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  • 特開-摺動部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153088
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】摺動部材
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/20 20060101AFI20231005BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20231005BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20231005BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
F16C33/20 A
C08L83/04
C08L27/12
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058468
(22)【出願日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2022059748
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 富雅
(74)【代理人】
【識別番号】100100424
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 知公
(72)【発明者】
【氏名】安田 絵里奈
(72)【発明者】
【氏名】羽根田 祐磨
【テーマコード(参考)】
3J011
4J002
【Fターム(参考)】
3J011AA10
3J011DA01
3J011JA02
3J011LA04
3J011MA02
3J011PA10
3J011QA05
3J011RA03
3J011SC05
3J011SC20
3J011SD01
3J011SE02
3J011SE05
3J011SE06
3J011SE07
3J011SE08
4J002BD152
4J002CM041
4J002CP032
4J002DA026
4J002DA106
4J002DB000
4J002DE040
4J002DE116
4J002DG026
4J002FA082
4J002FD090
4J002FD206
4J002GM05
(57)【要約】
【課題】この発明の目的は、摺動部材が昇温して樹脂オーバレイ層のバインダ樹脂が流動性を備えるものとなったときにも、樹脂オーバレイ層と被摺動部材との間に低い摩擦係数を維持できるようにする。
【解決手段】この発明の摺動部材は、添加物を含む樹脂オーバレイ層を備え、添加物はフッ素樹脂及び/又はケイ素樹脂からなる撥油性樹脂を含み、撥油性樹脂の適正量が樹脂オーバレイ層の摺動面において均等に分散されている。かかる摺動部材によれば、樹脂オーバレイ層の摺動面に撥油性を付与できる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
添加物を含む樹脂オーバレイ層を備えた摺動部材であって、
前記添加物はフッ素樹脂及び/又はケイ素樹脂からなる撥油性樹脂を含み、
前記撥油性樹脂が前記樹脂オーバレイ層の摺動面において下記の条件で
U=s/(S*0.2)≦1、ただし 6%≦S≦30%
ここにsはボロノイ多角形の面積の標準偏差であり、
Sは前記撥油性樹脂が表出する面積率である、
分散されている、摺動部材。
【請求項2】
該撥油性樹脂の粒径が1.0μm以下であり、かつそのアスペクト比が1.0~1.4である、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記添加物の配合量が、前記樹脂オーバレイ層において30vol%以上である、請求項1又は2に記載の摺動部材。
【請求項4】
前記撥油性樹脂の量は、前記樹脂オーバレイ層に含まれる添加物において、20%vol以上である、請求項1~3の何れかに記載の摺動部材。
【請求項5】
前記樹脂オーバレイ層の摺動面におけるRp(最大山高さ)とRv(最大谷高さ)の比はRp/Rv=0.7~1.8である、請求項1~4の何れかに記載の摺動部材。
【請求項6】
添加物を含む樹脂オーバレイ層を備えた摺動部材であって、
前記添加物は撥油性樹脂を含み、
該樹脂オーバレイ層が下記の条件の撥油性を備える摺動部材、
