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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152670
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】光学ガラスおよび光学素子
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/068 20060101AFI20231005BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C03C3/068
G02B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209243
(22)【出願日】2022-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2022059033
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】井平 敦士
(72)【発明者】
【氏名】根岸 智明
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA04
4G062BB01
4G062DA03
4G062DA04
4G062DB01
4G062DC03
4G062DC04
4G062DD01
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4G062DE03
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4G062FE01
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4G062HH01
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4G062HH13
4G062HH15
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4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ04
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK04
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062NN02
4G062NN29
4G062NN33
(57)【要約】
【課題】屈折率が高く、かつ熱的安定性に優れる光学ガラスを提供すること。
【解決手段】質量基準で、B含有量が5.0%以上30.0%以下、SiO含有量が1.0%以上15.0%以下、Nb含有量が15.0%以下、La含有量が5.0%以上70.0%以下、ZnO含有量が0.1%以上、LiO含有量が0.4%以下、TiO含有量が5.0%以下、質量比((La+Gd+Y+Yb)/(SiO+B))が2.50以上5.30以下、質量比((TiO+Nb+Ta+WO)/(La+Gd+Y+Yb))が0.15以下、質量比(SiO/B)が0.20以上0.60以下、質量比((TiO+Nb+Ta+WO)/(SiO+B))が0.35以下、質量比(ZnO/(La+Gd+Y+Yb))が0.14以下、質量比((Ta+WO)/(TiO+W+OTa+Nb))が0.45以下、質量比((La+Gd+Y+Yb+TiO+Nb+Ta+WO)/(SiO+B))が3.50以下、かつ質量比(Gd/(La+Gd+Y+Yb))が0.10以上0.45以下である光学ガラス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量基準で、
含有量が5.0%以上30.0%以下、
SiO含有量が1.0%以上15.0%以下、
Nb含有量が15.0%以下、
La含有量が5.0%以上70.0%以下、
ZnO含有量が0.1%以上、
LiO含有量が0.4%以下、
TiO含有量が5.0%以下、
SiOとBとの合計含有量に対するLa、Gd、YおよびYbの合計含有量の質量比((La+Gd+Y+Yb)/(SiO+B))が2.50以上5.30以下、
La、Gd、YおよびYbの合計含有量に対するTiO、Nb、TaおよびWOの合計含有量の質量比((TiO+Nb+Ta+WO)/(La+Gd+Y+Yb))が0.15以下、
含有量に対するSiO含有量の質量比(SiO/B)が0.20以上0.60以下、
SiOとBとの合計含有量に対するTiO、Nb、TaおよびWOの合計含有量の質量比((TiO+Nb+Ta+WO)/(SiO+B))が0.35以下、
La、Gd、YおよびYbの合計含有量に対するZnO含有量の質量比(ZnO/(La+Gd+Y+Yb))が0.14以下、
TiO、WO、TaおよびNbの合計含有量に対するTaとWOとの合計含有量の質量比((Ta+WO)/(TiO+W+OTa+Nb))が0.45以下、
SiOとBとの合計含有量に対するLa、Gd、Y、Yb、TiO、Nb、TaおよびWOの合計含有量の質量比((La+Gd+Y+Yb+TiO+Nb+Ta+WO)/(SiO+B))が3.50以下、かつ
La、Gd、YおよびYbの合計含有量に対するGd含有量の質量比(Gd/(La+Gd+Y+Yb))が0.10以上0.45以下である光学ガラス。
【請求項2】
屈折率ndが1.70以上1.90以下である、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
アッベ数νdが40.0以上44.0以下である、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項4】
Yb含有量が10.0質量%以下である、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項5】
Ta含有量が12.0質量%以下である、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項6】
