IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ピストンリング株式会社の特許一覧

特開2023-152728内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートおよびその製造方法
<>
  • 特開-内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートおよびその製造方法 図1
  • 特開-内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートおよびその製造方法 図2
  • 特開-内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートおよびその製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152728
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 5/00 20060101AFI20231005BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20231005BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20231005BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20231005BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20231005BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20231005BHJP
   B22F 3/26 20060101ALI20231005BHJP
   B22F 7/02 20060101ALI20231005BHJP
   C22C 37/00 20060101ALI20231005BHJP
   C22C 1/10 20230101ALI20231005BHJP
   B22F 1/10 20220101ALI20231005BHJP
   B22F 1/12 20220101ALI20231005BHJP
【FI】
B22F5/00 S
C22C19/07 F
C22C30/00
C22C38/00 304
C22C38/58
B22F3/24 B
B22F3/26 B
B22F7/02
C22C37/00 K
C22C1/10 E
C22C1/10 F
B22F1/10
B22F1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022381
(22)【出願日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2022059349
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390022806
【氏名又は名称】日本ピストンリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 清
【テーマコード(参考)】
4K018
4K020
【Fターム(参考)】
4K018AA24
4K018AB07
4K018AC01
4K018BA14
4K018BA15
4K018BA16
4K018BA20
4K018BC12
4K018CA07
4K018DA31
4K018FA08
4K018FA36
4K018HA04
4K018JA03
4K018KA10
4K020AA22
4K020AA23
4K020AA27
4K020AC07
4K020BB29
4K020BC02
4K020BC03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐摩耗性と耐脱落性に優れる鉄基焼結合金製バルブシートを提供する。
【解決手段】機能部材側層11と支持部材側層12とを焼結により一体とした2層構造のバルブシート1とする。機能部材側層は、焼戻マルテンサイト相を主とする基地相中に、硬質粒子あるいはさらに固体潤滑剤粒子を分散させ、さらに硬質粒子のまわりに高合金相を有する基地部組織を有し、そして、質量%で、C:0.3~2.0%を含み、さらに、Si:0.1~1.5%、Mn:0.1~2.5%、S:0.1~2.0%、Ni:1.0~6.0%、Cr:1.0~20.0%、Mo:2.0~15.0%、Co:10.0~30.0%のうちから選ばれた1種または2種以上を含み、あるいはさらにS:0.1~2.0%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成と、溶浸でCuが充填された空孔を含む層とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダヘッドに圧入されるバルブシートであって、
該バルブシートが、機能部材側層からなる単層構造を有し、
前記機能部材側層が、基地相中に硬質粒子あるいはさらに固体潤滑剤粒子を分散させた基地部と、溶浸でCuが充填された空孔を含み、
前記基地相が、焼戻マルテンサイト相からなり、
前記基地部が、機能部材側層全量に対する面積%で、前記基地相中に、前記硬質粒子を10.0~50.0%、あるいはさらに前記固体潤滑剤粒子を0.3~3.0%、分散させ、前記硬質粒子のまわりに高合金相を60.0%以下有する基地部組織と、基地部全量に対する質量%で、C:0.3~2.0%を含み、さらに、Si:0.1~1.5%、Mn:0.1~2.5%、Ni:1.0~6.0%、Cr:1.0~20.0%、Mo:2.0~15.0%、Co:10.0~30.0%のうちから選ばれた1種または2種以上を含み、さらにS:0~2.0%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成と、を有し、さらに前記空孔に溶浸されたCu(溶浸)を、機能部材側層全量に対する面積%で1.0~20.0%含む鉄基焼結合金材からなることを特徴とする内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
