(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152900
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】繊維しごき装置並びにそれを用いた繊維強化複合材料の製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/54 20060101AFI20231005BHJP
D06C 27/00 20060101ALI20231005BHJP
B29C 70/50 20060101ALI20231005BHJP
B29C 70/20 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B29C70/54
D06C27/00 Z
B29C70/50
B29C70/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050846
(22)【出願日】2023-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2022058038
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田代 真敬
(72)【発明者】
【氏名】入江 慧
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 保
(72)【発明者】
【氏名】西谷 陸
【テーマコード(参考)】
3B154
4F205
【Fターム(参考)】
3B154AA14
3B154AB03
3B154AB09
3B154BB02
3B154BB47
3B154BC17
3B154BC39
3B154BD18
3B154DA21
4F205AC05
4F205AD16
4F205AJ08
4F205HA06
4F205HA37
4F205HB02
4F205HC02
4F205HK23
4F205HM04
(57)【要約】
【課題】
生産中であってもしごき部材に堆積した屑の除去・清掃が可能な繊維しごき装置並びにそれを用いた繊維強化複合材料の製造装置及び製造方法を提供する
【解決手段】
略一定の走行面を連続的に走行する繊維に対し、繊維走行方向に直交する横断方向を長手方向とする略棒状のしごき部材を前記走行面の両面側から当接させて前記繊維をしごく繊維しごき装置であって、
前記走行面の一方に存在する第1のしごき部材と、他方に存在する第2のしごき部材とを、横断方向に相対的に移動可能とする、しごき部材移動機構を備えた繊維しごき装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略一定の走行面を連続的に走行する繊維に対し、繊維走行方向に直交する横断方向を長手方向とする略棒状のしごき部材を前記走行面の両面側から当接させて前記繊維をしごく繊維しごき装置であって、
前記走行面の一方に存在する第1のしごき部材と、他方に存在する第2のしごき部材とを、横断方向に相対的に移動可能とする、しごき部材移動機構を備えた繊維しごき装置。
【請求項2】
前記第1のしごき部材と前記第2のしごき部材とがそれぞれ独立に横断方向に移動可能である、請求項1に記載の繊維しごき装置。
【請求項3】
前記第1のしごき部材と前記第2のしごき部材とが互いに異なる向きに移動可能である、請求項2に記載の繊維しごき装置。
【請求項4】
前記第1のしごき部材および/または前記第2のしごき部材が、それぞれ連続的に走行する繊維の幅以上の距離横断方向に移動可能である、請求項1~3のいずれかに記載の繊維しごき装置。
【請求項5】
前記しごき部材の横断方向の移動により前記しごき部材が前記繊維と当接しなくなった部分を清掃する清掃機構を備える、請求項1に記載の繊維しごき装置。
【請求項6】
請求項1に記載の繊維しごき装置を備えてなる、強化繊維に樹脂を含浸した繊維強化複合材料の製造装置。
【請求項7】
請求項1に記載の繊維しごき装置を用いて略一定の走行面を連続的に走行する繊維をしごくしごき工程を有する繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記しごき工程において、前記繊維の走行速度の1/10以下の速度で前記しごき部材を横断方向に移動させながら前記強化繊維をしごく、請求項7に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記しごき工程において強化繊維に樹脂を含浸させる、請求項7または8に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記しごき工程において強化繊維を開繊する、請求項7または8に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項11】
