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  • -焼結体及び銅ペースト 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152711
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】焼結体及び銅ペースト
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/05 20230101AFI20231005BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20231005BHJP
   B22F 3/11 20060101ALI20231005BHJP
   C22C 1/04 20230101ALI20231005BHJP
   B22F 7/08 20060101ALI20231005BHJP
   C22C 1/08 20060101ALI20231005BHJP
   H05K 3/32 20060101ALI20231005BHJP
   H01L 21/52 20060101ALI20231005BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20231005BHJP
   B22F 1/12 20220101ALI20231005BHJP
   C22C 1/047 20230101ALI20231005BHJP
【FI】
C22C1/05 C
B22F9/00 B
B22F3/11 Z
C22C1/04 A
B22F7/08 C
C22C1/08 F
H05K3/32 B
H01L21/52 E
B22F1/00 L
B22F1/12
C22C1/047
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018466
(22)【出願日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2022057718
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福里 駿
(72)【発明者】
【氏名】丸山 陽兵
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 優吾
(72)【発明者】
【氏名】今村 大志
(72)【発明者】
【氏名】上郡山 洋一
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E319
5F047
【Fターム(参考)】
4K017AA08
4K017DA07
4K018AA04
4K018AB03
4K018AB04
4K018AC04
4K018BA02
4K018BB03
4K018BB04
4K018BC29
4K018BD04
4K018JA36
4K018KA22
4K018KA32
5E319BB11
5E319CC61
5E319GG15
5F047AA17
5F047BA14
5F047BB11
5F047BB16
5F047CA01
(57)【要約】
【課題】より低温での焼成であっても低抵抗性且つ耐酸化性を有する焼結体及び上述した性能を有する焼結体を製造可能な銅ペーストを提供すること。
【解決手段】銅を含む焼結体である。前記焼結体は複数の空孔を有する。前記空孔の内部にケイ素元素と窒素元素とを含有する化合物が存在する。前記化合物の13C-NMRスペクトルにおいて、ピーク頂点の13C化学シフト値が59ppm以上62ppm以下、50ppm以上53ppm以下、及び40ppm以上43ppm以下の各範囲内であるピークが観測され、前記化合物が含有するケイ素元素と窒素元素との質量比Si/Nが0.5以上3.0以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を含む焼結体であって、
前記焼結体は複数の空孔を有し、
前記空孔の内部にケイ素元素と窒素元素とを含有する化合物が存在し、
前記化合物の13C-NMRスペクトルにおいて、ピーク頂点の13C化学シフト値が59ppm以上62ppm以下、50ppm以上53ppm以下、及び40ppm以上43ppm以下の各範囲内であるピークが観測され、
前記化合物が含有するケイ素元素と窒素元素との質量比Si/Nが0.5以上3.0以下である焼結体。
【請求項2】
前記化合物の29Si-NMRスペクトルにおいて、29Si化学シフト値が-75ppm以上-50ppm以下の範囲の積分値に対する、29Si化学シフト値が-70ppm以上-60ppm以下の範囲の積分値の比が0.72以上である請求項1に記載の焼結体。
【請求項3】
第一の被接合体と、
第二の被接合体と、
該二つの被接合体の間に位置し、且つ両被接合体を接合する焼結体と、を備えた接合体であって、
前記焼結体が、請求項1又は2に記載の焼結体からなる接合体。
【請求項4】
基板上に回路パターンが形成された配線部材であって、
前記回路パターンが、請求項1又は2に記載の焼結体からなる配線部材。
【請求項5】
