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  • 特開-ろ過方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152881
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】ろ過方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/02 20060101AFI20231005BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20231005BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20231005BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20231005BHJP
   B01D 65/02 20060101ALI20231005BHJP
   B01D 61/18 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B01D63/02
B01D69/10
B01D69/12
B01D69/00
B01D65/02
B01D61/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048654
(22)【出願日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2022056511
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】橘 高志
(72)【発明者】
【氏名】小林 憲太郎
(72)【発明者】
【氏名】金森 智子
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006HA02
4D006JA02B
4D006JA13Z
4D006JB06
4D006KC03
4D006KC16
4D006KE03P
4D006KE04P
4D006KE07P
4D006KE08P
4D006KE16P
4D006MA01
4D006MA22
4D006MC29X
4D006NA04
4D006NA10
4D006NA16
4D006PA01
4D006PB02
4D006PB08
4D006PB12
(57)【要約】
【課題】洗浄回復性に優れるろ過方法を提供する。
【解決手段】中空糸膜を有する中空糸膜モジュールによるろ過方法であって、前記中空糸膜の外表面に原液を供給し、前記中空糸膜の内表面からろ過液を得るクロスフローろ過を行うろ過工程と、前記中空糸膜の内表面から外表面に向かって洗浄液を流す逆流洗浄工程と、を有し、前記原液の粘度μとろ過液の粘度μの比(μ/μ)が1.5より大きく、前記中空糸膜の外表面の孔径が0.005μm以上0.02μm以下であり、前記中空糸膜の内表面の孔径φiと外表面の孔径φoの比(φi/φo)が50より大きいろ過方法。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜を有する中空糸膜モジュールによるろ過方法であって、
前記中空糸膜の外表面に原液を供給し、前記中空糸膜の内表面からろ過液を得るクロスフローろ過を行うろ過工程と、
前記中空糸膜の内表面から前記中空糸膜の外表面に向かって洗浄液を流す逆流洗浄工程と、を有し、
前記原液の粘度μと前記ろ過液の粘度μの比(μ/μ)が1.5より大きく、
前記中空糸膜の外表面の孔径が0.005μm以上0.02μm以下であり、
前記中空糸膜の内表面の孔径φiと外表面の孔径φoの比(φi/φo)が50より大きい、
ろ過方法。
【請求項2】
前記中空糸膜は、2層以上からなる複合中空糸膜であり、
前記複合中空糸膜は、最外層の透過係数が、最内層の透過係数よりも小さく、前記最外層の厚みをHo、前記最内層の厚みをHiとしたとき、Ho/Hi≦1.0である
請求項1に記載のろ過方法。
【請求項3】
前記原液の粘度μが3.0mPa・s以上である
請求項1または2に記載のろ過方法。
【請求項4】
前記中空糸膜が限外ろ過膜である
請求項1または2に記載のろ過方法。
【請求項5】
前記中空糸膜の破断時荷重が500gf/本以上である
請求項1または2に記載のろ過方法。
【請求項6】
前記中空糸膜の内径Dが300μm以上1000μm以下である
請求項1または2に記載のろ過方法。
【請求項7】
前記中空糸膜モジュールの充填率が25%以上45%以下である
請求項1または2に記載のろ過方法。
【請求項8】
前記中空糸膜の膜長が0.50m以上2.00m以下である
請求項1または2に記載のろ過方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろ過方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分離膜を用いた膜ろ過は、飲料水製造、浄水処理若しくは排水処理等の水処理分野に加えて、近年では微生物や培養細胞の培養を伴う発酵分野、医薬分野、又は、食品飲料分野等、様々な方面へと適用範囲が広がっている。分離膜の中でも、中空糸膜モジュールを用いた膜ろ過は、処理水量の大きさ、洗浄の容易さ等から、多くの分野で用いられている。
【0003】
水処理分野では比較的清澄な原液をろ過するケースが多いのに対し、発酵、医薬、食品飲料分野においては、濁度や粘度が高い原液を扱うケースが多い。濁度や粘度が高い場合には、水処理分野で採用されることの多い全量ろ過運転を適用しようとすると、中空糸膜の閉塞、いわゆるファウリングが急速に進行する。そのため、これらの分野では、ファウリングを低減可能なクロスフローろ過運転が行われる。クロスフローろ過運転とは、中空糸膜表面に平行な原液の流れを常に作用させ、その内の一部をろ過するという方法である。
【0004】
この方法では、中空糸膜表面に平行な原液の流れの作用により中空糸膜表面への濁質蓄積を予防しながら運転できるため、ファウリングを大幅に低減することが可能となる。分離膜の適用用途拡大に伴い、濁度や粘度が高い原液に対して、クロスフローろ過により安定的に運転する技術へのニーズが高まっている。
【0005】
濁度や粘度が高い原液をクロスフローろ過する場合には、原液を中空糸膜の外表面側に導入し、中空糸膜の外側から内側に向かってろ過する外圧型や、中空糸膜の内表面側に原液を導入し、中空糸膜の内側から外側に向かってろ過する内圧型のいずれも用いられる。
【0006】
例えば特許文献1には、限外ろ過膜を用いた内圧型クロスフローによるデプスろ過にて発酵液等をろ過し、逆流洗浄を行うことで膜の長寿命化を図る方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には原水(被処理水)側表面が緻密で処理水側表面が粗大になるように細孔構造を制御することで、原水中の有機物吸着が少なく耐汚染性に優れた多孔質中空糸膜の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-35680号公報
