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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152911
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/02 20060101AFI20231005BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20231005BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20231005BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08L1/02
C08L23/04
C08L23/10
C08L23/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052316
(22)【出願日】2023-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2022055395
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野呂 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】牧村 洋一郎
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB011
4J002BB03X
4J002BB11Y
4J002BB12Y
4J002BB14Y
4J002BB15Y
4J002BB21Z
4J002BN05Z
4J002BP02Y
4J002FA001
4J002GG00
4J002GG02
(57)【要約】
【課題】成形性に優れ、各種の成形方法、特に、射出成形とインフレーション成形の双方に対応することができ、かつセルロース粉の含有率に優れる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】樹脂組成物は、平均粒子径が10μm以下のセルロース粉100質量部に対して、低密度ポリエチレンを15~50質量部、プロピレン系エラストマーを25~65質量部、及び無水マレイン酸変性ポリオレフィンを4~18質量部含有し、プロピレン系エラストマーのMFRが3~16g/10minである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が10μm以下のセルロース粉100質量部に対して、低密度ポリエチレンを15~50質量部、プロピレン系エラストマーを25~65質量部、及び無水マレイン酸変性ポリオレフィンを4~18質量部含有し、
前記プロピレン系エラストマーの下記の測定条件によるMFRが3~16g/10minである、樹脂組成物。
[測定条件]
JIS K 7210-1:2014の規定に準拠して、温度:190℃、荷重:2.16kgの条件で測定する。
【請求項2】
前記樹脂組成物の全体に対する前記セルロース粉の含有量が50質量%超である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記低密度ポリエチレンと前記プロピレン系エラストマーとの質量比が、低密度ポリエチレンの質量:プロピレン系エラストマーの質量=1:0.7~1:2.8である、請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンがα-オレフィン無水マレイン酸共重合体である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース粉を含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、海洋プラスチック問題を始め、合成樹脂製品の廃棄物が問題視されている。そのため、合成樹脂製品、特に利用後に廃棄される製品に対し、原材料の少なくとも一部を合成樹脂以外の原材料に転換し、合成樹脂の使用量を削減することが要望されている。
【0003】
この合成樹脂以外の原材料としては、例えば、紙等のセルロース材料が挙げられ、このセルロース材料は安価であり、リサイクル性に優れているため、フィルム等の成形材料である熱可塑性樹脂やエラストマーの補強材として広く使用されている。
【0004】
