(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153288
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】スチレン系共重合樹脂、樹脂組成物、そのシート及び成形品
(51)【国際特許分類】
C08F 212/06 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
C08F212/06
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023134884
(22)【出願日】2023-08-22
(62)【分割の表示】P 2018193630の分割
【原出願日】2018-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 慶尚
(57)【要約】
【課題】本発明は、耐熱性、透明性、外観に優れ、例えばスチレン系樹脂やゴム変性スチレン系樹脂へリワークした際にも物性低下の少ないスチレン系共重合樹脂を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明のスチレン系共重合樹脂は、スチレン系単量体と不飽和カルボン酸系単量体とを構成単位として含むものであって、前記スチレン系単量体単位の含有量が86質量%以上97質量%以下であり、前記不飽和カルボン酸単量体単位の含有量が3質量%以上14質量%以下であり、50N、昇温速度50℃/hで測定したビカット軟化温度をT1(℃)とし、10N、昇温速度120℃/hで測定したビカット軟化温度をT2(℃)とするとき、T1が105℃以上であり、(T2-T1)/T1が0.061以上0.072以下であり、Z平均分子量(Mz)の重量平均分子量(Mw)に対する比(Mz/Mw)は1.5以上2.5以下であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系単量体と不飽和カルボン酸系単量体とを構成単位として含むスチレン系共重合樹脂であって、
前記スチレン系共重合樹脂中の前記スチレン系単量体単位及び前記不飽和カルボン酸系単量体単位の合計含有量を100質量%とするとき、前記スチレン系単量体単位の含有量が86質量%以上97質量%以下であり、前記不飽和カルボン酸単量体単位の含有量が3質量%以上14質量%以下であり、
荷重50N、昇温速度50℃/hで測定したビカット軟化温度をT1(℃)とし、荷重10N、昇温速度120℃/hで測定したビカット軟化温度をT2(℃)とするとき、T1が105℃以上であり、(T2-T1)/T1が0.061以上0.072以下であり、
Z平均分子量(Mz)の重量平均分子量(Mw)に対する比(Mz/Mw)は1.5以上2.5以下であることを特徴とする、スチレン系共重合樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系共重合樹脂、樹脂組成物、そのシート及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂、特にスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(スチレン系共重合樹脂)は、一般に耐熱性、透明性、成形性、及び剛性に優れ、且つ比較的安価なことから、弁当、惣菜等の食品の容器包装材料、住宅の断熱材用の発泡ボード、拡散剤を入れた液晶テレビの拡散板等に広く用いられており、特にレンジ等で加熱される包装容器の蓋材として使用されている。レンジ加熱用の蓋材として使用される場合には、前述の耐熱性、透明性に加え良好な外観も求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂(スチレン系共重合樹脂)の成形品の製造過程では当該樹脂の端材が発生したり、或いは、当該樹脂の成形品の使用済み品が発生したりするところ、このような端材や使用済み品は、環境保護及びコスト削減の観点から、廃棄されず、例えば新たな成形品としてリワーク使用もされている。そして、リワーク使用の際には、スチレン系樹脂(例えば、ポリスチレン(GPPS))やゴム変性スチレン系樹脂(例えば、ハイインパクトポリスチレン(HIPS))とブレンドして用いられ得る。
【0005】
しかしながら、スチレン系共重合樹脂はスチレン系樹脂やゴム変性スチレン系樹脂に対して相容性が十分でないため、ブレンドした成形品の強度物性が低下しやすく、多量のリワークが難しくなっている。そのため、スチレン系共重合樹脂においては、その優れた特性は維持しつつ、スチレン系樹脂やゴム変性スチレン系樹脂をブレンドしてリワークした際にも強度などの物性が低下しにくくなるような特性が求められている。
【0006】
なお、スチレン系共重合樹脂とゴム変性スチレン系樹脂との相容性を高めるための技術としては、例えば特許文献1において、不飽和カルボン酸量の異なる2種類の樹脂を混ぜることが提案されている。しかし、特許文献1に記載の技術ではスチレン系共重合樹脂の透明性が低下してしまうという欠点があった。
【0007】
かかる状況下で本発明が解決しようとする課題は、耐熱性、透明性、外観に優れ、リワークのために例えばスチレン系樹脂やゴム変性スチレン系樹脂と混合した際にも物性低下の少ないスチレン系共重合樹脂、及び、耐熱性、外観、強度に優れる樹脂組成物、並びに、それらの樹脂又は樹脂組成物から得られるシート及び食品包装容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意研究し、実験を重ねた結果、次の知見を得、本発明を見出した。すなわち、本発明者は、スチレン系単量体と不飽和カルボン酸系単量体とを構成単位として含む特定の組成及び分子量分布のスチレン系共重合樹脂について、分子鎖中の不飽和カルボン酸系単量体単位の含有率が樹脂中である程度の分布(組成分布)があり、その組成分布が耐熱性、強度、透明性、リワーク時の物性低下に関連しているという知見を得た。また、不飽和カルボン酸系単量体単位の含有率の組成分布は、異なる条件で測定した2つのビカット軟化温度の関係に関連しており、それを規定することにより容易に判断できる、という知見を得た。そして、かかる知見に基づき、スチレン系共重合樹脂の組成及び分子量分布、さらに異なる条件で測定したビカット軟化温度の関係を規定することで、上記の課題を解決することができることを見出し本発明に至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0009】
〔1〕
スチレン系単量体と不飽和カルボン酸系単量体とを構成単位として含むスチレン系共重合樹脂であって、
前記スチレン系共重合樹脂中の前記スチレン系単量体単位及び前記不飽和カルボン酸系単量体単位の合計含有量を100質量%とするとき、前記スチレン系単量体単位の含有量が86質量%以上97質量%以下であり、前記不飽和カルボン酸単量体単位の含有量が3質量%以上14質量%以下であり、
荷重50N、昇温速度50℃/hで測定したビカット軟化温度をT1(℃)とし、荷重10N、昇温速度120℃/hで測定したビカット軟化温度をT2(℃)とするとき、T1が105℃以上であり、(T2-T1)/T1が0.061以上0.072以下であり、
Z平均分子量(Mz)の重量平均分子量(Mw)に対する比(Mz/Mw)は1.5以上2.5以下であることを特徴とする、スチレン系共重合樹脂。
〔2〕
上記〔1〕に記載のスチレン系共重合樹脂とともに、ゴム変性スチレン系樹脂及び/又はスチレン系樹脂を含有する樹脂組成物。
〔3〕
上記〔1〕に記載のスチレン系共重合樹脂、又は上記〔2〕に記載の樹脂組成物から構成される非発泡シート。
〔4〕
上記〔1〕に記載のスチレン系共重合樹脂、又は上記〔2〕に記載の樹脂組成物から構成される発泡シート。
〔5〕
上記〔1〕に記載のスチレン系共重合樹脂、又は上記〔2〕に記載の樹脂組成物から構成される二軸延伸シート。
〔6〕
上記〔3〕~〔5〕のいずれかに記載のシートを成形してなる食品包装容器。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、耐熱性、透明性、外観に優れ、例えばスチレン系樹脂やゴム変性スチレン系樹脂へリワークした際にも物性低下の少ないスチレン系共重合樹脂、及び、耐熱性、外観、強度に優れる樹脂組成物、並びに、それらの樹脂又は樹脂組成物から得られるシート及び食品包装容器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)を詳細に説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0012】
《スチレン系共重合樹脂(A)》
本実施形態のスチレン系共重合樹脂は、スチレン系単量体と不飽和カルボン酸系単量体とを構成単位として含むスチレン系共重合樹脂であって、上記スチレン系共重合樹脂中の上記スチレン系単量体単位、上記不飽和カルボン酸系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、上記スチレン系単量体単位の含有量が86質量%以上97質量%以下であり、上記不飽和カルボン酸単量体単位の含有量が3質量%以上14質量%以下である(本実施形態のスチレン系共重合樹脂を「スチレン系共重合樹脂(A)」とも称す)。
