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特開2023-152855レトルト用積層体、蓋体、包装容器及び包装物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152855
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】レトルト用積層体、蓋体、包装容器及び包装物品
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/085 20060101AFI20231005BHJP
   B65D 81/24 20060101ALI20231005BHJP
   B65D 81/22 20060101ALI20231005BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20231005BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B32B15/085 A
B65D81/24 N
B65D81/22
B65D65/40 D
B32B15/08 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045990
(22)【出願日】2023-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2022059320
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】高山 雅恵
(72)【発明者】
【氏名】植田 佳樹
【テーマコード(参考)】
3E067
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E067AA13
3E067AB95
3E067AC01
3E067BA02A
3E067BB14A
3E067BC02A
3E067BC07A
3E067CA06
3E067CA17
3E067CA24
3E067EA06
3E067EA32
3E067EB27
3E067FA01
3E067FC01
3E067GC02
3E086AB01
3E086AC07
3E086AD24
3E086BA04
3E086BA13
3E086BA15
3E086BA33
3E086BB02
3E086BB05
3E086BB41
3E086BB51
3E086CA35
4F100AB01B
4F100AB10B
4F100AB33B
4F100AK03C
4F100AK03E
4F100AK07C
4F100AK07E
4F100AK24C
4F100AK24E
4F100AK41
4F100AK41A
4F100AK42A
4F100AK46A
4F100AK63D
4F100AK68D
4F100AK71D
4F100AL07C
4F100AL07E
4F100AL09C
4F100AL09E
4F100AT00A
4F100BA04
4F100BA07
4F100CA02
4F100CB00C
4F100CB00E
4F100CB03D
4F100EH23C
4F100EH23D
4F100GB15
4F100GB16
4F100GB18
4F100JD02B
4F100JJ03
(57)【要約】
【課題】 本発明は、レトルト耐性と内容物耐性を高いレベルで両立したレトルト用積層体、それを用いた蓋体、包装容器及び包装物品を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の実施形態に係るレトルト用積層体は、基材層と、金属層と、接着層と、シーラント層とをこの順序で含む。上記接着層は、酸変性ポリプロピレンとオレフィン系エラストマー樹脂を含有する第1の接着層を少なくとも含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、金属層と、接着層と、シーラント層とをこの順序で含み、前記接着層は、酸変性ポリプロピレンPとオレフィン系エラストマー樹脂Pを含有する第1の接着層を少なくとも含むレトルト用積層体。
【請求項2】
前記酸変性ポリプロピレンPに対する前記オレフィン系エラストマー樹脂Pの配合比P/Pが5質量%以上40質量%以下である請求項1に記載のレトルト用積層体。
【請求項3】
前記酸変性ポリプロピレンPが無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンである請求項1に記載のレトルト用積層体。
【請求項4】
前記接着層は、前記第1の接着層と前記シーラント層との間に第2の接着層を含み、前記第2の接着層はランダムポリプロピレンPを含有する請求項1に記載のレトルト用積層体。
【請求項5】
前記第1の接着層の膜厚tと前記第2の接着層の膜厚tの比t/tが25/75乃至75/25の範囲内である請求項4に記載のレトルト用積層体。
【請求項6】
前記第2の接着層はオレフィン系エラストマー樹脂Pを更に含有する請求項4に記載のレトルト用積層体。
【請求項7】
前記ランダムポリプロピレンPに対する前記オレフィン系エラストマー樹脂Pの配合比P/Pが5質量%以上40質量%以下である請求項6に記載のレトルト用積層体。
【請求項8】
前記シーラント層はイージーピール性を有するシーラントである請求項1に記載のレトルト用積層体。
【請求項9】
蓋材である請求項1に記載のレトルト用積層体。
【請求項10】
121℃で30分間のレトルト処理後の前記レトルト用積層体において、前記第1の接着層に含有される前記酸変性ポリプロピレンPと前記オレフィン系エラストマー樹脂Pの混合物が下記式(1)で表される条件を満たす請求項1に記載のレトルト用積層体。
Tm1<Tm2 (1)
式中、Tm1は、示差走査熱量計を用いて、前記レトルト処理後の前記第1の接着層に含有される前記混合物について、下記条件1で1回目の昇温測定を行ったときに得られる吸熱ピークのうち、前記酸変性ポリプロピレンPに由来する吸熱ピークのピーク温度(℃)を示す。Tm2は、前記1回目の昇温測定後の前記混合物を下記条件2の降温条件で冷却した後、前記示差走査熱量計を用いて下記条件3で2回目の昇温測定を行ったときに得られる吸熱ピークのうち、前記酸変性ポリプロピレンPに由来する吸熱ピークのピーク温度(℃)を示す。
条件1:10℃/分の昇温速度で50℃から200℃まで加熱。
条件2:150℃/分の降温速度で200℃から50℃まで冷却。
条件3:10℃/分の昇温速度で50℃から200℃まで加熱。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか1項に記載のレトルト用積層体を含んだ蓋体。
【請求項12】
開口が設けられている容器本体と、前記開口を覆う請求項11に記載の蓋体とを備えた包装容器。
【請求項13】
前記容器本体は前記開口の周りにフランジを有し、前記蓋体は前記シーラント層を介して前記フランジにヒートシールされている請求項12に記載の包装容器。
【請求項14】
前記包装容器はコンタクトレンズ用包装容器である請求項12に記載の包装容器。