このようなセルロース材料を含有する樹脂組成物としては、例えば、平均粒径が10~100μmのセルロース粉(微細紙粉)を20~70質量部、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂を30~80質量部含有し、セルロース粉及び熱可塑性樹脂の合計が100質量部である樹脂組成物が提案されている。そして、このような樹脂組成物を使用することにより、良好な流動性を有し、成形加工用の素材として良好な樹脂組成物を得ることができると記載されている。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-6411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上記従来のセルロース粉を含有する樹脂組成物においては、樹脂組成物の全体に対してセルロース粉の含有率が50質量%を超える場合、容器包装リサイクル法上の紙として取り扱うことができるが、セルロース分の含有率が増加すると、フィルム等の成形工程において穴あき等が発生し、良好な成形品を得ることができないという問題があった。
【0007】
また、上記従来のセルロース粉を含有する樹脂組成物は、ポリプロピレンが基材となっているため、当該樹脂組成物が硬く、上述の穴あき等の発生を防止するためには、セルロース粉の含有率を下げる必要があるため、合成樹脂使用量の削減効果が薄れるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、各種の成形方法、特に、射出成形とインフレーション成形の双方に対応することができ、かつセルロース粉の含有率に優れる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の樹脂組成物は、平均粒子径が10μm以下のセルロース粉100質量部に対して、低密度ポリエチレンを15~50質量部、プロピレン系エラストマーを25~65質量部、及び無水マレイン酸変性ポリオレフィンを4~18質量部含有し、プロピレン系エラストマーの下記の測定条件によるMFRが3~16g/10minであることを特徴とする。
[測定条件]
JIS K 7210-1:2014の規定に準拠して、温度:190℃、荷重:2.16kgの条件で測定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、成形性に優れ、各種の成形方法、特に、射出成形とインフレーション成形の双方に対応することができ、かつセルロース粉の含有率に優れる樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の樹脂組成物について具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更して適用することができる。
【0012】
本発明の樹脂組成物は、セルロース粉と、低密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂と、プロピレン系エラストマー等のオレフィン系エラストマーと、無水マレイン酸変性ポリオレフィン(以下、「MA-PO」という場合がある。)とを含有するものである。
【0013】
<セルロース粉>
本発明のセルロース粉は、例えば、精製された高純度のコットンリンター、木材、竹、バガス等を由来とするパルプを使用し、これらのパルプをナイフミル、竪型ローラミル、ジェットミル等の粉砕機で粉砕した粉末パルプを原料とし、目的の平均粒子径となるように分級する方法により製造することができる。
【0014】
また、セルロース粉の平均粒子径は、10μm以下である。平均粒子径が10μm以下であれば、押出し時にはドローダウンによる穴あき等がなくなり、射出時には微細な構造に対応しやすくなるため、樹脂組成物の成形性に優れるとともに、靭性に優れる。
【0015】
また、セルロース粉の平均粒子径は、5μm以上が好ましい。平均粒子径が5μm以上であれば、樹脂組成物の剛性が優れる。
【0016】
なお、「平均粒子径」とは、50%粒径(D50)を指し、レーザー回折式粒度分布測定装置(マルバーン社製乾式粒度分布計、商品名:MASTER SIZER 3000)等により体積平均粒子径として測定できる。
【0017】
また、セルロース粉は、市販品を使用してもよい。セルロース粉の市販品としては、日本製紙株式会社製のKCフロック、レッテンマイヤージャパン株式会社製のセルロースマイクロファイバ一等が挙げられる。
【0018】
また、樹脂組成物の全体(すなわち、セルロース粉とポリエチレン系樹脂とオレフィン系エラストマーとMA-POの総質量)に対するセルロース粉の含有量は、樹脂組成物の全体に対して(すなわち、樹脂組成物100質量%のうち)50質量%超である。セルロース粉の含有量が50質量%超であれば、成形体における合成樹脂の使用量の削減効果に優れ、環境負荷を低減することができるとともに、熱可塑性樹脂の含有割合が少ない場合であっても、十分な剛性を発現することができる。
【0019】
なお、樹脂組成物の成形性と剛性をより一層向上させるとの観点から、樹脂組成物の全体に対するセルロース粉の含有量は、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
【0020】
<ポリエチレン系樹脂>
