(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152675
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】柱梁接合構造体、柱梁接合構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/24 20060101AFI20231005BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
E04B1/24 L
E04B1/58 508S
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003722
(22)【出願日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2022059504
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522130069
【氏名又は名称】株式会社カガヤ
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】酒井 勇気
(72)【発明者】
【氏名】有田 政樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 至
(72)【発明者】
【氏名】工藤 哲也
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA03
2E125AA13
2E125AB01
2E125AB16
2E125AC15
2E125AC16
2E125AG48
2E125AG57
2E125BE10
2E125CA90
(57)【要約】
【課題】内ダイアフラムを裏当て金を要しない溶接手段であっても、必要な構造性能を満足することができる柱梁接合構造体を提供する。
【解決手段】角形鋼管柱の外周面の交差方向にH形梁が接合され、H形梁の梁フランジの配置高さで、角形鋼管柱の内側に補強板が溶接継目により溶接接合された柱梁接合構造体であって、溶接継目の耐力が、補強板の断面耐力未満であることを特徴とする。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
角形鋼管柱の外周面の交差方向にH形梁が接合され、前記H形梁の梁フランジの配置高さで、前記角形鋼管柱の内側に補強板が溶接継目により溶接接合された柱梁接合構造体であって、
前記溶接継目の耐力が、前記補強板の断面耐力未満であることを特徴とする、柱梁接合構造体。
【請求項2】
角形鋼管柱の外周面の交差方向にH形梁が接合され、前記H形梁の梁フランジの配置高さで、前記角形鋼管柱の内側に補強板が溶接継目により溶接接合された柱梁接合構造体であって、
前記梁フランジから受ける外力のうち、前記角形鋼管柱の外周面の面外曲げ抵抗を減じた分の外力を前記溶接継目に負担させる、柱梁接合構造体。
【請求項3】
角形鋼管柱の外周面の交差方向にH形梁が接合され、前記H形梁の梁フランジの配置高さで、前記角形鋼管柱の内側に補強板が溶接継目により溶接接合された柱梁接合構造体であって、
前記角形鋼管柱の幅をD
c(mm)、
前記角形鋼管柱の板厚をt
c(mm)、
前記H形梁の梁せいをH
b(mm)、
前記梁フランジの板厚をt
bf(mm)、
前記補強板の配置高さにおける前記角形鋼管柱の外側に一方の前記梁フランジが接合されている前記H形梁の幅をB
b(mm)、
前記補強板の板厚をt
d(mm)、
前記溶接継目の溶接線長さをB
d(mm)、
前記角形鋼管柱の降伏点を
cσ
y(N/mm
2)、
前記角形鋼管柱の引張強さを
cσ
u(N/mm
2)、
前記梁フランジの降伏点を
bσ
y(N/mm
2)、
前記梁フランジの引張強さを
bσ
u(N/mm
2)、
前記補強板の降伏点を
dσ
y(N/mm
2)、
前記補強板の引張強さを
dσ
u(N/mm
2)、
前記H形梁の降伏モーメントを
bM
y(Nmm)、
前記H形梁の全塑性モーメントを
bM
p(Nmm)、
前記柱梁接合構造体の接合部係数をα、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目の溶込み深さをp
1(mm)、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目の余盛高さをe
1(mm)、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目のビード幅をw
1(mm)、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目の溶込み深さをp
2(mm)、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目の余盛高さをe
2(mm)、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目のビード幅をw
2(mm)、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目の降伏点を
w1σ
y(N/mm
2)、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目の引張強さを
w1σ
u(N/mm
2)、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目の降伏点を
w2σ
y(N/mm
2)、及び、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目の引張強さを
w2σ
u(N/mm
2)としたとき、
下記式(1)~式(3)を満たす、
請求項1又は請求項2に記載の柱梁接合構造体。
【数1】
ただし、θ
1、θ
2はそれぞれ下式(4)を満たすθ
1’(θ
1’≧0)、θ
2’(θ
2’≧0)と、tan
-1(w
i/p
i)のいずれか小さい方の値とする。
【数2】
また、βは1以下の正の数とし、κおよびxは下記式(5)および式(6)を満たす正の数とする。
【数3】
【請求項4】
角形鋼管柱の外周面の交差方向にH形梁が接合され、前記H形梁の梁フランジの配置高さで、前記角形鋼管柱の内側に補強板が等脚の隅肉溶接による溶接継目で接合された柱梁接合構造体であって、
前記角形鋼管柱の幅をD
c(mm)、
前記角形鋼管柱の板厚をt
c(mm)、
前記H形梁の梁せいをH
b(mm)、
前記梁フランジの板厚をt
bf(mm)、
前記補強板の配置高さにおける前記角形鋼管柱の外側に一方の前記梁フランジが接合されている前記H形梁の幅をB
b(mm)、
前記補強板の板厚をt
d(mm)、
前記溶接継目の溶接線長さをB
d(mm)、
前記角形鋼管柱の降伏点を
cσ
y(N/mm
2)、
前記角形鋼管柱の引張強さを
cσ
u(N/mm
2)、
前記梁フランジの降伏点を
bσ
y(N/mm
2)、
前記梁フランジの引張強さを
bσ
u(N/mm
2)、
前記補強板の降伏点を
dσ
y(N/mm
2)、
前記補強板の引張強さを
dσ
u(N/mm
2)、
前記H形梁の降伏モーメントを
bM
y(Nmm)、
前記H形梁の全塑性モーメントを
bM
p(Nmm)、
前記柱梁接合構造体の接合部係数をα、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目のサイズをS
1(mm)、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目のサイズをS
2(mm)、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目の降伏点を
w1σ
y(N/mm
2)、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目の引張強さを
w1σ
u(N/mm
2)、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目の降伏点を
w2σ
y(N/mm
2)、及び、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目の引張強さを
w2σ
u(N/mm
2)としたとき、
下記式(7)~式(9)を満たす、請求項1又は請求項2に記載の柱梁接合構造体。
【数4】
ただし、βは1以下の正の数とし、κおよびxは下記式(10)及び下記式(11)を満たす正の数とする。
【数5】
【請求項5】
角形鋼管柱の外周面の交差方向にH形梁が接合され、前記H形梁の梁フランジの配置高さで、前記角形鋼管柱の内側に補強板が余盛の無い又は余盛を考慮しない部分溶込み溶接の溶接継目よって接合された柱梁接合構造体であって、
前記角形鋼管柱の幅をD
c(mm)、
