(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153311
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】建材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 44/24 20060101AFI20231005BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20231005BHJP
B29C 48/21 20190101ALI20231005BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20231005BHJP
B29C 48/07 20190101ALI20231005BHJP
【FI】
B29C44/24
B29C44/00 E
B29C48/21
B29C48/305
B29C48/07
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023135318
(22)【出願日】2023-08-23
(62)【分割の表示】P 2019064516の分割
【原出願日】2019-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】金森 博之
(72)【発明者】
【氏名】樹神 真
(57)【要約】
【課題】人体接触時の温熱感を低減できるとともに高い硬度と耐摩耗性を有する建材およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】基材層と、前記基材層の表面に形成され、空孔と樹脂を有して構成される多孔質層と、前記多孔質層の表面に形成され、少なくとも樹脂を有し、前記多孔質層よりも樹脂リッチに構成される表面層と、からなり、前記多孔質層が、前記基材層と、前記表面層と、の間に介在してなる三層構造を有する建材の製造方法であって、前記三層を共押出成形して製造する、建材およびその製造方法を提供する。また、前記表面層にはその表面にエンボス加工が施されていてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、
前記基材層の表面に形成され、空孔と樹脂を有して構成される多孔質層と、
前記多孔質層の表面に形成され、少なくとも樹脂を有し、前記多孔質層よりも樹脂リッチに構成される表面層と、からなり、
前記多孔質層が、前記基材層と、前記表面層と、の間に介在してなる三層構造を有する建材の製造方法であって、
前記三層を三層共押出成形して製造し、
前記多孔質層の熱浸透率は、288J/(m2・s1/2・K)以下であり、
前記多孔質層の発泡倍率は、1.3~2.2倍である、建材の製造方法。
【請求項2】
基材層と、
前記基材層の表面に形成され、中空充填剤と樹脂を有して構成される多孔質層と、
前記多孔質層の表面に形成され、少なくとも樹脂を有し、前記多孔質層よりも樹脂リッチに構成される表面層と、からなり、
前記多孔質層が、前記基材層と、前記表面層と、の間に介在してなる三層構造を有する建材の製造方法であって、
前記基材層と、前記中空充填剤と前記樹脂との混合層と、の二層を共押出成形すると同時に、金型中に設けられた整流板によって前記混合層を前記多孔質層と前記表面層に分離することで前記建材を三層構造として製造し、
前記多孔質層の熱浸透率は、288J/(m2・s1/2・K)以下であり、
前記多孔質層の発泡倍率は、1.3~2.2倍である、建材の製造方法。
【請求項3】
基材層と、
前記基材層の表面に形成され、中空充填剤と樹脂を有して構成される多孔質層と、
前記多孔質層の表面に形成され、少なくとも樹脂を有し、前記多孔質層よりも樹脂リッチに構成される表面層と、からなり、
前記多孔質層が、前記基材層と、前記表面層と、の間に介在してなる三層構造を有する建材の製造方法であって、
前記中空充填剤と前記樹脂との混合層と、前記基材層と、の二層を下からこの順に積層するように共押出成形して製造し、
前記多孔質層の熱浸透率は、288J/(m2・s1/2・K)以下であり、