前記樹脂オーバレイ層に10μLの油滴を滴下し、その2秒後において、該油滴の広がりの径が10.0mm以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摺動部材の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動部材は一般的に基材層と表面層とを備え、表面層で被摺動部材を支持する。この表面層は軟質な金属材料で形成され、更にその表面が樹脂オーバレイ層で被覆されることがある。
この樹脂オーバレイ層はバインダ樹脂に各種の添加物を分散させたものである。添加物の代表例として固体潤滑剤が挙げられる。
被摺動部材との摩擦抵抗を低減するため、この固体潤滑剤として劈開性を有するものが採用されることが多い(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2011/111668号公報
【特許文献2】特開2003-156045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂オーバレイ層と被摺動部材との間の摩擦係数をみたとき、劈開性の固体潤滑剤は専ら摺動開始時にその作用を発揮する。即ち、樹脂オーバレイ層と被摺動部材とが固体接触しているときに固体潤滑剤は劈開できるからである。ただし、近年は流体潤滑時の摩擦係数の低下が求められている。流体潤滑時は、軸と軸受が潤滑油にて完全に分離されており、固体潤滑剤の劈開が生じにくい。
勿論、劈開性の固体潤滑剤の適用が樹脂オーバレイ層の摩擦係数を低減させることは疑いのないことであるが、摺動部材に対する昨今の要求を満足するには、新たな観点からの潤滑剤の選択が求められる。
【0005】
この発明は、流体潤滑時にも、樹脂オーバレイ層と被摺動部材との間に低い摩擦係数を維持できるようにすることを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねたところ、樹脂オーバレイ層の摺動面を撥油性とすればよいことに気が付いた。摺動面の撥油性が不十分であると、摺動面と被摺動部材との間の潤滑油が摺動面において濡れ広がり、そこに付着しやすくなる。
換言すれば、摺動面と被摺動部材との間に速度差が生じたとき、摺動面に付着した潤滑油膜をせん断する力が必要となる。
これに対し、摺動面に適切な撥油性があると、摺動面と被摺動部材との間に速度差が生じたとき、潤滑油は摺動面に付着せずそこを滑るように移動する。このときの摺動面から潤滑油を引き離すことに要する力は、潤滑油膜をせん断することに要する力より小さいと考えられる。よって、摺動面と被摺動部材間の摩擦係数が小さくなる。
【0007】
かかる知見に基づき、本発明者らは樹脂オーバレイ層の摺動面に付与すべき撥油性について検討を重ねてきた結果、この発明の1つの局面に想到した。
即ち、添加物を含む樹脂オーバレイ層を備えた摺動部材であって、
前記添加物はフッ素樹脂及び/又はケイ素樹脂からなる撥油性樹脂を含み、
前記撥油性樹脂が前記樹脂オーバレイ層の摺動面において下記の条件で分散されている。
U=s/(S*0.2)≦1 (1)
ただし 6%≦S≦30%
sはボロノイ多角形の面積の標準偏差であり、
Sは前記撥油性樹脂が表出する面積率である。

樹脂オーバレイ層の摺動面における撥油性樹脂の分散が上記式(1)を満足する摺動部材によれば、適正量の撥油性樹脂が摺動面へ適正に分散され、撥油性樹脂が不足している領域が減る。これにより、摺動面の全面が適正な撥油性を有する。よって、摺動面の全面において好適な摩擦係数が維持できる。
【0008】
撥油性樹脂の配合量は面積率Sで規定される。即ち、樹脂オーバレイ層に配合された撥油性樹脂がその表面に表出する面積の面積率を6%以上とすることで、樹脂オーバレイ層の摺動面に十分な撥油性を確保できる。また、当該面積率を30%以下とすることで、樹脂オーバレイ層の摺動面の撥油性が過剰になることを防止できる。
撥油性樹脂の表面若しくは断面を撮影する。得られた画像を処理して撥油性樹脂の表出面積と他の面積とを演算し、面積比Sは求められる。
【0009】
撥油性樹脂の分散性はボロノイ多角形の面積の標準偏差sで規定される。標準偏差sが小さければ小さいほどボロノイ多角形の面積が揃っていることを意味する。つまり、撥油性樹脂がより均等に分散していることを指す。
ここに、ボロノイ多角形の面積は次のようにして得られる。オーバレイ層の表面を撮影する。得られた画像を処理して、表出した撥油性樹脂の中心どうしを直線で結ぶ。このようにして形成された三角形の各辺の垂直二等分線をつなぎ、最初に結んだ直線を消して得られる多角形がボロノイ多角形である。その面積は、汎用的な画像ソフトを用いる画像処理により得られる。
