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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153127
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】屋根の補修方法及び屋根の補修構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/03 20060101AFI20231010BHJP
   E04D 5/06 20060101ALI20231010BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20231010BHJP
【FI】
E04G23/03
E04D5/06 B
C09J201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110898
(22)【出願日】2023-07-05
(62)【分割の表示】P 2023045470の分割
【原出願日】2023-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2022062680
(32)【優先日】2022-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000165088
【氏名又は名称】恵和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】江原 正也
(72)【発明者】
【氏名】北里 辰範
(72)【発明者】
【氏名】二宮 晃
【テーマコード(参考)】
2E176
4J040
【Fターム(参考)】
2E176AA23
2E176BB00
4J040DF021
4J040EF001
4J040MA06
4J040NA12
(57)【要約】
【課題】構造物の屋根の表面の補修を容易に、かつ、長期間可能な屋根の補修方法を提供する。
【解決手段】構造物の屋根の表面に補修シートを貼り付ける屋根の補修方法であって、前記補修シートは、前記構造物の屋根の表面側に設けられるポリマーセメント硬化層と、該ポリマーセメント硬化層上に設けられた樹脂層とを備えることを特徴とする屋根の補修方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の屋根の表面に補修シートを貼り付ける屋根の補修方法であって、
前記補修シートは、前記構造物の屋根の表面側に設けられるポリマーセメント硬化層と、該ポリマーセメント硬化層上に設けられた樹脂層とを備えており、
前記補修シートを前記屋根の表面に貼り付ける際に、該屋根のケラバ部において防水処置を前記補修シートに施す工程を有し、
前記防水処置は、前記補修シートを前記屋根のケラバ水切りと前記ケラバ部との間に差し込んで前記ケラバ部の表面に貼り付けた後、前記補修シートと前記ケラバ水切りとの隙間にコーキング剤を充填する処置である
ことを特徴とする屋根の補修方法。
【請求項2】
前記ケラバ水切りの上部にカバー部材を取り付ける請求項1記載の屋根の補修方法。
【請求項3】
前記ポリマーセメント硬化層は、セメント成分及び樹脂を含有する層であって、前記樹脂が10重量%以上、40重量%以下含有されている請求項1又は2記載の屋根の補修方法。
【請求項4】
前記ポリマーセメント硬化層の前記樹脂層側の反対側表面上に接着層を有する請求項1又は2記載の屋根の補修方法。
【請求項5】
前記構造物の屋根の表面に接着剤を塗布した後に前記補修シートを貼り合わせる請求項1又は2記載の屋根の補修方法。
【請求項6】
前記構造物の屋根の表面と前記接着剤との間に下塗り層を設ける、請求項5に記載の屋根の補修方法。
【請求項7】
表面に補修シートが貼り付けられた屋根の補修構造であって、
前記補修シートは、前記構造物の屋根の表面側に設けられるポリマーセメント硬化層と、該ポリマーセメント硬化層上に設けられた樹脂層とを備えており、
前記補修シートは、防水処置が施されて前記屋根のケラバ部に貼り付けられており、
前記防水処置は、前記補修シートを前記屋根のケラバ水切りとケラバ部との間に差し込んで前記ケラバ部の表面に貼り付けた後、前記補修シートと前記ケラバ水切りとの隙間にコーキング剤を充填した処置である
ことを特徴とする屋根の補修構造。
【請求項8】
前記ケラバ水切りの上部にカバー部材が取り付けられている請求項7記載の屋根の補修構造。
【請求項9】
前記ポリマーセメント硬化層は、セメント成分及び樹脂を含有する層であって、前記樹脂が10重量%以上、40重量%以下含有されている請求項7又は8記載の屋根の補修構造。
【請求項10】
前記ポリマーセメント硬化層の前記樹脂層側の反対側表面上に接着層を有する請求項7又は8記載の屋根の補修構造。
【請求項11】
前記構造物の屋根の表面に接着剤を塗布した後に前記補修シートが貼り合わされている請求項7又は8記載の屋根の補修構造。
【請求項12】
前記構造物の屋根の表面と前記接着剤との間に下塗り層が設けられている、請求項11に記載の屋根の補修構造。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅やビル等の構造物の屋根の補修方法及び屋根の補修構造に関する。さらに詳しくは、屋根端部の補修箇所の耐久性が非常に高く補修状態を長期間維持でき雨水の浸水も長期間防止できる屋根の補修方法及び屋根の補修構造に関する。なお、本発明における、屋根の補修方法に関する発明はいわゆる単純方法の発明ではなく屋根の補修構造の生産方法と解釈されるものとする。
【背景技術】
【0002】
一般住宅や商業ビルなどの構造物の屋根は、スレート屋根、金属製の屋根、ガルバリウム鋼板(登録商標)製の屋根、陸屋根(「りくやね」もしくは「ろくやね」)と呼ばれるものを含む、コンクリート製の屋根、アスファルトシングルの屋根、日本瓦の屋根等様々知られているが、長期間風雨に曝されることによる劣化や台風等の災害による破損が生じると雨漏りの原因となることがあった。
構造物の屋根の劣化や破損が生じたときには応急処置あるが、現在構造物の屋根の応急処置としては、例えば、図5に示したように、屋根30の破損個所を被うようにブルーシート31を置き、重りとして複数の土嚢32をブルーシート31の上に配置する方法が一般的である。
また、土嚢32のような重りを用いてブルーシート31を配置する方法以外に、例えば、特許文献1や特許文献2等には、水を入れた袋を用いてブルーシートを固定する方法が提案されている。
【0003】
しかしながら、従来のブルーシート31を用いた屋根の補修では、ブルーシート31のシワを防ぐことは難しく、また、屋根の表面は平坦でないことが通常であるので、ブルーシート31と屋根との間に隙間存在し、この隙間からの水の侵入を防止できないという問題があった。
また、通常、ブルーシートの耐候性は余り高くないため1年ほどで劣化して張り替えをする必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3225057号公報
【特許文献2】実用新案登録第3116572号公報
【特許文献3】国際公開第2021/010456号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなブルーシートを用いた屋根の補修方法に代えて、本発明者らの一部は先に、例えば、特許文献3に記載のようなポリマーセメント層と該ポリマーセメント層上に設けられた樹脂層とを備えた構造物保護シートを用いた屋根の補修方法を開発した。
本発明者らの一部が先に開発した構造物保護シートは、ポリマーセメント層側を屋根の表面側として接着層等を介して貼り付けることで ブルーシートによる補修と比べて構造物の屋根の表面の補修を容易に、かつ、長期間可能とすることができる。
ところで、通常、勾配を有する屋根などの斜めの端部にはケラバ水切りが設けられているが、この屋根の端部の構造物保護シートの貼り付けは、ケラバ水切りを外して屋根の端部付近まで構造物保護シートを貼り付けた後、構造物保護シートの端部を覆うようにケラバ水切りが取り付けられていた。
【0006】
しかしながら、ケラバ水切り下側にも雨水は侵入してくるため該ケラバ水切りの下側に貼り付けられた構造物保護シートの端部が雨水と長期間接することで剥離が生じて隙間が形成され、該隙間に雨水が浸入することがあった。
