(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152926
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】ガスバリア性層、ガスバリア性フィルム、塗工液、ガスバリア性フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 7/048 20200101AFI20231005BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08J7/048
B32B27/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052676
(22)【出願日】2023-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2022060985
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】平 夏樹
【テーマコード(参考)】
4F006
4F100
【Fターム(参考)】
4F006AA35
4F006AB24
4F006AB32
4F006AB74
4F006BA05
4F100AB01B
4F100AH08B
4F100AK25
4F100AK25B
4F100AK42
4F100AR00B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100EH46B
4F100JA07
4F100JD02B
4F100JD03
4F100JD04
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高湿度下でのガスバリア性が良好なフィルムを提供すること。
【解決手段】ポリカチオン、ポリアニオン、及び多価金属イオンを含有するガスバリア性層である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカチオン、ポリアニオン、及び多価金属イオンを含有するガスバリア性層。
【請求項2】
前記ポリカチオンがポリアミンである、請求項1に記載のガスバリア性層。
【請求項3】
前記ポリアニオンがポリカルボン酸である、請求項1に記載のガスバリア性層。
【請求項4】
厚みが0.1~10μmである、請求項1に記載のガスバリア性層。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のガスバリア性層と、基材とを積層してなるガスバリア性フィルム。
【請求項6】
前記ガスバリア性層と基材との厚み比(ガスバリア性層の厚み/基材の厚み)が0.001~10である、請求項5に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項7】
前記ポリカチオンの官能基当量と多価金属イオン当量からなるカチオン当量に対する、前記ポリアニオンの官能基当量からなるアニオン当量の比(アニオン当量/カチオン当量)が0.8~2.0である、請求項5に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項8】
前記ポリアニオンの官能基当量に対する多価金属イオン当量の比(金属イオン当量/ポリアニオン当量)が0.1~1.0である、請求項5に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項9】
ポリカチオン、ポリアニオン、アンモニア、及び多価金属化合物を含有する組成物からなる、塗工液。
【請求項10】
前記ポリカチオンがポリアミンである、請求項9に記載の塗工液。
【請求項11】
前記ポリアニオンがポリカルボン酸である、請求項9に記載の塗工液。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか1項に記載の塗工液を乾燥してなるガスバリア性層。
【請求項13】
ポリアニオン及びアンモニアを含有する混合液に、ポリカチオン、金属化合物を順に混合し塗工液を得る工程と、
前記塗工液を基材に塗布しガスバリア性層を得る工程と、
前記ガスバリア性層を乾燥させる工程と、を含む、ガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記ポリカチオンの官能基当量と前記多価金属化合物の多価金属イオン当量からなるカチオン当量に対する、前記ポリアニオンの官能基当量からなるアニオン当量の比(アニオン当量/カチオン当量)が0.8~2.0である、請求項13に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記ポリアニオンの官能基当量に対する前記多価金属化合物の多価金属イオン当量の比(金属イオン当量/ポリアニオン当量)が0.1~1.0である、請求項13又は14に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項16】
