(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152664
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】金属錯体、オレフィン重合用触媒成分およびオレフィン重合用触媒、並びに、オレフィン重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 15/04 20060101AFI20231005BHJP
C07F 9/6596 20060101ALI20231005BHJP
C08F 4/42 20060101ALI20231005BHJP
C08F 4/80 20060101ALI20231005BHJP
C08F 4/72 20060101ALI20231005BHJP
C08F 4/70 20060101ALI20231005BHJP
C08F 10/00 20060101ALI20231005BHJP
C07F 19/00 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
C07F15/04 CSP
C07F9/6596
C08F4/42
C08F4/80
C08F4/72
C08F4/70
C08F10/00 510
C07F19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206132
(22)【出願日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2022057775
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】303061270
【氏名又は名称】日本ポリケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】河島 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】小西 洋平
【テーマコード(参考)】
4H050
4J015
4J128
【Fターム(参考)】
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB40
4H050WB11
4H050WB13
4H050WB14
4H050WB16
4H050WB21
4J015DA09
4J015DA10
4J128AA01
4J128AB00
4J128AC48
4J128BA00A
4J128BA01B
4J128BB00A
4J128BB01B
4J128BC15B
4J128EA01
4J128EB04
4J128EB25
4J128EC01
4J128EC02
4J128FA01
4J128GA01
4J128GA06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】オレフィン重合体の製造用の新規な金属錯体、及びそれを用いたオレフィン重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】例えば、合成した配位子B-454と、周期表9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物である、金属錯体(B-454)NiMePy、該錯体を含むオレフィン重合用触媒が示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と、周期表9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物である、金属錯体。
【化1】
[式[I]、式[II]、式[III]、式[IV]、式[V]および式[VI]中、
X
1、X
2およびX
3は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子またはSO
3を表す。
E
1、E
2およびE
3は、それぞれ独立に、リン原子、砒素原子またはアンチモン原子を表す。
R
7、R
8、R
15、R
16、R
23およびR
24は、それぞれ独立に、ヘテロ原子含有置換基を有していてもよい炭素数1~30の非芳香族炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基を表す。ただし、R
7、R
8、R
15、R
16、R
23およびR
24は無置換シクロヘキシル基ではない。
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
9、R
10、R
11、R
12、R
13、R
17、R
18、R
19、R
20およびR
21は、それぞれ独立に、下記(i)~(iv)からなる群より選ばれる原子または基を表す。
(i)水素原子
(ii)ハロゲン原子
(iii)ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の炭化水素基
(iv)OR
25、CO
2R
25、CO
2M’、C(O)N(R
25)
2、C(O)R
25、OC(O)R
25、SR
25、SO
2R
25、SOR
25、OSO
2R
25、P(O)(OR
25)
2-y(R
25)
y、CN、N(R
25)
2、Si(OR
25)
3-x(R
25)
x、OSi(OR
25)
3-x(R
25)
x、NO
2、SO
3M’、PO
3M’
2、P(O)(OR
25)
2M’、またはエポキシ含有基(ここで,R
25は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表す。xは0から3までの整数、yは0から2までの整数を表す)。R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
9、R
10、R
11、R
12、R
13、R
17、R
18、R
19、R
20およびR
21は、隣接置換基同士が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、または酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群より選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。このとき、環員数は5~8であり、該環上に置換基を有していてもよい。
R
6、R
14およびR
22は、それぞれ独立に、下記(v)~(vii)からなる群より選ばれる原子または基を表す。
(v)ハロゲン原子
(vi)ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の炭化水素基
(vii)OR
25、CO
2R
25、CO
2M’、C(O)N(R
25)
2、C(O)R
25、OC(O)R
25、SR
25、SO
2R
25、SOR
25、OSO
2R
25、P(O)(OR
25)
2-y(R
25)
y、CN、N(R
25)
2、Si(OR
25)
3-x(R
25)
x、OSi(OR
25)
3-x(R
25)
x、NO
2、SO
3M’、PO
3M’
2、P(O)(OR
25)
2M’、またはエポキシ含有基(ここで,R
25、M’、x、yは上記の通りである)。
Z
1、Z
2およびZ
3は、それぞれ独立に、水素原子、または脱離基を表す。
m
1、m
2およびm
3は、それぞれZ
1、Z
2およびZ
3の価数を表す。]
【請求項2】
下記一般式[A]、[B]または[C]で表される、金属錯体。
【化2】
[式[A]、式[B]および式[C]中、
M
1、M
2およびM
3は、それぞれ独立に、周期表9、10または11族に属する遷移金属を表す。
X
1、X
2およびX
3は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子またはSO
3を表す。
E
1、E
2およびE
3は、それぞれ独立に、リン原子、砒素原子またはアンチモン原子を表す。
R
7、R
8、R
15、R
16、R
23およびR
24は、それぞれ独立に、ヘテロ原子含有置換基を有していてもよい炭素数1~30の非芳香族炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基を表す。ただし、R
7、R
8、R
15、R
16、R
23およびR
24は無置換シクロヘキシル基ではない。
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
9、R
10、R
11、R
12、R
13、R
17、R
18、R
19、R
20およびR
21は、それぞれ独立に、下記(i)~(iv)からなる群より選ばれる原子または基を表す。
(i)水素原子
(ii)ハロゲン原子
(iii)ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の炭化水素基
(iv)OR
25、CO
2R
25、CO
2M’、C(O)N(R
25)
2、C(O)R
25、OC(O)R
25、SR
25、SO
2R
25、SOR
25、OSO
2R
25、P(O)(OR
25)
2-y(R
25)
y、CN、N(R
25)
2、Si(OR
25)
3-x(R
25)
x、OSi(OR
25)
3-x(R
25)
x、NO
2、SO
3M’、PO
3M’
2、P(O)(OR
25)
2M’、またはエポキシ含有基(ここで,R
25は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表す。xは0から3までの整数、yは0から2までの整数を表す)。R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
9、R
10、R
11、R
12、R
13、R
17、R
18、R
19、R
20およびR
21は、隣接置換基同士が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、または酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群より選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。このとき、環員数は5~8であり、該環上に置換基を有していてもよい。
R
6、R
14およびR
22は、それぞれ独立に、下記(v)~(vii)からなる群より選ばれる原子または基を表す。
(v)ハロゲン原子
(vi)ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の炭化水素基
(vii)OR
25、CO
2R
25、CO
2M’、C(O)N(R
25)
2、C(O)R
25、OC(O)R
25、SR
25、SO
2R
25、SOR
25、OSO
2R
25、P(O)(OR
25)
2-y(R
25)
y、CN、N(R
25)
2、Si(OR
25)
3-x(R
25)
x、OSi(OR
25)
3-x(R
25)
x、NO
2、SO
3M’、PO
3M’
2、P(O)(OR
25)
2M’、またはエポキシ含有基(ここで,R
25、M’、x、yは上記の通りである)。
R
27、R
28およびR
29は、それぞれ独立に、水素原子、ヘテロ原子を含有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基、またはMに配位したリガンドを表す。
L
1、L
2およびL
3はそれぞれ、M
1、M
2およびM
3に配位したリガンドを表す。また、R
27とL
1、R
28とL
2、R
29とL
3が互いに結合して環を形成してもよい。
]
【請求項3】
前記R7、R8、R15、R16、R23およびR24は、それぞれ独立に、ヘテロ原子含有置換基を有していない炭素数1~30の非芳香族炭化水素基である、請求項1または2に記載の金属錯体。
【請求項4】
前記遷移金属として、ニッケルまたはパラジウムを含む、請求項1または2に記載の金属錯体。
【請求項5】
請求項2に記載の金属錯体を含むことを特徴とする、オレフィン重合用触媒成分。
【請求項6】
下記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と、周期表9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物を含む、オレフィン重合用触媒。
【化3】
[式[I]、式[II]、式[III]、式[IV]、式[V]および式[VI]中、
X
1、X
2およびX
3は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子またはSO
3を表す。
E
1、E
2およびE
3は、それぞれ独立に、リン原子、砒素原子またはアンチモン原子を表す。
R
7、R
8、R
15、R
16、R
23およびR
24は、それぞれ独立に、ヘテロ原子含有置換基を有していてもよい炭素数1~30の非芳香族炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基を表す。ただし、R
7、R
8、R
15、R
16、R
23およびR
24は無置換シクロヘキシル基ではない。
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
9、R
10、R
11、R
12、R
13、R
17、R
18、R
19、R
20およびR
21は、それぞれ独立に、下記(i)~(iv)からなる群より選ばれる原子または基を表す。
(i)水素原子
(ii)ハロゲン原子
(iii)ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の炭化水素基
(iv)OR
25、CO
2R
25、CO
2M’、C(O)N(R
25)
2、C(O)R
25、OC(O)R
25、SR
25、SO
2R
25、SOR
25、OSO
2R
25、P(O)(OR
25)
2-y(R
25)
y、CN、N(R
25)
2、Si(OR
25)
3-x(R
25)
x、OSi(OR
25)
3-x(R
25)
x、NO
2、SO
3M’、PO
3M’
2、P(O)(OR
25)
2M’、またはエポキシ含有基(ここで,R
25は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表す。xは0から3までの整数、yは0から2までの整数を表す)。R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
9、R
10、R
11、R
12、R
13、R
17、R
18、R
19、R
20およびR
21は、隣接置換基同士が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、または酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群より選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。このとき、環員数は5~8であり、該環上に置換基を有していてもよい。
R
6、R
14およびR
22は、それぞれ独立に、下記(v)~(vii)からなる群より選ばれる原子または基を表す。
(v)ハロゲン原子
(vi)ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の炭化水素基
(vii)OR
25、CO
2R
25、CO
2M’、C(O)N(R
25)
2、C(O)R
25、OC(O)R
25、SR
25、SO
2R
25、SOR
25、OSO
2R
25、P(O)(OR
25)
2-y(R
25)
y、CN、N(R
25)
2、Si(OR
25)
3-x(R
25)
x、OSi(OR
25)
3-x(R
25)
x、NO
2、SO
3M’、PO
3M’
2、P(O)(OR
25)
2M’、またはエポキシ含有基(ここで,R
25、M’、x、yは上記の通りである)。Z
1、Z
2およびZ
3は、それぞれ独立に、水素原子、または脱離基を表す。
m
1、m
2およびm
3は、それぞれZ
1、Z
2およびZ
3の価数を表す。]
【請求項7】
前記R7、R8、R15、R16、R23およびR24は、それぞれ独立に、ヘテロ原子含有置換基を有していない炭素数1~30の非芳香族炭化水素基である、請求項6に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項8】
前記遷移金属として、ニッケルまたはパラジウムを含む、請求項6に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項9】
請求項5に記載のオレフィン重合用触媒成分を含む、オレフィン重合用触媒。
【請求項10】
さらに、下記の成分(B)を含む、請求項6に記載のオレフィン重合用触媒。
成分(B):有機アルミニウム化合物
【請求項11】
さらに、下記の成分(B)を含む、請求項9に記載のオレフィン重合用触媒。
成分(B):有機アルミニウム化合物
【請求項12】
前記成分(B)が、下記一般式(1)で表される有機アルミニウム化合物である、請求項10または11に記載のオレフィン重合用触媒。
一般式(1):Al(R31)3(式中、R31は、炭素数1~20の炭化水素基である。)
【請求項13】
請求項6,9~11のいずれか1項に記載のオレフィン重合用触媒の存在下、オレフィンを重合または共重合することを特徴とする、オレフィン重合体の製造方法。
【請求項14】
オレフィンと極性基含有モノマーとを共重合することを特徴とする、請求項13に記載のオレフィン重合体の製造方法。
【請求項15】
前記オレフィンがプロピレンであることを特徴とする、請求項13に記載のオレフィン重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンの重合体及び共重合体の製造に有用な金属錯体、オレフィン重合用触媒成分、オレフィン重合用触媒、並びにそれを用いた新規なオレフィン重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィンと極性基含有モノマーとの共重合体は産業上有用なポリマーである。この共重合体を直接重合によって得るには、通常高圧ラジカル法が用いられる。ただし、この方法は、プロピレンやα-オレフィンを重合できない欠点がある。高圧ラジカル法以外で共重合体を得ることは工業的に困難であり、チーグラー触媒やメタロセン触媒を用いた場合には触媒失活が避けられなかった。
【0003】
その後、1990年代以降には、後周期遷移金属錯体触媒による、エチレンと極性基含有コモノマーとの共重合が精力的に研究された。例えば、Brookhartらにより報告された(α―ジイミン)パラジウム錯体(非特許文献1参照)や、Grubbsらにより報告された(サリチルアミジナート)ニッケル触媒(非特許文献2参照)が知られている。これらの触媒を用いる場合には、連鎖移動の頻発を抑制するために重合温度を低くすることから、コポリマーの生産性は低く、分子量も低いものが一般的であった。
【0004】
近年、エチレンと極性基含有モノマーとの共重合において、上記課題は、(リンスルホネート)パラジウム錯体(特許文献1参照)や、いわゆるSHOP系触媒と呼ばれる、リンと酸素を配位原子とする配位子を有するニッケル触媒である(リンフェノレート)ニッケル錯体(特許文献2-4、非特許文献3、4参照)などの発見により克服されてきた。
また、(リンフェノレート)ニッケル錯体だけでなく,母核がナフタレン骨格の(リンナフタレート)ニッケル錯体によるエチレンやエチレンと極性基含有モノマーの共重合の報告もある(特許文献5、6、非特許文献5、6参照)。
【0005】
このように、(リンフェノレート)ニッケル錯体および(リンナフタレート)ニッケル錯体は、エチレンと極性基含有モノマーとの共重合触媒として有用であったが、オレフィン、特にプロピレンのホモ重合やプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合については、報告例が限定的であり、触媒開発は十分に進んでいない(非特許文献7-9参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-150246号公報
【特許文献2】国際公開第2010/050256号
【特許文献3】米国特許第6559326号明細書
【特許文献4】特開2005-307021号公報
【特許文献5】中国特許出願公開第109320558号明細書
【特許文献6】特開2021-113174号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.1996,118,267-268.
【非特許文献2】Science 2000,287,460-462.
【非特許文献3】Chem.Eur.J.2003,9,6093-6107.
【非特許文献4】Eur.J.Inorg.Chem.2000,3,431-440.
【非特許文献5】J.Am.Chem.Soc.2021,143,17,6516-6527.
【非特許文献6】ACS Catal.2021,11,2902-2911.
【非特許文献7】Angew.Chem.Int.Ed.2016,55,7505-7509.
【非特許文献8】J.Am.Chem.Soc.2015,137,10934-10937.