【0013】
〈単量体単位〉
本実施形態においては、スチレン系共重合樹脂(A)中のスチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位の合計含有量を100質量%としたときに、スチレン系単量体の含有量は、86質量%以上97質量%以下、好ましくは90質量%以上96.5質量%以下、より好ましくは93質量%以上96質量%以下である。スチレン系単量体の含有量を86質量%以上とすることにより、樹脂の十分な流動性を確保することができ、97質量%以下とすることにより、不飽和カルボン酸系単量体単位を所望量で存在させやすくすることができ、耐熱性の効果を得ることができる。
【0014】
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン等が挙げられる。これらは単独で又は混合して使用することができる。スチレン系単量体としては、工業的に安価で使用できることからスチレンが好ましい。
【0015】
本実施形態において、不飽和カルボン酸系単量体単位は、耐熱性の向上に寄与する。不飽和カルボン酸系単量体としては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。これらは単独で又は混合して使用することができる。耐熱性の向上効果が大きく、常温にて液状でハンドリング性に優れることからメタクリル酸が好ましい。
【0016】
スチレン系共重合樹脂(A)中のスチレン系単量体単位及び不飽和カルボン酸系単量体単位の合計含有量を100質量%としたときに、不飽和カルボン酸系単量体単位の含有量は3質量%以上14質量%以下、好ましくは3.5質量%以上12質量%以下、より好ましくは4質量%以上7質量%以下の範囲である。不飽和カルボン酸系単量体単位の含有量を3質量%以上とすることにより、耐熱性を向上することができる。一方、当該含有量を14質量%以下とすることにより、スチレン系共重合樹脂(A)中のゲル化物が増加するのを抑制し、外観を向上させることができ、また、スチレン系共重合樹脂(A)の流動性及び機械的物性を向上させることができる。
【0017】
スチレン系共重合樹脂(A)は、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位以外の単量体単位を、所望の効果を損なわない範囲で更に含有することができる。その他の単量体としてはメタクリル酸メチルやアクリル酸ブチルといった(メタ)アクリル酸エステル類やアクリロニトリルなどが例示できる。それら単量体単位の含有量は、全単量体100質量%に対して、10質量%以下としてもよく、より好ましくは5%以下である。
【0018】
スチレン系共重合樹脂(A)中のスチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体の含有量は、それぞれ、スチレン系共重合樹脂(A)を核磁気共鳴(13C-NMR)測定装置で測定したときのスペクトルの積分比から求めることができる。
【0019】
〈総揮発成分量〉
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂(A)を100質量%としたとき、スチレン系単量体、不飽和カルボン酸系単量体の残存量と残存する溶媒、存在する場合に他の揮発成分との合計量(以下、「総揮発成分量」という)は、好ましくは2000質量ppm以下、より好ましくは1000質量ppm以下、更に好ましくは500質量ppm以下である。スチレン系共重合樹脂(A)の総揮発成分量が1000質量ppm以下であれば、シート押出時のダイス出口周りの臭気や、スチレン系共重合樹脂(A)の色調が改善されるため好ましい。ここで、スチレン系共重合樹脂(A)中の総揮発成分量は、それぞれ、ガスクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0020】
〈メルトフローレート(MFR)〉
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)は、成形性の観点から、好ましくは0.5(g/10min)以上5.0(g/10min)以下であり、より好ましくは0.7(g/10min)以上4.0(g/10min)以下、さらに好ましくは1.0(g/10min)以上3.0(g/10min)以下である。
【0021】
〈ビカット軟化温度〉
本実施形態において、ISO306に準拠して、荷重50N、昇温速度50℃/hの条件で測定して求めたスチレン系共重合樹脂(A)のビカット軟化温度をT1(℃)、ISO306に準拠して、荷重10N、昇温速度120℃/hの条件で測定して求めたスチレン系共重合樹脂(A)のビカット軟化温度をT2(℃)とする。
この場合において、ビカット軟化温度(T1)は、好ましくは105℃以上であり、より好ましくは108℃以上、さらに好ましくは114℃以上である。ビカット軟化温度(T1)を105℃以上とすることにより、電子レンジでの使用環境に耐えることができる。また、ビカット軟化温度(T1)の上限は特にない。
【0022】
また、ビカット軟化温度(T1)とビカット軟化温度(T2)について、(T2-T1)/T1が0.061以上0.072以下、好ましくは0.063以上0.071以下、より好ましくは0.065以上0.070以下である。このような範囲にすることにより、スチレン系共重合樹脂(A)は適切な組成分布を持つことによりリワーク性と透明性に優ることができる。
具体的には、スチレン系共重合樹脂(A)の分子中の不飽和カルボン酸系単量体単位の含有率は、樹脂中にある程度の分布(組成分布)があり(各分子中に不飽和カルボン酸系単量体単位の含有率が比較的高いものもあれば比較的低いものもある)、当該組成分布が上記のビカット軟化温度(T1)とビカット軟化温度(T2)についての(T2-T1)/T1に関連している。すなわち、(T2-T1)/T1が0.061以上であると、組成分布が小さくなりすぎず、スチレン系共重合樹脂(A)中に不飽和カルボン酸系単量体単位の含有率が比較的低い組成を存在させることができる。そして、そのような組成は例えばスチレン系樹脂やゴム変性スチレン系樹脂と相容しやすく、スチレン系共重合樹脂(A)自体の相溶性も向上するので、リワーク性を向上させることができる。また、(T2-T1)/T1が大きすぎると、組成分布が大きくなり、スチレン系共重合樹脂(A)の中で不飽和カルボン酸系単量体単位の含有率が低い分子と高い分子とで相溶しにくくなり、スチレン系共重合樹脂(A)の透明性が低下しうるが、(T2-T1)/T1が0.072以下であると、組成分布が大きくなりすぎず十分な透明性を確保することができる。
【0023】
〈重量平均分子量(Mw)及びZ平均分子量(Mz)〉
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は10万~30万であることが好ましい。また、重量平均分子量(Mw)は、より好ましくは13万~27万であり、さらに好ましくは16万~24万である。重量平均分子量(Mw)が10万~30万であると、スチレン系共重合樹脂(A)の衝撃強度と流動性とのバランスにより優れ、またゲル化物の混入も少ない傾向にある。
また、スチレン系共重合樹脂(A)では、Z平均分子量(Mz)の重量平均分子量(Mw)に対する比(Mz/Mw)は1.5~2.5である。また、当該比(Mz/Mw)は、好ましくは1.7~2.3であり、より好ましくは1.7~2.1である。比(Mz/Mw)が1.5~2.5であると、スチレン系共重合樹脂(A)の衝撃強度と流動性とのバランスに優れ、また、ゲル化物の混入も少ない傾向となる。Z平均分子量(Mz)及び重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエイション・クロマトグラフィーによりポリスチレン標準換算で測定することができる。
【0024】
〈透明性(曇り度)〉
スチレン系共重合樹脂(A)の透明性は、曇り度によって評価できる。本実施形態において、スチレン系共重合樹脂(A)を厚み2mmのプレートに成型したときの曇り度は2.5%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。厚み2mmのプレートは、鏡面加工された金属板にスチレン系共重合樹脂(A)を挟んで200℃にて圧縮成型することにより得られる。曇り度が2.5%以下であれば、射出成形品用途、シート成形品用途等で、実用上十分な透明性を持たせることができる。曇り度は、ISO14728に準拠して測定することができる。また、曇り度は低ければ低いほどよく、その下限は特にない。
【0025】
〈スチレン系共重合樹脂(A)の製造方法〉
本実施形態のスチレン系共重合樹脂(A)は、上述のように、不飽和カルボン酸系単量体の組成分布に関連する、ビカット軟化温度(T1、T2)の関係(T2-T1)/T1を制御することによって、リワーク性及び透明性に優れた樹脂を得ることが可能である。(T2-T1)/T1の制御に関しては、スチレン系単量体と不飽和カルボン酸単量体との反応性比の違いを利用し、ラジカル重合時の反応器の構成、不飽和カルボン酸系単量体の含有量、溶媒量及び開始剤量といった反応液の組成、又は、各反応器の温度及び滞留時間などの反応条件を、調整する方法、また、異なる組成のポリマーをブレンドする方法が挙げられる。反応性比を利用する方法のほうが組成分布を連続的に持たせることができるため透明性に優れ、またスチレン系樹脂やゴム変性スチレン系樹脂に混練した場合に物性低下の少ない樹脂を得やすい。