撮影画像の所定領域に含まれる全ボロノイ多角形の面積の分布から、標準偏差sが求められる。
樹脂オーバレイ層においての撥油性の配合量を調整することによって、表出する撥油性樹脂の面積、所望標準偏差sに求める値を確保しやすくなる。そこで、標準偏差sと面積率Sとを式(1)のように関係付けることした。式(1)のUは、撥油性樹脂の配合量とその分散性のバランスを示す指標である。
【0010】
摺動部材の樹脂オーバレイ層の好適な撥油性を次のように規定することもできる。即ち、樹脂オーバレイ層に10μLの油滴を滴下すると、その2秒後において、該油滴の広がりの径が10.0mm以下である。
【0011】
ここに、樹脂オーバレイ層に所定の油滴を滴下して所定の時間後の油滴の広がりを指標とする撥油性の評価方法を滴下法と称する。
油滴の広がりの径は、滴下2秒後の液滴の面積を滴下面の垂直上方から観察して求め、その面積に等しい円形の直径を指す。なお、油滴には0W-8相当を使用し、測定時の環境温度は20~30℃とする。
上記のように採用した油滴の量(10μL)と経過時間(2秒)は、工業的に汎用される摺動部材を想定して、その樹脂オーバレイ層が平坦であるか又は曲率半径が40mm以上の曲面を有するものであるときの指標である。
曲率半径が小さくなれば、それに応じて油滴の滴下量を減量して摺動面と油滴の頂点の高さが上記指標と同じようにすることが好ましく、また、それに応じて測定すべき広がり後の径も調整される。
【0012】
撥油性樹脂の粒径は1μm以下であり、かつそのアスペクト比が1.0~1.4であることが好ましい。
撥油性樹脂の粒径を1μm以下とし、かつそのアスペクト比を1.0~1.4とすることで、樹脂オーバレイ層の摺動面の平滑性を担保する。Wenzelの式には、摺動面の接触角が90度未満のとき、当該摺動面を粗面にすると、潤滑油が濡れやすくなることが示されている。よって、撥油性樹脂を上記のように微細でかつ球形に近いものとすることで、撥油性樹脂が表出する摺動面の平滑性を担保し、もって摺動面の撥油性を阻害させないようにする。
ここに粒径とアスペクト比とは次のように規定される樹脂オーバレイ層の断面を顕微鏡写真撮影して得られた画像を処理して、撥油性樹脂の粒子に対応する領域を円及び楕円近似し、粒径は円相当径を用いる。また、近似された楕円の長径/短径をもってアスペクト比とする。
【0013】
添加物の配合量は樹脂オーバレイ層において30vol%以上とすることが好ましい。
これにより、樹脂オーバレイ層の摺動面に好適な撥油性を確保できる。よって、流体潤滑状態となった樹脂オーバレイ層の摩擦係数が低減する。
ここに、添加物の配合量は樹脂オーバレイ層の製造時の原料の体積比で規定できるものであるが、既述のように、樹脂オーバレイ層の断面の画像において樹脂オーバレイ層に占める添加物の面積比率をもって、当該配合量とすることもできる。
【0014】
撥油性樹脂の量は、樹脂オーバレイ層に含まれる添加物において、20vol%以上とすることが好ましい。換言すれば、撥油性樹脂が表出する面積率Sは6%以上とすることが好ましい。 これにより、樹脂オーバレイ層の摺動面に好適な撥油性を確保できる。よって、流体潤滑状態となった樹脂オーバレイ層の摩擦係数が低減される。
ここに、添加物における撥油性樹脂の量は樹脂オーバレイ層の製造時の原料の体積比で規定できるものであるが、既述のように、樹脂オーバレイ層の断面画像に現れる添加物の面積と撥油性樹脂の面積との比率をもって、当該配合量とすることもできる。
なお、面積率Sを30%以下とすることで、摺動面の撥油性が過剰になることを防止する。摺動面の撥油性が過剰になると、摺動面と被摺動面との間の潤滑油膜の形成に悪影響が生じるおそれがある。
【0015】
樹脂オーバレイ層の表面におけるRp(最大山高さ)とRv(最大谷高さ)の比はRp/Rv=0.7~1.8とすることが好ましい。
Rp/Rv=0.8~1.6とすることがさらに好ましい。Rp/Rv=0.8~1.6とすることで、樹脂オーバレイ層の表面における平滑性が確保され、もって撥油性が向上する。よって、流体潤滑状態となった樹脂オーバレイ層の摩擦係数が低減する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1はこの発明の実施形態の摺動部材の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明を実施の形態に基づき更に詳細に説明する。
