(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153103
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】難燃性バイオマス製品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 21/12 20060101AFI20231010BHJP
C09K 21/02 20060101ALI20231010BHJP
C09K 21/14 20060101ALI20231010BHJP
C09K 21/10 20060101ALI20231010BHJP
B27K 3/52 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
C09K21/12
C09K21/02
C09K21/14
C09K21/10
B27K3/52 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060262
(22)【出願日】2023-04-03
(31)【優先権主張番号】P 2022062440
(32)【優先日】2022-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】716001577
【氏名又は名称】オイケム合同会社
(71)【出願人】
【識別番号】000214272
【氏名又は名称】長瀬産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390014856
【氏名又は名称】日本乳化剤株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】戸田 和正
(72)【発明者】
【氏名】山崎 昌男
(72)【発明者】
【氏名】森井 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】柴▲崎▼ 宏太
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 健太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 絢子
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 雄太
【テーマコード(参考)】
2B230
4H028
【Fターム(参考)】
2B230AA07
2B230BA05
2B230BA06
2B230CA19
2B230CB10
2B230EB02
2B230EB03
4H028AA01
4H028AA05
4H028AA35
4H028AA38
4H028AA49
4H028AB01
4H028BA02
(57)【要約】
【課題】充分に難燃化されたバイオマス製品、さらには不燃化されたバイオマス製品、およびそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】バイオマス、前記バイオマスの表面にイオン液体を含む難燃化剤の染込層、および、前記染込層上にトップ層を有する難燃性バイオマス製品に関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス、前記バイオマスの表面にイオン液体を含む難燃化剤の染込層、および、前記染込層上にトップ層を有する難燃性バイオマス製品。
【請求項2】
バイオマスが、木材または木材由来のものである請求項1に記載の難燃性バイオマス製品。
【請求項3】
前記染込層中のイオン液体がイミダゾリウムカチオンまたは環状アミジニウムカチオンと、リン酸アニオンまたはリン酸エステルアニオンからなる請求項1または2に記載の難燃性バイオマス製品。
【請求項4】
前記トップ層が、無機充填材含有シリコーン系樹脂の硬化物層である請求項1または2に記載の難燃性バイオマス製品。
【請求項5】
前記トップ層が、無機繊維シートを有する請求項1または2に記載の難燃性バイオマス製品。
【請求項6】
さらに、前記染込層と前記トップ層の間に断熱層を有する請求項1または2に記載の難燃性バイオマス製品。
【請求項7】
前記断熱層が、アルカリ金属珪酸塩の硬化物層である請求項6に記載の難燃性バイオマス製品。
【請求項8】
