(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152713
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】β-グルコシダーゼ活性向上剤、アグリコン含有組成物の製造方法、アグリコン吸収促進剤、及び飲食品
(51)【国際特許分類】
A23L 33/125 20160101AFI20231005BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20231005BHJP
【FI】
A23L33/125
A23L5/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018716
(22)【出願日】2023-02-09
(62)【分割の表示】P 2022059013の分割
【原出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山根 健司
(72)【発明者】
【氏名】三輪 智弘
(72)【発明者】
【氏名】相沢 萌子
【テーマコード(参考)】
4B018
4B035
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018MD29
4B018MD42
4B018MD86
4B018MD87
4B018ME14
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4B018MF13
4B035LC06
4B035LG19
4B035LG50
4B035LP41
(57)【要約】
【課題】β-グルコシダーゼ活性を有する細菌のβ-グルコシダーゼ活性を向上させることで、配糖体に含まれるファイトケミカルなどの有用成分の吸収を促進する。
【解決手段】グルコースとフラクトースとがβ結合した二糖 を有効成分とするβ-グルコシダーゼ活性を有する細菌のβ-グルコシダーゼ活性向上剤、該β-グルコシダーゼ活性向上剤を利用したアグリコン含有組成物の製造方法、配糖体中のアグリコンの吸収促進剤、飲食品を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコースとフラクトースとがβ結合した二糖を有効成分として含有することを特徴とするβ-グルコシダーゼ活性を有する細菌のβ-グルコシダーゼ活性向上剤。
【請求項2】
前記細菌は、ビフィズス菌、乳酸菌、及び腸内細菌に属する細菌から選ばれた少なくとも1種である、請求項1記載のβ-グルコシダーゼ活性向上剤。
【請求項3】
β-グルコシダーゼ活性を有する細菌に、グルコースとフラクトースとがβ結合した二糖を付与して、β-グルコシダーゼを生成させ、該β-グルコシダーゼを配糖体に作用させて、アグリコンを遊離させることを特徴とするアグリコン含有組成物の製造方法。
【請求項4】
前記細菌は、ビフィズス菌、乳酸菌、及び腸内細菌に属する細菌から選ばれた少なくとも1種である、請求項3記載のアグリコン含有組成物の製造方法。
【請求項5】
前記アグリコンがファイトケミカルである、請求項3又は4記載のアグリコン含有組成物の製造方法。
【請求項6】
グルコースとフラクトースとがβ結合した二糖を有効成分として含有することを特徴とする配糖体中のアグリコンの吸収促進剤。
【請求項7】
前記アグリコンがファイトケミカルである、請求項6記載のアグリコンの吸収促進剤。
【請求項8】
グルコースとフラクトースとがβ結合した二糖と、β-グルコシダーゼ活性を有する細菌、及び配糖体の少なくとも1種とを含有することを特徴とする飲食品。
【請求項9】
前記細菌は、ビフィズス菌、乳酸菌、及び腸内細菌に属する細菌から選ばれた少なくとも1種である、請求項8記載の飲食品。
【請求項10】
前記配糖体が、アグリコンとしてファイトケミカルが結合したものである、請求項8又は9記載の飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β-グルコシダーゼ活性を有する細菌のβ-グルコシダーゼ活性向上剤、並びに該β-グルコシダーゼ活性向上剤を利用した、アグリコン含有組成物の製造方法、アグリコン吸収促進剤、及び飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ファイトケミカルは、一般的に、通常の身体機能の維持には必要とされないが、健康に良い影響を与える植物由来の化合物を意味する。ファイトケミカルの中でも、イソフラボン類、フラボノール類、アントシアニン類等のフラボノイドなどは、グルコースなどの糖が結合した配糖体の形で多く存在している。これらの化合物は配糖体のままでは吸収され難く、効率の良い吸収には配糖体から糖が外れ、アグリコン化される必要がある。配糖体からアグリコンを得るためには、配糖体からβ-グルコシダーゼを用いて末端の糖を選択的に除去する方法が知られている。しかし、ヒトはβ-グルコシダーゼを有していないため、β-グルコシダーゼを有する腸内細菌の働きにより配糖体からアグリコンを遊離させることで、ファイトケミカルを効率よく吸収することが可能となる。
【0003】
そのため、従来よりβ-グルコシダーゼ活性を向上させる成分の探索や、β-グルコシダーゼ生産性の高い細菌の探索が行われてきた。例えば、β-グルコシダーゼ活性を促進する化合物としては、ダイフラクト―スアンハイドライド(特許文献1)が挙げられる。
【0004】
β-グルコシダーゼを有する細菌の一例として、ビフィズス菌や乳酸菌が挙げられる。ビフィズス菌や乳酸菌は整腸作用、抗アレルギー作用、病原菌およびウイルス等に対する感染防御、栄養、有害菌増殖抑制等の面でも有益に働く、プロバイオティクスとも呼ばれる有用菌でもある。そのため、ビフィズス菌や乳酸菌のβ-グルコシダーゼ活性を高めることは、摂取されたファイトケミカルを生体内において効率的に吸収する上で、有効な手段であるといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、β-グルコシダーゼ活性を有する細菌のβ-グルコシダーゼ活性を向上させることで、配糖体として存在しているファイトケミカルなどの有用成分から糖を脱離させ、アグリコン化したファイトケミカルの吸収を促進することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、グルコースとフラクトースとがβ結合した二糖が、β-グルコシダーゼ活性を有する細菌、例えばビフィズス菌、乳酸菌、その他の腸内細菌などのβ-グルコシダーゼ活性を向上させる作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第1は、グルコースとフラクトースとがβ結合した二糖を有効成分として含有することを特徴とするβ-グルコシダーゼ活性を有する細菌のβ-グルコシダーゼ活性向上剤を提供する。
【0009】
第1の発明において、前記細菌は、ビフィズス菌、乳酸菌、及び腸内細菌に属する細菌から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0010】
