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特開2023-153066細胞外小胞新規大動脈瘤マーカーとしてのNOS3
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153066
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】細胞外小胞新規大動脈瘤マーカーとしてのNOS3
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20231005BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20231005BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20231005BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/50 Z
G01N33/53 D
G01N33/15 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056937
(22)【出願日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2022058302
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000120456
【氏名又は名称】栄研化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若林 真樹
(72)【発明者】
【氏名】蒔田 直昌
(72)【発明者】
【氏名】南野 直人
(72)【発明者】
【氏名】錦織 充広
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕輔
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045AA40
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB01
2G045CB03
2G045CB04
2G045CB07
2G045CB11
2G045CB16
2G045CB30
(57)【要約】
【課題】大動脈瘤を高感度に検出できる新規バイオマーカーを提供することを目的とする。
【解決手段】細胞外小胞表面のNOS3(nitric oxide synthase 3)タンパク質を含む大動脈瘤検出用マーカー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象から採取した検体由来の細胞外小胞を含有する試料において、NOS3(nitric oxide synthase 3)タンパク質を測定する工程を含む、大動脈瘤の検出方法。
【請求項2】
さらにHSPG2(heparan sulfate proteoglycan 2)タンパク質を測定する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記対象が、大動脈瘤の予防又は治療を必要とする動物であり、前記タンパク質を指標として、大動脈瘤の予防薬又は治療薬の効果を評価又は判定する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記対象が、大動脈瘤の予防又は治療を必要とする動物であり、前記タンパク質を指標として、大動脈瘤の予防薬又は治療薬の効果を評価又は判定する、請求項2記載の方法。
【請求項5】
対象から採取した検体由来の細胞外小胞を含有する試料において、NOS3(nitric oxide synthase 3)タンパク質を測定する工程を含む、大動脈瘤を将来発症するリスクを有する対象を検出又はスクリーニングするための方法。
【請求項6】
さらにHSPG2(heparan sulfate proteoglycan 2)タンパク質を測定する工程を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記大動脈瘤が胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤及び/又は腹部大動脈瘤である、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記検体が対象の血清、血漿、血液、尿、唾液、リンパ液、涙液、鼻汁、糞便、毛髪、組織及び細胞から成る群より選択され、かつ、前記細胞外小胞が、前記検体から抽出、濃縮、単離または精製されたものである、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記試料が対象の血清、血漿、血液、尿、唾液、リンパ液、涙液及び鼻汁から成る群より選択される検体又はその希釈物である、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記対象がヒトである、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
測定方法が免疫測定法又は質量分析法である、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
細胞外小胞表面のNOS3(nitric oxide synthase 3)タンパク質を含む大動脈瘤検出用マーカー。
【請求項13】
さらに細胞外小胞表面のタンパク質であるHSPG2(heparan sulfate proteoglycan 2)タンパク質を含む、請求項12記載の大動脈瘤検出用マーカー。
【請求項14】
前記大動脈瘤が胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤及び/又は腹部大動脈瘤である、請求項12記載の大動脈瘤検出用マーカー。
【請求項15】
請求項12記載の大動脈瘤検出用マーカーを測定するための抗体又はアプタマーを含む大動脈瘤の検出剤。
【請求項16】
前記抗体がモノクローナル抗体及び/又はポリクローナル抗体である、請求項15記載の検出剤。
【請求項17】
請求項15記載の検出剤を含む、大動脈瘤の検出キット。
【請求項18】
大動脈瘤の検出に使用される試料が、血清、血漿、血液、尿、唾液、リンパ液、涙液、鼻汁、糞便、毛髪、組織及び細胞から成る群より選択される検体から抽出、濃縮、単離または精製された細胞外小胞を含む、請求項12~17のいずれか1項記載の大動脈瘤検出用マーカー、検出剤又は検出キット。
【請求項19】
大動脈瘤の検出に使用される試料が、血清、血漿、血液、尿、唾液、リンパ液、涙液及び鼻汁から成る群より選択される検体又はその希釈物である、請求項12~17のいずれか1項記載の大動脈瘤検出用マーカー、検出剤又は検出キット。
【請求項20】
大動脈瘤の予防薬又は治療薬のスクリーニングのための、請求項12~14のいずれか1項記載の大動脈瘤検出用マーカーの使用。
【請求項21】
大動脈瘤を将来発症するリスクを有する対象をin vitroで検出又はスクリーニングするための、請求項12~14のいずれか1項記載の大動脈瘤検出用マーカーの使用。
【請求項22】
胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤及び/又は腹部大動脈瘤の検出用マーカーとしての細胞外小胞表面のAOC3(amine oxidase copper containing 3)タンパク質、HSPG2(heparan sulfate proteoglycan 2)タンパク質及びNOS3(nitric oxide synthase 3)タンパク質から成る群より選択される1つ以上のタンパク質の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大動脈瘤の診断を補助する臨床検査薬の技術分野に関する。詳細には、細胞外小胞表面タンパク質である大動脈瘤検出用バイオマーカー、それを用いる大動脈瘤の検出剤、大動脈瘤検出キット、及び大動脈瘤の検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大動脈瘤は、大動脈の一部の壁が全周性又は局所性に(径)拡大又は突出した状態であり、瘤の発生部位により胸部大動脈では胸部大動脈瘤、胸部と腹部に連続する胸腹部大動脈瘤、腹部では腹部大動脈瘤と称される(非特許文献1)。大動脈瘤発症のピーク年齢は70~80代であり、人口の高齢化により近年増加しているが、検査しない限り大動脈瘤が発見されることはなく、ほぼ無症状で進行し、破裂に至ると生命の危機につながる重篤な病態となる。しかし、適切な治療を行うことにより破裂を回避することが可能であるため、大動脈瘤を早期に検出することは非常に重要である。
【0003】
胸部大動脈瘤は、健康診断などで胸部レントゲン写真を撮った時に偶然発見されることがほとんどであり、腹部大動脈瘤の場合は、胃潰瘍や胆石症などの消化器疾患を診断するために腹部を触診した際に、拍動するしこりとして発見されたり、消化管や腎臓、前立腺などの腹部エコー(超音波)の検査中あるいは胸部腹部のMRI検査中に偶然に発見されたりすることが多い。
【0004】
大動脈瘤のマーカーとしては、Dダイマー、CRP、WBC、血漿ホモシステイン等が知られており(非特許文献2及び3)、Peroxiredoxin-1が心血管疾患や大動脈瘤のバイオマーカーとして知られている(非特許文献4及び5)。また、最近、本発明者らはNPC2、IGFBP7、MXRA5、TALDO1、METRNL等を大動脈瘤マーカーとして見出している(特許文献1及び2)。
【0005】
一方、細胞外小胞の多様な役割が近年高い注目を集めている。特に細胞外小胞の一種であるエクソソームは、生体内のあらゆる体液中に存在しており、エクソソーム内部にタンパク質や核酸を含むとともに、表面には種々の膜タンパク質を有していることが知られている。また、エクソソームに関する研究は近年、急速に進展しており、エクソソームが種々の細胞、例えば免疫系の細胞や各種がん細胞から分泌されることが報告され、生体内の細胞間コミュニケーションの媒介役として機能し生理現象と関連することや、がんなどの疾患との関連性が注目されている(非特許文献6及び7)。なお、以下、エクソソームをsmall EV(small Extracellular Vesicle)ということもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2019/189744号公報
【特許文献2】特開2021-071356号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010年度合同研究班報告)大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン, 2011年改訂版
【非特許文献2】Balmforth Damian, et al., General Thoracic and Cardiovascular Surgery, 2019 Jan;67(1):12-19 doi:10.1007/s11748-017-0855-0
【非特許文献3】Wanhainen Anders, et al., Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology, 36(2), 236-44, 2016
【非特許文献4】Martinez-Pinna, et al., (2011) Identification of peroxiredoxin-1 as a novel biomarker of abdominal aortic aneurysm. Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 31, 935-943.
【非特許文献5】Richard S, et al. Diagnostic performance of peroxiredoxin 1 to determine time-of-onset of acute cerebral infarction. Sci Rep 2016; 6: 38300.