前記多孔質層の発泡倍率は、1.3~2.2倍である、建材の製造方法。
【請求項4】
基材層と、
前記基材層の表面に形成され、空孔と樹脂を有して構成される多孔質層と、
前記多孔質層の表面に形成され、少なくとも樹脂を有し、前記多孔質層よりも樹脂リッチに構成される表面層(ただし、スキン層を除く。)と、からなり、
前記多孔質層が、前記基材層と、前記表面層と、の間に介在してなる三層構造を有する建材であって、
前記三層は三層共押出成形されて製造され、
前記多孔質層の熱浸透率は、288J/(m2・s1/2・K)以下であり、
前記多孔質層の発泡倍率は、1.3~2.2倍である、建材。
【請求項5】
基材層と、
前記基材層の表面に形成され、中空充填剤と樹脂を有して構成される多孔質層と、
前記多孔質層の表面に形成され、少なくとも樹脂を有し、前記多孔質層よりも樹脂リッチに構成される表面層と、からなり、
前記多孔質層が、前記基材層と、前記表面層と、の間に介在してなる三層構造を有する建材であって、
前記基材層と、前記中空充填剤と前記樹脂との混合層と、の二層が共押出成形されると同時に、金型中に設けた整流板によって前記混合層が前記多孔質層と前記表面層に分離されることで三層構造とされて製造され、
前記多孔質層の熱浸透率は、288J/(m2・s1/2・K)以下であり、
前記多孔質層の発泡倍率は、1.3~2.2倍である、建材。
【請求項6】
基材層と、
前記基材層の表面に形成され、中空充填剤と樹脂を有して構成される多孔質層と、
前記多孔質層の表面に形成され、少なくとも樹脂を有し、前記多孔質層よりも樹脂リッチに構成される表面層(ただし、スキン層を除く。)と、からなり、
前記多孔質層が、前記基材層と、前記表面層と、の間に介在してなる三層構造を有する建材であって、
前記中空充填剤と前記樹脂との混合層と、前記基材層と、の二層が下からこの順に積層されるように共押出成形されて製造され、
前記多孔質層の熱浸透率は、288J/(m2・s1/2・K)以下であり、
前記多孔質層の発泡倍率は、1.3~2.2倍である、建材。
【請求項7】
前記表面層には、表面にエンボス加工が施される、請求項4~6に記載の建材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
居住空間等を構成する建材は、夏場の日照を長時間受けると表面が高温となり、あるいは冬場に冷たい空気にさらされることで低温になる。このような場合には建材に手足等肌で触れた際に熱くて直接肌で触れていられないために何らかの衣類等を身に着けて触れる必要がある等、不便性を感じるという問題があった。
【0003】
特許文献1には、基材の表層に多孔質構造の断熱層を設けることで、接触温熱感を改善した建材が開示されている。しかしながらこのような建材においては、多孔質構造中の空隙比率を高くするほど断熱性能が向上する代わりに建材としての硬度が低下するという問題があるが、建材として有用な断熱性能と硬度の両方を満たす空隙比率の範囲は明確にされていない。
【0004】
特許文献2には、化学発泡剤を用いて多孔質構造を構成する技術が開示されている。特許文献2では、化学発泡剤の発泡倍率を特定することで、好ましい熱伝導率と硬度を両立させる材料および空隙比率を実現している。さらに特許文献2には、多孔質構造の層のさらに表層に、多孔質層よりも密度の高いスキン層を有する構造が開示されている。このスキン層によって硬度が高くなり、さらに摩耗に強い性質となることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-133074号公報
【特許文献2】特開2014-129511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、人体接触時の温熱感を低減できるとともに高い硬度と耐摩耗性を有する建材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、基材層(例えば、後述の基材層2)と、前記基材層の表面に形成され、空孔と樹脂を有して構成される多孔質層(例えば、後述の多孔質層3)と、前記多孔質層の表面に形成され、少なくとも樹脂を有し、前記多孔質層よりも樹脂リッチに構成される表面層(例えば、後述の表面層4)と、からなり、前記多孔質層が、前記基材層と、前記表面層と、の間に介在してなる三層構造を有する建材(例えば、後述の建材1)の製造方法であって、前記三層を共押出成形して製造する、建材の製造方法を提供する。