本発明の第2は、β-グルコシダーゼ活性を有する細菌に、グルコースとフラクトースとがβ結合した二糖を付与して、β-グルコシダーゼを生成させ、該β-グルコシダーゼを配糖体に作用させて、アグリコンを遊離させることを特徴とするアグリコン含有組成物の製造方法を提供する。
【0011】
第2の発明において、前記細菌は、ビフィズス菌、乳酸菌、及び腸内細菌に属する細菌から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
また、第2の発明において、前記アグリコンがファイトケミカルであることが好ましい。
【0013】
本発明の第3は、グルコースとフラクトースとがβ結合した二糖を有効成分として含有することを特徴とするアグリコン吸収促進剤を提供する。
【0014】
第3の発明において、前記アグリコンがファイトケミカルであることが好ましい。
【0015】
本発明の第4は、グルコースとフラクトースとがβ結合した二糖と、β-グルコシダーゼ活性を有する細菌、及び配糖体の少なくとも1種とを含有することを特徴とする飲食品を提供する。
【0016】
第4の発明において、前記細菌は、ビフィズス菌、乳酸菌、及び腸内細菌に属する細菌から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0017】
また、第4の発明において、前記配糖体が、アグリコンとしてファイトケミカルが結合したものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、β-グルコシダーゼ活性を有する細菌にグルコースとフラクトースとがβ結合した二糖を付与することにより、β-グルコシダーゼ活性を向上させることができる。このため、本発明のβ-グルコシダーゼ活性向上剤を摂取することにより、腸内細菌のβ-グルコシダーゼ活性が向上する。その結果、アグリコンとしてファイトケミカルなどが結合した配糖体を摂取した際に、配糖体の糖が脱離してアグリコンが遊離しやすくなり、アグリコンであるファイトケミカルなどの吸収効率を高めることができる。
【0019】
また、本発明によれば、β-グルコシダーゼ活性を有する細菌のβ-グルコシダーゼ活性を向上させ、該βグルコシダーゼを作用させることにより、配糖体からアグリコンを効率良く遊離させて、アグリコン含有組成物を製造することができる。
【0020】
更に、本発明によれば、グルコースとフラクトースとがβ結合した二糖と、β-グルコシダーゼ活性を有する細菌、及び配糖体の少なくとも1種とを含有することにより、腸内において配糖体からアグリコンを遊離させて、アグリコンを効果的に吸収できる飲食品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】グルコースとフルクトースを1対9で混合した水溶液にβ-グルコシダーゼを添加して24時間反応させたサンプル溶液のHPLC分析結果を示す図表である。
【
図2】
図1のサンプル溶液に対し、逆浸透膜を用いて、グルコースとフルクトースを排除した分画溶液のHPLC分析結果を示す図表である。
【
図3】
図2の分画溶液を活性炭で脱色し、H形及びOH形イオン交換樹脂により脱塩し、精製し、更に、濃度約40%に濃縮した溶液について、400MHz核磁気共鳴分光計(NMR)(製品名:Ultrashield 400 PLUS、BRUKER社製)を用いた分析を行った結果を示す図表である。
【
図4】
図3で得られた溶液のHPLC分析結果を示す図表である。
【
図5】グルコースを溶解した水溶液にβ-グルコシダーゼを添加して48時間反応させたサンプル溶液を、逆浸透膜を用いて、グルコースとフルクトースを排除した後、活性炭で脱色し、H形及びOH形イオン交換樹脂により脱塩し、精製し、更に、濃度約40%に濃縮した溶液のHPLC分析結果を示す図表である。
【
図6】炭素源としてβ-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを含むβ-GFを用いたビフィズス菌の培養上清液及び炭素源を加えないビフィズス菌の培養上清液によるグリシチンからの遊離グルコース量の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明において、グルコースとフラクトースとがβ結合した二糖(以下「β-GF」と略称することがある)の製造方法は特に制限はなく、酵素合成、化学合成、分解、抽出など様々な手法を用いることができるが、その簡便性や製造コスト等の点から、D-グルコース(以下、「グルコース」ともいう。)及びD-フルクトース(以下、「フルクトース」ともいう。)を含む糖質原料に酵素を作用させて製造することが好ましい。
【0023】
上記製造方法としては、例えば特許第6636003号公報に記載された、グルコースとフルクトースとを含有する糖質原料にβ-グルコシダーゼを作用させる方法が好ましく採用される。この方法では、下記式(1)で示されるβ-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フルクトースを含むグルコースとフラクトースがβ結合した二糖含有組成物を得ることができる。
【0024】
【0025】
原料とするグルコースとフルクトースは、グルコース及びフルクトースを含有するものであれば特に制限はなく、グルコース及びフルクトースを任意で混合したものでもよく、例えば、スクロース等のグルコースとフルクトースとを構成糖として含む糖質を分解することにより生成させたものでもよく、例えば異性化酵素等の触媒によりグルコース又はフルクトースをもう一方の糖質に異性化することにより生成させたものでもよい。このような糖として、入手のしやすさやコスト等を考慮すると、異性化糖(ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖、高果糖液糖)や転化糖を用いるのが好ましい。
【0026】
用いるグルコースとフルクトースの質量比は、固形分換算でグルコースとフルクトースの質量比が0.1:10~10:0.1とするのが好ましく、1:10~10:1とするのがより好ましい。
【0027】
用いるβ-グルコシダーゼとしては、特に制限はなく、種々の起源の酵素を用いることができる。例えば、アーモンド由来、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)由来のβ-グルコシダーゼを用いることができ、培養した微生物などから分離精製した酵素を用いてもよく、市販の酵素製剤を用いてもよい。酵素製剤としてはβ-グルコシダーゼ製剤だけでなく、β-グルコシダーゼが混在したセルラーゼ製剤等を用いることもできる。
【0028】