ポリアニオンの官能基当量に対する、アンモニア当量の比(アンモニア当量/ポリアニオン)が、1.0~10である、請求項13又は14に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性層、ガスバリア性フィルム、塗工液、ガスバリア性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在コーティングによって水蒸気バリアを得るには蒸着コートが主流であるが、生産工程で真空環境が必要となるなどプロセス負荷が大きい。そこでウェットコーティングによるガスバリアコーティング技術が求められている。具体的には、水素結合を利用したポリビニルアルコール(PVOH)のコーティングや、イオン性相互作用を利用したポリカチオンとポリアニオンから成るPECコーティング(特許文献1)があるが、酸素バリア性は得られるものの水蒸気バリア性が得られなかった。特にPECコーティングは従来にはない高い酸素バリア性が得られることから、PECコーティング技術からの水蒸気バリア性の改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記問題点に鑑み、本発明は、ポリカチオンとポリアニオンの静電相互作用により形成される高分子電解質複合体(PEC:Polyelectrolyte complex)を用いたガスバリア性層であって、酸素バリア性に加えて、水蒸気バリア性も良好なガスバリア性層を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]ポリカチオン、ポリアニオン、多価金属イオンを含有するガスバリア性層。
[2]前記ポリカチオンがポリアミンである、上記[1]に記載のガスバリア性層。
[3]前記ポリアニオンがポリカルボン酸である、上記[1]又は[2]に記載のガスバリア性層。
[4]厚みが0.1~10μmである、上記[1]~[3]のいずれかに記載のガスバリア性層。
[5]上記[1]~[4]のいずれかに記載のガスバリア性層と、基材とを積層してなるガスバリア性フィルム。
[6]前記ガスバリア性層と基材との厚み比(ガスバリア性層の厚み/基材の厚み)が0.001~10である、上記[5]に記載のガスバリア性フィルム。
[7]前記ポリカチオンの官能基当量と多価金属イオン当量からなるカチオン当量に対する、前記ポリアニオンの官能基当量からなるアニオン当量の比(アニオン当量/カチオン当量)が0.8~2.0である、上記[5]又は[6]に記載のガスバリア性フィルム。
[8]前記ポリアニオンに対する多価金属イオン当量の比(金属イオン/ポリアニオン)が0.1~1.0である、上記[5]~[7]のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
[9]ポリカチオン、ポリアニオン、アンモニア、多価金属化合物を含有する組成物からなる、塗工液。
[10]前記ポリカチオンがポリアミンである、上記[9]に記載の塗工液。
[11]前記ポリアニオンがポリカルボン酸である、上記[9]又は[10]に記載の塗工液。
[12]上記[9]~[11]のいずれかに記載の塗工液を乾燥してなるガスバリア性層。
[13]ポリアニオン及びアンモニアを含有する混合液に、ポリカチオン、多価金属化合物を順に混合し塗工液を得る工程と、前記塗工液を基材に塗布しガスバリア性層を得る工程と、前記ガスバリア性層を乾燥させる工程と、を含む、ガスバリア性フィルムの製造方法。
[14]前記ポリカチオンの官能基当量と前記多価金属化合物の多価金属イオン当量からなるカチオン当量に対する、前記ポリアニオンの官能基当量からなるアニオン当量の比(アニオン当量/カチオン当量)が、0.8~2.0である、上記[13]に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
[15]前記ポリアニオンの官能基当量に対する前記多価金属化合物の多価金属イオン当量の比(金属イオン当量/ポリアニオン当量)が、0.1~1.0である、上記[13]又は[14]に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
[16]ポリアニオンの官能基当量に対する、アンモニア当量の比(アンモニア当量/ポリアニオン)が、1.0~10である、上記[13]~[15]のいずれかに記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、酸素バリア性に加えて、水蒸気バリア性も良好なPECを用いたガスバリア性層を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[ガスバリア性層]
