(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152954
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】熱伝導性シート、熱伝導性シートの製造方法及び熱伝導性シートの表面の平滑度の検査方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20231005BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20231005BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20231005BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H01L23/36 M
H05K7/20 F
C08J5/18 CFH
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053590
(22)【出願日】2023-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2022058413
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 信博
(74)【代理人】
【識別番号】100185845
【弁理士】
【氏名又は名称】穂谷野 聡
(72)【発明者】
【氏名】太田 栄治
(72)【発明者】
【氏名】戸端 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】武笠 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】久保 佑介
(72)【発明者】
【氏名】森 大地
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 義知
【テーマコード(参考)】
4F071
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
4F071AA67
4F071AB03
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5E322AA11
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5F136FA63
5F136FA88
5F136GA12
5F136GA40
(57)【要約】
【課題】全熱抵抗値が低減された熱伝導性シートを提供する。
【解決手段】熱伝導性シート1は、異方性熱伝導材料3と、無機フィラー4と、バインダ樹脂2とを含む熱伝導性組成物の硬化物からなる。熱伝導性シート1は、SCI方式における、表面の波長400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各範囲における平均反射率(R
SCI)と、SCE方式における、表面の400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各波長範囲における平均反射率(R
SCE)との差分(R
SCI-R
SCE)であるΔR
400-500nm、ΔR
500-600nm及びΔR
600-700nmのうち少なくともΔR
500-600nm及びΔR
600-700nmの少なくとも一方が0.1%以上である。また、熱伝導性シート1は、ΔR
600-700nmに対するΔR
500-600nmの比(ΔR
600-700nm/ΔR
500-600nm)が93%以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異方性熱伝導材料と、無機フィラーと、バインダ樹脂とを含む熱伝導性組成物の硬化物からなる熱伝導性シートであって、
SCI(Specular Component Include)方式における、表面の波長400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各範囲における平均反射率(RSCI)と、SCE(Specular Component Exclude)方式における、表面の400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各波長範囲における平均反射率(RSCE)との差分(RSCI-RSCE)であるΔR400-500nm、ΔR500-600nm及びΔR600-700nmのうち少なくともΔR500-600nm及びΔR600-700nmの少なくとも一方が0.1%以上であり、かつ、
上記ΔR600-700nmに対する、上記ΔR500-600nmの比(ΔR600-700nm/ΔR500-600nm)が93%以上である、熱伝導性シート。
【請求項2】
厚みを0.3mmとしたときに、荷重0.7kgf/cm2における全熱抵抗値が0.300℃・cm2/W以下である、請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
厚みを1.0mmとしたときに、荷重0.7kgf/cm2における全熱抵抗値が0.312℃・cm2/W以下である、請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
厚みを2.0mmとしたときに、荷重0.7kgf/cm2における全熱抵抗値が0.502℃・cm2/W以下である、請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項5】
上記異方性熱伝導材料が厚み方向に配向する、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項6】
上記異方性熱伝導材料が炭素繊維である、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項7】
上記ΔR400-500nm、ΔR500-600nm及びΔR600-700nmが0.1%以上である、請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項8】
異方性熱伝導材料と、無機フィラーと、バインダ樹脂とを含む熱伝導性組成物を所定の形状に成型して硬化させ、熱伝導性成形体を形成する工程と、
上記熱伝導性成形体をシート状にスライスしてシート状成形体を得る工程と、
上記シート状成形体表面を研磨して熱伝導性シートを形成する工程とを有し、
上記熱伝導性シートを形成する工程では、上記熱伝導性シート表面が以下の条件1及び条件2を満たすように、上記シート状成形体表面を研磨する、熱伝導性シートの製造方法。
条件1:SCI(Specular Component Include)方式における、表面の波長400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各範囲における平均反射率(RSCI)と、SCE(Specular Component Exclude)方式における、表面の400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各波長範囲における平均反射率(RSCE)との差分(RSCI-RSCE)であるΔR400-500nm、ΔR500-600nm及びΔR600-700nmのうち少なくともΔR500-600nm及びΔR600-700nmの少なくとも一方が0.1%以上である。
条件2:上記ΔR600-700nmに対する、上記ΔR500-600nmの比(ΔR600-700nm/ΔR500-600nm)が93%以上である。
【請求項9】
上記ΔR400-500nm、ΔR500-600nm及びΔR600-700nmが0.1%以上である、請求項8に記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか1項に記載の熱伝導性シートを備える、電子機器。
【請求項11】
SCI(Specular Component Include)方式による、熱伝導性シートの表面の波長400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各範囲における平均反射率(RSCI)と、SCE(Specular Component Exclude)方式による、上記熱伝導性シートの表面の400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各波長範囲における平均反射率(RSCE)とを測定し、それらの差分(RSCI-RSCE)であるΔR400-500nm、ΔR500-600nm及びΔR600-700nmを求めることと、
上記ΔR600-700nmに対する、上記ΔR500-600nmの比(ΔR600-700nm/ΔR500-600nm)を求めることにより、上記熱伝導性シートの表面の平滑度を検査する、熱伝導性シートの表面の平滑度の検査方法。
【請求項12】
上記熱伝導性シートが、異方性熱伝導材料と、無機フィラーと、バインダ樹脂とを含む熱伝導性樹脂組成物からなる、請求項11に記載の検査方法。
【請求項13】
異方性熱伝導材料と、無機フィラーと、バインダ樹脂とを含む熱伝導性組成物を所定の形状に成型して硬化させ、熱伝導性成形体を形成する工程と、
上記熱伝導性成形体をシート状にスライスしてシート状成形体を得る工程と、
SCI(Specular Component Include)方式による、上記シート状成形体の表面の波長400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各範囲における平均反射率(RSCI)と、SCE(Specular Component Exclude)方式による、上記シート状成形体の表面の400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各波長範囲における平均反射率(RSCE)とを測定し、それらの差分(RSCI-RSCE)であるΔR400-500nm、ΔR500-600nm及びΔR600-700nmを求めることと、上記ΔR600-700nmに対する上記ΔR500-600nmの比(ΔR600-700nm/ΔR500-600nm)を求めることにより、上記シート状成形体の表面の平滑度を検査する工程とを有する、熱伝導性シートの製造方法。
【請求項14】
上記シート状成形体をプレスする工程をさらに有する、請求項13に記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項15】
