IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-光学デバイス 図1
  • 特開-光学デバイス 図2
  • 特開-光学デバイス 図3
  • 特開-光学デバイス 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153048
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】光学デバイス
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/035 20060101AFI20231005BHJP
   G02B 6/12 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G02F1/035
G02B6/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056129
(22)【出願日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】202210330416.4
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 健司
(72)【発明者】
【氏名】田家 裕
(72)【発明者】
【氏名】アンソニー・レイモンド・メラド・ビナラオ
(72)【発明者】
【氏名】王 進武
【テーマコード(参考)】
2H147
2K102
【Fターム(参考)】
2H147AA02
2H147AB02
2H147AB11
2H147AC01
2H147BG11
2H147BG19
2H147DA11
2H147EA02B
2H147EA05A
2H147EA10B
2H147EA15C
2H147FA03
2H147FA09
2H147FA18
2H147FA29
2H147FC01
2H147FC05
2H147GA12
2H147GA19
2K102AA21
2K102BA02
2K102BB01
2K102BB04
2K102BD01
2K102CA00
2K102CA30
2K102DA04
2K102DB04
2K102DB08
2K102DD05
2K102EA02
2K102EA16
2K102EB01
(57)【要約】
【課題】本発明は、光導波路において微小クラックを発生することが抑制できることにより、光の伝送損失を減少する光学デバイスを提供する。
【解決手段】本発明は、基板と、前記基板上の所定の領域に設け、電気光学材料膜から形成される光導波路と、前記光導波路に隣接して形成される保護層と、前記所定の領域外に設けられる未透光の光導波路と、を備え、前記未透光の光導波路の表面粗さはRMS0.5nm以上である、光学デバイスを提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上の所定の領域に設け、電気光学材料膜から形成される光導波路と、
前記光導波路に隣接して形成される保護層と、
前記所定の領域外に設けられる未透光の光導波路と、を備え、
前記未透光の光導波路の表面粗さはRMS0.5nm以上であることを特徴とする光学デバイス。
【請求項2】
前記未透光の光導波路は、前記基板の上から見たときに、前記未透光の光導波路の長手方向が所定方向に沿っていることを特徴とする請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項3】
前記光導波路は直線部を有し、
前記未透光の光導波路は、前記基板の上から見たときに、前記未透光の光導波路の一辺が前記光導波路の直線部に沿っていることを特徴とする請求項2に記載の光学デバイス。
【請求項4】
前記未透光の光導波路は、前記基板の上から見たときに、矩形状であり、前記未透光の光導波路の長手側の一辺が前記光導波路の直線部に沿っていることを特徴とする請求項2または3に記載の光学デバイス。
【請求項5】
前記未透光の光導波路は、前記光導波路の直線部の近傍に設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の光学デバイス。
【請求項6】
前記未透光の光導波路の表面粗さの形状は、前記基板と交差する方向から見るときに、縦ストライプ状であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の光学デバイス。
【請求項7】
前記未透光の光導波路の表面粗さはRMS1.0nm以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の光学デバイス。
【請求項8】
前記未透光の光導波路を複数有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の光学デバイス。
【請求項9】
前記未透光の光導波路と前記光導波路との膜厚は略同一であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の光学デバイス。
【請求項10】
前記電気光学材料膜は、LiNbOからなる膜であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の光学デバイス。
【請求項11】
前記電気光学材料膜は、LiNbOに、少なくともTiがドーピングされている膜であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の光学デバイス。
【請求項12】
前記電気光学材料膜は、エピタキシー膜であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の光学デバイス。
【請求項13】
前記エピタキシー膜は、前記基板と交差する方向に配向されていることを特徴とする請求項12に記載の光学デバイス。
【請求項14】
基板と、