【0008】
(2)また本発明は、基材層と、前記基材層の表面に形成され、中空充填剤と樹脂を有して構成される多孔質層と、前記多孔質層の表面に形成され、少なくとも樹脂を有し、前記多孔質層よりも樹脂リッチに構成される表面層と、からなり、前記多孔質層が、前記基材層と、前記表面層と、の間に介在してなる三層構造を有する建材の製造方法であって、前記基材層と、前記中空充填剤と前記樹脂との混合層(例えば、後述の混合層34)と、の二層を共押出成形すると同時に、金型(例えば、後述の金型6)中に設けられた整流板(例えば、後述の整流板5)によって前記混合層を前記多孔質層と前記表面層に分離することで前記建材を三層構造として製造する、建材の製造方法を提供する。
【0009】
(3)また本発明は、基材層と、前記基材層の表面に形成され、中空充填剤と樹脂を有して構成される多孔質層と、前記多孔質層の表面に形成され、少なくとも樹脂を有し、前記多孔質層よりも樹脂リッチに構成される表面層と、からなり、前記多孔質層が、前記基材層と、前記表面層と、の間に介在してなる三層構造を有する建材の製造方法であって、前記中空充填剤と前記樹脂との混合層と、前記基材層と、の二層を下からこの順に積層するように共押出成形して製造する、建材の製造方法を提供する。
【0010】
(4)また本発明は、基材層と、前記基材層の表面に形成され、空孔と樹脂を有して構成される多孔質層と、前記多孔質層の表面に形成され、少なくとも樹脂を有し、前記多孔質層よりも樹脂リッチに構成される表面層と、からなり、前記多孔質層が、前記基材層と、前記表面層と、の間に介在してなる三層構造を有する建材であって、前記三層は共押出成形されて製造される、建材を提供する。
【0011】
(5)また本発明は、基材層と、前記基材層の表面に形成され、中空充填剤と樹脂を有して構成される多孔質層と、前記多孔質層の表面に形成され、少なくとも樹脂を有し、前記多孔質層よりも樹脂リッチに構成される表面層と、からなり、前記多孔質層が、前記基材層と、前記表面層と、の間に介在してなる三層構造を有する建材であって、前記基材層と、前記中空充填剤と前記樹脂との混合層と、の二層が共押出成形されると同時に、金型中に設けた整流板によって前記混合層が前記多孔質層と前記表面層に分離されることで三層構造とされて製造される、建材を提供する。
【0012】
(6)また本発明は、基材層と、前記基材層の表面に形成され、中空充填剤と樹脂を有して構成される多孔質層と、前記多孔質層の表面に形成され、少なくとも樹脂を有し、前記多孔質層よりも樹脂リッチに構成される表面層と、からなり、前記多孔質層が、前記基材層と、前記表面層と、の間に介在してなる三層構造を有する建材であって、前記中空充填剤と前記樹脂との混合層と、前記基材層と、の二層が下からこの順に積層されるように共押出成形されて製造される、建材を提供する。
【0013】
(7)(1)~(6)に記載の発明において、前記表面層には、接触温熱感や防滑性の観点から表面にエンボス加工が施されることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、人体接触時の温熱感を低減できるとともに高い硬度と耐摩耗性を有する建材およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る建材を表す斜視図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る建材の断面の層構成を表す図である。
【
図3】本発明の第2の製造方法に係る建材の押出成形過程を表す図である。
【
図4】本発明の第3の製造方法に係る建材の製造過程を表す図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る建材の断面の層構成を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
(第1実施形態)
