(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152737
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】積層多孔質膜、電極体及び非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/451 20210101AFI20231005BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20231005BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20231005BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20231005BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20231005BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20231005BHJP
【FI】
H01M50/451
H01M50/417
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/443 C
H01M50/446
H01M50/489
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025787
(22)【出願日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2022055765
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】薮崎 拓真
(72)【発明者】
【氏名】梶田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】新部 裕佳子
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021CC03
5H021CC04
5H021EE04
5H021EE21
5H021HH00
5H021HH03
(57)【要約】
【課題】
電極の膨張時に集電箔の損傷を防止し、且つ耐熱性やサイクル特性に優れた積層多孔質膜を提供する。
【解決手段】
ポリオレフィン多孔質膜と、前記ポリオレフィン多孔質膜の少なくとも一方の面に多孔層を備える積層多孔質膜であって、前記多孔層は無機粒子層と有機粒子を含み、前記無機粒子層の厚みに対する前記有機粒子のメジアン径の倍率(有機粒子のメジアン径/無機粒子層の厚み)が3.0倍以上、5.0倍以下、且つ前記有機粒子のメジアン径が15μm以下であり、前記積層多孔質膜を3MPaで圧縮した際、圧縮前の積層多孔質膜の総厚み(T1)、圧縮後の積層多孔質膜の総厚み(T2)及び有機粒子のメジアン径(D1)を用いて表される圧縮率(T1-T2)/D1が0.10以上、0.50以下であり、前記積層多孔質膜の150℃1時間保持した時の熱収収縮率が5%以下である、積層多孔質膜。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン多孔質膜と、
前記ポリオレフィン多孔質膜の少なくとも一方の面に多孔層を備える積層多孔質膜であって、
前記多孔層は無機粒子層と有機粒子を含み、
前記無機粒子層の厚みに対する前記有機粒子のメジアン径の倍率(有機粒子のメジアン径/無機粒子層の厚み)が3.0倍以上5.0倍以下、且つ前記有機粒子のメジアン径が15μm以下であり、
前記積層多孔質膜を3MPaで圧縮した際、圧縮前の積層多孔質膜の総厚み(T1)、圧縮後の積層多孔質膜の総厚み(T2)及び有機粒子のメジアン径(D1)を用いて表される圧縮率(T1-T2)/D1が0.10以上0.50以下であり、
前記積層多孔質膜の150℃1時間保持した時の熱収収縮率が5.0%以下である、
積層多孔質膜。
【請求項2】
走査型電子顕微鏡を用いて前記多孔層の断面を観察して求められる無機粒子層の厚みが2.0μm以上4.0μm未満である、請求項1に記載の積層多孔質膜。
【請求項3】
走査型電子顕微鏡を用いて前記多孔層の表面を観察し、MD方向95μm×TD方向105μmの範囲の中で、無機粒子層から突出した有機粒子の平均個数が1個以上50個以下である、請求項1または2に記載の積層多孔質膜。
【請求項4】
前記無機粒子がアルミナ、ベーマイトまたは硫酸バリウムから選ばれる少なくとも1種を含む請求項1または2に記載の積層多孔質膜。
【請求項5】
正極と、負極と、前記請求項1または2に記載の積層多孔質膜と、を備える電極体。
【請求項6】
請求項1または2に記載の積層多孔質膜を備える非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層多孔質膜、電極体及び非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パーソナルコンピューター等の携帯情報端末の普及に伴い、これら機器の高性能化、軽量化、小型化が進められている。これら機器の蓄電デバイスとしては、繰り返して使用ができる二次電池、中でも非水電解質二次電池の代表例であるリチウムイオン電池が広く普及している。更には、機器の高性能化に伴い、リチウムイオン電池には高容量化、長寿命化、高い安全性が要求される。前記を達成するために、セパレータにはポリオレフィン多孔質膜及びポリオレフィン多孔質膜の少なくとも一方の面に多孔層を備えた積層多孔質膜が用いられる。
一方、リチウムイオン電池の更なる高容量化を達成するために、ケイ素化合物を含んだ負極活物質を用いることが提案されている。但し、円筒や角型電池に前記負極活物質を用いた場合、充電時に負極が面方向に大きく膨張することで電池内部に数MPaの圧力が発生する。発生した圧力が電池内部で逃がしきれない場合、正極、負極及びセパレータから構成される電極体に負荷が生じ、主には電極の集電箔の損傷が引き起こされる。従って、積層多孔質膜には従来の要求特性である電池特性や耐熱性の向上に加えて電極の膨張に対応する機能が求められる。
【0003】
ここで、無機粒子から形成される多孔層を備えた積層多孔質膜を電池に用いた場合、多孔層の表面は均質な形状であることから、充電時の負極の体積膨張を多孔層の表面全体が受け、更に外側もしくは内側に位置する正極にまで圧力がかかることで正極の集電箔が損傷しやすくなる。更には負極の体積膨張によって電極体の電極間距離が不均一となり、電池の充放電に伴う反応のムラを引き起こすことでサイクル特性の低下が懸念される。そのため、多孔層には負極の体積膨張を逃がすことができる構造を付与することが求められ、その方法として多孔層に凹凸形状を付与する方法がある。
【0004】
例えば、先行文献1では、基材と、前記基材の少なくとも一方の主面に複数の凸形状のパタンと、を有し、前記凸形状のパタンの頂部で形成される略平面と前記凸形状のパタンの底部で形成される略平面との距離(T1)、及び前記セパレータの総厚(T2)を用いて示されるT1/T2の値が、0.3以上であるセパレータが記載されている。
【0005】
また、先行文献2では、基材と、前記基材の少なくとも一方の主面に形成された、粒子を含む粒子層と、を有し、前記基材は、単数または複数の層を含み、前記粒子層の弾性圧縮率が、前記基材を構成する層のうち最も低い弾性圧縮率を持つ層の弾性圧縮率の0.2倍以上、2倍未満であり、前記基材が単層の場合には、該基材の圧縮弾性率の0.2倍以上、2倍未満であり、且つ前記粒子層の厚み(T1)、及び前記セパレータの総厚(T2)を用いて表されるT1/T2の値が、0.3~1であるセパレータが記載されている。
また、先行文献3では、粒子と樹脂材料を含有とを含有し、表面の算術平均粗さ(Sa)が1.0μm以上4.0μm以下の凸形状を有する多孔質層を基材上に軽視することで、負極膨張時における電極の損傷及び破断を抑制可能なセパレータが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開番号第2020/004205号
【特許文献2】国際公開番号第2021/187607号