バイオマスの表面を、イオン液体を含む難燃化剤で処理し、染込層を形成する工程、および、
前記染込層上に、無機充填材を含有するシリコーン系樹脂組成物を塗布し、トップ層を形成する工程
を含む難燃性バイオマス製品の製造方法。
【請求項9】
さらに、染込層の形成工程の後に、染込層上にアルカリ金属珪酸塩を含む組成物を塗布し、断熱層を形成する工程を含む請求項8に記載の難燃性バイオマス製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性バイオマス製品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスを不燃化する不燃化剤としては、珪酸ナトリウムを使用する方法、リン化合物を使用する方法など、様々なものが知られている。特許文献1には、イオン液体を含むバイオマス難燃化剤が開示されている。イオン液体としては、イミダゾリウムをカチオンとし、ハロゲンアニオン、テトラフルオロボレートアニオン、ヘキサフルオロホスフェイトアニオン、トリフルオロメタンスルホニルアニオン、トリフルオロメタンスルホニルイミドアニオンをアニオンとしたイオン液体が開示されている。また、非特許文献1には、イミダゾリウムをカチオンとし、リン酸エステルアニオンをアニオンとしたイオン液体が開示されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1や非特許文献1に開示されたイオン液体によって、バイオマスの難燃化は可能であるものの、特に800℃付近の高温域での難燃化のレベルは充分ではなく、不燃化を達成することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Motoi YOKOKAWA et al,Journal of the Society of Materials Science,Japan,Vol.68,No.9,pp.712-717,Sep.2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、充分に難燃化されたバイオマス製品、さらには不燃化されたバイオマス製品、およびそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、バイオマスの難燃化について種々検討した結果、難燃化が充分ではない理由は、イオン液体がバイオマスを溶融して生成する不燃化チャーの粘度が高温下で低く、自身の重みで保護すべき面から剥離・脱落して防火性能が低下し、また、木の節目などの影響により前述の不燃化チャーを均一に生成出来ないことが原因であることがわかった。そして、バイオマスの表面に、イオン液体を含む難燃化剤を染み込ませた後に、前記染込層上にトップ層を形成すれば、前記課題を解決でき、バイオマスを難燃化、さらには不燃化も可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、 本発明(1)はバイオマス、前記バイオマスの表面にイオン液体を含む難燃化剤の染込層、および、前記染込層上にトップ層を有する難燃性バイオマス製品である。
【0009】
本発明(2)はバイオマスが、木材または木材由来のものである本発明(1)に記載の難燃性バイオマス製品である。
【0010】
本発明(3)は前記染込層中のイオン液体がイミダゾリウムカチオンまたは環状アミジニウムカチオンと、リン酸アニオンまたはリン酸エステルアニオンからなる本発明(1)または(2)に記載の難燃性バイオマス製品である。
【0011】
本発明(4)は前記トップ層が、無機充填材含有シリコーン系樹脂の硬化物層である本発明(1)~(3)のいずれかに記載の難燃性バイオマス製品である。
【0012】
本発明(5)は前記トップ層が、無機繊維シートを有する本発明(1)~(4)のいずれかに記載の難燃性バイオマス製品である。
【0013】
本発明(6)はさらに、前記染込層と前記トップ層の間に断熱層を有する本発明(1)~(5)のいずれかに記載の難燃性バイオマス製品である。
【0014】
本発明(7)は前記断熱層が、アルカリ金属珪酸塩の硬化物層である本発明(6)に記載の難燃性バイオマス製品である。
【0015】
本発明(8)はバイオマスの表面を、イオン液体を含む難燃化剤で処理し、染込層を形成する工程、および、
前記染込層上に、無機充填材を含有するシリコーン系樹脂組成物を塗布し、トップ層を形成する工程
