(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152953
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】学習モデル生成プログラム、粒子製造条件設定プログラム、学習モデル生成方法、粒子製造条件設定方法およびポリマー粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G06N 20/00 20190101AFI20231005BHJP
G16C 20/70 20190101ALI20231005BHJP
G16C 60/00 20190101ALI20231005BHJP
【FI】
G06N20/00 130
G16C20/70
G16C60/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053577
(22)【出願日】2023-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2022056270
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小柳 昂平
(72)【発明者】
【氏名】足立 平
(72)【発明者】
【氏名】胸組 豪
(72)【発明者】
【氏名】野村 圭一郎
(57)【要約】
【課題】所望の特性を有するポリマー粒子を効率的に設計することができる、学習モデル生成プログラム、粒子製造条件設定プログラム、学習モデル生成方法、粒子製造条件設定方法およびポリマー粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】学習モデル生成プログラムは、コンピュータに、既知のポリマー粒子を構成する粒子製造条件のうち少なくとも1つを説明変数とし、該ポリマー粒子の粒子特性のうち少なくとも1つを目的変数とする学習用データを用いて機械学習を実行することにより学習モデルを生成する学習モデル生成ステップ、を実行させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
既知のポリマー粒子を構成する粒子製造条件のうち少なくとも1つを説明変数とし、該ポリマー粒子の粒子特性のうち少なくとも1つを目的変数とする学習用データを用いて機械学習を実行することにより学習モデルを生成する学習モデル生成ステップ、
を実行させる学習モデル生成プログラム。
【請求項2】
前記学習モデル生成ステップは、
前記粒子製造条件として、原料の組成比、原料の特性値、および原料の溶液粘度を含む原料条件、ならびに撹拌温度、撹拌速度、および反応時間を含むプロセス条件、を含む、
請求項1に記載の学習モデル生成プログラム。
【請求項3】
前記学習モデル生成ステップは、
前記粒子特性として、収率、粒子径、粒径分布、およびその他の物性値を含む、
請求項1または2に記載の学習モデル生成プログラム。
【請求項4】
前記学習モデル生成ステップは、
前記原料の特性値として、
原料ポリマーの重量平均分子量、МFR、および官能基量を含む、
請求項2に記載の学習モデル生成プログラム。
【請求項5】
前記学習モデル生成ステップは、
前記学習用データの一部を互いに異なる複数の統計モデルに適用して機械学習をそれぞれ実行することによって複数の検証用の学習モデルを生成し、
前記複数の検証用の学習モデルを用いて最適な統計モデルを選択し、
前記選択した統計モデルおよび前記学習用データを用いて前記学習モデルを生成する、
請求項4に記載の学習モデル生成プログラム。
【請求項6】
前記学習モデル生成ステップは、
前記検証用の学習モデルの精度を評価することによって前記統計モデルを選択する、
請求項5に記載の学習モデル生成プログラム。
【請求項7】
前記学習モデル生成ステップは、
前記検証用の学習モデルに対する精度評価指標を算出し、
前記精度評価指標が最も良好な前記検証用の学習モデルの生成に用いた統計モデルを選択する、
請求項6に記載の学習モデル生成プログラム。
【請求項8】
前記精度評価指標は、前記検証用の学習モデルの未学習のデータに対する汎化性能を評価する交差検定によって算出される決定係数を用いて定義される値である、
請求項7に記載の学習モデル生成プログラム。
【請求項9】
前記学習モデル生成ステップは、
前記ポリマー粒子の粒子特性のうち複数を前記目的変数として機械学習を実行することによって複数の学習モデルを生成する、
請求項1に記載の学習モデル生成プログラム。
【請求項10】
コンピュータに、
既知のポリマー粒子の粒子製造条件のうち少なくとも1つを説明変数、該ポリマー粒子の粒子特性のうち少なくとも1つを目的変数とする機械学習によって生成された学習モデルに対して、設定対象の複数の粒子製造条件の候補をそれぞれ入力する入力ステップと、
前記学習モデルが出力する複数の粒子特性のうち、所定の条件に適合する粒子特性を与える粒子製造条件を適合粒子製造条件として設定する設定ステップと、
を実行させる粒子製造条件設定プログラム。
【請求項11】
前記入力ステップは、
前記粒子製造条件として、原料の組成比、原料の特性値、および原料の溶液粘度を含む原料条件、ならびに撹拌温度、撹拌速度、反応時間を含むプロセス条件、を含む、
請求項10に記載の粒子製造条件設定プログラム。
【請求項12】
前記設定ステップは、
前記粒子特性として、収率、粒子径、粒径分布、およびその他の物性値を含む、
請求項10または11に記載の粒子製造条件設定プログラム。
【請求項13】
前記複数の粒子製造条件は、対象となる説明変数ごとに取りうる値の範囲が設定されており、
前記設定ステップは、
前記粒子製造条件の少なくとも一部を用いて前記適合粒子製造条件を設定する、
請求項12に記載の粒子製造条件設定プログラム。
【請求項14】
前記入力ステップは、
ポリマー粒子の粒子特性のうち複数を前記目的変数として生成された複数の学習モデルに対して複数の粒子製造条件をそれぞれ入力し、
前記設定ステップは、
共通の粒子製造条件に対して前記複数の学習モデルが出力した粒子特性の組み合わせが所定の条件に適合する粒子製造条件を前記適合粒子製造条件として設定する、