グルコースとフルクトースにβ-グルコシダーゼを作用させる条件としては、用いるβ-グルコシダーゼの至適条件などを考慮して適宜設定することができる。例えば、グルコース及びフルクトースを含有し、固形分濃度が好ましくは30~90質量%、より好ましくは50~80質量%である水溶液を調製し、pHを好ましくは4.0~8.0、より好ましくは5.0~7.0とし、上記固形分1g当たり、好ましくは0.1~1000mg、より好ましくは1~250mgとなるようにβ-グルコシダーゼを添加し、好ましくは30~80℃、より好ましくは50~70℃にて、好ましくは1~100時間、より好ましくは24~72時間保持することで作用させることができる。なお、上記水溶液の固形分当たりのグルコース及びフルクトースの合計含量は30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。
【0029】
グルコースとフルクトースにβ-グルコシダーゼを作用させて得られたβ-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを含むグルコースとフラクトースとがβ結合した二糖含有組成物(以下「β-GF含有組成物」と略称することがある)は、液状のままであってもよいが、噴霧乾燥などの公知の方法により粉末状とすることができる。
【0030】
また、β-GF含有組成物は、必要に応じて、ろ過、脱色、脱臭、脱塩などの精製処理を常法により施すことができる。また、抽出、遠心分離、晶出、微生物資化、更に活性炭、多孔質担体、疎水性樹脂、親水性樹脂、イオン交換樹脂、吸着樹脂等を利用したクロマトグラフィーによる分画、透析、限界ろ過等の膜分画等の処理を施して、β-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを含むグルコースとフラクトースとがβ結合した二糖(β-GF)の純度を高めることができる。
【0031】
本発明において、β-GFは、高純度化されたものとして利用することもできるが、β-GFを含有する糖組成物として利用することもできる。この場合、β-GFの含有量は、特に制限はないが、例えば、固形分あたり0.5質量%以上とすることが好ましく、1質量%以上とすることがより好ましく、2質量%以上とすることが更に好ましく、3質量%以上とすることが最も好ましい。固形分あたりのβ-GFの含有量が0.5質量%未満では、β-GFの特徴を十分に付与することができないというデメリットがある。
【0032】
なお、β-GF中にはβ―グルコシダーゼの作用によりグルコースがフラクトースにβ結合で糖転移反応した2糖の構造体、つまりβ-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトース、β-D-グルコピラノシル-(1→2)-D-フラクトース、β-D-グルコピラノシル-(1→3)-D-フラクトース、β-D-グルコピラノシル-(1→4)-D-フラクトース(セロビウロースとも言う)、β-D-グルコピラノシル-(1→5)-D-フラクトース、β-D-グルコピラノシル-(1→6)-D-フラクトース(ゲンチオビウロースとも言う)を含む。また、主にフラクトース骨格はβ-D-フルクトピラノースとして存在するが、鎖状構造を介して構造が変化し、α-D-フルクトピラノース、α-D-フルクトフラノース、β-D-フルクトフラノースとしても存在する。一例として、β-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースは、主にβ-D-グルコピラノシル-(1→1)-β-D-フルクトピラノースとして存在するが、β-D-グルコピラノシル-(1→1)-α-D-フルクトピラノース、β-D-グルコピラノシル-(1→1)-α-D-フルクトフラノース、及びβ-D-グルコピラノシル-(1→1)-β-D-フルクトフラノースとしても存在する。
【0033】
本発明において、β-グルコシダーゼ活性を有する細菌として、例えば、ビフィズス菌、乳酸菌、その他の腸内細菌が挙げられる。
【0034】
ビフィズス菌としては、ビフィドバクテリウム属に属する細菌であれば特に制限はなく、例えば、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュラタム、ビフィドバクテリウム・カテニュラタム、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシズ・ロンガム、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシズ・インファンティス、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・アングラタム、ビフィドバクテリウム・ファエカリス、ビフィドバクテリウム・アニマリス・サブスピーシズ・ラクティスが挙げられる。なお、ビフィズス菌は、腸内細菌に限られず、β-グルコシダーゼ活性を有するものであれば、いずれも使用できる。
乳酸菌としては、ラクトバチラス属やラクチプランチバチラス属、リモシラクトバチラス属、ラクチカゼイバチルス属、レビラクトバチラス属、フルクチラクトバチラス属、アピラクトバチラス属、エンテロコッカス属、ラクトコッカス属、ペディオコッカス属、ロイコノストック属、ストレプトコッカス属に属する有用細菌であれば特に制限はなく、例えばラクトバチラス・ガセリ、ラクトバチラス・カゼイ、ロイコノストック・メセンテロイデス・サブスピーシズ・メセンテロイデスが挙げられる。なお、乳酸菌は、腸内細菌に限られず、β-グルコシダーゼ活性を有するものであれば、いずれも使用できる。
【0035】
ビフィズス菌、乳酸菌以外の腸内細菌としては、例えばバクテロイデス属(Bacteroides)、クロストリジウム属(Clostridium)、ロセブリア属(Roseburia)、ドレア属(Dorea)などに属する細菌が挙げられる。
【0036】
本発明においてビフィズス菌、乳酸菌及びその他の腸内細菌のβ-グルコシダーゼの活性向上は、4-ニトロフェニルβ-グルコシド(以下、pNPG)の遊離pNPを指標にして評価することができる。具体的には13.6mM pNPG溶液0.2mL、50mM酢酸緩衝液(pH6.0)0.4mL、菌培養上清液0.2mLの反応液から成り、40℃で一定時間後、反応混合液0.4mLを10mLの0.1M炭酸ナトリウム溶液に加え、遊離pNPを405nmの吸光度を測定することにより評価する。
【0037】
すなわち、供試菌を、β-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを含むグルコースとフラクトースとがβ結合した二糖(β-GF)を添加した培地に植菌して所定時間培養する。そして、培養した後の培養上清液を用いた遊離pNP値を、β-GFの代わりにグルコースを添加して培養した培養上清液を用いた遊離pNP値で割り、100を乗することでβ-グルコシダーゼ活性向上率(%)を算出する。本発明においては活性向上率(%)が110を超えた場合に十分なβ-グルコシダーゼの活性向上効果があると判断する。
【0038】
本発明のβ-グルコシダーゼ活性向上剤は、これを摂取することにより、腸内細菌に作用して、腸内細菌のβ-グルコシダーゼ活性を向上させることができ、それによって摂取された配糖体からアグリコンを遊離させ、アグリコンの吸収性を高める効果をもたらす。このため、本発明のβ-グルコシダーゼ活性向上剤は、アグリコン吸収促進剤として用いることもできる。