【請求項2】
内燃機関のシリンダヘッドに圧入されるバルブシートであって、
該バルブシートが、機能部材側層と支持部材側層とを一体で焼結してなる二層構造を有し、
前記機能部材側層が、基地相中に硬質粒子あるいはさらに固体潤滑剤粒子を分散させた基地部と、溶浸でCuが充填された空孔を含み、
前記基地相が、焼戻マルテンサイト相からなり、
前記基地部が、機能部材側層全量に対する面積%で、前記基地相中に、前記硬質粒子を10.0~50.0%、あるいはさらに前記固体潤滑剤粒子を0.3~3.0%、分散させ、前記硬質粒子のまわりに高合金相を60.0%以下有する基地部組織と、基地部全量に対する質量%で、C:0.3~2.0%を含み、さらに、Si:0.1~1.5%、Mn:0.1~2.5%、Ni:1.0~6.0%、Cr:1.0~20.0%、Mo:2.0~15.0%、Co:10.0~30.0%のうちから選ばれた1種または2種以上を含み、さらにS:0~2.0%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成と、を有し、さらに前記空孔に溶浸されたCu(溶浸)を、機能部材側層全量に対する面積%で1.0~20.0%含む鉄基焼結合金材からなり、
前記支持部材側層が、基地相中に固体潤滑剤粒子を分散させた基地部と、溶浸でCuが充填された空孔を含み、前記基地相が、焼戻マルテンサイト相からなり、前記基地部が、支持部材側層全量に対する面積%で、前記基地相中に、前記固体潤滑剤粒子を0~3.0%分散させた基地部組織と、基地部全量に対する質量%で、C:0.1~1.5%を含み、さらに、Cr:1.0~10.0%、Mo:0.1~3.0%、Ni:0.1~2.0%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、さらにMn:0~1.0%およびS:0~1.0%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成と、を有し、さらに前記空孔に溶浸されたCu(溶浸)を、支持部材側層全量に対する面積%で1.0~20.0%含む鉄基焼結合金材からなることを特徴とする内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
【請求項3】
前記シリンダヘッドが、鋳鉄製シリンダヘッドであることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
【請求項4】
前記硬質粒子が、質量%で、Ni:5.0~15.0%、Cr:20.0~30.0%、Mo:20.0~30.0%、Si:1.0~5.0%を含有し、残部Coからなる組成を有し、ビッカース硬さで900~1300HVの硬さを有する金属間化合物粒子、または、質量%で、Cr:5.0~15.0%、Mo:25.0~35.0%、Si:1.0~5.0%を含有し、残部Coからなる組成を有し、ビッカース硬さで600~900HVの硬さを有する金属間化合物粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
【請求項5】
前記固体潤滑剤粒子が、MnS粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
【請求項6】
請求項1に記載の単層構造の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法であって、
前記単層構造の機能部材側層の基地部組成および基地部組織となるように、鉄基粉末と、黒鉛粉と、合金元素粉と、硬質粒子粉末と、あるいはさらに固体潤滑剤粒子粉末とを、所定量配合し、混合、混錬して、混合粉とするに当たり、
前記鉄基粉末を、純鉄粉、合金鉄粉のうちから選ばれた1種または2種とし、
前記混合粉全量に対する質量%で、
前記黒鉛粉を0.5~2.0%、前記合金元素粉を0~5.0%、前記硬質粒子粉末を10.0~50.0%、
前記固体潤滑剤粒子粉末を0~3.0%、それぞれ配合し、混合、混錬し、混合粉としたのち、
前記混合粉を、所定形状の金型に充填し、圧縮・成形し圧粉体を得る成形工程と、
得られた前記圧粉体に、還元雰囲気中で、加熱温度:1100~1200℃で焼結処理を施し焼結体を得る焼結工程と、
得られた前記焼結体に、Cu溶浸処理を施し前記焼結体の空孔にCuを充填するCu溶浸工程と、
空孔にCuを溶浸された焼結体に、さらに焼入れ加熱温度:800~1000℃に加熱したのち急冷し、さらに焼戻し加熱温度:500~700℃に加熱したのち冷却する焼入れ焼戻し処理を施す熱処理工程と、を備えることを特徴とする内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法。
【請求項7】
請求項2に記載の二層構造の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法であって、
前記二層構造の基地部組成および基地部組織となるように、鉄基粉末と、黒鉛粉と、合金元素粉と、硬質粒子粉末と、あるいはさらに固体潤滑剤粒子粉末とを、所定量配合し、混合、混錬して、混合粉とするに当たり、
前記鉄基粉末を、純鉄粉、合金鉄粉のうちから選ばれた1種または2種とし、前記混合粉全量に対する質量%で、
前記黒鉛粉を0.5~2.0%、前記合金元素粉を0~5.0%、前記硬質粒子粉末を10.0~50.0%、
前記固体潤滑剤粒子粉末を0~3.0%、それぞれ配合し、混合、混錬し、機能部材側層用混合粉とし、一方、
前記鉄基粉末を、純鉄粉、合金鉄粉のうちから選ばれた1種または2種とし、前記混合粉全量に対する質量%で、
前記黒鉛粉を0.5~2.0%、前記合金元素粉末を0~5.0%、前記固体潤滑剤粒子粉末を0~3.0%、それぞれ配合し、混合、混錬して、支持部材側層用混合粉としたのち、
