(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152820
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール系樹脂含有組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 29/04 20060101AFI20231005BHJP
C08K 3/16 20060101ALI20231005BHJP
C08K 3/10 20180101ALI20231005BHJP
【FI】
C08L29/04 A
C08K3/16
C08K3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041103
(22)【出願日】2023-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2022060065
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】594146788
【氏名又は名称】日本酢ビ・ポバール株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390013815
【氏名又は名称】学校法人金井学園
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】砂川 武義
(72)【発明者】
【氏名】小原田 明信
(72)【発明者】
【氏名】木村 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】青木 祐太郎
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BE021
4J002DC007
4J002DD086
4J002DF037
4J002DG047
4J002FD206
4J002FD207
4J002GD00
(57)【要約】
【課題】新規なポリビニルアルコール含有組成物を提供する。
【解決手段】組成物を、ポリビニルアルコール系樹脂、ヨウ素成分及びイオン性銅成分を含有する化合物を含むものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂、ヨウ素成分及びイオン性銅成分を含有する化合物を含む組成物。
【請求項2】
ポリビニルアルコール系樹脂及びヨウ素成分を含む組成物であって、ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)が300mPa・s以下である、組成物。
【請求項3】
ポリビニルアルコール系樹脂及びヨウ素成分を含む組成物であって、ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)が3~100mPa・sである、組成物。
【請求項4】
ポリビニルアルコール系樹脂及びヨウ素成分を含む組成物であって、ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)が3~100mPa・sであり、かつけん化度75~95モル%である、組成物。
【請求項5】
さらに、ゲル化剤を含む、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
さらに、還元剤を含む、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)が1~2000mPa・sである、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)が300mPa・s以下である、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)が3~100mPa・sであり、かつ、ケン化度65~95モル%である請求項1記載の組成物。
【請求項10】
イオン性銅成分を含有する化合物が、硝酸銅(II)、硫酸銅(II)及びヨウ化銅(I)から選択される1種以上である、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
イオン性銅成分を含有する化合物の含有量が、組成物1gに対して1.7×10-8モル以下である、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
ゲルである請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
線量計用である、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
請求項1~4のいずれかに記載の組成物を用いた線量計。
【請求項15】
少なくともヨウ素成分と組み合わせて使用するためのポリビニルアルコール系樹脂であって、4質量%水溶液粘度(20℃)が300mPa・s以下であり、かつけん化度75モル%以上であるポリビニルアルコール系樹脂。
【請求項16】
線量計用のポリビニルアルコール系樹脂であって、4質量%水溶液粘度(20℃)が300mPa・s以下であり、かつけん化度75モル%以上であるポリビニルアルコール系樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリビニルアルコール系樹脂含有組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、部分ケン化ポリビニルアルコールとヨウ化カリウム(KI)等を含むゲルを、放射線の線量分布を確認するために使用することが検討されている(特許文献1)。
特許文献1では、当該ゲルの、放射線の照射によって透明から赤色に呈色するが、加温によって透明に戻ることができるという性質を利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、新規なポリビニルアルコール含有組成物を提供することにある。
【0005】
本発明の他の目的は、新規なポリビニルアルコールのゲルを提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、放射線感応性と強度等とを効率よく両立しうるポリビニルアルコール系樹脂を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、高い放射線感応性を実現しうるポリビニルアルコール系樹脂を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、新規な線量計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ポリビニルアルコール系樹脂とヨウ素成分を含む組成物(ゲル等)が特定の金属イオン(特に、銅イオン)を含有することによって、放射線照射による呈色反応が増強されること、ポリビニルアルコール系樹脂の種類(特定の物性)が放射線感応性や強度等に影響を与えること等を見出し、さらに鋭意研究を重ね、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明等に関する。
[1]
ポリビニルアルコール系樹脂、ヨウ素成分及びイオン性銅成分を含有する化合物を含む組成物。
[2]
ポリビニルアルコール系樹脂及びヨウ素成分を含む組成物であって、ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)が1~2000mPa・sである、組成物。
[3]
ポリビニルアルコール系樹脂及びヨウ素成分を含む組成物であって、ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)が7mPa・s以上である、組成物。
[4]
ポリビニルアルコール系樹脂及びヨウ素成分を含む組成物であって、ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)が300mPa・s以下(例えば、2~300mPa・s、3~300mPa・s、3~250mPa・s、3~200mPa・s、3~150mPa・s、3~100mPa・s)である、組成物。