ポリエチレン系樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、及び超低密度ポリエチレン(ULDPE)等を使用することができ、ポリエチレン系樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
なお、セルロース粉と複合した樹脂組成物とした際にも柔軟性を損ないにくく、エラストマーと相溶しやすいとの観点から、ポリエチレン系樹脂として低密度ポリエチレン(密度:0.900~0.930g/cm)を使用することが好ましい。
【0022】
また、ポリエチレン系樹脂として低密度ポリエチレンを使用する場合、セルロース粉100質量部に対する低密度ポリエチレンの含有量は15~50質量部である。これは、15質量部未満の場合は、樹脂組成物が柔らか過ぎて、離型性が悪くなるため、成形性が低下するためであり、50質量部よりも多い場合は、樹脂組成物が硬い上、脆くもなるため、成形性が低下するためである。
【0023】
なお、低密度ポリエチレンとして、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)やメタロセン触媒により得られた低密度ポリエチレンを用いると、摺動性が向上するため、本発明の樹脂組成物は、頻回に開閉がおこなわれる容器の蓋等のスクリュー形状を有する成形品に、特に適している。
【0024】
<オレフィン系エラストマー>
本発明で使用するオレフィン系エラストマーとしては、炭素数3以上のオレフィンを主成分とした共重合体又は単独重合体、並びにエチレンを主成分とした炭素数3以上のオレフィンとの共重合体等が挙げられる。
【0025】
より具体的には、プロピレン-エチレン共重合、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体等が挙げられる。なお、オレフィン系エラストマーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
また、オレフィン系エラストマーは、一般的に力学的性質などの基本物性を支配するハードセグメントと、ゴム的な性質である伸縮性を支配するソフトセグメントによって構成される。オレフィン系エラストマーのハードセグメントがポリプロピレンからなるものをプロピレン系エラストマーといい、ハードセグメントがポリエチレンからなるものをエチレン系エラストマーという。オレフィン系エラストマーのソフトセグメントとしては、EPDM、EPM、EBM、IIR、水添スチレンブタジエンゴム(HSBR)、NBR、アクリルゴム(ACM)が挙げられる。
【0027】
また、樹脂組成物の成形性に優れるとともに、靭性に優れるとの点から、プロピレンを主成分とした共重合体(例えば、上述の「プロピレン-エチレン共重合体」)またはプロピレンの単独重合体であるプロピレン系エラストマーが好ましい。
【0028】
また、プロピレン系エラストマーの場合、全単位に対するプロピレン単位含有率は、70質量%~95質量%が好ましく、80質量%~90質量%がより好ましい。ハードセグメントであるプロピレン単位含有率が70質量%以上であれば、強度が向上するため、優れた成形性が得られ、95質量%以下であれば、ソフトセグメントの弾性により、優れた伸縮性が得られる。
【0029】
また、オレフィン系エラストマーとしてプロピレン系エラストマーを使用する場合、セルロース粉100質量部に対するプロピレン系エラストマーの含有量は25~65質量部である。これは、25質量部未満の場合は、樹脂組成物が硬い上、脆くもなるため、成形性が低下するためであり、65質量部よりも多い場合は、樹脂組成物が柔らか過ぎて、離型性が悪くなるため、成形性が低下するためである。
【0030】
また、プロピレン系エラストマーのメルトマスフローレート(MFR)は、3~16g/10minである。プロピレン系エラストマーのMFRが3g/10min以上であれば、樹脂組成物の成形性に優れるとともに、樹脂組成物の剛性に優れ、16g/10min以下であれば、樹脂組成物の成形性に優れるとともに、靭性に優れる。
【0031】
なお、上述のメルトマスフローレートは、JIS K 7210-1:2014の規定に準拠して測定することで得られ、本願における、プロピレン系エラストマーの測定条件は、温度:190℃、荷重:2.16kgの条件である。
【0032】
また、一般のポリプロピレン系樹脂であれば、温度:230℃、荷重:2.16kgの条件で測定することができ、一般のポリエチレン系樹脂であれば、温度:190℃、荷重:2.16kgの条件で測定することができる。
【0033】
また、樹脂組成物の成形性を向上させるとの観点から、樹脂組成物における低密度ポリエチレンとプロピレン系エラストマーとの質量比は、低密度ポリエチレンの質量:プロピレン系エラストマーの質量=1:0.7~1:2.8であることが好ましい。
【0034】