所定量の前記支持部材側層用混合粉と前記機能部材側層用混合粉とをこの順に、金型に充填し、一体として圧縮・成形し圧粉体を得る成形工程と、
得られた前記圧粉体に、還元雰囲気中で、加熱温度:1100~1200℃で焼結処理を施し焼結体を得る焼結工程と、
得られた前記焼結体に、Cu溶浸処理を施し前記焼結体の空孔にCuを充填するCu溶浸工程と、
空孔にCuを溶浸された焼結体に、さらに焼入れ加熱温度:800~1000℃に加熱したのち急冷し、さらに焼戻し加熱温度:500~700℃に加熱したのち冷却する焼入れ焼戻し処理を施す熱処理工程と、を備えることを特徴とする内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法。
【請求項8】
前記焼結工程において、前記Cu溶浸工程を備えることを特徴とする請求項6または7に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートおよびその製造方法に係り、とくに、鋳鉄製シリンダヘッドに圧入されて使用されるバルブシートの耐摩耗性およびシリンダヘッドからの耐脱落性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
バルブシートは、燃焼ガスのシールと、バルブを冷却する役割を担って、エンジンのシリンダヘッドに圧入されて使用される。バルブシートには、バルブの繰返し当接による摩耗に十分に耐えられる耐摩耗性や、耐熱性、耐食性等に加えて、相手材であるバルブを摩耗させないため、相手攻撃性が低いことも要求されている。
【0003】
近年、エンジンの高効率化・高負荷化の促進に伴い、燃焼室周りの温度が上昇する傾向にあり、そのため、バルブシートへの熱負荷が一段と高くなり、厳しい使用環境に耐えることが要求されている。
【0004】
このような要求に対し、例えば、特許文献1には、鋳鉄製シリンダヘッド用として好適な焼結合金製バルブシートが提案されている。特許文献1に記載された焼結合金製バルブシートは、表面層部と基層部との二層を一体に焼結され、表面層部の気孔率が5~20%、基層部の気孔率が5%以下である、焼結合金製バルブシートである。特許文献1に記載された焼結合金製バルブシートは、二層一体の焼結体としたのち、さらに該焼結体に基層部側から冷間で回転鍛造を施し、さらに再焼結する工程を施して製造されている。
【0005】
また、特許文献2には、内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートが記載されている。特許文献2に記載されたバルブシートは、単層構造で、基地相が長径:30μm以下の微細炭化物を面積率で27%以下析出させた焼戻マルテンサイト相からなり、さらに基地相中に前記硬質粒子として、Cr-Mo-Si-Co系硬質粒子、Cr-Mo-Ni-Si-Co系硬質粒子およびMo系硬質粒子のうちから選ばれた1種または2種以上を面積率で、31~80%分散させてなる組織を有し、密度:7.3~8.2g/cm3、圧環強さ:400MPa以上で、耐摩耗性および耐脱落性に優れるとしている。特許文献2に記載されたバルブシートでは、所定の組成となるように原料粉を配合し混合粉とする混合工程と、混合粉を圧縮・成形して圧粉体とする成形工程と、圧粉体を加熱・焼結してバルブシート状焼結体とする焼結工程と施し、さらに、バルブシート状焼結体に熱間鍛造を行う熱間加工工程と、しかるのちにバルブシート状焼結体に所定の特性を付与する熱処理を行う熱処理工程を順次、施すと、している。特許文献2に記載された技術によれば、過酷な条件においても優れた耐久性を示すバルブシートを容易に製造できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭61-10644号公報
【特許文献2】特開2018-178208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載された技術では、バルブシートの基層部の気孔率を小さくするために、焼結体に冷間での回転鍛造による圧縮鍛造を施し、さらに再焼結する工程を必要としている。このため、特許文献1に記載された技術では、工程が複雑で製造コストが高騰するという問題があった。また、特許文献2に記載された技術においても、バルブシートの密度が7.3g/cm3以上となるように、熱間鍛造を行う熱間加工工程を必要とし、工程が複雑になるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題を解決し、内燃機関のシリンダヘッド、とくに鋳鉄製シリンダヘッドに圧入されて使用されるバルブシートとして好適な、従来技術に比べ安価で、耐摩耗性と耐脱落性に優れる高強度の鉄基焼結合金製バルブシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記した目的を達成するため、まず、圧入されたバルブシートの耐脱落性に及ぼす各種要因について鋭意検討した。
【0010】
その結果、まず、焼結体(バルブシート)にCu溶浸処理を施して、空孔中にCuを含浸させてバルブシートの高強度化を図り、さらに焼入焼戻処理(熱処理)を施して基地相の安定化を図ることに思い至った。そして、さらに耐脱落性に加えて耐摩耗性を兼備させるために、高硬度でかつ相手攻撃性が低いNi-Cr-Mo-Co系金属間化合物粒子またはCr-Mo-Co系金属間化合物粒子を硬質粒子として、基地相中に分散させることに想到した。
【0011】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。
【0012】
すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
[1]内燃機関のシリンダヘッドに圧入されるバルブシートであって、
該バルブシートが、機能部材側層からなる単層構造を有し、
前記機能部材側層が、基地相中に硬質粒子あるいはさらに固体潤滑剤粒子を分散させた基地部と、溶浸でCuが充填された空孔を含み、
