(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153085
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】フレイルの進行度の層別化を支援するための方法、層別化装置、及び層別化プログラム。
(51)【国際特許分類】
G16H 10/00 20180101AFI20231005BHJP
【FI】
G16H10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058042
(22)【出願日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2022060547
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.FACEBOOK
2.TWITTER
3.INSTAGRAM
4.LINE
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】509152079
【氏名又は名称】株式会社ヘルスケアシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角田 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晋平
(72)【発明者】
【氏名】細江 有美
(72)【発明者】
【氏名】柳田 凌人
(72)【発明者】
【氏名】春日部 芳久
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】被検者のフレイルの進行度を層別化し、被検者のフレイルを改善する方法、層別化装置及び層別化プログラムを提供する。
【解決手段】被検者のフレイルの進行度の層別化を支援するための方法は、被検者から採取した尿検体中のジアミン及び/又はポリアミンの測定値を取得することと、フレイルの進行度に応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索することと、前記測定値が属する基準範囲に対応するフレイルの進行度を被検者のフレイルの進行度として示唆することと、を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者のフレイルの進行度の層別化を支援するための層別化装置であって、
前記層別化装置は、処理部を含み、
前記処理部は、
被検者から採取した尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得し、
フレイルの進行度に応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索し、
前記測定値が属する基準範囲に対応するフレイルの進行度のラベルを被検者のフレイルの進行度を示すラベルとして出力する、
層別化装置。
【請求項2】
さらに、前記測定値が属する基準範囲に対応するジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の推奨レベルを出力する、
請求項1に記載の層別化装置。
【請求項3】
コンピュータに実行させた時に、コンピュータに、
被検者から採取した尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得するステップと、
フレイルの進行度に応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索するステップと、
前記測定値が属する基準範囲に対応するフレイルの進行度のラベルを被検者のフレイルの進行度を示すラベルとして出力するステップと、
を実行させる、被検者のフレイルの進行度の層別化を支援するための層別化プログラム。
【請求項4】
さらに、前記測定値が属する基準範囲に対応するジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の推奨レベルを出力するステップを実行させる、
請求項3に記載の層別化プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、フレイルの進行度の層別化を支援するための方法、層別化装置、及び層別化プログラムが開示される。
【背景技術】
【0002】
ジアミンは、2つのアミンを有する直鎖の脂肪酸炭化水素化合物である。また、ポリアミンは、3つ以上のアミンを有する直鎖の脂肪酸炭化水素化合物である。ジアミン、及び/又はポリアミンの作用機序は、核酸やタンパク質の合成、酵素活性の調節に広く関与していることが知られている(非特許文献1)。ポリアミンの一つである、スペルミジンに関し、クレアチニン濃度で補正した尿検体中のスペルミジン量が、一部の腎がん、膀胱癌において高くなることが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
また、非特許文献2には、加齢した筋肉内においてポリアミンが減少することが示されており、筋肉におけるポリアミンの減少と、加齢に伴うサルコペニアとの関連が示唆されている。
さらに、特許文献1には、有効成分としてポリアミンと分岐鎖アミノ酸とを含む、筋肉増強剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】酒井俊助他、泌尿器科紀要 (1986), 32(3): 343-350
【非特許文献2】Uchitomi R, et al. Sci Rep. 2019 Jul 18;9(1):10425.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フレイルは、高齢者において認められる虚弱状態であり、健康な状態と要介護状態の中間の段階を指す。フレイルの予防や対策は、将来寝たきりになる等の要介護状態になることを防ぐ上で重要であるとされている。
【0007】
現在のところ、フレイルの評価について、統一された評価基準はないものの、一般的にはFriedらの評価基準が用いられている。Friedらの評価基準は、体重減少、主観的疲労感、日常生活活動量の減少、身体能力(歩行速度)の減弱、及び筋力(握力)の低下の5項目のうち、3つ以上該当する場合はフレイル、1~2つ該当する場合はプレフレイル、いずれにも該当しない場合は健常または頑健とする。
【0008】
Friedらの評価基準を適用するためには、問診を行う必要があるため、健康診断等の一般的な検査項目に含めることは困難である。また、問診の場合、被検者自身が事実と異なる回答を行うことも考えられ、客観性を担保できない。
【0009】
本発明は被検者の尿検体を用いて、被検者のフレイルの進行度を層別化することを一課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の態様を含み得る。
項1.被検者のフレイルの進行度の層別化を支援するための方法であって、前記方法は、被検者から採取した尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得することと、フレイルの進行度に応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索することと、前記測定値が属する基準範囲に対応するフレイルの進行度を被検者のフレイルの進行度として示唆する、方法。