【非特許文献9】Angew.Chem.Int.Ed.2020,59,22591-22601.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点に鑑み、オレフィン重合体及び共重合体の製造に用いられる、分子量の高い重合体を与える新規な金属錯体、オレフィン重合用触媒成分、オレフィン重合用触媒、並びにそれを用いたオレフィン重合体及び共重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定位置(R6、R14、またはR22)に置換基を有するナフタレン環を架橋部に有し、且つ、リン原子等(E1、E2またはE3)の置換基としてヘテロ原子含有置換基を有していてもよい炭素数1~30の非芳香族炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基を有する配位子構造を備えた特定の遷移金属錯体を用いると、オレフィン、特にプロピレンの重合が可能であって、より分子量が高い重合体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の<1>~<19>に関する。
<1> 下記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と、周期表9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物である、金属錯体。
【0011】
【0012】
[式[I]、式[II]、式[III]、式[IV]、式[V]および式[VI]中、
X1、X2およびX3は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子またはSO3を表す。
E1、E2およびE3は、それぞれ独立に、リン原子、砒素原子またはアンチモン原子を表す。
R7、R8、R15、R16、R23およびR24は、それぞれ独立に、ヘテロ原子含有置換基を有していてもよい炭素数1~30の非芳香族炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基を表す。ただし、R7、R8、R15、R16、R23およびR24は無置換シクロヘキシル基ではない。
R1、R2、R3、R4、R5、R9、R10、R11、R12、R13、R17、R18、R19、R20およびR21は、それぞれ独立に、下記(i)~(iv)からなる群より選ばれる原子または基を表す。
(i)水素原子
(ii)ハロゲン原子
(iii)ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の炭化水素基
(iv)OR25、CO2R25、CO2M’、C(O)N(R25)2、C(O)R25、OC(O)R25、SR25、SO2R25、SOR25、OSO2R25、P(O)(OR25)2-y(R25)y、CN、N(R25)2、Si(OR25)3-x(R25)x、OSi(OR25)3-x(R25)x、NO2、SO3M’、PO3M’2、P(O)(OR25)2M’、またはエポキシ含有基(ここで,R25は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表す。xは0から3までの整数、yは0から2までの整数を表す)。R1、R2、R3、R4、R5、R9、R10、R11、R12、R13、R17、R18、R19、R20およびR21は、隣接置換基同士が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、または酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群より選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。このとき、環員数は5~8であり、該環上に置換基を有していてもよい。
R6、R14およびR22は、それぞれ独立に、下記(v)~(vii)からなる群より選ばれる原子または基を表す。
(v)ハロゲン原子
(vi)ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の炭化水素基
(vii)OR25、CO2R25、CO2M’、C(O)N(R25)2、C(O)R25、OC(O)R25、SR25、SO2R25、SOR25、OSO2R25、P(O)(OR25)2-y(R25)y、CN、N(R25)2、Si(OR25)3-x(R25)x、OSi(OR25)3-x(R25)x、NO2、SO3M’、PO3M’2、P(O)(OR25)2M’、またはエポキシ含有基(ここで,R25、M’、x、yは上記の通りである)。
Z1、Z2およびZ3は、それぞれ独立に、水素原子、または脱離基を表す。
m1、m2およびm3は、それぞれZ1、Z2およびZ3の価数を表す。]
【0013】
<2> 下記一般式[A]、[B]または[C]で表される、金属錯体。
【0014】
【0015】
[式[A]、式[B]および式[C]中、
M1、M2およびM3は、それぞれ独立に、周期表9、10または11族に属する遷移金属を表す。
X1、X2およびX3は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子またはSO3を表す。
E1、E2およびE3は、それぞれ独立に、リン原子、砒素原子またはアンチモン原子を表す。
R7、R8、R15、R16、R23およびR24は、それぞれ独立に、ヘテロ原子含有置換基を有していてもよい炭素数1~30の非芳香族炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基を表す。ただし、R7、R8、R15、R16、R23およびR24は無置換シクロヘキシル基ではない。
R1、R2、R3、R4、R5、R9、R10、R11、R12、R13、R17、R18、R19、R20およびR21は、それぞれ独立に、下記(i)~(iv)からなる群より選ばれる原子または基を表す。
(i)水素原子
(ii)ハロゲン原子
(iii)ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の炭化水素基
(iv)OR25、CO2R25、CO2M’、C(O)N(R25)2、C(O)R25、OC(O)R25、SR25、SO2R25、SOR25、OSO2R25、P(O)(OR25)2-y(R25)y、CN、N(R25)2、Si(OR25)3-x(R25)x、OSi(OR25)3-x(R25)x、NO2、SO3M’、PO3M’2、P(O)(OR25)2M’、またはエポキシ含有基(ここで,R25は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表す。xは0から3までの整数、yは0から2までの整数を表す)。R1、R2、R3、R4、R5、R9、R10、R11、R12、R13、R17、R18、R19、R20およびR21は、隣接置換基同士が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、または酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群より選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。このとき、環員数は5~8であり、該環上に置換基を有していてもよい。
R6、R14およびR22は、それぞれ独立に、下記(v)~(vii)からなる群より選ばれる原子または基を表す。
(v)ハロゲン原子
(vi)ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の炭化水素基
(vii)OR25、CO2R25、CO2M’、C(O)N(R25)2、C(O)R25、OC(O)R25、SR25、SO2R25、SOR25、OSO2R25、P(O)(OR25)2-y(R25)y、CN、N(R25)2、Si(OR25)3-x(R25)x、OSi(OR25)3-x(R25)x、NO2、SO3M’、PO3M’2、P(O)(OR25)2M’、またはエポキシ含有基(ここで,R25、M’、x、yは上記の通りである)。
R27、R28およびR29は、それぞれ独立に、水素原子、ヘテロ原子を含有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基、またはMに配位したリガンドを表す。L1、L2およびL3はそれぞれ、M1、M2およびM3に配位したリガンドを表す。また、R27とL1、R28とL2、R29とL3が互いに結合して環を形成してもよい。]
【0016】
<3> 前記R7、R8、R15、R16、R23およびR24は、それぞれ独立に、ヘテロ原子含有置換基を有していない炭素数1~30の非芳香族炭化水素基である、前記<1>または<2>に記載の金属錯体。
【0017】
<4> 前記E1、E2およびE3が、リン原子である、前記<1>~<3>のいずれか1項に記載の金属錯体。
【0018】
<5> 前記X1、X2およびX3が、酸素原子である、前記<1>~<4>のいずれか1項に記載の金属錯体。
【0019】
<6> 前記遷移金属として、ニッケルまたはパラジウムを含む、前記<1>~<5>のいずれか1項に記載の金属錯体。
<7> 前記遷移金属として、ニッケルを含む、前記<1>~<6>のいずれか1項に記載の金属錯体。
【0020】
<8> 前記<1>~<7>のいずれか1項に記載の金属錯体を含むことを特徴とする、オレフィン重合用触媒成分。
【0021】
<9> 前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と、周期表9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物を含む、オレフィン重合用触媒。
<10> 前記R7、R8、R15、R16、R23およびR24は、それぞれ独立に、ヘテロ原子含有置換基を有していない炭素数1~30の非芳香族炭化水素基である、前記<9>に記載のオレフィン重合用触媒。
<11> 前記E1、E2およびE3が、リン原子である、前記<9>または<10>に記載のオレフィン重合用触媒。
<12> 前記X1、X2およびX3が、酸素原子である、前記<9>~<11>のいずれか1項に記載のオレフィン重合用触媒。
<13> 前記遷移金属として、ニッケルまたはパラジウムを含む、前記<9>~<12>のいずれか1項に記載のオレフィン重合用触媒。
【0022】
<14> 前記<8>に記載のオレフィン重合用触媒成分を含む、オレフィン重合用触媒。
【0023】
<15> さらに、下記の成分(B)を含む、前記<9>~<14>のいずれか1項に記載のオレフィン重合用触媒。
成分(B):有機アルミニウム化合物
【0024】
<16> 前記成分(B)が、下記一般式(1)で表される有機アルミニウム化合物である、前記<15>に記載のオレフィン重合用触媒。
一般式(1):Al(R31)3(式中、R31は、炭素数1~20の炭化水素基である。)
【0025】
<17> 前記<9>~<16>のいずれか1項に記載のオレフィン重合用触媒の存在下、オレフィンを重合または共重合することを特徴とする、オレフィン重合体の製造方法。
【0026】
<18> オレフィンと極性基含有モノマーとを共重合することを特徴とする、前記<17>に記載のオレフィン重合体の製造方法。
<19> 前記オレフィンがプロピレンであることを特徴とする、前記<17>または<18>に記載のオレフィン重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、オレフィン重合体及び共重合体の製造に用いられる、分子量が高い重合体を与える新規な金属錯体、オレフィン重合用触媒成分及びオレフィン重合用触媒を提供することができる。
本発明の金属錯体、オレフィン重合用触媒成分、オレフィン重合用触媒を使用すると、分子量が高いオレフィン(共)重合体、特に分子量が高いプロピレン(共)重合体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と、ニッケル、パラジウム、コバルト、銅またはロジウム等の周期表9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物、典型的には一般式[A]、[B]または[C]で表される金属錯体、並びにそれを触媒成分とし、その触媒成分を含む触媒の存在下に行うオレフィンの重合体の製造方法である。
本発明において、「重合」とは、1種類のモノマーの単独重合と複数種のモノマーの共重合を総称するものであり、特に両者を区別する必要がない場合には、総称して単に「重合」と記載する。また、本発明において、「(メタ)アクリル酸エステル」とは、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの両方を含む。
また、本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0029】
1.金属錯体
本発明の金属錯体は、一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と、周期表9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物である。
【0030】
【化3】
[式[I]、式[II]、式[III]、式[IV]、式[V]および式[VI]中、
X
1、X
2およびX
3は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子またはSO
3を表す。
E
1、E
2およびE
3は、それぞれ独立に、リン原子、砒素原子またはアンチモン原子を表す。
R
7、R
8、R
15、R
16、R
23およびR
24は、それぞれ独立に、ヘテロ原子含有置換基を有していてもよい炭素数1~30の非芳香族炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基を表す。ただし、R
7、R
8、R
15、R
16、R
23およびR
24は無置換シクロヘキシル基ではない。
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
9、R
10、R
11、R
12、R
13、R
17、R
18、R
19、R
20およびR
21は、それぞれ独立に、下記(i)~(iv)からなる群より選ばれる原子または基を表す。
(i)水素原子
(ii)ハロゲン原子
(iii)ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の炭化水素基
(iv)OR
25、CO
2R
25、CO
2M’、C(O)N(R
25)
2、C(O)R
25、OC(O)R
25、SR
25、SO
2R
25、SOR
25、OSO
2R
25、P(O)(OR
25)
2-y(R
25)
y、CN、N(R
25)
2、Si(OR
25)
3-x(R
25)
x、OSi(OR
25)
3-x(R
25)
x、NO
2、SO
3M’、PO
3M’
2、P(O)(OR
25)
2M’、またはエポキシ含有基(ここで,R
25は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表す。xは0から3までの整数、yは0から2までの整数を表す)。R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
9、R
10、R
11、R
12、R
13、R
17、R
18、R
19、R
20およびR
21は、隣接置換基同士が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、または酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群より選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。このとき、環員数は5~8であり、該環上に置換基を有していてもよい。
R
6、R
14およびR
22は、それぞれ独立に、下記(v)~(vii)からなる群より選ばれる原子または基を表す。
(v)ハロゲン原子
(vi)ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の炭化水素基
(vii)OR
25、CO
2R
25、CO
2M’、C(O)N(R
25)
2、C(O)R
25、OC(O)R
25、SR
25、SO
2R
25、SOR
25、OSO
2R
25、P(O)(OR
25)
2-y(R
25)
y、CN、N(R
25)
2、Si(OR
25)
3-x(R
25)
x、OSi(OR
25)
3-x(R
25)
x、NO
2、SO
3M’、PO
3M’
2、P(O)(OR
25)
2M’、またはエポキシ含有基(ここで,R
25、M’、x、yは上記の通りである)。
Z
1、Z
2およびZ
3は、それぞれ独立に、水素原子、または脱離基を表す。
m
1、m
2およびm
3は、それぞれZ
1、Z
2およびZ
3の価数を表す。]
【0031】
本発明の金属錯体である、前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と、周期表9、10または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物は、例えば、前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と、周期表9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物とを接触させることにより得られる。
本発明において「接触」とは、前記一般式[I]~[VI]中のE1、E2またはE3が、上記遷移金属と配位結合を形成でき、かつ/又は、前記一般式[I]~[VI]中のX1、X2およびX3が、上記遷移金属と単結合を形成できるように、前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と、上記遷移金属化合物とが十分近傍に存在することを意味する。そして、前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と上記遷移金属化合物とを接触させるとは、これらの化合物を十分近傍に存在させ、上記2種類の結合の少なくともいずれか一方が形成できるように、これらの化合物を混合することを意味する。
前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と上記遷移金属化合物とを混合する条件は、特に限定されない。これらの化合物を直に混合してもよいし、溶媒を用いて混合してもよい。特に、均一な混合を達成する観点から、溶媒を用いることが好ましい。
得られる金属錯体中において、前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物は配位子となることから、前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と上記遷移金属化合物との反応は、通常、配位子交換反応となる。得られる金属錯体が上記遷移金属化合物よりも熱力学的に安定である場合には、前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と上記遷移金属化合物とを室温(15~30℃)で混合することにより配位子交換反応が進行する。一方、得られる金属錯体が上記遷移金属化合物よりも熱力学的に不安定である場合には、配位子交換反応を十分に進行させるため、上記混合物を適宜加熱することが好ましい。
【0032】
前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と、周期表9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物である金属錯体としては、後述する一般式[A]、[B]または[C]に示す構造を有すると推定される。
しかし、前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物は、二座配位子であるから、当該化合物を周期表9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物と接触させた場合には一般式[A]、[B]または[C]に示す構造以外の構造を有する金属錯体が生成する可能性がある。例えば、一般式[I]~[VI]中のX1、X2またはX3のみが遷移金属と結合を形成する場合や、これらの式中のE1、E2またはE3のみが遷移金属と結合を形成する場合も考えられる。また、一般式[A]、[B]または[C]で表される金属錯体は、前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と遷移金属化合物との1:1反応生成物であるところ、遷移金属の種類によっては異なる組成比の反応生成物が得られることも考えられる。例えば、2分子以上の前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物が1つの遷移金属と錯体を形成する場合も考えられるし、前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物1分子が2つ以上の遷移金属と反応して多核錯体を合成する場合も考えられる。
本発明においては、このような一般式[A]、[B]または[C]に示す構造以外の構造を有する金属錯体が、一般式[A]、[B]または[C]で表される金属錯体と同様に、オレフィン(共)重合体の製造に用いることが可能であることを否定するものではない。
【0033】
本発明の金属錯体を使用すると、分子量が高いオレフィン(共)重合体を得ることができる。
(i)ナフタレン環において、中心金属Mと結合するX1、X2またはX3に隣り合う炭素原子の置換基R6、R14またはR22が置換基であることにより、R6、R14またはR22が中心金属M側に張り出すため、中心金属Mが立体的に覆われること、及び、(ii)リン原子等のE1、E2またはE3上の置換基R7、R8、R15、R16、R23およびR24が、三次元的に広がるヘテロ原子含有置換基を有していてもよい炭素数1~30の非芳香族炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基であること、これらの相乗効果によって、本発明の金属錯体を使用すると、連鎖移動反応が抑制され、分子量が高いオレフィン(共)重合体を得ることができると推定される。
従来のリン(E1等)上置換基が平面的な構造を有する芳香族炭化水素基の場合に比べて、リン(E1等)上置換基が三次元的に広がる非芳香族炭化水素基、炭化水素基置換アミノ基または炭化水素基置換シリル基であると、その三次元的に広がる嵩高さにより連鎖移動反応が抑制され、より高分子量の重合体が得られると推定される。
【0034】
以下、前記一般式[I]~[VI]中のR1~R24、E1、E2およびE3、X1、X2およびX3、Z1、Z2およびZ3、ならびに、m1、m2およびm3について説明する。
【0035】
