(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153297
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】リアクトルの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 37/00 20060101AFI20231005BHJP
H01F 41/04 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H01F37/00 J
H01F37/00 M
H01F41/04 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023135089
(22)【出願日】2023-08-22
(62)【分割の表示】P 2019162656の分割
【原出願日】2019-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 龍太
(57)【要約】
【課題】モールド樹脂からコイルの一部表面を露出させるリアクトルにおいて、コイルの表面にモールド樹脂のバリが発生することを抑制する。
【解決手段】4枚の平坦面と4枚の湾曲面とが交互に配されたコイル5に対して、一枚の平坦面に上枠体6を配置する。反対の平坦面に、コイル5の筒軸に沿った一対の縦辺部71を有する下枠体7を配置する。このとき、一対の縦辺部71を、平坦面を挟むように配置し、一対の縦辺部71が密着する一方から他方の下側湾曲面53までの全横幅範囲に亘って、平坦面を露出させる。コイル5を、上枠体6及び下枠体7を介して金型で押圧する。このとき、上型で上枠体6を押圧することで、一対の縦辺部71を2枚の下側湾曲面53に密着させる。そして、金型で押圧しながら、下枠体7の枠内と上枠体6の枠内を除いて樹脂でコイル5をモールドする。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルを樹脂によってモールドしたリアクトルの製造方法であって、
4枚の平坦面と4枚の湾曲面とが交互に配された外形形状を有する筒状の前記コイルに対して、一枚の前記平坦面に上枠体を配置する上枠体配置工程と、
前記上枠体を配置する前記平坦面とは反対の前記平坦面に、前記コイルの筒軸に沿った一対の縦辺部を有する下枠体を配置する下枠体配置工程と、
前記コイルを、前記上枠体及び前記下枠体を介して、下型と上型を含む金型で押圧する押圧工程と、
前記金型で押圧しながら、前記金型内に樹脂を射出して前記コイルをモールドするコイルモールド工程と、
を含み、
前記下枠体配置工程では、前記一対の縦辺部を、前記平坦面を挟むように配置し、前記一対の縦辺部が密着する一方の前記湾曲面から他方の前記湾曲面までの全横幅範囲に亘って、前記一対の縦辺部が挟む前記平坦面を露出させ、
前記押圧工程では、前記上型で前記上枠体を押圧することで、前記一対の縦辺部を前記平坦面に隣接する2枚の前記湾曲面に密着させ、
前記コイルモールド工程では、前記下枠体の前記枠内を除いて前記樹脂でモールドすること、
を特徴とするリアクトルの製造方法。
【請求項2】
前記下枠体は、前記一対の縦辺部によって挟まれる前記平坦面と同じ高さ以上であること、
を特徴とする請求項1記載のリアクトルの製造方法。
【請求項3】
前記コイルモールド工程では、前記上枠体の枠内を更に除いて前記樹脂でモールドすること、
を特徴とする請求項1記載のリアクトルの製造方法。
【請求項4】
磁性体から成るコアに前記コイルを装着する装着工程と、
前記コアを樹脂で被覆するコアモールド工程と、
を更に備え、