本発明のガスバリア性層は、ポリカチオン、ポリアニオン、および多価金属イオンを含有する。
ガスバリア性を上げる(ガス透過性を下げる)ためには、ガスバリア性層は緻密である方が望ましい。緻密さは層成分の凝集力に影響を受けることから、本発明ではイオン結合を利用する構成とした。具体的には、ポリアニオンとポリカチオンから成るイオンコンプレックスを利用した。
【0008】
本発明では、さらにバリア性を向上させるため金属多価イオンによるイオン架橋を利用し、イオンコンプレックスを形成していない一部のポリアニオンと金属多価イオンを反応させた。金属多価イオンを添加することにより、酸素バリア性、水蒸気バリア性、ともに向上する。
【0009】
また、金属多価イオンを利用するためには、通常、混合液の沈殿を回避するために、多量のカチオン成分(アンモニア)を必要とする。しかしながら、本発明では、金属多価イオンとイオンコンプレックスに用いるポリカチオンを混合しているため、アンモニア等のカチオン成分の使用量を低減することができる。
【0010】
<ポリカチオン>
本発明に係るポリカチオンは、本発明の層の中でカチオン性を発現する高分子化合物をいう。本発明の層の中で、カチオン性を発現する官能基としては、種々挙げられるが、アミン基又はアンモニウム基が好ましい。これらのうち、後に詳述するように、アンモニアでイオン化を制御するという理由から、アミン基を複数有する弱塩基の高分子化合物(以下「ポリアミン」と称する。)がより好ましい。
アミン基としては、第一級、第二級又は第三級アミン基のいずれでもよく、ポリアミンとしては、主鎖、側鎖又は末端にアミン基を有する高分子化合物であればよい。具体的には、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、直鎖状ポリエチレンイミン、分岐状ポリエチレンイミン、ポリリジン、キトサン、ポリアルギニン等が挙げられる。中でも、ポリカルボン酸のガスバリア性フィルムによく用いられることからポリエチレンイミンが好ましく、弱塩基なためpHによるイオン制御が容易であるとの理由から、分岐状ポリエチレンイミンがより好ましい。
【0011】
アンモニウム基としては、4級アンモニウム基が好ましく、対イオンとしては、特に限定されないが、汎用性の観点からハロゲンイオンが好ましい。アンモニウム基を有するポリカチオンとしては、例えば、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。
【0012】
本発明のポリカチオンの質量平均分子量は、塗膜上でPECを良好に形成する観点から、下限については1,000以上が好ましく、2,000以上がより好ましく、3,000以上がより好ましく、5,000以上がより好ましく、10,000以上がより好ましく、15,000以上が特に好ましい。質量平均分子量が1,000以上であることで、ポリカチオンとポリアニオンが層分離することが抑えられ、良好な膜強度が得られる。一方、上限については1,000,000以下が好ましく、900,000以下がより好ましく、700,000以下がより好ましく、500,000以下がより好ましく、300,000以下がより好ましく、100,000以下が特に好ましい。質量平均分子量が1,000,000以下であることで、十分なガスバリア性が得られる。
ここで、質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算して測定されるものである。
【0013】
<ポリアニオン>
本発明に係るポリアニオンは、本発明の層の中でアニオン性を発現する高分子化合物をいう。本発明の層の中で、アニオン性を発現する官能基としては、カルボキシル基、リン酸基又は硫酸基が好ましく、後に詳述するように、アンモニアでイオン化を制御するという理由から、カルボキシル基を有するポリカルボン酸がより好ましい。ポリカルボン酸としては、側鎖又は末端にカルボキシル基を有する高分子化合物であればよく、具体的には、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸-メタクリル酸共重合体、ポリマレイン酸、アルギン酸等が挙げられる。中でも、弱酸なためpHによるイオン制御が容易である理由からポリアクリル酸が好ましい。
【0014】
本発明に係るポリアニオンの質量平均分子量は、下限については1,000以上が好ましく、2,000以上がより好ましく、3,000以上がより好ましく、5,000以上がより好ましく、10,000以上がより好ましく、20,000以上が特に好ましい。質量平均分子量が1,000以上であることで、ポリカチオンとポリアニオンが層分離することが抑えられ、良好な膜強度が得られる。一方、上限については1,000,000以下が好ましく、900,000以下がより好ましく、700,000以下がより好ましく、500,000以下がより好ましく、300,000以下がより好ましく、200,000以下が特に好ましい。質量平均分子量が1,000,000以下であることで、十分なガスバリア性が得られる。