項2.前記ジアミン、及び/又はポリアミンが、アセチル化体を含む、項1に記載の方法。
項3.前記測定値の取得が、酵素法により行われる、項1に記載の方法。
項4.前記測定値の取得が、Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay法、センサ法、高速液体クロマトグラフィー法、ガスクロマトグラフィー-質量分析法、液体クロマトグラフィー-質量分析法、又はキャピラリー電気泳動-質量分析法により行われる、項1に記載の方法。
項5.被検者のジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の提示を支援するための方法であって、前記方法は、被検者から採取した尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得することと、フレイルの進行度に応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索することと、前記測定値が属する基準範囲に対応するジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の推奨レベルを提示すること、を含む、方法。
項6.被検者のフレイルの進行度の層別化を支援するための層別化装置であって、前記層別化装置は、処理部を含み、前記処理部は、被検者から採取した尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得し、フレイルの進行度に応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索し、前記測定値が属する基準範囲に対応するフレイルの進行度のラベルを被検者のフレイルの進行度を示すラベルとして出力する、層別化装置。
項7.さらに、前記測定値が属する基準範囲に対応するジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の推奨レベルを出力する、項6に記載の層別化装置。
項8.コンピュータに実行させた時に、コンピュータに、被検者から採取した尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得するステップと、フレイルの進行度に応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索するステップと、前記測定値が属する基準範囲に対応するフレイルの進行度のラベルを被検者のフレイルの進行度を示すラベルとして出力するステップと、を実行させる、被検者のフレイルの進行度の層別化を支援するための層別化プログラム。
項9.さらに、前記測定値が属する基準範囲に対応するジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の推奨レベルを出力するステップを実行させる、
項8に記載の層別化プログラム。
項10.項1に記載の方法、又は項5に記載の方法を実施するための検査キットであって、前記検査キットは、ジアミン、及び/又はポリアミンを酸化する酸化酵素と、ペルオキシダーゼと、発色試薬を含む、検査キット。
項11.さらに、アシルポリアミンアミドヒドロラーゼを含む、項10に記載の検査キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被検者のフレイルの進行度を層別化することができる。また、本発明によれば、被検者のフレイルを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】層別化プログラム3042aの処理の流れを示すフローチャートである。
【
図4】提示プログラム3042bの処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.フレイルの進行度の層別化を支援するための方法
本発明のある実施態様は、被検者のフレイルの進行度の層別化を支援するための方法に関する。
【0014】
前記方法は、被検者から採取した尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得することと、フレイルの進行度に応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索することを含む。
【0015】
フレイルは、高齢者において認められる虚弱状態であり、健康な状態と要介護状態の中間の段階であるといわれている。また、フレイルには、主に、身体的、精神心理的、社会的な要因があるとされている。したがって、フレイルは、医学的には「疾患」ではないため、フレイルについては、「診断」という用語に変えて「評価」という用語を用いる。しかし、フレイルは進行した場合、歩行困難になる、車椅子での移動を余儀なくされる、寝たきりになる等の要介護状態となることがある。
【0016】
フレイルの進行度は、例えば、Friedらの評価基準にしたがえば、体重減少、主観的疲労感、日常生活活動量の減少、身体能力(歩行速度)の減弱、及び筋力(握力)の低下の5項目のうち、3つ以上該当する場合はフレイル、1~2つ該当する場合はプレフレイル、いずれにも該当しない場合は健常または頑健とする。
また、上記各項目の判断基準に関しては、統一された基準はないが、例えば、公益財団法人長寿科学振興財団のWebページ(https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/shindan.html)によれば下記のとおりである。
体重減少については、「6か月間で2~3 kg以上の(意図しない)体重減少がありましたか?」に「はい」と回答した場合を体重減少有りと判定する;
主観的倦怠感については、「(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする」に「はい」と回答した場合を倦怠感有りと判定する;
【0017】
日常生活活動量の減少については、「軽い運動・体操(農作業も含む)を1週間に何日くらいしていますか?」及び「定期的な運動・スポーツ(農作業を含む)を1週間に何日くらいしていますか?」の2つの問いのいずれにも「運動・体操はしていない」と回答した場合を活動量の減少有りと判定する;
【0018】
身体能力(通常歩行速度)については、(測定区間の前後に1 mの助走路を設け、測定区間5 mの時を計測する)1 m/秒未満の場合を身体能力の低下有りと判定する;筋力(握力)については、利き手の測定で男性26 kg未満、女性18 kg未満の場合に筋力低下有りと判定する。
【0019】
被検者は、フレイルを疑われていない者、フレイルを疑う者、フレイルであると決定された者を含み得る。Friedらの評価基準において、プレフレイルと判定された者は、フレイルを疑う者に該当しうる。Friedらの評価基準において、フレイルと決定された者は、フレイルであると判定された者に該当しうる。さらに、Friedらの評価基準において、健常または頑健であると決定された者は、フレイルを疑われていない者に該当し得る。
【0020】
