(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152666
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】車両用駆動伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20231005BHJP
F16H 57/02 20120101ALI20231005BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H57/04 B
F16H57/04 K
F16H57/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206965
(22)【出願日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2022059330
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】高橋 涼太
(72)【発明者】
【氏名】出口 翼
(72)【発明者】
【氏名】加藤 光彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 達也
【テーマコード(参考)】
3J063
【Fターム(参考)】
3J063AA02
3J063AA04
3J063AB12
3J063AC01
3J063AC11
3J063BA11
3J063BB41
3J063CA01
3J063CA05
3J063CB02
3J063CB06
3J063XD03
3J063XD23
3J063XD32
3J063XD43
3J063XD47
3J063XD72
3J063XD73
3J063XE15
3J063XF04
(57)【要約】
【課題】小型化を図りつつ、差動歯車装置及び遊星歯車機構に油を適切に供給可能な車両用駆動伝達装置を提供する。
【解決手段】車両用駆動伝達装置100は、駆動源に駆動連結される入力部材と、当該入力部材の回転を変速する変速用の遊星歯車機構3と、当該遊星歯車機構3を介して伝達される駆動源からの駆動力を一対の車輪に分配する差動歯車装置4と、当該差動歯車装置4に油を供給する油供給部8とを備え、遊星歯車機構3と差動歯車装置4とが同軸上に配置され、差動歯車装置4は、差動ケース5と、当該差動ケース5に収容された傘歯車式の差動歯車機構6と、を備え、差動ケース5は、油供給部8から供給された油を遊星歯車機構3に供給する遊星供給油路P10を形成している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源に駆動連結される入力部材と、
前記入力部材の回転を変速する変速用の遊星歯車機構と、
前記遊星歯車機構を介して伝達される前記駆動源からの駆動力を一対の車輪に分配する差動歯車装置と、
前記差動歯車装置に油を供給する油供給部と、を備えた車両用駆動伝達装置であって、
前記遊星歯車機構と前記差動歯車装置とが同軸上に配置され、
前記差動歯車装置は、差動ケースと、前記差動ケースに収容された傘歯車式の差動歯車機構と、を備え、
前記差動ケースは、前記油供給部から供給された油を前記遊星歯車機構に供給する遊星供給油路を形成している、車両用駆動伝達装置。
【請求項2】
前記遊星歯車機構の回転軸心に沿う方向を軸方向とし、前記差動歯車装置に対して前記遊星歯車機構が配置されている側を軸方向第1側とし、前記軸方向第1側とは反対側を軸方向第2側とし、前記遊星歯車機構の前記回転軸心に直交する方向を径方向として、
前記差動ケースは、前記軸方向に沿う筒状の第1内周面を有する第1支持部を備え、
前記油供給部は、前記差動ケースの内部に開口する供給口を備え、
前記差動歯車装置は、前記第1内周面に対向する第1外周面を有する第1軸部材を更に備え、
前記遊星供給油路は、前記第1内周面と前記第1外周面との間に形成された第1油路と、前記供給口と前記第1油路とを連通する第2油路と、を含み、
前記第1油路は、前記第1支持部の前記軸方向第1側の端部に開口する第1開口部を備え、
前記遊星歯車機構は、前記第1開口部に対して前記径方向の外側に配置され、前記第1開口部から排出された油が供給される被供給部を備えている、請求項1に記載の車両用駆動伝達装置。
【請求項3】
前記第1軸部材は、前記遊星歯車機構に対して前記径方向の内側を前記軸方向に貫通するように配置された出力軸部材と、前記出力軸部材と一体的に回転するように連結された連結部材と、を含み、
前記差動歯車機構は、前記径方向に沿って延在するように前記差動ケースに支持された差動軸部材と、前記差動軸部材により回転自在に支持された入力側傘歯車と、前記差動軸部材に対して前記軸方向の両側に分かれて配置されて前記入力側傘歯車に噛み合う一対の出力側傘歯車と、を備え、
一対の前記出力側傘歯車のうち、前記軸方向第1側に配置された方を特定傘歯車として、
前記連結部材は、前記特定傘歯車と一体的に形成された筒状の部材であり、
前記出力軸部材は、前記連結部材及び前記特定傘歯車を前記軸方向に貫通した状態で配置され、
前記油供給部は、前記出力軸部材の内部を前記軸方向に延在するように形成された軸内油路を備え、
前記供給口は、前記出力軸部材の前記軸方向第2側の端部に開口する、前記軸内油路の前記軸方向第2側の端部であり、
前記第2油路は、前記特定傘歯車と前記入力側傘歯車との噛み合い部分、及び、前記特定傘歯車と前記差動ケースの内面との間に形成され、
前記第1外周面は、前記出力軸部材の外周面、及び、前記連結部材の外周面の少なくとも一方である、請求項2に記載の車両用駆動伝達装置。
【請求項4】
前記遊星歯車機構の回転軸心に沿う方向を軸方向とし、前記遊星歯車機構の前記回転軸心に直交する方向を径方向として、
前記差動ケースは、前記軸方向に沿う筒状に形成された筒状部を備え、
前記筒状部は、前記径方向に沿う径方向視で、前記遊星歯車機構と重複するように配置され、
前記油供給部は、前記筒状部の内周面である第1内周面に対して、前記径方向の内側から対向する位置に開口する供給口を備え、
前記筒状部には、前記第1内周面と前記筒状部の外周面に開口する第1開口部とを連通するように前記径方向に貫通する貫通油路が形成され、
前記遊星供給油路は、前記第1内周面と、前記貫通油路と、を含み、
前記遊星歯車機構は、前記筒状部に対して前記径方向の外側に配置され、前記第1開口部から排出された油が供給される被供給部を備えている、請求項1に記載の車両用駆動伝達装置。
【請求項5】
前記差動ケースは、前記供給口から前記第1内周面に供給された油を前記差動歯車機構に供給する差動供給油路を形成している、請求項4に記載の車両用駆動伝達装置。
【請求項6】
前記遊星歯車機構は、キャリヤを備え、
前記キャリヤは、ピニオンギヤを回転自在に支持するピニオン軸と、前記ピニオン軸と前記ピニオンギヤとの間に配置されたピニオン軸受と、を備え、
前記被供給部は、前記キャリヤに取り付けられ、前記キャリヤに対して前記径方向の内側から流れてくる油を受けるレシーバを備え、
前記遊星歯車機構は、前記レシーバと前記ピニオン軸受とを連通するように前記キャリヤの内部に形成されたキャリヤ内油路を更に備えている、請求項2から5のいずれか一項に記載の車両用駆動伝達装置。
【請求項7】
前記遊星歯車機構の回転軸心に沿う方向を軸方向とし、前記差動歯車装置に対して前記遊星歯車機構が配置されている側を軸方向第1側とし、前記軸方向第1側とは反対側を軸方向第2側とし、前記遊星歯車機構の前記回転軸心に直交する方向を径方向として、
前記遊星歯車機構は、ピニオンギヤを回転自在に支持するキャリヤと、前記ピニオンギヤに噛み合うリングギヤと、を備え、