【特許文献2】国際公開第2015/008668号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高粘度液を外圧型クロスフローろ過する場合に、増粘成分が分離膜で阻止されることで原液側の粘度とろ過液側の粘度に差が生じる。これにより、膜表面近傍にファウリングを生じさせる膜閉塞成分であるファウラントが蓄積するため、ファウラントを除去するための洗浄工程を伴う必要がある。洗浄工程として、逆流洗浄を用いる方法があるが、特許文献1、2では膜の内表面と外表面の孔径比が小さく、洗浄液が膜抵抗により、その勢いが減衰することで、緻密層付近のファウラントを十分に洗浄することは難しい。その結果、洗浄工程に薬剤を多く使用することになり、膜の強度劣化を誘発し、膜寿命が短くなるという問題がある。
【0010】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、洗浄回復性に優れるろ過方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、以下のろ過方法を提供する。
<1>中空糸膜を有する中空糸膜モジュールによるろ過方法であって、
前記中空糸膜の外表面に原液を供給し、前記中空糸膜の内表面からろ過液を得るクロスフローろ過を行うろ過工程と、
前記中空糸膜の内表面から前記中空糸膜の外表面に向かって洗浄液を流す逆流洗浄工程と、を有し、
前記原液の粘度μと前記ろ過液の粘度μの比(μ/μ)が1.5より大きく、
前記中空糸膜の外表面の孔径が0.005μm以上0.02μm以下であり、
前記中空糸膜の内表面の孔径φiと外表面の孔径φoの比(φi/φo)が50より大きい、
ろ過方法。
<2>前記中空糸膜は、2層以上からなる複合中空糸膜であり、
前記複合中空糸膜は、最外層の透過係数が、最内層の透過係数よりも小さく、前記最外層の厚みをHo、前記最内層の厚みをHiとしたとき、Ho/Hi≦1.0である、<1>に記載のろ過方法。
<3>前記原液の粘度μが3.0mPa・s以上である
<1>または<2>に記載のろ過方法。
<4>前記中空糸膜が限外ろ過膜である
<1>から<3>に記載のろ過方法。
<5>前記中空糸膜の破断時荷重が500gf/本以上である
<1>から<4>のいずれか1つに記載のろ過方法。
<6>前記中空糸膜の内径Dが300μm以上1000μm以下である
<1>~<5>のいずれか1つに記載のろ過方法。
<7>前記中空糸膜モジュールの充填率が25%以上45%以下である
<1>~<6>のいずれか1つに記載のろ過方法。
<8>前記中空糸膜の膜長が0.50m以上2.00m以下である
<1>~<7>のいずれか1つに記載のろ過方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、中空糸膜による外圧型クロスフローろ過において、原液とろ過液に粘度差が生じる場合に、中空糸膜の外表面の孔径並びに内表面と外表面の孔径比を制御することで、洗浄回復性に優れ、洗浄頻度を下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の中空糸膜モジュールの一形態を示す概略断面図である。
図2図2は、本発明のろ過方法が適用される膜ろ過ユニットの一形態を示す、概略フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
本発明は、中空糸膜を有する中空糸膜モジュールによるろ過方法であって、中空糸膜の外表面に原液を供給し、前記中空糸膜の内表面からろ過液を得るクロスフローろ過すなわち外圧型クロスフローろ過を行うろ過工程を含む。
【0016】
図1は、本発明の中空糸膜モジュールの一形態を示す概略断面図である。以下、本明細書において、「上」、「下」等の方向は、図面に示す状態に基づいており、便宜的なものであって、図1において、ろ過液導出口3側を上方向、原液導入口2側を下方向として説明する。
【0017】
本発明の中空糸膜モジュール10は、原液導入口2と、ろ過液導出口3と、原液導出口4と、を有する容器1に、中空糸膜5が充填されている。中空糸膜5は、その両端部が第1ポッティング部8、第2ポッティング部9に包埋されており、第1ポッティング部8、第2ポッティング部9は容器1に固定されている。第1ポッティング部8に包埋された中空糸膜5の下端部は封止されている。また、第1ポッティング部8は原液導入口2から導入された原液を通液するための複数の貫通孔を備えている。一方、第2ポッティング部9に包埋された中空糸膜5の上端部は開口された状態で包埋されている。
【0018】
原液導入口2、ろ過液導出口3及び原液導出口4は、容器1と配管(不図示)を接続する円筒形のノズルであり、同じく円筒形の容器1に開口した状態で固定されている。原液導入口2は容器1の下端部に接続し、ろ過液導出口3は上端部に接続される。原液導出口4は容器1の側面に接続され、第2ポッティング部9付近に備えられる。これらの素材は樹脂製、金属製いずれも使用することができる。
【0019】
容器1に充填される中空糸膜5は、液体の分離機能を備える、中空の糸状の膜である。中空糸膜5は、容器1の軸方向と、中空糸膜5の軸方向が平行になるように充填される。軸方向とは、容器1の長さ方向及び中空糸膜5の長さ方向のことである。
【0020】
複数の中空糸膜が接着剤により固定された第1ポッティング部8と第2ポッティング部9とは、束ねられた中空糸膜同士の間隙が、いわゆる接着剤である、ポッティング樹脂を主成分とするポッティング剤で充填された部位をいう。ポッティング部は、中空糸膜束の端部に形成されることが好ましい。
【0021】
ポッティング剤の主成分となるポッティング樹脂としては、中空糸膜との接着性、耐熱性及び化学的耐久性に優れる、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂又はシリコーン樹脂が好ましい。またポッティング剤は、例えば、ポッティング樹脂以外にシリカ、タルク、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、ガラス又はゴム等の添加材を含んでいても構わない。
【0022】
第1ポッティング部8は中空糸膜5の原液導入口側端部に形成される。中空糸膜5の原液導入口側端部は封止されていることが好ましい。原液導入口側端部が封止されることで、中空部を流れるろ過液の流れが1方向となり、中空糸膜5のろ過液側において、原液導入口側端部とろ過液導出口側端部に圧力差を生じさせることができる。ここで、封止されるとは、中空糸膜5の内部を流れる液が、封止された端部からは導出されない状態のことである。
【0023】
第1ポッティング部8は容器1に固定されるが、原液導入口2から導入される原液を通液するための複数の貫通孔を有しており、貫通孔を通じて原液が中空糸膜5に導入される。貫通孔の形状、数に指定はなく、通液する原液流量に応じて、抵抗や流れムラの発生を抑えるべく適宜設けられる。
【0024】
第1ポッティング部8は、原液の流れによって第1ポッティング部8が浮上しないよう位置固定されていればよく、容器1に接着固定したり、取り外しが可能なカートリッジ構造としてもよい。位置固定の構造は特に指定はなく、容器1と第1ポッティング部8間を位置固定する構造や、第2ポッティング部9と第1ポッティング部8間を位置固定する構造など適宜選定できる。
【0025】
また第1ポッティング部8は、中空糸膜5の原液導入口側端部が封止されていれば必須ではなく、中空糸膜同士をポッティング剤で固定するいわゆる固定端ではなく、ポッティング剤で固定されない自由端としてもよい。自由端とは、中空糸膜同士がポッティング剤で固定されておらず、自由に可動できる状態である。この場合、中空糸膜5の原液導入口側端部を封止する方法としては、ポッティング剤を中空糸膜5の中空部に注入して封止する方法や、端部を熱で溶着して封止する方法などが適用できる。
【0026】
