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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153077
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】ステータの製造方法及びステータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/04 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
H02K15/04 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057602
(22)【出願日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2022058535
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】名取 麻蕗
【テーマコード(参考)】
5H615
【Fターム(参考)】
5H615AA01
5H615PP01
5H615PP14
5H615PP15
5H615RR07
5H615SS42
(57)【要約】
【課題】リード線部をその周辺の平角導線に対してワニスにより適切に固定することができる技術を実現する。
【解決手段】第1リード線部31と第2リード線部32とが、周方向Cに並んで配置され、第2リード線部32は、第1リード線部31に対して径方向の内側に配置されていると共に周方向Cに延在するように配置された渡り部60を備える。ステータの製造方法は、渡り部60の上面61に対して、第1リード線部31と第2リード線部32との周方向Cの間であって上側V1から粘性を有するワニス4を供給するワニス供給工程と、重力により垂れ落ちるワニス4を渡り部60の上面61により下側V2から支えつつ、ワニス4を加熱して硬化させるワニス硬化工程と、を実行する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延在すると共に周方向に並ぶ複数のスロットを有する円筒状のステータコアと、平角導線を複数の前記スロットにわたって巻回して構成され、前記ステータコアから前記軸方向の外側に突出したコイルエンド部を備えたステータコイルと、を備えるステータの製造方法であって、
前記ステータコイルは、前記コイルエンド部から突出するように配置された第1リード線部及び第2リード線部を備え、
前記第1リード線部と前記第2リード線部とは、前記周方向に並んで配置され、
前記第2リード線部は、前記第1リード線部に対して径方向の内側に配置されていると共に前記周方向に延在するように配置された渡り部を備え、
前記渡り部の上面に対して、前記第1リード線部と前記第2リード線部との前記周方向の間であって上側から粘性を有するワニスを供給するワニス供給工程と、
重力により垂れ落ちる前記ワニスを前記渡り部の上面により下側から支えつつ、前記ワニスを加熱して硬化させるワニス硬化工程と、を実行する、ステータの製造方法。
【請求項2】
前記第1リード線部と前記第2リード線部とは、前記コイルエンド部の外周部に沿って前記軸方向に延在する部分を有していると共に、それぞれの先端部を覆うモールド樹脂によって互いに連結されており、
前記ステータコイルは、前記第1リード線部に対して前記径方向の内側に隣接して配置され、先端部が前記第1リード線部の先端部に接合された第3リード線部と、前記第2リード線部に対して前記径方向の内側に隣接して配置され、先端部が前記第2リード線部の先端部に接合された第4リード線部と、を更に備え、
前記第3リード線部の下端部は、前記径方向の内側に向かって屈曲された第1屈曲部に連続するように形成され、
前記第4リード線部の下端部は、前記径方向の内側に向かって屈曲された第2屈曲部に連続するように形成され、
前記モールド樹脂は、前記第1リード線部の先端部と前記第3リード線部の先端部との接合部を覆う第1カバー部と、前記第2リード線部の先端部と前記第4リード線部の先端部との接合部を覆う第2カバー部と、前記第1カバー部と前記第2カバー部とを連結する連結部とを備え、
前記ワニス供給工程では、前記連結部よりも下側であり、前記径方向における前記渡り部に対応する位置であり、且つ、前記周方向における前記第1リード線部と前記第2リード線部との間の位置から、前記ワニスを滴下する、請求項1に記載のステータの製造方法。
【請求項3】
紫外線により硬化すると共に加熱により軟化した後に硬化する性質を有する前記ワニスを使用し、
前記ワニス供給工程中に、又は前記ワニス供給工程の後であって前記ワニス硬化工程の前に、前記コイルエンド部に対して前記径方向の外側から紫外線を照射することで前記ワニスの前記径方向の外側部分を硬化させ、
前記ワニス硬化工程では、加熱により一時的に粘度が低下した前記ワニスを、前記コイルエンド部の外周部と前記第1リード線部との前記径方向の隙間に浸透させてから硬化させる、請求項1又は2に記載のステータの製造方法。
【請求項4】
軸方向に延在すると共に周方向に並ぶ複数のスロットを有する円筒状のステータコアと、平角導線を複数の前記スロットにわたって巻回して構成され、前記ステータコアから前記軸方向の外側に突出したコイルエンド部を備えたステータコイルと、を備えるステータであって、
前記軸方向の一方側を軸方向第1側として、
前記ステータコイルは、前記軸方向第1側の前記コイルエンド部から突出するように配置された第1リード線部及び第2リード線部を備え、
前記第1リード線部と前記第2リード線部とは、前記周方向に並んで配置され、
前記第2リード線部は、前記第1リード線部に対して径方向の内側に配置されていると共に前記周方向に延在するように配置された渡り部を備え、
前記渡り部の前記軸方向第1側の面より前記軸方向第1側の領域において、前記コイルエンド部の外周部と前記第1リード線部との前記径方向の隙間がワニスにより埋められていると共に、前記第1リード線部と前記第2リード線部とが前記ワニスにより互いに固着して固着部を形成しており、当該固着部に連なる前記ワニスが前記ステータコアの前記軸方向第1側の面よりも前記軸方向第1側に配置されている、ステータ。
【請求項5】
前記第1リード線部と前記第2リード線部とは、前記コイルエンド部の外周部に沿って前記軸方向に延在する部分を有していると共に、それぞれの先端部を覆うモールド樹脂によって互いに連結されており、
前記ステータコイルは、前記第1リード線部に対して前記径方向の内側に隣接して配置され、先端部が前記第1リード線部の先端部に接合された第3リード線部と、前記第2リード線部に対して前記径方向の内側に隣接して配置され、先端部が前記第2リード線部の先端部に接合された第4リード線部と、を更に備え、