図1および2は、本発明の第1実施形態に係る建材1の構成を表す図である。
本実施形態の建材1は、角筒状の中空部を有する基材層2と、基材層2の表面に形成され、空孔と樹脂を有する多孔質層3と、少なくとも樹脂を有し、多孔質層3の表面に形成されて多孔質層3よりも樹脂リッチに構成される表面層4と、の三層から構成される。また建材1は、多孔質層3が、基材層2と、表面層4と、の間に介在してなる三層構造を有する。
【0018】
基材層2は建材1に必要な曲げ強度を担保するための層である。多孔質層3は建材1に断熱性能を付与し、人体接触時の温熱感を低減する。表面層4は建材1に高い表面硬度および耐摩耗性を付与する。なお、基材層2の形状は角筒状の中空部を有する形状に限定されるわけではなく、建材1を使用する箇所や必要な強度に応じて成形すればよい。
【0019】
基材層2を構成する材料としては特に限定されるものではなく、例えばポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ASA樹脂等を用いることができ、建材1が用途に応じて適切な曲げ強度を有するように選択することが好ましい。基材層2は化学発泡剤や中空充填剤を含むことで、軽量化およびコスト削減を行うこともできる。
【0020】
多孔質層3は、多孔質構造を有する層として構成される。多孔質層3を構成する材料としては、例えばポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ASA(アクリロニトリル・スチレン・アクリルゴム)樹脂等を用いることができるが、特にポリスチレンを用いることが好ましい。ポリスチレンは熱伝導率や比熱が小さいため、接触温熱感の低減に特に優れる(後述)。
【0021】
多孔質層3の空孔は、化学発泡剤を用いて形成されてもよいし、中空の充填剤を層中に含有することによって形成されてもよい。化学発泡剤としては特に限定されず、従来の発泡樹脂成形に用いられるものを使用することができる。例えば、重炭酸ナトリウムや炭酸アンモニウム等の無機発泡剤や、ニトロソ化合物やアジド化合物等の有機発泡剤を用いてもよい。中空の充填剤も同様に特に限定されるものではなく、例えばセラミックスバルーンやシリカバルーン等を用いることができる。
【0022】
多孔質層3は、厚さが1mm以上、熱浸透率が286J/(m2・s1/2・K)以下となるように構成される。これにより、例えば建材が夏場の日照により70℃近い高温となっていても、皮膚温度は43℃以上にならないため、熱さで痛み等を感じることなく建材に接触することができる。なお、後述の接触温熱感試験によれば、人体の皮膚は温度が43℃以上になると痛みを感じる。
【0023】
ここで、熱浸透率は(熱伝導率×密度×比熱)1/2で表される物性値であり、熱浸透率が大きいほど接触した際に伝熱が早く進行する。すなわち、金属のような物質は熱浸透率が大きく、接触した際に熱さや冷たさを瞬時に感じるが、熱浸透率が小さい物質では接触してから熱さや冷たさが伝わるまでに時間がかかる。
【0024】
したがって、多孔質層3の発泡倍率を大きくして密度を低下させることや、ポリスチレンのように熱伝導率および比熱が小さいものを用いることで、熱浸透率を低下させて、建材1への接触時の温熱感を低減することができる。
【0025】
また多孔質層3の発泡倍率は、1.3~2.2倍であることが好ましい。発泡倍率が大きく1.3倍以上であれば熱浸透率が小さくなり接触温熱感を低減することができる。また2.2倍を超えると多孔質層3が脆くなり建材として十分な表面硬度が得られない恐れがある。なお、本発明における成形体の発泡倍率は、体積充填率の逆数に等しい。したがって、多孔質層3が中空充填剤を層中に含有することによって形成される場合には、発泡倍率[倍]=1/(体積充填率[倍])の対応関係から、相当する発泡倍率を算出することができる。
【0026】
表面層4は、少なくとも樹脂を有して構成され、多孔質層3よりも樹脂リッチに形成される。表面層4を構成する材料としては、後述する本発明の第1の製造方法では、基材層2や多孔質層3と同一の材料を用いることも、異なる材料を用いることもできる。後者の場合、例えば、多孔質層3をポリスチレンで、表面層4をASAで構成してもよい。これにより、ポリスチレンの接触温熱感の優れた低減効果とASA樹脂の表面の耐溶剤性を両立できる。なお、ポリスチレンとASAは良好な接着性を示すため、剥離しにくく耐溶剤性が長期にわたって発揮される。さらに、表面層4に耐摩耗性に優れた樹脂を使用すれば、建材1の耐摩耗性をさらに改善することができる。