を含む難燃性バイオマス製品の製造方法である。
【0016】
本発明(9)はさらに、染込層の形成工程の後に、染込層上にアルカリ金属珪酸塩を含む組成物を塗布し、断熱層を形成する工程を含む本発明(8)に記載の難燃性バイオマス製品の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、イオン液体の染込層上に耐火性の十分な機械的強度を有するトップ層を設けることで、染込層にて生成される不燃化チャーをバイオマス受熱面に均一に分散させることができる。同時に、高温の受熱により低粘度化した前記不燃化チャーが剥離・脱落を抑制し厚みを保持することで高温域での防火性能が向上する。その結果、本発明のバイオマス製品は、高い難燃化を有しており、不燃化も可能である。よって、難燃性が要求される様々な用途に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1で作製したバイオマス製品について、コーンカロリーメータ試験を行い、燃焼時間に対して発熱速度と総発熱量をプロットした図である。
【
図2】比較例4で作製したバイオマス製品について、コーンカロリーメータ試験を行い、燃焼時間に対して発熱速度と総発熱量をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の難燃性バイオマス製品は、バイオマス、前記バイオマスの表面にイオン液体を含む難燃化剤の染込層、および、前記染込層上にトップ層を有することを特徴とする。ここで、イオン液体とは、カチオンとアニオンの塩であって、常温で液体状態であるものをいう。イオン液体の融点は、100℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましく、-20℃以下がさらに好ましい。また、凝固点は0℃以下が好ましく、-10℃以下がより好ましい。
【0020】
本発明の難燃性バイオマス製品では、難燃化だけでなく、不燃化も実現可能である。そのメカニズムは以下のように考えられる。特に、不燃化チャーの生成が重要である。
(1)火炎により木材の温度が 上昇する。
(2)200℃近辺の温度になると、イオン液体のカチオンの作用により、木材成分中のセルロース、ヘミセルロース、リグニン等の水素結合を切断し分解する。
(3)アニオンに含まれるリン酸と水素結合が切断されたセルロース等が化合して高分子リン酸化合物を生成し、木材表面に不燃化チャーを生成する。
(4)300℃を超えた温度に到達すると、イオン液体のカチオンが熱分解し、窒素や二酸化炭素のガスを発生し、火炎に対し消炎効果を発揮する。
(5)発生したガスの一部が不燃化チャーに取り込まれ、樹脂に「発泡」が生じ、木材の昇温を緩和する断熱効果をもたらす。
【0021】
本明細書において、難燃化剤としては、「ガス有害性試験不要材料を定める件(平成28年国土交通省告示第785号)」に規定するガス有害性試験不要材料において、4.11.1発熱性試験方法又は4.11.2ガス有害性試験方法により行い、該規格を満足するものが好ましい。また、不燃化剤としては、「ガス有害性試験不要材料を定める件(平成28年国土交通省告示第785号)」に規定するガス有害性試験不要材料において、4.9.1不燃性試験方法又は4.9.2発熱性試験方法により行い、該規格を満足するものが好ましい。より具体的には、以下の3つの要件を所定時間満足する必要がある。所定時間は、不燃性試験では20分、準不燃性試験では10分、難燃性試験では5分である。
1)燃焼しないものであること
2)防火上有害な変形、溶融、亀裂その他の損傷を生じないものであること
3)避難上有害な煙またはガスを発生しないものであること
【0022】
炉内温度が最終平衡温度からの上昇温度は、前記所定時間加熱後、20℃以下が好ましく、10℃以下がより好ましい。
【0023】
ISO5660に基づくコーンカロリーメータ試験により20分間での総発熱量は、8MJ/m2以下が好ましく、6MJ/m2以下がより好ましく、5MJ/m2以下がさらに好ましい。
【0024】
発熱速度は10秒以上継続して200kw/m2以下が好ましく、150kw/m2以下がより好ましい。また、20分間の燃焼試験において、発熱速度が200KW/m2を超える秒数は3秒以下が好ましく、1秒以下がより好ましい。
【0025】
[染込層]