【0026】
スチレン系共重合樹脂(A)の重合方法については、ラジカル重合法として、塊状重合法、又は、溶液重合法の連続重合、懸濁重合、若しくは乳化重合が挙げられる。懸濁重合や乳化重合では懸濁剤や乳化剤により外観が損なわれることから、特に連続重合が望ましい。重合方法は、主に、重合原料(単量体成分)を重合させる重合工程と、重合生成物から未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する脱揮工程とを有する。
【0027】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂(A)では、スチレン系単量体、不飽和カルボン酸系単量体は反応性比が異なるため、単に塊状もしくは溶液重合、懸濁重合、乳化重合を行った場合には、重合が進行するに従い単量体比が変化し、スチレン系共重合樹脂(A)内に組成分布が生じ((T2-T1)/T1が大きくなり)、透明性が悪化する。一方で適正な組成分布((T2-T1)/T1が所定の範囲)を持つことはスチレン系樹脂やゴム変性スチレン系樹脂と混合した際に、物性低下が生じにくいという特徴を持つ。
【0028】
スチレン系共重合樹脂(A)を得るための連続重合工程で用いる装置は、完全混合型反応器を使用することもできる。ここで、「完全混合型反応器」とは、一般に、反応器に流入した物質が反応器内で均一に混合され、反応器入りの流量と反応器出の流量が等しくなるように制御され、反応器内の流体濃度や温度を均一ことができる反応器をいう。混合の方法としては、完全混合型反応器内の反応液をプロペラ型やかい型、タービン型等任意の形状の回転羽を使用して撹拌する方法や、スタティックミキサーを用いて反応器内の反応液を循環させることで撹拌する方法が挙げられる。完全混合型反応器中でのスチレン系単量体と不飽和カルボン酸単量体では組成分布の小さく((T2-T1)/T1)が小さく)、透明性に優れる樹脂が重合される特徴がある。
【0029】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂(A)の(T2-T1)/T1、ひいては樹脂の組成分布を制御する方法の一つとして、完全混合型反応器や塔型反応器を直列もしくは並列に組み合わせたプロセスを用い、各反応器での反応量を調整することで透明性を維持しながら組成分布を持たせることができる。特に最終重合反応率に対する完全混合型反応器での重合割合は0~75%であることが好ましく、より好ましくは5~75%であり、さらに好ましくは20~70%であり、特に好ましくは40~60%であり、このようにすることで、透明性に優れ、スチレン系樹脂やゴム変性スチレン系樹脂と混合した際に、物性低下が生じにくい組成分布を持った樹脂を得ることができる。
【0030】
重合反応率の測定は、まず重合反応器から抜き出した反応中間液の重量(RW(g))を秤量し、アルミ皿に3mm程度の厚みで塗布し、これを230℃、1.3kPa、60分の条件で加熱して、未反応モノマーや溶媒を除去する。加熱後のアルミ皿に残ったポリマー部重量(PW(g))を秤量し、以下の式から重合反応率を求める。なお、当該ポリマー重量には上記の操作で除去できなかった添加剤の重量を含めてもよい。
重合反応率(%)={(PW)/(RW)}×{サンプリング箇所の反応中間液の流量(kg/h)÷脱揮装置に入る直前の反応中間液の流量(kg/h)}÷{脱揮装置に入る直前の反応中間液の単量体重量(%)÷100}×100
【0031】
最終重合反応率(%)は、脱揮装置に入る直前の反応中間液にて、上記と同様の操作で求めることができる。また、最終重合反応率に対する、各反応器での重合割合(%)は、下記の計算により求めることができる。
「最終重合反応率に対する、ある反応器における重合割合」={その反応器から出た直後の反応中間液の重合反応率(%)-その反応器に入る直前の反応中間液の重合反応率(%)}÷最終重合率(%)×100
【0032】
脱揮工程についても特に制限はなく、最終的に最終重合反応率が、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上になるまで重合を進め、かかる未反応モノマー等の揮発分を除去するために、既知の方法にて脱揮処理する。例えば、フラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機等の通常の脱揮装置を用いることができるが、滞留部の少ない脱揮装置が好ましい。なお、脱揮処理の温度は、通常190~280℃程度であり、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸メチルとの隣接による六員環酸無水物の形成を抑制する観点から、190~260℃がより好ましい。また、脱揮処理の圧力は、通常0.13~4.0kPa程度であり、好ましくは0.13~3.0kPaであり、より好ましくは0.13~2.0kPaである。脱揮方法としては、例えば、加熱下で減圧して揮発分を除去する方法、又は揮発分除去の目的に設計された押出機等を通して除去する方法が望ましい。
【0033】
スチレン系共重合樹脂(A)を得るために重合原料を重合させる際には、重合原料組成物中に、典型的には重合開始剤及び連鎖移動剤を含有させる。重合開始剤としては、有機過酸化物、例えば、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4ービス(t-ブチルペルオキシ)バレレート等のペルオキシケタール類、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t-ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド類、t-ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類等が挙げられる。分解速度と重合速度との観点から、重合開始剤としては、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサンが好ましい。
【0034】
スチレン系共重合樹脂(A)の重合時には必要に応じて連鎖移動剤を使用することもできる。連鎖移動剤としては、例えば、αメチルスチレンリニアダイマー、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン等が挙げられる。
【0035】
例えば、スチレン系共重合樹脂(A)の原料であるスチレン、(メタ)アクリル酸、及び(メタ)アクリル酸メチルの重合時には、スチレンの2量体や3量体が生成する。このスチレンの2量体や3量体の生成量は、重合開始の方法で異なる。すなわち、重合開始剤として有機過酸化物若しくはアゾ系重合開始剤を使用した場合と、熱開始のみとした場合では、それらの生成量は異なる。スチレンの2量体や3量体の生成量は、有機過酸化物を使用する場合が最も低く、熱開始のみの場合が最も高い。スチレンの2量体や3量体は、押出機での押出時のダイス出口への目やにの付着、射出成形時の金型への目やにの付着等で不具合を生じさせる場合がある。従って、重合開始方法としては重合開始剤として有機過酸化物の使用が好ましい。スチレン系共重合樹脂(A)100質量%中のスチレンの2量体と3量体の合計量は低いほど好ましいが、より好ましくは0.7質量%以下、さらに好ましくは0.6質量%以下である。スチレンの2量体と3量体としては、1,3-ジフェニルプロパン、2,4-ジフェニル-1ブテン、1,2-ジフェニルシクロブタン、1-フェニルテトラリン、2,4,6-トリフェニル-1-ヘキセン、1-フェニル-4-(1’-フェニルエチル)テトラリン等が挙げられる。スチレンの2量体及び3量体の残存量は、ガスクロマトグラフィーにより測定できる。
【0036】
重合では、必要に応じて、重合溶媒を用いた溶液重合を採用できる。用いられる重合溶媒としては、芳香族炭化水素類、例えば、エチルベンゼン、ジアルキルケトン類、例えば、メチルエチルケトン等が挙げられ、それぞれ、単独で用いてもよいし2種以上を組み合わせて用いてもよい。重合生成物の溶解性を低下させない範囲で、他の重合溶媒、例えば、脂肪族炭化水素類等を、芳香族炭化水素類に更に混合することができる。これらの重合溶媒は、全単量体100質量部に対して、30質量部を超えない範囲で使用するのが好ましい。全単量体100質量部に対して重合溶媒が30質量部以下であれば、重合速度の低下、及び得られる樹脂の機械的強度の低下が抑制されるため好ましい。重合前に、全単量体100質量部に対して5~30質量部の割合で添加しておくことが、品質が均一化し易く、重合温度制御の点でも好ましい。
【0037】
《樹脂組成物》
本実施形態の樹脂組成物は、上記の本発明に係る実施形態のスチレン系共重合樹脂(A)とともに、ゴム変性スチレン系樹脂(B)及び/又はスチレン系樹脂(C)を含有する樹脂組成物である。換言すれば、樹脂組成物は、スチレン系共重合樹脂(A)を必須の成分として含有し、さらに、ゴム変性スチレン系樹脂(B)及びスチレン系樹脂(C)のいずれか一方、又は両方を含有する樹脂組成物である(本実施形態で用い得るゴム変性スチレン系樹脂、スチレン系樹脂を「ゴム変性スチレン系樹脂(B)」、「スチレン系樹脂(C)」とも称す。また、以下、スチレン系共重合樹脂(A)、ゴム変性スチレン系樹脂(B)、及びスチレン系樹脂(C)をそれぞれ(A)成分、(B)成分及び(C)成分とも称す)。