前記差動ケースは、前記リングギヤと一体的に構成され、
前記差動ケースを前記径方向に支持する軸受が、前記差動歯車機構に対して前記軸方向第2側に配置されて前記差動ケースを回転自在に支持する支持軸受のみである、請求項1から5のいずれか一項に記載の車両用駆動伝達装置。
【請求項8】
前記差動ケースは、前記差動歯車機構に対して前記軸方向第2側に配置され、前記軸方向に沿う筒状の第2内周面を有する第2支持部を備え、
前記差動歯車装置は、前記第2内周面に対向する第2外周面を有する第2軸部材と、前記第2内周面と前記第2外周面との間に形成された第3油路と、前記油供給部から供給された油を前記第3油路へ導く第4油路と、を更に備え、
前記第3油路は、前記第2支持部の前記軸方向第2側の端部に開口する第2開口部を備え、
前記第2開口部と前記支持軸受とを連通する軸受供給油路が設けられている、請求項7に記載の車両用駆動伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源に駆動連結される入力部材と、当該入力部材の回転を変速する変速用の遊星歯車機構と、当該遊星歯車機構を介して伝達される駆動源からの駆動力を一対の車輪に分配する差動歯車装置と、当該差動歯車装置に油を供給する油供給部と、を備えた車両用駆動伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような車両用駆動伝達装置の一例が、下記の特許文献1に開示されている。以下、背景技術の説明では、特許文献1における符号を括弧内に引用する。
【0003】
特許文献1の車両用駆動伝達装置では、差動歯車装置(4)は、差動ケース(D4)と、当該差動ケースに収容された傘歯車式の差動歯車機構(4a)と、を備えている。差動歯車機構(4a)は、一対のピニオンギヤ(P41,P42)と、当該一対のピニオンギヤに噛み合う一対のサイドギヤ(B41,B42)と、を備えている。一方のサイドギヤ(B41)は、遊星歯車機構(3)に対して径方向(R)の内側を軸方向(L)に貫通するように配置された出力軸部材(53)を介して、第1ドライブシャフト(51)と一体的に回転するように連結されている。他方のサイドギヤ(B42)は、第2ドライブシャフト(52)と一体的に回転するように連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の車両用駆動伝達装置では、出力軸部材(53)の内部に、軸方向(L)に延在する軸内油路が形成されている。軸内油路は、差動ケース(D4)の内部に連通すると共に、出力軸部材(53)の内部を径方向(R)に延在する油路を介して遊星歯車機構(3)に連通するように形成されている。こうして、軸内油路を流動する油が、差動ケース(D4)に収容された差動歯車機構(4a)、及び遊星歯車機構(3)のギヤや軸受等に供給される。
【0006】
しかしながら、上記のような構成では、軸内油路を介して、差動歯車装置(4)と遊星歯車機構(3)とに並列的に油を供給することになるため、軸内油路に供給する油の流量や油圧を大きく確保する必要がある。その結果、軸内油路に油を供給するオイルポンプの大型化、延いては車両用駆動伝達装置の大型化を招いていた。
【0007】
そこで、小型化を図りつつ、差動歯車装置及び遊星歯車機構に油を適切に供給可能な車両用駆動伝達装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記に鑑みた、車両用駆動伝達装置の特徴構成は、
駆動源に駆動連結される入力部材と、
前記入力部材の回転を変速する変速用の遊星歯車機構と、
前記遊星歯車機構を介して伝達される前記駆動源からの駆動力を一対の車輪に分配する差動歯車装置と、
前記差動歯車装置に油を供給する油供給部と、を備えた車両用駆動伝達装置であって、
前記遊星歯車機構と前記差動歯車装置とが同軸上に配置され、
前記差動歯車装置は、差動ケースと、前記差動ケースに収容された傘歯車式の差動歯車機構と、を備え、
前記差動ケースは、前記油供給部から供給された油を前記遊星歯車機構に供給する遊星供給油路を形成している点にある。
【0009】
この特徴構成によれば、差動歯車装置の差動ケースが、油供給部から供給された油を遊星歯車機構に供給する遊星供給油路を形成している。そのため、油供給部から差動歯車装置に供給された油が遊星歯車機構に供給され、遊星歯車機構を潤滑する。つまり、本特徴構成によれば、差動歯車装置と遊星歯車機構とに直列的に油が供給される。これにより、差動歯車装置と遊星歯車機構とに並列的に油が供給される構成に比べて、油供給部により供給される油の流量や油圧を低く抑えることができる。したがって、車両用駆動伝達装置の小型化を図りつつ、差動歯車装置及び遊星歯車機構に油を適切に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態に係る車両用駆動伝達装置の軸方向に沿う断面図
【
図2】第1の実施形態に係る車両用駆動伝達装置のスケルトン図
【
図3】第1の実施形態に係る車両用駆動伝達装置の軸方向に沿う断面図の一部拡大図
【
図4】第2の実施形態に係る車両用駆動伝達装置の軸方向に沿う断面図
【
図5】第2の実施形態に係る車両用駆動伝達装置の軸方向に沿う断面図の一部拡大図
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.第1の実施形態
以下では、第1の実施形態に係る車両用駆動伝達装置100について、
図1から
図3を参照して説明する。
図1及び
図2に示すように、車両用駆動伝達装置100は、入力部材2と、遊星歯車機構3と、差動歯車装置4と、を備えている。本実施形態では、それらはケース9に収容されている。
【0012】
入力部材2は、駆動源に駆動連結されている。本実施形態では、回転電機1が「駆動源」に相当する。なお、本願において「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0013】
ここで、本願において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。なお、伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば、摩擦係合装置、噛み合い式係合装置等が含まれていても良い。ただし、遊星歯車機構の各回転要素について「駆動連結」という場合には、互いに他の回転要素を介することなく連結されている状態を指すものとする。
【0014】
遊星歯車機構3は、入力部材2の回転を変速する変速用の遊星歯車機構である。差動歯車装置4は、遊星歯車機構3を介して伝達される駆動源(ここでは、回転電機1)からの駆動力を一対の車輪W(
図2参照)に分配する装置である。遊星歯車機構3と差動歯車装置4とは、同軸上に配置されている。本実施形態では、回転電機1と入力部材2と遊星歯車機構3と差動歯車装置4とが、同軸上に配置されている。
【0015】
以下の説明では、遊星歯車機構3の回転軸心に沿う方向を「軸方向L」とする。そして、差動歯車装置4に対して遊星歯車機構3が配置されている側を「軸方向第1側L1」とし、その反対側を「軸方向第2側L2」とする。また、遊星歯車機構3の回転軸心に直交する方向を「径方向R」とする。そして、径方向Rにおいて、遊星歯車機構3の回転軸心側を「径方向内側R1」とし、その反対側を「径方向外側R2」とする。
【0016】
図1に示すように、本実施形態では、ケース9は、第1ケース部91と、第2ケース部92と、カバー部93と、を備えている。
【0017】