請求項13に記載の粒子製造条件設定プログラム。
【請求項15】
コンピュータが、既知のポリマー粒子の粒子製造条件のうち少なくとも1つを説明変数、該ポリマー粒子の粒子特性のうち少なくとも1つを目的変数とする学習用データを記憶部から取得して機械学習を実行することにより学習モデルを生成する、
学習モデル生成方法。
【請求項16】
前記学習用データは、
前記粒子製造条件として、原料の組成比、原料の特性値、および原料の溶液粘度を含む原料条件、ならびに撹拌温度、撹拌速度、反応時間を含むプロセス条件、を含む、
請求項15に記載の学習モデル生成方法。
【請求項17】
前記学習用データは、
前記粒子特性として、収率、粒子径、粒径分布、およびその他の物性値を含む、
請求項15または16に記載の学習モデル生成方法。
【請求項18】
コンピュータが、
既知のポリマー粒子の粒子製造条件のうち少なくとも1つを説明変数、該ポリマー粒子の粒子特性のうち少なくとも1つを目的変数とする機械学習によって生成された学習モデルに対して、設定対象の粒子製造条件の候補を記憶部から読み出してそれぞれ入力し、
前記学習モデルが出力する複数の粒子特性のうち、所定の条件に適合する粒子製造条件を与える粒子製造条件を適合粒子製造条件として設定する、
粒子製造条件設定方法。
【請求項19】
請求項10に記載の粒子製造条件設定プログラムにより設定した適合粒子製造条件を用いる、ポリマー粒子を製造する、
ポリマー粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、学習モデル生成プログラム、粒子製造条件設定プログラム、学習モデル生成方法、粒子製造条件設定方法およびポリマー粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリマー粒子の製造方法として、水素イオン指数(pH)が8~10の水性媒体中に、カチオン性官能基を有する水溶性高分子およびイオン性官能基を有する水溶性ラジカル重合開始剤を溶解させているとともに、重合性単量体を分散させた反応系にて、該重合性単量体を重合することによって、平均粒子径が大きく、かつ、粒子径分布が狭い粒子径の揃ったポリマー粒子を安定的に製造する技術が知られている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のポリマー粒子の製造方法は、研究開発担当者による幾多にわたる試行錯誤によって粒子製造条件設定等が設計されており、その設計を効率化することが望まれていた。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、所望の特性を有するポリマー粒子を効率的に設計することができる、学習モデル生成プログラム、粒子製造条件設定プログラム、学習モデル生成方法、粒子製造条件設定方法およびポリマー粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る学習モデル生成プログラムは、コンピュータに、既知のポリマー粒子を構成する粒子製造条件のうち少なくとも1つを説明変数とし、該ポリマー粒子の粒子特性のうち少なくとも1つを目的変数とする学習用データを用いて機械学習を実行することにより学習モデルを生成する学習モデル生成ステップ、を実行させる。
【0007】
また、本発明に係る学習モデル生成プログラムは、上記発明において、前記学習モデル生成ステップは、前記粒子製造条件として、原料の組成比、原料の特性値、および原料の溶液粘度を含む原料条件、ならびに撹拌温度、撹拌速度、および反応時間を含むプロセス条件、を含む。
【0008】
また、本発明に係る学習モデル生成プログラムは、上記発明において、前記学習モデル生成ステップは、前記粒子特性として、収率、粒子径、粒径分布、およびその他の物性値を含む。
【0009】
また、本発明に係る学習モデル生成プログラムは、上記発明において、前記学習モデル生成ステップは、前記原料の特性値として、原料ポリマーの重量平均分子量、МFR、および官能基量を含む。
【0010】
また、本発明に係る学習モデル生成プログラムは、上記発明において、前記学習モデル生成ステップは、前記学習用データの一部を互いに異なる複数の統計モデルに適用して機械学習をそれぞれ実行することによって複数の検証用の学習モデルを生成し、前記複数の検証用の学習モデルを用いて最適な統計モデルを選択し、前記選択した統計モデルおよび前記学習用データを用いて前記学習モデルを生成する。
【0011】
また、本発明に係る学習モデル生成プログラムは、上記発明において、前記学習モデル生成ステップは、前記検証用の学習モデルの精度を評価することによって前記統計モデルを選択する。
【0012】
また、本発明に係る学習モデル生成プログラムは、上記発明において、前記学習モデル生成ステップは、前記検証用の学習モデルに対する精度評価指標を算出し、前記精度評価指標が最も良好な前記検証用の学習モデルの生成に用いた統計モデルを選択する。
【0013】
また、本発明に係る学習モデル生成プログラムは、上記発明において、前記精度評価指標は、前記検証用の学習モデルの未学習のデータに対する汎化性能を評価する交差検定によって算出される決定係数を用いて定義される値である。
【0014】
また、本発明に係る学習モデル生成プログラムは、上記発明において、前記学習モデル生成ステップは、前記ポリマー粒子の粒子特性のうち複数を前記目的変数として機械学習を実行することによって複数の学習モデルを生成する。
【0015】
また、本発明に係る粒子製造条件設定プログラムは、コンピュータに、既知のポリマー粒子の粒子製造条件のうち少なくとも1つを説明変数、該ポリマー粒子の粒子特性のうち少なくとも1つを目的変数とする機械学習によって生成された学習モデルに対して、設定対象の複数の粒子製造条件の候補をそれぞれ入力する入力ステップと、前記学習モデルが出力する複数の粒子特性のうち、所定の条件に適合する粒子特性を与える粒子製造条件を適合粒子製造条件として設定する設定ステップと、を実行させる。
【0016】