摺動部材1を構成する基材層2は一般的に金属材料から構成される。
摺動部材の一例の軸受では、基材層2は、鋼材からなる裏金層3へアルミ二ウム基の軸受合金層4を積層した構成である。
【0018】
基材層2の上に樹脂オーバレイ層5が積層される。
樹脂オーバレイ層5はバインダ樹脂に各種の添加物を配合した組成物からなる。
バインダ樹脂は摺動部材1の用途に応じて適宜選択可能である。例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、およびエラストマーの一種以上を採用でき、ポリマーアロイであっても良い。
【0019】
添加物として撥油性樹脂を用いることができる。
撥油性樹脂の材質は摺動部材1の用途に応じて適宜選択可能である。
この発明では、撥油性樹脂としてフッ素樹脂からなるものとケイ素樹脂からなるものに注目している。
フッ素樹脂からなる撥油性樹脂として、PTFE、PFA、FEP、ETFE、PVDF等を挙げられる。
ケイ素樹脂からなる撥油性樹脂として、シリコーンパウダー、シリコーンゴムパウダー等を挙げられる。
【0020】
これらの撥油性樹脂は樹脂オーバレイ層の摺動面において適切な量が均等に分散されることが好ましい。厚さ方向においても均等に分散されることがより好ましい。
この発明では、樹脂オーバレイ層の摺動面における撥油性樹脂の分散を下記のように規定する。
U=s/(S*0.2)≦1 (1)
ただし 6%≦S≦30%
sはボロノイ多角形の面積の標準偏差であり、
Sは前記撥油性樹脂が表出する面積率である。
撥油性樹脂を樹脂オーバレイ層において均等に分散するには、撥油性樹脂の粒径、バインダ樹脂の選択、撹拌方法等を適宜調整する。
フッ素樹脂とケイ素樹脂との比率は特に限定されず、前者単独、後者単独若しくは前者後者の混合物でもよい。
【0021】
撥油性樹脂はその粒径を1.0μm以下とし、かつそのアスペクト比を1.0~1.4とする。より好ましい粒径は0.8μm以下であり、より好ましいアスペクト比は1.0~1.1である。粒径の下限は特に限定されないが、工業的に入手できる撥油性樹脂として0.2μmが下限と考えられる。
粒径及びアスペクト比の測定方法については既述の通りである。
【0022】
添加物として、上記の撥油性樹脂の他に、汎用的な固体潤滑剤や硬質粒子等を用いることができる。
固体潤滑剤として、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、h‐BN(h‐窒化ホウ素)、黒鉛、メラミンシアヌレート、フッ化カーボン、フタロシアニン、グラフェンナノプレートレット、フラーレン、超高分子量ポリエチレン(三井化学製、商標名「ミペロン」)、Nε‐ラウロイル‐L‐リジン(味の素製、商標名「アミホープ」)等が挙げられる。
硬質粒子として、金属粒子、金属酸化物粒子、金属窒化物粒子、炭化物等を挙げられる。硬質粒子を配合することで、樹脂オーバレイ層の耐摩耗性が維持される。
その他、顔料を添加物として加えることができる。
【0023】
添加物の配合量の下限は特に限定されないが、この配合量は樹脂オーバレイ層において30vol%以上とすることが好ましい。更に好ましい配合量は40vol%以上である。配合量の上限は特に限定されないが、樹脂オーバレイ層の他の特性(耐摩耗性等)を確保する見地から60vol%とすることができる。
この配合量の規定方法については既述の通りである。
【0024】
樹脂オーバレイ層に配合される全ての添加物において、撥油性樹脂の量の下限は特に限定されないが、この量を20%以上とすることが好ましい。更に好ましい量は30%以上である。この量の上限は特に限定されないが、樹脂オーバレイ層の他の特性(耐焼付性等)を確保する見地から50%とすることができる。更に好ましい上限の量は40%である。
この量の規定方法についても記述の通りである。
【0025】
添加物は、樹脂オーバレイ層の摺動面におけるRp(最大山高さ)とRv(最大谷高さ)の比がRp/Rv=0.7~1.8となるように選択される。更に好ましい範囲はRp/Rv=0.8~1.6である。
ここに、Rp及びRvはJIS B 0601の規格による。
【0026】
樹脂オーバレイ層5は次のようにして形成される。