前記基板上の所定の領域に設け、電気光学材料膜から形成される光導波路と、
前記光導波路に隣接して形成される保護層と、
前記光導波路に電界を印加する電極と、
前記所定の領域外に設けられる未透光の光導波路と、を備え、
前記未透光の光導波路の表面粗さはRMS0.5nm以上であることを特徴とする光変調器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信用および光学計測分野の光学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットの普及に伴い通信量は飛躍的に増大しており、光ファイバ通信の重要性が非常に高まっている。光ファイバ通信は、電気信号を光信号に変換し、光信号を光ファイバにより伝送するものであり、広帯域、低損失、ノイズに強いという特徴を有する。
【0003】
電気信号を光信号に変換する方式としては、半導体レーザによる直接変調方式と光変調器を用いた外部変調方式が知られている。直接変調は光変調器が不要で低コストであるが、高速変調には限界があり、高速で長距離の用途では外部変調方式が使われている。
【0004】
光変調器としては、ニオブ酸リチウム単結晶基板の表面付近にTi(チタン)拡散により光導波路を形成したマッハツェンダー型光変調器が実用化されている(特許文献1参照)。マッハツェンダー型光変調器は、1つの光源から出た光を2つに分け、異なる経路を通過させた後、再び重ね合わせて干渉を起こさせるマッハツェンダー干渉計の構造を有する光導波路(マッハツェンダー光導波路)を用いるものであり、マッハツェンダー干渉計を適用したマッハツェンダー型光変調器は、各種の変調光を生成するのに用いられておる。40Gb/s以上の高速の光変調器が商用化されているが、全長が10cm前後と長いことが大きな欠点になっている。
【0005】
これに対して、特許文献2には、ニオブ酸リチウム膜を用いたマッハツェンダー型光変調器が開示されている。ニオブ酸リチウム膜(LN膜)を用いた光変調器は、ニオブ酸リチウム単結晶基板を用いた光変調器と比較して、大幅な小型化及び低駆動電圧化が図れている。特許文献2には、基板上にLN膜を形成する工程やLN膜をエッチングして基板上に光導波路を形成する工程により、十分な光の閉じ込めの効果が得られるため、電気光学デバイスの動作を高速化する。
【0006】
LN膜を用いた光導波路において、光の進入を制限して駆動電圧を低下することが重要であるため、LN膜の品質を重視し、保護層との密着性を注意する必要があり、LN膜上に微小クラックを発生することを避ける。
【0007】
例えば、保護層として低屈折率の窒化シリコンを有し、光導波路であるLN膜と隣接して形成するため、LN膜と保護層を構成する材料との膨脹係数が異なるに起因する応力の影響によって、光の伝送損失を引き起こすことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-221874号公報
【特許文献2】特開2006-195383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、光の伝送損失の少ない光学デバイスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一つの実施形態は、基板と、前記基板上の所定の領域に設け、電気光学材料膜から形成される光導波路と、前記光導波路に隣接して形成される保護層と、前記所定の領域外に設けられる未透光の光導波路と、を備え、前記未透光の光導波路の表面粗さはRMS0.5nm以上である、光学デバイスを提供する。
【0011】
本発明の光学デバイスによれば、未透光の光導波路を設けることにより、保護層から光導波路膜に印加する応力を減少し、光導波路上に微小クラックの発生を抑制することにより、光の伝送損失を減少する。なお、未透光の光導波路を粗面化することにより、ニオブ酸リチウムと窒化シリコンとの膨脹係数が異なることに起因した応力の影響を低下し、さらに光導波路において微小クラックを発生することが抑制することにより、光の伝送損失を減少する。
【0012】
また、本発明の光学デバイスにおいて、好ましくは、前記未透光の光導波路は、前記基板の上から見たときに、その長手方向が所定方向に沿っている。
【0013】
また、本発明の光学デバイスにおいて、好ましくは、前記光導波路は直線部を有し、前記未透光の光導波路は、前記基板の上から見たときに、その一辺が前記光導波路の直線部に沿っている。
【0014】
また、本発明の光学デバイスにおいて、好ましくは、前記未透光の光導波路は、前記基板の上から見たときに、矩形状であり、その長手側の一辺が前記光導波路の直線部に沿っている。
【0015】
また、本発明の光学デバイスにおいて、好ましくは、前記未透光の光導波路は、前記光導波路の直線部の近傍に設けられている。
【0016】
また、本発明の光学デバイスにおいて、好ましくは、前記未透光の光導波路の表面粗さの形状は、前記基板と交差する方向から見るときに、縦ストライプ状(縦縞状)である。
【0017】
また、本発明の光学デバイスにおいて、好ましくは、前記未透光の光導波路の表面粗さはRMS1.0nm以上である。
【0018】
また、本発明の光学デバイスにおいて、好ましくは、前記未透光の光導波路は複数を有する。
【0019】
また、本発明の光学デバイスにおいて、好ましくは、前記未透光の光導波路と前記光導波路との膜厚は略同一である。
【0020】
また、本発明の光学デバイスにおいて、好ましくは、前記電気光学材料膜は、LiNbOからなる膜である。
【0021】
また、本発明の光学デバイスにおいて、好ましくは、前記電気光学材料膜は、LiNbOに、少なくともTiがドーピングされている膜である。
【0022】
また、本発明の光学デバイスにおいて、好ましくは、前記電気光学材料膜は、エピタキシャル膜である。
【0023】
また、本発明の光学デバイスにおいて、好ましくは、前記エピタキシャル膜は、前記基板と交差する方向に配向されている。
