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特開2023-152938焚火の火の粉飛散防止方法、通気性シートおよび火の粉飛散防止具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152938
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】焚火の火の粉飛散防止方法、通気性シートおよび火の粉飛散防止具
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/14 20060101AFI20231005BHJP
   D04B 21/00 20060101ALI20231005BHJP
   D04B 21/16 20060101ALI20231005BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20231005BHJP
   D04B 21/12 20060101ALI20231005BHJP
   D03D 9/00 20060101ALI20231005BHJP
   D03D 15/242 20210101ALI20231005BHJP
   D03D 15/267 20210101ALI20231005BHJP
   D03D 15/275 20210101ALI20231005BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20231005BHJP
   D03D 15/513 20210101ALI20231005BHJP
   D04H 1/4342 20120101ALI20231005BHJP
   D04H 1/4242 20120101ALI20231005BHJP
   D04H 1/4209 20120101ALI20231005BHJP
   D04H 1/4218 20120101ALI20231005BHJP
【FI】
D04B1/14
D04B21/00 B
D04B21/16
D03D1/00 Z
D04B21/12
D03D9/00
D03D15/242
D03D15/267
D03D15/275
D03D15/283
D03D15/513
D04H1/4342
D04H1/4242
D04H1/4209
D04H1/4218
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053006
(22)【出願日】2023-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2022056346
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】518212241
【氏名又は名称】公立大学法人公立諏訪東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 憲道
(72)【発明者】
【氏名】若月 薫
(72)【発明者】
【氏名】宮代 侑歩
(72)【発明者】
【氏名】上矢 恭子
【テーマコード(参考)】
4L002
4L047
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA00
4L002AA05
4L002AA06
4L002AB01
4L002AB02
4L002AC00
4L002BA00
4L002BB03
4L002CA00
4L002CB02
4L002EA02
4L002FA00
4L047AA03
4L047AA04
4L047AA05
4L047AA17
4L047AA24
4L047AA26
4L047CA19
4L047CB05
4L047CB08
4L048AA02
4L048AA03
4L048AA05
4L048AA16
4L048AA25
4L048AA53
4L048AB01
4L048AB06
4L048AC14
4L048BA06
4L048CA11
4L048DA00
(57)【要約】
【課題】焚火で発生する火の粉を効率良く捕集して外周に飛散しないようにした焚火の火の粉飛散防止方法、当該方法に用いる通気性シートを提供すること。
【解決手段】焚火の火の粉飛散防止方法では、焚火の上部を、火炎に晒されない高さ位置において、火炎中心軸を中心とする所定の範囲に亘って、難燃繊維からなる通気性シート5で覆い、焚火の上昇熱気流を通気性シート5に下側から衝突させ、焚火から上昇熱気流に沿って移動する火の粉aを通気性シート5に捕集する。焚火の火炎上の上昇熱気流を利用して、上昇熱気流に沿って移動する火の粉の自律的な捕集が行われる。上昇熱気流を通気性シート5に衝突させることによる火の粉の捕集は、送風装置を必要としないので、安価・簡便に火傷等の弊害を防止でき、安全に、安心して焚火を楽しむことができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焚火の上部を、火炎に晒されない高さ位置において、火炎中心軸を中心とする所定の範囲に亘って、難燃繊維からなる通気性シートで覆い、
前記焚火の上昇熱気流を前記通気性シートに衝突させることで、前記上昇熱気流に沿って移動する火の粉を前記通気性シートに捕集する
ことを特徴とする焚火の火の粉飛散防止方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記通気性シートを、その高さ位置を調整可能な状態で、前記焚火の上部に配置する焚火の火の粉飛散防止方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記焚火の上部に加えて、前記焚火の外周部の全体あるいは一部を、火炎中心軸から水平方向に離れた位置において、前記通気性シートで取り囲み、