【非特許文献6】下田麻子ら, Drug Delivery System, 29(2), 108-115, 2014
【非特許文献7】Joanna Kowal, et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2016 113 (8), E968-E977 doi:10.1073/pnas.1521230113
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の現状に鑑みてなされたものであり、大動脈瘤を高感度に検出できる新規なバイオマーカーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、感度や特異性に優れた大動脈瘤マーカーの提供を目的として鋭意検討し、細胞外小胞を用いたプロテオーム解析を実施した。健常者血漿と胸部大動脈瘤患者の血漿から精製した細胞外小胞のプロテオームデータの比較により、患者血漿の細胞外小胞で顕著に変動するタンパク質を、大動脈瘤を高感度、特異的に検出可能な新たなマーカーとして見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のような構成から成るものである。
(1)対象から採取した検体由来の細胞外小胞を含有する試料において、NOS3(nitric oxide synthase 3)タンパク質を測定する工程を含む、大動脈瘤の検出方法。
(2)さらにHSPG2(heparan sulfate proteoglycan 2)タンパク質を測定する工程を含む、(1)記載の方法。
(3)前記対象が、大動脈瘤の予防又は治療を必要とする動物であり、前記タンパク質を指標として、大動脈瘤の予防薬又は治療薬の効果を評価又は判定する、(1)記載の方法。
(4)前記対象が、大動脈瘤の予防又は治療を必要とする動物であり、前記タンパク質を指標として、大動脈瘤の予防薬又は治療薬の効果を評価又は判定する、(2)記載の方法。
(5)対象から採取した検体由来の細胞外小胞を含有する試料において、NOS3(nitric oxide synthase 3)タンパク質を測定する工程を含む、大動脈瘤を将来発症するリスクを有する対象を検出又はスクリーニングするための方法。
(6)さらにHSPG2(heparan sulfate proteoglycan 2)タンパク質を測定する工程を含む、(5)記載の方法。
(7)前記大動脈瘤が胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤及び/又は腹部大動脈瘤である、(1)~(6)のいずれか1記載の方法。
(8)前記検体が対象の血清、血漿、血液、尿、唾液、リンパ液、涙液、鼻汁、糞便、毛髪、組織及び細胞から成る群より選択され、かつ、前記細胞外小胞が、前記検体から抽出、濃縮、単離または精製されたものである、(1)~(6)のいずれか1記載の方法。
(9)前記試料が対象の血清、血漿、血液、尿、唾液、リンパ液、涙液及び鼻汁から成る群より選択される検体又はその希釈物である、(1)~(6)のいずれか1記載の方法。(10)前記対象がヒトである、(1)~(6)のいずれか1記載の方法。
(11)測定方法が免疫測定法又は質量分析法である、(1)~(6)のいずれか1記載の方法。
(12)細胞外小胞表面のNOS3(nitric oxide synthase 3)タンパク質を含む大動脈瘤検出用マーカー。
(13)さらに細胞外小胞表面のタンパク質であるHSPG2(heparan sulfate proteoglycan 2)タンパク質を含む、(12)記載の大動脈瘤検出用マーカー。
(14)前記大動脈瘤が胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤及び/又は腹部大動脈瘤である、(12)記載の大動脈瘤検出用マーカー
(15)(12)記載の大動脈瘤検出用マーカーを測定するための抗体又はアプタマーを含む大動脈瘤の検出剤。
(16)前記抗体がモノクローナル抗体及び/又はポリクローナル抗体である、(15)記載の検出剤。
(17)(15)記載の検出剤を含む、大動脈瘤の検出キット。
(18)大動脈瘤の検出に使用される試料が、血清、血漿、血液、尿、唾液、リンパ液、涙液、鼻汁、糞便、毛髪、組織及び細胞から成る群より選択される検体から抽出、濃縮、単離または精製された細胞外小胞を含む、(12)~(17)のいずれか1記載の大動脈瘤検出用マーカー、検出剤又は検出キット。
(19)大動脈瘤の検出に使用される試料が、血清、血漿、血液、尿、唾液、リンパ液、涙液及び鼻汁から成る群より選択される検体又はその希釈物である、(12)~(17)のいずれか1記載の大動脈瘤検出用マーカー、検出剤又は検出キット。
(20)大動脈瘤の予防薬又は治療薬のスクリーニングのための、(12)~(14)のいずれか1記載の大動脈瘤検出用マーカーの使用。
(21)大動脈瘤を将来発症するリスクを有する対象をin vitroで検出又はスクリーニングするための、(12)~(14)のいずれか1記載の大動脈瘤検出用マーカーの使用。(22)胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤及び/又は腹部大動脈瘤の検出用マーカーとしての細胞外小胞表面のAOC3(amine oxidase copper containing 3)タンパク質、HSPG2(heparan sulfate proteoglycan 2)タンパク質及びNOS3(nitric oxide synthase 3)タンパク質から成る群より選択される1つ以上のタンパク質の使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明により見出した細胞外小胞表面のAOC3タンパク質を大動脈瘤検出用マーカーとして用いることにより、大動脈瘤の発症を高感度で特異的に検出することができる。また、細胞外小胞表面のAOC3タンパク質に細胞外小胞表面タンパク質であるHSPG2タンパク質及び/又はNOS3タンパク質を組み合わせることにより、大動脈瘤を高精度、高感度に検出しうる。
【0012】
また、本発明により見出した細胞外小胞表面のNOS3タンパク質を大動脈瘤検出用マーカーとして用いることにより、大動脈瘤の発症を高感度で特異的に検出することができる。さらに、細胞外小胞表面のNOS3タンパク質に細胞外小胞表面タンパク質であるHSPG2タンパク質及び/又はAOC3タンパク質を組み合わせることにより、大動脈瘤を高精度、高感度に検出しうる。
【0013】
また、細胞外小胞に特異的に結合する抗体や物質等を細胞外小胞の捕捉のために用いて免疫測定法で測定することにより、抽出、濃縮、分離、単離または精製等の煩雑な前処理なしで血清、血漿、血液、尿、唾液等の体液検体から簡易に大動脈瘤の検出が可能となる。
【0014】
さらに、本発明による大動脈瘤の検出剤及び検出キットは胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤、腹部大動脈瘤ともに、その発症の早期診断の補助に使用することが可能であり、当該疾患の早期検出により疾患の重症化の回避に貢献可能である。また、大動脈瘤の予防薬や治療薬の開発、評価にも使用することが可能と考えられ、大動脈瘤の予防や治療にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1における、健常者及び胸部大動脈瘤患者の血漿検体から得られたlarge EV(large Extracellular Vesicle)上の表面タンパク質であるAOC3のMS/MS解析データを使用した定量解析による検出強度の比較結果を示すグラフである。縦軸は、MS/MS解析で得られる検出強度である。
図2-1】実施例2における、健常者及び胸部大動脈瘤患者の血漿検体から得られたlarge EV上の表面タンパク質であるHSPG2のMS/MS解析データを使用した定量解析による検出強度の比較結果を示すグラフである。縦軸は、MS/MS解析で得られる検出強度である。
図2-2】実施例2における、健常者及び胸部大動脈瘤患者の血漿検体から得られたlarge EV上の表面タンパク質であるNOS3のMS/MS解析データを使用した定量解析による検出強度の比較結果を示すグラフである。縦軸は、MS/MS解析で得られる検出強度である。
図3】実施例3及び4における、健常者及び胸部大動脈瘤患者の血漿検体から得られたlarge EV上の表面タンパク質であるAOC3、HSPG2、NOS3それぞれの発現の比較結果(ウェスタンブロット法)を示す写真である。
図4】実施例5における、健常者および大動脈瘤患者の血清検体のAOC3の測定結果(ELISA法)を示すグラフである。縦軸は、主波長450nm、副波長540nmの条件での吸光度(検体を添加していないウェルの吸光度を差し引いた値)である。