前記強化繊維を連続的に走行させながら、該強化繊維に当接する前記第1のしごき部材と前記第2のしごき部材とを相対的に横断方向に移動させ、前記しごき部材の前記強化繊維と当接しなくなった部分を清掃しつつ繊維強化複合材料を製造する、請求項7または8に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維やガラス繊維に代表される強化繊維に樹脂を含浸させる工程等で用いられる繊維しごき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、航空機や自動車等の産業用途において、繊維強化複合材料が広く用いられるようになっている。この繊維強化複合材料は、樹脂を強化繊維束の内部に含浸させるため、強化繊維を開繊し、強化繊維と樹脂を合流させたのち、それらを固定バーやローラ等でしごきながら樹脂を含浸させることが一般的である。
【0003】
例えば、特許文献1では、クリールから巻き出した強化繊維に樹脂を付与した後、強化繊維に当接するよう配置された複数のしごき部材でしごくことで、強化繊維束内部に樹脂を含浸させる繊維強化複合材料の製造装置が示されている。
【0004】
また、特許文献2では、クリールから巻き出した強化繊維を複数のしごき部材でしごくことで、強化繊維を開繊する繊維強化複合材の製造装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許6821922号明細書
【特許文献2】特開2008-246782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、強化繊維、特に炭素繊維は傷つきやすく、開繊または含浸のためにしごき部材でしごくと、毛羽立ちもしくは繊維破断が生じる場合が多いため、しごき部材に切れた繊維や経時劣化した樹脂の屑が堆積し、その屑が製品中に混入した場合は、異物混入により品位上のトラブル、もしくは製品ロスとなる。そこで、しごき部材に堆積した屑は定期的に取り除く必要があるが、屑は強化繊維および樹脂としごき部材が当接する部分の極めて近傍に堆積する。そのため、走行する強化繊維自体や、しごき部材自体が障害となり、屑にアクセスすることができず、生産中にしごき部材に堆積した屑を除去・清掃することは極めて困難であった。どうしてもしごき部材に堆積した屑を除去・清掃しなければならない場合には、生産を停止しなければならず、製品ロスもしくは生産機会損失が発生するという問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決するため、生産中であってもしごき部材に堆積した屑の除去・清掃が可能な繊維しごき装置並びにそれを用いた繊維強化複合材料の製造装置及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、下記の通りである。
(1)略一定の走行面を連続的に走行する繊維に対し、繊維走行方向に直交する横断方向を長手方向とする略棒状のしごき部材を前記走行面の両面側から当接させて前記繊維をしごく繊維しごき装置であって、
前記走行面の一方に存在する第1のしごき部材と、他方に存在する第2のしごき部材とを、横断方向に相対的に移動可能とする、しごき部材移動機構を備えた繊維しごき装置。
(2)前記第1のしごき部材と前記第2のしごき部材とがそれぞれ独立に横断方向に移動可能である、(1)に記載の繊維しごき装置。
(3)前記第1のしごき部材と前記第2のしごき部材とが互いに異なる向きに移動可能である、(2)に記載の繊維しごき装置。
(4)前記第1のしごき部材および/または前記第2のしごき部材が、それぞれ連続的に走行する繊維の幅以上の距離移動可能である、(1)~(3)のいずれかに記載の繊維しごき装置。
(5)前記しごき部材の横断方向の移動により前記しごき部材が前記繊維と当接しなくなった部分を清掃する清掃機構を備える、(1)~(4)のいずれかに記載の繊維しごき装置。
(6)(1)~(5)のいずれかに記載の繊維しごき装置を備えてなる、強化繊維に樹脂を含浸した繊維強化複合材料の製造装置。
(7)(1)~(5)のいずれかに記載の繊維しごき装置を用いて略一定の走行面を連続的に走行する繊維をしごくしごき工程を有する繊維強化複合材料の製造方法。
(8)前記しごき工程において、前記繊維の走行速度の1/10以下の速度で前記しごき部材を横断方向に移動させながら前記強化繊維をしごく、(7)に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
(9)前記しごき工程において強化繊維に樹脂を含浸させる、(7)または(8)に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
(10)前記しごき工程において強化繊維を開繊する、(7)または(8)に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