【0039】
本発明のβ-グルコシダーゼ活性向上剤及びアグリコン吸収促進剤は、飲食品、医薬品、医薬部外品等に、原料として、あるいは添加剤として、配合して使用することができる。
【0040】
本発明において、有効成分であるβ-GFの、飲食品、医薬品、医薬部外品等への配合量は、ビフィズス菌、乳酸菌及びその他の腸内細菌など、β-グルコシダーゼ活性を有する細菌のβ-グルコシダーゼ活性向上効果を発揮できる量であれば特に限定されない。
【0041】
本発明のβ-グルコシダーゼ活性向上剤及びアグリコン吸収促進剤を配合する飲食品の種類は、特に制限はなく、例えば、日常的に食する飲食品、健康食品(サプリメント、特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能食品、栄養補助食品等)、病者用食品等として提供することができる。その形態としては、飲食物、錠剤、液剤、カプセル(軟カプセル、硬カプセル)、粉末、顆粒、スティック、ゼリーなどが挙げられる。このような飲食品は、飲食品の製造に通常用いられる方法に従って、製造することができる。
【0042】
本発明の有効成分であるβ-GFを飲食品として提供する場合には、該有効成分をそのまま飲食品として提供することもできるし、あるいはそれを飲食品に含有させて提供することもできる。飲食品として提供する場合には、本発明の有効成分であるβ-GFを有効量含有させることが好ましい。本明細書において、本発明の有効成分を「有効量含有した」とは、個々の食品において通常喫食される量を摂取した場合に後述するような範囲で本発明の有効成分が摂取されるような含有量をいう。
【0043】
本発明の有効成分であるβ-GFを含有させるのに適した飲食品としては、例えば、以下のものが挙げられる。
・ノンアルコール飲料(果汁含有飲料、果汁ジュース、野菜ジュース、プラントベースミルク飲料、炭酸飲料、アイソトニック飲料、アミノ酸飲料、スポーツ飲料、コーヒー、カフェオレ、ココア飲料、茶系飲料、乳酸菌飲料、乳飲料、栄養ドリンク、ノンアルコールビール、ノンアルコールチューハイ、ノンアルコールカクテル、ニアウォーター、フレーバーウォーターなど)、アルコール飲料(ビール、発泡酒、リキュール、チューハイ、清酒、ワイン、果実酒、カクテル、蒸留酒など)などの飲料類
・アイスクリーム、アイスキャンディー、シャーベット、かき氷、フラッペ、フローズンヨーグルト、ゼリー、プリン、ババロア、水羊羹などの冷菓類
・水飴、果実のシロップ漬、氷みつ、チョコレートシロップ、カラメルシロップなどのシロップ類
・フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペースト、バタークリーム、カスタードクリームなどのペースト類
・マーマレード、フルーツソース、ブルーベリージャム、苺ジャムなどのジャム類
・食パン、ロールパン、ブリオッシュ、蒸しパン、あんパン、クリームパンなどのパン類
・ビスケット、クラッカー、クッキー、ワッフル、マフィン、スポンジケーキ、パイなどの焼菓子類
・シュークリーム、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、ヌガー、キャンディなどの洋菓子類
・せんべい、あられ、おこし、求肥、餅類、まんじゅう、大福、ういろう、餡類、錦玉、カステラ、飴玉などの和菓子類
・醤油、魚醤、味噌、ひしお、マヨネーズ、ドレッシング、三杯酢、天つゆ、麺つゆ、ウスターソース、オイスターソース、ケチャップ、焼き鳥のタレ、焼き肉のタレ、漬け込みタレ、甘味料、粉飴、食酢、すし酢、カレールウ、中華の素、シチューの素、スープの素、ダシの素、複合調味料、みりん、新みりん、テーブルソルト、テーブルシュガーなどの各種調味料類
・パスタソース、ミートソース、トマトソース、ホワイトソース、デミグラスソース、カレーソース、ハヤシソース、グレービーソース、ハンバーグソース、サルサソース、ステーキソースなどのソース類
・糠漬け、粕漬け、味噌漬け、福神漬け、べったら漬、奈良漬け、千枚漬、梅干しなどの漬物類
・たくわん漬の素、白菜漬の素、キムチの素などの漬物の素
・ハム、ベーコン、ソーセージ、ハンバーグ、ミートボールなどの畜肉製品類
・魚肉ハム、魚肉ソーセージ、カマボコ、チクワ、干物などの魚肉製品類
・塩ウニ、カラスミ、塩辛、なれずし、酢コンブ、さきするめ、田麩などの各種珍味類
・海苔、山菜、するめ、小魚、貝などで製造される佃煮類
・煮豆、煮魚、ポテトサラダ、コンブ巻などの惣菜食品
・乳製品、魚肉、畜肉、果実、野菜などの瓶詰類や缶詰類
・天ぷら、トンカツ、フリッター、唐揚げ、竜田揚げなどの揚げ物用衣類
・うどん、そば、中華麺、パスタ、春雨、ビーフン、餃子の皮、シューマイの皮などの麺類
・プリンミックス、ホットケーキミックス、即席ジュース、即席コーヒー、即席汁粉、即席スープなどの即席食品類
本発明において、β-GFを日常的に食する飲食品に配合する場合には、β-GFの飲食品における含有量(固形分換算)は、例えば、その下限値(以上又は超える)は0.5質量%、1質量%、1.5質量%とすることができ、その上限値(以下又は未満)は35質量%、30質量%、25質量%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、日常的に食する食品におけるβ-GFの含有量(固形分換算)の範囲は、例えば、0.5~35質量%、1~30質量%、1.5~25質量%とすることができる。
【0044】
本発明において、β-GFをサプリメント(例えば、スティックサプリメント)として提供する場合には、サプリメントにおけるβ-GFの含有量(固形分換算)は、例えば、その下限値(以上又は超える)は50質量%、60質量%、70質量%とすることができ、その上限値(以下又は未満)は100質量%、98質量%、95質量%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、サプリメントにおけるβ-GFの含有量の範囲は、例えば、50~100質量%、60~98質量%、70~95質量%とすることができる。
【0045】
本発明の有効成分であるβ-GFを医薬品又は医薬部外品として提供する場合には、必要に応じて、有効成分に対し薬学上許容される基材や担体を添加して製剤化することができる。例えば、β-GFを経口投与される医薬品又は医薬部外品に製剤化することができる。経口投与製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、液剤、粉末、顆粒、カプセル剤が挙げられる。このような製剤は、医薬品および医薬部外品の製造に通常用いられる方法に従って、製造することができる。
【0046】
本発明において、β-GFを医薬品又は医薬部外品に配合する場合には、医薬品又は医薬部外品における含有量(固形分換算)は、例えば、その下限値(以上又は超える)は0.1質量%とすることができ、その上限値(以下又は未満)は30質量%とすることができる。
【0047】