【特許文献3】特開2013-137984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、非水電解質二次電池は、大型タブレット、電動二輪車、電気自動車、ハイブリッド自動車、小型船舶などの大型用途向けの展開が期待されており、これに伴い大型電池の普及が想定され、更に理論容量の大きな添加剤を含んだ電極に用いることで高容量化も想定される。前記特許文献1~3はいずれも電池充放電時の体積膨張が大きい電極材料を使用した場合に、集電箔の損傷を抑制させたものであるが、更に体積膨張の大きい添加剤が用いられた場合、集電箔の損傷を抑制する効果が一層要求される。更に、電池の高容量化が進むと安全性も一層要求される。発明者らは、従来の方法で凹凸形状を形成すると、多孔層内に厚み差が生じてしまい、電池の異常発熱に伴う積層多孔質膜の熱収縮を抑制することが困難であることや、電極間距離が不均一となることで電池の充放電に伴う反応のムラを引き起こし電池のサイクル特性が低下する懸念を見出した。加えて、上述の特許文献1~3に開示されている技術では、電池の安全性に関わる性能の一つである耐熱性が不十分であることを見出した。
【0008】
本発明者らは、以下に説明するように、体積膨張の大きな添加剤を含んだ負極をリチウムイオン電池に用いる場合、無機粒子層から有機粒子が突出した構造を構築させ、圧力をかけた際に突出した有機粒子が潰れることで、負極の体積膨張に対応できることを見出した。より詳細には、有機粒子を配合したコーティング組成物を塗布する際、無機粒子層の厚み、無機粒子層の厚みに対する有機粒子のメジアン径の倍率、突出した有機粒子の個数を制御することで、圧縮した際に生じる積層多孔質膜の厚み比、すなわち圧縮率を、負極の体積膨張に対応できる好ましい範囲で制御できることを見出した。
【0009】
本発明は、前記事情を鑑みたものであり、電極の膨張時に集電箔の損傷を防止し、且つ耐熱性や電池のサイクル特性に優れた積層多孔質膜の提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、無機粒子層と、特定のメジアン径を持つ有機粒子とその配合比、及び無機粒子層の厚みに対する有機粒子のメジアン径の倍率を制御した多孔層を備える多孔質膜によって前記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、ポリオレフィン多孔質膜と、
前記ポリオレフィン多孔質膜の少なくとも一方の面に多孔層を備える積層多孔質膜であって、
前記多孔層は無機粒子層と有機粒子を含み、
前記無機粒子層の厚みに対する前記有機粒子のメジアン径の倍率(有機粒子のメジアン径/無機粒子層の厚み)が3.0倍以上5.0倍以下、且つ前記有機粒子のメジアン径が15μm以下であり、
前記積層多孔質膜を3MPaで圧縮した際、圧縮前の積層多孔質膜の総厚み(T1)、圧縮後の積層多孔質膜の総厚み(T2)及び有機粒子のメジアン径(D1)を用いて表される圧縮率(T1-T2)/D1が0.10以上、0.50以下であり、
前記積層多孔質膜の150℃1時間保持した時の熱収収縮率が5%以下である、
積層多孔質膜である。
また、走査型電子顕微鏡を用いて前記多孔層の断面を観察して求められる無機粒子層の厚みが2.0μm以上4.0μm未満であることが好ましい。
また、走査型電子顕微鏡を用いて前記多孔層の表面を観察し、MD方向95μm×TD方向105μmの範囲の中で、無機粒子層から突出した有機粒子の平均個数が1個以上50個以下であることが好ましい。
また、前記無機粒子がアルミナ、ベーマイトまたは硫酸バリウムから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
また、本発明の一態様としては、正極と、負極と、前記の積層多孔質膜とを備える電極体である。
また、本発明の一態様としては、前記の積層多孔質膜を備える非水系二次電池である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電極の膨張時に集電箔の損傷を防止し、且つ耐熱性や電池のサイクル特性に優れた積層多孔質膜を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の積層多孔質膜は、ポリオレフィン多孔質膜と、前記ポリオレフィン多孔質膜の少なくとも一方の面に多孔層を備える積層多孔質膜であって、前記多孔層は無機粒子層と有機粒子を含む。以下に、各構成について説明する。
【0013】
1.積層多孔質膜
[ポリオレフィン多孔質膜]
本発明の実施形態におけるポリオレフィン多孔質膜の厚さは、3μm以上12μm以下が好ましい。より好ましくは、下限は4μm以上、更に好ましくは5μm以上であり、上限は11μm以下、更に好ましくは10μmである。ポリオレフィン多孔質膜の厚さが3μm以上12μm以下であると、実用的な膜強度と孔閉塞機能を両立させることが出来、電池ケースの単位容積当たりの面積が制約されず、電池の高容量化に適する。
【0014】
ポリオレフィン多孔質膜の透気抵抗度は300sec/100ccAir以下が好ましい。より好ましくは200sec/100ccAir以下であり、更に好ましくは150sec/100ccAir以下である。好ましい下限は特に限定するものではない。透気抵抗度が300sec/100ccAirを超えると、十分な電池の充放電特性、特にイオン透過性(充放電作動電圧)及び電池の寿命(電解液の保持量と密接に関係する)において十分であり、電池としての機能を十分に発揮することができ、十分な機械的強度と絶縁性が得られることで充放電時に短絡が起こる可能性が低くなる。
【0015】
ポリオレフィン多孔質膜の空孔率は30%以上70%以下が好ましい。より好ましくは35%以上60%以下であり、更に好ましくは40%以上55%以下である。空孔率が30%以上70%以下であると、十分な電池の充放電特性、特にイオン透過性(充放電作動電圧)及び電池の寿命(電解液の保持量と密接に関係する)において十分であり、電池としての機能を十分に発揮することができ、十分な機械的強度と絶縁性が得られることで充放電時に短絡が起こる可能性が低くなる。
【0016】
ポリオレフィン多孔質膜を構成するポリオレフィン樹脂は特に制限されるものではないが、ポリエチレンやポリプロピレンが好ましい。また、単一物又は2種以上の異なるポリオレフィン樹脂の混合物、例えばポリエチレンとポリプロピレンとの混合物であってもよいし、異なるオレフィンの共重合体であってもよい。電気絶縁性、及びイオン透過性等の基本特性に加え、電池異常昇温時において、電流を遮断し、過度の昇温を抑制する孔閉塞効果を具備しているからである。
【0017】
中でもポリエチレンが優れた孔閉塞性能の観点から特に好ましい。以下、本発明で用いるポリオレフィン樹脂としてポリエチレンを例に詳述するが、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。
【0018】
ポリエチレンとしては、例えば、超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレン等が挙げられる。また重合触媒にも特に制限はなく、チーグラー・ナッタ系触媒やフィリップス系触媒やメタロセン系触媒等が挙げられる。これらのポリエチレンはエチレンの単独重合体のみならず、他のα-オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。エチレン以外のα-オレフィンとしてはプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のエステル、スチレン等が好適である。
【0019】
ポリエチレンは単一物でもよいが、2種以上のポリエチレンからなる混合物であることが好ましい。ポリエチレン混合物としては重量平均分子量(Mw)の異なる2種類以上の超高分子量ポリエチレン同士の混合物、同様な高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンの混合物を用いてもよいし、超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンからなる群から選ばれる2種以上ポリエチレンの混合物を用いてもよい。
【0020】