前記コアモールド工程では、前記コアを被覆する前記樹脂に、前記上枠体を位置決めする位置決め部を形成すること、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のリアクトルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルを樹脂によってモールドしたリアクトルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リアクトルは、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池車の駆動システム等をはじめ、種々の用途で使用されている。例えば、リアクトルは、車載用の昇圧回路に用いられている。リアクトルとしては、コアとコイルの外周を樹脂によって被覆した樹脂モールドタイプが各所で使用されている。この種のリアクトルでは、放熱性を確保するため、コイルの表面の一部をモールド樹脂で覆うことなく、露出させることがある。コイルの表面を露出させるために、コイル表面に金型を押し付けた状態でその周囲にモールド樹脂を充填させる案が提案されている(特許文献1乃至3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5869518号公報
【特許文献2】特開2015-130410号公報
【特許文献3】特開2018-011019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コイルは、巻軸に沿って1ターンごとに巻き位置をずらしながら導電線を螺旋状に巻回して筒状に作成され、4枚の平坦面と4枚の湾曲面とが交互に配された外形形状を有する。製造精度上の理由から、コイルの表面には凹凸が存在し、必ずしも表面が平滑面にはなっていない。そのため、金型にコイルを密着させようとしても、金型とコイルの表面の間に隙間が発生する。そうすると、この隙間から樹脂が侵入して、露出させようとした表面にバリが発生する虞がある。
【0005】
放熱性を高めるためには、コイルの平坦面のみならず、湾曲面も露出させることが有用ではあるが、コイルの湾曲面には、1ターン中に一定の曲率を維持し、また全ターンで同じ曲率とする必要があるため、特に凹凸が発生し易く、凹凸も大きくなり易い。そのため、モールド樹脂からの露出を湾曲面にまで及ぼし難い。
【0006】
バリの発生を抑制するため、金型をコイルの表面に強く押し付けることが考えられる。金型をコイルの表面に強く押し付けることで、金型とコイル表面との隙間をなくしたり、金型によってコイル表面の捻れを矯正できる。
【0007】
しかし、金型をコイルの表面に強く押し付けると、コイルを傷付けたり、コイルの導電線の被覆を破損させて絶縁性を損なうなどの問題が発生する。このように、コイルの一部表面を除き、モールド樹脂でコイルを被覆する樹脂モールドタイプのリアクトルにおいては、コイルを傷付けることなく、しかもバリの発生を抑止することが要求されていたが、前記の従来技術では、このような要望に応えることはできなかった。
【0008】
本発明は前記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものである。本発明の目的は、モールド樹脂からコイルの一部表面を露出させるリアクトルの製造方法において、コイルの表面にモールド樹脂のバリが発生することを抑制する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のリアクトルは、磁性体から成るコアと、前記コアに装着され、4枚の平坦面と4枚の湾曲面とが交互に配された外形形状を有する筒状のコイルと、前記コイルの表面に配置される枠体と、前記枠体の枠内を除いて前記コイルを被覆するモールド樹脂と、を備え、前記枠体は、前記コイルの筒軸に沿った一対の縦辺部を有し、前記一対の縦辺部は、1枚の前記平坦面を挟み、当該平坦面に隣接する2枚の前記湾曲面に密着し、前記コイルは、前記一対の縦辺部が密着する一方の前記湾曲面から他方の前記湾曲面までの全横幅範囲に亘って、前記一対の縦辺部が挟む前記平坦面を前記モールド樹脂から露出させていること、を特徴とする。
【0010】
前記一対の縦辺部が挟む前記平坦面は、第1の平坦面であり、前記第1の平坦面と直交する前記平坦面は、第2の平坦面であり、前記枠体の前記縦辺部は、前記コイルの前記湾曲面と密着する密着面と、前記密着面と隣接し、前記コイルの筒軸に沿って延び、前記密着面から離れる方向に拡がる、前記第2の平坦面側の端面と、前記端面と隣接し、前記密着面の反対面となる外面と、を有し、前記端面は、前記モールド樹脂と覆われ、前記モールド樹脂の表面に達する長さ以上を有し、前記外面は、前記モールド樹脂に覆われていないようにしてもよい。