【0027】
また、後述する本発明の第2の製造方法および第3の製造方法では、多孔質層3と表面層4には同一の材料を主成分として使用する。なお、多孔質層3および表面層4にポリスチレンを用いる際は、さらにブタジエン系ゴム、アクリル系ゴム、シリコーン・アクリル複合ゴム等のゴム系充填剤を添加することが好ましい。ポリスチレンは耐溶剤性が低く、溶剤の付着により表面にクラックが発生および進展しやすいところ、ゴム系充填剤を併用することでクラックの進展を防止することができる。
【0028】
高密度の表面層4が多孔質層3上に形成されると建材1表面の熱浸透率が大きくなり、接触温熱感の低減効果が小さくなるため、表面層4は多孔質層3の接触温熱感の低減効果を損ねない程度に薄く形成されることが好ましい。例えば1mmの厚みを有する多孔質層3の表層に0.25mmの厚みの表面層4が形成されていればよい。
【0029】
表面層4が最表層に存在することで、建材の表面研磨時にも多孔質層3中の空孔31が表面に露出することがなく、露出した空孔31への汚れの蓄積や衣服の引っかかりを防止することができる。
【0030】
基材層2、多孔質層3、表面層4のいずれにおいても上記の物質以外に添加剤が含まれていてもよく、例えば木粉や無機充填剤を配合して構成されることができる。
【0031】
<第1の製造方法>
次に、本実施形態の建材1の第1の製造方法について説明する。本実施形態の建材1は、共押出成形することによって製造される。
【0032】
共押出成形では、基材層2、多孔質層3および表面層4の各層を構成する熱可塑性材料を3つの押出機あるいは共押出機中でそれぞれ溶融混錬したのち、各層の成形体が押し出される。3つの混錬体は押出工程途中で合流し、積層状態となって押出される。これを冷却して、三層構造の成形体を得ることができる。なお、多孔質層3は溶融混錬時に化学発泡剤を投入あるいは化学発泡剤は原料(樹脂、木粉等)混合時に予め添加することで発泡押出成形され、多孔質構造の成形体層が得られる。あるいは中空充填剤を層中に含むことで、多孔質層3が空孔を有することができる。
【0033】
押出成形した建材1の表面は研磨されることが好ましく、意匠性が向上するほか、例えば床材や壁材に使用する場合には肌で触れた際の触れ心地や衣服の引っかかりが改善するため効果的である。また、表面層4の表面に凹凸構造42を備えていてもよい。これにより、意匠性が向上するほか、加工の形態により人体接触時に接点を少なくすることができ、さらに接触温熱感が低減される上、防滑性も向上させることができる。
【0034】
第1の製造方法により製造される建材1は、三層共押出成形によって高効率に生産されるとともに、各層の厚さを共押出用の金型6の設計によって制御できるため、表面層の厚さを高精度に制御することが容易となる。これにより、接触温熱感の低減効果と十分な表面硬度をより確実に両立できる。
【0035】
<第2の製造方法>
本発明の第2の製造方法は、多孔質層3が中空充填剤を有して構成され、表面層4が樹脂を有して構成される場合に適用できる。
【0036】
図3は、本発明の第2の製造方法に係る建材の押出成形過程を模式的に表す図である。
基材層2と、中空充填剤および樹脂の混合層34の各層を構成する熱可塑性材料を2つの押出機あるいは共押出機中でそれぞれ溶融混錬したのち、各層の成形体が押出方向7に沿って押し出される。2つの混練体は押出工程途中で合流し、積層状態となって押出される。
【0037】
このとき、共押出用の金型6中で混合層34の混錬体の流路には、
図3に示すような整流板5が設けられている。整流板5は中空充填剤の粒径と同程度の幅のスリット(不図示)を複数有する板状の部品であり、中空充填剤はスリットを通過できずに整流板によって基材層2側に押しやられる。一方で樹脂のみがスリットを通過することによって、混合層34は、中空充填剤を含む多孔質層3と、多孔質層3よりも高密度の表面層4に分離される。これを冷却して、三層構造の成形体を得ることができる。