第1ケース部91は、第1周壁部911を備えている。第1周壁部911は、回転電機1の径方向外側R2を覆う筒状に形成されている。
【0018】
本実施形態では、第2ケース部92は、第2周壁部921と、第1側壁部922と、隔壁部923と、を備えている。
【0019】
第2周壁部921は、遊星歯車機構3及び差動歯車装置4の径方向外側R2を覆う筒状に形成されている。第1側壁部922は、第2周壁部921から径方向内側R1に延出するように形成されている。本実施形態では、第1側壁部922は、第2周壁部921の軸方向第2側L2の開口を塞ぐように、第2周壁部921と一体的に形成されている。また、第2周壁部921は、第1周壁部911に対して軸方向第2側L2から接合されている。
【0020】
隔壁部923は、回転電機1の配置領域と、遊星歯車機構3及び差動歯車装置4の配置領域とを、軸方向Lに区画するように配置されている。本実施形態では、隔壁部923は、回転電機1と遊星歯車機構3との軸方向Lの間に配置されている。そして、隔壁部923は、第2周壁部921に固定されている。
【0021】
カバー部93は、回転電機1の軸方向第1側L1を覆うように形成されている。本実施形態では、カバー部93は、第1周壁部911の軸方向第1側L1の開口を塞ぐように、第1周壁部911に対して軸方向第1側L1から接合されている。
【0022】
回転電機1は、ステータ11とロータ12とを備えている。ステータ11は、円筒状のステータコア11aを備えている。ステータコア11aは、非回転部材に固定されている。本実施形態では、ステータコア11aは、非回転部材としてのケース9の第1周壁部911に固定されている。ロータ12は、円筒状のロータコア12aを備えている。ロータコア12aは、ステータコア11aに対して回転可能に支持されている。
【0023】
本実施形態では、回転電機1はインナロータ型の回転電機である。そのため、ロータコア12aが、ステータコア11aに対して径方向内側R1に配置されている。
【0024】
また、本実施形態では、回転電機1は回転界磁型の回転電機である。そのため、ステータ11は、ステータコイル11bを更に備えている。本実施形態では、ステータコイル11bは、ステータコア11aに対して軸方向第1側L1に突出した第1コイルエンド部11cと、ステータコア11aに対して軸方向第2側L2に突出した第2コイルエンド部11dとが形成されるように、ステータコア11aに巻装されている。また、図示は省略するが、ロータコア12aには、永久磁石が設けられている。
【0025】
本実施形態では、入力部材2は、回転電機1のロータ12と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、入力部材2は、軸方向Lに沿う軸心を有する筒状に形成されている。そして、入力部材2は、ロータコア12aと同軸となるように、ロータコア12aに対して径方向内側R1に配置されている。
【0026】
また、本実施形態では、入力部材2は、ロータコア12aから軸方向Lの両側に突出するように配置されている。本実施形態では、入力部材2におけるロータコア12aから軸方向第2側L2に突出した部分は、ケース9の隔壁部923を軸方向Lに貫通するように配置されている。そして、入力部材2におけるロータコア12aから軸方向第2側L2に突出した部分は、第1軸受B1を介して、隔壁部923に対して回転自在に支持されている。また、入力部材2におけるロータコア12aから軸方向第1側L1に突出した部分は、第2軸受B2を介して、カバー部93に対して回転自在に支持されている。
【0027】
図3に示すように、本実施形態では、遊星歯車機構3は、第1回転要素E1、第2回転要素E2、第3回転要素E3、及び第4回転要素E4を備えている。そして、遊星歯車機構3は、第1回転要素E1、第2回転要素E2、第3回転要素E3、及び第4回転要素E4の回転速度の順が記載の順となるように構成されている。ここで、「回転速度の順」とは、各回転要素の回転状態における回転速度の順番のことである。各回転要素の回転速度は、遊星歯車機構の回転状態によって変化するが、各回転要素の回転速度の高低の並び順は、遊星歯車機構の構造によって定まるものであるため一定となる。
【0028】
第1回転要素E1は、入力部材2と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第1回転要素E1は、サンギヤSGである。図示の例では、サンギヤSGは、溶接等により入力部材2と一体的に回転するように連結されている。
【0029】
第3回転要素E3は、非回転部材(ここでは、ケース9)に連結されている。第4回転要素E4は、差動歯車装置4の入力要素と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第3回転要素E3及び第4回転要素E4のそれぞれは、リングギヤである。具体的には、第3回転要素E3は、第1リングギヤRG1である。そして、第4回転要素E4は、第2リングギヤRG2である。本実施形態では、第1リングギヤRG1は、ケース9の隔壁部923に固定されている。
【0030】
本実施形態では、第2回転要素E2は、キャリヤCRである。キャリヤCRは、互いに一体的に回転する第1ピニオンギヤPG1と第2ピニオンギヤPG2とを回転自在に支持している。第1ピニオンギヤPG1は、サンギヤSGと第1リングギヤRG1とに噛み合っている。第2ピニオンギヤPG2は、第2リングギヤRG2に噛み合っている。また、第2ピニオンギヤPG2は、第1ピニオンギヤPG1よりも小径である。
【0031】
差動歯車装置4は、差動ケース5と、差動歯車機構6と、第1軸部材71と、を備えている。本実施形態では、差動歯車装置4は、第2軸部材72を更に備えている。
【0032】
差動ケース5は、差動歯車機構6を収容するように構成されている。本実施形態では、差動歯車機構6は、差動軸部材61と、入力側傘歯車62と、一対の出力側傘歯車63と、を備えている。差動歯車機構6は、傘歯車式の差動歯車機構である。そのため、入力側傘歯車62、及び一対の出力側傘歯車63のそれぞれは、傘歯車である。
【0033】
差動軸部材61は、径方向Rに沿って延在するように配置されている。そして、差動軸部材61は、差動ケース5と一体的に回転するように、差動ケース5に支持されている。本実施形態では、複数の差動軸部材61が径方向Rに沿うように周方向に分散配置された構成(例えば、軸方向Lに沿う軸方向視で、4つの差動軸部材61が十字状に配置された構成)となっている。
【0034】
入力側傘歯車62は、差動軸部材61により回転自在に支持されている。入力側傘歯車62は、差動軸部材61を中心として回転(自転)自在、かつ、差動ケース5の回転軸心を中心として回転(公転)自在に構成されている。本実施形態では、複数の差動軸部材61のそれぞれに、入力側傘歯車62が取り付けられている。
【0035】
一対の出力側傘歯車63は、入力側傘歯車62に噛み合っている。一対の出力側傘歯車63は、差動軸部材61に対して軸方向Lの両側に分かれて配置されている。以下の説明では、一対の出力側傘歯車63のうち、軸方向第1側L1に配置された方を「特定傘歯車63S」とする。
【0036】
本実施形態では、差動ケース5は、第1支持部51を備えている。本実施形態では、第1支持部51は、軸方向Lに沿う筒状の第1内周面51aを有している。また、第1支持部51は、特定傘歯車63Sを軸方向第1側L1から支持するように構成されている。つまり、本実施形態では、第1支持部51は、差動歯車機構6に対して軸方向第1側L1に配置されている。
【0037】