【0011】
前記端面は、前記モールド樹脂の表面に達する長さを有し、前記外面は、前記モールド樹脂の表面と面一であるようにしてもよい。
【0012】
前記密着面と前記端面とが成す角度が概略直角であり、前記端面と前記外面とが成す角度が概略直角であるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金型でコイルを直接加圧するとバリが発生し易い湾曲面にまでコイルの露出領域を拡げたとしても、バリの発生を抑制でき、放熱性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係り、各部を被覆する部材を省いて示したリアクトルの斜視図である。
【
図2】コアを被覆するコア被覆樹脂を示す斜視図である。
【
図5】リアクトルの上面斜視図であり、リアクトル本体を被覆するモールド樹脂を省いた図である。
【
図6】リアクトルの下面斜視図であり、リアクトル本体を被覆するモールド樹脂を省いた図である。
【
図8】コイルの端面と横辺部を拡大した斜視図であり、リアクトル本体を被覆するモールド樹脂を省いた図である。
【
図9】リアクトル本体を被覆するモールド樹脂の形成過程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(構成)
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るリアクトルについて説明する。
図1は、本実施形態のリアクトルの斜視図であり、説明の都合上、各部を被覆する部材を省いて示してある。リアクトル100は、例えばハイブリッド自動車、電気自動車及び燃料電池車の駆動システム等に組み込まれ、昇圧回路等に使用される。このリアクトル100は、リアクトル本体10を備えている。リアクトル本体10は、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄積及び放出する電磁気部品であり、2つのコイル5,5とコア1とを備えている。
【0016】
コア1は、圧粉磁心、フェライト磁心又は積層鋼板等の磁性体から成り、環形状を有する。コイル5は、銅線等の導電線による筒状の巻回体であり、巻き軸に沿って1ターンごとに巻位置をずらしながら螺旋状に導電線を巻回することで形成される。2つのコイル5,5は、コア1と絶縁されつつ、1つのコア1に横並びになって嵌まっている。このリアクトル100において、コイル5に電流が導通すると、コア1は、コイル5が発生させた磁束の通り道となって閉じた磁気回路を形成する。
【0017】
コイル5は、筒軸と平行な4枚の湾曲面と4枚の平坦面を交互につなぎ合わせた外形形状を有する。即ち、コイル5は、コア1の環状形状が現れる面と平行な平坦面である上面51を有し、また上面51とは反対に平坦な下面52を有する。コイル5は、上面51と下面52と直交する平坦面である側面54を有する。コイル5は、下面52と側面54との間に下側湾曲面53を有する。コイル5は、巻き始め及び巻き終わりに位置し、中心をコア1が通り、筒軸と直交する環状の端面55を有する。
【0018】
尚、コイル5における平坦面とは、湾曲面との相対的な比較において平坦な面であり、導電線の巻き膨らみによって緩やかな曲率で大きな弧を描いた面も平坦面に含まれる。上下は、モールド成型によってリアクトル本体10を被覆する際に、リアクトル本体10を収容する上型と下型に倣ったものであり、リアクトル100が設置対象の実機に搭載された際の位置関係や方向を指すものではない。
【0019】
このようなリアクトル100は、
図2乃至