また、プロピレン系エラストマーの融点は、50~160℃が好ましく、50~80℃がより好ましい。プロピレン系エラストマーの融点が50℃以上であれば、樹脂組成物の靭性がより優れ、160℃以下であれば、樹脂組成物の剛性がより優れる。
【0035】
なお、「融点」とは、示差走査熱量計(DSC)におけるDSCチャートの融解開始温度のことを意味する。
【0036】
また、プロピレン系エラストマーの曲げ弾性率は、5~50MPaが好ましく、5~10MPaがより好ましい。プロピレン系エラストマーの曲げ弾性率が5~50MPaであれば、樹脂組成物の曲げ弾性率が、後述する好ましい範囲内となりやすい。
【0037】
<無水マレイン酸変性ポリオレフィン>
MA-POは、相溶化剤として機能するものであり、樹脂組成物がMA-POを含有することにより、樹脂組成物において、セルロース粉が分散しやすくなる。
【0038】
MA-POとしては、α-オレフィン-無水マレイン酸共重合体、α-オレフィン重合体と無水マレイン酸との混合物、α-オレフィンとα-オレフィン-無水マレイン酸共重合体と無水マレイン酸との混合物等が挙げられる。また、α-オレフィンとしては、エチレンやプロピレン等が挙げられる。
【0039】
また、セルロース粉100質量部に対するMA-POの含有量は4~18質量部である。これは、4質量部未満の場合は、樹脂組成物内のセルロース粉の分散性が低下し、成形性が低下するためであり、18質量部よりも多い場合は、MA-PO成分同士が凝集してしまうため、MA-POの含有率が4質量部未満の場合と同様に、樹脂組成物内のセルロース粉の分散性が低下し、成形性が低下するためである。
【0040】
MA-POの溶融粘度は、100~15000mPa・sが好ましく、200~5000mPa・sがより好ましい。MA-POの溶融粘度が100mPa・s以上であれば、樹脂組成物の成形性に優れるとともに、靭性に優れ、15000mPa・s以下であれば、樹脂組成物の剛性がより優れる。
【0041】
なお「溶融粘度」は、キャピラリーレオメータにより測定される粘度のことを言う。
【0042】
MA-POの酸価は、5~150mgKOH/gが好ましく、30~100mgKOH/gがより好ましい。MA-POの酸価が5mgKOH/g以上であれば、樹脂組成物の成形性に優れ、150mgKOH/g以下であれば、樹脂組成物の外観がより優れる。
【0043】
なお、「酸価」は、中和滴定により測定される値のことを言う。
【0044】
<他の成分>
樹脂組成物は、必要に応じて、上述のセルロース粉、ポリエチレン系樹脂、オレフィン系エラストマー、及び無水マレイン酸変性ポリオレフィン以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、安定剤、酸化防止剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤等の添加剤が挙げられる。
【0045】
なお、樹脂組成物の全体に対する他の成分の含有量は、0質量%以上5質量%未満が好ましく、0質量%以上2質量%未満がより好ましい。
【0046】
<曲げ弾性率>
樹脂組成物の曲げ弾性率は、150~1000MPaが好ましく、300~600MPaがより好ましい。曲げ弾性率が150MPa以上であれば、樹脂組成物の剛性がより優れ、1000MPa以下であれば、樹脂組成物の靭性がより優れる。
【0047】
なお、「曲げ弾性率」は、JIS K 7171に準拠し、温度23℃、相対湿度50%、試験速度1mm/min±20%の条件で測定される。
【0048】
<引張降伏応力>
樹脂組成物の引張降伏応力は、4~10MPaが好ましく、4.9~7.2MPaがより好ましい。引張降伏応力が4MPa以上であれば、樹脂組成物の成形性と靭性がより優れ、10MPa以下であれば、樹脂組成物の剛性がより優れる。
【0049】
なお、「引張降伏応力」は、JIS K 7161-1に準拠し、温度23℃、相対湿度50%、試験速度50mm/min±10%の条件で測定される。
【0050】
<最大延伸倍率>
樹脂組成物の最大延伸倍率は、200~1100%が好ましく、350~1080%がより好ましい。樹脂組成物の最大延伸倍率が200%以上であれば、樹脂組成物の靭性がより優れ、1100%以下であれば、樹脂組成物の成形性がより優れる。
【0051】
なお、「最大延伸倍率」は、JIS K 7199の規定に準拠し、以下の方法により求められる。
【0052】
1.出口にダイが設置されたシリンダー内に樹脂組成物のペレットを充填し、170℃に加熱して溶融させる。
【0053】
2.シリンダーの入口からピストンを10mm/min(一定)の速度で下降させ、直径1mmのダイ出口から溶融物を10mm/minの速度で押し出す。
【0054】
3.ダイから押し出されたストランド状の溶融物を滑車に通し、引取ロールに挟む。
【0055】
4.引取ロールの速度を1m/minからスタートし、徐々に増加させる。この際、引取速度の加速度は0.1m/minとする。