【0038】
なお、
図3では模式的に全ての中空充填剤が多孔質層3に含まれているが、表面層4が多孔質層3よりも高密度となる範囲であれば、中空充填剤の一部が整流板のスリットを通過でき、表面層4に含まれていてもよい。スリット幅を中空充填剤が完全に通過できないように設計すると、金型6中で詰まりが発生する恐れがあるためである。
【0039】
第2の製造方法により製造される建材1は、二層共押出成形によって高効率に生産されるとともに、各層の厚さを共押出用の金型6および整流板5の長さの設計によって表面層の厚さを高精度に制御することが容易となる。これにより、接触温熱感の低減効果と十分な表面硬度をより確実に両立できる。
【0040】
<第3の製造方法>
本発明の第3の製造方法は、多孔質層3が中空充填剤を有して構成され、表面層4が樹脂を有して構成される場合に適用できる。
【0041】
図4は、本発明の第3の製造方法に係る建材の製造過程を模式的に表す図である。
基材層2と、中空充填剤および樹脂の混合層34の各層を構成する熱可塑性樹脂材料を2つの押出機あるいは共押出機中でそれぞれ溶融混錬したのち、各層の成形体が押し出される。2つの混錬体は押出工程途中で合流し、積層状態となって押出される。このとき、下から混合層34の混錬体、基材層2の混錬体、の順に積層する。
【0042】
図4(a)は、押出直後の混錬体の積層体を表す図である。この時点で各混錬体は固まっていない。この状態では、混合層34の混錬体中で、密度の小さい中空充填剤は浮力を受けて上方の基材層側に移動する。これにより混合層34の混錬体は
図4(b)に示すように、多孔質層3と表面層4に分離する。これを冷却して上下に反転することで、三層構造の成形体を得ることができる。
【0043】
第3の製造方法により製造される建材1は、二層共押出成形によって高効率に生産されるとともに、各層の厚さを共押出用の金型6の設計と中空充填剤の配合量によって制御できるため、表面層の厚さを高精度に制御することが容易となる。これにより、接触温熱感の低減効果と十分な表面硬度をより確実に両立できる。
【0044】
(第2実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態に係る建材の断面の層構成を表す図である。
本発明の第2実施形態では、第1実施形態に係る建材1において、表面層4にエンボス加工41が施されている。これにより、意匠性が向上するほか、加工の形態により人体接触時に接点を少なくすることができ、さらに接触温熱感が低減される上、防滑性も向上させることができる。また表面研磨時と同様に、表面層4が存在することで多孔質層3中の空孔31が表面に露出することがなく、露出した空孔31への汚れの蓄積や衣服の引っかかりを防止することができる。
【0045】
また、建材1の表面に加飾シートを貼り付けることで、表面に意匠性を付与することができる。表面層4が存在することで多孔質層3中の空孔31が表面に露出することがなく、加飾シートの建材1への接着強度が確保できる。なお表面に加飾シートを貼り付ける際には、シートの材質・物性等が建材1の熱浸透率に与える影響について留意する。
【0046】
本実施形態の建材1は、例えばウッドデッキに用いられることが好ましい。日照を長時間受けて高温になりやすく、またデッキ上を歩行して接触する機会が多いため、接触温熱感の低減によって歩行を妨げないようにすることで、ウッドデッキの利便性が大きく向上する。
【0047】
以上、本発明の各実施形態に係る建材1の構成について説明した。以下に、実施例および比較例を用いて、本発明の建材についてより詳細に説明する。
【実施例0048】
第1の製造方法によって、実施例1~7および比較例1~5に係る建材の試験体を作製した。また、第2の製造方法によって、実施例8~10、12および比較例6~8に係る建材の試験体を作製した。さらに第3の製造方法によって、実施例11に係る建材の試験体を作製した。作製した試験体について、接触温熱感試験、摩耗試験、ストッキングによる引っかかり試験および耐溶剤性試験を行い、さらに発泡倍率、表面硬度および熱浸透率の測定を行った。実施例1~6および比較例1~6の組成と評価試験結果は、後述の表1に、実施例7~9および比較例7~11の組成と評価試験結果は、後述の表2に示す。