図4に示すように、各部がコア被覆樹脂2、モールド樹脂4で被覆されている。コア被覆樹脂2及びモールド樹脂4は、一定の形を保持する成形品であり、絶縁性及び耐熱性を備えている。例えば、コア被覆樹脂2及びモールド樹脂4は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、BMC(Bulk Molding Compound)、PPS(Polyphenylene Sulfide)、PBT(Polybutylene Terephthalate)、又はこれらの複合が材質として用いられている。コア被覆樹脂2及びモールド樹脂4は、は同種の材質により成るものであってもよいし、異なる材質により成るものであってもよい。コア被覆樹脂2及びモールド樹脂4に熱伝導性のフィラーを混入させてもよい。
【0020】
図2は、コア被覆樹脂2を示す斜視図である。
図2に示すように、リアクトル本体10は、コア1及びコイル5,5に加えて、コア被覆樹脂2を備えている。コア被覆樹脂2は、コア1を被覆している。コイル5,5は、コア被覆樹脂2の上からコア1に嵌め込まれており、このコア被覆樹脂2によってコイル5,5とコア1とは絶縁されている。
【0021】
図3はモールド樹脂4を示す上面斜視図であり、
図4はモールド樹脂4を示す下面斜視図である。
図3及び
図4に示すように、リアクトル100はモールド樹脂4を備えており、モールド樹脂4は、コイル5,5を含めてリアクトル本体10を被覆している。このモールド樹脂4は、リアクトル本体10を金型に収容し、樹脂を金型内に射出して固化することで、リアクトル本体10を被覆するように形成される。
【0022】
その他、
図3に示すように、このリアクトル100にはセンサ部3が設置されている。センサ部3は、例えば温度を検出するサーミスタである。また、モールド樹脂4には、コイル5,5と電気回路とを接続するための端子44が設けられ、リアクトル100の設置対象に固定するための締結孔45が形成されている。
【0023】
図3及び
図4に示すように、コイル5,5は、全表面がモールド樹脂4によって被覆されるのではなく、表面の一部がモールド樹脂4から露出している。各コイル5,5の上面51には、モールド樹脂4で被覆されていない開口56が形成されており、各コイル5,5の下面52には、モールド樹脂4で被覆されていない開口57が形成されている。
【0024】
詳細には、リアクトル100は、枠内が開口した上枠体6と下枠体7とをコイル5,5の表面に配置している。上枠体6は各コイル5,5の上面51に1枚ずつ設置される。下枠体7は、各コイル5,5の下面52の全横幅範囲を枠内に含めるように1枚ずつ設置される。下面52の横幅とは、コイル5の筒軸と直交する方向をいう。モールド樹脂4は、上枠体6及び下枠体7の外周囲を隙間無く埋め、但し上枠体6と下枠体7の枠内には侵入せず、リアクトル本体10を被覆している。
【0025】
このモールド樹脂4を阻む上枠体6と下枠体7とにより、各コイル5,5は、上面51側に開口56を有し、下面52側に開口57を有する。上面51側の開口56は、上面51内に収まっている。下面52側の開口57は、一方の下側湾曲面53から他方の下側湾曲部53までの全幅範囲に亘って、下面52を露出させている。更に、下面52側の開口57は、コイル5の筒軸と直交する幅方向において、下面52に加えて、下側湾曲部53の一部もモールド樹脂4から露出させている。
【0026】
上枠体6及び下枠体7は、一定の形を保持する成形品であり、モールド樹脂4を形成するモールド成型過程で受ける熱に対しては軟化し難い耐熱性、及び絶縁性を備えている。例えば、上枠体6及び下枠体7の材質は、PPS(Polyphenylene Sulfide)、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、BMC(Bulk Molding Compound)、PPS(Polyphenylene Sulfide)、PBT(Polybutylene Terephthalate)、又はこれらの複合である。上枠体6及び下枠体7は、同種の材質により成るものであってもよいし、異なる材質により成るものであってもよい。上枠体6及び下枠体7の材料に熱伝導性のフィラーを混入させてもよい。
【0027】
図5はリアクトル100の上面斜視図であり、モールド樹脂4を省いた図である。