前記上昇熱気流に沿って移動することなく前記焚火から外周に飛散する火の粉を、前記通気性シートに捕集する焚火の火の粉飛散防止方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記通気性シートを用いて、前記焚火の上部および外周部を取り囲み可能な形状および大きさの火の粉捕集用のフードを形成し、
前記フードを被せた状態で前記焚火を行う焚火の火の粉飛散防止方法。
【請求項5】
請求項1において、
前記通気性シートは、
目付が50g/m以上、
酸素指数が23以上、
残炎時間が2秒以下、
残じん時間が2秒以下
である焚火の火の粉飛散防止方法。
【請求項6】
請求項1において、
前記通気性シートの空隙率は10%~90%
である焚火の火の粉飛散防止方法。
【請求項7】
請求項1において、
前記通気性シートの通気度(ISO9237)は0.9m/s以上
である焚火の火の粉飛散防止方法。
【請求項8】
請求項1において、
前記難燃繊維は、
アラミド繊維、カーボン繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、酸化アクリル繊維、シリカ繊維、または、ガラス繊維である焚火の火の粉飛散防止方法。
【請求項9】
請求項1ないし4のうちのいずれかの項に記載の焚火の火の粉飛散防止方法に用いる通気性シートであって、
難燃繊維の織布、編布あるいは不織布からなり、
目付が50g/m以上、
酸素指数が23以上、
残炎時間が2秒以下、
残じん時間が2秒以下
である焚火の火の粉飛散防止用の通気性シート。
【請求項10】
請求項9において、
空隙率が10%~90%
である焚火の火の粉飛散防止用の通気性シート。
【請求項11】
請求項9において、
空隙率が20%~80%
である焚火の火の粉飛散防止用の通気性シート。
【請求項12】
請求項9において、
通気度(ISO9237)が0.9m/s以上
である焚火の火の粉飛散防止用の通気性シート。
【請求項13】
請求項9において、
前記難燃繊維は、
アラミド繊維、カーボン繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、酸化アクリル繊維、シリカ繊維、または、ガラス繊維である焚火の火の粉飛散防止用の通気性シート。
【請求項14】
請求項9において、
空隙率が10%~90%、
通気度(ISO9237)が0.9m/s以上であり、
前記難燃繊維は、アラミド繊維、カーボン繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、酸化アクリル繊維、シリカ繊維、または、ガラス繊維である
焚火の火の粉飛散防止用の通気性シート。
【請求項15】
請求項9ないし14のうちのいずれか一つの項に記載の通気性シートと、
前記通気性シートを、所定の高さ位置に、所定の形状に広げた状態に保持するシート保持具と、
を備え、
前記シート保持具は、前記通気性シートが保持される高さ位置を調整する高さ調整機能を備えている焚火の火の粉飛散防止具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火傷等を引き起こす熱エネルギーをもった火の粉が焚火の周囲に飛散することを防止する焚火の火の粉飛散防止方法、当該方法に用いる火の粉飛散防止用の通気性シート、および当該通気性シートを用いた火の粉飛散防止具に関する。
【背景技術】
【0002】
野外キャンプ等において焚火の人気は高い。焚火は会話、読書、調理および食事などをしながら行うため、飛散した火の粉を常に注視することができず、接触を避けられずに火傷に至ることがある。この火傷においては、真皮の浅い層まで至ることがあるが、その範囲が狭いため、重傷化するケースは少ない。その結果、病院で手当を受けずに済ますことが多く、この火傷は統計的に表れ難い。この潜在化は、対策を見出せない要因のひとつと考える。SNSなどで見られる火の粉によって生じた衣類やテント生地等の溶融・焼損事例の投稿は、火傷を引き起こす熱エネルギーをもった火の粉が焚火周囲に多く飛散していることを示唆している。
【0003】
焚火に用いる薪や炭の燃焼にともなって舞い上がる火の粉に触れて火傷を負うことの無いようにするための商品として、繊維ザイロンを使用した焚火用陣幕con fuoco(登録商標)が知られている(非特許文献1)。この商品は、通気性の無い布帛で、焚火を取り囲み外周から遮断することで、風の影響を抑え、火の粉が外周に飛散することを防止する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】焚火用陣幕「con fuocoTM-TP(コン・フォーコ ティピー型)」、https://www.makuake.com/project/confuoco-tp/、2022年3月29日検索
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、図1(A)、(B)には焚火における火の粉の飛散状態を示してある。焚火において発生する火の粉は、図1(A)に示す火の粉aのように、火源規模に基づく発熱速度で発生する火炎上の上昇気流(上昇熱気流)に沿って上空に舞い上がった後、燃え尽きや上昇気流の冷却されたところで落下を生じる。火の粉の上昇および落下は、図1(B)に示す火の粉cのように、風の向きおよびその強弱にも影響される。また、薪の燃焼に伴う残留水分の気体化や熱分解ガスは、薪の炭化箇所をはじけさせて火の粉を発生させる。この粒径が大きいと、火の粉bのように、上昇気流の流れと独立して水平方向へ飛散する。これらの挙動に対して、落下後も大きい熱エネルギーを有する火の粉との接触が火傷を生じさせる。
【0006】
焚火における火の粉の飛散を防ぐ方法のひとつとして、通気性シート(ろ布)による火の粉の捕集が考えられる。しかし、火の粉の捕集を目的として、これまでに焚火の燃焼性状と火の粉の粒径・その飛散挙動との関係を解明した研究は本発明者の知る限り存在しない。加えて、通気性シート(ろ布)による焚火の火の粉の捕集を行った報告例はなく、その捕集(繊維径・繊維間距離)およびろ過(慣性衝突・さえぎり)の機序も明確でない。
【0007】