【0007】
本発明は、このような従来の現状に鑑みてなされたものであり、その目的は、屋根端部の補修箇所の耐久性が非常に高く補修状態を長期間維持でき雨水の浸水も長期間防止できる屋根の補修方法及び屋根の補修構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、構造物の屋根の補修方法について鋭意検討した結果、所定の構成を有する補修シートを用いて屋根の補修を行う際に、屋根の端部のケラバ部において防水処置を施すことで補修シートが剥離して雨水が屋根の表面に浸入することを好適に防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明に係る屋根の補修方法は、構造物の屋根の表面に補修シートを貼り付ける屋根の補修方法であって、上記補修シートは、上記構造物の屋根の表面側に設けられるポリマーセメント硬化層と、該ポリマーセメント硬化層上に設けられた樹脂層とを備えており、上記補修シートを上記屋根の表面に貼り付ける際に、該屋根のケラバ部において防水処置を上記補修シートに施す工程を有することを特徴とする。
【0010】
この発明によると、基材や補強部材を含まない層だけで構成された補修シートを使用するので、構造物の屋根の補修カ所に容易に貼り合わせることができ、屋根の端部のケラバ部において上記補修シートに防水処置を施すため、該補修シートの表面を流れた雨水が上記防水処置部分でせき止められる。その結果、屋根の端部において屋根の表面に貼り付けた補修シートの端部が雨水と直接接することがなく屋根端部の補修箇所の耐久性を非常に高くすることができ、その結果、補修状態を長期間維持でき雨水の侵入も長期間防止できる。
また、上記折り返した部分にケラバ水切りを取り付けることができるため、補修シートの折り返し部分が雨水に曝されることもなく、更に、折り返し部分がケラバ水切りにより隠蔽されるので意匠性にも優れたものにできる。
【0011】
本発明に係る屋根の補修方法において、上記補修シートの防水処置は、上記補修シートを上記ポリマーセメント硬化層側が上記屋根の表面の反対側となるように折り返し、上記補修シートの折り返した部分をケラバ水切りとケラバ部との間に差し込む処置であることが好ましい。
【0012】
この発明によると、補修シートの表面を流れた雨水が上記補修シートの折り返した部分でせき止められ、屋根の端部において屋根の表面に貼り付けた補修シートの端部が雨水と直接接することがなく屋根端部の補修箇所の耐久性を非常に高くすることができ、その結果、補修状態を長期間維持でき雨水の侵入も長期間防止できる。
また、上記補修シートの折り返した部分をケラバ水切りとケラバ部との間に差し込むため補修シートの折り返し部分が雨水に曝されることを確実に防止でき、かつ、折り返し部分をケラバ水切りで覆い隠すことで意匠性にも優れたものとなる。
【0013】
本発明に係る補修方法において、上記防水処置は、上記補修シートを上記屋根のケラバ水切りとケラバ部との間に差し込んで上記ケラバ部の表面に貼り付けた後、上記補修シートと上記ケラバ水切りとの隙間にコーキング剤を充填する処置であることが好ましい。
【0014】
この発明によると、補修シートの表面を流れた雨水が上記コーキング剤でせき止められ、屋根の端部において屋根の表面に貼り付けた補修シートの端部が雨水と直接接することがなく屋根端部の補修箇所の耐久性を非常に高くすることができ、その結果、補修状態を長期間維持でき雨水の侵入も長期間防止できる。
また、上記補修シートの端部をケラバ水切りとケラバ部との間に差し込むため、補修シートの端部が雨水に曝されることを確実に防止でき、かつ、補修シートの端部をケラバ水切りで覆い隠すことで意匠性にも優れたものとなる。
【0015】
本発明に係る屋根の補修方法において、上記防水処置は、上記補修シートを上記ケラバ水切りの幅よりも大きく折り返し、上記補修シートの折り返し部分を上記ケラバ水切りと上記ケラバ部との間に差し込んで上記ケラバ水切りからはみ出した上記補修シートの折り返し部分を上記ケラバ水切りの縁に沿って切断する処置であることが好ましい。
【0016】
この発明によると、補修シートの折り返し部分を確実に形成して雨水がケラバ部の端部に流れ込み補修シートと屋根との接着性低下や水の侵入を確実に防止でき、屋根の端部において屋根の表面に貼り付けた補修シートの端部が雨水と直接接することがなく屋根端部の補修箇所の耐久性を非常に高くすることができ、その結果、補修状態を長期間維持でき雨水の侵入も長期間防止できる。また、ケラバ部の幅に沿って補修シートのはみ出した部分を切断することで意匠性にも優れたものとなる。
【0017】
本発明に係る屋根の補修方法において、上記防水処置は、上記補修シートを上記ケラバ水切りの幅よりも大きく折り返し、上記補修シートの折り返し部分を上記ケラバ水切りと上記ケラバ部との間に差し込み上記ケラバ水切りからはみ出した上記補修シートの折り返し部分を上記ケラバ水切りの縁に沿って更に折り返す処置であることが好ましい。
【0018】
この発明によると、補修シートを流れる雨水がケラバ水切りからはみ出した補修シートの折り返し部分とケラバ水切りとの隙間に浸入することを防止でき、屋根の端部において屋根の表面に貼り付けた補修シートの端部が雨水と直接接することがなく屋根端部の補修箇所の耐久性を非常に高くすることができ、その結果、補修状態を長期間維持でき雨水の侵入も長期間防止できる。
【0019】
本発明に係る補修方法において、上記ケラバ水切りの上部にカバー部材を取り付けることが好ましい。
【0020】
この発明によると、補修シートとケラバ水切りとをカバー部材で覆い隠すことができるため、上記ケラバ水切りと補修シートとの隙間部分が雨水に曝されることを確実に防止でき、意匠性にも優れたものとなる。
【0021】
本発明に係る屋根の補修方法において、上記ポリマーセメント硬化層は、セメント成分及び樹脂を含有する層であって、樹脂が10重量%以上、40重量%以下含有されていてもよい。さらに好ましくは樹脂が20重量%以上、30重量%以下であることが好ましい。
【0022】
この発明によると、セメント成分と樹脂成分との比率を制御することでポリマーセメント硬化層を形成しやすくなると共に、ポリマーセメント硬化層は追従性に優れた相溶性のよい層となりやすいので、層自体の密着性が改善される傾向となる。さらに、構造物の屋根側のポリマーセメント硬化層が含有するセメント成分は屋根との密着性を高めるように作用する。
【0023】
本発明に係る屋根の補修方法において、上記ポリマーセメント硬化層の上記樹脂層側の反対側表面上に接着層を有することが好ましい。
【0024】
この発明によると、予めポリマーセメント硬化層の表面に接着層が形成されているので、作業現場で接着剤を塗布して接着剤層を形成することなく接着層を介した構造物の表面へ構造物保護シートの貼り付けが可能となり、作業効率が極めて優れたものとなる。
【0025】
本発明に係る屋根の補修方法において、上記構造物の屋根の表面に接着剤を塗布した後に上記補修シートを貼り合わせることが望ましい。
【0026】
この発明によると、基材や補強部材を含まない層だけで構成された補修シートを使用するので、構造物の屋根の表面に容易に貼り合わせることができる。その結果、熟練した作業者でなくても構造物の屋根の表面に強度に優れた補修シートを安定して設けることができ、工期を大幅に削減できるとともに、構造物の屋根を長期にわたって保護することができる。
【0027】
本発明に係る屋根の補修方法において、上記構造物の屋根と上記接着剤との間に下塗り層を設けてもよい。
【0028】
この発明によると、構造物の屋根と接着剤との間に設ける下塗り層は、相互の密着を高めるように作用するので、補修シートにより長期間安定して構造物の屋根を保護することができる。
【0029】
本発明に係る屋根の補修構造は、表面に補修シートが貼り付けられた屋根の補修構造であって、上記補修シートは、上記構造物の屋根の表面側に設けられるポリマーセメント硬化層と、該ポリマーセメント硬化層上に設けられた樹脂層とを備えており、上記補修シートは、防水処置が施されて上記屋根のケラバ部に貼り付けられていることを特徴とする。
【0030】
この発明によると、屋根の端部のケラバ部において上記補修シートに防水処置が施されているため、該補修シートの表面を流れた雨水が上記防水処置部分でせき止められる。その結果、屋根の端部において屋根の表面に貼り付けられた補修シートの端部が雨水と直接接することがなく屋根端部の補修箇所の耐久性を非常に高くすることができ、その結果、補修状態を長期間維持でき雨水の侵入も長期間防止できる。
