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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153032
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】呼吸治療装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/00 20060101AFI20231005BHJP
   A61B 5/08 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A61M16/00 305A
A61B5/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055483
(22)【出願日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2022055361
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591004216
【氏名又は名称】アイ・エム・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001759
【氏名又は名称】弁理士法人よつ葉国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【識別番号】100168468
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 曜
(71)【出願人】
【識別番号】507126487
【氏名又は名称】公立大学法人奈良県立医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 元成
(72)【発明者】
【氏名】高原 勝
(72)【発明者】
【氏名】工藤 晃
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寿郎
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
(72)【発明者】
【氏名】大矢 誠司
(72)【発明者】
【氏名】山内 基雄
(72)【発明者】
【氏名】高谷 恒範
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038SS09
4C038ST09
4C038SU02
(57)【要約】
【課題】無呼吸が検出される前のできるだけ早い段階で、適切な圧力の気体を患者に供給する。
【解決手段】制御部は、呼吸フローの計測を行い(S110)、呼吸フローから最大吸気フローと、最大吸気加速度を取得し(S120)、吸気要求指数(例えば、吸気要求指数=最大吸気加速度÷最大吸気フロー)を算出し(S130)、算出した吸気要求指数に基づいて気体の供給圧力を制御する(S150)ことで、無呼吸が検出される前のできるだけ早い段階で、適切な治療圧を患者に供給することができ、異常な呼吸イベントを抑制できる。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の気道に陽圧の気体を供給する呼吸治療装置であって、
患者の呼吸フローを計測する呼吸フロー計測手段と、
吸気加速度を取得する取得手段と、
無呼吸を検出する無呼吸検出手段と、
少なくとも無呼吸が検出されていない場合に、吸気加速度、又は、前記気体の供給経路において検出される検出圧力の微分値に基づいて前記気体の圧力を制御する制御手段と、
を備える呼吸治療装置。
【請求項2】
請求項1の呼吸治療装置であって、
前記制御手段は、吸気速度と吸気加速度との関係、又は、吸気速度と前記微分値との関係に基づいて、前記気体の圧力を制御する呼吸治療装置。
【請求項3】
請求項2の呼吸治療装置であって、
前記制御手段は、最大吸気速度に対する最大吸気加速度の大きさ、又は、最大吸気速度に対する前記微分値の大きさに基づいて、前記気体の圧力を制御する呼吸治療装置。
【請求項4】
請求項2の呼吸治療装置であって、
前記制御手段は、吸気加速度が最大吸気加速度となったタイミングにおける、吸気速度に対する最大吸気加速度の大きさ、又は、前記微分値がピークとなったタイミングにおける、吸気速度に対する当該微分値の大きさに基づいて、前記気体の圧力を制御する呼吸治療装置。
【請求項5】
請求項1に記載の呼吸治療装置であって、
前記制御手段は、吸気加速度が最大吸気加速度となる又は前記微分値がピークとなる第1タイミング以降のタイミングであって、第1タイミングを含む呼吸サイクルにおいて吸気速度が最大吸気速度となる第2タイミングよりも前のタイミングで、前記気体の圧力を変化させる呼吸治療装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れかに記載の呼吸治療装置であって、
最大吸気加速度又は前記微分値に基づいて吸気の開始を判定する吸気開始判定手段を備える呼吸治療装置。
【請求項7】
請求項1から請求項5の何れかに記載の呼吸治療装置であって、
無呼吸が検出された場合に、吸気加速度又は前記微分値に基づいて、閉塞性睡眠時無呼吸症候群と中枢性睡眠時無呼吸症候群の何れに関連するかを判定する判定手段を備える呼吸治療装置。
【請求項8】
請求項1から請求項5の何れかに記載の呼吸治療装置であって、
フローリミテーションを検出するフローリミテーション検出手段を備え、
フローリミテーションが検出された場合に、フローリミテーションの期間又はフローリミテーションよりも前の期間における吸気加速度又は前記微分値に関する情報と、フローリミテーションの検出結果と、を表示する表示手段を備える呼吸治療装置。
【請求項9】
請求項1から請求項5の何れかに記載の呼吸治療装置であって、
呼吸努力関連覚醒を検出する呼吸努力関連覚醒検出手段を備え、
呼吸努力関連覚醒が検出された場合に、呼吸努力関連覚醒の期間又は呼吸努力関連覚醒よりも前の期間における吸気加速度又は前記微分値に関する情報と、呼吸努力関連覚醒の検出結果と、を表示する表示手段を備える呼吸治療装置。
【請求項10】
請求項1から請求項5の何れかに記載の呼吸治療装置であって、
吸気加速度が最大吸気加速度となるタイミング又は吸気期間における前記微分値がピークとなるタイミングに基づいて吸気開始タイミングを判定し、呼気加速度が最大呼気加速度となるタイミング又は呼気期間における前記微分値がピークとなるタイミングに基づいて呼気開始タイミングを判定する判定手段と、