また、本発明に係る粒子製造条件設定プログラムは、上記発明において、前記入力ステップは、前記粒子製造条件として、原料の組成比、原料の特性値、および原料の溶液粘度を含む原料条件、ならびに撹拌温度、撹拌速度、反応時間を含むプロセス条件、を含む。
【0017】
また、本発明に係る粒子製造条件設定プログラムは、上記発明において、前記設定ステップは、前記粒子特性として、収率、粒子径、粒径分布、およびその他の物性値を含む。
【0018】
また、本発明に係る粒子製造条件設定プログラムは、上記発明において、前記複数の粒子製造条件は、対象となる説明変数ごとに取りうる値の範囲が設定されており、前記設定ステップは、前記粒子製造条件の少なくとも一部を用いて前記適合粒子製造条件を設定する。
【0019】
また、本発明に係る粒子製造条件設定プログラムは、上記発明において、前記入力ステップは、ポリマー粒子の粒子特性のうち複数を前記目的変数として生成された複数の学習モデルに対して複数の粒子製造条件をそれぞれ入力し、前記設定ステップは、共通の粒子製造条件に対して前記複数の学習モデルが出力した粒子特性の組み合わせが所定の条件に適合する粒子製造条件を前記適合粒子製造条件として設定する。
【0020】
また、本発明に係る学習モデル生成方法は、コンピュータが、既知のポリマー粒子の粒子製造条件のうち少なくとも1つを説明変数、該ポリマー粒子の粒子特性のうち少なくとも1つを目的変数とする学習用データを記憶部から取得して機械学習を実行することにより学習モデルを生成する。
【0021】
また、本発明に係る学習モデル生成方法は、上記発明において、前記学習用データは、
前記粒子製造条件として、原料の組成比、原料の特性値、および原料の溶液粘度を含む原料条件、ならびに撹拌温度、撹拌速度、反応時間を含むプロセス条件、を含む。
【0022】
また、本発明に係る学習モデル生成方法は、上記発明において、前記学習用データは、前記粒子特性として、収率、粒子径、粒径分布、およびその他の物性値を含む。
【0023】
また、本発明に係る粒子製造条件設定方法は、コンピュータが、既知のポリマー粒子の粒子製造条件のうち少なくとも1つを説明変数、該ポリマー粒子の粒子特性のうち少なくとも1つを目的変数とする機械学習によって生成された学習モデルに対して、設定対象の粒子製造条件の候補を記憶部から読み出してそれぞれ入力し、前記学習モデルが出力する複数の粒子特性のうち、所定の条件に適合する粒子製造条件を与える粒子製造条件を適合粒子製造条件として設定する。
【0024】
また、本発明に係るポリマー粒子の製造方法は、上記発明の粒子製造条件設定プログラムにより設定した適合粒子製造条件を用いて、ポリマー粒子を製造する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、所望の特性を有するポリマー粒子を効率的に設計することができ、粒子収率の向上、製造工程の安定化、製造コストダウンの効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態1に係る粒子製造条件設定システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態1に係る学習装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態1に係る粒子製造条件設定装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態1に係る学習装置が抽出する学習用データセットに用いるポリマー粒子の粒子製造工程における概要を模式的に説明する。
【
図5】
図5は、粒径および度数との関係を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態1に係る粒子製造条件設定装置が実行する粒子製造条件設定処理の概要を説明するための図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態1に係る学習装置が実行する学習処理の概要を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態1に係る粒子製造条件設定装置が実行する粒子製造条件設定処理の概要を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態2に係る学習装置が行う学習処理の概要を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態3に係る粒子製造条件設定装置が行う粒子製造条件設定処理の概要を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る粒子製造条件設定システムの実施形態を、詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0028】
(実施形態1)
〔粒子製造条件設定システムの構成〕
図1は、本発明の実施形態1に係る粒子製造条件設定システムの概略構成を示すブロック図である。
図1に示す粒子製造条件設定システム1は、学習装置2と、粒子製造条件設定装置3と、表示装置4と、入力装置5と、を備える。
【0029】
学習装置2は、学習用データを作成し、この学習用データを用いて機械学習することによって学習モデルを生成する。学習装置2は、パーソナルコンピュータ等を用いて構成される。なお、学習装置2の詳細な機能構成は、後述する。
【0030】
粒子製造条件設定装置3は、学習装置2が生成した学習モデルを用いて、所定の条件に適合する粒子特性を与える粒子製造条件を適合粒子製造条件として設定する。粒子製造条件設定装置3は、パーソナルコンピュータ等を用いて構成される。なお、粒子製造条件設定装置3の詳細な機能構成は、後述する。
【0031】
表示装置4は、粒子製造条件設定装置3の設定結果を含む情報を表示する。表示装置4は、液晶ディスプレイまたは有機ELディスプレイ(Organic Electroluminescent Display)を用いて構成される。なお、実施形態1では、表示装置4に、スピーカやタッチパネル等を設け、音声出力機能および入力機能を実現させてもよい。