なお、質量平均分子量の測定方法は、上記ポリカチオンの質量平均分子量の測定方法と同様である。
【0015】
ポリカチオンとポリアニオンの組み合わせとして、ポリカチオンは分岐状ポリエチレンイミン、ポリアニオンはポリアクリル酸の組み合わせであることが好ましい。
この組み合わせの場合、分岐状ポリエチレンイミンの質量平均分子量は、下限については1000以上が好ましく、1,200以上がより好ましく、1,500以上が特に好ましい。上限については、1,000,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、50,000以下が特に好ましい。この範囲にあることで、より高いガスバリア性が得られる。
一方、ポリアクリル酸の質量平均分子量は、下限については1,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく、20,000以上がさらに好ましく、50,000以上が特に好ましい。上限については、1,000,000以下が好ましく、900,000以下がより好ましい。この範囲にあることで、より高いガスバリア性が得られる。
【0016】
<多価金属イオン>
多価金属イオンを構成する多価金属としては、例えば、アルカリ土類金属、遷移金属、アルミニウム等が挙げられる。アルカリ土類金属としては、例えばベリリウム、マグネシウム、カルシウムが挙げられる。また、遷移金属としては、例えばチタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛等が挙げられ、好ましくは、鉄、カルシウム、銅、亜鉛が挙げられる。これらのうち、特に亜鉛が好ましい。ガスバリア性及び製造性等の観点から、多価金属化合物は、上記金属の酸化物、水酸化物、塩化物、炭酸塩または酢酸塩等の有機酸塩でもよい。
工業的生産性の観点から、多価金属化合物は、上記金属の酸化物であることが好ましく、酸化亜鉛が最も好ましい。
多価金属イオンを構成する多価金属として酸化亜鉛を用いることで、塗工性が向上する。
なお、多価金属について、X線電子分光法(ESCA;Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)を用いることで定量分析を行うことができる。
【0017】
<厚み>
本発明のガスバリア性層の厚み(乾燥後)は、0.1~10μmであることが好ましい。厚みが0.1μm以上であることによって、ガスバリア性が良好となる。一方、10μm以下であることによって、塗工しやすくなるので、生産性が良好となる。以上の観点から、ガスバリア性層の厚みは、0.2~5μmがより好ましく、0.5~3μmがさらに好ましい。
【0018】
<酸素透過率>
本発明のガスバリア性層は、25℃、80%RHにおける、厚み1μmあたりの酸素透過率が、20cc/(m2・day)以下であるのが好ましく、15cc/(m2・day)以下であるのがより好ましく、10cc/(m2・day)以下であるのがさらに好ましい。なお、下限は特に限定されず、0.1cc/(m2・day)以上であってよい。
ガスバリア性層の酸素透過率(OTR)は、JIS K7126Bに基づき、温度25℃、湿度80%RHの条件で測定できる。具体的には、実施例に記載の方法により測定できる。
なお、基材は、例えば、厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムであってよい。
【0019】
ここで、酸素透過率は、酸素透過率測定装置「Ox-tran 2/21」(Mocon Ltd.製)を用いてJIS K7126-1:2006の規格に基づき、30℃、50%RHの条件下で測定されるものであり、1μm当たりの透過率は下記式で算出できる。
【0020】
【0021】
<水蒸気透過率>
本発明の水蒸気透過率は、30℃、50%RHにおける、厚み1μmあたりの水蒸気透過率が、100(g/m2/day)以下であるのが好ましく、50(g/m2/day)以下であるのがより好ましく、20(g/m2/day)以下であるのがさらに好ましい。
ガスバリア性膜の水蒸気透過率は、ISO15106-5:2015の規格に基づき、温度30℃、湿度50%RHの条件で測定できる。具体的には、実施例に記載の方法により測定できる。
【0022】
ここで、水蒸気透過率(WVTR:water vapor transmission rate)は、水蒸気透過率測定装置「デルタパーム」(Technolox Ltd.製)を用いてISO15106-5の規格に基づき、30℃、50%RHの条件下で測定されるものである。測定値は下記式によって1μmあたりの水蒸気透過率に換算できる。
【0023】
【0024】
[ガスバリア性フィルム]