[5]
ポリビニルアルコール系樹脂及びヨウ素成分を含む組成物であって、ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)が10~250mPa・sである、組成物。
[6]
ポリビニルアルコール系樹脂及びヨウ素成分を含む組成物であって、ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)が3~100mPa・sであり、かつけん化度75モル%以上(例えば、75~95モル%)である、組成物。
[7]
さらに、ゲル化剤を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]
さらに、還元剤を含む、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[9]
ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)が1~2000mPa・sである、[1]、[7]又は[8]記載の組成物。
[10]
ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)が7mPa・s以上である、[1]、[7]又は[8]記載の組成物。
【0011】
[11]
ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)が300mPa・s以下(例えば、2~300mPa・s、3~300mPa・s、3~250mPa・s、3~200mPa・s、3~150mPa・s、3~100mPa・s)である、[1]、[7]又は[8]記載の組成物。
[12]
ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)が10~250mPa・sである、[1]、[7]又は[8]記載の組成物。
[13]
ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)が3~100mPa・sであり、かつケン化度65~95モル%(例えば、75~95モル%)である[1]~[5]、[7]~[12]のいずれかに記載の組成物。
[14]
イオン性銅成分を含有する化合物が、硝酸銅(II)、硫酸銅(II)及びヨウ化銅(I)から選択される1種以上である、[1]、[7]~[13]のいずれかに記載の組成物。
[15]
イオン性銅成分を含有する化合物の含有量が、組成物1gに対して1.7×10-8モル以下である、[1]、[7]~[14]のいずれかに記載の組成物。
[16]
ゲル(又はゲル形成用)である[1]~[15]のいずれかに記載の組成物([1]~[15]のいずれかに記載の組成物で形成されたゲル)。
[17]
線量計用である、[1]~[16]のいずれかに記載の組成物(ゲル等)。
[18]
[1]~[17]のいずれかに記載の組成物(ゲル等)を用いた線量計。
[19]
少なくともヨウ素成分(さらには、イオン性銅成分を含有する化合物)と組み合わせて使用(例えば、線量計を構成)するためのポリビニルアルコール系樹脂であって、4質量%水溶液粘度(20℃)が1~2000mPa・sであるポリビニルアルコール系樹脂。
[20]
少なくともヨウ素成分(さらには、イオン性銅成分を含有する化合物)と組み合わせて使用(例えば、線量計を構成)するためのポリビニルアルコール系樹脂であって、4質量%水溶液粘度(20℃)が7mPa・s以上であるポリビニルアルコール系樹脂。
【0012】
[21]
少なくともヨウ素成分(さらには、イオン性銅成分を含有する化合物)と組み合わせて使用(例えば、線量計を構成)するためのポリビニルアルコール系樹脂であって、4質量%水溶液粘度(20℃)が300mPa・s以下(例えば、2~300mPa・s、3~300mPa・s、3~250mPa・s、3~200mPa・s、3~150mPa・s、3~100mPa・s)であるポリビニルアルコール系樹脂。
[22]
少なくともヨウ素成分(さらには、イオン性銅成分を含有する化合物)と組み合わせて使用(例えば、線量計を構成)するためのポリビニルアルコール系樹脂であって、4質量%水溶液粘度(20℃)が10~250mPa・sであるポリビニルアルコール系樹脂。
[23]
少なくともヨウ素成分(さらには、イオン性銅成分を含有する化合物)と組み合わせて使用(例えば、線量計を構成)するためのポリビニルアルコール系樹脂であって、4質量%水溶液粘度(20℃)が300mPa・s以下(例えば、2~300mPa・s、3~300mPa・s、3~250mPa・s、3~200mPa・s、3~150mPa・s、3~100mPa・s、10~250mPa・s)であり、かつけん化度75モル%以上(例えば、75~97モル%)であるポリビニルアルコール系樹脂。
[24]
少なくともヨウ素成分(さらには、イオン性銅成分を含有する化合物)と組み合わせて使用(例えば、線量計を構成)するためのポリビニルアルコール系樹脂であって、4質量%水溶液粘度(20℃)が1~2000mPa・sであるポリビニルアルコール系樹脂。
[25]
線量計用のポリビニルアルコール系樹脂であって、4質量%水溶液粘度(20℃)が7mPa・s以上であるポリビニルアルコール系樹脂。
[26]
線量計用のポリビニルアルコール系樹脂であって、4質量%水溶液粘度(20℃)が300mPa・s以下(例えば、2~300mPa・s、3~300mPa・s、3~250mPa・s、3~200mPa・s、3~150mPa・s、3~100mPa・s、10~250mPa・s)であるポリビニルアルコール系樹脂。
[27]
線量計用のポリビニルアルコール系樹脂であって、4質量%水溶液粘度(20℃)が10~250mPa・sであるポリビニルアルコール系樹脂。
[28]
線量計用のポリビニルアルコール系樹脂であって、4質量%水溶液粘度(20℃)が300mPa・s以下(例えば、2~300mPa・s、3~300mPa・s、3~250mPa・s、3~200mPa・s、3~150mPa・s、3~100mPa・s、10~250mPa・s)であり、かつけん化度75モル%以上(例えば、75~97モル%)であるポリビニルアルコール系樹脂。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、新規なポリビニルアルコール含有組成物を提供できる。
このような組成物は、例えば、ゲル(特に、放射線感応性ゲル)形成用に有用である。
【0014】
本発明によれば、新規なポリビニルアルコールの組成物[例えば、ゲル(又はゲル状組成物、特に、放射線感応性ゲル)]を提供できる。
【0015】
このような組成物(例えば、ゲル)は、放射性線照射によって呈色反応を奏しうる(すなわち、放射線照射に対して感応性を奏しうる)。ヨウ素成分と銅イオンとの組み合わせが、放射線照射によるPVA(例えば、PVAゲル)の呈色反応に寄与することは、驚くべき知見であった。
【0016】
本発明の一態様の組成物(例えば、ゲル)は、微量の銅イオンによって、放射性線照射による呈色反応を増強させうる。このような組成物(例えば、ゲル)は、銅イオンの含有量が微量であるため、廃棄による環境への負荷を少なくしうる。また、当該組成物(例えば、ゲル)において、銅イオンの含有量がごく微量であっても放射線照射による呈色反応が増強されることは、極めて予想外であった。
【0017】
本発明の他の一態様では、放射線感応性と強度等とを効率よく両立しうるポリビニルアルコール系樹脂を提供できる。
【0018】
本発明の別の一態様では、高い放射線感応性を実現しうるポリビニルアルコール系樹脂を提供できる。
【0019】
本発明によれば、新規な線量計(特に、放射線の線量計)を提供することもできる。
このような線量計は、放射性線照射に対して優れた感応性を奏しうるため、放射線の線量分布を効率よく測定しうる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、実施例1~3及び実施例1’の、ゲル作製直後の写真を示す。
【
図2】
図2は、実施例1’、実施例1、実施例2及び実施例3のゲルへX線照射した後の吸収スペクトルを示す。
【
図3】
図3は、実施例1’、実施例1、実施例2及び実施例3のゲルへX線照射した後の、各吸収線量に対する490nmにおける吸光度を示す。