ポリオレフィン多孔質膜は、充放電反応の異常時に孔が閉塞する機能を有することが必要である。従って、構成する樹脂の融点は70℃以上、150℃以下が好ましい。より好ましくは80℃以上、140℃以下、更に好ましくは100℃以上、150℃以下である。構成する樹脂の融点が70℃以上、150℃以下であると、正常使用時に孔閉塞機能が発現してしまって電池が使用不可になることがなく、また、異常反応時に孔閉塞機能が発現することで安全性を確保できる。
【0021】
[ポリオレフィン多孔質膜の製造方法]
ポリオレフィン多孔質膜の製造方法としては、所望の特性を有するポリオレフィン多孔質膜が製造できれば、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。ポリオレフィン多孔質膜の製造方法は、例えば、日本国特許第2132327号公報及び日本国特許第3347835号公報、国際公開第2006/137540号等に記載された方法を用いることができる。以下、ポリオレフィン多孔質膜の製造方法の一例について、説明する。尚、ポリオレフィン多孔質膜の製造方法は、下記の方法に限定されない。
【0022】
ポリオレフィン多孔質膜の製造方法は、下記の工程(1)~(5)を含むことができ、更に下記の工程(6)~(8)の少なくとも1つの工程を含むこともできる。
【0023】
(1)前記ポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練し、ポリオレフィン溶液を調製する工程
(2)前記ポリオレフィン溶液を押出し、冷却しゲル状シートを形成する工程
(3)前記ゲル状シートを延伸する第1の延伸工程
(4)前記延伸後のゲル状シートから成膜用溶剤を除去する工程
(5)前記成膜用溶剤除去後のシートを乾燥する工程
(6)前記乾燥後のシートを延伸する第2の延伸工程
(7)前記乾燥後のシートを熱処理する工程
(8)前記延伸工程後のシートに対して架橋処理及び/又は親水化処理する工程
以下、各工程についてそれぞれ説明する。
【0024】
(1)ポリオレフィン溶液の調製工程
ポリオレフィン樹脂に、それぞれ適当な成膜用溶剤を添加した後、溶融混練し、ポリオレフィン溶液を調製する。溶融混練方法として、例えば日本国特許第2132327号公報及び日本国特許第3347835号公報に記載の二軸押出機を用いる方法を利用することができる。溶融混練方法は公知であるので説明を省略する。
【0025】
ポリオレフィン溶液中、ポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤との配合割合は、特に限定されないが、ポリオレフィン樹脂20~30質量部に対して、成膜用溶剤70~80質量部であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂の割合が前記範囲内であると、ポリオレフィン溶液を押し出す際にダイ出口でスウェルやネックインが防止でき、押出し成形体(ゲル状成形体)の成形性及び自己支持性が良好となる。
【0026】
(2)ゲル状シートの形成工程
ポリオレフィン溶液を押出機からダイに送給し、シート状に押し出す。同一または異なる組成の複数のポリオレフィン溶液を、押出機から一つのダイに送給し、そこで層状に積層し、シート状に押出してもよい。
【0027】
押出方法はフラットダイ法及びインフレーション法のいずれでもよい。押出し温度は140~250℃好ましく、押出速度は0.2~15m/分が好ましい。ポリオレフィン溶液の各押出量を調節することにより、膜厚を調節することができる。押出方法としては、例えば日本国特許第2132327号公報及び日本国特許第3347835号公報に開示の方法を利用することができる。
【0028】
得られた押出し成形体を冷却することによりゲル状シートを形成する。ゲル状シートの形成方法として、例えば日本国特許第2132327号公報及び日本国特許第3347835号公報に開示の方法を利用することができる。冷却は少なくともゲル化温度までは50℃/分以上の速度で行うのが好ましい。冷却は25℃以下で行うのが好ましい。冷却により、成膜用溶剤によって分離されたポリオレフィンのミクロ相を固定化することができる。冷却速度が前記範囲内であると結晶化度が適度な範囲に保たれ、延伸に適したゲル状シートとなる。冷却方法としては冷風、冷却水等の冷媒に接触させる方法、冷却ロールに接触させる方法等を用いることができるが、冷媒で冷却したロールに接触させて冷却させることが好ましい。
【0029】
(3)第1の延伸工程
次に、得られたゲル状シートを少なくとも一軸方向に延伸する。ゲル状シートは成膜用溶剤を含むので、均一に延伸できる。ゲル状シートは、加熱後、テンター法、ロール法、インフレーション法、又はこれらの組合せにより所定の倍率で延伸するのが好ましい。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよいが、二軸延伸が好ましい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸、逐次延伸及び多段延伸(例えば、同時二軸延伸及び逐次延伸の組合せ)のいずれで
もよい。
【0030】
本工程における延伸倍率(面積延伸倍率)は、9倍以上が好ましく、16倍以上がより好ましく、25倍以上が特に好ましい。また、機械方向(MD)及び幅方向(TD)での延伸倍率は、互いに同じでも異なってもよい。尚、本工程における延伸倍率とは、本工程直前の微多孔膜を基準として、次工程に供される直前の微多孔膜の面積延伸倍率のことをいう。
【0031】
本工程の延伸温度は、ポリオレフィン樹脂の結晶分散温度(Tcd)~Tcd+30℃の範囲内にするのが好ましく、結晶分散温度(Tcd)+5℃~結晶分散温度(Tcd)+28℃の範囲内にするのがより好ましく、Tcd+10℃~Tcd+26℃の範囲内にするのが特に好ましい。例えば、ポリオレフィン樹脂としてポリエチレン系樹脂を用いる場合は、延伸温度を90~140℃とするのが好ましく、より好ましくは100~130
℃にする。結晶分散温度(Tcd)は、ASTM D4065による動的粘弾性の温度特性測定により求められる。
【0032】
以上のような延伸によりポリオレフィンラメラ間に開裂が起こり、ポリオレフィン相が微細化し、多数のフィブリルが形成される。フィブリルは三次元的に不規則に連結した網目構造を形成する。延伸により機械的強度が向上するとともに細孔が拡大するが、適切な条件で延伸を行うと、貫通孔径を制御し、更に薄い膜厚でも高い空孔率を有する事が可能となる。
【0033】
所望の物性に応じて、膜厚方向に温度分布を設けて延伸してもよく、これにより機械的強度に優れた微多孔膜が得られる。その方法の詳細は日本国特許第3347854号公報に記載されている。
【0034】
(4)成膜用溶剤の除去
洗浄溶媒を用いて、成膜用溶剤の除去(洗浄)を行う。ポリオレフィン相は成膜用溶剤相と相分離しているので、成膜用溶剤を除去すると、微細な三次元網目構造を形成するフィブリルからなり、三次元的に不規則に連通する孔(空隙)を有する多孔質の膜が得られる。洗浄溶媒及びこれを用いた成膜用溶剤の除去方法は公知であるので説明を省略する。例えば日本国特許第2132327号公報や特開2002-256099号公報に開示
の方法を利用することができる。
【0035】
(5)乾燥
成膜用溶剤を除去した微多孔膜を、加熱乾燥法又は風乾法により乾燥する。乾燥温度はポリオレフィン樹脂の結晶分散温度(Tcd)以下であることが好ましく、特にTcdより5℃以上低いことが好ましい。乾燥は、微多孔膜を100質量部(乾燥質量)として、残存洗浄溶媒が5質量部以下になるまで行うのが好ましく、3質量部以下になるまで行うのがより好ましい。残存洗浄溶媒が前記範囲内であると、後段の微多孔膜の延伸工程及び
熱処理工程を行ったときに微多孔膜の空孔率が維持され、イオン透過性の悪化が抑制される。
【0036】
(6)第2の延伸工程
乾燥後の微多孔膜を、少なくとも一軸方向に延伸することが好ましい。微多孔膜の延伸は、加熱しながら前記と同様にテンター法等により行うことができる。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸及び逐次延伸のいずれでもよい。本工程における延伸温度は、特に限定されないが、通常90~135℃が好ましく、より好ましくは95~130℃である。
【0037】
