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特開2023-152642新規化合物、これを含む高分子電解質膜及び該高分子電解質膜を含む燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152642
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】新規化合物、これを含む高分子電解質膜及び該高分子電解質膜を含む燃料電池
(51)【国際特許分類】
   C07C 313/04 20060101AFI20231010BHJP
   H01M 8/1027 20160101ALI20231010BHJP
   H01M 8/1032 20160101ALI20231010BHJP
   H01M 8/1067 20160101ALI20231010BHJP
   H01M 8/1044 20160101ALI20231010BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20231010BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20231010BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20231010BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
C07C313/04 CSP
H01M8/1027
H01M8/1032
H01M8/1067
H01M8/1044
H01M8/10 101
H01B1/06 A
C08K5/42
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191152
(22)【出願日】2022-11-30
(31)【優先権主張番号】10-2022-0041854
(32)【優先日】2022-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】507098483
【氏名又は名称】ヒュンダイ・モービス・カンパニー・リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】521300898
【氏名又は名称】インダストリー-アカデミック コーオペレーション ファウンデーション キョンサン ナショナル ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRY-ACADEMIC COOPERATION FOUNDATION GYEONGSANG NATIONAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】501 Jinju-daero Jinju-si Gyeongsangnam-do 52828 REPUBLIC OF KOREA
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホ ピルウォン
(72)【発明者】
【氏名】リ ジョンミョン
(72)【発明者】
【氏名】リ スンチュル
(72)【発明者】
【氏名】キム キヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム ビョンソン
(72)【発明者】
【氏名】コ ハンソル
(72)【発明者】
【氏名】キム ミジョン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ユギョン
(72)【発明者】
【氏名】ハン ソンス
【テーマコード(参考)】
4H006
4J002
5G301
5H126
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB48
4H006TA02
4H006TB01
4J002AA001
4J002BD121
4J002EV256
4J002FD116
4J002GQ02
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE01
5H126JJ00
5H126JJ05
5H126JJ06
5H126JJ08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高分子電解質膜の添加剤として使用され、前記高分子電解質膜の化学的耐久性、機械的物性、熱的安定性、及び水素イオン伝導度のような性能を改善させる新規な化合物を提供する。
【解決手段】化学式1で表される化合物。

(ここで、R~Rは、互いに独立して、炭素数1~6のアルキル基などであり、前記R~Rのうち少なくとも一つはフッ素原子であり、Aは、2価の連結基であり、M及びMは、互いに独立して、カリウム又はナトリウムであり、n及びmは、互いに独立して、1~10の整数である。)
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される化合物:
【化1】
前記化学式1において、
~Rは、互いに独立して、水素、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のフッ素置換アルキル基又はフッ素原子であり、前記R~Rのうち少なくとも一つはフッ素原子であり、
Aは、2価の連結基であり、
及びMは、互いに独立して、カリウム又はナトリウムであり、
n及びmは、互いに独立して、1~10の整数である。
【請求項2】
前記化学式1において、R~Rは、互いに独立して、水素、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のフッ素置換アルキル基又はフッ素原子であり、前記R~Rのうち少なくとも一つはフッ素原子である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記化学式1において、Aは、-O-又は-S-である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記化学式1において、M及びMは、互いに独立して、カリウム又はナトリウムである、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