【
図4】
図4は、実施例4のゲルの、各吸収線量における、ヨウ化銅濃度と吸光度の関係を示す。
【
図5】
図5は、実施例5の線量率における吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[組成物]
本発明の組成物は、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂及びヨウ素成分を含んでいてもよい。代表的な本発明の組成物は、ポリビニルアルコール系樹脂、ヨウ素成分及びイオン性銅成分を含有する化合物を含む。
組成物は、ポリビニルアルコール系樹脂及びヨウ素成分の組み合わせ(例えば、ポリビニルアルコール系樹脂及びヨウ素成分を含むキット)であってもよく、特にポリビニルアルコール系樹脂、ヨウ素成分及びイオン性銅成分を含有する化合物の組み合わせ(例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、ヨウ素成分及びイオン性銅成分を含有する化合物を含むキット)であってもよい。
【0022】
(ポリビニルアルコール系樹脂)
ポリビニルアルコール系樹脂(以下、単に「PVA系樹脂」ともいう)は、通常、少なくともビニルエステル系単量体を重合成分とする重合体のけん化物であってもよい。このようなポリビニルアルコール系樹脂は、ビニルアルコール単位を有していればよく、ビニルエステル系単量体や他の不飽和単量体由来の単位を有していてもよい。
【0023】
上記ポリビニルアルコール系樹脂を製造する際に使用されるビニルエステル系単量体としては、例えば、脂肪酸ビニルエステルが挙げられる。
脂肪酸ビニルエステルとしては、特に限定されないが、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が挙げられ、中でも酢酸ビニルが工業的に好ましい。
ビニルエステル系単量体の重合は、従来公知のバルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の各種の重合法により製造することができるが、中でもメタノール等のアルコール溶媒を用いる溶液重合が工業的に好ましい。
【0024】
ビニルエステル系単量体を重合する際、本発明の効果を阻害しない範囲で、共重合可能な他の不飽和単量体を用いてもよい。
他の不飽和単量体としては、例えば、カルボキシル基含有不飽和単量体[例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等]、不飽和二塩基酸モノアルキルエステル類(例えば、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノメチル等)、アミド基含有不飽和単量体(例えば、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等)、ハロゲン化ビニル類(例えば、塩化ビニル、フッ化ビニル等)、グリシジル基を有する不飽和単量体(例えば、アリルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート等)、ラクタム基含有不飽和単量体{例えば、N-ビニルピロリドン類[例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-アルキルピロリドン(例えば、N-ビニル-3-プロピル-2-ピロリドン、N-ビニル-5-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-5-エチル-2-ピロリドン、N-ビニル-5,5-ジメチル-2-ピロリドン、N-ビニル-3,5-ジメチル-2-ピロリドンなどのN-ビニル-モノ又はジC1-4アルキルピロリドン)など]、N-アリルピロリドン類(例えば、N-アリル-2-ピロリドンなど)、N-ビニルピペリドン類[例えば、N-ビニル-2-ピペリドン、N-ビニル-アルキルピペリドン(例えば、N-ビニル-6-メチル-2-ピペリドン、N-ビニル-6-エチル-2-ピペリドンなどのN-ビニル-モノ又はジC1-4アルキルピペリドン)など]、N-ビニルカプロラクタム類[例えば、N-ビニル-ε-カプロラクタム、N-ビニル-アルキルカプロラクタム(例えば、N-ビニル-7-メチル-2-カプロラクタム、N-ビニル-7-エチル-2-カプロラクタムなどのN-ビニル-モノ又はジC1-4アルキルカプロラクタムなど)]}、アルキルビニルエーテル類[例えば、C1―20アルキルビニルエーテル(例えば、メチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等)]、ニトリル類(例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等)、水酸基含有不飽和単量体[例えば、C1―20モノアルキルアリルアルコール(例えば、アリルアルコール、イソプロペニルアリルアルコール等)、C1―20ジアルキルアリルアルコール(例えば、ジメチルアリルアルコール等)、ヒドロキシC1―20アルキルビニルエーテル(例えば、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル等)]、アセチル基含有不飽和単量体[例えば、C1―20アルキルアリルアセテート(例えば、アリルアセテート、ジメチルアリルアセテート、イソプロペニルアリルアセテート等)等]、(メタ)アクリル酸エステル類{例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル[例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸-n-ブチル等の(メタ)アクリル酸C1-20アルキル]等}、ビニルシラン類(例えば、トリメトキシビニルシラン、トリブチルビニルシラン、ジフェニルメチルビニルシラン等)、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート類[例えば、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等]、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリル酸アミド類[例えば、ポリオキシエチレン(メタ)アクリル酸アミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリル酸アミド等]、ポリオキシアルキレンビニルエーテル類(例えば、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル等)、ポリオキシアルキレンアルキルビニルエーテル類(例えば、ポリオキシエチレンアリルエーテル、ポリオキシプロピレンアリルエーテル、ポリオキシエチレンブチルビニルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルビニルエーテル等)、α-オレフィン類(例えば、エチレン、プロピレン、n-ブテン、1-ヘキセン等)、ブテン類(例えば、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-3-ヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン等)、ペンテン類(例えば、4,5-ジヒドロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-3-メチル-1-ペンテン等)、ヘキセン類(例えば、5,6-ジヒドロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン等)、アミン系不飽和単量体[例えば、N,N-ジメチルアリルアミン、N-アリルプペラジン、3-ピペリジンアクリル酸エチルエステル、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、2-メチル-6-ビニルピリジン、5-エチル-2-ビニルピリジン、5-ブテニルピリジン、4-ペンテニルピリジン、2-(4-ピリジル)アリルアルコール等]、第四級アンモニウム化合物を有する不飽和単量体(例えば、ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸4級塩等)、芳香族系不飽和単量体(例えば、スチレン等)、スルホン酸基を含有する不飽和単量体(例えば、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩;2-アクリルアミド-1-メチルプロパンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩;2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩;ビニルスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩;アリルスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩;メタアリルスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくは有機アミン塩等)、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタアクリレート、アセトアセトキシアクリルアミド、アセトアセトキシメタクリルアミド、グリセリンモノアリルエーテル、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、2-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン、3-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン、3-アセトキシ-1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパン、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル、アクリロイルモルホリン、ビニルエチレンカーボネート、ビニルイミダゾール、ビニルカルバゾール等から選ばれる1種以上等が挙げられる。
【0025】
他の不飽和単量体の含有量としては特に規定されないが、例えば、ビニルエステル系単量体100モルに対して、20モル以下、15モル以下、10モル以下等であればよい。
【0026】
また、得られたポリビニルアルコール系樹脂を本発明の効果を阻害しない範囲で公知の方法を用いてアセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化、スルホン化、アセトアセチル化、カチオン化、アミノ化、ヒドラジド化等の反応によって後変性してもよい。
【0027】
ビニルエステル系単量体を重合する際に使用される重合触媒は、特に限定されないが、通常、アゾ化合物や過酸化物が用いられる。
また、重合の際、脂肪酸ビニルエステルの加水分解を防止する目的で、酒石酸、クエン酸、酢酸等の有機酸を添加してもよい。
また重合の終了には、特に限定されないが、重合停止剤を使用することができる。重合停止剤は、特に限定されず、例えば、m-ジニトロベンゼン等が挙げられる。
【0028】
重合の際には、重合容器の形状、重合撹拌機の種類、さらには重合温度や、重合容器内の圧力等いずれも公知の方法を使用してかまわない。
【0029】
なお、重合度調整のために、2-メルカプトエタノール、1-ドデカンチオール、アセトアルデヒド等の連鎖移動剤を用いてもかまわない。
【0030】
重合体の鹸化方法は、特に限定されず、従来公知の方法に従ってよいが、例えば、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒、又は塩酸、硫酸、p-トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いた、加アルコール分解ないし加水分解反応が適用できる。
鹸化反応に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類;酢酸メチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;テトラヒドロフラン等が挙げられ、これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。また、鹸化温度、時間等に特に制限されない。
また、鹸化物の乾燥、粉砕、洗浄方法も特に制限はなく、公知の方法を使用してもかまわない。
【0031】
ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)は、特に制限されないが、例えば、1mPa・s以上、1.5mPa・s以上、2mPa・s以上、2.5mPa・s以上、3mPa・s以上、3.5mPa・s以上、4mPa・s以上、4.5mPa・s以上、5mPa・以上、5.5mPa・s以上、6mPa・s以上、7mPa・s以上、10mPa・s以上、20mPa・s以上、30mPa・s以上等であってもよく、3000mPa・s以下、2000mPa・s以下、1000mPa・s以下、800mPa・s以下、500mPa・s以下、200mPa・s以下、150mPa・s以下、100mPa・s以下、80mPa・s以下、60mPa・s以下、40mPa・s以下等であってもよい。
【0032】
代表的には、ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)は、1~2000mPa・s(例えば、5~2000mPa・s)程度であってもよく、好ましくは10~1500mPa・s程度、より好ましくは20~1200mPa・s程度であってもよい。
【0033】
ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)は、強度(例えば、ゲルの強度)(さらには強度と放射線感応性とのバランス)等の観点から、例えば、7mPa・s以上(例えば、8mPa・s以上)、好ましくは10mPa・s以上(例えば、12mPa・s以上)、さらに好ましくは15mPa・s以上(例えば、18mPa・s以上)程度の範囲から選択してもよく、20mPa・s以上(例えば、22mPa・s以上、24mPa・s以上、25mPa・s以上)であってもよい。
【0034】
ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)の上限値は特に限定されないが、3000mPa・s以下(例えば、2500mPa・s以下、2000mPa・s以下、1800mPa・s以下、1500mPa・s)程度の範囲から選択してもよく、取扱性(さらには強度や放射線感応性とのバランス)等の観点から、1200mPa・s以下(例えば、1000mPa・s以下)、好ましくは800mPa・s以下(例えば、600mPa・s以下)程度の範囲から選択してもよく、500mPa・s以下(例えば、400mPa・s以下、350mPa・s以下、300mPa・s以下、250mPa・s以下、200mPa・s以下、150mPa・s以下、120mPa・s以下、100mPa・s以下、80mPa・s以下、75mPa・s以下、70mPa・s以下、65mPa・s以下、60mPa・s以下、55mPa・s以下、50mPa・s以下、45mPa・s以下、40mPa・s以下、35mPa・s以下、30mPa・s以下)であってもよい。
【0035】
一方、ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)は、効率よく高い放射線感応性を得る等の観点から、比較的小さい(大きすぎない)値、例えば、300mPa・s以下(例えば、250mPa・s以下、200mPa・s以下、150mPa・s以下、100mPa・s以下、50mPa・s以下)程度の範囲から選択してもよく、40mPa・s以下(例えば、35mPa・s以下)、好ましくは30mPa・s以下(例えば、28mPa・s以下)、さらに好ましくは25mPa・s以下(例えば、22mPa・s以下)であってもよく、20mPa・s以下(例えば、18mPa・s以下、15mPa・s以下、12mPa・s以下、10mPa・s以下、8mPa・s以下、7.5mPa・s以下、7mPa・s以下、6.5mPa・s以下、6mPa・s以下、5.5mPa・s以下)であってもよい。