上記シート状成形体表面を研磨する工程をさらに有する、請求項13又は14に記載の熱伝導性シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、熱伝導性シート、熱伝導性シートの製造方法及び熱伝導性シートの表面の平滑度の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の更なる高性能化により、半導体素子の高密度化、高実装化が進んでいる。それと比例して、IC(Integrated Circuit)等からの発熱量、発熱密度も増大する傾向にあり、より効率的に熱伝導性シートを介して放熱フィン、放熱板等の放熱部材に熱を伝達することが求められる。また、電子機器は、小型化、薄型化が急速に進んでおり、必要とされる熱伝導性シートの厚みも薄くなる傾向にあり、より低熱抵抗なものが求められている。このような要求を満たす熱伝導性シートとしては、異方性熱伝導材料を用いた熱伝導性シートが挙げられる(例えば、特許文献1~4を参照)。異方性熱伝導材料の一例である炭素繊維は、繊維方向に約600~1200W/(m・K)の熱伝導率を有する異方性フィラーである。炭素繊維の繊維方向を、熱の伝達方向である熱伝導性シートの厚み方向に配向させることによって、熱伝導性が飛躍的に向上することが知られている。この他、窒化ホウ素などの異方性フィラーも同様に注目されている。
【0003】
炭素繊維を配向した熱伝導性シートを用いて低熱抵抗化を実現するには、熱伝導性シートの接触熱抵抗を考慮することも重要である。しかし、高熱伝導の炭素繊維であっても、熱伝導性シート全体から見れば、被着体と炭素繊維との接触は点接触であり、圧力により炭素繊維がバインダ樹脂内に沈み込むとしても、熱伝導性シートと被着体との間にエアーが混入してしまい、熱伝導性シートと被着体とが密着しにくい課題がある。
【0004】
また、使用される熱伝導性シートが薄くなるにつれて、熱伝導性シートと、被着体との間に生じる接触熱抵抗の寄与が大きくなる傾向にある。接触熱抵抗とは、熱伝導シートと被着体の間に生じる熱抵抗である。特に、炭素繊維のような異方性熱伝導材料が厚み方向に配向した熱伝導性シートは、厚みが薄くなるほど、接触熱抵抗が大きくなる傾向があり、結果として、全熱抵抗値(熱伝導性シートそのものが有する熱抵抗値に接触熱抵抗値を加えたもの)も大きくなりやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許5752299号
【特許文献2】特許4814550号
【特許文献3】特許6650175号
【特許文献4】国際公開第2020/067141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本技術は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、全熱抵抗値が低減された熱伝導性シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、鋭意検討の結果、異方性熱伝導材料と、無機フィラーと、バインダ樹脂とを含む熱伝導性シートについて、SCI(Specular Component Include)方式における、表面の特定の波長範囲における平均反射率と、SCE(Specular Component Exclude)方式における、表面の特定の波長範囲における平均反射率との差分が所定値以上であり、かつ、SCI方式とSCE方式における、表面の特定の波長範囲における平均反射率の差分に対する、SCI方式とSCE方式における、表面の特定の波長範囲における平均反射率の差分の比が所定値以上であることにより、上述した課題を解決できることを見出した。
【0008】
本技術は、異方性熱伝導材料と、無機フィラーと、バインダ樹脂とを含む熱伝導性組成物の硬化物からなる熱伝導性シートであって、SCI方式における、表面の波長400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各範囲における平均反射率(RSCI)と、SCE方式における、表面の400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各波長範囲における平均反射率(RSCE)との差分(RSCI-RSCE)であるΔR400-500nm、ΔR500-600nm及びΔR600-700nmのうち少なくともΔR500-600nm及びΔR600-700nmの少なくとも一方が0.1%以上であり、かつ、ΔR600-700nmに対するΔR500-600nmの比(ΔR600-700nm/ΔR500-600nm)が93%以上である。
【0009】
本技術に係る熱伝導性シートの製造方法は、異方性熱伝導材料と、無機フィラーと、バインダ樹脂に異方性熱伝導材料が含有された熱伝導性組成物を所定の形状に成型して硬化させ、熱伝導性成形体を形成する工程と、熱伝導性成形体をシート状にスライスしてシート状成形体を得る工程と、シート状成形体表面を研磨して熱伝導性シートを形成する工程とを有し、熱伝導性シートを形成する工程では、熱伝導性シート表面が以下の条件1及び条件2を満たすように、シート状成形体表面を研磨する。
条件1:SCI方式における、表面の波長400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各範囲における平均反射率(RSCI)と、SCE方式における、表面の400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各波長範囲における平均反射率(RSCE)との差分(RSCI-RSCE)であるΔR400-500nm、ΔR500-600nm及びΔR600-700nmのうち少なくともΔR500-600nm及びΔR600-700nmの少なくとも一方が0.1%以上である。
条件2:ΔR600-700nmに対するΔR500-600nmの比(ΔR600-700nm/ΔR500-600nm)が93%以上である。
【0010】
本技術に係る熱伝導性シートの表面の平滑度の検査方法は、SCI方式による、熱伝導性シートの表面の波長400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各範囲における平均反射率(RSCI)と、SCE方式による、熱伝導性シートの表面の400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各波長範囲における平均反射率(RSCE)とを測定し、それらの差分(RSCI-RSCE)を求めることと、ΔR600-700nmに対する、ΔR500-600nmの比(ΔR600-700nm/ΔR500-600nm)を求めることにより、熱伝導性シートの表面の平滑度を検査する。
【0011】
本技術に係る熱伝導性シートの製造方法は、異方性熱伝導材料と、無機フィラーと、バインダ樹脂とを含む熱伝導性組成物を所定の形状に成型して硬化させ、熱伝導性成形体を形成する工程と、熱伝導性成形体をシート状にスライスしてシート状成形体を得る工程と、SCI方式による、シート状成形体の表面の波長400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各範囲における平均反射率(RSCI)と、SCE方式による、シート状成形体の表面の400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各波長範囲における平均反射率(RSCE)とを測定し、それらの差分(RSCI-RSCE)であるΔR400-500nm、ΔR500-600nm及びΔR600-700nmを求めることと、ΔR600-700nmに対するΔR500-600nmの比(ΔR600-700nm/ΔR500-600nm)を求めることにより、シート状成形体の表面の平滑度を検査する工程とを有する。
【発明の効果】
【0012】
本技術は、全熱抵抗値が低減された熱伝導性シートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、熱伝導性シートの一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、熱伝導性シートの表面の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、研磨部材の一例であるブラシの斜視図である。
【
図4】
図4は、シート状成形体の表面をブラシで研磨する方法の一例を説明するための斜視図である。
【
図5】
図5は、複数のシート状成形体の表面を連続してブラシで研磨する方法の一例を説明するための斜視図である。
【
図6】
図6は、熱伝導性シートを適用した半導体装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、平均粒子径(D50)とは、粒子径分布全体を100%とした場合に、粒子径分布の小粒子径側から粒子径の値の累積カーブを求めたとき、その累積値が50%となるときの粒子径をいう。なお、本明細書における粒度分布(粒子径分布)は、体積基準によって求められたものである。粒度分布の測定方法としては、例えば、レーザー回折型粒度分布測定機を用いる方法が挙げられる。
【0015】
<熱伝導性シート>
図1は、本技術に係る熱伝導性シート1の一例を示す断面図である。熱伝導性シート1は、バインダ樹脂2と、異方性熱伝導材料3と、異方性熱伝導材料3以外の無機フィラー4とを含む熱伝導性組成物の硬化物からなる。熱伝導性シート1は、異方性熱伝導材料3と無機フィラー4とがバインダ樹脂2に分散しており、異方性熱伝導材料3が熱伝導性シート1の厚み方向Bに配向していることが好ましい。ここで、熱伝導性シート1の厚み方向Bに異方性熱伝導材料3が配向しているとは、例えば、熱伝導性シート1中の全ての異方性熱伝導材料3のうち、熱伝導性シート1の厚み方向Bに長軸が配向している異方性熱伝導材料3の割合が50%以上であり、55%以上であってもよく、60%以上であってもよく、65%以上であってもよく、70%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよく、95%以上であってもよく、99%以上であってもよい。異方性熱伝導材料3の長軸が熱伝導性シート1の厚み方向Bに配向しているとは、例えば、異方性熱伝導材料3の長軸が、熱伝導性シート1の面方向Aに対して60~120度の範囲であってもよく、70~100度の範囲であってもよく、90度(略垂直)であってもよい。
【0016】
本技術に係る熱伝導性シート1は、以下の条件1,2を満たす。
【0017】
条件1:SCI方式における、表面の波長400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各範囲における平均反射率(RSCI)と、SCE方式における、表面の400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各波長範囲における平均反射率(RSCE)との差分(RSCI-RSCE)であるΔR400-500nm、ΔR500-600nm及びΔR600-700nmのうち少なくともΔR500-600nm及びΔR600-700nmの少なくとも一方が0.1%以上である。
【0018】
条件2:ΔR600-700nmに対するΔR500-600nmの比(ΔR600-700nm/ΔR500-600nm)が93%以上である。
【0019】
熱伝導性シート1が条件1,2を満たすことにより、熱伝導性シート1の表面(表層)がより平滑化される傾向にあり、熱伝導性シート1と被着体との接触面積が増大し、熱伝導性シート1と被着体との間にエアーが混入することが抑制されるため、接触熱抵抗を低減でき、結果として、全熱抵抗値を低減できる。