前記化学式1において、R~Rは、いずれもフッ素原子であり、
Aは、-O-であり、
及びMは、ナトリウムであり、
n及びmは、互いに独立して、1~3の整数である、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
前記化学式1で表される化合物は、下記化学式1-1で表される化合物である、請求項1に記載の化合物:
【化2】
【請求項7】
請求項1に記載の化学式1で表される化合物由来の単位を含む高分子電解質膜。
【請求項8】
前記化学式1で表される化合物由来の単位は、下記化学式2で表される化合物である、請求項7に記載の高分子電解質膜:
【化3】
前記化学式2において、
~R、A、M、n及びmは、化学式1に定義したとおりである。
【請求項9】
前記高分子電解質膜は、80℃及び相対湿度(RH)50%の条件で、水素イオン伝導度が24mS/cm~38mS/cmである、請求項7に記載の高分子電解質膜。
【請求項10】
前記高分子電解質膜は、80℃及び相対湿度(RH)90%の条件で、水素イオン伝導度が92mS/cm~120mS/cmである、請求項7に記載の高分子電解質膜。
【請求項11】
高分子電解質膜は、高分子支持体及び化学式1で表される化合物由来の単位を含み、
前記化学式1で表される化合物由来の単位は、高分子支持体100重量%に対して0.5重量%~2.0重量%で含まれる、請求項7に記載の高分子電解質膜。
【請求項12】
アノード;カソード;及び前記アノードとカソードとの間に備えられる請求項7に記載の高分子電解質膜を含む膜電極接合体。
【請求項13】
2以上の請求項12に記載の膜電極接合体及び前記膜電極接合体の間に備えられるセパレータを含むスタックと、
燃料を前記スタックに供給する燃料供給部と、
酸化剤を前記スタックに供給する酸化剤供給部と、を含む燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化防止官能基及びイオン伝導性官能基を含む化合物、これを含む高分子電解質膜、前記高分子電解質膜を含む膜電極接合体及び前記高分子電解質膜を含む燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油や石炭のような既存の化石エネルギー資源の枯渇が予測され、前記化石エネルギー資源を使用する大量の温室ガス及び環境汚染の問題を引き起こす火力発電や施設自体の安定性や廃棄物処理の問題を有する原子力発電などの多様な限界点が現れ、より親環境的かつ高い効率を有する代替エネルギーに対する関心が高まっている。このような代替エネルギーの一つとして、燃料電池は、高效率で、NOx及びSoxなどの公害物質を排出せず、且つ使用される燃料が豊富であるという利点により特に注目を浴びている。
【0003】
燃料電池のうち、高分子電解質型燃料電池は、宇宙船にエネルギーを供給する目的として1950年代に提案された後、多角的に開発されており、水素ガスを燃料として使用する水素イオン交換膜燃料電池(Proton Exchange Membrane Fuel Cell、PEMFC)と液状のメタノールを直接燃料として正極に供給して使用する直接メタノール燃料電池(direct Methanol Fuel Cell、DMFC)などがある。供給される燃料である水素及びメタノールは、ほとんど永久的で電気化学的な反応により単に水のみを副産物として生成する。
【0004】
燃料電池は、アノード、カソード、及びこれらの間に介在された水素イオン伝導性高分子電解質膜を含む膜電極接合体を含み、アノード(酸化電極、正極)に供給された水素又はメタノールが、触媒反応により水素イオンを形成し、形成された水素イオンは、水素イオン伝導性高分子電解質膜を介してカソード(還元電極、負極)に移動し、外部回路を介して移動した電子とカソードに供給された空気や酸素と接触し、還元反応により水及び電気エネルギーと熱を発生することになる。
【0005】
数多くの種類のスルホン化高分子及び高分子組成物が、水素イオン伝導性高分子電解質膜として試験された。しかし、スルホン化された高分子は、水和状態で水素イオン伝達機能を有し、そのため、90℃以上の高温作動時に、高分子電解質膜内の水分の減少、及び高温でのスルホン酸基の分解により、急激な水素イオン伝導度の減少という問題がある。このような問題を改善するために、様々な方法が研究され、代表的には、ナフィオンのような過フッ素化スルホン化イオノマーにTiO、SiO、Al、ZrO、テトラエトキシシラン(TEOS)、モンモリロナイト(montmorillonite)、モルデナイト(mordenite)のような無機酸化物を導入して、高温での水分担持能を向上させることにより、100℃以上の高温での水素イオン伝導度の減少を解消させようとする方法と、水素イオン伝導性を有するジルコニウムリン酸(ZrP)、ホスホタングスティック酸、シリコタングスティック酸、ホスホモリブデン酸、シリコモリブデン酸などのヘテロポリアシド(heteropolyacid、HPA)を導入することにより、高温での水分担持能の減少及びそれによる水素イオン伝導度の減少を相殺させる方法がある。しかし、このような無機酸化物の導入は、無機酸化物の均一な分散が行われず、機械的物性、化学的耐久性のようなバランスよい物性の確保に限界があり、機械的物性が弱化するか、水素イオン伝導度及び熱的安定性、水和安定性などの高分子電解質膜の基本性能が弱化するという問題がある。
【0006】
したがって、高分子電解質膜の機械的物性、化学的耐久性、熱的安定性、及び水素イオン伝導度のような性能をバランスよく改善させる高分子電解質膜の添加剤の開発が必要な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国公開特許 第10-2010-0006809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術の問題を解決するために案出されたものであって、高分子電解質膜の添加剤として使用され、前記高分子電解質膜の化学的耐久性、機械的物性、熱的安定性、及び水素イオン伝導度のような性能を改善させる新規な化合物の提供を目的とする。