また、本実施形態の樹脂組成物では、樹脂組成物中のスチレン系共重合樹脂(A)、ゴム変性スチレン系樹脂(B)及びスチレン系樹脂(C)の各含有量は、任意にすることができるが、スチレン系共重合樹脂(A)、ゴム変性スチレン系樹脂(B)及びスチレン系樹脂(C)の合計含有量100質量%とするとき、スチレン系共重合樹脂(A)の含有量が1.0~50.0質量%、ゴム変性スチレン系樹脂(B)及びスチレン系樹脂(C)の合計含有量が50.0~99.0質量%であることが好ましい。
また、樹脂組成物中には上記(A)~(C)成分以外の樹脂、たとえばポリエチレンやポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどを含んでもよい。
【0038】
〈ゴム変性スチレン系樹脂(B)>
本発明におけるゴム変性スチレン系樹脂(B)は、スチレン系樹脂のマトリックス中にゴム状重合体の粒子が分散している樹脂であり、ゴム状重合体の存在下でスチレン系単量体を重合させることにより製造することができる。
【0039】
スチレン系樹脂を構成するスチレン系単量体としては、スチレンの他に、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、及びt-ブチルスチレン又はブロモスチレン、クロロスチレン、及びインデン等のスチレン誘導体が挙げられる。特に工業的観点からスチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種又は2種以上使用することができる。スチレン系樹脂は上記のスチレン系単量体単位以外の単量体単位を本発明の効果を損なわない範囲で更に含有することを排除しないが、典型的にはスチレン系単量体単位からなる。
【0040】
上記ゴム状重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体等を使用できるが、工業的観点からポリブタジエン及びスチレン-ブタジエン共重合体が好ましい。ポリブタジエンには、シス含有率の高いハイシスポリブタジエン及びシス含有率の低いローシスポリブタジエンの双方を用いることができる。また、スチレン-ブタジエン共重合体の構造としては、ランダム構造及びブロック構造の双方を用いることができる。これらのゴム状重合体は1種又は2種以上使用することができる。また、ブタジエン系ゴムを水素添加した飽和ゴムを使用することもできる。
【0041】
ゴム変性ポリスチレン系樹脂(B)中に含まれるゴム状重合体の含有量は、5~15質量%が好ましく、より好ましくは7~12質量%である。ゴム含有量が5質量%以上である場合、機械的強度が低下することを防止できる。一方ゴム状重合体の含有量が15質量%以下である場合、ゴム変性ポリスチレン系樹脂(B)を製造する時に重合系の粘度が高くなり過ぎず、また、樹脂組成物を製造しやすくすることができる。ゴム状重合体の含有量は、ゴム変性スチレン系樹脂をクロロホルムに溶解し、一塩化ヨウ素を加えてゴム成分中の二重結合を反応させた後、ヨウ化カリウムを加え、残存する一塩化ヨウ素をヨウ素に変え、チオ硫酸ナトリウムで逆滴定することにより測定することができる(一塩化ヨウ素法)。
【0042】
ゴム変性ポリスチレン系樹脂(B)中のゴム状重合体は、樹脂組成物中にゴム粒子として存在できる。この場合のゴム粒子径は0.5~5.0μm、好ましくは0.7~4.0μm、より好ましくは1.0~3.0μmである。ゴム粒子径が0.5μm以上である場合、樹脂組成物の機械的強度が良好である。また、ゴム粒子径が5.0μm以下である場合、樹脂組成物の外観が良好である。ゴム変性ポリスチレン系樹脂(B)はゴム状重合体の存在下で撹拌機付きの反応器内でスチレン系単量体を重合させて得られるが、ゴム粒子径は、撹拌機の回転数、用いるゴム状重合体の分子量等で調整することができる。本開示で、ゴム粒子径は透過型電子顕微鏡による断面観察画像から計測される値である。
【0043】
ゴム変性ポリスチレン系樹脂(B)の200℃でのメルトフローレートは、好ましくは0.5~20.0g/10min、より好ましくは1.0~18.0g/10min、更に好ましくは1.0~16.0g/10minであることができる。上記メルトフローレートが0.5~20.0g/10minの範囲であれば、混合性が良く、また機械的強度も良好である。本開示で、メルトフローレートは、ISO 1133に準拠して、200℃、荷重49Nにて測定される値である。
【0044】
ゴム変性スチレン系樹脂(B)の製造方法は特に制限されるものではないが、ゴム状重合体の存在下、スチレン系単量体(及び溶媒)を重合する塊状重合(若しくは溶液重合)、若しくはその反応途中で懸濁重合に移行する塊状-懸濁重合、ゴム状重合体の存在下、スチレン系単量体を溶媒中で重合する溶液重合、又は、ゴム状重合体ラテックスの存在下、スチレン系単量体を重合する乳化グラフト重合にて製造することができる。塊状重合においては、ゴム状重合体とスチレン系単量体、並びに必要に応じて有機溶媒、有機過酸化物、及び/又は連鎖移動剤を添加した混合溶液を、完全混合型反応器又は槽型反応器と、複数の槽型反応器とを直列に連結し構成される重合装置に連続的に供給することにより製造することができる。
【0045】
ゴム変性スチレン系樹脂(B)のトルエン不溶分の膨潤指数が8.0~14.0であり、且つトルエン不溶分中のゴム含有量に対するトルエン不溶分の質量比トルエン不溶分/トルエン不溶分中のゴム含有量)が1.5~4.0であることが好ましい。この膨潤指数は、より好ましくは9.0~13.0、更に好ましくは9.5~125であり、トルエン不溶分/トルエン不溶分中のゴム含有量の比はより好ましくは2.0~3.5、更に好ましくは2.5~3.5である。ゴム変性スチレン系樹脂(B)のトルエン不溶分の膨潤指数が8.0~14.0であり、且つトルエン不溶分/トルエン不溶分中のゴム含有量の比が1.5~4.0である場合、機械的強度に優れる樹脂が得られる。
【0046】
なお、トルエン不溶分の膨潤指数は、下記の方法で測定することができる。すなわち、沈殿管にゴム変性スチレン系樹脂を精秤し(この質量をW1とする)、トルエンを加え23℃で2時間振とう後、遠心分離機にて10℃以下、20000rpmで60分間遠心分離する。沈殿管を約45度にゆっくり傾け、上澄み液をデカンテーションして取り除く。不溶分(これはトルエンを伴った状態である)の質量を精秤し(この質量をW2とする)、引き続き、160℃、3kPa以下の条件で1時間真空乾燥し、デシケータ内で室温まで冷却後、トルエン不溶分の質量を精秤する(この質量をW3とする)。そして、下記式により、トルエン不溶分の膨潤指数を求める。
トルエン不溶分の膨潤指数=(W2/W3)
また、トルエン不溶分/トルエン不溶分中のゴム含有量比の測定は、ゴム変性スチレン系樹脂中のゴム含有量(W4:質量%)を測定し、この値からトルエン不溶分中のゴム含有量(W5(質量))を次式で求める。
トルエン不溶分中のゴム含有量(W5)=W1×W4/100
トルエン不溶分中のゴム含有量に対するトルエン不溶分の質量比(トルエン不溶分/トルエン不溶分中のゴム含有量)は次式で求める。
トルエン不溶分/トルエン不溶分中のゴム含有量=W3/W5
【0047】
〈スチレン系樹脂(C)>
スチレン系樹脂(C)は、スチレン系単量体を重合して得られる樹脂である。スチレン系樹脂を形成するために使用されるスチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。これらの中でもスチレンが好ましい。これらの単量体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
スチレン系樹脂は、スチレン系単量体を含む単量体成分を熱重合するか、あるいは単数又は複数の有機過酸化物を重合開始剤として使用して重合することにより得ることができる。有機過酸化物の具体例としては、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキシケタール類;ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン等のジアルキルパーオキサイド類;ベンゾイルパーオキサイド、m-トルオイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;ジミリスチルパーオキシジカーボネート等のパーオキシエステル類;シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類;p-メンタハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類;2,2-ビス(4,4-ジターシャリーブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジターシャリーアミルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジターシャリーブチルパーオキシシクロヘキシル)ブタン、2,2-ビス(4,4-ジクミルパーオキシシクロヘキシル)プロパン等の多官能過酸化物類等を挙げることができる。