次に第2ポッティング部9は、中空糸膜5のろ過液導出口側端部に形成され、中空糸膜5のろ過液導出口側端部を開口した状態で固定する。開口した状態とは、中空糸膜の内部を流れる液が開口した端部から導出される状態のことである。
【0027】
第2ポッティング部9は容器1に固定されているが、原液とろ過液を液密に分離できるのであれば、第2ポッティング部9と容器1を接着固定したり、いわゆるカートリッジタイプのように中空糸膜を着脱できる構造としてもよい。カートリッジタイプの場合には、第2ポッティング部9と容器1を、Oリングなどを介して接続してもよい。
【0028】
以上の構造を備えた中空糸膜モジュールにおいては、容器1の内部は、中空糸膜5と第2ポッティング部9によって、原液が充填される原液側空間6と、ろ過液が充填されるろ過液側空間7に分離されており、原液側空間6は中空糸膜5の外表面が接する空間、ろ過液側空間7は中空糸膜5の内表面が接する空間となっている。
【0029】
本発明は、原液導入口2及び原液導出口4は原液側空間6に、ろ過液導出口3はろ過液側空間7に接続しているいわゆる外圧型中空糸膜モジュールに適用される。
【0030】
次に、図1に示す中空糸膜モジュールを用いた運転方法について図2を用いて説明する。
図2は本発明のろ過方法が適用される膜ろ過ユニットの一形態を示す、概略フロー図である。原液タンク12より供給ポンプ14にて原液が容器1に供給される。原液導入口2より容器1内に導入された原液は、図1に示した第1ポッティング部8の貫通孔を通り、原液側空間6を中空糸膜5の軸方向に平行な流れで送液される。その後、原液導出口4より容器1から導出される。
【0031】
クロスフローろ過運転は、ろ過液流量の好ましくは10~30倍程度の流量で循環することにより、原液の流れによるせん断効果で、膜表面に原液由来の膜閉塞成分が蓄積することを防止でき、安定したろ過が可能になる運転方法である。クロスフローろ過運転は、特に膜表面に蓄積する閉塞成分が多い原液をろ過するのに適した運転方法である。
【0032】
また、ろ過液流量計32で観測されるろ過液流量が一定となるように運転される場合が多い。クロスフローろ過運転では、原液導入圧力計41と原液導出圧力計42で観測される原液導入圧力P1と原液導出圧力P2の平均値と、ろ過液導出圧力計43で観測されるろ過液導出圧力P3との差を平均膜間差圧と呼び、平均膜間差圧が所定圧力に到達するまで、運転が継続される。
【0033】
一般的にろ過運転では、中空糸膜5の細孔より大きな分子は中空糸膜5の表面に堆積する。また、原液中に含まれる中空糸膜5の細孔よりも小さい分子は細孔内に入り込む。よって、膜表面と膜内部が目詰まりを起こすことになる。外圧型クロスフローろ過運転では、クロスフローろ過運転によって生じる流れにより、膜表面のファウラントが取り除かれ、さらに、逆流洗浄によって細孔内部のファウラントを取り除くことができるという特徴がある。一方で、膜内部まで侵入したファウラントは逆流洗浄のみでは取り除きにくく、長期間の運転では、膜の目詰まりの原因となることから、薬品による洗浄を行う必要がある。薬品による洗浄は膜の強度劣化を誘発し、膜の長期間使用の妨げとなる。
【0034】
さらに、ろ過液の粘度が原液よりも小さくなる場合、特に原液中の増粘成分が中空糸膜により原液側空間に保持され、増粘成分が膜表面に付着することで、主に膜表面と表面近傍の細孔内にファウラントが蓄積することになる。
【0035】
この問題に対し、鋭意検討の結果、外圧型クロスフローろ過を行う中空糸膜モジュールにおいて、中空糸膜の外表面の孔径と、内表面と外表面の孔径比を制御した中空糸膜を用いて逆流洗浄を行うことにより、特によく洗浄効果が表れ、長期間の安定したろ過が可能であることを見出し、本発明に至った。
【0036】
すなわち、本発明のろ過方法は、中空糸膜を有する中空糸膜モジュールによるろ過方法であって、中空糸膜の外表面に原液を供給し、中空糸膜の内表面からろ過液を得るクロスフローろ過を行うろ過工程と、中空糸膜の内表面から外表面に向かって洗浄液を流す逆流洗浄工程と、を有し、原液の粘度μとろ過液の粘度μの比(μ/μ)が1.5より大きく、中空糸膜の外表面の孔径が0.005μm以上0.02μm以下であり、中空糸膜のろ過液と接する面(内表面)の孔径φiと原液と接触する面(外表面)の孔径φoの比(φi/φo)が50より大きい。
【0037】
中空糸膜の外表面の孔径は、0.005μm以上0.02μm以下である。外表面の孔径が、0.02μmより大きくなると、膜内部にファウラントが侵入しやすくなり、逆流洗浄の効果が減少する。また、中空糸膜の外表面の孔径が0.005μmよりも小さくなると、ろ過液流量が少ないことから、ろ過効率が著しく減少するため、必要な膜本数が増えろ過コストの増加につながる。外表面の孔径は、0.005~0.009μmであることが好ましく、0.005~0.008μmであることがより好ましい。
中空糸膜の外表面の孔径は、例えば、後述の製造方法で凝固浴温度を変更することによって調整できる。
【0038】
中空糸膜のろ過液と接する面(内表面)の孔径φiと原液と接触する面(外表面)の孔径φoの比(φi/φo)は50より大きい。φi/φoが50より大きいと、好適に逆流洗浄を行うことができる。また、φi/φoの値が大きいほど、逆流洗浄による中空糸膜の洗浄回復性が高くなるため、上限は特に限定されないが、例えば1000以下であり、好ましくは700以下である。
中空糸膜の内表面の孔径φiと外表面の孔径φoの比(φi/φo)は、例えば、孔径の異なる2層以上からなる複合中空糸膜とすることによって調整できる。
【0039】
原液の粘度μとろ過液の粘度μは、温度によりその値が大きく変化するため、原液温度計51にて測定される原液温度における粘度を測定することが好ましい。
【0040】
本発明のろ過方法における逆流洗浄工程は、中空糸膜の内表面から外表面に向かって洗浄液を流す工程である。逆流洗浄工程については、ろ過液タンク13から圧縮ガスやポンプ等を用いて行うことができる。
一般的に、逆流洗浄工程で用いる洗浄液は、純水やろ過液など粘度の低い液体を用いることで、洗浄効果を発揮しやすい。逆流洗浄工程はクロスフローろ過運転中、停止後などに行うことができ、特に限定されるものではない。
【0041】
次に、本発明のろ過方法は、粘度μが3.0mPa・s以上の原液に適用することが好ましい。原液の粘度μが3.0mPa・s以上であることで、膜表面での閉塞成分の蓄積の阻止が行いやすくなる。また、原液側空間6の圧力損失が高くなり過ぎることを抑制し、運転を容易に行う観点から、本発明のろ過方法は、粘度μが30.0mPa・s以下の原液に適用することが好ましく、より好ましくは10.0mPa・s以下の原液に適用することである。
【0042】
本発明のろ過方法を適用する原液の種類については特に限定されず、原液の粘度μとろ過液の粘度μの比(μ/μ)が1.5より大きい種々の原液に適用される。なお、原液およびろ過液の粘度は、ろ過運転を継続することで変化する場合もあるが、本発明においては少なくとも運転開始初期に原液の粘度μとろ過液の粘度μの比(μ/μ)が上記範囲を満たしていればよい。
ここで、運転開始初期とは、新品の中空糸膜モジュールに原液を導入して始めてろ過を開始するタイミングや、ろ過して閉塞した中空糸膜モジュールを薬液洗浄し、透水性を回復させた後に、改めて原液を導入してろ過を開始するタイミングである。μ/μが1.5より大きいことにより、好適に逆流洗浄を行うことできる。μ/μは値が大きいほど、逆流洗浄による中空糸膜の洗浄回復性が高くなるため、上限は特に限定されないが、例えば30.0以下、好ましくは10.0以下である。
【0043】