図5に示すように、上枠体6は、外形及び内周形状が長円状の板であり、コイル5の上面51に収まる大きさを有する。上枠体6には、円形孔62を有する細長い板状の舌片部61が延設されている。上枠体6は2片の舌片部61を有する。舌片部61は、上枠体6の対角に設けられ、長円状の板と平行に延ばされている。
【0028】
コア1を被覆するコア被覆樹脂2には、上枠体6の位置決め部となるピン21が立設されている。上枠体6は、舌片部61の円形孔62がピン21に嵌め込まれることで位置決めされ、コイル5の上面51に設置される。モールド樹脂4は、上枠体6の外周側面を隙間無く埋め、更に、上枠体6の枠内及び上枠体6の内周縁を除き、上枠体6の外周縁に覆い被さるようにして、コア5を被覆している(
図3参照)。
【0029】
図6はリアクトル100の下面斜視図であり、モールド樹脂4を省いた図である。
図6に示すように、下枠体7は、概略長方形形状を有する。下枠体7は、一辺がコイル5の軸方向長さと同じであり、当該一辺と直交する他辺が下面52を完全に横断し、両下側湾曲面53に及ぶ。ここで、コイル5の軸に沿った方向を縦と呼び、コイル5の軸と直交する方向を横と呼ぶが、リアクトル100が設置対象の実機に搭載された際の位置関係や方向を指すものではない。
【0030】
各下枠体7は、コイル5の軸方向に沿って延びる縦辺部71を一対有し、またコイル5の軸と直交して延びる横辺部72を一対有する。縦辺部71は、モールド樹脂4から露出する露出平坦面である下面52を挟んで延びる。縦辺部71はコイル5の軸方向長さと同長である。そして、縦辺部71はコイル5の下側湾曲面53に密着する。横辺部72は、コイル5の端面55に沿って当該端面55を完全に横断する。
【0031】
図7は、コイル5とモールド樹脂4を含む縦辺部71の断面図である。
図7に示すように、縦辺部71は、湾曲部73と垂直部74とを有する。この湾曲部73が下側湾曲面53に密着する。垂直部74は、湾曲部73の下端部から延び、コイル5の下面52が拡がる平面に対して垂直に延びる。湾曲部73と垂直部74は継ぎ目無く一繋ぎになっている。また、湾曲部73は、垂直部74との接続域及び横辺部72との接続域を除き、密着面731と上側端面732と外面733とによって画成されている。縦辺部71周りに一周すると、密着面731、密着面731に続き上側端面732、上側端面732に続き外面733、外面733に続き垂直部74、垂直部74に続き密着面731となる。
【0032】
密着面731は、下枠体7の内周面である。この密着面731は、コイル5の下側湾曲面53の一部円弧範囲と一致して湾曲している。上側端面732は、密着面731と隣接する上側の端面である。上側端面732は、密着面731と隣接し、下面52と直交する直交平坦面である側面54側に位置し、コイル5の筒軸に沿って延び、そして下側湾曲面53から離れる方向に拡がる。外面733は、上側端面732と隣接し、下枠体7の外周面を構成する。外面733は密着面731の反対面である。
【0033】
密着面731は、下側湾曲面53と密着する。上側端面732は、モールド樹脂4によって全域が完全に覆われる。外面733は、モールド樹脂4に覆われずに露出する。即ち、上側端面732の幅d1はモールド樹脂4の肉厚d2に等しく、モールド樹脂4の表面に達する。外面733は、モールド樹脂4と段差無く繋がり、モールド樹脂4と所謂面一になっている。上側端面732の幅は、下側湾曲面53から離れる方向の長さである。上側端面732と比較されるモールド樹脂4の肉厚は、湾曲部73との接続部分であり、他の厚みはこれに限らない。
【0034】
密着面731と上側端面732とが成す角度は概略直角であり、また上側端面732と外面733とが成す角度は概略直角である。これら概略直角は、上側端面732と外面733との境界部に作用する外力が、密着面731と上側端面732との境界部に効率良く伝達される角度である。即ち、概略直角とは、下側湾曲面53に沿って密着面731が矯正され、且つ後述するように、モールド樹脂4の射出圧による密着面731と下側湾曲面53との離間を阻止できればよく、90度を挟んだ所定の角度範囲を意味する。
【0035】