【0031】
本発明に係る屋根の補修構造において、上記補修シートの防水処置は、上記補修シートを上記ポリマーセメント硬化層側が上記屋根の表面の反対側となるように折り返し、上記補修シートの折り返した部分をケラバ水切りとケラバ部との間に差し込む処置であることが好ましい。
【0032】
この発明によると、補修シートの表面を流れた雨水が上記補修シートの折り返した部分でせき止められ、屋根の端部において屋根の表面に貼り付けた補修シートの端部が雨水と直接接することがなく屋根端部の補修箇所の耐久性を非常に高くすることができ、その結果、補修状態を長期間維持でき雨水の侵入も長期間防止できる。
また、上記補修シートの折り返した部分をケラバ水切りとケラバ部との間に差し込むため補修シートの折り返し部分が雨水に曝されることを確実に防止でき、かつ、折り返し部分をケラバ水切りで覆い隠すことで意匠性にも優れたものとなる。
【0033】
本発明に係る屋根の補修構造において、上記防水処置は、上記補修シートを上記屋根のケラバ水切りとケラバ部との間に差し込んで上記ケラバ部の表面に貼り付けた後、上記補修シートと上記ケラバ水切りとの隙間にコーキング剤を充填した処置であることが好ましい。
【0034】
この発明によると、補修シートの表面を流れた雨水が上記コーキング剤でせき止められ、屋根の端部において屋根の表面に貼り付けた補修シートの端部が雨水と直接接することがなく屋根端部の補修箇所の耐久性を非常に高くすることができ、その結果、補修状態を長期間維持でき雨水の侵入も長期間防止できる。
また、上記補修シートの端部をケラバ水切りとケラバ部との間に差し込むため、補修シートの端部が雨水に曝されることを確実に防止でき、かつ、補修シートの端部をケラバ水切りで覆い隠すことで意匠性にも優れたものとなる。
【0035】
本発明に係る屋根の補修構造において、上記防水処置は、上記補修シートを上記ケラバ水切りの幅よりも大きく折り返し、上記補修シートの折り返し部分を上記ケラバ水切りと上記ケラバ部との間に差し込んで上記ケラバ水切りからはみ出した上記補修シートの折り返し部分を上記ケラバ水切りの縁に沿って切断した処置であることが好ましい。
【0036】
この発明によると、補修シートの折り返し部分を確実に形成して雨水がケラバ部の端部に流れ込み補修シートと屋根との接着性低下や水の侵入を確実に防止でき、屋根の端部において屋根の表面に貼り付けた補修シートの端部が雨水と直接接することがなく屋根端部の補修箇所の耐久性を非常に高くすることができ、その結果、補修状態を長期間維持でき雨水の侵入も長期間防止できる。また、ケラバ部の幅に沿って補修シートのはみ出した部分を切断することで意匠性にも優れたものとなる。
【0037】
本発明に係る屋根の補修構造において、上記防水処置は、上記補修シートを上記ケラバ水切りの幅よりも大きく折り返し、上記補修シートの折り返し部分を上記ケラバ水切りと上記ケラバ部分との間に差し込み上記ケラバ水切りからはみ出した上記補修シートの折り返し部分を上記ケラバ水切りの縁に沿って更に折り返した処置であることが好ましい。
【0038】
この発明によると、補修シートを流れる雨水がケラバ水切りからはみ出した補修シートの折り返し部分とケラバ水切りとの隙間に浸入することを防止でき、屋根の端部において屋根の表面に貼り付けた補修シートの端部が雨水と直接接することがなく屋根端部の補修箇所の耐久性を非常に高くすることができ、その結果、補修状態を長期間維持でき雨水の侵入も長期間防止できる。
【0039】
本発明に係る屋根の補修構造において、上記ケラバ水切りの上部にカバー部材が取り付けられていることが好ましい。
【0040】
この発明によると、補修シートとケラバ水切りとをカバー部材で覆い隠すことができるため、上記ケラバ水切りと補修シートとの隙間部分が雨水に曝されることを確実に防止でき、意匠性にも優れたものとなる。
【0041】
本発明に係る屋根の補修構造において、上記ポリマーセメント硬化層は、セメント成分及び樹脂を含有する層であって、樹脂が10重量%以上、40重量%以下含有されていてもよい。さらに好ましくは樹脂が20重量%以上、30重量%以下であることが好ましい。
【0042】
この発明によると、セメント成分と樹脂成分との比率を制御することでポリマーセメント硬化層を形成しやすくなると共に、ポリマーセメント硬化層は追従性に優れた相溶性のよい層となりやすいので、層自体の密着性が改善される傾向となる。さらに、構造物の屋根側のポリマーセメント硬化層が含有するセメント成分は屋根との密着性を高めるように作用する。
【0043】
本発明に係る屋根の補修構造において、上記ポリマーセメント硬化層の上記樹脂層側の反対側表面上に接着層を有することが好ましい。
【0044】
この発明によると、予めポリマーセメント硬化層の表面に接着層が形成されているので、作業現場で接着剤を塗布することなく接着層を介した構造物の表面へ構造物保護シートの貼り付けが可能となり、本発明に係る屋根の補修構造製造時の作業効率が極めて優れたものとなる。
【0045】
本発明に係る屋根の補修構造において、上記構造物の屋根の表面に接着剤を塗布した後に上記補修シートが貼り合わされていることが望ましい。
【0046】
この発明によると、基材や補強部材を含まない層だけで構成された補修シートを使用するので、構造物の屋根の表面に容易に貼り合わせることができる。その結果、熟練した作業者でなくても構造物の屋根の表面に強度に優れた補修シートを安定して設けることができ、工期を大幅に削減できるとともに、構造物の屋根を長期にわたって保護することができる。
【0047】
本発明に係る屋根の補修構造において、上記構造物の屋根の表面と上記接着剤との間に下塗り層が設けられていてもよい。
【0048】
この発明によると、構造物の屋根と接着剤との間に設ける下塗り層は、相互の密着を高めるように作用するので、補修シートにより長期間安定して構造物の屋根を保護することができる。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、構造物の屋根の表面、特にケラバ部の補修を容易に、かつ、長期間可能な補修シートを用いた屋根の補修方法及び屋根の補修構造を提供することができる。特に、補修シートに構造物の屋根の特性に応じた性能を付与し、屋根に生じたひび割れや膨張に追従させること、構造物の屋根に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させないようにすること、構造物の屋根中の水分や劣化因子を排出できる透過性を持たせること、強度を向上させること等を実現した補修シートを用いた屋根の補修方法及び屋根の補修構造を提供することができる。さらに、施工現場において、雨漏れ修理用の塗料にて、手塗りで層を複数積層する方法と比較して品質の安定性、均一性を改善できる利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】(A)、(B)は、本発明に係る屋根の補修方法の説明図である。
図2】(A)~(C)は、本発明に係る屋根のケラバ部の補修方法の説明図である。
図3】(A)、(B)は、本発明に用いる補修シートの一例を示す断面構成図である。
図4】(A)~(C)は、本発明に係る屋根の補修方法の説明図である。
図5】従来の屋根の補修方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明に係る屋根の補修方法について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、その技術的特徴を有する限り各種の変形が可能であり、以下の説明及び図面の形態に限定されない。
【0052】
本発明は、構造物の屋根の表面に補修シートを貼り付ける屋根の補修方法(以下、本発明の補修方法ともいう)である。
図1(A)、(B)は、本発明の屋根の補修方法の説明図であり、図1(A)に示したように、本発明では、屋根10の表面に補修シート1を貼り付けるが、屋根10の表面への補修シート1の貼り付け方法としては、図1(A)に示したように屋根10の表面の一部に貼り付けてもよいし、屋根10の全面に貼り付けてもよく、補修の必要な部分の大きさに合わせて適宜決定すればよい。
以下、各構成要素について説明する。