本発明の有効成分であるβ-GFの摂取量又は投与量は、受容者の性別、年齢および体重、摂取時間、剤形、症状、摂取・投与経路、並びに組み合わせる食品・薬剤等に依存して決定できる。本発明の有効成分であるβ-GFの成人1日当たりの摂取量又は投与量は、固形分換算質量により特定することができ、例えば、その下限値は0.1g、3gとすることができ、その上限値は30g、10gとすることができる。これらの上限値および下限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記摂取量又は投与量の範囲は、例えば、0.1~30g、3~10gとすることができる。
本発明が適用される配糖体としては、β-グルコシダーゼにより糖が脱離し、アグリコンが遊離するものであれば特に制限はないが、ファイトケミカルが結合した配糖体が好ましく採用される。本発明において、ファイトケミカルとは、ヒトの健康に良い影響を与える植物由来化合物を意味し、例えば、ポリフェノール、フラボノイドなどが挙げられる。
ポリフェノールとはベンゼン環に複数の水酸基を持つ化合物を指し、タンニン(加水分解タンニンとしてガロタンニン、エラジタンニン、縮合型タンニンとしてカテキンやエピカテキンの縮合体)、カテキン(カテキン、エピカテキン)、フラボノイド(フラボン、フラボノール、フラバノン、フラバノノール、イソフラボン、カルコン、オーロン、ロイコアントシアニン、カテキン)、リグナン(セサミノール、ピノレジノール)、リグニン、クマリン、シンプルフェノール(プロトカテチュ酸、没食子酸、シリンガ酸)などが挙げられ、抗酸化作用を有することが知られている。本発明のβ-GFを摂取することにより、配糖体の形で存在しているポリフェノールにおけるアグリコンとしてのポリフェノール成分の消化吸収を促進することができる。
【0048】
また、フラボノイドは上記ポリフェノールにも含まれるが、狭義にはフラボン(ルテオリン、アピゲニン等)、フラボノール(ケルセチン、ケンフェロール等)、フラバノン(ナリンゲニン、ヘスペレチン等)、フラバノノール、イソフラボン(ダイゼイン、ゲニステイン、グリシテイン等)の5種類を指し、広義にはアントシアニジン、ロイコシアニジン、カテキン、カルコン(フロレチン、イソリクイリチゲニン等)、オーロン、クメスタン(クメステロール等)等を含むものである。
【0049】
フラボノイドには抗酸化作用が期待されるが、その他に、エストロジェン作用を有するフラボノイドとして、カルコン類のイソリクイリチゲニン、イソフラボン類のゲニステイン、ダイゼイン、グリシテイン、フラボノール類のケンフェロール、フラバノン類のナリンゲニン、フラボン類のアピゲニン、クメスタン類のクメステロールを挙げることができる。その他にも、フラボノイドには発ガン予防効果、老化防止効果、痴呆症・糖尿病・動脈硬化・胃潰瘍・肝炎等の改善効果が期待され、研究されている。
【0050】
本発明のアグリコン含有組成物の製造方法は、β-GFをβ-グルコシダーゼ活性を有する細菌に付与してβ-グルコシダーゼを生成させ、該β-グルコシダーゼを上記配糖体に作用させることで、配糖体からアグリコンが遊離され、アグリコン含有組成物を得る方法であり、配糖体として存在していなくても安定な化合物において、特に有用である。例えば、イソフラボン配糖体を含む豆乳や味噌を、β-GFを付与したβ-グルコシダーゼ活性を有する乳酸菌を用いて醗酵させることにより、豆乳や味噌中の遊離したイソフラボンを得ることができる。
【0051】
本発明の飲食品としては、β-GFと、β-グルコシダーゼ活性を有する細菌、及び配糖体の少なくとも1種とを含有するものを提供することもできる。このような飲食品であれば、β-グルコシダーゼ活性を有する細菌、及び配糖体の少なくとも1種が、β-GFと一緒に摂取されることによって、腸内で配糖体中のアグリコンを効果的に遊離させて、アグリコンを吸収させることができる。特に好ましくは、β-GFと、β-グルコシダーゼ活性を有する細菌と、生理活性を持つポリフェノールあるいはフラボノイドなどのファイトケミカルが結合した配糖体とを含有する飲食品である。このような飲食品を摂取することにより、生理活性を持つポリフェノールあるいはフラボノイドなどのファイトケミカルを体内で遊離させて効果的に吸収させることができる。
【実施例0052】
[実施例1]
(1)β-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを含む、グルコースとフラクトースとがβ結合した二糖の製造例
D-グルコース(製品名:無水結晶ブドウ糖、日本食品化工株式会社製)(以下、「グルコース」ともいう。)とD-フルクトース(ナカライテスク株式会社製)(以下、「フルクトース」ともいう。)を1対9比で混合したものをそれぞれ60w/w%となるように超純水に溶解した。0.1Mの水酸化ナトリウムを用いてpH6.6に調整した。60℃下でβ-グルコシダーゼ(東洋紡株式会社製)を1mg/g-ds添加し、24時間保持し、反応させた。
【0053】
こうして得られたサンプル溶液のHPLC分析結果を
図1に示す。HPLC分析は、カラム(250mm×6.0mmI.D.)(製品名:YMC Triart C18、株式会社ワイエムシィ)を二本連結し、カラム温度を30℃として超純水を流速1.2mL/minで通液し、示差屈折率検出器(株式会社島津製作所製)で検出を行った。
図1に示すように、上記サンプル溶液は、9割以上がグルコースとフルクトースであり、β-GFである2糖画分(DP2)は数%含まれていた。
【0054】
次に、得られたサンプル溶液を、逆浸透膜で処理して、単糖及び塩を含むその他の夾雑物を排除した分画液を得た。
【0055】
この分画溶液について、前記と同様にHPLC分析した結果を
図2に示す。
図2に示すように、逆浸透膜による分画後においては、単糖画分が0%、重合度2が90%、重合度3以上が10%である分画液が得られた。このように、逆浸透膜による分画後においては、グルコースとフルクトースがHPLC分析にて検出できない程度に排除され、β-GFである2糖画分(DP2)が9割以上含まれていた。
【0056】
続いて、逆浸透膜処理により得られた溶液を活性炭で脱色し、H形及びOH形イオン交換樹脂により脱塩し、精製し、更に、濃度約40%に濃縮して、シラップ状のβ-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを含むβ-GFの濃縮液を得た。
【0057】
当該サンプルについて400MHz核磁気共鳴分光計(NMR)(製品名:Ultrashield 400 PLUS、BRUKER社製)を用いた分析を行った結果、アノメリックプロトン由来のシグナルが5.1ppm(α-アノマー)及び4.5ppm(β-アノマー)に確認され、グリコシディックプロトンに由来するシグナルが4.4ppmに確認された。測定結果を
図3に示す。
【0058】
更に、当該サンプルについてHPLCで分析した。分析条件はカラムとしてShodex HILICpak VG-50 4E(Shodex社製)を用い、カラム温度40℃、80%アセトニトリル、流速0.6mL/minで通液し、荷電化粒子検出器(Thermo Fisher Scientific社)で検出を行った。測定結果を
図4に示す。
【0059】