【0036】
ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度(20℃)は、十分な放射性感応性、ハンドリング性(取扱性)等の総合的観点から、1~500mPa・s、好ましくは1.5~400mPa・s(例えば、2~300mPa・s)、さらに好ましくは2.5~300mPa・s(例えば、3~300mPa・s、3~250mPa・s、3~200mPa・s、3~150mPa・s、3~100mPa・s、5~300mPa・s、7~300mPa・s、10~250mPa・s等)程度であってもよい。
【0037】
なお、ポリビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液粘度は、例えば、JIS K6726に従って測定できる。
【0038】
ポリビニルアルコール系樹脂は、その種類や組成等に応じて選択でき、特に限定されず、完全けん化ポリビニルアルコール系樹脂(例えば、けん化度97モル%以上等)であってもよく、部分けん化ポリビニルアルコール系樹脂(例えば、けん化度97モル%未満)であってもよいが、本発明の組成物(例えば、本発明の組成物で形成されたゲル)が放射線照射によって効率よく呈色反応を示しやすい等の観点から、部分けん化ポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。
【0039】
ポリビニルアルコール系樹脂のけん化度は、本発明の組成物(例えば、本発明の組成物で形成されたゲル)が放射線照射によって効率よく呈色反応を示しやすい等の観点から、好ましくは96モル%以下(例えば、95モル%以下、94モル%以下、93モル%以下、92モル%以下、91モル%以下)、より好ましくは90モル%以下等であってよく、例えば、65モル%以上、70モル%以上、75モル%以上、80モル%以上、85モル%以上等であってもよい。
【0040】
ポリビニルアルコール系樹脂のけん化度は、効率よいゲル(水性ゲル等)の形成等を考慮すると、75モル%以上(例えば、76モル%以上、77モル%以上、78モル%以上、79モル%以上、80モル%以上、81モル%以上、82モル%以上、83モル%以上、84モル%以上、85モル%以上、86モル%以上、87モル%以上等)であってもよく、放射線感応性と効率よいゲルの形成との両立等の観点から、70~96モル%(例えば、75~95モル%)程度であってもよい。
【0041】
なお、けん化度(平均けん化度)は、例えば、JIS K6726に従って測定できる。
【0042】
ポリビニルアルコール系樹脂は、1種単独で又は2種以上を使用してもよい。
【0043】
組成物におけるポリビニルアルコール系樹脂の含有量は、組成物の態様(ゲル等)等にもよるが、組成物全体に対して、例えば、0.1質量%以上(例えば、0.2質量%以上、0.1~50質量%、0.1~40質量%)程度の範囲から選択してもよく、0.3~30質量%(例えば、1~6質量%)、好ましくは0.5~20質量%(例えば、3~5.5質量%)、より好ましくは1~15質量%(例えば、2~10質量%、3~8質量%、4.5~5.5質量%)であってもよい。
【0044】
なお、ポリビニルアルコール系樹脂は、ヨウ素成分(さらには、イオン性銅成分を含有する化合物)と組み合わせて、組成物(例えば、ゲル状の組成物)を構成できる。また、このような組成物は、後述のように、線量計を構成することもできる。
【0045】
すなわち、ポリビニルアルコール系樹脂は、このような用途に用いるためのもの[例えば、ヨウ素成分(さらには、イオン性銅成分を含有する化合物)と組み合わせて使用するためのもの、線量計のために使用するもの(線量計用)]であるということもできる。
【0046】
そのため、本発明には、このようなポリビニルアルコール系樹脂の用途に係る発明も含まれる。
【0047】
(ヨウ素成分)
ヨウ素成分としては、例えば、ヨウ素(I2)、イオン性ヨウ素を含有する化合物等が挙げられ、好ましくは、イオン性ヨウ素を含有する化合物であってもよい。
イオン性ヨウ素を含有する化合物としては、水溶性等の観点から、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化セシウム等が挙げられる。
【0048】
組成物におけるヨウ素成分の含有量は、組成物(例えば、組成物によって形成されたゲル)が放射線照射によって効率よく呈色反応を示しやすい等の観点から、組成物全体に対して、例えば、0.01質量%以上(例えば、0.03質量%以上、0.05質量%以上、0.1~50質量%、0.2~40質量%)程度の範囲から選択してもよく、0.3~30質量%(例えば、2~9質量%)、好ましくは0.5~25質量%(例えば、4~9質量%)、より好ましくは1~20質量%(例えば、1.5~15質量%、2~12質量%、3~10質量%、6~9質量%)であってもよい。
【0049】
ポリビニルアルコール系樹脂1質量部に対するヨウ素成分の割合は、放射線照射によって効率よく呈色反応を示しやすい等の観点から、例えば、0.001質量部以上(例えば、0.005~200質量部)、好ましくは0.01質量部以上(例えば、0.01~150質量部)、さらに好ましくは0.1質量部以上(例えば、0.2~100質量部、0.3~50質量部)程度であってもよく、0.5質量部以上(例えば、0.5~30質量部、0.7~20質量部、1~15質量部、1.2~10質量部、1.5~5質量部)であってもよい。
【0050】
(イオン性銅成分を含有する化合物)
本発明の組成物は、イオン性銅成分を含有する化合物を含んでいてもよい。
イオン性銅成分を含有する化合物は、銅イオン[銅(I)イオン(Cu+)又は銅(II)イオン(Cu2+)]を含有する化合物であればよい。
このような化合物としては、例えば、銅塩が挙げられる。
銅塩としては、銅(I)イオン(Cu+)又は銅(II)イオン(Cu2+)を含有する塩であればよく、例えば、銅(II)イオンを含有する塩[例えば、硝酸銅(II)(Cu(NO3)2)、硫酸銅(II)(CuSO4)、塩化銅(II)(CuCl2)、臭化銅(II)(CuBr2)、ヨウ化銅(II)(CuI2)等]、銅(I)イオンを含有する塩[例えば、ヨウ化銅(I)(CuI)が挙げられる。
なお、銅塩としては、水和物を使用してもよい。
【0051】
イオン性銅成分を含有する化合物の中でも、本発明の組成物(例えば、本発明の組成物を用いて作製されるゲル)が、早期(例えば、ゲル作製直後)に呈色反応を示しにくく、効率よく線量計を作製しやすい等の観点から、好ましくは、透明の水溶液である銅(I)イオンを含有する塩等であってもよく、より好ましくは、ヨウ化カリウム水溶液に溶解したヨウ化銅(I)であってもよい。
また、イオン性銅成分を含有する化合物は、水溶性等の観点から、好ましくは、硝酸銅(II)又はその水和物、硫酸銅(II)又はその水和物等であってもよい。
【0052】
イオン性銅成分を含有する化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
また、組成物におけるイオン性銅成分を含有する化合物(又は、銅イオン)の含有量は、吸光度の増大を確認できる等の観点から、組成物1gに対して、例えば、1.7×10-8モル以下、好ましくは3×10-9~1.4×10-8モル、より好ましくは1×10-8~1.4×10-8モルであってもよい。
【0054】
組成物において、ヨウ素成分とイオン性銅成分を含有する化合物のモル比は、例えば、1:1.3×10-5~1:2.6×10-5、好ましくは1:2.8×10-5~1:2.6×10-5であってもよい。
【0055】
(他の成分)
本発明の組成物は、必要に応じて、ポリビニルアルコール系樹脂、ヨウ素成分及びイオン性銅成分を含有する化合物以外の他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、例えば、溶媒(例えば、水)、ゲル化剤[例えば、ホウ砂、増粘性多糖類(例えば、キサンタンガム、ローカストビーンガム)等]、還元剤、pH調整剤、防腐剤等が挙げられる。
【0056】
なお、還元剤は、加温によりポリヨウ素を還元できる還元剤であればよい。