前記軸方向における前記軸方向第1側とは反対側を軸方向第2側として、
前記第3リード線部の前記軸方向第2側の端部は、前記径方向の内側に向かって屈曲された第1屈曲部に連続するように形成され、
前記第4リード線部の前記軸方向第2側の端部は、前記径方向の内側に向かって屈曲された第2屈曲部に連続するように形成され、
前記モールド樹脂は、前記第1リード線部の先端部と前記第3リード線部の先端部との接合部を覆う第1カバー部と、前記第2リード線部の先端部と前記第4リード線部の先端部との接合部を覆う第2カバー部と、前記第1カバー部と前記第2カバー部とを連結する連結部とを備え、
前記ワニスは、前記連結部よりも前記軸方向第2側であって前記ステータコアの前記軸方向第1側の面よりも前記軸方向第1側の範囲内に配置されている、請求項4に記載のステータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータの製造方法及びステータに関する。
【背景技術】
【0002】
軸方向に延在すると共に周方向に並ぶ複数のスロットを有する円筒状のステータコアと、平角導線を複数のスロットにわたって巻回して構成され、ステータコアから軸方向の外側に突出したコイルエンド部を備えたステータコイルと、を備えるステータの一例が、特開2018-57141号公報(特許文献1)に開示されている。以下、背景技術の説明において括弧内に示す符号は特許文献1のものである。
【0003】
特許文献1のステータコイルは、当該文献の図7に示される一方側同芯巻コイル(41a)と、当該文献の図8に示される他方側同芯巻コイル(41b)と、を用いて形成されている。一方側同芯巻コイル(41a)の外径側リード線部(416a)の先端部は、他方側同芯巻コイル(41b)の内径側リード線部(415b)の先端部に接合され、一方側同芯巻コイル(41a)の内径側リード線部(415a)の先端部は、他方側同芯巻コイル(41b)の外径側リード線部(416b)の先端部に接合されている。特許文献1の図9及び図10に示されているように、リード線部同士の接合部は、コイルエンド部から径方向の外側に突出するように配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-57141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1には記載されていないが、リード線部同士の接合部の、振動に対する強度を適切に確保するために、リード線部をその周辺の平角導線(例えば、コイルエンド部の外周部に配置された平角導線)に対してワニスで固定することが考えられる。この場合、例えば、熱硬化性のワニスをリード線部に接触するように滴下させた後に熱硬化させることが考えられるが、熱硬化させる途中でワニスの粘度が低下することで、ワニスがリード線部の近傍から重力により垂れ落ちるおそれがある。その結果、固定に必要な量のワニスがリード線部の近傍に留まらず、リード線部をその周辺の平角導線に対して適切に固定することができないおそれがある。
【0006】
そこで、リード線部をその周辺の平角導線に対してワニスにより適切に固定することができる技術の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るステータの製造方法は、軸方向に延在すると共に周方向に並ぶ複数のスロットを有する円筒状のステータコアと、平角導線を複数の前記スロットにわたって巻回して構成され、前記ステータコアから前記軸方向の外側に突出したコイルエンド部を備えたステータコイルと、を備えるステータの製造方法であって、前記ステータコイルは、前記コイルエンド部から突出するように配置された第1リード線部及び第2リード線部を備え、前記第1リード線部と前記第2リード線部とは、前記周方向に並んで配置され、前記第2リード線部は、前記第1リード線部に対して径方向の内側に配置されていると共に前記周方向に延在するように配置された渡り部を備え、前記渡り部の上面に対して、前記第1リード線部と前記第2リード線部との前記周方向の間であって上側から粘性を有するワニスを供給するワニス供給工程と、重力により垂れ落ちる前記ワニスを前記渡り部の上面により下側から支えつつ、前記ワニスを加熱して硬化させるワニス硬化工程と、を実行する。
【0008】
本構成によれば、ワニス供給工程で供給されたワニスがワニス硬化工程で硬化されるまでの間、渡り部の上面からのワニスの垂れ落ちを制限することができる。よって、第1リード線部や第2リード線部の固定に必要な量のワニスを、第1リード線部と第2リード線部との周方向の間であって渡り部よりも上側に留めた状態で硬化させることができ、第1リード線部及び第2リード線部の各リード線部をその周辺の平角導線(例えば、コイルエンド部の外周部に配置された平角導線、或いは、他のリード線部)に対して適切に固定することができる。
【0009】
このように、本構成によれば、第1リード線部及び第2リード線部の各リード線部を、その周辺の平角導線に対してワニスにより適切に固定することができる。よって、第1リード線部と他のリード線部との接合部や第2リード線部と他のリード線部との接合部の、振動に対する強度を適切に確保することができる。また、本構成によれば、渡り部の上面からのワニスの垂れ落ちを制限することで、不要なワニス(例えば、ステータコアに垂れ落ちたワニス)を除去するトリミング工程の省略が可能となり、ステータの製造工程の簡略化を図ることもできる。
【0010】
本開示に係るステータは、軸方向に延在すると共に周方向に並ぶ複数のスロットを有する円筒状のステータコアと、平角導線を複数の前記スロットにわたって巻回して構成され、前記ステータコアから前記軸方向の外側に突出したコイルエンド部を備えたステータコイルと、を備えるステータであって、前記軸方向の一方側を軸方向第1側として、前記ステータコイルは、前記軸方向第1側の前記コイルエンド部から突出するように配置された第1リード線部及び第2リード線部を備え、前記第1リード線部と前記第2リード線部とは、前記周方向に並んで配置され、前記第2リード線部は、前記第1リード線部に対して径方向の内側に配置されていると共に前記周方向に延在するように配置された渡り部を備え、前記渡り部の前記軸方向第1側の面より前記軸方向第1側の領域において、前記コイルエンド部の外周部と前記第1リード線部との前記径方向の隙間がワニスにより埋められていると共に、前記第1リード線部と前記第2リード線部とが前記ワニスにより互いに固着して固着部を形成しており、当該固着部に連なる前記ワニスが前記ステータコアの前記軸方向第1側の面よりも前記軸方向第1側に配置されている。