【0049】
これらの有機過酸化物は、スチレン系単量体を含む単量体成分の重合のいずれかの工程において重合系(重合原料溶液又は重合途中の溶液)に添加される。これらの有機過酸化物は、重合原料溶液に加えられても、重合途中の溶液に必要に応じて複数回に分割して添加されてもよい。有機過酸化物の添加量は、重合原料溶液100質量部に対して、好ましくは0.0005質量部~0.2質量部であり、より好ましくは0.01質量部~0.1質量部、さらに好ましくは0.03質量部~0.08質量部である。有機過酸化物の添加量が0.0005質量部以上であると、重合開始剤添加の所望の効果を得ることができるので好ましく、他方、0.2質量部以下であると、重合時に反応熱が余り発生しなくなり、重合の制御が容易となるため好ましい。
【0050】
スチレン系単量体を含む単量体成分の重合方法としては、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等が挙げられる。これらの中でも、塊状重合又は溶液重合が好ましく、さらには、連続塊状重合又は連続溶液重合が、生産性と経済性の両面で特に好ましい。すなわち、スチレン系単量体を含む単量体成分、又は必要に応じてエチルベンゼン、トルエン、キシレン等の重合溶媒、ラジカル開始剤として有機過酸化物、連鎖移動剤、安定剤、流動パラフィン(ミネラルオイル)等の添加剤を混合、溶解した原料溶液を攪拌機付き反応機に供給し、スチレン系単量体を含む単量体成分の重合を行うことができる。重合温度は、ラジカル開始剤として有機過酸化物を用いた場合は、有機過酸化物の分解温度、生産性、反応機の除熱能力、目的としているスチレン系重合体の流動性等を考慮して、既知の技術を用いて設定することができる。重合反応機を出た重合溶液は、脱気工程として、回収装置に導かれ、加熱・減圧脱揮で溶媒と未反応単量体を除去する。回収装置は、スチレン系樹脂の製造で常用される装置、例えば、フラッシュタンクシステム、多段ベント付き押出機等を用いることができる。
スチレン系単量体を含む重合原料のための重合装置としては、完全混合型、プラグフロー型、循環装置を備えたプラグフロー型等の装置のいずれも好適に用いることができる。これらの中でも、組成分布の均一性から完全混合型重合装置が好ましい。
【0051】
〈スチレン系共重合樹脂(A)、ゴム変性ポリスチレン系樹脂(B)及びスチレン系樹脂(C)の含有量〉
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂組成物中のスチレン系共重合樹脂(A)、ゴム変性スチレン系樹脂(B)及びスチレン系樹脂(C)の各含有量は、任意にすることができる。本実施形態においては、好ましくは、スチレン系共重合樹脂(A)、ゴム変性スチレン系樹脂(B)及びスチレン系樹脂(C)の合計含有量100質量%とするとき、スチレン系共重合樹脂(A)の含有量が1.0~50.0質量%、ゴム変性スチレン系樹脂(B)及びスチレン系樹脂(C)の合計含有量が50.0~99.0質量%である。上記の範囲にすることにより、樹脂組成物の強度及び耐熱性を両立することができる。
【0052】
また、スチレン系共重合樹脂(A)、ゴム変性スチレン系樹脂(B)及びスチレン系樹脂(C)の合計含有量100質量%とするとき、ゴム変性スチレン系樹脂(B)及びスチレン系樹脂(C)の合計含有量は、60.0~90.0質量%であることがより好ましく、さらに好ましくは、70.0~80.0質量%である。また、スチレン系共重合樹脂(A)、ゴム変性スチレン系樹脂(B)及びスチレン系樹脂(C)の合計含有量100質量%とするとき、スチレン系樹脂(C)の含有量は、25.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、10.0質量%以下であり、さらに好ましくは0質量%である。
【0053】
〈樹脂組成物の物性〉
本実施形態の樹脂組成物は、落錘衝撃強度が1.8g・cm以上であることが好ましく、より好ましくは2.1g・cm以上であり、さらに好ましくは2.5g・cm以上である。落錘衝撃強度が1.8g・cm以上であることにより、スチレン系共重合樹脂(A)をリワークして得られた樹脂組成物を様々な用途において使用することができる。当該落錘衝撃強度は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0054】
《スチレン系共重合樹脂(A)、樹脂組成物に添加可能な添加剤》
〈ゲル化抑制剤〉
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂(A)や樹脂組成物は、例えば、スチレン系共重合樹脂(A)を100質量部とした際に、ゲル化抑制剤を0.05~0.3質量部含んでいてもよい。スチレン系共重合樹脂(A)や樹脂組成物は、ゲル化抑制剤を含有することで、ゲル物の生成を抑制し、シートにした際の外観をより向上させることが可能である。ゲル化抑制剤としては、特に限定されなく、例えば、脂肪族モノアルコール、及びポリオキシエチレンモノアルキルエーテル等が挙げられる。また、ゲル化抑制剤の添加方法としては特に限定されなく、例えば、スチレン系共重合樹脂(A)の重合前もしくは重合中にゲル化抑制剤を添加してもよく、スチレン系共重合樹脂(A)や樹脂組成物のペレットを得る際にゲル化抑制剤も押出機で練り込む方法等が挙げられる。
【0055】
(脂肪族モノアルコール)
脂肪族モノアルコールとしては、特に限定されなく、例えばC(炭素数)8~20の脂肪族モノアルコールが挙げられる。本実施形態において、脂肪族モノアルコールを含有することで、スチレン系共重合樹脂(A)の分子鎖中の不飽和カルボン酸系単量体(メタクリル酸等)単位の脱水縮合反応を抑え、外観により優れたスチレン系共重合樹脂(A)及び樹脂組成物を得ることができる。スチレン系共重合樹脂(A)または樹脂組成物中の脂肪族モノアルコールの含有量としては、スチレン系共重合樹脂(A)を100質量部としたとき、好ましくは0.05~0.3質量部、より好ましくは0.1~0.2質量部である。脂肪族モノアルコールの含有量が0.05質量部以上であると、外観の改善効果がより大きくなり、一方、0.3質量部以下であると、耐熱性により優れる傾向がある。また、成形時の金型汚れが低減される傾向がある。
【0056】
脂肪族モノアルコールの炭素数としては、C12~20であることが望ましい。C12以上であれば揮発性が低くなり、成形時の金型汚れが低減され、C20以下では脱水縮合反応の抑制効果が高くなり、少ない添加量でも耐熱性により優れる傾向がある。
【0057】
(ポリオキシエチレンモノアルキルエーテル)
ポリオキシエチレンモノアルキルエーテルとしては、特に限定されなく、例えば下記一般式(1)で表されるものが挙げられる。本実施形態において、ポリオキシエチレンモノアルキルエーテルを含有することによって、スチレン系共重合樹脂(A)の分子鎖中の不飽和カルボン酸系単量体(メタクリル酸等)単位の脱水縮合反応がより効果的に抑えられ、外観により優れるスチレン系共重合樹脂(A)及び樹脂組成物を得ることができる。
R-O-(CH2-CH2-O)X-H ・・・(1)
(RはC12~20のアルキル基であり、Xはエチレンオキサイドの平均付加数であり、4~12の整数である。)
【0058】
ポリオキシエチレンモノアルキルエーテルの含有量はスチレン系共重合樹脂(A)を100質量部としたとき、好ましくは0.05~0.3質量部、より好ましくは0.1~0.2質量部である。ポリオキシエチレンモノアルキルエーテルの含有量が0.05質量部以上であると、外観の改善効果がより大きくなり、一方、0.2質量部以下であると、耐熱性により優れる傾向がある。
【0059】
〈その他の添加剤〉
本実施形態のスチレン系共重合樹脂(A)や樹脂組成物は、スチレン系共重合樹脂において一般的に使用される各種添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、可塑剤、ブロッキング防止剤、フィラー、帯電防止剤、防曇剤、鉱油等が挙げられる。また、スチレン-ブタジエンブロック共重合体やMBS樹脂等の補強材についても物性を損なわない範囲で添加してもよい。配合の方法については特に限定されず、例えば、スチレン系共重合樹脂(A)の重合時に添加して重合する方法や、スチレン系共重合樹脂(A)や樹脂組成物のペレットを得る際、ブレンダーで予め添加剤を混合し、押出機やバンバリーミキサー等にて溶融混錬する方法等が挙げられる。添加量としてはスチレン系共重合樹脂(A)100質量部に対し5質量部以下であることが望ましい。
【0060】
《シート》
本実施形態のシートは、上記で説明したスチレン系共重合樹脂(A)又は樹脂組成物から構成されるシートである。シートの製造方法としては、通常知られている方法を用いることができる。例えば、本実施形態におけるシートは、上記で説明したスチレン系共重合樹脂(A)又は樹脂組成物から構成される押出シートであってもよく、上記で説明したスチレン系共重合樹脂(A)又は樹脂組成物から構成される二軸延伸シートであってもよい。
【0061】
押出シートは、非発泡シートであってもよく、発泡シートであってもよい。非発泡シートは、Tダイを取り付けた単軸又は二軸押出成形機で押し出し、その後一軸延伸機又は二軸延伸機でシートを引き取ることによって、一軸延伸シート又は二軸延伸シートにすることができる。発泡シートは、Tダイ又はサーキュラーダイを備えた押出発泡成形機を用いて製造することができる。