【請求項15】
請求項12に記載の包装容器と、前記包装容器に収容された物品とを備えた包装物品。
【請求項16】
前記物品がコンタクトレンズ及び保存液である請求項15に記載の包装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルト加熱殺菌用包材の用途に使用されるレトルト用積層体、それを用いた蓋体、包装容器及び包装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品等の包装に用いられる包装材料としては、一般に、内容物の変質や腐敗等を抑制し、それらの機能や性質を保持するために、水蒸気、酸素、その他の内容物を変質させる気体の進入を遮断するガスバリア性を有する積層フィルムが用いられている。
【0003】
積層フィルムがレトルト加熱殺菌用包材の用途に使用される場合、デラミネーション(積層された層の剥離)を起こさないレトルト耐性を有することが求められる。また、包装材料により包装される内容物には、アルカリ性物質、香料、界面活性剤、高沸点有機溶剤などを含有するものが多くあり、これらが積層フィルムのラミネート強度の低下を招いたり、剥離を生じさせることがあるため、内容物に起因するデラミネーションを起こさない内容物耐性も求められる。
【0004】
ガスバリア性積層フィルムの一例として、基材層、バリア層、シーラント層などを、それぞれ接着層を介して積層した積層体がある。上記バリア層にシーラント層を積層する方法として、一般的には、バリア層面に接着層としてアンカーコート層を設け、その上にシーラント層の樹脂を押し出しコートして積層する方法、またはバリア層面に予めフィルム状に製膜したシーラント層のフィルムを、接着層として二液硬化型ポリウレタン系接着剤などのドライラミネート用接着剤を用いて、ドライラミネーション法で貼り合わせて積層する方法が採られている。この場合、特にバリア層とシーラント層との間の接着層が内容物により侵される結果、積層体におけるラミネート強度の低下を招いたり、シーラント層がバリア層から剥離(デラミネーション)する問題があった。
【0005】
このような状況に対応するため、ラミネート加工に使用されるアンカーコート剤や接着剤の改良が行われている。例えば、特許文献1では、バリア層、接着層、及び熱可塑性樹脂層を備えた積層体において、接着層として、無水マレイン酸グラフト率が特定範囲に調整された無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンを主成分として含有する接着層が使用されている。また、特許文献2では、基材層、接着層、バリア層、アンカーコート層、及びポリオレフィン系樹脂層を備えた積層体において、アルコール耐性のあるアンカーコート剤が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-49896号公報
【特許文献2】特許第5915710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レトルト加熱殺菌用包材の用途に使用されるレトルト用積層体は、上述のとおり、レトルト耐性と内容物耐性が求められる。内容物耐性については、包装する内容物の種類に応じた内容物耐性が求められ、例えば、コンタクトレンズの収容容器に用いられる蓋材(以下において、「コンタクトレンズ用蓋材」という。)の場合、レトルト耐性と、コンタクトレンズの保存液中に含有される安息香酸に対する耐性が求められる。
【0008】
コンタクトレンズ用蓋材として、バリア層であるアルミニウム層とシーラント層との間の接着層としてドライラミネート用接着剤を用い、ドライラミネーション法で貼り合わせた蓋材を用いた場合、レトルト加熱殺菌後においてアルミニウム層とシーラント層間のラミネート強度が経時的に低下し、その結果デラミネーション(剥離)を引き起こすという問題があった。また、上述したアンカーコート剤を接着層に使用した積層体では、レトルト耐性が低いという問題があった。
【0009】
本発明は、レトルト耐性と内容物耐性を高いレベルで両立したレトルト用積層体、それを用いた蓋体、包装容器及び包装物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面によれば、基材層と、金属層と、接着層と、シーラント層とをこの順序で含み、上記接着層は、酸変性ポリプロピレンPとオレフィン系エラストマー樹脂Pを含有する第1の接着層を少なくとも含むレトルト用積層体が提供される。
【0011】
本発明の他の側面によれば、上記酸変性ポリプロピレンPに対する上記オレフィン系エラストマー樹脂Pの配合比P/Pが5質量%以上40質量%以下である上記側面に係るレトルト用積層体が提供される。
【0012】
本発明の更に他の側面によれば、上記酸変性ポリプロピレンPが無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンである上記側面の何れかに係るレトルト用積層体が提供される。
【0013】
本発明の更に他の側面によれば、上記接着層は、上記第1の接着層と上記シーラント層との間に第2の接着層を含み、上記第2の接着層はランダムポリプロピレンPを含有する上記側面の何れかに係るレトルト用積層体が提供される。
【0014】
本発明の更に他の側面によれば、上記第1の接着層の膜厚tと上記第2の接着層の膜厚tの比t/tが25/75乃至75/25の範囲内である上記側面に係るレトルト用積層体が提供される。
【0015】
本発明の更に他の側面によれば、上記第2の接着層はオレフィン系エラストマー樹脂Pを更に含有する上記側面の何れかに係るレトルト用積層体が提供される。
【0016】
本発明の更に他の側面によれば、上記ランダムポリプロピレンPに対する上記オレフィン系エラストマー樹脂Pの配合比P/Pが5質量%以上40質量%以下である上記側面に係るレトルト用積層体が提供される。
【0017】
本発明の更に他の側面によれば、上記シーラント層はイージーピール性を有するシーラントである上記何れかの側面に係るレトルト用積層体が提供される。
【0018】
本発明の更に他の側面によれば、蓋材である上記側面の何れかに係るレトルト用積層体が提供される。
【0019】
本発明の更に他の側面によれば、121℃で30分間のレトルト処理後の上記レトルト用積層体において、上記第1の接着層に含有される上記酸変性ポリプロピレンPと上記オレフィン系エラストマー樹脂Pの混合物が下記式(1)で表される条件を満たす上記側面の何れかに係るレトルト用積層体が提供される。
Tm1<Tm2 (1)
式中、Tm1は、示差走査熱量計を用いて、上記レトルト処理後の上記第1の接着層に含有される上記混合物について、下記条件1で1回目の昇温測定を行ったときに得られる吸熱ピークのうち、上記酸変性ポリプロピレンPに由来する吸熱ピークのピーク温度(℃)を示す。Tm2は、上記1回目の昇温測定後の上記混合物を下記条件2の降温条件で冷却した後、上記示差走査熱量計を用いて下記条件3で2回目の昇温測定を行ったときに得られる吸熱ピークのうち、上記酸変性ポリプロピレンPに由来する吸熱ピークのピーク温度(℃)を示す。