Pbを含まない、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項7】
屈折率ndとアッベ数νdが下記式(1)を満たす、請求項1に記載の光学ガラス。
式(1):
nd>-0.05*νd+3.94
【請求項8】
Yb含有量が10.0質量%以下であり、
Ta含有量が12.0質量%以下であり、
Pbを含まず、
屈折率ndが1.70以上1.90以下であり、
アッベ数νdが40.0以上44.0以下であり、かつ
屈折率ndとアッベ数νdが下記式(1)を満たす、請求項1に記載の光学ガラス。
式(1):
nd>-0.05*νd+3.94
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラスおよび光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
屈折率が高い光学ガラスからなるレンズが、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-284542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
屈折率が高い光学ガラスは、例えば、このガラスからなるレンズを分散性が異なるガラスからなる他のレンズと組み合わせて接合レンズとすることにより、色収差を補正しつつ光学系のコンパクト化を可能にすることができる。そのため、かかる光学ガラスは、撮像光学系やプロジェクタ等の投射光学系を構成する光学素子用材料として有用である。
【0005】
熱的安定性が低いガラスは結晶化しやすい傾向がある。したがって、光学ガラスに望まれる物性としては、熱的安定性に優れることが挙げられる。
【0006】
以上に鑑み、本発明の一態様は、屈折率が高く、かつ熱的安定性に優れる光学ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、質量基準で、B含有量が5.0%以上30.0%以下、SiO含有量が1.0%以上15.0%以下、Nb含有量が15.0%以下、La含有量が5.0%以上70.0%以下、ZnO含有量が0.1%以上、LiO含有量が0.4%以下、TiO含有量が5.0%以下、SiOとBとの合計含有量に対するLa、Gd、YおよびYbの合計含有量の質量比((La+Gd+Y+Yb)/(SiO+B))が2.50以上5.30以下、La、Gd、YおよびYbの合計含有量に対するTiO、Nb、TaおよびWOの合計含有量の質量比((TiO+Nb+Ta+WO)/(La+Gd+Y+Yb))が0.15以下、B含有量に対するSiO含有量の質量比(SiO/B)が0.20以上0.60以下、SiOとBとの合計含有量に対するTiO、Nb、TaおよびWOの合計含有量の質量比((TiO+Nb+Ta+WO)/(SiO+B))が0.35以下、La、Gd、YおよびYbの合計含有量に対するZnO含有量の質量比(ZnO/(La+Gd+Y+Yb))が0.14以下、TiO+W+OTa+Nbに対するTa+WOの質量比((Ta+WO)/(TiO+W+OTa+Nb))が0.45以下、SiOとBとの合計含有量に対するLa、Gd、Y、Yb、TiO、Nb、TaおよびWOの合計含有量の質量比((La+Gd+Y+Yb+TiO+Nb+Ta+WO)/(SiO+B))が3.50以下、かつLa、Gd、YおよびYbの合計含有量に対するGd含有量の質量比(Gd/(La+Gd+Y+Yb))が0.10以上0.45以下である光学ガラスに関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、屈折率が高く、かつ熱的安定性に優れる光学ガラスを提供できる。また、本発明の一態様によれば、かかる光学ガラスからなる光学素子も提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[光学ガラス]
<ガラス組成>
本発明および本明細書では、ガラス組成を、酸化物基準のガラス組成で表示する。ここで「酸化物基準のガラス組成」とは、ガラス原料が熔融時にすべて分解されてガラス中で酸化物として存在するものとして換算することにより得られるガラス組成をいうものとする。また、特記しない限り、ガラス組成は質量基準(質量%、質量比)で表示するものとする。
本発明および本明細書におけるガラス組成は、例えばICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)等の方法により求めることができる。定量分析は、ICP-AESを用い、各元素別に行われる。その後、分析値は酸化物表記に換算される。ICP-AESによる分析値は、例えば、分析値の±5%程度の測定誤差を含んでいることがある。したがって、分析値から換算された酸化物表記の値についても、同様に±5%程度の誤差を含んでいることがある。
また、本発明および本明細書において、構成成分の含有量が0.0%または含まないもしくは導入しないとは、この構成成分を実質的に含まないことを意味し、この構成成分の含有量が不純物レベル程度以下であることを指す。不純物レベル程度以下とは、例えば、0.01%未満であることを意味する。
【0010】
以下、上記光学ガラスのガラス組成について、更に詳細に説明する。
【0011】
はガラスの熱的安定性を改善する働きをする成分であり、その含有量は、5.0%以上であり、6.0%以上であることが好ましく、7.0%以上、8.0%以上、9.0%以上、10.0%以上、11.0%以上、12.0%以上の順により好ましい。B含有量は、高屈折率化の観点から、30.0%以下であり、28.0%以下であることが好ましく、26.0%以下、24.0%以下、22.0%以下、20.0%以下、18.0%以下、16.0%以下の順により好ましい。
【0012】
SiOもガラスの熱的安定性を改善する働きをする成分であり、その含有量は、1.0%以上であり、2.0%以上であることが好ましく、3.0%以上、4.0%以上、5.0%以上、6.0%以上の順により好ましい。SiO含有量は、高屈折率化の観点から、15.0%以下であり、14.0%以下であることが好ましく、13.0%以下、12.0%以下、11.0%以下、10.0%以下の順により好ましい。