銅粉と、有機溶媒と、該有機溶媒と反応が可能な原子団を有するシランカップリング剤と、を含む銅ペーストであって、
前記有機溶媒は下記一般式(I)で表される構造を有し、且つ、沸点が150℃以上300℃以下であり、
前記有機溶媒は前記銅ペーストに対して5質量%以上40質量%以下含まれ、
前記シランカップリング剤は前記銅粉に対して2質量%以上15質量%以下含まれる銅ペースト。
【化1】
(式中、Rは水素原子、炭素原子数が1以上5以下の飽和炭化水素基又は炭素原子数が3以上5以下の不飽和炭化水素基を表す。)
【請求項6】
前記原子団がグリシジル基を有する、請求項5に記載の銅ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体及び銅ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インバータなど電力変換・制御装置としてパワーデバイスと呼ばれる半導体デバイスが盛んに用いられるようになってきている。このようなデバイスに適用可能な技術として、例えば特許文献1には2つの導電体が銅及び有機ケイ素化合物を含む接続部位によって電気的に接続されてなる導電体の接続構造が記載されている。同文献は、高温下に長時間曝した場合でも銅が酸化されにくく、機械的強度及び耐熱信頼性の低下や、電気抵抗の上昇が起こりにくい金属銅膜を提供することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-41645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載の技術によれば、銅粒子、シランカップリング剤及び有機溶媒を含む組成物を塗布した後に焼成することにより、酸化を受けにくい焼結体を得ることができる。しかしながら、同技術の焼結体を得るためには、前記有機溶媒を気化させるためにある程度高温で焼成を行う必要があった。
【0005】
本発明の課題は、低抵抗性且つ耐酸化性を有する焼結体及び上述した性能を有する焼結体をより低温での焼成であっても製造可能な銅ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は銅を含む焼結体であって、
前記焼結体は複数の空孔を有し、
前記空孔の内部にケイ素元素と窒素元素とを含有する化合物が存在し、
前記化合物の13C-NMRスペクトルにおいて、ピーク頂点の13C化学シフト値が59ppm以上62ppm以下、50ppm以上53ppm以下、及び40ppm以上43ppm以下の各範囲内であるピークが観測され、
前記化合物が含有するケイ素元素と窒素元素との質量比Si/Nが0.5以上3.0以下である焼結体を提供するものである。
【0007】
また本発明は、第一の被接合体と、
第二の被接合体と、
該二つの被接合体の間に位置し、且つ両被接合体を接合する前記焼結体と、を備えた接合体を提供するものである。
【0008】
また本発明は、基板上に回路パターンが形成された配線部材であって、
前記回路パターンが、前記焼結体からなる配線部材を提供するものである。
【0009】
また本発明は、銅粉と、有機溶媒と、該有機溶媒と反応が可能な原子団を有するシランカップリング剤と、を含む銅ペーストであって、
前記有機溶媒は下記一般式(I)で表される構造を有し、且つ、沸点が150℃以上300℃以下であり、
前記有機溶媒は前記銅ペーストに対して5質量%以上40質量%以下含まれ、
前記シランカップリング剤は前記銅粉に対して2質量%以上15質量%以下含まれる銅ペーストを提供するものである。
【0010】
【化1】
【0011】
(式中、Rは水素原子、炭素原子数が1以上5以下の飽和炭化水素基又は炭素原子数が3以上5以下の不飽和炭化水素基を表す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低抵抗性及び耐酸化性を有する焼結体が提供される。また本発明によれば、より低温での焼成であっても上述した性能を有する焼結体を製造可能な銅ペーストが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例1で得られた焼結体の空孔に含まれる化合物を対象として測定された13CのNMRチャートである。
図2図2は、実施例1で得られた焼結体の空孔に含まれる化合物を対象として測定された29SiのNMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。まず、本発明の焼結体の製造に好適に用いられる銅ペーストについて説明する。本発明の銅ペーストは、その構成成分として銅粉と有機溶媒とシランカップリング剤を含んでいる。
【0015】
本明細書において銅粉とは、純銅粉及び銅基合金粉の双方を包含する。銅ペーストに含まれる銅粉は、純銅粉のみでもよく、銅基合金粉のみでもよく、あるいは純銅粉と銅基合金粉との混合粉であってもよい。また銅ペーストに含まれる銅粉は、特性の異なる2種以上の銅粉の混合粉であってもよい。特性の異なる銅粉とは、例えば粒子の形状が互いに異なる2種以上の銅粉や、形状は同じであるものの平均粒径が互いに異なる2種以上の銅粉などが例示される。更に銅ペーストには、本発明の効果を損なわない範囲において、例えばニッケル、銀、金、白金等の銅粉以外の金属粉が少量含まれていてもよい。