R1、R2、R3、R4、R5、R9、R10、R11、R12、R13、R17、R18、R19、R20およびR21は、それぞれ独立に、下記(i)~(iv)からなる群より選ばれる原子または基を表す。
(i)水素原子
(ii)ハロゲン原子
(iii)ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の炭化水素基
(iv)OR25、CO2R25、CO2M’、C(O)N(R25)2、C(O)R25、OC(O)R25、SR25、SO2R25、SOR25、OSO2R25、P(O)(OR25)2-y(R25)y、CN、N(R25)2、Si(OR25)3-x(R25)x、OSi(OR25)3-x(R25)x、NO2、SO3M’、PO3M’2、P(O)(OR25)2M’、またはエポキシ含有基(ここで,R25は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表す。xは0から3までの整数、yは0から2までの整数を表す)。
【0036】
(ii)ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。これらの中でも、フッ素原子が好ましい。
【0037】
(iii)におけるヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子、セレン原子、ケイ素原子、ハロゲン原子、ホウ素原子が挙げられる。置換基としてのヘテロ原子としては、ハロゲン原子であってよく、ハロゲン原子としては前記(ii)と同様であってよい。
(iii)におけるヘテロ原子含有置換基として、例えば、酸素原子含有置換基としては、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基等が挙げられ、窒素原子含有置換基としては、アミノ基、アミド基が挙げられ、硫黄原子含有置換基としては、アルキルチオ基やアリールチオ基が挙げられ、リン原子含有置換基としては、フォスフィノ基が挙げられ、セレン原子含有置換基としては、セレニル基が挙げられ、ケイ素原子含有置換基としては、トリアルキルシリル基、ジアルキルアリールシリル基、アルキルジアリールシリル基が挙げられ、フッ素原子含有置換基としては、フルオロアルキル基、フルオロアリール基が挙げられ、ホウ素原子含有置換基としては、アルキルホウ素基、アリールホウ素基が挙げられる。また、(iii)におけるヘテロ原子含有置換基としては、後述する(iv)に挙げられるヘテロ原子含有置換基と同様の基であってもよい。(iii)に使用されるヘテロ原子含有置換基としては、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはアルコキシカルボニル基であってよい。
【0038】
(iii)における炭素数1~30の炭化水素基としては、例えば、直鎖、分岐、環状の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらの組み合わせが挙げられ、炭素数1~30の直鎖状アルキル基、炭素数3~30の分岐した非環状アルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアリールアルキル基、及び炭素数7~30のアルキルアリール基等が挙げられる。
炭素数1~30の炭化水素基としては、具体的には例えば、メチル基、エチル基、1-プロピル基、1-ブチル基、1-ペンチル基、1-ヘキシル基、1-ヘプチル基、1-オクチル基、1-ノニル基、1-デシル基、t-ブチル基、トリシクロヘキシルメチル基、イソ(i-)プロピル基、1-ジメチルプロピル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,1-ジエチルプロピル基、i-ブチル基、1,1-ジメチルブチル基、2-ペンチル基、3-ペンチル基、2-ヘキシル基、3-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、2-ヘプチル基、3-ヘプチル基、4-ヘプチル基、2-プロピルヘプチル基、2-オクチル基、3-ノニル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、ノルボルニル基、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、フェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、2,5-ジメチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、2-エチルフェニル基、3-エチルフェニル基、4-エチルフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、2,3,4-トリメチルフェニル基、2,4,5-トリメチルフェニル基、3,4,5-トリメチルフェニル基、2-i-プロピルフェニル基、3-i-プロピルフェニル基、4-i-プロピルフェニル基、2,4-ジi-プロピルフェニル基、2,5-ジi-プロピルフェニル基、2,6-ジi-プロピルフェニル基、3,5-ジi-プロピルフェニル基、2-t-ブチルフェニル基、3-t-ブチルフェニル基、4-t-ブチルフェニル基、2,4-ジt-ブチルフェニル基、2,5-ジt-ブチルフェニル基、2,6-ジt-ブチルフェニル基、3,5-ジt-ブチルフェニル基、ペンタメチルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、フルオレニル基、トリル基、ベンジル基等が挙げられる。
【0039】
(iii)においては、R1、R2、R3、R4、R5、R9、R10、R11、R12、R13、R17、R18、R19、R20およびR21に相当する置換基の総炭素数が、好ましくは1~30であり、より好ましくは2~25であり、さらに好ましくは4~20である。
(iii)としては、(iii-A)炭素数1~30の直鎖状アルキル基、炭素数3~30の分岐した非環状アルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアリールアルキル基、及び炭素数7~30のアルキルアリール基、(iii-B)上記(iii-A)のそれぞれの基に上記ヘテロ原子が1又は2以上置換している基、(iii-C)上記(iii-A)のそれぞれの基にヘテロ原子含有置換基が1又は2以上置換している基、並びに、(iii-D)上記(iii-A)のそれぞれの基に、上記ヘテロ原子が1又は2以上置換し、かつ、ヘテロ原子含有置換基が1又は2以上置換している基を指す。(iii-C)については、例えば、アルコキシ基が置換しているアルキル基や、アルコキシカルボニル基が置換しているアリール基等が挙げられる。
【0040】
(iv)は、OR25、CO2R25、CO2M’、C(O)N(R25)2、C(O)R25、OC(O)R25、SR25、SO2R25、SOR25、OSO2R25、P(O)(OR25)2-y(R25)y、CN、N(R25)2、Si(OR25)3-x(R25)x、OSi(OR25)3-x(R25)x、NO2、SO3M’、PO3M’2、P(O)(OR25)2M’、またはエポキシ含有基である。ここで,R25は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表す。xは0から3までの整数、yは0から2までの整数を表す。
また、(iv)のヘテロ原子含有置換基に含まれる複数の基(R25)が互いに連結し、環を形成してもよい。例えば、N(R25)2はカルバゾリル基であってもよい。
【0041】
前記(iv)の例示としては、例えば、水酸基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基、フェノキシ基、p-メチルフェノキシ基、p-メトキシフェノキシ基、エトキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、ジメチルアミド基、アセチル基、ベンゾイル基、アセトキシ基、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、i-プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、t-ブチルチオ基、フェニルチオ基、メチルスルホニル基、フェニルスルホニル基、メチルスルホニルオキシ基、フェニルスルホニルオキシ基、ジメチルホスフェート基、シアノ基、アミノ基(NH2)、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ-n-プロピルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、メチルエチルアミノ基、メチル-n-プロピルアミノ基、メチルシクロヘキシルアミノ基、カルバゾリル基、ピペリジル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリメチルシリルオキシ基、トリメトキシシロキシ基、カルボン酸ナトリウム、スルフォン酸ナトリウム、スルフォン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等が挙げられる。
【0042】
また、R1、R2、R3、R4、R5、R9、R10、R11、R12、R13、R17、R18、R19、R20およびR21は、隣接置換基同士が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、または酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群より選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。このとき、環員数は5~8であり、該環上に置換基を有していてもよい。当該置換基としては、前記(ii)、(iii)及び(iv)の少なくとも1種が挙げられる。
【0043】
R1、R2、R3、R4、R5、R9、R10、R11、R12、R13、R17、R18、R19、R20およびR21は、それぞれ独立に、好ましいものとして、(i)水素原子;(ii)フッ素原子、塩素原子、臭素原子;(iii)炭素数1~30の直鎖状アルキル基、炭素数3~30の分岐した非環状アルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアリールアルキル基、及び炭素数7~30のアルキルアリール基;(iv)メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、ニトリル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリメチルシリルオキシ基、トリメトキシシロキシ基、シクロヘキシルアミノ基、スルフォン酸ナトリウム、スルフォン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等が挙げられる。
R1、R2、R3、R4、R5、R9、R10、R11、R12、R13、R17、R18、R19、R20およびR21は、それぞれ独立に、これらの中で特に好ましいものとしては、(i)水素原子;(iii)メチル基、i-プロピル基、t-ブチル基;(iv)メトキシ基、トリメチルシリル基等が挙げられる。
R1、R2、R3、R4、R5、R9、R10、R11、R12、R13、R17、R18、R19、R20およびR21としては、Mに電子的影響を与え、触媒のチューニングに使用できる点から、それぞれ独立に、(iii)ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群から選ばれる基で置換されていてもよい炭素数1~30の炭化水素基、または(iv)ヘテロ原子含有置換基であってもよいが、合成の点からは水素原子であってよい。
【0044】
R6、R14およびR22は、それぞれ独立に、下記(v)~(vii)からなる群より選ばれる原子または基を表す。
(v)ハロゲン原子
(vi)ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の炭化水素基
(vii)OR25、CO2R25、CO2M’、C(O)N(R25)2、C(O)R25、OC(O)R25、SR25、SO2R25、SOR25、OSO2R25、P(O)(OR25)2-y(R25)y、CN、N(R25)2、Si(OR25)3-x(R25)x、OSi(OR25)3-x(R25)x、NO2、SO3M’、PO3M’2、P(O)(OR25)2M’、またはエポキシ含有基(ここで,R25、M’、x、yは上記の通りである)。
【0045】
(v)ハロゲン原子としては、前記(ii)ハロゲン原子と同様であってよい。
(vi)ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の炭化水素基としては、前記(iii)ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の炭化水素基と同様であってよい。
(vii)のヘテロ原子含有置換基としても、前記(iv)のヘテロ原子含有置換基と同様であってよい。
【0046】
R6、R14およびR22は、配位後に中心金属M(遷移金属)との距離が近くなり、中心金属Mに直接的に立体的および電子的な影響を及ぼすため、中でも、(v)フッ素原子、(vi)ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群から選ばれる基で置換されていてもよい炭素数1~30の炭化水素基、又は(vii)ヘテロ原子含有置換基であることが好ましく、(vi)ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群から選ばれる基で置換されていてもよい炭素数1~30の炭化水素基、又は(vii)ヘテロ原子含有置換基であることがより好ましい。
【0047】
R6、R14およびR22として用いられる(vi)ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群から選ばれる基で置換されていてもよい炭素数1~30の炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、1-プロピル基、i-プロピル基、1-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、ノルボルニル基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントラセニル基、フルオレニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、2,5-ジメチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、2-エチルフェニル基、3-エチルフェニル基、4-エチルフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、2,3,4-トリメチルフェニル基、2,4,5-トリメチルフェニル基、3,4,5-トリメチルフェニル基、2-i-プロピルフェニル基、3-i-プロピルフェニル基、4-i-プロピルフェニル基、2,4-ジi-プロピルフェニル基、2,5-ジi-プロピルフェニル基、2,6-ジi-プロピルフェニル基、3,5-ジi-プロピルフェニル基、2-t-ブチルフェニル基、3-t-ブチルフェニル基、4-t-ブチルフェニル基、2,4-ジt-ブチルフェニル基、2,5-ジt-ブチルフェニル基、2,6-ジt-ブチルフェニル基、3,5-ジt-ブチルフェニル基、2,6-ジメトキシフェニル基、ペンタメチルフェニル基、ペンタフルオロフェニル基等が好適なものとして挙げられる。
また、R6、R14およびR22として用いられるヘテロ原子含有置換基としては、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基、フェノキシ基、p-メチルフェノキシ基、p-メトキシフェノキシ基、エトキシカルボニル基、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、i-プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、t-ブチルチオ基、フェニルチオ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ-n-プロピルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、カルバゾリル基、ピペリジル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリメチルシリルオキシ基、トリメトキシシロキシ基等が好適なものとして挙げられる。
【0048】
R6、R14およびR22は、金属錯体となった際には、中心金属M(遷移金属)側に張り出して、立体的に相互作用を及ぼす。こうした効果を及ぼすためには、R6、R14およびR22は嵩高い方が好ましい。そのため、R6、R14およびR22の炭化水素基の好ましい炭素数は3~30、さらに好ましくは3~20、よりさらに好ましくは3~15である。
【0049】
R6、R14およびR22は、それぞれ独立に、ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群から選ばれる基で置換されていてもよい、炭素数3~30の直鎖状アルキル基、炭素数3~30の分岐した非環状アルキル基、炭素数3~30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアリールアルキル基、又は、炭素数7~30のアルキルアリール基であってよく、ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群から選ばれる基で置換されていてもよい、炭素数3~30の分岐した非環状アルキル基、炭素数3~30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアリールアルキル基、又は、炭素数7~30のアルキルアリール基であってよく、ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群から選ばれる基で置換されていてもよい、炭素数6~30のアリール基、又は、炭素数7~30のアルキルアリール基であってよい。炭素数7~30のアルキルアリール基としては、炭素数1~6のアルキル基が置換した炭素数6~18のアリール基であってもよい。
【0050】
R7、R8、R15、R16、R23およびR24は、それぞれ独立に、ヘテロ原子含有置換基を有していてもよい炭素数1~30の非芳香族炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基を表す。ただし、R7、R8、R15、R16、R23およびR24は無置換シクロヘキシル基ではない。
R7、R8、R15、R16、R23およびR24は、金属錯体となった際には、中心金属Mの近傍に位置し、前記特定の基であることから三次元的に広がり、少なくとも立体的に中心金属Mに相互作用を及ぼし、さらに電子的に相互作用を及ぼす。
【0051】
R7、R8、R15、R16、R23およびR24における、ヘテロ原子含有置換基としては、前記(iii)及び(iv)において説明したヘテロ原子含有置換基と同様であってよい。
R7、R8、R15、R16、R23およびR24における非芳香族炭化水素基としては、直鎖、分岐、環状の飽和脂肪族炭化水素基、及びこれらの組み合わせが挙げられ、炭素数1~30の直鎖状アルキル基、炭素数3~30の分岐した非環状アルキル基、及び炭素数3~30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基等が挙げられる。
炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基は、2つの炭素数1~20の炭化水素基で置換されているアミノ基であってよい。
また、炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基は、3つの炭素数1~20の炭化水素基で置換されているシリル基であってよい。
アミノ基またはシリル基に置換されている炭素数1~20の炭化水素基としては、前記(iii)において説明した炭化水素基のうち、炭素数1~20の炭化水素基と同様であってよい。
【0052】
R7、R8、R15、R16、R23およびR24はそれぞれ独立に、ヘテロ原子含有置換基を有していてもよい炭素数1~30の非芳香族炭化水素基、炭素数1~12の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1~12の炭化水素基置換シリル基であってよく、ヘテロ原子含有置換基を有していてもよい炭素数1~12の非芳香族炭化水素基、炭素数1~6の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1~6の炭化水素基置換シリル基であってよい。
前記R7、R8、R15、R16、R23およびR24は、それぞれ独立に、ヘテロ原子含有置換基を有していない炭素数1~30の非芳香族炭化水素基であることが、分子量が高い重合体を与えやすい点から好ましい。
【0053】
R7、R8、R15、R16、R23およびR24としては、具体的には例えば、メチル基、エチル基、1-プロピル基、1-ブチル基、1-ペンチル基、1-ヘキシル基、1-ヘプチル基、1-オクチル基、1-ノニル基、1-デシル基、t-ブチル基、トリシクロヘキシルメチル基、イソ(i-)プロピル基、1-ジメチルプロピル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,1-ジエチルプロピル基、i-ブチル基、1,1-ジメチルブチル基、2-ペンチル基、3-ペンチル基、2-ヘキシル基、3-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、2-ヘプチル基、3-ヘプチル基、4-ヘプチル基、2-プロピルヘプチル基、2-オクチル基、3-ノニル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキシル基(以下、メンチル基という場合がある)、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、i-プロポキシメチル基、t-ブトキシメチル基等のヘテロ原子含有置換基を有していてもよい炭素数1~30の非芳香族炭化水素基;
ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジn-プロピルアミノ基、ジi-プロピルアミノ基、ジi-ブチルアミノ基、ジt-ブチルアミノ基、ジメンチルアミノ基、ジ(1-アダマンチル)アミノ基、ジ(2-アダマンチル)アミノ基、ジフェニルアミノ基等の炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基;
トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリn-プロピルシリル基、トリi-プロピルシリル基、トリt-ブチルシリル基、トリi-ブチルシリル基、トリメンチルシリル基、トリ(1-アダマンチル)シリル基、ジ(2-アダマンチル)シリル基、ジt-ブチルメチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、トリフェニルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、フェニルジメチルシリル基等の炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基が挙げられる。
【0054】
金属Mの近傍に位置し、三次元的に広がり、立体的および電子的にMに相互作用を及ぼすためには、R7、R8、R15、R16、R23およびR24は、嵩高い方が好ましく、各基に含まれる炭素数は好ましくは3以上、好ましくは4以上、より好ましくは6以上であり、上限値は20以下であってよく、14以下であってよい。
R7、R8、R15、R16、R23およびR24は、中でも立体障害と電子供与性の点から、炭素数3~20の分岐した非環状アルキル基、及び炭素数7~20の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基からなる群から選択される少なくとも1つであってよく、t-ブチル基、メンチル基、またはアダマンチル基であってよい。
【0055】
X1、X2およびX3はそれぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、またはSO3を表す。
この中でも電子的影響の点から、分子量が高い重合体を与えやすい点から、X1、X2およびX3は酸素原子であることが好ましい。
E1、E2およびE3はそれぞれ独立に、リン原子、砒素原子またはアンチモン原子を表す。この中でも電子的影響の点から、分子量が高い重合体を与えやすい点から、E1、E2およびE3はリン原子であることが好ましい。
Z1、Z2およびZ3はそれぞれ独立に、水素原子、または脱離基を表す。Z1、Z2およびZ3は、具体的には、水素原子、ハロゲン原子、R26SO2基(ここでR26は、炭素数1~20の炭化水素基を表す)、CF3SO2基などを挙げることができる。ハロゲン原子としては、臭素原子、またはヨウ素原子であってよく、R26SO2基の具体例としては、トシル基(p-トルエンスルホニル基)、メシル基(メタンスルホニル基)等が挙げられる。
m1、m2およびm3はそれぞれ独立に、Zの価数を表す。
【0056】
本発明における前記一般式(I)または(IV)で表される化合物における置換基等の具体的な組み合わせを下記表1に、前記一般式(II)または(V)で表される化合物における置換基等の具体的な組み合わせを下記表2に、前記一般式(III)または(VI)で表される化合物における置換基等の具体的な組み合わせを下記表3に示す。
例えば、表1において、R1~R8、E1、X1、Z1、及びm1の組み合わせにより前記一般式(I)で表される化合物を表し、R1~R8、E1、及びX1の組み合わせにより前記一般式(IV)で表される化合物を表している。ただし、具体例は、下記例示に限定されるものではない。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
なお、本明細書において、Meはメチル基、Etはエチル基、iPrはi-プロピル基、tBuはt-ブチル基、OMeはメトキシ基、Phはフェニル基、C6F5はペンタフルオロフェニル基、2,6-(iPr)2Phは2,6-ジi-プロピルフェニル基、2,6-(OMe)2Phは2,6-ジメトキシフェニル基、SiMe3はトリメチルシリル基、NEt2はジエチルアミノ基、CH2OEtはエトキシメチル基を表す。
【0061】
前記一般式[I]~[VI]で表される化合物については、公知の合成法に基づいて合成することができる。
【0062】
本発明で用いられる周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物は、一般式[I]~[VI]で表される化合物と反応して、重合能を有する錯体を形成可能なものが使用される。これらは、プリカーサー(前駆体)とも呼ばれることがある。
9族、10族または11族の遷移金属を含む遷移金属化合物としては、例えば一般式[I]または[IV]で表される化合物に対しては、下記一般式[VII]で表される遷移金属化合物を使用することができる。
一般式[VII]:MR27’
pL1
qR30
r
(ここで、Mは、9族、10族または11族の遷移金属原子であり、R27’は、水素原子、ヘテロ原子を含有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基、またはMに配位した中性リガンドを表し、L1は、Mに配位したリガンドを表し、R27’とL1が互いに結合して環を形成してもよい。R30は、それぞれ独立に、水素原子、ヘテロ原子を含有していてもよい炭素数1~30の炭化水素基、OR25、CO2R25、CO2M’、C(O)N(R25)2、C(O)R25、OC(O)R25、SR25、SO2R25、SOR25、OSO2R25、P(O)(OR25)2-y(R25)y、CN、N(R25)2、Si(OR25)3-x(R25)x、OSi(OR25)3-x(R25)x、NO2、SO3M’、PO3M’2、P(O)(OR25)2M’、またはエポキシ含有基(ここで,R25、M’、x、およびyは、上記の通りである。)を表す。pは1以上の整数、qは1以上の整数、rは0以上の整数であり、p+q+rはMの価数を満たす。)
【0063】
同様に、一般式[II]または[V]で表される化合物に対しては、下記一般式[VIII]で表される遷移金属化合物を使用することができ、一般式[III]または[VI]で表される化合物に対しては、下記一般式[IX]で表される遷移金属化合物を使用することができる。
一般式[VIII]:MR28’
pL2
qR30
r
一般式[IX]:MR29’
pL3
qR30
r
ここで、M、R30、p、q及びrは、それぞれ独立に一般式[VII]と同様であってよく、R28’及びR29’は、それぞれ独立に一般式[VII]のR27’と同様であってよく、L2及びL3は、それぞれ独立に一般式[VII]のL1と同様であってよい。以下一般式[VII]について説明するが、一般式[VIII]および一般式[IX]はそれぞれ独立に、一般式[VII]と同様であってよい。
【0064】
本発明において、Mは、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属原子である。Mは、好ましくは、10族のニッケル原子、パラジウム原子、白金原子および9族のコバルト原子、ロジウム原子および11族の銅原子であり、さらに好ましくは、10族のニッケル原子、パラジウム原子、白金原子であり、分子量が高い重合体を与えやすい点、共重合に用いるコモノマーとの相性の点から、最も好ましくは10族のニッケル原子またはパラジウム原子である。
Mの価数については2価であってもよい。ここでMの価数とは、有機金属化学で用いられる形式酸化数(formal oxidation number)を意味する。すなわち、ある元素が関与する結合中の電子対を電気陰性度の大きい元素に割り当てたとき、その元素の原子上に残る電荷の数を指す。例えば、後述する一般式[A]において、E1がリン原子、X1が酸素原子、M1がニッケル原子、R27がフェニル基、L1がピリジンであり、ニッケル原子がリン原子、酸素原子、フェニル基の炭素原子、ピリジンの窒素原子と結合を形成している場合、ニッケル原子の形式酸化数、すなわちニッケル原子の価数は2価となる。なぜならば、上述の定義に基づき、これらの結合において、電子対は、ニッケル原子よりも電気陰性度の大きいリン原子、酸素原子、炭素原子、窒素原子に割り当てられ、電荷は、リン原子が0、酸素原子が-1、フェニル基が-1、ピリジンが0で、錯体は、全体として電気的に中性であるため、ニッケル原子上に残る電荷は+2となるからである。
2価の遷移金属としては、例えば、ニッケル(II)、パラジウム(II)、白金(II)、コバルト(II)が好ましく、2価以外では、銅(I)またはロジウム(III)であってもよい。
【0065】
本発明においてR27’は、水素原子、ヘテロ原子を含有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基、またはMに配位した中性リガンドを表す。
R27’の具体的な例としては、ヒドリド基、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、フェニル基、p-メチルフェニル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリフェニルシリル基等を挙げることができる。
また、Mがニッケル原子で0価の遷移金属化合物の場合、R27’は、Mに配位した中性リガンドであってよい。R27’においてMに配位した中性リガンドとしては、中性の電子供与性リガンドである。一つの例としては、電気的に中性であり不対電子を金属Mに配位させることで配位結合を形成しうるリガンドであり、不対電子を有する窒素原子、リン原子、ヒ素原子、酸素原子、硫黄原子、セレン原子などを有する炭素数1~20の炭化水素化合物が挙げられる。また別の例としては、遷移金属に配位可能な炭素-炭素不飽和結合を有するヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素化合物、具体的には、π電子を供与することによってπ供与結合を形成するエチレン、シクロオクタジエンのような化合物、金属に配位する不飽和結合及びヘテロ原子を有するジベンジリデンアセトン(dba)のような化合物が挙げられる。これらの例として、アセトニトリル、イソニトリル、一酸化炭素、エチレン、テトラヒドロフランなど、金属錯体の中性リガンドとして公知のもの、アリルやシクロペンタジエニルなどπ電子を供与するリガンドを用いることができる。
【0066】
本発明におけるリガンドL1は、配位結合可能な原子として、不対電子を有する窒素原子、リン原子、ヒ素原子、酸素原子、硫黄原子、セレン原子を有する炭素数1~20の炭化水素化合物である。また、L1として、遷移金属に配位可能な炭素-炭素不飽和結合を有するヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素化合物も使用することができる。好ましくは、L1の炭素数は、1~16であり、さらに好ましくは1~10である。後述する一般式(A)中のMと配位結合するL1としては、電荷を持たない化合物が好ましい。
【0067】
本発明における好ましいL1としては、環状不飽和炭化水素類、ホスフィン類、ピリジン類、ピペリジン類、アルキルエーテル類、アリールエーテル類、アルキルアリールエーテル類、環状エーテル類、アルキルニトリル誘導体、アリールニトリル誘導体、アルコール類、アミド類、脂肪族エステル類、芳香族エステル類、アミン類などを挙げることができる。さらに好ましいL1としては、環状オレフィン類、ホスフィン類、ピリジン類、環状エーテル類、脂肪族エステル類、芳香族エステル類が挙げられ、特に好ましいL1として、トリアルキルホスフィン、ピリジン、ルチジン(ジメチルピリジン)、ピコリン(メチルピリジン)、RaCO2Ra(ここで、Raは、炭素数1~20の炭化水素を表す)を挙げることができる。
なお、R27’とL1が互いに結合して環を形成してもよい。そのような例として、1,5-シクロオクタジエンや、下記一般式[VII-1]で示されるπ-アリル結合様式を挙げることができ、これも本発明における好ましい様態である。
下記一般式[VII-1]で示されるπ-アリル結合様式は、一般式[VII]中、MおよびR27’とL1が一つになりπ-アリル結合を形成した部分のみを示す。
【0068】
【化4】
[式[VII-1]中、ここでR
30は、前記のとおりである。]
【0069】
一般式[VII-1]中、R30としては、水素原子、メチル基、エチル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、フェニル基が好ましい。
【0070】
前記一般式[VII]において、R30は含まれなくてもよく、含まれる場合は、前記一般式[I]または[IV]で表される化合物と置換されて、反応生成物である金属錯体には残らないものを表す。R30におけるハロゲン原子、ヘテロ原子を含有していてもよい炭素数1~30の炭化水素基、OR25、CO2R25、CO2M’、C(O)N(R25)2、C(O)R25、OC(O)R25、SR25、SO2R25、SOR25、OSO2R25、P(O)(OR25)2-y(R25)y、CN、N(R25)2、Si(OR25)3-x(R25)x、OSi(OR25)3-x(R25)x、NO2、SO3M’、PO3M’2、P(O)(OR25)2M’、またはエポキシ含有基は、前記と同様であってよい。
【0071】
用いられる遷移金属化合物のうち、例えば、ニッケル原子を含む遷移金属化合物としては、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)、一般式:Ni(CH2CR30CH2)2で表される錯体[ここでR30は、前記のとおりである。]、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)、一般式:Ni(CH2SiR30
3)2L1
2で表される錯体(ここでR30、L1は、前記の通りである。)、一般式:NiR27’
2L1
2で表される錯体(ここでR27’、L1は、前記のとおりである。)等を使用することができる。
【0072】
これらの遷移金属化合物のうち、好ましく用いられるものは、ニッケル(0)ビス(1,5-シクロオクタジエン)、NiPhCl(PEt3)2(以下、Phはフェニル、Etはエチルを表す。)、NiPhCl(PPh3)2、NiPhCl(TMEDA)(以下、TMEDAはテトラメチルエチレンジアミンを表す。)、NiArBr(TMEDA)(ここで、Arは4-フルオロフェニルである。)、Ni(acac)2(以下acacはアセチルアセトンを表す)、一般式:Ni(CH2CR30CH2)2で表される錯体で表される錯体(ここでR30は前記の通りである。)、一般式:Ni(CH2SiR30
3)2L1
2で表される錯体(ここでR30、L1は前記の通りである。)、一般式:NiR27’
2L1
2で表される錯体(ここでR27’、L1は、前記の通りである。
)、Pd(dba)2(以下、dbaは、ジベンジリデンアセトンを表す。)、Pd2(dba)3、Pd3(dba)4、Pd(OCOCH3)2、(1,5-シクロオクタジエン)Pd(メチル)(クロリド)である。
特に好ましくは、ニッケル(0)ビス(1,5-シクロオクタジエン)、NiPhCl(PEt3)2、NiPhCl(PPh3)2、NiPhCl(TMEDA)、NiArBr(TMEDA)、Ni(acac)2、Ni(CH2CHCH2)2、Ni(CH2CMeCH2)2、Ni(CH2SiMe3)2(Py)2(以下Pyは、ピリジンを表す。)、Ni(CH2SiMe3)2(Lut)2(以下Lutは、2,6-ルチジンを表す。)、NiPh2(Py)2、NiPh2(Lut)2,Pd(dba)2、Pd2(dba)3、Pd3(dba)4、Pd(OCOCH3)2、(1,5-シクロオクタジエン)Pd(メチル)(クロリド)である。
【0073】
本発明の反応生成物は、前述の一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と前述の遷移金属化合物とを、例えば1:99~99:1(モル比)で、0~100℃のトルエンやベンゼン等の有機溶媒中で、減圧~加圧下で1~86400秒間接触させることにより、得ることができる。遷移金属化合物として、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(Ni(cod)2)のトルエンやベンゼン溶液を用いる場合には、溶液の色が黄色から、例えば赤色に変化することにより、反応生成物の生成が確認できる。
【0074】
本反応後、遷移金属化合物を構成している成分であって、当該化合物中の遷移金属以外の一部が、一般式[I]~[III]中のZを除いた部分や一般式[IV]~[VI]で表される化合物によって置換されて、下記一般式[A]、[B]または[C]で表される金属錯体等の、一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と遷移金属化合物との反応生成物である金属錯体が生成する。この置換反応は、定量的に進行する方が好ましいが、場合によっては完全に進行しなくてもよい。反応終了後、一般式[A]、[B]または[C]で表される金属錯体等の、一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と遷移金属化合物との反応生成物である金属錯体以外に、一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物、及び遷移金属化合物由来の他の成分が共存し得るが、本発明の重合反応または共重合反応を行う際に、これらの他の成分は、除去してもよいし、除去しなくてもよい。一般的には、これらの他の成分は、除去した方が、高活性が得られるので好ましい。
【0075】
前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と、周期表9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物中に、下記一般式[A]、[B]または[C]で表される本発明の金属錯体が含まれる。ただし、上述したように、前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と、周期表9、10または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物である金属錯体の構造は、下記一般式[A]、[B]または[C]で表される構造のみに限定されるものではない。
【0076】
なお、下記一般式[A]、[B]または[C]で表される金属錯体を製造する際には、前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と、周期表9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応を行う際に、さらに、配位性化合物(L1、L2、またはL3)や一般式[A]、[B]または[C]におけるR27、R28、またはR29に置換するための共有結合性化合物を共存させてもよい。
本発明に係る遷移金属原子として、ニッケル原子やパラジウム原子を用いた場合には、ルイス塩基性の配位性化合物を系内に共存させることによって、生成した金属錯体の安定性が増す場合があり、このような場合には、配位性化合物が本発明の重合反応または共重合反応を阻害しない限りにおいて、配位性化合物を共存させてもよい。
本発明で用いられる配位性化合物とは、配位結合可能な原子として、酸素原子、窒素原子、リン原子、ヒ素原子、硫黄原子、セレン原子を有する炭素数1~20の炭化水素化合物、または、遷移金属に配位可能な炭素-炭素不飽和結合を有するヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素化合物を使用することができ、前記L1と同義であって良い。
【0077】
また、本発明で用いられる前記共有結合性化合物とは、遷移金属化合物由来の配位子を一般式[A]、[B]または[C]におけるR27、R28、またはR29に置換可能な化合物であって、有機金属化合物であってよい。R27、R28、またはR29は重合反応の開始末端としてポリマー中に取り込まれるとともに、重合反応の初速度に大きく寄与することができ、状況に応じてR27、R28、またはR29を導入するための共有結合性化合物も併用することが好ましい。
前記共有結合性化合物としては、有機リチウム化合物を挙げることができ、R27Li、R28Li、またはR29Li(ここで、R27はヘテロ原子を含有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基)であってよく、炭素数1~10の炭化水素基を有する有機リチウム化合物であってよい。炭素数1~10の炭化水素基を有する有機リチウム化合物としては、メチルリチウム、n-ブチルリチウム、フェニルリチウム等が挙げられる。この中でも好ましくは、メチルリチウム、フェニルリチウムであり、さらに好ましくはメチルリチウムである。
【0078】
また、本発明の金属錯体は、下記一般式[A]、[B]または[C]で表される金属錯体である。
【0079】
【化5】
[式[A]、式[B]および式[C]中、
M
1、M
2およびM
3は、それぞれ独立に、周期表9、10または11族に属する遷移金属を表す。
X
1、X
2およびX
3は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子またはSO
3を表す。
E
1、E
2およびE
3は、それぞれ独立に、リン原子、砒素原子またはアンチモン原子を表す。
R
7、R
8、R
15、R
16、R
23およびR
24は、それぞれ独立に、ヘテロ原子含有置換基を有していてもよい炭素数1~30の非芳香族炭化水素基、炭素数1~20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1~20の炭化水素基置換シリル基を表す。ただし、R
7、R
8、R
15、R
16、R
23およびR
24は無置換シクロヘキシル基ではない。
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
9、R
10、R
11、R
12、R
13、R
17、R
18、R
19、R
20およびR
21は、それぞれ独立に、下記(i)~(iv)からなる群より選ばれる原子または基を表す。
(i)水素原子
(ii)ハロゲン原子
(iii)ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の炭化水素基
(iv)OR
25、CO
2R
25、CO
2M’、C(O)N(R
25)
2、C(O)R
25、OC(O)R
25、SR
25、SO
2R
25、SOR
25、OSO
2R
25、P(O)(OR
25)
2-y(R
25)
y、CN、N(R
25)
2、Si(OR
25)
3-x(R
25)
x、OSi(OR
25)
3-x(R
25)
x、NO
2、SO
3M’、PO
3M’
2、P(O)(OR
25)
2M’、またはエポキシ含有基(ここで,R
25は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表す。xは0から3までの整数、yは0から2までの整数を表す)。R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
9、R
10、R
11、R
12、R
13、R
17、R
18、R
19、R