【0011】
本構成によれば、渡り部の軸方向第1側の面より軸方向第1側の領域に形成された固着部により、第1リード線部がコイルエンド部(具体的には、コイルエンド部の外周部に配置された平角導線)に対して固定されていると共に、コイルエンド部に固定された第1リード線部に対して第2リード線部が固定されている。よって、第1リード線部及び第2リード線部の各リード線部が、その周辺の平角導線に対してワニスにより適切に固定された構成とすることができる。
【0012】
このように、本構成によれば、第1リード線部及び第2リード線部の各リード線部が、その周辺の平角導線に対してワニスにより適切に固定された構成とすることができる。よって、第1リード線部と他のリード線部との接合部や第2リード線部と他のリード線部との接合部の、振動に対する強度を適切に確保することができる。また、本構成によれば、固着部に連なるワニスがステータコアの軸方向第1側の面よりも軸方向第1側に配置されているため、不要なワニスが少ないステータを実現することができ、ワニスの節減やステータの軽量化を図ることもできる。
【0013】
本開示に係る技術の更なる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1の実施形態に係るステータコイルの一部の斜視図
図2】第1の実施形態に係るステータの一部の軸方向視図
図3】第1の実施形態に係るワニス供給工程の説明図
図4】第1の実施形態に係るワニス硬化工程の説明図
図5】第1の実施形態に係るステータの製造方法を示すフローチャート
図6】第2の実施形態に係るステータの製造方法を示すフローチャート
図7】第2の実施形態に係るステータの製造方法の説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔第1の実施形態〕
本開示に係る技術の第1の実施形態について、図面(図1図5)を参照して説明する。本開示に係るステータは、回転電機に用いることができ、例えば、ロータがステータに対して径方向の内側に配置されるインナロータ型の回転電機に用いられる。なお、本明細書では、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。また、本明細書では、部材の形状に関し、ある方向に「延在する」とは、当該方向を基準方向として、部材の延在方向が当該基準方向に平行な形状に限らず、部材の延在方向が当該基準方向に交差する方向であっても、その交差角度が所定範囲内(例えば、45°未満)である形状も含む概念として用いている。また、本明細書では、2つの要素の配置に関して、「特定方向視で重複する」とは、その視線方向に平行な仮想直線を当該仮想直線と直交する各方向に移動させた場合に、当該仮想直線が2つの要素の双方に交わる領域が少なくとも一部に存在することを指す。また、本明細書では、各部材についての寸法、配置方向、配置位置等に関する用語は、誤差(製造上許容され得る程度の誤差)による差異を有する状態も含む概念として用いている。
【0016】
以下の説明において、「軸方向L」、「周方向C」、及び「径方向R」は、円筒状のステータコア10の軸心(ロータの回転軸心と同一)を基準として定義している。具体的には、ステータコア10の軸心に沿う方向を「軸方向L」とし、軸方向Lの一方側を「軸方向第1側L1」とし、軸方向Lにおける軸方向第1側L1とは反対側を「軸方向第2側L2」とする。また、ステータコア10の軸心に直交する方向を「径方向R」とし、径方向Rの内側(ステータコア10の軸心に近づく側)を「径方向内側R1」とし、径方向Rの外側(ステータコア10の軸心から離れる側)を「径方向外側R2」とする。また、ステータコア10の軸心を周回する方向を「周方向C」とし、周方向Cの一方側を「周方向第1側C1」とし、周方向Cにおける周方向第1側C1とは反対側を「周方向第2側C2」とする。
【0017】
図2に示すように、ステータ1は、円筒状のステータコア10と、ステータコイル20と、を備えている。ステータコア10は、軸方向Lに延在すると共に周方向Cに並ぶ複数のスロット11を有する。周方向Cに隣接する2つのスロット11の間には、ティース12が形成されている。本実施形態では、ステータ1は、インナロータ型の回転電機用のステータであり、ティース12は、円筒状のヨーク部13から径方向内側R1に突出するように形成されている。周方向Cに並ぶ複数のティース12のそれぞれの径方向内側R1の端面によって、ステータコア10の軸心を基準とする周面が形成されている。ステータコア10は、磁性材料(例えば、複数枚の磁性体板)を用いて形成される。
【0018】
本実施形態では、ステータコア10は、ヨーク部13に対して径方向外側R2に突出するように形成された突出部14を備えている。突出部14には、ステータコア10を他の部材(例えば、回転電機を収容するケース)に固定するための締結部材が挿通される挿通孔15が形成されている。
【0019】
ステータコイル20は、平角導線2(図3図4参照)を複数のスロット11にわたって巻回して構成される。平角導線2は、延在方向に直交する断面形状が矩形状の導線である。平角導線2の表面は、他の導体(例えば、他の平角導線2)との接合部等の一部を除いて、樹脂等からなる絶縁被膜により被覆されている。
【0020】
本実施形態では、ステータ1は、回転界磁型の回転電機用の電機子である。そのため、ステータ1は、ステータコイル20に交流電力が供給された状態で回転磁界を形成する。本実施形態では、ステータ1は、3相交流(多相交流の一例)で駆動される回転電機に用いられる。そのため、ステータコイル20は、3相(U相、V相、及びW相)のそれぞれに対応して、U相コイル、V相コイル、及びW相コイルの3つの相コイルを備えている。図1では、ステータコイル20が備える1つの相コイルの一部を示している。
【0021】
図1に示すように、ステータコイル20は、スロット11の内部に配置されるスロット収容部21と、互いに異なるスロット11に配置された2つのスロット収容部21をステータコア10に対して軸方向Lの外側で接続するターン部23と、を備えている。なお、図1では、ステータコア10を省略している。本実施形態では、スロット収容部21を構成する平角導線2とターン部23を構成する平角導線2とは、一体的に連続している。1つのスロット11の内部には、複数のスロット収容部21が複数の層(径方向Rの配置領域)に分かれて配置される。図1に示す例では、1つのスロット11に、14個のスロット収容部21が14層に分かれて配置されている。また、図1に示す例では、ターン部23は、互い異なるスロット11において互いに隣接する層に配置された2つのスロット収容部21を接続している。