本発明のガスバリア性フィルムは、上記ガスバリア性層と基材とを積層してなるものである。ガスバリア性層は、基材の少なくとも一方の面に設けられるとよい。
【0025】
<基材>
本発明のガスバリア性フィルムで用いる基材としては、特に限定されないが、樹脂であることが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリ乳酸;ポリウレタン;ポリ酢酸ビニル;ポリアクリロニトリル;ポリカーボネート系樹脂等の熱可塑性樹脂が好ましい。
中でも、ガスバリア性、透明性等の光学特性の観点から、ポリエステル系樹脂が好ましく、特にポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
【0026】
また、基材としては、単層構造であっても多層構造であってもよい。多層構造の場合、2層構造、3層構造などでもよいし、本発明の要旨を逸脱しない限り、4層またはそれ以上の多層であってもよく、層数は特に限定されない。多層構造の場合は、複数の層は同一の樹脂で構成されていてもよいし、異なる樹脂で構成されていてもよい。
基材には、必要に応じて添加剤が加えられてもよく、例えば、耐候性を付与するための紫外線吸収剤、易滑性の付与および各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を配合することも可能である。また必要に応じて従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0027】
基材の厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、例えば1~350μm、好ましくは10~200μm、さらに好ましくは30~100μmの範囲である。
また、基材は、ガスバリア性層が形成される面にコロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施してもよく、さらにアンカーコートを設けても構わない。
【0028】
ガスバリア性膜と基材との厚み比(ガスバリア性膜の厚み/基材の厚み)は、ガスバリア性を良好にする観点から、0.001~10が好ましく、0.005~1がより好ましく、0.01~0.5がさらに好ましい。
なお、ガスバリア性フィルムの酸素透過度は、15cc/(m2・day)以下が好ましく、10cc/(m2・day)以下がより好ましい。ガスバリア性フィルムの酸素透過度は、JIS K7126Bに基づき、温度25℃、湿度80%RHの条件で測定した
ものである。
【0029】
<化学当量>
ポリカチオンの官能基当量と多価金属イオン当量からなるカチオン当量に対する、ポリアニオンの官能基当量からなるアニオン当量の比(アニオン当量/カチオン当量、以下「イオン当量の比」と記載することがある。)が、0.8~2.0であることが好ましい。
イオン当量の比が1.0であると、カチオン当量とアニオン当量の相対的イオン量が丁度になり、1.0より低い場合はカチオンが多く、1.0より高い場合はアニオンが多いことになる。イオン当量の比が0.8~2.0の範囲であると、PETフィルム等の基材上で塗工液のハジキが発生することがなく、塗工性が良好となる。特にPET等の疎水性の樹脂フィルム上では塗工液(水溶液)はその極性のためハジキが生じやすい。しかしながら、本発明のガスバリア性膜では、ポリマー同士でイオン性を打ち消しあっているため極性が抑制されたと考えられる。
また、イオン当量の比が上記範囲であると、良好なガスバリア性が得られる。以上の観点から、イオン当量の比は0.8~1.8の範囲であることがより好ましく、0.9~1.5の範囲であることがより好ましく、1.0~1.4の範囲がさらに好ましい。
【0030】
また、多価金属イオン当量と前記ポリアニオンの官能基当量との比(金属イオン当量/ポリアニオン当量)が、0.1~1.0であることが好ましい。多価金属イオン当量が0.1以上であると、多価金属イオンによる架橋が十分に得られ、ガスバリア性が向上する。一方、多価金属イオン当量が1.0以下であると、相対的にポリカチオンの添加量が確保され、塗工液のハジキが生じ難くなる。したがって、上記範囲であれば、基材としてPET等の疎水性の基材を用いても、塗工性が良好であり、ガスバリア膜の形成が容易である。以上の観点から、金属イオン当量/ポリアニオン当量は、0.15~0.9の範囲であることがより好ましく、0.2~0.8の範囲であることがさらに好ましく、0.4~0.8の範囲であることが特に好ましい。
なお、多価金属イオンの当量は価数に応じた数値として計算される。例えば亜鉛イオンの場合は2価の陽イオンであるために、亜鉛1モルに対して、亜鉛イオンは2モルで計算される。
【0031】
なお、ポリアニオンの官能基当量、ポリカチオンの官能基当量は、中和滴定法により求めることができる。
【0032】
[塗工液]