条件1:10℃/分の昇温速度で50℃から200℃まで加熱。
条件2:150℃/分の降温速度で200℃から50℃まで冷却。
条件3:10℃/分の昇温速度で50℃から200℃まで加熱。
【0020】
本発明の更に他の側面によれば、上記側面の何れかに係るレトルト用積層体を含んだ蓋体が提供される。
【0021】
本発明の更に他の側面によれば、開口が設けられている容器本体と、上記開口を覆う上記側面に係る蓋体とを備えた包装容器が提供される。
【0022】
本発明の更に他の側面によれば、上記容器本体は上記開口の周りにフランジを有し、上記蓋体は上記シーラント層を介して上記フランジにヒートシールされている上記側面に係る包装容器が提供される。
【0023】
本発明の更に他の側面によれば、上記包装容器はコンタクトレンズ用包装容器である上記側面の何れかに係る包装容器が提供される。
【0024】
本発明の更に他の側面によれば、上記側面の何れかに係る包装容器と、上記包装容器に収容された物品とを備えた包装物品が提供される。
【0025】
本発明の更に他の側面によれば、上記物品がコンタクトレンズ及び保存液である上記側面に係る包装物品が提供される。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、レトルト耐性と内容物耐性を高いレベルで両立したレトルト用積層体、それを用いた蓋体、包装容器及び包装物品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係るレトルト用積層体の一例を概略的に示す部分断面図である。
図2図2は、本発明の第1実施形態に係るレトルト用積層体の他の例を概略的に示す部分断面図である。
図3図3は、本発明の第3実施形態に係る包装容器を概略的に示す断面図である。
図4図4は、例1及び比較例1において、1回目の昇温測定で得たDSC曲線を示すグラフである。
図5図5は、例1及び比較例1において、2回目の昇温測定で得たDSC曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態は、上記側面の何れかをより具体化したものである。同様又は類似した機能を有する要素については、同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0029】
なお、本開示において、「AAをBBの上に」という記載は、重力方向とは無関係に使用している。「AAをBBの上に」という記載によって特定される状態は、AAがBBと接触した状態を包含する。「AAをBBの上に」という記載は、AAとBBとの間に他の1以上の構成要素を介在させることを除外するものではない。
【0030】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係るレトルト用積層体は、基材層と、金属層と、接着層と、シーラント層とをこの順序で含み、上記接着層は、酸変性ポリプロピレンとオレフィン系エラストマー樹脂を含有する第1の接着層を少なくとも含む。
【0031】
金属層とシーラント層とをドライラミネーション用接着剤を用いてドライラミネーション法で貼り合わせた場合、耐内容物性が低く、ラミネート強度が経時的に低下しデラミネーション(剥離)を引き起こす問題があった。これを改善するためには長時間にわたる接着剤養生が必要であり、ドライラミネーション法で貼り合わせた場合は短時間での製造は困難であった。これに対し、本実施形態において金属層とシーラント層間の接着層として上記第1の接着層を使用することにより、そのような養生時間を必要とすることなく内容物耐性を改善することが可能となった。また、酸変性ポリプロピレンからなる押出層を使用した場合に比べ、レトルト耐性が改善されており、本実施形態に係るレトルト用積層体は、レトルト耐性及び内容物耐性の双方を高いレベルで両立している。
【0032】
図1は、本発明の第1実施形態に係るレトルト用積層体の一例を概略的に示す部分断面図である。図1に示されるレトルト用積層体10は、基材層11と、印刷層12と、第3の接着層13と、金属層14と、接着層15(第1の接着層15a)と、シーラント層16とを含んでいる。このうち印刷層12と第3の接着層13は、必要に応じて形成される任意の層である。レトルト用積層体10に含まれる各層について、以下に説明する。
【0033】
(基材層)
基材層11としては、例えば、樹脂フィルムを用いることができる。
樹脂フィルムを形成する樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン-2、6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートやこれらの共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ナイロン-6、ナイロン-66、ナイロン-12等のポリアミド系樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等の水酸基含有重合体等が挙げられる。中でも、PETやポリアミド系樹脂が好ましく用いられる。これらの樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
基材層11は、延伸フィルムであってもよく、未延伸フィルムであってもよい。なかでも、機械的強度や寸法安定性に優れる点から、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムが好ましく、二軸延伸フィルムがより好ましい。
【0035】
基材層11は、1枚の基材フィルムからなる単層構成であってもよく、2枚以上の基材フィルムが積層された複層構成であってもよい。
基材層11の厚さは特に限定されないが、一例によれば3μm乃至200μmであってよく、他の例によれば6μm乃至30μmであってよい。
【0036】
(印刷層)
印刷層12は、基材層11における金属層14側の主面(印刷面)上に形成されている。印刷層12は、印刷面の全体を覆ってもよいし、印刷面の一部のみを覆ってもよい。
【0037】
印刷層12を形成するためのインキは、有色顔料を含むインキであってもよいし、有色顔料を含まないインキであってもよい。有色顔料を含まないインキは、例えば、メジウムおよびワニスなどである。インキの溶媒は、例えば、エステル類、アルコール類、ケトン類、および、芳香族炭化水素類などであってよい。エステル類は、例えば、酢酸エチル、および、酢酸ブチルなどであってよい。アルコール類は、例えば、メタノール、エタノール、および、イソプロピルアルコールなどであってよい。ケトン類は、例えばメチルエチルケトンであってよい。芳香族炭化水素類は、例えば、トルエン、および、キシレンなどであってよい。溶媒には、1種の溶媒のみを用いてもよいし、2種以上の溶媒を混合して用いてもよい。なお、VOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)を低減する観点からは、水系の溶媒が好ましい。
【0038】
(第3の接着層)