本工程における微多孔膜の延伸の一軸方向への延伸倍率(面積延伸倍率)は、一軸延伸の場合、機械方向又は幅方向に1.0~2.0倍とする。二軸延伸の場合、面積延伸倍率は、下限値が1.0倍であるのが好ましく、より好ましくは1.1倍、更に好ましくは1.2倍である。上限値は、3.5倍が好適である。機械方向及び幅方向に各々1.0~2.0倍とし、機械方向と幅方向での延伸倍率が互いに同じでも異なってもよい。尚、
本工程における延伸倍率とは、本工程直前の微多孔膜を基準として、次工程に供される直前の微多孔膜の延伸倍率のことをいう。
【0038】
(7)熱処理
また、乾燥後の微多孔膜は、熱処理を行うことができる。熱処理によって結晶が安定化し、ラメラが均一化される。熱処理方法としては、熱固定処理及び/又は熱緩和処理を用いることができる。熱固定処理とは、膜の寸法が変わらないように保持しながら加熱する熱処理である。熱緩和処理とは、膜を加熱中に機械方向や幅方向に熱収縮させる熱処理である。熱固定処理は、テンター方式又はロール方式により行うのが好ましい。例えば、熱
緩和処理方法としては特開2002-256099号公報に開示の方法があげられる。熱処理温度はポリオレフィン樹脂のTcd~Tmの範囲内が好ましく、微多孔膜の延伸温度±5℃の範囲内がより好ましく、微多孔膜の第2の延伸温度±3℃の範囲内が特に好ましい。
【0039】
(8)架橋処理、親水化処理
また、乾燥後の微多孔膜に対して、更に、架橋処理及び親水化処理を行うこともできる。例えば、微多孔膜に対して、α線、β線、γ線、電子線等の電離放射線の照射をすることにより、架橋処理を行う。電子線の照射の場合、0.1~100Mradの電子線量が好ましく、100~300kVの加速電圧が好ましい。架橋処理により微多孔膜のメルトダウン温度が上昇する。また、親水化処理は、モノマーグラフト、界面活性剤処理、
コロナ放電等により行うことができる。モノマーグラフトは架橋処理後に行うのが好ましい。
【0040】
2.多孔層
本発明の実施形態に係る積層多孔質膜は、前記ポリオレフィン多孔質膜の少なくとも片面に多孔層が設けられており、無機粒子、有機粒子と、必要に応じて分散剤、バインダー及び界面活性剤を含む。
【0041】
[無機粒子]
本発明の実施形態における無機粒子としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、非晶性シリカ、結晶性のガラスフィラー、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ、シリカーアルミナ複合酸化物粒子、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン、マイカ、ベーマイトなどが挙げられる。中でもアルミナ、ベーマイト、硫酸バリウムが安価に入手しやすく好適である。
【0042】
無機粒子の平均粒径の上限は1.5μm以下が好ましい。より好ましくは1.2μm以下、更に好ましくは1.0μm以下である。無機粒子の平均粒径を前述の上限以下とすることで、多孔層中の個々の無機粒子の隙間が広くなりすぎずに、多孔層の構造がもろくなったりすることや、熱によるポリオレフィン多孔質膜の収縮を抑制することができる。また、無機粒子の平均粒径の下限は0.3μm以上が好ましい。より好ましくは0.4μm以上、更に好ましくは0.5μm以上である。無機粒子の平均粒径を前述の下限以上とすることで、多孔層中の個々の無機粒子の隙間が狭くなりすぎず、多孔層の厚さ1μmあたりの透気抵抗度の上昇幅が高くなるのを抑制できる。特に無機粒子の平均粒径が0.3μm以上であり、1.5μm以下であると、多孔層の厚さ1μmあたりの透気抵抗度の上昇幅が10.0sec/100ccAir以下となり、また、熱によるポリオレフィン多孔質膜の収縮を抑制することができる。
【0043】
[有機粒子]
本発明の実施形態における多孔層は、無機粒子を含む無機粒子層を有しており、かかる無機粒子層は有機粒子を含む。ここで、無機粒子層に含む有機粒子は、無機粒子層の厚みよりも大きい有機粒子である必要がある。有機粒子を無機粒子層の表面から突出させて存在させることで、本発明の積層多孔質膜を、正極、負極を有する電極体に用いた際、負極の体積膨張によって有機粒子が潰れることによって、集電箔の損傷を防止することができる。つまり、本発明の無機粒子層の厚みに対する有機粒子のメジアン径の倍率(有機粒子のメジアン径/無機粒子層の厚み)は3.0倍以上5.0倍以下、且つ有機粒子のメジアン径が15μm以下であることが好ましい。より好ましくは、無機粒子層の厚みに対する有機粒子のメジアン径の倍率の上限は4.8倍以下、更に好ましくは4.5倍以下であり、且つ有機粒子のメジアン径が15μm以下であることが好ましい。前記倍率が5.0倍を超える、もしくは有機粒子のメジアン径が15μmを超えると積層多孔質膜の厚みそのものが更に増加し、作製された電池の電極間距離が反って不均一となることでサイクル特性が劣化する恐れがある。また、無機粒子層の厚みに対する有機粒子のメジアン径の倍率の下限はより好ましくは3.2倍以上、更に好ましくは3.5倍以上であることが好ましい。また、有機粒子のメジアン径は12μm以下であることがより好ましい。前記倍率が3.0倍未満となると、無機粒子層から突出している有機粒子の高さが小さくなり、負極の体積膨張を十分に逃がすことができず電極体の著しい変形が発生し、電極間距離が不均一となることでサイクル特性が劣化する恐れがある。尚、本発明において、無機粒子層に含む有機粒子のメジアン径は後述する方法により求められる値であり、添加する有機粒子のメジアン径を大きくすれば大きくなる傾向にあり、添加する有機粒子のメジアン径を小さくすれば小さくなる傾向にある。
【0044】
本発明の実施形態における多孔層は、無機粒子層の厚みに対する有機粒子のメジアン径の倍率だけでなく、多孔層から突出した有機粒子の個数を制御することで、積層多孔質膜は負極の体積膨張を逃がすために最適な圧縮率を得られる。つまり、走査型電子顕微鏡を用いて多孔層の表面をMD方向95μm×TD方向105μmの範囲を観察して求められる無機粒子層から突出した有機粒子の平均個数が1個以上50個以下であることが好ましい。より好ましくは、前記有機粒子の平均個数の上限は45個以下、更に好ましくは40個以下であることが好ましい。有機粒子の平均個数が1個未満であると負極との接点数が著しく減少し、負極が体積膨張すると圧力が局所的にかかることで積層多孔質膜の圧縮率が所定の範囲とならない場合がある。また、有機粒子の平均個数が50個を超えると負極との接点数が著しく増加し、負極が体積膨張すると圧力の分散が生じることで積層多孔質膜の圧縮率が所定の範囲とならない場合がある。尚、本発明においては、フィルムの製膜する方向に平行な方向を、機械方向、長手方向あるいはMD方向と称し、フィルム面内で製膜方向に直交する方向を幅方向、TD方向と称する。また、製膜方向が不明なサンプルについては、偏光ラマン分光法を用いて面内方向の配向パラメータを15°刻みで360°分測定したとき、最も配向の高い方向をMD方向、その直交方向をTD方向とする。
【0045】
本発明の実施形態における多孔層は、コーティング組成物中の有機粒子含有量を好適化することでMD方向95μm×TD方向105μmの範囲あたりに存在する有機粒子の平均個数を前記範囲内に制御することができる。すなわち、無機粒子100質量部に対する有機粒子の含有量は0.5質量部以上5.0質量部以下であることが好ましい。有機粒子の含有量が0.5質量部未満であると、MD方向95μm×TD方向105μmの範囲に確認される有機粒子の平均個数、すなわち負極との接点数が著しく減少し、負極が体積膨張すると圧力が局所的にかかることで積層多孔質膜の圧縮率が所定の範囲とならない場合がある。また、有機粒子の含有量が5.0質量部を超えると、MD方向95μm×TD方向105μmの範囲に確認される有機粒子の平均個数、すなわち負極との接点数が著しく増加し、負極が体積膨張すると圧力の分散が生じることで積層多孔質膜の圧縮率が所定の範囲とならない場合がある。加えて、有機粒子の含有量が5.0質量部を超えると積層多孔質膜の多孔層の樹脂成分が増加することで、熱によるポリオレフィン多孔質膜の収縮を抑制することが困難となる場合がある。
【0046】
本発明の実施形態における有機粒子は、特に限られるものでは無いが、水分散性樹脂であることが好ましい。水分散性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系共重合体、などが挙げられる。