【0020】
熱伝導性シートの表面(表層)が粗くなるほど、例えば波長400~700nmの範囲において、長波長の光が熱伝導性シートの表面の凹凸内に入り込んで拡散反射されやすい傾向にある。一方、熱伝導性シートの表面(表層)が平滑化されるほど、例えば波長400~700nmの範囲において、長波長の光が熱伝導性シートの表面の凹凸内に入り込まず、正反射光成分が増加する傾向にある。したがって、熱伝導性シートの表面が平滑化されるほど、条件1,2を満たしやすい傾向にある。
【0021】
以下、熱伝導性シート1が満たす条件1,2について説明する。なお、条件1,2に関する反射率は、後述する実施例の方法で測定することができる。
【0022】
<条件1>
熱伝導性シート1は、ΔR400-500nm、すなわち、SCI方式における、表面の波長400~500nmの範囲における平均反射率(RSCI(400-500nm))と、SCE方式における、表面の400~500nmの範囲における平均反射率(RSCE(400-500nm))との差分と、ΔR500-600nm、すなわち、SCI方式における、表面の波長500~600nmの範囲における平均反射率(RSCI(500-600nm))と、SCE方式における、表面の500~600nmの範囲における平均反射率(RSCE(500-600nm))との差分と、ΔR600-700nm、すなわち、SCI方式における、表面の波長600~700nmの範囲における平均反射率(RSCI(600-700nm))と、SCE方式における、表面の600~700nmの範囲における平均反射率(RSCE(600-700nm))との差分のうち、少なくともΔR500-600nm及びΔR600-700nmの少なくとも一方が0.1%以上であればよく、ΔR500-600nm及びΔR600-700nmが0.1%以上であってもよく、ΔR400-500nm及びΔR500-600nmが0.1%以上であってもよく、ΔR400-500nm及びΔR600-700nmが0.1%以上であってもよく、ΔR400-500nm、ΔR500-600nm及びΔR600-700nmが0.1%以上であってもよい。
【0023】
<ΔR400-500nm>
熱伝導性シート1は、ΔR400-500nmが0.155%以上であってもよく、0.163%以上であってもよく、0.165%以上であってもよく、0.166%以上であってもよく、0.206%以上であってもよく、0.228%以上であってもよく、0.259%以上であってもよく、0.268%以上であってもよく、0.345%以上であってもよく、0.359%以上であってもよく、0.426%以上であってもよく、0.433%以上であってもよく、0.553%以上であってもよい。熱伝導性シート1のΔR400-500nmの上限値は、特に限定されないが、例えば、0.900%以下とすることができ、0.685%以下であってもよく、0.611%以下であってもよい。
【0024】
<ΔR500-600nm>
熱伝導性シート1は、ΔR500-600nmが0.125%以上であってもよく、0.137%以上であってもよく、0.141%以上であってもよく、0.158%以上であってもよく、0.189%以上であってもよく、0.219%以上であってもよく、0.241%以上であってもよく、0.243%以上であってもよく、0.303%以上であってもよく、0.316%以上であってもよく、0.381%以上であってもよく、0.393%以上であってもよく、0.505%以上であってもよい。熱伝導性シート1のΔR500-600nmの上限値は、特に限定されないが、例えば、0.900%以下とすることができ、0.630%以下であってもよく、0.554%以下であってもよい。
【0025】
<ΔR600-700nm>
熱伝導性シート1は、ΔR600-700nmが0.120%以上であってもよく、0.129%以上であってもよく、0.132%以上であってもよく、0.154%以上であってもよく、0.189%以上であってもよく、0.225%以上であってもよく、0.245%以上であってもよく、0.295%以上であってもよく、0.372%以上であってもよく、0.384%以上であってもよく、0.483%以上であってもよい。熱伝導性シート1のΔR600-700nmの上限値は、特に限定されないが、例えば、0.900%以下とすることができ、0.612%以下であってもよく、0.546%以下であってもよい。
【0026】
<RSCI(400-500nm)>
熱伝導性シート1は、RSCI(400-500nm)が9.602%以下であってもよく、8.616%以下であってもよく、8.491%以下であってもよく、8.379%以下であってもよく、8.291%以下であってもよく、8.229%以下であってもよく、8.229%以下であってもよく、8.124%以下であってもよく、8.064%以下であってもよく、8.019%以下であってもよく、7.879%以下であってもよく、7.774%以下であってもよく、7.689%以下であってもよく、7.498%以下であってもよく、7.272%以下であってもよい。熱伝導性シート1のRSCI(400-500nm)の下限値は、特に限定されないが、例えば、7.113%以上であってもよい。
【0027】
<RSCI(500-600nm)>
熱伝導性シート1は、RSCI(500-600nm)が9.198%以下であってもよく、8.290%以下であってもよく、8.284%以下であってもよく、8.214%以下であってもよく、8.065%以下であってもよく、8.030%以下であってもよく、7.995%以下であってもよく、7.930%以下であってもよく、7.784%以下であってもよく、7.605%以下であってもよく、7.472%以下であってもよく、7.454%以下であってもよく、7.259%以下であってもよく、7.052%以下であってもよい。熱伝導性シート1のRSCI(500-600nm)の下限値は、特に限定されないが、例えば、6.891%以上であってもよい。
【0028】
<RSCI(600-700nm)>
熱伝導性シート1は、RSCI(600-700nm)が8.930%以下であってもよく、8.393%以下であってもよく、8.210%以下であってもよく、8.095%以下であってもよく、8.084%以下であってもよく、8.060%以下であってもよく、7.975%以下であってもよく、7.922%以下であってもよく、7.703%以下であってもよく、7.460%以下であってもよく、7.386%以下であってもよく、7.338%以下であってもよく、7.122%以下であってもよく、6.968%以下であってもよい。熱伝導性シート1のRSCI(600-700nm)の下限値は、特に限定されないが、例えば、6.789%以上であってもよい。
【0029】
<RSCE(400-500nm)>
熱伝導性シート1は、RSCE(400-500nm)が9.243%以下であってもよく、8.125%以下であってもよく、8.111%以下であってもよく、8.064%以下であってもよく、7.970%以下であってもよく、7.917%以下であってもよく、7.880%以下であってもよく、7.865%以下であってもよく、7.835%以下であってもよく、7.714%以下であってもよく、7.611%以下であってもよく、7.256%以下であってもよく、6.926%以下であってもよく、6.814%以下であってもよい。熱伝導性シート1のRSCE(400-500nm)の下限値は、特に限定されないが、例えば、6.686%以上であってもよい。
【0030】
<RSCE(500-600nm)>
熱伝導性シート1は、RSCE(500-600nm)が8.882%以下であってもよく、7.973%以下であってもよく、7.822%以下であってもよく、7.889%以下であってもよく、7.805%以下であってもよく、7.785%以下であってもよく、7.711%以下であってもよく、7.646%以下であってもよく、7.447%以下であってもよく、7.347%以下であってもよく、7.330%以下であってもよく、7.061%以下であってもよく、6.749%以下であってもよく、6.629%以下であってもよい。熱伝導性シート1のRSCE(500-600nm)の下限値は、特に限定されないが、例えば、6.510%以上であってもよい。
【0031】
<RSCE(600-700nm)>
熱伝導性シート1は、RSCE(600-700nm)が8.635%以下であってもよく、7.965%以下であってもよく、7.871%以下であってもよく、7.851%以下であってもよく、7.847%以下であってもよく、7.790%以下であってもよく、7.751%以下であってもよく、7.574%以下であってもよく、7.601%以下であってもよく、7.306%以下であってもよく、7.266%以下であってもよく、6.955%以下であってもよく、6.510%以下であってもよく、6.674%以下であってもよい。熱伝導性シート1のRSCE(600-700nm)の下限値は、特に限定されないが、例えば、6.417%以上であってもよい。
【0032】
<条件2>
熱伝導性シート1は、ΔR600-700nm/ΔR500-600nmが93%以上であり、93.4%以上であってもよく、93.5%以上であってもよく、94.0%以上であってもよく、95.7%以上であってもよく、96.0%以上であってもよく、97.1%以上であってもよく、97.3%以上であってもよく、97.6%以上であってもよく、97.7%以上であってもよく、98.6%以上であってもよく、100.0%以上であってもよく、100.7%以上であってもよく、101.5%以上であってもよい。熱伝導性シート1のΔR600-700nm/ΔR500-600nmの上限値は、特に限定されないが、例えば、102.5%以下であってもよい。
【0033】
<全熱抵抗値>
熱伝導性シート1は、ASTM-D5470に従って測定される0.7kgf/cm2加圧時の全熱抵抗値が低いほど好ましい。熱伝導性シート1の全熱抵抗値は、後述する実施例の方法で測定することができる。熱伝導性シート1は、例えば、厚みを0.3mmとしたときに、0.7kgf/cm2加圧時の全熱抵抗値が0.300℃・cm2/W以下であってもよく、0.250℃・cm2/W以下であってもよく、0.227℃・cm2/W以下であってもよく、0.221℃・cm2/W以下であってもよく、0.220℃・cm2/W以下であってもよく、0.218℃・cm2/W以下であってもよく、0.214℃・cm2/W以下であってもよく、0.202℃・cm2/W以下であってもよく、0.175℃・cm2/W以下であってもよく、0.164℃・cm2/W以下であってもよい。熱伝導性シート1は、厚みを1.0mmとしたときに、荷重0.7kgf/cm2における全熱抵抗値が0.312℃・cm2/W以下であってもよい。また、熱伝導性シート1は、厚みを2.0mmとしたときに、荷重0.7kgf/cm2における全熱抵抗値が0.502℃・cm2/W以下であってもよい。熱伝導性シート1の0.7kgf/cm2加圧時の全熱抵抗値の下限値は、特に限定されず、より低い値であることが好ましく、0℃・cm2/Wを超え、例えば0.05℃・cm2/W以上となり得る。熱伝導性シート1は、厚みを0.3mmとしたときに、0.7kgf/cm2加圧時の全熱抵抗値が、0.175~0.250℃・cm2/Wの範囲であってもよい。