また、本実施形態では、差動ケース5は、第2支持部52を更に備えている。第2支持部52は、差動歯車機構6に対して軸方向第2側L2に配置されている。第2支持部52は、軸方向Lに沿う筒状の第2内周面52aを有している。本実施形態では、第2支持部52は、一対の出力側傘歯車63のうちの特定傘歯車63Sではない方(軸方向第2側L2の出力側傘歯車63)を軸方向第2側L2から支持するように構成されている。つまり、本実施形態では、第2支持部52は、差動歯車機構6に対して軸方向第2側L2に配置されている。
【0038】
第1軸部材71は、差動ケース5における第1支持部51の第1内周面51aに対向する第1外周面71aを有している。第1外周面71aは、軸方向Lに沿う筒状に形成されている。本実施形態では、第1軸部材71は、出力軸部材711と、第1連結部材712と、を含む。
【0039】
出力軸部材711は、遊星歯車機構3に対して径方向内側R1を軸方向Lに貫通するように配置されている。
図1に示すように、本実施形態では、出力軸部材711は、遊星歯車機構3のサンギヤSG及び入力部材2に対して径方向内側R1を軸方向Lに貫通するように配置されている。また、本実施形態では、出力軸部材711は、ケース9のカバー部93を軸方向Lに貫通するように配置されている。そして、出力軸部材711は、第3軸受B3を介して、カバー部93に対して回転自在に支持されている。
【0040】
また、本実施形態では、出力軸部材711は、軸方向第1側L1の車輪Wに駆動連結された第1ドライブシャフトDS1と一体的に回転するように連結されている。図示の例では、出力軸部材711の軸方向第1側L1の端部は、軸方向第1側L1に開口する筒状に形成されている。そして、この筒状の端部に対して径方向内側R1に軸方向第1側L1から第1ドライブシャフトDS1が挿入され、それらがスプライン係合によって互いに連結されている。
【0041】
図3に示すように、第1連結部材712は、特定傘歯車63Sと一体的に形成された筒状の部材である。第1連結部材712は、出力軸部材711と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第1連結部材712は、特定傘歯車63Sを軸方向Lに貫通するように配置されている。そして、第1連結部材712は、当該第1連結部材712を出力軸部材711が軸方向Lに貫通した状態で、出力軸部材711に連結されている。このように、本実施形態では、出力軸部材711が、第1連結部材712及び特定傘歯車63Sを軸方向Lに貫通した状態で配置されている。図示の例では、第1連結部材712に対して径方向内側R1に軸方向第1側L1から出力軸部材711が挿入され、それらがスプライン係合によって互いに連結されている。
【0042】
本実施形態では、第1連結部材712は、差動ケース5における第1支持部51の第1内周面51aに対して径方向内側R1から対向するように配置されている。そのため、本実施形態では、第1連結部材712の外周面が、第1軸部材71の第1外周面71aに相当する。なお、出力軸部材711の外周面が第1外周面71aであっても良い。或いは、出力軸部材711の外周面及び第1連結部材712の外周面の双方が第1外周面71aであっても良い。つまり、第1外周面71aは、出力軸部材711の外周面、及び、第1連結部材712の外周面の少なくとも一方である。
【0043】
また、本実施形態では、第1連結部材712は、差動ケース5の第1支持部51よりも軸方向第1側L1に突出するように形成されている。図示の例では、第1連結部材712は、当該第1連結部材712における第1支持部51よりも軸方向第1側L1に位置する部分が、径方向Rに沿う径方向視でキャリヤCRと重複するように配置されている。ここで、2つの要素の配置に関して、「特定方向視で重複する」とは、その視線方向に平行な仮想直線を当該仮想直線と直交する各方向に移動させた場合に、当該仮想直線が2つの要素の双方に交わる領域が少なくとも一部に存在することを指す。
【0044】
第2軸部材72は、差動ケース5における第2支持部52の第2内周面52aに対向する第2外周面72aを有している。第2外周面72aは、軸方向Lに沿う筒状に形成されている。本実施形態では、第2軸部材72は、第2連結部材722を含む。
【0045】
第2連結部材722は、一対の出力側傘歯車63のうちの特定傘歯車63Sではない方(軸方向第2側L2の出力側傘歯車63)と一体的に形成された筒状の部材である。本実施形態では、第2連結部材722は、ケース9の第1側壁部922を軸方向Lに貫通するように配置されている。そして、第2連結部材722は、軸方向第2側L2の車輪Wに駆動連結された第2ドライブシャフトDS2と一体的に回転するように連結されている。図示の例では、第2連結部材722に対して径方向内側R1に軸方向第2側L2から第2ドライブシャフトDS2が挿入され、それらがスプライン係合によって互いに連結されている。
【0046】
本実施形態では、第2連結部材722は、差動ケース5における第2支持部52の第2内周面52aに対して径方向内側R1から対向するように配置されている。そのため、本実施形態では、第2連結部材722の外周面が、第2軸部材72の第2外周面72aに相当する。
【0047】
また、本実施形態では、第2連結部材722は、差動ケース5の第2支持部52よりも軸方向第2側L2に突出するように形成されている。また、ケース9の第1側壁部922には、差動ケース5の第2支持部52よりも軸方向第2側L2に突出する突出部922aが形成されている。そして、第2連結部材722における第2支持部52よりも軸方向第2側L2に位置する部分の外周面と、第1側壁部922の突出部922aの内周面との間を、油密状に封止するシール部材Sが設けられている。
【0048】
図1に示すように、車両用駆動伝達装置100は、差動歯車装置4に油を供給する油供給部8を更に備えている。本実施形態では、油供給部8は、差動ケース5の内部に開口する供給口8aを備えている。そのため、本実施形態では、油供給部8は、供給口8aから差動ケース5の内部に油を供給する。なお、本実施形態では、差動ケース5の内部に供給された油が保持されるように、差動ケース5には、軸方向Lの両側の開口部(第1内周面51aによって囲まれる開口部、及び、第2内周面52aによって囲まれる開口部)を除き、その内部と外部とを連通する連通孔が形成されていない。
【0049】
本実施形態では、油供給部8は、出力軸部材711の内部を軸方向Lに延在するように形成された軸内油路P2を備えている。軸内油路P2は、出力軸部材711の軸方向第2側L2の端部に開口するように形成されている。そのため、本実施形態では、供給口8aは、出力軸部材711の軸方向第2側L2の端部に開口する、軸内油路P2の軸方向第2側L2の端部である。なお、本実施形態では、軸内油路P2の軸方向第2側L2の端部(供給口8a)に、軸内油路P2から差動ケース5の内部に供給される油の量を制限する絞り部材81が設けられている。絞り部材81は、供給口8aを覆うように形成された蓋状の部材である。絞り部材81には、供給口8aに比べて径方向Rの寸法が小さい絞り孔が、軸方向Lに貫通するように形成されている。
【0050】
また、本実施形態では、油供給部8は、カバー部93の内部を径方向Rに延在するように形成されたケース内油路P5を更に備えている。ケース内油路P5は、出力軸部材711に径方向Rに延在するように形成された連結油路P21を介して、軸内油路P2と連通するように形成されている。図示の例では、ケース内油路P5は、第2軸受B2と第3軸受B3との軸方向Lの間を通るように形成されている。このように、本実施形態では、油供給部8は、ケース内油路P5、連結油路P21、軸内油路P2の順に、油が流動するように構成されている。