【0032】
入力装置5は、粒子製造条件の設定処理に関する所定の条件等の情報を含む各種情報の入力を受け付け、受け付けた情報を学習装置2および粒子製造条件設定装置3へ出力する。入力装置5は、キーボード、マウス、マイク、タッチパネル等のユーザインタフェースを用いて構成される。
【0033】
〔学習装置の機能構成〕
次に、上記した学習装置2の機能構成について説明する。
図2は、学習装置2の機能構成を示すブロック図である。
図2に示す学習装置2は、抽出部21と、学習部22と、記憶部23と、制御部24と、を備える。
【0034】
抽出部21は、記憶部23が記憶するデータから、既知のポリマー粒子を構成する粒子製造条件の少なくとも1つと、既知のポリマー粒子の粒子特性のうち少なくとも1つと、が対応付く学習用データを抽出する。即ち、抽出部21によって抽出される学習用データは、過去の粒子製造の実績データから、粒子特性が分かっている既知のポリマー粒子のデータである。なお、抽出部21は、記憶部23が記憶するデータから、入力装置5を介して入力される条件に従った学習用データを抽出してもよい。抽出部21が抽出した学習用データセットは、粒子製造条件を説明変数、粒子特性を目的変数とする学習用データとして学習部22による学習モデルの作成に用いられる。
【0035】
ここで、既知のポリマー粒子を構成する粒子製造条件とは、過去に蓄積された、原料の組成比、原料の特性値、および原料の溶液粘度(溶液濃度)を含む原料条件、ならびに撹拌温度、撹拌速度、反応時間を含むプロセス条件である。例えば、原料の組成比とは、既知のポリマー粒子の原料の組成比を重量比で表したデータのことをさし、必要に応じて比率および添加剤比率が含まれる。また、原料の特性値とは、粒子の原料である原料ポリマーの重量平均分子量、МFR、および特定の官能基量が含まれる。また、粒子特性とは、収率、粒子径、粒径分布、およびその他の物性値(例えば、硬度、膨潤率および真球度等)である。
【0036】
学習部22は、抽出部21が抽出した学習用データを用いて機械学習を行って学習モデルを生成する。学習部22が行う機械学習は、公知の機械学習方法を採用することができる。機械学習に採用される統計モデルとしては、例えば、単純線形回帰モデル、Ridge回帰、Lasso回帰、Elastic Net回帰、一般加法モデル、ランダムフォレスト回帰、ルールフィット回帰、勾配ブースティング木、エクストラツリー、サポートベクトル回帰、ガウス過程回帰、k最近傍法による回帰、カーネルリッジ回帰、ニューラルネットワーク等が挙げられる。また、事前に別の学習用データに対して作成された学習モデルを、抽出部21が抽出した学習用データに対して再学習させる、いわゆる転移学習を実行してもよい。
【0037】
例えば、学習部22は、正則化を用いた機械学習によって学習モデルを生成する場合、学習モデルのハイパーパラメータの候補値を複数与え、与えられたハイパーパラメータの候補値のそれぞれに対して学習を実行し、一つの目的変数(粒子特性のうち少なくとも1つ)について、一つの学習モデルを生成し、この学習モデルを記憶部23に記憶(格納)する。その後、学習部22は、各候補値によって機械学習して得た複数の学習モデルに対し、学習用データを用いて、交差検証またはホールドアウト検証による予測誤差を算出し、最小の予測誤差を与える学習モデルを選択する。なお、ここでいうハイパーパラメータは、学習部22が学習を行うためにあらかじめ設定しておくパラメータであり、例えば正則化の係数などを含む。また、ニューラルネットワークを用いた学習モデルの場合のハイパーパラメータには、ニューラルネットワークの層の数なども含まれる。
【0038】
記憶部23は、各種プログラム等があらかじめインストールしたROM(Read Only Memory)、および各処理の演算パラメータやデータ等を記憶するRAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等を用いて構成される。各種プログラムは、HDD、フラッシュメモリ、CD-ROM、DVD-ROM、Blu-ray(登録商標)等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して広く流通させることも可能である。ここでいう通信ネットワークは、例えば既存の公衆回線網、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)等を用いて構成されるものであり、有線、無線を問わない。
【0039】
制御部24は、学習装置2を構成する各部の動作を統括的に制御する。制御部24は、メモリと、CPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウェアを有するプロセッサを用いて構成される。制御部24は、記憶部23から各種プログラムをメモリの作業領域に読み出して実行し、プロセッサによるプログラムの実行を通じて各構成部等を制御することによって、ハードウェアとソフトウェアとが協働し、学習装置2の各部の動作を生成する。
【0040】
〔粒子製造条件設定装置の機能構成〕
次に、粒子製造条件設定装置3の機能構成について説明する。
図3は、粒子製造条件設定装置3の機能構成を示すブロック図である。
図3に示す粒子製造条件設定装置3は、入力部31と、設定部32と、記憶部33と、制御部34と、を備える。
【0041】
入力部31は、学習装置2から既知のポリマー粒子の粒子製造条件のうち少なくとも1つを説明変数、この既知のポリマー粒子の粒子特性のうち少なくとも1つを目的変数とする機械学習によって生成された学習モデルを取得し、この取得した学習モデルに対して、設定対象の複数の粒子製造条件の候補をそれぞれ入力する。具体的には、入力部31は、ポリマー粒子の複数の粒子特性それぞれを目的変数として生成された複数の学習モデルに対して複数の粒子製造条件をそれぞれ入力する。
【0042】