【0013】
含有量に対するSiO含有量の質量比(SiO/B)は、ガラスの熱的安定性向上の観点から、0.20以上0.60以下である。熱的安定性の更なる向上の観点から、質量比(SiO/B)は、0.35以上であることが好ましく、0.40以上であることがより好ましく、0.50以上であることが更に好ましい。同様の観点から、質量比(SiO/B)は、0.55以下であることが好ましい。
【0014】
Nb含有量は、高屈折率ガラスの低分散化の観点から、15.0%以下であり、14.0%以下であることが好ましく、13.0%以下、12.0%以下、11.0%以下、10.0%以下、9.0%以下、8.0%以下、7.0%以下の順により好ましい。Nb含有量は、例えば、0.0%以上、0.0%超、1.0%以上、2.0%以上、3.0%以上、4.0%以上または5.0%以上であることができる。
【0015】
La含有量は、高屈折率低分散ガラスであって、かつ熱的安定性に優れるガラスを実現する観点から、5.0%以上70.0%以下である。上記観点から、La含有量は、10.0%以上であることが好ましく、15.0%以上、20.0%以上、25.0%以上、30.0%以上、35.0%以上の順により好ましい。また、熱的安定性の更なる向上の観点から、La含有量は、65.0%以下であることが好ましく、60.0%以下、55.0%以下、50.0%以下、45.0%以下の順により好ましい。
【0016】
La、Gd、YおよびYbの合計含有量に対するGd含有量の質量比(Gd/(La+Gd+Y+Yb))は、高屈折率化およびガラスの熱的安定性向上の観点から、0.10以上0.45以下である。更なる高屈折率化の観点から、質量比(Gd/(La+Gd+Y+Yb))は、0.15以上であることが好ましく、0.18以上であることがより好ましく、0.20以上であることが更に好ましい。また、熱的安定性の更なる向上の観点から、質量比(Gd/(La+Gd+Y+Yb))は、0.40以下であることが好ましい。
【0017】
La、Gd、YおよびYbの合計含有量に対するGdとLaとの合計含有量の質量比((Gd+La)/(La+Gd+Y+Yb))は、高屈折率化の観点からは、0.40以上であることが好ましく、0.50以上であることがより好ましく、0.60以上であることが更に好ましい。質量比((Gd+La)/(La+Gd+Y+Yb))は、例えば1.00以下または0.95以下であることができる。
【0018】
La含有量に対するY含有量の質量比(Y/La)は、後述する液相温度を低下させる観点からは、0.80以下であることが好ましく、0.70以下であることがより好ましく、0.60以下であることが更に好ましい。例えば0.00以上、0.00超または0.10以上であることができる。
【0019】
La、Gd、YおよびYbは、いずれも分散を高めずに(アッベ数を低下させずに)屈折率を高める働きを有する成分である。La含有量については上記の通りである。
Gd含有量は、例えば0.0%以上、0.0%超、1.0%以上、5.0%以上または10.0%以上であることができる。Gdは、ガラス成分の中で比重を高める成分であり、また高価な成分でもある。これらの観点から、Gd含有量は、50.0%以下であることが好ましく、45.0%以下、40.0%以下、35.0%以下、30.0%以下の順により好ましい。
含有量は、0.0%以上、0.0%超、1.0%以上もしくは3.0%以上であることができ、また、例えば10.0%以下、8.0%以下であることができる。
Yb含有量は、0.0%以上、0.0%超、1.0%以上もしくは3.0%以上であることができ、また、例えば10.0%以下、9.0%以下、8.0%以下、7.0%以下、6.0%以下、5.0%以下もしくは4.0%以下であることができる。
【0020】
SiOとBとの合計含有量に対するLa、Gd、YおよびYbの合計含有量の質量比((La+Gd+Y+Yb)/(SiO+B))は、高屈折率低分散ガラスであって、かつ熱的安定性に優れるガラスを実現する観点から、2.50以上5.30以下である。高分散化の抑制および熱的安定性の更なる向上の観点から、質量比((La+Gd+Y+Yb)/(SiO+B))は、5.00以下であることが好ましく、4.50以下、4.00以下、3.50以下、3.00以下の順により好ましい。また、更なる高屈折率化の観点から、質量比((La+Gd+Y+Yb)/(SiO+B))は、2.60以上であることが好ましく、2.70以上であることがより好ましい。
【0021】
ZnO含有量は、ガラス転移温度の上昇を抑制する観点から、0.1%以上であり、0.3%以上であることが好ましく、1.0%以上であることがより好ましい。ZnO含有量は、例えば、10.0%以下、9.0%以下、8.0%以下または7.0%以下であることができる。
【0022】
La、Gd、YおよびYbの合計含有量に対するZnO含有量の質量比(ZnO/(La+Gd+Y+Yb))は、熱的安定性向上の観点から、0.14以下であり、0.13以下であることが好ましく、0.12以下、0.11以下、0.10以下、0.09以下、0.08以下、0.07以下、0.06以下の順により好ましい。質量比(ZnO/(La+Gd+Y+Yb))は、例えば0.00以上、0.00超または0.01以上であることができる。
【0023】
SiOとBとの合計含有量に対するZnO含有量の質量比(ZnO/(SiO+B))は、ガラスの熱的安定性の更なる向上の観点から、0.50以下であることが好ましく、0.45以下であることがより好ましく、0.40以下であることが更に好ましい。質量比(ZnO/(SiO+B))は、例えば0.00以上、0.00超、0.01以上または0.02以上であることができる。
【0024】
LiO含有量は、熱的安定性向上の観点から、0.4%以下であり、0.3%以下であることが好ましく、0.2%以下であることがより好ましく、0.1%以下であることが更に好ましい。LiO含有量は、0.0%または0.0%以上であることができる。より一層の低比重化の観点からは、上記光学ガラスのLiO含有量が0.0%であること、即ち上記光学ガラスがLiOを含まないことが好ましい。