(11)前記強化繊維を連続的に走行させながら、該強化繊維に当接する前記第1のしごき部材と前記第2のしごき部材とを相対的に横断方向に移動させ、前記しごき部材の前記強化繊維と当接しなくなった部分を清掃しつつ繊維強化複合材料を製造する、(7)~(10)のいずれかに記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、装置の稼働中にしごき部材に堆積した屑の除去・清掃が可能となり、繊維強化複合材料の生産性を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる繊維強化複合材料製造装置を示す概略断面図である。
【
図2】しごき部材およびしごき部材移動機構の概略図である。
【
図5】しごき部材がY方向に移動した形態を示す概略図である。
【
図6】しごき部材およびしごき部材移動機構の別の実施形態を示す拡大図である。
【
図8】しごき部材がY方向に移動した形態を示す概略図である。
【
図10】
図1とは別の繊維強化複合材料製造装置を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の望ましい実施形態として、本発明の繊維しごき装置を繊維強化複合材料の製造装置に適用した場合について、図面に基づいて説明する。このような、繊維しごき装置を備えてなる、強化繊維に樹脂を含浸した繊維強化複合材料の製造装置、あるいは本発明の繊維しごき装置を用いて略一定の走行面を連続的に走行する強化繊維をしごくしごき工程を有する繊維強化複合材料の製造方法もまた、本発明の一側面である。また、以下の説明は発明の実施形態を例示するものであり、本発明はこれに限定して解釈されるものではなく、本発明の目的・効果を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であるとともに、これらの特定の実施形態についての説明は、上位概念としての本発明の説明としても理解し得るものである。
【0012】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の一実施形態に係る繊維しごき装置を、繊維強化複合材料の製造装置における、強化繊維に樹脂を含浸させる操作に適用した例を示す概略断面図である。図中のX方向は繊維強化複合材料の走行方向、Y方向は繊維強化複合材料の走行方向と直交する横断方向である。また、Z方向は繊維強化複合材料の走行面と垂直な方向である。また、強化繊維および繊維強化複合材の走行面よりも+Zの領域を上方とし、-Z方の領域を下方と称する場合がある。
【0013】
クリール1より巻き出された強化繊維2はガイドロール3を通して、略一定の平面上に配列された状態で、+Xの向きに走行する。(以下、本明細書において、このように配列された強化繊維が走行する略一定の平面を「走行面」という。)次いで樹脂塗布装置4により樹脂(図示は省略されている)を強化繊維2に付与する。図示していないが、樹脂塗布装置4には樹脂の供給装置が具備されている。その後ヒーター6で加熱し、走行面の上下にそれぞれ設けられたしごき部材移動機構8に備え付けられたしごき部材7の間を、一定範囲の速度と一定範囲の張力で通すことにより、強化繊維2中に樹脂を含浸させる。その後、冷却装置9で冷却し、巻き取り装置10により、繊維強化複合材料11をロール状に巻き取る。すなわち、本実施形態においては、本発明の繊維しごき装置を用いて略一定の走行面を連続的に走行する強化繊維2をしごくしごき工程において、強化繊維2に樹脂を含浸させる。
【0014】
クリール1には強化繊維2を引き出す際に張力制御機構が付与されていることが好ましい。張力制御機構としては、公知のものを使用可能であるが、ブレーキ機構などが挙げられる。また、糸道ガイドの調整などによっても張力を制御することができる。
【0015】
強化繊維2としては、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、金属酸化物繊維、金属窒化物繊維、有機繊維(アラミド繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエチレン繊維など)などを用いることができる。特に炭素繊維は単繊維径が5~10μm程と細く、固定バーやローラ等でしごくと傷つきやすいため、毛羽立ちもしくは繊維破断が生じ、しごき部材に切れた繊維等が堆積し、生産トラブルが発生することが多い。そのため、本発明の一実施形態に係る繊維しごき装置は炭素繊維に適用することが好ましい。
【0016】
樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、PMMA樹脂などの熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0017】
なお、強化繊維を略一定の平面上に配列する、とは、複数本、典型的には10本~200本程の強化繊維をシート状に一方向に配列することを意味し、複数本の強化繊維が一方向に配列されている場合でも、必ずしも強化繊維同士が隙間なくして配列し一体化している必要はない。