【0009】
また、本発明は、化合物を含む高分子電解質膜の提供を目的とする。
【0010】
また、本発明は、前記高分子電解質膜を含む膜電極接合体の提供を目的とする。
【0011】
さらに、前記膜電極接合体を含む燃料電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するための本発明の一実施形態によれば、本発明は、下記化学式1で表される化合物を提供する:
【化1】
【0013】
前記化学式1において、R~Rは、互いに独立して、水素、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のフッ素置換アルキル基又はフッ素原子であり、前記R~Rのうち少なくとも一つはフッ素原子であり、Aは、2価の連結基であり、M及びMは、互いに独立して、カリウム又はナトリウムであり、n及びmは、互いに独立して、1~10の整数である。
【0014】
また、本発明は、前記による化学式1で表される化合物由来の単位を含む高分子電解質膜を提供する。
【0015】
また、本発明は、アノード;カソード;及び前記アノードとカソードとの間に備えられる前記による高分子電解質膜を含む膜電極接合体を提供する。
【0016】
さらに、本発明は、2以上の前記膜電極接合体及び前記膜電極接合体の間に備えられるセパレータを含むスタック;燃料を前記スタックに供給する燃料供給部;及び酸化剤を前記スタックに供給する酸化剤供給部を含む燃料電池を提供する。
【0017】
(1)本発明は、前記化学式1で表される化合物を提供する。
【0018】
(2)本発明は、前記(1)における前記化学式1において、R~Rは、互いに独立して、水素、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のフッ素置換アルキル基又はフッ素原子であり、前記R~Rのうち少なくとも一つはフッ素原子である化合物を提供する。
【0019】
(3)本発明は、前記(1)又は(2)における前記化学式1において、Aは、-O-又は-S-である化合物を提供する。
【0020】
(4)本発明は、前記(1)~(3)の何れか一つにおける前記化学式1において、M及びMは、互いに独立して、カリウム又はナトリウムである化合物を提供する。
【0021】
(5)本発明は、前記(1)~(4)の何れか一つにおける前記化学式1において、R~Rは、いずれもフッ素原子であり、Aは、-O-であり、M及びMは、ナトリウムであり、n及びmは、互いに独立して、1~3の整数である化合物を提供する。
【0022】
(6)本発明は、前記(1)~(5)の何れか一つにおける前記化学式1で表される化合物は、下記化学式1-1で表される化合物を提供する:
【化2】
【0023】
(7)本発明は、前記(1)~(6)の何れか一つにおける化学式1で表される化合物由来の単位を含む高分子電解質膜を提供する。
【0024】
(8)本発明は、前記(7)における前記化学式1で表される化合物由来の単位は、下記化学式2で表される化合物である高分子電解質膜を提供する:
【化3】
【0025】
前記化学式2において、R~R、A、M、n及びmは、化学式1に定義したとおりである。
【0026】
(9)本発明は、前記(7)又は(8)において、80℃及び相対湿度(RH)50%の条件で、水素イオン伝導度が24mS/cm~38mS/cmである高分子電解質膜を提供する。
【0027】
(10)本発明は、前記(7)~(9)の何れか一つにおいて、80℃及び相対湿度(RH)90%の条件で、水素イオン伝導度が92mS/cm~120mS/cmである高分子電解質膜を提供する。
【0028】
(11)本発明は、前記(7)~(10)の何れか一つにおいて、高分子電解質膜は、高分子支持体及び化学式1で表される化合物由来の単位を含み、前記化学式1で表される化合物由来の単位は、高分子支持体100重量%に対して0.5重量%~2.0重量%で含む高分子電解質膜を提供する。
【0029】
(12)本発明は、アノード;カソード;及び前記アノードとカソードとの間に備えられる前記(7)~(11)の何れか一つにおける高分子電解質膜を含む膜電極接合体を提供する。
【0030】
(13)本発明は、2以上の前記(12)における膜電極接合体及び前記膜電極接合体の間に備えられるセパレータを含むスタック;燃料を前記スタックに供給する燃料供給部;及び酸化剤を前記スタックに供給する酸化剤供給部を含む燃料電池を提供する。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る化合物は、分子内の酸化防止官能基とイオン伝導性官能基をともに含むことから、高分子電解質膜の添加剤として適用され、前記高分子電解質膜の化学的耐久性、熱的安定性、及び機械的安定性を改善させると同時に、水素イオン伝導度のような性能を改善させる効果がある。
【0032】
本発明に係る高分子電解質膜は、化学式1で表される化合物を添加剤として含むことから、化学的耐久性、熱的安定性、及び機械的安定性を改善させると同時に、水素イオン伝導度のような性能に優れた効果がある。
【0033】
本発明に係る膜電極接合体及び燃料電池は、前記高分子電解質膜が備えられることから、耐久性に優れ、効率に優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の一実施形態による実施例1で製造された前駆体化合物のH NMR及び19F NMRの結果を示す。
図2】本発明の一実施形態による実施例1で製造された化合物のH NMR及び19F NMRの結果を示す。
図3】本発明の一実施形態による実施例1で製造された化合物のFT-IRの結果を示す。
図4】本発明の一実施形態による実施例1で製造された化合物の溶解性を肉眼で観察した結果を示す。