【0016】
銅ペーストに含まれる銅粉は、これを構成する粒子の粒径が0.005μm以上であることが好ましく、0.010μm以上であることがより好ましい。一方、前記粒子の粒径が50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが特に好ましい。粒子の粒径を0.005μm以上に設定することによって、本発明の銅ペーストを塗膜化して焼成したときに銅粒子の過度な収縮が抑制され、焼結体となる際の収縮割れを効果的に防止できる。また、被接合体との接合強度を高くすることができる。一方、粒子の粒径を50μm以下に設定することによって、低温であっても銅粒子どうしの焼結が進みやすくなり、且つ、銅粒子どうしが焼結する過程にて粒子間に過度な空隙が生じることが効果的に防止され低抵抗な焼結体を得ることができる。
なお、本明細書において銅粒子の粒径とは一次粒子の平均粒径のことであり、具体的には、走査型電子顕微鏡による観察像を用いて輪郭のはっきりした粒子を50個以上選択した各粒子のHeywood径を、球と擬制して換算した体積平均粒径である。
また、本明細書でいう「空孔」とは、本発明の焼結体内の銅粒子間に存在する空間をいう。また、後述するように被接合体上に焼結体が形成されている場合には、当該被接合体と銅粒子との間に存在する空間も含む。後述するケイ素元素と窒素元素を含有する化合物は、かかる空孔内に形成されるものである。また、本明細書において「空隙」とは、前記空孔内に前記化合物が形成された状態における空間をいう。
【0017】
銅ペーストに含まれる銅粉は、銅粒子の粒径が上述の範囲であることに加えて、微小な結晶の集合からなる多結晶体であることが好ましい。前述のような銅粉を含む銅ペーストを焼成したときに、焼結体と被接合体の接合強度が向上しやすくなるだけでなく、銅粒子の結晶粒界での導電性が良好となり低抵抗な焼結体を形成しやすくなるからである。
銅粒子の結晶性の程度は、結晶子サイズを尺度として評価できる。具体的には、銅粉を構成する銅粒子の(111)面の結晶子サイズが1000nm以下であることが好ましく、700nm以下であることが更に好ましく、500nm以下であることが一層好ましい。結晶子サイズの下限値は、2nmであることが好ましい。結晶子サイズをこの範囲に設定することで、該銅粉を含む銅ペーストを焼成したときの焼結体と被接合体との接合強度を容易に向上させることができるだけでなく、焼結体として導電性が良好で低抵抗なものとなる。銅粒子の結晶子サイズは、例えばリガク社製のX線回折装置であるUltimaIVを用い銅粉のX線回折測定を行うことで測定される。測定によって得られた(111)ピークを用い、シェラー(Scherrer)法によって算出する。
【0018】
銅ペーストに含まれる銅粉を構成する銅粒子は、その表面に有機表面処理剤が施されていてもよい。有機表面処理剤は、銅粒子間での凝集を抑制するための剤である。このような剤としては、例えば各種の脂肪酸、脂肪族アミン、及び銅への親和性を有する錯化剤が挙げられる。特に、炭素原子数が6以上18以下、とりわけ炭素原子数が10以上18以下である飽和又は不飽和脂肪酸あるいは脂肪族アミンを用いることが、耐酸化性向上の点から好ましい。そのような脂肪酸あるいは脂肪族アミンの具体例としては、安息香酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、オレイルアミン、ステアリルアミンなどが挙げられる。また、銅への親和性を有する錯化剤としては、例えばグリシンなどのアミノ酸、及びジメチルグリオキシムなどが挙げられる。これらの脂肪酸、脂肪族アミン、及び錯化剤は、それぞれ1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
銅粉を構成する銅粒子は、該銅粉の製造方法に応じて種々の形状をとり得る。銅粒子は、例えば球状、六面体や八面体等の多面体状、フレーク状(板状)及び異形状であっても良い。銅粉は、これらの形状のうちの1種の形状の粒子のみから構成されていてもよく、あるいは2種以上の形状の粒子の組み合わせから構成されていてもよい。
【0020】
銅ペーストに含まれる銅粉は、当該技術分野において知られている様々な方法で製造することができる。例えば湿式還元法、アトマイズ法、電解法などによって銅粉を製造できる。どのような方法を採用するかは、銅粉の粒径や形状等に応じて適宜選択できる。
【0021】
次に、本発明の銅ペーストが含有する有機溶媒について説明する。本発明で用いる有機溶媒は、下記一般式(I)で表される構造を有する。
【0022】
【化2】
【0023】
(式中、Rは水素原子、炭素原子数が1以上5以下の飽和炭化水素基又は炭素原子数が3以上5以下の不飽和炭化水素基を表す。)
【0024】
一般式(I)中、Rで表される炭素原子数が1以上5以下の飽和炭化水素基、すなわちアルキル基は、直鎖アルキル基であってもよく、あるいは分枝アルキル基であってもよい。このようなアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基等が挙げられる。
