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特開2023-152773グリース組成物、及び、グリース組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152773
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】グリース組成物、及び、グリース組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 105/04 20060101AFI20231005BHJP
   C10M 117/00 20060101ALI20231005BHJP
   C10M 115/08 20060101ALI20231005BHJP
   C10M 129/10 20060101ALI20231005BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20231005BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20231005BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20231005BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20231005BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
C10M105/04 ZAB
C10M117/00
C10M115/08
C10M129/10
C10N50:10
C10N30:08
C10N30:00 C
C10N30:00 Z
C10N40:02
C10N40:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023032671
(22)【出願日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2022061928
(32)【優先日】2022-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188949
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 成典
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 剛
(72)【発明者】
【氏名】荒井 孝
(72)【発明者】
【氏名】神畑 知輝
(72)【発明者】
【氏名】三上 聡
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB05C
4H104BB32A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104LA04
4H104LA05
4H104LA13
4H104LA20
4H104PA01
4H104PA02
4H104PA03
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】自然環境を保全すると共に、グリース特性がより向上したグリース組成物、及び、当該グリース組成物の製造方法の提供。
【解決手段】基油(A)(但し、バイオマス原料からフィッシャー・トロプシュ反応で得られた合成油を除く)と、増ちょう剤(B)とを含有するグリース組成物であって、前記基油(A)は、バイオマス由来の炭素を有する基油(A1)を含み、前記増ちょう剤(B)は、金属コンプレックス石けん及びウレア化合物から選択される1種以上の増ちょう剤(B1)を含み、ASTM D6866で測定されるバイオマス由来の炭素の含有量が、グリース組成物中の全炭素基準で20%以上である、グリース組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油(A)と、増ちょう剤(B)とを含有するグリース組成物であって、
前記基油(A)は、バイオマス由来の炭素を有する基油(A1)(但し、バイオマス原料からフィッシャー・トロプシュ反応で得られた合成油を除く)を含み、
前記増ちょう剤(B)は、金属コンプレックス石けん及びウレア化合物から選択される1種以上の増ちょう剤(B1)を含み、
ASTM D6866で測定されるバイオマス由来の炭素の含有量が、グリース組成物中の全炭素基準で20%以上である、グリース組成物。
【請求項2】
ASTM D6866で測定されるバイオマス由来の炭素の含有量が、グリース組成物中の全炭素基準で80%以上である、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記増ちょう剤(B)の含有量は、グリース組成物全量に対して、5質量%以上30質量%以下である、請求項1又は2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
さらに、酸化防止剤(C)を含む、請求項1又は2に記載のグリース組成物。
【請求項5】
前記酸化防止剤(C)が2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールである、請求項4に記載のグリース組成物。
【請求項6】
請求項1に記載のグリース組成物の製造法であって、
基油(A)と、増ちょう剤(B)とを混合して、混合物を得る混合工程と、
前記混合工程で得られた混合物を混練する混練工程とを有する、グリース組成物の製造方法。
【請求項7】
さらに、前記混合工程の前に、
前記増ちょう剤(B)を合成するため合成材料(B0)を準備する準備工程と、