本発明の目的は、このような点に鑑みて、焚火の外周に火の粉が飛散しないように、焚火で発生する火の粉を効率良く捕集可能な焚火の火の粉飛散防止方法を提案することにある。また、本発明の目的は、当該方法に用いるのに適した火の粉飛散防止用の通気性シートおよび火の粉飛散防止具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の焚火の火の粉飛散防止方法は、
焚火の火炎上の上昇熱気流に沿って移動する火の粉が飛散することを防止するために、
焚火の上部を、火炎に晒されない高さ位置(火炎プリューム領域内の位置)において、火炎中心軸を中心とする所定の範囲に亘って、難燃繊維からなる通気性シートで覆い、
焚火の上昇熱気流を前記通気性シートに衝突させることで、前記上昇熱気流に沿って移動する火の粉を前記通気性シートに捕集するようにしている。
【0009】
また、本発明の方法では、焚火の上部を通気性シートで覆うと共に、焚火における上昇熱気流の流れと独立して周囲に飛散する火の粉を捕集するために、焚火の外周部の全体あるいは一部を、火炎中心軸から水平方向に離れた位置において、通気性シートで覆い、焚火から外周に飛散する火の粉を通気性シートに捕集するようにしている。
【0010】
さらに、焚火において発生する火の粉には、図1に示すように、上昇熱気流に沿って移動する火の粉、水平方向に飛散する火の粉に加えて、上昇熱気流および風に依存した方向に移動する火の粉もある。これら各方向に向かって移動あるいは飛散する火の粉を、効果的に、通気性シートに捕集するために、本発明の方法では、通気性シートを、焚火の上部および外周部の全体を取り囲むように配置している。
【0011】
次に、本発明の方法に用いる難燃繊維からなる通気性シートには、捕集された火の粉によって着火、溶融等が生じない等の性能が要求される。例えば、通気性シートには、以下の要求性能を満たす生地を用いることが望ましい。
目付:50g/m以上
酸素指数(LOI、ISO4589-2):
23以上(23~27:自己消火性、27以上:難燃性)
着火性(ISO15025):
残炎時間:2秒以下(着火してから炎を上げて燃える状態が止むまでの時間)
残じん時間:2秒以下(着火してから炎を上げずに燃える状態が止むまでの時間)
空隙率:10%~90%
通気度(ISO9237):0.9m/s以上
【0012】
なお、通気性シートとして、接触すると火傷等の原因となる落下後も大きい熱エネルギーを有する火の粉(大きい粒径のもの)を優先的かつ効率的に捕集でき、目詰まりの要因となるそれ以外の火の粉、ススおよび灰を通過させる性能を備えたものを用いる。例えば、火傷の原因となる5mm程度以上の大きい粒径の火の粉の捕集にも適した繊維径、繊維間距離を備えた通気性シートを用いる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、図2の模式的に示すように、焚火の火炎上の上昇熱気流を利用して、上昇熱気流に沿って移動する火の粉の自律的な捕集が行われる。上昇熱気流を通気性シートに衝突させることによる火の粉の捕集は、送風装置を必要としないので、安価・簡便に火傷、飛び火等の弊害を防止できる。
【0014】
本発明者等は、アラミドの織物、ニットなどの難燃繊維からなるシートを用いて、焚火の上昇熱気流を用いた自律的な火の粉の捕集について調べた。その結果、火の粉の捕集には、通気性シートを貫通した上昇熱気流が必要であることを見出した。また、通気性シートに捕集された火の粉は、再び飛散することなく捕集箇所で燃え尽きるという興味深い結果を得た。これにより、火の粉を通気性シートによって効果的に捕集できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(A)、(B)は焚火における火の粉の飛散状態を示す説明図である。
図2】上昇気流を利用した火の粉の捕集を示す説明図である。
図3】(A)はアラミドニットを用いた実規模実験装置の全体を示す撮影画像、(B)は薪クリブを示す撮影画像、(C)は通気性シートを示す撮影画像、(D)は熱電対および二方向管の配置箇所を示す説明図である。
図4】アラミドニットを用いた場合の火の粉の移動状態を示す説明図である。
図5】(A)は自由空間に設置した火源における火炎の各領域を示す説明図、(B)は実験装置中心軸上の温度降下を示すグラフ、(C)は実験装置中心軸上の上昇気流速度を示すグラフである。
図6】(A)はアラミドニットを用いた場合のシート上面の温度分布を示す画像、(B)はシート下面における水平方向の温度減衰を示すグラフ、(C)は熱気流の流れに伴う火の粉の移動状態を示す説明図である。
図7】(A)はアラミド織物を用いた実規模実験装置の全体を示す撮影画像、(B)は薪クリブを示す撮影画像、(C)は通気性シートを示す撮影画像、(D)は熱電対、二方向管の配置箇所を示す説明図である。
図8】通気性シートの上部の上昇気流速度および下面の水平方向の熱気流の温度降下の数値計算における解析空間、火源および通気性シートの設置箇所を示す説明図である。
図9】アラミド織物を用いた場合の火の粉の移動状態を示す説明図である。
図10】(A)は自由空間に設置した火源における火炎の各領域を示す説明図、(B)は実験装置中心軸上の温度降下を示すグラフ、(C)は通気性シート上部の上昇気流速度を示すグラフである。
図11】(A)はアラミド織物を用いた場合のシート上面の温度分布を示す画像、(B)はシート下面における水平方向の温度減衰を示すグラフ、(C)は熱気流の流れに伴う火の粉の移動状態を示す説明図である。
図12】(A)はCFD上で再現した通気性シート模型の上部におけるz方向の速度を示すグラフ、(B)は通気性シート模型の下面における水平方向の温度減衰を示すグラフである。
図13】(A)~(D)は火の粉飛散防止用の通気性シートの使用形態の各例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による焚火の火の粉飛散防止方法では、焚火の燃焼面積は規模の拡大した林野火災よりはるかに小さいため、上昇気流に沿った火の粉の飛散を抑制しやすいことに着目して、焚火上部に配置した難燃繊維の通気性シートを利用して火の粉を捕集する。