図5】本発明の一実施形態による高分子電解質膜の熱重量分析結果を示す。
図6】本発明の一実施形態による高分子電解質膜のガラス転移温度の測定結果を示す。
図7】本発明の一実施形態による高分子電解質膜の水分吸収度及び数値変化を測定した結果を示すグラフである。
図8】本発明の一実施形態による高分子電解質膜の水素イオン伝導度の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に対する理解を助けるために、本発明をさらに詳細に説明する。
【0036】
ここで、本発明の説明及び特許請求の範囲に用いられる用語や単語は、通常的かつ辞典的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは発明を最良の方法で説明するために用語の概念を適宜定義することができるとの原則に即し、本発明の技術的思想に適合する意味と概念に解釈されなければならない。
【0037】
本明細書に添付される図面は、本発明の具体的な実施形態を例示するものであって、前述した発明の内容とともに本発明の技術思想をより理解させる役割を果たすものであるため、本発明は、そのような図面に記載された事項にのみ限定して解釈されてはいけない。
【0038】
[用語の定義]
本明細書において、用語「酸化防止官能基」は、酸化性物質に対して光と熱などの条件下の活性酸素の作用を防止せずに抑制する性質を有して酸化を抑制する役割を果たす官能基を意味し、例えば、高分子電解質膜がラジカルによって攻撃を受ける環境で、前記高分子電解質膜の代わりに活性酸化物(reactive oxygen species、ROS)の酸素ラジカルで反応して酸化防止の役割を果たす官能基を意味する。
【0039】
本明細書において、用語「イオン伝導性官能基」は、イオン伝導、特に、水素イオン伝導を増加させる役割を果たす官能基であって、例えば、高分子電解質膜のアニオン官能基とイオン結合を形成しないか形成を抑制することにより、イオン伝導の低下を抑制する役割を果たす官能基を意味する。
【0040】
本明細書において、用語「膜電極接合体(MEA)」は、燃料と空気の電気化学触媒反応が起こる電極(アノード及びカソード)と、水素イオンの伝達が起こる高分子電解質膜の接合体を意味するものであって、電極(アノード及びカソード)と高分子電解質膜が接着された単一の一体型ユニット(unit)を意味する。
【0041】
本明細書において、用語「含む」、「有する」という用語及びこれらの派生語は、これらが具体的に開示されているか否かに関わらず、任意の追加の成分、段階又は手続きの存在を排除するように意図されたものではない。如何なる不確実さも避けるために、「含む」という用語の使用を介して請求されたすべての物質及び方法は、反対に記述されない限り、任意の追加の添加剤、補助剤、又は化合物を含んでよい。これと対照的に、「で本質的に構成される」という用語は、操作性に必須ではないものを除き、任意のその他成分、段階又は手続きを、任意の連続する説明の範囲から排除する。「で構成される」という用語は、具体的に記述されているか列挙されていない任意の成分、段階又は手続きを排除する。
【0042】
[測定方法及び条件]
本明細書において、「水素イオン伝導度」は、高分子電解質膜を0.5cm×3cmの試片に切って、4-probe cellに締結した後、BekkTech BT-552MX装備を用いて、測定前80℃及び70%RH(相対湿度)の条件で2時間温度/湿度平衡を維持させ、70%RHから20%RHに湿度を減少させ、水素イオン伝導度を測定し、再び20%RHから100%RHに湿度を増加させ、水素イオン伝導度を測定した。
【0043】
[新規化合物]
本発明は、高分子電解質膜の添加剤として適用され、前記高分子電解質膜の化学的耐久性、熱的安定性、及び機械的安定性を改善させると同時に、水素イオン伝導度のような性能を改善させる新規な構造の化合物を提供する。
【0044】
本発明の一実施形態による前記化合物は、下記化学式1で表される化合物であることを特徴とする。
【化4】
【0045】
前記化学式1において、R~Rは、互いに独立して、水素、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のフッ素置換アルキル基又はフッ素原子であり、前記R~Rのうち少なくとも一つはフッ素原子であり、Aは、2価の連結基であり、M及びMは、互いに独立して、カリウム又はナトリウムであり、n及びmは、互いに独立して、1~10の整数である。
【0046】
本発明の一実施形態による前記化学式1で表される化合物は、分子内の酸化防止官能基及びイオン伝導性官能基を同時に含むことにより、高分子電解質膜の有機添加剤として適用され、前記高分子電解質膜の酸化を防止し、イオン伝導度を改善させることができる。
【0047】
具体的には、高分子電解質膜は、一例として高分子支持体及び必要に応じた添加剤混合溶液から膜を製造し、これを硫酸などの試薬に浸し、スルホン化反応を経て製造されるスルホン化高分子電解質膜が広く用いられる。前記化学式1で表される化合物は、分子内-OM基が結合されているブチルベンゼン基を含み、高分子電解質膜の製造時に適用され、スルホン化反応により前記-OM基が結合されているブチルベンゼン基の-OM基が、イオン交換作用により-OH基に交換され、高分子電解質膜内で酸化防止官能基としてヒンダードフェノール基(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル基)を形成し、前記ヒンダードフェノール基は、この-OH基の還元反応により高分子電解質膜の代わりに活性酸化物の酸素ラジカルと反応して、酸化を防止し、前記高分子電解質膜の化学的耐久性を改善させることができる。
【0048】
また、前記化学式1で表される化合物は、ベンゼン基の第1の位置に-OM基、これと隣接した第2及び第6の位置に多量の電子を提供できるt-ブチル基が結合された構造を有することから、第2及び第6の位置のt-ブチル基により第1の位置の-OH基(-OM基に由来)が-Oのようなラジカルを円滑に生成することにより、燃料電池の駆動中に発生するラジカルと反応して、酸化をより効果的に防止することができる。