【0022】
図1及び図2に示すように、ステータコイル20は、ステータコア10から軸方向Lの外側に突出したコイルエンド部22を備えている。ステータコイル20は、ステータコア10に対して軸方向Lの両側にコイルエンド部22を備えている。コイルエンド部22は、複数のターン部23の集合により構成されている。
【0023】
図1に示すように、本実施形態では、ステータコイル20は、一対又は複数対のスロット11間(ここでは、一対のスロット11間)に複数回巻回される同芯巻部24(言い換えれば、単位コイル部又は重ね巻部)を複数用いて形成されている。同芯巻部24は、ステータコア10に巻装される前に螺旋状に成形されるカセットコイルであり、ステータ1の製造過程において、同芯巻部24のスロット収容部21がスロット11に対して径方向内側R1から挿入される。本実施形態では、1本の連続する平角導線2を成形することで、1つの同芯巻部24を形成している。
【0024】
同芯巻部24は、周方向第1側C1に配置される複数のスロット収容部21と、周方向第2側C2に配置される複数のスロット収容部21と、を備えている。周方向第1側C1の複数のスロット収容部21は、スロット11の内部に1層おきに(すなわち、径方向Rに隣接する2つのスロット収容部21の間に1層分の隙間が形成されるように)配置され、周方向第2側C2の複数のスロット収容部21は、スロット11の内部における周方向第1側C1のスロット収容部21が配置されない層に配置される。そして、複数の同芯巻部24をスロット11の配設ピッチ分ずつずらしながら配置することで、ステータコイル20が形成されている。この際、1つのスロット11の内部には、1つの同芯巻部24の周方向第1側C1のスロット収容部21と、別の1つの同芯巻部24の周方向第2側C2のスロット収容部21とが、1つずつ径方向Rに交互に配置される。なお、本実施形態では、毎極毎相あたりのスロット数を“2”としている。図1に示す複数の同芯巻部24は、互いに同じ相の相コイルを構成する複数の同芯巻部24である。
【0025】
図1に示すように、ステータコイル20は、第1リード線部31及び第2リード線部32を含む複数のリード線部を備えている、本実施形態では、ステータコイル20が備える複数のリード線部には、第1リード線部31及び第2リード線部32に加えて、第3リード線部33、第4リード線部34、第5リード線部35、第6リード線部36、第7リード線部37、及び第8リード線部38が含まれる。リード線部は、スロット11の外側で他の導体(例えば、他のリード線部)に接合される。リード線部の一端部である基端部は、直接又は他の導体を介してスロット収容部21に接続され、リード線部の他端部である先端部は、他の導体に接合される。リード線部と他の導体との接合は、例えば、アーク溶接、電子ビーム溶接、レーザビーム溶接、抵抗溶接、超音波溶接、蝋付け、半田付け等によって行われる。
【0026】
本実施形態では、同芯巻部24を構成する1本の平角導線2の一端部が、外径側リード線部とされ、当該平角導線2の他端部が、内径側リード線部とされている。ここで、外径側リード線部は、スロット11における最も径方向外側R2の層に配置されたスロット収容部21に、基端部が接続されたリード線部であり、内径側リード線部は、スロット11における最も径方向内側R1の層に配置されたスロット収容部21に、基端部が接続されたリード線部である。本実施形態では、第1リード線部31、第2リード線部32、第5リード線部35、及び第6リード線部36が、外径側リード線部であり、第3リード線部33、第4リード線部34、第7リード線部37、及び第8リード線部38が、内径側リード線部である。同芯巻部24が備える外径側リード線部は、例えば、当該同芯巻部24とは別の同芯巻部24が備える内径側リード線部に接合される。
【0027】
図1に示すように、ステータコイル20は、コイルエンド部22から突出するように配置された第1リード線部31及び第2リード線部32を備えている。本実施形態では、第1リード線部31及び第2リード線部32は、軸方向第1側L1のコイルエンド部22から突出するように配置されている。以下では、特に明記している場合を除き、コイルエンド部22は、第1リード線部31及び第2リード線部32が配置されている側(ここでは、軸方向第1側L1)のコイルエンド部22を意味する。
【0028】
第1リード線部31及び第2リード線部32は、コイルエンド部22から軸方向L及び径方向Rの少なくとも一方に突出するように配置される。第1リード線部31及び第2リード線部32以外のリード線部(本実施形態では、第3リード線部33、第4リード線部34、第5リード線部35、第6リード線部36、第7リード線部37、及び第8リード線部38)も、コイルエンド部22から軸方向L及び径方向Rの少なくとも一方に突出するように配置される。
【0029】
図1及び図3に示すように、本実施形態では、第1リード線部31、第2リード線部32、第3リード線部33、及び第4リード線部34は、コイルエンド部22から少なくとも軸方向Lに(具体的には、軸方向第1側L1に)突出するように配置されている。具体的には、本実施形態では、第1リード線部31は、軸方向Lに沿って延在するように配置された第1軸方向延在部41を先端部側に備え、第2リード線部32は、軸方向Lに沿って延在するように配置された第2軸方向延在部42を先端部側に備え、第3リード線部33は、軸方向Lに沿って延在するように配置された第3軸方向延在部43を先端部側に備え、第4リード線部34は、軸方向Lに沿って延在するように配置された第4軸方向延在部44を先端部側に備えている。そして、第1軸方向延在部41、第2軸方向延在部42、第3軸方向延在部43、及び第4軸方向延在部44が、コイルエンド部22から軸方向Lに突出するように配置されている。これらの軸方向延在部は、例えば、軸方向Lに平行に配置される。
【0030】
図1図3に示すように、第3リード線部33は、第1リード線部31に対して径方向内側R1に隣接して配置され、先端部が第1リード線部31の先端部に接合されている。第4リード線部34は、第2リード線部32に対して径方向内側R1に隣接して配置され、先端部が第2リード線部32の先端部に接合されている。本実施形態では、第1軸方向延在部41の先端部と第3軸方向延在部43の先端部とが接合され、第2軸方向延在部42の先端部と第4軸方向延在部44の先端部とが接合されている。
【0031】