前記角形鋼管柱の板厚をt
c(mm)、
前記H形梁の梁せいをH
b(mm)、
前記梁フランジの板厚をt
bf(mm)、
前記補強板の配置高さにおける前記角形鋼管柱の外側に一方の前記梁フランジが接合されている前記H形梁の幅をB
b(mm)、
前記補強板の板厚をt
d(mm)、
前記溶接継目の溶接線長さをB
d(mm)、
前記角形鋼管柱の降伏点を
cσ
y(N/mm
2)、
前記角形鋼管柱の引張強さを
cσ
u(N/mm
2)、
前記梁フランジの降伏点を
bσ
y(N/mm
2)、
前記梁フランジの引張強さを
bσ
u(N/mm
2)、
前記補強板の降伏点を
dσ
y(N/mm
2)、
前記補強板の引張強さを
dσ
u(N/mm
2)、
前記H形梁の降伏モーメントを
bM
y(Nmm)、
前記H形梁の全塑性モーメントを
bM
p(Nmm)、
前記柱梁接合構造体の接合部係数をα、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目の溶込み深さをp
1(mm)、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目の溶込み深さをp
2(mm)、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目の降伏点を
w1σ
y(N/mm
2)、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目の引張強さを
w1σ
u(N/mm
2)、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目の降伏点を
w2σ
y(N/mm
2)、及び、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目の引張強さを
w2σ
u(N/mm
2)としたとき、
下記式(12)~式(14)を満たす、
請求項1又は請求項2に記載の柱梁接合構造体。
【数6】
ただし、βは1以下の正の数とし、κおよびxは下記式(15)及び下記(16)を満たす正の数とする。
【数7】
【請求項6】
角形鋼管柱の外周面の交差方向にH形梁が接合され、前記H形梁の梁フランジの配置高さで、前記角形鋼管柱の内側に補強板が60度開先かつ等脚の隅肉溶接の溶接継目によって接合された柱梁接合構造体であって、
前記角形鋼管柱の幅をD
c(mm)、
前記角形鋼管柱の板厚をt
c(mm)、
前記H形梁の梁せいをH
b(mm)、
前記H形梁フランジの板厚をt
bf(mm)、
前記補強板の配置高さにおける前記角形鋼管柱の外側に一方の前記梁フランジが接合されている前記H形梁の幅をB
b(mm)、
前記補強板の板厚をt
d(mm)、
前記溶接継目の溶接線長さをB
d(mm)、
前記角形鋼管柱の降伏点を
cσ
y(N/mm
2)、
前記角形鋼管柱の引張強さを
cσ
u(N/mm
2)、
前記梁フランジの降伏点を
bσ
y(N/mm
2)、
前記梁フランジの引張強さを
bσ
u(N/mm
2)、
前記補強板の降伏点を
dσ
y(N/mm
2)、
前記補強板の引張強さを
dσ
u(N/mm
2)、
前記H形梁の降伏モーメントを
bM
y(Nmm)、
前記H形梁の全塑性モーメントを
bM
p(Nmm)、
前記柱梁接合構造体の接合部係数をα、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目のサイズをS
1’(mm)、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目のサイズをS
2’(mm)、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目の降伏点を
w1σ
y(N/mm
2)、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目の引張強さを
w1σ
u(N/mm
2)、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目の降伏点を
w2σ
y(N/mm
2)、及び、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目の引張強さを
w2σ
u(N/mm
2)としたとき、
下記式(17)~式(19)を満たす、請求項1又は請求項2に記載の柱梁接合構造体。
【数8】
ただし、βは1以下の正の数とし、κおよびxは下記式(20)および下記式(21)を満たす正の数とする。
【数9】
【請求項7】
角形鋼管柱の外周面の交差方向にH形梁が接合され、前記H形梁の梁フランジの配置高さで、前記角形鋼管柱の内側に補強板が溶接継目により溶接接合された柱梁接合構造体を製造する方法であって、
前記溶接継目の耐力が、前記補強板の断面耐力未満となるように各部形状を設計する、柱梁接合構造体の製造方法。
【請求項8】
角形鋼管柱の外周面の交差方向にH形梁が接合され、前記H形梁の梁フランジの配置高さで、前記角形鋼管柱の内側に補強板が溶接継目により溶接接合された柱梁接合構造体を製造する方法であって、
前記梁フランジから受ける外力のうち、前記角形鋼管柱の外周面の面外曲げ抵抗を減じた分の外力を前記溶接継目に負担させるように各部形状を設計する、柱梁接合構造体の製造方法。
【請求項9】
角形鋼管柱の外周面の交差方向にH形梁が接合され、前記H形梁の梁フランジの配置高さで、前記角形鋼管柱の内側に補強板が溶接継目により溶接接合された柱梁接合構造体を製造する方法であって、
前記角形鋼管柱の幅をD
c(mm)、
前記角形鋼管柱の板厚をt
c(mm)、
前記H形梁の梁せいをH
b(mm)、
前記梁フランジの板厚をt
bf(mm)、
前記補強板の配置高さにおける前記角形鋼管柱の外側に一方の前記梁フランジが接合されている前記H形梁の幅をB
b(mm)、
前記補強板の板厚をt
d(mm)、
前記溶接継目の溶接線長さをB
d(mm)、
前記角形鋼管柱の降伏点を
cσ
y(N/mm
2)、
前記角形鋼管柱の引張強さを
cσ
u(N/mm
2)、
前記梁フランジの降伏点を
bσ
y(N/mm
2)、
前記梁フランジの引張強さを
bσ
u(N/mm
2)、
前記補強板の降伏点を
dσ
y(N/mm
2)、
前記補強板の引張強さを
dσ
u(N/mm
2)、
前記H形梁の降伏モーメントを
bM
y(Nmm)、
前記H形梁の全塑性モーメントを
bM
p(Nmm)、
前記柱梁接合構造体の接合部係数をα、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目の溶込み深さをp
1(mm)、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目の余盛高さをe
1(mm)、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目のビード幅をw
1(mm)、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目の溶込み深さをp
2(mm)、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目の余盛高さをe
2(mm)、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目のビード幅をw
2(mm)、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目の降伏点を
w1σ
y(N/mm
2)、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目の引張強さを
w1σ
u(N/mm
2)、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目の降伏点を
w2σ
y(N/mm
2)、及び、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目の引張強さを
w2σ
u(N/mm
2)としたとき、
下記式(1)~式(3)を満たすように各部を設計する、
請求項7又は請求項8に記載の柱梁接合構造体の製造方法。
【数10】
ただし、θ
1、θ
2はそれぞれ下式(4)を満たすθ
1’(θ
1’≧0)、θ
2’(θ
2’≧0)と、tan
-1(w
i/p
i)のいずれか小さい方の値とする。
【数11】
また、βは1以下の正の数とし、κおよびxは下記式(5)および式(6)を満たす正の数とする。
【数12】
【請求項10】
角形鋼管柱の外周面の交差方向にH形梁が接合され、前記H形梁の梁フランジの配置高さで、前記角形鋼管柱の内側に補強板が等脚の隅肉溶接による溶接継目で接合された柱梁接合構造体を製造する方法であって、
前記角形鋼管柱の幅をD
c(mm)、
前記角形鋼管柱の板厚をt
c(mm)、
前記H形梁の梁せいをH