フレイルのリスクは、高齢者が有するため、被検者の年齢は、50歳以上、60歳以上、70歳以上、又は80歳以上であることが好ましい。また、被検者は、BMI(Body Mass Index)が23以上であることがより好ましい。
【0021】
本明細書において、ジアミンは、2つのアミンを有する直鎖の脂肪酸炭化水素化合物である。ポリアミンは、3つ以上のアミンを有する直鎖の脂肪酸炭化水素化合物である。ヒトの体内には、2種類のジアミンと2種類のポリアミンが存在する。また、ジアミン及びポリアミンには、それぞれのモノアセチル体、ジアセチル体等のアセチル化体を含み得る。ヒトの体内に存在するジアミンは、具体的にプトレシン、及びカダベリンである。ジアミンのアセチル化体として、アセチルプトレシン、アセチルカダベリン等を挙げることができる。ヒトの体内に存在するポリアミンは、具体的にスペルミジン、及びスペルミンである。それぞれのアセチル化ポリアミンとして、N1-アセチルスペルミジン、N8-アセチルスペルミジン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、アセチルスペルミン、N1,N12-ジアセチルスペルミン等を挙げることができる。ここで、一般的に、ジアミン、及びポリアミンは尿検体中では、主としてアセチル化ポリアミンとして存在している。したがって、尿検体を用いてジアミン又はポリアミンを測定する場合、アセチルプトレシン、アセチルカダベリン、N1-アセチルスペルミジン、N8-アセチルスペルミジン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、アセチルスペルミン、N1,N12-ジアセチルスペルミン等を標的とすることが好ましい。さらに、尿検体を用いてジアミン又はポリアミンを測定する場合、アセチルプトレシン、N1-アセチルスペルミジン、N8-アセチルスペルミジン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、アセチルスペルミン、N1,N12-ジアセチルスペルミンを標的とすることが好ましい。
【0022】
ジアミン又はポリアミンの測定値を取得する検体は、尿検体である。尿検体は、自然排尿された尿、又はカテーテル尿であってもよい。また尿検体は、早朝第一尿、随時尿、蓄尿であってもよい。好ましくは、自然排尿された早朝第一尿である。
【0023】
ジアミン、又はポリアミンの測定値は定法にしたがって取得することができる。ここで、測定値の取得には、被検者が訪問している施設内で測定して取得することに限られない。被検者の尿検体を他施設に送り、当該施設で測定し取得した測定値をデータとして、ネットワークや記憶媒体を介して、他のコンピュータ等から取得することを含む。
【0024】
例えば、ジアミン、又はポリアミンの測定方法として、酵素法、Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay(ELISA)法、センサ法、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法等のクロマトグラフィー法、ガスクロマトグラフィー-質量分析(GC-MS)法、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)法、キャピラリー電気泳動-質量分析(CE-MS)法等の質量分析法等を挙げることができる。これらの方法は、公知である(例えば、文献:検査と技術 vol. 14 no.3 1986年3月)。
【0025】
酵素法は、例えば、各ジアミン、及び/又はポリアミンに酸化酵素を作用させて過酸化水素を発生させ、この過酸化水素をペルオキシダーゼの活性により酸化還元系発色試薬(以下、単に「発色試薬」とも呼ぶ)と反応させ、尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの量に応じた発色を得る。ジアミン、及び/又はポリアミンを酸化する酸化酵素として、プトレシンオキシダーゼ、ジアミンオキシダーゼ、アミンオキシダーゼ、スペルミジンデヒドロゲナーゼ、ポリアミンオキシダーゼ等を挙げることができる(文献:THE CHEMICAL TIMES、No.3、1985)。プトレシンオキシダーゼとして、特許平2-60314号公報、特許平2-60315号公報に記載のプトレシンポキシダーゼを用いることが好ましい。ジアミンオキシダーゼとしては、ブタ腎臓由来やエンドウ実生由来の酵素を使用することができる。ポリアミンオキシダーゼとしては、Penicillium chrysogenum、Aspergillus terreus等のカビ由来;ラット肝臓由来の酵素を使用することができる。ここで、各酵素の名称は、慣用名であり、各酵素の基質特異性を表すものではない。例えば、プトレシンオキシダーゼは、ジアミンであるプトレシン及びカダベリンのみならず、ポリアミンである、スペルミジン、及びスペルミンを酸化することができる。
【0026】
ジアミン、又はポリアミンがアセチル化体である場合、ジアミンオキシダーゼ、又はポリアミンオキシダーゼを作用させる前に、アシルジアミンアミドヒドロラーゼ、又はアシルポリアミンアミドヒドロラーゼをアセチル化体に作用させ、脱アセチル化してから、ジアミン、及び/又はポリアミンを酸化する酸化酵素を作用させることが好ましい。脱アセチル化は、アシルジアミンアミドヒドロラーゼ、及びアシルポリアミンアミドヒドロラーゼのようなアシルアミンヒドロラーゼに代えて、酸処理によって行ってもよい。酸処理による脱アセチル化法は、公知である。
【0027】
ペルオキシダーゼは、過酸化水素による色原体の色素酸化反応を触媒できる限り制限されない。例えばペルオキシダーゼとして、過酸化水素と酸化還元系発色試薬との反応を触媒する酵素であれば、いかなる種類の酵素を用いてもよく、例えば植物由来、細菌由来、担子菌由来のペルオキシダーゼが挙げられる。これらの中でも、純度、入手の容易性、価格等の理由から、西洋ワサビ、イネ、大豆由来のペルオキシダーゼが好ましく、西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼがより好ましい。市販品としては、PEO-131(東洋紡製)、PEO-301(東洋紡製)、PEO-302(東洋紡製)等が好適に用いられる。その使用量や添加の形態などについては特に限定されない。
【0028】
本発明の生体成分測定方法に用いられる酸化還元発色試薬としては、過酸化水素と反応して呈色するものであれば、いかなる種類の色素を用いてもよく、例えば水素供与体とカップラーの組合せが挙げられる。その使用量や添加の形態などについては特に限定されない。これらはいずれも、市販品などを入手することができる。
【0029】
水素供与体とカップラーを用いた代表例は、水素供与体とカップラーとをペルオキシダーゼの存在下に過酸化水素によって酸化縮合させて色素を形成させるトリンダー(Trinder)法である。
【0030】
水素供与体は、水素を供与できる性質を有するものであれば、本発明の効果を奏する限り、特に限定されない。本発明の生体成分測定法においては、トリンダー法などに用いる水素供与体として、フェノール、フェノール誘導体、アニリン誘導体、ナフトール、ナフトール誘導体、ナフチルアミン、ナフチルアミン誘導体などが用いられる。このような水素供与体は、酸化発色試薬とも呼ばれている。
【0031】