前記基地相が、焼戻マルテンサイト相からなり、
前記基地部が、機能部材側層全量に対する面積%で、前記基地相中に、前記硬質粒子を10.0~50.0%、あるいはさらに前記固体潤滑剤粒子を0.3~3.0%、分散させ、前記硬質粒子のまわりに高合金相を60.0%以下有する基地部組織と、基地部全量に対する質量%で、C:0.3~2.0%を含み、さらに、Si:0.1~1.5%、Mn:0.1~2.5%、Ni:1.0~6.0%、Cr:1.0~20.0%、Mo:2.0~15.0%、Co:10.0~30.0%のうちから選ばれた1種または2種以上を含み、あるいはさらに、S:0.1~2.0%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成と、を有し、さらに前記空孔に溶浸されたCu(溶浸)を、機能部材側層全量に対する面積%で1.0~20.0%含む鉄基焼結合金材からなることを特徴とする内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
[2]内燃機関のシリンダヘッドに圧入されるバルブシートであって、
該バルブシートが、機能部材側層と支持部材側層とを一体で焼結してなる二層構造を有し、
前記機能部材側層が、基地相中に硬質粒子あるいはさらに固体潤滑剤粒子を分散させた基地部と、溶浸でCuが充填された空孔を含み、
前記基地相が、焼戻マルテンサイト相からなり、
前記基地部が、機能部材側層全量に対する面積%で、前記基地相中に、前記硬質粒子を10.0~50.0%、あるいはさらに前記固体潤滑剤粒子を0.3~3.0%、分散させ、前記硬質粒子のまわりに高合金相を60.0%以下有する基地部組織と、基地部全量に対する質量%で、C:0.3~2.0%を含み、さらに、Si:0.1~1.5%、Mn:0.1~2.5%、Ni:1.0~6.0%、Cr:1.0~20.0%、Mo:2.0~15.0%、Co:10.0~30.0%のうちから選ばれた1種または2種以上を含み、さらにS:0~2.0%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成と、を有し、さらに前記空孔に溶浸されたCu(溶浸)を、機能部材側層全量に対する面積%で1.0~20.0%含む鉄基焼結合金材からなり、
前記支持部材側層が、基地相中に固体潤滑剤粒子を分散させた基地部と、溶浸でCuが充填された空孔を含み、前記基地相が、焼戻マルテンサイト相からなり、前記基地部が、支持部材側層全量に対する面積%で、前記基地相中に、前記固体潤滑剤粒子を0~3.0%分散させた基地部組織と、基地部全量に対する質量%で、C:0.1~1.5%を含み、さらに、Cr:1.0~10.0%、Mo:0.1~3.0%、Ni:0.1~2.0%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、さらにMn:0~1.0%およびS:0~1.0%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成と、を有し、さらに前記空孔に溶浸されたCu(溶浸)を、支持部材側層全量に対する面積%で1.0~20.0%含む鉄基焼結合金材からなることを特徴とする内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
[3]前記シリンダヘッドが、鋳鉄製シリンダヘッドであることを特徴とする[1]または[2]に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
[4]前記硬質粒子が、質量%で、Ni:5.0~15.0%、Cr:20.0~30.0%、Mo:20.0~30.0%、Si:1.0~5.0%を含有し、残部Coからなる組成を有し、ビッカース硬さで900~1300HVの硬さを有する金属間化合物粒子、または、質量%で、Cr:5.0~15.0%、Mo:25.0~35.0%、Si:1.0~5.0%を含有し、残部Coからなる組成を有し、ビッカース硬さで600~900HVの硬さを有する金属間化合物粒子であることを特徴とする[1]または[2]に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
[5]前記固体潤滑剤粒子が、MnS粒子であることを特徴とする[1]または[2]に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
[6][1]に記載の単層構造の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法であって、
前記単層構造の機能部材側層の基地部組成および基地部組織となるように、鉄基粉末と、黒鉛粉と、合金元素粉と、硬質粒子粉末と、あるいはさらに固体潤滑剤粒子粉末とを、所定量配合し、混合、混錬して、混合粉とするに当たり、
前記鉄基粉末を、純鉄粉、合金鉄粉のうちから選ばれた1種または2種とし、
前記混合粉全量に対する質量%で、
前記黒鉛粉を0.5~2.0%、前記合金元素粉を0~5.0%、前記硬質粒子粉末を10.0~50.0%、
前記固体潤滑剤粒子粉末を0~3.0%、それぞれ配合し、混合、混錬し、混合粉としたのち、
前記混合粉を、所定形状の金型に充填し、圧縮・成形し圧粉体を得る成形工程と、
得られた前記圧粉体に、還元雰囲気中で、加熱温度:1100~1200℃で焼結処理を施し焼結体を得る焼結工程と、
得られた前記焼結体に、Cu溶浸処理を施し前記焼結体の空孔にCuを充填するCu溶浸工程と、
空孔にCuを溶浸された焼結体に、さらに焼入れ加熱温度:800~1000℃に加熱したのち急冷し、さらに焼戻し加熱温度:500~700℃に加熱したのち冷却する焼入れ焼戻し処理を施す熱処理工程と、を備えることを特徴とする内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法。
[7][2]に記載の二層構造の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法であって、