【0062】
非発泡シートの厚さは、例えば、0.1~1.0mm程度であることが剛性及び熱成形サイクルの観点から好ましい。また、一軸延伸シートは、通常の低倍率のロール延伸のみで形成してもよく、二軸延伸シートは、ロールで流れ方向(MD)に1.3倍から7倍程度延伸した後、テンターで垂直方向(TD)に1.3倍から7倍程度延伸することが強度の面で好ましい。また、非発泡シートは、ポリスチレン樹脂等のスチレン系樹脂やゴム変性ポリスチレン系樹脂、スチレン系樹脂やゴム変性ポリスチレン系樹脂以外の樹脂、と多層化して用いてもよい。スチレン系共重合樹脂(A)以外の樹脂としては、PET樹脂、ナイロン樹脂、ポリオレフィン系樹脂(例えばポリプロピレン)等が挙げられる。
【0063】
発泡シートの厚さは0.5mm~5.0mmであることが好ましく、見かけ密度は50g/L~300g/Lであることが好ましく、坪量は80g/m2~300g/m2であることが好ましい。発泡シートは、例えば更にフィルムをラミネートすること等によって多層化してもよい。ラミネートするフィルムの種類としては、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレン/ポリスチレンの張合せフィルム等が挙げられる。発泡シートを押出発泡する際に用いる発泡剤及び発泡核剤としては、通常用いられる物質を使用できる。発泡剤としては、例えばブタン、ペンタン、フロン、二酸化炭素、及び水等が挙げられ、ブタンが好適である。発泡核剤としては、例えばタルク等を使用できる。
【0064】
《成形品》
本実施形態の成形品は、上記で説明したシートから構成される成形品である。成形品としては、限定されないが、容器、例えば食品包装用容器、及び食品包装用容器の蓋等が挙げられる。このような容器は、例えば、真空成形により成形して製造することができる。
【0065】
上述の本実施形態のスチレン系共重合樹脂(A)及び樹脂組成物は、射出成形、圧縮成形等、目的に応じた他の成形方法で成形して、射出成形品、圧縮成形品等にすることができる。
【実施例0066】
以下、実施例により本発明の実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されものではない。
【0067】
《測定及び評価方法》
スチレン系共重合樹脂、樹脂組成物、並びにシート等の各物性の測定及び評価方法は、下記のとおりである。
【0068】
(1)メルトフローレート(MFR)の測定
スチレン系共重合樹脂を、ISO 1133に準拠して、温度200℃、荷重49Nの条件で測定した。
【0069】
(2)ビカット軟化温度(T1)の測定
スチレン系共重合樹脂を、ISO 306に準拠して、荷重50N、昇温速度50℃/hの条件で測定した。
【0070】
(3)ビカット軟化温度(T2)の測定
スチレン系共重合樹脂を、ISO 306に準拠して、荷重10N、昇温速度120℃/hの条件で測定した。
【0071】
(4)重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及びZ平均分子量(Mz)の測定
試料調製 :スチレン系共重合樹脂約0.05質量%をテトラヒドロフランに溶解した。
測定条件
機器 :TOSOH HLC-8220GPC
(ゲルパーミエイション・クロマトグラフィー)
カラム :super HZM-H
温度 :40℃
キャリア :THF 0.35mL/min
検出器 :RI 、UV:254nm
検量線 :TOSOH製の標準PS使用
【0072】
(5)スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位の含有量の測定
核磁気共鳴(13C-NMR)装置で測定したスペクトルの積分比から樹脂組成を定量した。
試料調製:スチレン系共重合樹脂75mgをd6-DMSO 0.75mLに60℃で4~6時間加熱溶解した。
測定機器:日本電子 JNM ECA-500
測定条件:測定温度60℃、観測核13C、積算回数2万回、繰返し時間45秒
【0073】
(6)総揮発成分量の測定
スチレン系共重合樹脂の質量を100質量%としたときの、スチレン系単量体、不飽和カルボン酸系単量体、不飽和カルボン酸エステル系単量体、及び溶媒の残存量の合計を総揮発成分量(質量ppm)として、ガスクロマトグラフィーにて測定した。
・試料調製:樹脂2.0gをメチルエチルケトン20mLに溶解後、更に標準物質(トリフェニルメタン)入りのメタノール5mLを加えポリマー成分を再沈させ、上澄み液を採取し、測定液とした。
・測定条件
機器:Agilent社製 6850 シリーズ GCシステム
検出器:FID
カラム:HP-1(100%ジメチルポリシロキサン)30m、
膜厚0.25μm、0.32mmφ
注入量:1μL(スプリットレス)
カラム温度:40℃で2分保持→20℃/分で320℃まで昇温→
320℃で15分保持
注入口温度:250℃
検出器温度:280℃
キャリアガス:ヘリウム
【0074】
(7)スチレンの2量体及び3量体の測定
スチレン系共重合樹脂におけるにおける、スチレンの2量体及び3量体の残存量(質量%)を、下記の条件や手順で、測定した。
・試料調製:スチレン系共重合樹脂2.0gをメチルエチルケトン20mLに溶解後、更に標準物質(トリフェニルメタン)入りのメタノール5mLを加えポリマー成分を再沈させ、上澄み液を採取し、測定液とした。
・測定条件
機器:Agilent社製 6850 シリーズ GCシステム
検出器:FID
カラム:HP-1(100%ジメチルポリシロキサン)30m、
膜厚0.25μm、0.32mmφ
注入量:1μL(スプリットレス)
カラム温度:40℃で2分保持→20℃/分で320℃まで昇温→
320℃で15分保持
注入口温度:250℃
検出器温度:280℃
キャリアガス:ヘリウム
【0075】
(8)透明性
スチレン系共重合樹脂より、鏡面処理をされた平板成形品用金型にて射出成型した2mm厚みのプレートを作製し、当該プレートを用いて、ISO14728に準拠して、曇り度(HAZE)を測定した。
【0076】
(9)シートの外観判定
スチレン系共重合樹脂又は樹脂組成物を、創研社製の25mmφ単軸シート押出機で押し出して、厚さ0.3mmのシートを作製した。該シートから8cm×20cmの大きさの試料を3枚切り出し、3枚の試料の表面において、(長径+短径)/2の平均径が1mm以上の異物であるゲル物の個数を数え、以下の評価基準で外観を判定した。
◎:ゲル物の個数が2点以下
○:ゲル物の個数が3~5点
×:ゲル物の個数が6点以上
【0077】
(10)落錘衝撃強度(g・cm)の測定
スチレン系共重合樹脂25質量部とHIPS(PSジャパン製、商品名:HT478)75質量部を30mmφの二軸押出機(創研社製)を用いて、220℃、80rpmで混練後、ペレタイズし、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を25mmφ単軸シート押出機(創研社製)にて、0.3±0.03mmのシートを作製し、東洋精機社製のデュポン衝撃試験機(No451)を用いて、落錘衝撃強度を測定した。落下重錘の質量0.2kg、撃心突端の半径6.3mm、撃心受台の半径9.4mmとし、落錘衝撃強度は50%破壊の値を、(落下重錘の質量0.2kg)×(高さcm)で求めた。
また、実施例2及び比較例1のスチレン系共重合樹脂については、上記のスチレン系共重合樹脂とHIPS(PSジャパン製、商品名:HT478)の含有量をそれぞれ変更し、スチレン系共重合樹脂を13質量部、HIPS(PSジャパン製、商品名:HT478)を87質量部として、上記と同様にシートを作製し、落錘衝撃強度を測定した。
当該落錘衝撃強度が高いほど、スチレン系共重合樹脂をリワークしても物性が低下しにくいことを意味する。それぞれの評価結果を表1に示す。
【0078】
《実施例及び比較例》
実施例及び比較例は、下記のとおりである。
〈実施例1〉
スチレン72.4質量部、メタクリル酸2.6質量部、エチルベンゼン25.0質量部、及び1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン0.02質量部からなる重合原料組成液を、0.8リットル/時の速度で、容量が3.6リットルの完全混合型反応器に供給し、重合液を3.9リットルの塔型反応器を経て、未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置へと連続的に供給した。完全混合反応器の重合温度は121℃、塔型反応器の温度を125℃から135℃に連続的に変化させ重合を実施した。単軸押出機の温度を200~250℃、圧力を10torrに設定して、未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を脱揮した。脱揮された揮発成分を-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収し、スチレン系共重合樹脂は樹脂ペレットとして回収した。完全混合型反応器での重合反応率は53.3%、最終反応率は76.1%であった。上述の分析法によって得られたスチレン系共重合樹脂(A)の物性を以下の表1に示す。
【0079】
〈実施例2〉