設定部32は、入力部31が取得した学習モデルが出力する複数の粒子特性のうち、所定の条件に適合する粒子特性を与える粒子製造条件を、適合粒子製造条件として設定する。ここで、粒子特性とは、収率、粒子径、粒径分布、およびその他の物性値が含まれる。さらに、複数の粒子製造条件は、対象となる説明変数ごとに取り得る値の範囲が設定されている。このため、設定部32は、複数の粒子製造条件の少なくとも一部を用いて適合粒子製造条件を設定する。設定部32は、共通の粒子製造条件に対して複数の学習モデルが出力した粒子特性の組み合わせが所定の条件に適合する粒子製造条件を適合粒子製造条件として設定する。
【0043】
記憶部33は、粒子製造条件設定装置3を動作させるための各種プログラム、および粒子製造条件設定装置3の動作に必要な各種パラメータ等を含むデータを記憶する。各種プログラムには、学習モデルを用いて実行される粒子製造条件設定プログラムも含まれる。また、記憶部33は、既知のポリマー粒子を構成する原料における複数の粒子製造条件を記憶する。この複数の粒子製造条件は、制御部34の制御のもと、学習装置2と同期をとって更新してもよい。記憶部33は、各種プログラム等があらかじめインストールされたROM、および各処理の演算パラメータやデータ等を記憶するRAM、HDD、SSD等を用いて構成される。各種プログラムは、HDD、フラッシュメモリ、CD-ROM、DVD-ROM、Blu-ray(登録商標)等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して広く流通させることも可能である。また、粒子製造条件設定装置3が、通信ネットワークを介して各種プログラムを取得することも可能である。ここでいう通信ネットワークは、例えば既存の公衆回線網、LAN、WAN等を用いて構成されるものであり、有線、無線を問わない。
【0044】
制御部34は、粒子製造条件設定装置3を構成する各部の動作を統括的に制御する。制御部34は、メモリと、CPUまたはFPGA等のハードウェアを有するプロセッサを用いて構成される。制御部34は、記憶部33から各種プログラムをメモリの作業領域に読み出して実行し、プロセッサによるプログラムの実行を通じて各構成部等を制御することによって、ハードウェアとソフトウェアとが協働し、粒子製造条件設定装置3の各部の動作を生成する。また、制御部34は、設定部32によって学習モデルが出力する複数の粒子特性のうち、所定の条件に適合する粒子製造条件を適合粒子製造条件として、算出結果を表示装置4へ表示させる。さらに、制御部34は、設定部32の算出結果に加えて、ポリマー粒子の粒子特性のうち少なくとも1つを表示装置4に表示させてもよい。
【0045】
〔ポリマー粒子の粒子製造工程の概要〕
次に、学習装置2が学習用データセットに用いるポリマー粒子の粒子製造工程の概要について説明する。
図4は、学習装置2が抽出する学習用データセットに用いるポリマー粒子の粒子製造工程における概要を模式的に説明する。
【0046】
図4に示すように、まず、ポリマー粒子の粒子製造(以下、単に「粒子製造」という)では、粒子製造条件の1つである所定の原料条件で原料溶液W1および水W2を撹拌容器装置100に注入する注入工程を行う(ステップS1)。ここで、所定の原料条件には、原料の組成比(原料の配合比率)、溶液の濃度、原料の特性値、および原料の溶液粘度が含まれる。
【0047】
続いて、粒子製造では、撹拌容器装置100内で原料溶液W1および水W2を、粒子製造条件の1つである所定のプロセス条件で撹拌する撹拌工程を行い(ステップS2)、液滴W3を形成する液滴形成工程を行う(ステップS3)。ここで、所定のプロセス条件には、撹拌温度、撹拌速度、および反応時間が含まれる。
【0048】
その後、粒子製造では、液滴W3内で反応させる液滴内反応工程を行い(ステップS4)、ポリマー粒子を形成する粒子形成工程を行う(ステップS5)。ここで、所定のプロセス条件には、撹拌温度、撹拌速度、および反応時間が含まれる。
【0049】
その後、粒子製造では、ポリマー粒子W4を撹拌容器装置100から回収・乾燥する回収・乾燥工程を行い(ステップS6)、ポリマー粒子を取得する取得工程を行う(ステップS7)。
【0050】
学習装置2は、上記のような粒子製造によって記憶部23に記憶された過去の実績データから、学習用データセットとして、既知のポリマー粒子を構成する粒子製造条件のうち少なくとも1つを説明変数とし、既知のポリマー粒子の粒子特性のうち少なくとも1つを目的変数と、を組とする学習用データセットを抽出する。具体的には、学習装置2は、既知のポリマー粒子を構成する原料の組成比(配合比率)、原料の特性値、および原料の溶液粘度(溶液濃度)を含む原料条件、ならびに撹拌温度、撹拌速度、反応時間を含むプロセス条件のうち少なくとも1つを説明変数とし、この既知のポリマー粒子の収率、粒子径、粒径分布、およびその他の物性値のうち少なくとも1つを目的変数とする学習用データを用いて機械学習を実行することにより学習モデルを生成する。
【0051】
また、上記した学習データセットにおける1つの目的変数の粒径分布は、既知のポリマー粒子の粒径分布を、1つまたは複数の互いに異なる確率分布の足し合わせとして近似することで、それぞれの確率分布に固有のパラメータと、それぞれの確率分布の強度比と、をそれぞれ目的変数として予測することができる。
【0052】
また、上記した確率分布としては、例えばγ分布、β分布、t分布、F分布、χ2分布、正規分布などが挙げられる。
【0053】
以下、2つの正規分布を重ね合わせた場合を例に説明する。2つの正規分布を重ね合わせた場合、6つのパラメータそれぞれに分けて予測することができる。
【0054】
図5は、粒径および度数との関係を示す図である。
図5において、横軸は、粒径/μmを示し、縦軸が度数/%を示す。また、
図5において、曲線L1がNormal1の正規分布(以下、単に「正規分布1」という)を示し、曲線L2がNormal2の正規分布(以下、単に「正規分布2」という)を示し、曲線L3が正規分布1および正規分布2を重ね合わせたTotalの分布を示す。
【0055】
図5に示すように、学習装置2は、既知ポリマー粒子の粒径分布から2つの正規分布1,2を重ね合わせた場合、粒径分布Ρ(x)を、6つのパラメータと、以下の式(1)と、を用いて計算する。
【数1】
ここで、w
1,w
2は
、正規分布1,2の強度比を示し、μ