前記基油(A)中で、前記合成材料(B0)を反応させて、前記増ちょう剤(B)を合成する合成工程とを有する、請求項6に記載のグリース組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物、及び、グリース組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリースは、基油に親油性の強い固体の増ちょう剤を分散させて半固体状にした潤滑剤である。グリースは、潤滑油に比べ潤滑部に付着しやすく、流出しにくい。そのため、グリースを用いることにより、潤滑システムの機械構造を簡略化できる。また、グリースは、潤滑油に比べ漏れも少なくクリーンな環境を実現でき、補給間隔も潤滑油に比べ少なくすることが可能である。
グリースは、主に転がり軸受、すべり軸受、ボールネジ、直動ガイド、及び歯車等の機械要素の潤滑に用いられる。転がり軸受は、工作機械の主軸、鉄道車両の車両、自動車のオルタネータ等のエンジン補機、等速ジョイント、及びホイール等に幅広く用いられている。
【0003】
近年、自然環境を保全する観点から、循環型社会の構築を求める声が高まっており、化石資源からの脱却、いわゆるカーボンニュートラル化が望まれている。そのため、バイオマス由来の原料の利用が注目されている。バイオマスは、再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたものである。
バイオマス由来の原料は、大気中の二酸化炭素濃度に影響を与えないため、バイオマス由来の原料を用いることでカーボンニュートラルが実現可能となる。
【0004】
バイオマス由来の基油を含有したグリース組成物としては、例えば、特許文献1には、再生可能な基油を含むグリース組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2021/214641号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているような従来のグリース組成物は、環境負荷を低減させる検討は行われているが、グリース特性が鉱油等の化石資源を用いたグリース組成物と同程度か又は劣っており、改善の余地がある。
したがって、環境負荷を低減させつつ、グリース特性がより向上したグリース組成物が求められている。
なお、グリース特性として、具体的には、酸化安定性、高温特性、常温特性、耐荷重性(例えば、耐摩耗性、耐焼付き性)、低トルク性(具体的には、高温、常温、及び低温での低トルク性)、軸受寿命向上性、加水分解安定性、材料適合性、及び水洗耐水度等が求められる。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、自然環境を保全すると共に、グリース特性がより向上したグリース組成物、及び、当該グリース組成物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]基油(A)と、増ちょう剤(B)とを含有するグリース組成物であって、前記基油(A)は、バイオマス由来の炭素を有する基油(A1)(但し、バイオマス原料からフィッシャー・トロプシュ反応で得られた合成油を除く)を含み、前記増ちょう剤(B)は、金属コンプレックス石けん及びウレア化合物から選択される1種以上の増ちょう剤を含み、ASTM D6866で測定されるバイオマス由来の炭素の含有量が、グリース組成物中の全炭素基準で20%以上である、グリース組成物。
[2]ASTM D6866で測定されるバイオマス由来の炭素の含有量が、グリース組成物中の全炭素基準で80%以上である、[1]に記載のグリース組成物。
[3]前記増ちょう剤(B)の含有量は、グリース組成物全量に対して、5質量%以上30質量%以下である、[1]又は[2]に記載のグリース組成物。
【0009】
[4]さらに、酸化防止剤(C)を含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載のグリース組成物。
[5]酸化防止剤(C)が2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールである、[1]~[4]のいずれか一項に記載のグリース組成物。
[6][1]~[5]のいずれか一項に記載のグリース組成物の製造法であって、基油(A)と、増ちょう剤(B)とを混合して、混合物を得る混合工程と、前記混合工程で得られた混合物を混練する混練工程とを有する、グリース組成物の製造方法。
[7]さらに、前記混合工程の前に、前記増ちょう剤(B)を合成するため合成材料(B0)を準備する準備工程と、前記基油(A)中で、前記合成材料(B0)を反応させて、前記増ちょう剤(B)を合成する合成工程とを有する、[6]に記載のグリース組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、自然環境を保全すると共に、高温特性、常温特性、及び低温特性(具体的には、低温での低トルク性)といったグリース特性がより向上したグリース組成物、及び、当該グリース組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(グリース組成物)
本実施形態のグリース組成物は、基油(A)と、増ちょう剤(B)とを含有する。
本実施形態のグリース組成物は、ASTM D6866で測定されるバイオマス由来の炭素の含有量が、グリース組成物中の全炭素基準で20%以上である。
【0012】
本実施形態のグリース組成物は、自然環境保全の観点から、ASTM D6866で測定されるバイオマス由来の炭素の含有量が、グリース組成物中の全炭素基準で20%以上であり、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが特に好ましい。
また、ASTM D6866で測定されるバイオマス由来の炭素の含有量の上限値は制約がないが、100%以下であってよく、95%以下であってもよい。
【0013】
例えば、本実施形態のグリース組成物は、ASTM D6866で測定されるバイオマス由来の炭素の含有量が、グリース組成物中の全炭素基準で20%以上100%以下であることが好ましく、50%以上100%以下であることがより好ましく、60%以上100%以下であることがさらに好ましく、70%以上95%以下であってもよく、80%以上95%以下であってもよい。
【0014】