図5】実施例6における、健常者および大動脈瘤患者の血清検体のHSPG2の測定結果(ELISA法)を示すグラフである。縦軸は、主波長450nm、副波長540nmの条件での吸光度(検体を添加していないウェルの吸光度を差し引いた値)である。
図6】実施例7における、健常者および胸部大動脈瘤患者の血清検体のAOC3の測定結果(ELISA法)を示すグラフである。縦軸は、主波長450nm、副波長540nmの条件での吸光度(検体を添加していないウェルの吸光度を差し引いた値)である。
図7-1】図7-1~図7-4:参考例1における、非血管疾患患者の大動脈組織及び胸部大動脈瘤患者の瘤部組織の4種のタンパク質のMS/MS解析データを使用した定量解析による検出強度の比較結果を示すグラフである。各図面の縦軸は、MS/MS解析で得られる検出強度である。
図7-2】図7-1の続きである。
図7-3】図7-2の続きである。
図7-4】図7-3の続きである。
図8-1】図8-1~図8-4:参考例1における、健常者及び胸部大動脈瘤患者の血漿検体から得られた細胞外小胞中の4種のタンパク質のMS/MS解析データを使用した定量解析による検出強度の比較結果を示すグラフである。各図面の縦軸は、MS/MS解析で得られる検出強度である。
図8-2】図8-1の続きである。
図8-3】図8-2の続きである。
図8-4】図8-3の続きである。
図9】参考例2における、健常者及び胸部大動脈瘤患者の血漿検体から得られた細胞外小胞中のタンパク質であるCRPのMS/MS解析データを使用した定量解析による検出強度の比較結果を示すグラフである。縦軸は、MS/MS解析で得られる検出強度である。
図10】実施例8における、他の心疾患患者(遺伝性不整脈および心不全)並びに胸部大動脈瘤患者の血清検体のAOC3の測定結果(ELISA法)を示すグラフである。縦軸は、主波長450nm、副波長540nmの条件での吸光度(検体を添加していないウェルの吸光度を差し引いた値)である。
図11】実施例8における、胸部大動脈瘤の診断におけるAOC3のROC曲線を示すグラフである。
図12】実施例9における、他の心疾患患者(心不全)および胸部大動脈瘤患者の血清検体のNOS3の測定結果(ELISA法)を示すグラフである。縦軸は、主波長450nm、副波長540nmの条件での吸光度(検体を添加していないウェルの吸光度を差し引いた値)である。
図13】実施例9における、胸部大動脈瘤の診断におけるNOS3のROC曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、細胞外小胞表面のタンパク質であるAOC3(amine oxidase copper containing 3)及び/又はNOS3(nitric oxide synthase 3)を大動脈瘤検出用マーカーとすることを特徴とする。
【0017】
本発明において、細胞外小胞は、細胞から分泌され、脂質二重層で覆われた膜小胞であり、分泌細胞に由来するタンパク質、核酸(mRNA、miRNA、ノン・コーディングRNA)、脂質等を構成成分とする。本発明の細胞外小胞は、例えば血管内皮細胞から分泌され得る。また、細胞外小胞は、その生成機構に基づいてエクソソーム、マイクロベシクル、アポトーシス小胞に分類されるが、本発明の細胞外小胞は、例えばエクソソーム及びマイクロベシクル、又は、エクソソームもしくはマイクロベシクルであり得る。エクソソームは、エンドソームに由来する細胞から分泌される直径30~200nm程度の小胞である。一方、マイクロベシクルは、細胞膜の一部がくびり取られ、直接細胞外へ分泌される直径100~1000nm程度の小胞であり、シェディング・マイクロベシクルやエクトソームとも呼ばれている。しかし、エクソソームとマイクロベシクルは構成成分、サイズ共に共通するものが多く、一旦細胞外に分泌されるとその区別は明瞭ではないため、細胞外小胞をサイズによって分類し、10,000gでの沈殿画分に含まれる細胞外小胞をlarge EV(large Extracellular Vesicle)、100,000gでの沈殿画分に含まれる細胞外小胞をsmall EV(small Extracellular Vesicle)と呼ぶこともある。
【0018】
本発明はMagCapture(登録商標)Exosome Isolation Kit PS(富士フイルム和光純薬株式会社)を用いて細胞外小胞の一部の集団を対象にMS/MS解析しマーカー候補タンパク質を得たものである(実施例1及び2)。すなわちMS/MS解析の段階では、MagCapture(登録商標)Exosome Isolation Kit PS(富士フイルム和光純薬株式会社)により得られる細胞外小胞の内、さらに10,000g、30分の遠心で沈降するlarge EVとした細胞外小胞の集団において得られた結果であり、ウェスタンブロッティング(実施例3及び4)においてもこの集団は共通である。一方で実施例5~7に示した免疫測定法(ELISA法)は、前処理をしていない血清から直接測定したものであり、large EV等の細胞外小胞に限定しない集団での結果である。すなわち、本発明のマーカータンパク質はMS/MS解析で得られた限定的な集団でのみ得られるわけではなく、より広い細胞外小胞全般において共通するマーカータンパク質であるということができる。
【0019】
本発明において、「マーカー」又は「バイオマーカー」は、対象から得られた細胞外小胞を含有する試料の測定用の標的として使用される分子のことをいう。
【0020】
本発明に係る大動脈瘤の検出マーカーは、AOC3タンパク質を含む細胞外小胞の表面タンパク質及び/又はNOS3タンパク質を含む細胞外小胞の表面タンパク質である。
【0021】
ヒトAOC3(すなわち、amine oxidase copper containing 3)は、UniProtのアクセション番号がQ16853で表される分泌性のタンパク質である(https://www.uniprot.org/uniprot/Q16853)。ヒトAOC3のアミノ酸配列を配列番号1に示す。AOC3は血管内皮細胞や平滑筋細胞、脂肪細胞に多く発現しており、一級アミンの酸化的脱アミノ化を触媒する機能を持つことが知られている。血管内皮細胞においてAOC3は自身の酵素活性依存的に血管への白血球の接着を媒介することが報告されているが血管平滑筋細胞における機能には不明な部分が多い(Marko Salmi, Sirpa Jalkanen. Vascular Adhesion Protein-1: A Cell Surface Amine Oxidase in Translation. Antioxid Redox Signal. 2019 Jan 20; 30(3): 314-332. doi: 10.1089/ars.2017.7418. Epub 2017 Dec 7.)。
【0022】
本発明において、AOC3タンパク質には、配列番号1に示すアミノ酸配列における第1番目~第763番目のアミノ酸配列において1もしくは複数個(例えば、1~10個、1~5個、1~3個、1又は2個)のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列、あるいは配列番号1に示すアミノ酸配列における第1番目~第763番目のアミノ酸配列に対して70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、より好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、最も好ましくは100%の配列同一性を有するアミノ酸配列から成り、且つアミン酸化酵素の機能を有するか、あるいは機能欠損変異体等の当該機能を有しないタンパク質が含まれ、さらにそのようなタンパク質の多量体(二量体以上)も含まれる。
【0023】
一方、ヒトNOS3(すなわち、nitric oxide synthase 3)は、UniProtのアクセション番号がP29474で表される分泌性のタンパク質である(https://www.uniprot.org/uniprot/P29474)。ヒトNOS3のアミノ酸配列を配列番号3に示す。NOS3は、一酸化窒素を産生して、cGMPを介したシグナル伝達経路により血管平滑筋の弛緩に関与することが知られている。産生された一酸化窒素は、虚血後の血管新生や、血小板の活性化と血液凝固促進にも関連する(Ulrich Foerstermann and William C Sessa. Nitric oxide synthases: regulation and function. European Heart Journal 2012 Apr; 33(7): 829-837. doi: 10.1093/eurheartj/ehr304. Epub 2011 Sep 1.)。
【0024】