20およびR
21は、隣接置換基同士が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、または酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群より選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。このとき、環員数は5~8であり、該環上に置換基を有していてもよい。
R
6、R
14およびR
22は、それぞれ独立に、下記(v)~(vii)からなる群より選ばれる原子または基を表す。
(v)ハロゲン原子
(vi)ヘテロ原子およびヘテロ原子含有置換基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の炭化水素基
(vii)OR
25、CO
2R
25、CO
2M’、C(O)N(R
25)
2、C(O)R
25、OC(O)R
25、SR
25、SO
2R
25、SOR
25、OSO
2R
25、P(O)(OR
25)
2-y(R
25)
y、CN、N(R
25)
2、Si(OR
25)
3-x(R
25)
x、OSi(OR
25)
3-x(R
25)
x、NO
2、SO
3M’、PO
3M’
2、P(O)(OR
25)
2M’、またはエポキシ含有基(ここで,R
25、M’、x、yは上記の通りである)。
R
27、R
28およびR
29は、それぞれ独立に、水素原子、ヘテロ原子を含有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基、またはMに配位したリガンドを表す。
L
1、L
2およびL
3はそれぞれ、M
1、M
2およびM
3に配位したリガンドを表す。また、R
27とL
1、R
28とL
2、R
29とL
3が互いに結合して環を形成してもよい。
]
【0080】
前記一般式[A]、[B]または[C]中、R1~R24、E1~E3、X1~X3は上記の通りである。このように、上記反応生成物中の金属錯体と、一般式(A)、[B]または[C]に示す金属錯体との間には、ナフタレン環を含む主骨格や、これら置換基(R1~R24、E1~E3、X1~X3)の点において錯体構造の共通性がある。
また、一般式[A]、[B]または[C]中のM1、M2およびM3はそれぞれ独立に、前記遷移金属化合物において説明したMと同様であってよい。本明細書において、M1、M2および/またはM3を総称または代表し、“M”として説明することがある。
また、一般式[A]、[B]または[C]中のL1、L2およびL3はそれぞれ独立に、前記遷移金属化合物において説明した通りである。
以下、一般式[A]、[B]または[C]中のR27、R28およびR29について説明する。
【0081】
本発明においてR27、R28およびR29はそれぞれ独立に、水素原子、ヘテロ原子を含有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基、またはMに配位したリガンドを表す。
一般式(VII)において、MがNiで0価の遷移金属化合物におけるR27’は、Mに配位した中性リガンドであってよいが、例えば前記一般式[I]で表されるいずれかの化合物と、MがNiで0価の遷移金属化合物とが反応する場合、Niは2価になるため、反応後のR27は、中性リガンドではなく、アニオン性リガンドになる。例えば、前記一般式[I]または[II]で表される化合物と、ニッケル(0)ビス(1,5-シクロオクタジエン)とが反応した場合、遷移金属化合物由来の配位子は、R27とL1が互いに結合して環を形成したシクロオクテン-1-イル基となる。
本発明における重合または共重合反応は、M1とR27、M2とR28、またはM3とR29の結合にオレフィン等が挿入されることによって、開始されると考えられる。したがって、R27、R28およびR29の炭素数が過度に多いと、この開始反応が阻害される傾向にある。このため、好ましいR27、R28およびR29としては、置換基に含まれる炭素数を除く炭素数が1~16、さらに好ましくは当該炭素数が1~10である。
R27、R28およびR29の具体的な例としては、ヒドリド基、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、フェニル基、p-メチルフェニル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリフェニルシリル基等を挙げることができる。
なお、R27とL1が互いに結合して環を形成してもよい。そのような例として、シクロオクテン-1-イル基、アセチルアセトナート基等を挙げることができ、これも本発明における好ましい様態である。
【0082】
本発明における上記一般式[A]、[B]または[C]で表される金属錯体中の置換基等の具体的な組み合わせを、下記表4~表6に示す。表中、σ,π-COEは、σ,π-シクロオクタ-4-エニル基を表す。例えばR27とL1の2つの欄に“σ,π-COE”と記載している場合、R27とL1同士で互いに結合して、シクロオクトエニル環を形成していることを表す。また、ルチジンは2,6-ジメチルピリジンを表す。ただし、具体例は、下記例示に限定されるものではない。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
金属錯体の構造の理解のため、上記表4に記載の錯体A-1の構造式と名称を示す。この構造式の錯体は、(2-(ビス-t-ブチルホスファニル)-8-フェニルナフタレート)ニッケル(σ,π-シクロオクタ-4-エニル)と称する。
【0087】
【0088】
本発明において、反応をオレフィンの重合やオレフィンと極性基含有モノマーとの共重合に使用する反応器とは別の容器で予め行ったうえで、得られた反応生成物や金属錯体を、オレフィンの重合やオレフィンと極性基含有モノマーとの共重合に供してもよいし、反応をこれらのモノマーの存在下に行ってもよい。また、反応を、オレフィンの重合やオレフィンと極性基含有モノマーとの共重合に使用する反応器の中で行ってもよい。この際に、これらのモノマーは存在していてもよいし、存在していなくてもよい。また、一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物については、単独の成分を用いてもよいし、複数種の成分を併用してもよい。特に、分子量分布やコモノマー含量分布を広げる目的には、こうした複数種の併用が有用である。
【0089】
2.金属錯体の製造方法
本発明の金属錯体は、上述したように、前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と、周期表9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物とを接触させ、必要に応じて更に前記配位性化合物や前記共有結合性化合物を用いて反応させることにより、前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と周期表9、10または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物である金属錯体、一般式[A]、[B]または[C]で表される金属錯体を製造することができる。
【0090】
3.オレフィン重合用触媒成分
本発明のオレフィン重合用触媒成分は、前記本発明の金属錯体を含むことを特徴とする。
本発明においては、前記本発明の金属錯体、すなわち、前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と周期表9、10または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物である金属錯体や、前記一般式[A]、[B]または[C]で表される金属錯体を、重合または共重合の触媒成分として使用することができる。前記本発明の金属錯体を触媒成分に用いる場合、反応生成物を単離することなくそのまま用いてもよいし、単離したものを用いてもよいし、担体に担持したものを用いてもよい。こうした担持オレフィンの重合やオレフィンと極性基含有モノマーとの共重合に使用する反応器中で、これらのモノマーの存在下または非存在下で行ってもよいし、該反応器とは別の容器中で行ってもよい。
【0091】
使用可能な担体としては、本発明の主旨をそこなわない限りにおいて、任意の担体を用いることができる。一般に、無機酸化物やポリマー担体が好適に使用できる。具体的には、SiO2、Al2O3、MgO、ZrO2、TiO2、B2O3、CaO、ZnO、BaO、ThO2等またはこれらの混合物が挙げられ、SiO2-Al2O3、SiO2-V2O5、SiO2-TiO2、SiO2-MgO、SiO2-Cr2O3等の混合酸化物も使用することができ、無機ケイ酸塩、ポリエチレン担体、ポリプロピレン担体、ポリスチレン担体、ポリアクリル酸担体、ポリメタクリル酸担体、ポリアクリル酸エステル担体、ポリエステル担体、ポリアミド担体、ポリイミド担体などが使用可能である。これらの担体については、粒径、粒径分布、細孔容積、比表面積などに特に制限はなく、任意のものが使用可能である。
【0092】
無機ケイ酸塩としては、粘土、粘土鉱物、ゼオライト、珪藻土等が使用可能である。これらは、合成品を用いてもよいし、天然に産出する鉱物を用いてもよい。粘土、粘土鉱物の具体例としては、アロフェン等のアロフェン族、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト等のカオリン族、メタハロイサイト、ハロイサイト等のハロイサイト族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト、バーミキュライト等のバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母鉱物、アタパルジャイト、セピオライト、パイゴルスカイト、ベントナイト、木節粘土、ガイロメ粘土、ヒシンゲル石、パイロフィライト、リョクデイ石群等が挙げられる。
これらは混合層を形成していてもよい。人工合成物としては、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライト等が挙げられる。これら具体例のうち好ましくは、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト等のカオリン族、メタハロサイト、ハロサイト等のハロサイト族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト、バーミキュライト等のバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母鉱物、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライトが挙げられ、特に好ましくはモンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト、バーミキュライト等のバーミキュライト鉱物、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライトが挙げられる。
【0093】
これらの担体は、そのまま用いてもよいが、塩酸、硝酸、硫酸等による酸処理および/または、LiCl、NaCl、KCl、CaCl2、MgCl2、Li2SO4、MgSO4、ZnSO4、Ti(SO4)2、Zr(SO4)2、Al2(SO4)3等の塩類処理を行ってもよい。該処理において、対応する酸と塩基を混合して反応系内で塩を生成させて処理を行ってもよい。また粉砕や造粒等の形状制御や乾燥処理を行ってもよい。
【0094】
4.オレフィン重合用触媒
本発明のオレフィン重合用触媒は、前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と、周期表9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物を含むことを特徴とする。
本発明のオレフィン重合用触媒において、前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と、周期表9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物は前述と同様であってよいので、ここでの説明を省略する。
本発明のオレフィン重合用触媒においては、後述の実施例で示されるように、前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と、周期表9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物を、特に精製することなくそのまま使用して、オレフィン重合用触媒として用いてもよい。
【0095】
また、本発明のオレフィン重合用触媒は、前記本発明に係るオレフィン重合用触媒成分、或いは、前記本発明に係る金属錯体を含むことを特徴とする。
前記本発明に係るオレフィン重合用触媒成分、或いは、前記本発明に係る金属錯体は、前述と同様であってよいので、ここでの説明を省略する。
【0096】
本発明のオレフィン重合用触媒は、下記の成分(A)、更に必要に応じて成分(B)を含んでもよい。
成分(A):前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と周期表9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物、或いは、前記本発明に係る金属錯体
成分(B):有機アルミニウム化合物
【0097】
成分(A)は、前記一般式[I]~[VI]で表されるいずれかの化合物と周期表9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物、或いは、前記本発明に係る金属錯体であり、1種類の金属錯体のみを用いてもよいし、2種類以上の金属錯体を組み合わせて用いてもよく、反応生成物を含む組成物であってもよい。
【0098】
成分(B)として使用される、有機アルミニウム化合物の一例は、次の一般式で表される。
Al(R31)aX(3-a)
一般式中、R31は、炭素数1~20の炭化水素基、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基又はシロキシ基を示し、aは0より大きく3以下の数を示す。
R31は、炭素数1~20の炭化水素基であるが、好ましくは1~12のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられる。R31における炭素数1~20の炭化水素基としては、前記(iii)において説明した炭化水素基のうち、炭素数1~20の炭化水素基と同様であってよい。
【0099】
中でも、良好な助触媒である点、分子量が高い重合体を与えやすい点から、下記一般式(1)で表される有機アルミニウム化合物であることが好ましい。
一般式(1):Al(R31)3(式中、R31は、炭素数1~20の炭化水素基である。)
【0100】
前記一般式で表される有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ-n-オクチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムモノクロライド、ジエチルアルミニウムモノメトキシドなどのハロゲン又はアルコキシ含有アルキルアルミニウムが挙げられ、中でもトリアルキルアルミニウムが好ましい。
トリアルキルアルミニウムのアルキル基としては、前述と同様であってよく、中でもメチル基、イソブチル基、n-オクチル基が好ましく、これらの中では、トリイソブチルアルミニウムまたはトリ-n-オクチルアルミニウムが好ましい。
【0101】
上記の有機アルミニウム化合物は2種以上併用してもよい。また、上記のアルミニウム化合物をアルコール、フェノールなどで変性して用いてもよい。これらの変性剤としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、フェノール、2,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノールなどが例示され、好ましい具体例は、2,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノールである。
【0102】
本発明のオレフィン重合用触媒は、更に必要に応じて(C)を含んでもよい。
成分(C):成分(A)と反応してイオン対を形成する化合物又はイオン交換性層状珪酸塩
成分(C)の一つとして、有機アルミニウムオキシ化合物が挙げられる。上記有機アルミニウムオキシ化合物は、分子中に、Al-O-Al結合を有し、その結合数は通常1~100、好ましくは1~50個の範囲にある。このような有機アルミニウムオキシ化合物は、通常、有機アルミニウム化合物と水とを反応させて得られる生成物である。
有機アルミニウムと水との反応は、通常、不活性炭化水素(溶媒)中で行われる。不活性炭化水素としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素及び芳香族炭化水素が使用できるが、脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素を使用することが好ましい。
【0103】
有機アルミニウムオキシ化合物の調製に用いる有機アルミニウム化合物は、下記一般式で表される化合物がいずれも使用可能であるが、好ましくはトリアルキルアルミニウムが使用される。
(Rx)tAl(X4)(3-t)
(一般式中、Rxは、炭素数1~20の炭化水素基を示し、X4は、水素原子又はハロゲン原子を示し、tは、1≦t≦3の整数を示す。)
Rxは、炭素数1~20の炭化水素基であるが、好ましくは1~12のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられる。Rxにおける炭素数1~20の炭化水素基としては、前記(iii)において説明した炭化水素基のうち、炭素数1~20の炭化水素基と同様であってよい。
トリアルキルアルミニウムのアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、i-プロピル基、ブチル基、i-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基などのいずれでも差し支えないが、メチル基、i-ブチル基が好ましい。上記有機アルミニウム化合物は、2種以上混合して使用することもできる。
【0104】
水と有機アルミニウム化合物との反応比(水/Alモル比)は、0.25/1~1.2/1、特に、0.5/1~1/1であることが好ましく、反応温度は、通常-70℃~100℃、好ましくは-20℃~20℃の範囲にある。反応時間は、通常5分~24時間、好ましくは10分~5時間の範囲で選ばれる。反応に要する水として、単なる水のみならず、硫酸銅水和物、硫酸アルミニウム水和物などに含まれる結晶水や反応系中に水が生成しうる成分も利用することもできる。
なお、上記した有機アルミニウムオキシ化合物のうち、アルキルアルミニウムと水とを反応させて得られるものは、通常、アルミノキサンと呼ばれ、特にメチルアルミノキサン(実質的にメチルアルミノキサン(MAO)からなるものを含む)は、有機アルミニウムオキシ化合物として、好適である。MAO溶液を溶媒留去して得られた固体状のドライメチルアルミノキサン(DMAO)もまた好適である。
もちろん、有機アルミニウムオキシ化合物として、上記した各有機アルミニウムオキシ化合物の2種以上を組み合わせて使用することもでき、また、前記有機アルミニウムオキシ化合物を前述の不活性炭化水素溶媒に溶解又は分散させた溶液としたものを用いてもよい。
【0105】
また、成分(C)の具体例として、イオン交換性層状珪酸塩が挙げられる。イオン交換性層状珪酸塩(以下、単に「珪酸塩」と略記する場合がある。)は、イオン結合などによって構成される面が互いに結合力で平行に積み重なった結晶構造を有し、且つ、含有されるイオンが交換可能である珪酸塩化合物をいう。珪酸塩は、各種公知のものが知られており、具体的には、白水晴雄著「粘土鉱物学」朝倉書店(1995年)に記載されている。
本発明において、成分(C)として好ましく用いられるものは、スメクタイト族に属するもので、具体的にはモンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイトなどを挙げることができる。中でも、共重合体部分の重合活性、分子量を高める観点からモンモリロナイトが好ましい。
【0106】
大部分の珪酸塩は、天然には主に粘土鉱物の主成分として産出されるため、イオン交換性層状珪酸塩以外の夾雑物(石英やクリストバライトなど)が含まれることが多く、本発明で用いられるスメクタイト族の珪酸塩に夾雑物が含まれていてもよい。
珪酸塩は酸処理及び/又は塩類処理を行ってもよい。該処理においては、対応する酸と塩基を混合して反応系内で塩を生成させて処理を行ってもよい。
【0107】
成分(C)として、前記の有機アルミニウムオキシ化合物と、イオン交換性層状珪酸塩との混合物を用いることもできる。更に、それぞれを単独でも用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0108】
本発明に係るオレフィン重合用触媒の調製法においては、成分(A)、(B)、更に必要に応じて(C)を接触させる方法は、特に限定されないが、次の様な方法を例示することができる。
【0109】
(i)成分(A)と成分(B)とを接触させた後に、成分(C)を添加する方法
(ii)成分(A)と成分(C)とを接触させた後に、成分(B)を添加する方法
(iii)成分(B)と成分(C)とを接触させた後に、成分(A)を添加する方法
(iv)各成分(A)、(B)、(C)を同時に接触させる方法。
更に、各成分中で別種の成分を混合物として用いてもよいし、別々に順番を変えて接触させてもよい。なお、この接触は、触媒調製時だけでなく、オレフィンによる予備重合時又はオレフィンの重合時に行ってもよい。
又、成分(B)と成分(C)とを接触させた後、成分(A)と成分(B)の混合物を加えるというように、成分を分割して各成分に接触させてもよい。
上記の各成分(A)(B)(C)の接触は、窒素などの不活性ガス中において、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレンなどの不活性炭化水素溶媒中で行うことが好ましい。接触は、-20℃から溶媒の沸点の間の温度で行うことができ、特に室温から溶媒の沸点の間での温度で行うのが好ましい。
【0110】
5.オレフィン重合体の製造方法
本発明のオレフィン重合体の製造方法の一実施形態は、前記本発明のオレフィン重合用触媒の存在下で、オレフィンを重合又は共重合するものである。
また、本発明のオレフィン重合体の製造方法の一実施形態としては、前記本発明の金属錯体を含む前記オレフィン重合用触媒の存在下で、オレフィンを重合又は共重合することが好ましく、前記本発明のオレフィン重合用触媒における前記成分(B)の有機アルミニウム化合物が前記一般式(1)で表される有機アルミニウム化合物であることがより好ましい。