前記判定手段の判定に基づいて、I:E比を計測する計測手段と、を備える呼吸治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)の治療に使用される呼吸治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、特許文献1に示されるように、睡眠時無呼吸症候群の治療に使用される呼吸治療装置として、患者の気道に陽圧の気体を供給する持続陽圧気道圧(CPAP:Continuous Positive Airway Pressure)装置と称される装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-117444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
無呼吸により患者が被る循環器系のダメージは大きく、睡眠1時間あたりの無呼吸および低呼吸の合計回数であるAHI(Apenea Hypopnea Index)が5以上であれば、睡眠時無呼吸症候群と診断されうる。そのため、無呼吸が発生する前の段階から適切な圧力の気体を患者に供給して、可能な限り無呼吸を回避することが重要である。
【0005】
本発明は、このような背景のもとになされたものであり、無呼吸が検出される前のできるだけ早い段階で、適切な圧力の気体を患者に供給することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は以下の手段によって解決される。なお、後述する発明を実施するための形態の説明及び図面で使用した符号等を参考のために括弧書きで付記するが、本発明の構成要素は該付記したものには限定されない。本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲内において種々の変更・修正を加えることが可能である。
【0007】
手段1は、患者の気道に陽圧の気体を供給する呼吸治療装置(1)であって、患者の呼吸フローを計測する呼吸フロー計測手段(フロー検出部20、制御部15)と、吸気加速度(吸気加速度、最大吸気加速度)を取得する取得手段(制御部15)と、無呼吸を検出する無呼吸検出手段(制御部15)と、少なくとも無呼吸が検出されていない場合に、吸気加速度([最大吸気加速度/最大吸気フロー]、[最大吸気加速度/最大吸気加速度となったときの吸気フロー])、又は、前記気体の供給経路において検出される検出圧力の微分値に基づいて前記気体の圧力を制御する制御手段(制御部15)と、を備える。
このような構成によれば、無呼吸が検出されていない段階であっても、適切な圧力の気体を患者の気道に供給することができ、無呼吸の発生を抑制することが可能となる。
【0008】
手段2は、手段1の呼吸治療装置であって、
前記制御手段は、吸気速度と吸気加速度との関係([最大吸気加速度/最大吸気フロー]、[最大吸気加速度/最大吸気加速度となったときの吸気フロー])、又は、吸気速度と前記微分値との関係に基づいて、前記気体の圧力を制御する。
このような構成によれば、患者の吸気努力が反映されたパラメータに基づいて、患者に供給する気体の圧力を適切に制御することができる。
【0009】
手段3は、手段2の呼吸治療装置であって、
前記制御手段は、最大吸気速度に対する最大吸気加速度の大きさ(最大吸気加速度/最大吸気フロー)、又は、最大吸気速度に対する前記微分値の大きさに基づいて、前記気体の圧力を制御する。
このような構成によれば、安定的に取得し易いパラメータに基づいて、患者に供給する気体の圧力を適切に制御することができる。
【0010】
手段4は、手段2の呼吸治療装置であって、
前記制御手段は、吸気加速度が最大吸気加速度となったタイミングにおける、吸気速度に対する最大吸気加速度の大きさ([最大吸気加速度/最大吸気加速度となったときの吸気フロー])、又は、前記微分値がピークとなったタイミングにおける、吸気速度に対する当該微分値の大きさに基づいて、前記気体の圧力を制御する。
このような構成によれば、安定的に取得し易いパラメータに基づいて、吸気速度が最大吸気速度に達する前の早いタイミングで、患者に供給する圧力を変化させることができる。
【0011】
手段5は、手段1から手段4の何れかの呼吸治療装置であって、
前記制御手段は、吸気加速度が最大吸気加速度となる又は前記微分値がピークとなる第1タイミング以降のタイミングであって、第1タイミングを含む呼吸サイクルにおいて吸気速度が最大吸気速度となる第2タイミングよりも前のタイミング(吸気加速度が最大吸気加速度に達したタイミングから吸気速度が最大吸気フローに達するタイミングよりも前のタイミング)で、前記気体の圧力を変化させる。
このような構成によれば、第1タイミング及び第2タイミングを含む期間を吸気期間として含む呼吸サイクルにおいて、当該吸気期間内に気体の圧力を変化させることができるため、呼吸サイクル毎に、その吸気期間から適切な圧力の気体を供給することができる。
【0012】
手段6は、手段1から手段5の何れかの呼吸治療装置であって、
最大吸気加速度又は前記微分値に基づいて吸気の開始を判定する吸気開始判定手段(吸気加速度が最大吸気加速度の5%値となるタイミングを吸気開始のタイミングとして判定する制御部15)を備える。
このような構成によれば、吸気の開始を判定して、その吸気に合わせて供給する気体の圧力を変化させることができる。
【0013】
手段7は、手段1から手段6の何れかの呼吸治療装置であって、
無呼吸が検出された場合に、吸気速度と吸気加速度又は前記微分値の関係に基づいて、閉塞性睡眠時無呼吸症候群と中枢性睡眠時無呼吸症候群の何れに関連するかを判定する判定手段(吸気要求指数が上昇しており、且つ、最大吸気フローが低下している場合には閉塞性要因として判定し、吸気要求指数の変化が比較的小さく、且つ、最大吸気加速度と最大吸気フローが何れも低下している場合には中枢性要因として判定する制御部15)を備える。
このような構成によれば、無呼吸が生じた場合に、その無呼吸が閉塞性睡眠時無呼吸症候群と中枢性睡眠時無呼吸症候群の何れに関連しているか把握することができる。
【0014】
手段8は、手段1から手段7の何れかに記載の呼吸治療装置であって、
フローリミテーションを検出するフローリミテーション検出手段(FLを検出する制御部15)を備え、
フローリミテーションが検出された場合に、フローリミテーションの期間又はフローリミテーションよりも前の期間における吸気加速度又は前記微分値に関する情報と、フローリミテーションの検出結果とを表示する表示手段(フローリミテーションの検出期間と、検出期間前から検出期間にかけての吸気要求指数の推移とを、時系列グラフ上に表示させる表示部12)を備える。