本発明において、NOS3タンパク質には、配列番号3に示すアミノ酸配列における第1番目~第1203番目のアミノ酸配列において1もしくは複数個(例えば、1~10個、1~5個、1~3個、1又は2個)のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列、あるいは配列番号3に示すアミノ酸配列における第1番目~第1203番目のアミノ酸配列に対して70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、より好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、最も好ましくは100%の配列同一性を有するアミノ酸配列から成り、且つ一酸化窒素産生機能を有するか、あるいは機能欠損変異体等の当該機能を有しないタンパク質が含まれ、さらにそのようなタンパク質の多量体(二量体以上)も含まれる。
【0025】
本発明においては、AOC3及び/又はNOS3と組み合わせるマーカーとしてHSPG2を含むことができる。ヒトHSPG2(すなわち、heparan sulfate proteoglycan 2)は、UniProtのアクセション番号がP98160で表される分泌性のタンパク質である(https://www.uniprot.org/uniprot/P98160)。ヒトHSPG2のアミノ酸配列を配列番号2に示す。配列番号2に示すアミノ酸配列において、第1番目~第21番目のアミノ酸配列はシグナルペプチドであり、第22番目~第4391番目のアミノ酸配列は成熟型タンパク質である。HSPG2は、基底膜に不可欠な成分として知られており、細胞の接着基質としての機能や、抗血管新生作用等の重要な役割を持つ。また正常心臓の発生と傷害に対する血管反応の制御にも重要であることが報告されている(Daniel Timo Behrens, Daniela Villone, Manuel Koch, Georg Brunner, Lydia Sorokin, Horst Robenek, Leena Bruckner-Tuderman, Peter Bruckner, and Uwe Hansen. The epidermal basement membrane is a composite of separate laminin- or collagen IV-containing networks connected by aggregated perlecan, but not by nidogens. The Journal of Biological Chemistry 2012 May 25; 287(22): 18700-18709. doi: 10.1074/jbc.M111.336073. Epub 2012 Apr 9.、 Xinnong Jiang and John R Couchman. Perlecan and tumor angiogenesis. The Journal of Histochemistry and Cytochemistry 2003 Nov; 51(11): 1393-1410. doi: 10.1177/002215540305101101.及びMary C Farach-Carson, Curtis R Warren, Daniel A Harrington,and Daniel D Carson. Border patrol: insights into the unique role of perlecan/heparan sulfate proteoglycan 2 at cell and tissue borders. Matrix Biology 2014 Feb; 34: 64-79. doi: 10.1016/j.matbio.2013.08.004. Epub 2013 Aug 31.)。
【0026】
本発明において、HSPG2タンパク質には、配列番号2に示すアミノ酸配列における第22番目~第4391番目のアミノ酸配列において1もしくは複数個(例えば、1~10個、1~5個、1~3個、1又は2個)のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列、あるいは配列番号2に示すアミノ酸配列における第22番目~第4391番目のアミノ酸配列に対して70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、より好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、最も好ましくは100%の配列同一性を有するアミノ酸配列から成り、且つ抗血管新生の機能を有するか、あるいは機能欠損変異体等の当該機能を有しないタンパク質が含まれ、さらにそのようなタンパク質の多量体(二量体以上)も含まれる。
【0027】
なお、本発明に係るマーカーをNPC2、IGFBP7、MXRA5、TALDO1、METRNL、TSP1、PROF1の他、C反応性蛋白(CRP)、Dダイマー、白血球数(WBC)、血漿ホモシステイン、マトリックスメタロプロテアーゼ-9(MMP-9)等の既知の大動脈瘤マーカーと組み合わせて使用することも可能である。
【0028】
本発明に係るマーカーにより検出可能な大動脈瘤の発症部位は特に限定されない。大動脈基部、上行大動脈、大動脈弓部、下行大動脈のいずれかに発症した胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤、腹部大動脈瘤のいずれも検出可能であるが、胸部大動脈瘤をより検出しやすい。
【0029】
本発明において、大動脈瘤の原因は、動脈硬化性によるものの他、弁疾患によるもの、マルファン症候群のような遺伝性の結合織疾患を原因とするものも含まれる。
【0030】
大動脈瘤を検出する方法の被験対象となり得る動物としては、例えばヒト、サル、ウシ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、ハムスター、モルモット、マウス、ラット等の哺乳類が挙げられるが、好ましくはヒトである。
【0031】
本発明において、被験対象となる動物から採取する検体は、細胞外小胞を含んでいるものであれば特に限定されないが、例えば、血清、血漿、血液、尿、唾液、リンパ液、涙液及び鼻汁等の体液または、糞便、毛髪、組織、細胞等を検体とすることが可能である。
【0032】
本発明の試料は、被験対象から採取された検体由来の細胞外小胞を含有する。被験対象から採取された検体中に存在する細胞外小胞を含んでいる限り、試料の調製方法は特に限定されない。試料の調製方法としては、被験対象から採取された検体からの抽出、濃縮、分離、単離または精製等により取得した細胞外小胞を緩衝液中に分散させ、分散液を試料とする場合と、被験対象から採取された検体をそのまま試料とする場合を想定することができる。
【0033】
本発明において細胞外小胞の取得方法は、直径30~1000nm程度の細胞外小胞を得られる方法であれば特に限定されない。遠心分離法、ポリマー沈殿法、ろ過法、サイズ排除クロマトグラフィー法、イムノアフィニティ(抗原抗体反応)法もしくはその組み合わせ、または当該技術分野において公知である他の類似した方法により、被験対象となる動物から採取した検体から調製された細胞の培養上清又は体液検体から抽出、濃縮、分離、単離又は精製することにより得ることができる。また、市販のキットであるMagCapture(登録商標)Exosome Isolation Kit PS(富士フイルム和光純薬株式会社)やExoTrap(登録商標)Exosome Isolation Spin Column Kit for Protein Research(コスモ・バイオ株式会社)、ExoIsolator Exosome Isolation Kit(株式会社同仁化学研究所)等を用いて精製することにより本発明の細胞外小胞を得ることもできる。
【0034】
本発明において、血清、血漿、血液、尿、唾液、リンパ液、涙液及び鼻汁等の体液検体を、細胞外小胞の抽出、濃縮、単離、精製等の処理工程を行わずにそのまま細胞外小胞を含有する試料としても良く、あるいはこれら体液検体を、緩衝液で2から100倍程度に希釈して(希釈物)、細胞外小胞を含有する試料としても良い。このようにして得られた試料において、細胞外小胞に特異的に結合する抗体や物質等を細胞外小胞の捕捉のために用い、さらに本発明のマーカータンパク質に特異的に結合する抗体を標識して用いる免疫測定法により、small EV及びlarge EV、又は、エクソソーム及びマイクロベシクルを含めた細胞外小胞に係る本発明のマーカータンパク質を測定することができる(例えば、実施例5、6及び7)。細胞外小胞の捕捉のために抗体を用いる場合は、細胞外小胞の表面マーカー(CD(Cluster of Differentiation)9、CD63あるいはCD81等。実施例6ではCD9を使用)に対する抗体を固相化したプレートを用いる酵素結合免疫測定法(ELISA)で測定することにより、血清や血漿等の体液検体から細胞外小胞表面の本発明のマーカータンパク質を検出可能である。また、細胞外小胞の捕捉のために用いる物質は、細胞外小胞を特異的に捕捉するものであれば特に限定されないが、実施例5及び7に記載している、細胞外小胞表面のホスファチジルセリン(PS)と特異的に結合するタンパク質であるTim4(T-cell immunoglobulin domain and mucin domain-containing protein 4)の他、酸化亜鉛ナノワイヤ等の物質も例として挙げられる。実施例5及び7では、細胞外小胞表面のホスファチジルセリン(PS)と特異的に結合するタンパク質であるTim4を固相化したプレートを用いる市販キットであるPS Capture(登録商標)エクソソームELISAキット (富士フイルム和光純薬株式会社)を用いるELISAで測定を行っている。酸化亜鉛ナノワイヤを用いる実施例は示していないが、酸化亜鉛ナノワイヤを細胞外小胞捕捉用物質とするデバイスを用いて本発明のマーカータンパク質を検出することももちろん可能である。
