(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152647
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】架橋成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/28 20060101AFI20231005BHJP
C08F 8/42 20060101ALI20231005BHJP
C08F 10/00 20060101ALI20231005BHJP
H01B 3/44 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08J3/28 CES
C08F8/42
C08F10/00 510
H01B3/44 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198036
(22)【出願日】2022-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2022055368
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】二村 達夫
【テーマコード(参考)】
4F070
4J100
5G305
【Fターム(参考)】
4F070AA12
4F070HA04
4F070HB14
4F070HB15
4J100AA02P
4J100AA04Q
4J100BA71H
4J100CA01
4J100CA04
4J100CA31
4J100HA61
4J100HC36
4J100HC80
4J100HE17
4J100JA43
4J100JA44
5G305AA02
5G305AB01
5G305AB15
5G305AB24
5G305AB35
5G305AB36
5G305BA13
5G305CA01
5G305CA40
5G305CA51
5G305CA54
5G305CB06
5G305CC03
5G305CC11
5G305CD05
5G305CD07
5G305CD12
5G305CD13
5G305DA23
(57)【要約】
【課題】有機スズ化合物等の架橋触媒を必要とすることなく、生産性と機械物性と耐熱物性に優れる架橋成形体を可能とする架橋成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】シラン変性ポリオレフィンを得る工程、該シラン変性ポリオレフィンを成形して成形体を得る工程、該成形体に電子線照射する工程、を有する架橋成形体の製造方法。シラン変性ポリオレフィンを含むポリオレフィン組成物を得る工程、該ポリオレフィン組成物を成形して成形体を得る工程、該成形体に電子線照射する工程、を有する架橋成形体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラン変性ポリオレフィンを得る工程、該シラン変性ポリオレフィンを成形して成形体を得る工程、該成形体に電子線照射する工程、を有する架橋成形体の製造方法。
【請求項2】
シラン変性ポリオレフィンを含むポリオレフィン組成物を得る工程、該ポリオレフィン組成物を成形して成形体を得る工程、該成形体に電子線照射する工程、を有する架橋成形体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の架橋成形体の製造方法により製造した架橋成形体よりなる電線被覆材を製造する電線被覆材の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の電線被覆材の製造方法により製造された電線被覆材により電線を被覆する被覆電線の製造方法。
【請求項5】
シラン変性ポリオレフィン又はシラン変性ポリオレフィンを含むポリオレフィン組成物よりなる成形体であって、該成形体のシラノール縮合触媒由来の金属含有率が1ppm未満である成形体。
【請求項6】
請求項5に記載の成形体を用いた架橋成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン変性ポリオレフィンの架橋方法に関するものである。
本発明はまた、シラン変性ポリオレフィン又はシラン変性ポリオレフィンを含むポリオレフィン組成物よりなる成形体と、この成形体を用いた架橋成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電線やケーブルの被覆材料として、ポリオレフィンを架橋した架橋ポリオレフィンが使用されている。ポリオレフィンの架橋に使用される架橋方式としては、電子線照射架橋、化学架橋、水架橋方式が知られている。
【0003】
化学架橋は、架橋剤として、ジクミルペルオキレドのような過酸化物を配合したポリオレフィン組成物を加熱することで架橋反応させるものである。化学架橋では、架橋反応を完結させるためには、一度、成形加工した製品を、再度、過酸化物を分解させるために過酸化物の分解温度以上に加熱し、反応終了後に冷却させる工程が必要であることから、非常に長い大型の設備を必要とする。また、化学架橋は反応のコントロールが難しく生産性が悪い。
電子線照射架橋は、ポリオレフィン組成物に電子線照射することで架橋反応させるものである。
また、水架橋は、ビニルトリメトキシシラン等によりポリオレフィンをシラン変性したシラン変性ポリオレフィンに有機スズ化合物等の架橋触媒(シラノール縮合触媒)などを配合し、温水あるいは水蒸気等の存在下で架橋させるものである(特許文献1参照)。