β―GFの取得と並行して、グルコースのみを60w/w%となるように超純水に溶解し、0.1Mの水酸化ナトリウムを用いてpH6.6に調整した。60℃下でβ-グルコシダーゼ(東洋紡株式会社製)を1mg/g-ds添加し、48時間保持し、反応させた。得られたサンプル溶液を、逆浸透膜で処理して、単糖及び塩を含むその他の夾雑物を排除した分画液を得た。さらに逆浸透膜処理により得られた溶液を活性炭で脱色し、H形及びOH形イオン交換樹脂により脱塩し、精製し、更に、濃度約40%に濃縮して、ゲンチオビオースを主とするβ-グルコビオースを含むシラップ状の濃縮液を得た。当該についてHPLCで分析した。分析条件はカラムとしてShodex HILICpak VG-50 4E(Shodex社製)を用い、カラム温度40℃、80%アセトニトリル、流速0.6mL/minで通液し、荷電化粒子検出器(Thermo Fisher Scientific社)で検出を行った。測定結果を
図5に示す。
図4と
図5のHPLCのクロマトグラムは大きく異なることが分かったため、
図4に示すβ―GFはβ―グルコビオースを含むシラップと大きく異なる糖組成であることが示された。
【0060】
さらにβ―グルコシダーゼの酵素性質とHPLC解析結果、及びNMRの解析結果と合わせて、当該サンプルはβ―グルコシダーゼの作用によりグルコースがフラクトースにβ結合で糖転移反応した2糖の構造体の割合が90%程度であり、二糖の画分としてβ-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを約40%含み、その他グルコースとフルクトースとがβ結合した二糖を約60%含む組成であることが分かった。
【0061】
また、β-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを含むβ-GFの濃縮液を4℃で保存したところ、白色結晶の生成が確認された。
【0062】
HPLC分析及び400MHz核磁気共鳴分光計(NMR)(製品名:Avance―III、BRUKER社製)を用いた分析の結果、白色結晶は特開2019-94307
(P2019-94307A)に記載された通り、β-D-グルコピラノシル-(1→1)-β-D-フルクトピラノースであることが明らかとなった。
【0063】
(2)ビフィズス菌及びヨーグルト由来乳酸菌によるβ-グルコシダーゼ活性向上確認試験方法
ヒト由来ビフィズス菌12株及び市販ヨーグルト由来ビフィズス菌2株、乳酸菌4株を用いてβ-グルコシダーゼ活性の向上について検討した。本試験で用いたビフィズス菌及び乳酸菌は以下の通りであるが、これらの菌株は、理研BRC、市販ヨーグルト、市販乳酸飲料より入手、分離した。
・ヒト腸内ビフィズス菌(12株)
ビフィドバクテリウム カシワノヘンス(Bifidobacterium kashiwanohense) JCM15439、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium bifidum) JCM1255、ビフィドバクテリウム アングラタム(Bifidobacterium angulatum) JCM7096、ビフィドバクテリウム ロンガム サブスピーシズ インファンティス(Bifidobacterium longum subsp. infantis) JCM1222、ビフィドバクテリウム アニマリス サブスピーシズ ラクティス(Bifidobacterium animalis subsp. lactis) JCM10602、ビフィドバクテリウム シュードカテニュラタム(Bifidobacterium pseudocatenulatum)JCM1200、ビフィドバクテリウム デンチウム(Bifidobacterium dentium)JCM1195、ビフィドバクテリウム ファエケェル(Bifidobacterium faecale) JCM19861、ビフィドバクテリウム ブレーベ(Bifidobacterium breve)JCM1192、ビフィドバクテリウム アドレセンチス(Bifidobacterium adolescentis )JCM1275、ビフィドバクテリウム カテニュラタム サブスピーシズ カテニュラタム(Bifidobacterium catenulatum subsp. catenulatum)JCM1194、ビフィドバクテリウム ロンガム サブスピーシズ ロンガム(Bifidobacterium longum subsp. longum) JCM1217
・市販ヨーグルトから分離したビフィズス菌(2株)
ビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum SBT2928(雪印メグミルク社「ナチュレ恵」から単離))、ビフィドバクテリウム アニマリス サブスピーシズ ラクティス(Bifidobacterium animalis subsp. lactis GCL2505(江崎グリコ社「BifiX」から単離))
・市販ヨーグルトから分離した乳酸菌(4株)
ラクトバチルス ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus GG(タカナシ乳業社「おなかへGG!」から単離))、ラクトバチルス デルブリッキ サブスピーシズ デルブリッキ(Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii TUA4408L(マルサンアイ社「豆乳グルト」から単離))、ラクチカゼイバチルス パラカゼイ(Lacticaseibacillus paracasei shirota(ヤクルト社「ヤクルト1000」から単離))、ラクトバチルス デルブリッキ サブスピーシズ ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus 2038(明治乳業「ブルガリアヨーグルト」から単離))
まず、ビフィズス菌の前培養培地調製のため、所定量のGAMブイヨン(日水製薬)を10mL試験管に3mLずつ分注し、121℃、20分間オートクレーブ処理した。冷却後、予めGAM寒天培地で培養していた上記ビフィズス菌のコロニーをイノキュレーティングループ(サーモフィッシャーサイエンス)を用いて植菌した。
【0064】
また、乳酸菌の前培養培地調製のため、所定量のMRS培地(ベクトン・ディッキンソン)を10mL試験管に3mLずつ分注し、121℃、20分間オートクレーブ処理した。冷却後、予めGAM寒天培地、あるいはMRS寒天培地で培養していた上記ビフィズス菌及び乳酸菌のコロニーをイノキュレーティングループ(サーモフィッシャーサイエンス)を用いて植菌した。
【0065】
次いで、上記で植菌した前培養培地を、アネロパック・ケンキ(三菱ガス化学)とともにアネロパック角形ジャーに入れ、37℃の恒温機内で24時間嫌気的に前培養をおこなった。
【0066】