【0018】
本発明における強化繊維2および繊維強化複合材料11は、厚み、幅には特に制限は無く、目的、用途に応じ適宜選択することができる。例えば、炭素繊維の場合には、通常、1,000本~1,000,000本程度の単繊維がテープ状に集合したものを「トウ」と呼んでおり、このトウを配列させて繊維強化複合材料を得ることができるが、トウが厚み方向に積層されていても良い。強化繊維がトウで供給される場合、本明細書における「強化繊維」は、トウを意味するものとする。
【0019】
樹脂塗布装置4は、溶融樹脂と繊維束を合流させることによる含浸を行う方法(溶融含浸法)や、パウダー状態の樹脂を強化繊維に付着させる方法などが適用できる。具体的には、ダイを用いて塗布された溶融樹脂をロールなどの曲面を通過せることで含浸させる方法が使用できる。その他、ロールコートでもよく、ディップコートなども使用可能である。
【0020】
ヒーター6は、強化繊維2および樹脂を加熱するものであって、加熱手段としては、空気加熱、赤外線加熱、遠赤外線加熱、レーザー加熱、接触加熱、熱媒加熱(スチームなど)など多様な手段を用いることができる。中でも赤外線加熱は装置が簡便であり、走行速度が速くても所望の温度まで効率よく加熱が可能であり、好ましい。
【0021】
冷却装置9は、内部に熱媒(例えば、水や油)などを循環させたロールで強化繊維2および樹脂を上下から挟み、接触による熱交換により冷却することができる。その他、空気冷却による非接触の冷却装置であってもよい。
【0022】
図2は、しごき部材7、および、しごき部材移動機構8の拡大図であり、
図3はその斜視図である。強化繊維走行面の上方に繊維走行方向に直交する横断方向(Y方向)を長手方向とする略棒状の第1のしごき部材7aが強化繊維2に当接するよう2本配置されており、また、下方には、同じく略棒状の第2のしごき部7bが3本配置され、強化繊維2を走行面の両面側から交互にしごく形態が示されている。しごき部材7aおよび7bの本数、また、X方向の配置の間隔に特に制限は無く、目的、用途に応じ適宜選択することができる。なお、第1のしごき部材、第2のしごき部材とは、強化繊維の走行面の一方(本実施形態では上方)に存在するしごき部材と、他方(本実施形態では下方)に存在するしごき部材を区別するために用いる表現であり、走行面の一方または他方に複数のしごき部材が存在する場合には、当該複数のしごき部材を集合的に呼称するものである。
【0023】
しごき部材7の強化繊維2との当接面には、強度を高めるための加工や表面処理等が施されていることが好ましい。その形状や大きさ、加工、表面処理等に特に制限は無く、目的、用途に応じ適宜選択することができる。
図2および
図3では、しごき部材7の強化繊維2との当接面の形状が円弧状のしごき部材である態様を示すが、当該当接面の形状は略平面であってもよい。また、1つのしごき部材に強化繊維2との当接面が二箇所以上あってもよい。また、しごき部材7はローラであってもよい。ローラは自由回転する機構でも良いが、動力を伝達する機構を有している方が好ましく、駆動方式はローラの回転速度を調整できる機構であればよい。動力源には公知のものを使用可能であるが、電気モータやエアモータなどの駆動モータを利用したもの、あるいはヒステリシスブレーキ、パウダーブレーキなどのブレーキ機構を利用したものでも良い。前記方法にて、ローラ周速度と繊維走行速度との間に速度差を設けることで、ローラ上の毛羽堆積を抑制することができる。
【0024】
第1のしごき部材7aは、しごき部材移動機構8aに連結されている。また、第2のしごき部材7bはしごき部材移動機構8bに連結されている。しごき部材7の数、および、しごき部材移動機構8の数、さらに、1つのしごき部材移動機構8に連結されるしごき部材7の数に制限はなく、目的、用途に応じ適宜選択することができる。
図2および
図3では、強化繊維2走行面の上方に配置された第1のしごき部材7a2本が1台のしごき部材移動機構8a(
図3では便宜上しごき部材移動機構8aの図示を省略)に連結され、強化繊維2走行面の下方に配置された第2のしごき部材7b3本が1台のしごき部材移動機構8bに連結された形態であるが、この形態のみに限定されるものではない。
【0025】
図4はしごき部材移動機構の一実施形態を示す概略図である。説明の便宜上、強化繊維2走行面の下方に配置された第2のしごき部材7bとしごき部材移動機構8bのみを示している。
【0026】
第2のしごき部材7bは、直動機構22の上に備え付けられており、Y方向にスライドが可能である。直動機構としては、リニアガイドや電動アクチュエータやエアシリンダ、ボールねじやボールガイドなどを用いることができる。強化繊維2をしごき部材7bでしごくことで、しごき部材7bが強化繊維2から受ける荷重が大きい場合などには、ローラフォロアなどの複数のベアリング部材を用いて直動機構を構成することも可能であり、その他、しごき部材7bおよびしごき部材移動機構8bに求められる耐熱性などの目的、用途に応じて適宜選択することが可能である。