【0025】
一般式(I)中、Rで表される炭素原子数が3以上5以下の不飽和炭化水素基としては、上述したアルキル基の例のうち、炭素原子数が3以上5以下であるものから2つ若しくは4つの水素原子を取り除いてできる不飽和炭化水素基を挙げることができる。このような不飽和炭化水素基の例として、アリル基、メタリル基、1-プロペニル基、プレニル基、プロパルギル基、2,4-ペンタジエニル基等が挙げられる。
【0026】
Rは水素原子、炭素原子数が1以上3以下の飽和炭化水素基又はアリル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。Rが水素原子であることによって、前記有機溶媒をより低沸点とすることができ、本発明の銅ペーストをより低温で焼結できるようになるからである。
【0027】
一般式(I)で表される有機溶媒は、その分子内に第一級アミノ基及び第一級ヒドロキシ基を有している。
有機溶媒が第一級アミノ基を有することによって、前記有機溶媒は還元性を呈するので、本発明の焼結体において銅の酸化を抑制できる。また、銅ペーストの焼成時に銅粒子の表面に存在する銅酸化物の膜が有機溶媒によって還元されて、フレッシュな銅の表面が生じ、銅粒子の焼結が促進され、低抵抗な焼結体とすることができる。
一方、有機溶媒が第一級ヒドロキシ基を有することによって、後述するシランカップリング剤と効果的に反応できるようになる。
【0028】
本発明の銅ペーストを焼成する際に、有機溶媒と後述するシランカップリング剤との反応を促進する観点から、焼成温度での有機溶媒の蒸発の程度を適切に制御する必要がある。すなわち、有機溶媒の沸点を所定の温度に設計することで、有機溶媒とシランカップリング剤との反応を好適なものとすることができる。また、低温での焼成であっても未反応の有機溶媒が揮発せずに残ってしまうことも効果的に抑制できる。これらの観点から有機溶媒の沸点は150℃以上300℃以下であることが好ましく、160℃以上280℃以下であることがより好ましく、180℃以上280℃以下であることが特に好ましい。
【0029】
有機溶媒は、銅ペーストに対して5質量%以上含まれることが好ましく、7質量%以上含まれることがより好ましい。一方、有機溶媒は銅ペーストに対して40質量%以下含まれることが好ましく、30質量%以下含まれることがより好ましく、25質量%以下含まれることが特に好ましい。有機溶媒の含有量を5質量%以上とすることで、シランカップリング剤と反応する溶媒量を十分に確保することができる。その結果、焼結体の空孔内に後述するケイ素元素と窒素元素を含有する化合物が生成して焼結体の耐酸化性が向上する。一方、有機溶媒の含有量を40質量%以下とすることで、低温での焼成であっても未反応の有機溶媒が揮発せずに残ってしまうことを防止しやすくなる。また、焼成時の有機溶媒揮発後に焼結体の内部に存在する空隙を低減することもでき、低抵抗な焼結体とすることができる。
【0030】
次に、本発明の銅ペーストが含有するシランカップリング剤について説明する。本明細書においてシランカップリング剤とは、R-Si(ORで表される化合物である。Rは有機溶媒と反応可能な原子団を含む基である。このような原子団は、有機溶媒の種類に応じて適切に選択でき、例えばエポキシ基、グリシジル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、イソシアナト基を挙げることができる。前記式に含まれる3つのRは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。特に前記の原子団としてグリシジル基は、一般式(I)で表される有機溶媒との反応性が高いことから好ましく用いられる。
【0031】
シランカップリング剤の好適な例としては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。またシランカップリング剤は、他のカップリング剤、例えばアルミネート系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤と併用することもできる。
【0032】
銅ペースト中におけるシランカップリング剤の配合割合は、銅ペーストに含まれる銅粉に対して、2質量%以上15質量%以下であることが好ましく、2質量%以上12質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上10質量%以下であることが更に好ましい。シランカップリング剤の配合割合をこの範囲内に設定することよって、シランカップリング剤と有機溶媒とが適度に反応し、後述する、ケイ素元素と窒素元素とを含有する化合物が焼結体の空孔に生成することで、該空孔内への大気の侵入を防ぐことができる。これよって、焼結体内の銅の酸化を抑制することができ、低抵抗な焼結体を得ることができる。
【0033】