【0034】
熱伝導性シート1は、ASTM-D5470に従って測定される2.1kgf/cm2加圧時の全熱抵抗値が低いほど好ましい。熱伝導性シート1は、例えば、厚みを0.3mmとしたときに、2.1kgf/cm2加圧時の全熱抵抗値が0.220℃・cm2/W以下であってもよく、0.214℃・cm2/W以下であってもよく、0.212℃・cm2/W以下であってもよく、0.197℃・cm2/W以下であってもよく、0.194℃・cm2/W以下であってもよく、0.187℃・cm2/W以下であってもよく、0.176℃・cm2/W以下であってもよく、0.169℃・cm2/W以下であってもよく、0.168℃・cm2/W以下であってもよく、0.165℃・cm2/W以下であってもよく、0.158℃・cm2/W以下であってもよく、0.154℃・cm2/W以下であってもよく、0.149℃・cm2/W以下であってもよい。熱伝導性シート1は、厚みを1.0mmとしたときに、2.1kgf/cm2加圧時の全熱抵抗値が0.303℃・cm2/W以下であってもよい。また、熱伝導性シート1は、厚みを2.0mmとしたときに、2.1kgf/cm2加圧時の全熱抵抗値が0.530℃・cm2/W以下であってもよい。熱伝導性シート1の2.1kgf/cm2加圧時の全熱抵抗値の下限値は、より低い値であることが好ましく、0℃・cm2/Wを超え、例えば0.05℃・cm2/W以上となり得る。熱伝導性シート1は、厚みを0.3mmとしたときに、2.1kgf/cm2加圧時の全熱抵抗値が、0.154~0.214℃・cm2/Wの範囲であってもよい。
【0035】
図2は、熱伝導性シート1の表面の一例を示す断面図である。熱伝導性シート1は、例えば
図2に示すように、少なくとも一方の表面が研磨面であり、この研磨面に研磨残渣5を有することが好ましい。換言すると、熱伝導性シート1は、少なくとも一方の表面が研磨面であり、この研磨面に、研磨により脱離した熱伝導性組成物の構成材料からなる研磨残渣5を有することが好ましい。研磨残渣5は、例えば、バインダ樹脂2、異方性熱伝導材料3及び無機フィラー4を含有する熱伝導性組成物からなる塊状物である。熱伝導性シート1が表面に研磨残渣5を有することにより、熱伝導性シート1の表面をより平滑にすることができ、上述のように熱伝導性シート1が条件1,2を満たしやすい傾向にある。
【0036】
熱伝導性シート1が研磨残渣5を有するとは、熱伝導性シート1が条件1,2を満たす程度に熱伝導性シート1の表面に研磨残渣5が存在することが好ましく、例えば、表面全体に亘ってほぼ均一に研磨残渣5を有していてもよいし、例えば
図2に示すように表面に部分的に(島状に)研磨残渣5を有していてもよい。熱伝導性シート1が表面に研磨残渣5を有するかどうかは、例えば、熱伝導性シート1の表面に粘着テープを貼り付けた後、この粘着テープを剥離することで、粘着テープに研磨残渣5が転着されるかどうかで確認できる。
【0037】
研磨残渣5の大きさについて、上述のように熱伝導性シート1が条件1,2を満たしやすくするためには、研磨残渣5の平均粒子径や最大粒子径が大きすぎないことが好ましい。例えば、研磨残渣5の平均粒子径は、50μm以下であってもよいし、40μm以下であってもよいし、35μm以下であってもよいし、30μm以下であってもよいし、20μm以下であってもよいし、15μm以下であってもよいし、10μm以下であってもよいし、0.5~40μmの範囲であってもよい。研磨残渣5の平均粒子径について、異形の研磨残渣5の場合は、粒子の最も長い部分の長さ(径)を考慮する。また、研磨残渣5の最大粒子径は、例えば、100μm以下であってもよいし、90μm以下であってもよいし、80μm以下であってもよいし、70μm以下であってもよいし、50~100μmの範囲であってもよい。
【0038】
熱伝導性シート1の厚みは、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.05mm以上とすることができ、0.1mm以上であってもよく、0.2mm以上であってもよく、0.3mm以上であってもよい。また、熱伝導性シート1の厚みの上限値は、例えば、5mm以下とすることができ、4mm以下であってもよく、3mm以下であってもよく、2mm以下であってもよく、1mm以下であってもよく、0.5mm以下であってもよい。例えば、熱伝導性シート1の厚みは、例えば、熱伝導性シート1の厚みBを任意の5箇所で測定し、その算術平均値から求めることができる。
【0039】
熱伝導性シート1は、シート自体の熱抵抗が低くなるにつれて被着体との間に生じる全熱抵抗中の接触熱抵抗の寄与が大きくなる傾向にある。上述のように、シートが薄くなるとその傾向は顕著となる。換言すると、熱伝導性シート1は、シート自体の熱伝導率が上がるほど全熱抵抗値中の接触熱抵抗の占有率が大きくなる。本技術では、異方性熱伝導材料3が厚み方向に配向した熱伝導性シート1について、熱伝導性シート1が上述した条件1,2を満たすことにより、接触熱抵抗を低減することができ、結果として、全熱抵抗値を低減することができる。特に、接触熱抵抗が大きくなる傾向がある薄い厚み(例えば、厚みが0.2~0.5mm)の範囲において効果を発揮するが、厚みはこの範囲にとどまらない。
【0040】
次に、熱伝導性シート1の構成例である、バインダ樹脂2と、異方性熱伝導材料3と、無機フィラー4について説明する。
【0041】
<バインダ樹脂>
バインダ樹脂2は、異方性熱伝導材料3と無機フィラー4とを熱伝導性シート1内に保持するためのものである。バインダ樹脂2は、熱伝導性シート1に要求される機械的強度、耐熱性、電気的性質等の特性に応じて選択される。バインダ樹脂2としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱硬化性樹脂の中から選択することができる。
【0042】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等のエチレン-αオレフィン共重合体、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリフッ化ビニリデン及びポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)樹脂、ポリフェニレン-エーテル共重合体(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、脂肪族ポリアミド類、芳香族ポリアミド類、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル等のポリメタクリル酸エステル類、ポリアクリル酸類、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン、ポリケトン、液晶ポリマー、アイオノマー等が挙げられる。
【0043】
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン-ブタジエンブロック共重合体又はその水添化物、スチレン-イソプレンブロック共重合体又はその水添化物、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0044】
熱硬化性樹脂としては、架橋ゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、付加反応型シリコーン樹脂や縮合反応型シリコーン樹脂等が挙げられる。架橋ゴムの具体例としては、天然ゴム、アクリルゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエン共重合ゴム、ニトリルゴム、水添ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレン-プロピレン共重合ゴム、塩素化ポリエチレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、及びシリコーンゴムが挙げられる。
【0045】
バインダ樹脂2としては、例えば、発熱体(例えば電子部品)の発熱面とヒートシンク面との密着性の観点では、シリコーン樹脂が好ましい。シリコーン樹脂としては、例えば、アルケニル基を有するシリコーン(ポリオルガノシロキサン)を主成分とし、硬化触媒を含有する主剤と、ヒドロシリル基(Si-H基)を有する硬化剤とからなる、2液型の付加反応型シリコーン樹脂を用いることができる。アルケニル基を有するシリコーンとしては、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するポリオルガノシロキサンを用いることができる。一例として、ビニル基を有するポリオルガノシロキサンを用いることができる。硬化触媒は、アルケニル基を有するシリコーン中のアルケニル基と、ヒドロシリル基を有する硬化剤中のヒドロシリル基との付加反応を促進するための触媒である。硬化触媒としては、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒が挙げられ、例えば、白金族系硬化触媒、例えば白金、ロジウム、パラジウムなどの白金族金属単体や塩化白金、白金と有機化合物の錯体などを用いることができる。ヒドロシリル基を有する硬化剤としては、例えば、ヒドロシリル基を有するポリオルガノシロキサン(ケイ素原子に直接結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン)を用いることができる。
【0046】
バインダ樹脂2として、例えば、上述した2液型の付加反応型シリコーン樹脂を用いる場合、主剤となる成分(シリコーン主剤)と硬化剤となる成分との割合、すなわち、ビニル基を有するポリオルガノシロキサンと、ヒドロシリル基を有するポリオルガノシロキサンの混合比率は、特に限定されず、ビニル基1molに対してヒドロシリル基が0.3~0.9molの範囲となるような混合比率であってもよく、0.4~0.7molの範囲となるような混合比率でもあってもよい。
【0047】
熱伝導性シート1中のバインダ樹脂2の含有量は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、熱伝導性シート1中のバインダ樹脂2の含有量は、20体積%以上とすることができ、24体積%以上であってもよく、26体積%以上であってもよく、28体積%以上であってもよく、30体積%以上であってもよく、32体積%以上であってもよい。また、熱伝導性シート1中のバインダ樹脂2の含有量の上限値は、60体積%以下とすることができ、50体積%以下であってもよく、40体積%以下であってもよく、38体積%以下であってもよく、35体積%以下であってもよく、32体積%以下であってもよく、30体積%以下であってもよく、28体積%以下であってもよい。熱伝導性シート1中のバインダ樹脂2の含有量は、例えば、28~32体積%の範囲とすることができる。バインダ樹脂2は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上のバインダ樹脂2を併用する場合、その合計量が上述した含有量を満たすことが好ましい。