【0004】
電子線照射架橋や水架橋を用いる方法は、化学架橋と比較して、架橋反応のコントロールが比較的容易であり、生産性もよいため、被覆電線の製造方法として一般的に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水架橋は、所望の性能を発現させる架橋状態を得るまでに、長時間(数十時間)を要することがあり、生産性の観点で課題を有する場合がある。また、水架橋で架橋触媒として通常使用される有機スズ化合物は、環境負荷への懸念があり、この点においても水架橋は好ましくない。
電子線照射架橋は、架橋触媒を用いる必要がなく、また、所望の架橋状態を得るまでの時間を短縮でき、生産性に優れるものの、所望の架橋状態を得るために、照射強度を上げると、得られる架橋ポリオレフィン組成物の成形体の物性が低下したり、外観が劣化する場合があった。また、照射強度を上げずに架橋度を上げる方法として、架橋助剤を増やす手段も考えられるが、架橋助剤を増やすと架橋ポリオレフィン組成物の成形体から架橋助剤そのものがブリードする場合があった。
このように、従来において、有機スズ化合物等の架橋触媒を用いることなく、生産性と、得られる架橋成形体の物性の双方に優れる架橋成形体の製造方法は提供されていない。
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、有機スズ化合物等の架橋触媒を必要とすることなく、生産性と機械物性と耐熱物性に優れる架橋成形体を可能とする架橋成形体の製造方法と、成形体及び架橋成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、シラン変性ポリオレフィン乃至はシラン変性ポリオレフィンを含むポリオレフィン組成物を成形した成形体に電子線照射する製造方法により、架橋触媒不要の電子線架橋において、生産性を向上できるとともに、機械物性、耐熱物性に優れた架橋成形体を得ることができることを見出した。
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
【0009】
[1] シラン変性ポリオレフィンを得る工程、該シラン変性ポリオレフィンを成形して成形体を得る工程、該成形体に電子線照射する工程、を有する架橋成形体の製造方法。
【0010】
[2] シラン変性ポリオレフィンを含むポリオレフィン組成物を得る工程、該ポリオレフィン組成物を成形して成形体を得る工程、該成形体に電子線照射する工程、を有する架橋成形体の製造方法。
【0011】
[3] [1]または[2]に記載の架橋成形体の製造方法により製造した架橋成形体よりなる電線被覆材を製造する電線被覆材の製造方法。
【0012】
[4] [3]に記載の電線被覆材の製造方法により製造された電線被覆材により電線を被覆する被覆電線の製造方法。
【0013】
[5] シラン変性ポリオレフィン又はシラン変性ポリオレフィンを含むポリオレフィン組成物よりなる成形体であって、該成形体のシラノール縮合触媒由来の金属含有率が1ppm未満である成形体。
【0014】
[6] [5]に記載の成形体を用いた架橋成形体。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生産性と機械物性と耐熱物性に優れる架橋成形体を可能とする架橋成形体の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、有機スズ化合物等の架橋触媒不要の電子線架橋により架橋成形体を得ることができるため、有機スズ化合物等のシラノール縮合触媒由来の金属化合物を含まない、或いは、シラノール縮合触媒由来の金属含有率、例えばスズ含有率が著しく低い成形体から架橋成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
尚、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0017】
[シラン変性ポリオレフィン]
本発明において、シラン変性ポリオレフィンは、架橋ポリオレフィンとして要求される機械特性と電気特性を発揮するために必要となる。
【0018】
本発明におけるシラン変性ポリオレフィンは、シラン変性ポリオレフィンを架橋したシラン架橋ポリオレフィンとは区別される。すなわち、シラン変性ポリオレフィンとは、架橋されていないシラン変性のオレフィン重合体を意味する。
【0019】
シラン変性ポリオレフィンは、例えば、以下に挙げる原料となるオレフィン重合体に不飽和シラン化合物をグラフト化して変性することによって得られる。
【0020】
シラン変性ポリオレフィンの原料として用いるオレフィン重合体(以下、「原料オレフィン重合体」と称す場合がある。)は特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン等の炭素数2~8程度のα-オレフィンの単独重合体、これらのα-オレフィンとエチレン、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン等の炭素数2~20程度の他のα-オレフィンや、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等との共重合体が挙げられる。ここで、「(メタ)アクリル酸」とは「アクリル酸」と「メタクリル酸」の一方又は双方を示す。後述の「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリレート」についても同様である。