バインダ樹脂に用いられる樹脂材料を溶解するにはNMP(N‐メチル‐2‐ピロリドン)、イソホロン、GBL(γ‐ブチルラクトン)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、DAM(ジメチルアセトアミド)のような特定の溶剤を用いる。かかる溶剤は一般的に沸点が高く(沸点:150℃を超える)、また高価である。この溶剤には固体潤滑剤も分散させなければならない。そこで、NMP等の第1溶剤にバインダ樹脂を溶解させた後、これへ第2溶剤を加えてその粘度を調整して分散しやすくした状態で、撥油性樹脂を含めた各種の添加物を順次添加して撹拌する。この第2溶剤にはエタノール、酢酸ブチル、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、MIBK(メチルイソブチルケトン)、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの、第1溶剤に比べて低沸点(沸点:150℃以下)の溶剤を採用できる。
このようにして得られた液体状組成物を軸受合金層4の表面へ塗布し、乾燥して溶剤を揮発させ、その後熱硬化させる。塗布の方法はスプレーコート法、ロールコート法、パッド法、スクリーン法等の周知の方法を採用できる。
【実施例0027】
以下、この発明の実施例について説明する。
実施例の摺動部材1は、例えば図1に示す断面構造とした。より具体的には、鋼鉄製の裏金層3の上にアルミニウム基の軸受合金層4をライニングしてバイメタルを製造し、このバイメタルを半円筒状に賦形した。その後、軸受合金層4の表面をボーリング加工して表面仕上げをした。これにより基材層2(厚さ:1.5mm)が形成された。次に、半円筒状の成形物の表面を洗浄した(洗浄し、表面を粗面化する)。
【0028】
このようにして得られた基材層2の上面へ撥油性樹脂を含有した樹脂オーバレイ層5(3~10μm)を積層した。積層条件は次の通りである。
(1) 混合方法
溶剤1:NMP
溶剤2:キシレン
(2) 塗布方法 予熱温度(80~100℃)でスプレーにて塗布
(3) 乾燥条件 炉内で乾燥(140~180℃)、5分程度
【0029】
得られた実施例及び比較例の摺動部材について下記の条件で、室温環境において、フリクション試験を行った。
項目 条件 単位
軸受寸法 Φ56×L15×t1.5 mm
回転数 2000 rpm
荷重 5 Kgf
潤滑油 VG22 -
軸材質 S55C -
時間 1 時間
面積比S及び標準偏差sは、樹脂オーバレイ層の断面を画像処理することにより演算した。
撮影装置には電子線マイクロアナライザー JXA-8530Fを使用した。
撥油性樹脂等の面積の演算及びボロノイ多角形の面積並びに標準偏差sの特定は標準的な画像処理ソフト(WinROOF2021)を用いた。
【0030】
実施例1~3及び比較例1~6の配合及び測定結果を表1に示す。
【表1】

実施例及び比較例のPAI(ポリアミドイミド)にはソルベイ社製の製品を用いた。実施例及び比較例のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)には三井・ケマーズフロロプロダクツ社製の製品を用いた。この撥油性樹脂の粒径は1μm以下であった。またそのアスペクト比は1.0~1.4であった。実施例4のシリコーン樹脂には信越シリコーン社製の製品を用いた。この撥油性樹脂の粒径は1μm以下であった。またそのアスペクト比は1.0~1.4であった。
表1の実施例及び比較例のフリクションの値より、式(1)で規定されるUの値を1未満とすることが好ましいことがわかる。
ここに、全配合に占める添加物の配合量(2+3/1+2+3)は30vol%以上とすることが好ましいことがわかる。
また、添加物に占める撥油性樹脂(PTFE又はシリコーン樹脂)の配合量(2/2+3)を20vol%以上とすることが好ましいことがわかる。
【0031】
次に、式(1)のU<1の条件において、樹脂オーバレイ層の摺動面の粗さとフリクションの値との関係を表2に示す。
【表2】

表2において、撥油性樹脂(PTEF)の粒径は1μm以下であった。またそのアスペクト比は1.0~1.4であった。
表2の結果より、樹脂オーバレイ層の摺動面におけるRp(最大山高さ)とRv(最大谷高さ)の比はRp/Rv=0.7~1.8とすることが好ましいことがわかる。更に好ましくはRp/Rv=0.8~1.6である。
ここに、Rp及びRvはJIS B 0601の規格による。表面の測定はSurfcorder SE3500を用いた。
表面粗さの調整はブラスト処理により行った。
【0032】
樹脂オーバレイ層の摺動面に対して次の様にして滴下試験を行った。