【0111】
本発明におけるオレフィンは、鎖状オレフィンであっても環状オレフィンであっても良く、炭素数3~22のα-オレフィン及び炭素数4~20の環状オレフィンから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
本発明におけるα-オレフィンとしては、一般式:CH2=CHR40で表されるオレフィンが挙げられる。ここで、R40は、水素原子または炭素数1~20の炭化水素基であり、分岐、環、および/または不飽和結合を有していてもよい。R40の炭素数が20より大きいと、十分な重合活性が発現しない傾向がある。このため、なかでも、好ましいオレフィンとしては、R40が水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であるオレフィンが挙げられる。
また、炭素数4~20の環状オレフィンは、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、ノルボルネン等が挙げられる。
好ましいオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、ビニルシクロヘキセン、スチレンが挙げられる。重合体の製造効率の点から、中でも、エチレン、プロピレン、1-ブテン、及びノルボルネンからなる群から選択される1種以上であることが好ましく、更に、エチレンであることが好ましい。なお、単独のオレフィンを使用してもよいし、複数のオレフィンを併用してもよい。
【0112】
本発明のオレフィン重合体の製造方法の他の実施形態は、上記重合用触媒の存在下に、オレフィンと、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、ビニルモノマー又はアリルモノマー等の極性基含有モノマーとを共重合するものである。
本発明における(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、一般式:CH2=C(R40)CO2(R41)で表される。ここで、R40は、水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であり、分岐、環、および/または不飽和結合を有していてもよい。R41は、炭素数1~30の炭化水素基であり、分岐、環、および/または不飽和結合を有していてもよい。さらに、R41内の任意の位置にヘテロ原子を含有していてもよい。
R40の炭素数が11以上であると、十分な重合活性が発現しない傾向がある。したがって、R40は、水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であるが、好ましい(メタ)アクリル酸エステルとしては、R40が水素原子または炭素数1~5の炭化水素基であるものが挙げられる。より好ましい(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、R40がメチル基であるメタクリル酸エステルまたはR40が水素原子であるアクリル酸エステルが挙げられる。同様に、R41の炭素数が30を超えると、重合活性が低下する傾向がある。よって、R41の炭素数は1~30であるが、R41は、好ましくは炭素数1~12であり、さらに好ましくは炭素数1~8である。
また、R41内に含まれていても良いヘテロ原子としては、酸素、硫黄、セレン、リン、窒素、ケイ素、フッ素、ホウ素等が挙げられる。これらのヘテロ原子のうち、酸素、ケイ素、フッ素が好ましく、酸素が更に好ましい。また、R41は、ヘテロ原子を含まないものも好ましい。
【0113】
さらに好ましい(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸-2-アミノエチル、(メタ)アクリル酸-2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸-3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸エチレンオキサイド、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチル、(メタ)アクリル酸-2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロエチル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルジメチルアミド、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等が挙げられる。なお、単独の(メタ)アクリル酸エステルを使用してもよいし、複数の(メタ)アクリル酸エステルを併用してもよい。
【0114】
本発明におけるビニルモノマーは、含ハロゲン、含窒素、含酸素、含硫黄等の極性基を有するビニルモノマーで、特にハロゲン、水酸基、アミノ基、ニトロ基、カルボキシル基、ホルミル基、アルコキシカルボニル基、エポキシ基、ニトリル基等を含有するビニルモノマーである。具体的には、5-ヘキセン-1-オール、2-メチル-3-ブテン-1-オール、10-ウンデセン酸エチル、1,2-エポキシ-9-デセン、9-デセン-1-オール、9-デセニル-アセテート、10-ウンデセン-1-オール、12-トリデセン-2-オール、10-ウンデカノイック酸、メチル-9-デセネート、t-ブチル-10-ウンデセネート、1,1-ジメチル-2-プロペン-1-オール、9-デセン-1-オール、3-ブテン酸、3-ブテン-1-オール、N-(3-ブテン-1-イル)フタルイミド、5-ヘキセン酸、5-ヘキセン酸メチル、5-ヘキセン-2-オン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル等が挙げられる。この中でも、特に3-ブテン-1-オール、10-ウンデセン酸エチル、1,2-エポキシ-9-デセン、9-デセン-1-オール、9-デセニル-アセテート、10-ウンデセン-1-オールが好ましい。
【0115】
本発明におけるアリルモノマーは、炭素数3のアリルモノマー(プロぺニルモノマー)、アリル基を有する、炭素数4以上のアリル系モノマーが例示される。アリルモノマーは、含ハロゲン、含窒素、含酸素、含硫黄等の極性基を有するアリルモノマーで、特にハロゲン、水酸基、アミノ基、ニトロ基、カルボキシル基、ホルミル基、アルコキシカルボニル基、エポキシ基、ニトリル基等を含有するビニルモノマーである。好ましい具体例として、酢酸アリル、アリルアルコール、アリルアミン、N-アリルアニリン、N-t-ブトキシカルボニル-N-アリルアミン、N-ベンジルオキシカルボニル-N-アリルアミン、N-アリル-N-ベンジルアミン、塩化アリル、臭化アリル、アリルエーテル、ジアリルエーテルなどが挙げられる。これらの中でも、特に酢酸アリル、アリルアルコールが好ましく、酢酸アリル、アリルエーテル、ジアリルエーテルがより好ましい。
【0116】
本発明の共重合反応としては、オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとを共重合することが、重合活性の点から好適な態様として挙げられる。
【0117】
本発明の重合反応は、プロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素溶媒や液化オレフィン等の液体、また、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、安息香酸メチル、アセトン、メチルエチルケトン、ホルミアミド、アセトニトリル、メタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール等のような極性溶媒の存在下あるいは非存在下に行われる。また、ここで記載した液体化合物の混合物を溶媒として使用してもよい。さらに、イオン液体も溶媒として使用可能である。なお、高い重合活性や高い分子量を得るうえでは、上述の炭化水素溶媒やイオン液体がより好ましい。
【0118】
本発明では、公知の添加剤の存在下または非存在下で重合反応を行うことができる。添加剤としては、ラジカル重合を禁止する重合禁止剤や、生成共重合体を安定化する作用を有する添加剤が好ましい。例えば、キノン誘導体やヒンダードフェノール誘導体などが好ましい添加剤の例として挙げられる。具体的には、モノメチルエーテルハイドロキノンや、2,6-ジ-t-ブチル4-メチルフェノール(BHT)、トリメチルアルミニウムとBHTとの反応生成物、4価チタンのアルコキサイドとBHTとの反応生成物などが使用可能である。また、添加剤として、無機およびまたは有機フィラーを使用し、これらのフィラーの存在下で重合を行っても良い。さらに、本発明に係るL1、L2またはL3やイオン液体を添加剤として用いてもよい。
【0119】
本発明における好ましい添加剤として、ルイス塩基が挙げられる。適切なルイス塩基を選択することにより、活性、分子量、アクリル酸エステルの共重合性を改良することができる。ルイス塩基の量としては、重合系内に存在する触媒成分中の遷移金属Mに対して、0.0001当量~1000当量、好ましくは0.1当量~100当量、さらに好ましくは、0.3当量~30当量である。ルイス塩基を重合系に添加する方法については、特に制限はなく、任意の手法を用いることができる。例えば、本発明の触媒成分と混合して添加してもよいし、モノマーと混合して添加してもよいし、触媒成分やモノマーとは独立に重合系に添加してもよい。また、複数のルイス塩基を併用してもよい。また、本発明に係るL1、L2またはL3と同じルイス塩基を用いてもよいし、異なっていてもよい。
【0120】
ルイス塩基としては、芳香族アミン類、脂肪族アミン類、アルキルエーテル類、アリールエーテル類、アルキルアリールエーテル類、環状エーテル類、アルキルニトリル類、アリールニトリル類、アルコール類、アミド類、脂肪族エステル類、芳香族エステル類、ホスフェート類、ホスファイト類、チオフェン類、チアンスレン類、チアゾール類、オキサゾール類、モルフォリン類、環状不飽和炭化水素類などを挙げることができる。これらのうち、特に好ましいルイス塩基は、芳香族アミン類、脂肪族アミン類、環状エーテル類、脂肪族エステル類、芳香族エステル類であり、なかでも好ましいルイス塩基は、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピペリジン誘導体、イミダゾール誘導体、アニリン誘導体、ピペリジン誘導体、トリアジン誘導体、ピロール誘導体、フラン誘導体である。
【0121】
具体的なルイス塩基化合物としては、ピリジン、ペンタフルオロピリジン、2,6-ルチジン、2,4-ルチジン、3,5-ルチジン、ピリミジン、N、N-ジメチルアミノピリジン、N-メチルイミダゾール、2,2’-ビピリジン、アニリン、ピペリジン、1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(トリフルオロメチル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ピリジル)-s-トリアジン、キノリン、8-メチルキノリン、フェナジン、1,10-フェナンスロリン、N-メチルピロール、1,8-ジアザビシクロ-[5.4.0]-ウンデカ-7-エン、1,4-ジアザビシクロ-[2,2,2]-オクタン、トリエチルアミン、ベンゾニトリル、ピコリン、トリフェニルアミン、N-メチル-2-ピロリドン、4-メチルモルフォリン、ベンズオキサゾール、ベンゾチアゾール、フラン、2,5-ジメチルフラン、ジベンゾフラン、キサンテン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、ジベンゾチオフェン、チアンスレン、トリフェニルホスフォニウムシクロペンタジエニド、トリフェニルホスファイト、トリフェニルホスフェート、トリピロリジノホスフィン、トリス(ピロリジノ)ボランなどを挙げることができる。
【0122】
本発明において、重合形式に特に制限はない。媒体中で少なくとも一部の生成重合体がスラリーとなるスラリー重合、液化したモノマー自身を媒体とするバルク重合、気化したモノマー中で行う気相重合、または、高温高圧で液化したモノマーに生成重合体の少なくとも一部が溶解する高圧イオン重合などが好ましく用いられる。また、バッチ重合、セミバッチ重合、連続重合のいずれの形式でもよい。また、リビング重合であってもよいし、連鎖移動を併発しながら重合を行ってもよい。さらに、いわゆるchain transfer agent(CSA)を併用し、chain shuttlingや、coordinative chain transfer polymerization(CCTP)を行ってもよい。
【0123】
未反応モノマーや媒体は、生成共重合体から分離し、リサイクルして使用してもよい。
リサイクルの際、これらのモノマーや媒体は、精製して再使用してもよいし、精製せずに再使用してもよい。生成共重合体と未反応モノマーおよび媒体との分離には、従来公知の方法が使用できる。例えば、濾過、遠心分離、溶媒抽出、貧溶媒を使用した再沈などの方法が使用できる。
重合温度、重合圧力および重合時間に、特に制限はないが、通常は、以下の範囲から生産性やプロセスの能力を考慮して、最適な設定を行うことができる。すなわち、重合温度は、通常-20℃~290℃、好ましくは0℃~250℃、共重合圧力は、0.1MPa~300MPa、好ましくは、0.3MPa~250MPa、重合時間は、0.1分~10時間、好ましくは、0.5分~7時間、さらに好ましくは1分~6時間の範囲から選ぶことができる。
【0124】
本発明において、重合は、一般に不活性ガス雰囲気下で行われる。例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素雰囲気が使用でき、窒素雰囲気が好ましく使用される。なお、少量の酸素や空気の混入があってもよい。
重合反応器への触媒とモノマーの供給に関しても特に制限はなく、目的に応じてさまざまな供給法をとることができる。たとえばバッチ重合の場合、あらかじめ所定量のモノマーを重合反応器に供給しておき、そこに触媒を供給する手法をとることが可能である。この場合、追加のモノマーや追加の触媒を重合反応器に供給してもよい。また、連続重合の場合、所定量のモノマーと触媒を重合反応器に連続的に、または間歇的に供給し、重合反応を連続的に行う手法をとることができる。
【0125】
共重合体の組成の制御に関しては、複数のモノマーを反応器に供給し、その供給比率を変えることによって制御する方法を一般に用いることができる。その他、触媒の構造の違いによるモノマー反応性比の違いを利用して共重合組成を制御する方法や、モノマー反応性比の重合温度依存性を利用して共重合組成を制御する方法が挙げられる。
重合体の分子量制御には、従来公知の方法を使用することができる。すなわち、重合温度を制御して分子量を制御する方法、モノマー濃度を制御して分子量を制御する方法、連鎖移動剤を使用して分子量を制御する方法、遷移金属錯体中のリガンド構造の制御により分子量を制御する等が挙げられる。連鎖移動剤を使用する場合には、従来公知の連鎖移動剤を用いることができる。例えば、水素、メタルアルキルなどを使用することができる。
また、極性基含有モノマー自身が一種の連鎖移動剤となる場合には、極性基含有モノマーのオレフィンに対する比率や、極性基含有モノマーの濃度を制御することによっても、分子量調節が可能である。
遷移金属錯体中のリガンド構造を制御して、分子量調節を行う場合には、前記したR7、R8、R15、R16、R23およびR24の種類を制御したり、中心金属Mのまわりに嵩高い置換基を配置したりすることによって、分子量が向上する傾向を利用することができる。
【0126】
特に本発明により得られる共重合体は、共重合体の極性基にもとづく効果により、良好な塗装性、印刷性、帯電防止性、無機フィラー分散性、他樹脂との接着性、他樹脂との相溶化能などが発現する。こうした性質を利用して、本発明の共重合体は、さまざまな用途に使用することができる。例えば、フィルム、シート、接着性樹脂、バインダー、相溶化剤、ワックスなどとして使用可能である。
【実施例0127】
以下の実施例および比較例において本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
以下の合成例で、とくに断りのない限り、操作は精製窒素雰囲気下で行い、溶媒は脱水・脱酸素したものを用いた。また、合成例において前工程で得られた中間体の量が不十分な場合には、前工程までの工程を必要な回数繰り返して中間体の量を確保した。
【0128】
1.評価法
(1)重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnおよび分子量分布Mw/Mn:以下のGPC測定により求めた。
はじめに、試料約20mgをポリマーラボラトリー社製高温GPC用前処理装置PLSP260VS用のバイアル瓶に採取し、安定剤としてBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)を含有するo-ジクロロベンゼン(BHT濃度=0.5g/L)を加え、ポリマー濃度が0.1質量%になるように調整した。ポリマーを上記高温GPC用前処理装置PL-SP260VS中で135℃に加熱して溶解させ、グラスフィルターにて濾過して試料を調製した。なお、本発明におけるGPC測定において、グラスフィルターに捕捉されたポリマーはなかった。次に、カラムとして、東ソー社製TSKgel GMH-HT(30cm×4本)およびRI検出器を装着したウォーターズ社製GPCV 2000を使用してGPC測定を行った。測定条件としては、試料溶液注入量:約520μL、カラム温度:135℃、溶媒:o-ジクロロベンゼン、流量:1.0mL/minを採用した。分子量の算出は以下のように行った。すなわち、標準試料として市販の単分散のポリスチレンを使用し、該ポリスチレン標準試料およびエチレン系重合体の粘度式から、保持時間と分子量に関する校正曲線を作成し、該校正曲線に基づいて分子量の算出を行った。なお、粘度式としては、[η]=K×Mαを使用し、ポリスチレンに対しては、K=1.38E-4、α=0.70を使用し、プロピレン系重合体に対しては、K=1.03E-4、α=0.78を使用した。
【0129】
(2)共重合体中のコモノマー含量
1H-NMR測定装置(Bruker社製「AVANCE500」)を用いて、共重合体のコモノマー含量の測定を以下の手順で実施した。
共重合体35mgをo-ジクロロベンゼン-d4溶媒に溶解させ、積算回数32回、測定温度60℃の条件で1H-NMRの測定を行った。1H-NMRのケミカルシフトの積分比からコモノマー含量を算出した。
【0130】
以下の合成例における、略称を示す。
DMF:ジメチルホルムアミド
Ph:フェニル
OAc:アセテート(-OC(O)CH3)
OMOM:メトキシメトキシ(-OCH2OCH3)
MOM:メトキシメチル(-CH2OCH3)
THF:テトラヒドロフラン
n-Bu(nBu):ノルマルブチル
t-Bu(tBu):ターシャリーブチル
Me:メチル
Et:エチル
Ad:アダマンチル
Py:ピリジン,ピリジル
BI-DIME:3-(tert-ブチル)-4-(2,6-ジメトキシフェニル)-2,3-ジヒドロロベンゾ[d][1,3]オキサホスフオーレ
dba:ジベンジリデンアセトン
DPEPhos:ビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテル
Pin:ピナコラト
dppf:1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン
brine:飽和食塩水
【0131】
2.配位子の合成
(合成例1):配位子B-454の合成
以下のスキームに従って配位子B-454を合成した。
【0132】
【0133】
(i)化合物2の合成
化合物1(17g,117.92mmol)のDMF(200mL)溶液にPhI(28.87g,141.50mmol)、Pd(OAc)2(794.19mg,3.54mmol)、Cs2CO3(46.10g,141.50mmol)を加え、得られた懸濁溶液を110℃で10時間撹拌して茶色の懸濁液を得た。得られた混合物を25℃まで冷却し、ろ過を行った。得られた固体をジクロロメタン(100mL×3)で洗浄し、減圧下で残留ジクロロメタンを留去した。酢酸エチル(100mL)を加え、水(250mL×3)で洗浄した。集めた有機層を減圧下で溶媒留去し濃い黄色のオイルを得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、化合物2(4.5g,20.43mmol,収率17%)を黄色オイルとして得た。
【0134】
(ii)化合物3の合成
NaH(1.36g,33.91mmol)のTHF(20mL)懸濁溶液に化合物2(3.0g,13.62mmol)を0℃で加え、0℃で1時間撹拌した。MOMCl(3.46g,42.92mmol)を0℃で加え、25℃で15時間撹拌して白色の懸濁溶液を得た。NaHCO3水溶液(50mL)で反応をクエンチし、酢酸エチル(50mL×3)で抽出を行った。集めた有機層をbrine(50mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、ろ過をして、残留溶媒を減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、化合物3(3g,11.35mmol,収率83%)を白色固体として得た。
【0135】
(iii)化合物4の合成
化合物3(3.0g,11.35mmol)のTHF(40mL)溶液にn-BuLi(2.5M,4.99mL,1.1当量)を0℃で滴下した。その後18℃で1時間撹拌した。CuCl(1.24g,12.48mmol)を0℃で加え、18℃で1時間撹拌した。その後、t-Bu2PCl(2.26mL,11.92mmol)を-78℃で反応溶液に加えた。反応溶液を66℃で17時間撹拌し、黄色懸濁溶液を得た。BH3-Me2S(10M,1.25mL,1.1当量)を0℃で反応溶液に滴下し、18℃で16時間撹拌して黄色溶液を得た。水(30mL)を0℃でゆっくり加え、酢酸エチル(30mL×3)で抽出を行った。得られた有機層をNa2SO4で乾燥させ、ろ過をして、残留溶媒を減圧留去することで黄色のオイルを得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、化合物4(1.35g,3.20mmol,収率28%)を得た。
【0136】
(iv)B-454の合成
化合物4(0.1g,0.236mmol)の酢酸エチル(5mL)溶液にHCl/酢酸エチル(0.236mmol,15mL)を加えた。18℃で2時間撹拌して無色溶液を得た。溶媒を減圧留去した後、NaHCO3(20mL)を加えてpH=6.5~7.0に調整した。ジクロロメタン(20mL×3)で抽出した。溶媒を減圧留去するとB-454を黄色固体として得た。
1H NMR(CDCl3,δ,ppm):1.10(s,9H),1.13(s,9H),7.18-7.73(m,10H),8.39(br,1H)
31P NMR:(CDCl3,δ,ppm):-5.95(s).