【0024】
本発明の別の実施形態は、基板と、前記基板上の所定の領域に設け、電気光学材料膜から形成される光導波路と、前記光導波路に隣接して形成される保護層と、前記光導波路に電界を印加する電極と、前記所定の領域外に設けられる未透光の光導波路と、を備え、前記未透光の光導波路の表面粗さはRMS0.5nm以上である、光変調器を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の光学デバイスおよびそれを備える光変調器によれば、光の伝送損失を効果的に減少することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1(a)および図1(b)は、本発明の第一の実施形態の光学デバイスを有する光変調器100を示している平面図であり、図1(a)は光導波路のみを示しており、図1(b)は図1(a)に示す光学デバイス及び進行波電極を備える光変調器100の全体を示している。
図2図1(a)および図1(b)のA-A’線に沿う光変調器100の模式的な断面図である。
図3図3(a)および図3(b)は、本発明の第二の実施形態の光学デバイスを有する光変調器200を示している図であり、図3(a)は光変調器200の光導波路のみを示している平面図である。図3(b)は図3(a)のA-A’線に沿う光変調器200の模式的な断面図である。
図4図4(a)および図4(b)は、本発明の第三の実施形態の光学デバイスを有する光変調器300を示している図であり、図4(a)は光変調器300の光導波路のみを示している平面図である。図4(b)は図4(a)のA-A’線に沿う光変調器300の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳しく説明する。
【0028】
図1(a)および図1(b)は、本発明の第一の実施形態の光学デバイスを有する光変調器100を示している平面図であり、図1(a)は光導波路のみを示しており、図1(b)は図1(a)に示す光学デバイス及び進行波電極を備える光変調器100の全体を示している。
【0029】
図1(a)に示すように、該光変調器100が有する光学デバイスは、マッハツェンダー光導波路10と、基板1上に形成し互いに平行に設けられている第1及び第2の光導波路10a、10bと、を備える。図1(b)に示すように、該光変調器100は、第1の光導波路10aに沿って設けられている第1の電極7と、第2の光導波路10bに沿って設けられている第2の電極8と、をさらに備える。
【0030】
マッハツェンダー光導波路10は、マッハツェンダー干渉計の構造を有する光導波路であり、一つの入力光導波路10iから分波部10cにより分岐される第1及び第2の光導波路10a、10bを有し、第1及び第2の光導波路10a、10bが合波部10dを介して一つの出力光導波路10oに合波される。入力光Siは、分波部10cにより分波され、それぞれ第1及び第2の光導波路10a、10bに進んでおり、そして合波部10dに合波され、変調光Soとして出力光導波路10oから出力される。
【0031】
第1の電極7は、平面視において第1の光導波路10aを覆っており、同様に、第2の電極8は、平面視において第2の光導波路10bを覆っている。すなわち、第1の電極7は保護層(後述する)を介して第1の光導波路10a上に形成されており、同様に、第2の電極8は保護層を介して第2の光導波路10b上に形成されている。第1の電極7は、例えば交流信号に接続され、「信号電極」と呼ばれる。第2の電極は、例えばグランドに接続されており、「グランド接続電極」と呼ばれる。
【0032】
電気信号(変調信号)は、第1の電極7に入力される。第1の光導波路10aがニオブ酸リチウムなどの電気光学効果を有する材料からなるため、第1の光導波路10aに印加される電界により、第1の光導波路10aの屈折率が+Δn、-Δnのように変化し、一対の光導波路の間の位相差が変化する。その位相差の変化により、変調された信号光が出力光導波路10oから出力される。
【0033】
なお、第1及び第2の光導波路10a、10bが設けられた領域(所定の領域)以外の領域に、基板1上に形成されている未透光の光導波路10x、10y、10zがさらに設けられている。ここで、未透光の光導波路10x、10y、10zは実際の動作中に光を伝送しない光導波路であってもよい。すなわち、入力光Siは未透光の光導波路10x、10y、10zを伝播していないため、このように、未透光の光導波路10x、10y、10z上に、その電極に印加される電界が設ける必要もない。図1に示すように、基板1の上方から見ると、未透光の光導波路10x、10y、10zが透光のマッハツェンダー光導波路10の直線部の付近に設けられ、例えば第1及び第2の光導波路10a、10bの直線部に沿って設けられ、且つ複数(本実施形態において3つ)を設けられてもよい。基板1の上方から見ると、未透光の光導波路10x、10y、10zの形状は矩形状であるが、未透光の光導波路10x、10y、10zの形状が矩形状に限られず、長手方向が所定の方向に沿って延びる形状を有していればよく、例えば長方形や楕円形などの平面上に延びる形状や、正円形、正方形以外の任意の形状であってもよい。さらに、上記所定の方向は、好ましくは第1及び第2の光導波路10a、10bの直線部の延在方向に沿っていることが好ましいが、必ずしも第1及び第2の光導波路10a、10bの直線部の延在方向に平行する方向でなくてもよい。なお、未透光の光導波路10x、10y、10zの一辺が光導波路の直線部に沿っており、より好ましくは、未透光の光導波路10x、10y、10zが矩形状であり、その長手側の一辺が光導波路の直線部に沿っている。具体的には、未透光の光導波路10yが第1及び第2の光導波路10a、10bの間に介在する。未透光の光導波路10x、10yは、その間に第1の光導波路10aが介在するように設けられている。未透光の光導波路10y、10zは、その間に第2の光導波路10bが介在するように設けられている。未透光の光導波路10x、10y、10zは、いずれも第1及び第2の光導波路10a、10bの延在方向に沿ってもよい。