また、本発明においては、原液の流速vと原液の粘度μがv<-0.135μ+3.0の関係を満たすことが好ましい。
原液の流速vと原液の粘度μがv<-0.135μ+3.0を満たすと、原液導出口4付近にて原液の流れにより中空糸膜5に対して付与されるせん断力が抑制され、糸切れや膜損傷の発生を抑制できる。より好ましくはv<-0.135μ+2.5であり、さらに好ましくはv<-0.135μ+2.3である。
【0044】
ここで、原液の流速vとろ過液の流速vの測定方法について、図1、2をもとに説明する。原液の流速vは下記式(1)にて算出される値であり、単位はm/sである。原液の粘度μは実際に運転される温度における粘度であり、単位はmPa・sである。原液の流速vは濃縮液流量計31で測定される濃縮液流量Qを、中空糸膜モジュール10の原液側空間6の流路面積Sで割ることで算出される。原液側空間の流路面積Sは、容器1の断面積から容器1に挿入される中空糸膜5の総断面積を差し引いた値であり、容器1の内径をD、中空糸膜5の外径をD、中空糸膜5の本数をNとすると、下記式(1)にて計算される。
【0045】
【数1】
【0046】
ろ過液の流速vは、下記式(2)にて算出される値であり、ろ過液流量計32で測定されるろ過液流量Qを、ろ過液側空間7の流路面積Sで割ることで算出する。ろ過液側空間7の流路面積Sは中空糸膜5の内径をD、中空糸膜5の本数をNとすると、下記式(2)にて計算される。
【0047】
【数2】
【0048】
原液の流速vについては、濃縮液流量Qの代わりに、原液導入口2と供給ポンプ14との間に供給液流量計を設け、測定される供給液流量Qを使用してもよい。この場合も原液の流速vは同様に計算される。
【0049】
本発明の中空糸膜モジュールに搭載される中空糸膜5は、原液中に溶解している増粘成分が高分子量成分であることが多いことから、溶解している高分子量成分を分離可能な限外ろ過膜であることが好ましい。
【0050】
中空糸膜5は、破断時荷重が500gf/本以上であることが好ましい。外圧型クロスフローろ過では、一例として図1に示すように、原液が中空糸膜モジュール10の原液導入口2から中空糸膜モジュール10に導入された後、原液導出口4から導出されるが、原液導出口4から導出される際に原液の流れが90°転回することとなる。そのため、原液導出口4付近では中空糸膜5に対して中空糸膜5の長さ方向に垂直なせん断力が付与される。
本発明においては、中空糸膜5の破断時荷重が500gf/本以上あることで、クロスフローろ過運転で生じる流れによって発生するせん断力による、糸切れや膜損傷などを抑制できる。
【0051】
破断時荷重とは、引っ張り試験機などにより中空糸膜5を軸方向に伸張させていき、破断した時点で付与していた荷重(gf)である。中空糸膜5の破断時荷重は、より好ましくは600gf/本以上であり、さらに好ましくは700gf/本以上である。
【0052】
破断時荷重の測定方法は、特に限定されるものではないが、例えば、雰囲気温度を制御できる引っ張り試験機を用い、測定長さ50mmの試料を引っ張り速度50mm/分で引っ張り、試料を変えて5回以上行い、破断時荷重の平均値を求めることで測定することができる。このときの測定温度は、実際の運転時の原液温度とすることが好ましい。
【0053】
また、本発明において、中空糸膜5は単層の中空糸膜でもよいが、2層以上からなる複合中空糸膜が、内表面の孔径φiと外表面の孔径φoの比(φi/φo)を大きく取りやすくなるため、好ましい。
特に、中空糸膜が2層以上からなる複合中空糸膜である場合、最外層の透過係数が、最内層の透過係数よりも小さく、該最外層の厚みをHo、該最内層の厚みをHiとしたとき、Ho/Hi≦1.0であることが好ましい。
ここで、「最外層」とは、最も外表面側に位置する層であり、「最内層」とは、最も内表面側に位置する層である。
【0054】
Ho/Hi≦1.0であることで、最外層で生じる圧力損失を小さくすることができる。その結果、目詰まり成分が蓄積しやすい最外層に作用する圧力を高くすることができ、洗浄効果が高まる。増粘成分を阻止するための分離機能をより高める観点から、0.04≦Ho/Hi≦0.6が好ましく、0.1≦Ho/Hi≦0.4がより好ましい。
【0055】
複合中空糸膜の最外層に位置する透過係数の小さな層としては、微細な孔を形成しやすい三次元網目構造層が好適である。一方、最内層に位置する透過係数の大きな層としては、粗大な孔を形成しやすく、かつ、高い強度を有する球状構造層が好適である。そのため、例えば、2層からなる複合中空糸膜を形成する場合には、最内層に球状構造層、最外層に三次元網目構造層を設けることが好ましい。
【0056】
また、最内層に球状構造層、最外層に三次元網目構造層が設けられた2層からなる複合中空糸膜においては、三次元網目構造層の厚みは、上述した洗浄効果の観点や増粘成分の阻止性の観点から、20μm以上120μm以下が好ましく、より好ましくは30μm以上80μm以下である。三次元網目構造層の厚みが20μm以上であれば、増粘成分の阻止率を高めることができ、また、120μm以下であれば、透過抵抗が大きくなりすぎることを抑制でき、洗浄効果および透水性を向上できる。
また、球状構造層の厚みも、上述した洗浄効果の観点や中空糸膜の強度ならびに透水性の観点から、好ましくは120μm以上500μm以下、より好ましくは200μm以上300μm以下である。
【0057】
また、最外層の透過係数Lpと、最内層の透過係数Lpは、Lp≧Lpを満たすことが好ましい。透過係数Lpは水の通り易さの指標であり、下記式(3)で表され、透過係数が大きいほど水が通りやすく、小さいほど通りにくいことを示す。式(3)は例えばJournal of Chemical Engineering of Japan(Vol.15,No.3 (1982) pp.200~205)に記載されている。上述した文献では、断面孔径は直径ではなく半径で、空隙率は開口率で表記されているが、同じ意味で使用している。
なお、後述する純水透過性能Kは透過係数Lpと同じく水の通り易さの指標であるが、純水透過性能Kが透水性の測定結果から算出されたものであるのに対し、透過係数Lpは分離膜のミクロな構造から算出されたものである点が異なる。透過係数Lpは各層における水の通り易さを比較することにのみ用いる。
【0058】
【数3】
【0059】
上記式(3)中、φは断面孔径(μm)、Aは空隙率(-)、μは水の粘度(Pa・s)、Hは層の厚み(μm)である。
【0060】
最内層の透過係数Lpiが最外層の透過係数Lpoより大きいことで、逆流洗浄したした際に、最内層を通過する洗浄液の圧力損失を小さくすることができ、目詰まり成分が蓄積しやすい最外層に作用する圧力を高くすることができ、洗浄効果が高まる。
【0061】
ここで、本発明の断面孔径は以下の方法で求めることができる。
観察用断面試料は、市販の凍結組織切片作成用包埋剤を用いて包埋した中空糸膜を、クライオウルトラミクロトームを用いて、低温で多孔質膜を厚み100nmで切片を採取し、室温で1晩真空乾燥を行って得る。中空糸膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)もしくは透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、各層の画像を得る。層の構造が膜厚方向に対称な構造であれば、層の中心部分の画像を取得し、層の構造が膜厚方向に非対称な構造であれば、最も緻密な孔径を有する領域の画像を取得する。その後、フリーソフト「ImageJ」を使って二値化する。二値化する際は、Threshold(二値化の閾値)で条件:Minimumを選択する。得られた二値化画像において、Analyze ParticlesでAreaを選択することで、各孔の面積を求め、各孔を円と仮定して直径を算出する。断面孔径は百個以上の細孔の孔径を平均して求める。