【0056】
5.ダイ出口の溶融物が破断した時の引取速度を記録する。
【0057】
6.上記1~5の操作を合計で3回繰り返し(N=3)、記録した引取速度の最小値を最大引取速度とし、下記式(2)により最大延伸倍率を算出する。
【0058】
最大延伸倍率=最大引取速度(mm/min)/押出速度(mm/min) (2)
【0059】
例えば、最大引取速度が2m/min(2×10mm/min)の場合、最大延伸倍率=2×10/10=200となる。
【0060】
<成形品の製造方法>
次に、本発明の樹脂組成物を用いた成形品の製造方法の一例について説明する。
【0061】
まず、セルロース粉とMA-POとを所定の配合比率で混合した後、得られた混合物とポリエチレン系樹脂とオレフィン系エラストマーとを所定の配合比率で混合し、ストランドダイを備えた同方二軸押出機にて溶融混錬してストランド状に押し出し、押し出された混練物をカットして、樹脂組成物のペレットを得る。
【0062】
なお、混合方法としては、スーパーミキサ、ヘンシェルミキサ等で乾式混合する方法が挙げられる。
【0063】
そして、このペレットを成形することにより、本発明の樹脂組成物を用いた成形品が製造される。
【0064】
例えば、成形方法として、射出成形を使用する場合は、樹脂組成物のペレットを所定の温度で射出成形することにより、本発明の樹脂組成物を用いた成形品が製造される。
【0065】
また、例えば、成形方法として、インフレーション成形を使用する場合は、樹脂組成物のペレットを、コートハンガーダイを備えた二軸押出機にて所定の温度で溶融押し出しによりフィルム状に成形し、当該フィルムを巻取りロールで巻き取ることにより、本発明の樹脂組成物を用いた成形品が製造される。
【0066】
そして、本発明の樹脂組成物においては、平均粒子径が10μm以下のセルロース粉100質量部に対して、低密度ポリエチレンが15~50質量部であり、MFRが3~16g/10minであるプロピレン系エラストマーが25~65質量部であり、無水マレイン酸変性ポリオレフィンが4~18質量部であるため、成形性に優れ、後述の実施例のごとく、各種の成形方法、特に、射出成形とインフレーション成形の双方に対応することが可能になる。
【実施例0067】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0068】
本実施例で使用した材料を以下に示す。なお、MFR1は、JIS K 7210-1:2014の規定に準拠した温度:190℃、荷重:2.16kgの条件での値であり、MFR2は、JIS K 7210-1:2014の規定に準拠した温度:230℃、荷重:2.16kgの条件の値である。
(1)LDPE(低密度ポリエチレン、密度:0.921g/cm、MFR1:5g/10min、住友化学社製、商品名:スミカセン、F412-1)
(2)PP(プロピレンを単独で重合したホモポリプロピレン、融点:163℃、密度:0.900g/cm、MFR2:0.5g/10min、住友化学社製、商品名:ノーブレンD101)
(3)プロピレン系エラストマー1(プロピレン-エチレン共重合体、エチレン単位含有率:16質量%、MFR1:1.3g/10min、MFR2:3g/10min、融点:55℃、ExxonMobil社製、商品名:Vistamaxx(登録商標)6102FL)
(4)プロピレン系エラストマー2(プロピレン-エチレン共重合体、エチレン単位含有率:6質量%、MFR2:10,000g~100,000g/10min(実測は不可であるため、溶融粘度に基づく換算値を記載)、融点:97℃、ExxonMobil社製、商品名:Vistamaxx(登録商標)8880)
(5)スチレン系エラストマー(ポリスチレン構造:非対称型、スチレン含有率:35%、MI:10g/10min、日本ゼオン社製、商品名:クインタック3290)
(6)MA-PO(オレフィン系ワックス、α-オレフィン-無水マレイン酸共重合体:66.8質量%、α-オレフィン系重合体:32.9質量%、無水マレイン酸:0.3質量%、融点:70~76℃、溶融粘度:140~210mPa・s、酸価95~110mgKOH/g、三菱ケミカル社製、商品名:ダイヤカルナ30M)
(7)シランカップリング剤(VOCフリー型シランカップリング剤、アミン系有効成分:30質量%、水溶媒、pH:10~12、信越シリコーン社製、商品名:KBP-90)
(8)滑剤(脂肪酸金属塩系添加剤、ベースポリマー:低密度ポリエチレン(密度:0.9g/cm)、MFR:6.3g/10min、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウムを10質量%含有するマスターバッチ、勝田化工株式会社製、商品名:AP-600P)
(9)セルロース粉1(平均粒子径:10μm、日本製紙株式会社製、商品名:KCフロック W-10MG2)