【0034】
図2は、図1(a)および図1(b)のA-A’線に沿う光変調器100の模式的な断面図である。
【0035】
図2に示すように、本実施形態の光変調器100は、少なくとも基板1と、光導波路2と、保護層3と、電極層4とがこの順に積層された多層構造を有している。基板1は、例えばサファイア基板であり、基板1の表面にニオブ酸リチウム膜からなる光導波路2が形成されている。マッハツェンダー光導波路10は、透光の第1及び第2の光導波路10a、10bを有する。第1及び第2の光導波路10a、10bの幅は、例えば1μmであってもよい。
【0036】
第1及び第2の光導波路10a、10bに伝播する光が第1の電極7又は第2の電極8に吸収されることを避けるために、保護層3が光導波路2に隣接して形成され、少なくともマッハツェンダー光導波路10の第1及び第2の光導波路10a、10bに形成されている。そのため、保護層3が光導波路と信号電極との間の中間層として機能できればよく、保護層3の材料を幅広く選択してもよい。例えば、保護層3は、窒化シリコンなどの非金属酸化物、アルミナなどの金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、ポリイミドなどの樹脂材料、セラミックなどの絶縁材料で形成されてもよい。保護層の材料は、結晶性の材料又は无定形の材料であってもよい。より好ましい実施形態としては、保護層3として、可以使用屈折率が光導波路2の屈折率により小さい材料、例えばAl、SiO、LaAlO、LaYO、ZnO、HfO、MgO、Yなどを用いてもよい。光導波路上に形成された保護層3の厚さは、0.2~1.2μm程度であってもよい。本実施形態において、保護層3が第1及び第2の光導波路10a、10bの上面を覆っているのみならず、前記第1及び第2の光導波路10a、10bの間に埋め込まれている。換言すれば、保護層3が平面視に第1及び第2の光導波路10a、10bに重ねない領域にも形成されている。保護層3は、光導波路2が形成されていない基板1を覆い、第1及び第2の光導波路10a、10bの側面も保護層3で覆っているため、後述するように第1及び第2の光導波路10a、10bの側面の粗面化による散乱損失が低下される。
【0037】
電極層4には、第1の電極7、第2の電極8が設けられている。第1の電極7が保護層3を介して第1の光導波路10aに対向して、第1の光導波路10a内に行進する光を変調する。第2の電極8は少なくとも保護層3を介して第2の光導波路10bに対向して、第2の光導波路10b内に行進する光を変調する。
【0038】
図2に示すように、未透光の光導波路10x、第1の光導波路10a、未透光の光導波路10y、第2の光導波路10b、未透光の光導波路10zは、光の伝播方向に直交する方向にこの順に配列されている。第1の光導波路10a、第2の光導波路10b上に、保護層3を介して、第1の電極7、第2の電極8が設けられている。未透光の光導波路10x、未透光の光導波路10y、未透光の光導波路10z上に、保護層3が設けられているが、電極が設けられていない。これは、未透光の光導波路10x、10y、10zが実際の動作中にダミー光導波路として作用するのみであり、実際に光信号を伝送しないためである。図2に示すように、基板1上に設けられた未透光の光導波路10x、10y、10zが保護層3に囲められており、未透光の光導波路10x、10y、10zの膜厚が第1及び第2の光導波路10a、10bの膜厚とほぼ同じであるため、未透光の光導波路10x、10y、10z及びその上の保護層3の構造が第1及び第2の光導波路10a、10b及びその上の保護層3の構造とほぼ同じであり、保護層3から光導波路10a、10bに印加される応力を減少し、光導波路10a、10b上にクラックの発生を抑制することにより、信頼性が向上し光伝送損失を減少することができる。
【0039】
光導波路2として、電気光学材料により構成すれば特に限定されないため、光導波路2を構成する膜が電気光学材料膜と呼ばれてもよい。しかし、光導波路2は、好ましくはニオブ酸リチウム(LiNbO)からなる。これは、ニオブ酸リチウムが大きい電気光学材料定数を有し、光変調器等の光学デバイスの構成材料として適用するためである。光導波路2は、タンタル酸リチウム(LiTaO)からなる。なお、光導波路2がニオブ酸リチウムからなる場合に、他の元素がドーピングされてもよく、例えば、ニオブ酸リチウムにTi、Mg、Zn、In、Sc、Er、Tm、Yb、Luからなる組から選択される少なくとも1種がドーピングされていてもよい。以下、光導波路2がニオブ酸リチウム膜である場合における本発明の構造を詳しく説明する。
【0040】
基板1としてはニオブ酸リチウム膜より屈折率が低いものであれば特に限定されないが、ニオブ酸リチウム膜をエピタキシャル膜として形成させることができる基板が好ましく、サファイア単結晶基板もしくはシリコン単結晶基板が好ましい。単結晶基板の結晶方位は特に限定されない。ニオブ酸リチウム膜はさまざまな結晶方位の単結晶基板に対して、c軸配向のエピタキシャル膜として形成されやすいという性質を持っている。c軸配向のニオブ酸リチウム膜は3回対称の対称性を有しているので、下地の単結晶基板も同じ対称性を有していることが望ましく、サファイア単結晶基板の場合はc面、シリコン単結晶基板の場合は(111)面の基板が好ましい。
【0041】
ここで、エピタキシャル膜とは、下地の基板もしくは下地膜の結晶方位に対して、揃って配向している膜のことである。膜面内をX-Y面とし、膜厚方向をZ軸としたとき、結晶がX軸、Y軸及びZ軸方向にともに揃って配向しているものである。例えば、第1に2θ-θX線回折による配向位置での強度の確認と、第2に極点の確認を行うことで、エピタキシャル膜を証明できる。
【0042】