図2に示すように、本実施形態では、少なくとも、周方向Cにおける上述した突出部14又は挿通孔15の形成位置に配置されるリード線部同士の接合部を、軸方向Lに沿って延在するように配置される軸方向延在部同士の接合部(具体的には、第1軸方向延在部41と第3軸方向延在部43との接合部、又は第2軸方向延在部42と第4軸方向延在部44との接合部)としている。これにより、リード線部同士の接合部がステータコア10を他の部材に固定するための作業の妨げとなることを、回避しやすくなっている。
【0032】
図1及び図3に示すように、本実施形態では、第3リード線部33の軸方向第2側L2の端部は、径方向Rの内側に向かって屈曲された第1屈曲部51に連続するように形成され、第4リード線部34の軸方向第2側L2の端部は、径方向Rの内側に向かって屈曲された第2屈曲部52に連続するように形成されている。ステータコイル20は、コイルエンド部22の軸方向第1側L1の端部に沿って径方向Rに延在する第1接続部71及び第2接続部72を備えている。そして、第1接続部71の一端は、スロット11における最も径方向内側R1の層に配置されたスロット収容部21に接続され、第1接続部71の他端は、第1屈曲部51に接続されている。また、第2接続部72の一端は、スロット11における最も径方向内側R1の層に配置されたスロット収容部21に接続され、第2接続部72の他端は、第2屈曲部52に接続されている。よって、第3リード線部33は、第1接続部71を介してスロット収容部21に接続され、第4リード線部34は、第2接続部72を介してスロット収容部21に接続されている。
【0033】
本実施形態では、後述するワニス供給工程S1及びワニス硬化工程S2において、軸方向第1側L1が上下方向V(鉛直方向)の上側V1を向くように(言い換えれば、軸方向第2側L2が上下方向Vの下側V2を向くように)、ステータ1が配置される。そのため、ステータ1の製造過程(少なくとも、ワニス供給工程S1及びワニス硬化工程S2)では、第3リード線部33の軸方向第2側L2の端部は、第3リード線部33の下端部となり、第4リード線部34の軸方向第2側L2の端部は、第4リード線部34の下端部となる。
【0034】
図1に示すように、本実施形態では、第5リード線部35、第6リード線部36、第7リード線部37、及び第8リード線部38は、コイルエンド部22から少なくとも径方向Rに(具体的には、径方向外側R2に)突出するように配置されている。具体的には、第5リード線部35、第6リード線部36、第7リード線部37、及び第8リード線部38のそれぞれは、径方向Rに沿って延在するように配置された径方向延在部を先端部側に備えており、当該径方向延在部が、コイルエンド部22から径方向Rに突出するように配置されている。
【0035】
図1に示すように、第7リード線部37は、第5リード線部35に対して軸方向第1側L1に隣接して配置され、先端部が第5リード線部35の先端部に接合されている。第8リード線部38は、第6リード線部36に対して軸方向第1側L1に隣接して配置され、先端部が第6リード線部36の先端部に接合されている。本実施形態では、第5リード線部35の径方向延在部の先端部と第7リード線部37の径方向延在部の先端部とが接合され、第6リード線部36の径方向延在部の先端部と第8リード線部38の径方向延在部の先端部とが接合されている。
【0036】
図1に示す例では、第1リード線部31と第3リード線部33との接合により、スロット11の配設ピッチの5倍分周方向Cに離間して配置された一対のスロット収容部21が接続される。一方、第2リード線部32と第4リード線部34との接合により、スロット11の配設ピッチの7倍分周方向Cに離間して配置された一対のスロット収容部21が接続される。このように、第1リード線部31と第3リード線部33との接合により接続される一対のスロット収容部21の周方向Cの離間距離よりも、第2リード線部32と第4リード線部34との接合により接続される一対のスロット収容部21の周方向Cの離間距離の方が長くなっており(図1に示す例では、スロット11の配設ピッチの2倍分長くなっており)、これら2つの離間距離の差に応じた周方向Cの長さを有する渡り部60を、第2リード線部32が備えている。第6リード線部36も、同様の渡り部60を備えている。渡り部60の詳細は後述する。
【0037】
図3に示すように、第1リード線部31と第2リード線部32とは、周方向Cに並んで配置されている。図3では、周方向Cに隣接する2つのスロット11のうちの、一方のスロット11(図示の例では、周方向第2側C2のスロット11)内のスロット収容部21に接続された第1リード線部31と、他方のスロット11(図示の例では、周方向第1側C1のスロット11)内のスロット収容部21に接続された第2リード線部32とに着目している。第1リード線部31と第2リード線部32とは、少なくともそれぞれの先端部側の部分が周方向Cに並んで配置される。本実施形態では、第1リード線部31が備える第1軸方向延在部41と第2リード線部32が備える第2軸方向延在部42とが、周方向Cに並んで配置されている。
【0038】
図1及び図3に示すように、第2リード線部32は、第1リード線部31(ここでは、第1リード線部31の第1軸方向延在部41)に対して径方向Rの内側に配置されていると共に周方向Cに延在するように配置された渡り部60を備えている。渡り部60は、径方向Rに沿う径方向視で、第1リード線部31と重複するように配置されている。渡り部60の延在方向は、少なくとも周方向Cの成分を有する。例えば、渡り部60の延在方向は、周方向Cの成分を軸方向Lの成分よりも多く有する。本実施形態では、渡り部60は、周方向Cにおいて第2リード線部32の先端部側(図示の例では、周方向第2側C2)に向かうに従って軸方向第1側L1に向かうように、周方向Cに対して傾斜した方向に延在している。
【0039】
第2リード線部32の先端部と第2リード線部32の基端部とは、第1リード線部31に対して周方向Cの互いに反対側に配置されている。第2リード線部32の先端部は、渡り部60の周方向Cの長さに応じた距離だけ、第2リード線部32の基端部よりも周方向Cの一方側(ここでは、周方向第2側C2)に配置される。本実施形態では、第2リード線部32が備える第2軸方向延在部42の軸方向第2側L2の端部が、渡り部60に接続されている。そのため、第2軸方向延在部42と第2リード線部32の基端部とが、第1リード線部31に対して周方向Cの互いに反対側に配置されている。第2軸方向延在部42は、渡り部60の周方向Cの長さに応じた距離だけ(図示の例では、スロット11の配設ピッチの2倍分の距離だけ)、第2リード線部32の基端部よりも周方向Cの一方側に配置されている。
【0040】