(10)セルロース粉2(平均粒子径:6μm、日本製紙株式会社製、商品名:KCフロック W-06MG)
(11)セルロース粉3(平均粒子径:28μm、日本製紙株式会社製、商品名:KCフロック W-300F)
【0069】
なお、各セルロース粉の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(マルバーン社製乾式粒度分布計、商品名:MASTER SIZER 3000)を用いて測定した。
【0070】
(実施例1~9、比較例1~15)
<樹脂組成物の調製>
表1~2に示す配合に従って、以下の手順で樹脂組成物を調製した。
【0071】
まず、セルロース粉とMA-POとをスーパーミキサで混合して混合物を得た。次いで、得られた混合物と、残りの原料(LDPE、PP、プロピレン系エラストマー、スチレン系エラストマー、シランカップリング剤、滑剤)とを、同方向二軸押出機にて、成形温度150~210℃、スクリュー回転数40~120rpmの条件で溶融混練し、直径2~4mmのストランド状に押し出し、押し出された混錬物をカットして樹脂組成物のペレットを得た。
【0072】
なお、実施例3の樹脂組成物においては、LDPE(含有量:13.3質量部)、及び滑剤(含有量:3.3質量部、ベースポリマーである低密度ポリエチレンが90質量%)を含有しているため、合計で、13.3+(3.3×0.9)=16.27質量部の低密度ポリエチレンを含有している。
【0073】
また、実施例3の樹脂組成物においては、上記の滑剤のベースポリマーである低密度ポリエチレンの含有量を考慮すると、低密度ポリエチレンの質量:プロピレン系エラストマーの質量=16.27:40≒1:2.46となる。
【0074】
<プロピレン系エラストマーのMFRの測定>
JIS K 7210-1:2014の規定に準拠して、温度:190℃、荷重:2.16kgの条件で、実施例1~9、比較例1,3,7~11,14~15において使用したプロピレン系エラストマー(2種混合)のMFRを測定した。
【0075】
より具体的には、実施例1~9、比較例1,3,7~11,14~15において、表1~2に示す配合に従って、2種のプロピレン系エラストマーを混合した試料を用意し、当該試料のMFRを測定した。以上の結果を表1~2に示す。
【0076】
<成形性評価>
作製した樹脂組成物のペレットの成形性(射出成形、インフレーション成形)を評価した。
【0077】
より具体的には、射出成形については、樹脂組成物のペレットを150~180℃で射出成形し、100mm×100mm×厚さ3mmのシート状の成形品を得た。そして、この成形品について、問題なく成形できたものを〇(成形可)、成形はできたがエジェクタピンの形が顕著に残るものを△(成型できたが、成形品に問題あり)、金型から離れる際に形が崩れたもの、または脆いために亀裂が入ったものを×(成型不可)とした。以上の結果を表1~2に示す。
【0078】
また、インフレーション成形については、樹脂組成物のペレットを、一軸押出機にて、150~210℃の成形温度の条件で溶融混錬し、円形ダイに導いてフィルム成形した後、空冷により冷却固化させ、巻取りロールで巻き取ることにより、フィルム状の成形品を得た。なお、フィルムの厚みは、0.2mm±0.05mmとした。そして、成形品について、問題なく成形できたものを〇(成形可)、延伸せず、規定の厚みにならなかったもの、途中で穴あきが発生したもの、または成形品が脆いものを×(成型不可)とした。以上の結果を表1~2に示す。
【0079】
<曲げ弾性率の測定>
樹脂組成物のペレットを温度150~180℃で射出成形し、厚さ3mmのシートを得た後、幅25±0.5mm×長さ60±3mmに切り出して試験片を得た。そして、得られた試験片について、JIS K 7171に準拠し、温度23℃、相対湿度50%、試験速度1mm/min±20%の条件で曲げ弾性率を求めた。以上の結果を表1~2に示す。
【0080】
<引張降伏応力の測定>
樹脂組成物のペレットを温度150~180℃で射出成形し、厚さ3mmのシートを得た後、JIS K 7161-2に準拠し、1B形試験片を切り出した。そして、得られた試験片について、JIS K 7161-1に準拠し、温度23℃、相対湿度50%、試験速度50mm/min±10%の条件で引張降伏応力を求めた。以上の結果を表1~2に示す。
【0081】
<最大延伸倍率の測定>
樹脂組成物のペレットについて、JIS K 7199に準拠し、(株)東洋精機製作所キャピログラフ(キャピラリーレオメーター)を用い、以下の手順で最大延伸倍率を求めた。
【0082】
1.出口にダイが設置されたシリンダー内に樹脂組成物のペレットを充填し、170℃に加熱して溶融させた。
【0083】
2.シリンダーの入口からピストンを10mm/min(一定)の速度で下降させ、直径1mmのダイ出口から溶融物を10mm/minの速度で押し出した。
【0084】
3.ダイから押し出されたストランド状の溶融物を滑車に通し、引取ロールに挟んだ。