【0053】
[屋根]
本発明の補修方法における屋根を有する構造物としては、その端部にケラバ部を有するものであれば特に限定されず、一般家屋や、体育館、病院、公共施設等の大型構造物等が挙げられる。
上記構造物の屋根の形状も特に限定されず、切り妻、片流れ、招き屋根、差し掛け屋根、鋸屋根、M型屋根等、ケラバ部を有する屋根であれば任意の形状が挙げられる。
また、上記構造物の屋根としては、具体的には、例えば、スレート屋根、ガルバリウム鋼板(登録商標)製の屋根、トタン屋根(亜鉛メッキ鋼板製屋根)、鉄に塗料を塗布した金属製の屋根、コンクリート製の屋根、アスファルトシングルの屋根、日本瓦の屋根等が挙げられる。
なお、スレートとは、セメント層上に設けられた無機化粧(セメント)層上に無機彩石層を介して無機系塗料が塗布された構成を有し、シンプルな見た目と豊富な色を有し、軽く安価であることから広く一般家屋の屋根材として使用されている。しかし、スレート屋根は、ガルバリウム鋼板(登録商標)製の屋根等と比較して割れやすく耐久性や防水性が他の材料からなる屋根と比較して低く破損等の問題が生じやすいため、特に本発明に係る屋根の補修方法に好適な屋根である。
以下の説明では構造物の屋根のことを「スレート屋根等」ともいう。
なお、上記スレート屋根としては、例えば、図2(A)~(C)に示した屋根10のように野地板13上に防水シート12が積層され、防水シート12上にスレート材11が積層された構造等が挙げられる。なお、スレート材11、防水シート12及び野地板13としては特に限定されず従来公知のものが挙げられる。なお、図2(A)~(C)は、本発明に係る屋根のケラバ部の補修方法の説明図である。
上記構造物の屋根の表面は平坦であってもよく、一般的なスレート屋根等が有する程度の凹凸を有するものであってもよい。なかでも、本発明の補修方法は、特定の構成の補修シート用いて構造物の屋根の補修をするため、該構造物の屋根がスレート屋根等の表面が凹凸を有するものであっても隙間が形成されることがない。
また、構造物の屋根に補修シートを適用することで、構造物の屋根に生じたひび割れや膨張に追従でき、構造物の屋根の内部に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させず、構造物の屋根の中の水分を水蒸気として排出できる、という格別の利点がある。特にスレート屋根や前記した陸屋根においては、雨水を蓄積しやすい素材であるため、水蒸気の排出能は材料の劣化防止に対する効果が大きい。
【0054】
[補修シート]
図3(A)、(B)は、本発明に用いる補修シートの一例を示す断面構成図であり、図3に示すように、本発明に用いる補修シート1は、構造物の屋根に設けられるポリマーセメント硬化層2と、ポリマーセメント硬化層2上に設けられた樹脂層3とを備えている。このポリマーセメント硬化層2と樹脂層3の両層は、それぞれ、単層で形成されてもよいし積層として形成されてもよい。また、求められる性能によっては、ポリマーセメント硬化層2と樹脂層3との間に別の層を設けてもよい。
【0055】
本発明で用いる補修シート1の施工時の形態としては、枚葉状であってもよいし、図1(A)に示したようにロール状であってもよい。図1(A)のようにロール状である場合、必要な長さを引き出してカットすることで、補修が必要な部分に必要大きさの補修シート1を貼り付けることができる。
なお、補修シート1の大きさとしては特に限定されず、従来のブルーシートの代替が可能な大きさに適宜調整できる。
【0056】
本発明で用いる補修シート1は、厚さ分布が±100μm以内であることが好ましい。この補修シート1は、厚さ分布が上記範囲内であることで、熟練した作業者でなくても厚さバラツキの小さい層を構造物の屋根の表面に安定して設けることができる。また、厚さ分布を上記範囲内に制御することによって、構造物の屋根の補強を均一に行いやすくなる。
構造物の屋根側に設けられたポリマーセメント硬化層2は、構造物の屋根との密着性等に優れ、ポリマーセメント硬化層2上に設けられた樹脂層3は、防水性、遮塩性、中性化阻止性等の性質を付与できる。
また、補修シート1は工場の生産ラインでの塗工工程と乾燥工程により量産できるので低コスト化、現場での作業工期の大幅削減、構造物の屋根の長期保護を実現することができる。その結果、構造物の屋根の表面に貼り合わせる際の工期を大幅に削減できるとともに構造物の屋根を長期にわたって保護することができる。
【0057】
以下、補修シート1の各構成要素の具体例について詳しく説明する。
(ポリマーセメント硬化層)
ポリマーセメント硬化層2は、構造物の屋根側に配置される層である。このポリマーセメント硬化層2は、例えば、図3(A)に示すように重ね塗りしない単層であってもよいし、図3(B)に示すように重ね塗りした積層であってもよい。単層とするか積層とするかは、全体厚さ、付与機能(追従性、構造物の屋根への接着性等)、工場の製造ライン、生産コスト等を考慮して任意に設定され、例えば製造ラインが短くて単層では所定の厚さにならない場合は、2層以上重ね塗りして形成することができる。なお、例えば2層の重ね塗りは、1層目の層を乾燥した後に2層目の層を形成する。
また、ポリマーセメント硬化層2は、性質の異なるもの同士が積層された構成であってもよい。例えば、樹脂層3側に樹脂成分の割合をより高めた層とすることで、樹脂成分の高い層が樹脂層と接着し、セメント成分の高い層が電柱と接着することとなり両者に対する接着性が極めて優れたものとなる。
【0058】
ポリマーセメント硬化層2は、セメント成分を含有する樹脂(樹脂成分)を塗料状にした、この塗料を塗工して得られる。
上記セメント成分としては、各種のセメント、酸化カルシウムからなる成分を含む石灰石類、二酸化ケイ素を含む粘度類等を挙げることができる。なかでもセメントが好ましく、例えば、ポルトランドセメント、アルミナセメント、早強セメント、フライアッシュセメント等を挙げることができる。いずれのセメントを選択するかは、ポリマーセメント硬化層2が備えるべき特性に応じて選択され、例えば、電柱への追従性の程度を考慮して選択される。特に、JIS R5210に規定されるポルトランドセメントを好ましく挙げることができる。
【0059】
上記樹脂成分としては、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、柔軟エポキシ樹脂系、ポリブタジエンゴム系、ゴム特性を示すアクリル系樹脂(例えばアクリル酸エステルを主成分に持つ合成ゴム)等を挙げることができる。こうした樹脂成分は、後述の樹脂層3を構成する樹脂成分と同じものであることが、ポリマーセメント硬化層2と樹脂層3との密着性を高める観点から好ましい。
【0060】
上記樹脂成分の含有量としては、使用する材料等に応じて適宜調整されるが、好ましくはセメント成分と樹脂成分との合計に対して10重量%以上、40重量%以下である。10重量%未満であると、樹脂層に対する接着性の低下やポリマーセメント硬化層を層として維持することが難しくなる傾向となることがあり、40重量%を超えると、構造物の屋根に対する接着性が不十分となることがある。上記観点から上記樹脂成分の含有量の好ましい範囲は10重量%以上、40重量%以下であるが、より好ましくは20重量%以上、30重量%以下である。
【0061】
ポリマーセメント硬化層2を形成するための塗料は、セメント成分と樹脂成分とを溶媒で混合した塗工液である。樹脂成分については、エマルションであることが好ましい。例えば、アクリル系エマルションは、アクリル酸エステル等のモノマーを乳化剤を使用して乳化重合したポリマー微粒子であり、一例としては、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの一種以上を含有する単量体又は単量体混合物を、界面活性剤を配合した水中で重合してなるアクリル酸系重合物エマルションを好ましく挙げることができる。
上記アクリル系エマルションを構成するアクリル酸エステル等の含有量は特に限定されないが、20~100質量%の範囲内から選択される。また、界面活性剤も必要に応じた量が配合され量も特に限定されないが、エマルションとなる程度の界面活性剤が配合される。
【0062】