1,μ
2は、正規分布1,2の平均値を示し、σ
1,σ
2は、正規分布1,2の標準偏差を示す。
【0056】
具体的には、まず、学習装置2は、目的変数の計算(フィッティングによるパラメータ計算)として、既知のポリマー粒子の粒径分布から、2つの正規分布1,2を表す各パラメータ(w1~σ2)を計算する。
【0057】
続いて、学習装置2は、予測モデル作成として、既知のポリマー粒子の各パラメータに対して、粒子製造条件を説明変数とし、各パラメータを目的変数とする複数の予測モデルを作成(構築)する。
【0058】
その後、学習装置2は、粒径分布の予測として、粒子製造条件毎に各パラメータの予測値(特性値)を算出し、各パラメータの各予測値を合わせて1つの粒径分布Ρ(x)を式(1)によって計算する。
【0059】
このように学習装置2は、粒径分布を6つのパラメータそれぞれに分けてそれぞれ予測した各予測値を粒径分布の目的変数として生成する。
【0060】
〔粒子製造条件設定処理の概要〕
次に、粒子製造条件設定装置3が実行する粒子製造条件設定処理の概要について
図3および
図6を参照して説明する。
図3は、本発明の実施形態1に係る粒子製造条件設定システムが備える粒子製造条件設定装置の構成を示すブロック図である。
図6は、粒子製造条件設定装置3が実行する粒子製造条件設定処理の概要を説明するための図である。
【0061】
図3および
図6に示すように、粒子製造条件設定装置3は、学習装置2および表示装置4と電気的に接続されている。粒子製造条件設定装置3は、入力部31、設定部32、記憶部33および制御部34を有する。
【0062】
粒子製造条件設定装置3は、粒子製造条件のうち少なくとも1つと、学習装置2から取得した学習モデルと、を用いて、条件に適した粒子特性値(予測値)を有する適合粒子製造条件を設定する。
【0063】
設定部32は、学習装置2から学習モデルを取得する。設定部32は、この学習モデルを用いて、ポリマー粒子の粒子製造条件候補IPから粒子特性(予測値)OPをそれぞれ出力する。各粒子製造条件候補IP(粒子製造条件候補1~m)は、ポリマー粒子の粒子製造条件候補である。予測値OPは、粒子製造条件候補1~mから生成される粒子特性(予測値)1~mである。設定部32は、設定入力された粒子特性に適した予測値を抽出し、該抽出した粒子製造条件候補を適合粒子製造条件に設定する。なお、この際に設定する適合粒子製造条件は、予測値が条件を満たす複数の粒子製造条件のうち最も好適な一つの粒子製造条件であってもよいし、予測値が条件を満たす複数の粒子製造条件であってもよい。
【0064】
また、適合粒子製造条件の探索は、所定の条件に適合する1つ以上の粒子特性が、最も好ましい値になった状態となることである。具体的には、実施形態1では、例えば、粒子特性として、収率の場合、最大化することと同義である。また、実施形態1では、粒子径、粒径分布のように好ましい範囲がある場合には、その範囲内に粒子特性(予測値)が収まることである。即ち、設定部32は、目的変数に対する予測値が最も好ましい値を示す粒子製造条件候補を適合粒子製造条件として設定する。
【0065】
また、適合粒子製造条件を得るための具体的な探索方法としては、原料の組成比、原料の特性値、および原料の溶液粘度を含む原料条件、ならびに撹拌温度、撹拌速度、反応時間を含むプロセス条件から製造条件候補を網羅的に算出し、学習モデルを用いて、収率、粒子径、粒径分布、およびその他の物性値を含む粒子特性(予測値)を算出し、この算出結果から粒子特性(予測値)が所定の条件を満たす粒子製造条件を選定するグリッドサーチ法等が挙げられる。さらに、他の探索方向としては、予め探索回数の上限を決めてランダムに粒子製造条件候補を算出し、粒子特性(予測値)が所定の条件を満たす粒子製造条件を得るランダムサーチ法が挙げられる。また、学習モデルの生成に採用された統計モデルが予測値の誤差や分布を同時に算出できる場合には、予測値の予測誤差が考慮された、予測値平均±予測誤差で表される信頼区間を対象にして蓄積データの極値付近を選択する「活用」と、データ点が少ない空間を選択する「探索」を繰り返すベイズ最適化法を探索方法として用いることができる。
【0066】
〔学習装置による学習処理〕
次に、学習装置2が実行する学習処理について説明する。
図7は、学習装置2が実行する学習処理の概要を示すフローチャートである。
【0067】
図7に示すように、まず、抽出部21は、記憶部23を参照し、学習に用いる学習用データセットを抽出する(ステップS11)。具体的には、抽出部21は、記憶部23に記憶された過去の実績データから、学習用データセットとして、既知のポリマー粒子を構成する粒子製造条件のうち少なくとも1つを説明変数とし、既知のポリマー粒子の粒子特性のうち少なくとも1つを目的変数と、を組とする学習用データセットを抽出する。
【0068】
続いて、学習部22は、抽出部21が抽出した学習用データを用いて機械学習を実行することによって学習モデルを生成する(ステップS12)。この場合、学習部22は、学習モデルを記憶部33に記憶する。ステップS12の後、学習装置2は、本処理を終了する。
【0069】
〔粒子製造条件設定装置による粒子製造条件設定処理〕
次に、粒子製造条件設定装置3が実行する粒子製造条件設定処理について説明する。
図8は、粒子製造条件設定装置3が実行する粒子製造条件設定処理の概要を示すフローチャートである。
【0070】
図8に示すように、まず、入力部31は、学習装置2から学習モデルを取得し(図を参照)、記憶部33を参照して複数の粒子製造条件候補それぞれを学習モデルに入力する(ステップS21)。各粒子製造条件候補が学習モデルに入力されると、それぞれについて予測される粒子特性(予測値)が出力される(
図6を参照)。
【0071】
続いて、設定部32は、各粒子製造条件候補の各予測値から、最適な予測値を選択する(ステップS22)。具体的には、設定部32は、設定されている粒子特性のうち、最適となる予測値を選択する。なお、設定されている条件(ここでは所望の粒子特性)のうち、最適な一つの予測値が選択されるものとして説明するが、設定条件を満たす予測値が複数存在する場合、設定条件を満たすすべての予測値を選択してもよいし、設定条件を満たす予測値の上位数個を選択してもよい。