【0047】
[分散剤]
本発明の実施形態における分散剤は、例えば、セルロース系樹脂、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤等を使用することができる。セルロース系樹脂の代表例としては、カルボキシメチルセルロース及びその誘導体が挙げられる。具体的には、ダイセルファインケム(株)製 1120、1220、SP200、SE400、DN-100L、日本製紙(株)製“サンローズ”(登録商標)FJ08HC、A04SH、第一工業製薬(株)製“セロゲン”(登録商標)7A、及びWS-C等である。アニオン系界面活性剤としては、具体的には、日本触媒(株)製DL-40、TL-37、東亜合成(株)製“アロン”(登録商標)A-6012、及びA-6114等が挙げられる。カチオン系界面活性剤としては、具体的には、サンノプコ(株)製SNディスパーサント4215、及びノプコスパース092等が挙げられる。両性界面活性剤としては、具体的には、花王ケミカル(株)製 アンヒトール20BS、及びアンヒトール20N等が挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、具体的には、花王ケミカル(株)製 エマルゲン103、及びエマルゲン705等が挙げられる。シリコーン系界面活性剤としては、具体的には、サンノプコ(株)製SNウエット125等が挙げられる。その中でも分散剤を効率よく無機粒子及び有機粒子に作用させるには水溶性高分子が好ましい。中でも耐酸化性があり、入手しやすく、更に耐熱性の向上にも寄与するカルボキシメチルセルロース誘導体がより好ましい。
【0048】
前記分散剤の多孔層中の含有量は特に規定するものではないが、無機粒子、有機粒子、分散剤及びバインダーの合計を100体積部として、好ましくは0.8体積部以上、より好ましくは1.4体積部以上、更に好ましくは2.0体積部以上であり、5.9体積部以下、より好ましくは4.5体積部以下、更に好ましくは3.0体積部以下である。分散剤の含有量が0.8体積部未満であると、分散過程で個々の無機粒子の凝集体を十分に分散できず、多孔層中に凝集粒子が残るため、多孔層の構造に無機粒子の粒径よりも大きな隙間ができやすくなり、熱によるポリオレフィン多孔質膜の収縮を抑制できない場合がある。分散剤の添加量が5.9体積部体積部より多いと、前記工程(b)で、一度、解砕した個々の無機粒子が分散剤を介して再度凝集し、多孔層中に未分散の凝集体が残るため、多孔層の構造に無機粒子の粒径よりも大きな隙間ができやすくなり、熱によるポリオレフィン多孔質膜の収縮を抑制できない場合がある。
【0049】
[バインダー]
本発明の実施形態におけるバインダーは多孔層を構成する無機粒子同士が結着する効果、及び多孔層をポリオレフィン多孔質膜と密着させる効果を兼ね備えている。具体的には、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ-N-ビニルアセトアミド等を使用することができ、市販されている水溶液又は水分散体を使用することができる。アクリル系樹脂としては、具体的には、東亜合成(株)製“ジュリマー”(登録商標)AT-210,ET-410,“アロン”(登録商標)A-104、AS-2000、NW-7060、トーヨーケム(株)製“LIOACCUM”(登録商標)シリーズ、JSR(株)製 TRD202A、TRD102A、荒川化学(株)製“ポリストロン”117、705、1280、昭和電工(株)製“コーガム”(登録商標)シリーズ、大成ファインケミカル(株)製 WEM-200U、及びWEM-3000等が挙げられる。ポリビニルアルコールとしては、具体的には、クラレ(株)製“クラレポバール”(登録商標)3-98、3-88、三菱ケミカル(株)製“ゴーセノール”(登録商標)N-300、GH-20等が挙げられる。ポリ-N-ビニルアセトアミドとしては、具体的には、昭和電工(株)製 GE191-104が挙げられる。中でも汎用性が高く、無機粒子同士の結着がしやすいアクリル系樹脂が好ましい。
多孔層におけるバインダーの含有量は特に規定するものではないが、無機粒子、有機粒子、分散剤及びバインダーの合計を100体積部として、好ましくは3.2体積部以上、より好ましくは5.6体積部以上、更に好ましくは8.0体積部以上であり、24.0体積部以下、より好ましくは、18.5体積部以下、更に好ましくは12.1体積部以下である。バインダーの含有量が3.2体積部未満であると、個々の無機粒子及び有機粒子をつなぎ留めているバインダーが不足し、多孔層としての構造が保てなくなることで、熱によるポリオレフィン多孔質膜の収縮を抑制することが困難となる場合がある。バインダーの含有量が24.0体積部より多いと、多孔層中の無機粒子及び有機粒子の隙間がバインダーで目詰まりしてしまうため、多孔層の厚さ1μmあたりの透気抵抗度の上昇幅を10.0sec/100ccAir以下にできなくなる。加えて、積層多孔質膜が熱にさらされた時に、無機粒子及び有機粒子の隙間に存在するバインダーが収縮してしまい、熱によるポリオレフィン多孔質膜の収縮を抑制することが困難となる場合がある。
【0050】
[溶媒]
本発明において溶媒とは、水溶性樹脂または水分散性樹脂を溶解する液だけではなく、水溶性樹脂または水分散性樹脂を粒子状に分散させるために用いる分散媒も広義的に含むものである。本発明の実施形態における溶媒とは水を主体とする。本発明で用いる水はイオン交換水または蒸留水を用いるのが好ましい。溶媒は水のみであってもよいが必要に応じてアルコール類などの水溶性有機溶媒を混合して用いることができる。これら水溶性有機溶媒を用いることによって、乾燥速度、塗工性を向上させることができる。水溶性有機溶媒としては、たとえばエタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール類を、全塗布液に占める割合が0.1~10質量部の範囲で混合した混合液が好ましい。更に、1質量部未満であれば、アルコール類以外の有機溶媒を溶解可能な範囲で混合してもよい。ただし、塗布液中、アルコール類とその他の有機溶媒との合計は、10質量部未満とする。また、更に必要に応じて微粒子と水溶性樹脂または水分散性樹脂以外の成分を本発明の目的を損なわない範囲で含んでいてもよい。そのような成分として、例えば、分散剤、pH調製剤などが挙げられる。
【0051】
[界面活性剤]
コーティング組成物にはポリオレフィン多孔質膜上に、より均一な厚さで多孔層を形成するために、適宜、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤とは濡れ剤、レベリング剤、及び消泡剤等のことである。前記界面活性剤は無機粒子の分散状態を崩さないために、バインダーが十分に混ざった状態で最後に添加することが好ましい。
【0052】
[無機粒子層の厚み]
本発明の実施形態における無機粒子層の厚みを好適化することで、円筒型電池、角型電池、ラミネート型電池等の非水電解質二次電池における出力特性や安全性を維持することができる。更には、無機粒子層表面から突出する有機粒子の高さを制御することができ、積層多孔質膜は負極の体積膨張を逃がすための最適な圧縮率を得られ、集電箔の損傷の抑制やサイクル特性が向上する効果を十分に得ることができる。すなわち、無機粒子の厚みは2.0μm以上4.0μm以下であることが好ましい。無機粒子層の平均厚みの下限は、より好ましくは2.2μm以下であり、更に好ましくは2.5μm以下であることが好ましい。無機粒子層の平均厚みが2.0μm未満であった場合、熱によるポリオレフィン多孔質膜の収縮を抑制することが困難となり、電池の安全性を損なう場合がある。更には、無機粒子層から突出する有機粒子の高さが著しく増加することで、積層多孔質膜の圧縮率が所定の範囲とならない場合がある。また、無機粒子層の平均厚みが4.0μmを超える場合、無機粒子層から有機粒子を突出させるために有機粒子のメジアン径が増加することで積層多孔質膜の厚みそのものが更に増加し、作製された電池の電極間距離が反って不均一となることでサイクル特性が劣化する恐れがある。尚、本発明における無機粒子層の厚みは、走査型電子顕微鏡を用いて積層多孔質膜の多孔層の断面を観察し、無機粒子の存在する一方の面について無機粒子のみで構成された部分の厚みを10点測定した平均値である。