たとえば、N-エチル-N-スルホプロピル-3-メトキシアニリン、N-エチル-N-スルホプロピルアニリン、N-エチル-N-スルホプロピル-3,5-ジメトキシアニリン、N-スルホプロピル-3,5-ジメトキシアニリン、N-エチル-N-スルホプロピル-3,5-ジメチルアニリン、N-エチル-N-スルホプロピル-3-メチルアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)アニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン、N-スルホプロピルアニリン、N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-2,5-ジメチルアニリン、N-エチル-N-(3-メチルフェニル)-N’-サクシニルエチレンジアミン、N-エチル-N-(3-メチルフェニル)-N’-アセチルエチレンジアミン等が挙げられる。
【0032】
これら水素供与体はカップラーと組合せて用いることができる。
【0033】
本発明の生体成分測定に用いられるカップラーとしては、4-アミノアンチピリン(4AA)、アミノアンチピリン誘導体等のアミノアンチピリン系化合物;バニリンジアミンスルホン酸等のバニリンジアミンスルホン酸系化合物;メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)、スルホン化メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(SMBTH)等のメチルベンズチアゾリノンヒドラゾン系化合物などが用いられる。アミノアンチピリン系化合物は夾雑物として4-ヒドロキシアンチピリンを含み得ることが想定される。
【0034】
酵素法として、上記以外にも、例えば、特開平1-174400号公報、及び特開平1-281099号公報に記載されている、ジアミン、及び/又はポリアミンに酸化酵素を作用させ、発生したアミノアルキルアルデヒドにNAD+又はNADP+の存在下でアミノアルキルアルデヒドデヒドロゲナーゼをさらに作用させて生成されるNADH又はNADPHを吸光度により測定する方法を挙げることができる。
【0035】
また、N1, N12-ジアセチルスペルミン、N1, N8-ジアセチルスペルミジンは、ELISA法でも検出が可能である。各キットは市販されている。ELISA法では、検出抗体に標識された酵素と、その発色基質との反応により尿検体中のジアミン、又はポリアミンの量に応じた発色が得られる。
【0036】
酵素法、又はELISA法により得られた発色強度は、それ自体をジアミン、又はポリアミンの測定値として用いてもよい。あるいは、発色強度をジアミン、又はポリアミン毎に作成された検量線にあてはめ、ジアミン、又はポリアミンの量に換算し、この値をジアミン、又はポリアミンの測定値としてもよい。検量線は、各ジアミン、又はポリアミンの種類と含有量が公知である標準試料の発色強度と標準試料に含まれる各ジアミン、又はポリアミンの量により作成される。ジアミン、又はポリアミンの量は、単位容積あたりの質量、又は重量と表してもよく、単位容積あたりのジアミン、又はポリアミンのモル数で表してもよい。
酵素法、又はELISA法では発色基質に変えて、発光基質を使用してもよい。
【0037】
ジアミン、又はポリアミンの量をセンサで検出するセンサ法としては、例えば文献J. Mater. Chem. C, 2021, 9, 11690-11697 (DOI: 10.1039/D1TC01542G)に記載さ入れているan extended gate-type organic thin-film transistor (OTFT)-based polyamine sensorを用いて、測定することができる。センサ法では、ジアミン、又はポリアミンの値は、電圧値に基づいて算出される。
【0038】
クロマトグラフィー法、又は質量分析法により、各ジアミン、又はポリアミンの量を定量する場合、尿検体と標準試料からジアミン、又はポリアミンのスペクトルを得る。標準試料は、各ジアミン、又はポリアミンの含有量が公知の試料である。次に、スペクトルから、尿検体の各ジアミン、又はポリアミンのピーク面積と、標準試料中に含まれる各ジアミン、又はポリアミンのピーク面積を求める。標準試料中のジアミン、又はポリアミンのピーク面積は、標準試料中に含まれる各ジアミン、又はポリアミンの量を反映するため、尿検体中の各ジアミン、及び/又はポリアミンのピーク面積と、それぞれのジアミン、又はポリアミンと同じジアミン、又はポリアミンを含む標準試料のピーク面積から、尿検体中の各ジアミン、又はポリアミンの量を算出することができる。この場合、ジアミン、又はポリアミンの測定値は、ピーク面積であってもよく、ピーク面積をポリアミン毎に作成された検量線にあてはめ、ジアミン、又はポリアミンの量に換算し、この値をポリアミンの測定値としてもよい。検量線は、各ジアミン、又はポリアミンの種類と含有量が公知である標準試料のピーク面積と標準試料に含まれる各ジアミン、又はポリアミンの量により作成される。
【0039】
次に、尿検体中のジアミン、又はポリアミンの測定値が属する基準範囲を検索する。測定値が属する基準範囲を検索することは、あらかじめフレイルの進行度に応じて設定された複数の基準範囲それぞれに、被検者の測定値を照合することを意図する。例えば、フレイルの進行度を上記Friedらの評価基準に基づいて分類する場合、基準範囲は、健常、プレフレイル、フレイルの3つのカテゴリーについて設定されることとなる。基準範囲は、健常に分類された対象者群、プレフレイルに分類された対象者群、フレイルに分類された対象者群のそれぞれに属する対象者から採取された尿検体中のジアミン、又はポリアミンの測定値に基づいて設定される。基準範囲は、それぞれのカテゴリーにおいて取得された測定値の群に基づいて、例えば、ハザード比、信頼区間、オッズ比等から設定することができる。あるいは、それぞれのカテゴリーの測定値の群から算出した中央値と四分位範囲から基準範囲を決定してもよい。あるいは、それぞれのカテゴリーの測定値の群から算出された平均値と、標準偏差(SD)、分散(CV)等から基準範囲を設定してもよい。
【0040】
検索の結果、測定値が属する基準範囲が確定した場合、前記測定値が属する基準範囲に対応するフレイルの進行度が被検者のフレイルの進行度であると示唆される。
【0041】
取得したジアミン、又はポリアミンの測定値は、ジアミン、又はポリアミンの測定値を採取したときの被検者の尿検体中のクレアチニン濃度、24 時間尿クレアチニン排泄量により補正を行うことが好ましい。また、24 時間尿クレアチニン排泄量を1 日 1gとしてジアミン、又はポリアミンの測定値を補正してもよい。補正を行う場合、基準範囲もまた、補正後のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値に基づいて決定されていることが好ましい。尿検体中のクレアチニン濃度は、ヤッフェ法、酵素法等で測定可能である。
【0042】
2.ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の提示を支援するための方法
本発明のある実施形態は、被検者のジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の提示を支援するための方法に関する。