このような構成によれば、患者の吸気努力が反映されたパラメータと、フローリミテーションの検出結果との関係に基づいて、無呼吸が検出される前の段階における患者の呼吸状態を把握することができる。
【0015】
手段9は、手段1から手段8の何れかに記載の呼吸治療装置であって、
呼吸努力関連覚醒(RERA)を検出する呼吸努力関連覚醒検出手段(RERAを検出する制御部15)を備え、
呼吸努力関連覚醒が検出された場合に、呼吸努力関連覚醒の期間又は呼吸努力関連覚醒よりも前の期間における吸気加速度又は前記微分値に関する情報と、呼吸努力関連覚醒の検出結果とを表示する表示手段(RERAの検出期間と、検出期間前から検出期間にかけての吸気要求指数の推移とを、時系列グラフ上に表示させる表示部12)を備える。
このような構成によれば、患者の吸気努力が反映されたパラメータと、呼吸努力関連覚醒の検出結果との関係に基づいて、無呼吸が検出される前の段階における患者の呼吸状態を把握することができる。
【0016】
手段10は、手段1から手段9の何れかに記載の呼吸治療装置であって、
吸気加速度が最大吸気加速度となるタイミング又は吸気期間における前記微分値がピークとなるタイミングに基づいて吸気開始タイミングを判定し(例えば、吸気加速度が最大吸気加速度となるタイミングの0.1秒前を吸気開始タイミングと判定し)、呼気加速度が最大呼気加速度となるタイミング又は呼気期間における前記微分値がピークとなるタイミングに基づいて呼気開始タイミングを判定する(例えば、呼気加速度が最大呼気加速度となるタイミングの0.1秒前を呼気開始タイミングと判定する)判定手段(制御部15)と、
前記判定手段の判定に基づいて、I:E比(吸気時間呼気時間比)を計測する計測手段(制御部15)と、を備える。
このような構成によれば、I:E比を高い精度で安定的に計測することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、無呼吸が検出される前のできるだけ早い段階で、適切な圧力の気体を患者に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本実施形態の呼吸治療装置の外観を示す図である。
図2図2は、本実施形態の呼吸治療装置の機能を示す図である。
図3図3は、気体供給部の構成を示す図である。
図4図4は、呼吸フローの例を示す図である。
図5図5は、吸気方法に応じた吸気加速度波形の例を示す図である。
図6図6は、各吸気加速度波形に応じた各パラメータの例を示す図である。
図7図7は、吸気フローと吸気加速度との関係を示す図である。
図8図8は、吸気要求指数の推移を示す図である。
図9図9は、本実施形態の呼吸治療装置において実行されるメイン処理を示す図である。
図10図10は、本実施形態の呼吸治療装置において実行される呼吸判定処理を示す図である。
図11図11は、実験1に用いる実験装置の一例を示す図である。
図12図12は、実験1で供給圧力が6cmHOのときの計測データの一例を示す図である。
図13図13は、実験1で供給圧力が12cmHOのときの計測データの一例を示す図である。
図14図14は、実験2に用いる実験装置の一例を示す図である。
図15図15は、実験2で供給圧力が6cmHOのときの計測データの一例を示す図である。
図16図16は、実験2で供給圧力が6cmHOのときの計測データの一例を示す図である。
図17図17は、実験2で供給圧力が12cmHOのときの計測データの一例を示す図である。
図18図18は、実験2で供給圧力が12cmHOのときの計測データの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施形態の呼吸治療装置について、図面に基づいて説明する。
【0020】
(呼吸治療装置の構成)
図1は、本実施形態の呼吸治療装置1の外観を示図である。図1に示すように、呼吸治療装置1は、表示部12及び操作部14を上面に備える筐体10と、一端が筐体10に接続される呼吸チューブ30と、呼吸チューブ30の他端に接続される呼吸マスク40と、を含む。
【0021】
呼吸マスク40は、患者PAの鼻孔を覆うように装着され、頭部に固定されている。なお、呼吸マスク40は鼻孔のみならず、鼻孔と口の両方を覆うものであってもよい。
患者PAが呼吸を行うと、呼吸マスク40及び呼吸チューブ30を介して呼吸フローが筐体10の内部で計測され、筐体10から排出された気体(大気圧よりも高い圧力の空気)は、呼吸チューブ30及び呼吸マスク40を介して患者の気道に供給される。
【0022】
呼吸治療装置1は、CPAP装置であってもよく、CPAP装置とは称されない装置(例えば人工呼吸装置)であって、CPAPの機能、すなわち持続的に陽圧の気体を患者の気道に供給することができる機能(さらには陽圧を制御する機能)を備えた装置であってもよい。
【0023】
図2は、本実施形態の呼吸治療装置1の機能を示す機能ブロック図である。図3は、呼吸治療装置1の気体供給部を示す図である。図2に示すように、筐体10には、それぞれ、バスBを介して相互に接続される、通信I/F11(インタフェース)、表示部12、音出力部13、操作部14、制御部15、記憶部16、時計部17、フロー検出部20、モータ駆動部21、圧力検出部24が含まれる。また、モータ駆動部21に接続されるモータ22、モータ22によって回転するファン23も含まれる。
【0024】
通信I/F11は、筐体10の外部の装置と各種データの送受信を行う。通信は、有線、無線のいずれで実行されてもよく、互いの通信が実行できるのであれば、どのような通信プロトコルを用いてもよい。通信I/F11は、各種データを制御部15からの指示に従って、外部の装置に送信する。また、通信I/F11は、外部の装置から送信された各種データを受信し、制御部15に伝達する。
【0025】
表示部12は、例えば、フレームバッファに書き込まれた表示データに従って、表示することができる装置により構成される。表示部12は、例えば、タッチパネル、タッチディスプレイ、モニタ(液晶ディスプレイやOELD(organic electroluminescence display))を含む。音出力部13は、音データの出力に利用される。音出力部13は、スピーカなどを含む。
【0026】
操作部14は、呼吸治療装置1の使用者によって操作されることにより、各種設定に必要な情報の入力が行われる。各種設定には、例えば、気体供給開始条件の設定、気体供給終了条件の設定等が含まれる。また、患者情報の入力も行われる。
【0027】