【0027】
また、前述のように、直動機構22は複数備えられていても良いし、複数のしごき部材を1つの直動機構22で移動させてもよく、目的や用途に応じ適宜選択することができる。
【0028】
しごき部材7bには、Y方向に長い棒状のラック(歯車軸)20が具備されており、さらにラック20の歯とかみ合う位置にピニオン(歯車)21が備え付けられている。ピニオン21は、Z方向に備えられる駆動軸24に固定されており、駆動軸24およびピニオン21は駆動軸のZ軸上方に連結される駆動モータ(図示は省略)によって回転する。そして、ピニオン21の回転運動がラック20により直線運動に変換され、しごき部材7のY方向往復運動が得られる。直動機構を構成するラックとピニオンは、それ以外にも目的や用途に応じ適宜選択することができ、チェーンとスプロケットなどを用いることもできる。
【0029】
ラック20、ピニオン21、駆動モータから成るしごき部材移動機構が備え付けられる位置に制約はなく、目的や用途に応じ適宜選択することができる。
【0030】
しごき部材移動機構8を構成する駆動モータとしては、ステッピングモータやサーボモータなどを用いることができる。ただし、電動モータに限られるものではなく、エアモータなどでもよい。その他、エアシリンダ、電動アクチュエータ等でもよい。
【0031】
図5に示すように、しごき部材移動機構8a(便宜上、しごき部材移動機構8aの図示を省略)および8bにそれぞれ連結された第1のしごき部材7a、および、第2のしごき部材7bは、互いに異なる向きに移動可能である。すなわち、第1のしごき部材7aが+Yの向きに移動すると同時に、第2のしごき部材7bは-Yの向きに移動することができる。このようにして、第1のしごき部材7aと第2のしごき部材7bとは、Y方向に相対的に移動可能である。なお、第1のしごき部材と第2のしごき部材とがY方向に相対的に移動可能、とは、第1のしごき部材と第2のしごき部材とがY方向に一体として移動するのではなく、両者が異なる速度で移動する(両者が同じ速さで異なる向きに移動する場合を含む)ことを意味し、両者が互いに異なる向きに移動する態様に限定されるものではないが、好ましい形態において、第1のしごき部材と第2のしごき部材とは互いに異なる向きに移動可能であることにより相対的に移動可能である。
【0032】
また、第1のしごき部材7aと第2のしごき部材7bとは、それぞれ独立にY方向に移動可能である。なお、それぞれ独立に移動可能とは、1のしごき部材と第2のしごき部材とが同時に移動するのではなく、第1のしごき部材7aのみが移動する(第2のしごき部材7bは移動しない)、もしくは、第2のしごき部材7bのみが移動する(第1のしごき部材7aは移動しない)ことが可能であることを意味する。第1のしごき部材7a、第2のしごき部材7bそれぞれがY方向に移動する距離は、走行する強化繊維の幅12以上とすることが好ましい。
【0033】
また、しごき部材7の内部に、カートリッジヒーターなどの熱源を設けることで、材料を加熱しながら、しごくことができる。この場合において、しごき部材7には常に、強化繊維2との当接面と非当接面が存在し、当接面では走行する繊維との間の熱移動が多く、非当接面に比べ冷やされすい傾向がある。さらに、しごき部材7は繊維の幅方向に移動するため、冷やされやすい当接面は時間と共に移動する。各しごき部材7が温度制御ポイントを一つしか有していない場合は、一般的には制御点をしごき部材7の幅方向における中央に設置するが、上記当接面がしごき部材の両端かその付近に移動した場合、温度制御ポイントと上記当接面との距離が大きく離れ、上記当接面の温度は低下する。そのため、しごき部材の幅方向における温度制御ポイント及びその発熱体の組み合わせを繊維の幅方向に多点に設けることが好ましい。
【0034】
特に、強化繊維2の上方に配置されたしごき部材7aと、強化繊維の下方に配置されたしごき部材7bとが、同じ速度で交互に往復動作する形態が好ましい。すなわち、
図5に示す形態においては、強化繊維2の上方に配置された第1のしごき部材7aが+Yの向きに速度Vで移動すると同時に、強化繊維2の下方に配置された第2のしごき部材7bが-Yの向きに速度Vで移動するよう構成するとよい。これにより強化繊維2に対して、Yの向きに等しい力が逆方向にも働くため、強化繊維2の蛇行を抑制することができる。さらに、強化繊維2に当接していた部分近傍とそこに堆積した毛羽や樹脂の屑に容易にアクセスすることが可能となるため、容易に屑の除去・清掃が可能となる。
【0035】
それでもなお、しごき部材7aおよび7bがY方向に移動することにより、強化繊維2にY方向の力がかかり、強化繊維2の蛇行が発生することはあり得る。強化繊維の蛇行が発生すると、繊維強化複合材製品ロールの巻き崩れが発生するため、生産上問題となる。そのため、本装置を用いて強化繊維をしごく操作(しごき工程)を行う際には、しごき部材7aおよび7bのY方向の移動速度は強化繊維2の走行速度の1/10以下とすることが好ましく、1/50以下とすることがより好ましく、1/100以下とすることが特に好ましい。