【0049】
また、通常、高分子電解質膜の耐久性の改善のために使用される添加剤、例えば、無機物に基づく酸化防止剤は、活性酸化物による前記高分子電解質膜の分解を抑制して耐久性を向上させるが、前記高分子電解質膜に導入されているカチオン交換基(-SO )とイオン結合を形成して水素イオン交換チャンネルを防ぎ、水素イオン伝導度を減少させるという問題がある。しかし、本発明に係る前記化学式1で表される化合物は、分子内の前記酸化防止官能基を形成する-OM基結合ブチルベンゼン基とともに、イオン伝導性官能基として過フッ素化系スルホン酸塩基(例えば、-CFSONa)を含み、ここに高分子電解質膜の化学的耐久性を改善させると同時に、水素イオン伝導性も向上させることができる。
【0050】
一方、後述する反応式1に示されたように、前記化学式1で表される化合物は、ヒンダードフェノール(hindered phenol)にイオン伝導性官能基を提供する化合物を反応させて合成されるものであって、反応活性度によりフェノール基の第4の位置でのみ反応が起こることから、本発明の一実施形態による前記化学式1で表される化合物は、ベンゼン基の第1の位置に-OM基、これと隣接した第2及び第6の位置にt-ブチル基、そして、第4の位置にイオン伝導性官能基が結合された構造を有する。
【0051】
具体的には、前記化学式1において、R~Rは、互いに独立して、水素、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のフッ素置換アルキル基又はフッ素原子であり、前記R~Rのうち少なくとも一つはフッ素原子であってよい。
【0052】
また、前記化学式1において、Aは、-O-又は-S-であってよい。
【0053】
また、前記化学式1において、M及びMは、互いに独立して、カリウム又はナトリウムであってよい。
【0054】
他の例として、前記化学式1において、R~Rは、いずれもフッ素原子であり、Aは、-O-であり、M及びMは、ナトリウムであり、n及びmは、互いに独立して、1~3の整数であってよい。
【0055】
より具体的には、前記化学式1で表される化合物は、下記化学式1-1で表される化合物であってよい。
【化5】
【0056】
一方、本発明の一実施形態による前記化学式1で表される化合物は、下記反応式1のように、化学式aで表される化合物及び化学式bで表される化合物を反応させ、前駆体化合物である化学式cで表される化合物を製造し、前記化学式3で表される化合物とアルカリ金属水酸化物を反応させて製造されるものであってよい。
【化6】
【0057】
前記反応式1で、R~R、A、M、M、n及びmは、化学式1で定義したとおりであり、B及びBは、互いに独立して、F、Cl、Br又はIであってよい。前記B及びBは、互いに独立して、F、Cl、Br又はIであり、互いに異なってよく、より具体的には、前記BはIであり、BはFであってよい。
【0058】
[高分子電解質膜]
また、本発明は、前記化合物由来の単位を含む高分子電解質膜を提供する。
【0059】
本発明の一実施形態による前記高分子電解質膜は、前記化学式1で表される化合物由来の単位を含むことを特徴とし、この際、前記化学式1で表される化合物由来の単位は、前記高分子電解質膜を構成する高分子内に重合された単量体として含まれるか、あるいは添加剤として含まれるものであってよく、具体的には、添加剤として含まれるものであってよい。
【0060】
ここで、前記化学式1で表される化合物由来の単位は、下記化学式2で表される化合物であってよい。
【化7】
【0061】
前記化学式2において、R~R、A、M、n及びmは、化学式1に定義したとおりである。
【0062】
本発明の一実施形態による化学式1で表される化合物は、高分子電解質膜に適用する際に、前記高分子電解質膜の形成のためのスルホン化反応のうち、-OM基がイオン交換により-OH基を形成することから、高分子電解質膜内には、前記化学式2で表される化合物のような構造として存在するものであってよい。
【0063】
前記化学式1で表される化合物が高分子電解質膜の添加剤として含まれる場合、前記高分子電解質膜は、高分子支持体及び前記化学式1で表される化合物由来の単位を含み、前記化学式1で表される化合物由来の単位は、高分子100重量%に対して0.5重量%~2.0重量%で含まれるものであってよい。
【0064】
また、前記高分子支持体は、通常知られたものであれば特に制限されず、例えば、パーフルオロスルホン酸ポリマー、炭化水素系ポリマー、ポリイミド、ポリビニリデンフルオライド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリホスファジン、ポリエチレンナフタレート、ポリエステル、ドーピングされたポリベンズイミダゾール、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、これらの酸又は塩基のうち1つ以上であってよい。
【0065】
また、本発明の一実施形態による前記高分子電解質膜は、化学式1で表される化合物由来の単位を含むこと以外は、当分野において通常知られた材料又は方法で製造されてよく、厚さも数マイクロンから数百マイクロンを有してよい。
【0066】
一方、本発明に係る前記高分子電解質膜は、化学式1で表される化合物由来の単位を含むことにより、化学的耐久性、熱的安定性、及び機械的物性に優れると同時に、水素イオン伝導度に優れることがある。
【0067】
一例として、前記高分子電解質膜は、80℃及び相対湿度(RH)50%の条件で、水素イオン伝導度が24mS/cm~38mS/cmであってよい。
【0068】
また、前記高分子電解質膜は、80℃及び相対湿度(RH)90%の条件で、水素イオン伝導度が92mS/cm~120mS/cmであってよい。
【0069】
また、前記高分子電解質膜は、イオン交換容量(IEC)が0.70mEq/g~0.80mEq/gであってよい。
【0070】
[膜電極接合体]
また、本発明は、前記高分子電解質膜を含む膜電極接合体を提供する。
【0071】