【0062】
空隙率Aについても、上述した中空糸膜断面の二値化画像より求めることができ、算出した孔の面積の合計値を観察した画像のうち、中空糸膜を含む全面積で割ることで空隙率を算出する。
【0063】
なお透過係数Lpは、本発明においては膜厚方向に10μm間隔の領域で算出するものとし、断面孔径ならびに空隙率も10μm間隔の領域で算出した値を用いる。また、各層の構造が膜厚方向に対称である場合には、透過係数Lpは膜厚方向で各層の中心に位置する領域で算出した透過係数Lpを当該層のLpとし、各層の構造が膜厚方向に非対称である場合には、透過係数Lpは膜厚方向で断面孔径が最も緻密な領域で算出した透過係数Lpを当該層のLpとする。
【0064】
中空糸膜モジュール10に搭載される中空糸膜5の寸法について、外径Doは600μm≦Do≦2000μmであることが好ましい。D≧600μmであることにより、中空糸膜モジュール当たりの膜面積を所定量確保するために搭載する中空糸膜の本数を少なくできる。その結果、原液と中空糸膜の接触面積が減少し、原液側空間の圧力損失が過剰に高くなることを抑制できる。
また、D≦2000μmであることにより、中空糸膜モジュールあたりの膜面積が大きくなり、中空糸膜モジュール当たりのろ過量が増加する。外径Dは900μm≦D≦1800μmであることがより好ましく、1000μm≦D≦1500μmであることがさらに好ましい。
【0065】
中空糸膜5の内径Dは、300μm≦D≦1000μmであることが好ましい。D≧300μmであることにより、ろ過液側空間7の圧力損失が高くなることを抑制できる。結果として必要な膜間差圧が低くなるため、ろ過の際に過剰な圧力が必要となることを抑制できる。また、D≦1000μmであることにより、ろ過液側空間7の圧力損失が低くなりすぎることを抑制し、中空糸膜5の原液導入口側端部において適切なろ過液側圧力を付与しやすくなる。内径Dは、400μm≦D≦900μmがより好ましく、500μm≦D≦800μmがさらに好ましい。
【0066】
中空糸膜5の外円および内円の直径である外径D、内径Dは、中空糸膜5を片刃などで軸方向に垂直な面で切断し、断面を顕微鏡などの方法で観察することにより、測定できる。外円もしくは内円が扁平状である場合には、最も直径が長い部分の長さ(長径)と、最も直径が短い部分の長さ(短径)を測定し、両者を平均して算出する。なお、本発明においては、中空糸膜モジュール10に装填される中空糸膜5を任意に切り取り、10本以上の中空糸膜の外径、内径を平均した値を用いる。
【0067】
中空糸膜モジュール10に装填される中空糸膜5の充填率Mは、25%≦M≦45%であることが好ましい。充填率Mを25%≦M≦45%に制御することで、モジュール当たりの膜面積を確保しつつ、原液側の通液抵抗を低減することができる。充填率Mは、より好ましくは28%≦M≦42%であり、さらに好ましくは30%≦M≦40%である。
【0068】
充填率Mは、容器1の内径D、中空糸膜5の外径D、中空糸膜5の本数Nより下記式(4)にて算出される。容器1内に、中空糸膜5以外に原液側空間6に存在する部材がある場合には、その部材の容器1の軸方向に垂直な断面積を計算し、中空糸膜5の専有面積Sに加えて計算する。
【0069】
【数4】
【0070】
中空糸膜の膜長Lは、中空糸膜5が容器1に充填された状態で、実際にろ過に使用される部分、すなわち、中空糸膜5の外表面が原液と接する部分の、容器1に平行な向きの長さとなる。図1においては、中空糸膜5のうち、第1ポッティング部8の第2ポッティング部側端面から、第2ポッティング部9の第1ポッティング部側端面までの中空糸膜の長さとなる。第1ポッティング部8や第2ポッティング部9に包埋された中空糸膜の長さはここでは考慮しない。
【0071】
本発明において、中空糸膜の膜長Lが0.50m≦L≦2.00mであることが好ましい。L≧0.50mであることにより、中空糸膜モジュールの膜面積が大きくなるため、必要な中空糸膜モジュール本数を減らすことができる。また、L≦2.00mであることにより、原液側空間6の圧力損失が過剰に大きくなることを抑制できる。結果として、中空糸膜モジュールの原液導入圧力が小さくなり、供給ポンプ14の負荷を小さくできる。すなわち、膜長Lを上記範囲内とすることで、原液側空間の圧力損失の増大を抑制しつつ、必要な膜面積を確保することができる。中空糸膜の膜長Lは0.70m≦L≦1.50mがより好ましく、0.80m≦L≦1.20mであることがさらに好ましい。
【0072】
なお、中空糸膜5がいわゆるU字型で充填され、第2ポッティング部9のみに両端部が開口した状態で包埋された中空糸膜モジュールの場合には、中空糸膜の膜長Lは、実際にろ過に使用される中空糸膜の長さの半分、すなわち、中空糸膜の外表面が原液と接する部分の糸の長さの半分となる。
【0073】
また、第1ポッティング部8がなく、中空糸膜5の原液導入口側端部が自由端である場合には、中空糸膜の膜長Lは、自由端の内、接着剤や熱による封止処理が施されていない部分から、第2ポッティング部9の原液導入口側端面までの長さとなる。
【0074】
また、中空糸膜5が捲縮、もしくはよじれている場合においても、中空糸膜の膜長Lは、中空糸膜のうち実際にろ過に使用される部分、すなわち、中空糸膜の外表面が原液と接する部分の、容器1に平行な向きの長さとして測定してよい。
【0075】
中空糸膜5の材料となる高分子としては、例えば、ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、ポリプロピレン若しくはポリ-4-メチルペンテン-1等のオレフィン系ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体若しくはテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等のフッ素含有ポリマー、酢酸セルロース等のセルロース系ポリマー、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート又はポリビニルアルコール系ポリマーが挙げられる。得られる中空糸膜の耐熱性、物理的強度及び化学的耐久性を高めるため、フッ素樹脂系高分子、ポリエーテルスルホン又はポリスルホンが好ましいが、膜にかかる負荷の大きいクロスフローろ過用中空糸膜モジュールにおいては、強度に優れるフッ素樹脂系高分子が好ましい。
【0076】
また、中空糸膜5のファウリングを低減するために、中空糸膜5の材料となる高分子として親水性基を含有する重合体を含んでいてもよい。具体的には、ビニルアルコール、エチレングリコール、ビニルピロリドン、メタクリル酸、アリルアルコール、セルロース、酢酸ビニルを含む重合体が挙げられる。さらに、親水性基を含有する共重合体としては、ケン化度が99%未満のポリビニルアルコールやビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合ポリマー、ビニルピロリドン・ビニルカプロラクタム共重合体、ビニルピロリドン・ビニルアルコール共重合体、などが挙げられる。
【0077】
上述の通り、本発明は外表面側に原液を導入し、外表面側から内表面側に向かってろ過する外圧型クロスフローろ過により原液を分離するろ過方法であるため、中空糸膜の最外層は緻密な中空糸膜であることが好ましい。