制御部15は、プログラム内に含まれたコードまたは命令によって実現する機能を実行するために物理的に構造化された回路を有し、ハードウェアに内蔵されたデータ処理装置により実現される。制御部15は、例えば、中央処理装置(CPU)、マイクロプロセッサ(microprocessor)、プロセッサコア(processor core)、マルチプロセッサ(multiprocessor)、ASIC(application-specific integrated circuit)、FPGA(field programmable gate array)を含む。
【0028】
記憶部16は、呼吸治療装置1が動作するうえで必要とする各種プログラムや各種データを記憶する機能を有する。記憶部16は、例えば、HDD(hard disk drive)、SSD(solid state drive)、フラッシュメモリ、RAM(random access memory)、ROM(read only memory)など各種の記憶媒体を含む。
【0029】
時計部17は、呼吸治療装置1の内蔵時計であり、時刻情報(計時情報)を出力する。時計部17は、例えば、水晶発振器を利用したクロック等を有して構成される。制御部15は、時計部17の出力に基づいて、計測結果(判定結果を含む)、供給圧力等を、時刻情報と関連付けて記憶部16に記憶させることができる。
【0030】
呼吸フローの計測、呼吸フローに基づく各種判定、供給圧力の制御等を実行するためのプログラムは、記憶部16に記憶される。制御部15がこのプログラムを実行することで、呼吸治療装置1の各機能(例えば、呼吸フロー計測機能、呼吸判定機能、供給圧力制御機能等)が実現される。
【0031】
フロー検出部20は、例えば差圧センサによって構成される。この差圧センサは、例えば図3に示すように、筐体10の気体流入口10Aとファン23との間に設けられる。この差圧センサは、例えば圧力損失を生じさせる抵抗体を含み、抵抗体の前後の差圧(気体流入口10Aとファン23との間の差圧)を検出する。この抵抗体は、例えば整流板であってもよい。差圧センサにより検出された差圧は、例えばアナログ/デジタル変換回路を経てデジタル信号として制御部15に入力される。
【0032】
制御部15は、予め記憶部16に記憶されている差圧と呼吸フロー(呼吸速度といってもよい)との関係を示す関係式又はテーブルを用いて、フロー検出部20から出力された差圧に基づいて呼吸フローを取得する。この関係式又はテーブルには、後述するモータ回転数が含まれるようにしてもよく、圧力検出部24により計測された圧力が含まれるようにしてもよい。
制御部15は、取得した呼吸フローを、時系列データとして記憶部16に記憶させるとともに、表示部12に表示させることができる。
【0033】
モータ駆動部21は、例えばモータアンプによって構成される。このモータアンプは、例えば制御部15から出力された駆動指令に基づいて、駆動電流をモータ22に供給する。駆動指令は、目標とするモータ22の回転数(回転速度)に応じた駆動電流をモータ駆動部21からモータ22に供給させるための指令である。制御部15は、患者に供給する気体の圧力を、駆動指令によって制御することができる。
【0034】
モータ22及びファン23は、筐体10に収容されている。モータ22は、ファン23の駆動源であり、モータ駆動部21から供給される駆動電流に応じた回転数で回転する。ファン23は、モータ22の回転軸に取り付けられている。図3に示すように、ファン23が回転することにより、気体流入口10Aから筐体10内に流入した(吸入された)空気が、ファン23を経由して気体排出口10Bから排出され、呼吸チューブ30及びマスク40を介して患者の気道に供給されることになる。
【0035】
圧力検出部24は、例えば圧力センサによって構成される。この圧力センサは、例えば図3に示すように、筐体10の気体排出口10Bとファン23との間に設けられる。圧力センサにより検出された圧力は、例えばアナログ/デジタル変換回路を経てデジタル信号として制御部15に入力される。
【0036】
なお、モータ22には、不図示のホールセンサが設けられており、ホールセンサは、モータ22の回転に応じた信号を出力する。ホールセンサの出力信号は、モータ駆動部21を介して制御部15への入力に適した信号に変換されてから制御部15に入力される。制御部15は、ホールセンサの出力信号に基づいてモータ22の回転数(モータ回転数)を取得することができる。これにより、制御部15は、圧力検出部24により計測された圧力と、モータ22との回転数との関係を取得することができる。そして、圧力検出部24により計測される圧力が、目標の圧力となるように(所望の圧力の気体が患者に供給されるように)、回転数を設定するとともに、設定した回転数に基づく駆動指令を出力することができる。
【0037】
なお、呼吸治療装置1は、動脈血酸素飽和度(SpO)を計測するパルスオキシメータを含んでもよい。例えば、パルスオキシメータのプローブ(発光部及び受光部)は、患者の指先に装着され、プローブ(受光部)から出力された信号は、制御部15への入力に適した信号に変換されてから制御部15に入力される。制御部15は、入力された信号に基づいて、動脈血酸素飽和度(SpO)を算出する。
【0038】
(呼吸フロー判定)
次に、本実施形態の呼吸治療装置1において計測される呼吸フローに基づいて取得される各種のパラメータに関して説明する。
図4は、呼吸フローと呼吸加速度との関係を示す図であり、上側のグラフが呼吸フロー、下側のグラフが呼吸加速度に対応している。
【0039】
図4には、患者が呼気から吸気に移行したタイミングを、吸気時間軸0として表示している。睡眠中の呼吸フローは姿勢等に大きく影響され、呼吸周期も変化しうることから、呼吸フローに基づいて呼気から吸気への移行タイミングを正確に判定することは困難とされている。特に、低呼吸や無呼吸が発生するような患者の場合は、吸気に移行するタイミングを判定することが困難な期間が比較的長い。
【0040】
一方で、CPAP装置では、呼気時の供給圧力を吸気時の供給圧力よりも低く設定することにより、患者が呼気を行いやすくする場合がある。このような場合には、吸気時に高い供給圧力に戻すために、呼気から吸気への移行タイミングを正確に判定する必要がある。
【0041】
図4の例では、呼気から吸気に移行してから0.1秒経過したタイミングにおける吸気フローの値(吸気速度)を、吸気0.1秒フローとして示している。また、最大吸気加速度を示している。最大吸気加速度は、吸気フローの微分により取得することができる。例えば、吸気フローの微分は、微分回路によって行われるようにしてもよく、制御部15が、演算によって吸気フローを微分してもよい。