図1及び図3に示すように、第1リード線部31には、先端部側の部分を基端部側の部分に対して径方向外側R2にオフセットさせるための第3屈曲部53が形成されている。第3屈曲部53は、第1リード線部31における、径方向視で渡り部60と重複する位置又は当該位置よりも軸方向第2側L2の位置に形成されている。これにより、第2リード線部32(具体的には、渡り部60)との干渉を避けつつ第1リード線部31を配置することができる。なお、このように第1リード線部31を配置することで、図3に示すように、第1リード線部31(具体的には、第1リード線部31における第3屈曲部53よりも先端部側の部分)とコイルエンド部22の外周部(具体的には、コイルエンド部22の外周部を構成するターン部23)との間に、径方向Rの隙間G(ここでは、第3屈曲部53による平角導線2の径方向Rのオフセット量に応じた大きさの隙間)が形成される。
【0041】
本実施形態では、第1リード線部31が備える第1軸方向延在部41の軸方向第2側L2の端部が、第3屈曲部53に接続されており、第1軸方向延在部41が、第1リード線部31の基端部に対して径方向外側R2にオフセットして配置されている。そして、第1軸方向延在部41とコイルエンド部22の外周部との間に、径方向Rの隙間Gが形成されている。
【0042】
図1及び図2ではワニス4の図示を省略しているが、このステータ1では、リード線部をその周辺の平角導線2に対してワニス4により固定している。具体的には、図4に示すように、このステータ1では、渡り部60の軸方向第1側L1の面より軸方向第1側L1の領域において、コイルエンド部22の外周部と第1リード線部31との径方向Rの隙間G(図3参照)がワニス4により埋められていると共に、第1リード線部31と第2リード線部32とがワニス4により互いに固着して固着部5を形成している。硬化された状態のワニス4によって、固着部5が形成されている。固着部5では、例えば、第1軸方向延在部41と、第2軸方向延在部42と渡り部60との少なくとも一方とが、互いに固着されている。
【0043】
そして、固着部5に連なるワニス4がステータコア10の軸方向第1側L1の面よりも軸方向第1側L1に配置されている。なお、第1リード線部31及び第2リード線部32の固定とは異なる用途のワニス(例えば、スロット収容部21を固定するためのワニス)がステータコア10に存在する場合があるが、固着部5に連なるワニス4は、ステータコア10の軸方向第1側L1の面よりも軸方向第1側L1に配置されている。図4に示す例では、固着部5に連なるワニス4は、第1リード線部31に形成された第3屈曲部53よりも軸方向第1側L1に配置されている。また、図4に示す例では、固着部5に連なるワニス4は、渡り部60における軸方向第2側L2の面よりも軸方向第1側L1に配置されている。
【0044】
本実施形態では、第1リード線部31と第2リード線部32とが、コイルエンド部22の外周部に沿って軸方向Lに延在する部分を有している。本実施形態では、第1軸方向延在部41が、第1リード線部31におけるコイルエンド部22の外周部に沿って軸方向Lに延在する部分に相当し、第2軸方向延在部42が、第2リード線部32におけるコイルエンド部22の外周部に沿って軸方向Lに延在する部分に相当する。
【0045】
そして、図1図4に示すように、本実施形態では、第1リード線部31と第2リード線部32とが(具体的には、第1軸方向延在部41と第2軸方向延在部42とが)、それぞれの先端部を覆う第1モールド樹脂81によって互いに連結されている。図2図4に示すように、第1モールド樹脂81は、第1リード線部31の先端部と第3リード線部33の先端部との接合部を覆う第1カバー部91と、第2リード線部32の先端部と第4リード線部34の先端部との接合部を覆う第2カバー部92と、第1カバー部91と第2カバー部92とを連結する連結部93とを備えている。連結部93は、渡り部60よりも軸方向第1側L1に配置されている。本実施形態では、連結部93は、軸方向Lに沿う軸方向視で渡り部60と重複する位置に配置されている。図4に示すように、本実施形態では、ワニス4(具体的には、固着部5及びそれに連なるワニス4)は、連結部93よりも軸方向第2側L2であってステータコア10の軸方向第1側L1の面よりも軸方向第1側L1の範囲内に配置されている。本実施形態では、第1モールド樹脂81が「モールド樹脂」に相当する。
【0046】
図1及び図2に示すように、第5リード線部35と第6リード線部36とが、それぞれの先端部を覆う第2モールド樹脂82によって互いに連結されている。第2モールド樹脂82は、第5リード線部35の先端部と第7リード線部37の先端部との接合部を覆うカバー部と、第6リード線部36の先端部と第8リード線部38の先端部との接合部を覆うカバー部と、これら2つのカバー部を連結する連結部とを備えている。
【0047】
以上のように、本実施形態のステータ1は、以下のように構成されている。第1リード線部31と第2リード線部32とは、コイルエンド部22の外周部に沿って軸方向Lに延在する部分を有していると共に、それぞれの先端部を覆う第1モールド樹脂81によって互いに連結されている。ステータコイル20は、第1リード線部31に対して径方向Rの内側に隣接して配置され、先端部が第1リード線部31の先端部に接合された第3リード線部33と、第2リード線部32に対して径方向Rの内側に隣接して配置され、先端部が第2リード線部32の先端部に接合された第4リード線部34と、を備えている。第3リード線部33の軸方向第2側L2の端部は、径方向Rの内側に向かって屈曲された第1屈曲部51に連続するように形成され、第4リード線部34の軸方向第2側L2の端部は、径方向Rの内側に向かって屈曲された第2屈曲部52に連続するように形成されている。第1モールド樹脂81は、第1リード線部31の先端部と第3リード線部33の先端部との接合部を覆う第1カバー部91と、第2リード線部32の先端部と第4リード線部34の先端部との接合部を覆う第2カバー部92と、第1カバー部91と第2カバー部92とを連結する連結部93とを備えている。そして、ワニス4は、連結部93よりも軸方向第2側L2であってステータコア10の軸方向第1側L1の面よりも軸方向第1側L1の範囲内に配置されている。
【0048】
上記の構成によれば、第1リード線部31の先端部と第3リード線部33の先端部との接合部の電気的絶縁性が、第1モールド樹脂81が備える第1カバー部91により確保され、第2リード線部32の先端部と第4リード線部34の先端部との接合部の電気的絶縁性が、第1モールド樹脂81が備える第2カバー部92により確保された構成とすることができる。よって、ステータコイル20の電気的絶縁性が適切に確保された構成とすることができる。そして、上記の構成によれば、ワニス4が上記の範囲内に配置されているため、第1モールド樹脂81が第1カバー部91と第2カバー部92とを連結する連結部93を備える場合であっても、連結部93とステータコア10の軸方向第1側L1の面との軸方向Lの間の、第1リード線部31及び第2リード線部32の固定のための適切な場所にワニス4が配置されたステータ1を実現することができる。