具体的には、第1に2θ-θX線回折による測定を行ったとき、目的とする面以外の全てのピーク強度が目的とする面の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下である必要がある。例えば、ニオブ酸リチウムのc軸配向エピタキシャル膜では、(00L)面以外のピーク強度が、(00L)面の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下である。(00L)は、(001)や(002)などの等価な面を総称する表示である。
【0043】
第2に、極点測定において、極点が見えることが必要である。上記の第1の配向位置でのピーク強度の確認の条件においては、一方向における配向性を示しているのみであり、上記の第1の条件を得たとしても、面内において結晶配向が揃っていない場合には、特定角度位置でX線の強度が高まることはなく、極点は見られない。LiNbOは三方晶系の結晶構造であるため、単結晶におけるLiNbO(014)の極点は3つとなる。ニオブ酸リチウム膜の場合、c軸を中心に180°回転させた結晶が対称的に結合した、いわゆる双晶の状態にてエピタキシャル成長することが知られている。この場合、3つの極点が対称的に2つ結合した状態になるため、極点は6つとなる。また、(100)面のシリコン単結晶基板上にニオブ酸リチウム膜を形成した場合は、基板が4回対称となっているため、4×3=12個の極点が観測される。なお、本発明では、双晶の状態にてエピタキシャル成長したニオブ酸リチウム膜もエピタキシャル膜に含める。
【0044】
ニオブ酸リチウム膜の膜厚は、好ましくは2μm以下、より好ましくは1.2μmである。それは、膜厚が2μmよりも厚くなると、高品質な膜を形成することが困難になるからである。一方、ニオブ酸リチウム膜の膜厚が薄すぎる場合は、ニオブ酸リチウム膜における光の閉じ込めが弱くなり、基板1又は保護層3に光が漏れることになる。ニオブ酸リチウム膜に電界を印加しても、第1及び第2の光導波路10a、10bの実効屈折率の変化が小さくなるおそれがある。そのため、ニオブ酸リチウム膜は、使用する光の波長の1/10程度以上の膜厚が望ましい。
【0045】
ニオブ酸リチウム膜の形成方法としては、スパッタ法、CVD法、ゾルゲル法などの膜形成方法を利用することが望ましい。ニオブ酸リチウムのc軸が基板1の主面に垂直に配向されており、c軸に平行に電界を印加することで、電界に比例して光学屈折率が変化する。単結晶基板としてサファイアを用いる場合は、サファイア単結晶基板上に直接、ニオブ酸リチウム膜をエピタキシャル成長させることができる。単結晶基板としてシリコンを用いる場合は、クラッド層(図示せず)を介して、ニオブ酸リチウム膜をエピタキシャル成長により形成する。クラッド層(図示せず)としては、ニオブ酸リチウム膜より屈折率が低く、エピタキシャル成長に適したものを用いる。例えば、クラッド層(図示せず)としてYを用いると、高品質のニオブ酸リチウム膜を形成できる。
【0046】
なお、ニオブ酸リチウム膜の形成方法として、ニオブ酸リチウム単結晶基板を薄くに研磨したりスライスしたりする方法も知られている。この方法は、単結晶と同じ特性が得られるという利点があり、本発明に適用することが可能である。
【0047】
本発明の発明者らは、未透光の光導波路と光の伝播損失との関係を検証するために、以下の試験を行った。なお、サンプル1は未透光の光導波路を有する光電デバイスである。サンプル2は、未透光の光導波路が設けられない以外、他の構造をサンプル1と完全に同様にする光電デバイスである。
【0048】
【表1】
【0049】
表1から分かるように、未透光の光導波路が設けられている場合は、光導波路上に微小クラックがなく、光の伝播損失が少ない。しかし、未透光の光導波路(ダミー光導波路)が設けられていない場合は、光導波路上に微小クラックが発生して、「導光しない」という問題が現われる。そのため、第一の実施形態の光変調器100によれば、保護層3から光導波路10a、10bに印加される応力を減少し、光導波路10a、10b上に微小クラックの発生を抑制することにより、信頼性が向上し光の伝送損失を減少することができる。
【0050】
図3(a)および図3(b)は、本発明の第二の実施形態の光学デバイスを有する光変調器200を示している図である。図3(a)は、光変調器200の光導波路のみを示す平面図である。図3(b)は、図3(a)のA-A’線に沿う光変調器200の模式的な断面図である。
【0051】
図3(a)に示すように、第二の実施形態の光変調器200の特徴は、マッハツェンダー光導波路10が直線部および湾曲部の組み合わせにより構成されていることにある。より具体的には、マッハツェンダー光導波路10は、互いに平行に配置されている第1~第3の直線部10e、10e、10eと、第1の直線部10eと第2の直線部10eとを接続する第1の湾曲部10fと、第2の直線部10eと第3の直線部10eとを接続する第2の湾曲部10fとを有する。
【0052】
そこで、本実施形態の光変調器200において、図3(a)中のA-A’線に沿うマッハツェンダー光導波路10の直線部10e、10e、10eの断面構造が図2に示す断面構造となるように構成されている。すなわち、第1の電極7は保護層3を介して第1~第3の直線部10e、10e、10eのうちの第1の光導波路10aを覆っている。また、第2の電極8は保護層3を介して第1~第3の直線部10e、10e、10eのうちの第2の光導波路10bを覆っている。第1の電極7および第2の電極8は第1~第3の直線部10e、10e、10eの全体を覆っていることが好ましいが、例えば第1の直線部10eのみを覆っていてもよい。
【0053】
本実施形態において、入力光Siは、第1の直線部10eの一端に入力され、第1の直線部10eの一端から他の端に行進し、第1の湾曲部10fで折り返して第2の直線部10eの一端から他の端に向けて第1の直線部10eと反対する方向に行進し、さらに、第2の湾曲部10fで折り返して第3の直線部10eの一端から他の端に向けて第1の直線部10eと同じ方向上に行進する。