本発明の一実施形態による前記膜電極接合体は、アノード;カソード;及び前記アノードとカソードとの間に備えられる前記高分子電解質膜を含むことを特徴とする。
【0072】
他の一例として、前記膜電極接合体は、高分子電解質膜と前記高分子電解質膜を挟んで、互いに対向してアノード及びカソードが備えられるものであってよい。
【0073】
前記アノードは、アノード触媒層とアノード気体拡散層を含むものであってよく、前記アノード気体拡散層はまた、アノード微細気孔層とアノード電極基材を含むものであってよい。この際、前記アノード気体拡散層は、アノード触媒層と高分子電解質膜との間に備えられる。
【0074】
また、前記カソードは、カソード触媒層とカソード気体拡散層を含むものであってよく、前記カソード気体拡散層はまた、カソード微細気孔層とカソード電極基材を含むものであってよい。この際、前記カソード気体拡散層は、カソード触媒層と高分子電解質膜との間に備えられる。
【0075】
前記アノード触媒層は、燃料の酸化反応が起こるところであって、白金、ルテニウム、オスミウム、白金-ルテニウム合金、白金-オスミウム合金、白金-パラジウム合金、及び白金-遷移金属合金からなる群から選択される触媒が使用されてよく、前記カソード触媒層は、酸化剤の還元反応が起こるところであって、白金又は白金-遷移金属合金が触媒として使用されるものであってよい。ここで、触媒は、それ自体に使用されるか、炭素系担体に担持して使用されてよい。
【0076】
また、前記各電極の触媒層は、当技術分野において通常知られた方法で電極に導入させることができ、例えば、触媒インクを高分子電解質膜に直接コーティングするか気体拡散層にコーティングして触媒層を形成させることができる。この際、触媒インクのコーティング方法は、特に制限するものではなく、例えば、スプレーコーティング、テープキャスティング、スクリーンプリンディング、ブレードコーティング、ダイコーティング、又はスピンコーティングなどが用いられてよい。また、前記触媒インクは、触媒、ポリマーアイオノマー(polymer ionomer)及び溶媒を含むものであってよい。
【0077】
前記各電極の気体拡散層は、電流伝導体としての役割と反応ガスと水の移動通路となるものであって、多孔性の構造を有するものであってよい。そこで、前記気体拡散層は、導電性基材を含んでよく、ここで、前記導電性基材は、例えば、カーボン紙(carbon paper)、カーボン布(carbon cloth)、又はカーボンフェルト(carbon felt)が使用されてよい。また、前記気体拡散層は、触媒層及び電極基材の間に微細気孔層をさらに含んでなってよく、前記微細気孔層は、気体拡散層の外に流出する水の量を減少させ、高分子電解質膜が十分な湿潤状態に維持されるように機能することにより、低加湿条件での燃料電池の性能を向上させることができる。
【0078】
[燃料電池]
また、本発明は、前記膜電極接合体を含む燃料電池を提供する。
【0079】
本発明の一実施形態による前記燃料電池は、2以上の前記膜電極接合体及び前記膜電極接合体の間に備えられるセパレータを含むスタック;燃料を前記スタックに供給する燃料供給部;及び酸化剤を前記スタックに供給する酸化剤供給部を含むことを特徴とする。
【0080】
前記スタックは、前記膜電極接合体を2以上含み、膜電極接合体の間には、セパレータを備えるものであってよい。前記セパレータは、膜電極接合体が電気的に連結されることを防ぎ、外部から供給された燃料及び酸化剤を膜電極接合体に伝達する役割を果たすものであってよい。
【0081】
前記酸化剤供給部は、酸化剤をスタックに供給する役割を果たすものであって、酸化剤としては、酸素が代表的に使用されてよく、酸素又は空気をポンプで注入するものであってよい。
【0082】
また、前記燃料供給部は、燃料をスタックに供給する役割を果たすものであって、燃料を貯蔵する燃料タンク及び燃料タンクに貯蔵された燃料をスタックに供給するポンプを含んでよい。また、前記燃料としては、気体又は液体状態の水素又は炭化水素が使用されてよく、炭化水素としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、又は天然ガスが挙げられる。
【0083】
[実施例]
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明に係る実施例は、様々な異なる形態に変形されることがあり、本発明の範囲が以下の実施例に限定されるものとして解釈されてはいけない。本発明の実施例は、当業界で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供される。
【0084】
[実施例1]
[(1)2-(2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)-1,1,2,2-テトラフルオロエタンスルホニルフルオリドの製造]
2,6-ジ-tert-ブチルフェノール0.2g(0.96mmol)、テトラフルオロ-2-(テトラフルオロ-2-ヨードエトキシ)エタンスルホニルフルオリド2.47g(6.0mmol)を、Na1.7g(9.6mmol)、NaHCO0.07g(0.84mmol)、及びヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド0.35g(0.96mmol)で構成された触媒を使用して、溶媒4ml(CHCl:HO=1:1)のうち、70℃で48時間撹拌して反応させた。反応後、1MHCl0.8mlを添加してpH1~2に合わせ、蒸留水2mlで希釈し、ジエチルエーテル(3x10ml)とブリン(2x10ml)を使用して抽出した後、カラムクロマトグラフィー(100%ヘキサン)で精製して、前駆体化合物である2-(2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)-1,1,2,2-テトラフルオロエタンスルホニルフルオリドを製造し、H NMR(CDCl)及び19F NMR(CDCl)分析により合成されたことを確認し、結果は図1に示した。
【0085】