第3の接着層13は、基材層11及び印刷層12からなる外層側積層体の印刷層12を、金属層14に接着するための層である。第3の接着層13の形成には、各種の接着剤を用いることが可能である。接着剤は、例えばドライラミネート法を用いて印刷層12と金属層14とを接着する接着剤であってよい。接着剤は、例えば、アクリル系接着剤、ポリエステル系接着剤、および、ポリウレタン系接着剤などであってよい。
【0039】
(金属層)
金属層14は、外部から包装材内部に水蒸気等が浸入することを防止するためのバリア性や遮光性を付与するバリア層で、アルミニウム箔、錫箔、銀箔、銅箔、ニッケル箔、などの単一元素で形成される金属箔や、黄銅箔、ステンレス箔、洋白箔、アルミニウム合金箔、などの合金で形成される金属箔が使用できる。これらのうち、特にアルミニウム箔が、展延性が高く、2次加工した時の形状に沿って変形し易く、かつ、安価であるため、金属層14として好適に使用される。
【0040】
金属層14の厚さは、例えば、6μm乃至50μmの範囲内において用途に応じて適宜設定することができる。例を挙げると、本実施形態に係るレトルト用積層体が蓋材に用いられる場合、デッドホールド性の観点からある程度厚みがあった方が好ましく、金属層14の厚さは30μm乃至50μmの範囲であってよい。また、本実施形態に係るレトルト用積層体がパウチ等に用いられる場合、包装材料としてのフレキシブル性の観点から、金属層14の厚さは6μm乃至15μmの範囲であってよい。
【0041】
(防腐コート層)
本実施形態に係るレトルト用積層体は、金属層14と第1の接着層15aとの間に、図示しない防腐コート層を更に含んでいてよい。防腐コート層は、金属層14と第1の接着層15aとに接して金属層14の腐食を抑える。防腐コート層は、一形態において、金属原子と合成樹脂とを含んでいる。
【0042】
防腐コート層に含有される金属原子は、例えば、Ti、W、Mn、Zr及びCeから構成される群から選択される少なくとも1種であってよく、これら金属原子の何れかを含む金属化合物として含有されてもよい。金属化合物としては、酸化物、水酸化物、錯化合物、無機酸及び有機酸などが挙げられる。
【0043】
防腐コート層に含有される合成樹脂は、例えば、ポリエステル系共重合体、(メタ)アクリル系重合体、(メタ)アクリル系共重合体、ポリビニル系重合体、又はポリビニル系共重合体などであってよい。なお、防腐コート層は、金属層14における第1の接着層15a側の面の全体を覆ってもよいし、一部を覆ってもよい。
【0044】
防腐コート層が金属層14における第1の接着層15a側の面の少なくとも一部を被覆することにより、内容物によって金属層14が腐食することが抑えられる。これにより、金属層14の腐食に起因して金属層14と第1の接着層15aとの間においてデラミネーションが生じることが抑えられる。
【0045】
(押出接着層:第1の接着層)
金属層14とシーラント層16との間に介在する接着層15は、単層構造であってもよく、複層構造であってもよい。図1に示されるレトルト用積層体10は、接着層15が単層構造の例であり、接着層15が第1の接着層15aからなる。接着層15が複層構造からなる変形例については後述する。
【0046】
第1の接着層15aは、オレフィン系エラストマー樹脂が添加された酸変性ポリプロピレンを含む。以下において、第1の接着層15aの形成に用いられる、酸変性ポリプロピレンとオレフィン系エラストマー樹脂との混合物を「第1の接着層形成用樹脂ブレンド」という。第1の接着層15aは、第1の接着層形成用樹脂ブレンドを溶融押出しすることにより形成される押出層である。
【0047】
本発明者らの鋭意研究により、金属層14とシーラント層16とをドライラミネーション法で貼り合わせることに替えて、接着層として酸変性ポリプロピレンからなる押出層を介在させた場合、内容物耐性は向上するが、レトルト殺菌直後における金属層14とシーラント層16間の接着強度(以下において、「初期ラミネート強度」又は「初期強度」という。)は高くないことがわかった。そして、更なる鋭意研究の結果、酸変性ポリプロピレンにオレフィン系エラストマー樹脂を添加することにより、上記2層間の初期ラミネート強度が飛躍的に改善し、これに伴い内容物耐性も更に改善され、レトルト耐性と内容物耐性を高いレベルで両立したレトルト用積層体を提供することが可能となることが見出された。
【0048】
・酸変性ポリプロピレン
酸変性ポリプロピレンとしては、ポリプロピレンを、例えば、不飽和カルボン酸もしくはその誘導体により変性したものが挙げられる。不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸誘導体としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸等が挙げられる。本実施形態において、酸変性ポリプロピレンとして、無水マレイン酸変性ポリプロピレンが好適に使用される。
【0049】
本実施形態において、無水マレイン酸変性ポリプロピレンとして、例えば、無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンが好適に使用される。無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンは、ポリプロピレンを無水マレイン酸によってグラフト変性したポリプロピレンである。このような変性ポリプロピレンを生成するためのポリプロピレンは、例えば、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、及びプロピレン-αオレフィン共重合体などであってよい。αオレフィンは、例えば、エチレン、及び1-ブテンなどであってよい。
【0050】
無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンの融点は、一例において、100℃以上であることが好ましい。これにより、レトルト耐性を高めることができる。無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンにおける無水マレイン酸のグラフト率は、一例において、0.1質量%以上1質量%以下であってよい。グラフト率が0.1質量%以上であることによって、十分な接着強度を得ることができ、これによって、殺菌時においてデラミネーションが生じることが抑えられる。グラフト率が1質量%以下であることによって、無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンにおける樹脂特性が安定に保たれる。グラフト率が1質量%を超える場合には、ポリプロピレンをグラフト化する際に用いる反応触媒が、ポリプロピレン本体の分解を促す傾向があり、これによって変性ポリプロピレンの分子量が小さくなる場合がある。これにより、無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンのMFR(Melt Flow Rate:メルトフローレート)が極端に上昇して製膜適正が失われたり、皮膜強度が低下して接着強度が得られなかったりする可能性がある。そのため、無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンにおけるグラフト率は1質量%以下であることが好ましい。