【0035】
本発明において、大動脈瘤を検出する方法は、AOC3タンパク質及び/又はNOS3タンパク質を測定する工程を含む。試料中のAOC3タンパク質及び/又はNOS3タンパク質を測定するに際しては、糖タンパク質としてのAOC3及び/又はNOS3を測定しても良く、糖鎖やリン酸化等の翻訳後修飾を受けたタンパク質としてのAOC3及び/又はNOS3を測定しても良く、また、前処理により糖鎖、リン酸等の翻訳後修飾を除去した後にAOC3及び/又はNOS3のアミノ酸配列部分を測定しても良い。
【0036】
また、本発明において、大動脈瘤を検出する方法は、AOC3タンパク質及び/又はNOS3タンパク質を測定する工程に加え、さらにHSPG2タンパク質を測定する工程を含むことができる。試料中のHSPG2タンパク質を測定するに際しては、糖タンパク質としてのHSPG2を測定しても良く、糖鎖やリン酸化等の翻訳後修飾を受けたタンパク質としてのHSPG2を測定しても良く、また、前処理により糖鎖、リン酸等の翻訳後修飾を除去した後にHSPG2のアミノ酸配列部分を測定しても良い。なお、AOC3タンパク質、HSPG2タンパク質、NOS3タンパク質はいずれも細胞外小胞の表面に存在する膜タンパク質であるが、細胞外小胞の表面に出現せずに内包されているものが存在する可能性は否定できない。本発明は、細胞外小胞に内包されているAOC3タンパク質、HSPG2タンパク質、NOS3タンパク質を測定し、大動脈瘤を検出することも権利範囲に含む。
【0037】
大動脈瘤を検出する方法は、対象から採取した検体由来の細胞外小胞を含有する試料において本発明に係るマーカーを測定することで、当該対象の大動脈瘤を検出することができる。従って、大動脈瘤を検出する方法は、大動脈瘤の診断、検査、評価若しくは判定方法又は当該診断、検査、評価若しくは判定を補助するための方法、あるいは大動脈瘤を検出するためのin vitroにおけるデータ収集方法等ということができる。
【0038】
本発明においては、例えば、大動脈瘤が疑われる患者から採取された検体由来の細胞外小胞を含有する試料において、in vitroでAOC3タンパク質レベル及び/又はNOS3タンパク質レベルを測定することにより、大動脈瘤の発症可能性を判断することができる。患者検体由来の細胞外小胞を含む試料中のAOC3タンパク質レベル及び/又はNOS3タンパク質レベルを同様にして得られたコントロール(比較対照)である健常者由来の細胞外小胞を含む試料中のAOC3タンパク質レベル及び/又はNOS3タンパク質レベルと比較し、患者検体から得られた試料においてAOC3タンパク質レベルがコントロール(比較対照)である健常者から得られた試料中のレベルに比べて高い場合、及び/又はNOS3タンパク質レベルがコントロール(比較対照)である健常者から得られた試料中のレベルに比べて低い場合、大動脈のいずれかの部位で将来、大動脈瘤を発症する可能性あるいは現在大動脈瘤が進行している可能性が高いと判断しうる。
【0039】
本発明では、AOC3タンパク質レベル及び/又はNOS3タンパク質レベルの測定に加え、HSPG2タンパク質レベルを測定することにより、大動脈瘤の発症可能性を判断することもできる。患者検体由来の細胞外小胞を含む試料中のAOC3タンパク質レベル及び/又はNOS3タンパク質レベルに加え、HSPG2タンパク質レベルを同様にして得られたコントロール(比較対照)である健常者由来の細胞外小胞を含む試料中のレベルと比較し、患者検体から得られた試料においてAOC3タンパク質レベルがコントロール(比較対照)である健常者から得られた試料中のレベルに比べて高く、及び/又はNOS3タンパク質レベルがコントロール(比較対照)である健常者から得られた試料中のレベルに比べて低く、さらに患者検体から得られた試料においてHSPG2タンパク質レベルがコントロール(比較対照)である健常者から得られた試料中のレベルに比べて高い場合、大動脈のいずれかの部位で将来、大動脈瘤を発症する可能性あるいは現在大動脈瘤が進行している可能性が高いと判断しうる。
【0040】
具体的には、大動脈瘤を検出する方法に準じて、本発明は、対象から採取した検体由来の細胞外小胞を含有する試料において、本発明に係るマーカーを測定することで、大動脈瘤を将来発症するリスクを有する対象を検出又はスクリーニングする方法をさらに含む。
【0041】
また、大動脈瘤を発症する可能性あるいは現在大動脈瘤が進行している可能性が高いと判断するための各マーカーの測定値の基準は、限定されるものではないが、例えばAOC3について以下の基準が挙げられる。下記の数値は、実施例に基づき算出したものである。
【0042】
(1)胸部大動脈瘤:血清検体
(i)患者血清中のAOC3タンパク質レベルはコントロール(比較対照)である健常者の血清中のレベルに対して統計的有意に高い(p=0.033)。
【0043】
以上の基準に基づいて、患者検体由来の細胞外小胞を含有する試料中のAOC3タンパク質レベルがコントロール(比較対照)に比べて高い場合、胸部大動脈瘤を発症する可能性あるいは現在胸部大動脈瘤が進行している可能性が高いと判断できる。なお、NOS3タンパク質レベル、HSPG2タンパク質レベルについても、同様に、コントロール(比較対照)である健常者の血中のレベルとの比較により、大動脈瘤を発症する可能性あるいは現在大動脈瘤が進行している可能性が高いと判断しうる。
【0044】
本発明に係るマーカーは、大動脈瘤の予防薬又は治療薬のスクリーニングや、大動脈瘤の予防薬又は治療薬の効果の評価や判定のために使用することも可能である。例えば、大動脈瘤の予防薬又は治療薬の効果の評価や判定を行う場合は、大動脈瘤の予防又は治療を必要とする被験対象動物に大動脈瘤の予防薬又は治療薬を投与する前と投与した後、被験対象動物から検体を採取するか、又は当該予防薬又は治療薬を投与した後、被験対象動物から時系列で2以上の時点で検体を採取し、検体由来の細胞外小胞を含有する試料におけるAOC3タンパク質レベル及び/又はNOS3タンパク質レベルの経時変化を調べることにより行うことができる。大動脈瘤の予防薬又は治療薬の投与により、大動脈瘤病変の形成、進展が抑制された場合には、被験対象動物から採取された検体由来の細胞外小胞を含有する試料におけるAOC3タンパク質レベルの経時的な増加が抑制又は横ばい傾向を示し、及び/又はNOS3タンパク質レベルの経時的な減少が抑制又は横ばい傾向を示す。一方、大動脈瘤の予防薬又は治療薬の投与により、大動脈瘤病変が改善された場合には、被験対象動物から採取された検体由来の細胞外小胞を含有する試料におけるAOC3タンパク質レベルは経時的な減少傾向を示し、及び/又はNOS3タンパク質レベルは経時的な増加傾向を示す。
【0045】
本発明において、被験対象動物に大動脈瘤の予防薬又は治療薬を投与する前と投与した後、被験対象動物から検体を採取するか、又は当該予防薬又は治療薬を投与した後、被験対象動物から時系列で2以上の時点で検体を採取し、検体由来の細胞外小胞を含有する試料におけるAOC3タンパク質レベル及び/又はNOS3タンパク質レベルの経時変化に加えて、HSPG2タンパク質レベルの経時変化を調べることにより、大動脈瘤の予防薬又は治療薬の効果の評価や判定を行うことも可能である。大動脈瘤の予防薬又は治療薬の投与により、大動脈瘤病変の形成、進展が抑制された場合には、被験対象動物から採取された検体由来の細胞外小胞を含有する試料におけるAOC3タンパク質レベルの経時的な増加が抑制又は横ばい傾向を示し、及び/又はNOS3タンパク質レベルの経時的な減少が抑制又は横ばい傾向を示し、さらにHSPG2タンパク質レベルの経時的な増加が抑制又は横ばい傾向を示す。一方、大動脈瘤の予防薬又は治療薬の投与により、大動脈瘤病変が改善された場合には、被験対象動物から採取された検体由来の細胞外小胞を含有する試料におけるAOC3タンパク質レベルは経時的な減少傾向を示し、及び/又はNOS3タンパク質レベルは経時的な増加傾向を示し、さらにHSPG2タンパク質レベルが経時的な減少傾向を示す。
【0046】
本発明に係るマーカータンパク質を測定する方法としては、例えば、免疫測定法、質量分析法等、AOC3タンパク質、HSPG2タンパク質、NOS3タンパク質を特異的に測定できる方法であれば周知のいかなる方法を用いても良い。本発明に係るマーカータンパク質を測定する際に用いる検出剤としては、抗体やアプタマー等を用いることができる。