カチオンとしては、特に限定されないが、イミダゾリウムカチオン、環状アミジニウムカチオン、ピリジニウムカチオンなどが挙げられる。なかでも、難燃化効果の点で、イミダゾリウムカチオン、環状アミジニウムカチオンが好ましい。
【0026】
イミダゾリウムカチオンとしては、たとえば1-メチルイミダゾリウムカチオン、1-エチルイミダゾリウムカチオン、1-n-プロピルイミダゾリウムカチオン、1,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、1,2,3-トリメチルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリウムカチオン、1,3-ジエチルイミダゾリウムカチオン、1-メチル-3-n-プロピルイミダゾリウムカチオン、2-エチル-1,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、1,3-ジメチル-n-プロピルイミダゾリウムカチオン、1,3,4-トリメチルイミダゾリウムカチオン、2-エチル-1,3,4-トリメチルイミダゾリウムカチオン、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-メチル-3-n-オクチルイミダゾリウムカチオンなどが挙げられる。
【0027】
環状アミジニウムカチオンとしては、たとえばジアザビシクロウンデセニウムイオン(1,8-diazabicyclo[5.4.0]undec-7-eneの1位の窒素原子がプロトン化された第四級アンモニウムカチオン)、ジアザビシクロノネニウムイオン(1,5-diazabicyclo[4.3.0]non-5-eneの1位の窒素原子がプロトン化された第四級アンモニウムカチオン)などが挙げられる。
【0028】
ピリジニウムカチオンとしては、たとえばピリジニウムイオン、1-n-エチル-3-メチルピリジニウムイオン、2-イソブチルピリジニウムイオン、3-イソブチルピリジニウムイオン、3-メチルピリジニウムイオン、4-メチルピリジニウムイオン、2-エチルピリジニウムイオン、3-エチルピリジニウムイオン、4-エチルピリジニウムイオン、4-プロピルピリジニウムイオン、2-n-ヘキシルピリジニウムイオン、3-n-ヘキシルピリジニウムイオン、3,5-ジメチルピリジニウムイオン、3,5-ジエチルピリジニウムイオン、2,6-ジ-tert-ブチルピリジニウムイオン、2-ビニルピリジニウムイオン、4-ビニルピリジニウムイオン、3-ヒドロキシメチルピリジニウムイオン、4-ヒドロキシメチルピリジニウムイオン、2-(2-ヒドロキシエチル)ピリジニウムイオン、2-エテニルピリジニウムイオン、2-エチニルピリジニウムイオン、2-メチル-5-エチルピリジニウムイオン、4-エチル-2-メチルピリジニウムイオン、5-ブチル-2-メチルピリジニウムイオン、2-エチル-6-イソプロピルピリジニウムイオン、3-エチル-4-メチルピリジニウムイオン、2-メチル-5-ビニルピリジニウムイオン、2-メチル-3-エチルピリジニウムイオン、2-メチル-5-(イソ)プロピルピリジニウムイオン、2,6-ビス(ヒドロキシメチル)ピリジニウムイオンなどが挙げられる。
【0029】
アニオンとしては、特に限定されないが、リン酸アニオン、リン酸エステルアニオン、ホウ酸アニオン、ホウ酸エステルアニオンなどが挙げられる。なかでも、リン酸アニオン、リン酸エステルアニオンが好ましい。
【0030】
リン酸エステルアニオンは、(RO)PO3
2-もしくは(RO)2PO2
-という化学式で表される。ここで、Rはアルキル基であり、(RO)2PO2
-のアルキル基は同一でも異なっていても良く、アルキル基の炭素数は1~10が好ましく、1~5がより好ましい。また、(RO)2PO2
-が好ましく、たとえばジメチルリン酸アニオン、ジエチルリン酸アニオン、ジプロピルリン酸アニオンが挙げられる。
【0031】
染込層を形成するための難燃化剤は、特に限定されずに溶媒、公知の各種添加剤などを配合することができる。溶媒としては、水、アルコールなどが挙げられる。溶媒に溶解させる場合、イオン液体の濃度は、50~99質量%が好ましく、80~98質量%がより好ましい。
【0032】
バイオマスとしては、木材または木材由来の易燃性のものが挙げられる。バイオマスの形態としては、木材そのもののほか、ベニア板、集積材、パルプ、紙、段ボール、布、繊維などが挙げられる。バイオマスは、そのままバイオマス難燃化剤での処理に使用することができるが、事前に、乾燥や、アルコール、ベンゼンなどによるソックスレー抽出などの前処理を行っても良い。