【0072】
その後、設定部32は、選択された予測値に対応する粒子製造条件候補を、適合粒子製造条件として設定する(ステップS23)。具体的には、設定部32は、共通の粒子製造条件候補に対して学習モデルが出力した粒子特性が所定の条件に適合する粒子製造条件候補を適合粒子製造条件として設定する(
図6を参照)。この場合、制御部34は、設定部32が設定した適合粒子製造条件を表示装置4に出力して表示させる。ステップS23の後、粒子製造条件設定装置3は、本処理を終了する。
【0073】
このように、研究開発および製造担当者は、粒子製造条件設定システム1の粒子製造条件設定装置3が粒子製造条件設定プログラムにより設定した適合粒子製造条件を用いて、ポリマー粒子を製造する。この結果、研究開発および製造担当者は、試行錯誤することなく、所望の特性を有するポリマー粒子を効率的に得ることができる。
【0074】
以上説明した実施形態1によれば、粒子製造条件設定装置3が既知のポリマー粒子の粒子特性のうち少なくとも1つを目的変数とする機械学習によって生成された学習モデルに対して、設定対象の複数の粒子製造条件の候補をそれぞれ入力し、学習モデルが出力する複数の粒子特性のうち、所定の条件に適合する粒子特性を与える粒子製造条件を適合粒子製造条件として設定する。これにより、研究開発および製造担当者が試行錯誤することなく、所望の粒子特性を有するポリマー粒子を効率的に設計することができる。
【0075】
また、実施形態1において、粒子製造条件について、説明変数ごとに取りうる値の範囲を設定してもよい。例えば、原料の組成比の場合、重量比で示された組成比(配合比率)の合計を100とした場合に、各原料の組成比である組成比X1、組成比X2、組成比X3、を用いて以下の範囲に設定する。例えば、X1は20以上60以下、X2は30以上50以下、X3は0以上25以下の範囲に設定される。また、各種の原料の特性値X4、X5、原料の溶液粘度X6は、それぞれ既知のポリマー粒子製造条件を参考に各説明変数の取り得る値の範囲を設定する。例えば一つの粒子製造条件候補を例示すると、(X1,X2,X3,X4,X5,X6)=(40,40,20,4,8,120)のようになる。予測値を算出する際は、この粒子製造条件候補に基づいて構築した学習モデルの説明変数に合致するように、更なる原料の特性値、プロセス条件、などを説明変数として加えてもよい。
【0076】
上記したようにポリマー粒子の粒子製造条件について、変数ごとに取りうる値の範囲を設定することによって、非現実的な粒子製造条件が設定されることを抑制する。
【0077】
(実施形態2)
次に、本実施形態2について説明する。実施形態2では、学習装置が実行する学習処理のみが、上記した実施形態1に係る学習処理と異なり、その他の処理および構成が実施形態1と同様である。このため、実施形態2では、上記した実施形態1に係る粒子製造条件設定システム1と同様の構成には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。さらに、以下においては、実施形態2に係る学習装置が実行する学習処理について説明する。
【0078】
実施形態2では、学習部22は、互いに異なる複数の統計モデルを用いて検証用の学習モデルを生成し、検証用の学習モデルにおける予測値の予測精度が最も良好な統計モデルを抽出し、抽出した統計モデルを用いて学習モデルを生成する。さらに、学習部22は、検証用の学習モデルの精度を評価するための指標(以下、精度評価指標という)として、5分割交差検定における5つの訓練サブセットを用いてそれぞれ生成された検証用の学習モデルと、各検証用の学習モデルにおいて未学習の検証サブセットを用いて計算した5つの決定係数の平均値を用いる。
【0079】
ここで、交差検定とは、学習モデルの未学習データに対する予測性能、つまり汎化性能を評価する手法である。5分割交差検定の場合、訓練データセットを5つのサブセットに分割する。そのうち4つのサブセットを学習用データとして検証用の学習モデルを生成し、1つを未学習の検証サブセットとして、生成した検証用の学習モデルの精度検証に用いる。これを5つのサブセットのうち異なるサブセットを検証サブセットとして5回繰り返すことで、未学習データに対する汎化性能を評価する。
【0080】
実施形態2では、検証用の学習モデルの精度を評価する精度評価指標として、検証用の学習モデルi(i=1~5)の決定係数Ri
2の平均値Rbarを用いる。
Rbar=ΣiRi
2/5 ・・・(2)
ここで、決定係数Riは、以下の式(3)で定義される。また、Σiはiに関する和を意味する。
Ri
2=1-Σj(yj-fi(xj))2/Σj(yj-ybar)2 ・・・(3)
上式(3)において、yjは検証サブセットにおける粒子特性の実測値(j=1~n。nは検証サブセットにおける実測値の数)、fi(xj)はyjと組をなす未学習の粒子製造条件xjを学習モデルiに入力したときに出力される粒子特性(予測値)、ybarは実測値yjの平均値である。また、Σjはjに関する和を意味する。
【0081】
〔学習装置による学習処理〕
次に、学習装置2が実行する学習処理について説明する。
図9は、学習装置2が行う学習処理の概要を示すフローチャートである。
【0082】
図9に示すように、まず、学習装置2は、ステップS11と同様にして、抽出部21が学習に用いる学習用データセットを抽出する(ステップS31)。
【0083】
学習部22は、複数の統計モデルを用いて、サブセットに対して検証用の学習モデルを生成する(ステップS32)。学習部22は、例えば上記した複数の統計モデルから選択される互いに異なる複数の統計モデルを用いて、検証用の学習モデルを生成する。この際に選択される統計モデルは、学習モデルを構築することができるすべての統計モデルを選択してもよいし、予め設定された複数の統計モデルを選択してもよいし、ユーザによって指定された統計モデルを選択してもよい。
【0084】
学習部22は、ステップS32で生成した検証用の学習モデルに対して決定係数を算出し、精度評価指標として複数の決定係数の平均値(ここでは5つの検証用の学習モデルの決定係数Ri