【0048】
<異方性熱伝導材料>
異方性熱伝導材料3は、形状に異方性を有する熱伝導性材料である。例えば、異方性熱伝導材料3の一例として、長軸と短軸とを有する熱伝導性フィラーが挙げられ、具体例として繊維状フィラーが挙げられる。異方性熱伝導材料3の一例である繊維状フィラーは、繊維状であって必要な熱伝導性を有するものであれば特に限定されず、例えば、炭素繊維、窒化アルミニウムウィスカーなどが挙げられる。以下では、異方性熱伝導材料3として、炭素繊維を用いた場合を例に挙げて詳述する。異方性熱伝導材料3とは、長軸と短軸とを有し、長軸と短軸の長さが異なりアスペクト比(平均長軸長さ/平均短軸長さ)が1を超える形状であるものを含む。異方性熱伝導材料3は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
炭素繊維は、例えば、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、PBO繊維を黒鉛化した炭素繊維、アーク放電法、レーザー蒸発法、CVD法(化学気相成長法)、CCVD法(触媒化学気相成長法)等で合成された炭素繊維を用いることができる。これらの中でも、熱伝導性の観点では、ピッチ系炭素繊維が好ましい。
【0050】
異方性熱伝導材料3の平均繊維長(平均長軸長さ)は、例えば、50~250μmとすることができ、75~220μmであってもよい。また、異方性熱伝導材料3の平均繊維径(平均短軸長さ)は、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、4~20μmとすることができ、5~14μmであってもよい。異方性熱伝導材料3のアスペクト比は、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱伝導性の観点では、8以上とすることができ、9~30の範囲であってもよい。異方性熱伝導材料3の平均長軸長さ及び平均短軸長さは、例えば、マイクロスコープや走査型電子顕微鏡(SEM)で測定できる。
【0051】
熱伝導性シート1中の異方性熱伝導材料3の含有量は、熱伝導性シート1の熱伝導性の観点では、例えば、5体積%以上とすることができ、10体積%以上であってもよく、14積%以上であってもよく、20体積%以上であってもよく、22体積%以上であってもよく、24体積%以上であってもよく、26体積%以上であってもよい。また、熱伝導性シート1中の異方性熱伝導材料3の含有量は、熱伝導性シート1の成形性の観点では、例えば、30体積%以下とすることができ、28体積%以下であってもよい。熱伝導性シート1中の異方性熱伝導材料3の含有量は、例えば、24~28体積%の範囲とすることができる。2種以上の異方性熱伝導材料3を併用する場合、その合計量が上述した含有量を満たすことが好ましい。
【0052】
<無機フィラー>
無機フィラー4は、異方性熱伝導材料3以外の熱伝導性フィラーである。無機フィラー4には、例えば、球状、粉末状、顆粒状などの熱伝導性フィラーが含まれる。無機フィラー4の材質は、熱伝導性シート1の熱伝導性の観点では、例えば、セラミックフィラーが好ましく、具体例としては、酸化アルミニウム(アルミナ、サファイア)、窒化アルミニウム、アルミニウム、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素などが挙げられる。無機フィラー4は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。例えば、無機フィラー4として、平均粒子径が異なる2種以上の熱伝導性フィラーを併用してもよい。
【0053】
特に、無機フィラー4としては、熱伝導性シート1の熱伝導率や、熱伝導性シート1の比重の観点などを考慮して、酸化アルミニウム及び窒化アルミニウムから選択される少なくとも1種以上であることが好ましく、酸化アルミニウムと窒化アルミニウムとを併用してもよい。
【0054】
窒化アルミニウムの平均粒子径は、例えば熱伝導性シート1の比重の観点では、0.1~10μmの範囲であってもよく、0.5~5μmの範囲であってもよく、0.5~3μmの範囲であってもよく、0.5~2μmの範囲であってもよい。酸化アルミニウムの平均粒子径は、例えば熱伝導性シート1の比重の観点では、0.1~10μmの範囲とすることができ、0.1~8μmの範囲であってもよく、0.1~7μmの範囲であってもよく、0.1~3μmの範囲であってもよい。
【0055】
熱伝導性シート1中の無機フィラー4の含有量は、目的に応じて適宜選択することができる。熱伝導性シート1中における無機フィラー4の含有量は、例えば、10体積%以上とすることができ、15体積%以上であってもよく、20体積%以上であってもよく、25体積%以上であってもよく、30体積%以上であってもよく、35体積%以上であってもよく、39体積%以上であってもよく、45体積%以上であってもよい。また、熱伝導性シート1中の無機フィラー4の含有量の上限値は、例えば、55体積%以下とすることができ、50体積%以下であってもよく、49体積%以下であってもよく、47体積%以下であってもよく、45体積%以下であってもよく、40体積%以下であってもよい。熱伝導性シート1中における無機フィラー4の含有量は、例えば、39~47体積%の範囲とすることができる。2種以上の無機フィラー4を併用する場合、その合計量が上述した含有量を満たすことが好ましい。
【0056】
無機フィラー4として、例えば、酸化アルミニウムと窒化アルミニウムとを併用する場合、熱伝導性シート1中、窒化アルミニウムの含有量を10~35体積%の範囲とし、酸化アルミニウムの含有量を5~25体積%の範囲とすることができる。
【0057】
<他の成分>
熱伝導性シート1は、本技術の効果を損なわない範囲で、上述した成分以外の他の成分をさらに含有してもよい。他の成分としては、例えば、カップリング剤、分散剤、硬化促進剤、遅延剤、粘着付与剤、可塑剤、難燃剤、酸化防止剤、安定剤、着色剤、溶剤などが挙げられる。例えば、熱伝導性シート1は、異方性熱伝導材料3及び無機フィラー4の分散性をより向上させるために、カップリング剤で処理した異方性熱伝導材料3及び/又はカップリング剤で処理した無機フィラー4を用いてもよい。
【0058】
このような熱伝導性シート1の硬度は、研磨のしやすさと、シートの柔軟性による被着体への追従性の観点から、例えばショアOO硬度として40~95であることが好ましい。
【0059】
<熱伝導性シートの製造方法>
次に、熱伝導性シート1の製造方法について説明する。熱伝導性シート1の製造方法は、以下の工程Aと、工程Bと、工程Cとを有する。
【0060】
<工程A>
工程Aでは、バインダ樹脂2と、異方性熱伝導材料3と、無機フィラー4とを含む熱伝導性組成物を所定の形状に成型して硬化させ、熱伝導性組成物の成型体(熱伝導性成形体)を得る。
【0061】
工程Aの一例では、まず、異方性熱伝導材料3と無機フィラー4とをバインダ樹脂2に分散させることにより、バインダ樹脂2と、異方性熱伝導材料3と、無機フィラー4とを含む熱伝導性組成物を作製する。熱伝導性組成物は、バインダ樹脂2と、異方性熱伝導材料3と、無機フィラー4との他に、必要に応じて上述した他の成分を公知の手法により均一に混合することで調製できる。
【0062】
続いて、熱伝導性組成物を押出成形した後硬化し、柱状の硬化物(熱伝導性成形体)を得る。押出成形する方法は、特に制限されず、公知の各種押出成形法の中から、熱伝導性組成物の粘度や熱伝導性シート1に要求される特性等に応じて適宜採用できる。押出成形法において、熱伝導性組成物をダイより押し出す際、熱伝導性組成物中のバインダ樹脂2が流動し、その流動方向に沿って異方性熱伝導材料3が配向する。柱状の硬化物の大きさ・形状は、求められる熱伝導性シート1の大きさに応じて決めることができる。例えば、断面の縦の大きさが0.5~15cmで横の大きさが0.5~15cmの直方体が挙げられる。直方体の長さは必要に応じて決定すればよい。
【0063】
<工程B>
工程Bでは、工程Aで得られた熱伝導性成形体をシート状に切断し、シート状成形体を得る。工程Bの一例では、工程Aで得た柱状の硬化物を柱の長さ方向に対し所定の厚みに切断してシート状成形体を得る。シート状成形体の表面(切断面)には、異方性熱伝導材料3が露出する。熱伝導性成形体の切断方法は、特に制限されず、熱伝導性成形体の大きさや機械的強度により、公知のスライス装置の中から適宜選択できる。熱伝導性成形体を得る際に押出成形法を採用する場合、押出し方向に異方性熱伝導材料3が配向しているものもあるため、熱伝導性成形体の切断方向としては、押出し方向に対して60~120度であることが好ましく、70~100度の方向であることがより好ましく、90度(略垂直)の方向であることがさらに好ましい。熱伝導性成形体の切断方向は、上記の他は特に制限はなく、熱伝導性シート1の使用目的等に応じて適宜選択できる。
【0064】
<工程C>
通常、工程Bで得られるシート状成形体は、表面に凹凸が存在する。例えば、工程Bで得られるシート状成形体は、
図2に示すように、表面に複数の凸部1aと、凸部1aに隣接した凹部とを有する。そのため、通常、工程Bで得られるシート状成形体は、上述した条件1,2を満たさない傾向にある。表面にこのような凹凸が存在するシート状成形体を用いると、シート状成形体と被着体との間にエアーが混入しやすくなり、シート状成形体の接触熱抵抗を低減するのが難しい傾向にある。また、従来の技術では、熱伝導性シートのバインダ樹脂を除去することにより炭素繊維を露出させる方法もあるが、圧力がかかり炭素繊維がシート内部に埋め込まれるとしても被着体と熱伝導性シートとの間の接触を損なうおそれがある。また、この場合、熱伝導性シートの表面から炭素繊維が突出するとしても、突出部の凹凸が大きいと接触性が損なわれるおそれがある。
【0065】
そこで、工程Cでは、熱伝導性シート1の表面が上述した条件1,2を満たすように、シート状成形体の表面を研磨する。このように、工程Cでは、工程Bで得られたシート状成形体の表面を研磨することにより、シート状成形体の表面の凸部1aから削り出たバインダ樹脂2、異方性熱伝導材料3及び無機フィラー4によってシート状成形体の表面の凹部が被覆され(換言すると、凸部1aから削り出された研磨残渣5が凹部に留まる)ことで、熱伝導性シート1の表面が上述した条件1,2を満たすことができ、熱伝導性シート1と被着体との接触面積が向上して、熱伝導性シート1と被着体との間にエアーが混入することを抑制し、熱伝導性シート1の接触熱抵抗を低減させることができる。また、これに加えて、ブリードしたバインダ樹脂2が熱伝導性シート1の表面を被覆することにより、熱伝導性シート1と被着体との接触面積がより向上し、熱伝導性シート1と被着体との間にエアーが混入することがより効果的に抑制され、熱伝導性シート1の接触熱抵抗をさらに低減させることができると考えられる。
【0066】
また、通常、熱伝導性シートの表面が十分に平滑化されたかどうか、換言すると、十分な表面処理が施されたかどうかは、熱伝導性シートのロットの数量に対して、その母集団の特性を十分に把握できるように熱特性の評価を行ったうえで、表面処理の状態を把握する必要がある。また、研磨の方法によっては、熱伝導性シートの表面全体に処理が施されず、微小な領域ごとに処理が施される場合もある。そのため、従来は、例えば半導体に実装される熱伝導性シートのサイズに対して十分に研磨処理が施されたかどうかを判断し、製造することは難しかった。