図1から確認できるように、H NMRの結果から、フェニル環ピーク(第1のピーク)、メチル基部分ピーク(第2のピーク)、フェノール基の-OHピーク(第3のピーク)を確認した。また、19F NMRの結果から、-CFピーク(第1、2、3、4のピーク)とスルホニルフルオリドピーク(第5のピーク)を確認した。
【0086】
[(2)ソジウム2-(2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-オキシドフェニル)-1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)-1,1,2,2-テトラフルオロエタンスルホネートの製造]
蒸留水3ml中に製造された2-(2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)-1,1,2,2-テトラフルオロエタンスルホニルフルオリド1g(1.98mmol)及びNaOH0.23g(5.95mmol)を、95℃で16時間反応させた。その後、蒸発基(evaporator)を用いて溶媒を除去し、有機層をエタノールを添加して溶かした後、減圧濾過して塩を除去し、50℃の真空オーブンで12時間乾燥して、化学式1-1で表される化合物であるソジウム2-(2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-オキシドフェニル)-1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)-1,1,2,2-テトラフルオロエタンスルホネートを製造し、H NMR(DMSO-d)及び19F NMR(DMSO-d)分析により合成されたことを確認し、結果は図2に示した。また、FT-IR分析により合成されたことを確認し、結果は図3に示した。
【0087】
図2から確認できるように、H NMRの結果から図1と比べて、フェニル環ピーク(第1のピーク)がシフトされて変化されたことを確認し、フェノール基の-OHピーク(第3のピーク)が消えたことを確認した。また、19F NMRの結果から図1と比べて、-CFピーク(第1、2、3、4のピーク)が小幅シフトされ、スルホニルフルオリドピーク(第5のピーク)が消えたことを確認した。
【0088】
図3から確認できるように、3615cm-1付近で水素結合ピークを確認することができることから、フェノール基の-OHのピークが-ONaに置換されることを確認し、2960cm-1付近でC-Hピークを、そして1200cm-1付近でC-F結合を確認した。
【0089】
[実験例1]
実施例1の化合物の熱的安定性及び溶解性を比較分析した。
【0090】
[(1)熱的安定性]
熱的安定性は、熱重量分析法(TGA)により確認し、具体的には、熱重量分析器の加熱炉に、各化合物サンプルを入れ、常温から120℃まで20℃/minで常温させ、10分間維持して、残余水分の除去及び安定化を実施した。その後、60℃まで20℃/minで冷却し、窒素雰囲気下、60℃から800℃まで10℃/minで常温させながらサンプルの重さ変化を測定し、結果を下記表1に示した。
【0091】
[(2)溶解性]
各化合物サンプルの同量を、水、ジメチルアセトアマイド(DMAc)、メタノール、エタノール、1-プロパノール、及び2-プロパノールの合計6種の溶媒に溶かして溶解性を観察し、結果を下記表1及び図4に示した。結果から肉眼で相分離が見えずによく溶解された場合は○、相分離が見えるか溶解されない場合は×で表示した。
【0092】
【表1】
【0093】
前記表1により、実施例1の化合物は水に溶解されず、非常に高い温度に至ったときに分解が発生することを確認した。
【0094】
[実施例2]
前記実施例1で製造された化合物を添加剤として含む高分子電解質膜を製造した。
【0095】
20重量%のナフィオン溶液3gに、前記ナフィオンに対して0.5重量%の実施例1で製造された化合物を添加し、常温で1時間撹拌して溶液を製造し、ガラス板に前記溶液をキャスティングし、60℃のオーブンで3時間乾燥して膜を製造した。その後、水分浸透法を使用してガラス板から膜を分離させた後、60℃で6時間1Mの硫酸溶液に含浸させた後、中性になるまで洗浄した。そして、ゲルドライヤーを使用して、50℃で2時間乾燥させて50um厚さの高分子電解質膜を製造した。
【0096】
[実施例3]
実施例2において、実施例1で製造された化合物を、ナフィオンに対して1.0重量%添加したこと以外は、実施例2と同様に実施して、高分子電解質膜を製造した。
【0097】
[実施例4]
実施例2において、実施例1で製造された化合物を、ナフィオンに対して2.0重量%添加したこと以外は、実施例2と同様に実施して、高分子電解質膜を製造した。
【0098】
[比較例]
実施例2において、実施例1で製造された化合物を添加しないこと以外は、実施例2と同様に実施して、高分子電解質膜を製造した。
【0099】
[実験例2]
実施例2~4、比較例で製造された各高分子電解質膜の熱的安定性、化学的耐久性、機械的物性、イオン交換容量、水素イオン伝導度を比較分析した。
【0100】
[(1)熱的安定性]
熱的安定性は、熱重量分析(TGA)及びガラス転移温度(Tg)の測定により確認し、結果は下記表2、図5及び図6に示した。
【0101】
熱重量分析は、熱重量分析器の加熱炉に、各高分子電解質膜サンプルを入れ、常温から120℃まで20℃/minで昇温させ、10分間維持して、残余水分の除去及び安定化を実施した。その後、60℃まで20℃/minで冷却し、窒素雰囲気下、60℃から800℃まで10℃/minで昇温させながら、サンプルの重さ変化を測定して実施した。
【0102】
ガラス転移温度は、動的機械分析(Dynamic Mechanical Analyzer)により分析し、各高分子電解質膜を20mm×5mmの大きさで切ってサンプルとして使用し、frequency 1Hz、amplitude 15umに設定し、30℃から120℃まで3℃/minで昇温させ、tanδを測定し、tanδの最大点をガラス転移温度として記録した。
【0103】