【0021】
上記原料オレフィン重合体の具体例としては、分岐状又は直鎖状の低密度ポリエチレン、分岐状又は直鎖状の中密度ポリエチレン、分岐状又は直鎖状の高密度ポリエチレン等のエチレン単独重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン・1-ヘキセン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エチル共重合体等のエチレン系重合体、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体等のプロピレン系重合体、及び、1-ブテン単独重合体、1-ブテン・エチレン共重合体、1-ブテン・プロピレン共重合体等の1-ブテン系重合体が挙げられる。
これらの原料オレフィン重合体は、1種類を用いても2種類以上を併用してもよい。
【0022】
ここで、エチレン系重合体、プロピレン系重合体、1-ブテン系重合体とは、それぞれ、エチレン単位、プロピレン単位、又は1-ブテン単位を、重合体を構成する全モノマー単位中で最も多く含有する重合体のことを言い、好ましくは50質量%を超える割合で含有する重合体を言う。
これらの中でも、シラン変性ポリオレフィンの原料に用いるオレフィン重合体としては、以下の理由から、エチレン系重合体が好ましく、エチレン系重合体の中でも、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-ヘキセン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体が特に好ましい。
【0023】
本発明におけるシラン変性ポリオレフィンは、後述する通り、例えば、遊離ラジカル発生剤によるグラフト反応で原料オレフィン重合体に対して不飽和シラン化合物をグラフトさせることにより得られるが、重合槽で不飽和シラン化合物を添加しオレフィンと共重合させたものを用いてもよい。
グラフト反応でシラン変性ポリオレフィンを得る場合、原料オレフィン重合体が、エチレン系重合体であれば、グラフト化を好適に行うことができるので好ましい。また、原料オレフィン重合体がエチレン系重合体であれば、本発明の製造方法により得られる架橋成形体を電線被覆用に用いた場合に、耐熱性が良好となるので好ましい。
【0024】
原料オレフィン重合体を不飽和シラン化合物によりグラフト変性してシラン変性ポリオレフィンを得るには、通常、公知の方法で原料オレフィン重合体を有機過酸化物等の遊離ラジカル発生剤の存在下にエチレン性不飽和シラン化合物のグラフト反応工程に供してグラフト変性することが行われる。
例えば、原料オレフィン重合体に所定量の不飽和シラン化合物と遊離ラジカル発生剤を混合し、80~250℃の温度で溶融混練する方法を用いることができる。なお、この際、水を含んでいると、水架橋反応が進行するので、水を含まない状態で溶融混練することが好ましい。
【0025】
グラフト変性に用いる不飽和シラン化合物としては、下記一般式(I)で表されるエチレン性不飽和シラン化合物が挙げられる。
R1SiR2
nY3-n …(I)
【0026】
上記式(I)中、R1はエチレン性不飽和炭化水素基又はハイドロカーボンオキシ基を表し、R2は炭化水素基を表し、Yは加水分解可能な有機基を表し、nは0~2の整数である。
【0027】
ここで、R1としては、炭素数が2~6のエチレン性不飽和炭化水素基又はハイドロカーボンオキシ基、例えば、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、シクロヘキセニル基、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピル基が挙げられる。また、R2としては、炭素数が1~10の炭化水素基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、デシル基、フェニル基が挙げられる。さらに、Yとしては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ホルミルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基が挙げられる。
【0028】
このようなエチレン性不飽和シラン化合物の具体例としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。これらの中でも、臭気等の観点から、ビニルトリメトキシシランが好適に用いられる。
不飽和シラン化合物は、1種類を用いても2種類以上を併用してもよい。
【0029】
前記不飽和シラン化合物の使用量は限定されず、生産性と得られる架橋成形体の機械物性を向上させる観点から多いほうが望ましいが、加工性の観点からは少ないほうが望ましい。具体的には、原料オレフィン重合体100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上であり、一方、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。
【0030】