通気性シートを火源上部に配置した場合の熱気流の垂直および水平方向の挙動に関する研究は少なく、実験的な研究によって明らかにする必要がある。本発明者等は、以下に述べるように、焚火における火の粉の飛散挙動および通気性シートを薪クリブ上部に配置した際の熱気流の変化を、実験および数値流体力学(CFD)によりそれぞれ把握し、簡易に火の粉を捕集でき、かつ安全に焚火を楽しめる火の粉飛散防止用の通気性シートに必要なデザインを検討した。
以下においては、通気性シートとして、アラミドニットを用いた場合(実験1)およびアラミド織物を用いた場合(実験2)を述べる。
【0017】
[実験1]
<アラミドニットを用いた場合の実験方法(実規模実験)>
(薪および通気性シート)
薪の樹種はナラとした。薪1本の寸法は、80mm×80mm×300mmであり、1回の実験当たり4本用いた。薪4本の合計質量および平均含水率は、それぞれ3.0±0.3kgおよび10±1.0%に調整した。薪の含水率は、静電容量式水分計(Greisinger、GMK100)により測定した。
使用した通気性シートは次の通りである。
混紡率:m-Aramid 90%/p-Aramid 10%
目付:189g/m
通気度:5.6m/s
寸法:760mm×760mm×2.26mm
【0018】
(実験装置)
図3に実規模実験装置の概略を示す。図3(A)、(B)、(C)に示すように、実規模実験装置1には、薪クリブ2と、焚火台3と、これを取り囲む縦長の直方体形状をしたシート保持枠4と、このシート保持枠4の天面に水平に張った火の粉飛散防止用の通気性シート5とが含まれている。焚火台3は、ロードセル6(東京測器研究所、CLA-2KNA)を挟み設置面7上に水平に配置した支持ボード8に載せた。
薪クリブ2は、2本×2段(300mm×300mm×160mm)とし、焚火台3上に配置した。
薪クリブ2の着火は、細い焚木(12本、約100g)を介した太い焚木(6本、約800g)の熾火から行った。細い焚木への着火は固形着火剤(JOTUL,BC0500)を用いた。
燃焼中の薪クリブ2の質量減少は、ロードセル6により1秒毎に測定し、準定常状態における5分間の質量減少速度およびナラの単位発熱量(19.6MJ/kg)から発熱速度を算出した。
【0019】
図3(D)を参照して説明する。
実規模実験装置の中心軸の温度は、K型熱電対(φ0.32mm)を用い、薪クリブ下端から100~1300mmの高さ(z)で垂直方向に100mm間隔で13点測定した。
通気性シート5は薪クリブ2下端(z=0mm)から800mm(薪クリブ2上端から640mm(Hc))の高さに配置した。
通気性シート5の下面の温度は、実験装置中心軸(r=0mm)から25~275mmの範囲で水平方向(r)に50mm間隔で7点測定した。
比較のため、通気性シート5のない場合の実験も行った。
実験装置中心軸上の熱気流の上昇速度は、二方向管に接続した微差圧計(Validyne、DP103)で得た差圧を、熱気流の温度により補正した密度で除することで算出した。二方向管は、薪クリブ下端から700mmおよび810mmの高さに配置した。
温度(ΔT)および上昇気流速度(v)は、1秒毎に測定し、発熱速度の準定常状態の時間における平均値により算出した。薪クリブ2から発生した火の粉の移動は、ビデオカメラを用いて観察した。
【0020】
<結果および考察>
(火の粉の移動状況)
図4の模式図に示すように、火の粉の移動を以下の5つ(a1~a4、b)に分類した。
通気性シートに捕集された火の粉
a1:火炎垂直方向に移動した後に水平方向に流れずに捕集
a2:水平方向への流れに変化する過程で捕集
a3:水平方向に流れて捕集
通気性シートに捕集されない火の粉
a4:水平方向に流れ続けて通気性シート外に到達
b:火炎垂直方向に移動せずに水平方向に飛散
火の粉bの最大飛散範囲は、焚火中心から半径1.8mであった。また、飛散後に炭化した状態で残っていた火の粉bのサイズは最小で6mm程度であった。垂直方向に移動した火の粉a1~a3は、捕集後に極めて短時間で燃え尽きていることから、そのサイズは、火の粉bに比べて小さく、6mm以下であったと考える。
【0021】
(薪クリブの発熱速度)
薪クリブの発熱速度は、通気性シートを配置した場合には平均21.6kWであった。また、通気性シートを配置していない場合の発熱速度は、平均20.6kWであった。この結果から、通気性シートから薪クリブへの熱のフィードバックの影響は、小さいと考える。
【0022】
(実験装置中心軸上の温度降下)
図5(A)は、自由空間に設置した火源における火炎の各領域を示す。領域Zone1は常に火炎の存在する連続火炎領域、領域Zone2は断続的に火炎の存在する間歇火炎領域、領域Zone3は火炎の存在しない火炎プリュームの領域である。
図5(B)は、実験装置中心軸上の高さと温度との相関に対する通気性シート配置の影響を調べるために、薪クリブの発熱速度に対する薪クリブからの高さと実験装置中心軸上の温度との関係を示す。図5(B)は、通気性シートの配置に際するシート下部の火炎領域の変化を調べるために、薪クリブの発熱速度に対する実験装置中心軸上の高さと温度との関係を示す。
比較のため、図中の実線に、自由空間において燃料が拡散燃焼した際のMcCaffreyのモデル(J. G. McCaffrey,"Purely Buoyant Diffusion Flames: Some Experimental Results",NBSIR79-1910,1979)を示す。
通気性シートの無い場合の温度(ΔT)は、McCaffreyのモデルとほぼ一致した。
通気性シートを配置した場合、シート下部(z<800mm)の温度(ΔT)は、通気性シートのない場合と同様に、高さ(z)の増加に伴う温度降下を示した。通気性シートの有無は、シート下部の温度にほとんど影響しない。この結果から、シートの設置は火源の火炎領域、すなわち火炎形状に影響しないと考える。