以下に本発明の中空糸膜および中空糸膜モジュールの製造方法について説明する。
【0078】
(中空糸膜の製造方法)
本発明における中空糸膜の製造方法の一例として、フッ素樹脂系高分子を用いた中空糸膜の製造方法を示す。フッ素樹脂系高分子を用いた中空糸膜の製法としては、熱誘起相分離法や非溶媒誘起相分離法など種々の製法を用いることができる。以下、熱誘起相分離法を用いた製造方法を示す。
【0079】
まず、フッ素樹脂系高分子を、フッ素樹脂系高分子の貧溶媒または良溶媒に、結晶化温度以上の比較的高温で溶解することで、フッ素樹脂系高分子溶液(つまり、フッ素樹脂系高分子を含有する製膜原液)を調製する。
【0080】
製膜原液中の高分子濃度が高いと、高い強度を有する多孔質中空糸膜が得られる。一方で、製膜原液中の高分子濃度が低いと、多孔質中空糸膜の空隙率が大きくなり、純水透過係数が向上する。このため、フッ素樹脂系高分子の濃度は、20質量%以上60質量%以下であることが好ましく、30質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
【0081】
本明細書において、フッ素樹脂系高分子の貧溶媒とは、フッ素樹脂系高分子を60℃未満の低温では、5質量%以上溶解させることができないが、60℃以上かつフッ素樹脂系高分子の融点以下(例えば、高分子がフッ化ビニリデンホモポリマー単独で構成される場合は178℃程度)の高温領域で5質量%以上溶解させることができる溶媒である。フッ素樹脂系高分子の良溶媒とは、60℃未満の低温領域でもフッ素樹脂系高分子を5質量%以上溶解させることができる溶媒であり、フッ素樹脂系高分子の非溶媒とは、フッ素樹脂系高分子の融点または溶媒の沸点まで、フッ素樹脂系高分子を溶解も膨潤もさせない溶媒と定義する。
【0082】
ここで、フッ素樹脂系高分子の貧溶媒としてはシクロヘキサノン、イソホロン、γ-ブチロラクトン、メチルイソアミルケトン、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド等およびそれらの混合溶媒が挙げられる。フッ素樹脂系高分子の良溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル等およびそれらの混合溶媒が挙げられる。フッ素樹脂系高分子の非溶媒としては、水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、o-ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族多価アルコール、芳香族多価アルコール、塩素化炭化水素、またはその他の塩素化有機液体およびそれらの混合溶媒などが挙げられる。
【0083】
続いて、温度変化により相分離を誘起する熱誘起相分離法を利用して、フッ素樹脂系高分子を含有する製膜原液から、中空糸膜を得る。熱誘起相分離法には、主に2種類の相分離機構が利用される。一つは高温時に均一に溶解した高分子溶液が、降温時に溶液の溶解能力低下が原因で高分子濃厚相と高分子希薄相に分離し、その後構造が結晶化により固定される液-液相分離法である。もう一つは高温時に均一に溶解した高分子溶液が、降温時に高分子の結晶化が起こり高分子固体相と溶媒相に相分離する固-液相分離法である。
【0084】
前者の方法では主に三次元網目状構造が、後者の方法では主に球状組織で構成された球状構造が形成される。本発明の中空糸膜の製造には特に指定はないが、強度が求められるクロスフローろ過用の中空糸膜としては、後者の相分離機構が好ましく利用される。よって、固-液相分離が誘起される高分子濃度および溶媒を選択することが好ましい。
【0085】
具体的な方法としては、例えば、上述の製膜原液を多孔質中空糸膜紡糸用の二重管式口金の外側の管から吐出しつつ、中空部形成液体を二重管式口金の内側の管から吐出する。こうして吐出された製膜原液を冷却浴中で冷却固化することで、多孔質な中空糸膜を得ることができる。
【0086】
次に、口金から吐出されたフッ素樹脂系高分子溶液を冷却する冷却浴について説明する。冷却浴には、濃度が50~95質量%の貧溶媒あるいは良溶媒と、濃度が5~50質量%の非溶媒からなる混合液体を用いることが好ましい。さらに貧溶媒としては高分子溶液と同じ貧溶媒を用いることが好ましく採用される。また、中空部形成液体には、冷却浴同様、濃度が50~95質量%の貧溶媒あるいは良溶媒と、濃度が5~50質量%の非溶媒からなる混合液体を用いることが好ましい。さらに貧溶媒としては高分子溶液と同じ貧溶媒を用いることが好ましく採用される。以上の方法で得られるフッ素樹脂系高分子からなる中空糸膜を延伸させてもよい。延伸倍率や延伸温度は、所望の孔径、寸法、純水透過係数によって適宜選定される。
【0087】
本発明の中空糸膜モジュールに充填される中空糸膜を得る場合、中空糸膜の内外径は主に二重管式口金の口金径や、製膜原液および中空部形成液体の吐出量を調整することで制御可能である。すなわち、内外径の大きな中空糸膜は、径の大きな二重管式口金を使用する、もしくは製膜原液ならびに中空部形成液体の吐出量を増加させることで得られる。また延伸倍率、延伸温度を変化させることでも寸法を調整可能である。
【0088】
複合中空糸膜を得る方法としては、複数の層を同時に形成させる方法と、単層の中空糸膜上にその他の層を順に形成させる方法がある。前者としては、例えば多重管式口金を用いて、複数の樹脂溶液を複合成型する方法などがある。また、後者としては例えば上記工程の後に得られた中空糸膜に、その他の層を形成する樹脂溶液を塗布した後、ノズルやスリットコータで掻き取り形成させる方法、あるいはその他の層を形成する樹脂溶液をスプレーコーティングする方法などがある。この中でも、その他の層を形成する樹脂溶液を塗布し、その後掻き取り成形し固化させる方法が簡便であり好ましい。
【0089】
上記方法での複合中空糸膜の製造において、その他の層は特に限定されないが、中空糸膜表面の改質や緻密化を目的とした場合には、三次元網目状構造が好ましく用いられる。球状構造と三次元網目状構造からなる複合中空糸膜の場合、三次元網目状構造を形成させるためには、非溶媒誘起相分離法を利用することができる。ここで非溶媒誘起相分離法とは、樹脂溶液を非溶媒に接触させることにより固化せしめる相分離法である。
【0090】
非溶媒誘起相分離法を利用する場合、樹脂溶液の溶媒としては、樹脂の良溶媒が好ましく、例えばポリフッ化ビニリデン系樹脂の良溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン等の低級アルキルケトン、エステル、アミド等およびその混合溶媒が挙げられる。ここでポリフッ化ビニリデン系樹脂の良溶媒とは、60℃未満の低温でもポリフッ化ビニリデン系樹脂を5質量%以上溶解させることが可能な溶媒である。
【0091】
また、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の非溶媒は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点または溶媒の沸点まで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を溶解も膨潤もさせない溶媒と定義する。ここでポリフッ化ビニリデン系樹脂の非溶媒としては、水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、o-ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族多価アルコール、芳香族多価アルコール、塩素化炭化水素、またはその他の塩素化有機液体およびその混合溶媒などが挙げられる。