前記遊離ラジカル発生剤としては、原料オレフィン重合体に対して不飽和シラン化合物をグラフト化可能であれば限定されないが、ジクミルパーオキサイト、2,5-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンなどの有機過酸化物が主として使用できる。これらの有機過酸化物も、1種類を用いても2種類以上を併用してもよい。
【0031】
前記遊離ラジカル発生剤の使用量は限定されず、不飽和シラン化合物が原料オレフィン重合体に十分にグラフト共重合し十分な架橋効果を得るためには多いほうが望ましいが、加工性の観点からは少ないほうが望ましい。具体的には、原料オレフィン重合体100質量部に対し、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.02質量部以上であり、一方、好ましくは0.2質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
【0032】
本発明で用いるシラン変性ポリオレフィンは、密度が0.850~0.970g/cm3であることが好ましく、より好ましくは0.870~0.950g/cm3である。密度が高くなるほど、得られる架橋成形体の耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、耐屈曲性等が良好となり、一方で、密度が低くなるほど、柔軟性が良好となる。前記の範囲内とすることにより、得られる架橋成形体の耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、耐屈曲性が十分に向上すると共に、十分な柔軟性を得ることができる。
【0033】
前記シラン変性ポリオレフィンの、JIS K7210に従って測定した190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)は、成形性の点では大きい方が好ましく、機械的特性の点では小さい方が好ましい。具体的には、シラン変性ポリオレフィンの190℃、2.16kg荷重におけるMFRが0.1g/10min以上であることが好ましく、1g/10min以上であることがより好ましく、一方、20g/10min以下であることが好ましく、10g/10min以下であることがより好ましい。これらの範囲内とすることにより、成形性と機械的特性をバランスよく発現させることができる。
【0034】
前記シラン変性ポリオレフィンは、1種のみを用いてもよく、モノマー組成や物性等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
前記シラン変性ポリオレフィンとしては市販品を用いることもでき、例えば、三菱ケミカル(株)製、商品名「リンクロン」やBorealis社製、商品名「Visico」を好適に用いることができる。
【0036】
[シラン変性ポリオレフィン組成物]
本発明において、上記のシラン変性ポリオレフィンは単独でも使用することができるし、他の成分と組み合わせたシラン変性ポリオレフィンを含むポリオレフィン組成物(以下、「シラン変性ポリオレフィン組成物」と称す場合がある。)として使用することもできる。シラン変性ポリオレフィン組成物として用いる場合、シラン変性ポリオレフィン組成物全体に対するシラン変性ポリオレフィンの含有率は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、特に好ましくは30質量%以上である。
一方、シラン変性ポリオレフィン組成物全体に対するシラン変性ポリオレフィンの含有率は、好ましくは100質量%未満、より好ましくは90質量%以下である。
シラン変性ポリオレフィン組成物中のシラン変性ポリオレフィンの含有率が上記下限以上であれば、電子線照射での十分な架橋効果が得られ、良好な機械物性を発現しやすくなる。また、シラン変性ポリオレフィン組成物中のシラン変性ポリオレフィンの含有率を上記上限以下とすることで、押出負荷が増えすぎることにより加工性が悪くなり外観荒れを起こすことを抑制しやすい傾向となる。
【0037】
<難燃剤>
本発明で用いるシラン変性ポリオレフィン組成物は、難燃剤を含有していてもよい。
難燃剤は、ハロゲン系難燃剤と非ハロゲン系難燃剤に大別されるが、非ハロゲン系難燃剤が好ましい。非ハロゲン系難燃剤としては、金属水酸化物難燃剤、リン系難燃剤、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)難燃剤及び無機系化合物(硼酸塩、モリブデン化合物)難燃剤が挙げられる。これらの中でも金属水酸化物が好適に用いられる。
金属水酸化物の種類は限定されないが、具体的には、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、ハイドロタルサイトが挙げられ、中でも、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムが好適に用いられる。
これら難燃剤は、1種類を用いても2種類以上を併用してもよい。
【0038】
本発明で用いるシラン変性ポリオレフィン組成物において、難燃剤として金属水酸化物を用いる場合の含有率は、シラン変性ポリオレフィン組成物全体に対して、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、一方、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。金属水酸化物の含有率が上記下限以上であれば、難燃性能を十分に得ることができる。一方、金属水酸化物の含有率が上記上限以下であれば、押出負荷が増大することによる生産性の低下や、機械的特性の低下を防止することができる。