【0047】
免疫測定法としては、特に限定されないが、各種のエンザイムイムノアッセイ、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素結合免疫測定法(ELISA)、二重モノクローナル抗体サンドイッチイムノアッセイ法、モノクローナルポリクローナル抗体サンドイッチアッセイ法、免疫染色法、免疫蛍光法、ウェスタンブロッティング法、ビオチン-アビジン法、免疫沈降法、金コロイド凝集法、イムノクロマト法、ラテックス凝集法(LA)、免疫比濁法(TIA)等を挙げることができる。
【0048】
免疫測定法において使用する検出剤として、既に市販されている抗AOC3抗体、抗HSPG2抗体、抗NOS3抗体を使用しても良いが、公知のAOC3のアミノ酸配列(配列番号1)、HSPG2のアミノ酸配列(配列番号2)、NOS3のアミノ酸配列(配列番号3)に基づいて定法により抗体を調製しても良い。AOC3、HSPG2、NOS3それぞれのアミノ酸配列の構造を特異的に認識する抗体で良いが、それぞれの糖鎖やジスルフィド結合、リン酸化等の翻訳後修飾を含む全体構造を特異的に認識するものでも良い。
【0049】
AOC3タンパク質、HSPG2タンパク質、NOS3タンパク質を検出可能な抗体であれば由来する動物種やクローンは特に限定されない。ウサギ、ヤギ、マウス、ラット、モルモット、ウマ、ヒツジ、ラクダ、ニワトリ等に由来する抗体が挙げられ、モノクローナル抗体でも、ポリクローナル抗体でも構わない。また、AOC3タンパク質、HSPG2タンパク質、NOS3タンパク質への特異的な結合に適する全てのサブクラスの抗体を用いることができる。組換え抗体、Fab、Fab'又はF(ab')2断片のような断片を用いることももちろん可能である。
【0050】
本発明に係る大動脈瘤の検出剤として、AOC3タンパク質、HSPG2タンパク質、NOS3タンパク質と結合性を有するアプタマーを利用することもできる。アプタマーの製造には、公知のAOC3のアミノ酸配列(配列番号1)、HSPG2のアミノ酸配列(配列番号2)、NOS3のアミノ酸配列(配列番号3)から、結合し得るDNA若しくはRNA又はそれらの誘導体である核酸アプタマーやアミノ酸で構成されるペプチドアプタマーを周知の方法により合成して用いれば良い。測定の際には、アプタマーの結合を発光法や蛍光法、表面プラズモン共鳴法により検出することができる。
【0051】
質量分析法としては、特に限定されないが、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)、表面増強レーザー脱離イオン化法(SELDI)等を用いたイオン源と、飛行時間型分析計(TOF)、イオントラップ型分析計(IT)、フーリエ変換型分析計(FT)等を組み合わせた質量分析計が利用できる。質量分析計を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)やキャピラリー電気泳動(CE)等の分離装置と連結したLC-MSやCE-MS等を用いることが出来る。また、質量分析データの取得方法として、データ非依存性解析(DIA)、データ依存性解析(DDA)、多重反応モニタリング法(MRM)等が挙げられる。質量分析では、試料をiTRAQ試薬(SCIEX社)等による安定同位体標識を行う場合も含まれる。
【0052】
本発明の大動脈瘤検出を行う際に必要な各種の試薬類は、予めパッケージングしてキット化することができる。例えば、(i)捕捉抗体として本発明に係るマーカータンパク質に特異的なモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体、(ii)検出抗体として本発明に係るマーカータンパク質に特異的な酵素標識化モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体、(iii)基質溶液等の必要な試薬がキットとして提供される。本発明のキットには、コントロール(対照)を含んでも良く、さらに、検体から細胞外小胞を単離、精製するための試薬を含んでも良い。また、他の例として、(i)細胞外小胞捕捉用の抗体もしくはポリクローナル抗体、又は細胞外小胞捕捉用物質、(ii)検出抗体として本発明に係るマーカータンパク質に特異的な酵素標識化モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体、(iii)基質溶液等の必要な試薬を含むキットも挙げられる。なお、本発明に従って提供されるキットは、大動脈瘤を発症する可能性あるいは現在大動脈瘤が進行している可能性が高いと判断するための基準値等が記載された説明書又は添付文書(例えば紙もしくはプラスチック等に印刷してキット内に包含する形態、またはインターネットを介して閲覧もしくはダウンロードする形態等)も含むことができる。
【実施例0053】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
〔実施例1〕
胸部大動脈瘤患者血漿の細胞外小胞表面のAOC3タンパク質の質量分析
(1)検体前処理
胸部大動脈瘤患者6例の血漿検体と、健常者15例の血漿検体それぞれ1,000μLを1,200gで20分間遠心分離し、上清を回収した。続いて、回収した上清を10,000gで30分間遠心分離した後、上清を新しいチューブに移しsmall EV精製用サンプルとした。沈殿はTBS(Tris Buffered Saline)900μLに懸濁してlarge EV精製用サンプルとした。
【0055】
(2)細胞外小胞の精製
(1)で調製したsmall EV、large EV精製用サンプル各900μLをMagCapture(登録商標)Exosome Isolation Kit PS(富士フイルム和光純薬株式会社)に適用して細胞外小胞を精製した。MagCapture(登録商標)Exosome Isolation Kit PSによる精製法は、PSアフィニティ法と呼ばれ、細胞外小胞の膜表面に存在するホスファチジルセリン(PS)にカルシウム依存的に結合するTim4タンパク質(T-cell immunoglobulin domain and mucin domain-containing protein 4)を応用し、Tim4固相化磁気ビーズを用いてカルシウムイオン存在下でサンプル中の細胞外小胞を捕捉し、キレート剤を添加することによって中性条件下でインタクトな状態の細胞外小胞を溶出して精製する。なお、キット付属のプロトコールに従って精製操作を行い、キットのElution Buffer中の分散液として精製small EV、large EVをそれぞれ得た。
【0056】
(3)質量分析によるプロテオーム解析
得られた精製small EV、large EV分散液にLys-C(Lysyl Endopeptidase)、Trypsinを添加し、37℃で一晩インキュベーションして消化した。得られたトリプシン消化ペプチドはC18(オクタデシルシリル)カラムを用いて脱塩し、解析サンプルとした。解析サンプルはナノLC(NanoElute、Bruker社)で分離した後、連結されたtimsTOF Pro (Bruker社)でMS/MS解析を行った。得られたデータをMSFraggerソフトウェア(Alexey Nesvizhskii's proteome bioinformatics group)で解析することで、各タンパク質の検出強度を比較定量した。その後、健常者の血漿から精製した細胞外小胞よりも胸部大動脈瘤患者血漿から精製した細胞外小胞において統計的に有意に増加するタンパク質を探索し、large EV上のAOC3タンパク質を選択した。なお、有意差検定にはt検定を用いた。
【0057】
(4)結果
図1に示す様に、胸部大動脈瘤患者の血漿検体から得られたlarge EV上のAOC3タンパク質の検出強度は、健常者の血漿検体から得られたlarge EV上のAOC3タンパク質の検出強度と比較して有意に増加していた。
【0058】
〔実施例2〕
胸部大動脈瘤患者血漿の細胞外小胞表面のHSPG2タンパク質、NOS3タンパク質の質量分析(1)検体前処理
実施例1(1)と同様の方法で行った。
【0059】
(2)細胞外小胞の精製
実施例1(2)と同様の方法で行った。
【0060】
(3)質量分析によるプロテオーム解析
得られた精製small EV、large EV分散液にLys-C(Lysyl Endopeptidase)、Trypsinを添加し、37℃で一晩インキュベーションして消化した。得られたトリプシン消化ペプチドはC18(オクタデシルシリル)カラムを用いて脱塩し、解析サンプルとした。解析サンプルはナノLC(NanoElute、Bruker社)で分離した後、連結されたtimsTOF Pro (Bruker社)でMS/MS解析を行った。得られたデータをMSFraggerソフトウェア(Alexey Nesvizhskii's proteome bioinformatics group)で解析することで、各タンパク質の検出強度を比較定量した。その後、健常者の血漿から精製した細胞外小胞よりも胸部大動脈患者血漿から精製した細胞外小胞において統計的に有意に増加するタンパク質を探索し、large EV上のHSPG2タンパク質、NOS3タンパク質を選択した。なお、有意差検定にはt検定を用いた。