【0042】
図4に示すように、吸気加速度が最大吸気加速度となるタイミングは、呼気から吸気に移行してから約0.1秒経過したタイミングとなっている。従って、最大吸気加速度となるタイミングが安定しているのであれば、患者の呼吸サイクルにおいて、呼気から吸気への移行タイミングを、吸気加速度が最大吸気加速度となったタイミングに基づいて判定することが可能である。
【0043】
図5は、患者の呼吸パターンに応じた吸気加速度の波形を示す図であり、図6は、各呼吸パターンで取得されるパラメータの例を示す図である。図5について、(1)は、患者がゆっくりと吸気を行った場合(吸気速度が遅い場合)の波形であり、(2)は、患者が普通に吸気を行った場合(吸気速度が普通の場合)の波形であり、(3)は、患者がすばやく吸気を行った場合(吸気速度が速い場合)の波形である。(1)~(3)のいずれについても、サンプリング数は1秒あたり100であり、制御部15が、吸気フローを時間幅0.1秒で微分することにより吸気加速度を取得している。
【0044】
図5(1)に示される第1例では、吸気開始から0.12秒後に、吸気加速度が最大(-74L/M・S)となっている(図6の第1例を参照)。
図5(2)に示される第2例では、吸気開始から0.10秒後に、吸気加速度が最大(-260L/M・S)となっている(図6の第2例を参照)。
図5(3)に示される第3例では、吸気開始から0.11秒後に、吸気加速度が最大(-408L/M・S)となっている(図6の第3例を参照)。
【0045】
このように、吸気をどのような速度で行うかによらず、吸気加速度が最大となるタイミングは、吸気開始から0.1秒前後(概ね0.08~0.15)の範囲となることが確認された。本例では、最大吸気加速度が取得された後に、吸気開始のタイミングが、吸気加速度が最大吸気加速度の5%に達したタイミングであるとして、事後的に、そのタイミングを吸気開始タイミングと設定している。
【0046】
なお、吸気開始のタイミングを、吸気加速度ではなく、他のパラメータに基づいて設定するようにしてもよい。例えば、吸気フローが0.1秒(例えば10ポイント)連続で増加した場合に、事後的に、1ポイント目(0.01秒)のタイミングで吸気が開始されていたと判定するようにしてもよい。
例えば、吸気開始のタイミングから0.1秒経過したタイミングにおける吸気加速度(吸気0.1秒加速度)を、最大吸気加速度として用いてもよい。
【0047】
図6は、第1例、第2例、第3例のそれぞれについての、最大吸気加速度(L/M・S)と、最大吸気加速度の5%値(L/M・S)と、吸気開始から0.1秒経過したタイミングにおける吸気フローの値である吸気0.1秒フロー(L/M)と、最大吸気フロー(L/M)と、吸気加速度が5%値から最大吸気加速度(100%値)に達するまでの時間(S)と、を示している。
【0048】
呼吸フローに基づいて取得されたこれらのパラメータは、時刻情報と関連付けて記憶部16に記憶され、時系列データとして表示部12に表示させることが可能となっている。これらのパラメータは、気体の供給圧制御、閉塞性睡眠時無呼吸症候群と中枢性睡眠時無呼吸症候群の判定等に用いることができる。
【0049】
図7は、第3例における吸気加速度と、第3例に対応する吸気フローとを比較した図である。前述したように、吸気が開始されてから約0.1秒経過したタイミングで吸気加速度がピーク(最大吸気加速度)に達する。そして、吸気加速度がピークに達してから約0.1秒程度遅れたタイミングで、吸気フローがピーク(最大吸気フロー)に達する。
【0050】
ここで、呼吸運動は以下の順序で行われる。
(1)血液ガス(PaO2、PaCO2)情報を呼吸中枢が感知する。
(2)感知した情報に応じて呼吸筋が動作して胸腔内圧が変化する。
(3)胸腔内圧変化に応じて肺胞内圧が変化する。
(4)肺胞内圧変化と気道の閉塞状態(気道抵抗の大小)に応じた呼吸フローが検出される。
【0051】
本実施形態では、最大吸気フローに対する最大吸気加速度の割合を、吸気要求指数としている。吸気要求指数は、患者により行われた吸気努力に対して、実際にどの程度の吸気が行われたかを示す指標であり、患者の吸気に対する要求度を示すものとしている。すなわち、上記(1)~(3)の吸気努力に対して、(4)で検出される吸気フローがどの程度のものとなるかを示すものである。
【0052】
最大吸気加速度に対して最大吸気フローが相対的に小さくなれば、吸気要求指数の値が上昇する。すなわち、吸気要求指数の上昇は、患者の吸気努力(吸気加速度の変化)に実際の吸気(吸気フロー)が追随できていないことを示しており、気道が閉塞しつつあることが示唆されると考えられる。
一方で、吸気要求指数の低下は、患者の吸気努力(吸気加速度の変化)に実際の吸気(吸気フロー)が追随するようになってきていることを示しており、気道の閉塞が解消されつつあることが示唆されると考えられる。
【0053】
本実施形態において、呼吸要求指数は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群と中枢性睡眠時無呼吸症候群の判定に用いることができる。閉塞性睡眠時無呼吸症候群の場合は、上述した理由により吸気要求指数が上昇し、最大吸気フローは低下すると考えられる。
しかしながら、中枢性睡眠時無呼吸症候群の場合は、上記(1)から(2)の過程で、呼吸筋の動作が生じないか又は生じても極めて小さいことから、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の場合と比較して吸気要求指数の変化が小さく、最大吸気加速度と最大吸気フローが何れも低下すると考えられる。
【0054】
なお、吸気要求指数は、例えば、[吸気加速度が最大となるタイミングにおける吸気フローの値]に対する最大吸気加速度の割合、であってもよい。ここで、吸気加速度が最大となるタイミングが、吸気開始から約0.1秒経過したタイミングであることに基づいて、[吸気加速度が最大となるタイミングにおける吸気フローの値]として、吸気0.1秒フローの値を用いてもよい。
これにより、吸気フローが最大になるまで待つことなく、吸気加速度が最大となったときに吸気要求指数を取得することができる。その吸気要求指数に基づいて、吸気フローが最大となる前に気体の供給圧力を変化させ、吸気フローが最大となるタイミングの前後の期間を含めて、変更後の適切な圧力の気体を患者の気道に供給できる。
【0055】
前述したように、本実施形態の呼吸要求指数は、呼吸運動を反映している。そのため、患者の呼吸に異常がみられる場合には、それまでの呼吸要求指数の推移が参考となる。
【0056】