シート上部(z>800mm)の温度(ΔT)は、通気性シートのない場合に比較して、低くなった。上昇気流の一部のみが通気性シートを通過したためであると考える。
【0023】
(実験装置中心軸上の上昇気流速度)
図5(C)は、薪クリブ上を上昇する熱気流の垂直方向の速度に対する通気性シートの配置の影響を調べるために、薪クリブの発熱速度に対する薪クリブからの高さと実験装置中心軸上の上昇気流速度の関係を示す。
通気性シートのない場合、実験装置中心軸上の上昇気流速度は、McCaffreyのモデルとほぼ一致した。
通気性シートを配置した場合、シート下部の上昇気流速度は、通気性シートのない場合と同じであった。通気性シートの有無は、シート下部の上昇気流速度にほとんど影響を与えず、シート下部(z=700mm)の上昇気流速度は1.61m/sであった。
他方、シート上部(z=810mm)の上昇気流速度は0.16m/sに降下していたが、通気性シートを通過しても垂直方向に流れる熱気流を維持できた。
【0024】
(シート上面の温度分布)
図6(A)に、サーモカメラ(日本アビオニクス,R550)でシート上部から撮影したシート上面の温度分布を示す。図において符号Dで示すシート中心の円形部は、概ね同じ温度分布を示していることから、薪クリブから生じた高温の上昇気流が通気性シートを垂直に通過した範囲と考えられる。この範囲の熱気流は、実験装置中心軸上と同様な速度で通気性シートを通過したと考える。図6(C)において符号a1で示した火の粉の捕集は、この流れに沿って移動した結果と考える(図4参照)。
【0025】
(通気性シート水平方向の熱気流の温度減衰)
図6(B)に、通気性シート下面の水平方向距離(r/Hc)と熱気流の無次元温度比(ΔTc/ΔTHes)との関係を示す。
rは実験装置中心軸から水平方向への距離、Hcは薪クリブ上面からシートまでの高さである。
ΔTc/ΔTHesは天井流の無次元温度比である。
ここで、
ΔTcは天井流の無次元温度、
ΔTHesは一般的な天井流の温度減衰を示すHeskestad and Delichatsiosモデルの無次元温度である。
【0026】
図6(B)の実線は、一般的な天井下面の流れにおけるHeskestad and Delichatsiosのモデル(G. Heskestad,M. A. Delichatsios,"The Initial Convective flow in Fire" , 17th International Symposium on Combustion ,Combustion Insutitute,pp.1113-1123,1978)に基づく水平方向距離(r/Hc)の増加に伴う無次元温度比である。
シート下面の無次元温度比は、Heskestad and Delichatsiosのモデルと比較して小さく、通気性シートなしの場合と比較して大きい。
【0027】
この結果より、通気性シートに衝突した熱気流は、通気性シートを通過する流れの他に、通気性シートに沿った水平方向の流れを形成したと考える。この水平方向の熱気流は流れをシート端付近までその流れを維持しているが、その一部はシートを通過する流れを形成したと考える。これらの熱気流の流れによって、図6(C)において符号a1~a4で示す火の粉は移動したと考える。符号a1で示す火の粉は垂直方向の流れに沿って捕集され、符号a2で示す火の粉は垂直から水平方向の流れの変化に沿って捕集されたと考える。また、符号a3で示す火の粉は水平方向の流れに沿って捕集され、符号a4で示す火の粉は水平方向の流れおよび通気性シートを通過する流れに沿って捕集されなかったと考える。
【0028】
[実験2]
<アラミド織物を用いた場合の実験方法(実規模実験)>
(薪および通気性シート)
薪の樹種はナラとした。薪1本の寸法は、80mm×80mm×300mmであり、1回の実験当たり4本用いた。薪4本の合計質量および平均含水率は、それぞれ2.8±0.3kgおよび15±1.5%に調整した。薪の含水率は、静電容量式水分計(Greisinger、GMK100)により測定した。
使用した3つの通気性シートは次の通りである。
通気性シートA
混紡率:m-Aramid 100%
目付:66g/m
空隙径:1.17mm×0.98mm
通気度:41.7m/s
寸法:1000mm×1000mm×0.40mm
通気性シートB
混紡率:m-Aramid 100%
目付:110g/m
空隙径:0.75mm×0.60mm
通気度:15.2m/s
寸法:1000mm×1000mm×0.41mm
通気性シートC
混紡率:m-Aramid 100%
目付:154g/m
空隙径:0.34mm×0.34mm
通気度:4.37m/s
寸法:1000mm×1000mm×0.42mm
【0029】
(実験装置)
図7に実規模実験装置の概略を示す。図7(A)、(B)、(C)に示すように、実規模実験装置1Aには、薪クリブ2Aと、焚火台3Aと、これを取り囲む縦長の直方体形状をしたシート保持枠4Aと、このシート保持枠4Aの天面に水平に張った火の粉飛散防止用の通気性シート5Aとが含まれている。焚火台3Aは、ロードセル6A(東京測器研究所、CLA-2KNA)を挟み設置面7A上に水平に配置した支持ボード8Aに載せた。
薪クリブ2Aは、2本×2段(300mm×300mm×160mm)とし、焚火台3A上に配置した。
薪クリブ2Aの着火は、細い焚木(12本、約100g)を介した太い焚木(6本、約800g)の熾火から行った。細い焚木への着火は固形着火剤(JOTUL,BC0500)を用いた。
燃焼中の薪クリブ2Aの質量減少は、ロードセル6Aにより1秒毎に測定し、準定常状態における5分間の質量減少速度およびナラの単位発熱量(19.6MJ/kg)から発熱速度を算出した。
【0030】
図7(D)を参照して説明する。
実規模実験装置の中心軸の温度は、K型熱電対(φ0.32mm)を用い、薪クリブ下端から100~1700mmの高さ(z)で垂直方向に100mm間隔で17点測定した。
各通気性シートA、B、C(5A)は薪クリブ2A下端(z=0mm)から800mm(薪クリブ2上端から640mm(Hc))の高さに配置した。