垂直部74は、コイル5の下面52が拡がる平面に対して垂直に延びる。開口57が深さを有するように、垂直部74は下面72よりも突出している。尚、モールド樹脂4は湾曲部73の上側端面732で堰き止められており、湾曲部73の外面733にも及んでおらず、垂直部74に及んではいない。
【0036】
図8はコイル5の端面55と横辺部72を拡大した斜視図であり、モールド樹脂4を省いた図である。
図8に示すように、横辺部72は、壁部75と縁部76とを有する。壁部75は、コイル5の端面55と平行に拡がり、縁部76は、逆さま及び裏返しになったL字形状を有する。壁部75と縁部76は継ぎ目無く一繋ぎになっており、また縁部76は、両側端で縦辺部71に継ぎ目無く一繋ぎに接続している。
【0037】
壁部75は、コイル5の端面55に沿って拡がる。この壁部75は、端面55と密着していてもよいし、小さな隙間を有して近接していてもよい。壁部75は、コイル5の下面52と両下側湾曲面53の下部に沿った概略弧の部分と、当該弧の両端を結んだ弦とで囲まれる弓形形状を有する。弦の位置は、コア1を被覆するコア被覆樹脂2に及ばない。
【0038】
縁部76は、コイル5と密着する密着部761を有する。密着部761は、コイル5の下面52のうち、端面55側の縁全域、及び両下側湾曲面53のうち、端面55側の一部縁領域に密着する。また、縁部76は、コイル5の下面52が拡がる平面に対して垂直に延びる垂直部762を有する。
【0039】
垂直部762は、開口57が深さを有するように、下面72よりも突出し、縦辺部71の垂直部74と同一高さまで延びる。そして、このような横辺部72は、下枠体7の枠内周面を構成する部分と垂直部74の端面を除き、モールド樹脂4によって覆われる。
【0040】
(作用)
図9は、モールド樹脂4の形成過程を示す模式図である。
図9に示すように、下型K1に下枠体7がセットされ、次に下枠体7にリアクトル本体10がセットされる。下枠体7が備える縦辺部71及び横辺部72の垂直部74及び垂直部762は、下面52より高く、コイル5は下型K1に対して浮いている。リアクトル本体10には上枠体6が予めセットされている。下枠体7にリアクトル本体10をセットした後、上型をリアクトル本体10に被せ、モールド樹脂4を注入する。上型は、上枠体6よりも一回り小さい押圧部を有しており、上枠体6を介してリアクトル本体10を下型K1へ向けて押圧する。
【0041】
下型K1は、下枠体7の支持部K2を備えている。支持部K2は、下枠体7の縦辺部71が備える湾曲部73を外面733に当接する。この支持部K2は、上側端面732と外面733との境界を越えて延びており、上側端面732と外面733との境界を含んで外面733に当接する。一方、上型は、下型K1と密着させたとき、上枠体6の表面でリアクトル本体10を下型K1に向けて押圧する。
【0042】
下枠体7をセットさせるとき、この支持部K2に外面733を当接させるようにセットする。続いてリアクトル本体10をセットし、上型と下型K1とを密着させると、上型が押圧体と上枠体6とを介して、リアクトル本体を下型K1に向けて加圧する。そうすると、支持部K2とコイル5とに挟まれた湾曲部73がコイル5側へ向けて押し潰される。そのため、密着面731と下側湾曲面53は隙間なく密着する。
【0043】
ここで、下枠体7にリアクトル本体10をセットするとき、下枠体7の横辺部72が備える壁部75が、下枠体7とリアクトル本体10との位置関係を位置決めする。そのため、密着面731は全範囲で下側湾曲面53と密着し、局所的な隙間も抑制されている。
【0044】
モールド樹脂4が注入されると、モールド樹脂4はコイル5と支持部K2とで画成された隙間に流れ込み、上側端面732に到達する。密着面731と上側端面732とが成す角度及び上側端面732と外面733とが成す角度は、共に直角であり、支持部K2が外面733に与えている外力は、効率良く密着面731に伝わっており、密着面731と下側湾曲面53とは強固に密着している。そのため、モールド樹脂4は、射出圧によっても密着面731と下側湾曲面53との間に入り込むことができず、バリの発生は抑制されている。
【0045】