図8は、吸気要求指数の推移を示す図である。患者が入眠してから(T1)、上気道が徐々に閉塞することに伴って、吸気要求指数は上昇する。すなわち、この吸気要求指数の上昇は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群に関連しうる。そして、上気道の閉塞が進行して呼吸フローが平坦化すると、フローリミテーション(FL:Flow Limitation)と判定される(T2)。
【0057】
例えば、制御部15は、10秒間の呼吸フロー(概ね3回の呼吸サイクル)について、各呼吸サイクルのピークトゥピークが、何れも基準値(例えば、入眠後の、未だ異常な呼吸イベントが発生していない期間におけるピークトゥピークの平均値)の70%未満である場合に、FLと判定するようにしてもよい。
【0058】
また、無呼吸や低呼吸の基準を満たさないが、最低10秒以上持続する吸気努力(食道内圧)の増加、あるいは呼吸フローの平定化(FL)を伴った呼吸イベントが、睡眠からの覚醒反応を伴った場合に、呼吸努力関連覚醒反応(RERA:Respiratory effort related arousal)と判定される(T3)。
【0059】
例えば、制御部15は、FLの検出後に、急激に呼吸フローが増加した場合(例えば、10秒間の呼吸フロー(概ね3回の呼吸サイクル)について、ピークトゥピークの平均値が、その前の10秒間の呼吸フローと比較して50%以上増加した場合)に、RERAと判定するようにしてもよい。
【0060】
また、呼吸フローが基準振幅の10%未満に減少したか又は停止している状態が10秒以上持続すると、無呼吸と判定される。
また、呼吸フローの基準振幅が30-50%以上減少した上、(1)3-4%以上の動脈血酸素飽和度(SpO)の低下、(2)脳波上の覚醒反応のいずれかがみられる状態が、低呼吸と判定される。
なお、呼吸治療装置1が、パルスオキシメータを備えていない場合、制御部15は、例えば、呼吸フローの基準振幅が30-50%以上減少したときに低呼吸と判定してもよい。
【0061】
(呼吸治療装置の処理)
図9は、制御部15により実行されるメイン処理を示すフローチャートである。
制御部15は、呼吸フローの計測を行い(S110)、呼吸フローから最大吸気フローと、最大吸気加速度を取得し(S120)、吸気要求指数(例えば、吸気要求指数=最大吸気加速度÷最大吸気フロー)を算出する(S130)。
そして、制御部15は、吸気要求指数に基づいて気体の供給圧力を制御する(S150)。なお、供給圧力の初期値(睡眠開始時点における圧力)は、例えば、4cmHOとする。
【0062】
例えば、制御部15は、無呼吸や低呼吸、さらには、FLやRERAが何れも検出されていない場合であっても、3回連続して吸気要求指数が上昇した場合には、供給圧力を1cmHO上げ、それでも10秒以上吸気要求指数が低下しない場合には、さらに供給圧力を1cmHO上げ、吸気要求指数が低下するまで、又は、供給圧力が20cmHOに達するまで(あるいは予め設定していた上限値に達するまで)、供給圧力を段階的に上げ続ける。
【0063】
例えば、制御部15は、4回連続して吸気要求指数が低下した場合には、供給圧力を1cmHO下げ、それでも10秒以上吸気要求指数が上昇しない場合には、さらに供給圧力を1cmHO下げ、吸気要求指数が上昇するまで、又は、供給圧力が4cmHOに達するまで(あるいは予め設定していた下限値に達するまで)、供給圧力を段階的に下げ続ける。
【0064】
このように、無呼吸や低呼吸、さらには、FLやRERAが何れも検出されていない段階から、患者の呼吸要求に応じて気体の圧力を制御することで、これらの異常な呼吸イベントの発生を抑制することができる。
また、本実施形態では、供給圧力の制御のために複雑な条件や閾値を設定することなく、患者の吸気加速度が大きいものの、その吸気加速度に応じた吸気は行われていないと判定されたときに、適切な圧力の気体を供給することができる。
【0065】
次いで、制御部15は、計測された呼吸フローに基づいて、呼吸判定処理を実行する(S200)。図10は、制御部15により実行される呼吸判定処理を示すフローチャートである。
制御部15は、FLを検出した場合(S210でYES)、FLの検出期間と、その検出期間及びその前の所定期間(例えば30秒間)における吸気要求指数の推移と、を把握できる態様(例えば、図8に示す時系列グラフにより対比可能な態様)により、表示部12に表示させる(S220)。
これにより、FLと吸気要求指数の関係を、容易に把握することができる。
【0066】
制御部15は、RERAを検出した場合(S230でYES)、RERAの検出期間と、その検出期間及びその前の所定期間(例えば30秒間)における吸気要求指数の推移と、を把握できる態様(例えば、図8に示す時系列グラフにより対比可能な態様)により、表示部12に表示させる(S240)。
これにより、RERAと吸気要求指数の関係を、容易に把握することができる。
【0067】
制御部15は、低呼吸又は無呼吸を検出した場合(S250でYES)、その低呼吸又は無呼吸が、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、中枢性睡眠時無呼吸症候群の何れに関連しうるのかを判定する(S260)。
例えば、3回連続で、吸気要求指数が上昇しており、且つ、最大吸気フローが低下している場合には閉塞性要因として判定する。また、吸気要求指数が3回連続で上昇しておらず(1回または2回連続で上昇しているか、または低下しており)、且つ、最大吸気加速度と最大吸気フローが何れも低下している場合には中枢性要因として判定する。
【0068】
制御部15は、低呼吸又は無呼吸の検出期間と、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、中枢性睡眠時無呼吸症候群の何れに関連しうるのかの判定結果と、低呼吸又は無呼吸の検出期間及びその前の所定期間(例えば30秒間)における吸気要求指数の推移と、を把握できる態様(例えば、図8に示す時系列グラフにより対比可能な態様)により、表示部12に表示させる。
これにより、低呼吸又は無呼吸と、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、中枢性睡眠時無呼吸症候群の何れに関連しうるのかと、吸気要求指数と、の関係を容易に把握することができる。
【0069】
(変形例1)