【0085】
4.引取ロールの速度を1m/minからスタートし、徐々に増加させた。この際、引取速度の加速度は0.1m/minとした。
【0086】
5.ダイ出口の溶融物が破断した時の引取速度を記録した。
【0087】
6.上記1~5の操作を合計で3回繰り返し(N=3)、記録した引取速度の最小値を最大引取速度とし、上記式(2)により最大延伸倍率を算出した。以上の結果を表1~2に示す。なお、引取速度が計測不能であったものは「―(不可)」とした。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
表1に示すように、実施例1~9の樹脂組成物においては、平均粒子径が10μm以下のセルロース粉100質量部に対して、LDPEを15~50質量部、プロピレン系エラストマーを25~65質量部、及びMA-POを4~18質量部含有し、プロピレン系エラストマー(2種混合)のMFRが3~16g/10minであるため、射出成形、及びインフレーション成形のいずれにも対応することができ、優れた成形性を有していることが分かる。
【0091】
一方、表2に示すように、比較例1の樹脂組成物においては、プロピレン系エラストマーの含有量が少なく、比較例2の樹脂組成物においては、プロピレン系エラストマーが含まれていないため、成形性に乏しいことが分かる。
【0092】
なお、比較例2においては、ストランドが脆く、滑車にかけると折れてしまい、最大延伸倍率を測定することができなかった。
【0093】
また、比較例3の樹脂組成物においては、LDPEの含有量が少ないため、インフレーション成形における成形性に乏しいことが分かる。
【0094】
また、比較例4の樹脂組成物においては、LDPEが含まれておらず、プロピレン系エラストマーによるべたつきが大きく、プロピレン系エラストマーのMFRが低いため、成形性に乏しいことが分かる。
【0095】
また、比較例5の樹脂組成物においては、プロピレン系エラストマーのMFRが低く、比較例6の樹脂組成物においては、プロピレン系エラストマーのMFRが高いため、成形性に乏しいことが分かる。
【0096】
なお、比較例6においては、ストランドが脆く、滑車にかけると折れてしまい、最大延伸倍率を測定することができなかった。また、比較例6のプロピレン系エラストマーは、所定の条件では試料に荷重をかける前に流出してしまうため、MFRを測定することができなかった。
【0097】
また、比較例7の樹脂組成物においては、LDPEの含有量が少ないとともに、プロピレン系エラストマーの含有量が少ないため、成形性に乏しいことが分かる。
【0098】
また、比較例8の樹脂組成物においては、比較例7の樹脂組成物に比し、プロピレン系エラストマーの含有量は多いものの、セルロース粉100質量部に対するLDPEの含有量が少ないとともに、プロピレン系エラストマーの含有量が少ないため、インフレーション成形における成形性に乏しいことが分かる。
【0099】
また、比較例9の樹脂組成物においては、プロピレン系エラストマーの含有量が多いため、射出成形における成形性に乏しいことが分かる。
【0100】
また、比較例10の樹脂組成物においては、MA-POの代わりに、シランカップリング剤を含有しており、MA-POと比較してセルロース粉の分散性が低下するため、インフレーション成形における成形性に乏しいことが分かる。
【0101】
また、比較例11の樹脂組成物においては、セルロース粉の平均粒子径が10μmよりも大きい(28μmである)ため、フィルムのように薄く成形した際には表面が粗くなり、穴あきの原因となるため、インフレーション成形における成形性に乏しいことが分かる。
【0102】
また、比較例12の樹脂組成物においては、プロピレン系エラストマーの代わりに、スチレン系エラストマーを含有しており、プロピレン系エラストマーに比し、溶融時の伸びが悪くなるため、インフレーション成形における成形性に乏しいことが分かる。
【0103】
また、比較例13の樹脂組成物においては、PPを含有しているため、硬く、脆くもなり、さらにプロピレン系エラストマーが含まれていないため、成形性に乏しいことが分かる。
【0104】
また、比較例14の樹脂組成物においては、MA-POを含有していないため、セルロース粉が十分に分散せず、成形性に乏しいことが分かる。
【0105】
なお、比較例14においては、ストランドが脆く、滑車に引っ掛けると折れたため、最大延伸倍率を測定することができなかった。
【0106】
また、比較例15の樹脂組成物においては、LDPEの含有量が少ないとともに、MA-POの含有量が多いため、セルロース粉の分散性が低下し、また、樹脂組成物が柔らかすぎるため、成形性に乏しいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
以上説明したように、本発明は、セルロース粉を含有する樹脂組成物に適している。