【表2】
【0104】
前記表2、図5及び図6の結果から、実施例1の化合物を添加剤として含む実施例2~実施例4の高分子電解質膜が、比較例の高分子電解質膜に対して全般的にガラス転移温度及び分解温度が高いことを確認し、これにより優れた熱的安定性を有することを確認することができる。
【0105】
[(2)化学的耐久性]
高分子電解質膜の化学的耐久性は、水分吸収度及び寸法変化により確認した。各サンプル当り3回を測定し、その平均値で結果を示し、結果は下記表3及び図7に示した。
【0106】
デシケーター(desiccator)を介して乾燥された各高分子電解質膜を、1cm×3cmの大きさに切って、厚さと重さを測定した。その後、切った高分子電解質膜をバイアルに入れ、蒸留水を満たした後、30℃の乾燥オーブンで12時間補完し、膨潤された高分子電解質膜を取り出して、面積、厚さ、及び重さを測定して、下記数1及び数2により水分吸収度及び寸法変化を確認した。
【0107】
[数1]
水分吸収度(%)=[(Wwet-Wdry)/Wdry]×100
【0108】
[数2]
寸法変化(%)=[((Awet×Twet)-(Adry×Tdry))/(Adry×Tdry)]×100
【0109】
前記数1及び数2において、WdryとWwetは、それぞれ乾燥された高分子電解質膜と膨潤された高分子電解質膜の重さを意味し、AdryとAwetは、それぞれ乾燥された高分子電解質膜と膨潤された高分子電解質膜の面積を意味し、TdryとTwetは、それぞれ乾燥された高分子電解質膜と膨潤された高分子電解質膜の厚さを意味する。
【0110】
【表3】
【0111】
前記表3及び図7により、実施例2~実施例4の高分子電解質膜が、比較例の高分子電解質膜に比べて水分吸収度及び寸法変化が顕著に少ないことを確認することができ、これにより化学的耐久性に優れることを確認することができる。
【0112】
[(3)機械的物性]
各高分子電解質膜の機械的物性は、引張強度、弾性係数、及び延伸率により確認した。
【0113】
具体的には、LLOYD UTM LSI機器に、250NのLoad cellを結合し、ASTM D638 type Vに応じて準備した各高分子電解質膜の試片を締結した後、extension rate 5mm/minにして、引張強度、弾性係数、及び延伸率を測定した。この際、各試片に対して7回測定し、この平均値で結果を示し、結果は下記表4に示した。
【0114】
【表4】
【0115】
前記表4により、実施例2~実施例4の高分子電解質膜が、比較例の高分子電解質膜に対して顕著に優れた機械的物性を有することを確認した。
【0116】
[(4)水素イオン伝導度]
水素イオン伝導度は、酸化を誘導しない状態及び酸化を誘導した状態の2つの場合に対して測定した。
【0117】
[1)酸化未誘導水素イオン伝導度]
各高分子電解質膜を、0.5cm×3cmの試片に切って、4-probe cellに締結した後、BekkTech BT-552MX装備を用いて、測定前80℃及び70%RH(相対湿度)の条件で2時間温度/湿度平衡を維持させ、70%RHから20%RHに湿度を減少させ、水素イオン伝導度を測定し、再び20%RHから100%RHに湿度を増加させ、水素イオン伝導度を測定した。各高分子電解質膜に対して3回測定し、この平均値で下記表5及び図8に結果を示した。
【0118】
【表5】
【0119】
前記表5及び図8により、実施例2~4の高分子電解質膜が、比較例の高分子電解質膜に比べて顕著に改善した水素イオン伝導度を有することを確認した。
【0120】
[2)酸化誘導後(Fenton‘s test)の水素イオン伝導度]
実施例3及び比較例2の各高分子電解質膜を、0.5cm×3cmの試片に切って重さを測定した後、30mlのバイアルに入れた後、Fenton‘s reagent(3重量%の過酸化水素、4ppmの硫酸鉄水溶液)25mlを前記バイアルに入れ、80℃で24時間含浸させた。その後、含浸させた各試片を、蒸留水で数回洗浄して乾燥させた後、前記1)の方法と同様にして、水素イオン伝導度を測定した。結果は下記表6に示した。
【0121】
【表6】
【0122】
前記表6により、実施例2の場合、酸化誘導前後の両方も水素イオン伝導度が大きく変化せず、比較例に対して優れた水素イオン伝導度を示したが、比較例の場合、酸化後の水素イオン伝導度が酸化前に対して大幅低下した。これは、実施例2の高分子電解質膜の場合、酸化が防止されたことを意味し、したがって、本発明の化合物の酸化防止の効果に優れることを示す結果である。
【0123】
[(5)イオン交換容量]
乾燥された各高分子電解質膜の重さを測定した後、30mlのバイアルに入れ、1M NaCl溶液15mlを前記バイアルに添加した後、60℃で6時間以上撹拌させ、イオン交換容量測定用試片を準備した。自動電位差滴定器(Potentiometric titrator、TITRANDO 888)を用いて、0.01M NaOH溶液を高分子電解質膜が入っている前記バイアルに、バイアル内部溶液のpHが7.0になるまで投入して、投入されたNaOHの総体積を確認した後、下記数3により計算し、結果を下記表7に示した。
【0124】
[数3]
IEC=[CNaOH×(△VNaOH/W)]×1000
【0125】
前記数3において、CNaOHは、NaOHの濃度(0.01M)であり、△VNaOHは、投入されたNaOHの総体積、Wは、乾燥された高分子電解質膜の重さである。
【0126】
【表7】
【0127】
前記表7により、実施例2~4の高分子電解質膜が、比較例に対して同等水準以上に優れたイオン交換容量を示すことを確認した。
【0128】
前記表2~7及び図4図8に示された結果から、本発明の一実施形態による化学式1で表される化合物は、酸化防止及びイオン伝導の効果に優れ、また、本発明の高分子電解質膜は、前記化合物を添加剤として含むことにより、化学的耐久性、熱的安定性、及び機械的安定性に優れると同時に、水素イオン伝導度が顕著に改善する効果があることを確認した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8