上記の実施形態では、最大吸気加速度を最大吸気フロー等で除した呼吸要求指数に基づいて、供給圧力の制御を行ったが、このような形態に限らず、最大吸気加速度の増減と、最大吸気フローの増減とに基づいて、供給圧力を制御してもよい。例えば、最大吸気加速度が3回連続して増加し、且つ、最大吸気フローが3回連続して基準振幅の80%未満になった場合に、供給圧力を1cmHO上げ、それでも最大吸気フローが10秒以上、基準振幅の80%以上にならない場合には、さらに供給圧力を1cmHO上げ、最大吸気フローが基準振幅の80%以上になるまで、又は、供給圧力が20cmHOに達するまで(あるいは予め設定していた上限値に達するまで)、供給圧力を段階的に上げ続けるようにしてもよい。
【0070】
例えば、制御部15は、最大吸気加速度が4回連続して減少し、且つ、最大吸気フローが4サイクル連続して基準振幅の80%以上になった場合に、供給圧力を1cmHO下げ、それでも最大吸気フローが10秒以上、基準振幅の80%以上である場合には、さらに供給圧力を1cmHO下げ、最大吸気フローが基準振幅の80%未満になるまで、又は、供給圧力が4cmHOに達するまで(あるいは予め設定していた下限値に達するまで)、供給圧力を段階的に下げ続けるようにしてもよい。
【0071】
なお、制御部15は、無呼吸又は低呼吸が検出された場合に、無呼吸又は低呼吸が検出されるまでの所定期間(例えば30秒)において、未だ異常な呼吸イベントが発生していない期間と比較して、最大吸気加速度の平均値が増加しており、且つ、最大吸気フローの平均値が減少していた場合には、閉塞性睡眠時無呼吸症候群に関連していると判定し、最大吸気加速度の平均値が減少し、且つ、最大吸気フローの平均値も減少していた場合には、中枢性睡眠時無呼吸症候群に関連していると判定してもよい。
また、FL、RERA、低呼吸又は無呼吸等が検出された場合に、それらの呼吸イベントの検出期間と、最大吸気加速度の推移及び最大吸気フローの推移を、対比可能な態様(例えば、図8のグラフ態様)で表示してもよい。
【0072】
(変形例2)
また、上記の実施形態では、最大吸気加速度と、吸気フローとの関係に基づいて、供給圧力の制御を行ったが、このような形態に限らず、最大吸気加速度のみに基づいて、供給圧力を制御してもよい。例えば、最大吸気加速度が3回連続して増加した場合に、供給圧力を1cmHO上げ、それでも最大吸気加速度が10秒以上低下しない場合には、さらに供給圧力を1cmHO上げ、最大吸気加速度が低下するまで、又は、供給圧力が20cmHOに達するまで(あるいは予め設定していた上限値に達するまで)、供給圧力を段階的に上げ続けるようにしてもよい。
【0073】
例えば、制御部15は、最大吸気加速度が4回連続して減少した場合に、供給圧力を1cmHO下げ、それでも最大吸気加速度が10秒以上増加しない場合には、さらに供給圧力を1cmHO下げ、最大吸気加速度が増加するまで、又は、供給圧力が4cmHOに達するまで(あるいは予め設定していた下限値に達するまで)、供給圧力を段階的に下げ続けるようにしてもよい。
【0074】
なお、制御部15は、無呼吸又は低呼吸が検出された場合に、無呼吸又は低呼吸が検出されるまでの所定期間(例えば30秒)において、未だ異常な呼吸イベントが発生していない期間と比較して、最大吸気加速度の平均値が増加していた場合には、閉塞性睡眠時無呼吸症候群に関連していると判定し、最大吸気加速度の平均値が減少していた場合には、中枢性睡眠時無呼吸症候群に関連するしていると判定してもよい。
また、FL、RERA、低呼吸又は無呼吸等が検出された場合に、それらの呼吸イベントの検出期間と、最大吸気加速度の推移を、対比可能な態様(例えば、図8のグラフ態様)で表示してもよい。
【0075】
(変形例3)
呼吸治療装置1が、オシレーション機能を備えるようにしてもよい。例えば、0Hz~100Hzの音波を、マスク40内(患者の鼻腔又は口腔)に送信し、その反射波を受信して、周波数毎の反射特性を計測する機能を有するようにしてもよい。そして、計測結果が、上気道閉塞パターンに合致するか、中枢性パターンに合致するかによって、無呼吸又は低呼吸が検出された場合に、閉塞性睡眠時無呼吸症候群に関連しているか、中枢性睡眠時無呼吸症候群に関連しているかを判定してもよい。
【0076】
このような構成を備えている場合、制御部15は、無呼吸又は低呼吸が検出された場合に、例えば、最大吸気加速度に基づいて閉塞性睡眠時無呼吸症候群と判定することができず(閉塞性の条件に合致せず)、また、最大吸気加速度に基づいて中枢性睡眠時無呼吸症候群と判定することもできない(中枢性の条件にも合致しない)ときに、オシレーション機能に基づいて、その無呼吸又は低呼吸が、閉塞性睡眠時無呼吸症候群に関連しているか、中枢性睡眠時無呼吸症候群に関連しているかを判定してもよい。
【0077】
[検出圧力の微分値に関する実験1]
上記の実施形態では、吸気加速度が最大吸気加速度となるタイミングが、呼気から吸気に移行してから約0.1秒経過したタイミングであるとしている。ただし、CPAP装置は、患者の睡眠中に使用されるものであることから、睡眠中の姿勢の変化を考慮して、陽圧を患者に供給するための経路(CPAP筐体からマスクまでの呼吸経路)を比較的長く構成しているのが通常である。
【0078】
従って、CPAP装置で比較的長い呼吸経路を設定した場合に、最大吸気加速度が検出されるタイミングと、吸気開始が検出されるタイミングとの関係として、上記の関係が維持されているか否かが実用上の問題となる。以下の実験では、筐体10の気体排出口10B(陽圧供給口)からマスク40までの呼吸経路の長さを合計225cmとして、呼吸経路の2箇所にフロー測定装置を設置し、吸気加速度が最大吸気加速度となるタイミングと、吸気開始のタイミングとを測定した。
【0079】
図11は、実験1に用いる実験装置の一例を示す図である。CPAP装置の筐体10の気体排出口10B(陽圧供給口)には、長さが30cmの第1呼吸チューブ30aの一端が接続されており、第1呼吸チューブ30aの他端は、呼吸フローを測定する第1フロー測定装置50aの気体流入口に接続されている。第1フロー測定測値50aの気体排出口10Bには、長さが150cmの第2呼吸チューブ30bの一端が接続されており、第2呼吸チューブ30bの他端は、呼吸フローを測定する第2フロー測定装置50aの気体流入口に接続されている。第2フロー測定測値50aの気体排出口10Bには、長さが45cmの第3呼吸チューブ30cの一端が接続されており、第3呼吸チューブ30cの他端は、マスク40に接続されている。第1呼吸チューブ30a、第2呼吸チューブ30b、及び、第3呼吸チューブ30cは、何れも内径が22mmである。
【0080】