【0061】
(4)結果
図に示す様に、血漿検体から得られたlarge EV上のHSPG2タンパク質の検出強度(図2-1)、NOS3タンパク質の検出強度(図2-2)は、ともに健常者と比較して胸部大動脈瘤患者で有意に増加していた。
【0062】
〔実施例3〕
胸部大動脈瘤患者血漿の細胞外小胞表面のAOC3タンパク質の測定(ウェスタンブロット法)(1)検体前処理
実施例1(1)と同様の方法で行った。
【0063】
(2)細胞外小胞の精製
実施例1(2)と同様の方法で行った。
【0064】
(3)ウェスタンブロット法による測定
得られた精製large EV分散液100μLをSDS、DTTと混ぜた後、95℃で10分間加熱してウェスタンブロットサンプルを調製した。ウェスタンブロットサンプル20μLを10-20%濃度のアクリルアミドゲルで電気泳動した後、PVDFメンブレンに転写し、抗AOC3タンパク質抗体と一晩冷蔵で反応させ、続いてHRP標識抗ヤギIgG抗体と1時間反応させてからECL prime (GE Healthcare社)で発色させ、LAS-2000(富士フイルム社)でAOC3タンパク質特異バンドを検出した。
【0065】
(4)結果
図3に示す様に、胸部大動脈瘤患者血漿から調製したlarge EVでは、健常者の血漿から調製したlarge EVに比べて、AOC3の発現が増加していた。従って、large EV(細胞外小胞)上の表面タンパク質であるAOC3が胸部大動脈瘤検出用マーカーとして有用なマーカーであることが示された。
【0066】
〔実施例4〕
胸部大動脈瘤患者血漿の細胞外小胞表面のHSPG2タンパク質、NOS3タンパク質の測定(ウェスタンブロット法)
(1)検体前処理
実施例1(1)と同様の方法で行った。
【0067】
(2)細胞外小胞の精製
実施例1(2)と同様の方法で行った。
【0068】
(3)ウェスタンブロット法による測定
得られた精製large EV分散液100μLをSDS、DTTと混ぜた後、95℃で10分間加熱してウェスタンブロットサンプルを調製した。ウェスタンブロットサンプル20μLを10-20%濃度のアクリルアミドゲルで電気泳動した後、PVDFメンブレンに転写し、抗HSPG2タンパク質抗体、抗NOS3タンパク質抗体とそれぞれ一晩冷蔵で反応させ、続いてHRP標識抗ヤギIgG抗体と1時間反応させてからECL prime (GE Healthcare社)で発色させ、LAS-2000(富士フイルム社)でHSPG2タンパク質、NOS3タンパク質特異バンドを検出した。
【0069】
(4)結果
図3に示す様に、HSPG2、NOS3はいずれも、健常者の血漿から調製したlarge EVに比べて胸部大動脈瘤患者血漿から調製したlarge EVにおいて発現が増加していた。従って、large EV(細胞外小胞)上の表面タンパク質であるHSPG2、NOS3はいずれも胸部大動脈瘤検出用マーカーとして有用なマーカーであることが示された。
【0070】
〔実施例5〕
大動脈瘤患者の血清検体からのAOC3タンパク質の測定(ELISA法)
大動脈瘤患者(胸部大動脈瘤1例、腹部大動脈瘤1例、部位不明の大動脈瘤2例)及び比較対照である健常者(3例)を対象として、AOC3の血清濃度についてELISA測定を行った。AOC3は、PS Capture(登録商標)エクソソームELISAキット (富士フイルム和光純薬株式会社)を用いて測定した。測定はキット付属のプロトコールを一部改変して実施した。
【0071】
詳細には、細胞外小胞表面のホスファチジルセリン(PS)特異的に結合するタンパク質の固相化されたプレートに、キットのReaction Bufferで10倍希釈した血清検体を添加してインキュベーションした。その後、検体液を取り除き、ビオチン標識された抗AOC3抗体を添加してインキュベーションした。インキュベーション後に洗浄操作を行い、polyHRP標識されたストレプトアビジンを添加してインキュベーションした。続いて洗浄操作を行い、TMB(3,3',5,5'-tetramethylbenzidine)溶液を添加して発色反応を行った後、停止液を添加し、マイクロプレートリーダー(Infinite200 PRO、TECAN社)を用いて測定を行った。各検体に対する反応性は主波長450nm、副波長540nmの条件で測定して得た。検体を添加していないウェルで得られた反応性を差し引いた反応性を検体に対する反応性として示した。
【0072】
・結果
図4に示す様に、大動脈瘤患者(4例)血清では、比較対照である健常者(3例)の血清に比べて、AOC3の反応性(濃度に相当)が増加していた。従って、細胞外小胞上の表面タンパク質であるAOC3が大動脈瘤検出用マーカーとして有用なマーカーであることが示された。
【0073】
〔実施例6〕
大動脈瘤患者の血清検体からのHSPG2タンパク質の測定(ELISA法)
大動脈瘤患者(胸部大動脈瘤1例、腹部大動脈瘤1例、部位不明の大動脈瘤2例)及び比較対照である健常者(3例)を対象として、HSPG2の血清濃度について自家製の測定系を用いてELISA測定を行った。
【0074】
詳細には、抗CD9抗体の固相化されたプレートに、PBS(Phosphate Buffered Saline)で10倍希釈した血清検体を添加してインキュベーションした。その後、検体液を取り除き、ビオチン標識された抗HSPG2抗体を添加してインキュベーションした。インキュベーション後に洗浄操作を行い、polyHRP標識されたストレプトアビジンを添加してインキュベーションした。続いて洗浄操作を行い、TMB(3,3',5,5'-tetramethylbenzidine)溶液を添加して発色反応を行った後、停止液を添加し、マイクロプレートリーダー(Infinite200 PRO、TECAN社)を用いて測定を行った。各検体に対する反応性は主波長450nm、副波長540nmの条件で測定して得た。検体を添加していないウェルで得られた反応性を差し引いた反応性を検体に対する反応性として示した。
【0075】
・結果
図5に示す様に、大動脈瘤患者(4例)血清では、比較対照である健常者(3例)の血清に比べて、HSPG2の反応性(濃度に相当)が増加していた。従って、細胞外小胞上の表面タンパク質であるHSPG2は大動脈瘤検出用マーカーとして有用なマーカーであることが示された。
【0076】
〔実施例7〕
胸部大動脈瘤患者の血清検体からのAOC3タンパク質の測定(ELISA法)
AOC3の血清濃度について、ELISA測定を行った。AOC3は、PS Capture(登録商標)エクソソームELISAキット (富士フイルム和光純薬株式会社)を用いて測定した。測定はキット付属のプロトコールを一部改変して実施した。
【0077】
詳細には、細胞外小胞表面のホスファチジルセリン(PS)特異的に結合するタンパク質の固相化されたプレートに、キットのReaction Bufferで10倍希釈した血清検体を添加してインキュベーションした。その後、検体液を取り除き、ビオチン標識された抗AOC3抗体を添加してインキュベーションした。インキュベーション後に洗浄操作を行い、polyHRP標識されたストレプトアビジンを添加してインキュベーションした。続いて洗浄操作を行い、TMB(3,3',5,5'-tetramethylbenzidine)溶液を添加して発色反応を行った後、停止液を添加し、マイクロプレートリーダー(SpectraMax M2、Molecular Devices社)を用いて測定を行った。各検体に対する反応性は主波長450nm、副波長540nmの条件で測定して得た。検体を添加していないウェルで得られた反応性を差し引いた反応性を検体に対する反応性として示した。統計処理には、U検定を使用した。
【0078】
・結果
図6に示す様に、胸部大動脈瘤患者(23例)血清では、比較対照である健常者(14例)の血清に比べて、AOC3の反応性(濃度に相当)が有意に増加していた。従って、細胞外小胞上の表面タンパク質であるAOC3が胸部大動脈瘤検出用マーカーとして有用なマーカーであることが示された。
【0079】
〔参考例1〕
組織中で変動するタンパク質の細胞外小胞表面における変動
胸部大動脈瘤患者瘤部組織29例、非血管疾患患者の大動脈組織14例を用いて質量分析を行い、さらに、胸部大動脈瘤患者血漿6例、健常者血漿15例を用いて細胞外小胞中のタンパク質の質量分析を行った。
【0080】
(1)組織の破砕とトリプシン消化
採取後、凍結した組織はビーズ破砕機を用いて破砕し、Lys-C(Lysyl Endopeptidase)、Trypsinを添加して37℃で一晩インキュベーションにより消化した。得られた消化ペプチド(以下、トリプシン消化ペプチド)はC18(オクタデシルシリル)カラムを用いて脱塩し、解析サンプルとした。