b(mm)、
前記梁フランジの板厚をt
bf(mm)、
前記補強板の配置高さにおける前記角形鋼管柱の外側に一方の前記梁フランジが接合されている前記H形梁の幅をB
b(mm)、
前記補強板の板厚をt
d(mm)、
前記溶接継目の溶接線長さをB
d(mm)、
前記角形鋼管柱の降伏点を
cσ
y(N/mm
2)、
前記角形鋼管柱の引張強さを
cσ
u(N/mm
2)、
前記梁フランジの降伏点を
bσ
y(N/mm
2)、
前記梁フランジの引張強さを
bσ
u(N/mm
2)、
前記補強板の降伏点を
dσ
y(N/mm
2)、
前記補強板の引張強さを
dσ
u(N/mm
2)、
前記H形梁の降伏モーメントを
bM
y(Nmm)、
前記H形梁の全塑性モーメントを
bM
p(Nmm)、
前記柱梁接合構造体の接合部係数をα、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目のサイズをS
1(mm)、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目のサイズをS
2(mm)、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目の降伏点を
w1σ
y(N/mm
2)、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目の引張強さを
w1σ
u(N/mm
2)、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目の降伏点を
w2σ
y(N/mm
2)、及び、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目の引張強さを
w2σ
u(N/mm
2)としたとき、
下記式(7)~式(9)を満たす、請求項7又は請求項8に記載の柱梁接合構造体の製造方法。
【数13】
ただし、βは1以下の正の数とし、κおよびxは下記式(10)及び下記式(11)を満たす正の数とする。
【数14】
【請求項11】
角形鋼管柱の外周面の交差方向にH形梁が接合され、前記H形梁の梁フランジの配置高さで、前記角形鋼管柱の内側に補強板が余盛の無い又は余盛を考慮しない部分溶込み溶接の溶接継目よって接合された柱梁接合構造体を製造する方法であって、
前記角形鋼管柱の幅をD
c(mm)、
前記角形鋼管柱の板厚をt
c(mm)、
前記H形梁の梁せいをH
b(mm)、
前記梁フランジの板厚をt
bf(mm)、
前記補強板の配置高さにおける前記角形鋼管柱の外側に一方の前記梁フランジが接合されている前記H形梁の幅をB
b(mm)、
前記補強板の板厚をt
d(mm)、
前記溶接継目の溶接線長さをB
d(mm)、
前記角形鋼管柱の降伏点を
cσ
y(N/mm
2)、
前記角形鋼管柱の引張強さを
cσ
u(N/mm
2)、
前記梁フランジの降伏点を
bσ
y(N/mm
2)、
前記梁フランジの引張強さを
bσ
u(N/mm
2)、
前記補強板の降伏点を
dσ
y(N/mm
2)、
前記補強板の引張強さを
dσ
u(N/mm
2)、
前記H形梁の降伏モーメントを
bM
y(Nmm)、
前記H形梁の全塑性モーメントを
bM
p(Nmm)、
前記柱梁接合構造体の接合部係数をα、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目の溶込み深さをp
1(mm)、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目の溶込み深さをp
2(mm)、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目の降伏点を
w1σ
y(N/mm
2)、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目の引張強さを
w1σ
u(N/mm
2)、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目の降伏点を
w2σ
y(N/mm
2)、及び、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目の引張強さを
w2σ
u(N/mm
2)としたとき、
下記式(12)~式(14)を満たすように各部を設計する、
請求項7又は請求項8に記載の柱梁接合構造体の製造方法。
【数15】
ただし、βは1以下の正の数とし、κおよびxは下記式(15)及び下記(16)を満たす正の数とする。
【数16】
【請求項12】
角形鋼管柱の外周面の交差方向にH形梁が接合され、前記H形梁の梁フランジの配置高さで、前記角形鋼管柱の内側に補強板が60度開先かつ等脚の隅肉溶接の溶接継目によって接合された柱梁接合構造体を製造する方法であって、
前記角形鋼管柱の幅をD
c(mm)、
前記角形鋼管柱の板厚をt
c(mm)、
前記H形梁の梁せいをH
b(mm)、
前記H形梁フランジの板厚をt
bf(mm)、
前記補強板の配置高さにおける前記角形鋼管柱の外側に一方の前記梁フランジが接合されている前記H形梁の幅をB
b(mm)、
前記補強板の板厚をt
d(mm)、
前記溶接継目の溶接線長さをB
d(mm)、
前記角形鋼管柱の降伏点を
cσ
y(N/mm
2)、
前記角形鋼管柱の引張強さを
cσ
u(N/mm
2)、
前記梁フランジの降伏点を
bσ
y(N/mm
2)、
前記梁フランジの引張強さを
bσ
u(N/mm
2)、
前記補強板の降伏点を
dσ
y(N/mm
2)、
前記補強板の引張強さを
dσ
u(N/mm
2)、
前記H形梁の降伏モーメントを
bM
y(Nmm)、
前記H形梁の全塑性モーメントを
bM
p(Nmm)、
前記柱梁接合構造体の接合部係数をα、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目のサイズをS
1’(mm)、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目のサイズをS
2’(mm)、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目の降伏点を
w1σ
y(N/mm
2)、
前記補強板の一方の板面側における前記溶接継目の引張強さを
w1σ
u(N/mm
2)、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目の降伏点を
w2σ
y(N/mm
2)、及び、
前記補強板の他方の板面側における前記溶接継目の引張強さを
w2σ
u(N/mm
2)としたとき、
下記式(17)~式(19)を満たす、
請求項7又は請求項8に記載の柱梁接合構造体の製造方法。
【数17】
ただし、βは1以下の正の数とし、κおよびxは下記式(20)および下記式(21)を満たす正の数とする。
【数18】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内ダイアフラムを具備する柱梁接合構造体、柱梁接合構造体の製造方法
【背景技術】
【0002】
鉄骨造建築物における柱梁接合部は、梁から受ける曲げモーメントを柱に伝達させるために、梁フランジの板厚よりも1~2ランク厚いダイアフラムと呼ばれる補強板を柱梁接合構造体に設けることが多い。特に、
図1に示すように、閉鎖断面である鋼管柱1の内側に設けられた補強板は内ダイアフラム2と呼ばれ、梁3の梁フランジ3aの配置高さに合わせて鋼管柱1の内側に溶接される。
また、鋼管柱1に接合される複数の梁の梁せいが異なるような場合には、
図2に示すように、梁せいが大きい梁4の梁フランジ4aの配置高さには通しダイアフラム6と呼ばれる補強板が接合され、梁せいが小さい梁5の片方の梁フランジ5aの配置高さの鋼管柱1の内側に内ダイアフラム2が接合されることがある。
【0003】
非特許文献1には、内ダイアフラム形式の柱梁接合構造体に関して、内ダイアフラムの存在により柱フランジが面外変形しないことを前提とした柱梁接合構造体の設計方法が記載されている。この設計方法では、内ダイアフラムに対し溶接部が先行破壊しないことを前提としていることから、内ダイアフラムの溶接継目の耐力が母材である内ダイアフラムの断面耐力を上回るように溶接継目を設計・施工することが一般的である。
図3に示すような完全溶込み溶接によって内ダイアフラム2を鋼管柱1に接合する場合は、適切な材料を使用し適切に施工することで、基本的には溶接継目7の耐力が内ダイアフラム2の断面耐力を上回る。しかしながら、溶接の際は裏当て金8を設ける必要がある。
【0004】