還元剤としては、放射線照射によってゲルが効率よく呈色反応を示しやすい等の観点から、例えば、還元性糖[例えば、還元性単糖類(例えば、果糖、ブドウ糖、マンノース等)、還元性多糖類(例えば、マルトース、セロビオース、ラクトース等)等]が挙げられ、水溶性等の観点から、果糖を好適に使用してもよい。
【0057】
他の成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0058】
他の成分は、赤色に呈色した組成物(例えば、ゲル)を加温により効率よく透明に戻しやすい等の観点から、好ましくは、ホウ砂及び還元性糖を少なくとも含んでいてもよい。
【0059】
組成物は、組成物(例えば、組成物を用いて作製されるゲル)を、加熱によって効率よく透明にしやすい等の観点から、還元剤等を含有することが好ましい。
【0060】
組成物における溶媒の含有量は、組成物全体に対して、例えば、65~90質量%、好ましくは70~85質量%、より好ましくは76~83質量%であってもよい。
なお、組成物は、通常、水を含有していてよい。
【0061】
組成物がゲル化剤を含有する場合、組成物におけるゲル化剤の含有量は、組成物全体に対して、例えば、1~10質量%であってもよい。
【0062】
組成物がゲル化剤としてホウ砂を含有する場合、組成物におけるホウ砂の含有量は、組成物全体に対して、例えば、3~3.6質量%であってもよい。
【0063】
組成物がゲル化剤として増粘性多糖類(例えば、キサンタンガム及び/又はローカストビーンガム)を含有する場合、組成物における増粘性多糖類の含有量は、組成物全体に対して、例えば、5~10質量%であってもよい。
【0064】
組成物のpHは発色(例えば、ゲルの発色)等の観点から、例えば、5~9(例えば、6~8、6~7)、好ましくは6.5~7.5(例えば、6.8)等であってもよい。
組成物のpHは、他の成分の組み合わせにより、これらの範囲になるように調整してもよい。組成物のpHの調整は、上記例示の還元剤によって行ってもよい。
代表的には、ホウ砂を含有する水溶液を、還元性糖(例えば、果糖)の添加によって上記範囲のpHとなるように調整してもよい。
【0065】
組成物の製造方法は、特に限定されず、少なくともPVA系樹脂及びヨウ素成分[例えば、PVA系樹脂、ヨウ素成分及びイオン性銅成分を含有する化合物(さらに、必要に応じて他の成分)]を混合すればよい。
組成物は、通常、水を含有するため、例えば、PVA系樹脂の水溶液、ヨウ素成分の水溶液及びイオン性銅成分を含有する化合物の水溶液(さらに、ゲル化剤及び/又は還元剤の水溶液)を混合して製造してもよい。
混合順序は特に限定されず、全成分を一度に混合してもよいし、いずれか2成分以上を予め混合した後、残りの成分を混合してもよい。
【0066】
[ゲル等]
本発明の組成物の形態は、固体、液体(液状)等のいずれであってもよく、特にゲルであってもよい(ゲルを形成してもよい)。そのため、以下では、特に、ゲルについて詳述する。
本発明の組成物を用いて、ゲルを形成することができる。
すなわち、本発明は、本発明の組成物で形成されたゲル(PVAゲル)も包含する。
【0067】
ゲルの製造方法は、特に限定されず、例えば、上述した組成物を撹拌してもよい。
撹拌の際の温度は、例えば、10~100℃であってもよい。
撹拌時間は、特に限定されず、例えば、5分~1時間であってもよい。
【0068】
ゲル中の各成分(例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、ヨウ素成分、イオン性銅成分を含有する化合物及び他の成分)の含有量は、上述した組成物中の各成分の含有量と同様であってよい。
すなわち、ゲル全体に対する各成分の含有量は、上述した組成物中の各成分の含有量における、組成物全体に対する量と同様であってよく、ゲル1gに対する各成分の含有量は、上述した組成物中の各成分の含有量における、組成物1gに対する量と同様であってよい。
【0069】
また、組成物におけるイオン性銅成分を含有する化合物(又は、銅イオン)の含有量は、吸光度の増大を確認できる等の観点から、組成物1gに対して、例えば、1.7×10-8モル以下、好ましくは3×10-9~1.4×10-8モル、より好ましくは1×10-8~1.4×10-8モルであってもよい。
【0070】
ゲル中のpHは、上述した組成物中のpHと同様であってよい。
【0071】
イオン性銅成分を含有する化合物を含む組成物(例えば、ゲル)内で起こっていると考えられる反応の一態様として、イオン性銅成分を含有する化合物として銅(II)イオンを含有する塩を使用した場合について例示する。
まず、ヨウ化カリウム(反応1)由来のヨウ化物イオンと、銅(II)イオンによって、ヨウ化銅(II)(CuI2)を生成する(反応2)。
KI→K++I- (反応1)
Cu2++2I-→CuI2 (反応2)
生成したヨウ化銅(II)(CuI2)は、ただちに、ヨウ化銅(I)(CuI)とヨウ素(I2)に分解される(反応3)。
2CuI2→2CuI+I2 (反応3)
ここで、CuIは極めて水に溶けにくいが、KI存在下では直線型の[CuI2]-イオンとなって溶解する(反応4)。また、I2は、I-と反応し、ポリヨウ素I3
-を生成する(反応5)。
CuI+I-→[CuI2]- (反応4)
I2+I-⇔I3
- (反応5)
反応5で生成したI3
-が、組成物(例えば、ゲル)中のPVAと錯体を形成することにより、赤色に呈色する。
【0072】
[線量計]
本発明の組成物(例えば、ゲル)は、放射線照射によって呈色反応(透明から赤色に呈色反応)を示すため、放射線が照射された部位を効率よく可視化しうる。
よって、発明のゲルは、放射線の線量分布を確認するための線量計(又は、インジケータ)に使用することができる。
すなわち、本発明は、本発明の組成物(例えば、ゲル)を用いた線量計(又は、放射線の線量計)も包含する。
【0073】
本発明の組成物(例えば、ゲル)は、上記のように、I3
-とPVAとの錯体形成によって、通常、赤色に呈色しているが、加温することによってI3
-が還元されて透明になる。
なお、加温条件は、例えば、40℃以上の温度であってもよく、1~6時間程度であってもよい。
よって、ゲルは、加温によって透明にしてから線量計に使用することが好ましい。
【0074】
線量計の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を使用することができる。
例えば、本発明の組成物(例えば、ゲル)を透明容器に封入することによって、線量計を作製してもよい。
透明容器としては、ガスバリア性を有するものが好ましく、例えば、瓶、袋等であってよい。透明容器の材質は、特に限定されず、例えば、プラスチック、ガラス等であってよい。なお、組成物(例えば、ゲル)を透明容器に封入後、遮光状態、室温で所定時間(例えば、1~24時間)静置させ、組成物(例えば、ゲル)内のガス抜きを行ってもよい。
【0075】
得られた線量計に放射線を照射し、組成物(例えば、ゲル)の呈色反応を評価することにより、放射線が照射された部位を確認及び評価することができる。
呈色反応の評価方法は、特に限定されず、例えば、目視によって評価してもよいし、色測定(例えば、CIELAB等の色座標を用いた測定)によって明度や輝度を測定して評価してもよい。
【0076】
イオン性銅成分を含有する化合物を含む組成物(例えば、ゲル)に放射線を照射することにより、以下の反応が起きると考えられる。
一態様として、イオン性銅成分を含有する化合物として銅(II)イオンを含有する塩を使用した場合、組成物(例えば、ゲル)に放射線が照射されると、上記反応4で生成した[CuI2]-が酸化されることによってCu+がCu2+となり、上記反応1~5が進行することによりI3
-が生成し、組成物(例えば、ゲル)中のPVAと錯体を形成することにより、赤色に呈色すると考えられる。
なお、銅塩を含有せず、PVA及びKIを含有する組成物を用いて形成された組成物(例えば、ゲル)では、放射線照射によって上記反応5が進行してI3
-が生成し、PVAと錯体を形成することにより、赤色に呈色すると考えられている。
本発明の組成物(例えば、ゲル)では、放射線照射によってCu2+が生成し、上記反応1~5が進行するため、銅塩を含有しない組成物で形成されたゲルと比較して、放射線照射によってより効率よくI3
