷現象が発生し、これは、高眼圧によって血液の流動が妨げられ、細胞中の酸素が不足するからである。細胞中の酸素不足がミトコンドリアの機能低下に繋がり、細胞のATPレベルを維持できず、カルシウム過負荷を招く。
【0109】
図30のように、低酸素条件下でヒト網膜の上皮細胞にカルシウム過負荷が発生した。1%の酸素ガスで24時間飼育した後、細胞内の相対カルシウムイオン濃度がFluo-4AM蛍光強度により指示されることができる。低酸素によってカルシウム過負荷が招かれた。TLK2遺伝子ノックアウト細胞において、低酸素により誘導された細胞死(LDH assayで測定)が阻害されることができる。
【0110】
細胞の大きさ及び成長速度に応じて、検出時に細胞密度が80~90%を超えないように、適量の細胞を96ウェルの細胞培養プレートに接種した。培養液を吸い取り、PBS液で1回洗浄した。新鮮な培養液(1%の血清を含む低血清培養液又は適切な無血清培養液の使用が薦められる)に交換し、各培養ウェルを、細胞のない培養液ウェル(バックグラウンドブランク対照ウェル)、薬物処理されていない対照細胞ウェル(サンプル対照ウェル)、薬物処理されていない後続の溶解に用いられる細胞ウェル(サンプル最大酵素活性対照ウェル)、及び薬物処理された細胞ウェル(薬物処理サンプルウェル)といったグループに分けて標識した。
【0111】
実験の必要に応じて適切な薬物処理を施し(例えば、0~10μL程度の特定の薬物刺激を与え、異なる濃度、異なる処理時間を設定することができ、対照ウェルに対照のために適切な薬物溶剤を加える必要がある)、通常のように培養し続けた。所定の検出時点の前の1時間、細胞インキュベータから細胞培養プレートを取り出し、「サンプル最大酵素活性対照ウェル」に、キットにより提供されるLDH放出試薬を添加し、添加量は、元の培養液の体積の10%とされた。LDH放出試薬を添加した後、複数回繰り返してピペッティングして均一に混合してから、細胞インキュベータにおいてインキュベートし続けた。
【0112】
所定の時間に達した後、細胞培養プレートをマルチウェルプレート型の遠心分離機において400gで5min遠心分離した。それぞれ各ウェルの上清液を120μL取り、新たな96ウェルプレートの対応するウェルに加えてから、直ちにサンプル測定を行った。各ウェルにそれぞれ60μLのLDH検出作動液を加えた。均一に混合し、室温(約25℃)で、暗所で30minインキュベートした(アルミニウム箔により被覆した後に水平シェーカ又はサイドスイングシェーカに置いて徐々に振盪してもよい)。続いて490nmで吸光度を測定した。600nm以上の任意の波長を参照波長として使用し、二波長測定を行い、計算した(測定された各グループの吸光度のいずれからもバックグラウンドブランク対照ウェルの吸光度を差し引く必要がある)。
【0113】
図31のように、新規な低分子がカルシウム過負荷損傷を阻害する活性を有することを見出した。細胞カルシウム過負荷モデルにより低分子ライブラリ(2000種類の活性低分子を超える)において薬物スクリーニングを行い、drug1(PMZ)は陽性対照とされた。Drug2~4は、それぞれVolasertib、Epigallocatechin Gallate及びXL413を表す。
【0114】
硝子体に生理食塩水を注射し、急性高眼圧緑内障モデルを確立し、眼圧計によりマウスの眼圧を測定したところ、50~70mmHgであった。48時間後、網膜を取った。免疫組織化学的染色を行い、それぞれRGC細胞核、RGCニューラル木、細胞死マーカーを標識した。細胞死を野生型の同世代のマウスと比較した。
【0115】
図32のように、マウスのTLK2遺伝子ノックアウトが緑内障損傷に拮抗する作用を有する。WB図により、TLK2ヘテロ接合体のノックアウトがTLK2タンパク質レベルを確かに低下させたことが分かった。β-actinでタンパク質のローディング量を標識した。右の図は、マウス網膜蛍光免疫結果である。Shamは、処理されていない正常マウスの網膜である。β3 tubulin抗体によりニューロンにおけるチューブリン(緑色)を染色して標識し、RBPMS抗体により視神経の細胞体(赤色)を標識し、DAPIによりDNA(即ち、細胞核、青色)を標識した。緑内障モデルは急性高眼圧モデルであった。図中の結果により、緑内障モデルにより、神経細管の染色減少と破断が招かれ、網膜神経節細胞の数が減少したことが分かった。TLK2遺伝子ノックアウトの背景で、上記損傷が顕著に軽減した。
【0116】
硝子体に生理食塩水を注射し、急性高眼圧緑内障モデルを確立し、眼圧計によりマウスの眼圧を測定したところ、50~70mmHgであった。6時間後、薬物を腹腔内注射した。48時間後、網膜を取った。又は、AAV2ウイルスを眼底注射してTLK2 sh RNAを2週間発現した後、高眼圧処理し、48時間後、網膜を取った。
【0117】