各通気性シートA、B、Cの下面の温度は、実験装置中心軸(r=0mm)から50~450mmの範囲で水平方向(r)に50mm間隔で10点測定した。
比較のため、通気性シート5Aのない場合の実験も行った。
実験装置中心軸上の熱気流の上昇速度は、二方向管に接続した微差圧計(Setra、264)で得た差圧を、熱気流の温度により補正した密度で除することで算出した。二方向管は、薪クリブ下端から900mmの高さで水平方向(r)に100mm間隔で5点配置した。
温度(ΔT)および上昇気流速度(v)は、1秒毎に測定し、発熱速度の準定常状態の時間における平均値により算出した。薪クリブ2Aから発生した火の粉の移動は、ビデオカメラを用いて観察した。
【0031】
(数値計算による通気性シートの上部の上昇気流速度および下面の水平方向の熱気流の温度降下)
数値計算コードは、Fire Dynamics Simulator(FDS)Ver.6.7.5を用いた。
図8に解析空間、火源および通気性シートを示す。
解析空間は、1280mm×1280mm×1700mmとした。
木材の物性値を入力した火源は400mm×400mmの正方形とし、床面から200mmの高さに設定した。
通気性シートは1000mm×1000mm×2mmとし、火源から800mmの高さに設定した。
発熱速度は実験から得た値を単位面積当たりに換算し、入力値とした。
計算時間は7秒とした。
計算格子は、通気性シートに近い空間で格子幅を狭くした。
解析に用いる温度および速度は、火炎立ち上がり後の5秒間(716time step)の平均値とした。
通気性シート近傍における熱気流の性状を把握するため、計算によって通気性シートの上部の上昇気流速度および下面の水平方向の熱気流の温度降下を調べた。
アラミド織物のような立体的な織物構造の正確な再現は困難であるため、通気性の目安として空隙率を用いた通気性シート模型を作製して計算した。一般に空隙率の増加は、通気度を増大させる。シート模型の空隙率は、空隙径および厚みをそれぞれ2mm×2mmおよび2mmとして形成した縦穴をメッシュ状に形成することで調整した。
計算は、通気性シートの空隙率を20%、40%、60%および80%として行った。比較のため、0%(一般的な建物の天井)および100%(通気性シートなし)の計算も行った。
【0032】
<結果および考察>
(火の粉の移動状況)
図9の模式図に示すように、火の粉の移動を以下の6つ(a1~a5、b)に分類した。
通気性シートに捕集された火の粉
a1:火炎垂直方向に移動した後に水平方向に流れずに捕集
a2:水平方向への流れに変化する過程で捕集
a3:水平方向に流れて捕集
通気性シートに捕集されない火の粉
a4:水平方向に流れ続けて通気性シート外に到達
a5:火炎垂直方向に移動した後に通気性シートを通過
b :火炎垂直方向に移動せずに水平方向に飛散
火の粉a5のサイズは、通気性シートAの空隙径から推定すると、直径1.5mm以下であったと考える。
火の粉bの最大飛散範囲は、焚火中心から半径1.8mであった。また、飛散後に炭化した状態で残っていた火の粉bのサイズは最小で6mm程度であった。垂直方向に移動した火の粉a1~a3は、捕集後に極めて短時間で燃え尽きていることから、そのサイズは、火の粉bに比べて小さく、6mm以下であったと考える。
【0033】
(薪クリブの発熱速度)
薪クリブの発熱速度は、通気性シートを配置した場合には平均22.7kWであった。また、通気性シートを配置していない場合の発熱速度は、平均22.5kWであった。この結果から、通気性シートから薪クリブへの熱のフィードバックの影響は、小さいと考える。
【0034】
(実験装置中心軸上の温度降下)
図10(A)は、自由空間に設置した火源における火炎の各領域を示す。領域Zone1は常に火炎の存在する連続火炎領域、領域Zone2は断続的に火炎の存在する間歇火炎領域、領域Zone3は火炎の存在しない火炎プリュームの領域である。
図10(B)は、実験装置中心軸上の高さと温度との相関に対する通気性シート配置の影響を調べるために、薪クリブの発熱速度に対する薪クリブからの高さと実験装置中心軸上の温度との関係を示す。図5(B)は、通気性シートの配置に際するシート下部の火炎領域の変化を調べるために、薪クリブの発熱速度に対する実験装置中心軸上の高さと温度との関係を示す。
比較のため、図中の実線に、自由空間において燃料が拡散燃焼した際のMcCaffreyのモデル(J. G. McCaffrey,"Purely Buoyant Diffusion Flames: Some Experimental Results",NBSIR79-1910,1979)を示す。
通気性シートの無い場合および通気性シートAの場合の温度ΔTは、McCaffreyのモデルとほぼ一致した。
通気性シートA、BおよびCを配置した場合、シート下部(z<800mm)の温度(ΔT)は、通気性シートのない場合と同様に、高さ(z)の増加に伴う温度降下を示した。通気性シートの有無は、シート下部の温度にほとんど影響しない。この結果から、シートA、BおよびCの設置は火源の火炎領域、すなわち火炎形状に影響しないと考える。
通気性シートCのシート上部(z>800mm)の温度(ΔT)は、通気性シートのない場合、通気性シートAおよびBの場合に比較して、低くなった。通気性シートCの場合、熱気流はシートを通過し難いと考える。
【0035】
(通気性シート上部の上昇気流速度)
図10(C)は、薪クリブ上を上昇する熱気流の垂直方向の速度に対する通気性シートの配置の影響を調べるために、実験装置中心軸から水平方向への距離(r)と通気性シート上部の上昇気流速度(v)との関係を示す。
通気性シートAおよびBを配置した際、実験装置中心軸上の上昇気流速度は、通気性シートCに比較して大きい。通気性シートA、BおよびCの上昇気流速度は、それぞれ0.73m/s、0.52m/sおよび0.09m/sであった。