前記二層構造の基地部組成および基地部組織となるように、鉄基粉末と、黒鉛粉と、合金元素粉と、硬質粒子粉末と、あるいはさらに固体潤滑剤粒子粉末とを、所定量配合し、混合、混錬して、混合粉とするに当たり、
前記鉄基粉末を、純鉄粉、合金鉄粉のうちから選ばれた1種または2種とし、前記混合粉全量に対する質量%で、
前記黒鉛粉を0.5~2.0%、前記合金元素粉を0~5.0%、前記硬質粒子粉末を10.0~50.0%、
前記固体潤滑剤粒子粉末を0~3.0%、それぞれ配合し、混合、混錬し、機能部材側層用混合粉とし、一方、
前記鉄基粉末を、純鉄粉、合金鉄粉のうちから選ばれた1種または2種とし、前記混合粉全量に対する質量%で、
前記黒鉛粉を0.5~2.0%、前記合金元素粉末を0~5.0%、前記固体潤滑剤粒子粉末を0~3.0%、それぞれ配合し、混合、混錬して、支持部材側層用混合粉としたのち、
所定量の前記支持部材側層用混合粉と前記機能部材側層用混合粉とをこの順に、金型に充填し、一体として圧縮・成形し圧粉体を得る成形工程と、
得られた前記圧粉体に、還元雰囲気中で、加熱温度:1100~1200℃で焼結処理を施し焼結体を得る焼結工程と、
得られた前記焼結体に、Cu溶浸処理を施し前記焼結体の空孔にCuを充填するCu溶浸工程と、
空孔にCuを溶浸された焼結体に、さらに焼入れ加熱温度:800~1000℃に加熱したのち急冷し、さらに焼戻し加熱温度:500~700℃に加熱したのち冷却する焼入れ焼戻し処理を施す熱処理工程と、を備えることを特徴とする内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法。
[8]前記焼結工程において、前記Cu溶浸工程を備えることを特徴とする[6]または[7]に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高強度で、耐摩耗性および耐脱落性に優れた鉄基焼結合金製バルブシートを、安価に製造でき、鋳鉄製シリンダヘッド用として、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明バルブシートの断面構造の一例を模式的に示す断面図である。
図2】単体リグ摩耗試験機の概略説明図である。
図3】脱落性試験機の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明バルブシート1は、図1に示すように、バルブが着座する側(機能部材側)11とヘッドに着座する側(支持部材側)12とが異なる材料で構成され、それらが一体で焼結された二層構造のバルブシートであるか、図示はしないが、機能部材側層11のみの単層構造のバルブシートとする。
【0016】
まず、機能部材側層について説明する。
機能部材側層は、基地相中に硬質粒子あるいはさらに固体潤滑剤粒子を分散させた基地部と、空孔が、Cuが充填された溶浸部を含む、鉄基焼結合金材からなる。
【0017】
本発明バルブシートでは、溶浸処理により、空孔にCuを充填し、バルブシートの強度向上を図る。なお、本発明バルブシートの機能部材側層では、溶浸前の気孔率は、面積%で、1.0~20.0%の範囲とする。気孔率が1.0%未満では、密度向上のための工程が複雑となり、大幅な製造コストの上昇を招く。一方、20.0%を超えると、所望の耐摩耗性を確保することができなくなる。
【0018】
機能部材側層では、基地相は、焼戻マルテンサイト相からなる。
基地相を焼戻マルテンサイト相とすることにより、バルブシートとしての強度および靭性が向上し、エンジンの燃焼温度が高温となる厳しい使用環境においても、十分に高機能を維持できるバルブシートとすることができる。
【0019】
本発明バルブシートの機能部材側層では、基地部は、機能部材側層全量に対する面積%で、基地相中に、硬質粒子を10.0~50.0%、あるいはさらに固体潤滑剤粒子を0.3~3.0%、分散させ、硬質粒子のまわりに60.0%以下の高合金相を有する基地部組織とする。
【0020】
基地相中に分散する硬質粒子は、耐摩耗性の向上に寄与し、その分散量は、面積%で、10.0~50.0%とする。硬質粒子の分散量が10.0%未満では、所望の耐摩耗性を維持できない。一方、50.0%を超えて分散すると、相手攻撃性が増加する。
【0021】
基地相中に分散する硬質粒子としては、質量%で、Ni:5.0~15.0%、Cr:20.0~30.0%、Mo:20.0~30.0%、Si:1.0~5.0%を含有し、残部Coからなる組成を有し、ビッカース硬さで900~1300HVの硬さを有する金属間化合物粒子、または、質量%で、Cr:5.0~15.0%、Mo:25.0~35.0%、Si:1.0~5.0%を含有し、残部Coからなる組成を有し、ビッカース硬さで600~900HVの硬さを有する金属間化合物粒子とすることが好ましい。このNi-Cr-Mo-Co系金属間化合物粒子、Cr-Mo-Co系金属間化合物粒子は、高硬度でかつ相手攻撃性が低い硬質粒子である。
【0022】
また、基地相中に分散する固体潤滑剤粒子は、切削性向上に寄与し、必要に応じて分散させる。分散させる場合は、その分散量は、機能部材側層全量に対する面積%で、0.3~3.0%とすることが好ましい。固体潤滑剤粒子の分散量が、0.3%未満では、所望の潤滑効果が期待できなくなる。一方、3.0%を超えて多くなると、所望の効果が飽和する。このため、分散させる場合には、固体潤滑剤粒子は機能部材側層全量に対する面積%で、0.3~3.0%の範囲に限定することが好ましい。固体潤滑剤粒子としては、MnS粒子とすることが好ましい。
【0023】
本発明バルブシートの機能部材側層では、上記した硬質粒子のまわりに、機能部材側層全量に対する面積%で、60.0%以下の高合金相を有する。高合金相は、焼結時に、拡散により硬質粒子から合金元素が拡散し、高合金相として安定した相を形成したもので、硬質粒子の脱落防止や粒子間結合等に寄与する。なお、高合金相が、面積%で1.0%未満では上記した効果が期待できなくなるため、1.0%以上とすることが好ましい。
【0024】