【0033】
染込層の厚さは、使用するバイオマスの材質にも依存するが、0.1~15mmが好ましく、1~10mmがより好ましく、2~10mmがさらに好ましい。0.1mm未満では、難燃化効果が小さくなり、15mmを超えても、さらなる難燃化の向上効果は見られず、コストが増大する傾向がある。
【0034】
イオン液体染込量は1~70%が好ましく、10~60%がより好ましい。ここで、イオン液体染込量は、重量増加率(%)(WPG:Weight Percent Gain)を用い、下記式で算出することができる、
WPG=(Wb-Wa)/Wax100
Wa:イオン液体処理前の試料の重量(g)
Wb:イオン液体処理後の試料の重量(g)
【0035】
[トップ層]
トップ層は、不燃性、耐候性、耐水性、被膜強度という機能を有する層で、不燃化チャーの剥離・脱落防止と均一化、及び雨によるイオン液体の溶出や紫外線変性等を防止する。トップ層は、トップ層を形成する組成物を塗布することにより形成することができる。該組成物は、たとえば硬化成分、無機充填材、硬化触媒、酸化防止剤などを含有することが好ましい。
【0036】
硬化成分としては、たとえばシリコーン系樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、イソシアネート化合物などが挙げられる。なかでもシリコーン樹脂、イソシアネート化合物が好ましい。シリコーン樹脂は、芳香族基を有するシリコーン樹脂と、芳香族基を含まないシリコーン樹脂の混合物が好ましい。芳香族基を有するシリコーン樹脂の含有量は、芳香族基を有するシリコーン樹脂と、芳香族基を含まないシリコーン樹脂の混合物100質量%中、30~90質量%が好ましく、40~80質量%がより好ましい。
【0037】
無機充填材としては、たとえばシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカアルミナ、六方晶窒化ホウ素、ガラス粉などが挙げられる。無機充填材の形状に限定は無く、球状粒子、無定型粒子、板状(鱗片状) 粒子のいずれでもよい。無機充填材の含有量は、シリコーン系樹脂100質量部に対して5~100質量部が好ましく、20~70質量部がより好ましい。
【0038】
トップ層の厚さは、0.002~4mmが好ましく、0.005~1mmがより好ましい。なお、透明性を高める観点からは、0.02mm以下、より好ましくは0.01mm以下である。0.002mm未満では、欠陥を抑制できなくなる傾向がある。
【0039】
単位表面積あたりのトップ層の乾燥重量は、透明性を高める観点から20g/m2以下、より好ましくは10g/m2以下とすることが好適であり、欠陥を抑制する観点から2g/m2以上とすることが好適であり、5g/m2以上とすることがより好適である。
【0040】
[断熱層]
本発明の難燃性バイオマス製品は、前記染込層と前記トップ層の間に断熱層を有することが好ましい。断熱層は、バイオマスの温度上昇を防ぎ、可燃性ガス化を防止するという機能を有する層である。断熱層は、アルカリ金属珪酸塩を含む組成物を塗布することにより形成することができる。
【0041】
アルカリ金属珪酸塩は、M2O・nSiO2を主成分とする。ここで、M は、Na、K、Li、または、これらの組合せである。nは、M2Oのモル数に対するSiO2のモル数を示すモル比であり、2.0~3.8である。また、nは、好ましくは2.0~3.3とすることができる。なかでも、MがNaである、すなわち、珪酸ナトリウムを主成分とすることが好適である。
【0042】
アルカリ金属珪酸塩におけるM2O・nSiO2の濃度は50質量%を超え、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上とすることができる。アルカリ金属珪酸塩層は、リン酸塩、ホウ酸塩などを含んでもよい。
【0043】
アルカリ金属珪酸塩は水溶液として使用することが好ましい。該水溶液としては、JIS K1408に規定された、水ガラス1号~3号を好適に利用できる。また、水ガラス1号から3号ではnは2.0~3.3であるが、nが2.0~3.8の水ガラスも好適に利用できる。
【0044】