【0025】
アルカリ金属酸化物であるLiO、NaO、KOおよびCsOの中で、LiO含有量については上記の通りである。
NaO、KOおよびCsOのそれぞれの含有量は、例えば0.0%以上もしくは0.0%超であることができ、また、例えば5.0%以下、4.0%以下、3.0%以下、2.0%以下、1.0%以下、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下もしくは0.1%以下であることができる。
【0026】
TiO含有量は、ガラスの着色抑制の観点から、5.00%以下であり、4.0%以下であることが好ましく、3.0%以下、2.0%以下、1.0%以下、0.5%以下、0.1%以下、0.0%の順により好ましい。
【0027】
Taは希少元素であって高価であるため、Ta含有量が少ないことは好ましい。上記の観点および望ましい光学恒数実現の観点からは、Ta含有量は、12.0%以下であることが好ましく、11.0%以下、10.0%以下、9.0%以下、8.0%以下、7.0%以下、6.0%以下、5.10.0%以下、5.0%以下、4.0%以下、3.0%以下、2.0%以下、1.0%以下、0.0%以下の順により好ましい。
【0028】
WO含有量は、ガラスの着色抑制の観点から、1.0%以下であることが好ましく、0.50%以下であることがより好ましく、0.1%以下であることが更に好ましく、0.0%であることが一層好ましい。
【0029】
La、Gd、YおよびYbの合計含有量に対するTiO、Nb、TaおよびWOの合計含有量の質量比((TiO+Nb+Ta+WO)/(La+Gd+Y+Yb))は、低分散化の観点から、0.15以下であり、0.14以下であることが好ましく、0.13以下、0.12以下、0.11以下の順により好ましい。また、質量比((TiO+Nb+Ta+WO)/(La+Gd+Y+Yb))は、例えば0.00以上、0.00超、0.01以上、0.02以上、0.03以上、0.04以上または0.05以上であることができる。
【0030】
SiOとBとの合計含有量に対するTiO、Nb、TaおよびWOの合計含有量の質量比((TiO+Nb+Ta+WO)/(SiO+B))は、ガラスの熱的安定性向上の観点から、0.35以下であり、0.34以下、0.33以下、0.32以下、0.31以下、0.30以下、0.29以下の順により好ましい。質量比((TiO+Nb+Ta+WO)/(SiO+B))は、例えば0.00以上、0.00超、0.01以上、0.03以上、0.05以上、0.07以上または0.10以上であることができる。
【0031】
TiO、WO、TaおよびNbの合計含有量に対するTaとWOとの合計含有量の質量比((Ta+WO)/(TiO+W+OTa+Nb))は、ガラスの着色抑制および低比重化の観点から、0.45以下であり、0.40以下であることが好ましく、0.35以下、0.30以下、0.25以下、0.20以下、0.15以下の順により好ましい。質量比((Ta+WO)/(TiO+W+OTa+Nb))は、例えば0.00以上、0.00超または0.01以上、0.02以上、0.03以上、0.04以上または0.05以上であることができる。
【0032】
ZnO含有量に対するTiO、Nb、TaおよびWOの合計含有量の質量比((TiO+Nb+Ta+WO)/ZnO)は、低分散化の観点から、30.00以下であることが好ましく、25.00以下であることがより好ましい。質量比((TiO+Nb+Ta+WO)/ZnO)は、例えば0.00以上、0.00超、0.50以上、1.00以上、1.50以上または1.70以上であることができる。
【0033】
TiO+Nb+Ta+WOの合計含有量に対するNb含有量の質量比(Nb/(TiO+Nb+Ta+WO))は、例えば1.00以下または1.00未満であることができる。質量比(Nb/(TiO+Nb+Ta+WO))は、例えば0.00以上、0.00超、0.10以上または0.50以上であることができる。
【0034】
SiOとBとの合計含有量に対するLa、Gd、Y、Yb、TiO、Nb、TaおよびWOの合計含有量の質量比((La+Gd+Y+Yb+TiO+Nb+Ta+WO)/(SiO+B))は、望ましい光学恒数の実現およびガラスの熱的安定性向上の観点から、3.50以下であり、3.40以下であることが好ましく、3.30以下、3.20以下の順により好ましい。質量比((La+Gd+Y+Yb+TiO+Nb+Ta+WO)/(SiO+B))は、例えば0.00超、0.10以上、0.50以上、1.50以上または2.00以上であることができる。
【0035】
ZrO含有量は、ガラスの熱的安定性の更なる向上の観点から、13.0%以下であることが好ましく、12.0%以下であることがより好ましく、11.0%以下、10.0%以下、9.0%以下、8.0%以下の順により好ましい。ZrO含有量は、例えば0.0%以上、0.0%超、0.1%以上、0.5%以上、1.0%以上、2.0%以上、3.0%以上、4.0%以上または5.0%以上であることができる。
【0036】
上記光学ガラスは、Alを含んでもよく、含まなくてもよい。上記光学ガラスのAl含有量は、例えば0.0%以上、0.0%超、0.1%以上、0.5%以上または1.0%以上であることができる。また、上記光学ガラスのAl含有量は、例えば5.0%以下、4.0%以下または3.0%以下であることができる。
【0037】
上記光学ガラスは、アルカリ土類金属酸化物の1種以上を含んでもよく、含まなくてもよい。上記光学ガラスにおいて、MgO、CaO、SrOおよびBaOのそれぞれの含有量は、例えば0.0%以上、0.0%超、0.1%以上、0.5%以上もしくは1.0%以上であることができ、また、例えば5.0%以下、4.0%以下もしくは3.0%以下であることができる。
【0038】