【0051】
図3に示すように、差動ケース5は、油供給部8から供給された油を遊星歯車機構3に供給する遊星供給油路P10を形成している。本実施形態では、遊星供給油路P10は、第1油路P11と、第2油路P12と、を含む。
【0052】
本実施形態では、第1油路P11は、差動ケース5における第1支持部51の第1内周面51aと、第1軸部材71の第1外周面71aとの間に形成されている。そして、第1油路P11は、第1支持部51の軸方向第1側L1の端部に開口する第1開口部P11aを備えている。
【0053】
第2油路P12は、供給口8aと第1油路P11とを連通するように形成されている。本実施形態では、第2油路P12は、特定傘歯車63Sと入力側傘歯車62との噛み合い部分、及び、特定傘歯車63Sと差動ケース5の内面との間に形成されている。
【0054】
本実施形態では、遊星歯車機構3は、第1開口部P11aから排出された油が供給される被供給部31を備えている。本実施形態では、被供給部31は、第1油路P11の第1開口部P11aに対して径方向外側R2に配置されている。そして、被供給部31は、径方向Rに沿う径方向視で、第1開口部P11aと重複するように配置されている。
【0055】
以上のように、車両用駆動伝達装置100は、
駆動源(ここでは、回転電機1)に駆動連結される入力部材2と、
入力部材2の回転を変速する変速用の遊星歯車機構3と、
遊星歯車機構3を介して伝達される駆動源からの駆動力を一対の車輪Wに分配する差動歯車装置4と、
差動歯車装置4に油を供給する油供給部8と、を備えた車両用駆動伝達装置100であって、
遊星歯車機構3と差動歯車装置4とが同軸上に配置され、
差動歯車装置4は、差動ケース5と、当該差動ケース5に収容された傘歯車式の差動歯車機構6と、を備え、
差動ケース5は、油供給部8から供給された油を遊星歯車機構3に供給する遊星供給油路P10を形成している。
【0056】
この構成によれば、差動歯車装置4の差動ケース5が、油供給部8から供給された油を遊星歯車機構3に供給する遊星供給油路P10を形成している。そのため、油供給部8から差動歯車装置4に供給された油が遊星歯車機構3に供給され、遊星歯車機構3を潤滑する。つまり、本構成によれば、差動歯車装置4と遊星歯車機構3とに直列的に油が供給される。これにより、差動歯車装置4と遊星歯車機構3とに並列的に油が供給される構成(例えば、出力軸部材711における第2ピニオンギヤPG2の軸方向Lの配置領域と重なる領域に、出力軸部材711の外周面と軸内油路P2とを連通する油路が形成された構成)に比べて、油供給部8により供給される油の流量や油圧を低く抑えることができる。したがって、車両用駆動伝達装置100の小型化を図りつつ、差動歯車装置4及び遊星歯車機構3に油を適切に供給することができる。
【0057】
また、上記の通り、本実施形態では、差動ケース5は、軸方向Lに沿う筒状の第1内周面51aを有する第1支持部51を備え、
油供給部8は、差動ケース5の内部に開口する供給口8aを備え、
差動歯車装置4は、第1内周面51aに対向する第1外周面71aを有する第1軸部材71を更に備え、
遊星供給油路P10は、第1内周面51aと第1外周面71aとの間に形成された第1油路P11と、供給口8aと第1油路P11とを連通する第2油路P12と、を含み、
第1油路P11は、第1支持部51の軸方向第1側L1の端部に開口する第1開口部P11aを備え、
遊星歯車機構3は、第1開口部P11aに対して径方向外側R2に配置され、第1開口部P11aから排出された油が供給される被供給部31を備えている。
【0058】
この構成によれば、油供給部8の供給口8aから差動ケース5の内部に油が供給される。差動ケース5の内部に供給された油は、差動ケース5の内部に収容された差動歯車機構6を潤滑した後、第2油路P12及び第1油路P11を通って第1開口部P11aから排出される。第1開口部P11aから排出された油は、差動ケース5の回転による遠心力又は重力によって被供給部31に供給されて、遊星歯車機構3を潤滑する。このように、差動歯車装置4と遊星歯車機構3とに直列的に油を供給することになるため、差動歯車装置4と遊星歯車機構3とに並列的に油を供給する場合(例えば、出力軸部材711における第2ピニオンギヤPG2の軸方向Lの配置領域と重なる領域に、出力軸部材711の外周面と軸内油路P2とを連通する油路が形成されている場合)に比べて、油供給部8により供給される油の流量や油圧を小さく抑えることができる。したがって、車両用駆動伝達装置100の小型化を図りつつ、差動歯車装置4及び遊星歯車機構3に油を適切に供給することができる。
また、本構成によれば、油供給部8の供給口8aから差動ケース5の内部に油を直接供給することができるため、差動ケース5の外部から内部に油を導入するための開口を差動ケース5に設ける必要がない。したがって、差動ケース5の剛性の向上及び小型化を図り易い。
【0059】
また、上記の通り、本実施形態では、第1軸部材71は、遊星歯車機構3に対して径方向内側R1を軸方向Lに貫通するように配置された出力軸部材711と、当該出力軸部材711と一体的に回転するように連結された第1連結部材712と、を含み、
差動歯車機構6は、径方向Rに沿って延在するように差動ケース5に支持された差動軸部材61と、当該差動軸部材61により回転自在に支持された入力側傘歯車62と、差動軸部材61に対して軸方向Lの両側に分かれて配置されて入力側傘歯車62に噛み合う一対の出力側傘歯車63と、を備え、
一対の出力側傘歯車63のうち、軸方向第1側L1に配置された方を特定傘歯車63Sとして、
第1連結部材712は、特定傘歯車63Sと一体的に形成された筒状の部材であり、
出力軸部材711は、第1連結部材712及び特定傘歯車63Sを軸方向Lに貫通した状態で配置され、
油供給部8は、出力軸部材711の内部を軸方向Lに延在するように形成された軸内油路P2を備え、
供給口8aは、出力軸部材711の軸方向第2側L2の端部に開口する、軸内油路P2の軸方向第2側L2の端部であり、
第2油路P12は、特定傘歯車63Sと入力側傘歯車62との噛み合い部分、及び、特定傘歯車63Sと差動ケース5の内面との間に形成され、
第1外周面71aは、出力軸部材711の外周面、及び、第1連結部材712の外周面の少なくとも一方である。
【0060】
この構成によれば、出力軸部材711の内部に、軸方向Lに延在する軸内油路P2が形成されている。そして、出力軸部材711の軸方向第2側L2の端部に開口する、軸内油路P2の軸方向第2側L2の端部が、油供給部8の供給口8aとして機能する。これにより、軸内油路P2を介して、差動ケース5の内部に適切に油を供給することができる。
また、本構成によれば、第2油路P12が、特定傘歯車63Sと入力側傘歯車62との噛み合い部分、及び、特定傘歯車63Sと差動ケース5の内面との間に形成されている。そして、第1油路P11が、出力軸部材711の外周面、及び、第1連結部材712の外周面の少なくとも一方と、差動ケース5における第1支持部51の第1内周面51aとの間に形成されている。これにより、差動ケース5の内部に供給された油を、第1開口部P11aまで適切に流動させることができる。
【0061】
図3に示すように、本実施形態では、差動ケース5は、遊星歯車機構3の第2リングギヤRG2に連結される連結部53を備えている。本実施形態では、連結部53は、第1支持部51から径方向外側R2に突出するように形成されている。そして、連結部53に対して径方向外側R2から第2リングギヤRG2が当接した状態で、それらが溶接により互いに接合されている。このように、本実施形態では、差動ケース5は、第2リングギヤRG2と一体的に構成されている。ここで、本願において「一体的に構成」とは、複数の要素が同じ部材で構成されていること、及び複数の要素が溶接等により分離不能に連結されていることを含む。なお、「一体的に回転するように連結」とは、スプライン係合等のように複数の要素が分離可能に連結されていることを含む。