銅ペースト中には、他の成分も配合することができる。そのような成分としては、例えば一般式(I)で表される有機溶媒以外の有機溶媒が挙げられる。他の有機溶媒としては例えばメタノールやエタノール等のモノアルコール類、エチレングリコールやプロピレングリコール等のポリオール類、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類などが挙げられる。他の有機溶媒は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
銅ペーストは、上述した各成分をロールミルやミキサー等の公知の混合手段によって混合することで得ることができる。
【0035】
本発明の銅ペーストは、被接合体上に塗布して塗膜化し加熱焼成することで銅の焼結体を形成する材料として好適に用いられる。本発明の銅ペーストは、例えば被接合体上に塗膜化した状態で焼成して焼結体としても良いし、該塗膜上にさらに被接合体を積層して2つの被接合体に挟まれた状態で必要に応じて加圧しながら焼成して焼結体としても良い。前者の例としては、基板上に回路パターンを形成してなる配線部材が挙げられる。また後者の例としては、2つの被接合体を、両被接合体の間に位置する焼結体で接合してなる接合体が挙げられる。
また、このようにして形成された焼結体は、被接合体との接合強度が高いものであることに加えて、低抵抗性で導電性の高いものでもある。したがって、かかる焼結体を接合材料や導電材料として用いることができる。例えば、電子デバイスをプリント配線板に実装するときの導電性接合材として本発明の銅ペーストを用いることができる。あるいはプリント配線板の配線材料として本発明の銅ペーストを用いることができる。
【0036】
本発明の銅ペーストを加熱して焼成工程に付すときの温度は、被接合体の材質等にもよるが、先に述べた有機溶媒の沸点との関係で、80℃以上200℃以下とすることが好ましく、100℃以上180℃以下とすることが更に好ましく、100℃以上160℃以下とすることが一層好ましい。このように低い温度範囲で焼結を行っても、得られる焼結体の接合強度を十分に高めることができ、また導電性を十分に高め低抵抗な焼結体とすることができる。この範囲において、焼成温度が低いほど部材へのダメージが抑えられる傾向となる一方、焼成温度が高いほど強固な接合状態が得られる傾向となる。温度上昇のプロファイルは、時間に対して温度が連続的に上昇するものであってもよく、あるいは多段階で(つまりステップ状に)温度が上昇するものであってもよい。
【0037】
本発明の銅ペーストを加熱して焼成工程に付すときの雰囲気は、酸化性雰囲気あるいは非酸化性雰囲気でもよい。本発明の銅ペーストには、還元作用を発現し得る有機溶媒が含まれているので、大気雰囲気などの酸化性雰囲気であっても焼結が進行する。非酸化性雰囲気としては、例えば窒素などの不活性雰囲気、及びギ酸や水素などの還元性雰囲気や真空雰囲気を用いることができる。これら各種の非酸化性雰囲気のうち、窒素などの不活性雰囲気を用いることは、経済性や安全性等の工業的観点から有利である。
【0038】
本発明の銅ペーストを焼成すると、シランカップリング剤の自己縮合反応が進行し、複数の空孔を有し、且つ銅を含む焼結体が得られる。また上述したように、有機溶媒とシランカップリング剤が反応することによって、該空孔内、具体的には空孔を画成する銅の表面にケイ素元素と窒素元素を含有する化合物が生成する。このような化合物が該空孔内に存在することには、以下の利点がある。第一に、有機溶媒は還元性をもつため、有機溶媒が反応して生じる前記化合物もまた還元性をもつ。よって、焼結体内の銅の酸化による導電性の低下を抑制することができ、低抵抗な焼結体とすることができる。第二に、焼結体の空孔内に前記化合物が入り込むことによって、焼結体の内部に大気が入り込むことを防ぐことができる。よって、大気中の酸素を原因とする焼結体の内部の銅の酸化を抑制することができる。
【0039】
焼結体の空孔内に前記化合物が存在するかどうかは、例えば以下の方法によって確認できる。すなわち、前記焼結体を厚み方向に切断し、その切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)又は電子線マイクロアナライザー(EPMA)等を使用して観察する。切断面の観察を行う際には切断面の元素マッピングを実施し、銅元素と、ケイ素元素や炭素元素との分布を分析することで空孔と前記化合物とを識別することができる。元素マッピングは、例えば、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDX)又は電子線マイクロアナライザー(EPMA)等を使用して行うことができる。
【0040】
焼結体の空隙率は、30体積%以下とすることが好ましく、20体積%以下とすることがより好ましく、15体積%以下とすることがより一層好ましい。このような空隙率を保つことによって、大気の侵入を防ぎ、耐酸化性を保持できる。前述の空隙率は、焼結体の断面を対象として電子顕微鏡による拡大観察を行い、電子顕微鏡像を画像解析することによって測定することができる。この方法で測定される前記の割合は面積%になり、三次元の広がりを持つ空隙の占める割合とは厳密には異なるが、本発明ではかかる割合を以て便宜的に焼結体における空隙の占める体積割合とする。
【0041】