【0054】
光変調器では、素子の長さが長いことは、実際の適用に大きな問題である。しかしながら、図に示すように光導波路が折り返されて構成されることにより、素子の長さを大きく縮めることができ、顕著な効果が得られる。特に、ニオブ酸リチウム膜による形成される光導波路は、曲率半径が例えば50μm程度に減少しても損失が少ない特徴を有し、本実施形態に好適である。
【0055】
なお、本実施形態中、第1及び第2の光導波路10a、10bが設けられている領域(所定の領域)以外の領域には、基板1上に形成された未透光の光導波路10j、10kも設けられている。図3(a)に示すように、基板1の上方から見ると、未透光の光導波路10j、10kがマッハツェンダー光導波路10の直線部の付近に設けられており、例えば第1及び第2の光導波路10a、10bの直線部10e、10eに沿って設けられ、かつ複数(本実施形態において2つ)が設けられていてもよい。基板1の上方から見ると、未透光の光導波路10j、10kの形状は、矩形状である。矩形状の未透光の光導波路10j、10kは、一辺が光導波路の直線部に沿って延び、より好ましくはその矩形状の長手側の一辺が光導波路の直線部に沿って延びている。具体的には、未透光の光導波路10jは、第1の直線部10eと基板1の端部との間に設けされている。好ましくは、未透光の光導波路10jが第1の直線部10eに沿って形成される。なお、図3(a)に示す未透光の光導波路10jは連続的に形成されているが、これに限定されず、断続的に形成されていてもよい。例えば,未透光の光導波路10jが島状パターンに形成されてもよく、それぞれの島状パターンが直線に沿って配列されてもよい。同様に、未透光の光導波路10kが第3の直線部10eと基板1の端部との間に形成されていることが好ましい。未透光の光導波路10kが第3の直線部10eに沿って配置されることが好ましい。なお、図3(a)に示す未透光の光導波路10kは連続的に形成されているが、これに限定されず、断続的に形成されていてもよい。例えば、未透光の光導波路10kが島状パターンに形成されてもよく、それぞれの島状パターンが直線に沿って配列されてもよい。未透光の光導波路10j、10kの断面構造は図2に示す未透光の光導波路10x、10y、10zと同様な構造であってもよい。第二の実施形態の光変調器200によれば、第一の実施形態の光変調器100と同様な効果も得られ、保護層3から光導波路10a、10b(第1の直線部10eおよび第3の直線部10e)に印加される応力を減少し、光導波路10a、10b上にクラックの発生を抑制することにより、信頼性が向上し光伝送損失を減少することができる。なお、基板の端部に外部応力の影響を特に受けやすいため、未透光の光導波路10j、10kが基板の端部の付近に設けられることにより、光導波路10a、10b上にクラックの発生をさらに抑制することにより、信頼性が向上し光伝送損失を減少することができる。
【0056】
図4(a)および図4(b)は、本発明の第三の実施形態の光学デバイスを有する光変調器300を示している図である。図4(a)は、光変調器300の光導波路のみを示す平面図である。図4(b)は、図4(a)のA-A’線に沿う光変調器300の模式的な断面図である。第三の実施形態の光変調器300は第二の実施形態の光変調器200との区別は、第1の直線部10eおよび第2の直線部10eとの間に設けられている未透光の光導波路10pと、第2の直線部10eと第3の直線部10eとの間に設けられている未透光の光導波路10qとをさらに備えることにある。具体的には、未透光の光導波路10jと未透光の光導波路10pは、その間に第1の直線部10eを介して対向するように配置されている。未透光の光導波路10pと未透光の光導波路10qは、その間に第2の直線部10eを介して対向するように配置されている。未透光の光導波路10qと未透光の光導波路10kは、その間に第3の直線部10eを介して対向するように配置されている。図4(a)に示すように、基板1の上方から見ると、未透光の光導波路10j、10p、10q、10kがマッハツェンダー光導波路10の直線部の付近に設けられており、例えば第1及び第2の光導波路10a、10bの直線部10e、10e、10eに沿って設けられ、且つ複数(本実施形態において4つ)が設けられてもよい。基板1の上方から見ると、未透光の光導波路10j、10p、10q、10kの形状は矩形状である。矩形状の未透光の光導波路10j、10p、10q、10kは、一辺が光導波路の直線部に沿って延び、より好ましくはその矩形状の長手側の一辺が光導波路の直線部に沿って延びている。未透光の光導波路10j、10p、10q、10kの断面構造は、図2に示す未透光の光導波路10x、10y、10zと同様な構造であってもよい。第三の実施形態の光変調器300によれば、第一の実施形態の光変調器100と同様な効果も得られ、保護層3から光導波路10a、10b(第1~第3の直線部10e、10e、10e)に印加される応力を減少し、光導波路10a、10b(第1~第3の直線部10e、10e、10e)上にクラックの発生を抑制することにより、信頼性が向上し光伝送損失を減少することができる。
【0057】
上記の説明において、第1の電極を信号電極とし、第2の電極をグランド接続電極として説明した。これに限定されず、第1及び第2の電極は光導波路に電界が印加される任意な電極であってもよい。なお、上記の説明において、未透光の光導波路が光導波路の直線部の付近に設けられているが、これに限定されず、未透光の光導波路が光導波路の屈曲部又は湾曲部に設けられていてもよい。なお、上記の説明において、未透光の光導波路は矩形状の長手側の一辺が光導波路の直線部に沿って設けられているが、これに限定されず、未透光の光導波路が他の形状であってもよい。
【0058】