【0137】
(合成例2):配位子X-85の合成
以下のスキームに従って配位子X-85を合成した。
【0138】
【0139】
(i)化合物8の合成
化合物7(10g,41.4mmol)のTHF(50mL)溶液にn-BuLi(2.5M,18.2mL,1.1当量)を-78℃でゆっくり加えた。-78℃で2時間撹拌後、B(OMe)3(9.48g,91.2mmol)を-78℃でゆっくり加え、20℃で12時間撹拌し黄色の懸濁溶液を得た。HCl(1M)をPHが6~7になるまでゆっくり加え、水(50mL)で洗浄し、酢酸エチル(100mL×3)で抽出し、brine(150mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、ろ過をし、減圧下で溶媒を留去し、得られた黄色オイルの化合物8をそのまま次の反応に用いた。
【0140】
(ii)化合物6の合成
化合物5(20g,89.6mmol)のTHF(150mL)溶液にNaH(7.17g,179.3mmol)を0℃でゆっくり加えた。20℃で1時間撹拌後、MOMCl(12.0g,149.4mmol)を0℃でゆっくり加え、20℃で16時間撹拌して灰色の懸濁溶液を得た。NaHCO3水溶液(300mL)を加え、酢酸エチル(350mL×3)で抽出を行い、集めた有機層を水(300mL×2)とbrine(150mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、ろ過をして、残留溶媒を減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、化合物6(17.1g,64.0mmol,収率71%)を黄色オイルとして得た。
【0141】
(iii)化合物9の合成
化合物6(7.5g,28.0mmol)、化合物8(8.68g,42.1mmol)、t-BuONa(8.1g,84.2mmol)、Pd(OAc)2(63.0mg,0.280mmol)、BI-DIME(185.5mg,0.561mmol)をトルエン(30mL)に溶解させた。反応溶液は3回窒素置換を行い、110℃で30時間加熱を行って黒色懸濁液を得た。反応溶液を25℃まで冷却し、ろ過をし、ジクロロメタン(25mL×3)で洗浄を行い、残留溶媒を減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、化合物9(5.16g,14.8mmol,収率52%)を白色固体として得た。
【0142】
(iv)化合物10の合成
化合物9(8.8g,25.2mmol)のTHF(35mL)溶液に、n-BuLi(2.5M,11.1mL,1.1当量)を-78℃で加えた。20℃で3時間撹拌後、I2(9.61g,37.8mmol)のTHF(9mL)溶液を-78℃で加え、20℃で12時間撹拌し黄色の懸濁溶液を得た。水(100mL)を加え、酢酸エチル(150mL×3)で抽出し、NaHCO3水溶液(100mL)とbrine(100mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、ろ過をし、減圧下で溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、化合物10(5.75g,12.1mmol,収率48%)を白色固体として得た。
【0143】
(v)化合物11の合成
化合物10(200mg,0.421mmol)、Pd2(dba)3(11.5mg,0.0126mmol)、DPEPhos(4.54mg,0.00843mmol)、Cs2CO3(274.7mg,0.843mmol),t-Bu2PH(73.9mg,0.505mmol)をトルエン(1.5mL)に溶解させ、窒素置換を3回行った。110℃で13時間撹拌を行い、肌色の懸濁液を得た。反応溶液を25℃まで冷却し、ろ過をし、ジクロロメタン(25mL×3)で洗浄を行った。集めた有機層を減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、化合物11(0.10g,0.202mmol,収率48%)を黄色固体として得た。
【0144】
(vi)化合物12の合成
化合物11(2.6g,5.28mmol)のTHF(20mL)溶液に0℃でBH3-Me2S(10M,1.06mL,2当量)を滴下し、20℃で1時間撹拌し黄色懸濁液を得た。反応溶液を水(50mL)で慎重にクエンチし、酢酸エチル(80mL)で抽出し、集めた有機層をbrine(80mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、ろ過をし、減圧下で溶媒を留去した。20℃でヘキサンを加え化合物12(2.0g,3.95mmol,収率74%)を白色固体で単離した。
【0145】
(vii)化合物X-85の合成
化合物12(10g,19.7mol)のジクロロメタン(40mL)溶液にHCl/酢酸エチル(10M,40mL,20.2当量)を0℃で滴下し、20℃で3時間撹拌して黄色溶液を得た。NaHCO3水溶液(100mL)を加えて酢酸エチル(100mL)で抽出した。有機層をbrine(100mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、ろ過をし、減圧下で溶媒を留去した。再結晶により、化合物X-85(8.1g,18.0mmol,収率91%)を黄色固体として得た。
1H NMR:(CDCl3,δ,ppm):0.97(d,6H),1.06(d,6H),1.30(s,9H),1.33(s,9H),2.41(m,2H),7.27(m,1H),7.32(m,4H),7.45(m,1H),7.83(m,1H),8.00(m,1H),8.21(m,1H)
31P NMR:(CDCl3,δ,ppm):-4.64(s).
【0146】
(合成例3):配位子X-86の合成
以下のスキームに従って配位子X-86を合成した。
【0147】
【0148】
(i)化合物8の合成
化合物7(10g,41.4mmol)のTHF(50mL)溶液にn-BuLi(2.5M,18.2mL,1.1当量)を-78℃でゆっくり加えた。-78℃で2時間撹拌後、B(OMe)3(9.48g,91.2mmol)を-78℃でゆっくり加え、20℃で12時間撹拌し黄色の懸濁溶液を得た。HCl(1M)をpHが6~7になるまでゆっくり加え、水(50mL)で洗浄し、酢酸エチル(100mL×3)で抽出し、brine(150mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、ろ過をし、減圧下で溶媒を留去し、得られた黄色オイルの化合物8をそのまま次の反応に用いた。
【0149】
(ii)化合物14の合成
化合物13(5.0g,31.6mmol)のTHF(20mL)溶液に、n-BuLi(2.5M,13.9mL,1.1当量)を-78℃で加えた。20℃で3時間撹拌後、I2(12.3g,47.4mmol)のTHF(5mL)溶液を-78℃で加え、20℃で12時間撹拌し黄色の懸濁溶液を得た。反応溶液をNa2SO3水溶液(50mL)に加え、酢酸エチル(100mL×3)で抽出し、NaHCO3水溶液(50mL)とbrine(50mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、ろ過をし、減圧下で溶媒を留去しすることで化合物14(8.54g,30.0mmol,収率95%)を灰色溶液として得てそのまま次の反応に用いた。
【0150】
(iii)化合物15の合成
化合物14(0.5g,1.76mmol)、化合物8(544.0mg,2.64mmol)、t-BuONa(507.4mg,5.28mmol)、Pd(OAc)2(3.95mg,0.017mmol)、BI-DIME(11.6mg,0.0352mmol)をトルエン(2mL)に溶解させた。反応溶液は3回窒素置換を行い、110℃で30時間加熱を行って黒色懸濁液を得た。反応溶液を25℃まで冷却し、ろ過をし、ジクロロメタン(25mL×3)で洗浄を行い、残留溶媒を減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、化合物15(150mg)を白色固体として得た。
【0151】
(iv)化合物16の合成
化合物15(8.0g,25.1mmol)のジクロロメタン(70mL)溶液にBBr3(9.44g,37.6mmol)を-78℃でゆっくり滴下した。滴下終了後、20℃で20時間撹拌し黄色溶液を得た。反応溶液を氷浴(80mL)に加え、ジクロロメタン(80mL×3)で抽出を行った。集めた有機層をbrine(80mL×3)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、残留溶媒を減圧留去した。再結晶により化合物16(6.13g,20.1mmol,収率80%)を黄色固体として得た。
【0152】
(v)化合物17の合成
化合物16(6.0g,19.7mmol)のTHF(45mL)溶液にNaH(1.58g,39.4mmol)を0℃でゆっくり加えた。20℃で1時間撹拌後、MOMCl(2.82g,35.0mmol)を0℃でゆっくり加え、20℃で16時間撹拌して灰色の懸濁溶液を得た。NaHCO3水溶液(100mL)を加え、酢酸エチル(150mL×3)で抽出を行い、集めた有機層を水(100mL×2)とbrine(150mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、ろ過をして、残留溶媒を減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、化合物17(6.8g,19.5mmol,収率99%)を黄色オイルとして得た。
【0153】
(vi)化合物18の合成
化合物17(6.8g,19.5mmol)のTHF(30mL)溶液に、n-BuLi(2.5M,8.59mL,1.1当量)を-78℃で加えた。20℃で3時間撹拌後、I2(7.43g,29.2mmol)のTHF(7mL)溶液を-78℃で加え、20℃で12時間撹拌し黄色の懸濁溶液を得た。反応溶液をNa2SO3水溶液(80mL)に加え、酢酸エチル(100mL×3)で抽出し、NaHCO3水溶液(100mL)とbrine(100mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、ろ過をし、減圧下で溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、化合物18(4.55g,9.59mmol,収率49%)を黄色オイルとして得た。
【0154】
(vii)化合物19の合成
化合物18(5.0g,10.5mmol)、Pd2(dba)3(289.5mg,0.316mmol)、DPEPhos(454.1mg,0.843mmol)、Cs2CO3(10.3g,31.6mmol)、t-Bu2PH(1.85g,12.6mmol)をトルエン(50mL)に溶解させ、窒素置換を3回行った。110℃で13時間撹拌を行い、肌色の懸濁液を得た。反応溶液を25℃まで冷却し、水(100mL)でクエンチを行い、酢酸エチル(100mL×3)で抽出し、集めた有機層をbrine(100mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、ろ過をし、減圧下で溶媒を留去した。
シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、化合物19(0.10g,0.202mmol,収率48%)を黄色固体として得た。
【0155】
(viii)化合物X-86の合成
化合物19(5.0g,10.1mmol)のTHF(35mL)溶液に0℃でBH3-Me2S(10M,4.06mL,4当量)を滴下し、20℃で16時間撹拌し黄色溶液を得た。反応溶液を水(80mL)で慎重にクエンチし、酢酸エチル(100mL)で抽出し、集めた有機層をbrine(100mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、ろ過をし、減圧下で溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、化合物X-86(0.9g,2.01mmol,収率19%)を黄色固体として得た。
1H NMR:(CDCl3,δ,ppm):1.09(d,6H),1.14(d,6H),2.81(m,2H),7.01(m,1H),7.18(m,2H),7.31(m,2H),7.34(m,1H),7.47(m,1H),7.57(m,1H)
31P NMR:(CDCl3,δ,ppm):31.5(s).
【0156】
(合成例4):配位子X-160の合成
以下のスキームに従って配位子X-160を合成した。
【0157】
【0158】
(i)化合物21の合成
化合物20(5.0g,22.4mmol)のTHF(100mL)溶液にNaH(1.43g,35.8mmol)を0℃で加えた。20℃で1時間撹拌すると灰色懸濁液が得られた。MOMBr(5.60g,44.8mmol)を0℃でゆっくり加え、20℃で12時間撹拌して黄色懸濁溶液を得た。氷浴(200mL)で反応をクエンチした後、酢酸エチル(200mL×3)で抽出を行い、Na2SO4で乾燥させ、ろ過をして、残留溶媒を減圧留去すると黄色オイルが得られた。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、化合物21(5.6g,20.9mmol,収率93%)を黄色オイルとして得た。
【0159】
(ii)化合物22の合成
化合物21(1.0g,3.74mmol)、Pd2(dba)3(102.8mg,112.3mmol)、DPEPhos(120.9mg,0.224mmol)、Cs2CO3(2.44g,7.49mmol)、t-Bu2PH(1.09g,7.49mmol)をジオキサン(20mL)に溶解させ、100℃で12時間撹拌すると黄色懸濁液を得た。残留溶媒を減圧留去し灰色懸濁液を得た。得られた灰色オイルの化合物22(1.24g)をそのまま次の反応に用いた。
【0160】
(iii)化合物23の合成
化合物22(1.2g,3.73mmol)のジオキサン(20mL)溶液に0℃でBH3-Me2S(10M,1.12mL,3当量)を滴下し、20℃で12時間撹拌し灰色懸濁液を得た。反応溶液を水(20mL)でクエンチし、酢酸エチル(20mL×3)で抽出し、Na2SO4で乾燥させ、ろ過をし、減圧下で溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、化合物23(1.1g,3.18mmol,収率85%)を白色固体として得た。
【0161】
(iv)化合物24の合成
化合物23(3.0g,8.6mmol)のTHF(60mL)溶液にn-BuLi(2.5M,4.16mL,1.2当量)を0℃でゆっくり加えた。20℃で2時間撹拌し緑色溶液を得た。C6F6(4.84g,25.9mmol)を0℃で加え、20℃で12時間撹拌し黄色溶液を得た。減圧下で溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、化合物24(7.5g)を黄色固体としてクルードで得て、そのまま次の反応に用いた。
【0162】
(v)X-160の合成
化合物24(1.4g,2.73mmol)にHCl/dioxane(100mL)を0℃で加え、20℃で2時間撹拌して白色懸濁液を得た。溶媒を減圧留去し白色固体を得た。ジクロロメタン(500mL)で抽出し、有機層をNaHCO3水溶液(250mL×2)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、ろ過をし、減圧下で溶媒を留去し、化合物X-160(1.2g)を黄色固体として得た。
1H NMR:(CDCl3,δ,ppm):1.25(s,9H),1.30(s,9H),7.31(m,1H),7.37(m,1H),7.46(m,1H),7.84(m,1H),8.26(m,1H),8.35(m,1H);19F NMR(CDCl3,δ,ppm):-162.7(s,2H),-155.4(s,1H),-138.2(s,2H)
31P NMR:(CDCl3,δ,ppm):-5.53(s).
【0163】
(合成例5):配位子X-159の合成
以下のスキームに従って配位子X-159を合成した。
【0164】
【0165】
(i)化合物26の合成
化合物25(500mg,1.74mmol)、B2Pin2(881.2mg,3.47mmol)、Pd(dppf)Cl2(63.4mg,0.086mmol)、KOAc(510.8mg,5.21mmol)の混合物をジオキサン(5.0mL)に溶解させ、101℃で12時間撹拌させると、黄色溶液が得られた。溶液をセライトろ過し、溶媒を留去して、得られた黒色固体の化合物26をそのまま次の反応に用いた。
【0166】
(ii)化合物28の合成
化合物27(24.5g,109.8mmol)のアセトン(250mL)溶液にCs2CO3(71.5g,219.6mmol)を0℃で加えた。25℃で0.5時間撹拌し、MOMBr(27.4g,219.6mmol)を0℃で加え、25℃で16時間撹拌して黄色溶液を得た。NaHCO3溶液(300mL)で反応をクエンチした後、酢酸エチル(300mL×2)で抽出を行い、Na2SO4で乾燥させ、ろ過をして、残留溶媒を減圧留去すると肌色のオイルとして化合物28が得られ、そのまま次の反応に用いた。
【0167】
(iii)化合物29の合成
化合物28(0.5g,1.87mmol)、化合物26(578.6mg,2.81mmol)、t-BuONa(539.6mg,5.62mmol)、Pd(OAc)2(4.20mg,0.0187mmol)、BI-DIME(12.3mg,0.0374mmol)をトルエン(6mL)に溶解させ、3回窒素置換をし、110℃で16時間撹拌した。反応溶液を25℃まで冷却し、ろ過し、得られた固体をジクロロメタン(10mL×3)で洗浄した。集めた有機層を減圧留去し黄色のオイルを得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、化合物29を得た。
【0168】
(iv)化合物30の合成
化合物29(6.8g,19.5mmol)のTHF(60mL)溶液に、n-BuLi(2.5M,7.58mL,1.2当量)を0℃でゆっくり加えた。25℃で3時間撹拌して白色懸濁液が得られた。得られた懸濁液を-78℃に冷却後、I2(6.01g,23.6mmol)のTHF(15mL)溶液を加え、25℃で13時間撹拌し肌色懸濁液を得た。反応溶液を0℃でNa2SO3水溶液(100mL)に加え、酢酸エチル(100mL)で希釈し、酢酸エチル(100mL×3)で抽出した。集めた有機層をNa2SO4で乾燥させ、ろ過をし、減圧下で溶媒を留去し、化合物30を肌色オイルとして得た。
【0169】
(v)化合物31の合成
化合物30(4.0g,8.43mmol)、PHAd2(2.81g,9.28mmol)、Cs2CO3(8.24g,25.3mmol)、Pd2(dba)3(772.1mg,0.843mmol)、DPEPhos(908.2mg,1.69mmol)をジオキサン(100mL)に溶解させ、3回窒素置換し、100℃で16時間撹拌した。反応溶液を25℃に冷却し、ろ過し、得られた固体をジクロロメタン(15mL×3)で洗浄した。集めた有機層を減圧留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーと再結晶により、化合物31(3g)を黄色固体として得た。
【0170】
(vi)X-159の合成
化合物31(0.1g,0.154mmol)のジクロロメタン(5mL)溶液にHCl/ジオキサン(4M,11.5mL,300当量)を20℃で滴下し、20℃で0.5時間撹拌して黄色溶液を得た。減圧下で溶液を留去し、NaHCO3水溶液(50mL×2)でpHが6.5~7.0になるように調節した。ジクロロメタン(20mL×3)で抽出し、減圧下で溶媒を留去し白色固体である化合物X-159(0.06g,0.0992mmol,収率64%)を得た。
1H NMR:(CDCl3,δ,ppm):0.96(d,6H),1.04(d,6H),1.56-2.10(m,30H),2.40(m,2H),7.27(m,1H),7.30(m,4H),7.47(m,1H),7.88(m,1H),7.98(m,1H),8.18(m,1H)
31P NMR:(CDCl3,δ,ppm):-3.71(s).