【0067】
一方、本技術に係る熱伝導性シート製造方法の工程Cでは、熱伝導性シート1の表面が上述した条件1,2を満たすように、シート状成形体の表面を研磨するため、熱伝導性シート1に対して十分に研磨処理が施されたかどうかを光学的な方法でより容易に判断することができる。また、本技術に係る熱伝導性シートの製造方法では、熱伝導性シート1の表面が上述した条件1,2を満たすように、シート状成形体の表面を研磨すればよく、上述のように、熱伝導性シートのロットの数量に対して、その母集団の特性を十分に把握できるように熱特性の評価を行わなくてもよいため、製法がより簡易となる。
【0068】
例えば、工程Cでは、シート状成形体を研磨部材によって研磨する。研磨部材としては、例えば、シート状成形体の表面に面接触させ研磨することができるものが挙げられる。このような研磨部材としては、例えば、紙やすり、ラッピングフィルム、ブラシが挙げられ、耐久性や砥粒の粒度の精度、処理量に応じて適宜選択される。ラッピングフィルムとは、基材となる樹脂製フィルムに接着剤を用いて砥粒を固定したフィルムである。ラッピングフィルムのようにシート状成形体の表面に面接触させて研磨することができる研磨部材を用いることにより、シート状成形体の表面の凸部1aから削り出たバインダ樹脂2、異方性熱伝導材料3及び無機フィラー4によってシート状成形体の表面の凹部をより効率的に被覆できる。
【0069】
ラッピングフィルムは、例えば、基材としてポリエステルフィルムを用い、砥粒として平均粒子径2~40μmの酸化アルミニウムを用いたものを用いることができる。あるいは、砥粒の粒度を示すものとして公称値で#400~#6000のラッピングフィルムを用いることができる。ラッピングフィルムのサイズや厚みは、研磨するシート状成形体の大きさに応じて適宜変更することができる。例えば、ラッピングフィルムの厚みは、0.01~0.5mmとすることができる。
【0070】
図3は、研磨部材の一例であるブラシ6の斜視図である。ブラシ6は、例えば
図3に示すように、柱状の基材7の長さ方向に毛材8が配列した形状を有する。毛材8は、複数の毛の束であり、長さBと、奥行きCと、幅Aを有する。ブラシ6の材質は、特に限定されず、例えば、汎用性、耐摩耗性、柔軟性、曲げ復元性等の観点では、ナイロン、アクリル、塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルファイド、銅、真鍮、ステンレス、馬、豚、羊などのブラシ用として扱われる材料が挙げられ、研磨効率を向上させる研磨剤、研磨紛のブラシへ汚染などを防止する静電処理、導通処理などを施したものも、使用することが可能である。なお、好ましくは毛の太さが0.05mm~2.2mm、毛の長さが1~100mmであり、熱伝導性組成物の材料、硬さ、熱プレスなどの処理の有無、処理の程度、処理速度など、本発明を損なわない範囲にて適宜選択し組み合わせて使用することができる。
【0071】
図4は、シート状成形体9の表面をブラシ6で研磨する方法の一例を説明するための斜視図である。研磨部材としてブラシ6を用いて、1枚ずつシート状成形体9において研磨処理を行なう場合、図示しない吸着パッドやテープなどの固定手段で、シート状成形体9の研磨しようとする面の背面、または研磨処理を開始する側の端部を仮止めすることが好ましい。テープを用いた仮固定の例として、例えば
図4中のD1の方向にブラシ6で研磨する場合は、シート状成形体9の一端側9Aを仮固定し、固定されていない他端側9Bに向かってブラシ6を移動する。シート状成形体9の背面を仮固定する場合は、ブラシ6の移動方向に制限はない。ブラシ6の移動手段は、手動であっても自動であってもよい。シート状成形体9を研磨する場合には、毛材8の先端がA方向全体でシート状成形体9の表面に接触するようにしならせつつ、毛材8の先端で撫でるように、ブラシ6を移動させることが好ましい。
【0072】
研磨方法は、シート状成形体9表面の一端側9Aから他端側9Bに一方向に研磨部材を移動させることに限定されない。例えばシート状成形体9表面の一端側9Aから他端側9Bに亘って研磨部材で研磨することと、シート状成形体9表面の他端側9Bから一端側9Aに亘って研磨部材で研磨することを繰り返す、すなわち、研磨部材を、シート状成形体9表面の一端側9Aと他端側9Bに亘って往復して研磨してもよい。一例としてブラシ6を用いる場合、
図4においてシート状成形体9表面の一端側9Aから他端側9Bに亘って、D1方向とD2方向に往復して研磨してもよい。
図5は、複数のシート状成形体の表面を連続してブラシで研磨する方法の一例を説明するための斜視図である。
図5に示すように、複数の熱伝導性シート1を連続して研磨処理する場合には、例えば、研磨部材を固定し、シート状成形体9をコンベア10上に複数枚配置し、コンベア10を移動させることで複数のシート状成形体9を連続して研磨処理してもよい。コンベア10の移動方向は、
図5中のD3方向またはD4方向の一方向であってもよいし、D3方向とD4方向に往復してもよい。また、複数のブラシを設置して使用することも可能である。更には、ロール状ブラシを回転させて使用しても良い。
【0073】
研磨方法について、シート状成形体9の片面のみを研磨処理してもよいし、シート状成形体9の片面を研磨処理した後、他方の面も研磨処理してもよい。
【0074】
研磨部材としてラッピングフィルムを用いる場合、シート状成形体9の表面にラッピングフィルムを接触させ、シート状成形体9及びラッピングフィルムの少なくともいずれか一方を移動させる限りにおいては、上述のブラシ6における研磨方法と同様に、移動方法や移動方向、配置や形状において各種の変形が可能である。
【0075】
研磨回数は、研磨方法や、研磨部材の種類、研磨部材の粒度などに応じて適宜変更することができる。研磨回数は、多いほどシート状成形体9の表面の凸部1aから削り出たバインダ樹脂2、異方性熱伝導材料3及び無機フィラー4によってシート状成形体9の表面の凹部が被覆されやすいと考えられるため、一定回数以上とすることが好ましい。研磨回数は、例えば、1回以上とすることができ、10回以上としてもよく、20回以上としてもよく、30回以上としてもよく、40回以上としてもよく、50回以上としてもよく、60回以上としてもよく、70回以上としてもよく、80回以上としてもよく、90回以上としてもよく、100回以上としてもよく、200回以上としてもよく、300回以上としてもよく、400回以上としてもよく、100~1000回の範囲としてもよく、100~400回の範囲としてもよい。なお、本明細書において、研磨回数とは、例えば
図4において、シート状成形体9表面の一端側9Aから他端側9Bに亘って一方向に研磨することを1回とし、また、他端側9Bから一端側9Aに亘って一方向に研磨することも1回とする。また、
図4において、シート状成形体9表面の一端側9Aから他端側9Bに亘って一方向に研磨することと、他端側9Bから一端側9Aに亘って一方向に研磨することを合わせて1往復とする。
【0076】
熱伝導性シート1が表面に有する研磨残渣5の大きさは、使用する研磨部材の材質や粒度により適宜変更できる。例えば、研磨部材としてラッピングフィルムやブラシ6を用いる場合は、研磨残渣5の最大サイズを100μm以下とすることができ、0.5~100μmの範囲とすることもできる。
【0077】
研磨部材は、研磨する工程(工程C)において同一の粗さを持つ研磨部材であってもよい。研磨する工程において同一の粗さを持つ研磨部材とは、例えば、工程Cにおいて、砥粒の粒度が異なる2種以上の研磨部材を併用するのではなく、砥粒の粒度が同一の研磨部材を用いることを意味する。熱伝導性シート1の製造方法では、工程Cにおいて、同一の粗さを持つ研磨部材を用いてシート状成形体9を研磨した場合でも、上述した条件1,2を満たすことができ、熱伝導性シート1の全熱抵抗値を低減することができる。このように、熱伝導性シート1の製造方法では、工程Cにおける研磨について、砥粒の粒度が異なる2種以上の研磨部材を併用しなくても、熱伝導性シート1が上述した条件1,2を満たすことができるため、工程を簡素化できる。なお、熱伝導性シート1の製造方法の工程Cでは、砥粒の粒度が異なる2種以上の研磨部材を併用してもよい。
【0078】
このような工程Aと、工程Bと、工程Cとを有する熱伝導性シートの製造方法によれば、上述した熱伝導性シート1が得られる。熱伝導性シート1の製造方法は、上述した例に限定されず、プレスする工程Dをさらに有していてもよい。工程Dは、工程Bと工程Cとの間であってもよく、工程Cの後であってもよい。例えば、熱伝導性シート1の製造方法の一例は、上述した工程A~Cの他に、工程Bで得られたシート状成形体9の表面をプレスする工程Dをさらに有し、工程Cでは、工程Dでプレスしたシート状成形体9の表面を研磨して熱伝導性シート1を得るようにしてもよい。このような工程Dをさらに有することで、得られる熱伝導性シート1の表面がより平滑化され、他の部材との密着性をより向上させることができる。プレスの方法としては、平盤と表面が平坦なプレスヘッドとからなる一対のプレス装置を使用することができる。また、ピンチロールでプレスしてもよい。プレスの際の圧力としては、例えば、0.1~100MPaとすることができる。プレスの効果をより高め、プレス時間を短縮するために、プレスは、バインダ樹脂2のガラス転移温度(Tg)以上で行うことが好ましい。例えば、プレス温度は、0~180℃とすることができ、室温(例えば25℃)~100℃の温度範囲内であってもよく、30~100℃であってもよい。
【0079】
また、本技術は、上述した工程Aと、工程Bと、工程Cとをこの順に有する熱伝導性シートの製造方法において、シート状成形体の表面の平滑度を検査する工程Eをさらに有してもよい。この工程Eでは、SCI方式による、シート状成形体の表面の波長400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各範囲における平均反射率(RSCI)と、SCE方式による、表面の400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各波長範囲における平均反射率(RSCE)とを測定し、それらの差分(RSCI-RSCE)であるΔR400-500nm、ΔR500-600nm及びΔR600-700nmを求めることと、ΔR600-700nmに対するΔR500-600nmの比(ΔR600-700nm/ΔR500-600nm)を求めることにより、シート状成形体の表面の平滑度を検査する。具体例として、工程Eでは、工程Cで研磨したシート状成形体9の表面が上述した条件1,2を満たすかどうかを検査し、この検査結果に応じて、シート状成形体9の表面をさらに研磨するようにしてもよい。例えば、検査する工程で、条件1,2を満たさないと判断した場合、シート状成形体9の表面をさらに研磨するようにしてもよい。
【0080】