ポリマーセメント硬化層2は、その塗工液を離型シート上に塗布し、その後に溶媒(好ましくは水)を乾燥除去することで形成される。例えば、セメント成分とアクリル系エマルションとの混合組成物を塗工液として使用し、ポリマーセメント硬化層2を形成する。なお、上記離型シート上には、ポリマーセメント硬化層2を形成した後に樹脂層3を形成してもよいが、離型シート上に樹脂層3を形成した後にポリマーセメント硬化層2を形成してもよい。
【0063】
ポリマーセメント硬化層2の厚さは特に限定されないが、構造物の屋根の状態(破損状況)、形状等によって任意に設定される。具体的なポリマーセメント硬化層の厚さとしては、例えば、0.5mm~1.5mmの範囲とすることができる。一例として1mmの厚さとした場合は、その厚さバラツキは、±100μm以内となることが好ましい。こうした精度の厚さは、現場での塗工では到底実現できないものであり、工場の製造ラインで安定して塗工されることにより実現することができる。なお、1mmより厚い場合でも、厚さバラツキを±100μm以内とすることができる。また、1mmよりも薄い場合は、厚さバラツキをさらに小さくすることができる。
【0064】
このポリマーセメント硬化層2は、セメント成分の存在により、後述の樹脂層3に比べて水蒸気が容易に透過する。ポリマーセメント硬化層2の好ましい水蒸気透過率は、例えば20~60g/m・day程度である。さらに、セメント成分は、例えばコンクリートを構成するセメント成分との相溶性がよく、構造物の屋根表面との密着性に優れたものとすることができる。また、図4に示すように、屋根10の表面に下塗り層22と接着剤層23が順に設けられている場合にも、セメント成分を含有するポリマーセメント硬化層2が接着剤層23に密着性よく接着する。また、このポリマーセメント硬化層2は、延伸性があるので、屋根10にひび割れや膨張が生じた場合であっても、構造物の屋根の変化に追従することができる。
【0065】
(樹脂層)
樹脂層3は、図4(C)に示すように、屋根10とは反対側に配置されて、表面に現れる層である。この樹脂層3は、例えば、図3(A)に示すように単層であってもよいし、図3(B)に示すように少なくとも2層からなる積層であってもよい。単層とするか積層とするかは、全体厚さ、付与機能(防水性、遮塩性、中性化阻止性、水蒸気透過性等)、工場の製造ラインの長さ、生産コスト等を考慮に設定され、例えば製造ラインが短くて単層では所定の厚さにならない場合は、2層以上重ね塗りして形成することができる。なお、重ね塗りは、1層目の層を乾燥した後に2層目の層を塗工する。2層目の層は、その後乾燥される。
【0066】
樹脂層3は、柔軟性を有し、構造物の屋根表面に発生したひび割れや亀裂に追従できるとともに防水性、遮塩性、中性化阻止性及び水蒸気透過性に優れた樹脂層を形成できる塗料を塗工して得られる。樹脂層3を構成する樹脂としては、ゴム特性を示すアクリル系樹脂(例えばアクリル酸エステルを主成分に持つ合成ゴム)、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、柔軟エポキシ樹脂、ポリブタジエンゴム等を挙げることができる。この樹脂材料は、前記したポリマーセメント硬化層2を構成する樹脂成分と同じものであること好ましい。特にゴム等の弾性膜形成成分を含有す樹脂であることが好ましい。
【0067】
これらのうち、ゴム特性を示すアクリル系樹脂は、安全性と塗工性に優れている点で、アクリルゴム系共重合体の水性エマルションからなることが好ましい。なお、エマルション中のアクリルゴム系共重合体の割合は例えば30~70質量%である。アクリルゴム系共重合体エマルションは、例えば界面活性剤の存在下で単量体を乳化重合することにより得られる。界面活性剤は、アニオン系、ノニオン系、カチオン系のいずれもが使用できる。
【0068】
樹脂層3を形成するための塗料は、樹脂組成物と溶媒との混合塗工液を作製し、その塗工液を離型シート上に塗布し、その後に溶媒を乾燥除去することで、樹脂層3を形成する。溶媒は、水又は水系溶媒であってもよいし、キシレン・ミネラルスピリット等の有機系溶媒であってもよい。後述の具体例では、水系溶媒を用いており、アクリル系ゴム組成物で樹脂層3を作製している。なお、離型シート上に形成される層の順番は制限されず、例えば、上記のとおり樹脂層3、ポリマーセメント硬化層2の順番であってもよいし、ポリマーセメント硬化層2、樹脂層3の順番であってもよい。もっとも、離型シート上に樹脂層3を形成し、その後にポリマーセメント硬化層2を形成することが好ましい。
【0069】
樹脂層3の厚さは、屋根10の状態(破損状況)、形状等によって任意に設定される。一例としては、50~150μmの範囲内のいずれかの厚さとし、その厚さバラツキは、±50μm以内とすることが好ましい。こうした精度の厚さは、現場での塗工ではとうてい実現できないものであり、工場の製造ラインで安定して実現することができる。
【0070】
この樹脂層3は、高い防水性、遮塩性、中性化阻止性を有するが、水蒸気は透過することが好ましい。樹脂層3の水蒸気透過率としては、例えば、補修シート1の水蒸気透過率が10~50g/m・dayとなるように適宜調整することが望ましい。こうすることにより、補修シート1に高い防水性、遮塩性、中性化阻止性と所定の水蒸気透過性を持たせることができる。さらに、ポリマーセメント硬化層2と同種の樹脂成分で構成されることにより、ポリマーセメント硬化層2との相溶性がよく、密着性に優れたものとすることができる。水蒸気透過性は、JIS Z0208「防湿包装材料の透湿度試験方法」に準拠して測定した。
【0071】
また、樹脂層3は、本発明で用いる補修シート1のカラーバリエーションを豊富にできる観点から顔料を含有していてもよい。
また、樹脂層3は、無機物を含有していてもよい。無機物を含有することで樹脂層3に耐擦傷性を付与することができる。上記無機物としては特に限定されず、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア等の金属酸化物粒子等従来公知の材料が挙げられる。
更に、樹脂層3は、公知の防汚剤を含有していてもよい。本発明で用いられる補修シートは、通常屋外に設置される構造物の屋根の補修に用いられるため、樹脂層3は汚染されることが多いが、防汚剤を含有することで補修シートが汚染されることを好適に防止できる。
また、樹脂層3は様々な機能を付与できる添加剤を含有していてもよい。このような添加剤としては、例えば、セルロールナノファイバー、等が挙げられる。
【0072】
(その他の構成)
作製された補修シート1は、ポリマーセメント硬化層2と樹脂層3との一方の面に離型シートを備えてもよい。離型シートは、例えば、施工現場への移送の際に補修シート1の表面を保護することができ、施工現場では、対象となる屋根10の上(又は下塗り層22又は接着剤層23を介して)離型シートを貼り付けたままの補修シート1を接着し、その後離型シートを剥がすことで、施工現場での作業性が大きく改善される。なお、離型シートは、補修シート1の生産工程で利用する工程紙であってもよいし、ポリエチレンテレフタレートフィルム等の保護フィルムを貼り付けてもよい。
【0073】
離型シートとして使用される工程紙は、製造工程で使用される従来公知のものであれば、その材質等は特に限定されない。例えば、公知の工程紙と同様、ポリロピレンやポリエチレン等のオレフィン樹脂層やシリコンを含有する層を有するラミネート紙等を好ましく挙げることができる。その厚さも特に限定されないが、製造上及び施工上、取り扱いを阻害する厚さでなければ例えば50~500μm程度の任意の厚さとすることができる。
【0074】
以上説明した補修シート1は、屋根10を長期にわたって保護することができる。特に、補修シート1に屋根10の特性に応じた性能を付与し、屋根10に生じたひび割れや膨張に追従させること、屋根10に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させないようにすること、屋根10中の水分や劣化因子を排出できる透過性を持たせることができる。そして、こうした補修シート1は、工場で製造できるので、特性の安定した高品質のものを量産することができる。その結果、職人の技術に寄らずに施工でき、工期の短縮と労務費の削減を実現できる。
更に、樹脂層3の表面に意匠性を付与することもできるので、補修シート1を屋根10に貼り付けることで意匠性も付与することもできる。なお、上記意匠性付与方法としては特に限定されず公知の方法で凹凸形状を設けたり、印刷により意匠を付与したりする方法が挙げられる。
【0075】