【0049】
接触温熱感試験は、官能評価と接触後の肌の表面温度測定によって行った。まず予め70℃の恒温機にて24時間以上放置した試験体に、右手の手のひらを10秒間試験体に接触させた。手のひらを試験体から離した後にサーモグラフィーに手のひらを向けて測温し、手のひらの最高温度を計測値として用いた。
その後、サーモグラフィーによる手のひら温度を測定した治験者から下記凡例に基づいてアンケートをとり官能試験結果とした。判定基準1~3の試験体は熱刺激を感じているため不合格品とした。
(凡例)
1 熱くて3秒以上触れない
2 熱くて10秒以上触れない
3 10秒以上触れられるが、熱刺激(痛み)がある
4 熱刺激は感じないが、やや熱い
5 暖かい
6 少し暖かい
【0050】
摩耗試験は、JIS K 7204に準拠して実施した。摩耗円盤を試験体に接触させた状態で1000回転後、加飾した表面層の状態を目視で観察し、加飾によって付与された建材表面の模様が摩耗後も残っているかどうかによって評価した。試験は、円盤の回転速度:60rpm、円盤の種類:H22、荷重:4.9N×2箇所の条件で実施した(A:模様残存あり B:模様残存なし)。
【0051】
ストッキングによる引っかかり試験は、試験体を床置きした状態とした後、素足にストッキングを着用した状態で1分間歩行し、ストッキングの破れの有無を確認することで実施した(A:破れなし B:破れあり)。
【0052】
耐溶剤性試験は、試験体に石油ベンジンを付着させて1時間放置したのち水洗いにより除去し、水洗い直後と24時間後の状態を目視で外観観察することで行った(A:劣化なし B:軽微な劣化あり)。
【0053】
表面硬度は、ロックウェル硬度試験機(仲井精機製作所製)によって試験体表面のロックウェル硬度を測定し、ロックウェル硬度が100以上を示すものを合格品とした。圧子は球Φ12.7mm(Rスケール、硬さ記号:HRR)を用いた。なお分銅は3.3kgのものを使用した。
【0054】
発泡層の熱浸透率は(熱伝導率×密度×比熱)1/2の式により算出される。熱伝導率、比熱、密度は成形した試験体から発泡層を切り出して、それぞれ次の方法により測定した。
【0055】
熱伝導率λは、発泡体をΦ50mm、厚み約1mmで切り出し、定常法により算出した。すなわち、測定熱流(q)を試料に流した状態で定常状態になるまで放置し、その際の試料両端面の温度差(ΔΘ)を測定した。その後、q、ΔΘおよび試料厚さ(Δx)をフーリエの法則に適用してλ=(q/ΔΘ)×Δxの式によって算出した。
【0056】
密度ρは、上で切り出した発泡体の重量Wを測定し、さらに発泡体の5点平均厚みを測定して上記Φから体積Vを求め、ρ=W/Vの式によって算出した。
【0057】
比熱は、示差走査熱量計(DSC、NETZSCH製 DSC3500 Sirius)によりアルゴンガス雰囲気下で測定を行った。
【0058】
また、多孔質層の発泡倍率は次式より算出した。
発泡倍率=(発泡状態での多孔質層の密度)/(非発泡状態での多孔質層の密度)
【0059】
【0060】
【0061】
<第1の製造方法に係る実施例および比較例>
実施例1~5に係る建材の試験体は、多孔質層が主としてPS(ポリスチレン)で構成され、発泡倍率が1.3~2.2倍である。これらの建材の多孔質層は熱浸透率が286J/(m2・s1/2・K)以下であった。また、その表面にPS(ポリスチレン)からなる表面層が存在していた。これらの建材は、接触温熱感試験における10秒間接触後の皮膚温度が43℃未満であり、官能試験によっても痛みを感じずに触れることができた。また、建材表面のロックウェル硬度も十分に大きく、建材として十分な硬度を有していた。
【0062】
実施例6に係る建材の試験体は、多孔質層が主としてPP(ポリプロピレン)で構成される。発泡倍率1.8倍の条件において熱浸透率は259J/(m2・s1/2・K)であり、実施例1~5と同様に良好な接触温熱感低減効果と十分な硬度を有していた。また表面層も主としてPP(ポリプロピレン)で構成されており、PSで構成される実施例1~3および5に対して、高い耐溶剤性を示していた。