また、本発明バルブシートの機能部材側層では、基地部は、基地部全量に対する質量%で、C:0.3~2.0%を含み、さらに、Si:0.1~1.5%、Mn:0.1~2.5%、Ni:1.0~6.0%、Cr:1.0~20.0%、Mo:2.0~15.0%、Co:10.0~30.0%のうちから選ばれた1種または2種以上を含み、さらにS:0~2.0%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有する。
【0025】
以下、機能部材側層の基地部組成における各成分の限定理由について説明する。なお、組成における質量%は、単に%で示す。
【0026】
C:0.3~2.0%
Cは、基地相中に含まれ、基地相の強化、耐摩耗性向上に寄与する元素であり、本発明では、0.3%以上の含有を必要とする。一方、2.0%を超えると、基地硬さが低下する。このため、Cは0.3~2.0%の範囲に限定した。
【0027】
Si:0.1~1.5%、Mn:0.1~2.5%、Ni:1.0~6.0%、Cr:1.0~20.0%、Mo:2.0~15.0%、Co:10.0~30.0%のうちから選ばれた1種または2種以上
Si:0.1~1.5%
Siは、基地相中に含まれ、基地相の強度上昇、耐摩耗性向上に寄与する元素である。0.1%未満では、上記した効果が認められない。一方、1.5%を超える含有は相手攻撃性が増加する。このため、含有する場合は、Siは0.1~1.5%の範囲に限定することが好ましい。
【0028】
Mn:0.1~2.5%
Mnは、基地相中に含まれ基地相の強化、耐摩耗性向上に寄与する元素であり、また一部は固体潤滑剤粒子MnSとして基地相中に分散して、成形性、切削性の向上に寄与する元素である。0.1%未満の含有では、上記した効果が認められない。一方、2.5%を超える含有は、相手攻撃性が増加する。このため、含有する場合は、Mnは0.1~2.5%の範囲に限定することが好ましい。
【0029】
Ni:1.0~6.0%
Niは、基地相および硬質粒子に含まれ、耐摩耗性向上に加えて、強度、耐熱性を向上させる元素である。1.0%未満の含有では、上記した効果が少ない。一方、6.0%を超えて含有すると、耐摩耗性が低下する。このため、含有する場合は、Niは1.0~6.0%の範囲に限定することが好ましい。
【0030】
Cr:1.0~20.0%
Crは、基地相、硬質粒子に含まれ、耐摩耗性向上に加えて、強度、耐熱性を向上させる元素であり、1.0%以上含有することが好ましい。一方、20.0%を超える含有は、相手攻撃性が増加する。このため、含有する場合は、Crは1.0~20.0%の範囲に限定することが好ましい。
【0031】
Mo:2.0~15.0%
Moは、Ni、Crと同様に、基地相、硬質粒子に含まれ、耐摩耗性向上に加えて、強度、耐熱性を向上させる元素であり、2.0%以上含有することが好ましい。一方、15.0%を超える含有は、相手攻撃性が増加する。このため、含有する場合は、Moは2.0~15.0%の範囲に限定することが好ましい。
【0032】
Co:10.0~30.0%
Coは、Ni、Crと同様に、基地相、硬質粒子に含まれ、耐摩耗性向上に加えて、強度、耐熱性を向上させるとともに、硬質粒子と基地相との結合を強化する元素であり、10.0%以上含有することが好ましい。一方、30.0%を超えて含有すると、相手攻撃性が増加する。このため、含有する場合は、Coは10.0~30.0%の範囲に限定することが好ましい。
【0033】
上記した成分に加えて、さらにS:0~2.0%を含有してもよい。
S:0~2.0%
Sは、主として固体潤滑剤粒子MnSとして基地中に分散して、成形性、切削性向上に寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.1%以上含有することが好ましい。一方、2.0%を超えて含有すると、耐摩耗性が低下する。このため、Sは、0~2.0%の範囲に限定した。
【0034】
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。
本発明バルブシートの機能部材側層における空孔に溶浸されたCu量(Cu溶浸量)は、機能部材側層全量に対する面積%で1.0~20.0%に限定する。Cu溶浸量が1.0%未満では、所望のバルブシートの強度を確保できない。一方、溶浸量が20.0%を超えて多くなると、耐摩耗性が低下する。このため、機能部材側層におけるCu溶浸量は機能部材側層全量に対する面積%で1.0~20.0%の範囲に限定した。
【0035】
また、本発明バルブシートの支持部材側層は、基地相中に、面積率で0~1.0%の固体潤滑剤粒子を分散させた基地部を有し、溶浸でCuが充填された空孔を含む、鉄基焼結合金材からなる。なお、支持部材側層では、溶浸前の気孔率は、面積%で、1.0~20.0%の範囲とする。気孔率が1.0%未満では、密度向上のための工程が複雑となり、大幅な製造コストの上昇を招く。一方、20.0%を超えると、所望の強度を確保することができなくなる。
【0036】
本発明バルブシートの支持部材側層における基地相は、焼戻マルテンサイト相とする。基地相を焼戻マルテンサイト相とすることにより、支持部材側層の強度および靭性が向上し、耐脱落性が向上し、エンジン温度が高温となる厳しい使用環境においても、十分に所望の高機能を維持することができる。
【0037】
そして、本発明バルブシートの支持部材側層における基地部は、支持部材側層全量に対する面積%で、基地相中に、固体潤滑剤粒子を0~3.0%分散させた基地部組織を有する。固体潤滑剤粒子は、分散させる場合には0.1%以上分散させることが好ましい。一方、固体潤滑剤粒子が、3.0%を超えて多くなると、成形性、切削性を向上させる効果が飽和する。このため、固体潤滑剤粒子は支持部材側層全量に対する面積%で、0~1.0%に限定することが好ましい。固体潤滑剤粒子としては、MnS粒子とすることが好ましい。
【0038】