断熱層の厚さは、0.01~4mmが好ましく、0.03~0.9mmがより好ましく、0.09~0.6mmがさらに好ましく、0.15~0.45mmが特に好ましい。0.01mm未満では、防火性能が充分ではなく、4mmを超えると、透明性及び作業性が低下する傾向にある。
【0045】
断熱層の単位面積あたりの乾燥重量は、防火性能付与の観点から、60g/m2以上、好ましくは180g/m2以上、より好ましくは300g/m2以上とすることができる。また、透明性及び施工性の観点から1800g/m2以下、好ましくは1200g/m2以下、より好ましくは900g/m2以下とすることができる。
【0046】
断熱層は、無機繊維シートを有することが好ましい。無機繊維シートは、機械的強度を付与するという機能を有する層である。無機繊維シートにおける無機繊維としては、たとえばガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維などのセラミック繊維や金属繊維等が挙げられる。形状は、短繊維状、織布や不織布等が挙げられる。無機繊維シートの厚みは、3~200μmが好ましい。
【0047】
本発明の難燃性バイオマス製品は、柱、梁、床、壁、屋根材等の建築物の構造体、天井材、内壁材、外装材、階段、建具等の建築物の仕上げ材料、自動車、鉄道、船舶等の内装材料、家具の材料などとして利用できる。
【0048】
本発明の難燃性バイオマス製品の製造方法は、バイオマスの表面を、イオン液体を含む難燃化剤で処理し、染込層を形成する工程、および、前記染込層上に、無機充填材を含有するシリコーン系樹脂組成物を塗布し、トップ層を形成する工程を含むことを特徴とする。
【0049】
難燃化剤で処理する方法としては、塗布、含浸などが挙げられる。塗布方法は特に限定されず、刷毛、ローラー刷毛、スプレー等を利用できる。イオン液体の処理量は、バイオマスが木材である場合、表面から2mm以上浸透していることが好ましく5mm以上がより好ましい。
【0050】
難燃化剤で含浸させる場合、常温常圧下または加熱減圧下で含浸させることができる。加熱温度は、10~90℃が好ましく、30~80℃がより好ましい。圧力は、0.13kPa~常圧が好ましく、1~10kPaがより好ましい。含浸時の保持時間は、10~360分が好ましく、30~90分がより好ましい。
【0051】
染込層の形成工程の後に、染込層上にアルカリ金属珪酸塩を含む組成物を塗布し、断熱層を形成する工程を含むことが好ましい。
【実施例0052】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0053】
製造例(シリコーン樹脂組成物の作製)
メチル・フェニル系低分子シリコーン(ダウ・東レ株式会社製DC3037)42質量%、メチル・フェニル系低分子シリコーン(ダウ・東レ株式会社製DC3074)26質量%、メチル系低分子シリコーン(ダウ・東レ株式会社製SR2402)32質量%を混合し、40℃で6時間養生させた。得られたシリコーン樹脂100質量部に対し、酸化チタン(粒度5μm以下)100質量部を分散混合した。その後、シリコーン樹脂100質量部に対して、硬化剤(テトラ-n-ブトキシチタン、日本曹達株式会社製TBT)2質量部を混合して、シリコーン樹脂組成物を作製した。
【0054】
実施例1
[染込層]
バイオマスとして、スギの木板(形状:100mmX100mm、厚さ:15~20mm)を使用し、イオン液体として、[Emim][DEP](1-エチル-3-メチルイミダゾリウムジエチルリン酸100%、融点:約20℃、凝固点:-30℃)を使用した。デシケータ又はフラスコ中で、木片を[Emim][DEP]液中に浸漬した。温度60℃、圧力4kPa(30mmHg)で保持時間90分にて含浸させた。所定時間経過後、木片を取出し、常温常圧で24時間乾燥の後その重量を測定し、イオン液体処理後重量とした。その際の重量増加率WPGは42.6%であった。染込層の厚さは、約5mmであった。
【0055】
[断熱層]
水ガラス2号を1700g/m2を塗布した後、乾燥(室温1日)し、断熱層を形成した。断熱層の厚さは、0.5mmであった。
【0056】
[トップ層]
断熱層の上に、ガラス繊維不織布シート(セントラルグラスファイバー サーフェイスマットFC-30S、単位重量:30g/m2、厚み:0.13mm)を被せた。製造例で作製したシリコーン樹脂組成物を、約400g/m2となるように塗布した後、乾燥(室温1日)し、トップ層を形成した。トップ層の厚さは、0.15mmであった。