焼結体の空孔内に存在する化合物が有機溶媒とシランカップリング剤との反応によって生成したものであることは、空孔内に存在する化合物の13C DDMAS NMRスペクトル(本発明では「13C-NMRスペクトル」ともいう。)分析及び29Si DDMAS NMRスペクトル(本発明では「29Si-NMRスペクトル」ともいう。)分析により確認することができる。
すなわち、13C-NMRスペクトルにおいて、前記化合物は、13C化学シフト値が59ppm以上62ppm以下、50ppm以上53ppm以下、及び40ppm以上43ppm以下の各範囲に特徴的なピークを有する。これらのピークは、前記の一般式(I)に示す有機溶媒の構造からRで表される基を除いた原子団に含まれる4つの炭素原子に由来するピークである。したがって、これらの各範囲にピークが観測されることを以って、焼結体の空孔内に存在している化合物が一般式(I)に示す有機溶媒由来の構造を有すると判断することができる。
また、29Si-NMRスペクトルにおいて、前記化合物は、29Si化学シフト値が-70ppm以上-60ppm以下の範囲に特徴的なピークを有する。このピークは、3つのシロキシ基と1つのアルキル基を有するケイ素原子由来のピークであるため、このピークが観測されることを以って、シランカップリング剤の自己縮合反応が進行していると判断することができる。
なお、29Si-NMRスペクトル分析によって、焼結体の空孔内に存在する化合物がシランカップリング剤の自己縮合反応により生じる部分構造を有することを確認することもできる。
【0042】
本発明の焼結体は、空孔内に存在する化合物の29Si-NMRスペクトルにおいて、29Si化学シフト値が-75ppm以上-50ppm以下の範囲の積分値に対する、29Si化学シフト値が-70ppm以上-60ppm以下の範囲の積分値の比が0.72以上であることが好ましく、0.78以上であることがより好ましく、0.85以上であることが特に好ましい。前記積分値の比が十分に高いことは、シランカップリング剤の自己縮合反応が十分に進行し、強固な焼結体が得られていることを示すからである。前記積分値の比は高いほど好ましいことから、上限値は1以下である。
前記化合物における13C-NMRスペクトル分析及び29Si-NMRスペクトル分析は、例えば焼結体を硫酸等の酸溶媒を用いて金属成分を分離除去することにより実施できる。
【0043】
13C DDMAS NMRスペクトルは、次の条件にて測定することができる。
磁場:14.1T(13C 151MHz)
分光器:ブルカー社製AVANCE NEO600
測定及びデータ処理用ソフトウェア:ブルカー社製TopSpin
NMRプローブ:1.3mmMASプローブ
試料回転数:30kHz
化学シフト値とラジオ波強度の標準試料:アダマンタン
化学シフト値の基準:アダマンタンの高磁場側のピークを29.47ppmとする。
スペクトル中心(O1値-SR値(化学シフト表記)):100ppm
ラジオ波パルス強度:スペクトル中心が29.47ppmのときにアダマンタンの高磁場側のピークを最大にするパルス幅が3μsとなる値とする。
ラジオ波パルス幅:3μs
Hデカップル照射中心(O2値-HのSR値(化学シフト表記)):4.7ppm
Hデカップル強度:83.3kHz
測定間隔:16μs(上述のソフトウェア上でDW=8μs)
測定ポイント数:512点(上述のソフトウェア上でTD=1024)
スペクトルポイント数(上述のソフトウェア上のSI):2048点
繰り返し時間(上述のソフトウェア上のD1):8秒
積算回数(上述のソフトウェア上のNS):4096回
【0044】
本明細書では、NMRチャートにおける横軸の値(化学シフト値)を「X座標」、縦軸の値(信号強度)を「Y座標」ともいう。また、NMRスペクトルを構成する各点を「スペクトルの点」という。
【0045】
上述のようにして得られたNMRスペクトルにベースライン処理を実施して得られたNMRスペクトルを本明細書では「C実測スペクトル」と称する。ベースライン処理は、フィッティングを行うX座標の全範囲内において、後述する点Aと点Aとを結ぶ直線のY座標を、上述の測定条件にて得られたNMRスペクトルのY座標から差し引くことによって実施する。点AのX座標及びY座標は、X座標が-20ppmに最も近いスペクトルの点のX座標から、X座標が-10ppmに最も近いスペクトルの点のX座標までの範囲に存在する全てのスペクトルの点の、X座標の相加平均及びY座標の相加平均である。点AのX座標及びY座標は、X座標が100ppmに最も近いスペクトルの点のX座標から、X座標が110ppmに最も近いスペクトルの点のX座標までの範囲に存在する全てのスペクトルの点の、X座標の相加平均及びY座標の相加平均である。
【0046】
29Si DDMAS NMRスペクトルは、次の条件にて測定することができる。
磁場:14.1 T(29Si 119MHz)
分光器:ブルカー社製AVANCE NEO600
測定及びデータ処理用ソフトウェア:ブルカー社製TopSpin
NMRプローブ:1.3mmMASプローブ
試料回転数:8 kHz
化学シフト値とラジオ波強度の標準試料:オクタキス(トリメチルシロキシ)シルセスキオキサン(以下、「Q8M8」ともいう。)
化学シフト値の基準:Q8M8の低磁場側のピークを-12.6ppmとする。