室温環境にて、マイクロシリンジを用いて、静置された摺動部材の樹脂オーバレイ層の摺動面にマイクロシリンジの針を接触させるか、僅かに離隔した状態として、10μLの油(具体名:ホンダULTRA NEXT)を滴下する。
摺動部材の静置状態を維持したまま、滴下後2秒後の摺動面の状態をその垂直上方から撮影する。得られた画像を処理して油の面積を得る。得られた面積と同じ面積の円の直径(広がり値)を演算する。
画像の撮影はマイクロスコープ VHX-6000を用いた。画像処理による面積算出には標準的な画像処理ソフト(マイクロスコープ VHX-6000)を用いた。
実施例及び比較例の滴下試験の結果を表3に示す。
【0033】
【表3】

表3の結果から、油滴の広がりの径を10.0mm以下とすることが好ましいことがわかる。
【0034】
この発明は、上記発明の実施形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本発明の摺動部材を用いた内燃機関等の軸受機構使用装置は、優れた摺動特性を発揮する。
【符号の説明】
【0035】
1 摺動部材
2 基材層
3 裏金層
4 軸受合金層
5 樹脂オーバレイ層
図1
【手続補正書】
【提出日】2023-05-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
添加物を含む樹脂オーバレイ層を備えた摺動部材であって、
前記添加物はフッ素樹脂及び/又はケイ素樹脂からなる撥油性樹脂を含み、
前記撥油性樹脂が前記樹脂オーバレイ層の摺動面において下記の条件で
U=s/(S*0.2)≦1、ただし 6%≦S≦30%
ここにsはボロノイ多角形の面積の標準偏差であり、
Sは前記撥油性樹脂が表出する面積率である、
分散されている、摺動部材。
【請求項2】
該撥油性樹脂の粒径が1.0μm以下であり、かつそのアスペクト比が1.0~1.4である、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記添加物の配合量が、前記樹脂オーバレイ層において30vol%以上である、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項4】
前記撥油性樹脂の量は、前記樹脂オーバレイ層に含まれる添加物において、20%vol以上である、請求項3に記載の摺動部材。
【請求項5】
前記樹脂オーバレイ層の摺動面におけるRp(最大山高さ)とRv(最大谷高さ)の比はRp/Rv=0.7~1.8である、請求項1~4の何れかに記載の摺動部材。
【請求項6】
添加物を含む樹脂オーバレイ層を備えた摺動部材であって、
前記添加物は撥油性樹脂を含み、
該樹脂オーバレイ層が下記の条件の撥油性を備える摺動部材、
前記樹脂オーバレイ層に10μLの油滴を滴下し、その2秒後において、該油滴の広がりの径が10.0mm以下である。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
添加物の配合量は樹脂オーバレイ層において30vol%以上とすることが好ましい。
ここに、添加物の配合量は樹脂オーバレイ層の製造時の原料の体積比で規定できるものであるが、既述のように、樹脂オーバレイ層の断面の画像において樹脂オーバレイ層に占める添加物の面積比率をもって、当該配合量とすることもできる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0031
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0031】
次に、式(1)のU<1の条件において、樹脂オーバレイ層の摺動面の粗さとフリクションの値との関係を表2に示す。
【表2】

表2において、撥油性樹脂(PTFE)の粒径は1μm以下であった。またそのアスペクト比は1.0~1.4であった。
表2の結果より、樹脂オーバレイ層の摺動面におけるRp(最大山高さ)とRv(最大谷高さ)の比はRp/Rv=0.7~1.8とすることが好ましいことがわかる。更に好ましくはRp/Rv=0.8~1.6である。
ここに、Rp及びRvはJIS B 0601の規格による。表面の測定はSurfcorder SE3500を用いた。
表面粗さの調整はブラスト処理により行った。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0033
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0033】
【表3】
表3の結果から、油滴の広がりの系を10.0mm以下とすることが好ましいことがわかる。