ビフィズス菌の本培養のため、下記表1に示す組成のILS培地を作製し、当該液体培地を121℃、20分間オートクレーブで滅菌処理した。このILS培地に、炭素源として、0.22μmフィルター(ミリポア社)を通過させ、ろ過滅菌したβ-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを含むβ-GF(Brix値4.0度)を、最終濃度が1.0%(v/v)となるように混合し、本培養培地を作製した。この本培養培地を、96ウェルディープウェルプレート(BM機器)に1000μLずつ分注し、上記ビフィズス菌の前培養液を50μL添加し、Sureseal Breathable(BM機器)を貼り付け、アネロパック・ケンキとともにアネロパック角形ジャーに入れ、37℃の恒温機内で48時間培養した。
【0067】
また、対照本培養培地としてILS培地に、炭素源としてろ過滅菌したグルコース(Brix値4.0度)を最終濃度が1.0%(v/v)となるように混合し、対照本培養培地として同様に培養した。
【0068】
【0069】
乳酸菌の本培養のため、下記表2に示す組成のYP培地を作製した。次いで、当該液体培地を121℃、20分間オートクレーブで滅菌処理した。このYP培地に、炭素源として、0.22μmフィルター(ミリポア社)を通過させ、ろ過滅菌したβ-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを含むβ-GF(Brix値4.0度)を、最終濃度が1.0%(v/v)となるように混合し、本培養培地を作製し、96ウェルディープウェルプレート(BM機器)に1000μLずつ分注し、上記乳酸菌の前培養液を50μL添加し、Sureseal Breathable(BM機器)を貼り付け、アネロパック・ケンキとともにアネロパック角形ジャーに入れ、37℃の恒温機内で48時間培養した。また、対照本培養培地としてYP培地に、炭素源としてろ過滅菌したグルコース(Brix値4.0度)を最終濃度が1.0%(v/v)となるように混合し、対照本培養培地として同様に培養した。
【0070】
【0071】
ビフィズス菌及び乳酸菌の培養終了後、本培養培地、及び対照本培養培地を96ウェルPCRプレートに200μL回収し、10000×gで10分間遠心分離を実施し、培養液上清を回収した。また、ヨーグルト由来ビフィズス菌及び乳酸菌については残った菌体ペレットに100μLの50mM酢酸緩衝液(pH6.0)を添加し、マイクロプレートカップホーンを装着したQSonica社超音波ホモジナイザーを用いて菌体破砕を実施した。破砕後、10000×gで10分間遠心分離を実施し、菌体破砕液を回収した。
【0072】
β-グルコシダーゼ活性は13.6mM pNPG溶液0.1mL、50mM酢酸緩衝液(pH6.0)0.2mL、菌培養上清液0.1mLの反応液から成り、40℃で4時間反応後、反応混合液0.2mLに2.5mLの0.1M炭酸ナトリウム溶液に加え、遊離pNPを405nmの吸光度を測定することにより評価した。
【0073】
下記数式(1)に基づいて、β-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを含むβ-GFを添加した培地に植菌して所定時間培養した後の培養上清液、あるいは菌体破砕液を用いた遊離pNP値を、グルコースを加えて培養した培養上清液、あるいは菌体破砕液を用いた遊離pNP値で割り、100を乗することでβ-グルコシダーゼ活性向上率(%)を算出した。本発明においては活性向上率(%)が110を超えた場合に十分なβ-グルコシダーゼの活性向上効果があると判断した。
【0074】
【0075】
(3)ビフィズス菌及び乳酸菌によるβ-グルコシダーゼ活性向上確認試験結果
下記表3にビフィズス菌の結果、表4に乳酸菌の結果を示す。表3、4からビフィズス菌及び乳酸菌の多くはβ-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを含むβ-GFを添加した培地で生育するとβ-グルコシダーゼ活性が向上することが明らかになった。特に、Bifidobacterium animalis subsp. lactis JCM10602やBifidobacterium faecale JCM19861の活性向上率は3000以上であり、非常に高い活性向上率を示した。活性向上したビフィズス菌や乳酸菌については、ゲノム上β-グルコシダーゼがアノテーションされていることも判明したため、β-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを含むβ-GFは、β-グルコシダーゼ活性を保有するビフィズス菌及び市販ヨーグルトから分離した乳酸菌に対し、β-グルコシダーゼ活性を向上させることができることが示唆された。
【0076】
【0077】
【0078】
(4)β-グルコシダーゼ活性が向上したビフィズス菌培養液を用いた大豆イソフラボンの配糖体の一種であるグリシチンからのグルコース遊離試験
ビフィドバクテリウム アニマリス サブスピーシズ ラクティス(Bifidobacterium animalis subsp. lactis) JCM10602、ビフィドバクテリウム ファエケェル(Bifidobacterium faecale) JCM19861、ビフィドバクテリウム アングラタム(Bifidobacterium angulatum) JCM7096を供試菌株とし、実施例1の(2)のビフィズス菌の培養上清液の調製方法と同様の方法を用いて、炭素源としてβ-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを含むβ-GF(最終濃度が1.0%(v/v))を用いた培養上清液(β-GF区)と対照区として炭素源を加えない培養上清液(無添加区)を調製した。次いで、96ウェルPCRプレートにグリシチン(富士フイルム和光純薬工業)7.0mg/100mLを50μL、50mM酢酸緩衝液(pH6.0)を100μL、培養上清液を50μL、プロクリン950(シグマ社)1.0mL/100mLを2μL混合し、40℃で48時間反応した。反応0時間、及び反応48時間の反応液を回収後、95℃で5分間加熱し、酵素失活を行った。続いて、回収した反応液中の遊離グルコース量をグルコースCII-テストワコー(富士フイルム和光純薬工業)を用い
て定量し、反応48時間目の遊離グルコース量と反応0時間目の遊離グルコース量を差し引くことで、反応48時間目で遊離した真のグルコース量を算出した。また、β-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを含むβ-GFを加えた培養液の試験区と無添加の培養液の対照区の遊離グルコース量を比較することで、β-グルコシダーゼ活性が向上したビフィズス菌培養液による大豆イソフラボンの配糖体であるグリシチンからのグルコース加水分解との関係性を観察した。
【0079】
(5)β-グルコシダーゼ活性が向上したビフィズス菌培養液を用いた大豆イソフラボンの配糖体であるグリシチンからのグルコース遊離試験結果
下記
図6に結果を示す。