また、熱伝導性シートの製造方法の一例は、上述した工程Aと、工程Bとをこの順に有する熱伝導性シートの製造方法において、少なくとも工程Bの後に工程Eをさらに有してもよい。
【0081】
また、熱伝導性シートの製造方法の一例は、上述した工程Aと、工程Bと、工程Dとをこの順に有する熱伝導性シートの製造方法において、少なくとも工程Dの後に工程Eをさらに有してもよい。
【0082】
また、熱伝導性シートの製造方法の一例は、上述した工程Aと、工程Bと、工程Dと、工程Cとをこの順に有する熱伝導性シートの製造方法において、少なくとも工程Cの後に工程Eをさらに有してもよい。
【0083】
<熱伝導性シートの表面の平滑度の検査方法>
本技術は、熱伝導性シートの表面の平滑度を検査する方法にも適用できる。検査方法の一例として、SCI方式による、熱伝導性シートの表面の波長400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各範囲における平均反射率(RSCI)と、SCE方式による、熱伝導性シートの表面の400~500nm、波長500~600nm及び波長600~700nmの各波長範囲における平均反射率(RSCE)とを測定し、それらの差分(RSCI-RSCE)であるΔR400-500nm、ΔR500-600nm及びΔR600-700nmを求めることと、ΔR600-700nmに対するΔR500-600nmの比(ΔR600-700nm/ΔR500-600nm)を求めることにより、熱伝導性シートの表面の平滑度を検査してもよい。具体例として、熱伝導性シートの表面が上述した条件1,2を満たすかどうかにより、熱伝導性シートの表面の平滑化度を検査してもよい。このような検査方法によれば、熱伝導性シートの表面が平滑かどうかを光学的な方法でより容易に判断することができる。
【0084】
<電子機器>
熱伝導性シート1は、例えば、発熱体と放熱体との間に配置させることにより、発熱体で生じた熱を放熱体に逃がすためにそれらの間に配された構造の電子機器(サーマルデバイス)とすることができる。電子機器は、発熱体と放熱体と熱伝導性シート1とを少なくとも有し、必要に応じて、その他の部材をさらに有していてもよい。このように、熱伝導性シート1を適用した電子機器は、発熱体と放熱体との間に熱伝導性シート1が挟持されているため、熱伝導性シート1により高熱伝導性を実現しつつ、発熱体への熱伝導性シート1の密着性に優れ、熱伝導性シート1からのバインダ樹脂2の過剰なブリードを抑制できる。
【0085】
特に、熱伝導性シート1を適用した電子機器は、上述のように、熱伝導性シート1が上述した条件1,2を満たすため、熱伝導性シート1と被着体である発熱体や放熱体との接触面積がより増大し、熱伝導性シート1と被着体との間にエアーが混入することが抑制され、熱伝導性シート1の接触熱抵抗の低減に寄与し、結果として、全熱抵抗値を低減することができる。
【0086】
発熱体としては、特に限定されず、例えば、CPU、GPU(Graphics Processing Unit)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリなどの集積回路素子、トランジスタ、抵抗器など、電気回路において発熱する電子部品等が挙げられる。また、発熱体には、通信機器における光トランシーバ等の光信号を受信する部品も含まれる。
【0087】
放熱体としては、特に限定されず、例えば、ヒートシンクやヒートスプレッダなど、集積回路素子やトランジスタ、光トランシーバ筐体などと組み合わされて用いられるものが挙げられる。ヒートシンクやヒートスプレッダの材質としては、例えば、銅、アルミニウムなどが挙げられる。放熱体としては、ヒートスプレッダやヒートシンク以外にも、熱源から発生する熱を伝導して外部に放散させるものであればよく、例えば、放熱器、冷却器、ダイパッド、プリント基板、冷却ファン、ペルチェ素子、ヒートパイプ、ベーパーチャンバー、金属カバー、筐体等が挙げられる。ヒートパイプは、例えば、円筒状、略円筒状又は扁平筒状の中空構造体である。
【0088】
図6は、熱伝導性シートを適用した半導体装置の一例を示す断面図である。例えば、熱伝導性シート1は、
図6に示すように、各種電子機器に内蔵される半導体装置50に実装され、発熱体と放熱体との間に挟持される。
図6に示す半導体装置50は、電子部品51と、ヒートスプレッダ52と、熱伝導性シート1とを備え、熱伝導性シート1がヒートスプレッダ52と電子部品51との間に挟持される。熱伝導性シート1が、ヒートスプレッダ52とヒートシンク53との間に挟持されることにより、ヒートスプレッダ52とともに、電子部品51の熱を放熱する放熱部材を構成する。熱伝導性シート1の実装場所は、ヒートスプレッダ52と電子部品51との間や、ヒートスプレッダ52とヒートシンク53との間に限らず、電子機器や半導体装置の構成に応じて、適宜選択できる。ヒートスプレッダ52は、例えば方形板状に形成され、電子部品51と対峙する主面52aと、主面52aの外周に沿って立設された側壁52bとを有する。ヒートスプレッダ52は、側壁52bに囲まれた主面52aに熱伝導性シート1が設けられ、主面52aと反対側の他面52cに熱伝導性シート1を介してヒートシンク53が設けられる。
【実施例0089】
以下、本技術の実施例について説明する。なお、本技術は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0090】
<実施例1>
シリコーン樹脂32体積%と、酸化アルミニウム(平均粒子径:約2μm)14体積%と、窒化アルミニウム(平均粒子径:約1μm)25体積%と、炭素繊維(平均繊維長:約150μm)28体積%と、カップリング剤1体積%とを均一に混合することにより熱伝導性組成物を調製した。この熱伝導性組成物を、押出成形法により、直方体状の内部空間を有する金型(開口部:50mm×50mm)中に流し込み、100℃のオーブンで6時間加熱して、柱状の硬化物(成形体ブロック)を形成した。なお、金型の内面には、剥離処理を行なったポリエチレンテレフタレートフィルムを、剥離処理面が内側となるように貼り付けておいた。得られた柱状の硬化物を柱の長さ方向に対し略直交する方向に、柱状の硬化物をスライサーで0.3mm厚のシート状に切断(スライス)することにより、炭素繊維が厚み方向に配向したシート状成形体を得た。
【0091】
実施例1では、
図3に示すように、毛太さ0.2mm、毛長さ(
図3中のB)25mm、毛束(奥行:
図3中のC)4mm、幅(
図3中のA)70mmのナイロン製のブラシ6(角田ブラシ社製)を用いた。そして、
図4に示すように、ブラシ6の毛材8の先端がA方向全体でシート状成形体9に接触するようにしならせつつ、毛材8の先端で撫でるように、シート状成形体9の表面の一端側から他端側に亘って一方向に400回ブラシ6を移動させた。このようにシート状成形体9の表面を研磨することにより、熱伝導性シートを得た。研磨は、シート状成形体の両面に対して片面ずつ行った。実施例1で得られた熱伝導性シートは、表面が研磨面であり、表面に研磨により脱離した熱伝導性組成物の構成材料を有していた。
【0092】
<実施例2>
実施例2では、研磨回数を600回に変更したこと以外は、実施例1と同様に熱伝導性シートを得た。実施例2で得られた熱伝導性シートは、表面が研磨面であり、表面に研磨により脱離した熱伝導性組成物の構成材料を有していた。
【0093】
<実施例3>
実施例3では、研磨回数を1000回に変更したこと以外は、実施例1と同様に熱伝導性シートを得た。実施例3で得られた熱伝導性シートは、表面が研磨面であり、表面に研磨により脱離した熱伝導性組成物の構成材料を有していた。
【0094】
<実施例4>
実施例4では、
図4に示すように、ブラシ6の毛材8の先端がA方向全体でシート状成形体9に接触するようにしならせつつ、毛材8の先端で撫でるように、シート状成形体9表面の一端側から他端側に亘って一方向にブラシ6を移動させることと、シート状成形体9表面の他端側から一端側に亘って一方向にブラシ6を移動させることを合計で400回(200往復)行ったこと以外は、実施例1と同様に熱伝導性シートを得た。すなわち、実施例4では、シート状成形体9表面の一端側と他端側に亘って往復して研磨したこと以外は、実施例1と同様に熱伝導性シートを得た。実施例4で得られた熱伝導性シートは、表面が研磨面であり、表面に研磨により脱離した熱伝導性組成物の構成材料を有していた。
【0095】
<実施例5>
実施例5では、
図4に示すように、ブラシ6の毛材8の先端がA方向全体でシート状成形体9に接触するようにしならせつつ、毛材8の先端で撫でるように、シート状成形体9表面の一端側から他端側に亘って一方向にブラシ6を移動させることと、シート状成形体9表面の他端側から一端側に亘って一方向にブラシ6を移動させることを合計で600回(300往復)行ったこと以外は、実施例1と同様に熱伝導性シートを得た。すなわち、実施例5では、シート状成形体9表面の一端側と他端側に亘って往復して研磨したこと以外は、実施例2と同様に熱伝導性シートを得た。実施例5で得られた熱伝導性シートは、表面が研磨面であり、表面に研磨により脱離した熱伝導性組成物の構成材料を有していた。
【0096】
<実施例6>
実施例6では、ナイロン製のブラシ6に替えて、厚みが約100μmである4000番(#4000)のラッピングフィルム(3M社製)を用いて、シート状成形体9の表面の一端側から他端側に亘って一方向に研磨することと、シート状成形体9の表面の他端側から一端側に亘って一方向に研磨することを合計で200回(100往復)行ったこと以外は、実施例1と同様に熱伝導性シートを得た。このように、実施例6では、シート状成形体9表面の一端側と他端側に亘って往復して研磨した。実施例6で得られた熱伝導性シートは、表面が研磨面であり、表面に研磨により脱離した熱伝導性組成物の構成材料を有していた。
【0097】
<実施例7>
シリコーン樹脂28体積%と、酸化アルミニウム(平均粒子径:約2μm)22体積%と、窒化アルミニウム(平均粒子径:約1μm)25体積%と、炭素繊維(平均繊維長:約150μm)24体積%と、カップリング剤1体積%とを均一に混合することにより熱伝導性組成物を調製した。この熱伝導性組成物を、押出成形法により、直方体状の内部空間を有する金型(開口部:50mm×50mm)中に流し込み、60℃のオーブンで4時間加熱して、柱状の硬化物(成形体ブロック)を形成した。なお、金型の内面には、剥離処理を行なったポリエチレンテレフタレートフィルムを、剥離処理面が内側となるように貼り付けておいた。得られた柱状の硬化物を柱の長さ方向に対し略直交する方向に、柱状の硬化物をスライサーで0.3mm厚のシート状に切断(スライス)することにより、炭素繊維が厚み方向に配向したシート状成形体を得た。
【0098】
そして、実施例7では、厚みが約100μmである600番(#600)のラッピングフィルム(3M社製)を用いて、シート状成形体9の表面の一端側から他端側に亘って一方向に研磨することを20回行って熱伝導性シートを得た。実施例7で得られた熱伝導性シートは、表面が研磨面であり、表面に研磨により脱離した熱伝導性組成物の構成材料を有していた。
【0099】
<実施例8>
実施例8では、研磨回数を50回に変更したこと以外は、実施例7と同様に熱伝導性シートを得た。実施例8で得られた熱伝導性シートは、表面が研磨面であり、表面に研磨により脱離した熱伝導性組成物の構成材料を有していた。