また、支持部材側層における基地部は、上記した基地部組織と、基地部全量に対する質量%で、C:0.1~1.5%を含み、さらに、Cr:1.0~10.0%、Mo:0.1~3.0%、Ni:0.1~2.0%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、さらにMn:0~1.0%およびS:0~1.0%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成と、を有する。
【0039】
つぎに、支持部材側層の基地部組成における各成分の限定理由について説明する。
C:0.1~1.5%
Cは、基地相中に含まれ、基地相の強化に寄与する元素であり、0.1%以上の含有を必要とする。一方、1.5%を超えると、硬さが低下する。このため、Cは0.1~1.5%の範囲に限定した。
【0040】
上記したCに加えて、支持部材側層の基地部では、さらにCr:1.0~10.0%、Mo:0.1~3.0%、Ni:0.1~2.0%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する。
【0041】
Cr:1.0~10.0%
Crは、基地相に含まれ、強度(硬さ)、耐脱落性を向上させる元素であり、必要に応じて含有できる。含有する場合には、1.0%以上含有することが好ましい。一方、10.0%を超える含有は、切削性が低下する。このため、含有する場合には、Crは1.0~10.0%の範囲に限定することが好ましい。
【0042】
Mo:0.1~3.0%
Moは、Crと同様に、基地相に含まれ、強度(硬さ)、耐脱落性を向上させる元素であり、必要に応じて含有できる。含有する場合には、0.1%以上含有することが好ましい。一方、3.0%を超える含有は、切削性が低下する。このため、含有する場合には、Moは0.1~3.0%に限定することが好ましい。
【0043】
Ni:0.1~2.0%
Niは、基地相および硬質粒子に含まれ、耐摩耗性に加えて、強度(硬さ)、耐熱性を向上させる元素であり、必要に応じて含有できる。含有する場合には、0.1%以上含有することが好ましい。一方、2.0%を超えて含有すると、オーステナイトが形成され、耐摩耗性が低下する。このため、含有する場合には、Niは0.1~2.0%に限定することが好ましい。
【0044】
上記した成分以外に、さらにMn:0~1.0%およびS:0~1.0%を含有できる。
Mn:0~1.0%
Mnは、基地相中に含まれ基地相の強化に寄与する元素であり、また一部は固体潤滑剤粒子MnSとして基地相中に分散して切削性向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有できる。含有する場合には、0.1%以上含有することが好ましい。一方、1.0%を超える含有は、成形性が低下する。このため、Mnは0~1.0%に限定することが好ましい。
【0045】
S:0~1.0%
Sは、主として固体潤滑剤粒子として基地中に分散して成形性、切削性の向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有できる。含有する場合には、0.1%以上含有することが好ましい。一方、1.0%を超えて含有すると、固体潤滑剤粒子が多くなりすぎて、強度(硬さ)が低下する。このため、Sは0~1.0%に限定することが好ましい。
【0046】
なお、支持部材側層における空孔に溶浸されたCu(溶浸)は、支持部材側層全量に対する面積%で1.0~20.0%に限定する。Cu(溶浸)が1.0%未満では、所望のバルブシートの強度を確保できない。Cu(溶浸)が20.0%を超えて多くなると、耐脱落性が低下する。このため、支持部材側層におけるCu(溶浸)は支持部材側層全量に対する面積%で1.0~20.0%の範囲に限定した。
【0047】
つぎに、本発明バルブシートの好ましい製造方法について説明する。
まず、上記した機能部材側層の基地部組成および支持部材側層の基地部組成となるように、それぞれ原料粉を配合し混合して、機能部材側層用混合粉および支持部材側層用混合粉を用意する。
【0048】
機能部材側層用混合粉は、原料粉である、鉄基粉末と、黒鉛粉と、合金元素粉と、硬質粒子粉と、あるいはさらに固体潤滑剤粒子粉と、を上記した機能部材側層の基地部組成となるように、配合し、混合して混合粉とする。なお、機能部材側層用混合粉に配合する基地相形成用の鉄基粉末としては、純鉄粉または、合金鉄粉が例示できる。合金鉄粉としては、所定量のCr、Moを含むCr-Mo系合金鉄粉、あるいはCr、Moに加えて所定量のNiを含むCr-Mo-Ni系合金鉄粉が例示できる。
【0049】
また、支持部材側層用混合粉は、原料粉である、鉄基粉末と、黒鉛粉と、合金元素粉と、固体潤滑剤粒子粉と、を上記した支持部材側層の基地部組成となるように、配合し、混合して混合粉とする。なお、支持部材側層の基地相形成用の鉄基粉末としては、純鉄粉または、合金鉄粉が例示できる。合金鉄粉としては、所定量のCr、Moを含むCr-Mo系合金鉄粉、あるいはCr、Moに加えて所定量のNiを含むCr-Mo-Ni系合金鉄粉が例示できる。
【0050】
ついで、本発明バルブシートの製造方法では、成形工程、焼結工程、Cu溶浸工程、熱処理工程を備える。
【0051】
成形工程では、得られた混合粉を金型に充填し、プレス成形機で圧縮・成形し圧粉体を得る。なお、二層構造のバルブシートとする場合には、二層構造となるように、機能部材側層用混合粉と支持部材側層用混合粉とを順次金型に充填する。単層構造の場合には、機能部材側層用混合粉のみを金型に充填する。なお、成形工程では、所望の気孔率を有する圧粉体となるように、圧縮圧力を調整することは言うまでもない。
【0052】
ついで、焼結工程では、得られた圧粉体に、焼結処理を施し焼結体とする。焼結処理は、アンモニア分解ガス等の還元雰囲気中で1000~1200℃の温度範囲に加熱し、10~30min保持する処理とすることが好ましい。なお、成形工程と焼結工程を2回繰り返す、2P2S工程としてもよい。
【0053】
Cu溶浸工程では、得られた焼結体の空孔にCuを充填するCu溶浸処理を施す。 なお、焼結工程においてCu溶浸工程を備え、Cu溶浸処理を焼結処理時に行うこともできる。
【0054】