しかも、上側端面732はモールド樹脂4の表面に達する長さを有し、外面733はモールド樹脂4の表面と面一である。換言すれば、モールド樹脂4を成型する下型K1の一部である支持部K2は、上側端面732と外面733との境界を含んで外面733に当接しているものである。従って、密着面731と下側湾曲面53との境界にも大きな加圧力が作用しており、少なくとも密着面731と下側湾曲面53との間の入口は強く閉じられている。そのため、モールド樹脂4は、射出圧によっても密着面731と下側湾曲面53との間に更に入り込むことができず、バリの発生は更に抑制されている。
【0046】
尚、密着面731と上側端面732とが成す角度を鈍角側とした場合、支持部K2によって上側端面732と外面733との境界を加圧する力は、梃子の原理によって密着面731と下側湾曲面53との境界により強く作用する。但し、密着面731と下側湾曲面53との境界に作用する射出圧も大きくなる。また、密着面731と上側端面732とが成す角度を鋭角側とした場合、支持部K2によって上側端面732と外面733との境界を加圧する力は、密着面731と下側湾曲面53との境界が遠くなることにより弱めに作用する。但し、密着面731と下側湾曲面53との境界に作用する射出圧は小さくなる。
【0047】
従って、密着面731と上側端面732とが成す角度及び上側端面732と外面733とが成す角度が共に直角であることが、最もバランスが採れて望ましいが、モールド樹脂4の射出圧に応じて、厳密な直角から鈍角側又は鋭角側としてもよい。例えば、上側端面732を上面51及び下面52と平行になるように延ばしてもよい。
【0048】
ここで、下枠体7が備える縦辺部71及び横辺部72の垂直部74及び垂直部762は、下面52より高く、コイル5は下型K1に対して浮いているが、下枠体7は、PPS樹脂等であり、モールド樹脂4を形成するモールド成型過程で受ける熱に対しては軟化し難い耐熱性を備えている。
【0049】
従って、モールド成型過程で軟化せず、コイル5と下型K1とを離間させ続け、クッション材としての役割を十分に果たしている。また、モールド成型過程で軟化していないので、支持部K2からの外力を分散及び吸収させずに、密着面731に伝達し、密着面731を上側端面732に密着させている。
【0050】
離型させるとき、上枠体6の上面外縁域はモールド樹脂4で被覆されており、上枠体6は、コイル5の上面51に載置するだけで、リアクトル100側に装着されることとなる。
【0051】
(効果)
(1)以上のように、このリアクトル100は、コイル5の表面に配置される下枠体7と、下枠体7の枠内を除いてコイル5を被覆するモールド樹脂4とを備える。この下枠体7は、コイル5の筒軸に沿った一対の縦辺部71を有する。一対の縦辺部71は、下面52を挟んで延び、下面52に隣接する2枚の下側湾曲面53に密着するようにした。そして、コイル5は、一対の縦辺部71が密着する一方の下側湾曲面53から他方の下側湾曲面53までの全横幅範囲に亘って、一対の縦辺部71が挟む下面52をモールド樹脂4から露出させているようにした。
【0052】
これにより、金型でコイル5を直接加圧するとバリが発生し易い湾曲面にまでコイル5の露出領域を拡げたとしても、バリの発生を抑制でき、放熱性にも優れる。
【0053】
(2)また、下枠体7の縦辺部71は、密着面731と上側密着面732と外面733とを有するようにした。密着面731は、コイル5の下側湾曲面53と密着する。上側端面732は、密着面731と隣接し、コイル5の筒軸に沿って延び、密着面731から離れる方向に拡がる。外面733は、上側端面732と隣接し、密着面731の反対面となる。そして、上側端面732は、モールド樹脂4と覆われ、モールド樹脂4の表面に達する長さ以上を有し、外面733は、モールド樹脂4に覆われていないようにした。
【0054】
これにより、支持部K2は上側端面732と外面733との境界を含んで外面733に当接し、密着面731と下側湾曲面53との境界にも大きな加圧力が作用する。そのため、密着面731と下側湾曲面53との間の入口は強く閉じられ、バリの発生は更に抑制される。尚、本実施形態では、上側端面732は、モールド樹脂4の表面に達する長さとしたが、モールド樹脂4の表面に達する長さ以上であれば、支持部K2は上側端面732と外面733との境界を含んで外面733に当接する。従って、上側端面732はモールド樹脂4の表面に達する長さ以上であればよい。