【0053】
[圧縮率]
本発明の実施形態における積層多孔質膜の圧縮率を好適化することで、電池充電時の負極の体積膨張を逃がすことができ、実際の電池で使用した際の集電箔の損傷を抑制し、良好な電池作製適正を有することを見出した。すなわち、積層多孔質膜を3MPaで圧縮した際、圧縮前の積層多孔質膜の総厚み(T1)、圧縮後の積層多孔質膜の総厚み(T2)及び有機粒子のメジアン径(D1)を用いて表される圧縮率(T1-T2)/D1は0.10以上、0.50以下であることが好ましい。前記圧縮率の上限は、より好ましくは0.49以下、更に好ましくは0.48以下であることが好ましい。3MPaで圧縮した際の圧縮率が0.50を超えると、負極の体積膨張に伴い電極体の著しい変形が発生することで電池の充放電に伴う反応のムラを引き起こされ、反ってサイクル特性が低下する懸念がある。また、前記圧縮率の下限は、より好ましくは0.11以上、更に好ましくは0.12以上であることが好ましい。3MPaで圧縮した際の圧縮率が0.10未満となると、負極の体積膨張を逃がすことが十分でなくなり、電極の集電箔の損傷が発生する恐れがある。
【0054】
[積層多孔質膜の耐熱性]
本発明の実施形態において、前記積層多孔質膜の150℃1時間保持した時の熱収縮率が5.0%以下であることが好ましく、より好ましくは4.0%、更に好ましくは3.0%以下であることが好ましい。熱収縮が5%を超えると、電池が異常発熱した際の安全性を維持できなくなる。
【0055】
[コーティング組成物製造方法]
本発明の実施形態において、多孔層を形成するためのコーティング組成物は以下の工程で得ることができる。
(a)水を主成分とする溶媒に分散剤を添加後、更に無機粒子を添加して攪拌し、混合液を得る工程。
(b)前記混合液をビーズ粒径が1.0mm以下のセラミック製ビーズを使用したビーズミル分散機にて分散処理を施し、マスターバッチ液を得る工程。
(c)前記マスターバッチ液にバインダー、その他添加剤を添加し、更に有機粒子を添加してコーティング組成物を得る工程。
【0056】
前記工程(a)において、攪拌方法は特に限定されるものではないが、ディスパー羽根による攪拌、自転公転ミキサー、ペイントシェイカー、ボールミル、超音波分散機、ホモジナイザー、及びプラネタリーミキサー等を用いてもよい。溶媒中で分散剤を効果的に無機粒子に作用させるには、分散剤が溶媒に十分に溶解している状態で無機粒子を投入することが重要である。従って、溶媒に対して分散剤、次いで無機粒子の順番で添加することが好ましい。
【0057】
前記工程(b)はビーズミル分散機を用い、混合液に含まれる無機粒子の凝集体にセラミック製ビーズを衝突させることで、個々の無機粒子に解砕する工程である。本発明ではビーズミル分散機を使用し、ビーズ粒径、ビーズ充填率を好適な条件に合わせることで砕けやすい粒子を適度に分散させることが可能である。また、硫酸バリウムのような砕けやすい粒子を解砕する場合は、セラミック製ビーズを使用しないメディアレス分散機が、粒子へのダメージが少なく好適である。
【0058】
[ビーズ粒径]
前記セラミック製ビーズのビーズ粒径は特に限定されないが、数平均値が0.3mm以上、1.0mm以下が好ましい。より好ましくは0.4mm以上、0.8mm以下であり、更に好ましくは0.5mm以上0.7mm以下である。
ビーズ粒径が0.3mm未満であると、セラミック製ビーズ1個あたりの質量が小さく、セラミック製ビーズ間に発生するずり応力が小さくなるため、無機粒子の凝集体を十分に解砕できず、コーティング組成物中に多孔層の厚さよりも大きな凝集体が残る。すると、多孔層の構造に無機粒子の粒径よりも大きな隙間ができやすくなり、熱によるポリオレフィン多孔質膜ポリオレフィン多孔質膜の収縮を抑制できなくなることや、電池セルの正極と負極の極間距離が大きくなることで電池セル容量に占めるセパレータの割合が多くなり、電池の容量密度が低下する場合がある。
【0059】
ビーズ粒径が1.0mmより大きいと、セラミック製ビーズ間の接触点が少なくなり、コーティング組成物ー中に多孔層の厚さよりも大きな凝集体が残る。すると、多孔層の構造に無機粒子の粒径よりも大きな隙間ができやすくなり、熱によるポリオレフィン多孔質膜の収縮を抑制できなくなることや、電池セルの正極と負極の極間距離が大きくなることで電池セル容量に占めるセパレータの割合が多くなり、電池の容量密度が低下する場合がある。
【0060】
ここでセラミック製ビーズの材質は特に限定されないが、アルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素から選ばれる少なくとも1種類を使用できる。
【0061】
[ビーズ充填率]
前記セラミック製ビーズのビーズ充填率は特に限定されないが、65%以上、85%以下が好ましい。より好ましくは70%以上、80%以下である。ここでビーズ充填率とは、使用するセラミック製ビーズの質量(g)を、充填密度(g/cm3)で除して得られた体積(cm3)を、更にヴェッセル容量(cm3)で除した、セラミック製ビーズの体積占有率である。
【0062】
ビーズ充填率が65%未満であると、前記ヴェッセル内でのセラミック製ビーズの存在量が少ないため、セラミック製ビーズ間の接触点が少なくなり、無機粒子の凝集体が残存しやすくなる。すると、多孔層から無機粒子の凝集体の脱落や、電池セルの正極と負極の極間距離が大きくなることで電池セル容量に占めるセパレータの割合が多くなり、電池の容量密度が低下する場合がある。
【0063】
ビーズ充填率が85%より大きいと、セラミック製ビーズ間の接触点が過剰に多くなることで、既に解砕された個々の無機粒子を、より細かい粒子に粉砕してしまい、多孔層を形成する無機粒子同士の隙間に細かい粒子が入ることで、多孔層層の厚さ1μmあたりの透気抵抗度の上昇幅が10.0sec/100ccAirより大きくなる場合がある。
【0064】
前記工程(c)において、攪拌方法は特に限定されるものではないが、ディスパー羽根による攪拌、自転公転ミキサー、ペイントシェイカー、ボールミル、超音波分散機、ホモジナイザー、及びプラネタリーミキサー等を用いてもよい。前記バインダー及び有機粒子は、前記工程(b)でビーズミル分散処理の前に混合液に添加しないことが重要である。混合液にはビーズミル分散処理により発生する熱、及び高いせん断力がかかるため、バインダーがゲル化や凝集を起こす可能性がある。バインダー及び有機粒子は、ビーズミル分散処理後の工程(c)で混合液に添加することで、ゲル化や凝集を抑制して多孔層中の無機粒子や有機粒子が均一に結着することができ、高温時のポリオレフィン多孔質膜の収縮を抑制することができるため好適である。
【0065】
[多孔層の形成方法]
本発明の実施形態において、多孔層は以下の工程で得ることができる。
(d)ポリオレフィン多孔質膜の少なくとも片面にコーティング組成物をコーティングする工程。
(e)前記コーティング後、溶媒をドライヤーで乾燥させ、多孔層を形成する工程。
【0066】
前記工程(d)において、ポリオレフィン多孔質膜の少なくとも片面に多孔層をコーティングする方法は公知の方法を用いることができる。例えば、リバースロール・コート法、グラビア・コート法、小径グラビアコーター法、キス・コート法、ロールブラッシュ法、エアナイフコート法、マイヤーバーコート法、パイプドクター法、ブレードコート法及びダイコート法等が挙げられ、これらの方法は単独又は組み合わせて行うことができる。
【0067】
前記工程(e)において、ドライヤーの乾燥温度は特に規定されるものではないが、40℃以上、90℃以下が好ましい。より好ましくは、下限は45℃以上、更に好ましくは50℃以上であり、上限は85℃以下、更に好ましくは70℃以下であることが好ましい。乾燥温度が40℃未満であると溶媒を十分に乾燥させることができないため、多孔層中に溶媒が残存し、特に溶媒が水である場合は、積層多孔質膜の水分率が高くなる場合がある。乾燥温度が90℃より高いと、多孔層が形成される前に、ポリオレフィン多孔質膜が熱により収縮してしまう場合がある。