スチレン73.0質量部、メタクリル酸3.0質量部、エチルベンゼン24.0質量部、及び1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン0.004質量部からなる重合原料組成液を、0.8リットル/時の速度で、容量が3.6リットルの完全混合型反応器に供給し、重合液を3.9リットルの塔型反応器を経て、未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置へと連続的に供給した。完全混合反応器の重合温度は124℃、塔型反応器の温度を137℃から147℃に連続的に変化させ重合を実施した。単軸押出機の温度を200~250℃、圧力を10torrに設定して、未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を脱揮した。脱揮された揮発成分を-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収し、スチレン系共重合樹脂は樹脂ペレットとして回収した。完全混合型反応器での重合反応率は42.8%、最終反応率は79.3%であった。上述の分析法によって得られたスチレン系共重合樹脂(A)の物性を以下の表1に示す。
【0080】
〈実施例3〉
スチレン70.1質量部、メタクリル酸2.9質量部、エチルベンゼン27.0質量部、及び1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン0.004質量部からなる重合原料組成液を、0.8リットル/時の速度で、容量が1.8リットルの完全混合型反応器に供給し、重合液を5.4リットルの塔型反応器を経て、未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置へと連続的に供給した。完全混合反応器の重合温度は120℃、塔型反応器の温度を137℃から147℃に連続的に変化させ重合を実施した。単軸押出機の温度を200~250℃、圧力を10torrに設定して、未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を脱揮した。脱揮された揮発成分を-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収し、スチレン系共重合樹脂は樹脂ペレットとして回収した。完全混合型反応器での重合反応率は18.1%、最終反応率は79.7%であった。上述の分析法によって得られたスチレン系共重合樹脂(A)の物性を以下の表1に示す。
【0081】
〈実施例4〉
スチレン77.2質量部、メタクリル酸2.8質量部、エチルベンゼン20.0質量部、及び1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン0.2質量部からなる重合原料組成液を、0.8リットル/時の速度で、容量が3.9リットルの塔型反応器に供給し、次に未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置へと連続的に供給した。塔型反応器の温度を120℃から135℃に連続的に変化させ重合を実施した。単軸押出機の温度を200~250℃、圧力を10torrに設定して、未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を脱揮した。脱揮された揮発成分を-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収し、スチレン系共重合樹脂は樹脂ペレットとして回収した。最終反応率は72.3%であった。上述の分析法によって得られたスチレン系共重合樹脂(A)の物性を以下の表1に示す。
【0082】
〈実施例5〉
スチレン69.6質量部、メタクリル酸5.4質量部、エチルベンゼン27.0質量部、及び1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン0.2質量部からなる重合原料組成液を、0.8リットル/時の速度で、容量が3.6リットルの完全混合型反応器に供給し、重合液を3.9リットルの塔型反応器を経て、未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置へと連続的に供給した。完全混合型反応器の反応温度は121℃、塔型反応器の温度を120℃から135℃に連続的に変化させ重合を実施した。単軸押出機の温度を200~250℃、圧力を10torrに設定して、未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を脱揮した。脱揮された揮発成分を-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収し、スチレン系共重合樹脂は樹脂ペレットとして回収した。完全混合型反応器での重合反応率は54.9%、最終反応率は80.1%であった。上述の分析法によって得られたスチレン系共重合樹脂(A)の物性を以下の表1に示す。
【0083】
〈実施例6〉
スチレン68.7質量部、メタクリル酸5.3質量部、エチルベンゼン26.0質量部、及び1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン0.004質量部からなる重合原料組成液を、0.8リットル/時の速度で、容量が3.6リットルの完全混合型反応器に供給し、重合液を3.9リットルの塔型反応器を経て、未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置へと連続的に供給した。完全混合反応器の重合温度は122℃、塔型反応器の温度を137℃から147℃に連続的に変化させ重合を実施した。単軸押出機の温度を200~250℃、圧力を10torrに設定して、未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を脱揮した。脱揮された揮発成分を-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収し、スチレン系共重合樹脂は樹脂ペレットとして回収した。完全混合型反応器での重合反応率は41.4%、最終反応率は77.8%であった。上述の分析法によって得られたスチレン系共重合樹脂(A)の物性を以下の表1に示す。
【0084】
〈実施例7〉
スチレン68.6質量部、メタクリル酸2.6質量部、メタクリル酸メチル3.8質量部、エチルベンゼン25.0質量部、及び1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン0.02質量部からなる重合原料組成液を、0.8リットル/時の速度で、容量が3.6リットルの完全混合型反応器に供給し、重合液を3.9リットルの塔型反応器を経て、未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置へと連続的に供給した。完全混合反応器の重合温度は120℃、塔型反応器の温度を125℃から135℃に連続的に変化させ重合を実施した。単軸押出機の温度を200~250℃、圧力を10torrに設定して、未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を脱揮した。脱揮された揮発成分を-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収し、スチレン系共重合樹脂は樹脂ペレットとして回収した。完全混合型反応器での重合反応率は52.8%、最終反応率は76.4%であった。上述の分析法によって得られたスチレン系共重合樹脂(A)の物性を以下の表1に示す。
【0085】
〈比較例1〉
スチレン79.0質量部、メタクリル酸2.8質量部、エチルベンゼン18.2質量部、及び1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン0.022質量部からなる重合原料組成液を、0.8リットル/時の速度で、容量が3.6リットルの完全混合型反応器に供給し、次に未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置へと連続的に供給した。完全混合反応器の重合温度は133℃とした。単軸押出機の温度を200~250℃、圧力を10torrに設定して、未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を脱揮した。脱揮された揮発成分を-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収し、スチレン系共重合樹脂は樹脂ペレットとして回収した。最終反応率は72.2%であった。比較例1のスチレン系共重合樹脂は組成分布が不十分でありHIPSとブレンドしてリワークした場合の物性低下が大きかった。
【0086】
〈比較例2〉
