(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015317
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】液状体の放射能の量を低減させる方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/06 20060101AFI20230124BHJP
G21G 7/00 20090101ALI20230124BHJP
【FI】
G21F9/06 Z
G21G7/00
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183853
(22)【出願日】2022-11-17
(62)【分割の表示】P 2018567423の分割
【原出願日】2018-02-05
(31)【優先権主張番号】P 2017022119
(32)【優先日】2017-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】517043240
【氏名又は名称】水野 実
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(72)【発明者】
【氏名】水野 実
(57)【要約】
【課題】土壌から放射性物質を除去することとは異なる用途であって、特異な性質を有する水素水の機能を適切に発揮させる用途に、水素水を適用して、放射能汚染に係る問題を解決するための手段の一つを提供する。
【解決手段】放射性物質を含む液状体の放射能の量を、液状体に水素を溶存させることにより低下させる方法であって、放射性物質を含む物質と1.0ppm以上の水素を含む水素水とを混合させることにより液状体に水素を溶存させてもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.0ppm以上の水素を含む水素水と放射性物質を含む物質とを混合させることにより得られた、前記放射性物質を含む液状体の放射能の量を低下させる方法であって、
前記液状体に水素が溶存し、
前記液状体が前記放射性物質を含む物質と接触していない状態を所定時間維持する(前記所定時間維持している間に前記液状体に有機高分子凝集剤が添加される場合を除く。)ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記液状体は、前記放射性物質を含む物質を洗浄した後の洗浄液を回収したものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
洗浄前の前記洗浄液における水素溶存量は1.0ppm以上である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記所定時間は22時間以上である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記放射性物質が放射性セシウムを含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状体の放射能の量を低減させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素を含有する水(本明細書において「水素水」ともいう。)は、高い還元力を有しているため、様々な用途への適用が試みられている。例えば、特許文献1には、水素ガスを供給する水素供給手段と、原料水に前記水素ガスを溶解させ、水素水を製造する水素水製造手段と、製造した水素水を水流にして散布する散布手段と、を備えることを特徴とする放射能除染装置が記載されている。かかる装置によれば、土壌などに付着した放射性物質を効率的に除去する(除染する)ことが可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の実施例に記載される結果によれば、土壌を検体として、水道水を用いて除染した場合と水素水を用いて除染した場合との差は必ずしも明確であるとはいえず、水素水を用いても、土壌から放射性物質、特にセシウム137、セシウム134などの放射性セシウムを除去することは容易でないことが示されている。
【0005】
本発明は、土壌から放射性物質を除去することとは異なる用途に水素水を適用して、放射能汚染に係る問題を解決するための手段の一つを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、放射性物質を含む液状体の放射能の量を低下させる方法であって、前記液状体に水素を溶存させることを特徴とする方法である。前述のとおり、放射性セシウムは土壌を構成する物質と強く結合するため、還元力が高い水素水を用いても土壌から放射性セシウムを分離することは容易でない。しかしながら、本発明者が検討した結果、放射性セシウムが溶解した状態にある水素水、すなわち、放射性物質である放射性セシウムが溶解し、水素を積極的に溶存させ、水を媒体とする液状体では、放射性セシウムが溶解し、水素を積極的に溶存させていない、水を媒体とする液状体に比べて、短期間で放射線の量が著しく低下することが明らかになった。その理由は明らかでないが、放射性セシウムなどの放射性物質が壊変する際に、水素が近傍に存在することにより、壊変が促進されている可能性がある。
【0007】
例えば、水素水中の放射性セシウムが崩壊する際に発生する放射線(ベータ線、ガンマ線)が水素水中の水素と相互作用することにより、水素分子がイオン化している可能性がある。この水素分子に基づくイオンによる水素結合が影響して、水溶液中に溶解する放射性セシウム(水酸化セシウムなど)が凝集しやすくなっている可能性がある。水溶液中に均一に溶解する放射性セシウムが凝集することによって、放射性セシウムは互いに影響を及ぼしやすくなる。具体的には、凝集した放射性セシウムの一部が壊変して発生したガンマ線が、他の放射性セシウムに衝突しやすくなる。その結果、放射性セシウムの光核反応が生じやすくなって、放射性セシウム(例えばセシウム137)の非放射性物質(例えばバリウム136)への変換が促進される。このように、水溶液中に溶存する水素が放射性セシウムの凝集を促進して、水溶液の放射線量を短期間で低下させている可能性がある。
【0008】
水素が存在することによりもたらされる作用を安定的に得る観点から、前記放射性物質を含む物質と1.0ppm以上の水素を含む水素水とを混合させることにより前記液状体に水素を溶存させてもよい。あるいは、例えば水道水に放射性物質が含まれる液状体に、水素を加圧状態で供給することにより、液状体に水素を溶存させてもよい。
【0009】
水素による壊変促進は、放射性物質が放射性セシウムである場合、特にセシウム137およびセシウム134の少なくとも一方を含む場合に、顕著に認められる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水素水を適用して、放射能汚染に係る問題の一つとして、放射性物質を含む液状体の放射能の量を低下させる方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施例および比較例により、本発明の効果を説明する。
【0012】
(実施例)
放射性セシウムを含む放射性物質が付着したコンクリートスラブに洗浄液を散布して、洗浄液に放射性物質を溶解させた。コンクリートスラブの表面汚染密度を測定したところ、測定点5点の平均で3734cpmであった。洗浄液は、水素が1.3ppm程度溶存する水(水素水)であった。洗浄液の使用量は120Lであった。洗浄液の散布に要した時間は1時間であった。
【0013】
1時間を要して洗浄後の洗浄液を回収した。洗浄液が回収された後のコンクリートスラブの表面汚染密度を測定したところ、測定点5点の平均で2068cpmであった。したがって、除染率(単位:%、[洗浄前の表面汚染密度-洗浄後の表面汚染密度]/洗浄前の表面汚染密度×100)は45%であった。
【0014】
回収作業が完了してから22時間後に、回収した洗浄液の放射能量を測定した結果、32640Bqであった。回収量は120Lであるから、回収液の放射能濃度は272Bq/Lであった。
【0015】
(比較例)
洗浄液として3%の過酸化水素水12Lをコンクリートスラブに噴霧し、その後、水道水250Lを流してこれを回収したこと以外は、上記の実施例と同様にして洗浄した。洗浄液を散布する前のコンクリートスラブの表面汚染密度は、測定点5点の平均で4218cpmであった。洗浄液の散布に要した時間は1時間であり、回収時間は1時間であった。
【0016】
洗浄液および水道水が回収された後のコンクリートスラブの表面汚染密度を測定したところ、測定点5点の平均で2406cpmであった。したがって、除染率は43%であった。
【0017】
回収作業が完了してから24時間後に、回収した洗浄液の放射能量を測定したところ、225300Bqであった。回収量は250Lであるから、回収液の放射能濃度は901Bq/Lであった。
【0018】
以上の実施例および比較例より、コンクリートスラブから放射性物質を除去する能力としては、水素水も過酸化水素水も同程度であるが、回収された洗浄液については、洗浄液として水素水を用いた場合には過酸化水素水を用いた場合に比べて、放射能濃度が短時間で著しく低下することが確認された。