特許文献1には、通しダイアフラムと内ダイアフラムを有する段違い形式の柱梁接合構造体において、鋼管内に溶接する内ダイアフラムを、柱梁接合構造体に接合されている梁せいの低い梁フランジの位置にずらして設けることを特徴とした段違い形式の柱梁接合構造体が開示されている。これによれば、通しダイアフラムの溶接部の裏当て金と、内ダイアフラムの溶接部の裏当て金との距離を広く確保でき、裏当て金同士の干渉を防ぐことができるとしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】一般社団法人日本建築学会、鋼構造接合部設計指針 第4版、2021.2改訂
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明では、完全溶込み溶接によって内ダイアフラムを溶接する場合に必要な裏当て金の省略を目的として、内ダイアフラムを接合する場合を考える。
【0008】
先述のように、完全溶込み溶接によって内ダイアフラム2を接合する場合は、基本的には溶接継目7の耐力が内ダイアフラム2の断面耐力を上回ることができる。しかしながら、例えば
図4に隅肉溶接の例で示したものを含め、完全溶け込み溶接以外の溶接によって内ダイアフラム2を接合する場合には、鋼管柱1と内ダイアフラム2の端面との間に未溶着部が存在する。これによれば内ダイアフラム2の軸方向の力が隅肉溶接継目9のせん断抵抗によって伝達される機構となるが、必ずしも溶接継目の耐力が内ダイアフラムの耐力を上回るとは限らない。
【0009】
ここで、
図4に示すように、隅肉溶接によって内ダイアフラム2を接合する場合を考える。内ダイアフラム2の材料強度を
dσ、内ダイアフラム2の板厚をt
dとすると、内ダイアフラム2の単位長さ当たりの断面耐力は
dσ・t
dとなる。溶接線単位長さ当たりの隅肉溶接の継目耐力を
wFとすると、完全溶込み溶接と同様に隅肉溶接の継目耐力が内ダイアフラムの断面耐力を上回るためには、下式(1)を満たす必要がある。
【0010】
【0011】
一方、隅肉溶接の合計のど厚eと継目耐力
wFには正の相関があり、合計のど厚が大きいほど
wFが大きくなることが知られている。例えば非特許文献1では、前面隅肉溶接の継目耐力
wFの算定式として下式(2)が与えられている。ここで合計のど厚eは
図4に示したように2つの隅肉溶接部9ののど厚e
1とのど厚e
2との合計である。
【0012】
【0013】
従って、隅肉溶接の継目耐力が内ダイアフラムの耐力を上回るためには、式(1)および式(2)から求められる下式(3)を満たす必要がある。
【0014】
【0015】
式(3)は、内ダイアフラムの板厚tdの増加に伴い合計のど厚eも大きくしなければ、完全溶込み溶接と同等以上の溶接継目性能が得られないことを意味している。しかしながら、のど厚が過大であると、当然ながら溶接量も過大となってしまい、溶接欠陥が生じやすくなる他、溶接材料や施工時間が増加してしまうなどの不利が生じる。
【0016】
図5は、内ダイアフラムの板厚(6mm~50mm)に対する、完全溶込み溶接継目と式(3)を満たす時の隅肉溶接継目それぞれの単位長さ当たりの溶接金属断面積を比較したものである。なお、
図5に示す完全溶込み溶接継目の溶接金属断面積は、開先角度を35°とし、ルートギャップを7mmとし、余盛高さを内ダイアフラムの板厚の1/4としたレ形開先形状の四角形断面を仮定して算出した。また、隅肉溶接継目の溶接金属の断面は、等脚の二等辺三角形とし、断面積は内ダイアフラムの両方の板面側に位置する溶接継目の断面積の合計とした。
図5より、この例では内ダイアフラムの板厚がおよそ25mmを超えるあたりから、隅肉溶接継目の溶接金属断面積が完全溶込み溶接継目の溶接金属断面積を上回ることがわかる。すなわち、内ダイアフラムの板厚がおよそ25mmを超えるあたりから、隅肉溶接継目の方が完全溶込み溶接継目よりも溶接量が多くなることがわかる。
【0017】
次に、
図6に示すように、部分溶込み溶接によって内ダイアフラムを接合する場合を考える。部分溶込み溶接によって内ダイアフラムを接合する場合には、
図6(a)、
図6(b)に示すように、部分溶込み溶接部9’が形成されるが、合計のど厚e(
図6(a)の場合は1つの部分溶込み溶接部9’ののど厚e、
図6(b)の場合は2つの部分溶込み溶接部9’ののど厚e
1とのど厚e
2との合計)は内ダイアフラムの板厚よりも小さい。そのため、部分溶込み溶接継目においては、のど厚を介して内ダイアフラム2の軸方向の力を伝達することから、溶接継目耐力は内ダイアフラムの断面耐力に比べて小さい。
【0018】
以上のことから、内ダイアフラムを隅肉溶接や部分溶込み溶接等の裏当て金を必要としない方法により接合する方法は多用されておらず、完全溶込み溶接によって接合する方法が主流となっている。
【0019】
そこで本開示は、裏当て金を要しない溶接手段によって内ダイアフラムを溶接する場合であっても、必要な構造性能を満足することができる柱梁接合構造体を提供することを課題とする。また、そのための柱梁接合構造体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本願は、角形鋼管柱の外周面の交差方向にH形梁が接合され、H形梁の梁フランジの配置高さで、角形鋼管柱の内側に補強板が溶接継目により溶接接合された柱梁接合構造体であって、溶接継目の耐力が、補強板の断面耐力未満であることを特徴とする、柱梁接合構造体を開示する。また、このような柱梁接合構造体となるように各部位を設計する柱梁接合構造体の製造方法を開示する。
【0021】
本願は角形鋼管柱の外周面の交差方向にH形梁が接合され、H形梁の梁フランジの配置高さで、角形鋼管柱の内側に補強板が溶接継目により溶接接合された柱梁接合構造体であって、梁フランジから受ける外力のうち、角形鋼管柱の外周面の面外曲げ抵抗を減じた分の外力を溶接継目に負担させる、柱梁接合構造体を開示する。また、このような柱梁接合構造体となるように各部位を設計する柱梁接合構造体の製造方法を開示する。
【0022】
上記柱梁接合構造体およびその製造方法において、角形鋼管柱の外周面の交差方向にH形梁が接合され、H形梁の梁フランジの配置高さで、角形鋼管柱の内側に補強板が溶接継目により溶接接合された柱梁接合構造体及びその製造方法において、角形鋼管柱の幅をDc(mm)、角形鋼管柱の板厚をtc(mm)、H形梁の梁せいをHb(mm)、梁フランジの板厚をtbf(mm)、補強板の配置高さにおける角形鋼管柱の外側に一方の梁フランジが接合されているH形梁の幅をBb(mm)、補強板の板厚をtd(mm)、溶接継目の溶接線長さをBd(mm)、角形鋼管柱の降伏点をcσy(N/mm2)、角形鋼管柱の引張強さをcσu(N/mm2)、梁フランジの降伏点をbσy(N/mm2)、梁フランジの引張強さをbσu(N/mm2)、補強板の降伏点をdσy(N/mm2)、補強板の引張強さをdσu(N/mm2)、H形梁の降伏モーメントをbMy(Nmm)、H形梁の全塑性モーメントをbMp(Nmm)、柱梁接合構造体の接合部係数をα、補強板の一方の板面側における溶接継目の溶込み深さをp1(mm)、補強板の一方の板面側における溶接継目の余盛高さをe1(mm)、補強板の一方の板面側における溶接継目のビード幅をw1(mm)、補強板の他方の板面側における前記溶接継目の溶込み深さをp2(mm)、補強板の他方の板面側における溶接継目の余盛高さをe2(mm)、補強板の他方の板面側における溶接継目のビード幅をw2(mm)、補強板の一方の板面側における溶接継目の降伏点をw1σy(N/mm2)、補強板の一方の板面側における溶接継目の引張強さをw1σu(N/mm2)、補強板の他方の板面側における溶接継目の降伏点をw2σy(N/mm2)、及び、補強板の他方の板面側における溶接継目の引張強さをw2σu(N/mm2)としたとき、下記式(4)~式(6)を満たすように構成してもよい。
【0023】
【0024】
ただし、θ1、θ2はそれぞれ下式(7)を満たすθ1’(θ1’≧0)、θ2’(θ2’≧0)と、tan-1(wi/pi)のいずれか小さい方の値とする。
【0025】
【0026】
また、βは1以下の正の数とし、κおよびxは下記式(8)および式(9)を満たす正の数とする。
【0027】
【0028】
上記柱梁接合構造体およびその製造方法において、角形鋼管柱の外周面の交差方向にH形梁が接合され、H形梁の梁フランジの配置高さで、角形鋼管柱の内側に補強板が等脚の隅肉溶接による溶接継目で接合された柱梁接合構造体であって、角形鋼管柱の幅をDc(mm)、角形鋼管柱の板厚をtc(mm)、H形梁の梁せいをHb(mm)、梁フランジの板厚をtbf(mm)、補強板の配置高さにおける角形鋼管柱の外側に一方の梁フランジが接合されているH形梁の幅をBb(mm)、補強板の板厚をtd(mm)、溶接継目の溶接線長さをBd(mm)、角形鋼管柱の降伏点をcσy(N/mm2)、角形鋼管柱の引張強さをcσu(N/mm2)、梁フランジの降伏点をbσy(N/mm2)、梁フランジの引張強さをbσu(N/mm2)、補強板の降伏点をdσy(N/mm2)、補強板の引張強さをdσu(N/mm2)、H形梁の降伏モーメントをbMy(Nmm)、H形梁の全塑性モーメントをbMp(Nmm)、柱梁接合構造体の接合部係数をα、補強板の一方の板面側における溶接継目のサイズをS1(mm)、補強板の他方の板面側における溶接継目のサイズをS2(mm)、補強板の一方の板面側における溶接継目の降伏点をw1σy(N/mm2)、補強板の一方の板面側における溶接継目の引張強さをw1σu(N/mm2)、補強板の他方の板面側における溶接継目の降伏点をw2σy(N/mm2)、及び、補強板の他方の板面側における溶接継目の引張強さをw2σu(N/mm2)としたとき、下記式(10)~式(12)を満たすように構成してもよい。