-が生成すると考えられる。
【0077】
別の一態様として、イオン性銅成分を含有する化合物として、銅(I)イオンを含有する塩を使用した場合は、以下の反応が起きると考えられる。
まず、酸素存在下の水溶液中への放射線照射によって水が分解されると、ヒドロキシラジカル(・OH)、水和電子(eaq
-)、水素ラジカル(H・)、過酸化水素(H2O2)及び水素(H2)が生成することが知られている(反応6)。本発明のゲルは、水を含有するため、放射線照射によって当該反応6が起こると考えられる。
H2O→eaq
-、H2O2、H・、・OH、H2 (反応6)
酸性水溶液では、水和電子はヒドニウムイオン(H3O+)と反応し、水素ラジカルを生じる(反応7)。
eaq
-+H3O+→H・+H2O (反応7)
酸素が存在するとき、水素ラジカルは酸素分子と反応する(反応8)。
H・+O2→HO2([H・]<<[O2]) (反応8)
HO2は、Cu+を酸化し(反応9)、H2O2を生成する(反応10)。
Cu++HO2→Cu2++HO2
- (反応9)
HO2
-+H+→H2O2 (反応10)
H2O2は、Cu+を酸化し、・OHを生成する(反応11)。
Cu++H2O2→Cu2++・OH+OH- (反応11)
・OHは、Cu+を酸化する(反応12)。
Cu++・OH→Cu2++OH- (反応12)
反応9、11及び12で生成したCu2+は、上記反応2~5よりI3
-を生成し、I3
-がゲル中のPVAと錯体を形成することにより、赤色に呈色すると考えられる。
【0078】
本発明の組成物(例えば、ゲル)が感度を有する放射線としては、特に限定されず、例えば、α線、β線、γ線、X線、中性子線、陽子線、重粒子線等が挙げられる。
【0079】
組成物(例えば、ゲル)に放射線を照射する際の温度は、温度による組成物(例えば、ゲル)の呈色反応を防止する等の観点から、例えば、10~40℃、好ましくは20~25℃程度であってもよい。
【実施例0080】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれら実施例の記載内容に限定されるものではない。
【0081】
(PVA-KIゲルへのX線照射1(実施例1~4、実施例1’、参考例1))
PVA-KIゲルを吸光度測定用ディスポセル(PMMA製、光路長10mm)に封入し、測定試料とした。
X線照射装置(日立社製MBR-1520R-3)を使用してX線照射を行った。
X線の照射条件は、管電圧:150kV、管電流:20mA、フィルター:Al0.5mm+Cu0.1mm、焦点距離:400mm、温度20℃であり、2Gyずつ5回、積算線量で10Gyとなるように照射した。
各試料について、照射前及び照射後に紫外・可視分光光度計(EVOLUTION 220 Thermo Scientific社製)による吸光度測定を行った。
【0082】
(実施例1)
ホウ砂(松葉薬品 四ホウ酸ナトリウム粉末)、果糖(日新製糖)、ヨウ化カリウム(KI ナカライテスク 99.5%)及び蒸留水を混合し、ホウ砂、果糖及びKIの水溶液(ホウ砂3.64質量%、果糖5.45質量%、KI9.09質量%)を作製した。
また、ポリビニルアルコール(顆粒状 部分ケン化PVA 日本酢ビ・ポバール JP-20、重合度:2000、4質量%水溶液粘度(20℃)25mPa・s、ケン化度:87.0~89.0mol%)を用いて、10質量%PVA水溶液を作製した。
上記ホウ砂、果糖及びKIの水溶液と、PVA水溶液とを、室温で5分混合撹拌した。
なお、この混合水溶液は、PVAを4.97質量%、KIを9.09質量%、ホウ砂を3.64質量%、果糖を5.45質量%、水を76.9質量%含むものであった。
その後、混合水溶液に、硝酸銅(Cu(NO3)2・3H2O ナカライテスク)を、得られるPVA-KIゲル1gに対して6.8×10-9mol/gとなるように添加して室温で5分撹拌し、PVA-KIゲルを得た。
なお、得られたPVA-KIゲルは、銅イオン濃度が、当該ゲル1gに対して6.8×10-9mol/gであり、pHが7であった。
【0083】
(実施例2)
硝酸銅の代わりに、硫酸銅CuSO4(CuSO4・5H2O ナカライテスク)を使用した以外は実施例1と同様にして、PVA-KIゲルを得た。
得られたPVA-KIゲルは、銅イオン濃度が、当該ゲル1gに対して6.8×10-9mol/gであり、pHが7であった。
【0084】
(実施例3)
KI水溶液1.4×10-1mol/Lを作製し、当該KI水溶液にヨウ化銅(CuI、ナカライテスク、≧98.0%)1.24×10-2mol/Lを添加して溶解させ、CuI(KI)水溶液を作製した。
得られたCuI(KI)水溶液を、実施例1と同じホウ砂、果糖及びKIの水溶液に添加した後、実施例1と同じPVA水溶液を添加し、室温で5分撹拌してPVA-KIゲルを得た。
なお、得られたPVA-KIゲルは、銅イオン濃度が、当該ゲル1gに対して6.8×10-9mol/gであり、pHが7であった。
【0085】
(実施例1’)
硝酸銅を使用しなかった以外は実施例1と同様にして、PVA-KIゲルを得た。
なお、得られたPVA-KIゲルは、pHが7であった。
【0086】
図1は、実施例1~3及び実施例1’の、PVA-KIゲル作製直後の写真を示す。
図1の左から順に、実施例1、実施例2、実施例3及び実施例1’の写真を示す。
KIは、水溶液中又はゲル中で自然に酸化されてI
3
-を生成するため、各PVA-KIゲルは、作製直後に自然に赤色に呈色した。
図1が示すように、実施例3のPVA-KIゲルの色は、実施例1及び2のPVA-KIゲルと比較して薄く、また、銅塩を使用しなかった実施例1’のPVA-KIゲルの色に近かった。これは、実施例1や実施例2で使用の硝酸銅や硫酸銅は2価の銅イオンを含むため、上述した反応2及び3のように放射線化学反応を伴わない酸化反応が進み、I
2が生成されているためと考えられる。
一方、実施例3で使用のヨウ化銅は1価の銅イオンを含むため、非放射線照射下では酸化反応はほぼ進まず、銅イオンを含まない実施例1’のPVA-KIゲルとほぼ同じ酸化反応速度であるためと考えられる。
【0087】
実施例1~3及び実施例1’で得られた各PVA-KIゲルを、遮光下、室温で1日静置した後、インキュベーター(ASONE製 IC-150MA)を用いて50℃で加温することで透明に戻した後、X線照射及び吸収スペクトル測定を行った。
【0088】
図2は、実施例1’(Normal)、実施例1(+Cu(NO
3)
2)、実施例2(+CuSO
4)、実施例3(+CuI)のPVA-KIゲルへX線照射した後の吸収スペクトルを示す。なお、
図2の各スペクトルは、上から順に、10Gy、8Gy、6Gy、4Gy、2Gyの場合を示す。
図2が示すように、実施例1’及び実施例1~3の全てのPVA-KIゲルにおいて、490nmに単一の吸収ピークを確認することができた。また、銅含有化合物を添加しても、490nm以外の吸収ピークは現れないことが確認できた。
【0089】
図3は、実施例1’(Normal)、実施例1(+Cu(NO
3)
2)、実施例2(+CuSO
4)、実施例3(+CuI)のPVA-KIゲルへX線照射した後の、各吸収線量に対する490nmにおける吸光度を示す。
図3が示すように、吸収線量に対して吸光度は比例的に増加することが確認できた。
また、銅含有化合物未添加の実施例1’と比較して、実施例1~3の方が吸収線量に対する吸光度の増加率が大きいことから、銅含有化合物の添加により、PVA-KIゲルがX線照射に対する増感反応を示すことが確認できた。
なお、実施例1~3では、各吸収線量に対する吸光度がほぼ同じであることから、銅含有化合物の種類によるX線感応性への影響はほぼないと考えられる。
【0090】
(実施例4)
PVA-KIゲル1gに対するCuI(又は、銅イオン)の添加量が表1に記載の各割合となるようにCuIを添加した以外は実施例3と同様にし、CuI濃度の異なる4種類のPVA-KIゲルを作製した。
【0091】
【0092】
得られた4種類のPVA-KIゲルを、遮光下、室温で1日静置した後、インキュベーター(ASONE製 IC-150MA)を用いて50℃で加温することで透明に戻した後、X線照射前の吸収スペクトルを測定した。その後、X線を照射した後、吸収スペクトルを測定した。