ASTM D6866(バイオベース濃度試験規格)は、放射性炭素(C14)分析の手法を用いて固体・液体・気体のバイオベース度を決定するために定められた規格である。バイオマスには一定量の放射性炭素(C14)が含まれるため、バイオマス由来の原料にも放射性炭素(C14)が含まれる。一方で、化石資源由来の原料には放射性炭素(C14)が含まれない。したがって、グリース組成物に含まれる放射性炭素(C14)濃度を測定することによってバイオマス由来の炭素の含有量を算出することができる。
【0015】
本実施形態のグリース組成物における上記バイオマス由来の炭素の含有量は、例えば、後述するバイオマス由来の炭素を有する基油(A1)の含有量を調整することで、制御することができる。
【0016】
本実施形態のグリース組成物のちょう度は、130以上が好ましく、175以上がより好ましく、220以上がさらに好ましい。
一方で、本実施形態のグリース組成物のちょう度は、475以下が好ましく、430以下がより好ましく、385以下がさらに好ましい。
例えば、本実施形態のグリース組成物のちょう度は、130以上475以下が好ましく、175以上430以下がより好ましく、220以上385以下がさらに好ましい。
本実施形態のグリース組成物のちょう度が上記の好ましい範囲内であると、グリース特性がより向上する。
本明細書におけるちょう度は、JIS K2220:2013に準拠して測定される混和ちょう度を意味する。
【0017】
<基油(A)>
本実施形態のグリース組成物は、基油(A)を含有する。
基油(A)の40℃における動粘度は、15mm/s以上であることが好ましく、20mm/s以上であることがより好ましく、30mm/s以上であることがさらに好ましい。
一方で、基油(A)の40℃における動粘度は、100mm/s以下であることが好ましく、80mm/s以下であることがより好ましく、50mm/s以下であることがさらに好ましい。
例えば、基油(A)の40℃における動粘度は、15mm/s以上100mm/s以下であることが好ましく、20mm/s以上80mm/s以下であることがより好ましく、30mm/s以上50mm/s以下であることがさらに好ましい。
【0018】
本実施形態のグリース組成物の基油(A)の40℃における動粘度が上記の好ましい範囲内であると、グリース特性がより向上する。
【0019】
本明細書における40℃における動粘度は、特に記載のない限り、JIS K2283:2000に準拠して測定された40℃における動粘度を意味する。
【0020】
基油(A)の100℃における動粘度は、1mm/s以上であることが好ましく、3mm/s以上であることがより好ましく、5mm/s以上であることがさらに好ましい。
一方で、基油(A)の100℃における動粘度は、15mm/s以下であることが好ましく、12mm/s以下であることがより好ましく、9mm/s以下であることがさらに好ましい。
例えば、基油(A)の100℃における動粘度は、1mm/s以上15mm/s以下であることが好ましく、3mm/s以上12mm/s以下であることがより好ましく、5mm/s以上9mm/s以下であることがさらに好ましい。
【0021】
本実施形態のグリース組成物の基油(A)の100℃における動粘度が上記の好ましい範囲内であると、グリース特性がより向上する。
【0022】
本明細書における100℃における動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定された100℃における動粘度を意味する。
【0023】
基油(A)は、バイオマス由来の炭素を有する基油(A1)を含む。但し、基油(A1)には、バイオマス原料からフィッシャー・トロプシュ反応で得られた合成油、すなわち、バイオマス原料をガス化して得られたCOとHを、触媒を用いたフィッシャー・トロプシュ反応で炭化水素にした合成油は含まれない。
【0024】
≪バイオマス由来の炭素を有する基油(A1)≫
バイオマス由来の炭素を有する基油(A1)(以下、「(A1)成分」ともいう)として、具体的には、ヤシ油、ココナッツ油、大豆油、菜種油、及び、それらの混合物等の植物油から合成された基油が挙げられる。
【0025】
(A1)成分の市販品例としては、SynNova 4 Base Oil(Novvi社製)、及び、SynNova 9 Base Oil(Novvi社製)等が挙げられる。
本実施形態のグリース組成物の基油(A)としては、(A1)成分を1種単独で用いてもよく、複数の(A1)成分を混合して用いてもよい。
【0026】
(A1)成分は、ASTM D6866で測定されるバイオマス由来の炭素の含有量が、20%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、100%であることが特に好ましい。
【0027】
(A1)成分は、グリース特性をより向上させる観点から、エステル結合を持たない炭化水素を、(A1)成分全量基準で50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、100質量%、すなわち、エステル結合を持たない炭化水素のみからなることがさらに好ましい。
すなわち、(A1)成分は、炭化水素系基油であることが好ましい。
【0028】
(A1)成分の40℃における動粘度は、5mm/s以上であることが好ましく、10mm/s以上であることがより好ましく、15mm/s以上であることがさらに好ましい。
一方で、(A1)成分の40℃における動粘度は、80mm/s以下であることが好ましく、70mm/s以下であることがより好ましく、60mm/s以下であることがさらに好ましい。
例えば、(A1)成分の40℃における動粘度は、5mm/s以上80mm/s以下であることが好ましく、10mm/s以上70mm/s以下であることがより好ましく、15mm/s以上60mm/s以下であることがさらに好ましい。
【0029】
本実施形態のグリース組成物の(A1)成分の40℃における動粘度が上記の好ましい範囲内であると、グリース特性がより向上する。
【0030】
(A1)成分の100℃における動粘度は、1mm/s以上であることが好ましく、2mm/s以上であることがより好ましく、3mm/s以上であることがさらに好ましい。