本発明に係る屋根の補修方法において、補修シート1は、ポリマーセメント硬化層2の樹脂層3側の反対側表面上に接着層を有していてもよい。
上記接着層がポリマーセメント硬化層2の表面に設けられていることで、補修シート1を屋根10に貼り付ける際に、作業現場で接着剤を塗布して接着剤層を形成する必要がないため極めて作業効率に優れ、また、熟練の職人によらずに均一な厚みの接着層を介して補修シート1を屋根10に貼り付けることができる。また、上記接着層が設けられていることで、屋根10の表面に微細な凹み等が存在した場合であってもこの凹みに粘着層を埋め込んで補修シート1の密着性を高めることができる。
【0076】
上記接着層は、粘着剤を用いてなる粘着層であってもよく、接着剤を用いてなる接着層であってもよいが、上記接着層のポットライフを考慮すると粘着層が好ましい。
上記粘着剤としては特に限定されず、例えば、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤等公知のものが挙げられるが、本発明において接着層は、アクリル系粘着剤から構成されていることが好ましい。アクリル系粘着剤は、構造物の屋根に対する粘着力の調整が容易で材料設計の自由度が高く、また、透明性、耐候性及び耐熱性にも優れているため、補修シート1による屋根10の保護をより好適に行うことができる。
上記アクリル系粘着剤としては特に限定されず市販品を使用するとことができ、例えば、オリバイン(登録商標)6574(トーヨーケム社製)等が挙げられる。
【0077】
上記アクリル系粘着剤からなる接着層(以下、粘着層ともいう)の積層量としては、屋根10表面への十分な付着力を発揮できることから、20g/m以上250g/m以下が好ましい。
また、上記粘着層を介して屋根10の表面に貼り付けた時の付着力が0.5N/mm以上あることが好ましい。0.5N/mm未満であると補修シート1の屋根10表面に対する密着性が不十分となることがある。
【0078】
上記補修シート1における接着層が接着剤から構成される接着層である場合、上記接着剤としては特に限定されず、紫外線硬化型接着剤、熱硬化型接着剤等公知の接着剤が挙げられる。
このような接着剤としては、例えば、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、ゴム特性を示すアクリル系樹脂(例えばアクリル酸エステルを主成分に持つ合成ゴム)を用いた接着剤等が挙げられる。なかでも、補修シート1のポリマーセメント硬化層2を構成する樹脂成分と同種の樹脂成分からなる接着剤は、ポリマーセメント硬化層2との接着強度が高くなるのでより好ましい。
【0079】
上記補修シート1において、接着層は、硬化剤を含むことが好ましい。上記硬化剤を含むことで屋根10に対するより優れた付着力を有するものとなり、また、補修シート1の押し抜き強度も優れたものとなる。
上記補修シート1は、JSCE-K-533に規定の押し抜き試験による押し抜き強度が1.5kN以上であることが好ましい。上記押し抜き強度が1.5kN以上であることで、補修シート1による屋根10の補修を極めて好適に実施できる。
【0080】
上記硬化剤としては特に限定されず、イソシアネート系硬化剤、アミン系硬化剤、エポキシ系硬化剤、金属キレート系硬化剤等公知の硬化剤を使用できる。
【0081】
上記補修シート1において、屋根10に対する付着力及び補修シート1の押し抜き強度に優れることから、上記接着層はゲル分率が30%~70%であることが好ましく、より好ましい下限は40%、より好ましい上限は65%である。
【0082】
上記補修シート1において、上記接着層の厚さとしては50~500μmであることが好ましい。50μm未満であると補修シート1の屋根10に対する付着力が不十分となることがあり、500μmを超えると、厚みにバラツキが生じやすく、また、施工時に平滑な施工面を得るためにローラー等で馴らした時に、端部から余分な接着剤がはみ出てしまうことがある。上記接着層の厚みのより好ましい下限は90μm、より好ましい上限は200μmである。
【0083】
上記補修シート1は、上記接着層の表面保護のために、該接着層のポリマーセメント硬化層2と反対側面に離型フィルムが貼り付けられていることが好ましい。上記離型フィルムとしては特に限定されず、例えば、基材層と離型層とを有するフィルムが挙げられる。
上記基材層を構成する材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ナイロン6等のポリアミド、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、セルロースアセテート等のセルロース樹脂、ポリカーボネートなどの合成樹脂が挙げられる。また、上記基材層は、紙を主成分として形成されてもよい。さらに、上記基材層は、2層以上の積層体であってもよい。
【0084】
上記離型層を構成する材料としては、例えば、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、フッ素化重合体等が挙げられる。上記離型層は、上記離型層を構成する材料及び有機溶剤を含む塗工液を上記基材層上にグラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、リップコート法等の公知の方法によって塗布し、乾燥及び硬化させる塗工法によって形成することができる。また、上記離型層の形成に当たっては、基材層の積層面にコロナ処理や易接着処理を施してもよい。
【0085】
[屋根の補修方法]
本発明に係る屋根の補修方法は、図1(A)に示したように、屋根10の表面に補修シート1を貼り付けることで行われるが、破線で囲んだ領域がケラバ部5である。
本発明に係る屋根の補修方法では、図1(B)に示したように、屋根10のケラバ部5に設置されているケラバ水切り4に補修シート1を差し込むことでケラバ部5を含む屋根10の表面に補修シート1を貼り付けることで行われる。
【0086】
本発明では、補修シート1を屋根10の表面に貼り付ける際に、該屋根10の端部(ケラバ部5)において防水処置を施す工程を有する。
本工程でケラバ部5に防水処置が施されることで、補修シート1を伝って雨水が流れても該雨水は防水処置された部分でせき止められ、雨水が補修シート1と屋根10との間に浸入することを防止できる。
【0087】
本発明において、上記防水処置は、図2(A)に示したように、補修シート1を上記ポリマーセメント硬化層側が屋根10の表面の反対側となるように折り返し、補修シート1の折り返し部分をケラバ水切り4とケラバ部との間に補修シート1の折り返し部分を差し込む処置であることが好ましい。
本防水処置でケラバ部5における補修シート1が折り返されることで、補修シート1を伝って雨水が流れても該雨水は折り返し部でせき止められ、雨水が補修シート1と屋根10との間に浸入することを防止できる。
【0088】
また、本発明において、上記防水処置は、図2(C)に示したように、補修シート1を屋根10のケラバ水切り4とケラバ部との間に差し込んで上記ケラバ部の表面に貼り付けた後、補修シート1とケラバ水切り4との隙間にコーキング剤6を充填する処置であることが好ましい。
本防水処置でケラバ部5における補修シート1とケラバ水切り4との隙間にコーキング剤6が充填されることで、補修シート1を伝って雨水が流れても該雨水はコーキング剤6でせき止められ、雨水が補修シート1と屋根10との間に浸入することを防止できる。
なお、本発明において、上記防水処置が補修シート1とケラバ水切り4との隙間にコーキング剤6を充填する処置である場合、ケラバ水切り4の板金の表面にも補修シート1が貼り付けられていてもよい。このような防水処置であることで意匠性に優れ、ケラバ水切り4の板金の劣化を好適に防止することができる。
【0089】
また、コーキング剤6としては特に限定されず従来公知のものを使用できる。また、コーキング剤6として、例えば、変性シリコーンコーキング剤を使用した場合は、硬化後は変性シリコーンコーキング剤硬化物の上から塗装をすることが可能となる。また、コーキング剤6の市販品としては、例えば、セメダイン社製「POSシールF」、コニシ社製「変性シリコンコーク」等が挙げられる。
【0090】
本発明で使用するケラバ水切り4としては特に限定されず従来公知のものと同様のものが挙げられる。