各吸収線量における、CuI濃度と490nmにおける吸光度の関係を
図4に示す。
【0093】
図4が示すように、CuI濃度上昇に伴って吸光度が増大することがわかり、本実施例の濃度範囲においては、PVA―KIゲル中の銅濃度とX線照射に対する感度が比例関係にあることがわかった。
なお、添加したCuI水溶液に含まれるKI濃度は、PVA―KIゲルそのものに含まれるKI濃度に対して無視できるほど非常に小さいため、本実施例における濃度変化は、CuIのみによるものであるといえる。
【0094】
(参考例1)
硝酸銅の代わりに鉄化合物(硫酸鉄(II))、セシウム化合物(硝酸セシウム)又はマグネシウム化合物(硝酸マグネシウム)を使用した以外は、実施例1と同様にし、3種類のPVA-KIゲルを作製した。なお、得られた各PVA-KIゲルは、鉄イオン濃度、セシウムイオン濃度又はマグネシウムイオン濃度が、各ゲル1gに対して6.8×10-9mol/gであった。
各ゲルについて、上記実施例1等のゲルと同様の条件でX線照射及び吸収スペクトル測定を行ったが、いずれのゲルも、各化合物未添加のゲルと比較して吸光度の増加はなく、X線照射に対する増感反応を示さなかった。
【0095】
(実施例5)
ホウ砂(松葉薬品 四ホウ酸ナトリウム粉末)、果糖(日新製糖)、ヨウ化カリウム(KI ナカライテスク 99.5%)及び蒸留水を混合し、ホウ砂、果糖及びKIの水溶液(ホウ砂3.64質量%、果糖5.45質量%、KI9.09質量%)を作製した。
また、慣用の方法により、ポリビニルアルコール(ケン化度88モル%、4質量%水溶液粘度(20℃)3.3mPa・s)を得、このポリビニルアルコールを用いて、10質量%PVA水溶液を作製した。
上記ホウ砂、果糖及びKIの水溶液20質量部と、PVA水溶液30質量部とを、室温で5分混合撹拌し、pH7のPVA-KIゲルを得た。
【0096】
得られたゲルを、容器に封入して1日静置し、注射筒を用いて矩形(50mm×50mm×10mm)の吸光度測定用ディスポセル(PMMA製)に注入した。
ディスポセルに蓋をし、50℃に設定したインキュベーターに入れ約6時間加温した。
そして、X線照射前後の吸収スペクトル(吸光度)を測定した。
X線照射は、X線照射装置(日立社製 MBR-1520R-4)を使用し、室温(20℃)において、吸収線量8Gyの照射を行った(実効エネルギーは約48keV)。ここで、照射条件は、下記の通りとした。
【0097】
線量率0.3Gy/minの場合
フィルター:0.5mmAl+0.1mmCu
管電圧150kV
管電流5mA
焦点距離550mm
線量率0.3Gy/min
【0098】
線量率2.0Gy/minの場合
フィルター:0.5mmAl+0.1mmCu
管電圧150kV
管電流20mA
焦点距離400mm
線量率2.0Gy/min
【0099】
【0100】
図5に示すように、吸収スペクトルは、300nm付近及び500nm付近に極大を示す。
ここで、300nm付近の極大はI
-とI
2からなるポリヨウ素I
3
-の吸収に相当し、500nm付近の極大はPVAとI
3
-との錯体形成に伴うものであると考えられる。
なお、PVA-KIゲルへ2Gy/minの高線量率で照射した場合、やや低波長側の490nm付近に極大を示したが、時間とともに吸収スペクトルが変化し、最終的には0.3Gy/minと同様の吸収スペクトルになるものと考えられる。
【0101】
そのため、以下の実施例では、対比のため、線量率0.3Gy/minにて、500nmにおける吸光度を測定することとした。
【0102】
(実施例6)
慣用の方法により、ポリビニルアルコール(ケン化度88モル%、4質量%水溶液粘度(20℃)5mPa・s)を得た。
このポリビニルアルコールを使用した以外は、実施例5と同様にして、PVA-KIゲルを得、線量率0.3Gy/minにて、500nmにおける吸収スペクトル(吸光度)を測定した。
【0103】
(実施例7)
慣用の方法により、ポリビニルアルコール(ケン化度94モル%、4質量%水溶液粘度(20℃)5.5mPa・s)を得た。
このポリビニルアルコールを使用した以外は、実施例5と同様にして、PVA-KIゲルを得、線量率0.3Gy/minにて、500nmにおける吸収スペクトル(吸光度)を測定した。
【0104】
(実施例8)
慣用の方法により、ポリビニルアルコール(ケン化度88モル%、4質量%水溶液粘度(20℃)25mPa・s)を得た。
このポリビニルアルコールを使用した以外は、実施例5と同様にして、PVA-KIゲルを得、線量率0.3Gy/minにて、500nmにおける吸収スペクトル(吸光度)を測定した。
なお、ゲルは、実施例5(さらには実施例6~7)で得られたゲルに比べ、非常に硬いものであった。
【0105】
(実施例9)
慣用の方法により、ポリビニルアルコール(ケン化度72モル%、4質量%水溶液粘度(20℃)5.5mPa・s)を得た。
このポリビニルアルコールを使用した以外は、実施例5と同様にして、PVA-KIゲルの作成を試みたが、ホウ砂、果糖及びKIの水溶液20質量部と、PVA水溶液30質量部とを混合した際に、白濁し、ゲル状にならず固形部と液体部に分離した。
そのため、ディスポセルには液体部のみを注入したこと以外は、実施例5と同様にして、線量率0.3Gy/minにて、500nmにおける吸収スペクトル(吸光度)を測定した。
【0106】
実施例5~9で使用したポリビニルアルコールと、500nmにおける吸光度(線量率0.3Gy/min)をまとめた表を下記に示す。
【0107】
【0108】
上記の表からも明らかなように、いずれのPVAにおいても、十分な吸収が得られた。
【0109】
中でも、4質量%水溶液粘度が比較的高いPVA(実施例8)を利用すると、十分な吸収を得つつ、硬いゲルを得ることができた。
このことから、ゲルの取扱性や成形性等と十分な吸収とをバランス良く実現するという観点では、比較的高い4質量%水溶液粘度のPVAを使用するのが好ましいことがわかった。
【0110】
一方、非常に高い吸収を示すゲルを得るという観点からは、比較的小さい4質量%水溶液粘度のPVA(実施例5~7)を使用できることもわかった。
【0111】
また、けん化度が比較的低いPVA(実施例9)でも十分な吸収を示しており、ゲル(水性ゲル)の形態にかかわらず、使用できることがわかった。
【0112】
(実施例10)
慣用の方法により、ポリビニルアルコール(ケン化度96.5モル%、4質量%水溶液粘度(20℃)27.5mPa・s)を得た。
このポリビニルアルコールを使用した以外は、実施例5と同様にして、PVA-KIゲルを得た。ゲルは、実施例8同様に、非常に硬いものであった。
また、得られたゲルについて、実施例5と同様にして、線量率0.3Gy/minにて、500nmにおける吸光度を測定したが、吸光度は小さいものであった。このことから、十分な吸収のためには、ケン化度の選択が重要であることがわかった。
【0113】
(実施例11)
慣用の方法により、ポリビニルアルコール(ケン化度88モル%、4質量%水溶液粘度(20℃)200mPa・s)を得た。
このポリビニルアルコールを使用した以外は、実施例5と同様にして、PVA-KI組成物を得た。組成物のハンドリング性はやや悪く、これに伴いゲル形成性もやや悪くなった。
また、得られた組成物について、実施例5と同様にして、線量率0.3Gy/minにて、500nmにおける吸光度を測定したが、同様に十分な吸光度が得られた。このことから、ゲル形成性の点では、4質量%水溶液粘度の選択が重要であることがわかった。
【0114】
(実施例12)
慣用の方法により、ポリビニルアルコール(ケン化度88モル%、4質量%水溶液粘度(20℃)1500mPa・s)を得た。
このポリビニルアルコールを使用した以外は、実施例5と同様にして、PVA-KI組成物を得た。組成物のハンドリング性はかなり悪く、これに伴いゲル形成性もかなり悪くなった。
また、得られた組成物について、実施例5と同様にして、線量率0.3Gy/minにて、500nmにおける吸光度を測定したが、同様に十分な吸光度が得られた。このことから、ゲル形成性の点では、4質量%水溶液粘度として高すぎないものを選択することが重要であることがわかった。