【0057】
実施例2~3、比較例1~4
表1に示す層構成となるように、実施例1にしたがって各構成層を形成し、各実施例および比較例のバイオマス製品を作製した。
【0058】
実施例4
[染込層]
実施例1の木片に、イオン液体[Emim][DEP]濃度100%を344g/m2塗布し、染み込ませることで染込層を形成した。染込層の厚さは、約2mmであった。重量増加率WPGは15%であった。染込層の上に、実施例1と同様にトップ層を形成してバイオマス製品を作製した。
【0059】
各実施例および比較例で作製したバイオマス製品を用いて、以下の評価を行った。その結果を、表1に示す。
【0060】
<燃焼試験(予備バーナー試験)>
実施例1~4および比較例1~4で作製したバイオマス製品に、トップ層側からバーナーで(バーナー温度813℃)で5分、10分、20分間燃焼させた。防火上有害な裏面まで貫通する亀裂及び穴の有無と、引火現象の有無を目視で観察した。また、燃焼試験前後の質量を測定し、以下の式を用いて質量残存率を算出した。
質量残存率(%)=燃焼後重量/燃焼前重量×100
【0061】
燃焼試験結果の判定は以下の基準で行った。
◎:不燃であって、不燃チャーの脱落・剥離、亀裂が微小
〇:不燃であるが、不燃チャーの脱落・剥離、亀裂有
×:準不燃以下
【0062】
【0063】
比較例1の乾燥木片、比較例2の繊維シートとトップ層を形成したバイオマス製品では、燃焼し焼損した。比較例3の染込層のみを形成したバイオマス製品では、不燃化チャーの粘度が低く、木の接炎部から剥離・脱落し均一な被膜状の不燃化チャーを形成できず、亀裂や穴等のダメージを受けていた。比較例4のバイオマス製品では、高温受熱部での昇温・ガス化を抑えきれず燃焼し焼損した。
【0064】
実施例3の染込層とトップ層を形成したバイオマス製品では、染込層から生じた不燃化チャーの剥離・脱落を防止し、接炎部に均一な被膜を形成して、防火性能が向上した。さらに、トップ層と繊維シートを設けた実施例2のバイオマス製品では、被膜強度が上がり、より確実に不燃化チャーを接炎部に定着することができた。燃焼試験の質量残存率70%は、「不燃化」のレベルに相当する。
【0065】
染込層を塗布した実施例4では、染込層を含侵させた実施例3よりも、燃焼試験による質量残存率は多少低くなるものの、難燃性の効果が確認できた。
【0066】
実施例5~7
実施例1において、[Emim][DEP]の代わりに、[Empy][DEP](1-エチル-3-メチルピリジニウムジエチルリン酸100%)、[EDBU][DEP](1-エチル-2,3,4,6,7,8,9,10-オクタヒドロピリミド[1,2-α]アゼピニウムジエチルリン酸100%)、[Emim][DMP](1-エチル-3-メチルイミダゾリウムジメチルリン酸100%)を使用して実施例5~7のバイオマス製品を作製した。
【0067】
実施例1、5~7および比較例1で作製したバイオマス製品を用いて、以下の評価を行った。その結果を、表2に示す。
【0068】
<燃焼試験(コーンカロリーメータ試験)>
各実施例および比較例で作製したバイオマス製品について、ISO5660に基づくコーンカロリーメータ試験を行った。20分間の試験における総発熱量(MJ/m2)と、発熱速度(KW/m2)が200を超える秒数、および裏面まで到達するダメージの有無を確認した。
【0069】
【0070】
比較例4のバイオマス製品では総発熱量が11.8MJ/m2であり、不燃化レベルは準不燃であった。一方、実施例1のバイオマス製品では総発熱量が5.5MJ/m2であり、不燃化レベルは不燃であった。実施例5~7のバイオマス製品でも実施例1と同様の結果となり、[Empy][DEP]、[EDBU][DEP]、[Emim][DMP]でも[Emim][DEP]と同様の効果があった。染込層としてのイオン液体の効果が予備バーナー試験からだけでなく、コーンカロリーメータ試験からも明らかになった。
【0071】
なお、イオン液体として、2,3,4,6,7,8,9,10-オクタヒドロピリミド[1,2-α]アゼピニウム リン酸、2,3,4,6,7,8-ヘキサヒドロピローロ[1,2-α]ピリミジニウム リン酸を使用し、上述した難燃性評価を行った。その結果、いずれのイオン液体を用いた場合であっても、上記と同様の結果が得られることが確認された。