断面視凹状のケラバ水切り4は、例えば、図2(A)~(C)に示したように屋根10のケラバ部5にスレート材11を挟むように取り付けられ、例えば、ビス等を用いてスレート材11等に固定される。なお、図2(A)~(C)においてケラバ水切り4は、スレート材11と防水シート12との間に差し込まれてスレート材11を挟むように固定されているが、例えば、防水シート12と野地板13との間に差し込まれてスレート材11を挟むように固定されていてもよい。
【0091】
本発明の屋根の補修方法では、図2(A)に示したように、上記防水処置は、補修シート1をケラバ水切り4の幅よりも大きく折り返し、上記補修シート1の折り返し部分をケラバ水切り4とケラバ部との間に差し込み、ケラバ水切り4からはみ出した補修シート1の折り返し部分をケラバ水切り4の縁に沿って切断することが好ましい。補修シート1の折り返し部分を確実に形成して雨水がケラバ部5の端部に流れ込み補修シート1と屋根10との接着性低下や水の侵入を確実に防止できる。また、ケラバ水切り4の幅に沿って補修シート1のはみ出した部分を切断することで意匠性にも優れたものとなる。
【0092】
また、本発明の屋根の補修方法では、図2(B)に示したように、上記防水処置は、補修シート1をケラバ水切り4の幅よりも大きく折り返し、補修シート1の折り返し部分をケラバ水切り4とケラバ部との間に差し込んでケラバ水切り4からはみ出した補修シート1の折り返し部分をケラバ水切り4の縁に沿って更に折り返すことが好ましい。補修シート1を流れる雨水がケラバ水切り4からはみ出した補修シート1の折り返し部分とケラバ水切り4との隙間に浸入することを防止でき、屋根の端部において屋根の表面に貼り付けた補修シート1の端部が雨水と直接接することがなく屋根端部の補修箇所の耐久性を非常に高くすることができ、その結果、補修状態を長期間維持でき雨水の侵入も長期間防止できる。
【0093】
また、本発明に係る屋根の補修方法は、図2(B)に示したように、ケラバ水切り4の上部にカバー部材7を取り付けることが好ましい。
補修シート1とケラバ水切り4とがカバー部材7で隠されるため、ケラバ水切り4と補修シート1との隙間部分が雨水に曝されることを確実に防止できる。
また、図2(B)に示したように、補修シート1を折り返して防水処置を施した際に、補修シート1の端部がケラバ水切り4の幅よりも大きくはみ出した部分を更にケラバ水切り4の上部に折り返してカバー部材7を取り付けることで、補修シート1を伝って雨水が流れてきても折り返し部分でせき止めることができるとともに補修シート1と屋根10の表面との間に浸入することを極めて高度に抑制でき、更に、補修シート1のはみ出し部分を外部から隠蔽できて意匠性に極めて優れたものとなる。
なお、図2(B)では、上記防水処置として図2(A)に示した補修シート1を折り返す処置を施した場合にカバー部材7を取り付ける様子を示したが、図2(C)に示したコーキング剤6を充填する処置を施した場合にカバー部材7を取り付けてもよい。
このような、カバー部材7としては、ケラバ水切り4と同じ材料から構成されたものが好ましく、このようなカバー部材7を用いることで、ケラバ水切り4と補修シート1との隙間部分が雨水に曝されることを確実に防止でき、かつ、意匠性にも優れたものとなる。
【0094】
本発明に係る屋根の補修方法は、屋根の表面に補修シートを貼り付ける際に、屋根の表面に接着剤を塗布した後に補修シートを貼り合わせることが好ましい。この施工方法では、屋根の表面に補修シートを容易に貼り合わせることができる。その結果、熟練した作業者でなくとも厚さのバラツキの小さい層で構成された補修シートを屋根に設けることができ、工期を大幅に削減できるとともに、屋根を長期にわたって保護することができる。
【0095】
本発明に係る屋根の補修方法は、図4(A)に示すように、屋根10の表面に下塗り層22を形成することが好ましい。下塗り層22は、エポキシ樹脂等の樹脂と溶媒とを混合した塗工液を、屋根10に塗工し、その後、塗工液中の溶媒を揮発乾燥させて形成することができる。このときの溶媒としては水等を挙げることができる。下塗り層22の厚さは特に限定されないが、例えば100~150μmの範囲内とすることができる。
図4(B)、(C)では屋根10と接着剤層23との間に下塗り層22は設けられるが、下塗り層22は、相互の密着を高めるように作用するので、補修シート1は、長期間安定して屋根10を保護することができる。なお、屋根10に生じたひび割れや欠損には、それを補修した後に下塗り層22を設けることが好ましい。また、補修は特に限定されないが、通常セメントモルタルやエポキシ樹脂等が使われる。
【0096】
下塗り層22を形成した後、図4(B)に示すように、接着剤を塗布して接着剤層23を形成することが好ましい。塗布した接着剤は、乾燥させることなく、図4(C)に示すように、その上に補修シート1を貼り合わせることが好ましい。
上記接着剤としては、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、ゴム特性を示すアクリル系樹脂(例えばアクリル酸エステルを主成分に持つ合成ゴム)を用いた接着剤等を挙げることができる。なかでも、補修シート1のポリマーセメント硬化層2を構成する樹脂成分と同種の樹脂成分からなる接着剤は、接着剤層23とポリマーセメント硬化層2との接着強度が高くなるのでより好ましい。接着剤層23の厚さは特に限定されない。上記接着剤は、通常、刷毛塗り又はスプレー塗り等の手段で塗布した後に時間経過によって自然乾燥させて硬化し接着剤層23とする。
なお、上記接着剤の材料の選択によっては下塗り層の存在は必須ではなく、1層の接着剤層のみを介して構造物の屋根の表面に補修シートを貼り付けることも可能である。
【0097】
上述した本発明に係る屋根の補修方法により補修された屋根の補修構造もまた、本発明の一つである。
すなわち、本発明に係る屋根の補修構造は、表面に補修シートが貼り付けられた屋根の補修構造であって、前記補修シートは、前記構造物の屋根の表面側に設けられるポリマーセメント硬化層と、該ポリマーセメント硬化層上に設けられた樹脂層とを備えており、前記補修シートは、防水処置が施されて前記屋根のケラバ部に貼り付けられていることを特徴とする。
【0098】
本発明に係る屋根の補修構造における補修シートとしては、上述した本発明に係る屋根の補修方法において説明した補修シートと同じものが挙げられ、上記防水処置も上述した本発明に係る屋根の補修方法において説明した防水処置同じものが挙げられる。
【0099】
本発明に係る屋根の補修構造は、上述した本発明に係る屋根の補修方法により得ることができ、屋根の端部のケラバ部において上記補修シートに防水処置が施されているため、該補修シートの表面を流れた雨水が上記防水処置部分でせき止められる。その結果、屋根の端部において屋根の表面に貼り付けられた補修シートの端部が雨水と直接接することがなく屋根端部の補修箇所の耐久性を非常に高くすることができ、補修状態を長期間維持でき雨水の侵入も長期間防止できる。
また、本発明に係る屋根の補修構造は、上述した本発明に係る屋根の補修方法と同様に、構造物の屋根の表面に接着剤を塗布した後に上記補修シートが貼り合わされていてもよく、構造物の屋根の表面と上記接着剤との間に下塗り層が設けられていてもよい。
【0100】
以下、本発明をさらに具体的に説明する。
【0101】
(製造例1)
PPラミネート紙からなる厚さ130μmの離型シートを用意し、該離型シート上に樹脂層を以下の方法で形成した。
まず、アクリルシリコーン樹脂60質量部と、二酸化チタン25質量部と、酸化第二鉄10質量部と、カーボンブラック5質量部とを含有するエマルション組成物を準備した。このエマルション組成物を上記離型シート上に塗布した後、加熱処理をしてこれを硬化させて、樹脂層を形成した。樹脂層の厚さは0.1mmとなるようにした。
次に、樹脂層の上にポリマーセメント硬化層を形成した。
具体的には、セメント混合物を45質量部含む水系のアクリルエマルションをポリマーセメント層形成用組成物として準備した。ここで、セメント混合物は、ポルトランドセメント70±5質量部、二酸化ケイ素10±5質量部、酸化アルミニウム2±1質量部、酸化チタン1~2質量部を少なくとも含むものであり、アクリルエマルションは、アクリル酸エステルモノマーを乳化剤として使用して乳化重合したアクリル酸系重合物53±2質量部、水43±2質量部を少なくとも含むものである。これらを混合したポリマーセメント層形成用組成物を塗布乾燥して得られたポリマーセメント層は、ポルトランドセメントをアクリル樹脂中に50質量%含有する複合層である。