【0049】
次に、本実施形態に係るステータ1の製造方法について説明する。図5に示すように、ステータ1の製造方法では、ワニス供給工程S1とワニス硬化工程S2とを実行する。なお、図5では、ワニス供給工程S1の後にワニス硬化工程S2を実行するように示しているが、ワニス供給工程S1とワニス硬化工程S2とを同時期に(言い換えれば、並行して)実行してもよい。詳細は省略するが、ステータ1の製造方法には、ワニス供給工程S1及びワニス硬化工程S2よりも前に実行される工程として、例えば、各部品を準備する準備工程、ステータコイル20をステータコア10に配置するコイル配置工程、リード線部同士を接合する接合工程、リード線部同士の接合部にモールド樹脂を設ける工程等が含まれる。
【0050】
ワニス供給工程S1及びワニス硬化工程S2は、軸方向第1側L1が上側V1を向くようにステータ1が配置された状態で実行される。そのため、以下に述べる渡り部60の上面61は、渡り部60における軸方向第1側L1を向く面である。なお、軸方向第1側L1が上側V1を向くとは、軸方向第1側L1へ向かう方向が、上側V1の成分を有することを意味する。図3及び図4では、ステータコア10の軸心が上下方向Vに沿うようにステータ1を配置することで、軸方向第1側L1が上側V1を向くようにステータ1が配置された状態を想定している。
【0051】
図3に示すように、ワニス供給工程S1は、渡り部60の上面61に対して、第1リード線部31と第2リード線部32との周方向Cの間(ここでは、第1軸方向延在部41と第2軸方向延在部42との周方向Cの間)であって上側V1から粘性を有するワニス4を供給する工程である。ワニス4は、流動性(ここでは、滴下可能な流動性)を有し、加熱により硬化する熱硬化性のワニスである。図3に示す例では、供給管3を用いてワニス4を滴下することで、ワニス4を渡り部60の上面61に対して供給している。上述したように、本実施形態では、第1カバー部91と第2カバー部92とが連結部93により連結されている。よって、本実施形態では、ワニス供給工程S1において、連結部93よりも下側V2であり、径方向Rにおける渡り部60に対応する位置であり、且つ、周方向Cにおける第1リード線部31と第2リード線部32との間(ここでは、周方向Cにおける第1軸方向延在部41と第2軸方向延在部42との間)の位置から、ワニス4を滴下する。図3に示す例では、軸方向Lに対して傾斜した方向から供給管3の先端部を渡り部60の上面61に対して接近させることで、上記の位置からワニス4を滴下する。
【0052】
図4に示すように、ワニス硬化工程S2は、重力により垂れ落ちるワニス4を渡り部60の上面61により下側V2から支えつつ、ワニス4を加熱して硬化させる工程である。ワニス硬化工程S2では、例えば、ステータコイル20に通電することで、ステータコイル20を発熱させてワニス4を加熱する。コイルエンド部22の外周部と第1リード線部31との径方向Rの隙間Gにワニス4が流入すると共に、ワニス4が第1リード線部31と第2リード線部32との双方に接触した状態で渡り部60の上面61により下側V2から支えられた状態となるように、ワニス供給工程S1においてワニス4を供給することで、ワニス硬化工程S2の実行後に上述した固着部5を形成することができる。
【0053】
以上のように、本実施形態のステータ1は、以下のように構成されている。第1リード線部31と第2リード線部32とは、コイルエンド部22の外周部に沿って軸方向Lに延在する部分を有していると共に、それぞれの先端部を覆う第1モールド樹脂81によって互いに連結されている。ステータコイル20は、第1リード線部31に対して径方向Rの内側に隣接して配置され、先端部が第1リード線部31の先端部に接合された第3リード線部33と、第2リード線部32に対して径方向Rの内側に隣接して配置され、先端部が第2リード線部32の先端部に接合された第4リード線部34と、備えている。第3リード線部33の下端部は、径方向Rの内側に向かって屈曲された第1屈曲部51に連続するように形成され、第4リード線部34の下端部は、径方向Rの内側に向かって屈曲された第2屈曲部52に連続するように形成されている。第1モールド樹脂81は、第1リード線部31の先端部と第3リード線部33の先端部との接合部を覆う第1カバー部91と、第2リード線部32の先端部と第4リード線部34の先端部との接合部を覆う第2カバー部92と、第1カバー部91と第2カバー部92とを連結する連結部93とを備えている。そして、本実施形態のステータ1の製造方法では、ワニス供給工程S1において、連結部93よりも下側V2であり、径方向Rにおける渡り部60に対応する位置であり、且つ、周方向Cにおける第1リード線部31と第2リード線部32との間の位置から、ワニス4を滴下する。
【0054】
上記の構成によれば、第1リード線部31の先端部と第3リード線部33の先端部との接合部の電気的絶縁性を、第1モールド樹脂81が備える第1カバー部91により確保し、第2リード線部32の先端部と第4リード線部34の先端部との接合部の電気的絶縁性を、第1モールド樹脂81が備える第2カバー部92により確保することができる。よって、ステータコイル20の電気的絶縁性を適切に確保することができる。そして、本構成によれば、ワニス供給工程S1において上記の位置からワニス4を滴下するため、第1モールド樹脂81が第1カバー部91と第2カバー部92とを連結する連結部93を備える場合であっても、第1モールド樹脂81との干渉を回避しつつ、第1リード線部31及び第2リード線部32の固定のための適切な場所にワニス4を供給することができる。
【0055】
〔第2の実施形態〕
本開示に係る技術の第2の実施形態について、図面(図6図7)を参照して説明する。以下では、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。特に明記しない点については、第1の実施形態と同様であり、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0056】
図6に示すように、本実施形態に係るステータ1の製造方法では、第1の実施形態と同様に、ワニス供給工程S1とワニス硬化工程S2とを実行する。本実施形態に係るステータ1の製造方法では、更に、ワニス4に紫外線を照射する紫外線照射工程S3を実行する。図6及び後に参照する図7では、ワニス供給工程S1の後であってワニス硬化工程S2の前に紫外線照射工程S3を実行するように示しているが、紫外線照射工程S3は、ワニス供給工程S1中に実行してもよい。