本発明のガスバリア性フィルムは、基材上に塗工液を塗布して得ることができる。また、該塗工液を乾燥して層状としたものは、本発明のガスバリア層となる。該塗工液は、ポリカチオン、ポリアニオン、アンモニア、多価金属化合物を含有する組成物からなる。ポリカチオン、ポリアニオン、および多価金属化合物については、上述の通りである。
【0033】
[ガスバリア性フィルムの製造方法]
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法は、ポリアニオン及びアンモニアを含有する混合液に、ポリカチオン、金属化合物を順に混合し塗工液を得る工程(以下、「混合工程」と記載することがある。)と、該塗工液を基材に塗布しガスバリア性層を得る工程(以下、「塗布工程」と記載することがある。)と、該ガスバリア性層を乾燥させる工程(以下、「乾燥工程」と記載することがある。)とを含む。
【0034】
<混合工程>
本発明の製造方法では、まず、混合工程において、ポリアニオンとアンモニアを含有する混合液を準備する。この混合液に、ポリカチオン、金属化合物を順に混合することで、本発明の塗工液を調製する。なお、ポリアニオンの官能基当量とアンモニア当量の比は、1.0~10の範囲であればよく、1.2~7の範囲が好ましく、1.3~6の範囲がさらに好ましく、1.5~3の範囲が特に好ましい。
ポリカチオンとポリアニオンを単に混合すると、これらの相互作用により、溶媒に不溶となり、沈殿が発生してしまうため、基材へ塗布することができない。そこで、従来の技術では、ポリアニオンに対して過剰量のアンモニア等の塩基を添加することでポリカチオンとポリアニオンの相互作用を起こりにくくしていた。従って、過剰量の塩基を使用することによる生産コスト過多、特にアンモニアを使用した場合は乾燥時に多量のアンモニアが揮発するため環境面の負荷が大きい、といった問題があった。
【0035】
これに対して、上述のような方法により、塗工液を調製することで、アンモニア等の塩基を過剰に添加することなく、安定な塗工液を得ることができる。すなわち、ポリアニオンをあらかじめアンモニアと混合し、直接ポリカチオンと相互作用しないように処理した後、ポリカチオンを混合する。その後、金属化合物を混合し、塗工液を得る。混合方法については、公知の方法であってよく、各化合物が溶媒に溶解される限り、特に制限されるものではない。
ここで塗工液のpHは、アンモニアの添加量によって調整され、pHは好ましくは7~10である。また、塗工液の固形分濃度については、特に限定されないが、塗布性を考慮すると、1~10質量%の範囲が好ましく、2~8質量%の範囲がさらに好ましい。
【0036】
<塗布工程>
塗布工程は、上記混合工程で得られた塗工液を基材に塗布し、ガスバリア性層を得る工程である。基材については、前述の通りである。
塗布方法は公知の方法であってよく、例えば、コンマコート法、グラビアコート法、リバースコート法、ナイフコート法、ディップコート法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、スピンコート法、ロールコート法、プリント法、ディップ法、スライドコート法、カーテンコート法、ダイコート法、キャスティング法、バーコート法、エクストルージョンコート法等が挙げられる。
【0037】
<乾燥工程>
乾燥工程は、塗工液を塗布した基材を乾燥し、ガスバリア性層を乾燥させる工程である。乾燥方法は、公知の方法であってよい。
乾燥温度及び乾燥時間は、塗工液に含まれる水等の溶媒や、アンモニアが除去できる条件であればよく、例えば、乾燥温度は、60~100℃、好ましくは70~90℃で、乾燥時間は、30秒~1時間、好ましくは1~10分程度である。加熱乾燥により、ガスバリア性層には、イオン架橋が形成されると考えられるが、特に限定されない。
【0038】
<その他工程>
本発明のガスバリア性層は、上記乾燥工程の後に洗浄工程を含んでもよい。
洗浄工程では、例えば、上記ガスバリア性層を水又は酢酸、クエン酸若しくはリン酸の水溶液に浸漬する。
当該洗浄工程を行うことで、ポリカチオン及びポリアニオンにイオン結合していたアンモニアを除去できる。また、ポリカチオン及びポリアニオンのイオン化を引き起こすことで、PECをより形成させることができるため、ガスバリア性がより高くなる。
【実施例0039】
以下、本発明のガスバリア性層、ガスバリア性フィルム等について、実施例に基づいてより詳細に説明する。なお、本発明のガスバリア性層、ガスバリア性フィルム等は、以下の実施例および比較例によって何ら限定されるものではない。
【0040】
<評価方法>
[水蒸気透過率]
水蒸気透過率(WVTR:water vapor transmission rate)は、水蒸気透過率測定装置「デルタパーム」(Technolox Ltd.製)を用いてISO15106-5の規格に基づき、ガスバリア性フィルム(ガスバリア層付PETフィルム)の100cm2を30℃、50%RHの条件下で測定した。なお、測定値は下記式によって1μmあたりの水蒸気透過率に換算した。