通気性シートAおよびBのr≧0.2mにおける上昇気流速度はr≦0.1mに比較して小さい。これらの結果から、通気性シートA、Bに衝突したほとんどの熱気流は、中心付近で通過すると考える。
他方、通気性シートCを配置した場合、上昇気流速度はrにほとんど依存していないことから、中心付近でシートを通過できない熱気流は、シート外側に向かった水平方向の流れを形成していると考える。
【0036】
図11(A)に、サーモカメラ(日本アビオニクス,R550)で通気性シートBの上部から撮影したシート上面の温度分布を示す。図において符号Dで示すシート中心の円形部は、概ね同じ温度分布を示していることから、薪クリブから生じた高温の上昇気流が通気性シートを垂直に通過した範囲と考えられる。この範囲の熱気流は、実験装置中心軸上と同様な速度で通気性シートを通過したと考える。図11(C)において符号a1で示した火の粉の捕集は、この流れに沿って移動した結果と考える(図9参照)。
【0037】
(通気性シート水平方向の熱気流の温度減衰)
図11(B)に、通気性シート下面の水平方向距離(r/Hc)と熱気流の無次元温度比(ΔTc/ΔTHes)との関係を示す。
rは実験装置中心軸から水平方向への距離、Hcは薪クリブ上面からシートまでの高さである。ΔTc/ΔTHesは天井流の無次元温度比である。
ここで、
ΔTcは天井流の無次元温度である。
ΔTHesは一般的な天井流の温度減衰を示すHeskestad and Delichatsiosモデルの無次元温度である。
【0038】
図11(B)の実線は、一般的な天井流におけるHeskestadとDelichatsiosのモデル(G. Heskestad,M. A. Delichatsios,"The Initial Convective flow in Fire",17th International Symposium on Combustion ,Combustion Insutitute,pp.1113-1123,1978)に基づく温度減衰を示し、天井高さにおける実験装置中心軸からの水平方向距離(r/Hc)と熱気流の無次元温度比(ΔTc/ΔTHes)との関係を示す。
通気性シートA、BおよびCの下面の無次元温度比は、Heskestad and Delichatsiosのモデルと比較して小さく、通気性シートなしの場合と比較して大きい。
【0039】
この結果より、通気性シートに衝突した熱気流は、通気性シートを通過する流れの他に、通気性シートに沿った水平方向の流れを形成したと考える。この水平方向の熱気流は流れをシート端付近までその流れを維持しているが、その一部は通気性シートを通過する流れを形成したと考える。これらの熱気流の流れによって、図11(C)において符号a1~a5で示す火の粉は移動したと考える。符号a1で示す火の粉は垂直方向の流れに沿って捕集され、符号a2で示す火の粉は垂直から水平方向の流れの変化に沿って捕集されたと考える。符号a3で示す火の粉は水平方向の流れに沿って捕集され、符号a4で示す火の粉は水平方向の流れおよび通気性シートを通過する流れに沿って捕集されなかったと考える。符号a5で示す火の粉は垂直方向の流れに沿って移動し、通気性シートを通過した。この火の粉は通気性シートAで生じ、通過後に極めて短時間で赤熱状態を維持できなくなった。また、この火の粉の数は極めて少ない。これらの結果から、符号a5で示す火の粉における通気性シートの通過は、実用上差し支えないと考える。
【0040】
さらに、r/Hcの増加に伴う通気性シートAのΔTc/ΔTHes図11(B)参照)は、BおよびCに比較して減衰した。この結果から、通気性シートAの水平方向の流れは、よりシートを通過したと考える。符号a3で示す火の粉はこの水平方向の流れに沿って移動し、通気性シートに捕集されたと考える。(図11(C)参照)。
【0041】
(数値計算による通気性シート上部の上昇気流速度)
図12(A)は、通気性シート上部の通気性を把握するために、数値計算によって得た火源中心軸から水平方向への距離(r)とシート上部のz方向の速度(v)との関係を示す。
火源中心軸におけるz方向の速度は、空隙率の増加にともなって増加した。また、いずれの空隙率においても、火源中心軸付近の速度は外側に比べて大きい。これらの結果より、実規模実験における通気性シートA、Bで見られたシート上部の上昇気流速度は、中心付近で大きくなる現象を数値計算で良く再現している。
しかし、実規模実験における通気性シートCで見られたシート上部の上昇気流速度は、rに依存しない現象を再現できていない。この課題は、CFDによる通気性シート模型の再現性を高めることで解消できると考える。
【0042】
(数値計算による通気性シート水平方向の熱気流の温度減衰)
図12(B)に、数値計算によって得た通気性シート下面の水平方向距離(r/Hc)と熱気流の無次元温度比(ΔTc/ΔTHes)との関係を示す。
空隙率の高い通気性シートほど、r/Hcの増加に伴い、ΔTc/ΔTHesは減衰した。この結果より、空隙率の高い通気性シートの下面を流れる水平方向の熱気流は、水平方向に流れる過程でその一部が通気性シートを通過したと考える(図12(A)参照)。
数値計算によって実規模実験における通気性シートの下面の流れを良く再現できた。
【0043】
[まとめ]
以上説明したように、焚火における火の粉の飛散挙動、通気性シートを薪クリブ上部に配置した際に及ぼす熱気流の変化を実験および数値流体力学(CFD)から把握した。実規模実験によれば、通気性シートに衝突した熱気流は、通気性シートを通過する垂直方向の流れおよび通気性シートに沿った水平方向の流れに分かれた。水平方向の流れの一部は、シートを通過する流れを形成した。これらの流れに沿って火の粉は移動した。CFD解析によっても熱気流は実規模実験と同様な流れを形成した。今回のCFD解析では、火の粉の捕集に効果的な空隙率は20%~80%であることが示された。また、解析結果から、空隙率0%<20%および80%>100%の範囲、すなわち空隙率10%および90%においても、火の粉の捕集は実用上差し支えないと考える。空隙率と通気度は正の相関関係にある。したがって、実際の織物等による火の粉の捕集は、広い範囲の通気度で効果的に行えると考える。