加えて、乾燥温度は前記乾燥温度範囲で有機粒子の融点未満の温度に設定することが好ましい。有機粒子の融点以上の温度で乾燥すると、有機粒子の軟化あるいは溶融し易くなり搬送ロールに付着し、積層多孔質膜の外観が悪化する場合がある。加えて、有機粒子が溶融することでポリオレフィン多孔質膜と多孔層の空孔を塞いでしまい、電池内でのリチウムイオン透過性が低下し、抵抗が上昇する場合がある。
【0068】
本発明の実施形態に係る積層多孔質膜は、ニッケル-水素電池、ニッケル-カドミウム電池、ニッケル-亜鉛電池、銀-亜鉛電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池、及びリチウム-硫黄電池等の二次電池等のセパレータとして用いることができる。特に、リチウムイオン二次電池のセパレータとして用いるのが好ましい。
【0069】
本発明の一態様としては、正極と、負極と、前記の積層多孔質膜とを備える電極体が挙げられる。また、本発明の別の一態様としては、前記の積層多孔質膜を備える非水系二次電池が挙げられる。
【実施例0070】
以下、本発明を実施例により、更に詳細に説明するが、本発明の実施態様は、これらの実施例に限定されるものではない。尚、実施例で用いた評価法、分析の各法及び材料は、以下の通りである。
【0071】
(積層多孔質膜の厚み測定)
積層多孔質膜を接触式膜厚計(株式会社ミツトヨ製、“ライトマチック”(登録商標))を使用して、10点の測定値を平均することによって厚さを求めた。ここで、前記平面測定子の先端は直径5mmの円形とし、測定荷重は0.1N、とした。
【0072】
(無機粒子層の厚み測定)
走査電子顕微鏡(日本電子(株)製JSM6701F)を用いて、イオンミリングで切断した積層多孔質膜断面のLEI像を倍率3000倍で撮影した(加速電圧2.0kV)。次いで、無機粒子の存在する一方の面について無機粒子のみで構成された部分の10点の厚みを測定し、その平均値を無機粒子層の厚みとした。
【0073】
(有機粒子の平均個数測定)
走査電子顕微鏡(日本電子(株)製JSM6701F)を用いて、積層多孔質膜表面のLEI像を倍率1000倍で撮影した(加速電圧2.0kV)。次いで、多孔層の存在する一方の面について、MD方向95μm×TD方向105μm(概ね10000μm2)の面積範囲で、無機粒子層から突出した有機粒子個数を集計した。前記測定を10点行い、その平均値を有機粒子の平均個数とした。
【0074】
(有機粒子のメジアン径)
有機粒子のメジアン径は下記の方法で測定した。
1)積層多孔質膜の多孔層を上にして皺なく固定する。
2)レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製)を用いて下記の条件で多孔層の10点を測定する。
測定部:VK-X160(赤色レーザー658nm)
制御部:VK-X150
対物レンズ:株式会社ニコン製CF IC EPI Plan 100倍
解析ソフト:マルチファイル解析アプリケーション バージョン2.2.0.93
測定範囲:141μm×105.7μm
画像処理
基準面設定:複数点指定
うねり除去:あり(強さ:5)
欠測点除去:あり
3)有機粒子の長径を測定し、10点の測定面に存在する有機粒子の粒度分布から累積頻度50%となる粒子径を算出し、これをメジアン径とした。
【0075】
(圧縮率の測定)
圧縮率は下記の方法で測定した。
1)積層多孔質膜をMD方向50mm×TD方向50mmの大きさに切り出し、平面測定子を取り付けた接触式膜厚計(株式会社ミツトヨ製、“ライトマチック”(登録商標))を使用して、5点の厚みを測定した。
2)PETフィルム(厚み100μm)をMD方向50mm×TD方向50mmの大きさで2枚切り出し、前記積層多孔質膜を挟み込み、積層物を作成した。その後、前記積層物を精密加熱加圧装置(新東工業株式会社製、CYPT-10)を用いて40℃、3MPa、120秒の条件で圧縮した。
3)圧縮後の積層多孔質膜を、平面測定子を取り付けた接触式膜厚計を使用して、圧縮前に膜厚測定した箇所5点の厚みを測定した。得られた圧縮前の積層多孔質膜の総厚み(T1)、圧縮後の積層多孔質膜の総厚み(T2)及び有機粒子のメジアン径(D1)を用いて、下記式(1)にて圧縮率を算出した。
圧縮率=(圧縮前の積層多孔質膜の総厚みT1(μm)-圧縮後の積層多孔質膜の総厚みT2(μm))/有機粒子のメジアン径D1(μm) 式(1)
(耐熱性試験)
積層多孔質膜のMD方向(長さ方向)とTD方向(幅方向)の熱収縮率は下記の方法にて測定した。
1)積層多孔質膜をMD方向100mm×TD方向100mmの大きさに3枚切り出し、正方形の中心からMD方向に25mmとなるよう該当する2か所に点を打った。このおおよそ50mmである2点間の寸法をMD方向の初期寸法とした。更に正方形の中心からTD方向に25mmとなるよう該当する2か所に点を打った。このおおよそ50mmである2点間の寸法をTD方向の初期寸法とした。これらの初期寸法は、透明なガラススケール(測定精度0.1mm)を用いて、各方向の初期寸法として0.1mm刻みで計測した。
2)前記積層多孔質膜をA3サイズの紙2枚で挟み、温度150℃のオーブンに入れ、1時間放置した後、オーブンから積層多孔質膜を取り出して30分間室温で放置した。
3)前記ガラススケールを用いて、積層多孔質膜のMD方向2点間を計測し、収縮後の寸法とし、TD方向2点間を計測し収縮後の寸法(mm)を計測した。これらは0.1mm刻みで計測した。得られた初期寸法と、収縮後の寸法より、下記式(2)にてMD方向、及びTD方向の熱収縮率(%)を得た。得られた3枚分のMD方向、及びTD方向の熱収縮率をそれぞれ平均しその値をMD及びTD方向の積層多孔質膜の熱収縮率とした。 この時、熱収縮率が5.0%未満であるものを特に良好、5.0%以上10.0%未満を良好、10.0%以上であるものを不良とし表記した。
【0076】
熱収縮率(%)={初期寸法(mm)-収縮度の寸法(mm)}/初期寸法(mm)×100 式(2)
(サイクル特性)
[正極の作製]
バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を1.2質量部含むN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液を、活物質としてのコバルト酸リチウム97質量部、カーボンブラック1.8質量部に加えて混合し、正極合剤含有スラリーとした。この正極合剤含有スラリーを、厚みが20μmのアルミ箔からなる正極集電体の両面に均一に塗布して乾燥して正極層を形成し、その後、ロールプレス機により圧縮成型して集電体を除いた正極層の密度を3.6g/cm3にして正極を作製した。
【0077】
[負極の作製]
カルボキシメチルセルロースナトリウムを1.0質量部含む水溶液を、活物質としての人造黒鉛98質量部に加えて混合し、更にバインダーとして固形分として1.0質量部含むスチレンブタジエンラテックスを加えて混合して負極合剤含有スラリーとした。この負極合剤含有スラリーを、厚みが10μmの銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗付して乾燥して負極層を形成し、その後、ロールプレス機により圧縮成形して集電体を除いた負極層の密度を1.45g/cm3にして、負極を作製した。
【0078】
[試験用電池の作製]
前記正極、負極にタブ付けされたものと各微多孔膜を使用して巻回体を作製した。次に、アルミラミネート袋内に巻回体を入れ、電解液(1.1mol/L,LiPF6,エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジエチレンカーボネート=3/5/2(体積比)に0.5重量%ビニレンカーボネート、2重量%フルオロエチレンカーボネートを添加したもの)を注液し、真空シーラーにて封止した。次に温度35℃、0.2C(Cは電池が1時間で満充電できる電流値をあらわし、本電池の場合300mAとしている)にて全容量の10%を充電し、12時間保管後、ガス抜きのためにラミネートの1辺を開け、すぐに真空シーラーで封止した。次に、温度35℃で、0.1C、4.2V、カットオフ電流0.05Cの定電流定電圧充電した後、0.1Cで3.0Vまで定電流放電した。これら一連の充放電が初回充放電となる。これを300mAh級の試験用電池とした。
【0079】
[サイクル特性試験]
前記試験用電池を用いてサイクル特性試験を実施した。試験用電池を0.5C、4.2V、カットオフ電流0.05Cの定電流定電圧充電したのち、0.2Cで3Vまで定電流放電しこの容量を1回目の放電容量として記録した。この状態の電池を以下条件で充放電を実施した。