【0051】
・オレフィン系エラストマー樹脂
酸変性ポリプロピレンにオレフィン系エラストマー樹脂を添加することで柔軟性が付与される。オレフィン系エラストマー樹脂は、例えば、エチレン系エラストマー、プロピレン系エラストマー、ブテン系エラストマーであってよい。酸変性ポリプロピレンとの相溶性の観点からは、プロピレン系エラストマーが好ましい。
【0052】
第1の接着層15aにおいて、酸変性ポリプロピレン(P)に対するオレフィン系エラストマー樹脂(P)の配合比(P/P)は、一例によれば、5質量%以上40質量%以下であってよく、他の例によれば10質量%以上30質量%以下であってよい。
【0053】
第1の接着層15aの厚さ(t)は、一例によれば7μm以上40μm以下であってよく、他の例によれば10μm以上30μm以下であってよい。
【0054】
(シーラント層)
シーラント層16としては、例えば、加熱によって溶融し相互に融着し得るヒートシール性を有する樹脂のフィルムないしシートを使用して形成することができる。例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、メチルペンテンポリマー、ポリブテンポリマー等の樹脂のフィルムないしシート、あるいは上記に挙げた樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物のコーティング膜等を使用することができる。シーラント層16は、単層構造であってもよく、複層構造であってもよい。
【0055】
レトルト用積層体10が蓋材として用いられる場合、シーラント層16の少なくとも最内面、すなわち容器本体に接着される面は、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、あるいは、エチレン-メタクリル酸共重合体樹脂、エチレン-アクリル酸共重合体樹脂などの酸コポリマー樹脂を主成分とした混合樹脂からなるイージーピールシーラント樹脂層であることが好ましい。
【0056】
上記のイージーピールシーラント樹脂は、容器本体のフランジ部の素材と熱シールできる樹脂を主成分とし、混合する副成分として、容器本体のフランジ部の素材と熱シールされることが無く、主成分と相溶性が無い、あるいは低い樹脂を用いて混合して、主成分を海とし、副成分を島とする海島構造の混合樹脂となったものが好適なものとして例示できる。この様なイージーピールシーラント樹脂は、イージーピール樹脂またはイージーピールフィルムとして市販されており、これらを使用してもよい。
【0057】
本実施形態において、シーラント層16を形成する方法としては、溶融押出コーティング法、加熱溶融したホットメルト用組成物をグラビアシリンダーで塗布するグラビアホットメルトコーティング法等によって形成することができるが、これらに限らず公知のコーティング法から適宜選択して採用することができる。
【0058】
シーラント層16の厚みは、特に制限されない。レトルト用積層体10が蓋材に用いられる場合、一例によれば、20μm以上60μm以下が好ましく用いられる。20μm未満では、容器本体のフランジ部の微細な凹凸に対応できなかったり、シール時の圧力が均一に伝わらなかったりして、シール不良を起こす可能性がある。一方、60μmより厚いと、シール時の熱が伝わりづらく、シーラント層16の蓋材としての外側の方が早く溶解して、シールの圧力によって未シール側に押し出され、きれいにシールできず、また、開封するときイージーピール性が悪くなる可能性がある。また、開封してフタを折り曲げるとき腰が強くなっているので、折り曲げにくくなる傾向がある。
【0059】
<製造方法>
レトルト用積層体10の製造方法の一例を説明する。レトルト用積層体10を製造する際には、まず、基材層11を準備し、基材層11の一方の主面に、印刷層12を形成する。印刷層12の印刷方法は、例えば、グラビア印刷、フレキソ印刷などであってよい。次いで、印刷層12上に第3の接着層13をドライラミネーション法によって形成する。次に、金属層14を準備し、この第3の接着層13を間に挟んで印刷層12と向き合うように金属層14を貼り合わせることにより、基材層11/印刷層12/第3の接着層13/金属層14からなる外層側積層体を得る。
【0060】
一方で、シーラント層16を準備する。そして、第1の接着層形成用樹脂ブレンドの溶融押出により形成される第1の接着層15aを、上記外層側積層体の金属層14とシーラント層16との間に挟んでサンドイッチラミネーション法により貼り合わせる。これによって、レトルト用積層体10を得ることができる。サンドイッチラミネーション法によりレトルト用積層体10を形成した後に、レトルト用積層体10に対し酸変性ポリプロピレンの融点以上の温度で加熱処理を行ってもよい。
【0061】
なお、別の形態として、第1の接着層15aの押出層を介してサンドイッチラミネーション法によって金属層14とシーラント層16とを貼り合わせることにより、シーラント層16/第1の接着層15a/金属層14からなる内層側積層体を得、次いで、基材層11/印刷層12からなる外層側積層体の印刷層12と上記内層側積層体の金属層14とを、第3の接着層13を介して張り合わせることにより、レトルト用積層体10を得ることもできる。
【0062】
レトルト処理後のレトルト用積層体10において、第1の接着層15aに含有される酸変性ポリプロピレンの融点は、オレフィン系エラストマー樹脂が添加されていない場合の酸変性ポリプロピレンの融点とは異なる挙動を示すことが見出された。
すなわち、レトルト用積層体10のレトルト処理後において、第1の接着層15aに含有される酸変性ポリプロピレンとオレフィン系エラストマー樹脂の混合物(以下において、「樹脂ブレンド」という。)に対し、示差走査熱量計(DSC:Differential Scanning Calorimeter)を用いて、所定の昇温プログラム(例えば、条件1)で1回目の加熱を施したときに得られる酸変性ポリプロピレン由来の吸熱ピークのピーク温度を融点Tm1とする。1回目の加熱後の上記樹脂ブレンドに対し、所定の冷却プログラム(例えば、条件2)で冷却を施し、次いで所定の昇温プログラム(例えば、条件3)で2回目の加熱を施したときに得られる酸変性ポリプロピレン由来の吸熱ピークのピーク温度を融点Tm2とする。樹脂ブレンド中の酸変性ポリプロピレンは、上記融点Tm1及びTm2が下記式(1)の関係を満たす。
【0063】
一方、第1の接着層15a中にオレフィン系エラストマー樹脂を添加しないレトルト用積層体において、レトルト処理後の当該接着層中の酸変性ポリプロピレンの融点は、以下の挙動を示す。