一方で、(A1)成分の100℃における動粘度は、15mm/s以下であることが好ましく、12mm/s以下であることがより好ましく、10mm/s以下であることがさらに好ましい。
例えば、(A1)成分の100℃における動粘度は、1mm/s以上15mm/s以下であることが好ましく、2mm/s以上12mm/s以下であることがより好ましく、3mm/s以上10mm/s以下であることがさらに好ましい。
【0031】
本実施形態のグリース組成物の(A1)成分の100℃における動粘度が上記の好ましい範囲内であると、グリース特性がより向上する。
【0032】
基油(A)は、上述した(A1)成分以外の基油(A2)を含んでいてもよい。
【0033】
≪(A1)成分以外の基油(A2)≫
上述した(A1)成分以外の基油(A2)(以下、「(A2)成分」ともいう)として、具体的には、合成油、鉱油が挙げられる。
【0034】
・合成油
合成油としては、例えば、ポリ-α-オレフィン等のポリオレフィン、ジエステルおよびポリオールエステル等のエステル基油、ポリアルキレングリコール、アルキルベンゼン、及びアルキルナフタレン等が挙げられる。
【0035】
・鉱油
鉱油としては、原油を常圧蒸留して得られる留出油を使用することができる。また、この留出油をさらに減圧蒸留して得られる留出油を、各種の精製プロセスで精製した潤滑油留分も使用することができる。
精製プロセスとしては、水素化精製、溶剤抽出、溶剤脱ろう、水素化脱ろう、硫酸洗浄、及び白土処理等を、適宜組み合わせることができる。これらの精製プロセスを適宜の順序で組み合わせて処理することにより、鉱油を得ることができる。
また、異なる原油又は留出油を異なる精製プロセスの組合せに供することにより得られた、性状の異なる複数の精製油の混合物を用いてもよい。
【0036】
(A2)成分としては、前記合成油又は鉱油を1種単独で用いてもよく、複数の合成油又は鉱油を混合して用いてもよい。
【0037】
本実施形態のグリース組成物の基油(A)中の(A1)成分の割合は、基油(A)全量に対して、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%、すなわち、(A1)成分のみからなることがさらに好ましい。
一実施形態のグリース組成物としては、基油(A)として、(A2)成分を含有するグリース組成物は除かれる。
【0038】
本実施形態のグリース組成物の基油(A)の含有量は、グリース組成物全量に対して、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上が特に好ましい。
一方で、本実施形態のグリース組成物の基油(A)の含有量は、グリース組成物全量に対して、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。
例えば、本実施形態のグリース組成物の基油(A)の含有量は、グリース組成物全量に対して、50質量%以上95質量%以下が好ましく、60質量%以上95質量%以下がより好ましく、70質量%以上95質量%以下がさらに好ましく、80質量%以上90質量%以下が特に好ましい。
【0039】
本実施形態のグリース組成物の基油(A)の含有量が上記の好ましい範囲内であれば、グリース特性がより向上する。
【0040】
<増ちょう剤(B)>
本実施形態のグリース組成物は、増ちょう剤(B)(以下、「(B)成分」ともいう)を含有する。
(B)成分は、金属コンプレックス石けん及びウレア化合物から選択される1種以上の増ちょう剤(B1)(以下、「(B1)成分」ともいう)を含む。
【0041】
≪金属コンプレックス石けん≫
金属コンプレックス石けんとは、複数の異なる分子構造のカルボン酸を金属水酸化物でケン化し、複合化させた金属石けんである。
金属コンプレックス石けんとして、具体的には、金属水酸化物に脂肪酸と二塩基酸又は芳香族カルボン酸とを反応させて得られる金属コンプレックス石けんが挙げられる。
金属コンプレックス石けんにおける金属としては、リチウム、ナトリウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、又はアルミニウムのような両性金属等が挙げられる。該金属としては、上記の中でも、グリース特性をより向上させる観点から、リチウム、アルミニウムが好ましく、リチウムがより好ましい。
【0042】
該脂肪酸は、ヒドロキシ基等の置換基を有する脂肪酸誘導体であってもよい。
該脂肪酸としては、1価または2価の脂肪酸が好ましい。
該脂肪酸としては、炭素数6~20の脂肪酸が好ましく、炭素数12~20の1価の脂肪酸または炭素数6~14の2価の脂肪酸がより好ましい。なお、本発明において「炭素数6~20」とは、炭素原子を6個以上20個以下有することを意味する。
【0043】
上記の中でも、該脂肪酸としては、1個のヒドロキシ基を含む1価の脂肪酸が好ましい。
金属コンプレックス石けんにおいて脂肪酸と組み合わせる二塩基酸としては、酢酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。
金属コンプレックス石けんにおいて脂肪酸と組み合わせる芳香族カルボン酸としては、安息香酸等が挙げられる。
【0044】
金属コンプレックス石けんとしては、上記の中でも、水酸化リチウムに1個のヒドロキシ基を含む炭素数6~20の1価の脂肪酸と二塩基酸とを反応させて得られるリチウムコンプレックス石けんが好ましく、水酸化リチウムに1個のヒドロキシ基を含む炭素数12~20の1価の脂肪酸とアゼライン酸とを反応させて得られるリチウムコンプレックス石けんがより好ましく、水酸化リチウムに12-ヒドロキシステアリン酸とアゼライン酸とを反応させて得られるリチウムコンプレックス石けんがさらに好ましい。
【0045】
本実施形態のグリース組成物の金属コンプレックス石けんとしては、1種の金属コンプレックス石けんを単独で用いてもよく、複数の金属コンプレックス石けんを混合して用いてもよい。
【0046】
≪ウレア系増ちょう剤≫
ウレア系増ちょう剤としては、例えば、ジウレア化合物、及びポリウレア化合物が挙げられる。