【0043】
前記方法は、被検者から採取した尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得することと、フレイルの進行度に応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索することと、前記測定値が属する基準範囲に対応するジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の推奨レベルを提示すること、を含む。
【0044】
被検者から採取した尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得することと、フレイルの進行度に応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索することに関する説明は、上記1.の説明をここに援用する。
【0045】
本実施形態では、さらに、前記複数の基準範囲に対応してあらかじめ設定された、ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の推奨レベルを提示する。推奨レベルは、例えば、フレイルの進行度を上記Friedらの評価基準に基づいて分類する場合、健常、プレフレイル、フレイルの3つのカテゴリーについて設定される。前記測定値が、健常の基準範囲に属する場合には、例えば、推奨レベルとして、「ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取を推奨する」ことを示すラベルを提示する。前記測定値が、プレフレイルの基準範囲に属する場合には、例えば、推奨レベルとして、「ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取を強く推奨する」ことを示すラベルを提示する。前記測定値が、プレフレイルの基準範囲に属する場合には、例えば、推奨レベルとして、「ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取を非常に強く推奨する」ことを示すラベルを提示する。これらのラベルは、テキストであってもよく、記号や、数値であってもよい。また、基準範囲に応じて、より具体的にジアミン、及び/又はポリアミンの1日あたりの摂取量を提示してもよい。
【0046】
本実施形態の別形態は、フレイルを発症する可能性がある被検者;又はプレフレイル若しくはフレイルと決定された被検者に対して、ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取が有効であること示唆する方法に関する。フレイルを発症する可能性がある被検者;又はプレフレイル若しくはフレイルと決定された被検者から採取した尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得することと、前記測定値が基準値以下であるとき、ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取が有効であることを示唆すること、を含む。フレイルを発症する可能性がある被検者は、フレイルを発症する可能性のある年齢層に該当する者である。例えば、対照者は、50歳以上、60歳以上、70歳以上、又は80歳以上であることが好ましい。プレフレイル若しくはフレイルと決定された被検者は、上述した評価基準に基づいてプレフレイル若しくはフレイルと決定された被検者である。
【0047】
ジアミン、及び/又はポリアミンの測定値の基準値として、前記測定値の高値群と低値群を識別可能な値を選択することができる。基準値は、対照者の尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値の群から算出できる。例えば、対照者の尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値の群から算出したハザード比、信頼区間、オッズ比等から設定することができる。あるいは、例えば対照者の尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値の群から算出した中央値と四分位範囲から基準範囲を決定してもよい。あるいは、それぞれのカテゴリーの測定値の群から算出された平均値と、標準偏差(SD)、分散(CV)等から決定できる。対照者は、フレイルを発症する可能性のある年齢層に該当する者である。例えば、対照者は、50歳以上、60歳以上、70歳以上、又は80歳以上であることが好ましい。
【0048】
3.フレイルの進行度の層別化を支援するための層別化装置
本発明のある実施形態は、被検者のフレイルの進行度の層別化を支援するための層別化装置30(以下、単に「層別化装置30」とも呼ぶに関する。
図1を用いて層別化装置30のハードウエア構成について説明する。
【0049】
層別化装置30は、入力デバイス311と、出力デバイス312と、メディアドライブ313とに接続されていてもよい。また、層別化装置30は分析装置90と有線又は無線のネットワークにより通信可能に接続されフレイルの進行度を層別化するための層別化システム3000を構成してもよい。分析装置90は、吸光度計、マイクロプレートリーダ、自動分析装置、質量分析装置等でありうる。
【0050】
層別化装置30において、処理部301と、メモリ302と、ROM(read only memory)303と、記憶デバイス304と、通信インタフェース(I/F)305と、入力インタフェース(I/F)306と、出力インタフェース(I/F)307と、メディアインターフェース(I/F)308は、バス309によって互いにデータ通信可能に接続されている。メモリ302と記憶デバイス304とを合わせて、単に記憶部と呼ぶこともある。記憶部は、前記測定値や基準値を揮発性に、又は不揮発性に記憶する。
【0051】
処理部301は、層別化装置30のCPUであり、演算装置ともいう。処理部301は、GPUと協働してもよい。処理部301が、記憶デバイス304又はROM303に記憶されているオペレーティングシステム(OS)3041と協働して後述する疾患の情報の層別化プログラム3042a(以下、単に「層別化プログラム3042a」と呼ぶこともある)を実行し、取得されるデータの処理を行うことにより、コンピュータが層別化装置30として機能する。
【0052】
ROM303は、処理部301により実行される層別化プログラム3042a及びこれに用いるデータが記録されている。処理部301はMPU101としてもよい。ROM303は、層別化装置30の起動時に、処理部301によって実行されるブートプログラムや層別化装置30のハードウエアの動作に関連するプログラムや設定を記憶する。
【0053】
メモリ302は、ROM303及び記憶デバイス304に記録されている層別化プログラム3042aの読み出しに用いられる。また、メモリ302は、処理部301がこれらの層別化プログラム3042aを実行する時の作業領域として利用される。
【0054】
記憶デバイス304は、ハードディスク等によって構成される。記憶デバイス304には、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラムなどの、処理部301に実行させるための種々の層別化プログラム3042a及び層別化プログラム3042aの実行に用いる各種設定データが記憶されている。具体的には、基準範囲データベース(DB)DB2を不揮発性に記憶する。