スチレン75.3質量部、メタクリル酸5.5質量部、エチルベンゼン19.2質量部、及び1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン0.027質量部からなる重合原料組成液を、0.8リットル/時の速度で、容量が3.6リットルの完全混合型反応器に供給し、次に未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置へと連続的に供給した。完全混合反応器の重合温度は133℃とした。単軸押出機の温度を200~250℃、圧力を10torrに設定して、未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を脱揮した。脱揮された揮発成分を-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収し、スチレン系共重合樹脂は樹脂ペレットとして回収した。最終反応率は72.2%であった。比較例2のスチレン系共重合樹脂は組成分布が不十分でありHIPSとブレンドした場合の物性低下が大きかった。
【0087】
〈比較例3〉
スチレン65.9質量部、メタクリル酸5.1質量部、エチルベンゼン29.0質量部、及び1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン0.004質量部からなる重合原料組成液を、0.8リットル/時の速度で、容量が1.8リットルの完全混合型反応器に供給し、重合液を5.4リットルの塔型反応器を経て、未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置へと連続的に供給した。完全混合反応器の重合温度は118℃、塔型反応器の温度を137℃から147℃に連続的に変化させ重合を実施した。単軸押出機の温度を200~250℃、圧力を10torrに設定して、未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を脱揮した。脱揮された揮発成分を-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収し、スチレン系共重合樹脂は樹脂ペレットとして回収した。完全混合型反応器での重合反応率は18.7%、最終反応率は81.2%であった。上述の分析法によって得られたスチレン系共重合樹脂の物性を以下の表1に示す。比較例3のスチレン系共重合樹脂は組成分布が不十分であり透明性に劣る結果となった。
【0088】
〈比較例4〉
まず、スチレン系共重合樹脂-1を次の方法で得た。スチレン77.5質量部、メタクリル酸7.5質量部、エチルベンゼン15.0質量部、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.025質量部から成る重合原料組成液を、1.1リットル/時の速度で、容量が4リットルの完全混合型反応器に、次いで、容量が2リットルの層流型反応器から成る重合装置に、次いで、未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置に、連続的に順次供給し、樹脂を調製した。重合工程における重合反応条件は、完全混合反応器は重合温度126℃、層流型反応器は温度135℃とした。脱揮された未反応ガスは-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮して未反応液として回収し、スチレン系共重合樹脂-1を得た。得られたスチレン系共重合樹脂-1はメタクリル酸量10.1%、Mw22.1万であった。
【0089】
続いて、スチレン系共重合樹脂-2を次の方法で得た。スチレン77.4質量部、メタクリル酸3.1質量部、エチルベンゼン19.5質量部、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.028質量部から成る重合原料組成液を、1.1リットル/時の速度で、容量が4リットルの完全混合型反応器に、次いで、2リットルの層流型反応器から成る重合装置に、次いで、未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置に、連続的に順次供給し、樹脂を調製した。重合工程における重合反応条件は、完全混合反応器は重合温度133℃、層流型反応器は温度140℃とした。脱揮された未反応ガスは-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮して未反応液として回収し、スチレン系共重合樹脂-2を得た。得られたスチレン系共重合樹脂-2はメタクリル酸量4.0%、Mw20.7万であった。
得られた、スチレン系共重合樹脂-1、-2を、30mmφの二軸押出機(創研社製)を用いて、220℃、80rpmで混練後、ペレタイズし、比較例4のスチレン系共重合樹脂を得た。当該スチレン系共重合樹脂は組成分布が不十分であり透明性に劣る結果となった。
【0090】
〈比較例5〉
スチレン61.3質量部、メタクリル酸4.5質量部、エチルベンゼン34.2質量部、及び1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン0.022質量部からなる重合原料組成液を、0.4リットル/時の速度で、容量が1.8リットルの完全混合型反応器(a)に供給し、反応器(a)と並列に設置された完全混合型反応器(b)にスチレン82.8質量部、メタクリル酸6.0質量部、エチルベンゼン11.2質量部、及び2,2-ビス(4,4-ジ-ターシャリー-ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン0.022質量部からなる重合原料組成液を、0.4リットル/時の速度で、容量が1.8リットル/時供給した。反応器(a)及び反応器(b)の反応液を容積0.6リットルの塔型反応器に供給し、次に未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置へと連続的に供給した。完全混合反応器(a)の重合温度は143℃、完全混合反応器(b)の重合温度は113℃、塔型反応器の温度を130℃とした。単軸押出機の温度を200~250℃、圧力を10torrに設定して、未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を脱揮した。脱揮された揮発成分を-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収し、スチレン系共重合樹脂は樹脂ペレットとして回収した。反応器(a)の重合反応率は35.3%、反応器(b)の重合反応率は36.2%、最終反応率は74.4%であった。比較例5のスチレン系共重合樹脂はMz/Mwが大きいために外観に劣る結果となった。
【0091】
〈比較例6〉
スチレン61.8質量部、メタクリル酸10.1質量部、エチルベンゼン28.0質量部、及び1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン0.0225質量部とからなる重合原料組成液を、0.8リットル/時の速度で、容量が3.6リットルの完全混合型反応器に供給し、次に未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置へと連続的に供給した。完全混合反応器の重合温度は128℃とした。単軸押出機の温度を200~250℃、圧力を10torrに設定して、未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を脱揮した。脱揮された揮発成分を-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収し、スチレン系共重合樹脂は樹脂ペレットとして回収した。最終反応率は72.8%であった。比較例6のスチレン系共重合樹脂は含有するメタクリル酸量が多く、外観に劣る結果となった。
【0092】
〈比較例7〉
スチレン84.0質量部、エチルベンゼン16.0質量部、及び1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン0.025質量部とからなる重合原料組成液を、0.8リットル/時の速度で、容量が3.6リットルの完全混合型反応器に供給し、次に未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置へと連続的に供給した。完全混合反応器の重合温度は138℃とした。単軸押出機の温度を200~250℃、圧力を10torrに設定して、未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を脱揮した。脱揮された揮発成分を-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収し、スチレン系共重合樹脂は樹脂ペレットとして回収した。最終反応率は71.4%であった。比較例7のスチレン系共重合樹脂はメタクリル酸を含有しないため、耐熱性に劣る結果となった。
【0093】
本発明によれば、耐熱性、透明性、外観に優れ、例えばスチレン系樹脂やゴム変性スチレン系樹脂へリワークした際にも物性低下の少ないスチレン系共重合樹脂、及び、耐熱性、外観、強度に優れる樹脂組成物、並びに、それらの樹脂又は樹脂組成物から得られるシート及び食品包装容器を提供することができる。そして、本発明のスチレン系共重合樹脂及び樹脂組成物は、耐熱性、外観、強度、透明性、及び耐熱油性に優れ、それ故に、シート、更にその二次加工による成形品、例えば容器、例えば弁当、惣菜等の食品容器包装用容器の製造に好適に使用できる。また、射出成形により成形される容器等にも幅広く使用可能である。