【0092】
(中空糸膜モジュールの製造方法)
中空糸膜モジュールの種類は、容器1と中空糸膜5を接着剤で固定する容器一体型モジュールと、容器1と中空糸膜5は接着剤で固定されず、中空糸膜5が容器1から着脱可能なカートリッジ型モジュールに分けられる。
【0093】
容器一体型モジュールにおいては、複数の中空糸膜5を容器1に挿入し、中空糸膜5の端部と容器1を接着剤により固定できる。カートリッジ型モジュールにおいては、中空糸膜を専用の治具などに挿入して接着剤で膜同士を接着でき、容器1とは固定しない。
【0094】
どちらの方法においても、中空糸膜5を固定用の治具や容器、またはその両方に挿入し、接着剤を流し込むことで固定できる。中空糸膜同士の間隙に接着剤を充填する方法としては、例えば、遠心力を利用してポッティング剤を浸透させる遠心ポッティング法、又は、接着剤を自然流動により浸透させる静置ポッティング法が挙げられる。また接着剤を注型用の型に注入し、中空糸膜同士の間隙に充填させても構わない。
【0095】
接着剤で固定された中空糸膜端部を開口させる場合には、例えば、接着剤を流し込んだ際に接着剤が中空糸膜中空部に流入しないよう中空糸膜5の端部をあらかじめ封止しておき、接着剤で固定する。封止の方法としては中空部のみに接着剤を注入する方法や熱、溶媒による溶着などが挙げられる。端部を封止した中空糸膜5を接着剤で固定した後、封止部より他端側を、中空糸膜5の断面方向にカットすることで開口させることが可能である。中空糸膜端部を封止せず接着剤で固定すれば、接着剤が中空糸膜5の中空部に流入するため、当該端部は封止される。
【0096】
本発明においては、中空糸膜5の両端を接着剤で固定する方法を採用してもよいが、中空糸膜5の原液導入口側端部については、接着剤で固定しない自由端としてもよい。
【実施例0097】
以下に具体的な実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、本発明に関する各種パラメータは後述の方法以外は上記の方法を用いて測定した。
【0098】
(純水透過係数の測定)
純水透過係数Kは中空糸膜3本からなる、中空糸膜の膜長が0.1mのミニチュアモジュールを作製して測定した。温度25℃、ろ過差圧16kPaの条件下に、逆浸透膜ろ過水の外圧全量ろ過を10分間行い、透過液量(m)を求めた。その透過液量(m)を単位時間(h)および有効膜面積(m)あたりの値に換算し、さらに(50/16)倍することにより、圧力50kPaにおける値に換算することで純水透過係数Kを求めた。有効膜面積は、本発明においては中空糸膜5の外表面のうち、実際にろ過に使用される部分の面積である。
【0099】
(破断時荷重の測定)
破断時荷重は引っ張り試験機(TENSILON(登録商標)/RTM-100、東洋ボールドウィン株式会社製)を用い、測定長さ50mmの試料を、25℃の雰囲気中で引っ張り速度50mm/分で、試料を変えて5回以上試験し、平均値を算出した。
【0100】
(粘度の測定)
粘度の測定方法については、粘度計(ブルックフィールド社製 LVDV2T)を用いて測定した。LV-1のローターを用い、60ppmの回転数で測定した。測定温度は60℃で行った。
【0101】
(ろ過試験)
下記で得られた中空糸膜モジュールを用いたろ過試験には、図2に示した膜ろ過ユニットを使用した。原液タンク12の容積は5Lであり、供給ポンプ14を稼働させて原液を中空糸膜モジュールに導入し、一部をろ過してろ過液タンク13にろ過液を送液した。ろ過されなかった原液は、原液導出口4から原液タンク12に全て還流した。ろ過液タンク13に送液されたろ過液は、都度ポンプにて原液タンク12に返送し、原液タンクの水位が減らないよう制御した。ろ過は定圧力で行い、平均膜間差圧が150kPaとなるように設定した。なお、ここでの平均膜間差圧は原液導入圧力計41で測定される原液導入圧力と、原液導出圧力計42で測定される原液導出圧の平均値から、ろ過液導出圧力計43で測定されるろ過液導出圧を差し引くことで算出した。
ろ過は定流量で行い、初期フラックスから40%以上フラックスが低下するまでろ過を継続し、その後純水にて逆流洗浄を行った。
なお、フラックス(膜単位面積当たりのろ過液量)は、ろ過液量およびろ過液量を採水した時間および膜面積を測定することで、下記の式によって算出することができる。
フラックス(m/m/day)=ろ透過液量/膜面積/採水時間
【0102】
(実施例1)
(中空糸膜の製造)
まず始めに、フッ化ビニリデンホモポリマー(株式会社クレハ製KF1300、重量平均分子量:41.7万、数平均分子量:22.1万)39質量%とγ-ブチロラクトン61質量%を150℃で溶解し、原料液としてのポリマー溶液を得た。
【0103】
得られた原料液の加圧および吐出には、二重管式口金と、その口金につながれた配管と、その配管上に配置された2つのギヤーポンプとを備える装置を用いた。ギヤーポンプ間の配管内で、上記原料液を、2.5MPaに加圧しながら、100~103℃で15秒間滞留させた。その後、二重管式口金の内側の管からγ-ブチロラクトン85質量%水溶液を吐出しながら、外側の管から原料液を吐出した。γ-ブチロラクトン85質量%水溶液からなる温度5℃の冷却浴中に原料液を20秒間滞留させ、固化させ中空糸膜を得た。ついで、95℃の水中にて、上記で得られた中空糸膜を1.5倍に延伸し、球状構造の支持層を得た。
【0104】
次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを12質量%、セルロースアセテート(イーストマンケミカル社、CA435-75S)を7.2質量%、N-メチル-2-ピロリドンを80.8質量%の割合で95℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。この高分子溶液を上記で得られた球状構造からなる支持層に均一に塗布し、すぐに、水100%からなる凝固浴中で凝固させることによって、球状構造の層の上に三次元網目状構造の層を形成させた2層からなる複合中空糸膜を作製した。
【0105】
得られた中空糸膜は、外径Dが1300μm、内径Dが750μm、純水透過係数が0.4m/m/hr、破断時荷重が1010gf/本であった。また、原液に接する側の面(外表面)の孔径が0.007μmであり、内表面の孔径φiと外表面の孔径φoの比(φi/φo)が86であり、最外層(三次元網目構造層)の厚みHと最内層(球状構造層)の厚みHiの比(Ho/Hi)が0.22であった。なお、最外層の透過係数Lpと最内層の透過係数Lpは表1に示す通りである。
【0106】
(中空糸膜モジュールの製造)
上記で得られた中空糸膜を長さ1.2mにカットし、30質量%グリセリン水溶液に1時間浸漬後、風乾した。その後シリコーン接着剤(東レ・ダウコーニング社製、SH850A/B、2剤を質量比が50:50となるように混合したもの)で中空糸膜のろ過液導出口側端部を目止めした。
【0107】
その後、図1に示すように容器1(内径D97.6mm、長さ1100mm)に前述の中空糸膜を、目止めしたろ過液導出口側端部がろ過液導出口3側にくるように充填した。容器1の側面のろ過液導出口3側には原液導出口4が備えられている。
続いて、容器1の原液導入口2側に第1ポッティング部形成治具を、ろ過液導出口3側に第2ポッティング部形成治具を取り付けた。第1ポッティング部形成治具には、原液を原液側空間6に導入するための貫通孔を開口させるため、直径7mm、長さ100mmのピンを、中空糸膜の軸方向と同方向に挿入した。