スペクトル中心(O1値-SR値(化学シフト表記)):-50ppm
ラジオ波パルス強度:スペクトル中心が0.0ppmのときにQ8M8の低磁場側のピークを最大にするパルス幅が3μsとなる値とする。
ラジオ波パルス幅:3μs
Hデカップル照射中心(O2値-HのSR値(化学シフト表記)):4.7ppm
Hデカップル強度:62.5kHz
測定間隔:10.4μs(上述のソフトウェア上でDW=5.2μs)
測定ポイント数:512点(上述のソフトウェア上でTD=1024)
スペクトルポイント数(上述のソフトウェア上のSI):4096点
繰り返し時間(上述のソフトウェア上のD1):60秒
積算回数:1024回
【0047】
上述のようにして得られたNMRスペクトルにベースライン処理を実施して得られたNMRスペクトルを本明細書では「Si実測スペクトル」と称する。ベースライン処理は、フィッティングを行うX座標の全範囲内において、以下に説明する点Bと点Bとを結ぶ直線のY座標を、上述の測定条件にて得られたNMRスペクトルのY座標から差し引くことによって実施する。点BのX座標及びY座標は、X座標が-45ppmに最も近いスペクトルの点のX座標から、X座標が-35ppmに最も近いスペクトルの点のX座標までの範囲に存在するスペクトルの点の、X座標の相加平均及びY座標の相加平均である。点BのX座標及びY座標は、X座標が-85ppmに最も近いスペクトルの点のX座標から、X座標が-75ppmに最も近いスペクトルの点のX座標までの範囲に存在するスペクトルの点の、X座標の相加平均及びY座標の相加平均である。
【0048】
本明細書の13C-NMRにおける「ピーク頂点の13C化学シフト値がXppmであるピークが観測される」とは、ある13C化学シフト値Xppmを中心に(X-2)ppm以上(X+2)ppm以下の範囲に存在するスペクトルの点のY座標の平均値をS、化学シフト値100ppmから120ppmの間に存在するスペクトルの点のY座標の平均二乗偏差(RMSD)をNとしたとき、S/Nが4以上であり、且つ、13C化学シフト値XppmでのスペクトルのY座標が、13C化学シフト値(X-2)ppm以上(X+2)ppm以下の範囲での最大値となることをいう。また、「ある範囲にピークが観測される」とは、ピーク頂点の化学シフト値が該範囲内の値であることをいう。すなわち、ピークの一部が該範囲外にあったとしても、そのピークのピーク頂点の化学シフト値が該範囲内の値であれば、そのピークは該範囲に観測されているものとみなす。
【0049】
焼結体の空孔内に存在する化合物の還元性を高め、銅の酸化を抑制する観点から、前記化合物が含有するケイ素元素と窒素元素との質量比Si/Nが3.0以下であることが好ましく、2.7以下であることがより好ましく、2.5以下であることが更に好ましい。元素質量比Si/Nの下限値に特に制限はないが、例えば0.5以上であれば本発明の効果は十分に奏される。
空孔内に存在する化合物のケイ素元素の含有量はICP分析により測定することができる。この化合物の窒素元素の含有量は、ガス分析により測定することができる。これらの測定により得られた各含有量の比をとることにより、元素質量比Si/Nを算出することができる。
【0050】
本発明の焼結体は、例えば、第一の被接合体と、第二の被接合体と、該二つの被接合体との間に位置し、且つ両被接合体を接合する本発明の焼結体と、を備えた接合体として用いることができる。第1の被接合体及び第2の被接合体の種類に特に制限はない。一般的には、第1の被接合体及び第2の被接合体はいずれも、それらの接合対象面に金属を含むことが好ましい。例えば第1の被接合体及び第2の被接合体の少なくとも一方として、金属からなる面を有する部材を用いることができる。なお、ここでいう「金属」とは、他の元素と化合物を形成していない金属そのもの、又は2種類以上の金属の合金のことである。このような金属としては、例えば銅、銀、金、アルミニウム、パラジウム、ニッケル又はそれらの2種以上の組み合わせからなる合金が挙げられる。
【0051】
第1の被接合体及び第2の被接合体のうちの少なくとも一方が、金属からなる面を有する部材である場合、該金属からなる面は1種の金属から構成されていてもよく、あるいは2種以上の金属から構成されていてもよい。2種以上の金属から構成されている場合には、当該面は合金であってもよい。金属からなる面は一般には平面であることが好ましいが、場合によっては曲面であってもよい。
【0052】
第1の被接合体や第2の被接合体の具体例としては、それぞれ独立して、例えば上述の金属からなるスペーサーや放熱板、半導体素子、並びに上述した金属の少なくとも1種を表面に有する基板等が挙げられる。基板としては、例えば、セラミックス又は窒化アルミニウム板の表面に銅等の金属層を有する絶縁基板等が挙げられる。被接合体として半導体素子を用いる場合、半導体素子は、Si、Ga、Ge、C、N、As等の元素のうち1種以上を含む。第1被接合体は、好ましくは基板である。第2被接合体は、スペーサー、放熱板、又は半導体素子のいずれかであることが好ましい。
【0053】