【0041】
[酸素透過率]
酸素透過率(OTR: Oxygen transmission rate)は、酸素透過率測定装置「Ox-tran 2/21」(Mocon Ltd.製)を用いてJIS K7126Bの規格に基づき、ガスバリア性フィルム(ガスバリア層付PETフィルム)の100cm2を30℃、50%RHの条件下で測定した。なお、測定値は下記式によって1μmあたりの酸素透過率に換算した。
【0042】
【0043】
実施例で用いた原料は以下の通りである。
<原料>
(1)ポリアニオン
ポリアクリル酸(PAA)-1:
31質量%水溶液、質量平均分子量;約100,000
ポリアクリル酸(PAA)-2:
45質量%水溶液、質量平均分子量;約10,000
ポリアクリル酸(PAA)-3:
10質量%水溶液、質量平均分子量;約800,000
(2)ポリカチオン:
分岐状ポリエチレンイミン(PEI)-1:
BASF社製、製品名Lupasol-HF、54質量%水溶液、質量平均分子量;約25,000
分岐状ポリエチレンイミン(PEI)-2:
BASF社製、製品名Lupasol-G35、51質量%水溶液、質量平均分子量;約2,000
分岐状ポリエチレンイミン(PEI)-3:
BASF社製、製品名Lupasol-P、50質量%水溶液、質量平均分子量;約750,000
(3)水:蒸留水
(4)アンモニア水:富士フィルム和光純薬製、アンモニア10質量%
(5)多価金属:酸化亜鉛、和光純薬製
(6)基材:ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(コロナ処理したPETフィルム、50μm厚み)
【0044】
[実施例1]
(1)塗工液の調製
ポリアクリル酸-1 2.32gにアンモニア水2.55gを添加し、スターラーで良く攪拌した。続いて、スターラーで攪拌したポリアクリル酸とアンモニア水の混合溶液にポリエチレンイミンを少量ずつ合計0.54gになるよう滴下し、その後不溶物が無くなるまで攪拌を続けた。
続いて、この溶液に酸化亜鉛0.08gを添加し、不溶物が無くなるまで攪拌を続け、その後ポリアクリル酸-1、ポリエチレンイミン-1、酸化亜鉛からなる固形分量が5質量%になるように水を加え、一様で透明な混合液(塗工液)を得た。
【0045】
(2)ガスバリア性フィルムの作製
厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(基材)のコロナ処理面に、メイヤーバーにて乾燥後の塗工厚みが1μmになるように混合液(塗工液)を塗布し、熱風乾燥機を使用して乾燥温度:80℃、乾燥時間:2分の条件で乾燥し膜を成形した。その後,160℃で1時間の加熱処理を行い、ガスバリア性フィルムを得た。
【0046】
[実施例2~7]
実施例1における各成分の配合量を表1に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、ガスバリア性フィルムを得た。同様に評価した結果を表1に示す。
【0047】
[比較例1]
実施例1に対して、酸化亜鉛を用いなかったこと、これに伴ってPEI-1の配合量を調整した以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性フィルムを得た。同様に評価した結果を表1に示す。
【0048】
【0049】
実施例1~4、および比較例1の結果より、本発明のガスバリア性層は、亜鉛イオンの添加量が増大すると、水蒸気透過率、酸素透過率ともに低下した。すなわち、ガスバリア性が向上した。一方、亜鉛イオンを含まない比較例1では、水蒸気透過率、酸素透過率ともに高い値を示し、ガスバリア性が低いことがわかった。
また、実施例2、5及び7では、亜鉛イオン量を固定して、アニオンとカチオンの当量比による影響を検討した。アニオンとカチオンの当量比が適度な範囲であると、ガスバリア層が容易に形成でき、かつ良好なガスバリア性を示すことがわかった。特に、アニオンとカチオンの当量比が1.0付近で特に酸素バリア性が向上した。
【0050】
[実施例8~13]
実施例1における各成分の配合量を表2に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、ガスバリア性フィルムを得た。同様に評価した結果を表2に示す。
【0051】
【0052】
実施例8~13の結果より、本発明のガスバリア性層は、分岐状ポリエチレンイミドの分子量が小さいものを使用した時(実施例8,9)、他のものと比べてガスバリア性が向上していることがわかる。
本発明によれば、生産工程で真空環境が必要ない、コーティングによって酸素バリア性に加えて、水蒸気バリア性も良好なPECガスバリア性層、及びガスバリア性フィルムが得られる。特に、PECコーティング技術において、水蒸気バリア性の改良がおこなえた技術的意義は大きい。