図33のように、PMZは、緑内障損傷に拮抗する作用を有する。倪氏染色により、網膜中のニューロンを標識した。矢印は、網膜神経節層を指示する。controlは、処理されていない正常のマウス網膜である。No drugは、緑内障モデリング後に薬物治療が施されていないことを指す。10mg/kg~30mg/kgは、PMZの腹腔内注射の用量である(1日に1回)。図中の結果により、緑内障モデルにおいて網膜神経節層のニューロン数が減少したが、高用量のPMZ(30mg/kg)が保護作用を発揮することが分かった。同様の方法でEpigallocatechin Gallate、AAV2ウイルス発現TLK2 sh RNAの配列(GACCGCTTGAGACTGGGCCACTTTA、CCATTATCATGCAGATTGT、GTCGGATCCTTGAGTGATA)を検定したところ、類似した薬効を有する。
【0118】
十、TLK2 siRNA及び人工合成ヌクレオチド配列1~33などのAAVウイルスにより発現されたshRNAによるTLK2 RNAiのノックダウン効率の検証(
図32)
SKN組織を収集し、プロテアーゼ阻害剤及びPMSFが添加されたRIPA溶解液(50mMのTris、150mMのNaCl、1%のTriton X-100、1%のsodium deoxycholate及び0.1%のSDS)において、氷上で30分間溶解した。その後、氷上で40w 3 sec on/3 sec offで1分間超音波処理し、4℃で遠心分離機において12000rpmで15分間遠心分離し、上清液を収集し、SDSローディングバッファで希釈し、95℃で5分間煮た。20~30μgのタンパク質をローディングし、80Vの定電圧でゲルを泳動した。ブロモフェノールブルーが底部に流れてから、130mAの定電流で一晩転写し、タンパク質をゲルからPVDF膜に転写した。5%のスキムミルクを室温で1時間ブロッキングし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。適切に希釈した一次抗体を4℃で一晩インキュベートし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。HRP二次抗体を1:10000で希釈し、室温で1時間インキュベートし、TBSTで3回洗い、毎回5分間とした。ECL化学発光によりウェスタンブロットを現像させた。
【0119】
図34のように、複数のヒトTLK2 RNAi配列は、TLK2タンパク質レベルを低下させることができる。ヒトSKN細胞において異なるTLK2 siRNAをトランスフェクトした。列挙された7本の配列は、上記33個の配列よりランダムに合成されたものであり、全て異なる程度でTLK2タンパク質レベルを低下させることができる。
【0120】
十一、TLK2 shRNAがアルツハイマー病関連のtauタンパク質の堆積を減少させることができる
ヒト神経腫細胞系(SKN)にレンチウイルスにより発現されるヒトtauタンパク質を感染させ、安定的な発現細胞系を確立した。続いてレンチウイルスでTLK2 shRNAを感染させた。72時間培養した後に細胞を溶解し、タンパク質を収集した。Western blotsを作成し、β-actinは、タンパク質ローディング量の対照とされた。実験を3回繰り返した。
【0121】
図35のように、ノックダウンTLK2(shRNA)は、細胞内のtauタンパク質レベルを低下させることができ、ヒト神経腫細胞系(SKN)においてtauが過剰発現され、TLK2 shRNAはレンチウイルスに感染した。
【0122】
十二、TLK2 shRNAが筋萎縮性側索硬化症関連のFUSタンパク質の堆積を減少させることができる
マウス初代培養ニューロンにレンチウイルスにより発現されるFUSを感染させ、このタンパク質は、ヒトの突然変異した病原性タンパク質FUS(P525L)である。FUS(P525L)を安定的に発現する細胞系を確立した後、レンチウイルスでTLK2 shRNAを感染させて発現した。72時間培養した後、細胞を溶解し、タンパク質を収集した。Western blotsを作成し、β-actinは、タンパク質ローディング量の対照とされた。LC3II/Iの値が大きいことは、オートファジーが活躍的であることを表す。実験を3回繰り返した。
【0123】
図36のように、ノックダウンTLK2(shRNA)が細胞内のFUSタンパク質レベルを低下させ、細胞のオートファジーレベルを向上させることができる。マウス初代培養ニューロンにおいてFUS(病原性FUS突然変異体、当該突然変異によって患者が筋萎縮性側索硬化症に罹患するようになる)が過剰発現されていた。TLK2 shRNAはレンチウイルスに感染した。
【0124】
従って、本発明は、上記カルシウム過負荷媒介ニューロン死のマーカー及び応用を採用し、カルシウム過負荷及びTLK2過剰リン酸化は、新規な分子マーカーとして疾患の進展を予測するか又は治療効果を検定し、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症及び緑内障に対して迅速な早期警報の作用を有し、且つ、上記病症の治療用薬物の調製過程で主な治療効果を奏する。
【0125】
最後に、以上の実施例は、本発明の技術的解決手段を説明するためのものに過ぎず、それを制限するものではなく、好ましい実施例を参照しながら本発明を詳細に説明したが、当業者であれば、依然として本発明の技術的解決手段に修正や同等置換を行うことができ、これらの修正や同等置換によっても修正後の技術的解決手段が本発明の技術的解決手段の精神と範囲から逸脱することはないことを理解できるであろう。
【配列表】