ジウレア化合物は、ジイソシアネートとモノアミンとの反応で得られる化合物であり、ウレア基(-NH-CO-NH-)を2つ有する化合物である。
本明細書において、ポリウレア化合物は、ジイソシアネートとモノアミン又はジアミンとの反応で得られる化合物であり、ウレア基(-NH-CO-NH-)を3つ以上有する化合物を意味する。
【0047】
・ジイソシアネート
ジイソシアネートとは、炭化水素の2つの水素がイソシアネート基(-N=C=O)で置換された化合物である。
該炭化水素は、環状の炭化水素であっても、鎖状の炭化水素であってもよい。また、該炭化水素は、芳香族炭化水素であっても、脂肪族炭化水素であってもよい。
該炭化水素の炭素数は、好ましくは4~20であり、より好ましくは8~18である。
【0048】
ジイソシアネートの好ましい具体例としては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート(ジフェニルジイソシアネート)、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜等が挙げられる。
ジイソシアネートは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
・モノアミン
モノアミンとは、1分子中に1個のアミノ基を有する化合物である。
モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン(オクタデシルアミン)、オレイルアミン、アニリン、p-トルイジン、及びシクロヘキシルアミン等が好ましい。
モノアミンは、環状のアミンであっても、鎖状のアミンであってもよい。また、モノアミンは、脂環式アミンであっても、芳香族アミンであっても、脂肪族アミンであってもよい。
該モノアミンの炭素数は、好ましくは4~20であり、より好ましくは8~18である。
【0050】
・ジアミン
ジアミンとは、1分子中に2個のアミノ基を有する化合物である。
ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、及びジアミノジフェニルメタン等が好ましい。
ジアミンは、環状のアミンであっても、鎖状のアミンであってもよい。また、ジアミンは、脂環式アミンであっても、芳香族アミンであっても、脂肪族アミンであってもよい。
該ジアミンの炭素数は、好ましくは4~20であり、より好ましくは8~18である。
【0051】
ウレア系増ちょう剤としては、上記の中でも、ジウレア化合物が好ましい。
該ジウレア化合物としては、芳香族炭化水素基を有するジイソシアネートとモノアミンとの反応で得られる化合物であることが好ましい。
芳香族炭化水素基を有するジイソシアネートとしては、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)が好ましい。
【0052】
本実施形態のグリース組成物のウレア系増ちょう剤としては、1種のウレア系増ちょう剤を単独で用いてもよく、複数のウレア系増ちょう剤を混合して用いてもよい。
【0053】
本実施形態のグリース組成物の(B)成分としては、常温特性の観点からはウレア化合物を含むことが好ましく、低温特性の観点からは金属コンプレックス石けんを含むことが好ましい。
【0054】
本実施形態のグリース組成物の(B)成分としては、上述した(B1)成分以外の増ちょう剤(B2)(以下、「(B2)成分」ともいう)を含んでいてもよい。
【0055】
≪(B1)成分以外の増ちょう剤(B2)≫
(B2)成分としては、例えば、単一金属石けん系増ちょう剤、及び、無機系の増ちょう剤等が挙げられる。
【0056】
・単一金属石けん系増ちょう剤
単一金属石けん系増ちょう剤は、脂肪酸又は油脂を、金属水酸化物でケン化した単一金属石けんである。
該脂肪酸としては、上述した金属コンプレックス石けんにおける脂肪酸と同様のものが挙げられる。
【0057】
単一金属石けん系増ちょう剤における金属としては、リチウム、ナトリウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、又はアルミニウムのような両性金属等が挙げられる。
【0058】
・無機系の増ちょう剤
無機系の増ちょう剤として、具体的には、ベントナイト、及び、シリカゲル等が挙げられる。
【0059】
本実施形態のグリース組成物の増ちょう剤(B)中の(B1)成分の割合は、増ちょう剤(B)全量に対して、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%、すなわち、(B1)成分のみからなることがさらに好ましい。
一実施形態のグリース組成物としては、増ちょう剤(B)として、(B2)成分を含有するグリース組成物は除かれる。
【0060】
本実施形態のグリース組成物の増ちょう剤(B)の含有量は、グリース組成物全量に対して、5質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。
一方で、本実施形態のグリース組成物の増ちょう剤(B)の含有量は、グリース組成物全量に対して、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、18質量%以下がさらに好ましい。
例えば、本実施形態のグリース組成物の増ちょう剤(B)の含有量は、グリース組成物全量に対して、5質量%以上30質量%以下が好ましく、8質量%以上20質量%以下がより好ましく、10質量%以上18質量%以下がさらに好ましい。
【0061】
グリース組成物全量に対する増ちょう剤(B)の含有量が、上記の好ましい範囲内であれば、グリース特性がより向上する。
【0062】
<任意成分>
本実施形態のグリース組成物は、上述した基油(A)及び増ちょう剤(B)以外の任意成分を含有してもよい。該任意成分としては、酸化防止剤(C)、固体潤滑剤、摩耗防止剤又は極圧剤、油性剤、防錆剤、並びに腐食防止剤等が挙げられる。その中でも、本実施形態のグリース組成物は、さらに酸化防止剤(C)を含有することが好ましい。
【0063】