Sbは、清澄剤として添加可能な成分である。少量の添加でFe等の不純物混入による光線透過率の低下を抑える働きをすることもできるが、Sbの添加量を多くすると、ガラスの着色が増加傾向を示す。したがって、Sbの添加量は、外割りで0.00%以上0.10%以下であることが好ましく、より好ましくは0.00%以上0.05%以下、更に好ましくは0.00%以上0.03%以下である。外割りによるSb含有量とは、Sb以外のガラス成分の含有量の合計を100質量%としたときの質量%表示によるSbの含有量を意味する。
【0039】
SnOも清澄剤として添加可能であるが、外割りで1.00%を超えて添加するとガラスが着色したり、ガラスを加熱、軟化してプレス成形等の再成形をする際に、Snが結晶核生成の起点となって失透傾向が生じる。したがって、SnOの添加量を外割りで0.00%以上1.00%以下とすることが好ましく、0.00%以上0.50%以下とすることがより好ましく、添加しないことが特に好ましい。外割りによるSnO含有量とは、SnO以外のガラス成分の含有量の合計を100質量%としたときの質量%表示によるSnOの含有量を意味する。
【0040】
上記光学ガラスは、Lu、Hfといった成分を含有させることなく作製することができる。Lu、Hfは高価な成分であるため、Lu、HfOの含有量をそれぞれ0.00%以上2.00%以下に抑えることが好ましく、それぞれ0.00%以上1.00%以下に抑えることがより好ましく、それぞれ0.00%以上0.80%以下に抑えることが更に好ましく、それぞれ0.00%以上0.10%以下に抑えることが一層好ましく、Luを導入しないこと、HfOを導入しないことがそれぞれ特に好ましい。
また、環境影響に配慮し、Pbを導入しないことが好ましく、As、U、Th、Te、Cdも導入しないことが好ましい。
更に、ガラスの優れた光線透過性を活かす観点から、Cu、Cr、V、Fe、Ni、Co等の着色の要因となる物質を導入しないことが好ましい。
【0041】
Fは、熔融時のガラスの揮発性を著しく高め、ガラスの光学特性の安定性および均質性を低下させる原因になる成分である。F含有量は、先に記載したように求められる酸化物基準のガラス組成の合計含有量100質量%に対するF元素の外割での含有量(単位:質量%)で規定することができる。上記光学ガラスにおいて、こうして規定されるF含有量は0.10%未満であることが好ましく、0.08%未満であることがより好ましく、0.05%未満であることが更に好ましい。F含有量は0.00%以上であることができ、0.00%であってもよい。
【0042】
<ガラス物性>
(屈折率nd)
上記光学ガラスは、屈折率の高いガラスであることができる。上記光学ガラスの屈折率ndは、1.70以上であることが好ましく、1.75以上であることがより好ましく、1.80以上、1.81以上、1.82以上、1.83以上、1.84以上、1.85以上の順に一層好ましい。上記光学ガラスの屈折率ndは、例えば、1.90以下、1.89以下または1.88以下であることができる。本発明および本明細書において、「屈折率」は、「屈折率nd」を意味する。
【0043】
(アッベ数νd)
アッベ数νdは分散性に関する性質を表す値であり、d線、F線、C線における各屈折率nd、nF、nCを用いてνd=(nd-1)/(nF-nC)と表される。光学素子用材料としての有用性の観点から、上記光学ガラスは低分散ガラスであることが好ましい。かかる観点から、上記光学ガラスのアッベ数νdは、40.0以上であることが好ましく、40.5以上であることがより好ましく、41.0以上であることが更に好ましい。上記光学ガラスのアッベ数νdは、例えば44.0以下であることができる。
【0044】
上記光学ガラスは、一形態では、屈折率ndが1.70以上1.90以下であり、かつアッベ数νdが40.0以上44.0以下の高屈折率低分散ガラスであることができる。
【0045】
また、光学素子用材料としての有用性の観点から、上記光学ガラスの屈折率ndとアッベ数νdは、下記式(1)を満たすことが好ましい。
式(1):
nd>-0.05*νd+3.94
【0046】
(比重)
光学系を構成する光学素子では、光学素子を構成するガラスの屈折率と光学素子の光学機能面(制御しようとする光線が入射、出射する面)の曲率によって、屈折力が決まる。光学機能面の曲率を大きくしようとすると、光学素子の厚みも増加する。その結果、光学素子が重くなる。これに対し、屈折率の高いガラスを使用すれば、光学機能面の曲率を大きくしなくても大きな屈折力を得ることができる。
以上より、ガラスの比重の増加を抑えつつ、屈折率を高めることができれば、一定の屈折力を有する光学素子の軽量化が可能となる。
以上の観点から、上記光学ガラスの比重は、5.20以下であることが好ましく、5.15以下、5.10以下の順により好ましい。比重が低いほど光学素子の軽量化の観点から好ましいため、上記光学ガラスの比重について、下限は特に限定されない。一形態では、比重は、4.40以上、4.50以上または4.60以上であることができる。
【0047】
(着色度λ5、λ70、λ80)
ガラスの着色抑制に関して、ガラスの光線透過性、詳しくは、短波長側の光吸収端の長波長化が抑制されていることは、着色度λ5、λ70およびλ80の1つ以上によって評価することができる。着色度λ5とは、紫外域から可視域にかけて、厚さ10mmのガラスの分光透過率(表面反射損失を含む)が5%となる波長を表す。λ70は、λ5について記載した方法で測定される分光透過率が70%となる波長を表す。λ80は、λ5について記載した方法で測定される分光透過率が80%となる波長を表す。後述の実施例の欄に示すλ5、λ70およびλ80は、250~700nmの波長域において測定された値である。なお、本発明および本明細書におけるガラスの分光透過率T(%)は、光学研磨された2つの互いに平行な平面を有するガラス試料に対し、かかる平面のうちの一面に垂直に入射する光の強度をIinとし、ガラス試料を透過してもう一方の面から射出した光の強度をIoutとしたとき、
T(%)=Iout/Iin×100
で表される。