【0100】
<実施例9>
実施例9では、研磨回数を100回に変更したこと以外は、実施例7と同様に熱伝導性シートを得た。実施例9で得られた熱伝導性シートは、表面が研磨面であり、表面に研磨により脱離した熱伝導性組成物の構成材料を有していた。
【0101】
<実施例10>
実施例10では、厚みが約100μmである600番(#600)のラッピングフィルムに替えて、厚みが約100μmである1000番(#1000)のラッピングフィルムを用いたことと、研磨回数を10回に変更したこと以外は、実施例7と同様に熱伝導性シートを得た。実施例10で得られた熱伝導性シートは、表面が研磨面であり、表面に研磨により脱離した熱伝導性組成物の構成材料を有していた。
【0102】
<実施例11>
実施例11では、研磨回数を20回に変更したこと以外は、実施例10と同様に熱伝導性シートを得た。実施例11で得られた熱伝導性シートは、表面が研磨面であり、表面に研磨により脱離した熱伝導性組成物の構成材料を有していた。
【0103】
<実施例12>
実施例12では、研磨回数を50回に変更したこと以外は、実施例10と同様に熱伝導性シートを得た。実施例12で得られた熱伝導性シートは、表面が研磨面であり、表面に研磨により脱離した熱伝導性組成物の構成材料を有していた。
【0104】
<実施例13>
実施例13では、研磨回数を100回に変更したこと以外は、実施例10と同様に熱伝導性シートを得た。実施例13で得られた熱伝導性シートは、表面が研磨面であり、表面に研磨により脱離した熱伝導性組成物の構成材料を有していた。
【0105】
<実施例14>
シリコーン樹脂28体積%と、酸化アルミニウム(平均粒子径:約2μm)22体積%と、窒化アルミニウム(平均粒子径:約1μm)23体積%と、炭素繊維(平均繊維長:約150μm)26体積%と、カップリング剤1体積%とを均一に混合することにより熱伝導性組成物を調製した。この熱伝導性組成物を、押出成形法により、直方体状の内部空間を有する金型(開口部:50mm×50mm)中に流し込み、100℃のオーブンで6時間加熱して、柱状の硬化物(成形体ブロック)を形成した。なお、金型の内面には、剥離処理を行なったポリエチレンテレフタレートフィルムを、剥離処理面が内側となるように貼り付けておいた。得られた柱状の硬化物を柱の長さ方向に対し略直交する方向に、柱状の硬化物をスライサーで1.0mm厚のシート状に切断(スライス)することにより、炭素繊維が厚み方向に配向したシート状成形体を得た。その後、厚みが約100μmである4000番(#4000)のラッピングフィルム(3M社製)を用いて、シート状成形体9の表面の一端側から他端側に亘って一方向に研磨することと、シート状成形体9の表面の他端側から一端側に亘って一方向に研磨することを合計で200回(100往復)行った。研磨は、シート状成形体の両面に対して行なった。得られた熱伝導性シートは、表面が研磨面であり、表面に研磨により脱離した熱伝導性組成物の構成材料を有していた。
【0106】
<実施例15>
実施例15では、実施例14の柱状の硬化物をスライサーで2.0mm厚のシート状に切断(スライス)する以外は同じ作業を行った。このように、実施例15では、シート状成形体9表面の一端側と他端側に亘って往復して研磨した。得られた熱伝導性シートは、表面が研磨面であり、表面に研磨により脱離した熱伝導性組成物の構成材料を有していた。
【0107】
<比較例1>
比較例1では、実施例1で得られたシート状成形体をそのまま用いた。すなわち、比較例1では、シート状成形体の表面を研磨しなかったこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0108】
<比較例2>
比較例2では、実施例7で得られたシート状成形体をそのまま用いた。すなわち、比較例2では、シート状成形体の表面を研磨しなかったこと以外は、実施例7と同様に行った。
【0109】
<比較例3>
比較例3では、研磨回数を10回に変更したこと以外は、実施例7と同様に熱伝導性シートを得た。
【0110】
<比較例4>
比較例4では、厚みが約100μmである600番(#600)のラッピングフィルムに替えて、厚みが約100μmである6000番(#6000)のラッピングフィルムを用いたことと、研磨回数を10回に変更したこと以外は、実施例7と同様に熱伝導性シートを得た。
【0111】
<比較例5>
比較例5では、厚みが約100μmである600番(#600)のラッピングフィルムに替えて、厚みが約100μmである6000番(#6000)のラッピングフィルムを用いたことと、研磨回数を20回に変更したこと以外は、実施例7と同様に熱伝導性シートを得た。
【0112】
<比較例6>
比較例6では、厚みが約100μmである600番(#600)のラッピングフィルムに替えて、厚みが約100μmである6000番(#6000)のラッピングフィルムを用いたことと、研磨回数を50回に変更したこと以外は、実施例7と同様に熱伝導性シートを得た。
【0113】
<比較例7>
シリコーン樹脂28体積%と、酸化アルミニウム(平均粒子径:約2μm)22体積%と、窒化アルミニウム(平均粒子径:約1μm)23体積%と、炭素繊維(平均繊維長:約150μm)26体積%と、カップリング剤1体積%とを均一に混合することにより熱伝導性組成物を調製した。この熱伝導性組成物を、押出成形法により、直方体状の内部空間を有する金型(開口部:50mm×50mm)中に流し込み、100℃のオーブンで6時間加熱して、柱状の硬化物(成形体ブロック)を形成した。なお、金型の内面には、剥離処理を行なったポリエチレンテレフタレートフィルムを、剥離処理面が内側となるように貼り付けておいた。得られた柱状の硬化物を柱の長さ方向に対し略直交する方向に、柱状の硬化物をスライサーで1.0mm厚のシート状に切断(スライス)することにより、炭素繊維が厚み方向に配向したシート状成形体を得た。研磨は行わなかった。
【0114】
<比較例8>
比較例8では、シート状成形体の厚みを2.0mmとした以外は、比較例7と同様にしてシート状成形体を得た。
【0115】
<反射率の測定>
各実施例及び比較例で得られた熱伝導性シート(シート状成形体)について、分光測色計(コニカミノルタ社製、品番:CM-2600d)のターゲットマスク(直径8mmのリング)上に熱伝導性シートを載せ、SCI方式による波長400~700nmの範囲の反射率を測定し、続けて、同じ測定箇所についてSCE方式による波長400~700nmの範囲の反射率を測定した。次に、波長ごとに得られた反射率から、波長400~500nmの範囲の平均反射率と、波長500~600nmの範囲の平均反射率と、波長600~700nmの範囲の平均反射率とを求め、SCI方式における平均反射率(RSCI(400-500nm)、RSCI(500-600nm)、RSCI(600-700nm))と、SCE方式における平均反射率(RSCE(400-500nm)、RSCE(500-600nm)、RSCE(600-700nm))を求めた。そして、得られた各平均反射率を用いて、SCI方式による平均反射率とSEC方式による平均反射率との差分(ΔR400-500nm、ΔR500-600nm、ΔR600-700nm)、すなわち、正反射分の反射率を求めた。さらに、波長600~700nmの範囲の正反射分の反射率と、波長500~600nmの正反射分の反射率の比(ΔR600-700nm/ΔR500-600nm)を求めた。結果を表1に示す。
【0116】
<熱インピーダンス(全熱抵抗値)>
実施例で得られた熱伝導性シート及び比較例で得られたシート状成形体を直径20mmのサイズに打ち抜き加工し、所定の圧力(0.70kfg/cm2又は2.1kfg/cm2)での加圧条件下、ASTM-D5470に従って熱インピーダンス(全熱抵抗値)を測定した。測定は、ASTM-D5470に準拠した熱抵抗測定装置(デクセリアルズ株式会社製)を用いて行った。測定時の加圧時間は250秒間とし、熱インピーダンス値は250秒間のうち、最後の50秒間の値の平均値とした。測定は、1枚の熱伝導性シートに対して、順次加圧条件を変えながら行なった。結果を表1に示す。
【0117】
【0118】
【0119】
実施例1~15で得られた熱伝導性シートは、異方性熱伝導材料と、無機フィラーと、バインダ樹脂とを含む熱伝導性組成物の硬化物からなり、上述した条件1,2を満たすことにより、全熱抵抗値を低減できることが分かった。
【0120】
具体的に、実施例1~13で得られた熱伝導性シートは、荷重0.7kgf/cm2おける全熱抵抗値が0.300℃・cm2/W以下、具体的には0.263℃・cm2/W以下であることが分かった。また、実施例1~13で得られた熱伝導性シートは、荷重2.1kgf/cm2おける全熱抵抗値が0.214℃・cm2/W以下であることが分かった。
【0121】
実施例1~6で得られた熱伝導性シートは、低荷重域(荷重0.7kgf/cm2)における全熱抵抗値が、研磨処理を行っていない比較例1のシート状成形体と比較して、40%以上軽減されていることが分かった。同様に、実施例7~13で得られた熱伝導性シートは、低荷重域(荷重0.7kgf/cm2)における全熱抵抗値が、研磨処理を行っていない比較例2のシート状成形体と比較して、40%以上軽減されていることが分かった。
【0122】
実施例1~6で得られた熱伝導性シートは、高荷重域(荷重2.1kgf/cm2)における全熱抵抗値が、研磨処理を行っていない比較例1のシート状成形体と比較して、20%以上軽減されていることが分かった。同様に、実施例7~13で得られた熱伝導性シートは、高荷重域(荷重2.1kgf/cm2)における全熱抵抗値が、研磨処理を行っていない比較例2のシート状成形体と比較して、20%以上軽減されていることが分かった。
【0123】
実施例1~15で得られた熱伝導性シートは、表面が研磨面であり、研磨面に研磨により脱離した熱伝導性組成物の構成材料(研磨残渣)を有していた。この研磨残渣は、研磨によって生じた、シリコーン樹脂、炭素繊維及び無機フィラー(酸化アルミニウム、窒化アルミニウム)を含有する塊状物であることが確認された。
【0124】
一方、比較例1~6で得られた熱伝導性シート(又はシート状成形体)は、上述した条件1,2を満たさず、実施例1~13の熱伝導性シートと比べて全熱抵抗値が高いことが分かった。具体的に、比較例1~6で得られた熱伝導性シート(又はシート状成形体)は、荷重0.7kgf/cm2おける全熱抵抗値が0.300℃・cm2/Wを超えることが分かった。
【0125】
実施例14,15と、比較例7,8は、実施例1~13、比較例1~6よりも熱伝導性シートないしシート状成形体の厚みが厚いものである。厚みの薄い熱伝導性シートのみならず、厚みが厚い熱伝導性シートにおいても、上述した条件1,2を満たすことにより、全熱抵抗値を低減できることが分かった。
1 熱伝導性シート、1a 凸部、2 バインダ樹脂、3 異方性熱伝導材料、4 無機フィラー、5 研磨残渣、6 ブラシ、7 基材、8 毛材、9 シート状成形体、10 コンベア、50 半導体装置、51 電子部品、52 ヒートスプレッダ、52a 主面、52b 側壁、52c 他面、53 ヒートシンク