次に、未透光の光導波路の側面を粗面に形成する形態について説明する。以下、第一の実施形態の光変調器100における未透光の光導波路10x、10y、10zの側面を粗面に形成するものを一例として説明する。
【0059】
図2に示すように、未透光の光導波路10x、10y、10zと、透光の第1及び第2の光導波路10a、10bは、それぞれ基板1と略垂直な2つの側面101、102を有する。側面101、102それぞれのうちの少なくとも一つの面を粗面に形成される。つまり、側面101、102に同時に粗面が形成されていてもよく、側面101又は側面102のうちのいずれ一つのみに粗面が形成されていてもよい。粗面は、光導波路2を構成するニオブ酸リチウム膜と窒化シリコンとの膨脹係数が異なることによる応力の影響を低下するために、光の伝送損失を減少して形成されるものである。
【0060】
粗面化の程度は、表面粗さRMS(root mean square)により表示されてもよく、本実施形態の光変調器100において、未透光の光導波路10x、10y、10zの側面101、102の表面粗さがRMS0.5nm以上、より好ましくはRMS1.0nm以上である。これにより、本実施形態の光変調器100によれば、未透光の光導波路10x、10y、10zを設けることにより、保護層から光導波路2に印加される応力を減少し、光導波路2上に微小クラックの発生を抑制して、光の伝送損失を減少することができる。なお、未透光の光導波路10x、10y、10zの側面101、102のうちの少なくとも一つを粗面化することにより、ニオブ酸リチウムと窒化シリコンとの膨脹係数が異なることによる応力の影響を低下し、光導波路2上に微小クラックの発生をさらに抑制して、光の伝送損失を減少する。
【0061】
粗面化の程度は、粗面の粗さの最大値Rmaxにより定義されてもよい。粗さの最大値Rmaxとは、所定の長さのうち、内面プロファイルの最高点(ピーク)と最低点(谷)の間の距離である。粗面の粗さの最大値Rmaxは、例えばAFM(Atomic Force Microscope、原子間力顕微鏡)により測定される。上記粗面おいては、1.5μm×0.2μmの視野内に2つ以上10つ以下のピークを有する。具体的には、本実施形態の光変調器100において、側面101、102の粗さの最大値Rmaxを8.6~55nmとすることにより、光の伝送損失を小さく抑制することができ、側面101、102の粗さの最大値Rmaxを17~40nmとすることにより、光の伝送損失をさらに小さく抑制することができる。これにより、上記表面に所定の粗面を形成することにより、光導波路にニオブ酸リチウム膜と窒化シリコンとの膨脹係数が異なることに起因する応力の影響を受けることによる光の伝送損失が抑制される。
【0062】
上記粗面のパターン形状については、特に限定されず、表面が平坦でない粗面であればよい。例えば、未透光の光導波路10x、10y、10zの側面101、102の表面に複数の突出が形成されているが、複数の点状の凹みがランダムに形成されてもよく、他のパターンが形成されてもよい。本実施形態において、上記の側面101、102の粗面は、基板と交差する方向にストライプを有するように形成されていてもよい。ここで、「ストライプ」とは、複数の凹部と凸部により交互に配列されている、平坦でないパターンである。ストライプのパターンは、ストライプの長手方向が基板と交差する細長い形状(縦ストライプ状も呼ばれる)に形成することが好ましい。
【0063】
上記の各粗面化のパターンにおいて、縦ストライプ状(縦縞状)は、横ストライプ状(横縞状)又はランダムな粗さパターンに比較して、所定の視野内にまとめてピークが現われる頻度で、特定な粗さを有する最適なパターン表示方式である。これは、光導波路が2.0μm以下であるニオブ酸リチウム膜に対して、縦ストライプが1.5μm×0.2μmの視野内に2つ以上10つ以下のピークを確保でき、且つ該ピークの数は所定の間隔で連続に又は重複に現われるためである。しかし、横ストライプ又はランダムな粗さは、所定の視野内に0~1個程度のみのピークを有する場合がある。従って、ピークが現われる頻度が一定である粗さを求めるために、粗面化パターンが縦ストライプ状であることが最も好ましい。未透光の光導波路10x、10y、10zの側面101、102に縦ストライプ状の粗面を形成することにより、光導波路にニオブ酸リチウム膜と窒化シリコンとの膨脹係数が異なることに起因する応力の影響を受けることによる光の伝送損失を抑制している。
【0064】
粗面を形成する方法について、特に限定されず、公知の方法を使用できる。以下、ミリング法とレジストパターニングにより未透光の光導波路10x、10y、10zの側面101、102を粗面化する方法を例に説明する。
【0065】
ミリング法とレジストパターニングにより粗面を形成する方法は、表面を粗面化する工程と、表面にレジスト層を形成する工程と、マスクを介して表面に露光することによりレジスト層を除去する工程とを備える。
【0066】
なお、光導波路2であるニオブ酸リチウム膜の側面に対して粗面を形成する方法は、上記方法に限らず、例えばレーザエッチング法により、又は金属マスクパターニング及びRIEエッチングにより粗面を形成してもよい。具体的には、レーザにより粗面の形成を行う方法において、光導波路2であるニオブ酸リチウム膜の二つの側面101、102の表面にレーザビームを照射し、往復にスキャンを行う。スキャンの方向は光の伝播方向と同じであり、光導波路2の側面に沿って行進することで、基板と交差する方向に細長い形状の縦ストライプを形成する。金属マスクパターニング及びRIEエッチングは、光導波路2であるニオブ酸リチウム膜の二つの側面101、102の表面に金属マスクパターンを形成し、RIEエッチングを行う方法である。RIE(Reactive Ion Etching)は、ドライエッチングの一種であり、RIEエッチングの原理は、平板電極の間に10~100MHzの高周波電圧(RF:radio frequency)を印加する時に数百ミクロンの厚さのイオン層(ion sheath)を生成し、そのうちにサンプルを入り、イオンが高速にサンプルに当てて化学反応エッチングを完成する。