【0055】
通信I/F305は、処理部301の制御下で、分析装置90又は他の外部機器からのデータを受信し、必要に応じて層別化装置30が保存又は生成する情報を、分析装置90又は外部に送信又は表示する。通信I/F305は、ネットワークを介して分析装置90又は他の外部機器と通信を行ってもよい。
【0056】
入力I/F306は、入力デバイス311から文字入力、クリック、音声入力等を受け付ける。受け付けた入力内容は、メモリ302又は記憶デバイス304に記憶される。
【0057】
入力デバイス311は、タッチパネル、キーボード、マウス、ペンタブレット、マイク等から構成され、層別化装置30に文字入力又は音声入力を行う。入力デバイス311は、層別化装置30の外部から接続されても、層別化装置30と一体となっていてもよい。
【0058】
出力I/F307は、処理部301が生成した情報を出力デバイス312に出力する。出力I/F307は、処理部301が生成し、記憶デバイス304に記憶した情報を、出力デバイス312に出力する。
【0059】
出力デバイス312は、例えばディスプレイ、プリンター等で構成され、分析装置90から送信される測定結果及び層別化装置30における各種操作ウインドウ、分析結果等を表示する。
【0060】
メディアI/F308は、メディアドライブ313に記憶された例えばアプリケーションソフト等を読み出す。読み出されたアプリケーションソフト等は、メモリ302又は記憶デバイス304に記憶される。また、メディアI/F308は、処理部301が生成した情報をメディアドライブ313に書き込む。メディアI/F308は、処理部301が生成し、記憶デバイス304に記憶した情報を、メディアドライブ313に書き込む。
【0061】
メディアドライブ313は、フレキシブルディスク、CD-ROM、又はDVD-ROM等で構成される。メディアドライブ313は、フレキシブルディスクドライブ、CD-ROMドライブ、又はDVD-ROMドライブ等によってメディアI/F308と接続される。メディアドライブ313には、コンピュータがオペレーションを実行するためのアプリケーションプログラム等が格納されていてもよい。
【0062】
処理部301は、層別化装置30の制御に必要なアプリケーションソフトや各種設定をROM303又は記憶デバイス304からの読み出しにかえて、ネットワークを介して取得してもよい。前記アプリケーションプログラムがネットワーク上のサーバコンピュータの記憶デバイス内に格納されており、このサーバコンピュータに層別化装置30がアクセスして、層別化プログラム3042aをダウンロードし、これをROM303又は記憶デバイス304に記憶することも可能である。
【0063】
また、ROM303又は記憶デバイス304には、例えば米国マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)などのグラフィカルユーザインタフェース環境を提供するオペレーティングシステムがインストールされている。第2の実施形態に係るアプリケーションプログラムは、前記オペレーティングシステム上で動作するものとする。すなわち、層別化装置30は、パーソナルコンピュータ等であり得る。
【0064】
層別化システム3000は一ヶ所に設置されている必要はなく、層別化装置30と分析装置90が別所に配置され、これらがネットワークで接続されていてもよい。また、層別化装置30は、入力デバイス311や出力デバイス312を省略した操作者を必要としない装置であってもよい。
【0065】
4.フレイルの進行度の層別化を支援するための層別化プログラムの処理
図2を用いて、被検者のフレイルの進行度の層別化を支援するための層別化プログラム3042aによって実行される処理ついて説明する。
【0066】
層別化装置30の処理部301は、オペレータが入力デバイス311から処理開始の入力を行うことにより、フレイルの進行度の層別化を支援するための層別化処理を開始する。
【0067】
処理部301は、ステップS31において、分析装置90から、被検者から採取された尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得する。被検者から採取された尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得することの詳細な内容は、上記1.において述べた内容と同じであるから、上記1.の説明をここに援用する。
【0068】
次に、処理部301は、ステップS32において、フレイルの進行度に応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索する。前記複数の基準範囲は、基準範囲データベースDB2に、フレイルの進行度を示すラベルと紐付けられて格納されている。
【0069】
次に、処理部301は、ステップS33において、前記測定値が属する基準範囲に対応するフレイルの進行度に紐付けられたラベルをフレイルの進行度を示すラベルとして出力する。フレイルの進行度を示すラベルは、「健常」、「プレフレイル」、「フレイル」、等の日本語、英語等のテキストであってもよい。また、フレイルの進行度に紐付けられたラベルと出力されるラベルは、必ずしも同じでなくてもよく、同等の臨床的な意味を表していればよい。さらに、測定値が「健常」の基準範囲に属する場合には、ステップS33を行わず、処理を終了してもよい。
【0070】
さらに、処理部301は、ステップS34において、ステップS32において検索した測定値が属する基準範囲に対応する基準範囲に対応する、ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の推奨レベルを出力する。ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の推奨レベルは、基準範囲データベースDB2に、各基準範囲と紐付けられて格納されている。ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の推奨レベルに関する説明は、上記2.の説明をここに援用する。
【0071】
また、処理部301は、ステップS34を実行する際には、ステップS33を実行しなくてもよい。
【0072】
本実施形態の別形態は、フレイルを発症する可能性がある被検者;又はプレフレイル若しくはフレイルと
決定された被検者に対して、ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取が有効であること示唆する提示装置(以下、単に提示装置とも称する)30’に関する。
【0073】
提示装置30’は、入力デバイス311と、出力デバイス312と、メディアドライブ313とに接続されていてもよい。また、層別化装置30は提示装置30’と有線又は無線のネットワークにより通信可能に接続されフレイルを発症する可能性がある被検者;又はプレフレイル若しくはフレイルと決定された被検者に対して、ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取が有効であることを示唆する提示システム3000’を構成してもよい。分析装置90は、吸光度計、マイクロプレートリーダ、質量分析装置等でありうる。