【0039】
<その他の成分>
本発明で用いるシラン変性ポリオレフィン組成物には、必要に応じて、本発明の効果を著しく妨げない範囲で、上述のシラン変性ポリオレフィンと難燃剤以外の重合体類等や添加剤を「その他の成分」として含んでいてもよい。その他の成分は、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組合せと比率で併用してもよい。
【0040】
(重合体類)
前述のシラン変性ポリオレフィン以外の重合体類については特に制限はないが、未変性エチレン系重合体のような未変性オレフィン重合体類を使用することができる。この重合体類は、前記シラン変性ポリオレフィンを用いるシラン変性ポリオレフィン組成物、その成形体、及び架橋成形体における機械的特性や成形性を向上させるための成分として用いられる。
【0041】
前記未変性オレフィン重合体類とは、各種のポリエチレンや共重合により官能基が導入されたエチレン共重合体等のエチレン系重合体や、ポリプロピレンや共重合により官能基が導入されたプロピレン共重合体等のプロピレン系重合体等であって、シランカップリング剤や官能基などにより変性されていない重合体をいう。
ここで、エチレン系重合体、プロピレン系重合体とは、それぞれ、エチレン単位、プロピレン単位を、重合体を構成する全モノマー単位中に最も多く含有する重合体のことを言い、好ましくは50質量%を超える割合で含有する重合体を言う。
【0042】
前記エチレン系重合体の例としては、エチレンと、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン等の炭素数3~20程度の他のα-オレフィンとの共重合体や、エチレンと、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等との共重合体を挙げることができる。
【0043】
前記未変性エチレン系重合体は、密度が0.850~0.970g/cm3のものが好ましく用いられる。密度が0.850g/cm3以上であれば、得られる架橋成形体の耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、耐屈曲性等が良好となり、密度が0.970g/cm3以下であれば、柔軟性が良好となる。
前記未変性エチレン系重合体は、JIS K7210に従って測定した190℃、2.16kg荷重におけるMFRが1~10g/10minであることが好ましい。未変性ポリエチレンのMFRは、シラン変性ポリオレフィンのMFRの規定と同様に、成形性の点では大きい方が好ましく、単位時間当たりの生産量を向上させることができ、機械的特性や耐熱性の点では小さい方が好ましい。
【0044】
前記未変性エチレン系重合体は、1種のみを用いてもよく、モノマー組成や物性等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0045】
シラン変性ポリオレフィン、未変性エチレン系重合体以外の前記重合体類としては、前述の未変性プロピレン系重合体の他、例えば、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸及び/又はその無水物(不飽和カルボン酸成分)により変性されたポリオレフィン、フェニレンエーテル系重合体;カーボネート重合体;ナイロン66、ナイロン11等のポリアミド;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のエステル系重合体、ポリスチレン等のスチレン系重合体、ポリメチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系重合体といった熱可塑性重合体や各種熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0046】
本発明で用いるシラン変性ポリオレフィン組成物が、シラン変性ポリオレフィン以外の重合体類を含有する場合、該重合体類の含有率は、シラン変性ポリオレフィン組成物全体に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上であり、一方、好ましくは30質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。重合体類の含有率が上記下限以上であれば、得られる架橋成形体の耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、耐屈曲性、引張強度等が良好となり、上記上限以下であれば、押出負荷が増大することによる生産性の低下や、機械的特性の低下を防止することができる。
【0047】
(炭化水素系ゴム用軟化剤)
本発明で用いるシラン変性ポリオレフィン組成物は、炭化水素系ゴム用軟化剤を含有していてもよい。炭化水素系ゴム用軟化剤としては、鉱物油系又は合成樹脂系の軟化剤が好ましく、鉱物油系軟化剤がより好ましい。