【0062】
本実施形態では、遊星歯車機構3のキャリヤCRは、ピニオン軸PSと、第1ピニオン軸受PB1と、第2ピニオン軸受PB2とを備えている。
【0063】
ピニオン軸PSは、第2ピニオンギヤPG2を回転自在に支持する軸部材である。本実施形態では、ピニオン軸PSは、第1ピニオンギヤPG1及び第2ピニオンギヤPG2を軸方向Lに貫通するように配置されている。そして、ピニオン軸PSは、第1ピニオンギヤPG1及び第2ピニオンギヤPG2の双方を回転自在に支持するように構成されている。
【0064】
第1ピニオン軸受PB1は、ピニオン軸PSと第1ピニオンギヤPG1との間に配置された軸受である。第2ピニオン軸受PB2は、ピニオン軸PSと第2ピニオンギヤPG2との間に配置された軸受である。
【0065】
また、本実施形態では、キャリヤCRは、第1ピニオンギヤPG1に対して軸方向第1側L1に配置された第1被支持部CRaと、第2ピニオンギヤPG2に対して軸方向第2側L2に配置された第2被支持部CRbと、を更に備えている。
【0066】
第1被支持部CRaは、第4軸受B4を介して、ケース9に対して回転自在に支持されている。第4軸受B4は、第1被支持部CRaとケース9との軸方向Lの間に配置されたスラスト軸受である。本実施形態では、第4軸受B4は、第1被支持部CRaにおけるピニオン軸PSよりも径方向内側R1に位置する部分と、ケース9の隔壁部923との軸方向Lの間に配置されている。本実施形態では、第1被支持部CRaは、ピニオン軸PSにおける第1ピニオンギヤPG1よりも軸方向第1側L1に突出した部分を支持している。
【0067】
第2被支持部CRbは、第5軸受B5を介して、差動ケース5に対して相対回転自在に支持されている。第5軸受B5は、第2被支持部CRbと差動ケース5との軸方向Lの間に配置されたスラスト軸受である。本実施形態では、第5軸受B5は、第2被支持部CRbにおけるピニオン軸PSよりも径方向内側R1に位置する部分と、差動ケース5の第1支持部51との軸方向Lの間に配置されている。本実施形態では、第2被支持部CRbは、ピニオン軸PSにおける第2ピニオンギヤPG2よりも軸方向第2側L2に突出した部分を支持している。
【0068】
このように、本実施形態では、差動ケース5の第1支持部51は、第4軸受B4及び第5軸受B5を介して、ケース9の隔壁部923に対して軸方向Lに支持されている。
【0069】
また、本実施形態では、差動ケース5の第2支持部52は、ケース9に対して、第6軸受B6を介して径方向Rに支持されていると共に、第7軸受B7を介して軸方向Lに支持されている。
【0070】
第6軸受B6は、第2支持部52とケース9との径方向Rの間に配置されたラジアル軸受である。第7軸受B7は、第2支持部52とケース9との軸方向Lの間に配置されたスラスト軸受である。
【0071】
本実施形態では、第2支持部52は、軸方向Lに延在するように形成された軸方向延在部521と、径方向Rに延在するように形成された径方向延在部522と、を備えている。
【0072】
軸方向延在部521は、軸方向Lに沿う筒状に形成されている。本実施形態では、軸方向延在部521は、当該軸方向延在部521の内周面が、第2軸部材72の第2外周面72aに対向するように配置されている。そのため、本実施形態では、軸方向延在部521の内周面が、第2外周面72aに対向する第2内周面52aに相当する。
【0073】
また、本実施形態では、軸方向延在部521は、ケース9の第1側壁部922を軸方向Lに貫通するように配置されている。そして、軸方向延在部521と第1側壁部922との径方向Rの間に、第6軸受B6が配置されている。
【0074】
径方向延在部522は、軸方向延在部521から径方向外側R2に延出するように形成されている。本実施形態では、径方向延在部522は、ケース9の第1側壁部922に対して軸方向第1側L1から対向するように配置されている。そして、径方向延在部522と第1側壁部922との軸方向Lの間に、第7軸受B7が配置されている。
【0075】
上記の通り、本実施形態では、差動ケース5は、差動歯車機構6に対して軸方向第1側L1で、第4軸受B4及び第5軸受B5により軸方向Lに支持されている。そして、差動ケース5は、差動歯車機構6に対して軸方向第2側L2で、第6軸受B6により径方向Rに支持されていると共に、第7軸受B7により軸方向Lに支持されている。つまり、本実施形態では、差動ケース5を径方向Rに支持する軸受が、第6軸受B6のみである。第6軸受B6は、差動歯車機構6に対して軸方向第2側L2に配置されて、差動ケース5を回転自在に支持する「支持軸受」に相当する。
【0076】
このように、本実施形態では、遊星歯車機構3は、第2ピニオンギヤPG2を回転自在に支持するキャリヤCRと、第2ピニオンギヤPG2に噛み合う第2リングギヤRG2と、を備え、
差動ケース5は、第2リングギヤRG2と一体的に構成され、
差動ケース5を径方向Rに支持する軸受が、差動歯車機構6に対して軸方向第2側L2に配置されて差動ケース5を回転自在に支持する支持軸受としての第6軸受B6のみである。
【0077】
この構成によれば、差動ケース5が第2リングギヤRG2と一体的に構成されているため、それらが互いに径方向Rに相対移動不能に連結された状態となっている。これにより、差動歯車機構6に対して軸方向第1側L1においては、遊星歯車機構3の調心作用(自動調心作用)を利用して差動ケース5を径方向Rに支持することができる。その結果、差動歯車機構6に対して軸方向第2側L2に配置された支持軸受としての第6軸受B6のみで、差動ケース5が径方向Rに支持される構成を実現可能となっている。このように、差動歯車機構6に対して軸方向第1側L1に軸受を省略できるため、遊星歯車機構3を差動歯車装置4に対して軸方向Lに近付けて配置し易い。したがって、車両用駆動伝達装置100の軸方向Lの寸法を小さく抑えることができる。
また、本構成によれば、差動ケース5における第1支持部51の軸方向第1側L1の端部に開口する第1開口部P11aと径方向Rに沿う径方向視で重複する位置に、遊星歯車機構3の被供給部31を配置し易い。そのため、第1開口部P11aから排出される油を、適切に被供給部31に供給することができる。
【0078】
図3に示すように、本実施形態では、遊星歯車機構3の被供給部31は、レシーバ311を備えている。レシーバ311は、キャリヤCRに対して径方向内側R1から流れてくる油を受けるように構成されている。レシーバ311は、キャリヤCRに取り付けられている。本実施形態では、レシーバ311は、キャリヤCRの第2被支持部CRbにおけるピニオン軸PSよりも径方向外側R2に位置する部分に取り付けられている。なお、本実施形態では、第1開口部P11aから排出された油の全てがレシーバ311に流動するわけではなく、一部の油は第2被支持部CRbの内周面にも流動する。そのため、本実施形態では、第2被支持部CRbの内周面も、被供給部31として機能する。
【0079】
また、本実施形態では、遊星歯車機構3は、キャリヤ内油路P3を更に備えている。キャリヤ内油路P3は、レシーバ311と第2ピニオン軸受PB2とを連通するように、キャリヤCRの内部に形成されている。本実施形態では、キャリヤ内油路P3は、第1ピニオン軸内油路P31と、第2ピニオン軸内油路P32と、を含む。
【0080】