【0029】
【0030】
ただし、βは1以下の正の数とし、κおよびxは下記式(13)及び下記式(14)を満たす正の数とする。
【0031】
【0032】
上記柱梁接合構造体およびその製造方法において、角形鋼管柱の外周面の交差方向にH形梁が接合され、H形梁の梁フランジの配置高さで、角形鋼管柱の内側に補強板が余盛の無い又は余盛を考慮しない部分溶込み溶接の溶接継目よって接合された柱梁接合構造体であって、角形鋼管柱の幅をDc(mm)、角形鋼管柱の板厚をtc(mm)、H形梁の梁せいをHb(mm)、梁フランジの板厚をtbf(mm)、補強板の配置高さにおける角形鋼管柱の外側に一方の梁フランジが接合されているH形梁の幅をBb(mm)、補強板の板厚をtd(mm)、溶接継目の溶接線長さをBd(mm)、角形鋼管柱の降伏点をcσy(N/mm2)、角形鋼管柱の引張強さをcσu(N/mm2)、梁フランジの降伏点をbσy(N/mm2)、梁フランジの引張強さをbσu(N/mm2)、補強板の降伏点をdσy(N/mm2)、補強板の引張強さをdσu(N/mm2)、H形梁の降伏モーメントをbMy(Nmm)、H形梁の全塑性モーメントをbMp(Nmm)、柱梁接合構造体の接合部係数をα、補強板の一方の板面側における溶接継目の溶込み深さをp1(mm)、補強板の他方の板面側における溶接継目の溶込み深さをp2(mm)、補強板の一方の板面側における溶接継目の降伏点をw1σy(N/mm2)、補強板の一方の板面側における溶接継目の引張強さをw1σu(N/mm2)、補強板の他方の板面側における溶接継目の降伏点をw2σy(N/mm2)、及び、補強板の他方の板面側における溶接継目の引張強さをw2σu(N/mm2)としたとき、下記式(15)~式(17)を満たすように構成してもよい。
【0033】
【0034】
ただし、βは1以下の正の数とし、κおよびxは下記式(18)及び下記(19)を満たす正の数とする。
【0035】
【0036】
上記柱梁接合構造体およびその製造方法において、角形鋼管柱の外周面の交差方向にH形梁が接合され、H形梁の梁フランジの配置高さで、角形鋼管柱の内側に補強板が60度開先かつ等脚の隅肉溶接の溶接継目によって接合された柱梁接合構造体であって、角形鋼管柱の幅をDc(mm)、角形鋼管柱の板厚をtc(mm)、H形梁の梁せいをHb(mm)、H形梁フランジの板厚をtbf(mm)、補強板の配置高さにおける角形鋼管柱の外側に一方の梁フランジが接合されているH形梁の幅をBb(mm)、補強板の板厚をtd(mm)、溶接継目の溶接線長さをBd(mm)、角形鋼管柱の降伏点をcσy(N/mm2)、角形鋼管柱の引張強さをcσu(N/mm2)、梁フランジの降伏点をbσy(N/mm2)、梁フランジの引張強さをbσu(N/mm2)、補強板の降伏点をdσy(N/mm2)、補強板の引張強さをdσu(N/mm2)、H形梁の降伏モーメントをbMy(Nmm)、H形梁の全塑性モーメントをbMp(Nmm)、柱梁接合構造体の接合部係数をα、補強板の一方の板面側における溶接継目のサイズをS1’(mm)、補強板の他方の板面側における溶接継目のサイズをS2’(mm)、補強板の一方の板面側における溶接継目の降伏点をw1σy(N/mm2)、補強板の一方の板面側における溶接継目の引張強さをw1σu(N/mm2)、補強板の他方の板面側における溶接継目の降伏点をw2σy(N/mm2)、及び、補強板の他方の板面側における溶接継目の引張強さをw2σu(N/mm2)としたとき、下記式(20)~式(22)を満たすように構成してもよい。
【0037】
【0038】
ただし、βは1以下の正の数とし、κおよびxは下記式(23)および下記式(24)を満たす正の数とする。
【0039】
【発明の効果】
【0040】
本開示によれば、内ダイアフラムが裏当て金を要しない手段で溶接された柱梁接合構造体において本開示の条件を満たすように構成することで、内ダイアフラムの溶接継目の耐力が内ダイアフラムの断面耐力を下回る場合であっても必要構造性能を満足する柱梁接合構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1は、内ダイアフラムを具備する柱梁接合構造体の構造を説明する図である。
【
図2】
図2は、他の例の内ダイアフラムを具備する柱梁接合構造体の構造を説明する図である。
【
図3】
図3はレ形開先の完全溶込み溶接による溶接継目の説明をする図である。
【
図4】
図4は隅肉溶接による溶接継目の説明をする図である。
【
図5】
図5は完全溶込み溶接と隅肉溶接とで必要な溶接継目の大きさを対比する図である。
【
図6】
図6は部分溶込み溶接による溶接継目を説明する図である。
【
図7】
図7は柱梁接合構造体10の外観斜視図である。
【
図8】
図8は柱梁接合構造体10を説明する図である。
【
図9】
図9は柱梁接合接合体10の外面変形について説明する図である。
【
図13】
図13は完全溶け込み溶接で未溶着部がある例について説明する図である。
【
図15】
図15は余盛がない部分溶け込み溶接の例について説明する図である。
【
図16】
図16は異形隅肉溶接の例について説明する図である。
【
図17】
図17は内ダイアフラムの両方の板面側に溶接継目が具備された例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
1.柱梁接合構造体の構成
図7は1つの形態例を説明する図で、柱梁接合構造体10の外観を模式的に表した斜視図である。
図8は柱梁接合構造体10を
図7に矢印VIIIで示した方向から見た外観図であり、角形鋼管柱11の内側を点線で表している。
【0043】
図7、
図8よりわかるように、柱梁接合構造体10は、角形鋼管柱11、梁12、内ダイアフラム13を有して構成されている。本形態で柱梁接合構造体10は、角形鋼管柱11の外周面にH形梁である梁12が角形鋼管柱11の延びる方向に対して直交方向に接合されている。また、この梁12の梁フランジ12aが配置された高さ位置で角形鋼管柱11の内側に補強板としての内ダイアフラム13が溶接で接合されている。
【0044】
ここで、梁12は、2つの梁フランジ12aを連結するウエブ12bを有し、梁フランジ12aの端面が角形鋼管柱11の側面につき当てられて接合されている。接合手段は特に限定されることはないが、本形態ではレ形開先の完全溶込み溶接による接合部14とされている。
【0045】
また、角形鋼管柱11の内側には梁12の梁フランジ12aが配置された高さ位置に、補強板としての内ダイアフラム13が配置されている。内ダイアフラム13は板状の部材である。従って内ダイアフラム13は角形鋼管柱11の内側の形状に対応した四角形の平板であるが、その四隅は切り欠かれている。ただし、切り欠かれた部分を除いた1辺の長さは梁フランジ12aの幅以上であることが好ましい。
また、内ダイアフラム13の板厚は梁フランジ12aの厚さ以上とされていることが好ましい。
【0046】
本形態では、内ダイアフラム13と角形鋼管柱11とは裏当て金を要しない溶接により接合されている(接合部15)。
【0047】
また、本形態ではこの角形鋼管柱11と内ダイアフラム13との溶接継目において後で示す規定の範囲内となるように溶接継目が構成されている。
【0048】
2.梁のモーメントによる角形鋼管柱の変形
本形態では当該溶接継目を規定するに際し、これまで考慮されていなかった梁のモーメントに起因する角形鋼管柱の外面変形を許容する範囲を考慮した。また、その際には、角形鋼管柱、梁フランジ、及び、内ダイアフラムの溶接継目のそれぞれにおける降伏を考えることで導くとしたものである。
より詳しい考え方や式の導出等については後で詳しく説明するが、その趣旨とするところは梁フランジから受ける外力のうち、角形鋼管柱の外周面の面外曲げ抵抗を減じた分の外力を角形鋼管柱の内側と内ダイアフラムとの溶接継目に負担させるものである。これによれば溶接部の溶接継目の耐力を内ダイアフラムの断面耐力未満とすることが可能となる。
【0049】
3.本形態の関係式
本形態で溶接継目では上記式(4)~式(24)が成立する。その中で基本の式となる式(4)~式(6)は次の通りである。
【0050】
【0051】
ただし、θ1、θ2はそれぞれ下式(7)を満たすθ1’(θ1’≧0)、θ2’(θ2’≧0)と、tan-1(wi/pi)のいずれか小さい方の値とする。
【0052】
【0053】