前記鉱物油系軟化剤は、一般的に、芳香族炭化水素、ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の混合物であり、全炭素原子の50%以上がパラフィン系炭化水素であるものがパラフィン系オイル、全炭素原子の30~45%程度以上がナフテン系炭化水素であるものがナフテン系オイル、全炭素原子の35%以上が芳香族系炭化水素であるものが炭素原子芳香族系オイルと各々呼ばれている。
【0048】
前記合成樹脂系軟化剤としては、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、及び芳香族系オイルから選択される何れかを用いることが好ましい。これらのうち、色相が良好であることから、パラフィン系オイルを用いることがより好ましい。合成樹脂系軟化剤としては、ポリブテン及び低分子量ポリブタジエン等が挙げられる。
【0049】
炭化水素系ゴム用軟化剤は、1種類を用いても2種類以上を併用してもよい。
【0050】
本発明で用いるシラン変性ポリオレフィン組成物が、炭化水素系ゴム用軟化剤を含有する場合、炭化水素系ゴム用軟化剤の含有率は、シラン変性ポリオレフィン組成物全体に対して、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、一方、好ましくは30質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。炭化水素系ゴム用軟化剤の含有率が上記下限以上であれば柔軟性を十分に得ることができ、上記上限以下であれば得られる架橋成形体の機械的特性の低下を防止することができる。
【0051】
(架橋助剤)
本発明で用いるシラン変性ポリオレフィン組成物は、架橋助剤を含有していてもよい。
架橋助剤としては、重合性官能基を1分子中に2以上有するモノマーを使用することができ、典型的には、例えば、ジビニルベンゼン、及びトリアリルシアヌレートなどの多官能性ビニルモノマー;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、及びアリル(メタ)アクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレートモノマー;などであってよい。
前記架橋助剤は、1種のみを用いてもよく、異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
架橋助剤は、架橋度を高める観点では、配合量を増やすことが好ましい。一方、架橋後の成形体から架橋助剤そのもののブリード抑制の観点からは配合量が少ない方が好ましい。
【0053】
本発明で用いるシラン変性ポリオレフィン組成物が、架橋助剤を含有する場合、架橋度を高める一方で、架橋助剤のブリードを抑制する観点から、架橋助剤の含有率は、シラン変性ポリオレフィン組成物全体に対して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、一方、好ましくは4質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0054】
(その他の添加剤)
上記以外のその他の添加剤としては、具体的には、加工助剤、可塑剤、結晶核剤、衝撃改良剤、難燃助剤、架橋触媒、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤、充填材、相溶化剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、カーボンブラック、着色剤が挙げられる。
【0055】
一般に、シラン変性ポリオレフィンを水架橋する場合には、架橋触媒として、シラノール縮合触媒が好適に使用される。シラノール縮合触媒として、具体的には、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクタエート、酢酸第1スズ、カプリル酸第1スズ、カプリル酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト等の金属脂肪酸塩が挙げられる。本発明においては、水架橋工程を必須としないため、架橋触媒は任意成分であり、架橋触媒を含有しない実施形態が好ましい。
ここで、架橋触媒を含有しないとは、シラン変性ポリオレフィン組成物中の架橋触媒に由来する金属換算の含有率として5ppm以下、例えば0~2ppm、好ましくは0ppmであることをさす。なお、この金属換算の含有率は、得られる成形体及び架橋成形体中の架橋触媒由来の金属含有率に等しい。
【0056】
前記の熱安定剤及び酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物が挙げられる。
【0057】
前記の充填材は、有機充填材と無機充填材に大別される。有機充填材としては、例えば、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然由来のポリマーやこれらの変性品が挙げられる。また、無機充填材としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維が挙げられる。
【0058】
[シラン変性ポリオレフィン組成物を得る工程]
本発明で用いるシラン変性ポリオレフィン組成物を得る工程には特に制限はなく、シラン変性ポリオレフィンと上記した金属水酸化物やその他の成分を含有するポリオレフィン組成物が得られるように製造することができればよい。本発明で用いるシラン変性ポリオレフィン組成物は、例えば、各材料を同時に又は任意の順序で混合することで製造することができる。酸化防止剤や着色剤などのその他の成分は、均一に分散させることができればどのタイミングで加えても良い。