【0057】
図7には、ワニス供給工程S1を実行する前の状態、ワニス供給工程S1を実行した状態、紫外線照射工程S3を実行した状態、ワニス硬化工程S2を実行した状態を、左から右に並べて示している。図7に示す各状態において、上側の図は、コイルエンド部22の一部を径方向外側R2から見た図であり、下側の図は、上側の図における矢印の位置での断面図(軸方向Lに直交する断面図)である。
【0058】
本実施形態では、ワニス4として、紫外線硬化性及び熱硬化性の両方の性質を有するワニスを用いる。具体的には、ワニス4として、紫外線により硬化すると共に、加熱により軟化した後に硬化する性質を有するワニスを用いる。ワニス4の加熱により、ワニス4における紫外線により硬化していない部分が、軟化した後に硬化する。図7に示すように、ワニス供給工程S1では、第1の実施形態と同様に(図3参照)、渡り部60の上面61に対してワニス4を供給する。図示の例では、ワニス供給工程S1により供給されたワニス4の一部が、コイルエンド部22の外周部と第1リード線部31との径方向Rの隙間Gに流入している。
【0059】
紫外線照射工程S3では、コイルエンド部22に対して径方向Rの外側から紫外線を照射することで、ワニス4の径方向Rの外側部分を硬化させる。図7では、ワニス4を、紫外線により硬化した硬化部分4Aと、紫外線により硬化していない非硬化部分4Bとに区別して示している。図7に紫外線の照射光UVを模式的に示すように、本例では、ワニス4の径方向Rの外側部分と、ワニス4の周方向Cにおける隙間Gの側とは反対側の部分(ここでは、周方向第2側C2の部分)とを硬化させるように、コイルエンド部22に対して径方向Rの外側から紫外線を照射する。すなわち、硬化部分4Aには、少なくともワニス4の径方向Rの外側部分が含まれ、本例では、更に、ワニス4の周方向Cにおける隙間Gの側とは反対側の部分が含まれる。紫外線照射工程S3では、ワニス4の一部のみ(具体的には、硬化部分4Aのみ)を硬化させるように紫外線を照射する。
【0060】
ワニス硬化工程S2では、ワニス4を加熱することで、図7に示すように、非硬化部分4Bの粘度を一時的に低下させて、非硬化部分4Bを隙間Gに浸透させる。ここでは、非硬化部分4Bが渡り部60の上面61を周方向第1側C1に向かって移動することで、非硬化部分4Bが隙間Gに浸透する。そして、ワニス硬化工程S2では、加熱により一時的に粘度が低下した非硬化部分4Bが硬化するまで、ワニス4の加熱を継続する。これにより、隙間Gに浸透した非硬化部分4Bを硬化させて、上述した固着部5を形成することができる。
【0061】
このように、本実施形態では、紫外線により硬化すると共に加熱により軟化した後に硬化する性質を有するワニス4を使用する。そして、ワニス供給工程S1中に、又はワニス供給工程S1の後であってワニス硬化工程S2の前に、コイルエンド部22に対して径方向Rの外側から紫外線を照射することでワニス4の径方向Rの外側部分を硬化させ、ワニス硬化工程S2では、加熱により一時的に粘度が低下したワニス4を、コイルエンド部22の外周部と第1リード線部31との径方向Rの隙間Gに浸透させてから硬化させる。
【0062】
上記の構成によれば、ワニス供給工程S1により供給されるワニス4の径方向Rの外側部分を、遅くともワニス硬化工程S2の前に紫外線により硬化させることで、ワニス4が径方向Rの外側に垂れ落ちる可能性を低減することができる。そして、上記の構成によれば、紫外線によって硬化されていないワニス4の径方向Rの内側部分を、ワニス硬化工程S2での加熱により一時的に粘度を低下させてコイルエンド部22の外周部と第1リード線部31との径方向Rの隙間Gに浸透させることができる。その上でワニス4を硬化させることにより、第1リード線部31とコイルエンド部22の外周部とを互いに固定することができる。このように、上記の構成によれば、第1リード線部31及び第2リード線部32が、その周辺の平角導線2に対してワニス4により適切に固定された構成とすることができる。
【0063】
〔その他の実施形態〕
次に、本開示に係る技術のその他の実施形態について説明する。
【0064】
(1)上記の各実施形態では、第1リード線部31と第2リード線部32とが、それぞれの先端部を覆う第1モールド樹脂81によって互いに連結される構成を例として説明した。しかし、本開示はそのような構成に限定されず、第1リード線部31の先端部と第3リード線部33の先端部との接合部を覆う第1カバー部91と、第2リード線部32の先端部と第4リード線部34の先端部との接合部を覆う第2カバー部92とが、分離した構成とすることもできる。この場合、図3に示す例とは異なり、渡り部60の上面61に対して供給管3の先端部を軸方向Lに沿って接近させて、ワニス供給工程S1を行ってもよい。
【0065】
(2)上記の各実施形態では、第1リード線部31、第2リード線部32、第3リード線部33、及び第4リード線部34のそれぞれが、軸方向Lに沿って延在するように配置された軸方向延在部を先端部側に備える構成を例として説明した。しかし、本開示はそのような構成に限定されず、第1リード線部31、第2リード線部32、第3リード線部33、及び第4リード線部34のそれぞれの先端部を含む部分の延在方向は、軸方向L以外の方向であってもよい。軸方向L以外の方向は、例えば、軸方向第1側L1へ向かうに従って周方向Cの一方側へ向かう方向、軸方向第1側L1へ向かうに従って径方向Rの一方側へ向かう方向、或いは、上記の各実施形態での第5リード線部35と同様に径方向Rとすることができる。
【0066】
(3)なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用すること(その他の実施形態として説明した実施形態同士の組み合わせを含む)も可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0067】
1:ステータ、2:平角導線、4:ワニス、5:固着部、10:ステータコア、11:スロット、20:ステータコイル、22:コイルエンド部、31:第1リード線部、32:第2リード線部、33:第3リード線部、34:第4リード線部、51:第1屈曲部、52:第2屈曲部、60:渡り部、61:上面、81:第1モールド樹脂(モールド樹脂)、91:第1カバー部、91:第2カバー部、93:連結部、C:周方向、G:隙間、L:軸方向、L1:軸方向第1側、L2:軸方向第2側、R:径方向、S1:ワニス供給工程、S2:ワニス硬化工程、V1:上側、V2:下側
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7