第1ピニオン軸内油路P31は、ピニオン軸PSの内部を軸方向Lに延在するように形成されている。本実施形態では、第1ピニオン軸内油路P31の軸方向第1側L1の端部が、第1ピニオン軸受PB1の軸方向Lの配置領域と重なるように配置されている。そして、第1ピニオン軸内油路P31の軸方向第2側L2の端部が、ピニオン軸PSの軸方向第2側L2の端面に開口するように配置されている。
【0081】
第2ピニオン軸内油路P32は、第1ピニオン軸内油路P31からピニオン軸PSの外周面にかけて、ピニオン軸PSの内部を径方向Rに延在するように形成されている。本実施形態では、第2ピニオン軸内油路P32は、第1ピニオンギヤPG1及び第2ピニオンギヤPG2とピニオン軸PSとの径方向Rの間の領域であって、第1ピニオン軸受PB1と第2ピニオン軸受PB2との軸方向Lの間の領域と、第1ピニオン軸内油路P31とが連通するように形成されている。
【0082】
本実施形態では、レシーバ311は、キャリヤCRの第2被支持部CRbと差動ケース5の第1支持部51との軸方向Lの間を径方向外側R2に向けて流動する油を、ピニオン軸PSの軸方向第2側L2の端面に開口する第1ピニオン軸内油路P31に案内するように形成されている。図示の例では、レシーバ311は、軸方向Lに沿う軸心を有する円環板状に形成されている。そして、レシーバ311は、当該レシーバ311における第2被支持部CRbに取り付けられた部分から、径方向内側R1に向かうに従って、次第に軸方向第2側L2に位置するように傾斜した形状を有している。
【0083】
こうして、本実施形態では、ケース内油路P5、連結油路P21、軸内油路P2の順に流動した油は、供給口8aから差動ケース5の内部に供給される。差動ケース5の内部に供給された油は、第2油路P12、第1油路P11の順に流動して第1開口部P11aから排出される。第1開口部P11aから排出された油は、差動ケース5の回転による遠心力又は重力により、第5軸受B5を通るように径方向外側R2に向けて流動する。第5軸受B5を通って更に径方向外側R2に向けて流動した油は、レシーバ311によって、ピニオン軸PSの軸方向第2側L2の端面に開口する第1ピニオン軸内油路P31に案内される。第1ピニオン軸内油路P31に案内された油は、第2ピニオン軸内油路P32を通って第1ピニオン軸受PB1及び第2ピニオン軸受PB2に供給される。
【0084】
このように、本実施形態では、遊星歯車機構3は、キャリヤCRを備え、
キャリヤCRは、第2ピニオンギヤPG2を回転自在に支持するピニオン軸PSと、当該ピニオン軸PSと第2ピニオンギヤPG2との間に配置された第2ピニオン軸受PB2と、を備え、
被供給部31は、キャリヤCRに取り付けられ、キャリヤCRに対して径方向内側R1から流れてくる油を受けるレシーバ311を備え、
遊星歯車機構3は、レシーバ311と第2ピニオン軸受PB2とを連通するようにキャリヤCRの内部に形成されたキャリヤ内油路P3を更に備えている。
【0085】
この構成によれば、第1開口部P11aから排出された油を、被供給部31のレシーバ311により受けることができる。そして、レシーバ311により受けた油を、キャリヤ内油路P3を通して遊星歯車機構3の第2ピニオン軸受PB2に適切に供給することができる。
【0086】
図3に示すように、本実施形態では、差動歯車装置4は、第3油路P13と、第4油路P14と、を更に備えている。
【0087】
第3油路P13は、差動ケース5における第2支持部52の第2内周面52aと、第2軸部材72の第2外周面72aとの間に形成されている。第3油路P13は、第2支持部52の軸方向第2側L2の端部に開口する第2開口部P13aを備えている。
【0088】
第4油路P14は、油供給部8から供給された油を第3油路P13へ導くように形成されている。本実施形態では、第4油路P14は、一対の出力側傘歯車63のうちの特定傘歯車63Sではない方(軸方向第2側L2の出力側傘歯車63)と入力側傘歯車62との噛み合い部分、及び、当該出力側傘歯車63と差動ケース5の内面との間に形成されている。
【0089】
本実施形態では、第2開口部P13aと第6軸受B6とを連通する軸受供給油路P4が設けられている。図示の例では、第1側壁部922の突出部922aと第2連結部材722とシール部材Sとによって囲まれた空間が、軸受供給油路P4として形成されている。
【0090】
このように、本実施形態では、差動ケース5は、差動歯車機構6に対して軸方向第2側L2に配置され、軸方向Lに沿う筒状の第2内周面52aを有する第2支持部52を備え、
差動歯車装置4は、第2内周面52aに対向する第2外周面72aを有する第2軸部材72と、第2内周面52aと第2外周面72aとの間に形成された第3油路P13と、油供給部8から供給された油を第3油路P13へ導く第4油路P14と、を更に備え、
第3油路P13は、第2支持部52の軸方向第2側L2の端部に開口する第2開口部P13aを備え、
第2開口部P13aと支持軸受としての第6軸受B6とを連通する軸受供給油路P4が設けられている。
【0091】
この構成によれば、油供給部8の供給口8aから差動ケース5の内部に供給された油を、第4油路P14、第3油路P13、及び軸受供給油路P4を通して、適切に支持軸受としての第6軸受B6に供給することができる。
【0092】
2.第2の実施形態
以下では、第2の実施形態に係る車両用駆動伝達装置100について、
図4及び
図5を参照して説明する。本実施形態では、遊星供給油路P10の構成が上記第1の実施形態のものと異なっている。以下では、上記第1の実施形態との相違点を中心として説明する。なお、特に説明しない点については、上記第1の実施形態と同様とする。
【0093】
図4に示すように、本実施形態では、差動ケース5は、軸方向Lに沿う筒状に形成された筒状部54を備えている。筒状部54は、径方向Rに沿う径方向視で、遊星歯車機構3と重複するように配置されている。
【0094】
図5に示すように、本実施形態では、筒状部54は、差動ケース5の第1支持部51における径方向内側R1の端部から軸方向第1側L1に延在するように形成されている。そして、筒状部54は、第1軸部材71に対して径方向外側R2から対向するように配置されている。図示の例では、筒状部54は、第1軸部材71の出力軸部材711及び第1連結部材712の双方に対して、径方向外側R2から対向するように配置されている。
【0095】
また、本実施形態では、筒状部54は、遊星歯車機構3に対して径方向内側R1から対向するように配置されている。図示の例では、筒状部54は、遊星歯車機構3における、キャリヤCRの第2被支持部CRb、及び第2ピニオンギヤPG2に対して径方向内側R1から対向するように配置されている。
【0096】
本実施形態では、遊星供給油路P10は、第1内周面51aと、貫通油路P6と、を含む。本実施形態では、第1内周面51aは、筒状部54の内周面である。図示の例では、第1内周面51aは、軸方向Lに対して平行に形成されている。貫通油路P6は、第1内周面51aと第1開口部P11aとを連通するように、筒状部54を径方向Rに貫通するように形成されている。本実施形態では、第1開口部P11aは、筒状部54の外周面に開口している。図示の例では、第1開口部P11aは、第5軸受B5に対して、径方向内側R1から対向するように形成されている。また、図示の例では、第1内周面51aにおける軸方向Lの両端部に、径方向内側R1に突出する堰部が設けられており、貫通油路P6は、第1内周面51aにおける軸方向Lの両側の堰部の間に開口している。
【0097】