着色度λ5、λ70およびλ80によれば、分光透過率の短波長側の吸収端を定量的に評価することができる。接合レンズ作製のためにレンズ同士を紫外線硬化型接着剤により接合する際等には、光学素子を通して接着剤に紫外線を照射し接着剤を硬化させることが行われる。効率よく紫外線硬化型接着剤の硬化を行う観点からは、分光透過率の短波長側の吸収端が短い波長域にあることが好ましい。この短波長側の吸収端を定量的に評価する指標として、着色度λ5、λ70およびλ80の1つ以上を用いることができる。
上記光学ガラスは、好ましくは340nm以下のλ5を示すことができ、より好ましは335nm以下のλ5を示すことができる。また、上記光学ガラスは、好ましくは400nm以下のλ70を示すことができ、より好ましくは390nm以下のλ70を示すことができる。λ80は、好ましくは480nm以下であり、より好ましくは475nm以下である。λ5、λ70およびλ80は、低いほど好ましく、下限は特に限定されるものではない。
【0048】
(ガラス転移温度Tg)
アニール炉や成形型への負担軽減の観点からは、上記光学ガラスのガラス転移温度Tgは、800℃以下であることが好ましく、790℃以下、780℃以下、770℃以下、760℃以下、750℃以下の順により好ましい。一方、機械加工性の観点(詳しくは、切断、切削、研削、研磨等のガラスの機械加工を行う際に破損しにくいという観点)からは、上記光学ガラスのガラス転移温度Tgは、640℃以上であることが好ましく、650℃以上であることがより好ましく、660℃以上であることが更に好ましい。ガラス転移温度Tgは、後述の方法によって求められる。
【0049】
(熱的安定性)
ガラスの熱的安定性には、ガラス融液を成形する際の耐失透性と、一度固化したガラスを再加熱したときの耐失透性とがある。
【0050】
液相温度LT
ガラス融液を成形する際の耐失透性は液相温度(LT:liquidus temperature)を目安にすることができる。液相温度が低いガラスほど、優れた耐失透性を有するガラスということができる。液相温度が高いガラスでは、失透を防止するために、ガラス融液 、即ち、熔融ガラスの温度を高温に保持しなければならず、易揮発成分の揮発が生じる、坩堝の侵蝕が助長される、特に貴金属製坩堝の場合は貴金属イオンがガラス融液に溶け込んでガラスが着色する、成形時の粘性が低くなって均質性の高いガラスを成形することが難しくなる等の現象が発生し得る。そのため、上記光学ガラスの液相温度LTは1320℃以下であることが好ましく、1310℃以下、1300℃以下、1290℃以下、1280℃以下、1270℃以下、1260℃以下の順により好ましい。液相温度LTは、例えば、1000℃以上または1100℃以上であることができるが、液相温度LTが低いことは好ましいため、ここに例示した値を上回ることもできる。
【0051】
本発明および本明細書における「液相温度」は、以下の方法によって求められる。
5ccのガラスを入れた白金製坩堝を蓋を付けて所定の温度に加熱された炉内で2時間保持し、冷却後、ガラス内部を光学顕微鏡(倍率:100倍)で観察し、結晶の有無から、液相温度を決定する。温度は10℃刻みで変化させる。
【0052】
Tx-Tg
一度固化したガラスを再加熱したときの耐失透性については、結晶化ピーク温度Txとガラス転移温度Tgの差(Tx-Tg)が大きいものほど、耐失透性が優れていると考えることができる。
ガラス転移温度Tgおよび結晶化ピーク温度Txは、次のようにして求められる。示差走査熱量分析において、ガラス試料を昇温すると比熱の変化に伴う吸熱挙動、即ち、吸熱ピークが現れ、更に昇温すると発熱ピークが現れる。示差走査熱量分析では横軸を温度、縦軸を試料の発熱吸熱に対応する量とする示差走査熱量曲線(DSC曲線)が得られる。この曲線でベースラインから吸熱ピークが現れる際に傾きが最大になる点における接線と上記ベースラインの交点をガラス転移温度Tgとし、発熱ピークが現れる際に傾きが最大になる点における接線と上記ベースラインの交点を結晶化ピーク温度Txとする。ガラス転移温度Tgおよび結晶化温度Txの測定は、ガラスを乳鉢等で十分粉砕したものを試料とし、試料容器として白金製のセルを使用し、示差走査熱量計によって、昇温速度を10℃/分として行うことができる。
成形時のガラスの温度が、結晶化温度域に達すると失透するので、(Tx-Tg)が小さいガラスは、失透を防止しつつ成形を行う上で不利である。反対に(Tx-Tg)が大きいガラスは、失透せずに再加熱、軟化して成形を行う上で有利である。上記理由により、結晶化ピーク温度Txとガラス転移温度Tgの差(Tx-Tg)は、70℃以上であることが好ましい。(Tx-Tg)は、例えば、300℃以下、280℃以下、260℃以下、240℃以下、220℃以下または200℃以下であることができるが、(Tx-Tg)が大きいことは好ましいため、ここに例示した値を上回ることもできる。
【0053】
<光学ガラスの製造方法>
上記光学ガラスは、目的のガラス組成が得られるように、原料である酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、水酸化物等を秤量、調合し、十分に混合して混合バッチとし、熔融容器内で加熱、熔融し、脱泡、撹拌を行い均質かつ泡を含まない熔融ガラスを作り、これを成形することによって得ることができる。具体的には公知の熔融法を用いて作ることができる。
【0054】
[プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、およびそれらの製造方法]
本発明の他の一態様は、
上記光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材;
上記光学ガラスからなる光学素子ブランク、
に関する。
【0055】
本発明の他の一態様によれば、
上記光学ガラスをプレス成形用ガラス素材に成形する工程を備えるプレス成形用ガラス素材の製造方法;
上記光学ガラスプレス成形用ガラス素材を、プレス成形型を用いてプレス成形することにより光学素子ブランクを作製する工程を備える光学素子ブランクの製造方法;
上記光学ガラスを光学素子ブランクに成形する工程を備える光学素子ブランクの製造方法、
も提供される。
【0056】