【0074】
図3に提示装置30’のハードウエア構成を示す。提示装置30’の構成は、次の点を除き、層別化装置30と同様である。提示装置30’の記憶デバイス304は、層別化プログラム3042aに変えて、フレイルを発症する可能性がある被検者;又はプレフレイル若しくはフレイルと決定された被検者に対して、ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取が有効であることを示唆する提示プログラム(以下、単に「提示プログラム」と称する)3042bを格納する。また、基準範囲データベースDB2は、対照者の尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値の群から算出した基準値を格納する。
【0075】
図4を用いて、提示プログラム3042bによって実行される処理について説明する。
提示装置30’の処理部301は、オペレータが入力デバイス311から処理開始の入力を行うことにより、フレイルの進行度の層別化を支援するための層別化処理を開始する。
【0076】
処理部301は、ステップS331において、分析装置90から、被検者から採取された尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得する。被検者から採取された尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得することの詳細な内容は、上記1.において述べた内容と同じであるから、上記1.の説明をここに援用する。
【0077】
次に、処理部301は、ステップS332において、ステップS331において取得した測定値と、ジアミン、及び/又はポリアミンの基準値とを比較する。前記基準値は、基準範囲データベースDB2に格納されている。
【0078】
処理部301は、ステップS332において、前記測定値が前記基準値以下の時(「YES」の時)、処理部301は、ステップS333に進み、被検者にジアミン、及び/又はポリアミンの摂取を推奨するラベルを出力する。また、ステップS332において、前記測定値が前記基準値を上回る時(「NO」の時)、処理部301は、処理を終了する。ステップS332において、前記測定値が前記基準値を上回る時(「NO」の時)、処理部301は、被検者にジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の必要がないことを示すラベルを出力してもよい。
【0079】
5.プログラムを記憶した記憶媒体
本発明のある実施形態は、層別化プログラム3042a又は提示プログラム3042bを記憶した、メディアドライブ等のプログラム製品に関する。すなわち、層別化プログラム3042a又は提示プログラム3042bは、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等のメディアドライブに格納され得る。また、メディアドライブはサーバ装置等のコンピュータであってもよい。メディアドライブへのプログラムの記録形式は、各装置がプログラムを読み取り可能である限り制限されない。前記メディアドライブへの記録は、不揮発性であることが好ましい。
【0080】
6.フレイルの進行度の層別化を支援するための検査キット
本発明のある実施形態は、被検者のフレイルの進行度の層別化を支援するための、又はジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の提示を支援するための検査キットに関する。検査キットは、尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得できるキットである限り、制限されない。
【0081】
例えば、検査キットは、ジアミン、及び/又はポリアミンを酵素法により検出する場合、ポリアミンオキシダーゼと、ペルオキシダーゼと、各酵素が好適に活性を発揮できる上の件を備えるバッファーと、ペルオキシダーの基質を含み得る。必要に応じて、アシルポリアミンアミドヒドロラーゼ、及びアシルポリアミンアミドヒドロラーゼ、及び当該酵素が好適に活性を発揮できる上の件を備えるバッファーを含んでいてもよい。
各酵素、及び基質に関しては、上記1.の説明をここに援用する。
【実施例0082】
以下に実施例を示して本発明についてより詳細に説明する。しかし、本発明は、実施例に限定して解釈されるものではない。
【0083】
1.検討対象
ポリアミンを含有する食品(以下「本試験食品」)を50歳以上65歳未満の成人男性が12週間連続摂取したときの、フレイル予防効果について評価した。
【0084】
2.試験の方法
(1)試験のデザイン
a.無作為化:無作為化比較
b.盲検化:二重盲検
c.対照:プラセボ対照
d.割付け:並行群間比較
本試験においては、60名の被験者を以下の試験群に30名ずつ割り付けて行った。
I群:試験食品Aを12週間毎日、1日9錠を朝食、昼食、夕食後に3錠ずつ摂取した。
II群:試験食品Bを12週間毎日、1日9錠を朝食、昼食、夕食後に3錠ずつ摂取した。
【0085】
(2) 本試験に用いる食品などの概要
a.試験食品
試験食品A、Bは、ポリアミン含有カプセル2700 mg(9錠、有効成分として1.1mgのポリアミンを含む)、プラセボ2700 mg(9錠)、のいずれかである。各試験食品は、賦形剤を配合し、濃色のカプセルに入れられ、カプセルの中身が外観からは全く分からないようにした。
b. 成分/原材料表示
・ポリアミン含有カプセル:小麦胚芽抽出物409 mg、澱粉分解物372 mg、クエン酸ナトリウム149 mg、デキストリン1734 mg、ステアリン酸カルシウム36 mg
・プラセボ:クエン酸ナトリウム149 mg、デキストリン2515 mg、ステアリン酸カルシウム36 mg
【0086】
(3) 評価項目
評価項目は以下のとおりとした。
a.主要評価項目(Primary endpoint)
・骨格筋量
b.副次評価項目(Secondary endpoint)
・部位別筋肉量(右腕、左腕、体幹、右脚、左脚)、握力、背筋力、脚力
【0087】
(4)割付方法
本試験は割付によって試験群間に医学的背景の差が生じぬようにランダム化比較にて実施した。
割付責任者は、I群、II群、それぞれ30人ずつ、骨格筋量、年齢を基に割付を行った。
【0088】
(5)試験のフロー及びスケジュールと試料・情報の取得方法
a.試料(情報)と入手方法
各検査日に以下方法にて情報を収集した。
試験対象者の同意:同意者名、同意取得年月日
試験対象者背景:年齢(生年月日)、性別など
検査時アンケート(前日の運動・食事、当日の体調・食事など)
理学検査:身長(摂取前試験時のみ)・体重、BMI、骨格筋量(Inbody570、株式会社インボディ・ジャパン)、部位別筋肉量(右腕、左腕、体幹、右脚、左脚)(Inbody570、株式会社インボディ・ジャパン)、握力(デジタル握力計、竹井機器工業株式会社)、背筋力(デジタル背筋力計、竹井機器工業株式会社)、脚力(5回椅子立ち上がりテスト)、血圧(収縮期血圧、拡張期血圧)
医師による問診
生活日誌(試験期間中の毎日の試験食品摂取状況や体調など)
b.スケジュール
上記検査は、下記スケジュールにしたがって行った。