【0044】
[通気性シートの各種の使用形態]
上記の実験装置では、焚火の上部に矩形輪郭の通気性シートを水平に配置して、上昇熱気流に沿って上昇する火の粉を通気性シートに捕集するようにしている。通気性シートは、火炎に晒されない高さ位置(火炎プリュームの領域)に配置される。薪クリブ火源の火炎の高さ(発熱速度等)によって、通気性シートを配置する高さ位置は変わる。焚火の高さに応じて、通気性シートを適切な高さ位置に設置できるように、焚火の上部に通気性シートを保持するシート保持具に、通気性シートの高さ調整機能を持たせると便利である。
【0045】
一方、図1を参照して説明したように、焚火において発生する火の粉には、上昇熱気流に沿って移動する火の粉、水平方向に飛散する火の粉に加えて、上昇熱気流および風に依存した方向に移動する火の粉もある。例えば、焚火から上昇熱気流に沿って移動せずに外周に飛散する火の粉(図1の火の粉b)を捕集するには、焚火の外周部の全体あるいは一部を、火炎中心軸から水平方向に離れた位置において、火炎垂直方向に所定の高さの範囲に亘って、通気性シートで覆うようにすればよい。また、各方向に向かって移動あるいは飛散する火の粉を、効果的に、通気性シートに捕集するためには、通気性シートを、焚火の上部および外周部の全体を取り囲むように配置すればよい。この場合には、通気性シートを用いて、例えば、下方に開口する円錐形、多角錐形、ドーム形、筒形等の形状をしたフード(カバー)を制作し、これを焚火に被せ、焚火から発生する火の粉を捕集することで、火の粉の飛散を防止できる。
【0046】
図13(A)~(D)には、火の粉飛散防止用の通気性シートを用いた火の粉飛散防止具の例を示してある。図13(A)に示す火の粉飛散防止具10では、上方の凸の円弧形状に通気性シート5Aを張ることができるようにシート保持枠11Aを構成し、自立式のスタンド12Aによって、焚火の上方の所定の高さ位置に円弧状の通気性シート5Aを保持してある。吊り下げ部分に高さ調整機構13Aを組み込むことで、適切な高さ位置に通気性シート5Aを保持可能である。図13(B)に示す火の粉飛散防止具20では、焚火の上部において、スタンド12Bに取り付けたシート保持枠11Bによって通気性シート5Bを円錐状あるいは多角錐状に張ると共に、その下端に円筒状あるいは角筒状に通気性シート5Bによるスカート部分を形成し、通気性シート5Bによって、焚火の火炎の上部を覆うと共に、外周部も取り囲むようにしてある。これにより、焚火から上昇熱気流に沿って上昇する火の粉、外周に飛散する火の粉、上昇熱気流および風に沿って斜め上方に流される火の粉等を通気性シートによって捕集できる。図13(C)に示す火の粉飛散防止具30は、自立式のシート保持枠11Cに通気性シート5Cを取り付けたものである。シート保持枠11Cの各脚には高さ調整機構13Cが組み込まれている。一方、図13(D)に示す例は、自立式のシート保持枠11Dに通気性シート5Dを張り付けて、火の粉捕集用のフード40を構成したものである。フード40を焚火に被せて火の粉を通気性シート5Dで捕集することで、火の粉の飛散を防止できる。
【0047】
[通気性シートの生地の要求性能]
本発明において使用する通気性シートは、難燃繊維の織布、編布(ニット)あるいは不織布であり、所定の通気性が備わっている。
また、通気性シートは、次の要求性能を満たすものを用いることが望ましい。
・目付:50g/m以上
(通気性シートの機械的強度の確保のために必要な性能)
・酸素指数(LOI、ISO4589-2):
23以上(23~27:自己消火性、27以上:難燃性)
(偶発的な火炎との接触後、通気性シートは火炎と離れると自己消火するために必要な性能)
・着火性(ISO15025):
残炎時間:2秒以下(着火してから炎を上げて燃える状態が止むまでの時間)
残じん時間:2秒以下(着火してから炎を上げずに燃える状態が止むまでの時間)
(通気性シートが偶発的に火炎と接触して着火した場合、燃え広がりを防止するために必要な性能)
・空隙率:10%~90%
(継続した火の粉の捕集能力の確保のために必要な性能)
・通気度(ISO9237):0.9m/s以上
(通気性シートを貫通した上昇熱気流を継続して確保するために必要な性能)
【0048】
耐熱性および携帯性を考慮すると、シート生地は、例えば、アラミド繊維の織物および編物生地を用いることができる。通気性シートに用いる難燃繊維としては、例えば、アラミド繊維のほか、カーボン繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、酸化アクリル繊維、シリカ繊維、ガラス繊維等を用いることができる。
【0049】
さらに、通気性シートには、大きい熱エネルギー(大きい粒径)をもつ火の粉を優先的かつ効率的に捕集し、目詰まりの要因となるそれ以外の火の粉、ススおよび灰を通過させる性能が必要である。通気性シートの目詰まりは、上方に拡散するはずのCOを含む燃焼ガスを水平方向の流れに変え、人の高さに向かって進展する危険性がある。したがって、通気性シートの生地を構成する繊維の繊維径、繊維間距離およびその構造を、焚火によって発生する火の粉の捕集に適したものとする必要がある。
【符号の説明】
【0050】
1、1A 実験装置
2、2A 薪クリブ
3、3A 焚火台
4、4A シート保持枠
5、5A、5B、5C、5D、A、B、C 通気性シート
6、6A ロードセル
7、7A 設置面
8、8A 支持ボード
10、20、30 火の粉飛散防止具
11A、11B、11C、11D シート保持枠
12A、12B スタンド
13A、13C 高さ調整機構
40 火の粉飛散防止用のフード
a 火の粉(上昇気流に依存)
b 火の粉(上昇気流と風に独立)
c 火の粉(上昇気流と風に依存)
a1~a5 火の粉
Zone1 連続火炎の領域
Zone2 間欠火炎の領域
Zone3 火炎プリュームの領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13