・酸化防止剤(C)
酸化防止剤(C)としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール等のフェノール系化合物;ジフェニルアミン、ジアルキルジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、p-アルキルフェニル-α-ナフチルアミン等のアミン系化合物等が挙げられる。その中でも、フェノール系化合物が好ましく、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールがより好ましい。
グリース組成物が酸化防止剤を含有する場合、その含有量はグリース組成物全量に対して、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.3質量%以上1.0質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上0.8質量%以下がさらに好ましい。酸化防止剤は、1種単独で用いてもよく、複数の酸化防止剤を混合して用いてもよい。
【0064】
固体潤滑剤としては、例えば、黒鉛、フッ化黒鉛、メラミンシアヌレート、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化モリブデン、硫化アンチモン、窒化ホウ素、アルカリ(土類)金属ホウ酸塩等が挙げられる。グリース組成物が固体潤滑剤を含有する場合、その含有量はグリース組成物全量に対して、例えば、0.1~20質量%である。固体潤滑剤は、1種単独で用いてもよく、複数の固体潤滑剤を混合して用いてもよい。
【0065】
摩耗防止剤又は極圧剤としては、例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛等の有機亜鉛化合物;ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、ジハイドロカルビルポリサルファイド、硫化エステル、チアゾール化合物、チアジアゾール化合物等の硫黄含有化合物;リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、亜リン酸エステル等のリン系極圧剤等が挙げられる。グリース組成物が摩耗防止剤又は極圧剤を含有する場合、その含有量はグリース組成物全量に対して、例えば、0.1質量%以上10質量%以下である。摩耗防止剤又は極圧剤は、1種単独で用いてもよく、複数の摩耗防止剤又は極圧剤を混合して用いてもよい。
【0066】
油性剤としては、例えば、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等のアミン類;ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等の高級アルコール類;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸類;ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル等の脂肪酸エステル類;グリセリンオレート、グリセリンステアレート等の油脂等が挙げられる。グリース組成物が油性剤を含有する場合、その含有量はグリース組成物全量に対して、例えば、0.01質量%以上5質量%以下である。油性剤は、1種単独で用いてもよく、複数の油性剤を混合して用いてもよい。
【0067】
防錆剤としては、例えば、アミン類、中性又は過塩基性の石油系又は合成油系金属スルフォネート、カルボン酸金属塩類、エステル類、リン酸、リン酸塩等が挙げられる。グリース組成物が防錆剤を含有する場合、その含有量はグリース組成物全量に対して、例えば、0.005質量%以上5質量%以下である。防錆剤は、1種単独で用いてもよく、複数の防錆剤を混合して用いてもよい。
【0068】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、及びイミダゾール系化合物等の公知の腐食防止剤を使用可能である。グリース組成物が腐食防止剤を含有する場合、その含有量はグリース組成物全量に対して、例えば、0.01質量%以上10質量%以下である。腐食防止剤は、1種単独で用いてもよく、複数の腐食防止剤を混合して用いてもよい。
【0069】
以上説明した本実施形態のグリース組成物は、(A1)成分と、(B1)成分とを含み、ASTM D6866で測定されるバイオマス由来の炭素の含有量が、グリース組成物中の全炭素基準で20%以上である。
本実施形態のグリース組成物は、バイオマス由来の炭素の含有量が、20質量%以上であるため、環境への負担が軽減されている。
さらに、本実施形態のグリース組成物は、(A1)成分と、(B1)成分との組み合わせによる相乗効果により、高温特性、常温特性、及び低温特性(具体的には、低温での低トルク性)といったグリース性能が良好である。
【0070】
(グリース組成物の製造方法)
本実施形態のグリース組成物の製造方法は、基油(A)と、増ちょう剤(B)とを混合して、混合物を得る混合工程と、前記混合工程で得られた混合物を混練する混練工程とを有する。
【0071】
<混合工程>
混合工程は、基油(A)と、増ちょう剤(B)とを混合する工程である。
混合工程は、例えば、マグネチックスターラーを用いて行うこともできるし、人手により混合してもよい。
混合工程は加熱して行うことが好ましい。加熱温度としては、40~120℃が好ましく、50~110℃がより好ましい。
【0072】
<混練工程>
混練工程は、上記混合工程で得られた混合物を混練する工程である。
混練工程は、例えば、3本ロールミルを用いて行うことができる。3本ロールミルは油圧式のものと油圧式でないものがある。
油圧式でない3本ロールミルは、ロールとロールとの隙間を制御し、その狭いロール間の隙間に混練対象物が押し込まれることによる圧縮と、ロールの速度差によるせん断とで、混練対象物を粉砕、混練、分散、脱泡する装置である。