すなわち、レトルト用積層体のレトルト処理後において、オレフィン系エラストマー樹脂が添加されていない当該接着層に含有される酸変性ポリプロピレンに対し、DSCを用いて所定の昇温プログラム(例えば、条件1)で1回目の加熱を施したときに得られる酸変性ポリプロピレン由来の吸熱ピークのピーク温度を融点Tm1cとする。1回目の加熱後の上記酸変性ポリプロピレンに対し、所定の冷却プログラム(例えば、条件2)で冷却を施し、次いで所定の昇温プログラム(例えば、条件3)で2回目の加熱を施したときに得られる酸変性ポリプロピレン由来の吸熱ピークのピーク温度を融点Tm2cとする。オレフィン系エラストマー樹脂が添加されていない酸変性ポリプロピレンは、上記融点Tm1c及びTm2cが下記式(2)の関係を満たす。
また、上記融点Tm1とTm1cは、更に下記式(3)の関係を満たす。樹脂ブレンドでは、オレフィン系エラストマー樹脂の添加により酸変性ポリプロピレンの結晶化が阻害されるため、式(3)のような関係になると推測される。
【0064】
Tm1<Tm2 (1)
Tm1c>Tm2c (2)
Tm1<Tm1c (3)
【0065】
レトルト処理後のレトルト用積層体10に含まれる第1の接着層15aにおいて、樹脂ブレンド中の酸変性ポリプロピレンの融点Tm1とTm2の差(Tm2-Tm1)は、例えば2乃至12℃の範囲内であってよい。また、Tm1は、例えば128乃至133℃の範囲内であってよい。また、Tm2は、例えば135乃至140℃の範囲内であってよい。
【0066】
ここで、レトルト処理条件、並びに、条件1乃至3は、例えば以下である。
<レトルト処理>
121℃、30分間。
<条件1:1回目の昇温条件>
10℃/分の昇温速度で50℃から200℃まで加熱。
<条件2:冷却条件>
150℃/分の降温速度で200℃から50℃まで冷却。
<条件3:2回目の昇温条件>
10℃/分の昇温速度で50℃から200℃まで加熱。
【0067】
<変形例>
本実施形態に係るレトルト用積層体には、様々な変形が可能である。上述したように、本実施形態に係るレトルト用積層体は、接着層15が複層構造であってよく、以下に図2を参照しながら説明するように、接着層15は、第1の接着層と第2の接着層を含んでいてよい。なお、図1を参照しながら説明した事項は、単独で又は複数を組み合わせて、ここに記載する変形例に係るレトルト用積層体へ適用することができる。
【0068】
図2は、本実施形態に係るレトルト用積層体の他の例を概略的に示す部分断面図である。
図2に示すレトルト用積層体20は、基材層11と、印刷層12と、第3の接着層13と、金属層14と、接着層15として第1の接着層15a及び第2の接着層15bと、シーラント層16とをこの順序で含んでいる。
【0069】
すなわち、レトルト用積層体20は、接着層15が第1の接着層15aと第2の接着層15bからなる複層構造を有すること以外は、図1を参照しながら説明したレトルト用積層体10と同様である。
【0070】
(共押出接着層:第1の接着層及び第2の接着層)
レトルト用積層体20において、接着層15は、第1の接着層15aと第2の接着層15bとからなる。第1の接着層15aは、上述したように、酸変性ポリプロピレンとオレフィン系エラストマー樹脂とを含有する。第2の接着層15bは、ランダムポリプロピレンを含有する。
【0071】
第1の接着層15aと第2の接着層15bは、金属層14とシーラント層16との間に共押出しラミネートされた共押出層であってよい。第1の接着層形成用樹脂ブレンドがランダムポリプロピレンと共押出しされることにより、第1の接着層形成用樹脂ブレンドの押出幅が所望とする押出幅に対して小さくなること(ネックイン)が抑制され、その結果、引き取り性が改善される。
【0072】
第2の接着層15bはランダムポリプロピレンを主成分として含有する。第2の接着層15bがランダムポリプロピレンを含有することにより、例えば、ホモポリプロピレンを含有する場合に比べ、ポリプロピレンの結晶性を低めることができ、共押出時における流動性を高めることが可能である。これにより、第1の接着層形成用樹脂ブレンドの押出幅が、所望とする押出幅に対して小さくなることがより抑えられる。
【0073】
第2の接着層15bは、オレフィン系エラストマー樹脂を更に含有してよい。ランダムポリプロピレンにオレフィン系エラストマー樹脂が添加されることにより、柔軟性が付与され、レトルト殺菌直後における金属層14とシーラント層16間の初期ラミネート強度が更に向上し、同時に内容物耐性も更に向上する。以下において、第2の接着層の形成に用いられるランダムポリプロピレンとオレフィン系エラストマー樹脂の混合物を「第2の接着層形成用樹脂ブレンド」という。第2の接着層形成用樹脂ブレンドに使用されるオレフィン系エラストマー樹脂は、第1の接着層形成用樹脂ブレンドに使用されるオレフィン系エラストマー樹脂と同様である。
【0074】
第2の接着層15bがオレフィン系エラストマー樹脂を含有する場合、ランダムポリプロピレン(P)に対するオレフィン系エラストマー樹脂(P)の配合比(P/P)は、一例によれば、5質量%以上40質量%以下であってよく、他の例によれば10質量%以上30質量%以下であってよい。
【0075】
第2の接着層15bの厚さ(t)は、一例によれば7μm以上30μm以下であってよく、他の例によれば10μm以上25μm以下であってよい。
【0076】
また、第1の接着層15aの膜厚(t)と第2の接着層15bの膜厚(t)の比(t/t)は、例えば引き取り性改善の観点からは、25/75乃至75/25の範囲内において適宜設定することが好ましい。第2の接着層15bの膜厚tが第1の接着層15aの膜厚tより厚い方が、加工速度を上げても押出樹脂が切れ難く引き取り性がより改善されるため、かかる観点からは、t/tは25/75乃至1/2の範囲であることがより好ましい。
【0077】
<製造方法>
レトルト用積層体20の製造方法の一例を説明する。まず、レトルト用積層体10の製造方法で説明したのと同様の方法により、基材層11/印刷層12/第3の接着層13/金属層14からなる外層側積層体を得る。
【0078】
一方で、シーラント層16を準備する。そして、溶融した第1の接着層形成用樹脂ブレンドと、溶融したランダムポリプロピレンとの共押出しにより形成される第1の接着層15aと第2の接着層15bからなる共押出層を、上記外層側積層体の金属層14とシーラント層16との間に挟んでサンドイッチラミネーション法により貼り合わせる。これによって、レトルト用積層体20を得ることができる。サンドイッチラミネーション法によりレトルト用積層体20を形成した後に、レトルト用積層体20に対し、酸変性ポリプロピレンの融点以上の温度で加熱処理を行ってもよい。
【0079】
なお、他の形態として、第1の接着層15aと第2の接着層15bからなる共押出層を介して、サンドイッチラミネーション法によって金属層14とシーラント層16とを貼り合わせることにより、シーラント層16/第2の接着層15b/第1の接着層15a/金属層14からなる内層側積層体を得、次いで、基材層11/印刷層12からなる外層側積層体の印刷層12と上記内層側積層体の金属層14とを、第3の接着層13を介して張り合わせることにより、レトルト用積層体20を得ることもできる。
【0080】
上述した本発明の第1実施形態に係るレトルト用積層体は、例えば、レトルト殺菌包装容器用の蓋材として好適に用いることができる。