光学素子ブランクとは、目的とする光学素子の形状に近似し、光学素子の形状に研磨しろ(研磨により除去することになる表面層)、必要に応じて研削しろ(研削により除去することになる表面層)を加えた光学素子母材である。光学素子ブランクの表面を研削、研磨することにより、光学素子が仕上げられる。一形態では、上記ガラスを適量熔融して得た熔融ガラスをプレス成形する方法(ダイレクトプレス法と呼ばれる。)により、光学素子ブランクを作製することができる。他の一形態では、上記ガラスを適量熔融して得た熔融ガラスを固化することにより光学素子ブランクを作製することもできる。
【0057】
また、他の一形態では、プレス成形用ガラス素材を作製し、作製したプレス成形用ガラス素材をプレス成形することにより、光学素子ブランクを作製することができる。
【0058】
プレス成形用ガラス素材のプレス成形は、加熱して軟化した状態にあるプレス成形用ガラス素材をプレス成形型でプレスする公知の方法により行うことができる。加熱、プレス成形は、ともに大気中で行うことができる。プレス成形後にアニールしてガラス内部の歪を低減することにより、均質な光学素子ブランクを得ることができる。
【0059】
プレス成形用ガラス素材は、そのままの状態で光学素子ブランク作製のためのプレス成形に供されるプレス成形用ガラスゴブと呼ばれるものに加え、切断、研削、研磨等の機械加工を施してプレス成形用ガラスゴブを経てプレス成形に供されるものも含む。切断方法としては、ガラス板の表面の切断したい部分にスクライビングと呼ばれる方法で溝を形成し、溝が形成された面の裏面から溝の部分に局所的な圧力を加えて、溝の部分でガラス板を割る方法や、切断刃によってガラス板をカットする方法等がある。また、研削、研磨方法としてはバレル研磨等が挙げられる。
【0060】
プレス成形用ガラス素材は、例えば、熔融ガラスを鋳型に鋳込みガラス板に成形し、このガラス板を複数のガラス片に切断することにより作製することができる。または、適量の熔融ガラスを成形してプレス成形用ガラスゴブを作製することもできる。プレス成形用ガラスゴブを、再加熱、軟化してプレス成形して作製することにより、光学素子ブランクを作製することもできる。ガラスを再加熱、軟化してプレス成形して光学素子ブランクを作製する方法は、ダイレクトプレス法に対してリヒートプレス法と呼ばれる。
【0061】
[光学素子およびその製造方法]
本発明の他の一態様は、
上記光学ガラスからなる光学素子
に関する。
上記光学素子は、上記光学ガラスを用いて作製される。上記光学素子において、ガラス表面には、例えば、反射防止膜等の多層膜等、一層以上のコーティングが形成されていてもよい。
【0062】
また、本発明の一態様によれば、
上述の光学素子ブランクを研削および/または研磨することにより光学素子を作製する工程を備える光学素子の製造方法、
も提供される。
【0063】
上記光学素子の製造方法において、研削、研磨等の機械加工は公知の方法を適用して行うことができ、加工後に光学素子表面を十分洗浄、乾燥させる等することにより、内部品質および表面品質の高い光学素子を得ることができる。このようにして、上記光学ガラスからなる光学素子を得ることができる。光学素子としては、球面レンズ、非球面レンズ、マイクロレンズ等の各種のレンズ、プリズム等を例示することができる。
【0064】
また、上記光学ガラスからなる光学素子は、接合光学素子を構成するレンズとしても好適である。接合光学素子としては、レンズ同士を接合したもの(接合レンズ)、レンズとプリズムを接合したもの等を例示することができる。例えば、接合光学素子は、接合する2つの光学素子の接合面を形状が反転形状となるように精密に加工(例えば、球面研磨加工)し、接合レンズの接着に使用される紫外線硬化型接着剤を塗布し、貼り合わせてからレンズを通して紫外線を照射し接着剤を硬化させることで作製することができる。このように接合光学素子を作製するために、上記光学ガラスは好ましい。接合する複数個の光学素子を、アッベ数νdが相違する複数種のガラスを用いてそれぞれ作製し、接合することにより、色収差の補正に好適な素子とすることができる。
【実施例0065】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。ただし、本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
<実施例No.1~156>
以下の表に示すガラス組成になるように、各成分を導入するための原料としてそれぞれ相当する硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物、酸化物、ホウ酸等を用い、原料を秤量し、十分に混合して調合原料とした。
この調合原料を白金製坩堝に入れ、1400℃に設定された炉内で加熱し2時間熔融した。熔融ガラスを撹拌して均質化した後、熔融ガラスを予熱した鋳型に流し込み、ガラス転移温度付近まで放冷してから直ちにアニール炉に入れ、ガラス転移温度程度の温度で約30分間保持した後、徐冷速度-30℃/時間で4時間徐冷し、その後炉内で室温まで放冷することにより、以下の表に示すNo.1~122の各光学ガラスを得た。
このようにして得られた光学ガラスの諸物性を以下の表に示す。
光学ガラスの諸物性は、以下に示す方法により測定した。
【0067】
<光学ガラスの物性評価>
(1)屈折率ndアッベ数νd
得られたガラスについて、日本光学硝子工業会規格の屈折率測定法により、屈折率ndおよびアッベ数νdを測定した。
【0068】
(2)ガラス転移温度Tg、結晶化温度Tx
ガラスを乳鉢で十分粉砕したものを試料とし、試料容器として白金製のセルを使用し、Rigaku社製の示差走査熱量分析装置(DSC8270)によって、昇温速度を10℃/分にしてガラス転移温度Tgおよび結晶化温度Txを測定した。
測定されたTgおよびTxから、「Tg-Tx」を算出した。
【0069】
(3)比重
アルキメデス法により比重を測定した。
【0070】
(4)着色度λ5、λ70、λ80
互いに対向する2つの光学研磨された平面を有する厚さ10±0.1mmのガラス試料を用い、分光光度計により、分光透過率T(%)を測定した。Tが5%になる波長(nm)をλ5とし、Tが70%になる波長(nm)をλ70とし、Tが80%になる波長(nm)をλ80とした。