一方で、油圧式の3本ロールミル(以下、「油圧ロール」ともいう)は、ロール同士を油圧の力で押し付けることが可能な装置であり、上記油圧式でない3本ロールミルとは異なり、混練対象物にかかる負荷をより精度よく制御できる装置である。
【0073】
<任意工程>
本実施形態のグリース組成物の製造方法は、混合工程及び混練工程に加えて任意工程を有してもよい。任意工程としては、上述した混合工程の前に、増ちょう剤(B)を合成するため合成材料(B0)を準備する準備工程と、基油(A)中で、合成材料(B0)を反応させて、増ちょう剤(B)を合成する合成工程と、混合工程で得られた混合物を冷却する冷却工程が挙げられる。
【0074】
≪準備工程≫
準備工程は、上述した混合工程の前に、増ちょう剤(B)を合成するため合成材料(B0)を準備する工程である。
合成材料(B0)として、具体的には、上述した(B1)成分における金属コンプレックス石けんを合成するための複数の異なる分子構造のカルボン酸及び金属水酸化物、並びに、(B1)成分におけるウレア化合物を合成するためのジイソシアネート及びモノアミン又はジアミンが挙げられる。
【0075】
≪合成工程≫
合成工程は、基油(A)中で、合成材料(B0)を反応させて、増ちょう剤(B)を合成する工程である。
基油(A)と増ちょう剤(B)とをそれぞれ準備し、それらを混合するより、基油(A)中で、合成材料(B0)を反応させて、増ちょう剤(B)を合成する方が、増ちょう剤(B)の分散性が向上する。このとき、合成工程と混合工程は同時に行われる。
【0076】
合成工程は、混合工程と同じく加熱して行うことが好ましい。加熱温度としては、40~200℃が好ましく、50~150℃がより好ましい。
【0077】
≪冷却工程≫
冷却工程は、混合工程で得られた混合物を冷却する工程である。
混合物を冷却する方法は、冷却機を用いて冷却してもよいし、室温(25℃)で冷却してもよい。
また、冷却工程と共に、基油(A)及び増ちょう剤(B)以外の任意成分を混合する工程があってもよい。
【実施例0078】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0079】
<グリース組成物の配合>
実施例1~5のグリース組成物及び比較例1~8のグリース組成物を、表1及び2に示す配合割合で、各原料を配合することによって調製した。表1及び2中の基油の数値は、基油(A)全量に対する各基油の含有量である。増ちょう剤及び酸化防止剤の数値は、グリース組成物全量に対する各増ちょう剤又は酸化防止剤の含有量である。また、グリース組成物全量に対する各基油の総含有量も表1及び2に記載した。
得られた各例のグリース組成物に対して、以下に示す評価を行った。評価結果を表1及び2に示す。なお、評価結果が「-」であるものは測定未実施であることを意味する。
【0080】
(1)基油(A)
(A1)-1:100%植物由来炭化水素系潤滑油基油(製品名「SynNova 4 Base Oil」、Novvi社製、40℃動粘度:19.0mm/s、100℃動粘度:4.3mm/s(動粘度はASTM D445に準拠した測定値))。
(A1)-2:100%植物由来炭化水素系潤滑油基油(製品名「SynNova 9 Base Oil」、Novvi社製、40℃動粘度:58.5mm/s、100℃動粘度:9.5mm/s(動粘度はASTM D445に準拠した測定値))。
【0081】
(A2)-1:鉱油(グループI基油、40℃動粘度:37.0mm/s、100℃動粘度:6.0mm/s)。
【0082】
実施例1~5のグリース組成物及び比較例1~8のグリース組成物で用いた基油の40℃、100℃における動粘度をJIS K2283:2000に準拠して測定した。その結果を表1及び2に示す。
【0083】
(2)増ちょう剤(B)
(B1)-1:リチウムコンプレックス石けん(水酸化リチウム、12-ヒドロキシステアリン酸、及びアゼライン酸の反応で得られるリチウムコンプレックス石けん)
(B1)-2:ジウレア化合物(ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネートと、シクロヘキシルアミン及びオクタデシルアミンの混合アミンとの反応で得られるジウレア化合物)
【0084】
(B2)-1:12-ヒドロキシステアリン酸リチウム石けん(単一リチウム石けん)
【0085】
(3)酸化防止剤(C)
(C)-1:2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール
【0086】
<グリース組成物の製造1>
(実施例1のグリース組成物)
・準備工程~冷却工程
基油(A1)-1、及び(A1)-2を表1に示す配合割合でステンレス製容器に入れた。該容器に12-ヒドロキシステアリン酸を加え、70℃に加熱し、マグネチックスターラーで撹拌した。次いで、該容器に、さらに水酸化リチウム水溶液を加え、加熱脱水した。その後、アゼライン酸を加えて100℃で溶解させ、再度水酸化リチウムを加えた後、加熱脱水することで、12-ヒドロキシステアリン酸とアゼライン酸と水酸化リチウムとを基油(A1)-1、及び(A1)-2中で反応させて、増ちょう剤(B1)-1を合成しながら、基油(A1)-1、及び(A1)-2と増ちょう剤(B1)-1とを混合した。そして、室温に冷却することで半固体状の組成物を得た。
【0087】
・混練工程
3本ロールミルを用いて、得られた半固形状の組成物を混練して実施例1のグリース組成物を調製した。
【0088】
(実施例2のグリース組成物)
・準備工程~冷却工程
基油(A1)-1、及び(A1)-2を表1に示す配合割合でステンレス製容器に入れ、混合し、該混合液を2つのステンレス製容器に二分した。
一方のステンレス製容器にジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネートを加え、60~65℃に加熱し、マグネチックスターラーで撹拌して、混合液Pを得た。また、他方のステンレス製容器にシクロヘキシルアミン及びオクタデシルアミンの混合アミンを加え、60~65℃に加熱し、マグネチックスターラーで撹拌して、混合液Qを得た。次いで、混合液P及び混合液Qを混合し、60~65℃で、マグネチックスターラーで撹拌することで、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネートとシクロヘキシルアミン及びオクタデシルアミンの混合アミンとを基油(A1)-1、及び(A1)-2中で反応させて、増ちょう剤(B1)-2を合成しながら、基油(A1)-1、及び(A1)-2と増ちょう剤(B1)-2とを混合した。そして、室温に冷却することで半固体状の組成物を得た。