図12は、供給圧力を6cmHOに設定したときの、第1フロー測定装置50aによって測定される気体流入口側のフロー(以下、「第1フロー」と称する)と、第1フローに基づく加速度(以下、「第1加速度」と称する)と、第2フロー測定装置50bによって測定される気体流入口側のフロー(以下、「第2フロー」と称する)と、第2フローに基づく加速度(以下、「第2加速度」と称する)と、の関係を示す図である。
【0081】
図13は、供給圧力を12cmHOに設定したときの、「第1フロー」と、「第1加速度」と、「第2フロー」と、「第2加速度」と、の関係を示す図である。
【0082】
図12図13に示されるように、第1フローと第2フローとは概ね一致しており(重畳しており)、結果として、第1加速度と第2加速度とも概ね一致している(重畳している)。すなわち、実用を想定した陽圧の供給経路における何れの位置でも、患者のフロー及び加速度は安定的に計測されることが確認された。また、加速度に関しては、吸気加速度が最大吸気加速度となるタイミングの約0.1秒前が、呼気から吸気への移行タイミングとなっており、呼気加速度が最大呼気加速度となるタイミングの約0.1秒前が、吸気から呼気への移行タイミングとなっている。
【0083】
実験1の結果より、陽圧の供給経路上で、フローのサンプリング位置によって、吸気加速度が最大となるタイミングと呼気から吸気への移行タイミングとの関係は変化しないことが確認された。また、陽圧の供給経路上で、フローのサンプリング位置によって、呼気加速度が最大となるタイミングと吸気から呼気への移行タイミングとの関係は変化しないことが確認された。
すなわち、呼気から吸気への移行タイミングを最大吸気加速度に基づいて判定し、吸気から呼気への移行タイミングを最大呼気加速度に基づいて判定することが、実用上も可能であることが確認された。
【0084】
[検出圧力の微分値に関する実験2]
図14は、実験2に用いる実験装置の一例を示す図である。実験1に用いた実験装置から、第2フロー測定装置50bを取り外して、長さが150cmの第2呼吸チューブ30bの他端を、長さが45cmの第3呼吸チューブ30cの一端に接続している。
この実験装置を用いて、検出圧力の変動、並びに、フロー及び加速度を計測した。
【0085】
図15に示されるように、供給圧力が6cmHOに設定されている場合、検出圧力とフローとの関係は、概ね上下対称の関係となっている。すなわち、検出圧力は、フローの増加に伴って減少し、フローの減少に伴って増加する。そして、吸気加速度が最大吸気加速となるタイミングの前後で急激に減少し、呼気加速度が最大呼気加速度となるタイミングの前後で急激に増加する。
【0086】
図16は、供給圧力が6cmHOに設定されている場合における、検出圧力の微分値と、加速度との比較結果を示す図である。ただし、本図では、検出圧力の微分値を平均値を基準に反転させている。検出圧力の微分値の変化と、加速度の変化とは概ね一致しており(重複しており)、吸気加速度が最大吸気加速度となるタイミングで、検出圧力の微分値が正のピークとなり、呼気加速度が最大呼気加速度となるタイミングで、検出圧力の微分値が負のピークとなる。
【0087】
図17に示される、供給圧力が12cmHOに設定されている場合の例でも、検出圧力とフローとの関係は、概ね上下対称の関係となっている。また、図18に示される、供給圧力が12cmHOに設定されている場合の例でも、検出圧力の微分値の変化と、加速度の変化とは概ね一致している(重複している)。
【0088】
これらの結果から、上記の実施形態において示した、最大吸気加速度に基づく判定・制御は、検出圧力の微分値(吸気期間のピーク値)に基づく判定・制御に置き代えることが可能である。また、最大呼気加速度に基づく判定・制御は、検出圧力の微分値(呼気期間のピーク値)に基づく判定・制御に置き代えることが可能である。
【0089】
すなわち、上記の実施形態では、最大吸気フローに対する最大吸気加速度の割合を、吸気要求指数としているが、これに限らず、吸気要求指数は、[最大吸気フロー]に対する[検出圧力微分値の吸気期間ピーク値]の割合であってもよい。
また、吸気要求指数は、例えば、[検出圧力微分値が吸気期間においてピークとなるタイミングにおける吸気フローの値]に対する[検出圧力微分値の吸気期間ピーク値]の割合であってもよい。ここで、検出圧力微分値が吸気期間においてピークとなるタイミングが、吸気開始から約0.1秒経過したタイミングであることに基づいて、[検出圧力微分値が吸気期間においてピークとなるタイミングにおける吸気フローの値]として、吸気0.1秒フローの値を用いてもよい。
【0090】
また、(1)最大吸気加速度に基づく判定・制御(第1方式の判定・制御と称する)と、検出圧力の微分値(吸気期間のピーク値)に基づく判定・制御(第2方式の判定・制御と称する)の、何れの方式を採用するのかを選択できるようにしてもよい。例えば、表示部12に、第1方式の判定・制御に対応した第1アイコン画像と、第2方式の判定・制御に対応した第2アイコン画像とを表示させ、使用者が、操作部14の操作によって第1アイコン画像を選択した場合には、第1方式の判定・制御が制御部15によって実行され、使用者が第2アイコン画像を選択した場合には、第2方式の判定・制御が制御部15によって実行されるようにしてもよい。
【0091】
また、第1方式の判定・制御と、第2方式の判定・制御とを同時に実行する(共通の計測データに対して両方式の判定・制御を実行する)ようにしてもよい。そして、第1方式の判定・制御により得られた計測データと、第2方式の判定・制御により得られた計測データとを表示部12に、対比可能に表示するようにしてもよい。
【0092】
[I:E比の計測]
上述したように、吸気加速度が最大吸気加速度となるタイミングの約0.1秒前に吸気か開始されており(呼気から吸気に移行しており)、呼気加速度が最大呼気加速度となるタイミングの約0.1秒前に呼気が開始されている(吸気から呼気に移行している)。制御部15は、これにより、吸気期間と、呼気期間とを特定して、I:E比(吸気時間呼気時間比)を計測することができる。
【0093】
例えば、実験1において、供給圧力が6cmHOに設定されている場合、吸気期間は1.10秒であり、呼気期間は3.56秒であり、I:E比は、1:3.23となった。また、実験1において、供給圧力が12cmHOに設定されている場合、吸気期間は0.94秒であり、呼気期間は3.19秒であり、I:E比は、1:3.39となった。このようにして、I:E比を高い精度で安定的に計測することができる。
【符号の説明】
【0094】
1… 呼吸治療装置
12… 表示部
15… 制御部
16… 記憶部
20… フロー検出部
22… モータ
23… ファン
24… 圧力検出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18