また本発明の焼結体は、基板上に本発明の焼結体からなる回路パターンが形成された配線部材として用いることもできる。前記基板としては、例えば各種合成樹脂フィルム、ガラスエポキシ基板、フェノール樹脂基板、液晶ポリマー、グリーンシート、セラミックス、ガラス基板及び紙等が挙げられる。
【0054】
また本発明の焼結体は、その高い耐熱性や高い接合強度の特性を活かして、高温に曝される環境、例えば車載用電子回路やパワーデバイスが実装された電子回路に好適に用いられる。
【実施例0055】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「部」は「質量部」を意味する。
【0056】
〔実施例1ないし4及び比較例1〕
(銅ペーストの調製)
表1に示す粒径、形状及び結晶子サイズを有する銅粉を用意した。有機溶媒として2-(2-アミノエチルアミノ)エタノールを用意した。この化合物は、前記式(I)においてRが水素原子である場合の化合物である。比較例に用いる有機溶媒としてはトリエタノールアミンを用意した。シランカップリング剤として3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを用意した。他の有機溶媒としてメタノールを用意した。これらの成分を混合して目的とする銅ペーストを得た。銅ペーストにおける各成分の含有割合は表1に示すとおりとした。
【0057】
(焼結体の製造)
ガラス基板上に銅ペーストを塗布し、(i)窒素雰囲気下にて120℃で30分間にわたり焼成し、又は(ii)大気雰囲気下にて120℃で60分間にわたり焼成することで、雰囲気ごとに分けて2種類の焼結体を製造した。
【0058】
〔評価〕
実施例及び比較例の焼結体について、低抵抗性及び耐酸化性の評価を以下に示す方法で実施した。また、焼結体の内部に存在する化合物について13C-NMR測定、29Si-NMR測定、及びSi/Nの比の測定を以下の方法で行った。それらの結果を以下の表1に示す。
【0059】
〔低抵抗性の評価〕
三菱アナリテック社製の四探針法比抵抗測定装置であるロレスタMCP-T600を用いて、実施例及び比較例の焼結体の比抵抗を測定して低抵抗性の評価とした。具体的には、上述の(ii)窒素雰囲気下で焼成した焼結体の製造直後における比抵抗を測定した。
なお、比較例1については膜の状態が維持できず焼結体が得られなかったため、表1では「測定不可」と表記した。
【0060】
〔耐酸化性の評価〕
上述と同様にロレスタMCP-T600を用いて(ii)窒素雰囲気下で焼成した焼結体の製造後25℃で4週間保管した後の比抵抗を測定した。また、(i)大気雰囲気下で焼成した焼結体の焼成直後の比抵抗を測定し、これらを耐酸化性の評価とした。なお、比較例1については大気雰囲気下での焼成で膜の状態が維持された焼結体(厚みが24μmであった)となったものの、比抵抗値が検出上限値である2.4×1011μΩ・cmを超えてしまったため、表1では「検出上限値超」と表記した。
【0061】
〔NMR測定〕
窒素雰囲気下での焼成で得た焼結体について、上述の方法により空孔内に存在する化合物を分離し、NMR試料とした。
次いで、上述の方法にてNMR試料の13C-NMRスペクトルを測定した。測定後、アダマンタン(29.47ppm)を外部標準として用いることで、化学シフトの補正をした。59ppm以上62ppm以下、50ppm以上53ppm以下、及び40ppm以上43ppm以下の各範囲におけるピークの有無を表1に示す。なお、比較例1については膜の状態が維持できず焼結体が得られなかったため、表1では「測定不可」と表記した。
また、実施例1における13C-NMRスペクトルにおいて化学シフト値59ppm以上62ppm以下、50ppm以上53ppm以下、及び40ppm以上43ppm以下の各範囲に観測されたピーク頂点のS/Nは、この順に、38.2、37.2、及び12.7であった。
さらに、実施例1についてのNMRスペクトルを図1に示す。このNMRスペクトルからも、59ppm以上62ppm以下、50ppm以上53ppm以下、及び40ppm以上43ppm以下の各範囲にピークが観測されることが分かる。
【0062】
同様に、上述の方法にてNMR試料の29Si-NMRスペクトルも測定した。測定後、Q8M8(-12.6ppm)を外部標準として用いることで、化学シフトの補正をした。得られた29Si-NMRスペクトルの-75ppm以上-50ppm以下の範囲の積分値に対する、-70ppm以上-60ppm以下の範囲の積分値の比を表1における「29Si-NMRにおける積分値の比」の欄に示した。なお、比較例1については膜の状態が維持できず焼結体が得られなかったため、表1では「測定不可」と表記した。また、実施例1についての29Si-NMRスペクトルを図2に示す。
【0063】
〔Si/Nの比の測定〕
NMR測定の際に取り出した、窒素雰囲気下での焼成で得た焼結体の空孔内に存在する化合物を、ICP発光分光分析装置(日立ハイテクサイエンス社製SPS3500UVDD)を用いてICP分析して、そのケイ素含有量を測定した。
また、同化合物を酸素・窒素・水素分析装置(Lecoジャパン社製ONH836)を用いてガス分析して、その窒素含有量を測定した。
これらの測定値から、ケイ素元素と窒素元素との質量比Si/Nを算出した。
【0064】
【表1】
図1
図2