【0067】
なお、未透光の光導波路10x、10y、10zの側面101、102を粗面に形成する方法と同様な方法を使用してもよく、透光のマッハツェンダー光導波路10の第1及び第2の光導波路10a、10bの側面101、102も粗面に形成するとともに、第1及び第2の光導波路10a、10bの側面の粗さが未透光の光導波路10x、10y、10zの側面101、102と同様であってもよい。なお、未透光の光導波路10x、10y、10zの側面101、102に形成する方法と同様な方法を使用してもよく、光導波路2のそれぞれの上面も粗面に形成されているが、光導波路2のそれぞれの上面の粗さが側面のRMSより小さいことが好ましく、すなわち、上面が側面より平坦であることが好ましい。光導波路の上面及び側面がいずれも粗面に形成すると、光の伝送損失をさらに低下することができる。なお、ニオブ酸リチウム膜の少なくとも一つの側面に対して粗面を形成できれば、いかなる方法に限らず、任意なものであってもよい。
【0068】
同様に、第二の実施形態の光変調器200において、さらに未透光の光導波路10j、10kの少なくとも一つの側面を粗面に形成してもよい。これにより、第二の実施形態の光変調器200によれば、未透光の光導波路10j、10kを設けることで、保護層から光導波路2に印加される応力を減少し、光導波路2上に微小クラックの発生を抑制することにより、光の伝送損失を減少できる。なお、未透光の光導波路10j、10kの側面101、102中の少なくとも一つを粗面化することで、ニオブ酸リチウムと窒化シリコンとの膨脹係数が異なることによる応力の影響を低下し、さらに光導波路2上に微小クラックの発生を抑制することにより、光の伝送損失を減少できる。同様に、第三の実施形態の光変調器300において、さらに未透光の光導波路10p、10j、10k、10qの少なくとも一つの側面を粗面に形成してもよい。これにより、第三の実施形態の光変調器300によれば、未透光の光導波路10p、10j、10k、10qを設けることで、保護層から光導波路2に印加される応力を減少し、光導波路2上に微小クラックの発生を抑制することにより、光の伝送損失を減少できる。なお、未透光の光導波路10p、10j、10k、10qの側面101、102中の少なくとも一つを粗面化することで、ニオブ酸リチウムと窒化シリコンとの膨脹係数が異なることによる応力の影響を低下し、さらに光導波路2上に微小クラックの発生を抑制することにより、光の伝送損失を減少できる。
【0069】
[実施例]
図2に示す光導波路2の断面構造を有する光変調器100について、未透光の光導波路10x、10y、10zの側面101、102の表面粗さを変更して、粗面が異なる粗さRMSを持つ場合に光の伝送損失の比較を行う。実施例および比較例として、粗さRMSのみを変更し、他の構造が同様である。各実施例および比較例の評価結果は、表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2から分かるように、粗さRMSを0.5nm以上にすることで、光の伝送損失を小さく抑制することができ、粗さRMSを1.0nm以上にすることで、光の伝送損失をさらに小さく抑制することができる。
【0072】
以上、図面および実施例を用いて本発明を具体的に説明したが、以上の説明は、本発明を何ら限定するものではないことが理解すべきである。例えば、上記光変調器100の説明において、第1の電極をジャンプ電極に、第2の電極をグランド接続電極にして説明した。これに限定されず、第1及び第2の電極は光導波路に電界が印加される任意な電極であってもよい。例えば、第1の電極が信号電極であってもよく、第2の電極がグランド接続電極であってもよい。光変調器は一つの信号電極を有する、いわゆるシングルドライブ型であって、第1の電極である信号電極および第2の電極であるグランド接続電極は対称な構造であるので、第1及び第2の光導波路に印加される電界の大きさは等しく、符号が逆である。また、本発明の実施形態は、電極を含めない各種なデバイスにも適用できる。なお、例えば、上記光変調器100の説明において、第1の光導波路10aの二つの側面101、102のいずれも粗面を有し、これに限定されず、側面101又は側面102の一方の面のみが粗面を有してもよい。
【0073】
また、上記実施形態において、光導波路2が基板1の表面上に隆起するリッジ部に形成されているが、光導波路2の形成方式がこれに限らず、基板にイオンを注いで光導波路を形成してもよく、例えばニオブ酸リチウムの単結晶の基板にTiがドーピングされて光導波路2を形成してもよい。これらの変更も本実施形態内に含めている。
【0074】
また、上記実施形態において、電極を含める光変調器の例を挙げたが、本発明は電極を含めない光学デバイスも適用できることが当然である。光スイッチ、光共振器、光分岐回路、センサ素子、ミリ波発生器などの光通信又は光学計測の功能を図れる任意な電気光学デバイスに適用できる。本分野の当業者は、本発明の主旨および範囲を逸脱しない場合に、必要に応じて本発明を変形および変化し、これらの変形および変化も本発明の範囲内にある。
【符号の説明】
【0075】
1…基板;2…光導波路;3…保護層;4…電極層;7…第1の電極;8…第2の電極;10…マッハツェンダー光導波路;10a…第1の光導波路;10b…第2の光導波路;10c…分波部;10d…合波部;10i…入力光導波路;10o…出力光導波路;10e…マッハツェンダー光導波路の第1の直線部;10e…マッハツェンダー光導波路の第2の直線部;10e…マッハツェンダー光導波路の第3の直線部;10f…マッハツェンダー光導波路の第1の湾曲部;10f…マッハツェンダー光導波路の第2の湾曲部;10x、10y、10z、10j、10p、10q、10k……未透光の光導波路;101…一つの側面;102…別の側面
図1
図2
図3
図4