また、βは1以下の正の数とし、κおよびxは下記式(8)および式(9)を満たす正の数とする。
【0054】
【0055】
式(4)~式(9)において各記号が示す意味は次の通りである。
・Dc(mm):角形鋼管柱の幅
・tc(mm):角形鋼管柱の板厚
・Hb(mm):H形梁の梁せい
・tbf(mm):梁フランジの板厚
・Bb(mm):補強板の配置高さにおける角形鋼管柱の外側に一方の梁フランジが接合されているH形梁の幅
・td(mm):補強板の板厚
・Bd(mm):溶接継目の溶接線長さ
・cσy(N/mm2):角形鋼管柱の降伏点
・cσu(N/mm2):角形鋼管柱の引張強さ
・bσy(N/mm2):梁フランジの降伏点
・bσu(N/mm2):梁フランジの引張強さ
・dσy(N/mm2):補強板の降伏点
・dσu(N/mm2):補強板の引張強さ
・bMy(Nmm):H形梁の降伏モーメント
・bMp(Nmm):H形梁の全塑性モーメント
・p1(mm):補強板の一方の板面側における溶接継目の溶込み深さ
・e1(mm):補強板の一方の板面側における溶接継目の余盛高さ
・w1(mm):補強板の一方の板面側における溶接継目のビード幅
・p2(mm):補強板の他方の板面側における溶接継目の溶込み深さ
・e2(mm):補強板の他方の板面側における溶接継目の余盛高さ
・w2(mm):補強板の他方の板面側における溶接継目のビード幅
・w1σy(N/mm2):補強板の一方の板面側における溶接継目の降伏点
・w1σu(N/mm2):補強板の一方の板面側における溶接継目の引張強さ
・w2σy(N/mm2):補強板の他方の板面側における溶接継目の降伏点
・w2σu(N/mm2):補強板の他方の板面側における溶接継目の引張強さ
・α:柱梁接合構造体の接合部係数(1.25~1.45)
【0056】
ここで接合部係数αは、非特許文献に記載されているように、柱梁接合構造体の設計において梁の最大曲げ耐力を評価するために、梁の全塑性モーメントに対する梁の最大曲げモーメントの比として規定されたものである。表1には、文献である、E.H.Mansfield:Studies in Collapse Analysis of Rigid-Plastic Plates with a Square Yield Diagrams, Proc. of the Royal Society London, 241, Series A, pp.311-338, 1957.8に記載されている各鋼種における接合部係数αの値を示す。
【0057】
【0058】
4.関係式の導出
柱梁接合構造体は一般的に、梁から受ける曲げモーメントを柱に伝達させるために、柱梁接合構造体の曲げ耐力を梁の曲げモーメント耐力よりも大きくすることが求められる。例えば、非特許文献1を参考に、下記式(101)及び式(102)によって柱梁接合構造体を設計してもよい。
【0059】
【0060】
ここで、jMyは柱梁接合構造体の降伏曲げ耐力(Nmm)、bMyは梁の降伏曲げモーメント(Nmm)、jMuは柱梁接合構造体の最大曲げ耐力(Nmm)、bMpは梁の全塑性曲げモーメント(Nmm)、αは接合部係数(1.25~1.45)である。
【0061】
一般的には、内ダイアフラムの板厚および幅は、その内ダイアフラムと同じ配置高さに取り付く梁フランジの板厚および幅よりも大きいため、内ダイアフラムが完全溶込み溶接されている、もしくは完全溶込み溶接と同等以上の溶接継目耐力を有するような溶接で接合されている場合は、内ダイアフラムの断面耐力は梁フランジの断面耐力に比べ大きくなる。すなわち、
図1に示したような梁3から受ける曲げモーメントMによって、柱梁接合構造体における角形鋼管柱1は面外変形しない。従って、柱梁接合構造体の降伏曲げ耐力
jM
y、柱梁接合構造体の最大曲げ耐力
jM
uは梁のフランジ・ウェブの断面耐力を基に算定し、上記式(101)及び式(102)を満たすように柱梁接合構造体を設計することとなる。
【0062】
一方、柱梁接合構造体に内ダイアフラムが設けられていない等の場合においては、
図9のように、梁3から受ける曲げモーメントMによって柱梁接合構造体における角形鋼管柱1が局所的に面外変形する。このような場合には、
jM
y、
jM
uは梁のフランジ・ウェブの断面耐力を基に算定することはできないため、下式(103)及び式(104)によって
jM
y、
jM
uを算定できる。
【0063】
【0064】
ここで、jPyは柱梁接合構造体の面外変形に対する局部降伏耐力(N)、jPuは柱梁接合構造体の面外変形に対する局部最大耐力(N)、Hbは梁せい(mm)、tbfは梁フランジの板厚(mm)である。
【0065】
jPyおよびjPuは、例えば内ダイアフラムが設けられていない柱梁接合構造体の場合、梁フランジから受ける外力によって柱梁接合構造体が局所的に面外変形する時の崩壊機構を仮定し、極限解析によって求めることができる(森田ら:箱形断面柱-H形断面はり接合部のダイアフラム補強に関する研究-接合部降伏耐力の評価-、日本建築学会構造系論文報告集 第388号、pp.100-111、1988.6)。
【0066】
以上のように、柱梁接合構造体に面外変形が生じる場合であっても、式(103)、式(104)に示すように柱梁接合構造体の局部降伏耐力jPy、局部最大耐力jPuから曲げ降伏耐力jMy、曲げ最大耐力jMuを求め、それらが式(101)及び式(102)を満たしてさえいれば、柱梁接合構造体としての設計条件は満足される。
【0067】
このように考えると、内ダイアフラムを溶接した柱梁接合構造体において、内ダイアフラムの溶接継目の耐力が内ダイアフラムの断面耐力を下回るような比較的小さな形状で内ダイアフラムを溶接しているとしても、式(101)及び式(102)が満たされていれば、柱梁接合構造体としての設計条件は満足される。そのためには、比較的小さな形状の溶接継目で内ダイアフラムを溶接した場合のように、梁から受ける曲げモーメントによって柱梁接合構造体における角形鋼管柱が面外変形する時の、柱梁接合構造体の局部降伏耐力jPy及び局部最大耐力jPuを算定すればよい(内ダイアフラムの溶接継目耐力が内ダイアフラムの断面耐力を下回る場合の柱梁接合構造体の局部降伏耐力jPy及び局部最大耐力jPuの算定はこれまでに提案されていない。)。
【0068】
そこで、内ダイアフラムの溶接継目耐力が内ダイアフラムの断面耐力を下回り、梁から受ける曲げモーメントによって柱梁接合構造体における角形鋼管柱に局所的な面外変形が生じるような、比較的小さな溶接継目形状で内ダイアフラムを溶接した場合の柱梁接合構造体の局部降伏耐力jPyおよび局部最大耐力jPuの評価方法を導出した。
【0069】
上記したjPy及びjPuは、式(105)、式(106)で表される。
【0070】
【0071】
局部降伏耐力
jP
yを表す式(105)、局部最大耐力
jP
uを表す式(106)は、柱梁接合構造体に局所的な面外変形が生じる際の崩壊機構から極限解析により求めることができる。
図10に崩壊機構を説明する図を示した。
図10(a)は梁が接合された角形鋼管柱の壁を正面にした方向から見た図、
図10(b)はI-I’矢視断面図、
図10(c)はII-II’矢視断面図である。
【0072】
崩壊機構は、柱梁接合構造体が梁フランジから受ける外力によって角形鋼管柱の面外方向にδだけ局部変形し、その局部変形に伴って
図10に示すように梁が接合された角形鋼管柱の壁、梁フランジ、及び、内ダイアフラムの溶接継目がそれぞれ降伏すると仮定したものである。便宜のため
図10では内ダイアフラムの両方の板面側に隅肉溶接がされたものが表されているがこれに限定されない。ここで、梁が接合された角形鋼管柱の壁の幅はD
c(mm)、角形鋼管柱の板厚はt
c(mm)、梁フランジの幅はB
b(mm)、梁フランジの板厚はt
bf、角形鋼管柱と内ダイアフラムとの溶接継目の溶接線長さはB
d(mm)とする。
【0073】
初めに、
図10に示す崩壊機構において梁が接合された角形鋼管柱の壁がなす内力仕事W
in,cfを求める。ここで、梁が接合された角形鋼管柱の壁の降伏領域は
図10(a)に示すように、直線状の降伏線Aと、曲線状の降伏線B、円錐状の降伏場Cが形成されるものと仮定し、この降伏領域の幅をx、降伏領域の高さをκ・x(ただしκは正の数)、梁フランジ高さから降伏場Cまでの角度をφとする。また、降伏線Aがなす内力仕事をW
in,cf(A)、降伏線Bがなす内力仕事をW
in,cf(B)、降伏場Cがなす内力仕事をW
in,cf(C)とすると、梁が接合された角形鋼管柱の壁がなす内力仕事の合計W
in,cfは下記式(107)のように表わされる。
【0074】
【0075】
ここで、梁が接合された角形鋼管柱の壁の単位長さ当たりの全塑性モーメントをcMp(Nmm)とすると、降伏線Aがなす内力仕事Win,cf(A)は下式(108)のように表わされる。
【0076】
【0077】