【0063】
実施例7に係る建材の試験体は、多孔質層は実施例1と同様の構成であるが、表面層が主としてASAで構成されており、PSで構成される実施例1~3および5に対して、高い耐溶剤性を示していた。多孔質層にPSを、表面層にASAを使用することで、PSの高い接触温熱感低減効果と、ASAの耐溶剤性を両立できる。
【0064】
比較例1および2に係る建材の試験体は、多孔質層の発泡倍率が1倍(発泡しない)および1.2倍である。これらの建材の多孔質層は熱浸透率が334J/(m2・s1/2・K)以上であった。また、その表面にポリスチレンからなる表面層が存在していた。これらの建材は、接触温熱感試験における10秒間接触後の皮膚温度が43℃を超え、官能試験によっても痛みを感じる結果となった。
【0065】
比較例3に係る建材の試験体は、多孔質層の発泡倍率が2.5倍である。この建材は、多孔質層の熱浸透率は160J/(m2・s1/2・K)であり、接触温熱感試験の結果は良好であるものの、ロックウェル硬度が小さく建材としては不十分であった。
【0066】
比較例4に係る建材の試験体は、多孔質層の発泡倍率が1.5倍であり、表面層を有しない。この建材は、多孔質層の熱浸透率は250J/(m2・s1/2・K)と小さく接触温熱感試験の結果は良好であるものの、摩耗に弱くストッキングの引っかかりが発生した。
【0067】
比較例5に係る建材の試験体は、多孔質層が主としてPE(ポリエチレン)で構成され、発泡倍率が1.5倍である。この建材は、多孔質層の熱浸透率が616J/(m2・s1/2・K)であり、良好な接触温熱感低減効果が得られない結果となった。PEを主成分に用いたこの建材の多孔質層は熱伝導率および比熱が大きいため、PSを用いた場合と比べて熱浸透率が大きくなっている。
【0068】
実施例5に係る建材の試験体は、多孔質層中に化学発泡剤でなく中空充填剤を使用して構成されている。多孔質層中に化学発泡剤を使用し、ほぼ同程度の発泡倍率および熱浸透率を有する実施例1、4および7と比較すると、接触温熱感試験の結果に大きな差はみられない。したがって、多孔質層は中空充填剤を使用して構成されてもよい。
【0069】
また、実施例4に係る建材の試験体は、多孔質層中にゴム系充填剤が配合されている。実施例1~3、5および比較例1~4を見ると、PSを用いて構成される多孔質層は小さい熱伝導率および比熱を有し、小さな熱浸透率を実現することに適しているが、表面にPSが露出する場合い、耐溶剤性試験において表面に劣化が見られる。しかしながらゴム系充填剤を配合した実施例4においてはクラックの進展が防止され、溶剤付着後も表面が劣化しにくい。
【0070】
<第2、第3の製造方法に係る実施例および比較例>
実施例8~10および比較例6~8はそれぞれ、本発明の第2の製造方法で作製された例である。各例は実施例1~3および比較例1~3に対応して多孔質層が同一の発泡倍率で構成されるが、各評価試験の観点から比較しても、製法に関わらず同等な性能が得られた。さらに、実施例11は本発明の第3の製造方法で作製された例であり、実施例1、8と多孔質層が同一の発泡倍率で構成されるが、製法に関わらず同等な性能が得られた。
【0071】
実施例12は、第2の製造方法によって作製された後、表面層4にエンボス加工が施された例である。実施例1、8および11と多孔質層が同一の発泡倍率で構成されるが、表面にエンボス加工が形成されることで人体との接点が少なくなり、接触後の皮膚温度が低減され、官能評価において接触温熱感がさらに改善している。
【0072】
以上、実施例および比較例に基づいて、本発明の建材およびその製造方法について詳細に説明した。本発明によれば、人体接触時の温熱感を低減できるとともに高い硬度と耐摩耗性を有する建材およびその製造方法を提供することができる。
【0073】
また本発明の建材は、夏場の日照等で高温となった場合の接触熱感の低減だけでなく、冬場の冷気等で低温となった場合に接触冷感を低減する目的で使用されることができる。
【0074】
なお本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、上記の実施形態を変形・改良したものについても本発明に含まれる。