【0081】
(2)組織中のタンパク質のプロテオーム解析
解析サンプルはナノLC(日立Nano Frontier、日立ハイテクノロジーズ社)で分離した後、連結されたTripleTOF 5600(SCIEX社)でMS/MS解析を行った。測定データからMascot database search(Matrix Science社)でタンパク質を同定し、LC-MSデータを集積して用いる比較定量プロテオーム解析ソフトである2DICAL(2-Dimensional Image Converted Analysis of Liquid chromatography-mass spectrometry、三井情報株式会社)を用いて検出強度の定量を行い、非血管疾患群の大動脈と胸部大動脈瘤群の大動脈瘤の組織間で差のあるタンパク質の探索を行った。その結果、図7-1から図7-4に示す4種のタンパク質はいずれも非血管疾患の正常大動脈群に対し胸部大動脈瘤群で顕著な変動(増加)を示すタンパク質として同定された。なお、有意差検定にはt検定を用いた。
【0082】
(3)血漿検体の前処理
実施例1(1)と同様の方法で行った。
【0083】
(4)細胞外小胞の精製
実施例1(2)と同様の方法で行った。
【0084】
(5)細胞外小胞中のタンパク質のプロテオーム解析
得られた精製small EV、large EV分散液にLys-C(Lysyl Endopeptidase)、Trypsinを添加し、37℃で一晩インキュベーションして消化した。得られたトリプシン消化ペプチドはC18(オクタデシルシリル)カラムを用いて脱塩し、解析サンプルとした。解析サンプルはナノLC(NanoElute、Bruker社)で分離した後、連結されたtimsTOF Pro (Bruker社)でMS/MS解析を行った。得られたデータをMSFraggerソフトウェア(Alexey Nesvizhskii's proteome bioinformatics group)で解析することで、図8-1から図8-4に示す4種のタンパク質の検出強度を定量した。なお、有意差検定にはt検定を用いた。
【0085】
(6)結果
図8-1から図8-4に示す様に、4種のタンパク質はいずれも、細胞外小胞においては、健常人群に対し胸部大動脈瘤群で有意な変動を示さなかった。これらの結果と(2)の結果(図7-1~図7-4)から、組織において変動を示すタンパク質のすべてが細胞外小胞においても変動する訳では無いことが示された。
【0086】
〔参考例2〕
従来のマーカーであるCRPの細胞外小胞中における変動
胸部大動脈瘤患者血漿6例、健常者血漿15例を用いて細胞外小胞中のCRPの質量分析を行った。
【0087】
(1)検体前処理
実施例1(1)と同様の方法で行った。
【0088】
(2)細胞外小胞の精製
実施例1(2)と同様の方法で行った。
【0089】
(3)質量分析によるプロテオーム解析
得られた精製small EV、large EV分散液にLys-C(Lysyl Endopeptidase)、Trypsinを添加し、37℃で一晩インキュベーションして消化した。得られたトリプシン消化ペプチドはC18(オクタデシルシリル)カラムを用いて脱塩し、解析サンプルとした。解析サンプルはナノLC(NanoElute、Bruker社)で分離した後、連結されたtimsTOF Pro (Bruker社)でMS/MS解析を行った。得られたデータをMSFraggerソフトウェア(Alexey Nesvizhskii's proteome bioinformatics group)で解析することで、CRPの検出強度を定量した。なお、有意差検定にはt検定を用いた。
【0090】
(4)結果
図9に示す様に、CRPは、細胞外小胞においては、健常人群に対し胸部大動脈瘤群で有意な変動を示さなかった。この結果から、血液中において変動するタンパク質の中にも細胞外小胞においては有意な変動を示さないタンパク質が一定数あることが示唆された。
【0091】
〔実施例8〕
他の心疾患との比較1(ELISA法による血清検体のAOC3タンパク質の測定)
他の心疾患の患者(遺伝性不整脈5例、心不全5例)及び胸部大動脈瘤患者24例におけるAOC3の血清濃度について、ELISA測定を行った。AOC3の血清濃度は、実施例7に記載の方法に準じて測定した。他の心疾患患者群と胸部大動脈瘤患者群の比較のための統計処理には、GraphPad Prism(GraphPad Software社)を使用し、有意差検定にはU検定を用いた。
【0092】
・結果1
図10に示す様に、胸部大動脈瘤患者(24例)血清では、他の心疾患の患者(遺伝性不整脈5例、心不全5例)の血清に比べて、AOC3の反応性(濃度に相当)が有意に増加していた。従って、細胞外小胞上の表面タンパク質であるAOC3が他の心疾患と区別し得る胸部大動脈瘤の診断マーカーとなる可能性が示された。
【0093】
・結果2(ROC曲線によるAOC3の胸部大動脈瘤マーカーとしての評価)
胸部大動脈瘤の診断におけるAOC3のROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を図11に示した。ROC曲線はGraphPad Prism(GraphPad Software社)で作成した。ROC曲線から求めたAUC(Area Under the Curve)は、0.779であり、AOC3は胸部大動脈瘤マーカーとして有用なマーカーであることが示された。
【0094】
〔実施例9〕
他の心疾患との比較2(ELISA法による血清検体のNOS3タンパク質の測定)
他の心疾患の患者(心不全9例)及び胸部大動脈瘤患者24例におけるNOS3の血清濃度について、自家製の測定系を用いてELISA測定を行った。
【0095】
詳細には、抗CD9抗体の固相化されたプレートに、PBS(Phosphate Buffered Saline)で10倍希釈した血清検体を添加してインキュベーションした。その後、検体液を取り除き、ビオチン標識された抗NOS3抗体を添加してインキュベーションした。インキュベーション後に洗浄操作を行い、polyHRP標識されたストレプトアビジンを添加してインキュベーションした。続いて洗浄操作を行い、TMB(3,3',5,5'-tetramethylbenzidine)溶液を添加して発色反応を行った後、停止液を添加し、マイクロプレートリーダー(SpectraMax M2、Molecular Devices社)を用いて測定を行った。各検体に対する反応性は主波長450nm、副波長540nmの条件で測定して得た。検体を添加していないウェルで得られた反応性を差し引いた反応性を検体に対する反応性として示した。他の心疾患患者群と胸部大動脈瘤患者群の比較のための統計処理には、GraphPad Prism(GraphPad Software社)を使用し、有意差検定には、U検定を使用した。
【0096】
・結果1
図12に示す様に、胸部大動脈瘤患者(24例)血清では、他の心疾患の患者(心不全9例)の血清に比べて、NOS3の反応性(濃度に相当)が有意に低下していた。従って、細胞外小胞上の表面タンパク質であるNOS3が他の心疾患と区別し得る胸部大動脈瘤の診断マーカーとなる可能性が示された。
【0097】
・結果2(ROC曲線によるNOS3の胸部大動脈瘤マーカーとしての評価)
胸部大動脈瘤の診断におけるNOS3のROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を図13に示した。ROC曲線はGraphPad Prism(GraphPad Software社)で作成した。ROC曲線から求めたAUC(Area Under the Curve)は、0.810であり、NOS3は胸部大動脈瘤マーカーとして有用なマーカーであることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明に係る大動脈瘤の新規マーカーである細胞外小胞表面のAOC3タンパク質及び/又はNOS3タンパク質を用いることにより、大動脈瘤の発症を高感度で特異的に検出することができる。そのため、本発明に係る大動脈瘤の検出剤及び検出キットは、大動脈瘤のスクリーニングや早期診断の補助、予防薬や治療薬の開発、評価等に使用することができ、また、本発明は、当該検出剤及び検出キットを製造する産業において利用することができる。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図7-4】
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図8-4】
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
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