【0171】
(合成例6):配位子X-158の合成
以下のスキームに従って配位子X-158を合成した。
【0172】
【0173】
(i)化合物33の合成
窒素雰囲気下、化合物32(42.1mg,241mmol)とTHF(80mL)の混合溶液を2mLだけ、ヨウ素(61.1mg,0.241mmol)とMg(7.03g,289mmol)に加えた。溶液は速やかに紫色を呈した。還流後溶液は無色になり、そこに化合物32とTHFの混溶液の残りを、67℃で1時間かけてゆっくり滴下した。引き続き6時間撹拌後、溶液は灰色を呈した。調製したGrignard試薬(化合物33)はそのまま次の反応に使用した。
【0174】
(ii)化合物34の合成
窒素雰囲気下、PCl3(1.05g,7.62mmol)とヘキサン(300mL)の混合溶液を-60℃に冷却した。その後化合物33を同じ温度で30分間滴下した。-60℃ではGrignard試薬は溶解しなかったが、20℃まで昇温することで溶解しPCl3と反応して白色懸濁を与えた。その後67℃で18時間還流撹拌した。懸濁液は窒素雰囲気下で濾過を行い、減圧留去をすることで鮮やかな黄色オイルを与えた。ここで得られたものは精製せず次の段階にそのまま使用された。
【0175】
(iii)化合物35の合成
窒素雰囲気下、化合物34(6.5g、18.8mmol)をTHF(30mL)に溶解させ、LiAlH4(858.1mg,22.6mmol)を0℃で10秒かけて加えた。室温まで昇温させ、16時間撹拌し、白色懸濁を得た。0℃で10mLの酢酸エチルでクエンチした。懸濁液を濾過し、減圧下にて溶媒を留去して、粗生成物の化合物35を6gの白色固体として得た。
【0176】
(iv)化合物6の合成
化合物5(20g,89.6mmol)のTHF(150mL)溶液にNaH(7.17g,179.3mmol)を0℃でゆっくり加えた。20℃で1時間撹拌後、MOMCl(12.0g,149.4mmol)を0℃でゆっくり加え、20℃で16時間撹拌して灰色の懸濁溶液を得た。NaHCO3水溶液(300mL)を加え、酢酸エチル(350mL×3)で抽出を行い、集めた有機層を水(300mL×2)とbrine(150mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、ろ過をして、残留溶媒を減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、化合物6(17.1g,64.0mmol,収率71%)を黄色オイルとして得た。
【0177】
(v)化合物9の合成
化合物6(7.5g,28.0mmol)、合成例2と同様に調製した化合物8(8.68g,42.1mmol)、t-BuONa(8.1g,84.2mmol)、Pd(OAc)2(63.0mg,0.280mmol)、BI-DIME(185.5mg,0.561mmol)をトルエン(30mL)に溶解させた。反応溶液は3回窒素置換を行い、110℃で30時間加熱を行って黒色懸濁液を得た。反応溶液を25℃まで冷却し、ろ過をし、ジクロロメタン(25mL×3)で洗浄を行い、残留溶媒を減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、化合物9(5.16g,14.8mmol,収率52%)を白色固体として得た。
【0178】
(vi)化合物10の合成
化合物9(8.8g,25.2mmol)のTHF(35mL)溶液に、n-BuLi(2.5M,11.1mL,1.1当量)を-78℃で加えた。20℃で3時間撹拌後、I2(9.61g,37.8mmol)のTHF(9mL)溶液を-78℃で加え、20℃で12時間撹拌し黄色の懸濁溶液を得た。水(100mL)を加え、酢酸エチル(150mL×3)で抽出し、NaHCO3水溶液(100mL)とbrine(100mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、ろ過をし、減圧下で溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、化合物10(5.75g,12.1mmol,収率48%)を白色固体として得た。
【0179】
(vii)化合物36の合成
窒素雰囲気下、化合物10(0.5g、1.05mmol)と化合物35(490mg,1.58mmol)をトルエン(15mL)に溶解させ、DPEPhos(113.5mg,0.21mmol)、t-BuONa(303.8mg,3.16mmol)、Pd2(dba)3(101.3mg,0.110mmol)を溶液に加えた。110℃に昇温し、16時間撹拌すると、黒色懸濁液となった。25℃に溶液を冷却し、濾過後減圧留去により溶媒を除いたシリカゲルクロマトグラフィーにより精製をし、化合物36(0.1g、15%)を黄色固体で得た。
【0180】
(viii)化合物37の合成
窒素雰囲気下、化合物36(3g、4.57mmol)をTHF(20mL)に溶解させ、BH3・Me2S(1M,9.13mL,2当量)を室温で3分かけて滴下した。室温で16時間撹拌すると黄色溶液となった。0℃に冷却後、10mLの水を滴下した。ガス成分が出てこなくなるまで撹拌を続けた。酢酸エチル(100mL×3)で抽出を行い、Brineで洗浄し、Na2SO4で乾燥させた。溶媒を留去後粗生成物を得た。GPCによって単離精製を行い、溶媒を留去することで、化合物37(300mg,33%)の白色固体として得た。
【0181】
(ix)X-158の合成
化合物37(50mg,0.07mmol)をジクロロメタン(2mL)に溶解させ、トリフルオロ酢酸(1.54g,13.5mmol)を0℃で窒素雰囲気下で加え、20℃で更に2時間撹拌させると無色溶液になった。減圧下で溶媒を留去しNaHCO3の30mL飽和溶液でpHを6.5-7.0に調整した。その後ジクロロメタン(30mL)で抽出し、減圧留去することで白色固体のX-158を得た。
1H NMR:(CDCl3,δ,ppm):0.086(m,11H),0.77-1.27(m,24H),1.61(m,8H),1.67(m,3H),1.93(m,2H),2.33(m,2H),2.52(m,1H),2.66(m,1H),6.9(m,1H),7.16(m,1H),7.46(m,4H),7.48(m,1H),7.86(m,1H),8.08(m,1H)
31P NMR:(CDCl3,δ,ppm):41.5(s).
【0182】
(比較合成例1):配位子B-564の合成
文献J.Am.Chem.Soc.2021,143,17,P6516-6527に従って、PONapHを合成し、配位子B-564とした。
【0183】
【0184】
3.金属錯体、オレフィン重合用触媒の調製、及びプロピレンの重合
(実施例1):配位子B-454を用いたプロピレンのホモ重合
(i)金属錯体、オレフィン重合用触媒の調製
以下の操作は、全て窒素雰囲気下で行った。以下、ビス-1.5-シクロオクタジエンニッケル(0)をNi(cod)2と記載する。
Ni(cod)2(55.0mg,0.20mmol)を2口ナスフラスコに秤量し、トルエン(10.0mL)を加えて0.02mmol/mLの溶液とした。このNi(cod)2の0.02mmol/mLトルエン溶液5.00mLを、合成例1で得られたB-454(36.4mg,0.10mmol)の入った2口ナスフラスコに加え、室温で30分撹拌した。反応溶液の色が黄色から赤色に変化し、配位子B-454とNi(cod)2との反応生成物が得られた。
【0185】
(ii)プロピレンのホモ重合
乾燥し窒素置換した内容積2Lの誘導撹拌式オートクレーブにプロピレン(500mL)を供給した後、上記(i)で得られた反応溶液(5.0mL)を供給し、撹拌しながらオートクレーブを50℃に昇温し、重合を開始させた。1時間重合させた後、残留したプロピレンを除去して反応を停止させた。その後オートクレーブを開放し、重合体を得た。
重合結果は表7に記載した。また、活性は、重合に用いた錯体1molあたりの重合体収量(g)を表す。得られた重合体に関するGPC測定の結果についても表7に記載した。
なお、活性は配位子B-454とNi(cod)2が1対1で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0186】
(実施例2):(B-454)NiMePyを用いたプロピレンのホモ重合
(i)金属錯体、オレフィン重合用触媒の調製
以下のスキームに従って(B-454)NiMePyを合成した。
【0187】
【0188】
全ての作業は窒素雰囲気下で実施した。また、脱水溶媒を使用した。100mLの二口ナスフラスコに、塩化ニッケル六水和物(0.51g,2.1mmol)を入れ、室温でピリジン(2.0mL,25.8mmol)を加え、40℃で30分攪拌した。反応物は緑色からターコイズ色に瞬間的に変わった。その後、反応物の揮発成分を減圧下で留去しNiCl2Py4を得た。そこに、トルエン/THF溶液(9/1vol%,20mL)、ピリジン(1.0mL,12.9mmol)を加え、0℃で15分間攪拌し、スラリー溶液を調製した。そこに、メチルリチウムのジエチルエーテル溶液(1.09mol/L,3.9mL,4.3mmol)をゆっくりと加えた。溶液は、黄褐色を経て赤褐色に変化した。その後、速やかに、0℃にてB-454(197.7mg,0.54mmol)のトルエン溶液(20mL)をキャニュラー経由で滴下し、40℃に昇温し1時間攪拌した。反応溶液は赤褐色のままで、色相は若干薄くなった。その後、反応溶液はセライトでろ過し、ろ液を濃縮した。そこにヘキサン(10mL)を加え、0℃まで冷却し、析出した固形分を回収した。その後、得られた固形分はトルエン(30mL)に再溶解し、不溶分をろ過し、ろ液を濃縮することで(B-454)NiMePy(0.191g,収率68%)を得た。
1H NMR:(C6D6,23℃,δ):-0.75(d,J=3.83Hz,3H),1.30(s,9H),1.34(s,9H),6.88(dd,J=1.44,8.17Hz,1H),6.96(dd,J=1.20,6.97Hz,2H),6.99(m,8H),7.11(m,1H),7.15(dd,J=1.32,8.27Hz,2H),7.36(dd,J=5.81,8.61Hz,1H),7.51(dd,J=1.23,8.61Hz,1H).
31P NMR:(C6D6,23℃,δ):56.0(s,1P).
【0189】
上記で得られた(B-454)NiMePy(52.3mg,0.101mmol)を2口ナスフラスコに秤量し、トルエン(8.0mL)を加え、オレフィン重合用触媒溶液を得た。
【0190】
(ii)プロピレンのホモ重合
乾燥し窒素置換した内容積2Lの誘導撹拌式オートクレーブに、トリ-n-オクチルアルミニウム(0.1mmol)を導入した。プロピレン(500mL)をオートクレーブに供給した後、上記(i)で調製した溶液(8.0mL)を供給し、撹拌しながらオートクレーブを50℃に昇温し、重合を開始させた。1時間重合させた後、残留したプロピレンを除去して反応を停止させた。その後オートクレーブを開放し、重合体を得た。重合結果は表7に記載した。また、活性は、重合に用いた錯体1molあたりの重合体収量(g)を表す。得られた重合体に関するGPCおよびNMR測定の結果についても表7に記載した。
【0191】
(実施例3):配位子X-85を用いたプロピレンのホモ重合
(i)金属錯体、オレフィン重合用触媒の調製
配位子B-454の替わりに合成例2で得られた配位子X-85(64.0mg,0.232mmol)を用いた以外は、実施例1(i)と同様にして、金属錯体、オレフィン重合用触媒の調製を行った。反応溶液の色が黄色から赤色に変化し、配位子X-85とNi(cod)2との反応生成物が得られた。
(ii)プロピレンのホモ重合
上記(i)で得られた反応溶液(5.0mL)を用いた以外は、実施例1と同様にしてプロピレンのホモ重合を行った。結果を表7に示す。なお、活性は配位子X-85とNi(cod)2が1対1で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0192】
(実施例4):(X-85)NiMePyを用いたプロピレンのホモ重合
(i)金属錯体、オレフィン重合用触媒の調製
以下のスキームに従って(X-85)NiMePyを合成した。
【0193】
【0194】
実施例2の(B-454)NiMePyの合成において、配位子B-454の替わりに、X-85(661.5mg,1.47mmol)を用いた以外は、実施例2と同様にして、(X-85)NiMePy(0.901g,収率100%)を得た。
1H NMR:(C6D6,23℃,δ):-0.51(d,J=3.61Hz,3H),1.05(d,J=6.80Hz,6H),1.07(d,J=6.80Hz,6H),1.49(s,9H),1.52(s,9H),2.80(m,2H),7.02(m,1H),7.15(m,5H),7.27(m,2H),7.38(m,3H),7.66(d,J=8.21Hz,1H),8.04(d,J=8.21Hz,1H)
31P NMR:(C6D6,23℃,δ):58.2(s,1P).
【0195】
(B-454)NiMePyの替わりに上記で得られた(X-85)NiMePy(59.9mg,0.10mmol)を用いた以外は、実施例2と同様にしてオレフィン重合用触媒溶液の調製を行った。
【0196】
(ii)プロピレンのホモ重合
上記(i)で得られた溶液(8.0mL)を用いた以外は、実施例2と同様にしてプロピレンのホモ重合を行った。結果を表7に示す。
【0197】
(実施例5):配位子X-86を用いたプロピレンのホモ重合
(i)金属錯体、オレフィン重合用触媒の調製
配位子B-454の替わりに合成例3で得られた配位子X-86(61.8mg,0.137mmol)を用いた以外は、実施例1(i)と同様にして金属錯体、オレフィン重合用触媒の調製を行った。反応溶液の色が黄色から赤色に変化し、配位子X-86とNi(cod)2との反応生成物が得られた。
【0198】
(ii)プロピレンのホモ重合
上記(i)で得られた反応溶液(5.0mL)を用いた以外は、実施例1と同様にして重合を行った。結果を表7に示す。なお、活性は配位子X-86とNi(cod)2が1対1で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0199】
(実施例6):(X-86)NiMePyを用いたプロピレンのホモ重合
(i)金属錯体、オレフィン重合用触媒の調製
以下のスキームに従って(X-86)NiMePyを合成した。
【0200】
【0201】
実施例2の(B-454)NiMePyの合成において、配位子B-454の替わりに、X-86(662.1mg,1.47mmol)を用いた以外は、実施例2と同様にして、(X-86)NiMePy(0.968g,収率100%)を得た。
1H NMR:(C6D6,23℃,δ):-0.49(d,J=3.11Hz,3H),1.06(d,J=6.81Hz,6H),1.12(d,J=6.81Hz,6H),1.63(s,9H),1.67(s,9H),2.93(m,2H),7.00(m,1H),7.06(m,2H),7.12(s,2H),7.15(m,1H),7.30(m,4H),7.50(s,1H),7.59(d,J=8.43Hz,1H),8.05(d,J=8.43Hz,1H)
31P NMR:(C6D6,23℃,δ):71.7(s,1P).
【0202】
(B-454)NiMePyの替わりに上記で得られた(X-86)NiMePy(59.9mg,0.10mmol)を用いた以外は、実施例2と同様にしてオレフィン重合用触媒溶液の調製を行った。
【0203】
(ii)プロピレンのホモ重合
上記(i)で得られた溶液(8.0mL)を用いた以外は、実施例2と同様にして重合を行った。結果を表7に示す。
【0204】
(実施例7):配位子X-160を用いたプロピレンのホモ重合
(i)金属錯体、オレフィン重合用触媒の調製
配位子B-454の替わりに合成例4で得られた配位子X-160(57.3mg,0.126mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にして金属錯体、オレフィン重合用触媒の調製を行った。反応溶液の色が黄色から赤色に変化し、配位子X-160とNi(cod)2との反応生成物が得られた。
【0205】
(ii)プロピレンのホモ重合
上記(i)で得られた反応溶液(5.0mL)を用いた以外は、実施例1と同様にして重合を行った。結果を表7に示す。なお、活性は配位子X-160とNi(cod)2が1対1で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0206】
(実施例8):配位子X-159を用いたプロピレンのホモ重合
(i)金属錯体、オレフィン重合用触媒の調製
配位子B-454の替わりに合成例8で得られた配位子X-159(61.8mg,0.137mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にして錯体の調製を行った。反応溶液の色が黄色から赤色に変化し、配位子X-159とNi(cod)2との反応生成物が得られた。
【0207】
(ii)プロピレンのホモ重合
上記(i)で得られた反応溶液(5.0mL)を用いた以外は、実施例1と同様にして重合を行った。結果を表7に示す。なお、活性は配位子X-159とNi(cod)2が1対1で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0208】
(実施例9):配位子X-158を用いたプロピレンのホモ重合
(i)金属錯体、オレフィン重合用触媒の調製
配位子B-454の替わりに合成例6で得られた配位子X-158(61.2mg,0.100mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にして錯体の調製を行った。反応溶液の色が黄色から赤色に変化し、配位子X-158とNi(cod)2との反応生成物が得られた。
【0209】
(ii)プロピレンのホモ重合
上記(i)で得られた反応溶液(5.0mL)を用いた以外は、実施例1と同様にして重合を行った。結果を表7に示す。なお、活性は配位子X-158とNi(cod)2が1対1で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0210】
(実施例10):配位子X-85を用いたプロピレンと10-ウンデセン酸エチルの共重合
(i)金属錯体の合成、オレフィン重合用触媒の調製
配位子として合成例2で得られたX-85(62.0mg,0.138mmol)を用いて、Ni(cod)2のトルエン溶液(0.02mmol/mL)を6.9mL用いた以外は、実施例1(i)と同様に錯体の合成を行った。X-85とNi(cod)2の反応生成物を得た。
【0211】
(ii)プロピレンと10-ウンデセン酸エチルの共重合
上記(i)で得られた反応溶液を5.0mL用い、プロピレン供給前にオートクレーブに10-ウンデセン酸エチル(12mL,50mmol)を供給し、上記反応溶液供給後にさらにトリ-n-オクチルアルミニウム(0.1mmol)を加えた以外は、実施例1(ii)と同様に重合を行った。結果を表7に示す。なお、活性は配位子X-85とNi(cod)2が1対1で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0212】
(比較例1):配位子B-564を用いたプロピレンのホモ重合
(i)金属錯体、オレフィン重合用触媒の調製
配位子B-454の替わりに比較合成例1で得られた配位子B-564(57.4mg,0.208mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にして錯体の調製を行った。反応溶液の色が黄色から赤色に変化し、配位子B-564とNi(cod)2との反応生成物が得られた。
【0213】
(ii)プロピレンのホモ重合
上記(i)で得られた反応溶液(5.0mL)を用いた以外は、実施例1と同様にして重合を行った。結果を表7に示す。なお、活性は配位子B-564とNi(cod)2が1対1で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0214】
下記表7は、実施例1~実施例10、及び比較例1の重合条件及び重合結果をまとめたものである。表7中の重合活性は、重合に用いた錯体1molあたり、重合時間1時間あたりの共重合体収量(g)を表す。実施例7及び9は重合体を生成しているが収量が1g未満であったため、重合活性を<1.0×104(1g/0.100mmol)と表記している。
表7には、重合体に関するGPC測定結果として、重量平均分子量Mw、及び分子量分布Mw/Mn、共重合体中のコモノマー含量を載せた。
【0215】
【0216】
5.考察
比較例1で得られたプロピレン重合体はオイル状であり、外観からして低分子量体であった。比較例1のプロピレン重合体のGPC測定を行ったところ、対応するピークが観測されず、測定の下限以下であった。
それに対して、本発明の金属錯体、オレフィン重合用触媒を用いた実施例1~10では、高分子量のプロピレン重合体が得られた。
高分子量化の理由として、比較例1と実施例1~10の比較から、特に、リン原子等のE1、E2またはE3上の置換基R7、R8、R15、R16、R23およびR24が、三次元的に広がる特定の置換基であることにより、その嵩高さによって連鎖移動反応を抑制できることが考えられる。
本発明の金属錯体を用いることにより、オレフィン重合体の重合体、特にプロピレンの重合体の製造において、分子量が高い重合体を製造可能となるため、工業的に極めて有用であり、産業上大いに有用である。