また、文献E.H.Mansfield:Studies in Collapse Analysis of Rigid-Plastic Plates with a Square Yield Diagrams, Proc. of the Royal Society London, 241, Series A, pp.311-338, 1957.8によれば、降伏線Bがなす内力仕事Win,cf(B)と降伏場Cがなす内力仕事Win,cf(C)の合計は下式(109)のように表すことができる。
【0078】
【0079】
さらに、角形鋼管柱の降伏点をcσy(N/mm2)とすると、梁が接合された角形鋼管柱の壁の単位長さ当たりの全塑性モーメントcMp(Nmm)は下式(110)のように表わされる。
【0080】
【0081】
従って、したがって、式(107)~式(110)より、梁が接合された角形鋼管柱の壁がなす内力仕事Win,cfは下式(111)となる。
【0082】
【0083】
続いて、
図10に示す崩壊機構において梁フランジがなす内力仕事W
in,bfを求める。梁フランジの降伏点は
bσ
y(N/mm
2)とする。梁フランジの降伏領域は
図10(b)に示す直角三角形の領域であるから、W
in,bfは下式(112)のように表わされる。
【0084】
【0085】
続いて、
図10に示す崩壊機構において隅肉溶接継目がなす内力仕事W
in,dwを求める。内ダイアフラムの片面側における溶接継目の単位長さ当たりの降伏耐力を
wF
y(N/mm)とすると、W
in,dwは下式(113)のように表わされる。
【0086】
【0087】
一方、
図10の崩壊機構に対する外力仕事W
exは、崩壊荷重を
jP
y(N)とすると下式(114)のように表わされる。
【0088】
【0089】
式(111)~式(114)より、
図10に示す崩壊機構において内力仕事と外力仕事が等しいと置くことにより、崩壊荷重
jP
yは式(115)のように表わされる。
【0090】
【0091】
式(115)に対し安全率β(ただし、βは1以下の正の数)を乗じることにより、柱梁接合構造体の局部降伏耐力jPyは式(105)で示したように表わすことができる。また、柱梁接合構造体の局部最大耐力jPuについては、式(105)における各材料の降伏点(cσy、bσy、dσy)を引張強さ(cσu、bσu、dσu)に置換することにより、式(106)で示したように表わすことができる。
【0092】
式(105)、式(106)において、κおよびxは、
図10に示して説明したす崩壊機構の領域を決定する変数であり、
jP
yが最小となる時の値をとる。すなわち、κおよびxは、式(105)のκ又はxに関する一階偏微分方程式が0と等しいと置いて求めた下の式(116)及び式(117)を満たす。
【0093】
【0094】
wF
yおよび
wF
uについては、任意の三角形断面を有する内ダイアフラム溶接部を対象に、極限解析によって溶接線単位長さ当たりの溶接継目耐力を導出する。以下に説明する。
図11、
図12に説明のための図を示した。ここでは、内ダイアフラムの軸方向に作用する引張外力によって溶接継目が降伏する場合を想定し、崩壊機構を
図12(a)のように仮定する。ただし、
図12(a)の崩壊機構における外力作用方向の塑性変形増分をuとし、溶接継目の崩壊機構が生じる角度を角形鋼管柱の軸方向に対しθ(0°≦tanθ≦w/p)とする。
【0095】
さらに、
図12(a)の崩壊機構においては以下の条件(I)~(IV)が成り立つと仮定する。
(I)溶接継目における溶接金属の材料強度は、断面内で均一である。
(II)溶接継目に作用する外力としては内ダイアフラムの軸方向の引張力のみを考慮し、内ダイアフラムの板厚中心線と、溶接継目の図心とのずれによる付加曲げは考慮しない。
(III)溶接継目の降伏時には、崩壊機構上の塑性域における任意の点でVon Misesの降伏条件が成り立つものとする。
(IV)内ダイアフラムの溶接長さは溶接ビード幅に比べ十分大きいため、溶接継目は内ダイアフラムの軸方向の引張力に対し、溶接線方向に伸縮しないものとする。すなわち、溶接線方向の歪を0とする平面歪状態が成り立つものとする。
【0096】
次に、
図12(a)で示した崩壊機構と直交する方向を
図12(b)に示したようにn軸、崩壊機構に沿う方向をt軸、溶接線方向と平行な方向をw軸とするn-t-w直交座標系をとる。このとき、上記の条件(III)より、Von Misesの降伏条件が成り立つことから、n-t-w座標系における降伏条件式は下式(118)と表すことができる。
【0097】
【0098】
ここで、σn、σt、σwはn-t-w座標系におけるn軸、t軸、w軸方向の垂直応力、τnt、τtw、τwnはn-tーw座標系におけるn-t平面、t-w平面、w-n平面内のせん断応力、wσyは溶接金属の降伏点である。
【0099】
さらに、t軸方向の垂直応力σtは0とみなされるから、式(118)にσt=0を代入して下式(119)が得られる。
【0100】
【0101】
また、上記の条件(IV)より、w軸方向の垂直歪εw、t-w平面内のせん断歪γtw、およびw-n平面内のせん断歪γwnはそれぞれ0であるので、式(119)および塑性流れの法線則から、式(120)に示す関係がそれぞれ成立する。
【0102】
【0103】
よって、式(120)を式(119)に代入することで、下式(121)が得られる。
【0104】
【0105】
次に、
図2(a)の崩壊機構における、溶接線方向の単位長さ当たりの内力仕事W
inおよび外力仕事W
exをそれぞれ求める。内力仕事W
inは下式(122)で表わすことができる。
【0106】
【0107】
式(122)におけるl
crは
図12(a)で示した崩壊機構の長さであり、幾何学的に下式(123)で求まる。
【0108】
【0109】
ここで、p、eおよびwはそれぞれ
図11に示したようにpは溶接継目のうち内ダイアフラムの板厚に沿った方向の大きさを構成する1つである溶込み深さ(mm)、eは溶接継目のうち内ダイアフラムの板厚に沿った方向の大きさを構成する1つである余盛高さ(mm)、wは溶接継目のうち内ダイアフラムの板面に沿った方向の大きさを構成する1つである溶接ビード幅(mm)である。本説明では部分溶け込み溶接を例に説明しているため溶接継目の内ダイアフラムの板厚に沿った方向の大きさはp+eで表される。pは内ダイアフラムの板厚の範囲内、eは内ダイアフラムの板厚の範囲外に存在する当該大きさである。
【0110】
式(122)におけるσnおよびτntは降伏条件である式(121)を満たすので、塑性流れの法線則から、u・cosθおよびu・sinθは式(124)に示す関係が成立する。
【0111】
【0112】
式(124)より、σnおよびτntは式(125)の関係が成り立つ。
【0113】
【0114】
式(125)の関係を式(121)に代入することで、σnおよびτntはそれぞれθおよびwσyを用いて式(126)のように表すことができる。
【0115】
【0116】
よって、式(122)、式(123)、および式(126)より、内力仕事Winは式(127)で表される。
【0117】
【0118】
一方、外力仕事Wexは、溶接線単位長さあたりの溶接継目耐力をwFyとすると、下式(128)で表すことができる。
【0119】
【0120】
従って、仮想仕事の原理より、内部仕事Winと外部仕事Wexが等しいとすると、式(127)及び式(128)からwFyは下式(129)で表わすことができる。
【0121】
【0122】
式(129)が0≦θ≦tan
-1(w/p)の範囲で最小の値をとるときが、
図12(a)の崩壊機構における真の溶接継目耐力
wF
yとなる。よって、θは式(129)をθに関する一階偏微分を0と等しいと置いて求めた下式(130)を満たすθ’(θ’≧0)と、tan
-1(w/p)のいずれか小さい方の値をとる。これは
図12(a)からもわかるように、溶接継目の断面内に崩壊機構が生じる場合には、崩壊機構の角度θは開先角度であるtan
-1(w/p)よりも小さくならなければならないことによる。
【0123】
【0124】
式(129)は、便宜上、内ダイアフラムの一方の板面側に設けられた溶接継目の断面形状として
図11、
図12を例に示して説明したが、この式(129)は
図13に示すようなルート側に未溶着部が介在する完全溶込み溶接の溶接継目に対しても有効である。この場合、式(129)における溶込み深さpは、内ダイアフラムの板厚から未溶着高さを差し引いた長さとする。なお、
図13では、ルート側の未溶着部が角形鋼管柱側に介在するような形態例を示したが、ルート側の未溶着部は内ダイアフラム側に介在してもよい。
また、この式(129)は他の形態の溶接継目に対しても有効である。
図14~
図17に示して説明する。
【0125】
図14に示した例はいわゆる隅肉溶接であり、内ダイアフラムの一方の板面側に設けられた隅肉溶接の溶接継目である。この場合には上記式(129)に対してp=0、θ=θ’を代入することで、式(131)のように
wF