【0036】
このように、強化繊維を連続的に走行させながら、強化繊維に当接する第1のしごき部材と第2のしごき部材とを相対的にY方向に移動させることで、しごき部材の強化繊維と当接しなくなった部分を清掃しつつ繊維強化複合材料を製造することができる。
【0037】
図6および
図7に、本発明の別の実施形態の概略図を示す。
図6および
図7では、強化繊維2の上方に第1のしごき部材7a
1および7a
2と、強化繊維2の下方に第2のしごき部材7b
1および7b
2とが、お互いに向い合せで配置され、しごき部材7a
1および7a
2、7b
1および7b
2が、強化繊維2の下方に配置されたしごき部材移動機構8b
1、8b
2にそれぞれ連結されている。前述の通り、しごき部材7およびしごき部材移動機構8の組み合わせは、強化繊維2の上方に配置されたもの、もしくは下方に配置された組み合わせに限定されるものではなく、本形態のように、第1のしごき部材7aと第2のしごき部材7bが一つのしごき部材移動機構に連結されている形態も可能であり、目的、用途に応じて組み合わせることが可能である。なお、
図6および
図7において、しごき部材7a
1および7b
1を連結する構造体の図示、また、7a
2および7b
2を連結する構造体は、便宜上省略している。
【0038】
図8に示すように、しごき部材移動機構8b
1に連結されたしごき部材7a
1および7b
1が+Yの向きに速度Vで移動すると同時に、しごき部材移動機構8b
2に連結されたしごき部材7a
2および7b
2が-Yの向きに速度Vで移動することができる。これにより強化繊維2に対して、Y方向に等しい力が逆方向に働くため、強化繊維2の蛇行を抑制することができる。さらに、強化繊維2に当接していた部分近傍とそこに堆積した毛羽や樹脂の屑にアクセスすることが可能となるため、容易に屑の除去・清掃が可能となる。なお、
図8において、しごき部材7a
1および7b
1を連結する構造体の図示、また、7a
2および7b
2を連結する構造体は、便宜上省略している。
【0039】
図9は、しごき部材7の表面に付着した毛羽や樹脂などの屑を除去・清掃する清掃機構30の一例を示す図である。清掃機構30は、Y方向の移動によりしごき部材7が繊維と当接しなくなった部分を清掃することができるよう、繊維しごき装置に設けられる。清掃機構としては、例えば、しごき部材の表面に付着している屑を削ったり、こそげとったりする刃状、へら状の器具としてスクレーパーを用いることができるが、この形態のみに限定されるものではなく、毛羽・樹脂を除去できるものであればよい。清掃機構30は、強化繊維2としごき部材7が当接する部分の外側に備えられ固定されており、しごき部材7がY方向に移動するのに伴い、しごき部材7の表面に付着した毛羽や樹脂などの屑の除去・清掃が可能である。
【0040】
[第2の実施形態]
図10は、本発明の繊維強化複合材料の製造装置の別の実施形態を示す概略断面図であり、上記の繊維しごき装置をガイドロール3の後にも配置した繊維強化複合材料の製造装置の概要を示す図である。
【0041】
クリール1より巻き出された強化繊維2はガイドロール3の後、しごき部材移動機構8に備え付けられたしごき部材7によって開繊され、シート状に配列される。次いで樹脂塗布装置4により樹脂(図示は省略されている)を強化繊維2に付与する。また、図示していないが樹脂塗布装置4には樹脂の供給装置が具備されている。その後ヒーター6で加熱し、しごき部材移動機構8に備え付けられたしごき部材7の間を、一定範囲の速度と一定範囲の張力で通すことにより、強化繊維2中に樹脂を含浸させる。その後、冷却装置9で冷却し、巻き取り装置10により、繊維強化複合材料11をロール状に巻き取る。
【0042】
本実施形態のガイドロール3の後に配置されたしごき部材7は、強化繊維2を広げて薄くする開繊する機能を有する。すなわち、本実施形態においては、ガイドロール3の後に配置された繊維しごき装置による繊維しごき工程において、強化繊維を開繊する。強化繊維を広げて薄くする開繊することは樹脂を含浸させる上で非常に重要であるが、特に炭素繊維は傷つきやすく、開繊幅を広げる際に毛羽立ちもしくは繊維破断が生じる場合が多い。本実施形態の繊維強化複合材製造装置は、開繊の工程においてもしごき部材7に堆積した毛羽の除去・清掃が可能であり、毛羽堆積による生産上のトラブルをさらに抑制することで、良質な繊維強化複合材料の製造が可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 :クリール
2 :強化繊維
3 :ガイドロール
4 :樹脂塗布装置
6 :ヒーター
7 :しごき部材
8 :しごき部材移動機構
9 :冷却装置
10:巻取装置
11:繊維強化複合材料
12:繊維幅
20:ラック
21:ピニオン
22:直動機構
24:駆動軸
30:清掃機構