【0055】
(3)また、密着面731と上側端面732とが成す角度が概略直角であり、上側端面732と外面733とが成す角度が概略直角であるようにした。概略直角は、90°から鋭角側に傾いた角度、90°から鈍角側に傾いた角度が含まれる。例えば、上側端面732が下面52と平行となる角度であってもよい。
【0056】
これにより、支持部K2が外面733に与えている外力は、効率良く密着面731に伝わっており、密着面731と下側湾曲面53とは強固に密着する。そのため、モールド樹脂4は、射出圧によっても密着面731と下側湾曲面53との間に入り込むことができず、バリの発生は抑制される。
【0057】
(4)また、下枠体7は、PPS樹脂により成るようにした。尚、PPS樹脂は、モールド樹脂4を形成するモールド成型過程で受ける熱に対しては軟化し難い耐熱性を備えている樹脂の例示である。
【0058】
これにより、下枠体7は、モールド成型過程で軟化せず、クッション材としての役割を十分に果たすとともに、支持部K2からの外力を分散及び吸収させずに、密着面731を上側端面732に密着させることができる。
【0059】
(5)また、下枠体7は、一対の縦辺部71によって挟まれる下面52と同じ高さ以上であるようにした。これにより、リアクトル100をギャップフィラーや放熱シート等の冷却部材に設置する際、下枠体7はリアクトル100の位置決めの機能を果たし、効率良くリアクトル100を冷却することができる。
【0060】
(6)また、上枠体6を更に備え、モールド樹脂4は、前記上枠体6の枠内を更に除いてコイル5を被覆し、コイル5は、上面51の少なくとも一部をモールド樹脂4から更に露出させているようにした。これにより、リアクトル100の放熱面積が向上する。また、コイル5を傷つけることなく、上型でリアクトル本体10を加圧する切っ掛けにもなる。
【0061】
(7)この上枠体6は、舌片部61等の位置決め部を備えるようにした。これにより、金型からリアクトル100を離型させたとき、上枠体6を容易にリアクトル100側に残すことができる。
【0062】
以上、本実施形態では、下型K1に設置する下枠体7を例に採って説明した。但し、上枠体6を下枠体7と同じ構成とし、上型に支持部K2を設けるようにしても、同じ効果を得ることができる。上枠体6や下枠体7以外にも、コイル5の側面54に下枠体7と同じ構成の枠体を設置しても、同じ効果を得ることができる。
【0063】
即ち、コイル5の下面52、上面51及び側面54の何れかの表面に配置される枠体を設置し、この枠体は、コイル5の筒軸に沿った一対の縦辺部71を有するようにし、一対の縦辺部71は、枠体が設置した平坦面を挟んで延び、枠体が設置した平坦面に隣接する2枚の湾曲面に密着するようにすればよい。
【0064】
これにより、金型でコイル5を直接加圧するとバリが発生し易い湾曲面にまでコイル5の露出領域を拡げたとしても、バリの発生を抑制でき、放熱性にも優れる。更に、各方面に枠体を設置してもよく、それだけ放熱効果を得ることできる。
【0065】
(他の実施形態)
本発明の実施形態は例として提示したものであって、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。そして、実施形態やその変形は本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0066】
100 リアクトル
10 リアクトル本体
1 コア
2 コア被覆樹脂
21 ピン
3 センサ部
4 モールド樹脂
44 端子
45 締結孔
5 コイル
51 上面
52 下面
53 下側湾曲面
54 側面
55 端面
56 開口
57 開口
6 上枠体
61 舌片部
62 円形孔
7 下枠体
71 縦辺部
72 横辺部
73 湾曲部
731 密着面
732 上側端面
733 外面
74 垂直部
75 壁部
76 縁部
761 密着部
762 垂直部
K1 下型
K2 支持部