【0081】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係る蓋体は、上述した第1実施形態に係るレトルト用積層体から得られる蓋体である。第2実施形態に係る蓋体の一例は、後で図3を参照しながら説明する蓋体31である。本実施形態に係る蓋体は、レトルト用積層体10及び20に関連して説明した通り、レトルト耐性及び内容物耐性に優れている。内容物耐性としては、特に安息香酸に対する耐性に優れている。このため本実施形態に係る蓋体は、保存液中に含有される安息香酸耐性およびレトルト耐性が要求されるコンタクトレンズ用包装容器の蓋体として好適に用いることができる。
【0082】
[第3実施形態]
図3は、本発明の第3実施形態に係る包装容器を概略的に示す断面図である。図3に示す包装容器30は、開口が設けられている容器本体32と、上記開口を覆う蓋体31とを備えている。
【0083】
容器本体32は、例えば、有底筒状である。容器本体32は、ここでは、底部と胴部(又は側壁部)とフランジ32aとを備えている。フランジ32aは、胴部の上方開口の位置で外側へ向けて広がっている。
【0084】
容器本体32は、例えば、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂を含む。容器本体32は、そのガスバリア性を高めるために、エチレン-ビニルアルコール共重合体等の成分を更に含んでいてもよい。また、容器本体32は、添加剤、例えば、加工性、意匠性、及び化学的耐久性の向上を目的とした添加剤を更に含んでいてもよい。
【0085】
容器本体32は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。この多層構造は、二層構造であってもよく、3以上の層を含むものであってもよい。後者の場合、多層構造は、ガスバリア層、例えば上述したエチレン-ビニルアルコール共重合体等の成分を含んだ層を中間層として含んでいてもよい。
【0086】
蓋体31は、上述したレトルト用積層体10及び20の一方であるか、又は、それらの一方を切り出したものである。蓋体31は、容器本体32内への内容物を収容後に、シーラント層16を介してフランジ32aにヒートシールされる。このヒートシールにおいて、シール温度、シール圧力、及びシール時間は、適宜設定することができる。
【0087】
蓋体31は、上記の通り、レトルト耐性及び内容物耐性に優れており、内容物耐性としては、特に安息香酸に対する耐性に優れている。このため本実施形態に係る包装容器は、例えば、保存液中に含有される安息香酸耐性およびレトルト耐性が要求されるコンタクトレンズ用包装容器として好適に用いることができる。
【0088】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態に係る包装物品は、上述した第3実施形態に係る包装容器に物品を収容してなるものである。収容される物品は、特に限定されるものではないが、一例によればコンタクトレンズ及び保存液である。
【実施例0089】
以下に、本発明に関連して行った試験について記載する。
(第1の接着層形成用樹脂ブレンドの調製)
無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレン(融点ピーク:141℃、密度:0.90g/cm、MFR:15g/10分)と、プロピレン系エラストマー樹脂(タフマー(登録商標)PN3560、三井化学(株)社製)を、無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレン/プロピレン系エラストマー樹脂=80/20の質量比でドライブレンドすることにより、第1の接着層形成用樹脂ブレンドを得た。
【0090】
(第2の接着層形成用樹脂ブレンドの調製)
ランダムポリプロピレン(プライムポリプロ F329RA、(株)プライムポリマー製)と、プロピレン系エラストマー樹脂(タフマー(登録商標)PN3560、三井化学(株)社製)を、ランダムポリプロピレン/プロピレン系エラストマー樹脂=80/20の質量比でドライブレンドすることにより、第2の接着層形成用樹脂ブレンドを得た。
【0091】
(例1)
本発明の一実施形態に係るレトルト用積層体を、以下の方法により製造した。ここで製造するレトルト用積層体は、図1に示すレトルト用積層体10に対し、印刷層12を含まない積層体である。
先ず、基材層11として、16μmの厚さを有したポリエステルフィルム(FE2001、フタムラ化学(株)製)と、金属層14として、50μmの厚さを有したアルミニウム箔(東洋アルミ(株)製)を準備した。接着剤としてエステル主鎖を含む主剤(A525、三井化学(株)製)と硬化剤(A52、三井化学(株)製)の混合液を、基材層11の一方の主面に塗布し、第3の接着層13を形成した。第3の接着層13を介して、基材層11と金属層14とを貼り合わせることにより、基材層11/第3の接着層13/金属層14からなる外層側積層体を得た。
【0092】
一方で、シーラント層16として、厚さ35μmのイージーピールシーラント(TP6、オカモト(株)製)を準備した。上掲で調製した第1の接着層形成用樹脂ブレンドを溶融押出しして形成した厚み18μmの第1の接着層15aを、上記外層側積層体の金属層14とシーラント層16との間に挟んでサンドイッチラミネーション法により貼り合わせることにより、レトルト用積層体を得た。得られたレトルト用積層体を、140℃で15秒間、ヒーターロールに抱かせるように熱を加えることにより、レトルト用積層体101を得た。
【0093】
(例2)
本発明の他の実施形態に係るレトルト用積層体を、以下の方法により製造した。ここで製造するレトルト用積層体は、図2に示す積層体20に対し、印刷層12を含まない積層体である。
【0094】
まず、例1と同様の条件及び方法により、基材層11/第3の接着層13/金属層14からなる外層側積層体を得た。
【0095】
一方で、シーラント層16として、厚さ35μmのイージーピールシーラント(TP6、オカモト(株)製)を準備した。上掲で調製した第1の接着層形成用樹脂ブレンドと第2の接着層形成用樹脂ブレンドとを、溶融共押出しすることにより形成した厚み12μmの第1の接着層15aと厚み12μmの第2の接着層15bからなる共押出層を、上記外層側積層体の金属層14とシーラント層16との間に挟んでサンドイッチラミネーション法により貼り合わせることにより、レトルト用積層体を得た。得られたレトルト用積層体を、140℃で15秒間、ヒーターロールに抱かせるように熱を加えることにより、レトルト用積層体102を得た。
【0096】
(例3)
例2に対し、第2の接着層形成用樹脂ブレンドに替えて、プロピレン系エラストマー樹脂を添加していないランダムポリプロピレン(プライムポリプロ F329RA、(株)プライムポリマー製)を使用したこと以外は、例2と同様の条件及び方法で、レトルト用積層体103を製造した。
【0097】
(比較例1)
例1に対し、第1の接着層形成用樹脂ブレンドに替えて、プロピレン系エラストマー樹脂を添加していない上記無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンを使用したこと以外は、例1と同様の条件及び方法で、レトルト用積層体101Cを製造した。