本実施形態では、油供給部8の供給口8aは、第1内周面51aに対して、径方向内側R1から対向する位置に開口している。本実施形態では、第1軸部材71に、その外周面と軸内油路P2とを連通するように、径方向Rに延在する径方向油路P22が形成されている。そして、径方向油路P22の径方向外側R2の端部が、供給口8aに相当する。図示の例では、供給口8aは、出力軸部材711の外周面に開口している。なお、本実施形態では、軸内油路P2の軸方向第2側L2の端部に、絞り部材81の代わりに、油の流動を規制する規制部材82が設けられている。つまり、本実施形態では、軸内油路P2の軸方向第2側L2の端部の開口から差動ケース5の内部に油が供給されない。なお、このような構成とは異なり、本実施形態においても、軸内油路P2の軸方向第2側L2の端部に、規制部材82ではなく絞り部材81が設けられていても良い。
【0098】
本実施形態では、遊星歯車機構3の被供給部31は、筒状部54に対して径方向外側R2に配置されている。ここでは、上記第1の実施形態と同様に、被供給部31は、第1開口部P11aに対して径方向外側R2に配置されている。
【0099】
ケース内油路P5、連結油路P21、軸内油路P2、径方向油路P22の順に流動した油は、供給口8aから第1内周面51aに供給される。第1内周面51aに供給された油は、差動ケース5の回転による遠心力又は重力によって、貫通油路P6を流動して第1開口部P11aから排出される。第1開口部P11aから排出された油は、差動ケース5の回転による遠心力又は重力により、第5軸受B5を通るように径方向外側R2に向けて流動する。第5軸受B5を通って更に径方向外側R2に向けて流動した油は、被供給部31のレシーバ311によって、ピニオン軸PSの軸方向第2側L2の端面に開口する第1ピニオン軸内油路P31に案内される。第1ピニオン軸内油路P31に案内された油は、第2ピニオン軸内油路P32を通って第1ピニオン軸受PB1及び第2ピニオン軸受PB2に供給される。
【0100】
このように、本実施形態では、差動ケース5は、軸方向Lに沿う筒状に形成された筒状部54を備え、
筒状部54は、径方向Rに沿う径方向視で、遊星歯車機構3と重複するように配置され、
油供給部8は、筒状部54の内周面である第1内周面51aに対して、径方向内側R1から対向する位置に開口する供給口8aを備え、
筒状部54には、第1内周面51aと筒状部54の外周面に開口する第1開口部P11aとを連通するように径方向Rに貫通する貫通油路P6が形成され、
遊星供給油路P10は、第1内周面51aと、貫通油路P6と、を含み、
遊星歯車機構3は、筒状部54に対して径方向外側R2に配置され、第1開口部P11aから排出された油が供給される被供給部31を備えている。
【0101】
この構成によれば、油供給部8の供給口8aから供給された油は、差動ケース5における筒状部54の第1内周面51aから貫通油路P6に流入し、差動ケース5の回転による遠心力又は重力によって第1開口部P11aから排出されて被供給部31に供給され、遊星歯車機構3を潤滑する。このように、差動歯車装置4と遊星歯車機構3とに直列的に油を供給することになるため、差動歯車装置4と遊星歯車機構3とに並列的に油を供給する場合(例えば、出力軸部材711における第2ピニオンギヤPG2の軸方向Lの配置領域と重なる領域に、出力軸部材711の外周面と軸内油路P2とを連通する油路が形成されている場合)に比べて、油供給部8により供給される油の流量や油圧を小さく抑えることができる。したがって、車両用駆動伝達装置100の小型化を図りつつ、差動歯車装置4及び遊星歯車機構3に油を適切に供給することができる。
【0102】
本実施形態では、差動ケース5は、供給口8aから第1内周面51aに供給された油を差動歯車機構6に供給する差動供給油路P7を形成している。本実施形態では、差動供給油路P7は、第1内周面51aと第1外周面71aとの間、及び特定傘歯車63Sと差動ケース5の第1支持部51との間に形成されている。図示の例では、差動供給油路P7は、供給口8aから第1内周面51aに供給されて軸方向第2側L2の堰部を乗り越えた油が、差動歯車機構6を潤滑するように形成されている。
【0103】
この構成によれば、油供給部8の供給口8aから差動ケース5の内部に油を供給することができる。これにより、差動ケース5の外部から内部に油を導入するための開口を差動ケース5に設ける必要がない。したがって、差動ケース5の剛性の向上及び小型化を図り易い。
【0104】
3.その他の実施形態
(1)上記の実施形態では、遊星歯車機構3が、入力部材2と一体的に回転するように連結されたサンギヤSGと、互いに一体的に回転する第1ピニオンギヤPG1及び第2ピニオンギヤPG2を回転自在に支持するキャリヤCRと、第1ピニオンギヤPG1に噛み合う第1リングギヤRG1と、第2ピニオンギヤPG2に噛み合う第2リングギヤRG2とを備えた構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、遊星歯車機構3がシングルピニオン型の遊星歯車機構であっても良い。
【0105】
(2)上記第1の実施形態では、第2油路P12が、特定傘歯車63Sと入力側傘歯車62との噛み合い部分、及び、特定傘歯車63Sと差動ケース5の内面との間に形成された構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、第2油路P12が、特定傘歯車63Sを軸方向Lに貫通するように形成された油路を含む構成としても良い。
【0106】
(3)上記の実施形態では、遊星歯車機構3の被供給部31がレシーバ311を備えていると共に、キャリヤCRの第2被支持部CRbの内周面が被供給部31として機能する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、被供給部31がレシーバ311を備えていない構成としても良い。また、第2被支持部CRbの内周面に加えて又は代えて、遊星歯車機構3の別の部分が被供給部31として機能する構成としても良い。
【0107】
(4)上記の実施形態では、差動ケース5を径方向Rに支持する軸受が、差動歯車機構6に対して軸方向第2側L2に配置されて差動ケース5を回転自在に支持する支持軸受としての第6軸受B6のみである構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、差動ケース5を径方向Rに支持する軸受が、第6軸受B6に加えて、差動歯車機構6に対して軸方向第1側L1に配置されて差動ケース5を回転自在に支持する軸受を含んでいても良い。
【0108】
(5)なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。したがって、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本開示に係る技術は、駆動源に駆動連結される入力部材と、当該入力部材の回転を変速する変速用の遊星歯車機構と、当該遊星歯車機構を介して伝達される駆動源からの駆動力を一対の車輪に分配する差動歯車装置と、当該差動歯車装置に油を供給する油供給部と、を備えた車両用駆動伝達装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0110】
100:車両用駆動伝達装置、1:回転電機(駆動源)、2:入力部材、3:遊星歯車機構、31:被供給部、4:差動歯車装置、5:差動ケース、51:第1支持部、51a:第1内周面、6:差動歯車機構、71:第1軸部材、71a:第1外周面、8:油供給部、8a:供給口、P11:第1油路、P12:第2油路、P11a:第1開口部、W:車輪、L:軸方向、L1:軸方向第1側、L2:軸方向第2側、R:径方向、R1:径方向内側、R2:径方向外側