熱処理工程では、空孔にCuを充填された焼結体に、さらに、所望の強度を付与するためおよび基地安定化を図るため、熱処理(焼入焼戻処理)を施す。
【0055】
なお、焼入れ処理は、真空中で焼入れ加熱温度:800~1000℃の範囲に加熱し保持したのち、急冷(窒素ガスによる急冷または油冷)する処理とすることが好ましい。焼入れ処理後、さらに焼戻処理を施す。焼戻し処理は、500~700℃に加熱し保持したのち、冷却(窒素ガスによる急冷または空冷)する処理とすることが好ましい。
【0056】
熱処理を施された焼結体は、切削、研削等の加工により所定形状のバルブシート(製品)とされる。
【0057】
以下、さらに実施例に基づき、さらに本発明について説明する。
【実施例0058】
表1に示す原料粉(鉄系粉末、黒鉛粉末、合金元素粉末、硬質粒子粉末、固体潤滑剤粒子粉末)を、表1に示す配合量で配合し、混合して、各種の機能部材側層用混合粉とした。また、表2に示す原料粉(鉄系粉末、黒鉛粉末、合金元素粉末、固体潤滑剤粒子粉末)を、表2に示す配合量で配合し、混合して各種の支持部材側層用混合粉とした。なお、使用した鉄系粉末の組成を表3に、使用した硬質粒子粉末の組成を表4に、それぞれ示す。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
ついで、これら混合粉を、プレス成形機で一体的に加圧成形して、二層構造のバルブシート用圧粉体を得た。なお、一部では、機能部材側層のみの単層構造のバルブシート用圧粉体とした。
【0064】
得られた圧粉体には、さらに焼結処理を施し、焼結体とした。焼結処理は、加熱温度:1000~1200℃で、アンモニア分解ガス雰囲気(還元雰囲気)中で行う処理とした。なお、焼結に際しては、Cu溶浸処理を施し、焼結体の空孔内にCuを充填した。
【0065】
なお、焼結体No.2(従来例)には、Cu溶浸処理は施さず、焼結体No.2(従来例)は、焼結体に冷間での回転鍛造を付加し、さらに再焼結処理を施した。
【0066】
ついで、得られた焼結体(焼結体No.2を除く)に、熱処理を施したのち、切削、研削により、外径:37.7mmΦ×内径:31.2mmΦ×厚さ:6.0mmのバルブシート(製品)とした。なお、熱処理は、焼入焼戻処理とし、焼入れ処理は、加熱温度:870℃に加熱後、油冷する処理とし、焼戻し処理は、加熱温度:600℃に加熱した後、空冷する処理とした。
【0067】
バルブシート(製品)から試験片を採取し、各層について発光分析により各成分の含有量(質量%)を分析し、各層の組成を測定した。
【0068】
得られた結果を表5に示す。
【0069】
【表5】
【0070】
また、バルブシート(製品)の断面を研磨し、ナイタール液腐食して各層の組織を現出し、光学顕微鏡(倍率:200倍)を用いて観察し、撮像した。得られた組織写真から、画像解析により、各層における組織分率(面積率)を算出した。得られた結果を表6に示す。なお、表中に示した組織以外は空孔(Cu溶浸)である。
【0071】
つぎに、得られたバルブシート(製品)を試験片として、図2に示す単体リグ摩耗試験機に装着し、耐摩耗性試験を実施した。試験条件は下記の通りとした。
試験温度 :300℃(着座面)
試験時間 :4hr
カム回転数 :2500rpm
バルブ回転数:10rpm
バルブ材質 :SUH35窒化膜残し
熱源 :LPG
バルブシート1をシリンダヘッド相当品の治具2に圧入したのち、試験機に装着した熱源3によりバルブ4およびバルブシート1を加熱しながらクランク機構によりバルブ4を上下させて試験した。バルブシートの摩耗量は試験後の形状を試験前の形状に合わせ測定した。また、バルブ1の摩耗量は、試験後の形状を測定し、バルブシート当たり面の凹み量を測定することにより得た。
【0072】
得られた結果を表7に示す。
【0073】
また、得られたバルブシート(製品)を試験片として、図3に示す試験機を用いて、耐脱落性試験を実施した。試験条件は下記の通りとした。
【0074】
試験温度 :500℃
保持時間 :1hr
初期締め代 :90μm
熱サイクル条件:500℃×1hr加熱保持した後、100℃以下まで空冷する処理を10サイク ル繰り返す。
【0075】
常温で、バルブシート1をシリンダヘッド相当品(試験治具5)に圧入する。そして、圧入したままで、一定温度に保持された冷却水9中に保持された耐熱耐水容器6のなかで、バルブシート1にカートリッジヒータ7で所定の熱サイクルを負荷する。所定の熱サイクルを負荷したのち、押し治具(万能試験機)を用いてバルブシート1を押し、シリンダヘッド相当品から抜き出すときの荷重(抜け荷重)及び残留締代を測定した。得られた結果を表7に示す。
【0076】
また、得られたバルブシート(製品)について、JIS Z 2507の規定に準拠して、圧環強さを求めた。
【0077】
得られた結果を表7に併記した。
【0078】
【表6】
【0079】
【表7】
【0080】
本発明例はいずれも、焼結体No.1(従来例)に比べて、摩耗量が30%以下と耐摩耗性が、抜き荷重が366%以上、残留締代が185%以上(機能部材側層)、と耐脱落性が向上している。このことから、本発明の組織、組成を有するバルブシートとすることにより、従来に比べて、耐摩耗性および耐脱落性が顕著に向上することがわかる。また、本発明例はいずれも、回転鍛造を付加された焼結体No.2(従来例)と比べて、同等あるいはそれ以上の耐摩耗性を有し、ほぼ同等の耐脱落性を有し、しかも同等以上の圧環強さを有している。
【0081】
一方、本発明の範囲を外れる比較例は、焼結体No.1、焼結体No.2(従来例)に比べて、耐摩耗性および耐脱落性の向上、圧環強さの増加が少ない。
【0082】
このようなことから、本発明バルブートは、とくに、鋳鉄製シリンダヘッドに圧入するバルブシートとして好適であるといえる。
【符号の説明】
【0083】
1 バルブシート
2 治具
3 熱源
4 バルブ
5 試験治具
6 耐熱耐水容器
7 カートリッジヒータ
8 ダミー試験片
9 冷却水
11 機能部材側層
12 支持部材側層
図1
図2
図3