【0098】
(比較例2)
例1に対し、第1の接着層形成用樹脂ブレンドに替えて、上記第3の接着層13の形成に用いた接着剤を用い、ドライラミネート法により金属層14とシーラント層16とを接着したこと以外は、例1と同様の条件及び方法で、レトルト用積層体102Cを製造した。
【0099】
<評価方法>
(レトルト耐性及び内容物耐性)
レトルト用積層体から2枚のシートを切り出した。次いで、シーラント層16同士が接するように2枚のシートを重ねた。そして、重ねた2枚のシートにおける3辺をシールすることによって、袋体を得た。続いて、飽和t-ブチル安息香酸水を袋体に充填し、袋体においてシールされていない1辺をシールした。その後、121℃において30分間にわたって袋体をレトルト加熱殺菌した。こうした袋体を各積層体について15個作製した。
【0100】
各積層体について作製した15個の袋体のうち、12個の袋体を加速試験のための試験環境に保管し、1週間後、2週間後、3週間後、及び、4週間後のそれぞれにおいて袋体を3個ずつ取り出した。試験環境では、温度70℃、湿度フリーに設定した。次いで、各袋体においてシールされていない部分から15mmの幅を有したサンプルを切り出した。また、試験環境に配置しなかった残りの3個の袋体において、シールさせていない部分から15mmの幅を有したサンプルを切り出した。そして、引張・圧縮試験機(RTF-1250、(株)エー・アンド・デイ製)によって、各サンプルにおけるアルミニウム箔と接着層との接着強度を測定した。この際、剥離速度を300mm/分に設定した。各積層体における接着強度は、以下の表1に示す通りであった。なお、表1に示される各値は、3個のサンプルにおける接着強度の平均値である。
【0101】
(引き取り性)
例1及び比較例1の各積層体については、押出温度を同一とし、且つ、ラミネートした際の第1の接着層15aの厚みが同一となるような条件で、第1の接着層形成用の樹脂を押出しながら引取速度を上げていき、押出された樹脂が破断した際の引取速度を最高引取速度とした。最高引取速度が高いほど、押出ラミネート加工時の引き取り性に優れる。結果を表1に示す。
【0102】
例2及び例3の各積層体については、第1の接着層形成用樹脂ブレンドと、第2の接着層形成用樹脂組成物の溶融物を共押出しし、共押出しされた溶融物について上記と同様の条件で最高引取速度を測定した。結果を表1に示す。
【0103】
(開封性)
各積層体を蓋材として用い、開封時における二重蓋の有無による開封性について評価した。ポリプロピレンから形成された容器本体に、内容物として飽和t-ブチル安息香酸水を充填し、容器本体のフランジ部に各積層体を用いて形成された蓋体をヒートシールすることにより、密封された包装容器を作製した。その後、121℃において30分間にわたって密封包装容器をレトルト処理した。その後、蓋体を開封したときの二重蓋の有無を確認した。結果を表1に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
<熱特性(融点)>
例1及び比較例1の各積層体ついて、121℃で30分間のレトルト処理を施した。次いで、各積層体の金属層14(アルミニウム箔)/第1の接着層15a間を剥離し、第1の接着層15aの表面を削ることによりDSC測定用サンプルを採取した。採取した各サンプルをDSC装置(Perkinelmer社製、商品名「DSC8000」)のアルミニウム製測定用容器に詰め、下記条件によりDSC測定を行った。
【0106】
すなわち、各サンプルについて、DSCを用いて条件1で1回目の昇温測定を行うことにより、各温度における吸熱をプロットした図4に示すDSC曲線を得た。1回目の昇温測定後の各サンプルを、200℃で1分間保持した後、条件2で急速冷却した。急速冷却後の各サンプルを、50℃で1分間保持した後、条件3で2回目の昇温測定を行うことにより、各温度における吸熱をプロットした図5に示すDSC曲線を得た。
【0107】
<条件1:1回目の昇温条件>
10℃/分の昇温速度で50℃から200℃まで加熱。
<条件2:冷却条件>
150℃/分の降温速度で200℃から50℃まで冷却。
<条件3:2回目の昇温条件>
10℃/分の昇温速度で50℃から200℃まで加熱。
【0108】
図4は、1回目の昇温測定で得たDSC曲線を示すグラフであり、図5は、2回目の昇温測定で得たDSC曲線を示すグラフであり、横軸は温度(℃)、縦軸は吸熱量を表す。各図中、丸で囲ったピークが無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレン由来の吸熱ピークであり、それらのピーク温度を融点とした。図4に示すように、1回目の昇温測定において、例1の無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンの融点Tm1は130℃であり、比較例1の無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンの融点Tm1cは145℃であった。図5に示すように、2回目の昇温測定において、例1の無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンの融点Tm2は138℃であり、比較例1の無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンの融点Tm2cも138℃であった。これらを表2に纏める。
【0109】
【表2】
【0110】
上記DSC測定により、例1におけるプロピレン系エラストマー樹脂が添加された樹脂ブレンド中の無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンは、融点Tm1及びTm2が下記式(1)を満たし、一方、比較例1におけるプロピレン系エラストマー樹脂が添加されていない無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンは、融点Tm1c及びTm2cが下記式(2)を満たし、更に融点Tm1とTm1cは下記式(3)を満たすことがわかった。このように、例1のレトルト用積層体に含有される無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンと、比較例1のレトルト用積層体に含有される無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンは、融点が互いに異なる挙動を示す。
Tm1<Tm2 (1)
Tm1c>Tm2c (2)
Tm1<Tm1c (3)
【0111】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0112】
10…レトルト用積層体、11…基材層、12…印刷層、13…第3の接着層、14…金属層、15…接着層、15a…第1の接着層、15b…第2の接着層、16…シーラント層、20…レトルト用積層体(変形例)、30…包装容器、31…蓋体、32…容器本体、32a…フランジ
図1
図2
図3
図4
図5