【0071】
(5)液相温度LT
先に記載した方法によって液相温度LTを求めた。
【0072】
【表1-1】
【0073】
【表1-2】
【0074】
【表1-3】
【0075】
【表1-4】
【0076】
【表1-5】
【0077】
【表1-6】
【0078】
【表1-7】
【0079】
【表1-8】
【0080】
【表2-1】
【0081】
【表2-2】
【0082】
【表2-3】
【0083】
【表2-4】
【0084】
【表2-5】
【0085】
【表2-6】
【0086】
【表2-7】
【0087】
【表2-8】
【0088】
【表3-1】
【0089】
【表3-2】
【0090】
【表3-3】
【0091】
【表3-4】
【0092】
【表3-5】
【0093】
【表3-6】
【0094】
【表3-7】
【0095】
【表3-8】
【0096】
【表4-1】
【0097】
【表4-2】
【0098】
【表4-3】
【0099】
【表4-4】
【0100】
【表4-5】
【0101】
【表4-6】
【0102】
【表4-7】
【0103】
【表4-8】
【0104】
【表5-1】
【0105】
【表5-2】
【0106】
【表5-3】
【0107】
【表5-4】
【0108】
【表5-5】
【0109】
【表5-6】
【0110】
【表5-7】
【0111】
【表5-8】
【0112】
(実施例2)
実施例1で得られた各種ガラスを使用し、プレス成形用ガラス塊(ガラスゴブ)を作製した。このガラス塊を大気中で加熱、軟化し、プレス成形型でプレス成形し、レンズブランク(光学素子ブランク)を作製した。作製したレンズブランクをプレス成形型から取り出し、アニールし、研磨を含む機械加工を行い、実施例1で作製した各種ガラスからなる球面レンズを作製した。
【0113】
(実施例3)
実施例1において作製した熔融ガラスを所望量、プレス成形型でプレス成形し、レンズブランク(光学素子ブランク)を作製した。作製したレンズブランクをプレス成形型から取り出し、アニールし、研磨を含む機械加工を行い、実施例1で作製した各種ガラスからなる球面レンズを作製した。
【0114】
(実施例4)
実施例1において作製した熔融ガラスを固化して作製したガラス塊(光学素子ブランク)アニールし、研磨を含む機械加工を行い、実施例1で作製した各種ガラスからなる球面レンズを作製した。
【0115】
(実施例5)
実施例2~4において作製した球面レンズを、他種のガラスからなる球面レンズと貼り合せ、接合レンズを作製した。実施例2~4において作製した球面レンズの接合面は凸面、他種のガラスからなる球面レンズの接合面は凹面であった。上記2つの接合面は、互いに曲率半径の絶対値が等しくなるように作製した。接合面に光学素子接合用の紫外線硬化型接着剤を塗布し、2つのレンズを接合面同士で貼り合せた。その後、実施例2~4において作製した球面レンズを通して、接合面に塗布した接着剤に紫外線を照射し、接着剤を固化させた。
上記のようにして接合レンズを作製した。接合レンズの接合強度は十分高く、光学性能も十分なレベルのものであった。
【0116】
最後に、前述の各態様を総括する。
【0117】
[1]質量基準で、
含有量が5.0%以上30.0%以下、
SiO含有量が1.0%以上15.0%以下、
Nb含有量が15.0%以下、
La含有量が5.0%以上70.0%以下、
ZnO含有量が0.1%以上、
LiO含有量が0.4%以下、
TiO含有量が5.0%以下、
SiOとBとの合計含有量に対するLa、Gd、YおよびYbの合計含有量の質量比((La+Gd+Y+Yb)/(SiO+B))が2.50以上5.30以下、
La、Gd、YおよびYbの合計含有量に対するTiO、Nb、TaおよびWOの合計含有量の質量比((TiO+Nb+Ta+WO)/(La+Gd+Y+Yb))が0.15以下、
含有量に対するSiO含有量の質量比(SiO/B)が0.20以上0.60以下、
SiOとBとの合計含有量に対するTiO、Nb、TaおよびWOの合計含有量の質量比((TiO+Nb+Ta+WO)/(SiO+B))が0.35以下、
La、Gd、YおよびYbの合計含有量に対するZnO含有量の質量比(ZnO/(La+Gd+Y+Yb))が0.14以下、
TiO、WO、TaおよびNbの合計含有量に対するTaとWOとの合計含有量の質量比((Ta+WO)/(TiO+W+OTa+Nb))が0.45以下、
SiOとBとの合計含有量に対するLa、Gd、Y、Yb、TiO、Nb、TaおよびWOの合計含有量の質量比((La+Gd+Y+Yb+TiO+Nb+Ta+WO)/(SiO+B))が3.50以下、かつ
La、Gd、YおよびYbの合計含有量に対するGd含有量の質量比(Gd/(La+Gd+Y+Yb))が0.10以上0.45以下である光学ガラス。
[2]屈折率ndが1.70以上1.90以下である、[1]に記載の光学ガラス。
[3]アッベ数νdが40.0以上44.0以下である、[1]または[2]に記載の光学ガラス。
[4]Yb含有量が10.0質量%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の光学ガラス。
[5]Ta含有量が12.0質量%以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の光学ガラス。
[6]Pbを含まない、[1]~[5]のいずれかに記載の光学ガラス。
[7]屈折率ndとアッベ数νdが下記式(1)を満たす、[1]~[6]のいずれかに記載の光学ガラス。
式(1):
nd>-0.05*νd+3.94
[8][1]~[7]のいずれかに記載の光学ガラスからなる光学素子。
【0118】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、上述の例示されたガラス組成に対し、明細書に記載の組成調整を行うことにより、本発明の一態様にかかる光学ガラスを得ることができる。
また、明細書に例示または好ましい範囲として記載した事項の2つ以上を任意に組み合わせることは、もちろん可能である。