2の平均値Rbar)を算出する(ステップS33)。
【0085】
学習部22は、精度評価指標が最も良好な検証用の学習モデルを生成する際に用いた統計モデルを選択する(ステップS34)。具体的には、学習部22は、決定係数の平均値Rbarを算出し、この算出した平均値Rbarが所定の条件を満たす検証用の学習モデルを与える統計モデルを選択する。例えば、所定の条件として、平均値Rbarが0.5以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましく、0.9以上であることがさらに好ましい。この閾値の値は予め設定されて記憶部23に記憶(格納)されている。学習部22は、この閾値の条件を満たす検証用の学習モデルを与える統計モデルを選択する。なお、閾値の条件を満たす平均値Rbarが複数ある場合には、そのうち最大値を取る統計モデルを選択すればよい。これにより、予測に適した統計モデルによる学習モデルが選択される。なお、決定係数の平均値に替えて、決定係数そのものや、決定係数の最頻値等を用いるようにしてもよい。
また、学習部22が、精度評価指標が所定の条件を満たす統計モデルを抽出し、表示装置4に抽出結果を表示させることによって、ユーザに所望の条件に適合する統計モデルを選択させるようにしてもよい。
【0086】
その後、学習部22は、選択された統計モデルを用いて、上記したステップS31で抽出部21が抽出した学習データセットに対して機械学習を実行することによって学習モデルを生成する(ステップS35)。学習部22は、例えば、上記した
図7に示すステップS12と同様にして、学習モデルを生成する。ステップS35の後、学習装置2は、本処理を終了する。
【0087】
以上説明した実施形態2によれば、複数の統計モデルによって生成された学習モデルのうち、予測精度が高い学習モデルが選択され、この学習モデルによって粒子製造条件が設定されるため、所望の粒子特性を有する粒子製造条件を一層正確に得ることができる。
【0088】
なお、実施形態2では、学習用データの分割時に、外挿領域付近のデータを優先的に割り振った外挿データ用サブセットと残りの学習用サブセットとに分割し、さらに学習用サブセット内で5分割交差検定を行い、学習モデルの精度評価指標として、外挿データ用サブセットに対して計算した決定係数を用いてもよい。これにより、外挿領域の予測に有効な学習モデルを優先して選択することが可能になる。
【0089】
(実施形態3)
次に、本実施形態3について説明する。実施形態3では、上記した実施形態1に係る学習装置2が生成する学習モデルの学習処理(
図7参照)、および粒子製造条件設定装置3が実行する粒子製造条件設定処理(
図8参照)が異なり、その他の処理および構成が実施形態1と同様である。実施形態3では、異なる複数の粒子特性を出力する複数の学習モデルが生成した各粒子特性に対し、入力される条件に適した適合粒子製造条件が設定される。なお、実施形態3では、上記した実施形態1に係る粒子製造条件設定システム1と同様の構成には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0090】
〔学習装置による学習処理の概要〕
学習装置2の学習部22は、目的変数とする粒子特性が互いに異なる複数の学習モデルを生成する。具体的には、学習部22は、目的変数のそれぞれについて、上記した
図7に示す学習処理、または上記した
図9に示す学習処理を個別に実行し、各目的変数の学習モデルを生成する。この場合、学習用データは、各目的変数の学習において共通であることが好ましい。即ち、各粒子特性が対応付いた共通の粒子製造条件候補を説明変数として学習した学習モデルを生成することが好ましい。なお、実施形態3に係る学習装置2による学習処理は、上記した
図7の学習処理および
図9の学習処理と同様のため、詳細な説明は省略する。
【0091】
〔製造条件設定装置による粒子製造条件設定処理〕
次に、粒子製造条件設定装置3が実行する粒子製造条件設定処理について説明する。
図10は、実施形態3に係る粒子製造条件設定装置3が行う粒子製造条件設定処理の概要を示すフローチャートである。なお、粒子製造条件設定装置3は、上記した学習装置2が生成した学習モデルを用いて、適合粒子製造条件を設定する。
【0092】
設定部32は、学習部22が生成した各学習モデルに、共通の粒子製造条件候補を入力して、各粒子特性(予測値)を生成する(ステップS41)。この際、各目的変数の予測値は、同じ粒子製造条件候補が関連付いた組として生成される。
【0093】
その後、設定部32は、各粒子特性が設定条件に適合する予測値の組み合わせを選択する(ステップS42)。例えば、設定部32は、例えば、各粒子特性に対して、各予測値が最適となる組み合わせを選択する。ここで、最適な予測値の組み合わせの選択は、個別のポリマー粒子に求められる粒子特性の組み合わせに左右されるが、一般的に粒子特性同士がトレードオフの関係にある場合には、パレート最適となる組み合せとなる予測値を選択する。
【0094】
続いて、設定部32は、選択された予測値の組み合わせに対応する粒子製造条件候補を、適合粒子製造条件に設定する(ステップS43)。
【0095】
以上説明した実施形態3によれば、複数の粒子特性について所望の特性を満たす粒子製造条件候補を取得する場合であっても、各粒子特性を目的変数とする学習モデルの予測結果から、適合粒子製造条件を取得することができる。
【0096】
(その他の実施形態)
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は、上記した実施形態によってのみ限定されるべきものではない。例えば、粒子製造条件設定装置が学習部の機能を備えてもよい。この場合、粒子製造条件設定装置は、設定対象の目的変数を生成することに加え、学習モデルを逐次更新する。
【符号の説明】
【0097】
1 粒子製造条件設定システム
2 学習装置
3 粒子製造条件設定装置
4 表示装置
5 入力装置
21 抽出部
22 学習部
23、33 記憶部
24、34 制御部
31 入力部
32 設定部