【0089】
【0090】
試験中の被験者には、以下の点に注意していただいた。
・これまでの食生活や運動等の生活習慣を大きく変えない。プロテイン製剤などのように骨格筋量に影響する可能性のある医薬品、保健機能食品(特定保健用食品、機能性表示食品及び栄養機能食品)などの新たな摂取は控える。
・ 試験期間中は、ポリアミン含有サプリメントや大豆食品(納豆:毎日 1 パック以上、豆乳:毎日1 パック以上、豆腐:毎日 1/3 丁以上)の摂取を控える。
・ 検査前日は過激な運動を控えて、21 時までに食事を済ませる。また、暴飲暴食・多量の飲酒・タバコ・夜更かしを避ける。
・ 検査当日は検査終了まで、過度な運動を避ける。
・ 検査当日、急性疾患で熱・下痢・嘔吐などの場合は試験を中止する。
・ 本試験について、知り得た内容は第三者に漏洩しない。特に SNS(Facebook や Twitter、Instagram、LINE 等)を用いた情報提供を行わない。
【0091】
(6)除外基準
以下の項目に該当する被験者は、試験対象から除外した。
1)慢性疾患を有し薬物治療を受けている方、重篤な疾患既往歴がある方
2)試験食品にアレルギー等を有する方(試験食品は小麦胚芽抽出物を含むため、特に小麦にア
レルギー等を有する方)
3)ポリアミン含有サプリメントを普段から多量に摂取している方
4)日常的に大豆食品(納豆:毎日 1 パック以上、豆乳:毎日 1 パック以上、豆腐:毎日 1/3 丁
以上)を摂取している方
5)プロテイン製剤などのように骨格筋量に影響する可能性のある医薬品、保健機能食品(特定
保健用食品、機能性表示食品及び栄養機能食品)などを常用している方
6)試験開始前 1 ヶ月間に、他の試験に参加した方、あるいは本試験同意後に他の試験に参加す
る予定のある方
7)試験統括医師及び試験代表者の判断により不適格と判断した方
【0092】
(7)統計解析の方法
得られた評価結果について、原則として、連続データの場合Shapiro-Wilk testを用いて正規性の検討を実施し、対応のあるデータは正規性が示された場合paired t-testを行い、示されなかった場合Wilcoxon signed-rank testを行った。対応のないデータは、正規性が示された場合F-testを用いて分散の検定を行った後、Student’s t-test(等分散性あり)またはAspin-Welch’s t-test(等分散性なし)を行い、正規性が示されなかった場合Mann-Whitney U-testを行った。段階の多い順序データの場合対応のあるデータはWilcoxon signed-rank testを行い、対応のないデータはMann-Whitney U-testを行った。段階の少ない順序データや名義データについては、対応のあるデータはMcNemar検定を行い、対応のないデータはデータ数に応じてFisherの直接法あるいはχ2検定を行った。多重比較が必要な場合はデータの形式に応じて、Bonferroni法、Tukey法、Dunnett法などを用いる。また、必要に応じて分散分析、相関係数の検定、サブグループ解析も行う。安全性の評価項目に関しては、原則として摂取前後の値の群内比較、摂取前後の値の群間比較のみ行い、摂取前後差の群間比較については行わなかった。両側検定で有意水準5%未満を「統計学的に有意な差あり」、5%以上10%未満を「傾向あり」と判定した。統計解析はRを主として用いるが、必要に応じてIBM SPSS Statistics(ver.25)を用いて行った。
【0093】
3.試験結果
3-1.有効性評価(全体)
試験参加者 60 名の内、自己都合により脱落した者 7 名と、試験計画の遵守事項からの逸脱がみられた者1名を除外し、残り54名を有効性解析対象者とした。
表2に有効性解析対象者の背景を示す。
【0094】
【0095】
a.体重、BMI
体重、BMI の平均を表3に示した。体重、BMI ともに、ポリアミン群において摂取前に比べて摂取後に有意な減少傾向が認められた(体重:p=0.061、BMI:p=0.078)。
【0096】
b.部位別筋肉量(右腕、左腕、体幹、右脚、左脚)
部位別筋肉量の平均を表3に示した。体幹の筋肉量では、プラセボ群において摂取前に比べて摂取後に有意な減少が認められた(p=0.034)。
【0097】
c.脚力
脚力の平均を表3に示した。脚力は、摂取前においてプラセボ群ではポリアミン群に比べて有意な高値傾向が認められた(p=0.071)。またプラセボ群において摂取前に比べて摂取後に有意な減少が認められ(p=0.001)、変化量についてポリアミン群に比べて有意な低値傾向が認められた(p=0.057)。
【0098】
【0099】
3-2.有効性評価_サブグループ解析_BMI23 以上
(1)主要評価項目(骨格筋量)
BMIが 23 以上の方を対象にサブグループ解析を行った場合の骨格筋量の平均を表4に示した。各時点の値および変化量において、両群の間に有意な差は認められなかった。
【0100】
【0101】
(2)副次評価項目
a.体重、BMI
BMI が23 以上の方を対象にサブグループ解析を行った場合の体重、BMI の平均を表4に示した。各項目について、各時点の値および変化量において、両群の間に有意な差は認められなかった。
【0102】
b.部位別筋肉量(右腕、左腕、体幹、右脚、左脚)
BMI が 23 以上の方を対象にサブグループ解析を行った場合の部位別筋肉量の平均を表4に示した。各部位の筋肉量について、各時点の値および変化量において、両群の間に有意な差は認められなかった。
【0103】
c.握力、背筋力、脚力
BMI が23 以上の方を対象にサブグループ解析を行った場合の握力、背筋力、脚力の平均を表4に示した。握力と背筋力では、摂取前においてポリアミン群ではプラセボ群に比べて値が高い有意傾向が認められた(握力:p=0.070、背筋力:p=0.096)。また背筋力では、摂取後においてポリアミン群ではプラセボ群に比べて値が高い有意傾向が認められた(p=0.083)。脚力では、プラセボ群において摂取前に比べて摂取後に有意な減少が認められ(p<0.001)、変化量についてポリアミン群に比べて有意に低かった(p=0.040)。
【0104】
3-3.有効性評価_サブグループ解析_年齢中央値以上
a.体重、BMI
年齢が中央値以上の方を対象にサブグループ解析を行った場合の体重、BMI の平均を表5に示した。体重およびBMI について、ポリアミン群において摂取前に比べて摂取後に有意な減少が認められた(体重:p=0.001、BMI:p=0.002)。
【0105】
b.部位別筋肉量(右腕、左腕、体幹、右脚、左脚)
年齢が中央値以上の方を対象にサブグループ解析を行った場合の部位別筋肉量の平均を表5に示した。
【0106】
c.握力、背筋力、脚力
年齢が中央値以上の方を対象にサブグループ解析を行った場合の握力、背筋力、脚力の平均を表5に示した。脚力では、プラセボ群において摂取前に比べて摂取後に有意な減少が認められ(p=0.002)、変化量についてポリアミン群に比べて有意に低かった(p=0.029)。
【0107】
【0108】
3-4.安全性評価項目
試験中に、有害事象として頭痛が 16 件、鼻漏が 3 件、咳、不定愁訴、大腿骨頸部骨折が 5 件認められた。しかし、これらはいずれも一過性の症状であるため試験食品との因果関係はなしと判断された。