図6から供試菌株として用いたビフィドバクテリウム アニマリス サブスピーシズ ラクティス(Bifidobacterium animalis subsp. lactis) JCM10602、ビフィドバクテリウム ファエケェル(Bifidobacterium faecale) JCM19861、ビフィドバクテリウム アングラタム(Bifidobacterium angulatum) JCM7096の何れの菌株も、β-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを含むβ-GFを添加し培養した培養上清液を用いた場合、無添加区と比較してグリシチンからの遊離グルコース量が多い結果となった。つまり、β-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを含むβ-GFはビフィズス菌のβ-グルコシダーゼ活性を向上させ、配糖体からのグルコースを遊離、ひいてはアグリコンを遊離することが明らかとなった。
【0080】
[実施例2]
(1)腸内細菌によるβ-グルコシダーゼ活性向上確認試験方法
実施例1の(1)と同様にβ-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを含むグルコースとフラクトースとがβ結合した二糖を調製した。
【0081】
所定量のGAMブイヨン(日水製薬)をショット瓶に測り取り、純水で溶解して前培養用培地を作製した。次いで、当該前培養培地を115℃、15分間オートクレーブで滅菌処理し、97℃まで低下した段階でオートクレーブから取り出し、アネロパック・ケンキ(三菱ガス化学、以下同様)とともにアネロパック角形ジャー(三菱ガス化学、以下同様)に入れ、37℃の恒温機内で一晩静置保管した。次いで、一晩静置保管した前培養用培地を96ウェルマイクロプレートに200μLずつ分注し、そこに事前に準備した下記表5、6に示す各種腸内細菌の凍結菌2μLを添加した。各種腸内細菌については理研BRC、あるいはAmerican Type Culture Collection、German Collection of Microorganisms and Cell Cultureから入手した。
【0082】
【0083】
【0084】
次いで、マイクロプレートにSureseal Breathable(ビーエム機器、以下同様)を貼り付け、アネロパック・ケンキとともにアネロパック角形ジャーに入れ、37℃の恒温機内で表5に示す所定の培養時間で静置保管して対数増殖期となるように前培養をおこなった。
【0085】
一方、本培養開始2日前に、所定量のGAM糖分解用半流動培地(日水製薬)を純水にて溶解した後、定性濾紙(アドバンテック東洋)でろ過し、GAM糖分解用半流動液体培地を作製した。次いで、当該液体培地を115℃、15分間オートクレーブで滅菌処理し、97℃まで低下した段階でオートクレーブから取り出し、アネロパック・ケンキとともにアネロパック角形ジャーに入れ、37℃の恒温機内で一晩静置保管した。次いで、本培養開始前日、一晩静置保管したGAM糖分解用半流動液体培地に、事前に準備したβ-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを含むグルコースとフラクトースとがβ結合した二糖(Brix値5.0度)を最終濃度が0.5%(v/v)となるように混合し、本培養培地を作製した(本培養培地)。また、対照の培地として、一晩静置保管したGAM糖分解用半流動液体培地に、β-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを含むβ-GFを混合せずに、糖質を含まない本培養培地を作製した(対照本培養培地)。
【0086】
次いで、本培養培地又は対照本培養培地を96ウェルマイクロプレートに200μLずつ分注し、マイクロプレートにSureseal Breathableを貼り付け、アネロパック・ケンキとともにアネロパック角形ジャーに入れ、37℃の恒温機内で一晩静置保管した。
【0087】
本培養開始当日、一晩静置保管した本培養培地又は対照本培養培地を分注したマイクロプレートに、表5に示す所定時間で前培養した前培養液2μLを添加した。次いで、これらのマイクロプレートにSureseal Breathableを貼り付け、アネロパック・ケンキとともにアネロパック角形ジャーに入れ、37℃の恒温機内で表1に示す所定の培養時間、静置保管して本培養をおこなった。培養終了後、本培養培地、及び対照本培養培地を96ウェルPCRプレートに200μL回収し、10000×gで10分間遠心分離を実施し、培養液上清を回収した。また、乳酸菌については残った菌体ペレットに100μLの50mM酢酸緩衝液(pH6.0)を添加し、マイクロプレートカップホーンを装着したQSonica社超音波ホモジナイザーを用いて菌体破砕を実施した。破砕後、10000×gで10分間遠心分離を実施し、菌体破砕液を回収した。
【0088】
β-グルコシダーゼ活性は、13.6mM pNPG溶液0.1mL、50mM酢酸緩衝液(pH6.0)0.2mL、菌培養上清液あるいは菌体破砕液0.1mLの反応液を調製し、40℃で4時間反応後、反応混合液0.2mLに2.5mLの0.1M炭酸ナトリウム溶液を加え、遊離pNPを405nmの吸光度を測定することにより評価した。前記数式(1)に基づいて、β-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを含むグルコースとフラクトースとがβ結合した二糖を添加した培地に植菌して所定時間培養した後の培養上清液あるいは菌体破砕液を用いた遊離pNP値を、対照本培養培地で培養した培養上清液を用いた遊離pNP値で割り、100を乗することでβ-グルコシダーゼ活性向上率(%)を算出した。本発明においては活性向上率(%)が110を超えた場合に十分なβ-グルコシダーゼの活性向上効果があると判断した。
【0089】
(2)腸内細菌によるβ-グルコシダーゼ活性向上確認試験結果
結果は、表7、8に示される通りであった。なお、表7,8において、β-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを含むグルコースとフラクトースとがβ結合した二糖は「β-GF」と示す。
【0090】
β-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを含むグルコースとフラクトースとがβ結合した二糖を添加した培地における培養では、多くの常在腸内細菌と乳酸菌、また、酪酸産生菌であるClostridium ramosum JCM1298株のβ-グルコシダーゼ活性向上が確認された。特に、Leuconostoc mesenteroides subsp.mesenteroidesJCM6124株やLacticaseibacillus rhamnosus JCM1136株の活性向上率はおよそ300程度を示していた。
【0091】
以上のことから、β-D-グルコピラノシル-(1→1)-D-フラクトースを含むグルコースとフラクトースとがβ結合した二糖は常在腸内細菌の多くや乳酸菌、一部の酪酸産生菌の細菌に対してβ-グルコシダーゼ活性を向上させる効果を持つことが示唆された。
【0092】
【0093】