yを得ることができる。
【0126】
【0127】
その中でもeとwが同じでサイズがSである(e=w=S)等脚の隅肉溶接ではさらに式(132)を得ることができる。
【0128】
【0129】
図15に示した例は部分溶け込み溶接ではあるが余盛がない(又は余盛を考慮しない)で内ダイアフラムの一方の板面側に設けられた溶接継目である。この場合には上記式(129)に対してe=0、θ=0を代入することで、式(133)のように
wF
yを得ることができる。
【0130】
【0131】
図16に示した例は異形隅肉溶接とも呼ばれ、60°開先であるとともに等脚(S)であり、すなわち正三角形の溶接継目を有している。
図16の例では当該溶接継目が内ダイアフラムの一方の板面側に設けられている。この場合には上記式(129)に対してSから幾何学的にe及びp、θが決まるためこれを用いて、式(134)のように
wF
yを得ることができる。
【0132】
【0133】
図11~
図16の例ではいずれも内ダイアフラムの一方の板面側にのみ溶接継目が設けられているが、
図17に示したように内ダイアフラムの他方の板面側にも溶接継目が設けられてもよい。すなわち内ダイアフラムの両方の板面側に溶接継目が設けられている。この場合であってもそれぞれの溶接継目について式(129)を適用して和を取ればよい。従って、
図11の溶接継目が両方の板面側に具備された場合(
図17)の例では式(129)に基づいて式(135)、
図14の溶接継目が両方の板面側に具備された例では式(131)に基づいて式(137)、又は、式(132)に基づいて式(138)、
図15の溶接継目が両方の板面側に具備された例では式(133)に基づいて式(139)、
図16の溶接継目が両方の板面側に具備された例では式(134)に基づいて式(140)を得ることができる。
【0134】
【0135】
ただし、式(135)のθiはそれぞれ、下式(136)のθi’(θi’≧0)と、tan-1(wi/pi)とのいずれか小さい方の値をとる。
【0136】
【0137】
【0138】
なお、ここでは式(135)~式(140)について内ダイアフラムの両板面側に溶接継目が具備される場合として説明したが、内ダイアフラムの一方の板面側にのみ溶接継目が具備されている場合であっても、i=2の演算の際に各寸法値を0とおけば式(129)~式(134)を得ることができるので、式(135)~式(140)は内ダイアフラムの一方の板面側にのみに溶接継目がある場合と両板面側に溶接継目がある場合のいずれにも適用できる式である。
【0139】
また、内ダイアフラムの両板面側に溶接継目がある場合において、一方と他方で溶接継目の種類が異なる場合には、それぞれの溶接継目に対して式(131)~式(135)を適用して、その和を取ればよい。
【0140】
式(106)のwFuについてはwFyに関する上記式のwσyをwσuに変えて同様に考えればよい。
【0141】
上記、式(101)~式(106)、式(135)、式(137)、式(138)、式(139)、式(140)、および、同様にして導出したwFuから、及び、溶接継目の耐力が内ダイアフラムの断面耐力より小さくてもよい範囲を規定して上記式(4)~式(24)を得た。
【0142】
5.効果等
内ダイアフラムが溶接された柱梁接合構造体において本形態の条件を満たすように各部を設計することで、内ダイアフラムの溶接継目の耐力が内ダイアフラムの断面耐力を下回る場合であっても必要構造性能を満足する柱梁接合構造体を提供することができ、そのような柱梁接合構造体を製造することができる。これによれば、条件を満たす限り小さな溶接継目とすることが可能である。内ダイアフラムの溶接方法を隅肉溶接や部分溶込み溶接に限定することなく、例えば、60度開先の隅肉溶接(異形隅肉溶接)などの任意の溶接方法に対しても、合理的に溶接継目を設計することが可能となる。
【0143】
5.1.例1
例1として、柱梁接合部に内ダイアフラムが隅肉溶接される場合を想定し、本開示により設計した溶接継目と、従来の溶接継目との比較を行った。比較には、角形鋼管柱(一辺500mmの正方形、板厚28mm)の外側にはH形梁(梁のせい700mm、梁の幅が300mm、梁ウエブの板厚が14mm、板フランジの板圧がt
bf)が取り付けられ、角形鋼管柱の内側には梁フランジと同じ高さ位置で内ダイアフラム(板厚t
d)が等脚で内ダイアフラムの両方の板面側で同形状の隅肉溶接によって接合されている柱梁接合構造体を対象とした。なお、隅肉溶接の溶接継目の溶接金属を含む柱梁接合部を構成する材料の強度はすべて降伏点を325N/mm
2、引張強さを490N/mm
2で統一した。また、角形鋼管柱と内ダイアフラムの溶接線長さB
dは320mmで統一した。
検討モデルを対象に、H形梁の梁フランジの板厚t
bfを変数としてそれぞれのt
bfにおける隅肉溶接の必要サイズについて試算した。本検討で対象としたH形梁の梁フランジの板厚t
bfは22mm、25mm、28mm、または32mmの4パターンとし、それぞれの梁フランジ板厚t
bfに対し内ダイアフラム板厚t
dは1サイズアップとした(25mm、28mm、32mm、36mm)。試算結果を
図18に示す。
図18は複合グラフであり、第1軸には以下の本発明による設計条件を満たす最小の脚長の大きさSと、非特許文献1に基づいた従来の設計条件を満たす必要の脚長S’をそれぞれ表しており、第2軸にはS’に対するSの比を表している。なお、本検討においては安全率βを1とした。具体的には本発明によるものは式(141)~式(143)により
wF
y、
wF
uを求めて用いた。一方、非特許文献1によるものは下記式(144)、式(145)により
wF
y、
wF
uを求めて用いた。
【0144】
【0145】
【0146】
図18からわかるように、従来の設計方法により決定される必要サイズS’に比べ、本発明の設計方法により決定される必要サイズSの方が小さいことがわかる。本検討の範囲においてはS/S’=0.71~0.73となり、本発明は従来の設計方法に比べ隅肉溶接の必要サイズを約3割減らすことができる。
【0147】
5.2.例2
本発明における柱梁接合部の局部耐力評価式の妥当性を確認するために、有限要素法解析による比較検証を行った。検証には表1に示す計4体の解析モデルを用い、解析モデルには、スカラップを設けた内ダイアフラムの両方の板面側が同じ形状の等脚の隅肉溶接によって鋼管柱内に接合された、梁フランジ高さにおける柱梁接合部を模擬した1/8モデルを採用した。
図19にその形状を表した。
図19(a)は外観斜視図、
図19(b)は
図19(a)の矢印Eから見た図、
図19(c)は
図19(a)の矢印Fから見た図である。
本解析は梁フランジ端部に引張荷重を与える柱梁接合部の局部引張試験を再現しており、4体はすべて内ダイアフラムおよび梁フランジよりも先に隅肉溶接部が降伏するように設計されている。モデルを構成する要素はすべて8節点ソリッド要素であり、鋼管柱、内ダイアフラム、および隅肉溶接部の要素材料特性にはポアソン比を0.3、ヤング係数を205000N/mm
2、降伏点を325N/mm
2、引張強さを490N/mm
2、降伏点到達後の二次勾配を2050N/mm
2とするトリリニア型の応力歪関係を与えた。梁フランジの要素については、降伏点を1.5×325N/mm
2、引張強さを1.5×490N/mm
2とした。
【0148】
【0149】
表2で示した各解析モデルの局部降伏耐力
jP
yおよび局部最大耐力
jP
uについて、有限要素法解析から得られた解析値と、本発明による計算値の比較結果を
図20に示す。局部降伏耐力jPyの解析値は、有限要素法解析から得られた柱梁接合部の局部引張荷重と鋼管柱の面外変形の関係を示す履歴曲線において、曲線の接線剛性が初期剛性の1/3となる時の荷重として定義した。また、局部降伏耐力の計算値
jP
yは式(146)および局部最大耐力の計算値
jP
uは式(147)によって算出した。
【0150】
【0151】
ここでxおよびκは下式(148)、式(149)を満たす値とする。
【0152】
【0153】
図20より、柱梁接合部の局部降伏耐力
jP
yおよび局部最大耐力
jP
uの評価に関し、解析モデルによって評価値のばらつきはあるものの、計算値と解析値は概ね対応していることがわかる。今回の検討範囲においては、解析モデルNo.4の
jP
yの評価値に最も乖離があったものでも0.82(解析値/計算値=0.82)であった。
jP
yおよび
jP
uの計算式を式(150)、式(151)のように安全率βを乗じた形で表現し、例えばβを0.8とすれば、本発明により求められる
jP
yおよび
jP
uの計算値は解析値を過小評価、すなわち安全側に評価することができる。従って本発明では、安全率βは0.8以上1以下の範囲で収めることが可能であり、設計に対して有効である。
【0154】
【符号の説明】
【0155】
10 柱梁接合構造体
11 角形鋼管柱
12 梁
13 内ダイアフラム