【0059】
前記の各原料成分を混合する際の装置に限定はないが、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール、一軸押出機、二軸押出機などの汎用のものが使用できる。溶融混合時の温度は、各原料成分の少なくとも一つが溶融状態となる温度であればよいが、通常は用いる全成分が溶融する温度が選択され、一般には150~250℃で行われる。
【0060】
[成形体を得る工程]
シラン変性ポリオレフィン又はシラン変性ポリオレフィン組成物を成形して成形体を得る工程は、押出成形、圧縮成形、射出成形など特に限定するものではないが、シラン変性ポリオレフィン又はシラン変性ポリオレフィン組成物の溶融状態での流動性の観点から押出成形が望ましい。また成形温度はシラン変性ポリオレフィン又はシラン変性ポリオレフィン組成物の溶融温度より高温であれば限定されないが、150~220℃が望ましい。成形温度が上記下限以上であれば、溶融したシラン変性ポリオレフィン又はシラン変性ポリオレフィン組成物の流動性が高く、目的の形状の成形体を得やすい。一方、成形温度が上記上限以下であれば金属水酸化物の分解等による発泡による外観の悪化が起こりにくい。
【0061】
[成形体のシラノール縮合触媒由来の金属含有率]
本発明に係るシラン変性ポリオレフィン又はシラン変性ポリオレフィン組成物を成形して得られる本発明の成形体は、シラノール縮合触媒由来の金属含有率、例えばスズ含有率が1ppm未満であることを特徴とする。
即ち、本発明においては、電子線架橋を行うことから、環境負荷が懸念される有機スズ化合物等の架橋触媒を用いる必要はなく、得られる成形体は、シラノール縮合触媒としての金属化合物由来の金属含有率は1ppm未満、好ましくは0ppm(金属非含有)のものとすることができる。
【0062】
なお、成形体のシラノール縮合触媒由来の金属含有率、例えばスズ含有率は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
実施例においては、シラノール縮合触媒由来の金属含有率として架橋成形体のスズ含有率を測定しているが、架橋成形体の金属含有率は架橋前の成形体の金属含有率に等しいため、架橋成形体の金属含有率を成形体の金属含有率とすることができる。
【0063】
[電子線照射する工程]
上記シラン変性ポリオレフィン又はシラン変性ポリオレフィン組成物を成形して成形体を得る工程により得られた成形体である本発明の成形体に電子線照射することによって、耐熱性、機械的特性に優れた架橋成形体を得ることができる。
電子線照射する工程では、照射強度が好ましくは60kGy以上、より好ましくは80kGy以上になるように電子線照射を行う。上記照射強度が得られれば、加速電圧や速度は任意で構わない。
電子線照射による架橋処理に要する時間は、目的の照射強度に依存するが、通常数秒から数分程度である。水架橋に要する架橋時間が通常10~24時間であるのに対して、電子線照射による架橋処理であれば大幅に架橋処理時間を短縮することができる。
【0064】
[架橋成形体のシラノール縮合触媒由来の金属含有率]
シラノール縮合触媒由来の金属含有率1ppm未満の本発明の成形体を用いて得られる本発明の架橋成形体は、本発明の成形体と同様シラノール縮合触媒由来の金属含有率1ppm未満、好ましくはシラノール縮合触媒由来の金属含有率0ppm(金属非含有)であり、その製造工程から得られる製品に到るまで、環境負荷が低く安全性の高い架橋成形体である。
本発明の架橋成形体は、具体的には上記の電子線照射する工程により、本発明の成形体に電子線を照射することにより製造される。
【0065】
[架橋成形体の用途]
本発明の架橋成形体の製造方法により製造される本発明の架橋成形体の用途は特に限定するものではないが、優れた耐熱性、機械的特性を併せ持ち、外観に優れ、しかも環境負荷が懸念されるスズ含有の問題もなく、絶縁体、シースとして電線・ケーブルに好適に用いることができる。更には、複数の樹脂被覆電線を束ねるチューブの他、各種絶縁フィルム、絶縁パイプ、電源ボックス等に好適に使用することができる。以上に挙げたものの中でも本発明の架橋成形体の製造方法により製造される本発明の架橋成形体は電線被覆材として、これを電線に用い、電線被覆材を被覆した被覆電線として用いることが特に好ましい。
【実施例0066】
以下、実施例を用いて本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。尚、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0067】
[原料]
以下の実施例及び比較例では、以下の原料を用いた。
【0068】
<ポリエチレン>
ポリエチレン-1:
エチレン・1-ブテン共重合体、商品名:ENGAGE7256(ダウ・ケミカル日本(株)製、MFR:2.5g/10min、密度:0.885g/cm3)
ポリエチレン-2:
ポリエチレン、商品名:NOVATEC HY350(日本ポリエチレン(株)製、MFR:2.5g/10min、密度:0.951/cm3)
【0069】
<シラン変性ポリオレフィン>
シラン変性ポリオレフィン-1:
「ポリエチレン-1」100質量部に対し、不飽和シラン化合物としてビニルトリメトキシシランを2質量部、遊離ラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイトを0.044質量部添加して配合し、これを26mmφの2軸押出機(L/D=49)にて押出樹脂温度200℃で押出した。押出したストランドをペレタイザーでペレット化して「シラン変性ポリオレフィン-1」を製造した。得られたシラン変性ポリエチレン-1のMFRは2.0g/10min、密度は0.890g/cm3であった。
【0070】
<難燃剤>
難燃剤:
合成水酸化アルミニウム 平均粒子径:2.0μm、表面処理のないもの。
【0071】
<その他樹脂・添加剤>
EVA:
エチレン・酢酸ビニル共重合体、商品名:エバフレックスEV360(三井ダウポリケミカル(株)製、MFR:2.0g/10min、密度:0.950g/cm3)
鉱油:
出光興産社製、「ダイアナプロセスオイル PW90」(鉱物油系炭化水素)
架橋助剤:
新中村化学工業社製、「トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(TMPTMA)」
シラノール縮合触媒MB:
「ポリエチレン-2」100質量部に対し、0.1質量部のスズ触媒(ジオクチルスズジラウレート)添加して配合し、これを26mmφの2軸押出機(L/D=49)にて押出樹脂温度200℃で押出した。押出したストランドをペレタイザーでペレット化して「シラノール縮合触媒MB」を製造した。得られたシラノール縮合触媒MBのMFRは3.5g/10min、密度は0.950g/cm3であった。
【0072】
[評価]
<機械物性試験>
架橋処理を行った押出シート(厚さ1mm)を用い、JIS C-3005に準拠して
破断点強度及び破断点伸びの測定を行った。試験片は3号ダンベルを用い、引張速度は200mm/分とした。
破断点強度及び破断点伸びの何れも、値が高い方が好ましいが、引張強度は10MPa以上を合格とし、引張伸度は100%以上を合格とした。
【0073】
<耐熱物性試験>
架橋処理を行った押出シート(厚さ1mm)を用い、IEC60811-2-1を参考にして、ホットセット試験を行った。測定温度は250℃、荷重は20N/cm2とした。
荷重時伸び、永久伸びの何れも、値が低い方が好ましいが、十分な架橋効果が得られている場合は、破断しない。
【0074】
<スズ含有率>
測定試料として架橋処理を行った押出シート(厚さ1mm)を用い、蛍光エックス線分析装置を用い、散乱線ファンダメンタルパラメーター法により架橋成形体のスズ含有率を求めた。なお、スズの検出の積算時間は、300秒とした。
【0075】
[実施例1]
内容量1.0Lの加圧ニーダーに、シラン変性ポリオレフィン-1を60質量部、EVAを40質量部、難燃剤を180質量部、鉱油を5質量部投入し、加圧ニーダーの設定温度100℃で15分間混練した。得られた混練物をペレット化してシラン変性ポリオレフィンを含むポリオレフィン組成物を作製した。
得られた樹脂組成物を単軸押出機を用いて200℃で押出成形し、幅50mm×厚さ1mmの押出シート(架橋前の成形体)を得た。
得られた押出シートを、所定の照射強度(100kGy)で電子線照射処理を行い、シラン変性ポリオレフィン組成物の架橋成形体を得た。
得られた架橋成形体の機械物性試験及び耐熱物性試験の結果を表1に示す。
【0076】
[実施例2~4、比較例1~5、参考例1]
表1、2に示す配合に従い、表1、2に示す電子線照射強度で実施例1と同様にして架橋成形体を得、実施例1と同様に機械物性試験及び耐熱物性試験を実施した。結果を表1、2に示す。
なお、参考例1は、電子線照射架橋処理しない場合を示す。
【0077】
[参考例2]
表1に示す配合に従い、実施例1と同様にして得られた押出シートを、85℃85%RHの恒温恒湿下で24時間の加熱処理(水架橋)を行って架橋成形体を得、実施例1と同様に機械物性試験及び耐熱物性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0078】
また、実施例1~4及び参考例2の架橋成形体についてスズ含有率を測定した。結果を表1,2に示す。
【0079】
【0080】
【0081】
[結果]
表1,2より次のことが分かる。
実施例1は、電子線照射により十分な架橋効果が得られ、引張物性ならびに耐熱物性の向上が認められた。これに対し、シラン変性ポリオレフィンを含まない比較例1~2は、機械物性と耐熱物性に劣るものであった。これは、十分な架橋効果が得られていないためと推察される。
また、電子線照射強度60kGyと低い場合における実施例2~4は、十分な機械強度や耐熱物性を発現し、物性向上に改善がみられた。一方、シラン変性ポリオレフィンを含まない比較例3~5は、架橋助剤を添加しても、機械物性と耐熱物性に劣るものであった。これは、十分な架橋効果が得られていないためと推察される。
参考例2は、シラノール縮合触媒として有機スズ化合物を用いて水架橋を行った例であるが、架橋処理に24時間もの長時間を有する。架橋処理時間が不十分であると、十分に架橋反応が進行せず、得られた架橋成形体は耐熱物性に劣る。しかも、この架橋成形体はスズを含み、環境面で好ましくない。
【0082】
以上の結果から、本発明によれば、生産性と機械物性及び耐熱物性に優れ、しかもスズ等のシラノール縮合触媒由来の金属含有の問題がなく、環境負荷が低く安全性の高い架橋成形体を提供することができることが分かる。