上記ポリマーセメント硬化層形成用組成物を、樹脂層の上に塗工し乾燥してから単層からなる厚さ1.29mmのポリマーセメント硬化層を形成した。
こうして合計厚さ1.39mm、幅1m、長さ3mの補修シートを作製した。
【0102】
[強度の測定]
製造例1で得られた補修シートの強度を引張試験機(株式会社島津製作所製、AGS-J)で測定した破断強度で評価した。
幅50mmで測定した結果、製造例1の強度は1500Nであった。
[厚さバラツキの測定]
製造例1について、ロール状に巻き取った補修シートから、A4サイズ程度(200mm×300mm)を切り出し、各部で14箇所の厚さを測定し、その厚さバラツキを計算した。製造例1では、厚さバラツキが26μmであった。
【0103】
(製造例2~4)
製造例1において、補修シートの合計厚さを変化させた。製造例2は、厚み0.66mmのポリマーセメント硬化層と厚さ100μmの樹脂層とを積層した合計厚さ0.76mmの補修シートを作製した。製造例3は、厚さ0.96mmのポリマーセメント硬化層と厚さ100μmの樹脂層とを積層した合計厚さ1.06mmの補修シートを作製した。製造例4は、厚さ1.47mmのポリマーセメント硬化層と100μmの樹脂層とを積層した合計厚さ1.57mmの補修シートを作製した。それ以外は製造例1と同様とした。
【0104】
[強度と水蒸気透過率]
製造例2~4について、補修シートの強度と水蒸気透過率を測定した。強度は引張試験機(株式会社島津製作所製、AGS-J)で測定した破断強度で評価した。水蒸気透過率(WVTR)は、「透湿度」とも呼ばれ、1mのフィルム(補修シート)を24時間で透過する水蒸気の量をグラム数で表すものであり、g/m・day又はg/ml/dayで表す。水蒸気バリア性を示す指標として用いられている。JIS Z0208(B)法に準拠した方法で測定した。
【0105】
幅50mmでの測定結果は、製造例2では、強度が1200N、水蒸気透過率が18.2g/m.dayであった。製造例3では、強度が1500N、水蒸気透過率が13.0g/m.dayであった。製造例4では、強度が1600N、水蒸気透過率が10.2g/m.dayであった。いずれの厚さでも強度と水蒸気透過率は問題なく、使用可能であった。
【0106】
本開示(1)は、構造物の屋根の表面に補修シートを貼り付ける屋根の補修方法であって、
前記補修シートは、前記構造物の屋根の表面側に設けられるポリマーセメント硬化層と、該ポリマーセメント硬化層上に設けられた樹脂層とを備えており、
前記補修シートを前記屋根の表面に貼り付ける際に、該屋根のケラバ部において防水処置を前記補修シートに施す工程を有する
ことを特徴とする屋根の補修方法である。
本開示(2)は、前記防水処置は、前記補修シートを前記ポリマーセメント硬化層側が前記屋根の表面の反対側となるように折り返し、前記補修シートの折り返した部分をケラバ水切りとケラバ部との間に差し込む処置である本開示(1)記載の屋根の補修方法である。
本開示(3)は、前記防水処置は、前記補修シートを前記屋根のケラバ水切りとケラバ部との間に差し込んで前記ケラバ部の表面に貼り付けた後、前記補修シートと前記ケラバ水切りとの隙間にコーキング剤を充填する処置である本開示(1)記載の屋根の補修方法である。
本開示(4)は、前記防水処置は、前記補修シートを前記ケラバ水切りの幅よりも大きく折り返し、前記補修シートの折り返し部分を前記ケラバ水切りと上記ケラバ部との間に差し込んで前記ケラバ水切りからはみ出した前記補修シートの折り返し部分を前記ケラバ水切りの縁に沿って切断する処置である本開示(1)又は(2)記載の屋根の補修方法である。
本開示(5)は、前記防水処理は、前記補修シートを前記ケラバ水切りの幅よりも大きく折り返し、前記補修シートの折り返し部分を前記ケラバ水切りと前記ケラバ部との間に差し込み前記ケラバ水切りからはみ出した前記補修シートの折り返し部分を前記ケラバ水切りの縁に沿って更に折り返す処置である本開示(1)又は(2)記載の屋根の補修方法である。
本開示(6)は前記ケラバ水切りの上部にカバー部材を取り付ける本開示(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)記載の屋根の補修方法である。
本開示(7)は、前記ポリマーセメント硬化層は、セメント成分及び樹脂を含有する層であって、前記樹脂が10重量%以上、40重量%以下含有されている本開示(1)、(2)、(3)、(4)、(5)又は(6)記載の屋根の補修方法である。
本開示(8)は、前記ポリマーセメント硬化層の前記樹脂層側の反対側表面上に接着層を有する本開示(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)又は(7)記載の屋根の補修方法である。
本開示(9)は、前記構造物の屋根の表面に接着剤を塗布した後に前記補修シートを貼り合わせる本開示(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)又は(7)記載の屋根の補修方法である。
本開示(10)は、前記構造物の屋根の表面と前記接着剤との間に下塗り層を設ける、本開示(9)に記載の屋根の補修方法である。
本開示(11)は、表面に補修シートが貼り付けられた屋根の補修構造であって、
前記補修シートは、前記構造物の屋根の表面側に設けられるポリマーセメント硬化層と、該ポリマーセメント硬化層上に設けられた樹脂層とを備えており、
前記補修シートは、防水処置が施されて前記屋根のケラバ部に貼り付けられている
ことを特徴とする屋根の補修構造である。
本開示(12)は、前記防水処置は、前記補修シートを前記ポリマーセメント硬化層側が前記屋根の表面の反対側となるように折り返し、前記補修シートの折り返した部分をケラバ水切りとケラバ部との間に差し込む処置である本開示(11)記載の屋根の補修構造である。
本開示(13)は、前記防水処置は、前記補修シートを前記屋根のケラバ水切りとケラバ部との間に差し込んで前記ケラバ部の表面に貼り付けた後、前記補修シートと前記ケラバ水切りとの隙間にコーキング剤を充填した処置である本開示(11)記載の屋根の補修構造である。
本開示(14)は、前記防水処置は、前記補修シートを前記ケラバ水切りの幅よりも大きく折り返し、前記補修シートの折り返し部分を前記ケラバ水切りと前記ケラバ部との間に差し込んで前記ケラバ水切りからはみ出した前記補修シートの折り返し部分を前記ケラバ水切りの縁に沿って切断した処置である本開示(11)又は(12)記載の屋根の補修構造である。
本開示(15)は、前記防水処置は、前記補修シートを前記ケラバ水切りの幅よりも大きく折り返し、前記補修シートの折り返し部分を前記ケラバ水切りと前記ケラバ部との間に差し込み前記ケラバ水切りからはみ出した前記補修シートの折り返し部分を前記ケラバ水切りの縁に沿って更に折り返した処置である本開示(11)又は(12)記載の屋根の補修構造である。
本開示(16)は、前記ケラバ水切りの上部にカバー部材が取り付けられている本開示(11)、(12)、(13)、(14)又は(15)記載の屋根の補修構造である。
本開示(17)は、前記ポリマーセメント硬化層は、セメント成分及び樹脂を含有する層であって、前記樹脂が10重量%以上、40重量%以下含有されている本開示(11)、(12)、(13)、(14)、(15)又は(16)記載の屋根の補修構造である。
本開示(18)は、前記ポリマーセメント硬化層の前記樹脂層側の反対側表面上に接着層を有する本開示(11)、(12)、(13)、(14)、(15)、(16)又は(17)記載の屋根の補修構造である。
本開示(19)は、前記構造物の屋根の表面に接着剤を塗布した後に前記補修シートが貼り合わされている本開示(11)、(12)、(13)、(14)、(15)、(16)又は(17)記載の屋根の補修構造である。
本開示(20)は、前記構造物の屋根の表面と前記接着剤との間に下塗り層が設けられている、本開示(19)に記載の屋根の補修構造である。
【符号の説明】
【0107】
1 補修シート
2 ポリマーセメント硬化層
3 樹脂層
4 ケラバ水切り
5 ケラバ部
6 コーキング剤
7 カバー部材
10、30 屋根
11 スレート材
12 防水シート
13 野地板
22 下塗り層
23 接着剤層
31 ブルーシート
32 土嚢
図1
図2
図3
図4
図5