【0080】
充電:1C、4.2V定電流定電圧充電、カットオフ電流0.05C
放電:1C、3V定電流放電
測定温度:25℃
充放電の繰り返し回数:1000回
1回目の放電容量と、1000回目の放電容量より、下記式(3)にて試験用電池の容量維持率を得た。計3個の試験用電池から得られた容量維持率の平均値を算出し、これをサイクル特性の指標とした。
【0081】
この時、容量維持率が70%以上であるものを特に良好、60%以上70未満を良好、60%未満を不良とし表記した。
【0082】
容量維持率(%)=1000回目の放電容量(mAh)/1回目の放電容量(mAh)×100 式(3)
[実施例1]
硫酸バリウム(平均粒径0.5μm、密度4.5g/cm3)100質量部に対し、0.25質量部(有効成分)のポリアクリル酸系分散剤(東亜合成株式会社製、アロン(登録商標))を用意し、水に加える。次に、ディスパー型の羽根を取り付けた撹拌機(東機産業株式会社製、スリーワンモーター)にて800rpmで撹拌しながら、前記硫酸バリウムを全量加え、1200rpmで1時間攪拌して、固形分が60質量%の混合液を得た。
ビーズ粒径が0.5mmのジルコニアビーズ(東レ株式会社製、トレセラムφ0.5mm)を130g充填したビーズミル分散機(淺田鉄工株式会社製、ピコミルPCM-LR、分散部容量0.048L)を用いて、得られた混合液を周速10m/sec、流速18kg/hの条件で2回分散を行い、硫酸バリウム分散液を得た。
【0083】
得られたマスターバッチ液を前記撹拌機にて800rpmで撹拌しながら、有機合成樹脂成分として、ポリアクリルアミド(荒川化学工業株式会社製、ポリストロン117)1.5質量部(有効成分)、アクリル樹脂(昭和電工株式会社製、ポリゾール)1.0質量部(有効成分)、添加剤として、界面活性剤(サンノプコ株式会社製、SNウエット366)0.2質量部(有効成分)を加えた。更に、多孔層における有機粒子のメジアン径が6.0μmとなるアクリル重合体を0.5質量部(有効成分)及び水を加えた。その後、前記撹拌機にて800rpmで30分撹拌し、固形分50質量%のコーティング組成物を得た。
前記コーティング組成物を、厚さ10μmのポリオレフィン多孔質膜の片面に、マイクログラビア法にて乾燥温度60℃、搬送速度5m/毎分の条件にてコーティングし、積層多孔質膜を得た。前記積層多孔質膜について、無機粒子層の厚みは2.0μm、無機粒子層の厚みに対する有機粒子のメジアン径の倍率が3倍であった。
【0084】
[実施例2]
メジアン径が10.0μmとなる有機粒子を用いてコーティング組成物を作製したこと以外は、実施例1と同様にして積層多孔質膜を得た。尚、得られた積層多孔質膜について、無機粒子層の厚みは2.0μm、無機粒子層の厚みに対する有機粒子のメジアン径の倍率が5倍であった。
【0085】
[実施例3]
メジアン径が12.0μmとなる有機粒子を用いてコーティング組成物を作製したこと以外は、実施例1と同様にして積層多孔質膜を得た。尚、得られた積層多孔質膜について、無機粒子層の厚みは4.0μm、無機粒子層の厚みに対する有機粒子のメジアン径の倍率が3倍であった。
【0086】
[実施例4]
メジアン径が15.0μmとなる有機粒子を用いてコーティング組成物を作製したこと以外は、実施例1と同様にして積層多孔質膜を得た。尚、得られた積層多孔質膜について、無機粒子層の厚みは4.0μm、無機粒子層の厚みに対する有機粒子のメジアン径の倍率が3.8倍であった。
【0087】
[実施例5]
硫酸バリウム(平均粒径0.5μm、密度4.5g/cm3)100質量部に対し、0.25質量部(有効成分)のポリアクリル酸系分散剤(東亜合成株式会社製、アロン(登録商標))を用意し、水に加える。次に、ディスパー型の羽根を取り付けた撹拌機(東機産業株式会社製、スリーワンモーター)にて800rpmで撹拌しながら、前記硫酸バリウムを全量加え、1200rpmで1時間攪拌して、固形分が60質量%の混合液を得た。
ビーズ粒径が0.5mmのジルコニアビーズ(東レ株式会社製、トレセラムφ0.5mm)を130g充填したビーズミル分散機(淺田鉄工株式会社製、ピコミルPCM-LR、分散部容量0.048L)を用いて、得られた混合液を周速10m/sec、流速18kg/hの条件で2回分散を行い、硫酸バリウム分散液を得た。
【0088】
得られたマスターバッチ液を前記撹拌機にて800rpmで撹拌しながら、有機合成樹脂成分として、ポリアクリルアミド(荒川化学工業株式会社製、ポリストロン117)1.5質量部(有効成分)、アクリル樹脂(昭和電工株式会社製、ポリゾール)1.0質量部(有効成分)、添加剤として、界面活性剤(サンノプコ株式会社製、SNウエット366)0.2質量部(有効成分)を加えた。更に、メジアン径が6.0μmとなる有機粒子を5.0質量部(有効成分)及び水を加えた。その後、前記撹拌機にて800rpmで30分撹拌し、固形分50質量%のコーティング組成物を得た。
前記コーティング組成物を、厚さ10μmのポリオレフィン多孔質膜の片面に、マイクログラビア法にて乾燥温度60℃、搬送速度5m/毎分の条件にてコーティングし、積層多孔質膜を得た。前記積層多孔質膜について、無機粒子層の厚みは2.0μm、無機粒子層の厚みに対する有機粒子のメジアン径の倍率が3.0倍であった。
【0089】
[実施例6]
メジアン径が10.0μmとなる有機粒子を用いてコーティング組成物を作製したこと以外は、実施例5と同様にして積層多孔質膜を得た。尚、得られた積層多孔質膜について、無機粒子層の厚みは2.0μm、無機粒子層の厚みに対する有機粒子のメジアン径の倍率が5倍であった。
【0090】
[実施例7]
メジアン径が12.0μmとなる有機粒子を用いてコーティング組成物を作製したこと以外は、実施例5と同様にして積層多孔質膜を得た。尚、得られた積層多孔質膜について、無機粒子層の厚みは4.0μm、無機粒子層の厚みに対する有機粒子のメジアン径の倍率が3倍であった。
【0091】
[実施例8]
メジアン径が15.0μmとなる有機粒子を用いてコーティング組成物を作製したこと以外は、実施例5と同様にして積層多孔質膜を得た。尚、得られた積層多孔質膜について、無機粒子層の厚みは4.0μm、無機粒子層の厚みに対する有機粒子のメジアン径の倍率が3.8であった。
【0092】
[実施例9]
有機粒子を0.1質量部(有効成分)加えたこと以外は、実施例1と同様にして積層多孔質膜を得た。尚、得られた積層多孔質膜について、無機粒子層の厚みは2.0μm、無機粒子層の厚みに対する有機粒子のメジアン径の倍率が3倍であった。
【0093】
[比較例1]
メジアン径が3.0μmとなる有機粒子を用いてコーティング組成物を作製したこと以外は、実施例1と同様にして積層多孔質膜を得た。尚、得られた積層多孔質膜について、無機粒子層の厚みは1.0μm、無機粒子層の厚みに対する有機粒子のメジアン径の倍率が3倍であった。
【0094】
[比較例2]
メジアン径が4.0μmとなる有機粒子を用いてコーティング組成物を作製したこと以外は、実施例1と同様にして積層多孔質膜を得た。尚、得られた積層多孔質膜について、無機粒子層の厚みは2.0μm、無機粒子層の厚みに対する有機粒子のメジアン径の倍率が2倍であった。
【0095】
[比較例3]
メジアン径が25.0μmとなる有機粒子を用いてコーティング組成物を作製したこと以外は、実施例5と同様にして積層多孔質膜を得た。尚、得られた積層多孔質膜について、無機粒子層の厚みは5.0μm、無機粒子層の厚みに対する有機粒子のメジアン径の倍率が5倍であった。
【0096】
[比較例4]
メジアン径が20.0μmとなる有機粒子を用いてコーティング組成物を作製したこと以外は、実施例5と同様にして積層多孔質膜を得た。尚、得られた積層多孔質膜について、無機粒子層の厚みは4.0μm、無機粒子層の厚みに対する有機粒子のメジアン径の倍率が5倍であった。
【0097】
[比較例5]
メジアン径が20.0μmとなる有機粒子を6.0質量部加えて用いてコーティング組成物を作製したこと以外は、実施例5と同様にして積層多孔質膜を得た。尚、得られた積層多孔質膜について、無機粒子層の厚みは4.0μm、無機粒子層の厚みに対する有機粒子のメジアン径の倍率が5倍であった。
【0098】