【0108】
ポッティング剤として、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(ハンツマン社製、LST868-R14)と脂肪族アミン系硬化剤(ハンツマン社製、LST868-H14)を質量比が100:30となるように混合し、合計800g(片端当たり400g)をポッティング剤投入器に入れた。
【0109】
続いて遠心成型機を回転させ、ポッティング剤を両端の第1ポッティング部形成治具および第2ポッティング部形成治具に充填して第1ポッティング部8および第2ポッティング部9を成形し、ポッティング剤を硬化させた。遠心成型機内の温度は35℃、回転数は300rpm、遠心時間は5時間とした。
【0110】
硬化後、第1ポッティング部形成治具、第2ポッティング部形成治具及びピンを抜き取り、室温で24時間硬化させた後、第2ポッティング部9の端部をチップソー式回転刃でカットし、中空糸膜のろ過液導出口側の端面を開口させた。
続いて容器1に原液導入口2を備えた下部キャップと、ろ過液導出口3を備えた上部キャップを取り付け、中空糸膜モジュールとした。このとき、中空糸膜の膜長Lは1.0m、充填率Mは40%、膜面積は9.2mであった。
【0111】
上記の中空糸膜モジュールを用いて、ゼラチン水溶液を使用してろ過を行った。ゼラチン水溶液は、蒸留水に対しゼラチンの濃度が0.4質量%となるよう調整し、原液とした。このときの原液の温度は60℃で、粘度(μ)は3.5mPa・sであった。
初期フラックスを測定後、原液の流速vが1.0m/s、ろ過液の流速vが0.03m/s(ろ過流束としては0.3m/d相当)となるよう調整し、ろ過を開始した。ろ過を開始し、初期フラックスの60%までフラックスが低下した時点でろ過を終了し、純水をろ過液側から200kPaで加圧し15秒間逆流洗浄を行った。
逆流洗浄後に原液の流速vが1.0m/s、ろ過液の流速vが0.03m/s(ろ過流束としては0.3m/d相当)でゼラチン水溶液をろ過したところ、逆流洗浄後のゼラチン水溶液のフラックスは初期フラックス比79%まで回復し、逆流洗浄の効果を確認できた。また、ろ過開始直後のろ過液粘度(μ)は1.1mPa・sであり、μ/μは3.2であった。
【0112】
(実施例2)
実施例1の三次元網目状構造の層を凝固させる温度を調整し、外表面の孔径を0.01μm、φi/φoを60、最外層(三次元網目構造層)の厚みHと最内層(球状構造層)の厚みHiの比(Ho/Hi)を0.22とした以外は、実施例1と同様の方法で中空糸膜を作製した。なお、最外層の透過係数Lpと最内層の透過係数Lpは表1に示す通りである。
得られた中空糸膜を使用し、実施例1と同様の手順で中空糸膜モジュールを作製し、ゼラチン水溶液を使用してろ過を行った。ゼラチン水溶液は、実施例1と同様のものを用いた。
初期フラックスを測定後、原液の流速vが1.0m/s、ろ過液の流速vが0.03m/s(ろ過流束としては0.3m/d相当)となるよう調整し、ろ過を開始した。初期フラックスの59%までフラックスが低下した時点でろ過を終了し、純水をろ過液側から200kPaで加圧し15秒間逆流洗浄を行った。逆流洗浄後に原液の流速vが1.0m/s、ろ過液の流速vが0.03m/s(ろ過流束としては0.3m/d相当)でゼラチン水溶液をろ過したところ、逆流洗浄後のゼラチン水溶液のフラックスは初期フラックス比77%まで回復し、逆流洗浄の効果を確認できた。また、ろ過開始直後のろ過液粘度(μ)は1.2mPa・sであり、μ/μは2.9であった。
【0113】
(実施例3)
実施例1の三次元網目状構造の層を凝固させる温度を調整し、外表面の孔径を0.009μm、φi/φoを67、最外層(三次元網目構造層)の厚みHoと最内層(球状構造層)の厚みHiの比(Ho/Hi)を0.57とした以外は、実施例1と同様の方法で中空糸膜を作製した。なお、最外層の透過係数Lpと最内層の透過係数Lpは表1に示す通りである。
得られた中空糸膜を使用して、実施例1と同様の手順で中空糸膜モジュールを作製し、ゼラチン水溶液を使用してろ過を行った。ゼラチン水溶液は、実施例1と同様のものを用いた。
初期フラックスを測定後、原液の流速vが1.0m/s、ろ過液の流速vが0.03m/s(ろ過流束としては0.3m/d相当)となるよう調整し、ろ過を開始した。初期フラックスの59%までフラックスが低下した時点でろ過を終了し、200kPaで純水にてろ過液側から逆流洗浄を行った。逆流洗浄後に原液の流速vが1.0m/s、ろ過液の流速vが0.03m/s(ろ過流束としては0.3m/d相当)でゼラチン水溶液をろ過したところ、逆流洗浄後のゼラチン水溶液のフラックスは初期フラックス比48%まで回復し、逆流洗浄の効果を確認できた。また、ろ過開始直後のろ過液粘度(μ)は1.2mPa・sであり、μ/μは2.9であった。
【0114】
(比較例1)
重量平均分子量5万のポリエーテルスルホン(PES)を20重量%、界面活性剤:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー(三洋化成工業、ニューポール(登録商標)PE-108)を3重量%、N-メチル-2-ピロリドンを77重量%の割合で60℃の温度で混合溶解して樹脂溶液を調製した。この樹脂原液を、N-メチル-2-ピロリドン60重量%水溶液を中空部形成液体として随伴させながら二重管式口金から吐出し、温度20℃のN-メチル-2-ピロリドン40重量%水溶液中で凝固させて、三次元網目構造層のみからなる中空糸膜を作製した。
得られた中空糸膜は、外径Dが1300μmであり、内径Dが750μmであり、外表面の孔径が0.008μmであり、φi/φoが1.1である、異なる透水係数をもつ膜厚みを持たない、すなわち1層からなる中空糸膜であった。
得られた中空糸膜を使用して、実施例1と同様の手順で中空糸膜モジュールを作製し、ゼラチン水溶液を使用してろ過を行った。ゼラチン水溶液は、実施例1と同様のものを用いた。
初期フラックスを測定後、原液の流速vが1.0m/s、ろ過液の流速vが0.03m/s(ろ過流束としては0.3m/d相当)となるよう調整し、ろ過を開始した。初期フラックスの13%までフラックスが低下した時点でろ過を終了し、200kPaで純水にてろ過液側から逆流洗浄を行った。ろ過開始直後のろ過液粘度(μ)は1.1mPa・sであり、μ/μは3.2であった。逆流洗浄後に原液の流速vが1.0m/s、ろ過液の流速vが0.03m/s(ろ過流束としては0.3m/d相当)でゼラチン水溶液をろ過したところ、逆流洗浄後のゼラチン水溶液のフラックスは初期フラックス比20%までの回復に留まった。この理由としては、φi/φoが小さいことにより逆流洗浄の効果が低減したと考えられる。
【0115】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明のろ過方法は、洗浄回復性に優れたろ過が可能であるため、飲料水製造、浄水処理若しくは排水処理等の水処理分野に加えて、微生物や培養細胞の培養を伴う発酵分野、医薬分野、又は、食品飲料分野等における原液のろ過に、好ましく適用される。
【符号の説明】
【0117】
1 容器
2 原液導入口
3 ろ過液導出口
4 原液導出口
5 中空糸膜
6 原液側空間
7 ろ過液側空間
8 第1ポッティング部
9 第2ポッティング部
10 中空糸膜モジュール
12 原液タンク
13 ろ過液タンク
14 供給ポンプ
21 濃縮液弁
22 ろ過液弁
31 濃縮液流量計
32 ろ過液流量計
41 原液導入圧力計
42 原液導出圧力計
43 ろ過液導出圧力計
51 原液温度計
図1
図2