【0089】
・混練工程
3本ロールミルを用いて、得られた半固形状の組成物を混練して実施例2のグリース組成物を調製した。
【0090】
(比較例1のグリース組成物)
・準備工程~冷却工程
基油(A2)-1をステンレス製容器に入れた。該容器に12-ヒドロキシステアリン酸を加え、70℃に加熱し、マグネチックスターラーで攪拌しながら、水酸化リチウム水溶液を加えた後、加熱脱水することで、12-ヒドロキシステアリン酸と水酸化リチウムとを基油(A2)-1中で反応させて、増ちょう剤(B2)-1を合成しながら、基油(A2)-1と増ちょう剤(B2)-1とを混合した。その後、室温に冷却することで半固体状の組成物を得た。
【0091】
・混練工程
3本ロールミルを用いて、得られた半固形状の組成物を混練して比較例1のグリース組成物を調製した。
【0092】
(比較例2のグリース組成物)
基油(A1)-1、及び(A1)-2の混合物を基油(A2)-1に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、比較例2のグリース組成物を調製した。
【0093】
(比較例3のグリース組成物)
基油(A1)-1、及び(A1)-2の混合物を基油(A2)-1に変更したこと以外は実施例2と同様の方法で、比較例3のグリース組成物を調製した。
【0094】
(比較例4のグリース組成物)
基油(A2)-1を基油(A1)-1、及び(A1)-2の混合物に変更したこと以外は比較例1と同様の方法で、比較例4のグリース組成物を調製した。
【0095】
[バイオベース度の評価]
ASTM D6866に準拠して、実施例1及び比較例2のグリース組成物に含まれる放射性炭素(C14)濃度を測定することによってバイオマス由来の炭素の含有量を算出し、各例のグリース組成物のバイオベース度を算出した。その結果を表1に示す。
【0096】
[ちょう度の評価]
JIS K2220:2013に準拠して測定した各例のグリース組成物の混和ちょう度を表1に示す。
【0097】
[高温特性の評価]
・滴点の測定
JIS K2220:2013に準拠して、各例のグリース組成物の滴点を測定した。その結果を表1に示す。滴点が高いほど、高温特性が良好であることを意味する。
【0098】
[常温特性の評価]
・離油度の測定 JIS K2220:2013に準拠して、各例のグリース組成物を100℃の恒温槽に24時間静置して離油度を測定した。その結果を表1に示す。離油度が小さいほど、常温特性が良好であることを意味する。
【0099】
[低温特性の評価]
・低温トルクの測定
JIS K2220:2013に準拠して各例のグリース組成物の低温起動トルク(-30℃)(mN・m)を測定した。その結果を表1に示す。低温起動トルクが小さいほど、低温特性が良好であることを意味する。
【0100】
【表1】
【0101】
表1に示す通り、実施例のグリース組成物は、比較例のグリース組成物に比べて、高温特性、常温特性、及び低温特性の評価結果がいずれも良好であった。
また、実施例1のグリース組成物は、バイオベース度が非常に高い値であった。実施例2のグリース組成物については、バイオベース度の測定は行っていないが、実施例1のグリース組成物と同一の基油を含有するため、実施例2のグリース組成物についても同程度のバイオベース度であると推測される。
したがって、実施例のグリース組成物は、環境への負担が軽減されており、かつ、グリース特性が良好であることが分かる。
【0102】
<グリース組成物の製造2>
(実施例3のグリース組成物)
冷却工程中に、基油(A1)-1、及び(A1)-2と増ちょう剤(B1)-1との混合液に、さらに、酸化防止剤(C)-1を加えたこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3のグリース組成物を調製した。
【0103】
(実施例4のグリース組成物)
冷却工程中に、基油(A1)-1、及び(A1)-2と増ちょう剤(B1)-2との混合液に、さらに、酸化防止剤(C)-1を加えたこと以外は、実施例2と同様の方法で、実施例4のグリース組成物を調製した。
【0104】
(実施例5のグリース組成物)
基油(A1)-1と基油(A1)-2との混合比を変更したこと以外は、実施例4と同様の方法で、実施例5のグリース組成物を調製した。
【0105】
(比較例5のグリース組成物)
冷却工程中に、基油(A2)-1と増ちょう剤(B2)-1との混合液に、さらに、酸化防止剤(C)-1を加えたこと以外は比較例1と同様の方法で、比較例5のグリース組成物を調製した。
【0106】
(比較例6のグリース組成物)
冷却工程中に、基油(A2)-1と増ちょう剤(B1)-1との混合液に、さらに、酸化防止剤(C)-1を加えたこと以外は比較例2と同様の方法で、比較例6のグリース組成物を調製した。
【0107】
(比較例7のグリース組成物)
冷却工程中に、基油(A2)-1と増ちょう剤(B1)-2との混合液に、さらに、酸化防止剤(C)-1を加えたこと以外は比較例3と同様の方法で、比較例7のグリース組成物を調製した。
【0108】
(比較例8のグリース組成物)
冷却工程中に、基油(A1)-1、及び(A1)-2と増ちょう剤(B2)-1との混合液に、さらに、酸化防止剤(C)-1を加えたこと以外は比較例4と同様の方法で、比較例8のグリース組成物を調製した。
【0109】
上述の方法で各例のグリース組成物のバイオベース度、ちょう度、高温特性、常温特性、低温特性を評価した。その結果を表2に示す。
【0110】
【表2】
【0111】
表2に示す通り、実施例のグリース組成物は、比較例のグリース組成物に比べて、高温特性、常温特性、及び低温特性の評価結果がいずれも良好であった。